JPH0859678A - ドコサヘキサエノイルホスファチジルコリンの製造法 - Google Patents

ドコサヘキサエノイルホスファチジルコリンの製造法

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JPH0859678A
JPH0859678A JP32927494A JP32927494A JPH0859678A JP H0859678 A JPH0859678 A JP H0859678A JP 32927494 A JP32927494 A JP 32927494A JP 32927494 A JP32927494 A JP 32927494A JP H0859678 A JPH0859678 A JP H0859678A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 経済的に高収率にて、出来るだけ簡単な工程
によりsn−2位にドコサヘキサエン酸を含むホスファ
チジルコリンを製造する方法を提供する。 【構成】 sn−2位にドコサヘキサエン酸を有するド
コサヘキサエノイルホスファチジルコリンの製造にあた
り、水産動物の卵を原料として溶媒抽出により得られた
総リン脂質からホスファチジルコリンを分離することを
特徴とする。 【効果】 水産動物の卵を原料として精製処理すること
により、脳・神経系の構成脂質、細胞分化に関与する形
質膜の物性を支配する脂質等で注目される生理活性物質
として有用なドコサヘキサエン酸含有ホスファチジルコ
リンを、特別な合成をせず、しかも天然の立体特異性を
維持したまま、高収率で得ることができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はsn−2位にドコサヘキ
サエン酸を有するホスファチジルコリンを製造する方法
に関する。
【0002】
【従来の技術】ドコサヘキサエン酸はエイコサペンタエ
ン酸と同様に、コレステロール及び中性脂質低下作用も
大きく、その生理的重要性が認められるようになった。
一方、生化学分野の進歩によりドコサヘキサエン酸は脳
や神経系の構成脂質であるリン脂質中で何らかの作用を
司っていることが示唆されている。また形質膜の物性を
支配するリン脂質中のドコサヘキサエン酸が細胞分化の
因子として注目され、これらの中に存在するドコサヘキ
サエン酸を含有するホスファチジルコリンに強い関心が
集まっている。
【0003】ドコサヘキサエン酸やアラキドン酸の様な
高度不飽和脂肪酸は、生体組織においては脂肪の豊富な
脂肪組織中のトリアシルグリセロールやコレステロール
エステル中には少なく、微量成分である細胞膜の構成成
分中の極性脂質に偏在している。特に、ドコサヘキサエ
ン酸に関しては脳の髄鞘、視神経の桿体等の脳神経系に
エステル型のホスファチジルコリンやホスファチジルエ
タノールアミンおよびエーテル型のホスファチジルコリ
ンやホスファチジルエタノールアミンに多いことが知ら
れている。また鶏卵の卵黄脂質中のリン脂質のホスファ
チジルコリンやホスファチジルエタノールアミンに数%
含まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このようにドコサヘキ
サエン酸を含むホスファチジルコリンは生体の特殊な部
位に存在するが、その部位のみを特異的に採取する事は
難しく、また、その含有量は非常に少なく適当な原料が
ない。例えば、入手が容易な市販卵黄レシチン中のリン
脂質のホスファチジルコリンやホスファチジルエタノー
ルアミンに、ドコサヘキサエン酸が数%含まれているこ
とが知られている(東京化学同人社、生化学実験講座
3、脂質の化学 257頁) 。しかし、ホスファチジルコリ
