JPH08200413A - 湿式摩擦係合板とその製造方法 - Google Patents

湿式摩擦係合板とその製造方法

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JPH08200413A
JPH08200413A JP897295A JP897295A JPH08200413A JP H08200413 A JPH08200413 A JP H08200413A JP 897295 A JP897295 A JP 897295A JP 897295 A JP897295 A JP 897295A JP H08200413 A JPH08200413 A JP H08200413A
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JP
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copper alloy
resin
engagement plate
powder
friction
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JP897295A
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English (en)
Inventor
Katsuyoshi Kondo
勝義 近藤
由重 ▲高▼ノ
Yoshie Kouno
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Sumitomo Electric Industries Ltd
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Sumitomo Electric Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 摩擦摺動時の押付荷重が小さい場合でも相手
材の摺動面と均一に接触することによって潤滑油中で
0.15以上の摩擦係数を有し、かつ耐摩耗性,耐焼付
性,および耐硫化腐蝕性に優れた湿式摩擦係合板を提供
する。 【構成】 湿式摩擦係合板は、内周と外周の一方にスプ
ライン嵌合歯部を有する環状の金属製基板と、その金属
製基板の表裏両面上に固着された環状の摩擦材とを含
み、摩擦材は樹脂の素地とその樹脂内で均一に分散させ
られた10〜90重量%の複合銅合金粉末とを含み、複
合銅合金粉末は銅合金素地とその素地内で均一に分散し
た硬質粒子とを含み、樹脂素地は複合銅合金粉末を固着
するネットワーク構造を有し、摩擦材は50容量%以下
の気孔率と50GPa以下のヤング率を有していること
を特徴としている。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は低剛性樹脂摩擦材を含む
湿式摩擦係合板に関し、そのような湿式摩擦係合板はた
とえば自動車のAT(オートマチック・トランスミッシ
ョン)用湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ、さらに
は自動二輪のMT(マニアル・トランスミッション)用
湿式クラッチ等に好ましく用いられる得るものである。
【0002】
【従来の技術】従来の湿式摩擦係合板に用いられる摩擦
材として、紙を基材としたペーパー摩擦材がある。この
ようなペーパー摩擦材は、パルプに各種の摩擦調整剤を
配合し、樹脂を含浸させた後に熱硬化させることによっ
て得られる。摩擦調整剤は、摩擦材における摩擦係数の
向上と安定化を目的として添加されるものであり、ガラ
ス繊維,カーボン繊維,セラミック繊維,アラミド繊
維,さらにはスチールやステンレスなどの金属繊維のよ
うな繊維材料が一般に用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そのような構造を有す
るペーパー摩擦材においては、(1)基材が紙であるの
で強度,耐熱性,および耐摩耗性に劣り、(2)摩擦調
整剤の多くが繊維状であるので摺動時に得られる接触抵
抗が十分ではなく、潤滑油中において0.15を超える
摩擦係数が得られず、さらに(3)高い摩擦係数を得る
ために繊維状の摩擦調整剤を多量に樹脂粉末に混合すれ
ば、その混合粉末の流動性が低下するという課題があ
る。
【0004】近年、このような課題を解決するために、
金属製湿式摩擦材の開発が検討され、その一例として、
経済性に優れた粉末冶金法を利用した焼結銅合金をベー
スとする焼結摩擦材が開発された。
【0005】しかし、このような金属ベースの摩擦材は
従来のペーパー摩擦材に比べて剛性が大きいので、摩擦
摺動時に低荷重が付与されるような使用条件下では摩擦
材の摺動面が相手材の摺動面と均一に接触せず、局所的
に接触するいわゆる片当り現象を生じる。その結果、摩
擦材が本来的に有する摩擦係数を実際の摩擦摺動時に発
揮することができず、安定した十分な実効摩擦係数が得
られないという課題がある。さらに、一般の銅合金をベ
ースとする摩擦材においては、極圧添加剤として硫黄を
含有するオイル中で硫化腐食現象を生じ、摩擦摺動特性
の耐久性が著しく阻害されるという課題もある。
【0006】以上のような先行技術における課題に鑑
み、本発明は、摩擦摺動時の押付荷重が小さい場合でも
相手材と局所的に接触する片当り現象を生じることな
く、摩擦材の摺動面と相手鋼材の摺動面が均一に接触す
ることによって潤滑油中で0.15以上の安定した摩擦
係数を得ることができ、かつ耐摩耗性,耐焼付性,耐硫
化腐食性に優れた湿式摩擦係合板を経済的に提供するこ
とを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明による湿式摩擦係
合板は、内周と外周の一方にスプライン嵌合歯部を有す
る環状の金属製基板と、その金属製基板の表裏両面上に
固着された環状の摩擦材とを含み、その摩擦材は樹脂の
素地と10〜90重量%の範囲で樹脂素地内に均一に分
散させられた複合銅合金粉末とを含み、その複合銅合金
粉末は銅合金素地とその銅合金素地内で均一に分散させ
られた硬質粒子とを含む粒子分散型銅合金粉末であり、
樹脂素地は複合銅合金粉末を固着するネットワーク構造
