【発明の詳細な説明】
ニューロトロフィン-4発現に基く治療および診断方法
1.序論
本発明は、ニューロトロフィン-4(NT-4)、そのBDNF/NGF/NT-3遺伝子ファミリ
ーの新たに特性決定された員、並びに神経障害の治療におけるニューロトロフィ
ン-4を使用する治療方法および診断方法に関する。
2.発明の背景
神経成長因子ファミリーは、β−神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子
(BDNF)、および海馬由来神経栄養因子(HDNF)としても知られているニューロ
トロフィン-3(NT-3)を含む。これらのタンパク質のこのファミリーは、発生およ
び成体の脊椎動物の神経系の両方で重要な役割を果たし、この場合、それらは神
経細胞の生存を支持する。
マウスのNGFタンパク質のアミノ酸配列(Angelettiら,1973,Biochemistry 12:
100-115)に基いて、マウスのNGFおよびヒトのNGFをコードするDNA配列が単離さ
れた(Scottら,1983,Nature302:538-540;Ullrichら,1983,Nature 303:821-825)
。マウスのNGFとヒトのNGFの比較は、そのタンパク質が哺乳類中に保存されるこ
とを示し、そしてこれが支持されることには、NGFのような活性が幾つかの種か
ら単離された(HarperおよびThoenen,1981,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.21:20
5-229)。続いて、雄ウシ(Meierら,1986,EMBO J.5:1489-1493);ニワトリの
ひな(Meierら,1986,EMBO J.5:1489-1493;Ebendal ら,1986,EMBO J.5:1483-
1487;Wionら,1986,FEBS Letters 203:82-86);コブラ(Selbyら,1987,J.Neuro
sci.Res.18:293-298);ラット(Whittemoreら,1988,J.Neurosci.Res.20:403
-410);およびモルモット(Schwarzら,1989,Neurochem.52:1203-1209)のNG
FからのDNA配列がまた決定された。脳由来神経栄養因子(BDNF)が最初にブタの
脳から単離され(Bardeら,1982,EMBO J.1:549-553)、続いてこの組織からcDNA
としてクローン化された(Leibrockら,1989,Nature 341:149-152)。NT-3の遺
伝子が、その他の二つの因子間の配列類似性に基く変性オリゴヌクレオチドを使
用してマウス(Hohnら,1990,Nature 344:339-341)、ラット(Maisonpierreら,1
990,Science 247:1446-1451;Ernforsら,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:545
4-5458)、およびヒト(Rosenthal.ら,1990,Neuron 4:767-773)から単離され
た。その三つの因子は互いに約55%のアミノ酸類似性を示し、そして殆どの配列
の相違がそれぞれのタンパク質の特徴的なアミノ酸モチーフ(amino acid motif
s)を含む5つの領域中に存在する。これらのタンパク質のうちの二つのin vitr o
における神経栄養活性は、これらの可変領域の特異的な組み合わせにより獲得
されることが最近示されていた。
NGFは末梢交換神経細胞および神経冠由来知覚神経細胞の発生および維持を支
持する(ThoenenおよびBarde,1980,Physiol.Rev.,60:1284-1325;Levi-Montal
cini,1987,Science,237:1154-1162に概説されている)。活性は末梢交換神経
細胞中のBDNFに関して見られなかったが、この因子はプラコード由来知覚神経細
胞および神経冠由来知覚神経細胞の両方の生存をin vivoにおいて支持する(Hof
erおよびBarde,1988,Nature,331:261-262)。in
vivo
においてNT-3に感受性の神経細胞は、同定されるように残存する。しかしな
がら、in vitroにおいて外植されたニワトリのひなの神経節または解離された神
経培養物中では、三つの因子は神経集団の重なりの組および特異な組の両方を支
持し、NT-3がin vivoにおいても特異的な神経栄養活性および重なりの神経栄養
活性の両方を示すことを示唆する(Hohnら,1990,Nature,344:339-341;Maisonp
eirreら,1990,Science,247:1446-1451;Ernforsら,1990,Proc.Natl.Acad.Sc
i.USA 87:5454-5458;Rosenthalら,1990,Neuron 4:767-773)。全ての三つ
の因子は、海馬中の全ての三つの因子のmRNAの最高のレベルを使って脳中の特別
な組の神経細胞中で発現される(Ayer-LeLie-vreら,1988, Science240:1339
-1341;Ernforsら,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:5454-5458;Ernfors
ら,1990,Neuron 5:511-526;Watmoreら,1991,Neurol.109:141-152;Hofer
ら,1990,EMBO J.,9:2459-2464;Phillipsら,1990,Science,250:290-294)
。脳中で、NGFは基底前脳のコリン作動性神経細胞を支持することが示され(Whi
ttemoreおよびSeiger,1987,BrainRes.,434;439-464;Thoenenら,1987,Rev.P
hysiol.Biochem.Pharmacol.,105:145-178;Ebendal,1989,Prog.Growth Factor
Res.1:143-159に概説されている)、そしてBDNFはin vitroで試験管内でこれ
らの神経細胞の生存を剌激すると示されていた(Aldersonら,1990,Neuron 5:2
97-306)。
3種のタンパク質の作用は、感受性細胞に存在する特異的受容体とそれらの相
互作用により媒介される。分子クローンがラット、ヒト、およびニワトリのNGF
受容体(NGF-R)に関して単離され、
そしてこれらのクローンのヌクレオチド配列の分析は、NGF-Rが一つの原形質膜
と橋かけをする領域、細胞質領域、および細胞外のシステインに富むアミノ末端
領域を含むことを示した(Johnsonら,1986,Cell,47:545-554;Radekeら,198
7,Nature,325:593-597;Largeら,1989,Neuron 2:1123-1134)。NGF-Rは腫瘍
壊死因子の受容体(Schallら,1990,Cell,61:361-370)だけでなくリンパ球表
面抗原CD40(Stamenkovicら,1989,EMBO J.,8:1403-1410)およびOX40(Malle
ttら,1990,EMBO J.,9:1063-1068)に対して低いが、重大な配列類似性を示す
。NGF-Rは、低アフィニティー状態および高アフィニティー状態として知られて
いる二つの明白な状態で生じ得る(Sutterら,1979,J.Biol.Chem.,254:5972-59
82;LandrethおよびShooter,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4751-4755;S
chechterおよびBothwell,1991,Cell24:867-874)。NGF-Rの遺伝子はその受容
体の低アフィニティー状態および高アフィニティー状態の両方の部分を形成する
タンパク質をコードすることが明らかであるが(Hempsteadら,1989,Science,243:
373-375)、高アフィニティー受容体のみがNGFの生物活性を媒介すると提案
された。BDNF(Rodriguez-Tebarら,1990,Neuron,4:487-492)およびNT-3(Ern
forsら,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:5454-5458)の両方が低アフィニテ
ィーNGF-Rと相互作用でき、これは低アフィニティーNGF-Rが未だ知られていない
方法で全ての三つの因子の生物作用の媒介に関与し得ることを示唆する。
発育している神経系中で、NGFおよびその受容体は、成長する軸索がその標的
に達する時に、それぞれ、標的領域および応答性
神経細胞中で合成されることが示された(Daviesら,1987,Nature326:353-358
)。これと一致して、発育しているニワトリのひなの胚中のNGF mRNAのレベルは
胚日8(E8)で最高に達し(EbendalおよびPersson,1988,Development,102:10
1-106)、これは知覚神経剌激伝達の時間と一致する。しかしながら、ニワトリ
のひなでは、NGF-R mRNAは神経刺激伝達の前に初期の胚段階で最大に発現され(
Ernforsら,1988,Neuron,1,983-996)、そしてE8のニワトリのひなの胚中で、
高レベルのNGF-R mRNAが間充織細胞、体節細胞および神経管細胞中で検出された
(Hallbookら,1990,Development,108:693-704;Heuerら,1990,Dev.Biol.,137
:287-304;Heuer1990,Neuron,5:283-296)。この観察は、NGF mRNAが比較的
高いレベルでE3のニワトリのひなの胚中で発現されるという事実(Eb-endalおよ
びPersson,1988,Development,102:101-106)と一緒に、NGFが神経栄養因子と
してのその機能とは区別される役割を初期の発育中に果たし得ることを示す。こ
の可能性と一致して、NGFは培養中のE14のラットの胚線条体前駆体細胞の増殖お
よび分化を調節することが最近示された(Cattaneoおよび McKay,1990,Nature,347
,762-765)。ニワトリのひなの胚中で、BDNFおよびNT-3mRNAはE4,5で最大に
発現され、そしてBDNFがin vitroで鳥類の神経冠細胞の分化を調節することが
示された(KalcheimおよびGen-dreau,1988,Dev.BrainRes.,41:79-86)。
更に、NGFの非神経機能の証拠がまた提示された。雄のマウスの顎下腺中に見
られるNGFの未だ説明されていない高レベルはNGFのその他の機能を示し得る(Le
vi-Montalcini,1987,Science,237:1154-1162)。成体のラット中で、NGFはDNA
合成を誘発し、そし
てB細胞中でIgM分泌を剌激することが示された(Ottenら,1989,Proc.Natl.Acad
.Sci.USA,86:10059-10063)。
更に、NGFは、モルモットの前立腺中に充分な量で存在し、その結果、Rubinお
よびBradshaw(1981,J.Neur.Res.6:451-464)がこの外分泌組織から実質的に純
粋なNGFを単離し、特性決定するのに成功した。モルモットの前立腺中の高レベ
ルのNGFは、この神経栄養因子が未だ理解されていない非神経能で機能するとい
う仮説を支持する(Bradshaw,1978,Ann.Rev.Biochem.47:191-216;Harperら,1979
,Nature 279:160-162;HarperおよびThoenen,1980,J.Neurochem.34:893-903)
。
更に、NGF mRNAは成体ラットの睾丸中の精母細胞および初期の精子細胞中で発
現され(Ayer-Lelievreら,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2628-2632)、そ
してNGFタンパク質が精母細胞から精子までの全ての段階の生殖細胞中に存在す
る(Olsonら,1987,Cell Tissue Res.,248:275-286;Ayer-Lelievreら,1988a,Pr
oc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2628-2632)。また、NGF-R mRNAは成体ラットの睾
丸中で検出され、そこでそれはテストステロンの負の調節のもとにセルトーリ細
胞中で発現され、そして睾丸中でNGFは減数分裂および精子遊離を調節すると示
唆された(Perssonら,1990,Science,247:704-707)。
3.発明の要約
本発明は、ニューロトロフィン-4(NT-4)、そのBDNF/NGF/NT-3遺伝子ファミリ
ーの新たに特性決定された員に関する。
本発明はNT-4をコードする核酸分子を提供する。このような分子は、図1[配
列番号1(NT-4,クサリヘビ)、配列番号2(NT-4,
アフリカツメガエル]、図4(配列番号43)、図8(配列番号49)、図14(配列
番号61)、図15(配列番号63)、図17(配列番号69)、図18(配列番号75)、図
20(配列番号93)および図21(配列番号116)中にNT-4に関して実質的に示され
た配列を含んでもよく、またはこのような配列に少なくとも約70%相同性である
配列を含んでもよい。
また、本発明は、図2[配列番号22(NT-4,クサリヘビ)、配列番号23(NT-4,
アフリカツメガエル]、図4(配列番号44)、図8(配列番号50)、図14(配列
番号62)、図15(配列番号64)、図17(配列番号70)、図18(配列番号76)、図
20(配列番号94)または図21(配列番号117)中にNT-4に関して実質的に示され
た配列を含み、またはこのような配列に少なくとも約70%相同性である配列を含
んでもよいタンパク質分子またはペプチド分子を提供する。
更に、本発明は、原核生物系および真核生物系中の生物活性NT-4分子の発現を
提供する。
更に、本発明は、治療用途および診断用途に充分な量のNT-4の生産を提供する
。同様に、抗NT-4抗体が治療用途および診断用途に利用し得る。殆どの目的に関
して、治療目的または診断目的のために同じ種からのNT-4遺伝子または遺伝子生
産物を使用することが好ましいが、NT-4の交雑種の利用が本発明の特別な実施態
様に有益であり得る。
更に、本発明は、ヒトの骨格筋、前立腺、胸腺および睾丸中のNT-4発現の検出
可能なレベルを開示することによりNT-4発現に基く治療および診断上の用途を提
供する。
4.図面の説明
図1.異なる種からのNGF、BDNF、NT-3および新規な神経栄養因子NT-4をコー
ドする単離断片のDNA配列の配列。
(A)マウスのプレプロNGF分子の略図。斜線付きボックスはシグナル配列(SS)
を示し、黒いバーはタンパク質開裂部位を表し、そして影をつけたボックスは成
熟NGFを表す。変性プライマーに使用された領域は矢印により示される。上流プ
ライマーはリシン50からスレオニン56までをコードする領域からのものであり、
そして下流プライマーはトリプトファン99からアスパラギン酸105までを含む。
増幅領域は成熟NGF分子中の塩基対(bp)168〜294からのDNA配列を含み、そして
ここまでに記載されたNGFファミリーの全ての員中で、この領域は一つのエクソ
ン中に配置される。
(B)異なる種から単離されたNGF、BDNF、NT-3およびNT-4のヌクレオチド配列の
配列。これらの断片は成熟マウスのNGF中のアミノ酸57〜98に相当する。同じ塩
基がドットにより示される。ナンバリングはマウスの成熟NGF(Scottら,1983,N
ature 300:538-540)の配列中のヌクレオチドを表す。配列番号1(NT-4,クサリ
ヘビ)、配列番号2(NT-4,アフリカツメガエル)、配列番号3(NGF、ヒト)、
配列番号4(NGF、ラット)、配列番号5(NGF、ニワトリ)、配列番号6(NGF
、クサリヘビ)、配列番号7(NGF、アフリカツメガエル)、配列番号8(NGF、
サケ)、配列番号9(BDNF、ヒト)、配列番号10(BDNF、ラット)、配列番号11
(BDNF、ニワトリ)、配列番号12(BDNF、クサリヘビ)、配列番号13(BDNF、ア
フリカツメガエル)、配列番号14(BDNF、サケ)、配列番号15(BDNF、エイ)、
配列番号16(NT-3、ヒト)、配列番号17(NT-3、ラット)
、配列番号18(NT-3、ニワトリ)、配列番号19(NT-3、アフリカツメガエル)、
配列番号20(NT-3、サケ)、配列番号21(NT-3、エイ)。
図2.異なる種由来のNGF、BDN、NT-3およびNT-4に関して推測されたアミノ酸
配列の配列。アミノ酸のナンバリング(1文字コード)は成熟マウスのNGF(Sco
ttら,1983,Nature 300:538-540)から採用される。同じ塩基がドットで示される
。同じ因子の全ての変異体中の保存アミノ酸置換を示す位置が下線を施される。
破線は、相当する配列が単離されなかったことを示す。バーは異なる分子中の可
変領域(R59〜S67およびD93〜A98)を表す。配列番号22(NT-4、クサリヘビ)、
配列番号23(NT-4、アフリカツメガエル)、配列番号24(NGF、ヒト)、配列番
号25(NGF、ラット)、配列番号26(NGF、ニワトリ)、配列番号27(NGF、クサ
リヘビ)、配列番号28(NGF、アフリカツメガエル)、配列番号29(NGF、サケ)
、配列番号30(BDNF、ヒト)、配列番号31(BDNF、ラット)、配列番号32(BDNF
、ニワトリ)、配列番号33(BDNF、クサリヘビ)、配列番号34(BDNF、アフリカ
ツメガエル)、配列番号35(BDNF、サケ)、配列番号36(BDNF、エイ)、配列番
号37(NT-3、ヒト)、配列番号38(NT-3、ラット)、配列番号39(NT-3、ニワト
リ)、配列番号40(NT-3、アフリカツメガエル)、配列番号41(NT-3、サケ)、
配列番号21(NT-3、エイ)。
図3.NGFファミリーの員の推測される系統発生。NGF(A)、BDNF(B)、およ
びNT-3(C)の種分化を示す系統樹を、ヌクレオチド配列の分析を使用して構築
した。ヒトのNT-3を(A)および(B)で基準点として使用し、ヒトのNGFおよび
ヒトのBDNFを(C)で使用
した。(A)中のスケールバーは20の相対的な相違値に相当する分枝長を表す。
同じスケールを(B)および(C)で使用した。(D)はNGFファミリーの異なる員
間の進化の関係の系統図を示す。これらのデータを推測されるアミノ酸配列から
集めた。スケールバーは20の分枝長を表す。示された全ての系統樹は、分枝が外
部基準を使用しないで相対的に測定される基盤のないものである。略号:chi、
ニワトリ;hum、ヒト;sal、サケ;vip、クサリヘビ;xen、アフリカツメガエル
。
図4.アフリカツメガエルNT-4の配列並びにNGF、BDNF、およびNT-3との比較
。
(A)潜在する翻訳開始部位が箱形にされている。推定のシグナル開裂部位がSC
と標識された矢印により示される。アフリカツメガエルのNT-4とモルモットおよ
びラットのBDNFの間で同一であるシグナル配列中のアミノ酸が星印により示され
る。N-グリコシル化の共通配列が下線を施され、そして矢印が成熟NT-4タンパク
質の予定開始を示す(配列番号43および配列番号44)。
(B)アフリカツメガエルNT-4(配列番号45)とマウスNGF(Scottら,1983,Natur
e300:538-540)(配列番号46)、マウスBDNF(Hoferら,1990,EMBO J.9:2459-2
464)(配列番号47)、およびマウスNT-3(Hohnら,1990,Nature 344:339-341)
(配列番号48)のアミノ酸(1文字コード)配列の比較。NT-4アミノ酸配列と比
較して同一のアミノ酸置換がドットにより示される。NGF、BDNF、およびNT-3の
間で異なる配列はNT-4タンパク質の配列中でも異なる。
図5.COS細胞中のアフリカツメガエルNT-4タンパク質の一時的な発現およびP
C12細胞に関するNGF-Rとその相互作用。
(A)ラットNGF遺伝子、インサートを含まない対照プラスミド、またはアフリカ
ツメガエルNT-4遺伝子でトランスフェクションされたin vivoで標識された(各
々のレーンに3×104cpm負荷された)COS細胞培養物由来のならし培地のSDS-PAG
E。X線フィルムに一夜露出した後の乾燥ゲルのオートラジオグラフが示される
。
(B)等量のNT-4(開いた円形)またはNGF(閉じた円形)タンパク質を含むトラ
ンスフェクションしたCOS細胞培地の連続希釈液を、PC12細胞上のその受容体か
ら125I-NGFを置換するそれらの能力につき検定した。1ml当たり1.5x109Mの125I
-NGFおよび1x104個の細胞を使用して結合アッセイを37℃で行った。mock移入細
胞からの培地はPC12細胞からの125I-NGFの結合を置換できなかった。それぞれの
点は3回の測定値の平均±SDを表す。
図6.ニワトリの胚神経節からの神経突起成長の刺激。
(A、B、およびC)組換えNT-4タンパク質(A)、組換えNGF(B)、およびBDN
Fタンパク質(C)で背根神経節中で誘発された神経突起成長。(D)mockトラン
スフェクション細胞由来のならし培地に対する背根神経節の応答。(EおよびF
)NT-4(E)またはNGF(F)に応答する交感神経節からの神経突起成長の剌激。
