JPH0874657A - シリンダヘッドおよびその製造方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 内燃機関のシリンダヘッドを、バルブシート
部分の断面積を小さくして熱伝達の阻害を少なくできる
と共に運転中のバルブシートの脱落を防止することがで
き、しかも、接合界面に働く熱応力によるシリンダヘッ
ド本体からのバルブシートの剥離やバルブシートのリン
グの割れや変形などを防止することができるものとす
る。 【構成】 バルブシート１をシリンダヘッド本体２に圧
入すると共に、圧入したバルブシート１とシリンダヘッ
ド本体２の接触面の一部にのみ冶金学的に結合した界面
１１を形成する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、内燃機関用のシリンダ
ヘッドの構造とその製造方法に関し、特に、シリンダヘ
ッドにおけるシリンダヘッド本体とバルブシートとの接
合構造とその接合方法に関する。

【０００２】

【従来の技術】内燃機関のシリンダヘッドでは、軽量な
アルミニウム合金材料からなるシリンダヘッド本体の吸
気ポートや排気ポートの開口部周縁に、耐衝撃性，耐磨
耗性および高温強度に優れた鉄系焼結材料からなるリン
グ状のバルブシートを圧入により一体的に固着するとい
うことが従来から一般的に行われているが、このような
ものでは、運転時にシリンダヘッドが高温になっても圧
入されたバルブシートが脱落しないためには、図６に示
すように、バルブシート１の圧入代と圧入高さをある程
度以上のものとすることが必要とされている。

【０００３】そのために、バルブシートの断面積の大き
さがシリンダヘッドのポート周りの設計を制約する大き
な要因となっており、また、バルブシートの材料となる
鉄系焼結材の熱伝導率がアルミニウム合金鋳造物による
シリンダヘッド本体の熱伝導率と比べて低いため、圧入
されたバルブシートの断面積の大きさによって、バルブ
フェースや排気からシリンダヘッド本体への熱の伝達が
阻害される傾向にあり、バルブシートの磨耗や異常燃焼
を引き起こす原因ともなっている。

【０００４】上記のような圧入により固定されるバルブ
シートを有するシリンダヘッドの問題点の解決策の一つ
として、図７に示すように、比較的断面積の小さなバル
ブシート１をそのシリンダヘッド本体２との接触面全体
を溶着部１１とすることによりシリンダヘッド本体２に
対して冶金学的に接合したシリンダヘッドが従来から知
られている。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】ところが、上記のよう
なアルミニウム合金のシリンダヘッド本体に鉄系焼結材
料のバルブシートを接触面全体で溶着することにより冶
金学的に接合した従来のシリンダヘッドでは、シリンダ
ヘッド材料とバルブシート材料との間で大きな熱膨張係
数の差があるため、溶着された接合界面に大きな熱応力
が働いて運転中にバルブシートの剥離が生じたり、バル
ブシートのリングに割れや変形を生じることがある。

【０００６】本発明は、上記のような従来の内燃機関の
シリンダヘッドの持つ不都合を解消することを目的とし
ており、より具体的には、バルブシート部分の断面積を
小さくして熱伝達の阻害を少なくできると共に運転中の
バルブシートの脱落を防止することができ、しかも、接
合界面に働く熱応力によるシリンダヘッド本体からのバ
ルブシートの剥離やバルブシートのリングの割れや変形
などを防止することができるシリンダヘッドおよびその
製造方法を提供することを目的としている。

【０００７】

【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を
解決しかつ目的を達成するために、上記の請求項１に記
載したように、シリンダヘッドにおいて、バルブシート
がシリンダヘッド本体に圧入されていると共に、圧入さ
れたバルブシートとシリンダヘッド本体の接触面の一部
にのみ冶金学的に結合した界面が形成されていることを
特徴とするものである。

【０００８】また、上記の請求項１に記載したシリンダ
ヘッドにおいて、上記の請求項２に記載したように、冶
金学的に結合した界面を形成しない部分のバルブシート
の接触面が、絶縁体により形成されていることを特徴と
するものである。

【０００９】さらに、本発明は、上記の請求項３に記載
したように、シリンダヘッドの製造方法において、シリ
ンダヘッド本体にバルブシート材を圧入すると共に、電
極とバルブシート材底面との距離を、電極とバルブシー
ト材側面との距離よりも短くして、圧入したバルブシー
ト材の底面のみに電極からの電流を流すことにより、当
該部分のみをシリンダヘッド本体に冶金学的に結合する
ことを特徴とするものである。

