【発明の詳細な説明】
新規化学的保護化合物ならびにその調製法及び用途
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、新規の有用な化合物、その用途及びその調製法に関する。さらに詳
細には、本発明は、化学的保護(chemopreventive)活性を有する新規化合物な
らびに該化合物を調製するための方法及び活性成分として該化合物を含んで成る
組成物に関する。
2.先行技術の記載
生体は、生体異物を不活性化するかまたはその親油性を減じて疎水性物質へと
変換することにより、それら生体異物を排泄する機能を有する。これらの機能は
、種々の酵素の仲介により実施され、酵素の種類に依存してフェーズI反応(酸
化、還元及び加水分解)ならびにフェーズII反応(抱合)の、2つの群に分類さ
れうる。時として、これらの機能が逆に実施されて、細胞内の高分子に損傷を惹
起こすかもしれない、より反応性の高い化合物を形成し、かくして癌の形成が誘
導される。
特に、肝細胞及び他の細胞の滑面小胞体に存在している、シトクロムP-450(C
YP 450)は、フェーズI反応に関与する酸化酵素である。シトクロムP-450は生
体内で合成されるステロイド、脂肪酸及びアミンを酸化するのみならず、医薬、
化学発癌物質及び変異原性物質をより親水性の高い排泄可能な物質へと代謝する
。ところが、シトクロムP-450は時として、生体異物を活性化し、高分子に損傷
を惹起こし、その結果癌の形成を誘導す
る(ブラック、エス ディー(Black, S.D.)、クーン、エム ジェイ(Coon, M
.J.)、P-450 cytochromes:Structure and function、Adv. Enzymol.、60巻35
〜87頁(1987))。シトクロムP-450は、塩基配列の類似性によって遺伝子ファ
ミリー及びサブファミリーに分類される。P-450の多様な型のなかで、シトクロ
ムP-450 2E1は広範な外来性物質に対してきわめて高い特異性を有し、外来性物
質を活性化することによりそれらの毒性を増強せしめる。
例えば、慢性アルコール中毒者において、アセトアミノフェンを治療的に有効
な量投与すると肝毒性が惹起こされる。これは、シトクロムP-450 2E1が高い基
質特異性をもってアセトアミノフェンを活性化し、活性化されたアセトアミノフ
ェンがタンパク質などの高分子を攻撃して、肝壊死を生じさせるからである(リ
ートン、エス エー(Wrighton, S.A.)、トーマス、ピー イー(Thomas, P.E.
)、モロワ、ディー ティー(Molowa, D.T.)、ハニウ、エム(Haniu, M)ガゼ
リアン、ピー エス(Guzelian P.S.)、Characterization of ethanol-inducib
le human liver N-nitrosodimethylamine demethylase、Biochemistry、25巻、6
731〜6735頁(1986))。
肝壊死を惹起こす四塩化炭素の代謝について、反応性代謝物のレベルの増大が
シトクロムP-450 2E1の発現の増大に密接に関連していると報告されている(ア
ンシャー、エス エス(Ansher, S.S.)、ドラン、ピー(Dolan, P.)、ブーデ
ィング イー(Bueding E.)、Chemoprotective effects of two dithiolthione
s and buthy lhydroxyanisole against carbon tetrachloride and acetaminoph
en toxicity、Hepatoloty、3巻、932〜935頁(1983))。シトクロムP-450 2E1
はまた、癌原物質前駆体であるニトロソアミンへの高い親和性に起因して、生体
異
物を活性化するうえで重要な役割も果たしている(ペン、アール(Peng, R.)、
ヤン、シー エス(Yang, C.S.)、The induction and competitive inhibition
of a high affinity microsomal mitrosodimethylamine demethylase by ethan
ol、Carcinogenesis、3巻、1457〜1461頁(1982))。
ベンゼンは、白血球減少症、白血病及び無顆粒球性貧血症を誘発することが知
られており、シトクロムP-450 2E1がベンゼンの代謝に関与することが報告され
ている(ルイス、ジェイ ジー(Lewis, J.G.)、スチュワート、ダブリュー(S
tewart, W.)、アダムス、ディー シー(Adams, D.C.)、Role of oxygen radi
cals in induction of DNA damage by metabolite of benzene、Cancer Res.、4
8巻、4762〜4765頁(1988))。最近、この酵素が吸入麻酔剤であるハロセン(h
alothane)に対してきわめて高い基質特異性を示し、肝毒性を惹起こすことが報
告されている。これは、中間体から形成され増加したトリフルオロアセチル遊離
ラジカルが肝臓のタンパク質と付加物(adduct)を形成し新生抗原(neoantigen
)をつくるという事実に起因する(ケンナ、ジェイ ジー(Kenna, J.G.)、ポ
ム、エル アール(Pohm,L.R.)、Factors affecting the expression of trifl
uoroacetylated microsomal protein neoantigen in rats treated with haloth
ane、Drug Metab. Dispos.、18巻、788〜792頁(1990))。
さらに、シトクロムP-450 2E1はイソニアジド、エタノール、アセトン、p-ニ
トロソジメチルアミン、ニトロソアミン、フェノール、ピリジン、ピラゾール、
p-ニトロフェノール、アニリンまたはジエチルエーテルなどの種々の低分子有機
物質を活性化することによって、肝毒性の増強に密接に関連している。シトクロ
ムP-450 2E1はまた、絶食または糖尿病などの疾患により誘
導されうる。
他方、例えばグルタチオンS-トランスフェラーゼ(以下、「GST」と称する)及
びミクロソームのエポキシドヒドロラーゼ(以下、「mEH」と称する)などといっ
たフェーズII反応に関与する酵素は、外来性の毒性物質を解毒する役割を有する
。これらの酵素は種々の経路で、例えば、GSTの相異なるアイソザイムはグルタ
チオンから求電子性受容体にチオール基を転移し、mEHは酸化物を水和する、な
どといった経路で外来性の毒性物質を解毒する。従って、このような酵素の量が
増大することが、酸化的損傷及び環境からのストレスから組織を保護するうえで
重要な役割を果たしうる(ピケット、シー ビー(Pickett, C.B.)、ルー エ
ー ワイ エイチ(Lu, A.Y.H.)、Glutathione S-transferase; Genes tructu
re, regulation and biological function、Annu. Rev. Biochem.、58巻、743〜
764頁(1983)及びシーデグラッド、ジェイ(Seidegrad, J.)デピエール、ジェ
ーダブリユー(DePierre, J.W.)、Microsomal epoxide hydrolase properties,
regulation and function、Biochim. Biophys.Acta.、695巻、251〜270頁(198
3))。
従って、生体異物の活性化に起因する癌の誘発及び毒性は、代謝を修飾するこ
とによって、すなわち、フェーズI反応を阻害して活性化された毒性中間体の形
成を阻害することにより、及びフェーズII反応を増強して毒性物質の排泄を促進
することにより、阻止することができる。前記のように代謝修飾活性を有する化
学的保護剤を提供すべく、夥しい研究がなされてきている。それらの結果として
、化学的保護活性を有するいくつかの化合物が報告されている。
例えば、食物の抗酸化剤であるブチルヒドロキシアニソールは、フェーズII反
応に関与する酵素を誘導することにより抗癌
活性を示し(チャ、ワイ エヌ(Cha, Y.N.)、ブーディング、イー、Effect of
2(3)-tert-butyl-4-hydroxyanisole administration on the activities of
several hepatic microsomal and cytoplasmic enzymes in mice、Biochem.Phar
macol.、28巻、1917〜1921頁(1979))、またブチルヒドロキシトルエンもやは
り、フェーズII反応に関与する酵素を誘導することにより抗癌活性を示す(チャ
、ワイ エヌ、及びハイネ、エイチ エス(Heine, H.S.)、Comparative effec
ts of dietary administration of 2(3)-tert-butyl-4-hydroxyanisole and 3
,5-ditert-butyl-4-hydroxytoluene on the several hepatic enzyme activitie
s in mice and rat、Cancer Res.、42巻、2609〜2615頁(1982))。天然に存在
している化合物かまたはピラジンアミドもしくはオルチプラツ(oltipraz)など
の合成医薬であるピラジンは、フェーズI反応に関与する酵素であるシトクロム
P-450 2E1のみならずフェーズII反応に関与する酵素であるGST及びmEHも誘導す
る活性を有することが報告されている(ノバック、アール エフ(Novak, R.F.
)、キム、エス ジー(Kim, S.G.)、ブルックス、エス シー(Brooks, S.C.
)、プリミアノ、ティー(Primiano, T.)、スリナス、エフ(Slinas, F.)及び
ノバック、ジェー シー(Novak, J.C.)、Thiazole, pyridazine and pyrazine
induction of glutathione S-transferase of rat、Toxicologist、11巻、48頁
(1990))。分子内にピラジンを含有するオルチプラツもまた、フェーズII反応
の酵素を誘導する能力を有するので、肺癌及び胃癌を抑制することができる。
しかしながら、これらの物質はフェーズII反応の酵素を誘導する能力を有する
ものの、フェーズI反応の酵素に対する阻害活性は示さない。
他方、ニンニクオイルの成分であるアリルスルフィドは、癌原物質の前駆体で
あるニトロソアミンを活性化するシトクロムP-450 2E1の発現を阻害することに
より肝癌及び大腸癌を強く抑制することが報告されている(ブラディ、ジェー
エフ(Brady,J.F.)、リ、ディー(Li, D.)、イシザキ、エイチ(Ishzaki, H.