(G、H、およびI)組換えNT-4(G)タンパク質、NT-3(H)タンパク質、およ
びBDNF(I)タンパク質で剌激された結節神経節。全ての図は、1.5日の培養後の
神経節の明視野顕微鏡である。
図7.異なるアフリカツメガエル組織中のNT-4 mRNAの検出。
(A)成体の雌のアフリカツメガエルの示された組織からのポリ(A)+RNA(10μ
g/スロット)をホルムアルデヒドを含むアガロースゲル中で電気泳動し、ニトロ
セルロースフィルターにブロットし、
そしてアフリカツメガエルのNT-4遺伝子の3'エクソン由来の500bpのHindI断片に
ハイブリダイズさせた。比較のために、またそのフィルターをアフリカツメガエ
ルのNGF遺伝子由来の180bpのPCR断片にハイブリダイスさせた(心臓、NGFとマー
クしたレーン)。NT-4プローブに対してハイブリダイズさせたフィルターを2日
間露出した。NGFプローブに対してハイブリダイズさせたフィルターを2週間露
出した。NT-4プローブにハイブリダイズさせたフィルターの延長した2週間の露
出は卵巣(これは異なる段階の卵母細胞を含む)以外のあらゆる組織中でNT-4 m
RNAを示さなかった。CNSと標識したレーンは脳および脊髄を含む。
(B)アフリカツメガエルの卵巣由来のポリ(A)+RNA(10μg)をNGFファミリー
の4種の員の発現につき分析した。それぞれのフィルターを、それらのそれぞれ
のアフリカツメガエル遺伝子からのPCR断片を標識することにより得られた示さ
れたプローブとハイブリダイズさせた。それらの遺伝子の3'エクソン中の標識PC
R断片の位置が図1Aに示される。フィルターを高ストリンジェンシーで洗浄し、
X線フィルムに5日間露出した。
図8.制限エンドヌクレアーゼ開裂部位を含むアフリカツメガエルNT-4のヌク
レオチド配列(配列番号49および配列番号50)。
図9.アフリカツメガエル・ラエビス(Xenopus laevis)の卵巣中のNT-4mRNA
発現。成体のアフリカツメガエル・ラエビス(Xenopus laevis)からの卵巣をク
リオスタット中で切断し(14μmの厚さの切片)、次にターミナルデオキシヌク
レオチジルトランスフェラーゼを使用して切片を35S-dATPで標識された示された
48-merオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせた。
(A)配列
を有するアフリカツメガエルNT-4 mRNA特異的オリゴヌクレオチドを使用するハ
イブリダイゼーション。
(B)同様の長さおよびG+C含量の対照オリゴヌクレオチドを使用するハイブリダ
イゼーション。
ハイブリダイゼーション後に、切片を1x SSC中で55℃で洗浄し、続いてX線フィ
ルムに10日間露出した。現像されたX線フィルムの写真が図に示される。NT-4プ
ローブによる多くの小さい細胞の強い標識および対照プローブによる標識の不在
に注目されたい。矢印は、二つのプローブのいずれかにより標識されていない大
きい(段階VI)卵母細胞を示す。スケールバー、2mm。
図10.アフリカツメガエルの卵巣中のNT-4 mRNAを発現する卵母細胞をを示す
エマルション・オートラジオグラフの明視野の彩飾。図9に記載されたアフリカ
ツメガエルNT-4 mRNA特異的プローブ(A,B)または対照プローブ(C)にハイブ
リダイズさせた切片をコダック(Ko-dak)NTB2エマルションで被覆し、5週間露
出し、現像し、クレシル・バイオレットで軽く対比染色した。この図は現像した
切片の明視野の顕微鏡写真を示す。パネルAにおいて、小さいサイズの卵母細胞
(段階IおよびII)に関する強いNT-4 mRNA標識および大きいサイズの卵母細胞
(段階VおよびVI)に関する標識の不在に注目されたい。パネルBはパネルA中
の領域で箱形にされたものの高倍率を示す。その写真に示された段階IIの卵母細
胞の細胞質の強い標識に注目されたい。
(C)対照プローブを使用すると標識が見られない。略号:n、核;fc、胞細胞
;pl、着色層。Aのスケールバー、50μm;BおよびCのスケールバー、15μm。
図11.卵子形成の異なる段階においての卵母細胞中のNT-4 mRNAのレベル。ア
フリカツメガエルNT-4 mRNA特異的プローブでハイブリダイズさせた切片のエマ
ルション・オートラジオグラフ(図10に示される)を使用して面積単位中の粒子
の数をカウントした。選ばれた面積単位は段階Iの卵母細胞の約100分の1であ
った。15の面積単位を示された段階の10の異なる卵母細胞中で分析した。エラー
バーはS.D.を示す。
図12.アフリカツメガエル(Xenopus laevis)中の卵子形成中のNT-4 mRNA発
現のノーザンブロット分析。2種の成体アフリカツメガエル・ラエビスからの卵
巣を切開し、コラーゲナーゼで処理して胞細胞を除去し、卵母細胞を遊離した。
次に卵母細胞を、Dumont,1972,J.Morphol.136:153-180により記載された段階
に従って示されたグループに分けた。また、全体の卵巣および遊離された胞細胞
がその分析に含まれた。次に全細胞RNAを調製し、40μg/スロットのRNAをホルム
アルデヒドを含む1%のアガロースゲル中で電気泳動した。これをニトロセルロ
ースフィルターにブロットし、アフリカツメガエルNT-4遺伝子の3'エクソンから
の600bpのHincII断片にハイブリダイズさせた。フィルターを高ストリンジェン
シーで洗浄し、X線フィルムに5日間露出した。段階VおよびVIの卵母細胞中の
NT-4mRNAの量の著しい減少に注目されたい。
図13.変性オリゴヌクレオチドが合成され、そしてポリメラー
ゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction)によるヒトおよびラットのゲノムDNA
の増幅を開始するのに利用された位置を示すxNT-4部分アミノ酸配列(配列番号5
1)。矢印はセンス変性オリゴヌクレオチドおよびアンチセンス変性オリゴヌク
レオチドに相当するオリゴヌクレオチドを示す。プライマー2Zへの変性オリゴヌ
クレオチドの組はrBDNFのアミノ酸184-189(配列番号52)に相当する。表された
部分アフリカツメガエルNT-4のアミノ酸配列は上記の図4に記載されたアミノ酸
167-アミノ酸223由来のものである。
(B)ヒトおよびラットのNT-4のクローニングに使用した変性オリゴヌクレオチ
ド。図13中のオリゴヌクレオチド3Zは、セリンコドンの同義性を許容するために
3Zと3Z'の混合物を含む。2Y(配列番号53)、2Z(配列番号54)、3Y(配列番号5
5)、3Z(配列番号56)、(配列番号57)および4Z(配列番号58)。(C)変性オ
リゴヌクレオチド3'(配列番号59)および5'(配列番号60)に関するクローニン
グ尾部。
図14.ラットNT-4の部分をコードする単離断片のDNA配列(配列番号61)。rNT
-4核酸断片によりコードされたペプチドの予想読取り枠が1文字コードにより表
される(配列番号62)。括弧内の配列はPCRプライマーの部分である。
図15.ヒトNT-4の部分をコードする単離断片のDNA配列(配列番号63)。hNT-4
核酸断片によりコードされたペプチドの予想読取り枠が1文字コードにより表さ
れる(配列番号64)。括弧内の配列はPCRプライマーの部分である。
図16.代表的なニューロトロフィンから推測されたアミノ酸配列の配列。1文
字コードを使用してアミノ酸が示される。同じア
ミノ酸がドットで示される。破線(dushed line)はrNT-4(配列番号62)および
hNT-4(配列番号64)の両方の保存領域内の7のアミノ酸挿入を示す。xNT-4(配
列番号65)、rNGF(配列番号66)、rBDNF(配列番号67)、rNT-3(配列番号68)
。x=アフリカツメガエル、r=ラット、h=ヒト。括弧内の配列はPCRプライ
マーの部分である。
図17.(A)ヒトNT-4の部分をコードする単離断片のDNA配列(配列番号69)。
192bpのhNT-4核酸断片によりコードされた予想ペプチドが1文字コードにより表
される(配列番号70)。括弧内の配列はPCRプライマーの部分である。
(B)4Zと称される3'末端プライマー(配列番号58)[WIRIDTをコードするヌク
レオチド配列を含む]と一緒に、ヒトのゲノムDNAの一次増幅に使用されたhNT4-
5”と称される5'末端プライマーのオリゴヌクレオチド配列[ETRCKA(配列番号7
2)をコードする配列(配列番号71)を含む]。(C)一次PCR反応生産物を増幅
するのに使用された5'末端プライマーのオリゴヌクレオチド配列。hNT4-5"'と称
されるプライマー[DNAEEG(配列番号74)をコードする配列(配列番号73)を含
む]を3'プライマー、4Z(配列番号58)と共に使用して162bp(+クローニング
尾部のbp)の断片を得た。次にその162bpのPCR断片を、本発明者らの先に使用し
た上流のPCR断片(2YZ3Zと称する)を使用するパッチPCR反応に使用して192bp+
(A)に示されたクローニング尾部の単一断片を生じた。付加的な3'延長核酸配
列の情報を、この断片のサブクローニングおよび配列決定後に得た。
図18.ヒトNT-4をコードする単離されたヒトのゲノムファージ
クローン7-2の部分のDNA配列(配列番号75)。ゲノムクローン7-2によりコード
される予想hNT-4タンパク質がアミノ酸の1文字記号により表される(配列番号7
6)。箱形領域はhNT-4タンパク質の予想開裂部位を表す。矢印はプレ配列中の保
存残基を示す。下線が施された領域(N-R-S)はn-グリコシル化の共通配列を表
す。丸で囲んだ領域は開始メチオニンを表す。スプライスアクセプター部位は配
列番号75の塩基対461-462(AG)に位置し、イントロンの3'末端を表す。
図19.代表的なニューロトロフィンから推測されたアミノ酸配列(配列番号77
-92)の配列。1文字コードを使用してアミノ酸が示される。ヒトのゲノムファ
ージクローン7-2(配列番号77)によりコードされたアミノ酸と同じアミノ酸が
アスタリスクで示される。破線(dashed line)は配列番号77によりコードされ
たタンパク質と比較して相同性のアミノ酸中のブレイク(break)を示す。
図20.ヒトのゲノムファージクローン、2-1の部分をコードする単離断片のDNA
配列(配列番号93)。その単離された核酸断片によりコードされたペプチドの予
想読取り枠が1文字コードにより表される(配列番号94)。
図21.ヒトのゲノムファージクローン、4-2の部分をコードする単離断片のDNA
配列(配列番号116)。その単離された核酸断片によりコードされたペプチドの
予想読取り枠が1文字コードにより表される(配列番号117)。
図22.ヒトNT-4 mRNA発現のノーザンブロット分析。ヒト由来の組織特異的mRN
Aをクロンテック(Clontech)社から購入した。RNA(10μg)を1%のアガロー
ス−ホルムアルデヒドゲルによる電気
泳動により分別し、続いて10X SSC(pH7)でキャピラリーによりナイロン膜(マ
グナグラフ(MagnaGraph)、ミクロン・セパレーションズ社(Micron Separatio
ns Inc.))に移した。RNAを紫外線(ストラトリンカー(Stratlinker)、スト
ラタゲン社(Stratagen,Inc.))への暴露により膜にUV架橋し、そして0.5MのNa
PO4(pH7)、1%のウシ血清アルブミン(フラクションV、シグマ(Sigma)社
)、7%のSDS、1ミリモルのEDTA(MahmoudiおよびLin,1989,Biotechniq-ues7:
331-333)、および100μg/mlの音波処理された変性サケ精子DNAの存在下で放射
能標識プローブ(HG7-2 NT-4の完全コード領域を含む680bpのXho1-Not1断片(下
記の実施例の項9を参照のこと))と65℃でハイブリダイズした。そのフィルタ
ーを65℃で2X SSC、0.1%のSDSで洗浄し、そして一つの増感スクリーン(クロネ
ックス(Cronex)、デュポン)およびX線フィルム(XAR-5、コダック)で-70℃
で一夜にわたるオートラジオグラフにかけた。ゲルのエチジウムブロマイド染色
は、全RNAの当量レベルが異なる試料につき(Misonpierreら,1990,Science247:1
446-1451に記載されているように)検定されていることを実証した。レーン1:
胎児肝臓のポリ(A)+mRNA;レーン2:胎児脳のポリ(A)+mRNA;レーン3:前
立腺のポリA+mRNA;レーン4:筋肉のポリ(A)+mRNA;レーン5:腸のポリ(A
)+mRNA;レーン6:腎臓のポリ(A)+mRNA;レーン7:肝臓のポリ(A)+mRNA
;レーン8:牌臓のポリ(A)+mRNA;レーン9:胸腺のポリ(A)+mRNA;レーン
10:卵巣のポリ(A)+mRNA;レーン11:睾丸のポリ(A)+mRNA;レーン12:胎盤
のポリ(A)+mRNA;レーン13:脳のポリ(A)+mRNA;レーン14:脳の全RNA。
図23.トランスフェクション細胞系;Q1(pCMX-HG7-2Q)、N7(pCMX-hNT3/hNT4)
およびX1(pCMX-xNT4/hNT4)由来のCOS上澄みを、DRG外植体中の神経突起促進活性
につき10μl、50μlおよび250μlの容積で試験した。mock移入COS細胞系から
の上澄みを対照として使用した。
図24.Q1(pCMX-HG7-2Q)細胞系およびM(pCMX-HG7-2M)細胞系由来のCOS上澄みを
、DRG関連細胞におけるそれらの生存促進活性につき試験した。試験した容積は
2mlの全容積中で5μl〜250μlの範囲であった。
図25.E14ラットの胚から単離された運動ニューロンが豊富化された培養物をM
細胞系(pCMX-HG7-2M)由来のCOS細胞上澄みの2種の希釈液で処理した。生物活
性を、Fonnum,1975,J.Neurochem.24:407-409に記載されたコリンアセチルトラン
スフェラーゼ(CAT)活性により測定した。mockトランスフェクション済COS細胞
系(MOC COS)および未処理の運動ニューロン(C-NT)の両方が対照として示さ
れる。
5. 発明の詳細な説明
本発明は、NT−4遺伝子及びタンパク質を提供する。それは、少なくとも部
分的に、NT−4遺伝子のクローニング、特徴付け、及び発現を基礎としている
。
特に、本発明は、NT−4をコードする組み換え核酸分子を提供する。かかる
分子は、クサリヘビについて図1(配列番号:1)に、ツメガエルNT−4につ
いて図1(配列番号:2)、図4(配列番号:43)又は図8(配列番号:49
)に、ラットNT−4について図14(配列番号:61)に、ヒトNT−4につ
いて図15(配列番号:63)、図17(配列番号:69)又は図18(配列番
号:75)に、ヒトNT−4様配列について図20(配列番号:93)及び図2
1(配列番号:116)に実質的に記載された配列、又はかかる配列のいずれか
に対して少なくとも約70%相同性である配列を含む。ここで、相同性とは配列
同一性をいう(例えば、第2配列に対して70%相同性である配列は、該第2配
列と同じヌクレオチド残基を70%共有する)。
本明細書の実施例第8節及び図15(配列番号:63、配列番号:64)で詳
述する本発明の特有の局面においては、ヒトニューロトロフィン分子の一部につ
いてのヌクレオチド及びアミノ酸配列を決定している。本明細書の実施例第9節
及び図17(配列番号:69、配列番号:70)及び図18(配列番号:75、
配列番号:76)で詳述する本発明の他の局面においては、完全なヒトニューロ
トロフィン分子についてのヌクレオチド及びアミノ酸配列を決定している。本明
細書の実施例第9節及び図20(配列番号:93、配列番号:94)及び図21
(配列番号:116、
配列番号:117)で詳述する本発明の他の局面においては、図18(配列番号
:75)に記載したヌクレオチド及びアミノ酸配列に類似するが同一ではないヒ
トゲノミックファージクローン、2−1及び4−2それぞれの一部についてのヌ
クレオチド及びアミノ酸配列を詳述している。かかるヒトニューロトロフィン分
子を本明細書ではヒトニューロトロフィン−4というが、本明細書に記載したツ
メガエルニューロトロフィン−4のヒト相同体であっても、又は、異なるが依然
として相同なニューロトロフィン分子であってもよい。同様に、本明細書でラッ
トNT−4という分子は、NT−4のラット相同体であっても、又は、異なるが
依然として相同なニューロトロフィン分子であってもよい。本発明の方法及び組
成物は、如何なる単一の命名法にも依存しない。
本発明は、また、実質的に精製されたNT−4タンパク質又はペプチド分子も
提供する。かかる分子は、NT−4について図2(配列番号:1及び配列番号:
2)、図4(配列番号:44)、図8(配列番号:50)、図14(配列番号:
62)、図15(配列番号:64)、図17(配列番号:70)、図18(配列
番号:76)、図20(配列番号:94)及び図21(配列番号:117)に実
質的に記載された配列、又はかかる配列のいずれかに対して少なくとも約70%
相同性である配列を含む。本発明の追加の限定的ではない具体的態様においては
、実質的に精製されたタンパク質又はペプチドは、配列KCNPSGTTR(配
列番号:96)を含む。本発明の他の態様においては、実質的に精製されたペプ
チド又はタンパク質は、配列RGCRGVD(配列番号:97)を含む。本発明
のなおも他の態様においては、実質
的に精製されたペプチド又はタンパク質は、配列KQWIS(配列番号:98)
を含む。本発明の更なる態様においては、実質的に精製されたペプチド又はタン
パク質は、配列KQSYVR(配列番号:99)を含む。本発明のなおも他の態
様においては、実質的に精製されたペプチド又はタンパク質は、配列GPGXG
GG(配列番号:100)(Xは一揃いの20アミノ酸の1つを表す)を含む。
本発明に関連する態様においては、実質的に精製されたペプチド又はタンパク質
は、配列GPGVGGG(配列番号:101)又はGPGAGGG(配列番号:
102)を含む。本発明の更なる態様においては、実質的に精製されたペプチド
又はタンパク質は、配列ESAGE(配列番号:103)を含む。本発明のなお
更なる態様においては、実質的に精製されたペプチド又はタンパク質は、配列D
NAEE(配列番号:104)を含む。
本発明のタンパク質及びペプチドは、標準的な技術を使用する化学合成によっ
て製造しても、1990年8月29日に出願されWO91/03569として公
表され、参照によりそっくりそのまま本明細書に取り込まれる、PCT出願PC
T/US90/04916に記載された如き、又はCOS細胞内での一過性発現
について以下に例示した如き(以下の第6.2.4.節及び図5を参照のこと)、当業
者に既知の原核又は真核発現系を使用し、NT−4をコードする本発明の核酸分
子を使用して製造してもよい。
本発明は、また、神経系の細胞、特に、限定するものではないが背根神経節又
は神経板誘導体の細胞の成育及び/又は生存を促進するNT−4の用途も提供す
る(例えば、以下の第6.2.4.節及び図6を参照のこと)。
本発明は、また、NT−4について図1、2、4、8、14、15、17、1
8、20又は21(先に挙げた配列番号)に実質的に記載した、実質的に同じ大
きさのBDNF、NGF、又はNT−3のタンパク質と同一ではないNT−4核
酸又はアミノ酸配列の一部分も提供する。
本発明は、更に、NT−4をコードする組み換え核酸を含有しかつ組み換えN
T−4タンパク質を発現する真核又は原核細胞を提供する。具体的態様において
は、該細胞はCOS細胞の如き真核細胞である。従って、本発明はNT−4をコ
ードする組み換え核酸を(例えば、形質移入、形質導入、エレクトロポレーショ
ン、顕微注射等により)細胞内に挿入することにより、NT−4の発現とそれに
次ぐ該細胞からのNT−4の単離を可能にする条件下で、製造される組み換えN
T−4タンパク質又はペプチドをも提供する。
更に、本発明は、例えば、プライマーとして以下のオリゴヌクレオチド:
ヒトNT−4のための
と
及び
ラットNT−4のための
と
を使用し、鋳型として適当なゲノミック又はcDNAを使用するPCRにより製
造される分子を提供する。本発明の具体的態様においては、これらプライマーを
、鋳型としてのヒトcDNAと共に使用して、クローニングに適したヒトNT−
4遺伝子の断片を製造してもよい。
NT−4に関連する誘導体、類縁体及びペプチドの製造及び用途が意図されて
おり、本発明の範囲内にある。望ましい神経栄養活性、免疫原性又は抗原性を有
するかかる誘導体、類縁体又はペプチドは、例えば、治療に、又は免疫測定法に
おいて、例えば、免疫感作等に使用することができる。NT−4に関連する誘導
体、類縁体又はペプチドは、当該技術分野で既知の操作により望ましい活性につ
いて試験することができる。
本発明のNT−4関連誘導体、類縁体及びペプチドは、当該技術分野で既知の
種々の方法で製造することができる。それらの製造に帰着する操作は、その遺伝
子又はタンパク質レベルで存在し得る。例えば、クローン化されたNT−4遺伝
子を当該技術分野で既知の多数の戦略のいずれかにより修飾することができる(
マニアチス(Maniatis,T.),1982,Molecular Cloning,A Laboratory Manual
,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York)。NT−
4配列は、適当な部位において制限エンドヌクレアーゼで切断した後、所望によ
り更に酵素的修飾を行い、単離し、そしてin vitroで連結することができる。N