ンやホスファチジルエタノールアミンを個々に単離し
て、各々のドコサヘキサエン酸量を定量すると、卵黄レ
シチンのリン脂質に存在するドコサヘキサエン酸はホス
ファチジルエタノールアミンに局在し、ホスファチジル
コリン中にはあまり含まれていない。そのため卵黄レシ
チン中のホスファチジルコリンからドコサヘキサエン酸
を含むホスファチジルコリンを効率良く分画するには特
別な工夫が必要である。
【0005】ドコサヘキサエン酸を含むホスファチジル
コリンが、生体膜において生理的役割、例えばホルモン
作用の発現(秋野豊明、油化学 30、705(1981))を果た
すには、ドコサヘキサエン酸がホスファチジルコリンの
sn−2位に、パルミチン酸やオレイン酸の様な飽和モ
ノエン酸がホスファチジルコリンのsn−1位に結合し
ていることが重要である。しかしながらドコサヘキサエ
ン酸をホスファチジルコリンのsn−1位とsn−2位
に結合するにはグリセロホスホリルコリンの塩化カドミ
ウム錯体にドコサヘキサエン酸の酸無水物やハロゲン化
物を反応させればよいが、sn−2位にドコサヘキサエ
ン酸を結合した状態でsn−1位にドコサヘキサエン酸
以外の脂肪酸を結合させるにはこの様な直接反応では難
しいのが現状である。
【0006】従って、本発明の目的は、経済的に高収率
にて、出来るだけ簡単な工程によりsn−2位にドコサ
ヘキサエン酸を含むホスファチジルコリンを製造する方
法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、sn−2位に
ドコサヘキサエン酸を有するドコサヘキサエノイルホス
ファチジルコリンの製造にあたり、水産動物の卵を原料
として溶媒抽出により得られた総リン脂質からホスファ
チジルコリンを分離することを特徴とする。以下、本発
明につき更に詳細に説明する。
【0008】本発明者らは脂質量が豊富で、構成脂肪酸
中にドコサヘキサエン酸を多量に含む水産動物の卵の脂
質を詳細に検討した。天然脂質原料の脂肪組成は系統発
生系とは関係なく、環境因子が重要であり、特に動物で
はその食餌環境が同一である場合、その組成は著しく類
似することが知られている。即ち、ドコサヘキサエン酸
は植物性原料からは見出し難く、動物性原料でも陸上動
物よりも水産動物から見出されるので、これらの動物の
卵が原料として好ましい。天然原料にはシャケやニシン
等の水産動物の卵が入手が容易であり、また養殖が盛ん
な、ハマチ、コイ、ウナギ、ニジマス、クルマエビ等の
卵も原料として好ましい。
【0009】原料となる水産動物の卵は可能な限り新鮮
であることが望ましく、採取後直ちに冷凍、凍結乾燥ま
たは真空乾燥処理した原料を使用すると、原料中の酸価
の上昇、得られる目的物の過酸化物価の上昇による品質
低下を避けることができ、良質な目的物を得ることが出
来る。目的物中に過酸化物が存在すると生体中において
細胞障害を引き起こす原因となり、高度不飽和脂肪酸の
過酸化反応は共役ジエンの生成を伴うため二重結合の移
動を生じる。
【0010】原料(水産動物由来の卵)を精製処理する
には、新鮮な材料を無酸素状態下に溶剤抽出することが
好ましい。その際、材料に対して例えば蒸留水およびメ
タノール−クロロホルム系溶媒、アセトン、エーテル、
ヘキサン等の溶剤を加え、必要に応じてその混合物をロ
ウルデス・ホモジナイザー、ソルバール・オムニミキサ
ー、ワーリングブレンダー、ポッター・エルベージェム
・ガラスホモミキサー等によってホモジナイズする。無
酸素状態下として、例えば真空下、窒素気流下および二
酸化炭素気流下に、0℃〜60℃、10〜 180分間、溶剤抽
出することが出来る。溶剤は水産動物の卵1部に対し1
〜5部添加するのが好ましい。