を有し、摩擦材は50容量%以下の気孔率と50GPa
以下のヤング率を有していることを特徴としている。
【0008】湿式摩擦係合板は、好ましくは10重量%
以下の範囲内で、黒鉛(カーボン),MoS2 ,CaF
2 ,WS2 ,およびBNの少なくとも1つの固体潤滑剤
をさらに含んでいる。
【0009】複合銅合金粉末は、好ましくは5〜80重
量%の範囲内で硬質粒子を含んでいる。
【0010】複合銅合金粉末の銅合金素地は、好ましく
は、5〜40重量%のZnと5〜40重量%のNiの少
なくとも一方を含み、かつZnとNiの合計含有量が6
0重量%以下であって、優れた耐硫化腐食性を有してい
る。
【0011】また、銅合金素地は、好ましくは3〜20
重量%のSnを含んでいる。硬質粒子としては、Si,
Mo,鉄系金属間化合物,酸化物,窒化物,および炭化
物の少なくとも1つを利用することができる。
【0012】硬質粒子の最大粒径は、50μm以下であ
るが好ましい。複合銅合金粉末は、30〜250μmの
平均粒径を有していることが好ましい。
【0013】湿式摩擦係合板の樹脂素地として、フェノ
ール系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリ
アミド・イミド系樹脂,およびメラミン系樹脂の少なく
とも1つを含む熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0014】湿式摩擦係合板は、潤滑油中において鋼材
の相手材に対して摩擦摺動したときに0.15以上の摩
擦係数を有している。
【0015】本発明による湿式摩擦係合板の製造方法に
おいて、複合銅合金粉末は、銅合金粉末と硬質粒子とを
含む混合粉末に機械的合金化法(メカニカルアロイング
法),機械的混合法(メカニカルグラインディング
法),および造粒法の少なくとも1つの機械的混合粉砕
処理を施すことによって硬質粒子を最大粒径で50μm
以下に粉砕するとともに銅合金粉末の素地内に均一に分
散させて得ることができる。
【0016】複合銅合金粉末は、50μm以下の最大粒
径を有する硬質粒子が均一に混合された銅合金溶湯に噴
霧法(アトマイズ法)を適用することによっても得るこ
とができる。
【0017】湿式摩擦係合板の製造方法において、V型
ミキサ,ニーダ,およびボールミルから選択された粉末
混合機を用いて複合銅合金粉末と樹脂粉末とが所定の割
合で均一に混合された樹脂・合金混合粉末を得て、樹脂
粉末の溶融温度以上に加熱された閉塞金型内に樹脂・合
金混合粉末を供給して加圧成形することによって湿式摩
擦係合板に用いられる摩擦材を得ることができる。
【0018】湿式摩擦係合板の製造方法において、樹脂
粉末の溶融温度以上に加熱された閉塞金型内に、樹脂・
合金混合粉末を供給し、次いで金属製基板を供給し、さ
らに樹脂・合金混合粉末を供給して、その後に加圧成形
することによって金属製基板の表裏両面上に摩擦材が固
着された湿式摩擦係合板を得ることができる。
【0019】金属製基板の表裏両面上に摩擦材を形成す
るときに、その金属製基板の表裏両面上には予め接着剤
が塗布されてもよい。
【0020】
【作用】本発明による湿式摩擦係合板に用いられる樹脂
摩擦材においては、摩擦抵抗材としての添加剤として、
従来の樹脂系摩擦材で使用されていた単なる硬質成分で
ある酸化物,窒化物などの粒子や金属繊維,ガラス繊
維,セラミックファイバなどではなくて、微細な硬質粒
子が素地中に均一に分散された粒子分散型複合銅合金粉
末が用いられていることが重要な特徴であり、その結
果、潤滑油中において鋼材を相手材として摩擦摺動した
ときに片当り現象や焼付き現象を生じることなく0.1
5以上の摩擦係数を安定して得ることができる。ここ
で、粒子分散型複合銅合金粉末は、互いに金属的に結合
せずに樹脂素地中で均一に分散して存在する必要があ
る。なぜならば、それらの複合銅合金粉末が金属的に結
合した状態、すなわち複合銅合金粉末同士が焼結すれ
ば、摩擦材の剛性が増大するので、たとえ樹脂成分が介
在していても摩擦材と相手材との間の局所的な片当り現
象が生じるからである。
【0021】すなわち、図1の模式的な組織図に示され
ているように、粒子分散型複合銅合金粉末同士が金属的
に結合せずに、摩擦材の素地を構成する樹脂成分中に均
一に分散することによって、局所的な片当り現象を抑制
して耐摩耗性や耐焼付性を著しく改善し得ることが見出
された。また、複合銅合金粉末中に分散する硬質粒子の
含有量を調節することによって、摩擦材が発現する摩擦
係数を制御し得ることも見出された。
【0022】図1に示されているような組織構造を有す
る樹脂摩擦材を湿式多板クラッチに用いるためには、そ
の摩擦材の剛性を約50GPa以下に小さくすることが
望ましい。すなわち、このような低い剛性を有する摩擦
材であれば、クラッチに使用されたときに約5〜10k
gf/cm2 の低い荷重が付加された場合でも摩擦材の
摺動面が変形して、局所的な片当り現象を生じることな
く相手材の摺動面と均一に接触することが可能となり、
比較的高い摩擦係数を安定して得ることができる。
【0023】樹脂摩擦材において、このような低剛性,
高摩擦係数,耐摩耗性,および耐焼付性を同時に実現す
るために、望まれる銅合金粉末素地および樹脂素地の成
分組成、硬質粒子の大きさや添加量、摩擦材の気孔率、
さらには摩擦材の製造工程における適正条件などが、本
発明者たちによる種々の実験と検討によって明らかにさ
れた。
【0024】まず、本発明者たちは、上述のように優れ
た摩擦摺動特性を発現させるためには、図1の模式図に
示されているような組織構造を有する粒子分散型銅合金
粉末を利用することが有効であることを見出した。その
組織構造は、所定の組成を有する銅合金粉末素地の内部
に微細な硬質粒子が均一に分散されて、しかもそれらの
硬質粒子がその銅合金素地と強固に結合して固定された
ものである。複合銅合金粉末がこのような組織構造を有
することによって、摩擦摺動時における硬質粒子の脱落
が抑制され、摩擦材が長期間にわたって安定した摩擦摺
動状況を実現し得ることが見出された。
【0025】すなわち、本発明における硬質粒子分散型
銅合金粉末は、樹脂摩擦材の摺動面内に微細かつ均一に
分散し、常温および高温での摩擦摺動時において相手材
との凝着発生を抑制して耐焼付性を向上させるととも
