【発明の詳細な説明】
p53 蛋白断片とその疾患の検出および
モニタリングへの利用
本発明の対象は、ヒトのp53 蛋白の抗原決定基(epltopesimmunodominants)
に対応するp53 蛋白質断片にある。
本発明は、さらに、疾患、特に癌状態および前癌状態の検出とそのモニタリン
グへのその利用に関するものである。
p53 遺伝子の突然変異はヒトの癌において最も頻繁に見られる遺伝子的変化(
alterations geniques)である。p53 遺伝子の突然変異の頻度は、結腸癌 (1)、
乳癌 (2)、肺癌 (3)、白血病(4) 、骨肉腫 (5)、卵巣癌 (6)、胃癌 (7)および脳
癌(8で高なっている。また、遺伝性突然変異(mutatlons hereditalres)がリ−
フラウメニ(Li-fraumeni)家族性癌症候群を裏付ける証拠であることは最近示
された(9,10)。なお、カッコ内の数値は添付の文献リストの番号である。
世界的で最も多い上記10種類の癌でp53 遺伝子の変化が癌患者の40〜45%で見
付かっている。最も頻繁に見られる変化は系統発生的に保存されたp53 蛋白の5
つの領域(HCD)の中の4つに位置での点突然変異である(11,12)。
1982年にべンチモル(Benchimol)達は、p53 蛋白は形質転換細胞内で特異的
に過剰発現(superexprimee)され、正常細胞では検出不可能であることを放射
化免疫法で示した(13)。その後多数の研究でこの結果が確認され、p53 蛋白の
蓄積はその安定化(stabilisation)によるものであることが示された。この安
定化はほぼ全ての場合において蛋白のコンホーメーションおよ
び安定性を変化させる点突然変異(mutation ponctuelle)に起因することが確
認された。この観察結果から、p53 遺伝子の突然変異とこの蛋白質の蓄積との間
には強い相関関係があるものと考えられ、広範囲な腫瘍においてp53蛋白質の発
現の免疫組織学的研究が系統的に行われた(14,15)。
1982年にクロフォード(Crawford)達が乳癌患者で抗p53 抗体を見付けた(16
)。その後、1987年には、カロンデフロメンタル(Caron de Fromental)達は種
々の癌患者(小児)の血清中にこの抗体が存在することを示している(17)。特
に、バーキットリンパ腫での頻度は20%で、平均頻度は12%である(17)。
最近、ダビドフ(Davidoff)達は、この抗p53 抗体の存在は遺伝子のエキソン
5および6の特異的な突然変異に関係することを示した(18)。この突然変異蛋
白質はhsp70蛋白と関係し、インビボよりもインビトロでの腫瘍形成性が強いと
いうことが知られている。
この血清抗体が存在するということは、患者の治療後の経過予想が悪くなって
いることを一般に示すので、この抗体の存否の重要性が強調されるようになった
。
ヒトのp53 蛋白の中で突然変異が最も多い部分はp53 蛋白配列のほぼ中央に位
置するので、突然変異蛋白を生成する癌患者のこの抗体は、突然変異を有する蛋
白質の中央領域を特異的に認識すると考えられた。事実、癌患者ではヒトのp53
蛋白のこの領域が異なっているので、生体の免疫応答はこの変化領域で優先的に
起こると考えるのが論理的である。
しかし、本出願人は、驚くべきことに、患者の抗体によって認識される領域は
p53の癌で変化した領域に対応するのではなく、ヒトのp53 蛋白の別の領域すな
わち p53のアミノおよびカ
ルボキシル末端のある領域に対応するということを見出した。この結果は従来の
研究からは全く予測できないことである。
1980〜1985年にはネズミのp53 とヒトのp53 との両方に対する多数のネズミの
モノクローナル抗体が製造された。これらのモノクローナル抗体の特性決定に関
しては2つの研究が行われた。バンク(Bank)達(22)はヒトのp53 に対するネ
ズミのモノクローナル抗体の製造方法を報告した。その中の1つの抗体(PAb180
1)は現在多くの研究所で極めてよく利用されている。この著者達は p53蛋白断
片を用いてpAb1801 またはPab1803 によって認識される抗原決定基がアミノ酸32
と79との間に位置するということを示した。