T−4に関連する誘導体、類縁体又はペプチドをコードする遺伝子の作製におい
ては、該修飾遺伝子が、望ましいNT−4特異的活性がコードされる遺伝子領域
内の、翻訳停止シグナルにより中断さ
れていない、NT−4と同じ翻訳リーディングフレーム内に確実に残るように注
意しなければならない。
更に、NT−4遺伝子をin vitro又はin vivoで突然変異させて、翻訳、開始
、及び/又は停止配列を作り出し及び/又は破壊し、又はコード領域において変
異を作り出し及び/又は新たな制限エンドヌクレアーゼ部位を形成するか又は先
在するものを破壊して更なるin vitro修飾を助長してもよい。当該技術分野で既
知のあらゆる突然変異誘発のための技術を使用することができ、in vitro部位指
定(site-directed)突然変異誘発法(フッチンソン(Hutchinson,C.)ら,197
8,J.Biol.Chem.253:6551)、
定されない。
以下に議論するように、NT−4のプレプロ又は成熟コード領域を利用してニ
ューロトロフィンをベースとするキメラ遺伝子を構築してもよい。例えば、NG
F、BDNF及びNT−3を含むがそれらに限定されないニューロトロフィン遺
伝子は、ニューロトロフィンプレプロ/NT−4成熟コード領域キメラ遺伝子の
構築のためのプレプロ領域を供給することができる。
NT−4配列の操作は、タンパク質レベルでも行うことができる。あらゆる多
数の化学的修飾を既知の技術により行うことができ、臭化シアン、トリプシン、
キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、NaBH4、アセチル化、ホル
ミル化、酸化、還元、ツニカマイシン存在下での代謝合成等による特異的化学開
裂を含むがそれらに限定されない。
更に、NT−4に関連する類縁体及びペプチドは化学的に合成
することができる。例えば、望ましい神経栄養活性を媒介するNT−4の一部分
に対応するペプチドは、ペプチド合成装置を使用して合成することができる。
本発明は、更に、卵巣/卵母細胞機能障害に関連する受胎障害を治療する方法
を提供する。以下の実施例、特に第7節に示すように、NT−4は卵母細胞の成
熟に関与している。第7.3節の議論では、NT−4が卵母細胞によって産生され
、成熟卵母細胞よりむしろ未成熟卵母細胞に濃厚に存在し、そして卵子形成にお
いてある役割を担っているらしいことを実証する。卵巣におけるNT−4タンパ
ク質の推定上の機能は、前卵黄形成及び初期/中期卵黄形成卵母細胞において起
こる事象と結び付いているようである。
BDNF/NGF/NT−3遺伝子ファミリー、特にNGFの他のメンバーは
減数成熟(meiotic maturation)に関与している(ネブラダ(Nebrada)ら,199
1,Science,252:558-563)。NT−4はNGFと類似の性質を示す(以下の第
6節を参照のこと)ので、卵母細胞発達の調節に関与する因子として使用するこ
とができる。NT−4のこれらの性質は、受胎障害及び/又は卵子形成に関連す
る他の卵巣機能障害を治療する方法を提供するのに利用することができる。
従って、本発明によれば、製剤上効果のある担体中の治療的有効量のNT−4
又はNT−4関連ペプチドを投与することを含む、不妊障害及び/又は他の卵巣
機能障害を治療する方法が提供される。治療的有効量とは、卵母細胞の適度な成
熟及び/又は排卵を誘発する量である。例えば、治療的有効投与量は、約1〜1
00
×10-10Mの濃度でNT−4の循環血清レベルを維持するのに十分な量であっ
てもよい。追加の有効投与量を確立することは当業者の日常活動の範囲内である
。
適当な製剤上の担体中に配合されるNT−4又はNT−4関連ペプチドの有効
投与量は、注射(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下等)、上皮又は粘膜ラ
イニング(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜等)を介する吸収等を含むがそれ
に限定されないあらゆる適当な経路により投与することができる。
更に、NT−4又はNT−4ペプチドはあらゆる適当な製剤上の担体中で使用
することができ、あるキャリアー又は標的指向性分子(例えば、抗体、ホルモン
、成長因子等)と組み合わせても、及び/又はin vivoで投与前にリポソーム、
マイクロカプセル、及び除放製剤の中に封入してもよい。
それぞれの哺乳動物NT−4DNA配列を32Pラベル化プローブとして使用し
て、以下の第8節の、原料と方法の部分に概説した操作によりそれぞれのゲノミ
ック及びcDNAクローンを単離することができる。ラットNT−4及びヒトN
T−4遺伝子断片を(32Pラベル化プローブとして)直接に又は(以下に記載し
たようなPCRストラテジーを推論するために)間接に利用して、rNT−4及
びhNT−4コード領域における7アミノ酸挿入の特有な性質、又はラット又は
ヒトNT−4コード領域の他の特有な側面に基づき、他の哺乳動物NT−4ゲノ
ミック及びcDNAクローンを単離することができる。
ラット及びヒトNT−4配列により開示された情報を介して単離されるあらゆ
る哺乳動物NT−4遺伝子を、限定するものでは
ないが、ツメガエルNT−4について議論する種々の操作に利用することができ
る。例えば、実施例第9節において議論する完全長遺伝子の特徴付けに続く哺乳
動物NT−4のタンパク質及びペプチドは、1990年8月29日に出願されW
O91/03569として公表されたPCT出願PCT/US90/04916
に記載された如き、又はCOS細胞内での一過性発現について以下に例示した如
き(先の第6.2.4.節及び図5を参照のこと)、当業者に既知の原核又は真核発現
系においてそれぞれの哺乳動物NT−4分子を使用して産生することができる。
ツメガエルNT−4について以下に記載したように、哺乳動物NT−4について
の追加の機能は、神経系の細胞、特に、限定するものではないが背根神経節又は
神経板誘導体の細胞の成育及び/又は生存の促進(例えば、第6.2.4.節及び図6
を参照のこと)、卵巣/卵母細胞機能障害に関連する不妊障害の治療(第7節を
参照のこと)、卵子形成に伴う不妊障害及び/又は他の卵巣機能障害の治療(第
6節を参照のこと)、運動ニューロン障害の治療(第10節を参照のこと)、良
性前立腺肥大の如き上皮過形成の治療(第10節を参照のこと)、前立腺機能に
関連するインポテンスの治療(第10節を参照のこと)を含むが、それらに限定
されない。従って、医薬組成物を提供するために適当な製剤上の担体中に配合さ
れた前記障害の治療のための哺乳動物NT−4の治療的有効量を、注射(例えば
、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下等)、上皮又は粘膜ライニング(例えば、口腔
粘膜、直腸及び腸粘膜等)を介する吸収等を含むがそれに限定されないあらゆる
適当な経路により投与することができる。
更に、ラット、ヒト又は他の哺乳動物NT−4又はNT−4ペプチドはあらゆ
る適当な製剤上の担体中で使用することができ、あるキャリアー又は標的指向性
分子(例えば、抗体、ホルモン、成長因子等)と組み合わせても、及び/又はin
vivoで投与前にリポソーム、マイクロカプセル、及び除放製剤の中に封入して
もよい。
更に、NT−4をコードする核酸及びタンパク質、ペプチド断片、又はそれら
から作られる誘導体、並びにNT−4タンパク質、ペプチド、又は誘導体に対し
て向けられた抗体に関する本発明は、NT−4発現のパターンの変化と関連して
いる神経系の疾患及び障害の進行状況を診断又は監視するのに使用できる。かか
る変化は、正常人における、好ましくは患者から採取した他のサンプルにおける
、又はより早い時期に同じ患者から採取したサンプルにおける変化と比較した減
少又は増加であってもよい。
本発明の種々の態様においては、NT−4遺伝子及び相補的配列を含む関連核
酸配列及びサブ配列を診断ハイブリダイゼーション測定法に使用することができ
る。NT−4核酸配列又は約15ヌクレオチドを含むそのサブ配列をハイブリダ
イゼーションプローブとして使用することができる。ハイブリダイゼーション測
定法は、NT−4レベルの変化と関連している症状、障害、又は病状を探り当て
、予測し、診断し又は監視するのに使用できる。例えば、実施例第10節に示さ
れたデータは、骨格筋並びに前立腺、胸腺及び精巣におけるヒトNT−4の組織
特異的発現を明らかにしている。該筋肉組織におけるヒトNT−4発現のレベル
はニューロン退化の存在又は不存在の指標となり得る。従って、患者
の組織サンプルからのポリ(A)+mRNA又は全RNAを骨格筋組織内のヒト
NT−4mRNAの存在について分析することができるだろう。更に、実施例第
10節に示したデータは、ヒト前立腺におけるNT−4の組織特異的発現を明ら
かにしている。NT−4をコードするDNA配列又はその一部分、並びにNT−
4タンパク質又はペプチドは、前立腺疾患を治療する治療剤として有用であり得
る。
類似の方法において、診断測定法は免疫測定法であってもよい。かくして、N
T−4レベルの変化と関連している症状、障害、又は病的状態を探り当て、予測
し、診断し又は監視するために、抗体を免疫測定法に使用して患者からのサンプ
ル中のNT−4のレベルを定量することができる。
使用できる免疫測定法は、いくつかの例を挙げると、放射性免疫測定法、エリ
ザ(酵素結合免疫吸着測定法)、“サンドイッチ”免疫測定法、沈降反応、ゲル
拡散沈降反応、免疫拡散測定法、凝集測定法、補体結合測定法、免疫ラジオメト
リック測定法、蛍光免疫測定法、プロテインA免疫測定法、及び免疫電気泳動測
定法の如き技術を使用する競合的及び非競合的測定システムを含む。なお、それ
らに限定されるものではない。
結合ドメインを含有する抗NT−4抗体断片又は誘導体もかかる測定法におい
て使用できる。
該分子のイディオタイプを含有する抗体断片は既知の技術により生成すること
ができる。例えば、かかる断片は、その抗体分子のペプシン消化によって生成し
得るF(ab')2断片;その抗体分子のジスルフィド橋を還元することにより生
成し得るFab’
断片及びその抗体分子をパパイン及び還元剤で処理することにより生成し得るF
ab断片を含む。なお、それらに限定されるものではない。
診断キットも提供される。例えば、そのようなキットは適当な容器の中にNT
−4特異性プローブを含んでもよい。1つの態様においては、該プローブはNT
−4に特異的な抗体である。他の態様においては、該プローブはNT−4核酸配
列にハイブリダイズできる核酸(分子プローブ)である。該プローブは検出でき
るようにラベル化されていてもよく;また、該キットは更に該プローブのラベル
化された特異的結合パートナーを含んでもよい。
上記ハイブリダイゼーション測定法及び免疫測定法は、また、障害、特に運動
ニューロン疾患の治療前後の患者サンプルにおけるNT−4レベルを比較するこ
とによる、治療効力の指標としてNT−4レベルを定量するのに使用してもよい
。
類似の様式においては、筋肉組織におけるヒトNT−4mRNAの発現は、治
療を必要とする患者に有効量のNT−4因子を投与して運動ニューロンの生存、
成育、及び/又は分化を助けることを含む、運動ニューロン障害を治療し得る方
法をもたらす。ヒト筋肉内でのNT−4mRNAの発現は、ニューロン障害を診
断及び治療するための更なる方法を提起する。逆行軸索輸送(retrograde axona
l transport)はNT−4に特有のものであり得る。NT−4の特異的逆行輸送
は、ニューロンが正常な又は病的な状態のいずれにおいてNT−4に応答してい
るかを示すのに使用することができる。従って、本発明は、検出できるようにラ
ベル化したNT−4タンパク質又はペプチドを末梢神経の中に注射して、
該ラベル化したNT−4タンパク質又はペプチドが逆行して輸送されるかどうか
を確認することを含み、この際、逆行して輸送されないことが、NT−4への応
答性の欠如と正の相関関係を有し、NT−4に関連する末梢神経系障害の存在を
示すものである、NT−4関連末梢神経系障害を診断する方法を提供する。中枢
神経系障害を診断するのに類似の方法を使用することができる。逆行輸送の評価
は、MRI、CAT、又はシンチレーション走査を含むがそれらに限定されない
当該技術分野で既知のあらゆる方法によって行うことができる。かかる方法は、
逆行輸送が神経系の病巣に到達する際に実質的に減少する筈なので、該病巣の位
置を特定するのに使用できる。
本発明は、更に、検出できるようにラベル化したNT−4タンパク質、誘導体
又は断片を容器中に含む、かかる逆行輸送の評価のためのキットを提供する。か
かるラベルは放射性同位体又は当該技術分野で既知の他のラベルであってもよい
。
本発明は、NT−4発現のパターンの変化と関連し得る又はNT−4若しくは
抗NT−4抗体(又は結合ドメインを含有するその断片)への暴露から利益を受
け得る神経系の疾患及び障害を治療するのに利用できる。我々は、ヒトNT−4
が骨格筋内で発現されることを示す(以下の実施例第10節を参照のこと)。こ
の発見に基づいて、本発明は運動ニューロン疾患の治療法を提供する。多くの神
経系障害は運動ニューロンに悪影響を及ぼす。例えば、上位運動ニューロンは主
に脳血管の偶発的障害、悪性腫瘍、感染症及び外傷により悪影響を受ける。下位
運動ニューロン、又は前角細胞、はこれら作用により副次的に悪影響を受けるが
、更
に、前角細胞損失が一次的な特徴であって、筋萎縮性側索硬化症、乳児性及び若
年性脊髄性筋萎縮症、ポリオ及びポリオ後症候群、遺伝性運動及び感覚神経疾患
、及び中毒性運動神経疾患(例えば、ビンクリスチン)を含む幾つかの障害を受
ける。本発明により治療できる運動ニューロンの障害は、前述の障害を含むがそ
れらに限定されない。使用できるNT−4タンパク質、誘導体、断片、又はそれ
らに対する抗体の配合及び投与方法は、先に開示したもの又は当該技術分野で既
知のものを含むがそれらに限定されない。
本発明は、また、殆どが50才を越える男性に発生する未だよく理解されてい
ない共通の症状である、良性前立腺肥大(BPH)の治療にも利用できる。BP
Hにおける前立腺の増殖は、オートクリンループ現象を介してNT−4の如き成
長因子により誘発され得る。NT−4の合成及び排出の後に、前立腺細胞膜上の
特異的レセプターを介してNT−4が前立腺細胞の中へ逆戻りに輸送されるので
あろう。オートクリンループは、種々の成長因子分子及び腫瘍セルラインについ
て定義されてきた。幾つかの場合には、これらオートクリンループは、該オート
クリンループの分断のためのアンチセンス・アプローチを使用することによって
実験的に定義されてきた。従って、本発明の治療的応用は、前立腺内でのNT−
4mRNAの翻訳を阻害するために、ヒトNT−4に対してアンチセンスである
核酸又はその一部分を使用することを含む(使用できる操作については、199
1年7月3日に出願され、参照によってそっくりそのままここに取り込まれる係
属中の米国特許出願第07/728,784号を参照のこと)。例えば、正常人
の前立腺におけるNT−4遺伝子の転写レベルと比較して、前
立腺組織におけるNT−4遺伝子の増加した転写により特徴付けられる前立腺局
在疾患を患っている患者に有効量のオリゴヌクレオチドを投与して、前立腺疾患
、好ましくは良性前立腺肥大を治療することができる。該オリゴヌクレオチドは
、少なくとも6ヌクレオチド長で、NT−4遺伝子のRNA転写体の少なくとも
一部分と相補的であるべきであり、このことから、該NT−4転写体にハイブリ
ダイズできるべきである。更に、前立腺細胞膜上のNT−4の特異的レセプター
へのNT−4の結合を阻害するために、抗NT−4抗体を使用してもよい。NT
−4アンチセンス核酸又は抗NT−4抗体のいずれかの治療的有効量は、先に記
載したあらゆる様式で送達することができる。
本発明は、また、他の前立腺関連機能障害、具体的にはインポテンスを治療す
るのに利用することができる。かかる慢性病は前立腺におけるNT−4のレベル
が適度でないことの直接又は間接の結果であり得る。従って、該機能障害の感知
並びに治療的に有効量のNT−4タンパク質又はNT−4の機能断片又は誘導体
の適用を介する患者のインポテンスの治療の両方が、先に記載したいずれかの方
法により可能になる。
本発明は、ヒト胸腺組織におけるNT−4発現の検出を開示している。従って
、本発明は、神経筋接合部におけるシナプス後部のヒダの中にあるアセチルコリ
ンレセプター(AChR)に関連する重症筋無力症、後天性自己免疫障害を含む
がそれらに限定されない、神経筋伝達に悪影響を及ぼす免疫障害の治療にも利用
できる。該疾患は、AChRに対して特異的な抗体の結合によるシナプス後部A
ChR又は筋肉膜の遮断による衰弱及び筋肉疲労と
して現れる。(例えば、ドラックマン(Drachman),1983,Trends Neurosci.6
:446-451を参照のこと)。かかる免疫媒介神経障害の治療は、先に記載したい
ずれかの方法により送達される、NT−4タンパク質又は機能断片又はNT−4
の誘導体の治療的適用を含む。
本発明は、治療を必要とする患者に、in vitro培養系において証明された、運
動ニューロンの生存、成育及び/又は分化を助けることのできる、有効量のNT
−4タンパク質、誘導体又はペプチド断片を投与することを含む、運動ニューロ
ン障害を治療する方法を提供する。
in vitro態様においては、異なる組織供給源からの又は異なる種からの運動ニ
ューロンが神経栄養因子に対する異なる感受性を示し得るので、神経栄養因子の
有効量はその場その場の基準に基づいて決定するのが望ましい。幾つかの個々の
培養においては、神経栄養因子濃度及び運動ニューロン応答を相互に関連付ける
投与量応答曲線を作るのが望ましいといえる。運動ニューロンの生存、成育及び
/又は分化を評価するために、例えば、生存を評価するための生体色素、位相差
顕微鏡及び/又は神経突起形成を測定するための神経フィラメント染色、又はコ
リンアセチルトランスフェラーゼ(CAT)の如き運動ニューロン結合化合物の
生物活性を測定する技術、又は当該技術分野で既知のあらゆる他の方法を使用し
て、NT−4タンパク質、誘導体又はペプチド断片に曝された運動ニューロンを
NT−4タンパク質、誘導体又はペプチド断片に曝されていない運動ニューロン
と比較することができる。CAT活性は、例えば、約0.1%トリトンX−100
を含有
する20mMトリス−HCl(pH8.6)溶液中に処理及び未処理運動ニューロ
ンを採取及び溶解し、数マイクロリッターのアリコートを分離し、そして、基質
として0.2ml〔1−γC〕アセチル−CoA、300mM NaCl、8mM
臭化コリン、20mM EDTA、及び50mM NaH2PO4(pH7.4)緩衝
液中の0.1mMネオスチグミンを使用し、参照によりそっくりそのまま本明細書
に組み込まれるフォンナム(Fonnum),1975,J.Neurochem.24:407-409に記
載されたマイクロ−フォンナム操作を使用して、CAT活性について測定するこ
とにより、測定される。
本発明の具体的な非限定的態様においては、運動ニューロンを次のようにして
調製し、in vitroで培養することができる。好ましくはラットの如き胚生生体か
ら得られた脊髄の少なくとも一部分を無菌状態で入手し、延髄、知覚神経節、及
び付着髄膜から分離する。次いで、運動ニューロンは脊髄の腹角(前角)に局在
しているので、脊髄の腹側セグメントを単離する。腹索セグメントを小片に切り
、カルシウム及びマグネシウム不含食塩加リン酸緩衝液(PBS)中の約0.1%
トリプシン及び0.01%デオキシリボヌクレアーゼ・タイプ1中で37℃で約20
分間インキュベートする。次いで、該トリプシン溶液を除去し、45%イーグル
最小必須培地(MEM)、45%ハム栄養混合物F12、5%熱不活化ウシ胎児
血清、5%熱不活化ウマ血清、グルタミン(2mM)、ペニシリンG(0.5U/
ml)、及びストレプトマイシン(0.5μg/ml)の如き新しい培地中で細胞
を濯いで配置する。パスツールピペットを通して穏やかに粉砕することにより該
組織を機
械的に解離させ、そして上澄み液をプールしてナイロンフィルター(例えば、ニ
テックス(Nitex,Tetko);40μm)で濾過する。次いで、濾過した細胞懸濁
液をシュナール(Schnaar)及びシャフナー(Schaffner)(1981,J.Neurosci
.1: 204-217)に記載された方法の変法を使用して分画する。全ての工程は4℃
で行われるのが望ましい。メトリザミドをF12:MEM培地(1:1)に溶解
し、18%メトリザミドクッション(例えば、0.5ml)、3mlの17%メト
リザミド、3mlの12%メトリザミド、及び3mlの8%メトリザミドからな
る不連続勾配を設ける。濾過した細胞懸濁液(例えば、2.5ml)を該段階勾配
上に重層して該試験管をスウィング・アウト・ローター(例えば、ソーバル(So
rvall)HB4)を使用して2500gで約15分間遠心分離する。遠心分離は
細胞が3層になるようにする:画分I(界面0〜8%)、画分II(界面8〜12
%)及び画分III(界面12〜17%)。運動ニューロンが豊富な画分Iを少容
量(例えば、約1ml)に分け、グルタミン(2mM)、インシュリン(5μg
/ml)、トランスフェリン(100μg/ml)、プロゲステロン(20nM
)、プトレッシン(100μM)、及び亜セレン酸ナトリウム(30nM、ボッ
テンシュタイン(Bottenstein)及びサトウ,1979,Proc.Natl.Acad.Sci.U.