に、相手材の表面と直接接触して摩擦抵抗を生じて摩擦
係数を向上させる役割を果たす。ただし、このような役
割を効果的に果たすためには、前述のように摩擦摺動時
に硬質粒子が複合銅合金粉末の素地から脱落しないこと
が必要である。
【0026】本発明者たちは、種々の実験と検討を繰返
した結果、上述のような硬質粒子分散型銅合金粉末を経
済的に製造する方法として、粉末の機械的混合粉砕処理
法または噴霧法(アトマイズ法)を用いることが有効で
あることを見出した。
【0027】粉末の機械的混合粉砕処理法は、メカニカ
ルアロイング法,メカニカルグラインディング法,造粒
法などを代表とする粉末の混合処理法である。所定の組
成を有する銅合金粉末と硬質粒子とを含む混合粉末にこ
れらの高エネルギ混合粉砕処理法を適用することによっ
て、硬質粒子を微細に粉砕するとともに銅合金粉末素地
中にこれらの微細硬質粒子を均一に分散させることがで
きる。
【0028】なお、機械的な粉末混合粉砕処理は、従来
のボールミルによる粉砕や混合のような湿式法ではな
く、乾式法によって行なわれる。また、場合によっては
PCA(Process Control Agen
t:プロセス制御剤)として、ステアリン酸やアルコー
ルなどを少量添加することによって粉末の過度の凝集を
防ぐこともある。処理装置としては、アトライターやボ
ールミルを用いることができる。アトライターは、粉砕
効率に優れているので高速処理に適している。ボールミ
ルは、一般に長時間処理を必要とするが雰囲気制御が容
易であるので、投入エネルギの設計を適切に行なえば比
較的短時間で目標とする粉末の組織構造を実現すること
ができ、経済性に優れた装置である。
【0029】アトマイズ法では、所定の組成を有する銅
合金の溶湯中に硬質粒子を分散させて、この硬質粒子を
含む銅合金溶湯を噴霧することによって、内部に硬質粒
子が均一に分散された複合銅合金粉末を製造し得る。な
お、このアトマイズ法では硬質粒子を微細に粉砕し得な
いので、事前に望ましい粒度分布を有する微細(最大粒
径で50μm以下)な硬質粒子を準備する必要がある。
【0030】機械的混合粉砕処理法またはアトマイズ法
によって得られた粒子分散型銅合金粉末においては、銅
合金素地と硬質粒子との界面に反応層が形成されて硬質
粒子が銅合金素地中に強固に固定されるので、硬質粒子
は摩擦摺動時に摩擦材の摺動面から脱落することがな
く、摺動面の焼付きや摩耗損傷が抑制される。
【0031】潤滑油中において0.15以上の高い摩擦
係数を安定して確保し得る樹脂摩擦材を得るためには、
硬質粒子の最大粒径が50μm以下であることが望まし
く、さらに、銅合金粉末素地内で5〜80重量%の範囲
内の硬質粒子が均一に分散していることが望ましい。硬
質粒子の添加量が5重量%未満では、摩擦摺動時の接触
抵抗が小さくなって、潤滑油中において0.15を超え
るような高摩擦係数が得られない。他方、硬質粒子の添
加量が80重量%を超えれば、摩擦係数を向上させる効
果が飽和し、相手材を激しく摩耗させるので好ましくな
い。また、硬質粒子の最大粒径が50μmを超える場合
も、相手材を激しく摩耗させるので好ましくない。
【0032】本発明において用いられる摩擦材に適した
硬質粒子として、Si,Mo,鉄系金属間化合物,酸化
物,窒化物,および炭化物の少なくとも1つを含み得
る。より具体的には、鉄系金属化合物としては、FeM
o,FeCr,FeTi,FeW,およびFeBなどか
ら選択し得る。酸化物としては、Al2 3 ,Si
2,TiO2 ,およびCr2 3 などから選択し得
る。窒化物としては、AlN,Si3 4 ,およびBN
などから選択し得る。そして、炭化物としては、Si
C,WC,およびCrCなどから選択し得る。なお、こ
れらの硬質粒子の中で、Si粒子と鉄系金属化合物粒子
は脆性であるので粉砕性に優れており、特に前述の機械
的混合粉砕処理に適した硬質粒子である。
【0033】次に、本発明における硬質粒子分散型銅合
金粉末における素地の好ましい合金組成を説明する。
【0034】Znは脱酸効果を有し、これを銅合金粉末
素地に添加すれば安定なZnO層が粉末表面において均
一に形成される。そして、このZnO層は保護膜の役割
を有するので、硫黄(S)を含む潤滑油中において銅イ
オンとSとの反応を阻害し、硫化腐食の原因となる硫化
銅の生成を抑制することができる。このような硫化腐食
現象の抑制のためには、複合銅合金粉末の銅合金素地が
5重量%以上のZnを含有する必要があり、その含有量
が40重量%を超えても耐硫化腐食性の改善効果は飽和
する。
【0035】NiはZnと同様に硫化銅の生成を抑制す
る効果を有するとともに、複合銅合金粉末における合金
素地の硬さを向上させる効果を有する。このような効果
を発現させるためには、合金素地に5重量%以上のNi
を添加することが必要であり、他方40重量%を超える
Niを添加してもそれらの効果が飽和し、却って合金粉
末のコストアップを招くので好ましくない。
【0036】また、ZnとNiの合計含有量が60重量
%を超えれば、合金粉末素地が著しく硬化するので、摩
擦摺動時に相手材を攻撃するという問題を生じる。した
がって、硫黄を含有する潤滑油中において摩擦材を使用
する場合には、5〜40重量%のZnと5〜40重量%
のNiの少なくとも一方を含み、かつZnとNiの合計
含有量が60重量%以下であることが望まれる。この条
件を満たすことによって、相手材を摩耗させることなく
優れた耐硫化腐食性を有する摩擦材を得ることができ
る。
【0037】Snは、Cuとともに複合銅合金粉末の素
地を形成し、合金粉末素地の強度と靱性を向上させるよ
うに作用し、また高温での相手材との耐焼付性を向上さ
せるように作用する。したがって、摩擦摺動条件が過酷
な場合に、複合銅合金粉末の素地内へSnを添加するこ
とが好ましい。Snの添加量が3重量%未満ではそれら
の好ましい作用を生ぜず、20重量%を超えれば合金素
地中に硬くて脆い相が析出するために、却って合金素地
の靱性が低下する。すなわち、複合銅合金粉末素地中に
おける望ましいSnの添加量は、3〜20重量%であ
る。
【0038】本発明の湿式摩擦係合板に用いられる樹脂
摩擦材の樹脂素地中に複合銅合金粉末を分散させる1つ
の目的は、複合銅合金粉末素地中に分散させられた硬質
粒子が樹脂摩擦材の摺動時に摩擦抵抗粒子となって摩擦