別の報告でウェイド−エバンスとジェンキンス(WADE-EVANS,JENKINS)(30
)は、ネズミのp53 に対する4つのモノクローナル抗体の抗原決定基の位置を決
定した。この研究のために彼達はネズミのp53 蛋白の断片を使用した。結果は、
PAb242抗体は9と25との間のアミノ酸の抗原決定基を認識し、PAb246抗体は88と
109との間のアミノ酸の抗原決定基を認識し、PAb248抗体は157と192との間のア
ミノ酸の抗原決定基を認識し、PAb421抗体は370と378との間のアミノ酸の抗原決
定基を認識するというものであった。
以上の研究から、モノクローナル抗体によって認識される抗原決定基はこの蛋
白の全長にわたって分布しているということが分かる。
本発明の目的は、前癌性患者または原因を問わず癌を患っている患者の体液中
に存在する抗-p53抗体に対して特異的に反応するペプチドまたは蛋白質断片(p5
3 蛋白を除く)を提供することにある。
このペプチドは p53蛋白のアミノ末端領域(残基1〜112)またはカルボキシ
ル末端領域(残基350〜393 )のアミノ酸配列内に含まれているのが有利である
。野性のヒトp53 蛋白の配列はスーシ(SOUSSI)達によって報告されている(26
)。
本発明のペプチドは下記のいずれかの配列の一部または全部を有しているのが
有利である:
本発明のペプチドは下記のいすれかの配列の一部または全部を有しているのが
好ましい:
このペプチドが p53蛋白のアミノ酸配列350〜393に含まれる場合には、ペプチ
ドは下記のいすれかの配列の一部または全部を有しているのが好ましい:
癌患者の抗体と特異的に反応する p53蛋白断片の決定は当業者に公知の任意の
方法、特に酵素抗体試験、放射化免疫試験、免疫沈澱試験またはイムノブロッテ
ィング試験で行うことができる。これらの試験は当業者に周知であり、一般的マ
ニュアル(28,29)に記載されている。
本発明はさらに、本発明のペプチドの一つの合成をコードするヌクレオチドす
なわちリボヌクレオチド(RNA)またはデオキシリボヌクレオチド(DNA)
配列に関するものである。
このペプチドは疾患状態、特に癌または前癌状態の検出とモニタリングとで使
用できる。
本発明のさらに他の対象は、下記工程を有することを特徴とする組織または体
液中の抗体の存在を検出または定量する方法
にある:
1) 組織または体液と本発明ペプチドとを同時に存在させ、
2) 抗体、ペチドまたは抗体−ペプチド結合体のいずれか存在を検出し、対応
する定量を行う。
抗体−ペプチド結合体の定量は抗体ペプチド結合の定量、抗体−ペプチド結合
体に含まれペプチドまたは抗体の定量で行うことができる。
この定量は当業者に公知の方法、特に物理的または免疫学的方法、例えば酵素
抗体法、放射化免疫法または化学的免疫法、あるいは最近の分子生物学技術に基
づいた新しい方法、例えばイムノ−PCR(immuno-PCR)等で行うことができる
。この方法では抗原−抗体結合体を検出用抗体に結合したオリゴヌクレオチドに
作用するPCR反応によって検出し、次いで、電気泳動で結合体を目視できるよ
うにする。
ここで存在を検出・定量すべき抗体は疾患状態、特に癌または前癌状態を象徴
するものであるのが有利である。
上記方法はペプチドを固相に固定して行うことができる。
形成された結合体は上記ペプチドあるいは検出または定量しようとする抗体と
特異的に反応する抗体を用いて検出することができる。この結合体を検出するた
めの抗体は抗体−ペプチド結合体を検出するためのマーカーに結合されているの
が好ましい。このマーカーは酵素、化学ルミネセント分子、生物ルミネセント分
子、蛍光分子または放射化分子にすることができる。
本発明方法は、少なくとも下記1)および2)を含む抗体の定量および検出キット
を用いて行うのが有利である:
1) 上記の少なくとも1種のペプチドの調製物、
2) 上記ペプチドと定量すべき抗体との間の反応を検出するた
めの手段。
反応で生じたペプチド−抗体結合体は上記のマーカーに連結された抗体を用い
るか、結合体の存在を検出可能な任意の分子を用いて検出するのが有利である。
本発明の対象のペプチドは当業者に公知の任意の方法でアミノ酸から合成する
のが好ましい。また、遺伝子工学または p53蛋白の酵素分割または化学分割で得
ることもできる。