S.A.76:514-517を参照のこと)を補充した50%F12及び50%MEMの如
き無血清規定培地で2回濯ぐ。次いで、トリパンブルー存在下での血球計計数に
より生細胞数を得る。次いで、該運動ニューロン富化細胞懸濁液を、ポリL−オ
ルニチン(例えば、10μg/ml)及びラミニン(例えば、10μg/ml)
で予備被覆した組織培
養ウェル(好ましくは6mm)に約100,000細胞/cm2の密度でプレー
トする。次いで、NT−4タンパク質、誘導体又はペプチド因子を加える。例え
ば、具体的態様においては、約0.01−100ng/m、好ましくは約50n
g/mlの最終濃度になるようにNT−4を加える。次いで、該運動ニューロン
培養物を無血清規定培地中に37℃で95%空気/5%CO2雰囲気中にほぼ1
00%の相対湿度で維持する。
本発明の更なる態様においては、バクテリオファージHG7−2、HG4−2
及び/又はHG2−1内に含有される如きNT−4関連組み換え核酸配列をキメ
ラプレプロ/成熟NT−4遺伝子を構築するのに利用することができる。例えば
、in vivo又はin vitroで成熟NT−4タンパク質、誘導体又はペプチド断片を
発現することが望まれるときは、別の神経栄養遺伝子のプレプロ領域をNT−4
関連配列の成熟コード領域に融合させることができる。プレプロ領域を供給する
ことのできる神経栄養遺伝子は、NGF、BDNF、及びNT−3を含むがそれ
らに限定されない。かかるキメラ構築体は、野生型NT−4mRNA転写体に比
べてキメラmRNA転写体の安定性の増加を促進できるか、翻訳効率を向上でき
るか、又は生物学的に活性な成熟ニューロトロフィンタンパク質若しくはペプチ
ド断片へのタンパク質分解プロセシングのためにより適当な鋳型を生成できるの
で、発現を増加することができる。当業者は、NGF(スコット(Scott)ら,1
983,Nature 302: 538-540;ウルリッヒ(Ullrich)ら,1983,Nature 303: 821-
825)、BDNF(ライブロック(Leibrock)ら,1989,Nature 341: 149-152)
及びNT−3(ホーン(Hohn)ら,1990,
Nature 344: 339-341;マイソンピエルス(Maisonpierrs)ら,1990,Science 2 47:
1446-1451;エルンフォース(Ernfors)ら,1990,Proc.Natl.Acad.Sci
.USA 87:5454-5458;ローゼンタール(Rosenthal)ら,1990,Neuron 4: 767-
773)の如き他のニューロトロフィン遺伝子の公表されたDNA配列、並びに融
合接合部を生成するための戦略についてのガイダンス(例えば、ダーリング(Da
rling)ら,1983,Cold Spring Harbor Symposium Quantative Biology 48:427
-434;エドワーズ(Edwards)ら,1988,J.Biol.Chem.263: 6810-6815;スー
ター(Suter)ら,1991,EMBO J.10:2395-2400)を与えられれば、かかるキメ
ラ核酸配列を構築するのに必要な知識を有している。他の態様においては、バク
テリオファージHG7−2、HG4−2及びHG2−1内に含有される如きNT
−4関連組み換え核酸のプレプロ領域を他のニューロトロフィンの成熟領域と融
合するキメラ構築も、先に議論したように、かかる他のニューロトロフィンの効
率的な発現を促進するのに使用できる。
本発明は、また、NT−4活性を検出又は測定する方法も提供する。実施例1
2に記載したように、trkBがNT−4のための機能的レセプターであること
を見出した。この発見に基づいて、本発明は、trkBを発現する細胞を試験物
質に曝し、そして、trkBへの該試験物質の結合を検出及び測定することを含
み、その際、trkBへの特異的結合が試験物質におけるNT−4活性と正の相
関関係にある、NT−4活性を検出又は測定する方法を提供する。具体的態様に
おいては、trkBを発現する細胞は、組み換えtrkBを発現する3T3線維
芽細胞の如き形質移入さ
れた細胞であるので、該細胞の生存はニューロトロフィン−4又はBDNFへの
暴露に依存する。かくして、試験物質の結合の検出は、かかる形質移入細胞の生
存を観察することによって行うことができる。
6.実施例:神経成長因子ファミリーの進化論的研究はツメガエルの卵巣において豊富に発現される新しいメンバーを明らかにする
6.1. 原料及び方法
6.1.1. DNA調製
標準的操作(ディビス(Davis)ら,1986,“Basic Methods InMolecular Bio
logy”,Elsevier,New York)により、ヒト白血球から及びSDラット、カエル
(アフリカツメガエル)及びエイ(Raja clavata)の肝臓からゲノミックDNA
を単離した。サケ(サケ)から及びクサリヘビ(Vipera lebetina)からもゲノ
ミックDNAを得た。該DNAをエタノールで沈澱させ、ガラスフックを使用し
て集め、80%エタノールで洗浄し、乾燥して、最終濃度が1mg/mlになる
ように水中に溶解させた。サケDNA(シグマ,St.Louis,MO)を水に溶解さ
せ、フェノールで2回及びクロロホルムで1回抽出し、そして、エタノールで沈
澱させた。
6.1.2. ポリメラーゼ連鎖反応、分子クローニング及びDNA配列決定
アミノ酸配列KQYFYET(配列番号:110)(5’−オリゴヌクレオチ
ド)及びWRFIRID(配列番号:111)(3’−オリゴヌクレオチド)(
図1A)に対応する全ての可能な
コドンを表す28−merオリゴヌクレオチドの6つの別々の混合物をアプライ
ド・バイオシステムA381DNA合成装置で合成した。該5’−オリゴヌクレ
オチドは合成EcoRI部位を含有し、該3’−オリゴヌクレオチドは合成Hi
ndIII部位を含有した(クノス(Knoth)ら,1988,Nucl.Acids.Res.16:10
93;ヌンベルグ(Nunberg)ら,1989,J.Virology 63:3240-3249)。次いで、
オリゴヌクレオチドのそれぞれの混合物を使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(P
CR)を使用して0.8μgのゲノミックDNAの増幅を開始した(Taq DN
Aポリメラーゼ、プロメガ(Promega))(サイキ(Saiki)ら,1985,Science 230
:1350-1354)。該PCR生成物をHindIII及びEcoRIで制限し、2
%アガロースゲル上で分析してプラスミドBluescript KS+(スト
ラタジェン(Stratagene),La Jolla,CA)の中にクローン化した。該増幅領域
+プライマーの大きさは、NGFについては179塩基対(bp)でBDNF及
びNT−3については182塩基対である。幾つかの場合においては内部Eco
RI部位の結果として、144bp及び95bpのより短い断片も単離された。
該クローン化したDNA断片をT7DNAポリメラーゼ(ファルマシア,Uppsal
a)でのジデオキシヌクレオチド連鎖停止法(サンガーら,1977,Proc.Natl.A
cad.Sci.U.S.A.74:5463-5457)を使用して配列決定した。2〜20の独立ク
ローンはそれぞれの遺伝子及び種について配列決定し、200を越える独立クロ
ーンは全体で配列決定した。
ファージλEMBL−3のBamHI部位におけるMbol消化ゲノミックD
NAの挿入により調製したツメガエルゲノミック
ライブラリーからの約2,000,000クローンを、約5×108cpm/μg
の比活性までニックトランスレーションにより〔α−32P〕dCTPでラベルし
たツメガエルNT−4の182bpPCR断片での慣用操作を使用してスクリー
ニングした。4×SSC(1×SSCは150mM NaCl、15mMクエン
酸ナトリウム(pH7.0))、40%ホルムアミド、1×デンハルツ溶液、10
%デキストラン硫酸中、42℃でハイブリダイゼーションを行った。該フィルタ
ーを55℃で0.1×SSC、0.1%SDS中で洗浄し、−70℃でコダックXAR
−5フィルムに曝した。8個のファージクローンを単離し、これらクローンのう
ちの1つからのハイブリダイズする1.5kbのPstI断片をプラスミドpBS
−KS(ストラタジェン)の中にサブクローン化した。該サブクローン化した断
片のヌクレオチド配列をジデオキシ連鎖停止法(サンガーら,1977,Proc.Natl
.Acad.Sci.U.S.A.74:5463-5457)により決定した。
6.1.3. 配列データのコンピューター解析
表Iに示したDNA及びアミノ酸配列の比較及び整列化は、UWGCGソフト
ウェアーを使用したVAXコンピューターで行った(デベレウクス(Devereux)
ら,1984,Nucl.Acids Res.72:387-395)。UWGCGプログラムを使用した
アミノ酸配列の比較の結果は、保存アミノ酸の変化を考慮に入れて、配列間のア
ミノ酸類似性又はヌクレオチド同一性の%として出した(グリブスコフ(Gribsk
ov)及びバーゲス(Burgess),1986,Nucl.Acids Res.14:6745-6763;シュ
ワルツ(Schwartz)及びデイホフ(Dayhoff),1979,“An Atlas of Protein Se
quence and Structure”,ed.,
Natl.Biomed.Res.Found.,Washington D.C.,pp.353-358)。フィログラム(
phylogram)構築のためにパルシモニー(Parsimony)(PAUP版3.0f)を
使用した進化系統的解析を使用した(フェルセンシュタイン(Felsenstein),1
988;Annu.Rev.Gene.22:521-555;スオフォード(Swofford)及びオルセン
(Olsen),1990,“Molecular Systematics,”Hills and Moritz,Eds.,Sunde
rland,MA.,Sinaver Assoc.,Inc.pp.441-501)。徹底的かつ発見的(分岐交
換法(branch swapping))アルゴリズムを使用して、最も蓋然性の高い進化系
統樹について調査した。
6.1.4. 組み換えタンパク質の産生、PC12細胞への結合分析、及び神経栄養活性の分析
COS細胞内での組み換えタンパク質の一過性発現のために、適当なDNA断
片をベクターpXM内でクローン化した(ヤング(Yang)ら,1986,Cell 47:3
-10)。NT−4については、ツメガエルからの配列決定した1.5kbのPst
I断片をpXM内にクローン化し、NGFについては、ラットNGF遺伝子の3
’エキソンからの771bpのBstEII−PstI断片を使用した(ハルブッ
ク(Halbook)ら,1988,Development 108: 693-704)。BDNFタンパク質を
発現するために、マウスBDNF遺伝子からのプレプロBDNFコード配列を含
有するPCR増幅断片(ホファー(Hofer)ら,1990,EMBO J.9: 2459-2464)
もpXM内にサブクローン化した。NT−3については、1020bpのラット
cDNAクローンをpXM内に挿入した(エルンフォースら,1990,Proc.Natl
.Acad.Sci.U.S.A.87:5454-5458)。
約70%集密度まで成育したCOS細胞(グルツマン(Gluzman)
,1981,Cell3: 175-182)を100mmディッシュ当たり25μgのプラスミド
DNAでDEAE−デキストラン−クロロキン・プロトコールを使用して形質移
入した(ルスマン(Luthman)及びマグヌソン(Magnusson),1983,Nucl.Acid
s Res.17:1295-1305)。次いで、形質移入した細胞を完全培地(DMEM+1
0%FCS)中で成育させ、形質移入後3日目に馴化培地を集めた。並行して形
質移入した培養皿(35mm)を形質移入後3夜目までかけて200μCi/m
l〔35S〕システイン(アマルシャム,UK)の存在下で成育させた。in vivoで
ラベル化した馴化培地のアリコート(各10〜20μl)を13%ポリアクリル
アミドゲル中でSDS−PAGEにより分析した。該ゲルをエンハンス(EnHanc
e)(ニューイングランド・ヌクレアー,ボストン,MA)で処理し、乾燥し、そ
して増感板を用いてコダックXAR5フィルムに24〜48時間80℃で露光し
た。島津デンシトメーターでオートラジオグラフを走査し、異なる組み換えタン
パク質の相対量を、各タンパク質に対応する面積をラットNGFで得られた面積
と比較して計算することにより見積もった。ラットNGFタンパク質の絶対量は
、精製したマウスNGFの標準品を使用した馴化培地の定量的免疫ブロット法に
より評価し、他の組み換えタンパク質を含有するサンプル中の該タンパク質濃度
を測定するのに使用した。
PC12細胞(グリーン(Greene)及びティシュラー(Tischler),1976,Pr
oc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.73:2424-2428)への組み換えタンパク質の結合分
析については、マウスNGFを125IでクロラミンT法により7×107cpm/
μgの平均活性までラベル化した。1×104細胞/ml、1.5×10-9M125
I−NGF;及び等量のNGF又はNT−4を含有する連続希釈した馴化培地を
使用して37℃又は0℃で行った競合的分析法で定常状態の結合を測定した。全
成分を同時に添加し、平衡に達した(1〜3時間のインキュベーション)後、遠
心分離により細胞を集めた。擬似形質移入COS細胞からの培地を使用した対照
実験により、該馴化培地に存在する他のタンパク質はPC12細胞への125I−
NGFの結合に関して何の作用も持たないことが明らかになった。少なくとも1
000倍過剰の未ラベル化NGFを添加した並行インキュベーションにおいて、
非特異的結合を測定した。常に全結合の10%未満であるこの非特異的結合につ
いて、全ての結果を補正した。
異なるタンパク質の生物学的活性を、等量の組み換えタンパク質を含有する形
質移入COS細胞馴化培地の、E9ニワトリ胚体から移植された交感神経結節及
び背根神経節からの神経突起成長を剌激する能力により測定した(エベンダル(
Ebendal),1984,“Organizing Principles of Neural DevelopmenC”,S.Shar
ms,ed.,New York:Plenum Publishing Corp.,pp.93-107;エベンダル,1989,
“Use of Collagen Gels to Bioassay Nerve Growth Factor Activity In Nerve
Growth Factors”,R.A.Rush,ed.(キケスター(Chichester):John Wile
y & Sons,pp.81-93)。連
続希釈した馴化培地を分析して線維の成長を計数した。
6.1.5. RNA調製及びブロット分析
成体ツメガエルのメスからの示した組織を切除して液体窒素中で凍結した。脳
及び脊髄をプールした。異なる段階の卵母細胞を含む卵巣の幾つかの裂片を切除
した。凍結した組織サンプルを4Mグアニジンイソチオシアネート、0.1Mβ
−メルカプトエタノール、0.025Mクエン酸ナトリウム(pH7.0)中でホ
モジナイズし、ポリトロン(Polytron)を用いて3回15秒間ホモジナイズした
。それぞれのホモジネートを0.025Mクエン酸ナトリウム(pH5.5)中の
5.7M CsClのクッション4ml上に重層し、ベックマンSW41ロータ
ーで、15℃、35,000rpmで76時間遠心分離した(チャーウィン(Chi
rgwin)ら,1979,Biochemistry 78:5294-5299)。ポリ(A)+RNAをオリゴ
(dT)セルロース・クロマトグラフィーにより精製し(アビブ(Aviv)及びレ
ダー(Leder),1972,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.69:1408-1412)、RN
Aブロット分析に使用する前に分光光度計でRNAの回収率を定量した。各サン
プルからのポリ(A)+RNA(10μg)を0.7%ホルムアルデヒドを含有す
る1%アガロースゲルで電気泳動した。染色したゲルのUV透視法を使用して全
てのサンプルがほぼ同量の完全なRNAを含有していることを確認した。次いで
、該ゲルをニトロセルロースフィルターに移した。該フィルターを示したDNA
プローブとハイブリダイズさせた。該プローブを〔α−32P〕dCTPでニック
トランスレーションにより約5×105cpm/μgの比活性までラベル化し、
上に記載したようにしてハイブリダイゼーションを行
った。フィルターを高ストリンジェントで洗浄し(0.1XSSC、0.1%SD
S、54℃)、コダックXAR−5フィルムに露光した。
6.2. 結果
ヒト、ラット、ヘビ、カエル及び魚からのNGF、BDNF及びNT−3をコ
ードするDNA断片を、上流プライマーについてはリシン50とトレオニン56
の間及び下流プライマーについてはトリプトファン99とアスパラギン酸105
の間に位置するこれら3つのタンパク質中の保存領域から、縮重したプライマー
でのPCR法を使用して単離した(図1A)。該増幅領域は6つのシステイン残
基のうちの3つを含有し成熟分子の約1/3に及ぶ。異なる種からの既に特徴付
けされたNGF分子内の該増幅領域の比較により、それが2つの可変領域、アル
ギニン59〜セリン67及びアスパラギン酸93〜アラニン98を含有している
ことがわかる。該分子の表面上に現れると考えられる親水性領域(ブラッドシャ
ウ(Bradshaw),1978,Ann.Rev.Biochem.47:191-216)、並びに高度に保存
された領域であるグリシン68〜トリプトファン76及びトレオニン85〜トレ
オニン91も該増幅領域に含まれている。BDNF及びNT−3分子は、該増幅
領域にも含まれているマウスNGFタンパク質の位置94と位置95の間の1つ
の余分なアミノ酸を有している。
マウスNGF、BDNF及びNT−3タンパク質の完全な成熟分子の配列を、
該増幅領域がどのようにして該完全分子を表象するかを解明するために比較した
。該完全成熟分子は、NGFとBDNFの間では65/57%類似性(アミノ酸
配列類似性/ヌク
レオチド配列同一性)、NGFとNT−3の間では70/61%類似性、そして
BDNFとNT−3の間では68/58%類似性を示す。この研究で単離された
領域を比較すると、NGFとBDNFの間の類似性は62/53%であり、NG
FとNT−3の間のそれは67/58%であり、そして、BDNFとNT−3の
間のそれは69/60%である。このことは、この研究で単離された領域はその
完全分子を表象するものであること及びそれは異なる因子間の進化論的関係をモ
ニターするのに使用できることを強く示唆している。シュワルツ及びデイホフの
比較マトリックス(1979,“An Atlas of Protein Sequence and Structure”,e
d.,Natl.Biomed.Res.Found.,Washington D.C.,pp.353-358)を使用して、
保存アミノ酸の置換を考慮に入れつつ対ごとに配列の比較を行った(表I)。従
って、以下に示しかつ表Iに示したアミノ酸配列の比較は、同一性ではなく類似
性の%を示すものである。進化系統樹をパルシモニー解析を用いて構築した(フ
ェルセンシュタイン,1988;Ann.Rev.Genet.22:521-555;スオフォード及び
オルセン,1990,“Molecular Systematics,”P.M.Hills and C.Moritz,Eds.