)及びヤン、シー エス(Yang, C.S.)、Effect of diallylsulfide on rat li
ver microsomal nitrosoamine metabolism and other monooxygenase activitie
s、Cancer Res.、48巻、5937〜5940頁(1988)ならびにヘイズ、エム エー(Ha
yes, M.A.)、ラシュモア、ティー エイチ(Rushmore, T.H.)及びゴールドバ
ーグ、エム ティー(Goldberg, M.T.)、Inhibition of hepatocarcinogenic r
esponses to1, 2-dimethylhydrazine by diallylsulfide, a component of garl
ic oil、Carcinogenesis、8巻、1155〜1157頁(1987))。さらに、本願発明者
らは、アリルスルフィドがシトクロムP-450 2E1の発現を強く阻害し、さらにピ
ラジンの作用により誘導されたシトクロムP-450 2E1を完全に抑制することを明
らかにしている(Biochemical Pharmacology、投稿中、1993)。
しかしながら、フェーズI反応の酵素を阻害すると共にフェーズII反応の酵素
を誘導する、有効な化学的保護剤はない。
本願発明者らは、フェーズI反応の酵素の発現及び活性を阻害すると共に、フ
ェーズII反応の酵素を誘導し且つイソニアジドなどの阻害物質による阻害からそ
れらの酵素を回復させる、化学的保護剤を提供するために夥しい研究を行った。
その結果、本発明を完成するに至ったのである。
発明の要約
かくのごとく、本発明の目的は、フェーズI反応の酵素を阻
害して活性化された毒性の中間代謝物の形成を妨げうるのみならず、フェーズII
反応を誘導して毒性物質の排泄を促進せしめることができる、新規のピラジン誘
導体を提供することである。
本発明の他の目的は、以下の一般式(I):
(式中、R1は水素原子またはC1〜3のアルキル基を表し、また
R2はフェニルもしくはフラニル基、または一般式:−C(Ra)=C(Rb)
(Rc)(式中、Ra、Rb及びRcは同じかまたは互いに異なっており、水素原子
またはメチルもしくはフェニル基を表す)により示される基を表す)
で示される構造を有する新規化合物を提供することである。
本発明の他の目的は、式(II):
の化合物を、一般式(III):
(式中、Xはハロゲン原子または水酸基を表し、また、
R1及びR2は前記定義と同様のものを表す)
の化合物と反応させることを含んで成る、化合物(I)の調製法を提供すること
である。
本発明のいまひとつの目的は、有効成分として化合物(I)
を含んで成る、肝に損傷を与えうる化学物質から肝を保護するための薬剤組成物
を提供することである。
本発明の他の目的及び本発明の適用は、以下の発明の詳細な説明によって、当
業者に明らかとなるであろう。
図面の簡単な説明
図1は、コーン油、ピラジン及び本発明の化合物を用いて処理したラットから
の肝ミクロソームの、抗-P450 2E1抗体を用いたイムノブロット分析(実験例1
(1))を示す図である。
図2は、ピラジン及び本発明の化合物を用いた処理に続くp-ニトロソフェノー
ルヒドロラーゼ活性の経時変化(実験例1(2-1))を示す図である。
図3は、ピラジン及び本発明の化合物を用いた処理に続くアニリンヒドロキシ
ラーゼ活性の経時変化(実験例1(2-2))を示す図である。
図4は、ピラジン及び本発明の化合物を用いた処理に続くN-ニトロソジメチル
アミンデメチラーゼ活性の経時変化(実験例1(2-3))を示す図である。
図5は、コーン油、INAH、INAHと本発明の化合物の併用、を用いて処理したラ
ットから単離したミクロソームの、抗-P4502E1抗体を用いたイムノブロット分析
(実験例2)を示す図である。
図6は、コーン油、ピラジン及び本発明の化合物を用いて処理したラットから
単離した肝ミクロソームの、抗-mEH抗体を用いたイムノブロット分析(実験例3
(1))を示す図である。
図7は、コーン油及び本発明の化合物を用いた処理に続くグルタチオンS-トラ
ンスフェラーゼ活性の経時変化(実験例3(2))を示す図である。
図8は、ピラジン及び本発明の化合物を用いた処理に続くグルタチオンS-トラ
ンスフェラーゼ活性の経時変化(実験例3(2))を示す図である。
図9は、コーン油、ピラジン、本発明の化合物及びピラジンと本発明の化合物
との併用を用いた処理後のグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性(実験例3(
2))を示す図である。
図10は、コーン油及び本発明の化合物を用いて処理したラットから単離したミ
クロソームの、抗-mEH抗体を用いたイムノブロット分析(実験例4)を示す図で
ある。
発明の詳細な説明
本明細書中で用いられる、「化学的保護」の語は、ある化合物がフェーズI反
応を抑制して活性化された毒性の中間代謝物の形成を妨げることができると共に
、フェーズII反応を増大せしめて毒性物質の排泄を促進することができることを
意味する。本発明の化合物はフェーズI反応の誘導剤またはフェーズII反応の阻
害剤の存在下において有効であり、従って、肝臓が種々の化学物質により損傷を
受けることから有効に保護することができる。
本発明によれば、以下の一般式(I):
(式中、R1は水素原子またはC1〜3のアルキル基を表し、また
R2はフェニルもしくはフラニル基、または一般式:−C(Ra)=C(Rb)
(Rc)(式中、Ra、Rb及びRcは同じかまたは互いに異なっており、水素原子
またはメチルもしくはフェニ
ル基を表す)により示される基を表す)
で示される構造を有する新規ピラジン誘導体が提供される。
とりわけ、R1が水素原子またはメチル基であり、且つR2が一般式:−C(Ra
)=C(Rb)(Rc)(式中、Ra、Rb及びRcは同じかまたは互いに異なって
おり、水素原子またはメチル基を表す)により示される基である化合物(I)が
好ましい。
高い化学的保護活性を示す、最も好ましい化合物(I)を、以下の表1に掲げ
る。
本発明によれば、化合物(I)の調製法が提供される。
方法は、化合物(II):
を化合物(III):
(式中、Xはハロゲン原子または水酸基を表し、また、
R1及びR2は前記定義と同様のものを表す)
と反応させることを含んで成る。
Xがハロゲン原子である化合物(III)が、化合物(II)と反応せしめられる
場合、例えばN,N-ジメチルホルムアミドまたはN,N-ジメチルアセタミドといった
不活性の溶媒中で塩基の存在下に反応を行うとよい。本発明において用いられる
塩基には、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N-ジメチルアニリ
ンまたはジアザビシクロウンデセン(diazabicycloundecene)などが挙げられる
が、それらに限定されない。反応温度は0℃〜100℃、好ましくは30℃〜80℃の
間で変化してよい。反応時間は、1〜5時間の間の範囲にある。
Xが水酸基である化合物(III)を用いた場合、化合物(III)は、化合物(II
)と反応せしめられる中間体を形成すべく、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、
ジクロロメタン、クロロホルムまたはテトラヒドロフランなどといった不活性の
溶媒中でトリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィンを用いて処理される。こ
の目的のため、化合物(II)は、例えばトリエチルアミン、トリメチルアミンま
たはN,N-ジメチルアニリンなどといった有機塩基の助けにより、N,N-ジメチルア
セタミドなどの不活性溶媒中に溶解される。
本発明はさらに、有効成分として化合物(I)を含んで成る薬剤組成物を提供
する。組成物は薬学的に許容しうる通例の担体または賦形剤を含有することがで
きる。組成物は、固形、液体または散剤の形態に、通常の技術に従って剤形化す
るとよい。
剤形化の技術及び添加物は、薬学分野において通常用いられており、本発明に
よって限定されることはなく、当業者により難なく選択されうる。
化合物(I)がヒトまたは動物に投与される経路は、限定さ
れることはない。化合物(I)の量は投与経路、年齢及び適用される症候、また
は目的に応じて変動しうるが、50〜500mg/kg、好ましくは100〜300mg/kgの間の
範囲から選択されるとよい。
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に述べるが、これら実施例により本
発明がいかようにも限定されることは意図していない。参考例1
:2-メルカプトピラジンの調製
5.0gの2-クロロピラジンを40mlのジメチルホルムアミド中に溶解し、5.0gのNa
SH・xH2Oをそれに添加した。混液を2時間、60℃に加熱し、5℃に冷却した。そ
の結果得られた沈殿物を瀘過し、瀘液に400mlのジエチルエーテルを添加した。
沈澱をジエチルエーテルで洗浄し、乾燥して3.0gの黄色の固体を得た。
IR(KBr): 1650、1570、1562、1425cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm: 7.60(d, 1H)、7.80(d, 1H)、8.55(s, 1H)、
14.35(bs, 1H)実施例1-1
:2-(2-プロペニルチオ)ピラジンの調製
参考例1において調製した6.57gの2-メルカプトピラジンを、80mlのジメチル
ホルムアミド中に溶解し、8.6mlのトリエチルアミンをそれに添加した。その溶
液に6.84mlの臭化アリルを添加し、混液を50℃にて2時間攪拌した。500mlの氷
水を反応溶液に添加し、得られた混液をジエチルエーテルで抽出して濃縮した。
残渣を減圧蒸留して、7.85g(85%)の油状の淡黄色の液体を得た。
沸点 0.5 torr/68〜69℃
IR(パラフィン油): 1700、1633、1559、1506cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm: 3.77(d, 2H)、5.10(d, 1H)、5.30(d, 1H)、
5.81〜6.02(m, 1H)、8.33(s, 1H)、
8.48(s, 1H)、8.60(s, 1H)実施例1-2
:2-(2-プロペニルチオ)ピラジンの調製
臭化アリルの代わりに塩化アリルを用いたこと以外は実施例1-1と同じ手順を
行って、標記の化合物を得た。
沸点0.5 torr/68〜69℃
IR(パラフィン油): 1700、1633、1559、1506cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm: 3.77(d, 2H)、5.10(d, 1H)、5.30(d, 1H)、
5.81〜6.02(m, 1H)、8.33(s, 1H)、
8.48(s, 1H)、8.60(s, 1H)実施例1-3
:2-(2-プロペニルチオ)ピラジンの調製
0.58gのアリルアルコールを、50mlのジクロロメタン中に溶解し、2.89gのトリ
フェニルホスフィン及び1.96gのN-ブロモスクシンイミドをそれに添加した。混
液を室温にて30分間攪拌し、前記溶液に1.0gの2-メルカプトピラジン及び1mlの
トリエチルアミンを溶解した5mlのジメチルホルムアミド溶液を添加した。得ら
れた混液を室温にて1時間攪拌し、ついで100mlの水の中に注加した。有機層を
分離して、濃縮乾燥した。残渣は、溶離液として酢酸エチル:n-ヘキサン=1:
1を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製して、標記の化合物を0.6g
得た。
沸点0.5 torr/68〜69℃
IR(パラフィン油): 1700、1633、1559、1506cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm: 3.77(d, 2H)、5.10(d, 1H)、5.30(d, 1H)、
5.81〜6.02(m, 1H)、8.33(s, 1H)、
8.48(s, 1H)、8.60(s, 1H)実施例2
:2-(ベンジルチオ)ピラジンの調製
臭化アリルの代わりに臭化ベンジルを用い、且つ溶離液として酢酸エチル:n-
ヘキサン=1:5を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行
ったこと以外は実施例1-1と同じ手順を行って、標記の化合物を得た。
融点65〜67℃(白色固体)