係数を向上させるという効果を発現させるためであり、
もう1つの目的は、複合銅合金粉末の素地を構成する銅
合金が樹脂摩擦材の耐摩耗性と耐焼付性を向上させると
いう効果を発現させるためである。そして、これらの複
合銅合金粉末の周囲を摩擦材の素地である樹脂成分がネ
ットワーク状に取囲むことによって、摩擦摺動時に複合
銅合金粉末が摩擦材の樹脂素地から脱落することなく、
また、樹脂が有する軟質で低剛性の特性によって複合銅
合金粉末が相手材の摺動面と均一に接触して摩擦摺動す
ることが可能となり、その結果として優れた摩擦摺動特
性を有する樹脂摩擦材を含む湿式摩擦係合板を得ること
ができる。
【0039】このとき、樹脂摩擦材における複合銅合金
粉末の添加量が10重量%未満であれば、十分な摩擦係
数,耐摩耗性,および耐焼付性を得ることができない。
他方、樹脂摩擦材が90重量%を超える複合銅合金粉末
を含有する場合、摩擦材の樹脂素地の量が10重量%未
満の少量になって摩擦材全体の剛性が50GPaを超え
て大きくなるので、低荷重下において相手材の摺動面と
摩擦材の摺動面が均一に接触できなくなる。その結果と
して、樹脂摩擦材において、好ましい高摩耗係数,耐摩
耗性,および耐焼付性を得ることができなくなる。
【0040】また、複合銅合金粉末の平均粒径が30μ
mより小さい場合、樹脂粉末と混合するときに複合銅合
金粉末が凝集し、このような混合粉末を成形して固化す
れば、複合銅合金粉末が均一に分散された樹脂摩擦材を
得ることが困難になる。その結果、樹脂摩擦材中におけ
る複合銅合金粉末の凝集部からそれらの銅合金粉末が脱
落し、安定した摩擦摺動特性が得られなくなる。他方、
複合銅合金粉末の平均粒径が250μmを超える場合、
複合銅合金粉末を樹脂粉末と混合した後に圧縮成形する
ときの圧縮性が損なわれ、その結果として摩擦材の端部
に欠けが発生したり、摩擦材内部の空孔が不均一に分散
するために均一な組織が得られないという問題を生じ
る。
【0041】樹脂粉末は、複合銅合金粉末と混合された
後に加圧されて加熱成形される。そのとき、樹脂粉末は
一旦溶融・融解して複合銅合金粉末の周囲を取囲むこと
によって、摩擦材におけるネットワーク状の樹脂素地を
構成する。これによって、樹脂素地中に複合銅合金粉末
が強固に固着されて、摩擦摺動時に複合銅合金粉末が樹
脂摩擦材から脱落することがなく、また、樹脂の有する
軟質で低剛性の特性によって複合銅合金粉末が相手材の
摺動面と均一に接触して優れた摩擦摺動特性を発揮す
る。本発明者たちは種々の実験と検討を繰返した結果、
摩擦材においてこのように好ましい特性を生じさせる樹
脂成分として、フェノール系樹脂,エポキシ系樹脂,ポ
リイミド系樹脂,ポリアミド・イミド系樹脂,メラミン
系樹脂などの熱硬化性樹脂を用い得ることを見出した。
これらの樹脂は混合して用いることも可能である。
【0042】固体潤滑剤は、摩擦材の摺動面に分散して
存在し、より過酷な摩擦摺動条件の下において相手材に
対する摩擦材の攻撃性を小さくするとともに、滑り速度
や加圧力などの摺動条件が大きく変動する場合でも潤滑
油中で0.15以上の比較的高い安定した摩擦係数を生
じさせる効果を有し、さらには、摺動面の潤滑性を改善
することによって摺動時の振動やびびりなどを抑制する
効果をも有する。これらの効果を有する固体潤滑剤とし
て、樹脂摩擦材は、経済的にも問題の少ない黒鉛(カー
ボン),MoS2 ,CaF2 ,WS2 ,およびBNの少
なくとも1つを10重量%以下の範囲内で含むことが好
ましい。なお、固体潤滑剤の含有量が10重量%を超え
ても、固体潤滑剤による好ましい効果は飽和する。
【0043】摩擦材中に分散する空孔は、樹脂成分と同
様に摩擦材全体の剛性を小さくすることによって相手材
の摺動面と摩擦材の摺動面を均一に接触させる役割を果
たすとともに、摩擦摺動時に油溜として働くことによっ
て摺動面に潤滑油膜を形成し、より過酷な摺動条件下に
おいても焼付現象を抑制するという役割をも果たす。す
なわち、摩擦材を使用する条件によっては、樹脂摩擦材
中に空孔を分散させることによって、優れた摩擦摺動特
性を得ることができる。種々の実験や検討の結果、摩擦
材中に気孔が均一に分散して存在するときに、その気孔
率が増加するにつれて気孔による好ましい効果がより顕
著に現れることが見出された。しかし、気孔率が摩擦材
の50容量%を超えれば気孔による好ましい効果が飽和
し、却って摩擦材の機械的な強度低下を誘発するという
問題を生じる。すなわち、樹脂摩擦材における気孔率
は、その摩擦材の使用条件に応じて50容量%以下の好
ましい量を選択することができる。
【0044】本発明による湿式摩擦係合板の製造方法に
おいては、上述の機械的混合粉砕処理法またはアトマイ
ズ法によって準備された硬質粒子分散型銅合金粉末と所
定の成分を有する樹脂粉末が所定の割合で配合された後
に、V型ミキサ,ニーダー,ボールミルなどの粉末混合
機によって均一に混合される。そして、この樹脂・合金
混合粉末は樹脂粉末の溶融・融解温度である例えば15
0〜180℃程度に加熱された閉塞金型内に充填されて
加圧成形され、これによって湿式摩擦係合板に用いられ
る樹脂摩擦材が製造され得る。なお、摩擦材に所定量の
固定潤滑剤を添加することが望まれる場合、樹脂粉末と
複合銅合金粉末とを混合する際に添加することが好まし
い。
【0045】ところで、本発明の湿式摩擦係合板に用い
られる摩擦材においては、前述のように複合銅合金粉末
同士が金属学的に結合することなく樹脂素地中で分散し
ていることが特徴であるが、金型温度が高くなれば銅合
金粉末粒子間で焼結現象が生じ、その結果として摩擦材
全体の剛性が著しく増大して、低荷重下における摩擦材
と相手材との摺動面における均一接触が阻害される。さ
らに、金型温度が高くなりすぎれば樹脂成分が変質し、
その結果として摩擦材の特性が劣化する。したがって、
金型温度は樹脂粉末の溶融・融解温度以上でかつ樹脂の
特性が劣化しない温度範囲内であって、しかも複合銅合
金粉末が焼結を開始する温度よりも低い温度域に保持す
る必要がある。なお、樹脂摩擦材中の気孔率は金型内で
加圧成形する際の加圧力を変えることによって調整する
ことができる。
【0046】また、本発明による湿式摩擦係合板の製造
方法の一例では、スプライン歯部を有する金属製基板の
表裏両面上に樹脂摩擦材を固着する方法として、たとえ
