【発明の詳細な説明】
小型対物レンズ装置
技術分野
本発明は小型の写真カメラに好適なレンズ装置に関し、特に、視野角が55゜
以上、より好ましくは60゜以上であるものに関する。
背景技術
最近は、より小型で安い写真カメラを生産する需要が高まっており、カメラ用
レンズ装置としてもより小型で製造コストの安いものが求められている。三枚構
成のレンズまたはテッサー型のレンズ装置は、レンズの枚数が少なくて済むため
このような目的に好適である。
テッサー型レンズ装置のような三枚構成またはその改良型のレンズ装置は、写
真装置の分野において既に何年にもわたって使用されている。さらに、三枚構成
のレンズ装置を有する対物レンズにおいて、前端のレンズの前方または後端のレ
ンズの後方に絞りを配置することは既に周知であり、そのようなレンズ装置は米
国特許3,910,685号、米国特許4,886,342号、米国特許4,8
92,398号、米国特許4,676,607号、米国特許3,967,884
号、米国特許3,895,857号および米国特許3,784,287号等に開
示されている。これらの対物レンズは、小型であるという利点を有し、レンズ点
数も少なく分割型鏡筒の製造コストを削減することができる。
しかしながら、これらのレンズ装置の多くは、各レンズ要素の間にスペーサー
リングや留め金のようなスペーサーを設ける必要があった。このような構成では
、スペーサーの厚さ誤差が累積するとともにスペーサーの楔効果による誤差が累
積するという欠点がある。さらに、部品点数の増加により製造コストが高いとい
う欠点がある。
スペーサーや留め金を省くための手段として、米国特許4,886,342号
および米国特許3,784,287号には、レンズ要素をプラスチックで成型し
、それを独自の方法で装着する技術が開示されている。しかしこの構造では、レ
ンズ要素を製造するための光学材料の選択範囲が限られるという問題がある。た
とえば写真用のレンズ装置では、良好な光学特性を得るために、レンズ材料とし
て一定の屈折率およびV数を有するものが必要であるが、ガラス材料でしかそれ
らの特性を満たすことができず、プラスチック材料では十分な特性が得られなか
った。
さらにレンズの有効口径よりも外周に大きく離れた位置でエッジ接触させた場
合には、レンズの直径および厚さが大きくなり、レンズ装置全体の小型化が図れ
ない問題が生じる。
従って、小型カメラに対する需要が増えるにつれ、そのようなカメラに適した
構造の単純なレンズ装置を、光学特性を損なうことなく、より安いコストで製造
することが強く望まれている。
発明の開示
本発明の目的は、小型カメラに適した高品質で生産コストの安いレンズ装置を
提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は光軸を自動的に合わせる
ことができ(self-center)、かつ、レンズ装置の小型化を阻害することなくス
ペーサーを省くことができるレンズ装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、組立が容易で、レンズ相互が自己調芯され、レン
ズ間のスペーサーを省くことができるレンズ装置を提供することにある。
これらの目的および他の目的を解決するために、本発明に係るレンズ装置は、
対物側から順に、対物側へ面した第1の凸面を有する第1の正のメニスカスレン
ズ要素と、第2の両凹レンズ要素と、第3の両凸レンズ要素と、レンズ装置の最
後のレンズ要素の後方に配置された絞りとを具備し、さらに、以下の関係を満た
すものである。
N3−N1≦0.1
N1/N2≧0.9
0.25f<Σd<0.35f
ここで、
fはレンズ装置の合成焦点距離、Σdは最前方のレンズ表面の頂点から最後方
のレンズ表面の頂点までの距離、N1は前記第1のレンズ要素を構成する正レン
ズ
の屈折率、N2は前記第1のレンズ要素を構成する負レンズの屈折率、N3は前記
第3のレンズ要素を構成する正レンズの屈折率である。これらの関係により、レ
ンズ装置の小型化を図りつつ収差バランスを良好にすることができる。
本発明に係るレンズ装置の他の態様では、外側に配置された第1の正のレンズ
要素と、外側に配置された第2の正のレンズ要素と、前記第1のレンズ要素と第
2のレンズ要素との間に、前記第1のレンズ要素から離間して配置された負のレ
ンズ要素と、前記第1または第2のレンズ要素のいずれかの外側に配置された解
放絞りとを具備し、互いに隣接する各2枚の前記レンズ要素は互いにエッジで接