IR(KBr): 1500、1445、1380cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm: 4.45(s, 2H)、7.2〜7.35(m, 5H)、
8.2〜8.35(m, 3H)実施例3
:2-(3-メチル-2-ブテニルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりにプレニルアルコールを用いたこと以外は実施例1
-3と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1501、1375cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 1.74(s, 6H)、3.81(d, 2H)、5.35(m, 1H)、
8.2、8.35、8.4(m, 3H)実施例4
:2-(シンナミルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりにシンナミルアルコールを用いたこと以外は実施例
1-3と同じ手順を行って、白色の固体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1490、1440、1380cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 4.04(d, 2H)、6.35(tt, 1H)、6.6(d, 1H)、
7.2〜7.4(m, 5H)、8.2、8.4、8.47(m, 3H)実施例5
:2-(フルフリルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりにフルフリルアルコールを用いたこと以外は実施例
1-3と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1450、1456、1382cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 4.46(s, 2H)、6.26(m, 2H)、7.34(d, 1H)、
8.2、8.4、8.45(m, 3H)実施例6
:2-(3-メチル-3-ブテニルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりに3-メチル-3-ブテン-1-オルを用いたこと以外は実
施例1-3と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1500、1450、1370cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 1.80(s, 3H)、2.42(t, 2H)、3.3(t, 2H)、
4.8(d, 2H)、8.2、8.4、8.45(m, 3H)実施例7
:2-(2-ブテニルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりに2-ブテン-1-オルを用いたこと以外は実施例1-3
と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1502、1455、1381cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 1.7(d, 3H)、3.8(d, 2H)、5.6(m, 2H)、8.2、
8.4、8.45(m, 3H)実施例8
:2-(3-ブテニルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりに3-ブテン-2-オルを用いたこと以外は実施例1-3
と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1502、1475、1380cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 1.4(d, 3H)、4.4(m, 1H)、5.0(d, 1H)、
5.2(d, 1H)、5.9(m, 1H)、8.14、8.3、
8.35(m, 3H)実験例1
:フェーズI反応の阻害(1)
(1)ウェスタンブロット分析
フェーズI反応に関与する酵素の発現に対する本発明の化合物の効果を調べる
ために、以下のようにウェスタンブロット分析を行った。
体重190±30gの雄性スプラグ−ドウリー(Sprague-Dawley)ラット28匹を、7
群に分けた。第1群には対照群として、体重200g当たり0.1mlのコーン油を腹腔
内投与した。第2〜第4群には、コーン油で希釈したピラジンを200mg/kg体重の
投与量でそれぞれ1、2または3日間、腹腔内投与した。第5〜第7群には、実
施例1-1において調製した化合物をコーン油で希釈して、200mg/kg体重の投与量
でそれぞれ1、2または3日間、腹腔内投与した。被検化合物は、およそ午前11
時に投与した。
ラットは、被検化合物を投与した後18時間絶食させ、翌日のおよそ午前7〜8
時に頚部脱骨により屠殺した。致死直後に、肝組織から血液を除去すべく、肝門
脈を通じて生理的食塩水を潅流させた。肝臓を取り出し、細かくミンスした。4
倍容量の0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH 7.4)を加え、肝組織をホモジナイズした。
すべての工程を、4℃の一定温度にて行った。ホモジナイズした組織を12,000g
にて20分間遠心し、その上清を105,000gにて1時間超遠心して、上清のサイトゾ
ルからミクロソームを沈澱として分離した。このようにして得られたミクロソー
ムを、0.1MトリスKClに分散させ(distributed)、105,000gにて1時間超遠心し
て清澄化し、純粋な肝ミクロソームを得た。
このようにして分離したミクロソームを、リームリ(Laemmli)の方法(リー
ムリ、ユー ケー(Laemmli, U.K.)、Cleavage of structual proteins during
assembly of the head of thebacteriophage T4、Nature、227巻、680〜685頁
(1970))に従って、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳
動(以下、「SDS-PAGE」と称する)でのイムノブロッティングに付した。
バイオラッド(BioRad)ミニプロテイン(Mini Protein)IIを用い、ゲルは以
下のように調製した。
4.9mlの第2蒸留水、2.5mlの1.5Mトリス緩衝液(pH 8.8)、50μlの20%ドデ
シル硫酸ナトリウム(SDS)及び30%アクリルアミドと0.8%ビスアクリルアミド
との混液2.5mlを混合し、真空を利用して容器内を脱気し、50μlの10%過硫酸ア
ンモニウム及び5μlのN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンを加え、そして
得られた混液を2枚のガラス板の間に1時間静置してゲルを得ることにより、分
離ゲルを調製した。
7.35mlの第2蒸留水、1.25mlの1.5Mトリス緩衝液(pH 6.8)、50μlの20%SDS
及び30%クリルアミドと0.8%ビスアクリルアミドとの混液1.3mlを混合し、真空
を利用して容器内を脱気し、50μlの10%過硫酸アンモニウム及び10μlのN,N,N'
,N'-テトラメチルエチレンジアミンを加え、そして得られた混液を2枚のガラス
板の間に1時間静置してゲルを得ることにより、スタッキングゲルを調製した。
第1、第2及び第3群から得たミクロソームを、試料用緩衝液(1Mトリス(pH
6.8)2.5ml、80%グリセロール5ml、20%SDS5ml、1%ブロモフェノールブルー0
.2ml、β-メルカプトエタノール2ml及び第2蒸留水5.3ml)を用いて希釈し、100
℃に5分間加熱した。希釈の割合は、各試料が7μl当たり20
μgのシトクロムP-450 2E1を含有するように定めた。
試料をゲル上に載せ、展開用(running)緩衝液(1L中に、3.04gのトリス、1
4.42gのグリシン及び5mlの20%ADS)を用いて電気泳動を行った。適用した電流
の強度は、スタッキングゲルに対しては12.5mA、展開ゲルに対しては20mAである
。
電気泳動終了後、ゲルをデイビス(Davis)の方法(デイビス、エル ジー(D
avis, L.G.)、ディブナー、エム ディー(Dibner,M.D.)、バッティ、ジェイ
エフ(Battey, J.F.)、Basicmethods in molecular biology、ニューヨーク
、エルセビエ(Elsevier)、311〜314頁(1986))に従ってウエスタンブロット
分析に付した。バイオラッドミニトランス−ブロット(MiniTrans-blot)を用い
て、70ボルトにて2時間、ニトロセルロースペーパーにゲルを転写した。転写用
緩衝液は、1Lの蒸留水中に、3.04gのトリス、14.42gのグリシン及び200mlのメ
タノールを溶解することにより調製した。転写終了後、ニトロセルロースペーパ
ーは水洗し、3%脱脂乳溶液中に4℃にて一晩浸漬した。
次いで、生理的食塩水を用いて洗浄し、以下の免疫化学的分析に付した。
14μlのヤギ抗ウサギP-450 2E1 IgGを15mlのPBSに混合し、前記の処理を施し
たニトロセルロースペーパーを含むバッグの中に入れて、2時間振盪した。PBS
で洗浄したニトロセルロースペーパーに、15μlのビオチン化したロバ抗ヤギIgG
を含む15mlのPBSを加え、2時間反応させた。PBSを用いて反応混合物を洗浄し、
1μlのストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼを含む15mlの
PBSを添加した。1時間の反応の後、4-クロロ-1-ナフトール(1mg/ml メタノー
ル)及び15μlの過酸化水素を反応混合物に加えた。約30秒後に、発色が観察さ
れると、脱イオン水で洗浄して反応を停止した。
結果を図1に示す。ピラジン投与群、すなわち第2〜第4群では、投与期間に
比例してP-450 2E1の発現が有意に増大することが示された。しかしながら、実
施例1-1の化合物が与えられた第5〜第7群では、投与期間に比例してP-450 2E
1の発現がかなり低減することが示された。特に、2及び3日間投与された第6
及び第7群ではそれぞれ、対照群よりも発現が低いという、タンパク質発現の低
減における有意な効果が示された。
(2)酵素活性
フェーズI反応に関与する酵素の活性に対する本発明の化合物の効果を調べる
ために、以下の実験を行った。
(2-1)p-ニトロフェノールヒドロキシラーゼ
体重190±30gのスプラグ−ドウリーラットの6群に、ピラジン(第1〜3群)
または実施例1-1にて調製した化合物(第4〜6群)を、1、2または3日間、
200mg/kgの投与量で投与した。前記の(1)と同様の手順に従って肝ミクロソー
ムを分離した後、p-ニトロフェノールヒドロラーゼの活性を、クープ(Koop)の
方法(デニス アール クープ(Danis R. Koop)、Hydroxylation p-nitrophen
ol by rabbit ethanol induciblecytochrome P-450 isozyme 3a、Molecular Pha
rmacol.、29巻、399〜404頁(1986))に従って測定した。
すなわち、1mgのミクロソーム及び1mMのp-ニトロフェノールを、0.6mlの0.1M
リン酸カリウム緩衝液(pH 6.8)に添加し、総容量を0.9mlとした。得られた混
液を、37℃のインキュベーター中で2分間、前反応せしめ、1mM NADPH(0.1ml)
を添加して反応を開始した。3分後に0.5mlの0.6N過塩素酸を添加して、発色さ
せ、ただちに546nmにおける吸光度を測定した。酵素活性は、1分間の反応によ
る、産物である4-ニトロカテコールのモル濃度として表した。
結果を図2に示す。図2において、符号「★」は各個体の有意差を意味してお
り、「★」「★★」及び「★★★」はそれぞれ、p<0.05、p<0.01及びp<0.001を
示す。これはすべての図について同様である。図2より認められるように、4〜
6群(本発明の化合物を与えた)において、1〜3群(ピラジンを与えたに比し
て、1、2及び3日の投与につきそれぞれ64%、73%及び82%、p-ニトロフェノ
ールヒドロラーゼの活性が低減している。
(2-2)アニリンヒドロキシラーゼ
アニリンヒドロキシラーゼの活性を測定するために、前記と同じ手順(2-1)
を行った。アニリンヒドロキシラーゼの活性は、ミーヤル(Mieyal)の方法(ジ