ペプチドと検出すべき抗体とで形成された結合体を検出する抗体は、体液また
は組織を採った種(espece)に特異的な抗原決定基に対する抗体であるのが好ま
しい。従って、ヒト由来の抗体の定量で結合体の検出に用いる抗体は抗−ヒト抗
体にする。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるもの
ではない。
図1は p53蛋白断片と互いに異なる癌患者の血清中に存在する各抗体との間の
相互作用のプロフィールを示し、図1A〜1Fでハイブリダイゼーションで使用
した抗体はそれぞれ p53蛋白で免疫処置したウサギCM1血清、 p53蛋白で免疫
処置したネズミ血清、抗-p53抗体の存在が検出された3人の患者からとった血清
および抗アルカリホスファターゼ抗体で構成されたコントロールである。
図2〜図7は p53蛋白に対応する77ペプチドの3人の肺癌患者(患者番号84、
37、109)の血清および3人の乳癌患者(患者番号57、27、29)の血清との反応
性を示している。なお、抗体/ペプチド結合体は比色定量で求め、光学密度(濃
度)はマイクロプレートリーダ(lecteur de microplaque)で測定した。
図8は癌患者の各種血清による77のペプチド(横軸)の認識頻度(縦軸)を示
している。
実施例では下記の略語が使用した:
ER エストロゲン受容体
HCD p53 蛋白の高度に保存される領域
hsp70 70キロダルトンの熱衝撃蛋白
MAB モノクローナル抗体
PBS リン酸緩衝液
PBST 0.1 %のTween 20を含むPBS
PBSTM 0.1 %のTween 20と3%の粉末スキムミルクとを含むPBS
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
PhoA E.Coliのアルカリホスファターゼ
PR プロゲステロン受容体
SDS ドデシル硫酸ナトリウム実施例1
癌患者の血清中に存在する抗-p53抗体の検出、表記およびこの抗体によって認 識されるp53蛋白領域の位置決定
1)材料と方法
1.1 血清
浸潤性乳癌患者80人と転位部(metastase)のある患者20人から組織病理学的
に診断を行った後に血清を集め、−20℃で保存した。
1.2 モノクローナル抗体
アロタイプ H-2d のマウスBALB/cに正常なヒトp53 の100μgを腹腔注射して
免疫処置した。二次免疫注射は由来の同じ蛋白を80μg静脈注射して行った。二
次免疫注射の4日後、脾臓細胞を取り出し、ポリエチレングリコール(PEG
1500 ベー
リンガー(Boehringer)社製)の存在下でNS−1ミエローマセル(骨髄種細胞
)と融合させた。1%のハイポキサンチンアミノプテリン チミン(HAT)(
ギブコ(Gibco)社製)を添加した培地でスクリーニングし、抗原としてヒトp53
を用いたELIZA試験によってハイブリドーマからの抗体の分泌を確認した
。p53 を認識可能な抗体を分泌するハイブリドーマを限界希釈法でクローニング
した。
ヒトの p53の抗原決定基の位置を決定するために、p53 蛋白全体をカバーする
重複ペプチド(peptides chevauchement)群(長さ15アミノ酸(aa)、10aaをカ
バー)を用いた。p53 全体に相当する一連(77個)のビオチン化したペプチドが
入手可能であった。N末端から数えて最初の76ペプチドはそれぞれ15アミノ酸の
長さを有し、77番目のペプチドは13アミノ酸しかなかった。
Hlll抗体はアミノ酸 291と 300との間に含まれる抗原決定基を認識し、HR2
31抗体はアミノ酸371と380との間の抗原決定基を認識し、HT216はアミノ酸1
と64との間の抗原決定基を認識した。
1.3 p53断片の発現
pLip4ベクタを使用してハイブリッド蛋白を製造した。このプラスミドはpLip1
(21)由来のもので、E.coliのPhOA遺伝子の+6コドンと+7コドンとの間
に2つの制限部位SaclとSallとを導入したものである。クローニング後、融合蛋
白PhOAをバクテリアのペリプラズムに移し、低温浸透ショックで抽出した(21)
。
p53 蛋白を6つの断片に分けた。断片2(残基108〜162)、断片3(残基158
〜219)、断片4(残基215〜267)および断片