触しあい、その接触部はレンズの透明口径の外周縁から2〜3mmの範囲内に位
置することを特徴とする。
本発明の他の態様は、小型カメラ用の小型のレンズ装置であって、互いに近接
して配置された複数のレンズ要素を有し、これらレンズ要素の倍率および間隔は
少なくとも55゜の視野角を有するように設定され、前記光学レンズ要素群は少
なくとも一つの正のレンズ要素および一つの負のレンズ要素を含み、前記正のレ
ンズ要素と前記負のレンズ要素との間隙量は、前記正のレンズ要素の厚さよりも
小さくされ、互いに隣接する各2枚の前記レンズ要素は互いにエッジで接触しあ
い、さらに、以下の関係を満たすことを特徴とする。
20≦f≦30
5≦BF≦24.85
2≦f/No.|min.≦5.6
ここで、fはレンズ装置の焦点距離であり、BFはレンズ装置の後方焦点距離で
あり、f/No.|min.は絞りを解放とした場合の最小F数である。
本発明の他の態様のレンズ装置では、外側のレンズ要素の一方の後面に絞り(
ダイヤフラム)または解放絞り(aperture stop)が設けられ、レンズ装置を大
口径モードで使用する場合には、前記絞りまたは解放絞りが不必要な光を遮蔽す
るレンズ邪魔板として機能するとともに、前記レンズ要素のいずれかのレンズ表
面が開口絞りとして作用し、前記大口径モードよりもより遅いF数で使用される
場合には、前記絞りが開口絞りとして機能することを特徴とする。
本発明の他の態様のレンズ装置では、対物側から順に、対物側へ面した第1の
凸面を有する第1の正のメニスカスレンズ要素と、第2の両凹レンズ要素と、第
3の両凸レンズ要素と、レンズ装置の最後のレンズ要素の後方に配置された絞り
とを具備し、以下の関係を具備する。
20≦f≦30
5≦BF≦24.85
3≦f/No.≦16
さらに、前記レンズ要素の曲率は、レンズ装置に上方から入射した不必要な光の
進路を調整し、これらの光がレンズ装置の絞りの開口部を通過しないようにする
ことができるように設定されている。
図面の簡単な説明
図1は本発明に係るレンズ装置の第1実施例を示す簡略化した断面図である。
図2は本発明に係るレンズ装置の第2実施例を示す簡略化した断面図である。
図3a〜図3dは、第1実施例のレンズ装置の収差曲線を示すグラフである。
図4a〜図4dは、第2実施例のレンズ装置の収差曲線を示すグラフである。
図5および図6は、図1および図2のレンズ装置をそれぞれマウント構造体に
組み込んだ状態を示す断面図である。
図7は、負のレンズ要素の後面にエッジ接触させる条件を示す断面図である。
図8は、エッジ接触箇所が有効口径位置にある場合の不必要な光の進路を示す
図である。
図9は、本発明を適用しないレンズ装置に入射した迷光の進路を示す図である
。
図10は、図2のレンズ装置において迷光を遮断する効果を示す図である。
図11は、ヒートソールリングリテーナーを使用した鏡筒に図2のレンズ装置
を装着した状態を示す断面図である。
図12aおよび図12bは、図11に示したヒートソールリングリテーナーを
形成するための方法を示す図である。
実施例
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で
は、便宜のため、対物側すなわちカメラ外部を向く側を前方、カメラ内部を向く
側を後方と称する。
図1および図5は、小型写真カメラ50等の光学装置を示している。この実施
例の写真カメラ50は、鏡筒4(レンズマウントともいう)と、この鏡筒4内に
収容されたレンズ装置100とを具備している。レンズ装置100は、対物側か
ら順に、第1レンズ要素L1、第2レンズ要素L2、第3レンズ要素L3の計3
枚を有する。これらレンズ要素L1,L2,L3は光軸方向へ向けて間隔をあけ
て配置され、レンズ装置100は、写真カメラ50内のフィルム支持手段(図示
略)上に配置された撮影フィルムFの画像面に焦点が合うようにされている。
最後方に位置する第3レンズ要素L3の後方には、光軸に対して垂直に、光軸
と中心が合致した開口部を有する絞りSTが配置されている。この絞りSTの開
度によってレンズ装置100のf/No.(F数)が決定される。すなわち、絞
りSTの開度を小さくすれば、f/No.が大きくなる。図5に示される鏡筒4
は本発明に好適な一例を示すに過ぎず、本発明はこのような鏡筒4に限定される
ものではない。本発明のレンズ装置は小型カメラ等に使用されるものであるから
、鏡筒4も十分に小型であり、大量生産に適していることが望ましい。