ョン ジェイ ミーヤル(John J.Mieyal)、Acceleration of the autooxidati
on of human oxyhemoglobin by aniline and its relation to hemoglobin-cata
lyzed aniline hydroxylation)、J. Biol. Chem.、251巻、3442〜3446頁(1976
))に従って測定した。
すなわち、1mgのミクロソーム及び5mMのアニリンを、0.6mlの0.1Mリン酸カ
リウム緩衝液(pH 6.8)に添加し、総容量を0.9mlとした。1mM NADPHを添加し
て総容量を1.0mlとし、得られた混液を37℃にて反応させた。10分後に、20%ト
リクロロ酢酸を添加して反応を停止し、反応混液を遠心した。1mlの上清に、0.1
mlの5%フェノール及び0.1 N NaOHに溶解した2.5N炭酸ナトリウム0.1mlを添加し
た。混液を30分間静置して発色させ、ただちに630nmにおける吸光度を測定した
。酵素活性は、1分間の反応による、産物である4-アミノフェノールのモル濃度
として表した。
結果を図3に示す。図3より認められるように、4〜6群(本発明の化合物を
与えた)において、1〜3群(ピラジンを
与えた)に比して、1、2及び3日の投与につきそれぞれ57%、80%及び88%、
アニリンヒドロキシラーゼの活性が低減している。
(2-3)N-ニトロソジメチルアミンデメチラーゼ
N-ニトロソジメチルアミンデメチラーゼの活性を測定するために、前記と同じ
手順(2-1)を行った。N-ニトロソジメチルアミンデメチラーゼの活性は、カウ
ル(Kaul)及びノバックの方法(カウル、エル エル(Kaul,L.L.)及びノバッ
ク、アール エフ、Induction of rabbit hepatic microsomal cytochrome P-45
0 by imidazole;enhanced metabolic activity and altered substrate specif
icity、Arch.Biochem.Biophys.、235巻、470〜481頁(1984))に従って測定
した。
すなわち、1mgのミクロソームに、10mMのN-ニトロソジメチルアミン及び0.6m
lの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH 7.4)を添加し、1mM NADPHを添加して総容
量を1.0mlとした。混液を37℃にて30分間反応させた後、20%トリクロロ酢酸を
添加して反応を停止し、反応混液を遠心した。0.75mlの上清に、ナッシュ(Nash
)試薬(100mlの蒸留水中、酢酸アンモニウム15.416g、酢酸アセチル0.206ml及
び酢酸0.289ml)を添加した。混液を37℃にて45分間静置して発色させ、412nmに
おける吸光度を測定した。酵素活性は、1分間の反応で生成したホルムアルデヒ
ドのモル濃度として表した。
結果を図4に示す。図4より認められるように、4〜6群(本発明の化合物を
与えた)において、1〜3群(ピラジンを与えた)に比して、投与の期間に比例
してN−ニトロソジメチルアミンデメチラーゼの活性が49〜73%、時間に依存し
て低減している。実験例2
:フェーズI反応の阻害(2)
(1)イムノブロット分析
フェーズI反応に関与する酵素の発現に対する、イソニアジド(INAH、フェー
ズI反応に関与する酵素系の誘導剤)と共に投与した場合の本発明の化合物の効
果を調べるために、以下のようにイムノブロット分析を行った。
体重190±30gの雄性スプラグ−ドウリーラット36匹を、9群に分けた。第1
群には対照群として、0.1ml/200g体重の量でコーン油を腹腔内投与した。第2
群には、PBSで希釈したINAHを200mg/kg体重の投与量で腹腔内投与した。第3〜
第9群には、PBSで希釈したINAHを200mg/kg体重の投与量で腹腔内投与し、その
後実施例2〜8の化合物をそれぞれ、200mg/kg体重の投与量でコーン油で希釈し
て腹腔内投与した。前記実験例1(1)と同じ手順に従って、肝ミクロソームを
分離し、SDS-PAGEでのウェスタンブロット分析に付した。
結果を図5に示す。図5から認められるように、INAHと本発明の化合物を併用
して与えた第3〜第9群(レーン3〜9)は弱いバンドを示し、INAHの作用によ
り誘導される酵素発現を本発明の化合物が抑制することが示唆される。実施例8
の化合物を与えた第9群が、最も強い抑制を示す。
(2)酵素活性
フェーズI反応に関与する酵素の活性に対する、INAHと組合わせて投与した場
合の本発明の化合物の効果を調べるために、以下のように実験を行った。
体重190±30gのスプラグ−ドウリーラットの8群に、INAH(第1群)またはI
NAHと実施例2〜8の化合物(第2〜8群)を併用して、各々200mg/kgの投与量
で腹腔内投与した。本発明の化合物及びINAHはそれぞれ、コーン油及びPBSで希
釈し、被検
化合物はINAHを投与した直後に投与した。
実験例1(2-1)及び(2-2)におけると同様の手順に従って、p-ニトロフェ
ノールヒドロキシラーゼ及びアニリンヒドロキシラーゼの活性における変化を測
定した。酵素の活性は、INAH単独投与の場合を100%の酵素活性として決定した
。結果を表2に示す。
表2より認められるように、本発明の化合物は、INAHによって誘導されたp-
ニトロフェノールヒドロキシラーゼ及びアニリンヒドロキシラーゼの発現を阻害
する。特に、実施例7及び8の化合物が、優れた阻害作用を示している。実験例3
:フェーズII反応の誘導(1)
(1)ウェスタンブロット分析
フェーズII反応に関与する酵素の発現に対する、本発明の化合物の効果を調べ
るために、以下のようにウェスタンブロット分析を行った。
体重190±30gの雄性スプラグ−ドウリーラット28匹を、7群に分けた。第1
群には対照群として、体重200g当たり0.1mlのコーン油を腹腔内投与した。第2
〜第4群には、コーン油で希釈したピラジンを200mg/kg体重の投与量でそれぞれ
1、2または3日間、腹腔内投与した。第5〜第7群には、実施例1-1において
調製した化合物をコーン油で希釈して、200mg/kg体重の投与量でそれぞれ1、2
または3日間、腹腔内投与した。
前記実験例1(1)と同じ手順に従って、肝ミクロソームを分離し、SDS-ポリ
アクリルアミドゲル電気泳動に付した。その後、以下のようにミクロソームのエ
ポキシドヒドロラーゼ(mEH)についてウェスタンブロット分析を行った。5μl
のウサギ抗ラット エポキシドヒドロラーゼIgGを15mlのPBSに混合し、電気泳動
を行ったニトロセルロースペーパーを含むバッグの中に入れて、2時間振盪した
。そのニトロセルロースペーパーに、2次抗体として、ビオチン化したロバ抗ヤ
ギIgGを15μl含む15mlのPBSを加え、2時間反応させた。ストレプトアビジン−
ホースラディッシュペルオキシダーゼ及び4-クロロ-1-ナフトールを加えて発色
させた。
結果を図6に示す。本発明の化合物が与えられた第5〜第7群では、第1(対
照)群またはピラジンを与えた第2〜第4群に比して、mEHの発現の有意な増大
が示された。特に、それぞれ2及び3日間本発明の化合物を投与した第6及び第
7群では、投与期間に比例してmEHの発現が4〜5倍増大した。
(2)酵素活性
フェーズII反応に関与する酵素であるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GS
T)の活性に対する、本発明の化合物の効果を調べるために、以下のように実験
を行った。
体重190±30gのスプラグ−ドウリーラットの9群に、コーン油(第1〜3群
)、ピラジン(第4〜6群)または実施例1-1にて調製した化合物(第7〜9
群)を、1、2または3日間、200mg/kgの投与量で投与した。さらに第10群には
、ピラジンと実施例1-1にて調製した化合物を併用して3日間、200mg/kgの投
与量で投与した。実験例1(1)におけると同様の手順に従って肝ミクロソーム
を分離した後、GSTのサイトゾル活性を、ハビグ(Habig)の方法(ハビグ、ダブ
リュー エイチ(Habig,W.H.)、J.Biol.Chem.、249巻、7130〜7139頁(19
74))に従って測定した。
すなわち、サイトゾルのタンパク質に0.1mMの1-クロロ-2,4-ニトロベンゼン及
び基質として1.0mMのグルタチオンを加え、そして、0.1Mリン酸カリウムを添加
し、総容量を1.0ml(pH 6.4)とした。得られた混液を、室温で2分間静置し、
そして1分間にわたって340nmにおける吸光度を15秒毎に測定した。標準として
、加熱により変性させたサイトゾルタンパク質を用いた。GSTの活性は1分間に
わたる吸光度の変化を測定し、9.6mM-1cm-1の消衰係数を用いて算出した。
結果を図7から9に示す。図7は対照群の結果と本発明の化
合物を与えた群の結果とを比較した棒グラフである。図8はピラジンを与えた群
の結果と本発明の化合物を与えた群の結果とを比較した棒グラフである。図9は
対照群の結果と、ピラジン、アリルスルフィド、及びピラジンと本発明の化合物
とを併用して、3日間投与した群の結果とを比較した棒グラフである。
図7から9より認められるように、本発明の化合物を与えた群において、対照
群に比して、1、2及び3日の投与につき135%、178%及び200%、時間に依存
してGST活性が増大しており、3日間ピラジンを与えた群及びピラジンと本発明
の化合物を併用して与えた群での130%及び140%の増大よりもはるかに高い。従
って、本発明の化合物はフェーズII反応に関与する酵素の誘導に有効である。実験例4
:フェーズII反応の誘導(2)
(1)イムノブロット分析
フェーズII反応に関与する酵素の発現に対する、本発明の化合物の効果を調べ
るために、以下のようにイムノブロット分析を行った。
体重190±30gの雄性スプラグ−ドウリーラット32匹を、8群に分けた。第1
群には対照群として、体重200g当たり0.1mlのコーン油を腹腔内投与した。第2
〜第8群には、コーン油で希釈した実施例2〜8の化合物を、200mg/kg体重の投
与量で腹腔内投与した。
肝ミクロソームを分離し、前記実験例1(1)におけると同じ手順に従って、S
DS-PAGEでのウェスタンブロット分析に付した。
結果を図10に示す。図10より認められるように、本発明の化合物が与えられた
第2〜第8群(レーン2〜8)では強いバンドが現れ、本発明の化合物が酵素発
現を誘導することが示唆さ
れる。
(2)酵素活性
フェーズII反応に関与する酵素の活性に対する、単独でまたはINAHと組合わせ
て投与した場合の、本発明の化合物の効果を調べるために、以下のように実験を
行った。
体重190±30gのスプラグ−ドウリーラットの16群に、コーン油(第1群)、
実施例2〜8の化合物(第2〜8群)、INAH(第9群)またはINAHと併用して実
施例2〜8の化合物(第10〜16群)を、各々200mg/kgの投与量で腹腔内投与した
。本発明の化合物及びINAHは、コーン油で希釈し、被検化合物はINAHの投与直後
に投与した。
GSTの活性の変化を実験例3(2)と同様の手順に従って測定した。酵素の活性
はコーン油またはINAH単独投与の場合の酵素活性を100%として決定した。結果
を表3に示す。
表3より認められるように、本発明の化合物はグルタチオンS-トランスフェラ
ーゼの発現を誘導し、特に実施例5、7及び8の化合物が70%もしくはそれより
多く、酵素の発現を増大せしめる。さらに、表3の結果により、酵素発現の阻害
剤であるINAHが投与された場合でさえも、本発明の化合物、特に実施例3、5及
び8の化合物は酵素の発現を強く誘導することが示される。
結論として、本発明の化合物はフェーズII反応に関与する酵素の発現を活性化
する一方でフェーズI反応に関与する酵素の発現を有効に阻害することができ、
それによって種々の化学物
質により肝臓が損傷を受けないよう保護するために、有益に用いることができる
。
【手続補正書】
【提出日】1995年7月31日
【補正内容】
明細書
1.発明の名称
新規化学的保護化合物ならびにその調製法及び用途
2.特許請求の範囲
(1)以下の一般式(I):
(式中、R1は水素原子またはC1〜3のアルキル基を表し、また
R2はフェニルもしくはフラニル基、または一般式:−C(Ra)=C(Rb)
(Rc)
(式中、Ra、Rb及びRcは同じかまたは互いに異なっており、水素原子または
メチルもしくはフェニル基を表す)により示される基を表す)
で示される構造を有する化合物。
(2)R1が水素原子またはメチル基であり、かつR2が、一般式:−C(Ra