【0011】溶剤抽出した粗脂質からホスファチジルコ
リンを分離する方法として例えば次の様な方法がある。
粗脂質を冷アセトン処理して総リン脂質を分画してから
カラムクロマト法で分離する方法、粗脂質を冷アセトン
処理して総リン脂質を分画してからマグネシウム塩を加
えてリン脂質マグネシウム錯体として濾別分離する方
法、粗脂質を冷アセトン処理して総リン脂質を分画して
エタノール系溶媒による溶剤分別する方法、粗脂質を直
接シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサ
ン→クロロホルム→メタノールと溶媒の混合比率を無極
性から極性へ変化させながら分離する方法等である。
【0012】
【発明の効果】本発明の方法によれば、水産動物の卵を
原料として精製処理することにより、脳・神経系の構成
脂質、細胞分化に関与する形質膜の物性を支配する脂質
等で注目される生理活性物質として有用なドコサヘキサ
エン酸含有ホスファチジルコリンを、特別な合成をせ
ず、しかも天然の立体特異性を維持したまま、高収率で
得ることができる。さらに無酸素下状態で処理するとき
は、細胞障害の原因となる過酸化脂質の産生を抑制した
ままドコサヘキサエン酸含有ホスファチジルコリンを得
ることができる。
【0013】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明す
る。実施例1 採卵後直ちに冷凍したニジマスの卵を窒素気流下で解凍
した。この原料1300gをアセトン2リットルに入れ、窒
素気流下、T.H.ホモミキサー(特殊機工工業製)で荒く
ホモゲナイズしてからエクセル・オート・ホモゲナイザ
ー(日本精器製作所製) で氷冷状態下30分ホモゲナイズ
した。
【0014】懸濁液をブッフナー漏斗で濾過し、濾液と
湿ケーキに分けた。濾液からアセトン抽出物10gを得
た。乳灰色の湿ケーキ830gをエチルエーテル3リットル
に入れ、スリーワンモータータイプ 600GM(新東科学
製)で200rpmで回転しながら30分間抽出した。懸濁液を
ブッフナー漏斗で濾過し、濾液と湿ケーキに分けた。濾
液からエチルエーテル抽出物48gを得た。
【0015】乳灰色の湿ケーキ770gをクロロホルム−メ
タノール(1/1, vol/vol)混液1リットルで2回、分
液漏斗中で抽出した。懸濁液をブッフナー漏斗で濾過
し、濾液と湿ケーキに分けた。濾液からクロロホルム−
メタノール抽出物55gを得た。乳灰色の湿ケーキ690gを
クロロホルム−メタノール(2/1,vol/vol)混液 1.5リ
ットルで2回、分液漏斗中で抽出した。懸濁液をブッフ
ナー漏斗で濾過し、濾液と湿ケーキに分けた。濾液から
クロロホルム−メタノール抽出物を5g得た。各抽出物
を一緒にした。得られた粗脂質量は118gであった(対原
料収率9.1 %)。粗脂質の全量をシリカゲルカラムクロ
マトグラフィー(シリカ60、和光純薬製:8φ×40cmカ
ラムに2リットル)に付した後、ヘキサン中にクロロホ
ルムの比率を上げていく溶離液系で中性脂質を除去し
た。中性脂質の回収量69gで、組成は薄層クロマトグラ
フィー(展開溶媒:ヘキサン−エチルエーテル−酢酸
50/50/1, vol/vol/vol)分析でトリアシルグリセロー
ルが主体であった。
【0016】中性脂質を除いたカラムに、クロロホルム
中にメタノールの比率を上げていく溶離液系を流した。
クロロホルム対メタノールの比率が35:65〜25:75の範
囲にホスファチジルコリンを主成分とする区分が溶出
し、脱溶媒後28gのホスファチジルコリンを得た。ホス
ファチジルコリン区分の判定は薄層クロマトグラフィー
(展開溶媒:クロロホルム−メタノール−水 65/25/