図示の実施例においては、第1レンズ要素L1は、1枚の正のメニスカスレン
ズで構成され、対物側を向く第1の凸面S1と、第2の凹面S2を有する。メニ
スカスレンズとは、片面が凸面、他面が凹面とされたレンスであり、正とは入射
した平行光を収束させること、すなわち、メニスカスレンズの場合は、凸面の曲
率半径が凹面の曲率半径よりも小さいことをいう。
第2レンズ要素L2は、1枚の両凹レンズで構成され、前面(第1面)S3お
よび後面(第2面)S4を有する。第3レンズ要素L3は、1枚の両凸レンズで
構成され、前面(第1面)S5および後面(第2面)S6を有する。レンズ要素
L1,L2,L3の焦点距離はそれぞれ、例えば、19.86、−8.31、1
0.04とされる。レンズ装置100の焦点距離に対する、第2レンズ要素L2
の焦点距離の比の絶対値は、0.325である。フィルム面に十分結像させるた
めには、本発明のレンズ装置は少なくとも55゜の視野角を有していることが好
ましく、より好ましくは60゜以上若しくは65゜以上とされる。この実施例で
は特に、67゜または68゜の視野角が得られる。この実施例のレンズ装置10
0では、以下の条件が満たされるようになっている。
N3−N1≦0.1
N1/N2≧0.9
(より好ましくは、0.9<N1/N2<1.0)
0.22f<Σd<0.38f
ここで、fはレンズ装置の合成焦点距離、Σdは最前方のレンズ表面S1の頂点
から最後方のレンズ表面S6の頂点までの距離、N1は第1レンズ要素L1の屈
折率、N2は第2レンズ要素L2の屈折率、N3は第3レンズ要素L3の屈折率で
ある。
前記条件の理由は以下の通りである。屈折率が正である第1レンズ要素L1お
よび第3レンズ要素L3を高屈折率ガラスで形成すると、ペッツバル数(Petzva
lsum)を低くすることができる。また、屈折率が高ければ、レンズ要素の曲率を
小さくすることができ、レンズ装置100全体が一層小型化できる。さらに、ペ
ッッバル数を正確にするために、負である第2レンズ要素L2の屈折率N2をで
きるだけ小さくすることが好ましい。しかし、一般的な無色ガラス(flint glas
s)においては、屈折率が低いほど、V数が高くなることが避けられず、色収差
を補正する点からはV数は低い程良いのである。このように、ペッツバル数を良
好にすることと色収差の補正を良好にすることは両立しがたく、釣り合いをとら
なければならない。前記Σdの条件は、レンズ装置100を小型化するため、お
よび広い角度に亙ってコマ収差の補正を良好にするためのものである。この第1
実施例の実際の性能を図3a〜dに示す。
図3aは、3種類の波長(B,G,R)での有効口径に対する、光軸方向の球
面収差(単位:mm)を示すグラフである。横軸の幅は0.2500mmである
。このグラフから明らかなように球面収差は良好に補正されており、軸色(axia
l color)も有効口径の約0.9倍の範囲で補正されている。
図3bは、接線コディントンフィールド曲率(tangential coddington field c
urvature)(XT)および球欠コディントンフィールド曲率(sagittal
coddington field curvature)(XS)を示すグラフである(単位mm)。横軸
の幅は0.4000mmである。画像領域の0.6倍を越えた位置に交点があり
、非点収差がよく補正されている。
図3cは、画像の高さに対する歪み率をプロットしたグラフである。画像の全
領域において、歪み率が2%以下であることがわかる。
図3dは、画像領域に対して横色収差(lateral color)をプロットしたグラ
フである(単位mm)。横軸の幅は0.0200mmである。このグラフから明
らかなように、横色収差は良好に補正され、フィールドの大部分において5μm
以下の変動に抑えることができた。
本発明におけるレンズ要素はプラスチックで形成されていてもよいが、この実
施例のレンズ要素L1,L2,L3はガラスで形成されている。ガラスで形成す
ることにより、米国特許4,886,342号で言及されている歪みの問題を改
善することができる。レンズ装置100のレンズ要素L1,L2,L3の倍率、
形状、および相互の配置間隔は、相互に接触している一対のレンズ要素がそれら
の外周部においてエッジ接触または他の構造で接触するように構成されている。
また、隣接する各一対のレンズ要素L1,L2,L3の相互接触部の直径は、有
効口径(clear aperture:CA)を3mm以上越えない、より好ましくは2mm