ば閉塞金型内に所定重量の樹脂・合金混合粉末を供給
し、次に金属製基板を挿入し、さらにその上に所定量の
樹脂・合金混合粉末を供給して加圧する。その結果、1
度の加熱と加圧の工程によって金属製基板の表裏両面上
に樹脂摩擦材が固着された湿式摩擦係合板を得ることが
できる。この場合に、金属製基板を金型内に挿入する前
に、予めその基板の表裏両面上に接着剤を塗布すること
によって、金属製基板と樹脂摩擦材をより強固に接合す
ることができる。
【0047】
【実施例】
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】表1,表2,および表3は、湿式摩擦係合
板に用いられる樹脂摩擦材の種々の特性を評価するため
に準備された種々の樹脂摩擦材の組成などを示してい
る。これらの表は、本発明の範囲に属する試料1〜22
と比較例としての試料23〜38を含んでいる。
【0052】表1において、樹脂摩擦材試料1〜38の
各々は、X重量%の複合銅合金粉末,Y重量%の固体潤
滑剤,およびZ重量%の樹脂素地成分を含んでいる。す
なわち、X+Y+Z=100%の関係にある。また、そ
れらの樹脂摩擦材試料の各々は、表1に示された容量%
の気孔率を有している。これらの気孔率は、浸油法によ
って測定された。樹脂摩擦材に含まれている複合銅合金
粉末は、X1重量%の硬質粒子とX2重量%の銅合金素
地を含んでいる。すなわち、X1+X2=100%の関
係にある。したがって、樹脂摩擦材試料の各々は、X1
×X重量%の硬質粒子を含んでいることになる。
【0053】表2と表3において、製法IとIIは、複合
銅合金粉末の製造方法を表わしている。すなわち、製法
Iにおいては、機械的混合粉砕処理方法を用いて硬質粒
子分散型銅合金粉末が作製された。他方、製法IIにおい
ては、アトマイズ法によって硬質粒子分散型銅合金粉末
が作製された。表3の備考欄において*1が付された試
料37においては、機械的混合粉砕処理の条件を変更す
ることによって、硬質粒子の最大粒径が60μmにされ
ている。また、備考欄において*2が付された試料38
においては、機械的混合粉砕処理方法を用いることなく
銅合金粉末,硬質粒子,潤滑成分,および樹脂粉末を単
に混合して成形した後に加熱固化することによって樹脂
摩擦材にされている。
【0054】表2と表3において、各成分に関して示さ
れた数値は、重量%を表わしている。複合銅合金素地
は、Zn,Ni,およびSnの少なくとも1つと残部の
Cuを含んでいる。たとえば、樹脂摩擦材全体における
Zn含有率は、(X2×X)に表2または表3中のZn
に関する重量%を掛け合わせることによって算出するこ
とができる。
【0055】複合銅合金粉末に含まれる硬質粒子A,
B,C,およびDは、それぞれFeMo,Al2 3
AlN,およびSiCを表わしている。固体潤滑剤E,
F,G,H,およびIは、それぞれ黒鉛,MoS2 ,C
aF2 ,WS2 ,およびBNを表わしている。そして、
樹脂成分J,K,L,M,およびNは、それぞれフェノ
ール系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリ
アミド・イミド系樹脂,およびメラミン系樹脂を表わし
ている。
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】表4と表5は、表1〜3に示された樹脂摩
擦材試料1〜38における種々の特性を示している。こ
れらの表においてヤング率は超音波法によって測定さ
れ、摩擦摺動特性は図2に示されているようなリングオ
ンディスク式の湿式摩擦試験機を用いて測定された。
【0059】図2に示されているような摩擦摺動試験に
おいて、摩擦材試料および相手材(鋼材S35C)の摺
動面Sの面粗度は7s以下にされた。潤滑油としては、
コスモDEXRON II(ATF:自動変速機用潤滑
油)またはギア油Castrol−75W90のいずれ
かが用いられた。すなわち、表4と表5に示された潤滑
油AとBは、それぞれCastrol−75W90とコ
スモDEXRON IIを表わしている。摩擦材試験片1
は40mmの外径と30mmの内径と3mmの厚さを有
するリング形状に機械加工されており、図2において一
部が切断されて示されている。相手材2は60mmの直
径と5mmの厚さを有する円板に機械加工されており、
軸3によって矢印のように回転させられる。試験片1は
固定されており、相手材2に対して6kgf/cm2
圧力Wが加えられている。摺動面Sにおける試験片1と
相手材2との相対摺動速度は20m/秒であり、摺動開
始後30分と試験終了時である3時間後における摩擦係
数μ値を測定するとともに、試験期間中におけるμ値の
変動幅が測定された。また、摩擦試験終了後における摩
擦材と相手材の摩耗損傷量が測定された。さらに、各摩
擦材試料は約140℃に加熱された潤滑油中に24時間
保持された後に、試料表面を観察することによって硫化
腐食状況が調べられた。
【0060】表4に見られるように、本発明の湿式摩擦
係合板に用いられる樹脂摩擦材試料1〜22のいずれに
おいても、複合銅合金粉末中に分散させられた硬質粒子
の最大粒径は50μm以下であり、摩擦材のヤング率は
50GPa以下であって、硫化腐食を生じていないこと
も確認された。また摩擦摺動特性に関しても、試料1〜
22の何れにおいても0.15を優に超える摩擦係数μ
を安定して確保することができ、摩擦材と相手材の摩耗
量も少なくて、耐摩耗性,耐焼付性,および低相手攻撃
性に優れていることが確認された。
【0061】これに対して、表5に示された比較試料2
3〜38においては、以下のような具体的欠点が認めら
れた。
【0062】樹脂摩擦材試料23においては、複合銅合
金粉末が含有されていないので、0.15を超える十分
な摩擦係数が得られず、耐摩耗性も劣っている。
【0063】試料24においては、複合銅合金粉末の含
有量が10重量%未満の6重量%であったので、十分な
μ値と耐摩耗性が得られていない。
【0064】試料25においては、複合銅合金粉末の含
有量が90重量%を超える94重量%であるので、摩擦
材の構成が50MPaを超えている。その結果として、
この摩擦材は片当り現象を生じ、μ値の変動幅が大きく
て摩擦係数の安定性に欠けている。
【0065】試料26においては、複合銅合金粉末素地