5(残基263〜310)はそれぞれHCDII〜V領域を含み、人間の癌に多く見られ
る突然変異部位(HOT SPOT領域)に相当する(11,12)。断片1(残基1〜112
)および断片6(残基306〜393)はこの蛋白質のアミノ末端およびカルボキシル
末端領域に相当し、一般には突然変異を含まない。
ヒトの p53のcDNAの特定の断片(クローンH8、VardaRotter, Welssma
n Instltute, Israel)を、取込みのミスを少なくするためにVent−DNAポ
リメラーゼを用いてPCRで増殖させた後、pLIP4ベクター中にサブクローニン
グした。陽性のクローンについてアルカリホスファターゼ活性をテストし、直接
取り込んだ。
PhOA遺伝子に融合した6つの断片はE.Coli内で可溶性蛋白として発現された
。断片6を用いたフュージョン蛋白の発現率は他の断片に比べて低かった(2〜
5倍)。
発現された蛋白の抗原性は各種のモノクローナル抗体との反応性で立証された
(表2参照)。PAb1801(22)およびHT216 は断片1に特定的であり、PAb240 抗原
決定基は断片3上に位置している(23)。Hlllは断片5上にあり、HR231およびP
Ab122(24)は p53のカルボキシル末端領域(断片6)に特異的であった。これ
らのモノクローナル抗体は全てイムノブロッティングおよび免疫沈澱においてpL
IP4フュージョン蛋白と反応し、これらの抗原決定基の位置と合致した(表2)
。
1.4 p53 断片のイムノブロッティング分析方法
イムノブロッティングはトービン(Towbin)達の方法に従って行った(20)。
0.1%のSDSを含むpH8.3のトリスーグリシン緩衝溶液中でポリアクリルアミ
ドゲル電気泳動(10%アクリルアミド)で蛋白質を分離した。蛋白質をニトロセ
ルロースメ
ンブランに移し(40Vで2時間)、メンブランをPBSTM緩衝溶液に浸漬して
非特異的な固定部位を飽和させ、その後、PBSTで5回洗浄した。
患者の血清とE.coli抽出物とのウェスタンブロッティングを行うために、ニ
トロセルロースメンブランへの非特異的な結合を減らし且つ血清中に存在する抗
ホスファターゼ抗体を除去するために、数回の予備培養が必要であった。先ず最
初に、血清をE.coliのアルカリホスファターゼを発現するバクテリア抽出物中
で+4℃で1時間培養し、その後、バクテリア抽出物を含む(フュージョン蛋白
なし)ニトロセルロースメンブラン上で+4℃で12時間培養した。
ハイブリッド蛋白を含むニトロセルロースメンブランを、調製された血清(1
/100〜1/500に希釈されたもの)と一緒にPBSTM緩衝溶液中で室温で1時
間培養した。PBSTMで5回洗浄後、このメンブランをペロキシダーゼと結合
させたウサギの抗マウス抗体(PBSTM緩衝溶液で1/4000に希釈したもの)
と一緒に1時間培養し、PBS緩衝溶液で5回洗浄し、ルミノール(Luminol(
登録商標)Amersham)で検出した。
読取りおよび翻訳後、フィルタを免疫反応によってテストし(イムノブロッテ
ィング)、メンブランを抗アルカリホスファターゼ抗体で培養することによって
実際に付着したフュージョン蛋白の量を調べた。
免疫沈澱およびポリアクリルアミド−SDSゲル(SDS−PAGE)電気泳
動はスーシ(Soussi)達の方法に従って行った(19)。
2) 結果
2.1 抗-p53抗体および臨床結果
乳癌患者100人の血清に対して免疫沈澱およびウエスタンブロッティングで抗
体の存在を調べた(表1)。全ての臨床段階で14%の患者で循環抗体が検出され
た。
頻度はクロフォード(Crawford)達の報告(10%)(16)よりもわすかに高い
。これは細胞溶解物の代わりに精製した組み換えp53蛋白を用いたためであるこ
とはほぼ確かである。
抗体の存在と病気の臨床段階との間には相関関係はなく、腫瘍寸法または神経
節性の転移(dissemination ganglionnaire)の関数での頻度の差は見られない
。その他の臨床パラメータ、例えば年齢、ホルモン状態との間にも相関関係はな
い。しかし腫瘍の組織学的段階との間には相関関係が立証され(SBRステージ
3)、初期乳癌での独立した予後判定マーカである。これは抗体の存在とホルモ
ン受容体の不在(ER−PR)との間の関連から確認した。