以上越えない値とされている。すなわち、図7に示すように各レンズ要素L1,
L2,L3は、有効口径CA+Δ(Δ=3mm以下、より好ましくは2mm以下
)の直径となる位置で、互いにエッジ接触または他の接触構造により当接されて
いる。
レンズ要素L1,L2,L3の有効口径(clear aperture:CA)とは、基本
的に、必要な光線の全てをレンズ装置100を通して画像面に到達させることが
できる最小の開口径を意味する。必要な光線の束は、レンズ装置100の他のレ
ンズ面との関係によって決定される。レンズ装置100のレンズ要素L1,L2
,L3の有効口径CAは、以下の条件を満足することができる、レンズ面におけ
る必要な最小限の開口径であると定義される。
a)レンズ装置100に要求される最小f/No.を可能とする程度に大きい
径であること。
b)その領域の周縁部において、要求される量の光を伝達することができる最
も広い領域であること。
有効口径CAが小さすぎれば、画像の周辺部において許容できない減光(蹴ら
れ)が生じ、逆に大きすぎれば、十分に補正されていない光が画像面に到達する
ことになる。また、有効口径CAが大きすぎれば、レンズ装置100を十分に小
型化することができないばかりか、迷光が現れるおそれがある。各レンズ要素L
1,L2,L3の有効口径CAの外側の領域は、光を通さないようにマスクされ
るか、あるいは何らかの手段が設けられ、外側領域を通過した光が画像面に到達
しないようにされる。
図1において、相互に接触している面は、面S2aと面S3a、面S4aと面
S5aである。これらの面S2a,S3a,S4a,S5aは光軸に対して垂直
かつ平坦な面である必要はなく、互いに接着されている必要もない。なお、面S
2a,S3a,S4a,S5aはそれぞれ、面S2,S3,S4,S5の一部で
ある。
このように、レンズ要素L1,L2,L3が互いにガラスとガラスとを機械的
に接触させて配置されることにより、レンズ要素間によけいなスペーサーを設け
る必要がなくなる。但し、レンズ要素L1,L2,L3間に薄い接着層が設けら
れた場合には、本発明に係るエッジ接触であると考える。このようにレンズ要素
L1,L2,L3を相互にエッジ接触させることにより、スペーサーの厚さ誤差
の累積や楔効果による誤差の累積を防ぐことができる。製造過程におけるスペー
サーの厚さ誤差や楔角度の誤差は、レンズ要素L1,L2,L3相互の配置誤差
を引き起こす。これによりレンズ装置100の性能を低下させる。上述したよう
に、レンズ要素L1,L2,L3同士を接触させることにより、スペーサーを不
必要とし、光学的性能を高めることができる。レンズ要素L1,L2,L3同士
をエッジ接触させることによりさらに、各レンズ要素L1,L2,L3は必然的
に光軸合わせされるから、複雑な光軸合わせ作業が不必要になる。また、図5に
示すように、円環状をなすエッジ接触箇所の直径を(有効口径CA+Δ)とし、
Δを3mm以下、より好ましくは2mm以下とすることにより、レンズ装置10
0の外径を最小にすることができる。また、このようにすることによりレンズ要
素L1,L2,L3の肉厚およびこれらの間隙を最小とすることができ、レンズ
装置100を小型化し、かつ製造コストを低減することができる。
一方、レンズ要素L1,L2,L3のエッジ接触箇所を、有効口径CA上に設
けることは好ましくない(すなわち、Δ=約0.0mm)。レンズ要素L1,L
2,L3の装填時に、接触部に凹みや欠けが生じて、望ましくない光のにじみ(
sparkling)を生じるからである。すなわち、図8に示すように、レンズ要素の
接触部に凹みや欠け、擦傷、気泡が生じた場合には、接触部を通過した光Aが散
乱する。この不必要な散乱光Bはレンズ装置を通過して、フィルムなどの画像形
成媒体に到達するおそれがある。レンズ装置100の外径を限定したことにより
鏡筒を分割する必要もなくなる。
第1レンズ要素L1および第2レンズ要素L2の間の光軸Aに沿った間隙量d
1は、図1に示すように、第1レンズ要素L1の光軸Aに沿った厚さT1よりも
小さいことが望ましい。また、第2レンズ要素L2および第3レンズ要素L3の
間の間隙量d2は、第3レンズ要素L3の厚さT3よりも小さいことが望ましい
。これらの条件を満たすことにより、レンズ装置100の小型化が図れ、各レン
ズ要素L1,L2,L3のエッジ接触を保つことができる。さらに、以下の関係
を満たしていることが望ましい。
T1≧2・d1 かつ T3≧2・d2