,Sunderland,MA.:Sinaver Assoc.,Inc.pp.441-501)。以下に示すように、
NGF、BDNF及びNT−3のアミノ酸配列に関連する推定アミノ酸配列を有
する全ての単離したDNA断片は、保存されたシステイン残基を正しい位置に含
有している。これは、神経成長因子遺伝子ファミリーのメンバーと考えられる配
列についての最初の判定基準として用いられた。
6.2.1. NGF、BDNF及びHDNF/NT−3は進化の間高度に保存されている
6.2.1.1. 神経成長因子
NGFをコードする単離した断片のヌクレオチド配列(図1B〔ヒト(配列番
号:3)、ラット(配列番号:4)、ニワトリ(配列番号:5)、クサリヘビ(
配列番号:6)、ツメガエル(配列番号:7)、サケ(配列番号:8)〕)及び
その推定アミノ酸配列は、魚からヒトまで高度に保存されている(図2〔ヒト(
配列番号:24)、ラット(配列番号:25)、ニワトリ(配列番号:26)、
クサリヘビ(配列番号:27)、ツメガエル(配列番号:28)、サケ(配列番
号:29)〕)。殆どの非保存アミノ酸の変化は、可変領域であるアルギニン5
9〜セリン67及びアスパラギン酸93〜アラニン98(図2)においてみられ
た。ツメガエルとヒトNGF配列の間の類似性は93/79%である(表I)。
ツメガエルとニワトリNGFは、リシン62からアルギニン62への1つの保存
的変化を除いては同一である(図2)。クサリヘビとサケNGFの配列は、ヒト
NGFと比較してそれぞれ(42のうち)11及び19のアミノ酸の差異を含ん
でいるが、他の全ての種は4の差異を示したに過ぎない。単離したNGFアミノ
酸配列のどれも、ヒトNGF配列のグルタミン酸94とリシン95の間にBDN
F及びNT−3において存在する余分のアミノ酸残基を含有していなかった。
異なるNGF配列の種間関係を進化系統樹(図3A)の構築により分析した。
サケNGF配列は、他の種から単離したNGF配列よりも多くずれているようで
ある。エイからは、記載したPCR法を使用してNGF配列を単離することがで
きなかった。これは、エイNGF配列が、我々のPCRプロトコールで使用した
プ
ライマーのミスマッチ許容度を上回っていたことを示唆している。一方、軟骨魚
綱の魚におけるNGFの不存在は、硬骨魚への進化の枝分かれ(約4億5千万年
前)後であるがこの枝分かれから進化した両生綱及び高等脊椎動物の進化(約4
億年前)の前にNGFが現れたことを意味している。
ヌクレオチド同一性とアミノ酸類似性は、VAXコンピューターで(UWGCG
からのソフトウェアーパッケージ;デベレウクスら,1984,Nucl.Acids Res.1 :
387-395)、シュワルツ及びデイホフの比較マトリックス(1979,Washington
D.C.Nat'l Biomed.Res.Found.,pp.353-358)に従い、保存アミノ酸の変化を
考慮に入れて計算した。対角線下方の数字はヌクレオチド同一性%を示す。対角
線上方の数字はアミノ酸類似性%を示す。×はそれら種から配列が単離されなか
ったことを示す(エイからのNGF及びクサリヘビからのNT−3)。
6.2.1.2. 脳誘導神経栄養因子
研究した全ての種において、ヒトBDNFのDNA配列に類似するDNA配列
が見出された(図1B〔先に掲げた配列番号:1〜21〕)。研究した最も原始
的な種であるエイとヒトの間のアミノ酸及びヌクレオチド配列における類似性は
93/77%である(表I)。2つだけの非保存的変化が可変領域の外側に見ら
れたのに反して、10の類似する変化が2つの可変領域内に見出された(図2)
。ツメガエル(配列番号:34)では、ロイシン90が、そのコドンの第1番目
の位置におけるCからTへの1個の塩基対突然変異の結果としてフェニルアラニ
ンに置き換えられており、サケ(配列番号:35)では、トリプトファン77が
、そのコドンがTGGからTATへ変化する2個の突然変異の結果としてチロシ
ンに置き換えられている(図1B〔配列番号:14〕)。単離した全ての配列は
、NGFと比較して位置96に余分のアミノ酸残基を含有した(図2〔配列番号
:24〜29〕)。異なる種からのBDNF配列は、パルシモニー法により解析
したと
きに、同種群の配列として現れた(図3B)。
6.2.1.3. ニューロトロフィン−3
ヒト(配列番号:16及び37)、ラット(配列番号:17及び38)、ニワ
トリ(配列番号:18及び39)、ツメガエル(配列番号:19及び40)、サ
ケ(配列番号:20及び41)及びエイのNT−3についてのヌクレオチド及び
推定アミノ酸配列は非常に類似している(図1B、図2)。違いの殆どは、コド
ンの3番目の位置における変化から生じるサイレント突然変異であり、通常は、
該塩基対のピリミジン性又はプリン性を保持する変化である。2つの可変領域内
で非保存的アミノ酸変化が見出されたのみで、2つの可変領域の外側ではアミノ
酸置換は見られなかった。サケの配列は、他の全てのNT−3分子に存在するA
sp−94を欠いており(図2)、進化系統樹における分岐点からの距離は、他
の種からのNT−3配列より長い(図3C)。
6.2.1.4. 神経成長因子遺伝子ファミリーの新規メンバー
クサリヘビ(配列番号:1)及びツメガエル(配列番号:2)から追加のDN
A断片を単離し、その推定アミノ酸配列(それぞれ配列番号:22及び配列番号
:23)は、これら断片がNGF、BDNF及びNT−3におけるのと同じ位置
に全3つのシステイン残基を含有していることを明らかにした(図1B,図2)
。ツメガエルNGF、BDNF及びNT−3の配列との比較は、この新たな配列
がNGFファミリーの他のメンバーの配列に関連しているが同一ではないことを
示した。従って、この配列を含む遺伝子をニューロトロフィン−4(NT−4)
と名付けた。ヌクレオチド及びアミノ酸配列を比較して、ツメガエル及びクサリ
ヘビの
NT−4が91/73%類似していることが分かった。この類似性は、ツメガエ
ルとクサリヘビのNGF及びBDNFの間に見られるものと同じ範囲内にある(
表I)。NGFファミリーの他のメンバーについては、2つの可変領域において
非保存的アミノ酸変化が見られただけである(図2)。
6.2.1.5. 神経成長因子遺伝子ファミリー中のメンバーの比較及び系統学
NGF、BDNF及びNT−3についての進化系統樹を比較すると、NGFの
進化系統樹の枝がより長いことが分かり、進化論的変化の速度がより高いことを
示している(図3A〜3C)。NGFファミリーのそれぞれのメンバーの他のメ
ンバーに対する関係を、該ファミリーの4メンバーについて推定アミノ酸配列を
比較するフィログラムを構築することにより検討した。該フィログラムは、NG
FがBDNF及びNT−4よりもNT−3により密接に関連していることを示し
た(図3D)。NT−3は、BDNFと同じ程度にNGFに関連している。NT
−4は、明らかに、他の2メンバーよりもBDNFにより関連している。
6.2.2. NT−4タンパク質の構造的特徴
NT−4遺伝子及びその遺伝子産物のより詳細な特徴付けを可能にするため、
我々は、NT−4PCR断片でツメガエルのゲノミックライブラリーをスクリー
ニングし、16kb挿入体を含有するファージクローンを単離した。この挿入体
から、1.5kbPstl断片をサブクローン化し、図4Aに配列決定をした(
配列番号:43)。該ヌクレオチド配列は、NGFファミリーの他のメンバーを
特徴付ける多くの構造的特徴を示す236アミノ酸タ
ンパク質(配列番号:44)をコードするオープンリーディングフレームを含有
した。推定NT−4タンパク質のアミノ末端は、18アミノ酸の推定上のシグナ
ル配列を含有し、その4アミノ酸の領域がブタ及びラットBDNFにおける対応
する領域と同一である(レイブロック(Leibrock)ら,1989,Nature 341, 149-
152;マイソンピエール(Maisonpierre)ら,1990,Science,247, 1446-1451)
。BDNF(図4A)について提案されているものとやはり同一である潜在的な
開裂シグナル部位が次に続く。123アミノ酸成熟NT−4タンパク質について
の潜在的な開裂部位が、プレプロ−NT−4タンパク質中のアミノ酸113の後
に見出される。1個の推定N−グリコシル化部位(Asn−Lys−Thr)が
推定上の開裂部位の8アミノ酸前に位置している。
成熟NT−4タンパク質をマウスからの成熟BDNF、NT−3及びNGFタ
ンパク質と比較すると、それぞれ60%、58%及び51%アミノ酸同一性であ
ることが明らかになった。成熟NT−4タンパク質に含まれるのは、ジスルフィ
ド橋の形成に関与する全6システイン残基である〔図4B(配列番号:45〜4
8)〕。NGF、BDNF及びNT−3の間で同一の領域も、NT−4タンパク
質において類似している。NT−4タンパク質と他の3つのタンパク質の間の殆
どの配列差異は、該ファミリーの他のメンバー中でかつて同定された同じ可変領
域内に見出された。
6.2.3. NGF−Rへの結合及びNT−4の神経栄養活性
1.5kbツメガエルPstl断片を発現ベクターpXM内でクローン化して
(ヤングら,1986,Cell 47:3-10)COS細胞内で一過性発現した。〔35−S
〕システインでラベル化した形質移
入細胞からの馴化培地のSDS−PAGEは、14KのMrを有するNT−4タ
ンパク質を示した(図5A)。並行培養皿において産生及びラベル化したNGF
タンパク質はNT−4タンパク質より幾分速く移動した。移動性におけるこの差
は、2つのタンパク質の電荷における差によるものと考えられる。類似の移動性
の差が、異なる種からの同じ大きさを有するNGFタンパク質についても認めら
れている。
同量のラットNGF及びツメガエルNT−4タンパク質を含有する形質移入C
OS細胞からの馴化培地を、PC12細胞上のNGFのレセプターへの125Iラ
ベル化NGFの結合について競合するそれらの能力について試験した。結合測定
は、37℃で及び該細胞に結合した125I−NGFの80%が低親和性NGF−
Rに結合する条件下で行った(サッター(Sutter)ら,1979,J.Biol.Chem.25 4,
3972)。PC12細胞から50%の125I−NGFを追い出すのに、同じ濃度
のNGF及びNT−4(6×10-10M)が必要であった。これは、該2つのタ
ンパク質が同様な親和性で低親和性NGF−Rと結合することを示している(図
5B)。より高い濃度では、NT−4タンパク質は125I−NGFを追い出すの
にあまり有効ではなかった。これは、この場合には、該細胞に結合したままの12 5
I−NGFが高親和性又は内面化したレセプターに結合したことを示唆してい
る。膜の可動化又は内面化(インターナリゼション)が起こらない0℃で行った
並行分析ではこの差異が見られなかったという事実が、高親和性レセプターによ
り独占的に媒介されていることが知られているプロセス、つまり、内面化につい
ては、NT−4タンパク質はNGFと競合
することができないことを示唆している(オレンダー(Olender)及びスタック
(Stach),1980,J.Biol.Chem.255, 9338-9343;バーンド(Bernd)及びグ
リーン(Greene),1984,J.Biol.Chem.259, 15509-15516;ホサン(Hosang)
及びショーター(Shooter),1987,EMBO J.6,1197-1202)。
COS細胞内で一過性発現したNT−4タンパク質を、移植した胚生ヒヨコ神
経節からの神経突起発育を促進するその能力について試験した。移植したニワト
リ背根神経節からの神経突起成長の明かな剌激が見られた(図6A)。同量のN
T−4及びNGFタンパク質を使用した投与量−応答曲線を比較して、NT−4
で得られる活性はNGFで見られる活性よりも低いことが明らかになった(図5
A及び5B)。組み換えNT−4及びBDNFタンパク質は、背根神経節におけ
る神経突起成長を同様な程度にまで剌激した(図6A及び6C)。NT−4タン
パク質は、弱いけれども終始変わらない神経突起成長を結節性神経節から引き出
した(図6G)のに反して、交感神経節においては如何なる活性も検出されなか
った(図6E)。これは、交感神経節からの神経突起成長を顕著に剌激するNG
F(図6F)及び結節性神経節において明かな活性を示すNT−3(図6H)と
対照をなしている。NT−4については、結節性神経節におけるBDNFの神経
突起成長促進活性(図6I)はNT−3で見られる活性よりも低かった。
6.2.4. 異なるツメガエルの組織内でのNT−4mRNAの発現
11の異なるツメガエル組織からポリアデニル酸化RNAを調製してノーザン
ブロット法に用いた。ツメガエルNT−4プローブでのハイブリダイゼーション
で、卵巣において2.3kb及び6.
0kbの高レベルの2つのNT−4転写体が明かとなった(図7A)。対照的に
、NT−4mRNAのレベルは、分析した他の全ての組織において検出限界以下
であった。ツメガエルNGFプローブでのハイブリダイゼーションでは、心臓(
図7A)及び脳において1.3kbのNGFmRNAが示された。しかしながら
、これら組織におけるNGFmRNAの量は、卵巣におけるNT−4mRNAの
レベルよりも100倍のオーダーで低かった。NGFmRNAも卵巣において検
出されたが、NGFmRNAの量はこの組織におけるNT−4mRNAのレベル
よりも約100倍低かった。(図7B)。卵巣におけるBDNF及びNT−3m
RNAのレベルは、いずれもその検出限界以下であった(図7B)。
6.3. 考察
我々は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を縮重オリゴヌクレオチドプライマ
ーと組み合わせて使用して、異なる種からNGFファミリーの異なるメンバーの
ための遺伝子を単離した。完全な成熟NGF、BDNF及びNT−3タンパク質
のヌクレオチド及びアミノ酸配列の比較により、得られた類似性がこの研究で分
析した遺伝子の領域を比較することにより得られた類似性と同じであることが明
らかになった。これから、この領域が該遺伝子の残余をも表象していると考えら
れ、従って、該完全成熟タンパク質の進化論的保存を研究するのに使用できる。
異なる種からのNGF、BDNF及びNT−3遺伝子は、魚と哺乳動物の間の
完全な同一性を示す領域、並びにより低い類似性を有する領域を含む。異なる種
からのNGF配列の、BDNF又はNT−3の対応する配列との比較により、脊
椎動物においては、
NGF遺伝子はBDNF及びHDNF/NT−3のいずれよりも保存されていな
いことが示された。後者の2つの遺伝子は、NT−3がBDNFよりもあまり保
存されていないサケを除く、研究した全ての種において等しく保存されているよ
うである。このような関係においては、幾つかの枝、特にNGFにおいて分子時
計が速度を上げているが他においてはそうではないように見えるという事実につ
いて推測するのは興味のあることである。タンパク質の正確な三次構造を保存す
る選択力が存在すると一般に考えられている(ディッカーソン(Dickerson),1
971,J.Mol.Evol.1, 26-45;キムラ及びオオタ,1974,Proc.Natl.Acad.S
ci.USA,71:2848-2852)。該3因子の進化論的保存における差異は、NGF遺
伝子に対するよりもBDNF及びNT−3に対してより強い選択圧が存在したこ
とを示唆している。環境的変化が、特定の遺伝子産物の最適性能を変更する選択
圧の変化をもたらすものと提案されてきた(キムラ1983,“Evolution of Genes
and Proteins”,pp.208-233)。このような関係においては、BDNF及びN
T−3と比較してNGFでみられるより広範な進化論的変化は、進化の間にNG
Fの機能がより多く変化してきたという事実を反映したものと言える。NGFの
構造−機能の研究は、この分子がその活性プロフィールの低下又は修飾を伴わず
にかなりの構造的変化を許容できることを示してきた。このことは、NGFの進
化論的保存の程度が低いのはこのタンパク質のより安定な構造、従って、置換に
よりあまり簡単には掻き乱されない構造によるのであろうとの示唆を与える。も
う1つの考え得る説明は、異なる因子の遺伝子が位置しているゲノムのその領域
が、異なる一般的
突然変異率を有しているというものである。異なる突然変異率はゲノムの非コー
ド領域について明らかにされてきた(ヴォルフ(Wolfe)ら,1989,Nature,337 :
283-285)が、これがコード領域において変化の数を増加させるかどうかあま
り明かではない。
サケNGF及びNT−3は、他の種におけるこれら分子と比較した場合、特に
より多く異なっている。NGF中のトレオニン82及び位置85〜87における
ヒスチジン−トレオニン−フェニルアラニンを含む幾つかのアミノ酸、並びに(
他の2つのタンパク質と比較して)位置94及び95の間のアミノ酸の不存在は
、NGFタンパク質の一貫した特徴である。単離したサケの配列がこれらNGF
に特異的な特色の全てを含んでいるという事実は、それが該ファミリーの付加的
メンバーでななく、むしろサケNGFを代表していることを物語る。研究した他
の全てのNT−3配列と対照的に、サケNT−3は位置95においてアミノ酸を
欠いている。エイNT−3には余分のアミノ酸が存在するので、エイ及びサケの
共通の祖先は、位置95において該余分なアミノ酸を含む祖先NT−3配列を有
していたらしい。従って、サケNT−3分子における該変化は、この遺伝子が共
通の祖先から分かれた後に起こったに違いない。サケの配列のアミノ酸の変化の
殆どは、程度は低いものの他の種においても変化している同じ領域内にあり、単
離したサケNGF及びNT−3配列は偽遺伝子ではないことを強く示唆している
。他の種と比較してサケNGF及びNT−3が広く拡散しているのは、おそらく
硬骨魚が進化論的に高度に発展していることを反映しているのであろう。
この研究の結果は、NGFファミリーが、5億年前に、今日の
高等脊椎動物の祖先であった原始魚類におそらく存在していたであろうことを示
している。該遺伝子ファミリーは、新たな遺伝子が発達する最もありふれたメカ
ニズムであると考えられる遺伝子重複により形成されていたのであろう(リ(Li
,W.),1983,“Evolution of Genes and Proteins”,pp.14-37)。生物学的
に活性なタンパク質の合成に必要な全ての情報が3’エキソン中に含まれている
ので、機能性遺伝子の重複は促進されただろう(ハルブックら,1988,Mol.Cel
l.Biol.8: 452-456;レイブロックら,1989,Nature 341, 149-152;ホーン(
Hohn)ら,1990,Nature 344: 339-341)。該ファミリーの形成は、多くの遺伝
子重複を含んでいる(図3D)。
NT−4は、NT−3又はNGFよりもBDNFにより密接に関連しているの
で、NT−4とBDNFは共通の祖先遺伝子から形成されたと考えられる。しか
しながら、現在のデータからは4因子全てについての先祖様分子を識別すること
はできないので、NGF及びNT−3の祖先に対する推定上のBDNF/NT−
4祖先の進化論的関係を明確に確立することはできない。異なる種からのデータ
を使用するフィログラムのトポロジーは、異なる種間のコンセンサスのとれた進
化論的関係と大体一致している。しかしながら、NGFとBDNFの両方につい
ては、ニワトリの配列がフィログラムにおいて予測よりも早い分岐を示している
。クサリヘビ及びツメガエルからのNT−4、NGF及びBDNFの比較により
、これら種におけるNT−4配列が、NGF及びBDNFそれぞれの9及び8置
換に比較して、11のアミノ酸置換を有していることが明らかになった。このこ
とは、これら種におい
て、NT−4は、NGF又はBDNF拡散の速度に匹敵するか又はそれより速い
速度で拡散してきたことを示唆する。
NGF分子において高度に保存されたアミノ酸の置換はその生物学的活性を破
壊しないが、多くの場合、産生するタンパク質の量に悪影響を及ぼし、NGFタ
ンパク質の保存にとって重要であり得るタンパク質安定性の如き生物学的活性以
外の抑制が存在することを示している。更に、NGFファミリーの全メンバーが
低親和性NGF−Rと相互作用できるという事実は、これら因子における一定の
領域の完全な保存が、NGF−Rと相互作用できるタンパク質を保持するための
これら遺伝子への抑制によるものであり得ることを示唆している。胚の初期個体
発生のための基礎的なメカニズム及びストラテジーは全ての脊椎動物において類
似しており、おそらくは、全ての脊椎動物に保存されている遺伝子に関連してい
る。従って、神経栄養因子の進化論的保存は、それらが多くの異なる種における
初期胚発生に重要であるという説と一致している。
海馬は、脳において最高レベルのNGF、BDNF及びNT−3、mRNAを
含有している(エルンフォースら,1990 J.Dev.Neurosci.9, 57-66)。それ
は、両生類及び爬虫類の脳に最初に現れた、原皮質から誘導された高度に分化し
た構造である。哺乳動物の海馬は、記憶、学習及び高いニューロン適応性と関連
していることが既知である認識機能にとって重要である(クラッチャー(Crutch
er)及びコリンズ(Collins),1982,Science 277: 67-68)。これら要求が、
多分神経栄養因子の作用を受けた、適応性促進メカニズムのための系統発生の間
に選択圧を発生させた
かも知れない。しかしながら、この研究の結果は、神経栄養因子のための遺伝子
の重複が海馬の形成に断然先んじていたことを明確に示している。この発見は、
神経栄養因子は、海馬の形成の結果として発達したのではなかったことを示すと
共に、この脳の領域における神経適応性は少なくとも部分的にこれら分子による
ものであることを支持している。
原始脊椎動物、即ち、軟骨魚綱の魚の神経系の構成は、高等脊椎動物のものと
の多少の基本的類似性を示す。軟骨魚綱の魚における脳神経及び体性感覚及び自
律神経系は、概して高等脊椎動物のものと類似している(ヤング(Young,J.Z.