2.2 免疫応答に関わるp53 蛋白領域の分析
免疫応答が突然変異した p53か、野性 p53かのいずれかを決定するために、全
ての陽性血清といつくか陰性血清とを各種のp53 突然変異体(His175、Val143お
よびPro156)に対する免疫沈澱でテストした。血清による野性型 p53と突然変異
型 p53との認識は同じであった。
第2シリーズの試験ではCMI血清(25)をテストした。CM1は高純度のヒ
トp53 による免疫処置で得られたウサギのポリクローナル抗体で、免疫細胞化学
でしばしば利用される(24)。
ウエスタンブロッティング法で、このCM1血清は主として断片1と断片6とを
認識し、断片5をそれよりは弱く認識する抗
体を含んでいるということが示された。免疫沈澱でも同様な結果が得られた。抗
アルカリホスファターゼ抗体を用いたコントロール試験から、同じ量の異なる融
合蛋白がゲル上に存在することが立証された(図1)。これらの観察結果を確認
するために、免疫精製した p53で免疫処置したネズミの血清について試験を行っ
たが、その認識プロフィールはCM1血清のそれと実質的に同じであった。別の
3匹のネズミでも同じ結果が得られた。
以上の結果全体から、p53 蛋白のアミノ末端部位とカルボキシル末端部位は免
疫処置された動物で非常に免疫原性が高く、優位な応答に対応し、断片5はそれ
よりも弱い応答を示すということが分かる。免疫沈澱またはイムノハイブリダイ
ゼーション(イムノブロティング)のいずれの場合でも放射線写真の暴露時間を
長くしても断片2〜4の認識は検出されなかった。
抗-p53抗体を含む患者の血清の認識プロフィール(図1と表3)から、イムノ
ハイブリダイゼーションの結果、患者での免疫応答は主として p53の断片1と断
片6とにある抗原決定基に対するものであることが明らかに示される。何人かの
患者の血清は断片1のみしか認識しないが、断片6のみを認識した血清はない。
従って、主たる応答は断片1に対するものであると推定できる。免疫沈澱でも類
似の結果が得られた。動物の場合と同様に、免疫応答にはいくつかのバリエーシ
ョンがあり、何人かの患者は断片4と断片5に対する抗体を有している。しかし
断片2と断片3に対する抗体は検出されなかった。この現象は乳癌に特異的なも
のではなかった。卵巣癌または肺癌患者の血清でも同じ結果が得られた(図1と
実施例2)。
以上の結果から、p53 のアミノ末端部分は、各種の癌患者で
のB細胞免疫応答に関与する支配的な抗原決定基を1つ以上含んでいることが明
らかに立証される。カルボキシル末端領域も1つ以上の抗原決定基を含んでいる
が、アミノ末端領域に比べるとその重要性は低い。実施例2
各種の癌患者の血清中に存在する抗-p53抗体によって認識される抗原決定基の 証明:合成ペプチドを用いた分析
1) 材料および方法
底部が平らで96個のウェルを有するポリ塩化ビニル製のマイクロ滴定用プレー
ト(ダイナテック(Dynatech)社製M129)を用いた。
粉末ストレプトアビジン(シグマ(Sigma)社製 S4762)
ビオチン化したペプチド(CAT社、英国が合成)
p53 蛋白全体をカバーする一連の重複ペプチド(長さ15アミノ酸(aa)、重複
10aa)。 p53全体に相当する一連(77個)のビオチン化した(biotinylated)ペ
プチドが入手可能であった。N末端から数えて最初の76ペプチドは各々15アミノ
酸を有し、77番目のペプチドは13アミノ酸(配列No.15)を有する。
p53 蛋白に対応しない2つのコントロールペプチドをネガティブコントロール
として使用した。
ABTSタブレット 50mg(ベーリンガー社製、1112422)
ABTS緩衝溶液(ベーリンガー社製、1112597)
ペロキシダーゼと結合した抗ヒト抗体 IgG-GAH;PDSOFシレヌス(Silen
us)社製
粉末ミルクELIZAテスト法 マイクロ滴定用プレートの調製
100μlのストレプトアビジン(蒸留水中濃度5μg/ml)をプレートのウェ
ルに入れた。次いでプレートを37℃の乾燥オーブン中で48時間培養した。この
脱水工程後、各プレートをラップにくるんで4℃で数ヶ月保存した。洗浄
脱水したプレートを0.05%のTween 20を含むPBS(リン酸緩衝溶液)を用い