以下の関係を満たすとさらに好ましい。
T1≧2・d1 かつ T3≧3・d2
図示の第1実施例においては、T1/d1=2.9、T3/d2=3.5である
。上記各寸法はいずれも光軸Aに沿う値である。
レンズ装置100の小型化を図る上で、第1レンズ要素L1および第3レンズ
要素L3と第2レンズ要素L2との間隙量d1,d2のうち少なくとも一方は、
第2レンズ要素L2の厚さT2よりも小さいことが望ましい。
また、以下の関係を満たす場合には、レンズ装置100の小型化と収差バラン
スとの両立が可能である。
0.275≦|f2|/f≦0.375
1.5≦f1/f3
ここで、f1は第1レンズ要素L1の焦点距離、f2は第2レンズ要素L2の焦点
距離、f3は第3レンズ要素L3の焦点距離、fはレンズ装置100の焦点距離
である。
絞りST(ダイヤフラム)を第3レンズ要素L3の後方に配置したことにより
絞りSTを埃や塵から保護することができる。これに対し、絞りSTを第1レン
ズ要素L1の前方に配置した場合には、絞りSTのさらに前方にカバーガラスを
配置して埃や塵から絞りSTを保護する必要が生じる。したがって、絞りSTを
第3レンズ要素L3の後方に配置することにより、カバーガラスを省くことが可
能である。
このような構成によれば、面S6の頂点からフィルムまでの距離を小さくでき
、レンズ装置100の小型化が図れる。例えば、レンズ装置100の焦点距離が
25.6mmであるとすれば、レンズ頂点からフィルムまでの距離をわずか27
.26mmに短縮することが可能である。この場合、レンズ装置100の有効口
径CAは9.9mmであり、f/No.は4.5になる。レンズ装置100を小
型カメラ用に使用する場合には、焦点距離は20〜30mm、焦点範囲は22〜
28mm、より好ましくは25〜27mmであることが望ましい。
焦点距離がより短い場合、すなわちf<20mmの場合には、同一の画像寸法
に相当する視野角が広くなるため、レンズ枚数を増やさざるを得なくなり、収差
の補正が困難になることを本発明者らは見いだした。特に、歪み収差や、非点収
差が顕著になる。一方、f/No.を変えずに、より長い焦点距離、すなわちf
>30mmを得ようとすると、全てのレンズ要素L1,L2,L3の外径を大き
くしなければならず、レンズ装置100の容積が大きくなるだけでなく、レンズ
要素L1,L2,L3をエッジ接触させることが危険になる。さらに、後方焦点
BFは5〜24.85mmであることが望ましい。後方焦点BFとは、第3レン
ズ要素L3の面S6の頂点から画像面までの距離を意味する。第3レンズ要素L
3を画像面から5mm以内に配置すると、f/16以上に絞った際に、面S6に
より画像面に人工的な模様が生じる。したがって、本発明に係るレンズ装置を小
型カメラに使用する場合には、以下の条件を満たすことが好ましい。
20≦f≦30 (1)
5≦BF≦24.85 (2)
2≦f/No.|min.≦5.6 (3)
ここで、fはレンズ装置の焦点距離であり、BFはレンズ装置の後方焦点距離で
あり、f/No.|min.は絞りを解放とした場合の最小F数である。
ただし、より安価なカメラに適用する場合にはf/No.はもっと遅くてよい
ので、(3)の条件を、3<f/No.<16のように変更してもよい。f/N
o.はレンズ装置100全体としてのF数である。
図5は、レンズ装置100のレンズ要素L1,L2,L3を鏡筒4内に固定せ
ずに配置した状態を示す断而図である。レンズ要素L1,L2,L3は互いに固
定されることなく、互いの光軸が合わされている。レンズ要素L1,L2,L3
の全ては、鏡筒4に対して押し付けられている。この実施例では、レンズ要素L
1,L2,L3の外周面1b,2b,3bが、鏡筒4の円筒状内壁面4a,4b
,4cに装着されている。レンズ要素L1,L2,L3と鏡筒4との間には十分
な間隙が形成され、レンズ要素L1,L2,L3は鏡筒4の内部で移動できるよ
うにされている。さらに、第1レンズ要素L1は押圧手段10により第2レンズ
要素L2に向けて押圧されるとともに、第3レンズ要素L3は押圧手段20によ
り第2レンズ要素L2に向けて押圧され、これにより全てのレンズ要素L1,L
2,L3は鏡筒4内に安全に保持されている。
このレンズ装置においては、レンズ要素L1,L2,L3を速やかに鏡筒4内
に挿入することができる。挿入されたレンズ要素L1,L2,L3は、第1レン
ズ要素L1および第3レンズ要素L3の近傍に配置された押圧手段10,20に
押されて相互にエッジ接触するので、高い正確度を以てレンズ要素L1,L2,