),1981,The Life of Vertebrates,New York Oxford University Press)。
従って、神経栄養相互作用の原理は、原始及び高等脊椎動物のいずれにおいても
同じらしい。原始脊椎動物におけるNGF様神経栄養因子の進化論的保存も、こ
れら因子がまず無脊椎動物内で発達し、その後、脊椎動物神経系の発達に機能す
るよう順応したことを示唆している。
我々のNGFファミリーの進化論的保存の研究は、ニューロトロフィン−4又
はNT−4と命名された、このファミリーの新規なメンバーの単離へと導き、N
T−4遺伝子からのPCR断片をツメガエル及びクサリヘビから単離し、次に、
ゲノミッククローンをツメガエルから実質的に単離した。このクローンのヌクレ
オチド配列分析により、NGFファミリーの他の3つのメンバーのものに似てい
る多くの構造的特徴を示す、236アミノ酸タンパク質についてのオープンリー
ディングフレームが明かになった。これらは、推定上のアミノ末端シグナル配列
及び123アミノ酸
成熟NT−4タンパク質を予示するタンパク質分解開裂部位に接近した潜在的N
−グリコシル化部位の存在を含む。成熟NT−4タンパク質の該部位は、BDN
F及びNT−3のそれよりも4アミノ酸長く、成熟NGFタンパク質のそれより
も5アミノ酸長い。成熟NT−4タンパク質内には、ジスルフィド橋の形成に関
与する全6システイン残基が保存されている。NT−4タンパク質は、該ファミ
リーの他のメンバーと、他の3つのファミリーメンバーの配列の間で変化のある
同じ領域において異なっている。NGF、BDNF及びNT−3の場合と同様に
、完全なプレプロ−NT−4タンパク質は1つの単独エキソンにおいてコードさ
れている。これから、その遺伝子構成及びその推定タンパク質の構造的特徴の両
方が、NT−4遺伝子はNGFファミリーの追加のメンバーであることを示して
いる。NT−4遺伝子が爬虫類及び両生類の両方から単離されたという事実は、
それが多くの異なる種に存在することを示唆している。
BDNF及びNT−3の両方が低親和性NGF−Rと相互作用することが示さ
れた(ロドリゲス−テバー(Rodrigues-Tebar)ら,1990,Neuron 4: 487-492;
エルンフォースら,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:5454-5458)。
ツメガエルNT−4タンパク質は、PC−12細胞上のその低親和性レセプター
から125I−NGFを追い出した。これは、このファミリーの4番目のメンバー
も低親和性NGF−Rと相互作用することを示しすものである。37℃及び0℃
で得られた追い出し曲線の比較は、NT−4タンパク質が高親和性NGF−Rへ
の結合については競合できまないことを示唆している。低親和性NGF−R遺伝
子によ
りコードされたタンパク質は、低及び高親和性レセプターの両方の一部を形成し
ているようである(ヘンプステッド(Hempstead)ら,1989,Science 243: 373-
375)。速度論的に異なる2つのレセプターが同じレセプター遺伝子から形成さ
れるメカニズムは知られていないが、該2つの状態が該レセプターの細胞質ドメ
インと細胞内タンパク質の間の複合体形成により生じ得るということは提案され
ていた(ラデケ(Radeke)ら,1987,Nature 325: 593-597;ミーキン(Meakin
)及びショーター(Shooter),1991,Neuron 6: 153-163)。また別に、高親和
性レセプター鎖が別の遺伝子によりコードされ得、そしてインターロイキン−2
レセプター(ハタケヤマら,1989,Science 744: 551-556)及び血小板由来成長
因子レセプター(マツイら,1989,Science 243: 800-804)に類似しており、こ
の2つのレセプター鎖は該高親和性レセプター鎖を構成する二量体を形成するこ
とができる。NGFファミリーの全4メンバーが低親和性NGF−Rと相互作用
できるという事実は、NGF−Rの低親和性状態が、今のところ未知のやり方で
これら全ての因子の生物学的作用を媒介することに関与しているかも知れないと
いうことを示唆している。このような関係においては、低親和性NGF−R遺伝
子が、NGFに応答することが知られていないニューロン及び非ニューロン起源
両方の多くの組織において発現されることが示されてきたことに注意を払うこと
は興味のあることである。これらは、ヒヨコ初期胚における間充織、原節及び神
経管細胞(ハルブックら,1990,Development 108: 693-704;ヒュアー(Heuer
)ら,1990a,Dev.Biol.137: 287-304;ヒュアーら,1990b,Neuron 5: 283-2
96)、並びに脊
髄運動ニューロンの発達及び再生を含む(エルンフォースら,1989,Neuron 2,
1605-1613;エルンフォースら,1990 J.Dev.Neurosci.9, 57-66)。従って
、これら組織又はニューロン集団のいずれにおいてNT−4が機能的に重要であ
るかを探究することは興味があろう。
NT−4タンパク質の神経栄養活性を、移植されたヒヨコ胚神経節で分析した
ところ、NGFファミリーの他の3つのメンバーの場合と同様に、NT−4タン
パク質は、背根神経節からの神経突起成長の明確な剌激を示した。しかしながら
、NGFと比較した場合、NT−4タンパク質は背根神経節においてより低い活
性を示した。BDNF及びNT−3の両方は、移植された結節性神経節において
神経突起成長を簡単に引き出すが、NT−3での応答はBDNFでのそれよりも
一貫してより強かった。NGFは交感神経節において神経突起成長を強く剌激し
、NT−3もこの神経節において活性を有しているが、NGFのものよりかなり
低い(マイソンピエールら,1990,Science,247, 1446-1451;エルンフォース
ら,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:5454-5458)。NT−4は結節
性神経節においてNT−3に比較してより弱い活性を示し、交感神経節において
は活性を示さない。末梢性移植神経節に関するNT−4の生物学的活性のスペク
トルはBDNFのものに似ており、これはNT−4が構造的にBDNF類似して
いるという事実と一致している。
ツメガエルからの異なる11組織のノーザンブロット分析は卵巣において高い
レベルのNT−4を示すのに反して、NT−4mRNAのレベルは試験した他の
全ての組織においては検出限界以
下であった。2.3kb及び6.0kbの2つのNT−4mRNAは卵母細胞にお
いて見られた。同じ遺伝子からの2つの転写体の存在はかつてBDNFに認めら
れており、その場合、1.4kb及び4.0kbの2つのmRNAがラットの脳に
存在していた(レイブロックら,1989,Nature 341, 149-152;マイソンピエー
ルら,1990,Science,247, 1446-1451;エルンフォースら,1990a,Proc.Natl
.Acad.Sci.U.S.A.87:5454-5458)。ツメガエルNGFプローブへのハイブ
リダイゼーションは、ニューロン神経剌激のための標的組織におけるNGFmR
NA発現の結果であると考えられる、ツメガエルの心臓におけるNGFmRNA
を明かにした。しかしながら、心臓におけるNGFmRNAのレベルは、卵巣に
おけるNT−4mRNAのレベルよりも100倍以上低かった。卵巣においてN
T−4mRNAのレベルが高いことはニューロン神経剌激と相関関係がないので
、この場合にNT−4タンパク質が神経栄養機能だけを有しているということは
ありそうにない。その代わり、ツメガエルの卵巣におけるNT−4mRNAの豊
富な発現は、NT−4タンパク質についての付加的でかつ重要な神経栄養機能を
意味している。NGFmRNAも、NT−4mRNAのレベルよりもほぼ100
倍低いレベルではあるが、ツメガエルの卵巣において検出された;BDNFmR
NA及びNT−3mRNAはこの組織で検出されなかった。
2つの成長因子のためのmRNAは、ツメガエル卵母細胞における母系mRN
Aとして説明されている。これらmRNAのうちの1つは、塩基性線維芽細胞成
長因子との強い類似性を有するタンパク質をコードする(キメルマン(Kimelman
)及びキルシュナ
ー(Kirschner),1987,Cell 51:869-877);その他のmRNAはトランスフォ
ーミング成長因子αと相同なタンパク質をコードする(ウィークス(Weeks)及
びメルトン(Melton),1987,Cell 51:861-867)。これら因子は、中胚葉の形
成及びそれに続く神経管の中へのこの組織の誘導のためのモルフォゲンとして機
能していると提案されてきた。ラットにおいては、in situハイブリダイゼーシ
ョン研究により、二次及び三次卵胞の上皮におけるNT−3mRNAが明らかに
なり、そして、卵子形成におけるNT−3の役割が提案された(エルンフォース
ら,1990,Neuron 5, 511-526)。
7.実施例:インサイチュハイブリダイゼーションによる、アフリカツメガエル卵母細胞中でNT−4 mRNAを発現する細胞の同定
7.1.材料および方法
7.1.1.アフリカツメガエル卵細胞、胚および細胞の単離、処理ならびに培養
オスおよびメスのアフリカツメガエルを19℃で実験室中で維持した。動物を
0.25%トリカインメタンスルホネート(Sandoz、スイス)で液浸麻酔
した後、卵巣葉を外科的に除去し、改変バースの食塩水Hepes(MBSH)
(Gurdon and Wickens,1983,Methods Enzymol,101:370-86)で洗浄し、2m
g/mlのコラゲナーゼを含むカルシウム不含MBSH中、20℃で一夜インキ
ュベートすることにより解離した。分別沈降によって卵黄形成前および卵黄形成
した卵細胞を粗分離し、これら卵細胞をさらにデュモン(1972、前出)の記
載する発生クラスに、解剖顕微鏡下に手で分離した。
実質的にニューポートおよびキルシュナー(1982)の記載するin vi
tro受精によって同調卵割の胚を得た。
蒸留水で60:40(v/v)に希釈し、さらに10mM Hepes(pH
7.35)、10μMヒポキサンチン(Sigma)、4mMグルタミンおよび
10%ウシ胎児血清(Gibco)を補充したレイボウィッツ(Leibowi
tz)L15培地中、20℃でA6アフリカツメガエル腎臓細胞を培養した。培養
物を空気で平衡化して暗所に保存した。
7.1.2.インサイチュハイブリダイゼーション
成人アフリカツメガエルからの新鮮凍結卵をクリオスタット(Leitz、ド
イツ)を用いて切片化(14μ)し、セクションをポリ−L−リシン(50μg
/ml)前処理したスライド上で解凍し、次いで10%ホルマリンで30分間固
定し、PBSで2回リンスした。クロロホルム中の5分インキュベーションを含
む連続濃度のエタノール中で脱水を行い、次いでスライドを風乾した。2つの5
3−merのオリゴヌクレオチド、1つはアフリカツメガエルNT−4 mRN
Aに特異的なオリゴヌクレオチド(5’CCCACAAGCTTGTTGGCA
TCTATGGTCAGAGCCCTCACATAAGACTGTTTTGC3
’[配列番号:109])であり、他の1つは、対照としてニワトリBDNF
mRNAに特異的なオリゴヌクレオチド(成熟ニワトリBDNFタンパク質の6
1−77アミノ酸に対応)(Hallbook et al.,1991,Neuron 6:845-58[配列番
号:11および32に含まれる])を末端基デオキシリボヌクレオチド転移酵素
(IBI、ニューヘブン)を用いて、約1×109cpm/μの比活性までα35
S−dATPで3’末端で標識した。ハイブリダイゼーションは50%ホルムア
ミド、4×SSC、1×Denhardts溶液、1%サルコシル、0.02M
NaPO4(pH7.0)、10%硫酸デキストラン、0.5mg/ml酵母
tRNA、0.06M DDT、0.1mg/mlせん断サケ精子DNAおよび
1×107cpm/mlの35S−標識オリゴヌクレオチドプローブ中、42℃で
16時間実施した。次いでセクションをリンスし、1×SSC中、55℃で4回
(各15分)洗浄し、水中でリンスし、連続濃度のエタノール中で脱水し、風乾
した。セ
クションをX線フィルムに暴露し、次いでKodak NTB−3写真エマルジ
ョン(水で1:1に希釈)でコーティングし、5−6週間−20℃で暴露し、現
像、固定し、クレシルバイオレットで対比染色した。
7.1.3.RNAブロット分析
上記試料を4Mグアニジンイソチオシアネート、0.1M β−メルカプトエ
タノール、0.025Mクエン酸ナトリウムpH7.0中でホモジェナイズし、
ポリトロンで15秒間、3回ホモジェナイズした。それぞれのホモジェネートを
0.025Mクエン酸ナトリウムpH5.5中の5.7M CsClのクッショ
ン4ml上にのせてBeckman SW42ローターで15℃、35,000
rpmで16時間遠心した。(Chirgwin et al.,1979,Biochemstry 78:5294-5
299)。ポリアデニル化RNA(ポリ(A)+RNA)をオリゴ(dT)セルロ
ースクロマトグラフィーによって精製し(Aviv and Leder,1972,PNAS 69:1408
-1412)、RNAブロット分析に用いる前にRNAの回収物(40μg)を分光
光学的に定量した。全細胞性RNA(40μg)または各試料からの上記ポリ(
A)+RNA(5μg)を0.7%ホルムアルデヒドを含む1%アガロースゲル
上で電気泳動に付した。染色したゲルのUV透視を用いて、すべての試料が同量
の完全RNAを含んでいることを確認した。次いでゲルをニトロセルロースフィ
ルターに移し取った。フィルターを次いでアフリカツメガエルNT−4遺伝子の
3’エキソンからの350bpのHincII断片とハイブリダイズした(Hall
book et al.,1991,Neuron 6:845-858)。ニックトランスレーションによって
上記断片を
約5×108cpm/μgの比活性にα−(32P)−dCTPで標識し、上記の
ようにハイブリダイゼーションを行った(Enfors et al.,1988,Neuron 1:983-
96)。高ストリンジェンシー(0.1×SSC、0.1% SDS、54℃)で
フィルターを洗浄し、−70℃でKodak AR−5フィルムに暴露した。
7.2結果
成人アフリカツメガエル卵母細胞の組織セクションを、アフリカツメガエルN
T−4 mRNAに特異的な35S−dATPで標識したオリゴヌクレオチドプロ
ーブとハイブリダイズした。ハイブリダイゼーションの特異性の対照として、隣
接するセクションを、同じ長さでニワトリ脳由来神経栄養因子(BDNF)のm
RNAと相補的なGC含量のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズさせ
た。NT−4 mRNAに特異的なプローブは、卵形成の初期段階の卵母細胞に
対応する大きさ(直径50−400μm)で、卵巣全体に分散する多くの細胞を
強く標識することが明らかとなった(図9A)。成熟した卵黄形成後のステージ
VIの卵母細胞にはNT−4 mRNAは検出されなかった(図9A中の矢印)。
ニワトリBDNF mRNAに特異的な対照プローブはアフリカツメガエルの卵
巣中のいかなる細胞も標識しなかった。
ハイブリダイズしたセクションからのエマルジョンオートラジオグラフの分析
により、デュモン(1972、前出)の記載するステージIの卵母細胞に対応す
る60−200μmの直径で卵母細胞(図10Aおよび10B)の細胞質を強く
標識することが明らかとなった。NT−4 mRNAに特異的なプローブもまた
、ステージIIからIVに対応するよりも大きい直径で卵母細胞を標識
したが、これらの細胞を標識する強度はステージIの卵母細胞で見られたよりも
小さかった。低倍率の暗視野照明法の分析(図9)と合致して、エマルジョンオ
ートラジオグラフはステージVおよびVIのより成熟した卵母細胞の標識を全く示
さなかった。対照BDNFプローブとのハイブリダイゼーション後にはいかなる
細胞にも標識は観察されなかった(図10C)。卵形成過程におけるNT−4
mRNAのレベルをより詳細に検討するために、任意に選択した面積単位当たり
の粒子数を計数した。選択した面積単位はステージIの卵母細胞の断面積のおよ
そ100分の1に対応した。この分析の結果は、ステージIの卵母細胞の標識強
度は、ステージII/IIIおよびIVの卵母細胞の標識強度のそれぞれ1.7および
4.3倍であることを示した(図11)。ステージVおよびVIの卵母細胞の面積
単位当たりの粒子数はバックグランド標識のレベルよりも有意に大きくはなかっ
た。
7.2.1.アフリカツメガエルの卵形成および発生初期におけるNT−4 mRNAの発現のノーザンブロット分析
種々のステージの卵母細胞および卵胞細胞からのものに富む分画から調製した
一定量の全細胞性RNA(40μg)をアフリカツメガエルNT−4に特異的な
プローブを用いてノーザンブロットで分析した(ホールブックら、1991、前
出)。インサイチュハイブリダイゼーションの結果と合致して、2.3kbおよ
び6.0kbの大きさのNT−4転写物のレベルは最小の卵母細胞(ステージI
およびII)で最も高かった(図12)。より成熟したステージVおよびVIの卵母
細胞ではNT−4 mRNAのレベルは急激に減少した。卵胞細胞調製物には弱
いハイブリダイゼー
ションシグナルが見られたが、これは少量のステージIおよびIIの卵母細胞の混
入によるものと思われる。図12に示す各種試料からの一定量(5μg)のポリ
アデニル化RNAを分析しても同様の結果が得られた。
卵巣中におけるNT−4 mRNAの発現の分析結果は、NT−4 mRNA
が未熟な卵母細胞に限定されるということを示した。NT−4 mRNAの発現
が受精後に誘導されるという可能性を試験するために、ポリアデニル化RNAの
ノーザンブロットによって、発生期のアフリカツメガエル胚中のNT−4 mR
NAのレベルを評価した。分析に含まれていたアフリカツメガエルの体細胞性A6
培養腎臓細胞には低レベルのNT−4 mRNAが見られた。しかしながら、
卵割性分裂の開始から神経胚ステージまでの初期の胚にはNT−4 mRNAは
検出されなかった。
7.3.議論
アフリカツメガエル卵巣中におけるNT−4 mRNAの大量の発現(ホール
ブックら、1991、前出)は、NGFファミリーのこのメンバーが卵形成およ
び/または初期の胚形成にある役割を果たしていることを示唆する。卵巣中にお
けるNT−4 mRNAを発現する細胞の配置により、卵巣におけるNT−4タ
ンパク質の推定される機能が洞察される。両生類では、すべてのその他の脊椎動
物と同様に、卵の受精が迅速な細胞の卵割期の引き金となる。この現象は、卵形
成の過程で発現し、次の発生のために未受精卵中に蓄えられるあるクラスの可溶
性の母親のmRNAによって制御される(Davidson,1986,発生初期における遺
伝子活性(New York,Academic Press)。このクラスの母親のmRN
Aは塩基性繊維芽細胞増殖因子(Kimelman and Kircshner,1987,Cell,51:869
-77)およびトランスフォーミング成長因子−β(Weeks and Melton,1987,Cel
l,51:861-67)という2つの成長因子、ならびにc−myc(Godeau et al.,1
986,EMBO J.,5:3571-77);(Vriz et al.,1989,EMBO J.8:4091-97)、c
−fos(Mohun et al.,1989,Development,107:835-46)、ras(Andeol
et al.,1990,Dev.Biol.139:24-34)、ets−2(Chen et al.,1990,Sci
ence,250:1416-18)およびc−mos(Sagata et al.,1988,Nature,335:51
9-25)のようないくつかの細胞癌遺伝子を含む。未成熟なステージVIのアフリカ