て5回洗浄した。このTweenを含むPBS緩衝溶液(PBS−T)は、この実験
を通して洗浄溶液として使用した。5回の洗浄は定法に従ってウェル1つあたり
200 μlのPBS−T緩衝溶液を用いて行った。最後の洗浄後、プレートを吸収
紙上で乾燥させた。洗浄は全てこの方法で行った。飽和
100 μlの飽和溶液を各セルに添加した。
飽和溶液:PBS緩衝溶液
0.2 %Tween 20
5%ミルク
次いで、プレートを緩やかに揺り動かしながら37℃で1時間培養し、上記の方
法で洗浄した。ビオチン化したペプチドの添加
50μlのペプチド溶液(125 ngのペプチドを0.1 %の牛血清アルブミンと0.02
%のソジウムアジドを含むPBS緩衝溶液に希釈したもの)を各ウェルに添加し
た。各ウェルにp53 の特定の領域に対応する異なるペプチドを加えた。プレート
を、緩やかに揺り動かしながら20℃で1時間培養し、その後上記方法で洗浄した
。患者血清の添加
テストすべき血清は5%のスキムミルクを含むPBS緩衝溶液で1/50に希釈
した。希釈した血清50μlをプレート上の各ウェルに添加した。プレートを、緩
やかに揺り動かしながら20℃で1時間培養し、その後上記方法で洗浄した。二次抗体での培養
100 μlのヒト抗イムノグロブリンモノクローナル抗体(シレヌス社製、5%
のスキムミルクを含むPBSで1/2500に希釈した抗体)を各ウェルに添加した
。プレートを、緩やかに揺り動かしながら37℃で30分間培養し、その後上記方法
で洗浄した。検出
100 μlの基質(ABTS1mM、ベーリンガー社製)を各ウエルに添加した。
プレートを、緩やかに揺り動かしながら20℃で培養した。基質添加の15、30、60
分後に、ELISA読み取り装置(405nm)で結果を読み取った。
2) 結果
実施例1では2つの現象が確認された。
i)進行性の乳癌(治療後の経過予想が悪い)患者では抗-p53抗体の存在が見ら
れる。
ii)抗-p53抗体は主として p53のアミノ末端領域にある112 個のアミノ酸の領域
と、残基306〜393の間にあるカルボキシル末端とを認識する。この実験では抗-p
53抗原によって認識される領域をこれ以上正確に決定することはできなかった。
この実施例の実験はこれらの領域に関する非常に詳細な研究結果を示したもの
である。
各種の癌患者から取った1,000以上の血清を分析した。血清
抗体を認識する抗原決定基の正確な種類を決定するための究めて詳細な実験を行
うために、47個の陽性血清を選択した。
抗-p53抗体を含むこれら47個の血清を、野性のヒト p53蛋白全体をカバーする
一連(77個)のペプチドについて試験した。採用した方法はELISA検出法で
ある。得られた結果の例は図2〜7にまとめてある。結果全体を表5にまとめた
。
この表では、最大のELIZA値に対して50〜100%の応答を示したペプチド
を黒で示した。最大のELIZA値に対して20〜50%の応答を示したペプチドは
灰色で示した。検討された癌の頭文字は以下の通り:
LC: 肺癌
UC: 膀胱癌
PA: 膵臓癌
BC: 乳癌
BL: バーキットリンパ腫
H : 肝臓癌
OV: 卵巣癌
L : 白血病
TY: 甲状腺癌
PR: 前立腺癌
図8は各ペプチドに対して得られた頻度を示している。このヒストグラムは検
討された47個の血清による各ペプチドの認識頻度を示している(表5参照)。例
えば40%の血清が少なくともペプチド3を認識し、63%の血清が少なくともペプ
チド4を認識したことを示している。98%の血清がアミノ末端領域(N-ter)
の5つのペプチドの中の少なくとも1つを認識するが、カルボキシル末端領域(
C-ter)のペプチドを認識したのはわずか
47%であった。100%の血清がこの表に記載の13個のペプチドの中のいずれかを
認識した。
以上の結果全体から、98%の患者の血清がアミノ末端領域から5ペチド内に存
在する抗原決定基の少なくとも1つを認識したということが分かる。47%の血清
はカルボキシル末端領域のペプチドの少なくとも1つを認識した。
従って、癌患者または前癌状態の患者の体液中のこれら抗体の存在を検出する
ためのELIZAテストを開発する際には、このペプチドのアミノ末端またはカ
ルボキシル末端を用いることが最も重要であるということが分かる。
参考文献
配列リスト
(1) 一般情報