4, vol/vol/vol)で行った。薄層クロマトグラフィー上
のRf値0.20〜0.30(ホスファチジルコリン) にシングル
スポットのみが認められる分画を集めて、窒素気流下で
脱溶媒を行い、純ホスファチジルコリンを19g得た。
【0017】分取されたホスファチジルコリンを三弗化
ホウ素メタノール法でメチルエステル化し、キャピラリ
ーカラムガスクロマトグラフィー(液相:カーボワック
ス−20M、25m、170 ℃) で脂肪酸組成を測定した。そ
の結果、ドコサヘキサエン酸は46%でパルミチン酸、ス
テアリン酸、オレイン酸が各約10%を占めていた。この
ホスファチジルコリンをホスホリパーゼA2 で加水分解
し、三弗化ホウ素メタノール法でメチルエステル化し、
キャピラリーカラムガスクロマトグラフィーで脂肪酸組
成を測定した。その結果、ドコサヘキサエン酸は80%で
あった。
【0018】次にホスファチジルコリンの分子種を分析
するため、FAB−MS(Pos.)で分子量Mに相当するm/
z を測定した。その結果、m/z 806(パルミトイルドコサ
ヘキサエニルホスファチジルコリンに相当) 、m/z 832
(オレオイルドコサヘキサエニルホスファチジルコリン
に相当) 、m/z 834(ステアロイルドコサヘキサエニルホ
スファチジルコリンに相当) が強く認められた。
【0019】ホスファチジルコリン中のアルキル鎖の分
布を分析をするため、高速液体クロマトグラフィー(シ
ョーデックスODSpak F−611 A) にメタノール(1
ml/min)で展開し、UV210nm でモニターした。その結
果、一本のメインピークと数本の小さなピークが認めら
れ、このホスファチジルコリンのアルキル鎖の分布は少
なかった。ホスファチジルコリンの過酸化脂質量は電位
差滴定法(自動滴定装置GT−05、三菱化成工業(株)
製) で測定した。原材料の魚卵粗脂質の過酸化物量が1
2.3meq./kgであるのに対し、ホスファチジルコリン画分
は18.4meq./kgであった。
【0020】実施例2 採卵後直ちに冷凍したニジマスの受精卵を窒素気流下で
解凍した。この原料1500gをクロロホルム/メタノール
(2/1, vol/vol) 混液6リットルに入れ、窒素気流
下、T.H.ホモミキサー(特殊機工工業製)で高速で剪断
抽出しながら氷冷状態下30分間ホモゲナイズした。
【0021】懸濁液をブッフナー漏斗で濾過し、濾液と
乳灰色の湿ケーキに分けた。乳灰色の湿ケーキ910gを上
記溶媒2リットルに入れ、上記と同一の条件で処理し
た。同様に懸濁液から濾液と湿ケーキに分けた。乳灰色
の湿ケーキ780gを上記溶媒2リットルに入れ同一条件で
処理した。さらに、3回目の懸濁液から濾液と湿ケーキ
の濾別を行った。全濾液を集めて遠心分離し、上澄液に
クロロホルム3リットルと蒸留水3リットルを加えて、
よく水洗した後、遠心分離で二層に分離した。
【0022】下層のクロロホルム層を集めて、窒素気流
下、ロータリーエバポレーターを用い、30℃で濃縮し、
溶媒留去の最後にベンゼン 100mlを加えて脱水を行いな
がら脱溶媒した。溶媒を留去した抽出物を真空デシケー
ターで一昼夜乾燥して得られた全粗脂質の重量は、127g
(対原料収率 8.5%)であった。得られた全粗脂質を氷
冷アセトン1.3リットル中に入れ、窒素気流下、スリー
ワンモータータイプ600 GM(新東科学製)で200rpmで
回転しながら10分間抽出した。アセトン懸濁液を冷却し
たブッフナー漏斗で濾過し、沈澱を回収した。この沈澱
に、上記同様の冷アセトン処理を4回繰り返して、完全
に中性脂質を除いた総リン脂質分画57g(粗脂質中45.2
%)を得た。
【0023】総リン脂質全量をシリカゲルカラムクロマ
トグラフィー(富士ゲルCG−3、水戸化学製、5φ×