L3を相互に光軸あわせすることができる。
さらに、このレンズ装置においては、外側に位置する第1レンズ要素L1およ
び第3レンズ要素L3を高屈折率材料で形成することが望ましい。このようにす
れば、各レンズ要素L1,L3の曲率を低減することができ、球面収差を抑制す
ることができる。さらに、レンズ要素L1,L2,L3を相互にエッジ接触させ
た場合には、高屈折率ガラスを使用することが好ましい(このことは、上述した
f/No.、視野角度、焦点距離の限定とも関連する)。低い屈折率の材料を使
用した場合には、各レンズ要素L1,L3の倍率、半径を変更しなければならず
、エッジ接触させることが困難になる。
本発明の好ましい実施例の一例の構成を以下の表1に示す。表1において、レ
ンズ要素は対物側から順にL1,L2,L3とし、Nはスペクトルのdラインに
対する屈折率を示している。Vはアッベ数であり、Rはレンズ表面の曲率半径で
あり、Tはレンズ要素の光軸に沿う厚さであり、dはレンズ要素間の光軸に沿う
離間量である。
本発明の第2実施例を図2,図6および図11に示す。これらの図に示す写真
装置は、鏡筒(4A,4B)およびこの鏡筒内に配置されたレンズ装置200を
具備している。レンズ装置200のパラメーターを表2に示す。
この第2実施例は、後端係止型のレンズ装置200を使用した写真カメラ用の
ものである点、および正のレンズ要素−負のレンズ要素−正のレンズ要素の3枚
型構成になっている点で、第1実施例の装置と共通である。すなわち、この実施
例は3枚構成の誘導品である。しかし、第1実施例とは異なり、この実施例は実
際には4枚のレンズによって構成されている。対物側から順に、第1レンズ要素
は対物側に向けて凸をなす正のメニスカスレンズL1’で構成され、第2レンズ
要素は両凹レンズL2’で構成され、第3レンズ要素は第3の両凸レンズL3a
’と第4のメニスカスレンズL3b’とから構成されている。第4のメニスカス
レンズL3b’は負のレンズであり、その凸面が画像面に向けて配置されている
。第3の両凸レンズL3a’と第4のメニスカスレンズL3b’は結合されてお
り、1枚の張り合わせ両凸レンズを構成している。この実施例のレンズ装置20
0は、最後方のメニスカスレンズL3b’の後面S7’の後方に絞りSTを有す
る。レンズ装置200は少なくとも55゜の視野角を有していることが好ましく
、より好ましくは60゜以上若しくは65゜以上とされる。この実施例では特に
、67゜以上の視野角が得られる。レンズ装置200においては、先の実施例と
同様に、以下の関係を満たす場合、レンズ装置200の小型化と収差バランスと
の両立が図れる。
0.275≦|f2|/f’≦0.375
1.5≦f1/f3
さらに第2実施例においても、以下の関係を満たすことが好ましい。
20≦f≦30
5≦BF≦24.85
3≦f/No.≦16
レンズ装置200の各パラメーターの具体例を表2に示す。
(1):絞りSTは、レンズがf/3.5である時に邪魔板として作用し、この
時S7’の有効口径部が絞りとして機能する。
表2中の半径、厚さ、有効口径の単位はmmである。レンズ装置200の性能
を図4a〜図4dに示す。
図4aは、3種類の波長(B,G,R)での有効口径に対する、光軸方向の球
面収差(単位:mm)を示すグラフである。横軸の幅は0.2500mmである
。このグラフから明らかなように球面収差は良好に補正されており、軸色(axia
l color)も有効口径の約0.9倍の範囲で補正されている。
図4bは、接線コディントンフィールド曲率(tangential coddington field
curvature)(XT)および球欠コディントンフィールド曲率(sagittal coddin
gton field curvature)(XS)を示すグラフである(単位mm)。横軸の幅は
0.4000mmである。画像領域の0.6倍を越えた位置に交点があり、非点
収差がよく補正されている。
図4cは、画像の高さに対する歪み率をプロットしたグラフである。画像の全
領域において、歪み率が0.5%以下であることがわかる。
図4dは、画像領域に対して横色収差(lateral color)をプロットしたグラ
フである(単位mm)。横軸の幅は0.0200mmである。このグラフから明
らかなように、横色収差は良好に補正され、フィールドの大部分において5μm
以下の変動に抑えることができた。
図6および図11に示すように、レンズ装置200のレンズL1’,L2’,