(i)出願人:
(A) 氏名 : ラボラトワール ユーロビオ
(B) 通り : アヴニュ ドゥ スカンディナビー7
(C) 市 : レズューリ セデックス
(E) 国 : フランス国
(F) 郵便番号: 91953
(G) 電話番号: 69 07 94 77
(H) FAX 番号: 69 07 94 77
(I) TELEX : 681 425 F
(ii)発明の名称: p53蛋白断片と疾患状態の検出およびモニタリングでのそ
の利用
(iii)配列数 :15
(iv)コンピュータで読み取り可能なフォーム:
(A) 媒体の種類 : フロッピディスク
(B) コンピュータ: IBM PC互換機
(C) システム : PC−DOS/
MS−DOS
(D) ソフトウェア: Patent In Release#1.0,
バージョン#1.25 (OEB)
(vi)元の出願データ:
(A) 出願番号: FR 9213110
(B) 出願日 : 1992年11月 2日
(2) 配列No.1 に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 25アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(iv)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列: 配列No.1
(2) 配列No.2に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 20アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列:配列No.2
(2) 配列No.3に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列:配列No.3
(2) 配列No.4に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列:配列No.4
(2) 配列No.5に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列:配列No.5
(2) 配列No.6に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列:配列No.6
(2)配列No.7に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列: 配列 No.7
(2)配列 No.8に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列: 配列 No.8
(2)配列 No.9 に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列: 配列 No.9
(2)配列 No.10に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列: 配列 No.10
(2)配列 No.11に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列: 配列 No.11
(2)配列 No.12に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列 : 配列 No.12
(2)配列 No.13に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(vi)由来:
(A) 生物 : 人間
(xi)配列 : 配列 No.13
(2)配列 No.14に関する情報(i)配列特性:
(A) 長さ : 15アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(xi)配列 : 配列 No.14
(2)配列 No.15に関する情報
(i)配列特性:
(A) 長さ : 13アミノ酸
(B) タイプ: アミノ酸
(C) 鎖の数: 一本鎖
(D) 形状 : 直線
(ii)分子タイプ : ペプチド
(xi)配列 : 配列 No.15
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