40cmカラムに700cc)に付した後、クロロホルム−メタノ
ール(4/1, vol/vol)混液の溶離液系でホスファチジ
ルコリン以前に溶出するホスファチジルエタノールアミ
ン等のリン脂質を除去した。さらに純粋なホスファチジ
ルコリンを分画するためクロロホルム−メタノール(3
/2, vol/vol) 混液の溶離液系で溶出させた。溶離液 5
00mlずつを分画し、各分画を薄層クロマトグラフィー
(展開溶媒:クロロホルム−メタノール−水65/25/4,
vol/vol/vol)で測定した。各分画の内、薄層クロマト
グラフィーでRf値0.20〜0.35(ホスファチジルコリン)
にシングルスポットのみが認められる分画19gを得た。
【0024】分取されたホスファチジルコリンを三弗化
ホウ素メタノール法でメチルエステル化し、キャピラリ
ーカラムガスクロマトグラフィー( 液相:カーボワック
ス−20M、25m、170 ℃) で脂肪酸組成を測定した。そ
の結果、ドコサヘキサエン酸は45%でパルミチン酸、ス
テアリン酸およびオレイン酸が、各約10%を占めてい
た。
【0025】このホスファチジルコリンをホスホリパー
ゼA2 で加水分解し、三弗化ホウ素メタノール法でメチ
ルエステル化し、キャピラリーガスクロマトグラフィー
で脂肪酸組成を測定した。その結果ドコサヘキサエン酸
は78%であった。次に、ホスファチジルコリンの分子種
を分析するため、FAB−MS(Pos.)で分子量に相当す
るm/z を測定した(第1図)。得られた質量スペクトル
はm/z 806(パルミトイルドコサヘキサエニルホスファチ
ジルコリンに相当) 、m/z 832(オレオイルドコサヘキサ
エニルホスファチジルコリンに相当) およびm/z 834(ス
テアロイルドコサヘキサエニルホスファチジルコリンに
相当) が強く認められた。ホスファチジルコリン中のア
ルキル鎖の分布を分析するため、ODSカラム(ショー
デックスODSpak F−611 A、昭光通商製) を装備し
た高速液体クロマトグラフィーに、メタノール(1ml/
min)で展開し、UV210nm でモニターした。得られたク
ロマトグラムは一本のメインピークと数本の小さなピー
クが認められ、このホスファチジルコリンのアルキル鎖
の分布は少なかった。ホスファチジルコリンの過酸化脂
質量は、18.7meq./kgであった。
【0026】実施例3 採卵後直ちに冷凍したサケの卵(イクラ)を窒素気流下
で解凍した。この原料500gにクロロホルム/メタノール
(2/1, vol/vol) 混液2リットルを加え、ホモミキサ
ーで充分に混和した後、濾過し、窒素気流下で残渣を同
混液1リットルで2回同様の操作を行った。濾液を合わ
せ、水洗した後、溶媒を留去して、真空デシケーター中
で3時間乾燥して得られた粗脂質の重量は、73.5g(対原
料収率14.7%) であった。
【0027】得られた全粗脂質を氷冷アセトン 0.4リッ
トル中に入れ、窒素気流下で回転しながら10分間抽出し
た。アセトン懸濁液を冷却したブッフナー漏斗で濾過
し、沈澱を回収した。この沈澱に、上記同様の冷アセト
ン処理を4回繰り返して、完全に中性脂質を除いた総リ
ン脂質分画23.7g(粗脂質中32.2%)を得た。総リン脂質
全量をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(富士ゲル
CG−3、水戸化学製、5φ×40cmカラムに400cc)に付
した後、クロロホルム−メタノール(3/2, vol/vol)
混液の溶離液系でホスファチジルコリン以前に溶出する
ホスファチジルエタノールアミン等のリン脂質を除去し
た。
【0028】さらに、純粋なホスファチジルコリンを分