)=C(Rb)(Rc)
(式中、Ra、Rb及びRcは同じかまたは互いに異なっており、水素原子または
メチル基を表す)
により示される基である請求項1に記載の化合物。
(3)2-(2-プロペニルチオ)ピラジン、2-(ベンジルチオ)ピラジン、2-
(3-メチル-2-ブテニルチオ)ピラジン、2-(シンナミルチオ)ピラジン、2-(
フルフリルチオ)ピラジン、2-(3-メチル-3-ブテニルチオ)ピラジン、2-(2-
ブテニルチオ)ピラジン及び2-(3-ブテニルチオ)ピラジンより成る群から選択
される請求項1に記載の化合物。
(4)一般式(I):
(式中、R1は水素原子またはC1〜3のアルキル基を表し、また
R2はフェニルもしくはフラニル基、または一般式:−C(Ra)=C(Rb)
(Rc)
(式中、Ra、Rb及びRcは同じかまたは互いに異なっており、水素原子または
メチルもしくはフェニル基を表す)により示される基を表す)
で示される化合物を調製する方法であって、
式(II):
の化合物を一般式(III)
(式中、Xはハロゲン原子または水酸基を表し、また、R1及びR2は前記定義と
同様のものを表す)
の化合物と反応させることを含んで成る調製法。
(5)有効成分として、一般式(I):
(式中、R1は水素原子またはC1〜3のアルキル基を表し、また
R2はフェニルもしくはフラニル基、または一般式:−C(Ra)=C(Rb)
(Rc)(式中、Ra、Rb及びRcは同じかまたは互いに異なっており、水素原子
またはメチルもしくはフェニル基を表す)により示される基を表す)
で示される化合物及び薬学的に許容しうる担体を含んで成る化学的保護組成物。
3.発明の詳細な説明
[産業上の利用分野]
本発明は、新規の有用な化合物、その用途及びその調製法に関する。さらに詳
細には、本発明は、化学的保護(chemopreventive)活性を有する新規化合物な
らびに該化合物を調製するための方法及び活性成分として該化合物を含んで成る
組成物に関する。
[従来の技術]
生体は、生体異物を不活性化するかまたはその親油性を減じて疎水性物質へと
変換することにより、それら生体異物を排泄する機能を有する。これらの機能は
、種々の酵素の仲介により実施され、酵素の種類に依存してフェーズI反応(酸
化、還元及び加水分解)ならびにフェーズII反応(抱合)の、2つの群に分類さ
れうる。時として、これらの機能が逆に実施されて、細胞内の高分子に損傷を惹
起こすかもしれない、より反応性の高い化合物を形成し、かくして癌の形成が誘
導される。
特に、肝細胞及び他の細胞の滑面小胞体に存在している、シトクロムP-450(C
YP450)は、フェーズI反応に関与する酸化酵素である。シトクロムP-450は生体
内で合成されるステロイド、脂肪酸及びアミンを酸化するのみならず、医薬、化
学発癌物質及び変異原性物質をより親水性の高い排泄可能な物質へと代謝する。
ところが、シトクロムP-450は時として、生体異物を活性化し、高分子に損傷を
惹起こし、その結果癌の形成を誘導する(ブラック、エス ディー(Black,S.D
.)、クーン、エム ジェイ(Coon,M.J.)、P-450 cytochromes:Structure an
d function、Adv.Enzymol.、60巻35〜87頁(1987))。シトクロムP-450は、塩
基配列の類似性によって遺伝子ファミリー及びサブファミリーに分類される。P-
450の多
様な型のなかで、シトクロムP-450 2E1は広範な外来性物質に対してきわめて高
い特異性を有し、外来性物質を活性化することによりそれらの毒性を増強せしめ
る。
例えば、慢性アルコール中毒者において、アセトアミノフェンを治療的に有効
な量投与すると肝毒性が惹起こされる。これは、シトクロムP-450 2E1が高い基
質特異性をもってアセトアミノフェンを活性化し、活性化されたアセトアミノフ
ェンがタンパク質などの高分子を攻撃して、肝壊死を生じさせるからである(リ
ートン、エス エー(Wrighton,S.A.)、トーマス、ピー イー(Thomas,P.E.
)、モロワ、ディー ティー(Molowa,D.T.)、ハニウ、エム(Haniu,M)ガゼ
リアン、ピー エス(Guzelian P.S.)、Characterization of ethanol-inducib
le human liver N-nitrosodimethylamine demethylase、Biochemistry、25巻、6
731〜6735頁(1986))。
肝壊死を惹起こす四塩化炭素の代謝について、反応性代謝物のレベルの増大が
シトクロムP-450 2E1の発現の増大に密接に関連していると報告されている(ア
ンシャー、エス エス(Ansher,S.S.)、ドラン、ピー(Dolan,P.)、ブーデ
ィングイー(Bueding E.)、Chemoprotective effects of two dithiolthiones
and buthylhydroxyanisole against carbon tetrachloride and acetaminophen
toxicity、Hepatoloty、3巻、932〜935頁(1983))。シトクロムP-450 2E1はま
た、癌原物質前駆体であるニトロソアミンへの高い親和性に起因して、生体異物
を活性化するうえで重要な役割も果たしている(ペン、アール(Peng,R.)、ヤ
ン、シー エス(Yang,C.S.)、The induction and competitive inhibition of
affinity microsomal nitrosodimethylamine demethylase by ethanol、Carcino
genesis、3巻、1457〜1461頁(1982))。
ベンゼンは、白血球減少症、白血病及び無顆粒球性貧血症を誘発することが知
られており、シトクロムP-450 2E1がベンゼンの代謝に関与することが報告され
ている(ルイス、ジェイ ジー(Lewis,J.G.)、スチュワート、ダブリュー(S
tewart,w.)、アダムス、ディー シー(Adams,D.C.)、Role of oxygen radi
cals in induction of DNA damage by metabolite of benzene、Cancer Res.、4
8巻、4762〜4765頁(1988))。最近、この酵素が吸入麻酔剤であるハロセン(h
alothane)に対してきわめて高い基質特異性を示し、肝毒性を惹起こすことが報
告されている。
これは、中間体から形成され増加したトリフルオロアセチル遊離ラジカルが肝臓
のタンパク質と付加物(adduct)を形成し新生抗原(neoantigen)をつくるとい
う事実に起因する(ケンナ、ジェイ ジー(Kenna,J.G.)、ポム、エル アー
ル(Pohm,L.R.)、Factors affecting the expression of trifluoroacetylate
d microsomal protein neoantigen in rats treatedwith halothane、Drug Meta
b.Dispos.、18巻、788〜792頁(1990))。
さらに、シトクロムP-450 2E1はイソニアジド、エタノール、アセトン、p-ニ
トロソジメチルアミン、ニトロソアミン、フェノール、ピリジン、ピラゾール、
p-ニトロフェノール、アニリンまたはジエチルエーテルなどの種々の低分子有機
物質を活性化することによって、肝毒性の増強に密接に関連している。シトクロ
ムP-450 2E1はまた、絶食または糖尿病などの疾患により誘導されうる。
他方、例えばグルタチオンS-トランスフェラーゼ(以下、「GST」と称する)
及びミクロソームのエポキシドヒドロラーゼ(以下、「mEH」と称する)などと
いったフェーズII反応に関与する酵素は、外来性の毒性物質を解毒する役割を有
する。これらの酵素は種々の経路で、例えば、GSTの相異なるアイソザイムはグ
ルタチオンから求電子性受容体にチオール基を転移し、mEHは酸化物を水和する
、などといった経路で外来性の毒性物質を解毒する。従って、このような酵素の
量が増大することが、酸化的損傷及び環境からのストレスから組織を保護するう
えで重要な役割を果たしうる(ピケット、シー ビー(Pickett,C.B.)、ルー
エー ワイエイチ(Lu,A.Y.H.)、Glutathione S-transferase;Gene struct
ure,regulation and biological function、Annu.Rev.Biochem.、58巻、743
〜764頁(1983)及びシーデグラッド、ジェイ(Seidegrad,J.)、デピエール、
ジェー ダブリュー(DePierre,J.W.)、Microsomal epoxide hydrolase prope
rties,regulation and function、Biochim.Biophys.Acta.、695巻、251〜270
頁(1983))。
従って、生体異物の活性化に起因する癌の誘発及び毒性は、代謝を修飾するこ
とによって、すなわち、フェーズI反応を阻害して活性化された毒性中間体の形
成を阻害することにより、及びフェーズII反応を増強して毒性物質の排泄を促進
することにより、阻止することができる。前記のように代謝修飾活性を有する化
学的保護剤を提供すべく、夥しい研究がなされてきている。それらの結果として
、
化学的保護活性を有するいくつかの化合物が報告されている。
例えば、食物の抗酸化剤であるブチルヒドロキシアニソールは、フェーズII反
応に関与する酵素を誘導することにより抗癌活性を示し(チャ、ワイ エヌ(Ch
a,Y.N.)、ブーディング、イー、Effect of 2(3)-tert-butyl-4-hydroxyanis
ole administration on the activities of several hepatic microsomal and c
ytoplasmic enzymes in mice、Biochem.Pharmacol.、28巻、1917〜1921頁(197
9))、またブチルヒドロキシトルエンもやはり、フェーズII反応に関与する酵
素を誘導することにより抗癌活性を示す(チャ、ワイ エヌ、及びハイネ、エイ
チ エス(Heine,H.S.)、Comparative effects of dietary administration o
f 2(3)-tert-butyl-4-hydroxyanisole and 3,5-ditert-butyl-4-hydroxytolue
ne on the several hepatic enzyme activities in mice and rat、Cancer Res.
、42巻、2609〜2615頁(1982))。天然に存在している化合物かまたはピラジン
アミドもしくはオルチプラツ(oltipraz)などの合成医薬であるピラジンは、フ
ェーズI反応に関与する酵素であるシトクロムP-450 2E1のみならず、フェーズ
エII反応に関与する酵素であるGST及びmEHも誘導する活性を有することが報告さ
れている(ノバック、アール エフ(Novak,R.F.)、キム、エス ジー(Kim,
S.G.)、ブルックス、エス シー(Brooks,S.C.)、プリミアノ、ティー(Prim
iano,T.)、スリナス、エフ(Slinas,F.)及びノバック、ジェー シー(Nova
k,J.C.)、Thiazole,pyridazine and pyrazine induction of glutathione S-
transferase of rat、Toxicologist、11巻、48頁(1990))。分子内にピラジン
を含有するオルチプラツもまた、フェーズII反応の酵素を誘導する能力を有する
ので、肺癌及び胃癌を抑制することができる。
しかしながら、これらの物質はフェーズII反応の酵素を誘導する能力を有する
ものの、フェーズI反応の酵素に対する阻害活性は示さない。
他方、ニンニクオイルの成分であるアリルスルフィドは、癌原物質の前駆体で
あるニトロソアミンを活性化するシトクロムP-450 2E1の発現を阻害することに
より肝癌及び大腸癌を強く抑制することが報告されている(ブラディ、ジェー
エフ(Brady,J.F.)、リ、ディー(Li,D.)、イシザキ、エイチ(Ishzaki,H.
)及びヤン、シー エス(Yang,C.S.)、Effect of diallylsulfide on rat li
ver microsomal
nitrosoamine metabolism and other monooxygenase activities、Cancer Res.