L3a’,L3b’は、鏡筒内に固定されることなく収容されている。各レンズ
L1’,L2’,L3a’,L3b’は相互に固定されていないが、これらの光
軸A’は互いに合わせられている。レンズL1’,L2’,L3a’,L3b’
はいずれも鏡筒の内壁面に対して押し付けられている。各実施例において、レン
ズL1’,L2’,L3a’,L3b’は鏡筒の円筒形をなす内壁面にはめ込ま
れており、鏡筒との接触面1b’,2b’,3b’をそれぞれ有している。レン
ズと鏡筒との間には、レンズが鏡筒の内部で揺動できる程度の間隙が開けられて
いる。さらに、レンズ装置200では、押圧手段10によりレンズL1’がレン
ズL2’に押し付けられ、押圧手段20によりレンズL3b’が押されてレンズ
L3a’がレンズL2’に押し付けられている。
このようなレンズ装置200においては、レンズ要素を速やかに鏡筒4内に挿
入することができる。挿入されたレンズL1’,L2’,L3a’,L3b’が
相互にエッジ接触することにより、レンズL1’,L2’,L3a’,L3b’
の光軸は高い精度を以て自然に合致する(自己調心という)。そして、各レンズ
は位置決めされた状態で、図6に示すように押圧手段10’,20’により、ま
たは図11に示すように、レンズL1’,L3b’に近接して鏡筒に形成された
押圧部30,40により保持される。
さらに、このレンズ装置においては、外側に位置するレンズを高屈折率材料で
形成することが望ましい。このようにすれば、各レンズの曲率を低減することが
でき、球面収差を抑制することができる。さらに、レンズを相互にエッジ接触さ
せるには、高屈折率ガラスを使用することが好ましい(このことは、上述したf
/No.、視野角度、焦点距離の限定とも関連する)。低い屈折率の材料を使用
した場合には、各レンズ要素L1,L3の倍率、半径を変更しなければならず、
エッジ接触させることが困難になるためである。
レンズ装置200の組立は、次のようにして行う。最初に、鏡筒内に最後方の
レンズを落とし入れ、後方の押圧手段20’または40、および鏡筒の内壁面に
よってそのレンズを支持する。次に第2のレンズL2’を鏡筒に落とし込む。す
ると、このレンズは後方のレンズとエッジで接触する。両者がエッジ接触するこ
とにより、第2および第3のレンズ要素の間隙量d2は自動的に所定の正確さで
決定され、それ以上の手間を要しない。最後に、第1レンズL1’を鏡筒内に落
とし入れる。この第1レンズL1’と第2レンズL2’とがエッジ接触すること
により、両者の間隙が正確に決定される。さらに、3枚のレンズを鏡筒内に収容
したら、押圧手段で第1レンズL1’を固定し、これにより全てのレンズを光軸
を揃えた状態で互いに分離しないように固定する。そのためには図6に示すよう
な押圧手段10’または図11に示すようなヒートソールされたリテーナー30
が使用される。このようなヒートソールリテーナー30は、図12aに示すよう
なプラスチック製のリップ31を十分な強度の音波エネルギーで軟化させ、図1
2bに示すように、第1レンズL1’の前面エッジを取り囲むリング部32に変
形させることにより形成することができる。そして、金属工具でリング部をレン
ズに向けて押圧することにより、レンズを鏡筒内に封じ込める。
前述の実施例と同様に、各レンズ要素は、有効口径CAからΔ=約2mmの位
置か、あるいは有効口径CAからΔ=2mm以内の位置において、互いにエッジ
接触している。これにより、各レンズがガラスとガラスとを機械的に接触させて
配置することが可能となるので、レンズ間によけいなスペーサーを設ける必要が
なくなり、小型写真カメラに好適である。また、絞りをレンズ装置の外側に設け
たので、分割型の鏡筒を使用する必要がなく、その分のコストを削減することが
可能である。2枚のレンズをエッジ接触させ、それらの間のスペーサーを省くた
めには、レンズの双方の外周がエッジ接触箇所よりも外方に達し、かつ一方のレ
ンズには他方のレンズ(通常は凹面を有するレンズである)のエッジを支持する
正確な傾斜面が形成されていることが好ましい。前記傾斜面は、レンズの中心か
ら正確な距離を隔てて形成され、各レンズを鏡筒内に収容していく過程で、この
傾斜面に沿って他方のレンズが均等に滑り落ちることにより、レンズ間の間隙量
が正確に規定されるようになっている。さらに、このような構成によればエッジ
の欠けが生じにくく、不要な迷光を低減できる。
レンズL1’とレンズL2’との間隙量d1が、第1レンズL1’の厚さT1よ