ツメガエル卵母細胞が減数分裂Iの前期に捕獲され、c−mos(サガタら、1
988)およびets−2(チェンら、1990)の両方が減数分裂の再開の過
程で機能することが示された。ステージIおよびIIの卵母細胞では高レベルのN
T−4 mRNAであるのに、ノーザンブロットおよびインサイチュハイブリダ
イゼーションのいずれでも、ステージVおよびVIの卵母細胞では検出限界以下の
低レベルであるということは、NT−4 mRNAが母親のmRNAのクラスに
属していないことを強く示唆する。この結果はまた、減数分裂の再開または胚形
成の初期におけるNT−4タンパク質の役割に対して反論することになる。これ
と合致して、未成熟なステージVIの卵母細胞に組換えNT−4タンパク質を添加
してもin vitroでの幼芽小胞(germinal vesicle)の
分裂を誘導せず、またアフリカツメガエルの初期胚中にNT−4 mRNAは検
出されなかった。その代わり、卵巣におけるNT−4タンパクの推定的機能は卵
黄形成
前および卵黄形成の初中期の卵巣で起こる現象と関連しているように思われる。
NGFが減数分裂の開始時のDNA合成を剌激することを示した最近の試験(Pa
rvinen et al.,1991、投稿)において、NGF(Ayer-LeLievre et al.,1988,P
NAS 85:2628-2632)75kDの低親和性のNGFレセプター(Persson et al.,1
990,Science,247:704-707)およびNGFレセプターのtrkA高親和性成分
(J.P.Merlo andH.Persson、未発表)の両方が発現する。したがって、ニュー
ロトロフィンは神経栄養因子として機能するだけでなく、生殖組織においても重
要な役割を果たしているように思われる。
8.実施例:哺乳動物NT−4をコードする核酸断片の単離および特性決定
8.1.材料および方法
8.1.1.DNA調製
ゲノムDNAを上記6.1.1.に記載の方法で単離した。
8.1.2.ポリメラーゼ連鎖反応、分子クローニングおよびDNA配列決定
アミノ酸配列QYFFET(配列番号:51に含まれる)およびQYFYET
(配列番号:52)(5’−オリゴヌクレオチド)ならびに、WISECK、C
KAKQSおよびWIRIDT(それぞれ配列番号:51に含まれる)(3’オ
リゴヌクレオチド)に対応するすべての可能なコドンを表す34−merのオリ
ゴヌクレオチド(尾部を含む)の混合物(図13)を、上記6.1.2.に記載
のようにしてリンカーを用いて合成した。さらに、2Y(xNT−4[配列番号
:50]に由来)および2Z(BDN
F/NT−3[配列番号:51]に由来)はこの領域におけるすべての種から得
られたすべての公知のニューロトロフィンの配列を表す。ラットおよびヒトゲノ
ムDNAの一次増幅を、Taqポリメラーゼ(Cetus社)を用いて95℃で
1分、43℃で2分、さらに72℃で2分のサイクルで実施した。一次PCR反
応からのアリコートを次いで、一次増幅に用いたのと同じプライマーか、または
期待するサイズシフトをもたらすような、新しいいれこ状になった(neste
d)縮重オリゴヌクレオチドプライマーのいずれかを用いて再増幅した。再増幅
で得られたPCR産物を以下のようにして精製した:予期される大きさのバンド
をゲル精製し、再増幅し、そしてStratagene社の”Primeras
e”カラムを用いてカラム精製した。次いでこれをEcoRIおよびSalIで
完全に消化し、分析して、Primeraseカラム(Stratagene社
)で再精製し、次いでEcoRI−XhoIで消化したブルースクリプトKS(
−)中にライゲートした。形質転換体をスクリーニングして、およそ予期された
大きさの挿入物を含むpBS−KSを探した。クローン化した断片を上記6.1
.2.に記載するDNA配列分析に付した。
8.1.3.rNT−4およびhNT−4をコードする全長ゲノムおよびcDNAクローンの単離
λGT−10中のヒト卵巣cDNAライブラリーはClontech社から入
手した。λ:ZAPII中のヒト海馬cDNAライブラリーはStratage
ne社から入手した。EMBL3/SP6/T7中のヒトゲノムDNAはClo
ntech社から
入手した。λ−ZAP中のラット脳cDNAライブラリーはStratagen
e社から入手した。
NT−4クローンの単離は以下のようにして実施した:
rNT−4断片(図14[配列番号:61])またはhNT−4断片(図15
[配列番号:63])をコードするクローン化挿入物をPCRによって、約5x
108cpm/ngの比活性に標識する。ハイブリダイゼーションは、0.5m
g/mlのサケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中で60℃で実施
した。フィルターを2×SSC、0.1% SDS中で、60℃で洗浄し、−7
0℃でKodak XAR−5フィルムに暴露する。あるいは、その配列が所望
の哺乳動物ニューロトロフィンに正確に対応するオリゴヌクレオチドを用いてプ
ローブを作成(例えば、キナーゼ標識)し、慣用法によって同じライブラリーを
スクリーニングするのに用いることができる。陽性のファージをプラーク精製し
、マニアティスら(Maniatis et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manua
l,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York)の記載す
るように液体培地中で適当な大腸菌株に低倍率で感染させる。GT−10および
EMBL3/SP6/T7ファージは以下のようにして調製する:培養物を絶え
ず振とうしながら37℃で一夜インキュベートする。一夜インキュベートした懸
濁液を1M NaClおよび8% PEG中に入れて、よく混合し、4℃で一夜
インキュベートしてバクテリオファージを沈降させる。遠心によってバクテリオ
ファージをペレットにし、TMバッファー(10mM Tris−HCl、pH
7.5;10mM MgCl2)に再懸濁し、CsClの段階
的グラジエント上にのせて、適当な速さと時間で遠心してバクテリオファージを
バンドにする。バクテリオファージを除去し、新しいエッペンドルフ管に移し、
ホルムアミド1容量を加えて溶菌する。100%エタノール2容量を加えてEM
BL−3 DNAを沈降させる。EMBL−3 DNAをミクロ遠心によって除
去して、70%エタノール中で洗浄し、ついでTEバッファー(10mM Tr
is−HCl、pH7.5:1mM Na2−EDTA)中に再懸濁する。DN
Aをフェノール:クロロホルム:イソミルアルコール(24:24:1)で数回
抽出し、エタノール沈殿し、TEバッファーに再懸濁し、各種制限酵素で消化し
、1%アゲロースゲルで電気泳動を行う。電気泳動に次いで、制限酵素で消化し
たDNAをニトロセルロースに移しとり、上記の条件で、32P−標識したrNT
−4またはhNT−4プローブとハイブリダイズさせる。ハイブリダイズしたバ
ンドをpBS−KSプラスミドベクターにサブクローニングし、ジデオキシチェ
インターミネーション法によってDNA配列を分析した(Sanger et al.,1977
,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.74:5463-5467)。
λ−ZAPプラスミド調製は以下のようにして行った:OD600=1.0 X
L1−Blue細胞200λ、高力価のフェーズストック200λ、およびR4
08ヘルパーファージ1λ(1×10分pfu/ml)を組み合わせる。陰性対
照にはファージストックを何も加えない。37℃で15分間インキュベートする
。2XYT培地5mlを加えて、37℃で3時間振とうする。3時間経過後に陰
性対照は濁り、試料は透明である。試料を65℃で30分加熱し、4000gで
5分回転する。上清はファージミドス
トックを含む。ファージミドを得るために、XL1−Blue細胞200(OD600
=1)にストック0.5λを加える。37℃で15分インキュベートする。
LBアンピシリンプレート上に1−100λ(好ましくは10λ)を入れる。3
7℃で一夜インキュベートし、大きいコロニーを選ぶ。プラスミドDNAを精製
した後、上記のように配列決定する。
ラムダファージcDNAライブラリーを上記の標準法によりスクリーニングす
る(マニアティスら、前出)。
陽性プラークを精製し、再単離して、上記のようにDNA配列分析に付す。
8.2.結果および議論
アフリカツメガエルのNT−4コーディング配列領域を縮重オリゴヌクレオチ
ドプライマーの合成モデルとして用いた。図13は5’−オリゴヌクレオチドプ
ライマー2Y[配列番号:53](QYFFET)および3’−オリゴヌクレオ
チドプライマ−3Y[配列番号:55](WISECK)、3Z[配列番号:5
6](CKAKQS)および4Z[配列番号:58](WIRIDT)はxNT
−4アミノ酸配列から由来したことを示す。5’−オリゴヌクレオチドプライマ
ー2Z[配列番号:54](QYFYET)はrBDNFの相同領域から由来す
る。これらの縮重オリゴヌクレオチドのすべての可能な組み合わせを用いて、ラ
ットおよびヒトゲノムDNAライブラリーからのDNAを増幅した。xNT−4
の3Y[配列番号:55]および3Z[配列番号:56]はNGF/BDNF/
NT−3遺伝子ファミリー中で保存されていないので、NGF、BDNFまたは
NT−3を増幅しないよう
に思われた。これら2つのプライマーは再増幅または二次PCRに用いた。
およそ予期できる大きさのDNA断片をPCR増幅、および、以下のプライマ
ーの組み合わせを用いるラットおよびヒトゲノムライブラリーの再増幅から得た
:
(1)2Y/3Z(一次PCR):2Y、2Z/3Y(二次PCR)
(2)2Y/3Z(一次PCR):2Y、2Z/3Z(二次PCR)
(3)2Y/4Z(一次PCR):2Y、2Z/3Z(二次PCR)
(4)2Z/4Z(一次PCR):2Y、2Z/3Z(二次PCR)
およそ予期できる大きさの二次PCR産物を2%アガロースゲルの電気泳動に
付して、標準法で溶出し、EcoRIおよびSalIで消化し、EcoRI−X
hoIで消化したpBS−KSDNA中にライゲートした。陽性の形質転換体を
選択し、挿入した断片をジデオキシチェインターミネーション法(サンガーら、
前出)によってDNA配列決定した。
オープンリーディングフレームはラットNT−4(図14[配列番号:62]
)およびヒトNT−4(図15[配列番号:64])のアミノ酸コーディング配
列の部分であると演繹された。図16は、rNT−4(配列番号:62)および
hNT−4(配列番号:64)断片の、NGF/BDNF/NT−3遺伝子ファ
ミリーの代表的メンバーに対する相同領域を示す。
図15に示すよりも大きいヒトNT−4の部分をコードするオープンリーディ
ングフレームを図17Aに示す(配列番号:69および配列番号:70)。図1
7Aは3’ヒトNT−4コーディング領域に対する付加的3’配列情報を表す。
図の説明の欄で既に説明したように、192bpの核酸断片を単離した。
再増幅工程から回収したPCR産物の実際の大きさは、ラットNT−4(GP
GVGGG)[配列番号:101]およびヒトNT−4(GPGAGGG)[配
列番号:102]DNA断片中にある7個の付加的アミノ酸のために、予測した
よりも大きかった。
rNT−4およびhNT−4の7個のアミノ酸挿入物は’GPGXGGG’[
配列番号:100](ここでrNT−4ではX=V、hNT−4ではX=A)と
記載される。バリンおよびアラニンは非極性R基を有する。その他の哺乳動物N
T−4タンパク質において、位置4に非極性R基を含むように位置4が保存され
ているか否か、また7bpの挿入物自体がその他の哺乳動物NT−4遺伝子の特
徴であるのか否かは現在のところ分かっていない。魚のNGFは本発明で記載す
るのと同じ領域に22アミノ酸の挿入物を有していることは興味深い。
9.実施例:NT−4ヒトゲノムクローンの単離および特性決定
本発明者らはEMBL3 SP6/T7中のヒト胎盤ゲノムライブラリー(C
lontech社、宿主はK802)をスクリーニングした。大きなNZYプレ
ート上に全量で1.25×106pfuをのせた。Schleicher &
Schuell社のニトロセルロースフィルターを用いて2枚移し取り、120
bpのプローブ(hNT−4クローン17Bから得た、このクロー
ンはプライマー2Z4Z、次いで2Z3Zを用いてヒトゲノムDNAから得た)
とハイブリダイズし、オリゴヌクレオチドプライマー2Z/3Zを用いてPCR
によって標識した。フィルターを60℃で、放射性標識したプローブ(106c
pm/ml)と、以下のハブリダイゼーション条件でハイブリダイズした:0.
5M NaPO4、1% BSA、7% SDS、1mM EDTA、および1
00μg/mlサケ精子DNA。フィルターを次いで60℃で、2×SSCおよ
び0.1% SDSで洗浄し、オートラジオグラフィーに付した。4日間暴露し
た後、2枚のフィルター上で陽性シグナルを同定した。合計7個のプラークを取
り出し、SMバッファー1ml中に入れて、2時間振とうし、以下のようにして
再び播いた:1)10-3希釈物(1ml中に1μl)100μlを得て、細胞1
00μlと混合して播き、ほとんどコンフルエントなプレートを得る;2)10-5
希釈物200μlを得て、単離プラークを得た。2枚の移し取ったフィルター
を作成し、上記と同様にしてhNT−4の120bpプローブでスクリーニング
した。2日間暴露した後、多くの陽性プラークを同定し、HG2、4および7を
コンフルエントなプレート上で得た。十分に単離された陽性プラークをHG4−
2およびHG7−2プレートの両方で同定した。HG4−2およびHG7−2に
対する単一プレートを取り出してSMバッファー500μlに入れ、2時間振と
うし、次いで溶出物100μlを細胞100μlと混合して播いた。次にプレー
トにSMバッファー3mlを注ぎ、上清を最初の高力価ストックとして回収した
。細胞100μlと混合したこの最初のストック100μlを用いて、3つのプ
レートに播い
た。プレートにSMバッファー3mlを注ぎ、3時間室温で回転振とうした。上
清を除去し、破片を遠心して除去し、次いでクロロホルムを添加して、これを第
2の高力価ストックとして用いた。HG4−2およびHG7−2の高力価ストッ
ク2μlをSchleicher & Schuell社のニトロセルロースフ
ィルターにスポットし、rNT−4の180bpプローブ[アミノ酸GELSV
CD(配列番号:112)(縮重プライマー)およびKAESAG(配列番号:
113)(正確なプライマー)をコードする我々のラットNT−4クローン配列
に基づいてデザインされたプライマーを用いて、ラットゲノムDNAからPCR
によって得た挿入物を含むプラスミドから単離]とハイブリダイズすることを見
いだした。プレート溶菌物および液体溶菌物をHG4−2、HG7−2およびH
G2−1について調製した。ファージDNAを作成し、そのアリコートをアガロ
ースゲル上で展開してサザン分析を行った。HG4−2、HG7−2およびHG
2−1は、rNT−4の180bpプローブ(上記のNaPO4ハイブリダイゼ
ーション、65℃)およびヒトPCR断片クローン17Bによってコードされる
アミノ酸配列GGGCRGVDRRHWVSE[配列番号:115]に対応する
45merのオリゴヌクレオチドプローブ(GGAGGGGGCTGCCGGG
GAGTGGACAGGAGGCACTGGGTATCTGAG)[配列番号:
114](6×SSC、45℃ハイブリダイゼーション)とハイブリダイズする
ことが見いだされた。これら3つのゲノムクローンに対する挿入物の大きさはお
よそ9−23kbである。これらはいずれもスクリーニングに使用されたプロー
ブ、hNT4(
120bp)およびrNT4(180bp)と密接に関連する遺伝子のコーディ
ングエキソンを含む。ゲノムクローンに対するファージDNAをいくつかの制限
酵素で消化してサザン分析に付した。プローブrNT4(180bp)とハイブ
リダイズする適当な断片をブルースクリプトベクターにサブクローニングするこ
とができる。サブクローニングするDNA断片の大きさは以下の通りである:ク
ローン2−1(1.0kb XhoI断片)、クローン4−2(4.0kb X
hoI断片)およびクローン7−2(5.0kb BamHI断片)。完全コー
ディング配列を得て、この情報を用いて該遺伝子を適当な発現ベクターにサブク
ローニングできるようなエキソン境界を同定することができる。
最後にヒトゲノムファージクローン7−2のヌクレオチド配列分析を実施した
が、このクローンはアフリカツメガエルNT−4のDNA配列に対する縮重オリ
ゴヌクレオチドを用いてヒトゲノムDNA由来のPCR断片でヒトゲノムライブ
ラリーをスクリーニングすることによって得られた(前述の議論の項参照)。配
列分析の結果、ヒトファージクローン7−2は、ゲノムライブラリーをスクリー
ニングするためにプローブとして用いたPCR断片の配列と同じ配列を含むこと
が明らかとなった。この配列は新規神経栄養因子をコードするエキソンと思われ
る中に含まれている(図18、配列番号:75および配列番号:76)
このエキソンによってコードされるタンパク質(図19、配列番号:77)を
公知のニューロトロフィン類と並べて比較してみたところ、上記タンパク質はす
べての公知のニューロトロフィンに見られる特徴をもっていることが明らかとな
った(図19、配
列番号:78−92)。従来ニューロトロフィンと同定されたもののプレプロ領
域間で保存されているのと同じアミノ酸の多くが保存されているプレプロ領域を
このタンパク質は有している。さらに、このプレプロ領域はその他のニューロト
ロフィン遺伝子と同じ領域に位置するスプライスアクセプター部位が前について
いる。プレプロ領域はまた、適当な位置にコンセンサスなグリコシル化部位を含
み、またその他のニューロトロフィンに見られる開裂部位と非常によく似た開裂
部位で停止する(図18)。しかしながら、7−2のプレプロ領域は、公知のニ
ューロトロフィンのプレプロ領域と比べて長さが短い点で独特である。長さの減
少はプレプロ領域のN末部分で起こっており、この部分はファミリーメンバーの
プレプロのうちでも最も保存されていない部分である。成熟領域は従来同定され
たすべてのニューロトロフィンに見られる6個のシステインすべてを保持してい
る。ニューロトロフィンファミリーの各種メンバー間で共通の残基の多くもまた
保存されている。ヒト7−2クローンによってコードされるタンパク質のラット
均等物に対応しうるラットゲノムDNAから由来するPCR断片が共有する大き
な配列類似性を排除して、コンピューターによる配列比較は、7−2ファージク
ローンによってコードされるニューロトロフィンがアフリカツメガエルのNT−
4のニューロトロフィンと最もよく似ていることを明らかにした。プレプロおよ
び成熟領域のいずれについてもそうである。公知のニューロトロフィンと比較し
て、成熟領域の第2と第3システインの間に位置する挿入物の存在のために、7
−2クローンによってコードされるタンパク質は特異である。
クローン7−2を産生したのと同じスクリーニング過程で単離されたさらに2
つのヒトクローンについても配列分析を行った(前述の議論の項参照)。これら
のクローンの配列はクローン7−2から得られた配列と似ているが同一ではなく
、このことはこれらが、その他の公知のニューロトロフィンよりももっと密接に
7−2と関連する新規ニューロトロフィンをコードする可能性を示唆している。
これらのクローンのうちの1つであるクローン2−1の部分配列を図20に示す
(配列番号:93および配列番号:94)。この配列は、図19に示す配列中の
アミノ酸番号50に対応する位置から開始する。もう1つのクローンであるクロ
ーン4−2の部分配列を図21に示す(配列番号:116および配列番号:11
7)。
10.実施例:ヒトNT−4の組織特異的発現
ヒトゲノムNT−4クローンであるHG7−2の全コーディング領域を含む6
80bPのXhoI−NotI断片を放射能標識し、種々のヒト組織特異的ポリ