、48巻、5937〜5940頁(1988)ならびにヘイズ、エム エー(Hayes,M.A.)、
ラシュモア、ティー エイチ(Rushmore,T.H.)及びゴールドバーグ、エム テ
ィー(Goldberg,M.T.)、Inhibition of hepatocarcinogenic responses to 1,
2-dimethylhydrazine by diallylsulfide,a component of garlic oil、Carcin
ogenesis、8巻、1155〜1157頁(1987))。さらに、本願発明者らは、アリルス
ルフィドがシトクロムP-450 2E1の発現を強く阻害し、さらにピラジンの作用に
より誘導されたシトクロムP-450 2E1を完全に抑制することを明らかにしている
(Biochemical Pharmacology、投稿中、1993)。
しかしながら、フェーズI反応の酵素を阻害すると共にフェーズII反応の酵素
を誘導する、有効な化学的保護剤はない。
[発明が解決しようとする課題]
本願発明者らは、フェーズI反応の酵素の発現及び活性を阻害すると共に、フ
ェーズII反応の酵素を誘導し、かつイソニアジドなどの阻害物質による阻害から
それらの酵素を回復させる、化学的保護剤を提供するために移しい研究を行い、
その結果、本発明を完成するに至った。
[課題を解決するための手段]
前記のごとく、本発明の目的は、フェーズI反応の酵素を阻害して活性化され
た毒性の中間代謝物の形成を妨げうるのみならず、フェーズII反応を誘導して毒
性物質の排泄を促進せしめることができる、新規のピラジン誘導体を提供するこ
とである。
本発明は、以下の一般式(I):
(式中、R1は水素原子またはC1〜3のアルキル基を表し、また
R2はフェニルもしくはフラニル基、または一般式:
−C(Ra)=C(Rb)(Rc)
(式中、Ra、Rb及びRcは同じか または互いに異なっており、水素原子また
はメチルもしくは フェニル基を表す)により示される基を表す)
で示される構造を有する新規化合物を提供する。
本発明は、さらに、式(II):
の化合物を、一般式(III)
(式中、Xはハロゲン原子または水酸基を表し、また、
R1及びR2は前記定義と同様のものを表す)
の化合物と反応させることを含んで成る、化合物(I)の調製法を提供する。
本発明は、また、有効成分として化合物(I)を含んで成る、肝に損傷を与え
うる化学物質から肝を保護するための薬剤組成物を提供する。
本発明の他の目的及び本発明の適用は、以下の発明の詳細な説明によって、当
業者に明らかとなるであろう。
[実施例]
本明細書中で用いられる、「化学的保護」の語は、ある化合物がフェーズI反
応を抑制して活性化された毒性の中間代謝物の形成を妨げることができると共に
、フェーズII反応を増大せしめて毒性物質の排泄を促進することができることを
意味する。本発明の化合物はフェーズI反応の誘導剤またはフェーズII反応の阻
害剤の存在下において有効であり、従って、肝臓が種々の化学物質により損傷を
受けることから有効に保護することができる。
本発明によれば、以下の一般式(I):
(式中、R1は水素原子またはC1〜3のアルキル基を表し、また
R2はフェニルもしくはフラニル基、または一般式:−C(Ra)=C(Rb)
(Rc)
(式中、Ra、Rb及びRcは同じかまたは互いに異なっており、水素原子または
メチルもしくはフェニル基を表す)により示される基を表す)
で示される構造を有する、新規ピラジン誘導体が提供される。
とりわけ、R1が水素原子またはメチル基であり、かつR2が一般式:−C(Ra
)=C(Rb)(Rc)(式中、Ra、Rb及びRcは同じかまたは互いに異なって
おり、水素原子またはメチル基を表す)により示される基である化合物(I)が
好ましい。
高い化学的保護活性を示す、最も好ましい化合物(I)を、以下の表1に掲げ
る。
本発明によれば、化合物(I)の調製法が提供される。
方法は、化合物(II):
を化合物(III):
(式中、Xはハロゲン原子または水酸基を表し、また、
R1及びR2は前記定義と同様のものを表す)
と反応させることを含んで成る。
Xがハロゲン原子である化合物(III)が、化合物(II)と反応せしめられる
場合、例えばN,N-ジメチルホルムアミドまたはN,N-ジメチルアセタミドといった
不活性の溶媒中で塩基の存在下に反応を行うとよい。本発明において用いられる
塩基には、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N-ジメチルアニリ
ンまたはジアザビシクロウンデセン(diazabicycloundecene)などが挙げられる
が、それらに限定されない。反応温度は0℃〜100℃、好ましくは30℃〜80℃の
間で変化してよい。反応時間は、1〜5時間の間の範囲にある。
Xが水酸基である化合物(III)を用いた場合、化合物(III)は、化合物(II
)と反応せしめられる中間体を形成すべく、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、
ジクロロメタン、クロロホルムまたはテトラヒドロフランなどといった不活性の
溶媒中でトリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィンを用いて処理される。こ
の目的のため、化合物(II)は、例えばトリエチルアミン、トリメチルアミンま
たはN,N-ジメチルアニリンなどといった有機塩基の助けにより、N,N-ジメチルア
セタミドなどの不活性溶媒中に溶解される。
本発明はさらに、有効成分として化合物(I)を含んで成る薬剤組成物を提供
する。組成物は薬学的に許容しうる通例の担体または賦形剤を含有することがで
きる。組成物は、固形、液体または散剤の形態に、通常の技術に従って剤形化す
るとよい。
剤形化の技術及び添加物は、薬学分野において通常用いられており、本発明に
よって限定されることはなく、当業者により難なく選択されうる。
化合物(I)がヒトまたは動物に投与される経路は、限定されることはない。
化合物(I)の量は投与経路、年齢及び適用される症候、または目的に応じて変
動しうるが、50〜500mg/kg、好ましくは100〜300mg/kgの間の範囲から選択され
るとよい。
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に述べるが、これら実施例により本
発明がいかようにも限定されることは意図していない。参考例1
:2-メルカプトピラジンの調製
5.0gの2-クロロピラジンを40mlのジメチルホルムアミド中に溶解し、5.0gの
NaSH・xH2Oをそれに添加した。混液を2時間、60℃に加熱し、5℃に冷却した。
その結果得られた沈殿物を濾過し、濾液に400mlのジエチルエーテルを添加した
。沈澱をジエチルエーテルで洗浄し、乾燥して3.0gの黄色の固体を得た。
IR(KBr):1650、1570、1562、1425cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm: 7.60(d,1H)、7.80(d,1H)、8.55(s,1H)、
14.35(bs,1H)実施例1-1
:2-(2-プロペニルチオ)ピラジンの調製
参考例1において調製した6.57gの2-メルカプトピラジンを、80mlのジメチル
ホルムアミド中に溶解し、8.6mlのトリエチルアミンをそれに添加した。その溶
液に6.84mlの臭化アリルを添加し、混液を50℃にて2時間攪拌した。500mlの氷
水を反応溶液に添加し、得られた混液をジエチルエーテルで抽出して濃縮した。
残渣を減圧蒸留して、7.85g(85%)の油状の淡黄色の液体を得た。
沸点 0.5torr/68〜69℃
IR(パラフィン油):1700、1633、1559、1506cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm: 3.77(d,2H)、5.10(d,1H)、5.30(d,1H)、
5.81〜6.02(m,1H)、8.33(s,1H)、
8.48(s,1H)、8.60(s,1H)実施例1-2
:2-(2-プロペニルチオ)ピラジンの調製
臭化アリルの代わりに塩化アリルを用いたこと以外は実施例1-1と同じ手順
を行って、標記の化合物を得た。
沸点0.5torr/68〜69℃
IR(パラフィン油): 1700、1633、1559、1506cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm : 3.77(d,2H)、5.10(d,1H)、5.30(d,1H)、
5.81〜6.02(m,1H)、8.33(s,1H)、
8.48(s,1H)、8.60(s,1H)実施例1-3
:2-(2-プロペニルチオ)ピラジンの調製
0.58gのアリルアルコールを、50mlのジクロロメタン中に溶解し、2.89gのト
リフェニルホスフィン及び1.96gのN-ブロモスクシンイミドをそれに添加した。
混液を室温にて30分間攪拌し、前記溶液に1.0gの2-メルカプトピラジン及び1m
lのトリエチルアミンを溶解した5mlのジメチルホルムアミド溶液を添加した。
得られた混液を室温にて1時間攪拌し、ついで100mlの水の中に注加した。有機
層を分離して、濃縮乾燥した。残渣は、溶離液として酢酸エチル:n-ヘキサン=
1:1を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製して、標記の化合物を
0.6g得た。
沸点0.5torr/68〜69℃
IR(パラフィン油):1700、1633、1559、1506cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm: 3.77(d,2H)、5.10(d,1H)、5.30(d,1H)、
5.81〜6.02(m,1H)、8.33(s,1H)、
8.48(s,1H)、8.60(s,1H)実施例2
:2-(ベンジルチオ)ピラジンの調製
臭化アリルの代わりに臭化ベンジルを用い、かつ溶離液として酢酸エチル:n-
ヘキサン=1:5を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行
ったこと以外は実施例1-1と同じ手順を行って、標記の化合物を得た。
融点65〜67℃(白色固体)
IR(KBr): 1500、1445、1380cm-1
NMR(DMSO-d6)ppm: 4.45(s,2H)、7.2〜7.35(m,5H)、
8.2〜8.35(m,3H)実施例3
:2-(3-メチル-2-ブテニルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりにプレニルアルコールを用いたこと以外は実施例1
-3と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1501、1375cm-1
NMR(CDCl3 )ppm: 1.74(s,6H)、3.81(d,2H)、5.35(m,1H)、
8.2、8.35、8.4(m,3H)実施例4
:2-(シンナミルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりにシンナミルアルコールを用いたこと以外は実施例
1-3と同じ手順を行って、白色の固体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1490、1440、1380cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 4.04(d,2H)、6.35(tt,1H)、6.6(d,1H)、
7.2〜7.4(m,5H)、8.2、8.4、8.47(m,3H)実施例5