が5重量%未満である3重量%のNiを含んでいるだけ
であるので、複合銅合金粉末に硫化腐食が発生して摩擦
材が大きく摩耗している。
【0066】試料27においては、複合銅合金粉末素地
が5重量%未満である3重量%のZnを含んでいるだけ
であるので、複合銅合金粉末の硫化腐食が発生し、摩擦
材がさらに大きく摩耗している。
【0067】試料28においては、複合銅合金粉末素地
中のZnとNiの合計含有量が60重量%を超える65
重量%であるので、複合銅合金粉末の素地が著しく硬化
して相手材の摩耗が大きくなっている。
【0068】試料29においては、複合銅合金粉末素地
が3重量%未満である2重量%のSnを含んでいるだけ
であるので、摩擦材の耐焼付性が低下して相手材に銅合
金が付着した。
【0069】試料30においては、複合銅合金粉末素地
が20重量%を超える25重量%のSnを含んでいるの
で、複合銅合金粉末の素地が著しく硬化し、相手材の摩
耗量が大きくなっている。
【0070】試料31と32においては、複合銅合金粉
末が5重量%未満の硬質粒子しか含んでいないので、十
分なμ値が得られていない。
【0071】試料33においては、複合銅合金粉末が8
0重量%を超える90重量%の硬質粒子を含んでいるの
で、相手材を攻撃し、最終的には焼付現象が発生して相
手材に銅合金が付着するとともに摩擦材が著しく摩耗し
た。
【0072】試料34と35においては、摩擦材が10
重量%を超える固体潤滑剤を含んでいるが、試料1〜2
2に比べて摩擦摺動特性のさらなる改善が得られていな
い。
【0073】試料36においては、摩擦材が50容量%
を超える60容量%の気孔率を有しているので、摩擦材
の強度が低下して摩擦試験中に試料が破損した。
【0074】試料37においては、硬質粒子の最大粒径
が50μmを超える60μmであるので、摩擦試験中に
焼付現象が生じて摩擦係数の測定が不可能となった。
【0075】試料38においては、機械的混合粉砕処理
とアトマイズ法のいずれをも用いることなく単に銅合金
粉末,硬質粒子,固体潤滑剤,および樹脂粉末が混合さ
れて成形された後に加熱固化することによって摩擦材が
作製されているので、硬質粒子が銅合金粉末素地中に分
散した組織構造を有しておらず、摩擦試験中に硬質粒子
が樹脂から脱落して焼付現象を生じた。
【0076】
【表6】
【0077】表6は、複合銅合金粉末の平均粒径が樹脂
摩擦材の特性に及ぼす影響を示している。表6中の試料
41〜47は、表2中の試料18に対応した組成を有し
ているが、複合銅合金粉末の平均粒径が種々に変えられ
ている。すなわち、複合銅合金粉末の作製には機械的混
合粉砕処理法として振動ボールミルが用いられ、その混
合粉砕処理における処理時間,ボール投入量,振動条件
などを変更することによって種々の平均粒径を有する複
合銅合金粉末が調製された。試料41〜47の各々は、
複合銅合金粉末と樹脂粉末とを含む樹脂・合金混合粉末
を170℃に加熱された閉塞金型内に充填した後に、2
00kgf/cm2 の面圧を加圧することによって、6
0mmの外径と50mmの内径と5mmの厚さを有する
リング状試験片にされ、これらの試験片について表4お
よび表5の場合と同様に摩擦摺動試験が行なわれた。
【0078】表6に見られるように、複合銅合金粉末が
30〜250μmの範囲内の好ましい平均粒径を有する
本発明による試料41〜45においては、樹脂摩擦材中
で複合銅合金粉末の凝集や偏在が生じず、また摩擦材の
外観状況も欠けや割れを生じることなく良好であった。
さらに、摩擦材中には空孔が均一に分散して存在してい
た。そして、試料41〜45において、表6に示されて
いるような比較的高い安定した摩擦係数が得られた。
【0079】他方、比較試料46と47においては、次
のような具体的な問題が生じた。試料46においては、
複合銅合金粉末の平均粒径が30μm以下の20μmで
あるので、摩擦材中で複合銅合金粉末が凝集し、その結
果として、摩擦摺動試験中に複合銅合金粉末が樹脂素地
から脱落して焼付を生じ、安定した摩擦係数を得ること
ができなかった。
【0080】試料47においては、複合銅合金粉末の平
均粒径が250μmより大きな285μmであったの
で、樹脂・合金混合粉末を加熱・固化して摩擦材を作製
する際に、摩擦材の角部に欠けが発生した。
【0081】
【表7】
【0082】表7は、複合銅合金粉末と樹脂粉末とをV
型ミキサーで均一に混合した後に、金型を用いてその樹
脂・合金混合粉末を固化するときの金型温度,加圧力,
および保持時間が摩擦材の特性に及ぼす影響を示してい
る。この表は、本発明に属する試料51〜56と比較例
としての試料57〜59を含んでいる。粉末AとBはそ
れぞれ表2中の試料18と17に対応する組成を有して
いることを表わしている。
【0083】表7からわかるように、適切な金型温度,
加圧力,および保持時間をもちいて固化された本発明に
属する試料51〜56は、いずれも50容量%以下の気
孔率と50GPa以下のヤング率を有し、良好な外観形
状をも有していた。
【0084】他方、比較試料57〜59においては、以
下のような具体的な欠陥を生じた。試料57において
は、金型温度が低くて60℃であったので、樹脂粉末が
溶融・融解しなくて、樹脂・合金混合粉末が固化され得
なかった。
【0085】試料58においては、金型温度が高すぎて
580℃であったので、樹脂成分が変質して良好な摩擦
材が得られなかった。
【0086】試料59においては、加圧力が非常に小さ
くて5kgf/cm2 であったので、樹脂粉末を十分強
固に固化することができなかった。
【0087】
【表8】
【0088】表8は、V型ミキサによって均一に混合さ
れた樹脂・合金混合粉末のうち、摩擦係合板を製造する
ときの金型温度および加圧力が摩擦係合板の外観形状に
及ぼす影響を示している。この表中の試料61〜69の
いずれにおいても、表2中の試料17に対応する組成を
有する樹脂・合金混合粉末が用いられた。
【0089】摩擦係合板の作製には、70mmの外径と
50mmの内径を有するリング状の臼型形状の閉塞金型
が用いられた。試料61〜69の各々について、所定の
温度に加熱保持された金型内に、まず15gの樹脂・合
金混合粉末が供給され、その上に69.9mmの外径と
50.1mmの内径と1mmの厚さを有するSPCC鋼