【００１０】

【作 用】上記の請求項１に記載したような構造によれ
ば、バルブシートの圧入代と圧入高さが小さくても、バ
ルブシートとシリンダヘッド本体の接触面の一部が冶金
学的に結合されているため、運転時にシリンダヘッドが
高温になっても圧入されたバルブシートが脱落すること
はなく、また、バルブシート部分の断面積を小さくでき
ることによって、バルブフェースや排気からの熱をシリ
ンダヘッド本体に伝達する際のバルブシート部分での熱
伝達の阻害を減少させることができる。

【００１１】そして、バルブシートがシリンダヘッド本
体に圧入されていることによって、運転中の温度範囲で
はバルブシート円周方向に圧縮応力が残存するため、バ
ルブシートに割れや変形を生じることがなく、また、バ
ルブシートのシリンダヘッド本体への圧入が併用されて
いて、バルブシートとシリンダヘッド本体とがその接触
面の一部でしか冶金学的に結合されていないため、冶金
学的接合界面に働く熱応力が大幅に低減されて、冶金学
的結合の破壊によるバルブシートの剥離や脱落が防止さ
れる。

【００１２】また、上記の請求項２に記載したような構
造によれば、バルブシート材をシリンダヘッド本体に圧
入する製造工程でバルブシート材全体に電流が流れて
も、絶縁体が形成されたバルブシートの接触面ではあま
り発熱せずシリンダヘッド本体に溶着することがないた
め、バルブシートとシリンダヘッド本体との冶金学的な
接合を部分的に確実に行うことができる。

【００１３】さらに、上記の請求項３に記載したような
方法によれば、バルブシート材の接触面に特に絶縁体を
形成するような加工を施さなくても、バルブシートの底
面部分のみをシリンダヘッド本体に冶金学的に接合する
ことが可能である。

【００１４】

【実施例】以下、本発明の実施例について図面に基づい
て説明する。

【００１５】図１は、本発明のシリンダヘッドの一実施
例におけるバルブシート付近の要部を示すもので、バル
ブシート１は、シリンダヘッド本体２の凹部に圧入され
ていると共に、シリンダヘッド本体２との接触面の一部
（底面）でのみシリンダヘッド本体２に溶着されてい
て、当該部分にのみバルブシート１とシリンダヘッド本
体２の冶金学的に結合した界面１１が形成されており、
その他の部分（側面）では圧入により機械的に接触した
状態となっている。

【００１６】シリンダヘッド本体２は、アルミニウム合
金材料の鋳造物からなるもので、図５に示す従来のシリ
ンダヘッドと同様に、その下面に凹状の燃焼室天壁５が
形成され、燃焼室天壁５に開口する吸気ポート３と排気
ポート４が形成されていて、このシリンダヘッド本体２
の吸気ポート３と排気ポート４のそれぞれの燃焼室開口
部に形成されたリング状の凹部に、それぞれリング状の
バルブシート１が圧縮された状態で嵌入されている。

【００１７】バルブシート１は、図２に示すように、リ
ング状のバルブシート材１０をシリンダヘッド本体２に
圧入し、電極９によりバルブシート材１０に通電して、
その底面１０ａ（図５における各バルブシート１の上端
面）のみを抵抗溶接によってシリンダヘッド本体２に溶
着してから、冷却後にバルブの当接面に合わせた開口部
形状となるように切削加工の仕上げを施すことにより、
図１に示すように、リング状の多段テーパ面１ｃ，１
ｄ，１ｅを有するバルブシート１として形成されている
ものである。

【００１８】このバルブシート１の材料は、耐磨耗性と
耐酸化性を兼ね備えた鉄系の焼結合金で、Ｃｕ，Ａｌの
ように電気伝導率が高く且つ焼結材の空孔に含浸させ易
い金属を溶浸処理によって含浸させておくことにより、
全体の電気伝導率を高めて、通電したときに、バルブシ
ート材１０の内部発熱量が減少し、接合界面での発熱量
が増えるようにして、シリンダヘッド本体２との抵抗溶
接を行うのに適したものとなっている。

【００１９】図２は、上記のようなバルブシート１を有
するシリンダヘッドの製造方法におけるシリンダヘッド
本体とバルブシート材１０の接合工程の一実施例を示す
もので、この工程では、既に述べたように、シリンダヘ
ッド本体２の開口部にリング状に形成された凹部に、そ
れより僅かに大きな外径のリング状のバルブシート材１
０を圧入してから、電極９によりバルブシート材１０に
通電する。

【００２０】その際、本実施例の方法では、バルブシー
ト材１０と電極９とは、電極９とバルブシート材底面１
０ａとの距離ｍが、電極９とバルブシート材側面１０ｂ
との距離ｎよりも短くなるように設定されていて、圧入
したバルブシート材１０の底面１０ａ側に電極９からの
電流が多く流れることとなるため、電極９により加圧し
ながらバルブシート材１０に通電したときに、バルブシ
ート材１０の底面１０ａ側でだけ、バルブシート材１０
より変形抵抗の小さなシリンダヘッド本体２を塑性変形
させながら、バルブシート材１０とシリンダヘッド本体
２はその接触面で溶着される。