:2-(フルフリルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりにフルフリルアルコールを用いたこと以外は実施例
1-3と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1450、1456、1382cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 4.46(s,2H)、6.26(m,2H)、7.34(d,1H)、
8.2、8.4、8.45(m,3H)実施例6
:2-(3-メチル-3-ブテニルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりに3-メチル-3-ブテン-1-オルを用いたこと以外は実
施例1-3と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1500、1450、1370cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 1.80(s,3H)、2.42(t,2H)、3.3(t,2H)、
4.8(d,2H)、8.2、8.4、8.45(m,3H)実施例7
:2-(2-ブテニルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりに2-ブテン-1-オルを用いたこと以外は実施例1-3
と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1502、1455、1381cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 1.7(d,3H)、3.8(d,2H)、5.6(m,2H)、8.2、
8.4、8.45(m,3H)実施例8
:2-(3-ブテニルチオ)ピラジンの調製
アリルアルコールの代わりに3-ブテン-2-オルを用いたこと以外は実施例1-3
と同じ手順を行って、油状の液体として標記の化合物を得た。
IR(パラフィン油): 1502、1475、1380cm-1
NMR(CDCl3)ppm: 1.4(d,3H)、4.4(m,1H)、5.0(d,1H)、
5.2(d,1H)、5.9(m,1H)、8.14、8.3、
8.35(m,3H)実験例1
:フェーズI反応の阻害(1)
(1)ウェスタンブロット分析
フェーズI反応に関与する酵素の発現に対する本発明の化合物の効果を調べる
ために、以下のようにウェスタンブロット分析を行った。
体重190±30gの雄性スプラグ−ドウリー(Sprague-Dawley)ラット28匹を、
7群に分けた。第1群には対照群として、体重200g当たり0.1mlのコーン油を腹
腔内
投与した。第2〜第4群には、コーン油で希釈したピラジンを200mg/kg体重の投
与量でそれぞれ1、2または3日間、腹腔内投与した。第5〜第7群には、実施
例1-1において調製した化合物をコーン油で希釈して、200mg/kg体重の投与量
でそれぞれ1、2または3日間、腹腔内投与した。被検化合物は、およそ午前11
時に投与した。
ラットは、被検化合物を投与した後18時間絶食させ、翌日のおよそ午前7〜8
時に頸部脱骨により屠殺した。致死直後に、肝組織から血液を除去すべく、肝門
脈を通じて生理的食塩水を潅流させた。肝臓を取り出し、細かくミンスした。4
倍容量の0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH 7.4)を加え、肝組織をホモジナイズした。
すべての工程を、4℃の一定温度にて行った。ホモジナイズした組織を12,000g
にて20分間遠心し、その上清を105,000gにて1時間超遠心して、上清のサイト
ゾルからミクロソームを沈澱として分離した。このようにして得られたミクロソ
ームを、0.1MトリスKClに分散させ(distributed)、105,000gにて1時間超遠
心して清澄化し、純粋な肝ミクロソームを得た。
このようにして分離したミクロソームを、リームリ(Laemmli)の方法(リー
ムリ、ユー ケー(Laemmli,U.K.)、Cleavage of structual proteins during
assembly of the head of the bacteriophage T4、Nature、227巻、680〜685頁
(1970))に従って、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳
動(以下、「SDS-PAGE」と称する)でのイムノブロッティングに付した。
バイオラッド(BioRad)ミニプロテイン(Mini Protein)IIを用い、ゲルは以
下のように調製した。
4.9mlの第2蒸留水、2.5mlの1.5Mトリス緩衝液(pH 8.8)、50μlの20%ドデ
シル硫酸ナトリウム(SDS)及び30%アクリルアミドと0.8%ビスアクリルアミド
との混液2.5mlを混合し、真空を利用して容器内を脱気し、50μlの10%過硫酸ア
ンモニウム及び5μlのN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンを加え、そし
て得られた混液を2枚のガラス板の間に1時間静置してゲルを得ることにより、
分離ゲルを調製した。
7.35mlの第2蒸留水、1.25mlの1.5Mトリス緩衝液(pH 6.8)、50μlの20%SDS
及び30%アクリルアミドと0.8%ビスアクリルアミドとの混液1.3mlを混合し、
真空を利用して容器内を脱気し、50μlの10%過硫酸アンモニウム及び10μlのN,
N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンを加え、そして得られた混液を2枚のガ
ラス板の間に1時間静置してゲルを得ることにより、スタッキングゲルを調製し
た。
第1、第2及び第3群から得たミクロソームを、試料用緩衝液(1Mトリス(pH
6.8)2.5ml、80%グリセロール5ml、20%SDS5ml、1%ブロモフェノールブル
−0.2ml、β-メルカプトエタノール2ml及び第2蒸留水5.3ml)を用いて希釈し
、100℃に5分間加熱した。希釈の割合は、各試料が7μl当たり20μgのミクロ
ソームを含有するように定めた。
試料をゲル上に載せ、展開用(running)緩衝液(1L中に、3.04gのトリス、
14.42gのグリシン及び5mlの20%ADS)を用いて電気泳動を行った。適用した電
流の強度は、スタッキングゲルに対しては12.5mA、展開ゲルに対しては20mAであ
る。
電気泳動終了後、ゲルをデイビス(Davis)の方法(デイビス、エル ジー(D
avis,L.G.)、ディブナー、エム ディー(Dibner,M.D.)、バッテイ、ジェイ
エフ(Battey,J.F.)、Basic methods in molecular biology、ニューヨーク
、エルセビエ(Elsevier)、311〜314頁(1986))に従ってウエスタンブロット
分析に付した。バイオラッドミニトランス−ブロット(Mini Trans-blot)を用
いて、70ボルトにて2時間、ニトロセルロースペーパーにゲルを転写した。転写
用緩衝液は、1Lの蒸留水中に、3.04gのトリス、14.42gのグリシン及び200ml
のメタノールを溶解することにより調製した。転写終了後、ニトロセルロースペ
ーパーは水洗し、3%脱脂乳溶液中に4℃にて一晩浸漬した。次いで、生理的食
塩水を用いて洗浄し、以下の免疫化学的分析に付した。
14μlのヤギ抗ウサギP-450 2E1 IgGを15mlのPBSに混合し、前記の処理を施し
たニトロセルロースペーパーを含むバッグの中に入れて、2時間振盪した。PBS
で洗浄したニトロセルロースペーパーに、15μlのビオチン化したロバ抗ヤギIgG
を含む15mlのPBSを加え、2時間反応させた。PBSを用いて反応混合物を洗浄し、
1μlのストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼを含む15ml
のPBSを添加した。1時間の反応の後、4-クロロ-1-ナフトール(1mg/mlメタノ
ー
ル)及び15μlの過酸化水素を反応混合物に加えた。約30秒後に、発色が観察さ
れると、脱イオン水で洗浄して反応を停止した。
結果を図1に示す。ピラジン投与群、すなわち第2〜第4群では、投与期間に
比例してP-450 2E1の発現が有意に増大することが示された。しかしながら、実
施例1-1の化合物が与えられた第5〜第7群では、投与期間に比例してP-450 2E
1の発現がかなり低減することが示された。特に、2及び3日間投与された第6
及び第7群ではそれぞれ、対照群よりも発現が低いという、タンパク質発現の低
減における有意な効果が示された。
(2)酵素活性
フェーズI反応に関与する酵素の活性に対する本発明の化合物の効果を調べる
ために、以下の実験を行った。
(2-1)p-ニトロフェノールヒドロキシラーゼ
体重190±30gのスプラグ−ドウリーラットの6群に、ピラジン(第1〜3群
)または実施例1-1にて調製した化合物(第4〜6群)を、1、2または3日間
、200mg/kgの投与量で投与した。前記の(1)と同様の手順に従って肝ミクロソ
ームを分離した後、p-ニトロフェノールヒドロキシラーゼの活性を、クープ(Ko
op)の方法(デニス アール クープ(Danis R.Koop)、Hydroxylation p-nit
rophenol by rabbit ethanol inducible cytochrome P-450 isozyme 3a、Molecu
lar Pharmacol.、29巻、399〜404頁(1986))に従って測定した。
すなわち、1mgのミクロソーム及び1mMのp-ニトロフェノールを、0.6mlの0.1
Mリン酸カリウム緩衝液(pH 6.8)に添加し、総容量を0.9mlとした。得られた混
液を、37℃のインキュベーター中で2分間、前反応せしめ、1mM NADPH(0.1ml
)を添加して反応を開始した。3分後に0.5mlの0.6N過塩素酸を添加して、発色
させ、ただちに546nmにおける吸光度を測定した。酵素活性は、1分間の反応に
よる、産物である4-ニトロカテコールのモル濃度として表した。
結果を図2に示す。図2において、符号「★」は各個体の有意差を意味してお
り、「★」「★★」及び「★★★」はそれぞれ、p<0.05、p<0.01及びp<0.001
を示す。これはすべての図について同様である。図2より認められるように、4
〜6群(本発明の化合物を与えた)において、1〜3群(ピラジンを与えた)に
比し
て、1、2及び3日の投与につきそれぞれ64%、73%及び82%、p-ニトロフェノ
ールヒドロキシラーゼの活性が低減している。
(2-2)アニリンヒドロキシラーゼ
アニリンヒドロキシラーゼの活性を測定するために、前記と同じ手順(2-1)
を行った。アニリンヒドロキシラーゼの活性は、ミーヤル(Mieyal)の方法(ジ
ョンジェイ ミーヤル(John J.Mieyal)、Acceleration of the autooxidatio
n of human oxyhemoglobin by aniline and its relation to hemoglobin-catal
yzed aniline hydroxylation、J.Biol.Chem.、251巻、3442〜3446頁(1976)
)に従って測定した。
すなわち、1mgのミクロソーム及び5mMのアニリンを、0.6mlの0.1Mリン酸カ
リウム緩衝液(pH 6.8)に添加し、総容量を0.9mlとした。1mM NADPHを添加し
て総容量を1.0mlとし、得られた混液を37℃にて反応させた。10分後に、20%ト
リクロロ酢酸を添加して反応を停止し、反応混液を遠心した。1mlの上清に、0.