のリング状基板が挿入され、さらにリング状基板上に1
5gの樹脂・合金混合粉末が供給された。その後、閉塞
金型に所定の圧力を加えることによって、金属基板の表
裏両面上に樹脂摩擦材が形成されたリング状摩擦係合板
が作製された。なお、表8中の備考欄において*3の付
された試料64と68においては、金属基板の表裏両面
上に予め接着剤が塗布されていた。
【0090】表8からわかるように、適切な金型温度お
よび加工圧力を用いて作製された摩擦係合板61〜65
は、良好な外観形状を有しており、樹脂摩擦材はSPC
C鋼基板に強固に固着していた。特に、試料64におい
てはSPCC鋼基板の表裏両面上に予め接着剤が塗布さ
れていたので、60kgf/cm2 の小さな加圧力にも
拘らず、樹脂摩擦材が基板上に強固に固着していた。
【0091】他方、加熱温度または加圧力が適切ではな
かった試料66〜69においては、具体的に以下のよう
な問題を生じた。
【0092】試料66と67においては、金型温度が低
くてそれぞれ20℃と60℃であったので、350kg
f/cm2 の大きな加圧力にも拘らず、樹脂成分粉末が
溶解・融解しなくて樹脂・合金混合粉末が固化されなか
った。また、金属基板表面に樹脂・合金混合粉末が固着
されなくて、良好な摩擦係合板が得られなかった。
【0093】試料68においては、加圧力が小さくてわ
ずかに5kgf/cm2 であったので、樹脂・合金混合
粉末が固化されなかった。また、基板表面に接着剤が塗
布されていたにも拘らず、加圧力が極めて小さかったの
で、基板表面上に樹脂・合金混合粉末を強固に固着する
ことができず、良好な摩擦係合板が得られなかった。
【0094】試料69においては、150kgf/cm
2 の適切な大きなの加圧力が用いられたが、金型温度が
550℃の高温であったので、樹脂成分が変質して良好
な摩擦材が得られなかった。
【0095】
【表9】
【0096】表9は、本発明による摩擦係合板の摩擦摺
動特性を示している。この表において、摩擦係合板試料
61A〜65Aはそれぞれ表8中の試料61〜65に対
応して同様に作製されているが、それらの摩擦係合板の
各々はその外周部にスプライン嵌合歯部を有している。
他方、比較のための試料70においては、SPCC鋼の
基板の表裏両面上に従来のペーパー摩擦材が接着されて
いる。これらの摩擦係合板試料61A〜65Aと70の
各々は、図3の概略的な断面部分図に示されているよう
な湿式多板摩擦試験機における被駆動板として摩擦摺動
特性が評価された。
【0097】図3の湿式多板摩擦試験機は、共通軸に沿
って同心に配置された回転駆動シリンダ11と回転被駆
動シリンダ12を備えている。S35C鋼の駆動板13
はリング状であって、その内周部は駆動シリンダ11の
外周部とスプライン嵌合されている。これに対して、被
駆動板としてのリング状の摩擦係合板14は、その外周
部が被駆動シリンダ12の内周部とスプライン嵌合され
ている。4枚の被駆動板14と3枚の駆動板13は軸方
向に沿って交互に配置されている。これらの駆動板13
と被駆動板14の各々は、スプライン嵌合に基づいて軸
方向に沿って移動可能である。
【0098】すなわち、押圧手段15は複数の駆動板1
3と複数の被駆動板14を互いに摩擦係合させることが
でき、駆動シリンダ11のトルクが被駆動シリンダ12
へ伝達されることになる。そのとき、駆動シリンダ11
と被駆動シリンダ12との間のトルクの伝達率は、押圧
手段15の押圧力を制御して駆動板13と被駆動板14
との間に相対的な摩擦摺動(半クラッチ状態)を生じさ
せることによって制御可能である。なお、その摩擦摺動
時に発生する摩擦熱を冷却するために、駆動シリンダ1
1と被駆動シリンダ12との間には冷却油としてコスモ
製の自動変速機用潤滑油DTEXRON IIが満たされ
ている。
【0099】なお、摩擦摺動試験における摩擦係合板1
4と相手鋼材13との間の滑り速度は20m/秒に設定
され、8kgf/cm2 の押付圧力のもとで約2秒間の
半クラッチ状態での摩擦係合を1サイクルとして10万
サイクルまで摩擦係合試験が繰返された。その摩擦係合
試験の間のトルクの伝達を検出し、摩擦係合板14が生
じる動摩擦係数が算出された。
【0100】表9から明らかなように、本発明による摩
擦係合板試料61A〜65Aにおいては、10万サイク
ルの試験完了までの各時点において測定された動摩擦係
数はすべて0.15を優に越えており、しかもその摩擦
係数の動的な変動は僅かであった。そのような安定した
摩擦係数からもわかるように、試料61A〜65Aにお
いては、摩擦試験中に樹脂摩擦材がSPCC鋼基板から
剥離することもなく、摺動表面に焼付や摩耗損傷を生じ
ることもなかった。すなわち、本発明による湿式摩擦係
合板は、自動車や二輪車で使用される湿式多板クラッチ
材や湿式多板ブレーキ材などとして好ましい優れた特性
を有していることがわかる。
【0101】他方、従来のペーパー摩擦材が接着された
摩擦係合板試料70においては、動摩擦係数が0.15
より明らかに小さな値を有しており、5×104 サイク
ルを越える摩擦係合の後に焼付損傷が生じ、平均摩擦係
数の低下および摩擦係数の動的変動の増大が認められ
た。
【0102】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、摩擦摺
動時の押付荷重が小さい場合でも相手材の摺動面と均一
に接触して潤滑油中で0.15以上の摩擦係数を安定し
て生じることができ、かつ耐摩耗性,耐焼付性,および
耐硫化腐食性に優れた湿式摩擦係合板を経済的に提供す
ることができる。湿式摩擦係合板は、たとえば自動車の
AT用湿式クラッチや自動二輪のMT用湿式クラッチ等
に好ましく用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による湿式摩擦係合板に用いられる樹脂
摩擦材の組織構造を概略的に示す模式図である。
【図2】リングオンディスク式摩擦摺動試験を説明する
ための図である。
【図3】湿式多板摩擦試験機の一部を示す断面図であ
る。
【符号の説明】
1 樹脂摩擦材 2 相手材 3 軸 S 摺動面 W 圧力荷重 11 回転駆動シリンダ 12 回転被駆動シリンダ 13 駆動板 14 被駆動板 15 押圧手段