りも小さく、かつレンズL2’と第3レンズL3a’との間隙量d2が第3レン
ズL3a’の厚さT3よりも小さい場合には、レンズ装置200の小型化が容易
となるだけでなく、レンズ同士のエッジ接触を保つために役立つ。さらに、以下
の関係を満たすことが望ましい。
T1≧2・d1 かつ T3≧2・d2
さらに好ましくは、
T1≧2・d1 かつ T3≧3・d2
この実施例においては、T1/d1=2.2であり、T3/d2=4.4である。さ
らに、レンズ装置200の小型化を図るために、正のレンズと第2または中央レ
ンズとの間隙のうち少なくとも一方が第2レンズの厚さよりも小さくてもよい。
この構成によれば、レンズ装置の絞りを開いてあるいは速い速度で使用する場
合(すなわちf/No.が小さい場合)に、レンズ装置の後面を絞りとして使用
することが可能であるとともに、「本当」の絞り(ダイヤフラム)すなわち解放
絞りを、f/No.=3.5の場合に、上方からの光(upper ray)を調整する
ための邪魔板として機能させることができる(図6)。すなわち、f/No.が
3.5よりも小さい場合には、ダイヤフラムが本当の絞りとして働く。
さらに、面S5に有効口径の透明開口部を配置することにより、上方からの光
が傾きの中間において進路調整されるので、それらの画像品質を向上できる。
レンズ系の中で多重反射した光がフィルムを露光する現象を防ぐことが重要で
ある。図9はこのような多重反射の様子を示したものである。図9には、光源か
ら72゜の方位角で入射した光が従来構成の第1レンズ内で2回反射してレンズ
装置を通過し、画像面に到達する様子が示されている。
したがって、本発明に係るレンズL1’,L2’は、最前のレンズL1’から
入射し反射した迷光の出射仰角が小さくなるように構成されている(すなわち、
第1レンズ内での第2回の反射)。このように変更することにより、迷光が解放
絞りを通過し難くなる。解放絞りのダイヤフラム壁は、迷光または不要な光を遮
断する。第2のレンズ要素の形状の設定により、第1のレンズ要素L1における
迷光の内部反射を抑制し、迷光の発生各を最小にすることができる。これにより
第1レンズL1’に入射する光軸の上方からの光(図10中光線C)は、絞り(
ダイヤフラム)の開口部に向けて伝達されずに、ダイヤフラムの壁により遮断さ
れる。これにより、総合的な内部反射が抑制され、画像面に到達する迷光が減少
できる。
第2実施例に係るレンズ装置200では、迷光を最小化するための構成が設け
られている。迷光光線は、第1レンズの前面の光軸よりも下方の位置から入射し
た場合を除き、レンズ装置200を通過することはないから、屈折した光の強度
を低下することができる。屈折した光は画像面に到達する前に遮断される。
したがって、この第2実施例では、55〜75゜の上方に位置する輝く物体、
例えば太陽からの光を受けても、第2レンズL2’の形状設定によりレンズ内に
おける2重または3重の反射を防ぐことができる。太陽がそれよりも低い場合(
例えば55゜以下)には、ファインダー内に太陽を確認することができるから、
誤って写真を撮るおそれがない。太陽が75゜以上の位置にあるときには、入射
角か大きすぎるためレンズ内において2重反射するおそれはない。要約すれば、
第1および第2レンズ要素はレンズ装置内における迷光の2重または3重反射を
防ぐことが可能である。不必要な光線の進路を曲げることによりダイヤフラムの
開口部へ迷光が向かわないようにし、これにより画像面(フィルム面)への到達
を防止することにより、画像または写真の質を高めることができる。図9はこの
効果を示す迷光の進路を示す図である。図10は迷光を制御した場合の効果を示
す図である。
上述したレンズ装置は、焦点距離が24〜27mm、半視野角が34゜以上で
ある場合に特に好適である。
以上、実施例について説明したが、本発明は上述した実施例のみに限定される
ものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で必要に応じて構成を変更してよ
いことは勿論である。
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(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),JP
(72)発明者 グーズィ, ウィリアム トーマス ジュ
ニア
アメリカ合衆国 ニューヨーク 14450
フェアポート フォーリング ブルック
ロード 63