画するため、同混液の溶離液系で溶出させた。溶離液50
0 mlずつを分画し、各分画を薄層クロマトグラフィー
(展開溶媒:クロロホルム−メタノール−水 65 /25/
4, vol/vol/vol)で測定した。各分画のうち、薄層クロ
マトグラフィーで、Rf値0.20〜0.35(ホスファチジルコ
リン) にシングルスポットが認められる分画6.1gを得
た。
【0029】分取されたホスファチジルコリンを三弗化
ホウ素メタノール法でメチルエステル化し、キャピラリ
ーカラムガスクロマトグラフィー( 液相:カーボワック
ス−20M、25m、170 ℃) で脂肪酸組成を測定した。そ
の結果、ドコサヘキサエン酸31%で、パルミチン酸、ス
テアリン酸およびオレイン酸が、各約10%を占めてい
た。
【0030】このホスファチジルコリンをホスホリパー
ゼA2 で加水分解し、三弗化ホウ素メタノール法でメチ
ルエステル化し、キャピラリーガスクロマトグラフィー
で脂肪酸組成を測定した。その結果ドコサヘキサエン酸
は58%であった。次にホスファチジルコリンの分子種を
分析するため、FAB−MS(Pos.)で分子量に相当する
m/z を測定した。得られた質量スペクトルはm/z 806(パ
ルミトイルドコサヘキサエニルホスファチジルコリンに
相当) 、m/z 832(オレオイルドコサヘキサエニルホスフ
ァチジルコリンに相当) およびm/z 834(ステアロイルド
コサヘキサエニルホスファチジルコリンに相当) が強く
認められた。ホスファチジルコリン中のアルキル鎖の分
布を分析するため、ODSカラム(ショーデックスOD
Spak F−611 A、昭光通商製) を装備した高速液体ク
ロマトグラフィーにメタノール(1ml/min)で展開し、
UV210nm でモニターした。得られたクロマトグラムは
一本のメインピークと数本の小さなピークが認められ、
このホスファチジルコリンのアルキル鎖の分布は少なか
った。ホスファチジルコリンの過酸化脂質量は、12.4me
q./kgであった。
【0031】実施例4 ニシンの卵500gを実施例1と同様に溶剤処理して粗脂質
14g(対原料収率 2.8%)を得た。この粗脂質の全量を
シリカゲルカラムクロマトグラフィー(キーゼルゲル6
0、メルク社製、4φ×40cmカラム 0.4リットル) に付
した後、クロロホルムを中性脂質が出なくなるまで流し
て、さらにメタノールを流してリン脂質画分の溶媒を留
去した。得られた総リン脂質分画は8.3g(粗脂質中59.2
%)であった。
【0032】中性脂質を除いた上記カラムに、クロロホ
ルム−メタノール(3/2 vol/vol)混液の溶離液を用
いて、薄層クロマトグラフィーで、Rf値0.20〜0.35のシ
ングルスポットを示す純ホスファチジルコリン分画3.1g
を得た。このホスファチジルコリンを実施例1と同様に
分析したところ、脂肪酸組成としてドコサヘキサエン酸
を40%含有しており、また、ホスホリパーゼA2 で加水
分解して得たsn−2位の脂肪酸組成は、ドコサヘキサ
エン酸を81%含有していた。また、過酸化脂質量は10.2
meq./kg であった。
【0033】卵ホスファチジルコリンは、逆相分配カラ
ムクロマトグラフィー、質量分析計およびホスホリパー
ゼA2 の解析から、このホスファチジルコリンの主成分
の分子種がドコサヘキサエン酸をsn−2位に結合する
ホスファチジルコリンであることがわかった。即ち、魚
卵ホスファチジルコリンの主成分はsn−2位にドコサ
ヘキサエン酸を有するホスファチジルコリンである。
【0034】実施例5 採卵後直ちに冷凍したクルマエビの卵を窒素気流下で解
凍した。この原料1000gをアセトン1.5リットルに入
れ、窒素気流下、T.H.ホモミキサー(特殊機工工業製)