Claims (15)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 内周と外周の一方にスプライン嵌合歯部
    を有する環状の金属製基板と、 前記金属製基板の表裏両面上に固着された環状の摩擦材
    とを含み、 前記摩擦材は樹脂の素地と10〜90重量%の範囲で前
    記樹脂素地内に均一に分散させられた複合銅合金粉末と
    を含み、 前記複合銅合金粉末は銅合金素地と前記銅合金素地内で
    均一に分散させられた硬質粒子とを含む粒子分散型銅合
    金粉末であり、 前記樹脂素地は前記複合銅合金粉末を固着するネットワ
    ーク構造を有し、 前記摩擦材は50容量%以下の気孔率と50GPa以下
    のヤング率を有していることを特徴とする湿式摩擦係合
    板。
  2. 【請求項2】 前記摩擦材は、10重量%以下の範囲内
    で、黒鉛(カーボン),MoS2 ,CaF2 ,WS2
    およびBNの少なくとも1つの固体潤滑剤をさらに含む
    ことを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦係合板。
  3. 【請求項3】 前記複合銅合金粉末は5〜80重量%の
    範囲内で前記硬質粒子を含んでいることを特徴とする請
    求項1または2に記載の湿式摩擦係合板。
  4. 【請求項4】 前記銅合金素地は5〜40重量%のZn
    と5〜40重量%のNiの少なくとも一方を含み、かつ
    ZnとNiの合計含有量が60重量%以下であって、優
    れた耐硫化腐食性を有することを特徴とする請求項1な
    いし3のいずれかの項に記載された湿式摩擦係合板。
  5. 【請求項5】 前記銅合金素地は3〜20重量%のSn
    を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの
    項に記載された湿式摩擦係合板。
  6. 【請求項6】 前記硬質粒子として、Si,Mo,鉄系
    金属間化合物,酸化物,窒化物,および炭化物の少なく
    とも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし5のい
    ずれかの項に記載された湿式摩擦係合板。
  7. 【請求項7】 前記硬質粒子の最大粒径は50μm以下
    であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかの
    項に記載された湿式摩擦係合板。
  8. 【請求項8】 前記複合銅合金粉末は30〜250μm
    の平均粒径を有していることを特徴とする請求項1ない
    し7のいずれかの項に記載された湿式摩擦係合板。
  9. 【請求項9】 前記樹脂素地は、フェノール系樹脂,エ
    ポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリアミド・イミド
    系樹脂,およびメラミン系樹脂の少なくとも1つを含む
    熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1ないし8
    のいずれかの項に記載された湿式摩擦係合板。
  10. 【請求項10】 前記摩擦材は、潤滑油中において鋼材
    の相手材に対して摩擦摺動したときに0.15以上の摩
    擦係数を有することを特徴とする請求項1ないし9のい
    ずれかの項に記載された湿式摩擦係合板。
  11. 【請求項11】 請求項1に記載の湿式摩擦係合板の製
    造方法であって、 前記複合銅合金粉末は、銅合金粉末と硬質粒子とを含む
    混合粉末に機械的合金化法(メカニカルアロイング
    法),機械的混合法(メカニカルグラインディング
    法),および造粒法の少なくとも1つの機械的混合粉砕
    処理を施すことによって前記硬質粒子を最大粒径で50
    μm以下に粉砕するとともに前記銅合金粉末の素地内に
    均一に分散させて得られることを特徴とする湿式摩擦係
    合板の製造方法。
  12. 【請求項12】 請求項1に記載の湿式摩擦係合板の製
    造方法であって、 前記複合銅合金粉末は、50μm以下の最大粒径を有す
    る硬質粒子が均一に混合された銅合金溶湯に噴霧法(ア
    トマイズ法)を適用することによって得られることを特
    徴とする湿式摩擦係合板の製造方法。
  13. 【請求項13】 V型ミキサ,ニーダ,およびボールミ
    ルから選択された粉末混合機を用いて前記複合銅合金粉
    末と樹脂粉末とが所定の割合で均一に混合された樹脂・
    合金混合粉末を得て、前記樹脂粉末の溶融温度以上に加
    熱された閉塞金型内に前記樹脂・合金混合粉末を供給し
    て加圧成形することによって前記摩擦材が得られること
    を特徴とする請求項11または12に記載の湿式摩擦係
    合板の製造方法。
  14. 【請求項14】 前記樹脂粉末の溶融温度以上に加熱さ
    れた前記閉塞金型内に、前記樹脂・合金混合粉末を供給
    し、次に金属製基板を供給し、さらに前記樹脂・合金混
    合粉末を供給して、その後に加圧成形することによって
    前記金属板基板の表裏両面上に固着された前記摩擦材が
    形成されることを特徴とする請求項13に記載の湿式摩
    擦係合板の製造方法。
  15. 【請求項15】 前記金属製基板の表裏両面上には予め
    接着剤が塗布されていることを特徴とする請求項14に
    記載の湿式摩擦係合板の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH10318308A (ja) * 1997-05-22 1998-12-04 Toshiba Tungaloy Co Ltd ローラーブレーキ用の焼結摩擦材料

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JPH10318308A (ja) * 1997-05-22 1998-12-04 Toshiba Tungaloy Co Ltd ローラーブレーキ用の焼結摩擦材料

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