A+RNAのノーザン分析に用いた。ヒト組織特異的mRNAを1%アガロース
−ホルムアルデヒドゲルの電気泳動によって分画し、次いでナイロン膜に10×
SSCで毛細管的に移し取った。UV光に暴露して膜にRNAを交差結合させ、
0.5M NaPO4(pH7)、1%ウシ血清アルブミン(フラクションV、
Sigma社)、7% SDS、1mM EDTAおよび100ng/mlの音
波処理、変性サケ精子DNAの存在下で、680bpのXhoI−NotI放射
能標識NT−4プローブと65℃でハイブリダイズした。フィルターを65℃で
、2×SSC、0.1% SDSで洗浄し、1つの増
強スクリーンとX線フィルムで−70℃で、一夜オートラジオグラフィーに付し
た。ゲルをエチジウムブロミドで染色したところ、異なる試料についても全RN
Aのレベルは均等にアッセイされることが示された。
ヒトNT−4プローブは骨格筋、前立腺、胸腺、精巣および胎盤からのmRN
Aと強くハイブリダイズした(図22)。NT−4プローブは前立腺mRNAよ
りも大きい骨格筋中の転写物とハイブリダイズした。このデータは、異なる発現
レベルと転写物サイズを有する小さなヒトNT−4多重遺伝子ファミリーが存在
しうることを示唆している。
骨格筋におけるヒトNT−4の高発現は、本発明が神経系の疾患、特に運動ニ
ューロンに影響を及ぼす広範囲な神経学的疾患の治療に利用しうることを示唆す
る(上記議論の項参照)。さらに、前立腺におけるヒトNT−4の高発現は、本
発明が前立腺の疾患、好ましくはBPHおよびインポテンツの治療に利用しうる
ことを示唆している(上記議論の項参照)。最後に、胸腺におけるヒトNT−4
の発現は、本発明が、これに限定するものではないが重症筋無力症を含む神経お
よび筋肉組織の免疫関連疾患の治療に利用しうることを示唆している。(上記議
論の項参照)。
11.実施例:真核細胞発現ベクター中におけるヒトNT−4の構築、および組換えヒトNT−4の生物活性の測定
11.1.材料および方法
11.1.1.ヒトNT−4をコードする真核細胞発現ベクターの構築
ヒトゲノムクローンHG7−2のプレプロ前駆体コーディング
領域を含む2つの真核細胞発現ベクターをpCMX中に構築した(NRRL受託
番号B−18790)。1つの構築物はpCMXの通常の翻訳開始部位を用い(
pCMX−HG7−2Q)、もう1つはKozakコンセンサス翻訳開始部位を
用いた(pCMX−HG7−2M)。ブルースクリプトのBamHI部位中にク
ローン化された全コーディング領域を含む、HG7−2の5kbゲノム断片を以
下のオリゴヌクレオチドを用いるPCRによって増幅した:
hNT4−5’XhoMとhNT4−3’Notとのオリゴヌクレオチドプライ
マーの組み合わせを用いてpCMX−HG7−2Mを構築し、hNT4−5’X
hoQとhNT4−3’Notとの組み合わせを用いてpCMX−HG7−2Q
を構築した。PCR断片をXho1/Not1で消化して、Xho1/Not1
消化したpCMX中にサブクローニングした。
11.1.2.ニュートロフィンプレプロ領域をヒトNT−4の成熟コーディング領域と融合したキメラ遺伝子の構築
ヒトNT−4の成熟部分をコードするさらに2つの真核細胞発現ベクターを構
築した。第1のものは、ヒトNT−4のプレプロ領域をアフリカツメガエルNT
−4のプレプロ領域と置換した(
pCMX−xNT4/hNT4)。第2のものは、ヒトNT−4のプレプロ領域
をヒトNT−3のプレプロ領域で置換した(pCMX−hNT3/hNT4)。p
CMX−xNT4/hNT4およびpCMX−hNT3/hNT4の構築には以
下のオリゴヌクレオチドを用いた:
5’CDM8およびhNT3/hNT4融合オリゴヌクレオチドをプライマー
とするPCRによってhNT−3含有プラスミドベクター(pC8−hNT3)
を増幅した。hNT3/hNT4融合”DS”オリゴヌクレオチドおよびhNT
4−3’Not1オリゴヌクレオチドを用いたPCRによってhNT−4含有プ
ラスミド(pCMX−HG7−2Q)を増幅した。得られたPCR断片をゲルか
ら切り出して、5’CDM8およびhNT4−3’Not1オリゴヌクレオチド
をプライマーとするPCRによって再増幅した。産物を次いでHindIIIと
PstIで消化してHindIII/PstI消化したpCMX−HG7−2Q
中にサブクローニングした。したがって、発現プラスミドpCMX−
hNT3/hNT4は、ヒトNT−4の成熟コーディング領域と融合したhNT
3プレプロ領域を含んでいた。同様に、5’CDM8およびxNT4/hNT4
/融合”US”オリゴヌクレオチドを用いたPCRによってヒトNT−4発現プ
ラスミド(pCMX−HG7−2Q)を増幅し、一方xNT4/hNT4/融合
”DS”オリゴヌクレオチドおよびhNT4−3’Not1オリゴヌクレオチド
でpCMX−HG7−2Qを増幅した。PCR産物をゲルから切り出して、5’
CDM8およびhNT4−3’Notオリゴヌクレオチドで再増幅した。産物を
次いでHindIIIとPstIで消化してHindIII/PstI消化した
pCMX−HG7−2Q中にサブクローニングした。したがって、得られる真核
細胞発現プラスミドpCMX−xNT4/hNT4は、ヒトNT−4の成熟コー
ディング領域と融合したアフリカツメガエルNT−4プレプロ領域を含む。
11.1.3.COS細胞中における組換えヒトNT−4の発現
10% FBS、グルタミンおよびピルビン酸Naを補充したDMEM培地中
(FBSを除くすべてはIrvine Scientific社から購入)で、
Costarの6ウエルディッシュの1ウエル当たり1.5×105細胞の密度
でCOS M5細胞を播いた。
翌日細胞を吸引し、400μg/mlDEAE−デキストラン(Pharma
cia社)、400μMクロロキン(Sigma社)、4mMグルタミン(Ir
vine社)、1×ITS(インシュリン、トランスフェリン、セレニウム、S
igma社)を含むRPMI培地2ml/ウエルを再供給した。各ウエルに適当
な
DNA2μgを加えてゆすって混合した。以下の3つの異なる構築物を用いた:
アフリカツメガエルNT−4のプレプロ前駆体を含むpCMX−xNT4;およ
び2つのヒトNT−4構築物であるpCMX−HG7−2MとpCMX−HG7
−2Q。DNAを添加した後、プレートを37℃、5% CO2のインキュベー
ターに3時間15分戻した。次いで培地/DNA混合物を吸引し、2ml/ウエ
ルのCa2+,Mg2+不含PBS中の10% DMSOを2分間加えた。DMSO
/PBSを吸引し、ウエルを10%FBS DMEMで1回洗浄し、次いで1回
FBS DMEMを再供給した。翌朝、生物アッセイすべきプレートを規定培地
(DM)で1回洗浄してDM2ml/ウエルを再供給した。トランスフェクショ
ンの後3日目に、細胞およびマイクロ遠心分離によりペレット化したデブリスか
ら上清を除いた。上清を新しい管に移して生物活性をアッセイした。
11.1.4.運動ニューロンに富む培養物の調製
すべての実験にはSprague−Dawleyラット(HSDまたはZiv
ic−Miller社)からの胚(E14)を用いた。妊娠ラットを二酸化炭素
窒息により殺して、胚を迅速に除去し、さらに切断するために氷冷培地中に入れ
た。妊娠14日目のラット胚から脊髄を無菌的に除去した。脊髄を尾部から延髄
まで(第1後根神経節のレベルで)切断し、知覚神経節および付着している髄膜
から取り出した。次いで別々に培養するために脊髄を腹側と後根中部部分とに分
けた。腹側脊髄組織を小片に刻み、PBS中の0.1%トリプシン(GIBCO
社)と0.01%デオキシリボヌクレアーゼタイプ1(Sigma社)中におい
て3
7℃で20分間インキュベートした。次いでトリプシン溶液を除去して、リンス
し、45%イーグルの最小必須培地(MEM)、45%ハムの栄養混合培地F1
2(F12)、5%熱インキュベートしたウシ胎児血清(GIBCO社)、5%
熱不活性化ウマ血清(GIBCO社)、グルタミン(2mM)、ペニシリンG(
0.5U/ml)およびストレプトマイシン(0.5μg/ml)からなる培地
で置換した。次に組織をパスツールピペットで静かに粉砕することにより機械的
に解離させ、上清を回収してナイロン繊維(Nitex、Tetko社、40μ
m)で濾過した。濾過した細胞懸濁液を次いでSchnaarおよびSchaf
fner(1981,J.Neurosci.1:204-217)の記載する分画方法の変法に付した
。すべての操作は4℃で行った。F12:MEM(1:1)培地中にメトリザミ
ド(metrizamide)を溶解して18%メトリザミドクッション(0.
5ml)、17%メトリザミド(3ml)、12%メトリザミド(3ml)およ
び8%メトリザミド(3ml)からなる非連続グラジエントを作成した。上記の
ようにして得られた濾過した腹側脊髄細胞懸濁液(2.5ml)を段階勾配上に
のせ、スイングアウトローター(Sorvall HB4)を用いて、管を25
00×gで15分間遠心した。遠心の結果、以下の3層の細胞が得られた:フラ
クションI(0−8%の界面)、フラクションII(8−12%の界面)およびフ
ラクションIII(12−17%の界面)。各界面からの細胞を少量(約1ml)
取り出し、グルタミン(2mM)、インシュリン(5μg/ml)、トランスフ
エリン(100μg/ml)、プロゲステロン(20nM)、プトレシン(10
0μM)、およ
び亜セレン酸ナトリウム(30nM)を補充した50%F12と50%MEMか
らなる血清不含規定培地(Bottenstein and Sato,1979,Proc.Natl.Acad.Sc
i.76:514-517)で2回リンスした。トリパンブルーの存在下で血球計によって
目視できる細胞数を計数した。分画した腹側脊髄細胞(運動ニューロンに富む)
を次いで、ポリ−L−オルニチン(Sigma社:10μg/ml)とラミニン
(GIBCO社:10μg/ml)で前コーティングした6mmウエル中に、1
00,000細胞/cm2の密度で播いた。NT−4を含むCOS細胞上清によ
る処理は播いた日に行った。培養は血清不含規定培地中で37℃、95%空気/
5%CO2雰囲気中、ほぼ100%相対湿度で維持した。2日(48時間)目に
細胞を回収してフォナム(Fonnum,1975,J.Neurochem.24:407-409)の記載す
るように、コリンアセチルトランスフェラーゼ(CAT)の測定を行った。
11.2.結果
11.2.1.生物活性な組換えヒトNT−4の真核細胞での発現
pCMXを基礎とする構築物(pCMX−HG7−2Q、pCMX−HG7−
2M、pCMX−hNT3/hNT4およびpCMX−xNT4/hNT4)の
それぞれからのプラスミドDNAを調製してそれぞれCOS細胞中にトランスフ
ェクションした。各トランスフェクション細胞系からのCOS上清を用いて、N
T−4の各組換え体の生物活性を評価した。試験したCOS上清の量は、全量2
ml中に10、50および250μlであった。Q1(pCMX−HG7−2Q
)、N7(pCMX−hNT3/h
NT4融合)、およびX1(pCMX−xNT4/hNT4)は、DRG移植物
において軸索促進活性を有していた(図23)。さらに、Q(pCMX−HG7
−2Q)とM(pCMX−HG7−2M)の両方を、DRG解離細胞において生
存促進活性を試験した。試験した容量は全量2ml中、5−250μlであった
。解離DRGニューロンの培養物に加えてところ、擬似(mock)トランスフ
ェクションしたCOS上清が10%の生存であるのに比較して、hNT4を含む
COS上清は30%のニューロン生存を促進した(図24)。
pCMX−HG7−2MでトランスフェクションされたCOS細胞の上清から
得たヒト組換えタンパク質の生物効果を、上記実施例11.1.4.のセクショ
ンで述べた方法で調製した運動ニューロンに富む培養物において試験した。運動
ニューロンに富む培養物を、1:5に希釈したpCMX−HG7−2M由来のヒ
トNT−4で処理したところ、非処理(C−NT)対照および擬似トランスフェ
クション(MOC COS)対照と比較して、48時間後にコリンアセチルトラ
ンスフェラーゼ(CAT)活性を2.9倍増強した。1:50で希釈したもので
試験したところ、CAT活性の増強は1.7倍に落ちたので、これは用量依存性
の応答であることが示唆された(図25)。
11.3.議論
本発明は組換えヒトNT−4を発現させるためのinvitroでの真核細胞
発現系の使用を提供する。本発明はCOS細胞中で、生物活性形の組換えヒトN
T−4を発現させるための幾つかの戦略を開示する。1つの例では、NT−4プ
レプロ前駆体を
コードするDNA配列を2つのPCR増幅戦略を用いて増幅して、pCMX翻訳
開始部位(pCMX−HG7−2M)またはKozakコンセンサス翻訳部位(
pCMX−HG7−2Q)のいずれかを含むpCMXを基礎とする発現プラスミ
ドを作成した。他の例では、アフリカツメガエルNT−4のプレプロ領域(pC
MX−xNT4/hNT4)またはヒトNT−3のプレプロ領域(pCMX−h
NT3/hNT4)のいずれかをNT−4の成熟コーディング領域と融合する2
つのキメラニューロトロフィン遺伝子を、COS細胞での発現用に構築した(i
n vitroでNT−4を発現させるためのキメラ構築物の使用に関する議論
は上記セクション5を参照)。
in vitroの真核細胞発現系における生物活性形のヒトNT−4の発現
は、ヒト組換えNT−4、ペプチドまたはその誘導体の生産規模を既に議論した
治療および診断双方への適用のために向上させる可能性を実質的に大きくする。
本発明の観点においては、当業者はここに開示するものと同一のDNA配列、ま
たは相同ではあるが異なるNT−4様タンパク質またはその誘導体をコードする
類似のDNA配列を含むプラスミドを容易に構築することができる。当業者であ
ればまた、真核細胞発現系に使用するために、発現プラスミド構築用の当業界で
公知の多数のDNAプラスミドベクターから取捨選択することができる。組換え
ヒトNT−4は、それが完全プレプロ前駆体として生産されるものであっても、
あるいはニューロトロフィンを基礎とするキメラ構築物を介するものであっても
、DRG移植物中の軸索成長における組換えNT−4 COS上清の効果、およ
び培養運動ニューロン
の生物活性を剌激することによって示しされように生物学的に活性であることを
本発明者らは実証した。
12.実施例:trkBがニューロトロフィン−4のレセプターである
COS細胞上清を3T3繊維芽細胞を用いる生存アッセイにおいても試験した
。このアッセイ系では、ニューロトロフィンレセプタータンパク質を発現しない
3T3繊維芽細胞をtrkAまたはtrkBのいずれかをコードする哺乳動物発
現ベクターでトランスフェクションする。3T3繊維芽細胞の生存性は、それぞ
れの神経栄養因子の添加およびそのレセプター特異的結合に依存する。
COS−M5細胞を培養して、実施例セクション11.1.3.に記載するp
CMX−HG7−2Q、pCMX−HG7−2MまたはpCMX−HG7−2Q
のいずれかでトランスフェクションした。
全長ラットtrkA cDNAクローンをスタンフォード大学のEric S
hooter博士から得た。ラットtrkA cDNAを哺乳動物発現ベクター
pCMXにサブクローニングしてpCMX−trkAを作成した。
trkBの最も5’および3’コーディング領域に対応するラットtrkB−
特異的オリゴヌクレオチドでラムダZAP2ベクター(Stratagene社
)中のラット脳cDNAライブラリーをスクリーニングすることによって全長ラ
ットtrkB cDNAクローンを得た。ラットtrkB cDNAをpCMX
中にサブクローニングしてpCMX−trkBを作成した。
3T3繊維芽細胞を培養してグラスら(Glass et al.,1991,Cell 88:405-41
3)が記載するようにトランスフェクションした。
この生存アッセイ系では、ニューロトロフィンレセプタータンパク質を発現し
ない3T3繊維芽細胞を、NGFのためのチロシンンキナーゼレセプターをコー
ドする癌原遺伝子であるtrkA、またはBDNFおよびNT−3のための機能
性結合タンパク質として作用するチロシンンキナーゼであるtrkBでトランス
フェクションした。トランスフエクションした細胞の生存性は対応するニューロ
トロフィンの添加に依存するので、ニューロトロフィンの生物活性のアッセイに
使用できるであろう。この生物アッセイにおけるNT−4含有COS細胞上清の
添加は、3T3 trkB培養物においてのみ48時間後に生存細胞が残ること
を示した(表2)。したがって、これらの結果は、NT−4タンパク質がこの系
で生物活性を有していることを示しており、またtrkAではなくてtrkBが
NT−4の機能性結合タンパク質として作用することを示唆している。
13.微生物の寄託
ニューロトロフィン−4に関連するヒトゲノム配列を含む以下の組換えバクテ
リオファージはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、12301
Parklawn Drive、Rockville、Maryland 20
852に1991年8月22日(HG4−2およびHG7−2)ならびに199
1年9月11日(HG2−1)寄託され、下記の受託番号を付与された。さらに
、キメラ遺伝子構築物pCMX−hNT3/hNT4はアメリカン・タイプ・カ
ルチャー・コレクションに1991年10月30日寄託され、以下の受託番号を
付与された。
バクテリオファージ ATCC受託番号
HG4−2 75069
HG7−2 75070
HG2−1 75098
pCMX−hNT3/hNT4 75133
本発明は寄託された微生物またはここに記載する特定の態様の範囲に限定され
ない。実際、ここに記載するものに加えて様々な本発明の変法が上記の記載およ
び添付の図面から当業者には明らかであろう。このような変法は付属の請求の範
囲に包含されることが意図されている。
ここに引用した様々な文献は参照することによりそのすべてを本明細書に包含
される。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI
C07K 19/00 9284−4C A61K 39/395 D
C12N 15/09 ZNA 37/02 AAA
C12P 21/02 AAB
G01N 33/53 ABA
// A61K 39/395 9162−4B C12N 15/00 ZNAA
(C12P 21/02
C12R 1:91)
(31)優先権主張番号 734,422
(32)優先日 1991年7月23日
(33)優先権主張国 米国(US)
(31)優先権主張番号 751,356
(32)優先日 1991年8月28日
(33)優先権主張国 米国(US)
(31)優先権主張番号 762,674
(32)優先日 1991年9月20日
(33)優先権主張国 米国(US)
(31)優先権主張番号 791,924
(32)優先日 1991年11月14日
(33)優先権主張国 米国(US)
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IT,LU,MC,N
L,SE),AU,CA,CS,FI,HU,JP,K
R,NO,RU
(71)出願人 マックインタイアー,キャサリン ロウ
アメリカ合衆国 11746 ニューヨーク州
ディックス ヒルズ,ハーフ ホロー
ロード 640
(72)発明者 ハルブック,フィン
スウェーデン国 ウプサラ エス−75231
ガイジャースガタン 48エイ
(72)発明者 イバネッツ モリナー,カルロス フェル
ナンド
スウェーデン国 ハガーステン エス−
12638 タングヴァーゲン 29
(72)発明者 ペルッソン,ハーカン ベント
スウェーデン国 チュンバ エス−14743
ヴレータ ガード (番地なし)
(72)発明者 アイピー,ナンシー
アメリカ合衆国 06902 コネチカット州
スタムフォード,エミリー ドライブ
23
(72)発明者 ヤンコパウロス,ジョージ ディー.
アメリカ合衆国 10510 ニューヨーク州
ブライアークリフ メイナー,スリーピ
ー ホロー ロード 428
【要約の続き】