【００２１】なお、上記のような工程を経て当該部分が
冷却された後、従来のシリンダヘッドの場合と同様に、
バルブの当接面に合わせてカットする機械加工を施すこ
とにより、図１に示すように、バルブシート材１０はリ
ング状の多段テーパ面１ｃ，１ｄ，１ｅを有するバルブ
シート１として仕上げられる。

【００２２】図３は、本発明のシリンダヘッドの他の実
施例を示すもので、バルブシート１がシリンダヘッド本
体２に圧入されていると共にシリンダヘッド本体２との
接触面の一部（底面）が溶着部１１となっているという
点では上記の実施例と同様であるが、本実施例では、バ
ルブシート１の側面にＡｌＮ，Ａｌ₂ Ｏ₃ 等のセラミッ
クス材料からなる絶縁体１２が形成され、当該部分１２
では圧入による機械的な接触だけで、溶着による冶金学
的に結合した界面は形成されていない。

【００２３】このようなバルブシート１の側面に絶縁体
１２が形成されている本実施例では、図４に示すよう
に、シリンダヘッド本体２の凹部内にバルブシート材１
０を圧入してその底面のみを溶着する工程において、バ
ルブシート材１０と電極９の関係を特別に設定すること
なく、単に電極９により加圧しながらバルブシート材１
０に通電するだけで、バルブシート材１０の底面１０ａ
側でだけバルブシート材１０とシリンダヘッド本体２を
その接触面で溶着させることができる。

【００２４】

【発明の効果】以上説明したような本発明のシリンダヘ
ッドによれば、バルブシート部分の断面積を小さくして
熱伝達の阻害を少なくできると共に運転中のバルブシー
トの脱落を防止することができ、しかも、接合界面に働
く熱応力によるシリンダヘッド本体からのバルブシート
の剥離やバルブシートのリングの割れや変形などを防止
することができる。

【００２５】また、請求項２に記載された構造によれ
ば、バルブシートとシリンダヘッド本体の接合工程で、
特にバルブシート材の形状や電極の位置などに格別の考
慮を払うことなく、確実にバルブシートとシリンダヘッ
ド本体の接触面の一部のみを冶金学的に結合させること
ができる。

【００２６】さらに、請求項３に記載された製造方法に
よれば、バルブシート材に特に絶縁体を形成するような
加工を施さなくても、バルブシートの底面部分のみをシ
リンダヘッド本体に冶金学的に結合させることが可能と
なる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明のシリンダヘッドの一実施例を示すシリ
ンダヘッドのバルブシート付近の要部拡大断面図。

【図２】本発明のシリンダヘッドの製造方法の一実施例
を示す要部拡大断面図。

【図３】本発明のシリンダヘッドの他の実施例を示すシ
リンダヘッドのバルブシート付近の要部拡大断面図。

【図４】図３に示されたシリンダヘッドの製造方法の一
例を示す要部拡大断面図。

【図５】圧入されたバルブシートを有する従来のシリン
ダヘッドの一例を示す要部断面図。

【図６】図５に示されたシリンダヘッドの圧入されたバ
ルブシート付近の要部拡大断面図。

【図７】溶着されたバルブシートを有する従来のシリン
ダヘッドの一例を示すバルブシート付近の要部拡大断面
図。

【符号の説明】

１ バルブシート ２ シリンダヘッド本体 ９ 電極 １０ バルブシート材 １０ａ バルブシート材底面 １０ｂ バルブシート材側面 １１ 冶金学的に結合した界面（溶着部） １２ 絶縁体

Claims (3)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 バルブシートがシリンダヘッド本体に圧
   入されていると共に、圧入されたバルブシートとシリン
   ダヘッド本体の接触面の一部にのみ冶金学的に結合した
   界面が形成されていることを特徴とするシリンダヘッ
   ド。
2. 【請求項２】 冶金学的に結合した界面を形成しない部
   分のバルブシートの接触面が、絶縁体により形成されて
   いることを特徴とする請求項１に記載のシリンダヘッ
   ド。
3. 【請求項３】 シリンダヘッド本体にバルブシート材を
   圧入すると共に、電極とバルブシート材底面との距離
   を、電極とバルブシート材側面との距離よりも短くし
   て、圧入したバルブシート材の底面のみに電極からの電
   流を流すことにより、当該部分のみをシリンダヘッド本
   体に冶金学的に結合することを特徴とするシリンダヘッ
   ドの製造方法。