で荒くホモゲナイズしてからエクセル・オート・ホモゲ
ナイザー(日本精器製作所製) で氷冷状態下30分ホモゲ
ナイズした。
【0035】懸濁液をブッフナー漏斗で濾過し、濾液と
湿ケーキに分けた。濾液からアセトン抽出物7gを得
た。乳灰色の湿ケーキ630gをエチルエーテル2.5リット
ルに入れ、スリーワンモータータイプ 600GM(新東科
学製)で200rpmで回転しながら30分間抽出した。懸濁液
をブッフナー漏斗で濾過し、濾液と湿ケーキに分けた。
濾液からエチルエーテル抽出物35gを得た。
【0036】乳灰色の湿ケーキ580gをクロロホルム−メ
タノール(1/1, vol/vol)混液1リットルで2回、分
液漏斗中で抽出した。懸濁液をブッフナー漏斗で濾過
し、濾液と湿ケーキに分けた。濾液からクロロホルム−
メタノール抽出物40gを得た。乳灰色の湿ケーキ535gを
クロロホルム−メタノール(2/1,vol/vol)混液 1.5リ
ットルで2回、分液漏斗中で抽出した。懸濁液をブッフ
ナー漏斗で濾過し、濾液と湿ケーキに分けた。濾液から
クロロホルム−メタノール抽出物を4g得た。各抽出物
を一緒にした。得られた粗脂質量86gであった(対原料
収率8.6%)。
【0037】粗脂質の全量をシリカゲルカラムクロマト
グラフィー(シリカ60、和光純薬製:8φ×40cmカラム
に2リットル)に付した後、ヘキサン中にクロロホルム
の比率を上げていく溶離液系で中性脂質を除去した。中
性脂質の回収量54gで、組成は薄層クロマトグラフィー
(展開溶媒:ヘキサン−エチルエーテル−酢酸 50/50
/1, vol/vol/vol)分析でトリアシルグリセロールが主
体であった。
【0038】中性脂質を除いたカラムに、クロロホルム
中にメタノールの比率を上げていく溶離液系を流した。
クロロホルム対メタノールの比率が35:65〜25:75の範
囲にホスファチジルコリンを主成分とする区分が溶出
し、脱溶媒後24.7gのホスファチジルコリンを得た。ホ
スファチジルコリン区分の判定は薄層クロマトグラフィ
ー(展開溶媒:クロロホルム−メタノール−水 65/25
/4, vol/vol/vol)で行った。薄層クロマトグラフィー
上のRf値0.20〜0.30(ホスファチジルコリン) にシング
ルスポットのみが認められる分画を集めて、窒素気流下
で脱溶媒を行い、純ホスファチジルコリンを15.1g得
た。
【0039】その結果、ドコサヘキサエン酸は30%で、
パルミチン酸、オレイン酸が各約20%を占めていた。こ
のホスファチジルコリンをホスホリパーゼA2 で加水分
解し、三弗化ホウ素メタノール法でメチルエステル化
し、キャピラリーカラムガスクロマトグラフィーで脂肪
酸組成を測定した。その結果、ドコサヘキサエン酸は61
%であり、オレイン酸が30%、その他に数本の微小ピー
クが認められた。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 桜井 成 東京都杉並区南荻窪1丁目33番12号 (72)発明者 旭 健一 埼玉県和光市諏訪原団地1−4−108 (72)発明者 高橋 信孝 東京都杉並区荻窪4丁目27番2号

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】sn−2位にドコサヘキサエン酸を有する
    ドコサヘキサエノイルホスファチジルコリンの製造にあ
    たり、水産動物の卵を原料として溶媒抽出により得られ
    た総リン脂質からホスファチジルコリンを分離すること
    を特徴とするドコサヘキサエノイルホスファチジルコリ
    ンの製造法。
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