1mlの5%フェノール及び0.1N NaOHに溶解した2.5N炭酸ナトリウム0.1mlを添加
した。混液を30分間静置して発色させ、ただちに630nmにおける吸光度を測定し
た。酵素活性は、1分間の反応による、産物である4-アミノフェノールのモル濃
度として表した。
結果を図3に示す。図3より認められるように、4〜6群(本発明の化合物を
与えた)において、1〜3群(ピラジンを与えた)に比して、1、2及び3日の
投与につきそれぞれ57%、80%及び88%、アニリンヒドロキシラーゼの活性が低
減している。
(2-3)N-ニトロソジメチルアミンデメチラーゼ
N-ニトロソジメチルアミンデメチラーゼの活性を測定するために、前記と同じ
手順(2-1)を行った。N-ニトロソジメチルアミンデメチラーゼの活性は、カウ
ル(Kaul)及びノバックの方法(カウル、エル エル(Kaul,L.L.)及びノバッ
ク、アール エフ、Induction of rabbit hepatic microsomal cytochrome P-45
0 by imidazole;enhanced metabolic activity and altered substrate specif
icity、Arch.Biochem.Biophys.、235巻、470〜481頁(1984))に従って測定
した。
すなわち、1mgのミクロソームに、10mMのN-ニトロソジメチルアミン及び0.6
mlの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH 7.4)を添加し、1mM NADPHを添加して総容
量を1.0mlとした。混液を37℃にて30分間反応させた後、20%トリクロロ酢酸を
添加して反応を停止し、反応混液を遠心した。0.75mlの上清に、ナッシュ(Nash
)試薬(100mlの蒸留水中、酢酸アンモニウム15.416g、酢酸アセチル0.206ml及
び酢酸0.289ml)を添加した。混液を37℃にて45分間静置して発色させ、412nmに
おける吸光度を測定した。酵素活性は、1分間の反応で生成したホルムアルデヒ
ドのモル濃度として表した。
結果を図4に示す。図4より認められるように、4〜6群(本発明の化合物を
与えた)において、1〜3群(ピラジンを与えた)に比して、投与の期間に比例
してN-ニトロソジメチルアミンデメチラーゼの活性が49〜73%、時間に依存して
低減している。実験例2
:フェーズI反応の阻害(2)
(1)イムノブロット分析
フェーズI反応に関与する酵素の発現に対する、イソニアジド(INAH、フェー
ズI反応に関与する酵素系の誘導剤)と共に投与した場合の本発明の化合物の効
果を調べるために、以下のようにイムノブロット分析を行った。
体重190±30gの雄性スプラグ−ドウリーラット36匹を、9群に分けた。第1
群には対照群として、0.1ml/200g体重の量でコーン油を腹腔内投与した。第2
群には、PBSで希釈したINAHを200mg/kg体重の投与量で腹腔内投与した。第3〜
第9群には、PBSで希釈したINAHを200mg/kg体重の投与量で腹腔内投与し、その
後実施例2〜8の化合物をそれぞれ、200mg/kg体重の投与量でコーン油で希釈し
て腹腔内投与した。前記実験例1(1)と同じ手順に従って、肝ミクロソームを
分離し、SDS-PAGEでのウェスタンブロット分析に付した。
結果を図5に示す。図5から認められるように、INAHと本発明の化合物を併用
して与えた第3〜第9群(レーン3〜9)は弱いバンドを示し、INAHの作用によ
り誘導される酵素発現を本発明の化合物が抑制することが示唆される。実施例8
の化合物を与えた第9群が、最も強い抑制を示す。
(2)酵素活性
フェーズI反応に関与する酵素の活性に対する、INAHと組合わせて投与した場
合の本発明の化合物の効果を調べるために、以下のように実験を行った。
体重190±30gのスプラグ−ドウリーラットの8群に、INAH(第1群)またはI
NAHと実施例2〜8の化合物(第2〜8群)を併用して、各々200mg/kgの投与量
で腹腔内投与した。本発明の化合物及びINAHはそれぞれ、コーン油及びPBSで希
釈し、被検化合物はINAHを投与した直後に投与した。
実験例1(2-1)及び(2-2)におけると同様の手順に従って、p-ニトロフェノ
ールヒドロキシラーゼ及びアニリンヒドロキシラーゼの活性における変化を測定
した。酵素の活性は、INAH単独投与の場合を100%の酵素活性として決定した。
結果を表2に示す。
表2より認められるように、本発明の化合物は、INAHによって誘導されたp-ニ
トロフェノールヒドロキシラーゼ及びアニリンヒドロキシラーゼの発現を阻害す
る。特に、実施例7及び8の化合物が、優れた阻害作用を示している。実験例3
:フェーズII反応の誘導(1)
(1)ウェスタンブロット分析
フェーズII反応に関与する酵素の発現に対する、本発明の化合物の効果を調べ
るために、以下のようにウェスタンブロット分析を行った。
体重190±30gの雄性スプラグ−ドウリーラット28匹を、7群に分けた。第1
群には対照群として、体重200g当たり0.1mlのコーン油を腹腔内投与した。第2
〜第4群には、コーン油で希釈したピラジンを200mg/kg体重の投与量でそれぞれ
1、2または3日間、腹腔内投与した。第5〜第7群には、実施例1-1において
調製した化合物をコーン油で希釈して、200mg/kg体重の投与量でそれぞれ1、2
または3日間、腹腔内投与した。
前記実験例1(1)と同じ手順に従って、肝ミクロソームを分離し、SDS-ポリ
アクリルアミドゲル電気泳動に付した。その後、以下のようにミクロソームのエ
ポキシドヒドロラーゼ(mEH)についてウェスタンブロット分析を行った。5μl
のウサギ抗ラットエポキシドヒドロラーゼIgGを15mlのPBSに混合し、電気泳動を
行ったニトロセルロースペーパーを含むバッグの中に入れて、2時間振盪した。
そのニトロセルロースペーパーに、2次抗体として、ビオチン化したヤギ抗ウサ
ギIgGを15μl含む15mlのPBSを加え、2時間反応させた。ストレプトアビジン−
ホースラディッシュペルオキシダーゼ及び4-クロロ-1-ナフトールを加えて発色
させた。
結果を図6に示す。本発明の化合物が与えられた第5〜第7群では、第1(対
照)群またはピラジンを与えた第2〜第4群に比して、mEHの発現の有意な増大
が示された。特に、それぞれ2及び3日間本発明の化合物を投与した第6及び第
7群では、投与期間に比例してmEHの発現が4〜5倍増大した。
(2)酵素活性
フェーズII反応に関与する酵素であるグルタチオン S-トランスフェラーゼ(G
ST)の活性に対する、本発明の化合物の効果を調べるために、以下のように実験
を行った。
体重190±30gのスプラグ−ドウリーラットの9群に、コーン油(第1〜3群
)、ピラジン(第4〜6群)または実施例1-1にて調製した化合物(第7〜9群
)を、1、2または3日間、200mg/kgの投与量で投与した。さらに第10群には、
ピラジンと実施例1-1にて調製した化合物を併用して3日間、200mg/kgの投与量
で投与した。実験例1(1)におけると同様の手順に従って肝ミクロソームを分
離した後、GSTのサイトゾル活性を、ハビグ(Habig)の方法(ハビグ、ダブリュ
ー エイチ(Habig,W.H.)、J.Biol.Chem.、249巻、7130〜7139頁(1974))
に従って測定した。
すなわち、サイトゾルのタンパク質に0.1mMの1-クロロ-2,4-ニトロベンゼン及
び基質として1.0mMのグルタチオンを加え、そして、0.1Mリン酸カリウムを添加
し、総容量を1.0ml(pH 6.4)とした。得られた混液を、室温で2分間静置し、
そして1分間にわたって340nmにおける吸光度を15秒毎に測定した。標準として
、加熱により変性させたサイトゾルタンパク質を用いた。GSTの活性は1分間に
わたる吸光度の変化を測定し、9.6mM-1cm-1の消衰係数を用いて算出した。
結果を図7から9に示す。図7は対照群の結果と本発明の化合物を与えた群の
結果とを比較した棒グラフである。図8はピラジンを与えた群の結果と本発明の
化合物を与えた群の結果とを比較した棒グラフである。図9は対照群の結果と、
ピラジン、アリルスルフィド、及びピラジンと本発明の化合物とを併用して、3
日間投与した群の結果とを比較した棒グラフである。
図7から9より認められるように、本発明の化合物を与えた群において、対照
群に比して、1、2及び3日の投与につき、135%、178%及び200%というよう
に、時間に依存してGST活性が増大しており、3日間ピラジンを与えた群及びピ
ラジンと本発明の化合物を併用して与えた群での130%及び140%の増大よりもは
るかに高い。従って、本発明の化合物はフェーズII反応に関与する酵素の誘導に
有効である。実験例4
:フェーズII反応の誘導(2)
(1)イムノブロット分析
フェーズII反応に関与する酵素の発現に対する、本発明の化合物の効果を調べ
るために、以下のようにイムノブロット分析を行った。
体重190±30gの雄性スプラグ−ドウリーラット32匹を、8群に分けた。第1
群には対照群として、体重200g当たり0.1mlのコーン油を腹腔内投与した。第2
〜第8群には、コーン油で希釈した実施例2〜8の化合物を、200mg/kg体重の投
与量で腹腔内投与した。
肝ミクロソームを分離し、前記実験例1(1)におけると同じ手順に従って、S
DS-PAGEでのウェスタンブロット分析に付した。
結果を図10に示す。図10より認められるように、本発明の化合物が与えられた
第2〜第8群(レーン2〜8)では強いバンドが現れ、本発明の化合物が酵素発
現を誘導することが示唆される。
(2)酵素活性
フェーズII反応に関与する酵素の活性に対する、単独でまたはINAHと組合わせ
て投与した場合の、本発明の化合物の効果を調べるために、以下のように実験を
行った。
体重190±30gのスプラグ−ドウリーラットの16群に、コーン油(第1群)、
実施例2〜8の化合物(第2〜8群)、INAH(第9群)またはINAHと併用して実
施例2〜8の化合物(第10〜16群)を、各々200mg/kgの投与量で腹腔内投与した
。本発明の化合物及びINAHは、コーン油で希釈し、被検化合物はINAHの投与直後
に投与した。
GSTの活性の変化を実験例3(2)と同様の手順に従って測定した。酵素の活性
はコーン油またはINAH単独投与の場合の酵素活性を100%として決定した。結果
を表3に示す。
表3より認められるように、本発明の化合物はグルタチオンS-トランスフェラ
ーゼの発現を誘導し、特に実施例5、7及び8の化合物が70%もしくはそれより
多く、酵素の発現を増大せしめる。さらに、表3の結果により、酵素発現の阻害
剤であるINAHが投与された場合でさえも、本発明の化合物、特に実施例3、5及
び8の化合物は酵素の発現を強く誘導することが示される。
結論として、本発明の化合物はフェーズII反応に関与する酵素の発現を活性化
する一方でフェーズI反応に関与する酵素の発現を有効に阻害することができる
。
4.図面の簡単な説明
図1は、コーン油、ピラジン及び本発明の化合物を用いて処理したラットか
らの肝ミクロソームの、抗-P450 2E1抗体を用いたイムノブロット分析(実験例
1(1))を示す図である。
図2は、ピラジン及び本発明の化合物を用いた処理に続くp-ニトロソフェノ
ールヒドロキシラーゼ活性の経時変化(実験例1(2-1))を示す図である。
図3は、ピラジン及び本発明の化合物を用いた処理に続くアニリンヒドロキ
シラーゼ活性の経時変化(実験例1(2-2))を示す図である。
図4は、ピラジン及び本発明の化合物を用いた処理に続くN-ニトロソジメチ
ルアミンデメチラーゼ活性の経時変化(実験例1(2-3))を示す図である。
図5は、コーン油、INAH、INAHと本発明の化合物の併用、を用いて処理した
ラットから単離したミクロソームの、抗-P450 2E1抗体を用いたイムノブロット
分析(実験例2)を示す図である。
図6は、コーン油、ピラジン及び本発明の化合物を用いて処理したラットか
ら単離した肝ミクロソームの、抗-mEH抗体を用いたイムノブロット分析(実験例
3(1))を示す図である。
図7は、コーン油及び本発明の化合物を用いた処理に続くグルタチオンS-ト
ランスフェラーゼ活性の経時変化(実験例3(2))を示す図である。
図8は、ピラジン及び本発明の化合物を用いた処理に続くグルタチオンS-ト
ランスフェラーゼ活性の経時変化(実験例3(2))を示す図である。
図9は、コーン油、ピラジン、本発明の化合物及びピラジンと本発明の化合
物との併用を用いた処理後のグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性(実験例3
(2))を示す図である。
図10は、コーン油及び本発明の化合物を用いて処理したラットから単離した
ミクロソームの、抗-mEH抗体を用いたイムノブロット分析(実験例4)を示す図
である。
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フロントページの続き
(72)発明者 キム,サン,ゲオン
大韓民国 139―242 ソウル ノウォン―
ク ゴンヌン―2―ドン 230 ヒンダイ
アパートメント 16―203
(72)発明者 チョル,ヨン,ロ
大韓民国 437―082 キュンギ―ドウ エ
ウイワン―シティ ナエソン―2―ドン
ダエウー アパートメント 20―106