JPH08176315A - 樹脂摩擦材とその製造方法 - Google Patents

樹脂摩擦材とその製造方法

Info

Publication number
JPH08176315A
JPH08176315A JP33780194A JP33780194A JPH08176315A JP H08176315 A JPH08176315 A JP H08176315A JP 33780194 A JP33780194 A JP 33780194A JP 33780194 A JP33780194 A JP 33780194A JP H08176315 A JPH08176315 A JP H08176315A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
resin
copper alloy
friction material
powder
alloy powder
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Withdrawn
Application number
JP33780194A
Other languages
English (en)
Inventor
Katsuyoshi Kondo
勝義 近藤
由重 ▲高▼ノ
Yoshie Kouno
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Sumitomo Electric Industries Ltd
Original Assignee
Sumitomo Electric Industries Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Sumitomo Electric Industries Ltd filed Critical Sumitomo Electric Industries Ltd
Priority to JP33780194A priority Critical patent/JPH08176315A/ja
Publication of JPH08176315A publication Critical patent/JPH08176315A/ja
Withdrawn legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Braking Arrangements (AREA)
  • Manufacture Of Macromolecular Shaped Articles (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【目的】 摩擦摺動時の押付荷重が小さい場合でも相手
材の摺動面と均一に接触することによって潤滑油中で
0.15以上の摩擦係数を有し、かつ耐摩耗性,耐焼付
性,および耐硫化腐蝕性に優れた樹脂摩擦材を提供す
る。 【構成】 樹脂摩擦材は樹脂の素地とその樹脂内で均一
に分散させられた10〜90重量%の複合銅合金粉末と
を含み、複合銅合金粉末は銅合金素地とその素地内で均
一に分散した硬質粒子とを含み、樹脂素地は複合銅合金
粉末を固着するネットワーク構造を有し、摩擦材は50
容量%以下の気孔率と50GPa以下のヤング率を有し
ていることを特徴としている。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は低剛性樹脂摩擦材とその
製造方法の改善に関し、そのような樹脂摩擦材はたとえ
ば自動車のAT(オートマチック・トランスミッショ
ン)用湿式クラッチや自動二輪のMT(マニアル・トラ
ンスミッション)用湿式クラッチに好ましく用いられる
得るものである。
【0002】
【従来の技術】潤滑油中で用いられる従来の湿式摩擦材
として、紙を基材としたペーパー摩擦材がある。このよ
うなペーパー摩擦材は、パルプに各種の摩擦調整剤を配
合し、樹脂を含浸させた後に熱硬化させることによって
得られる。摩擦調整剤は、摩擦材における摩擦係数の向
上と安定化を目的として添加されるものであり、ガラス
繊維,カーボン繊維,セラミック繊維,アラミド繊維,
さらにはスチールやステンレスなどの金属繊維のような
繊維材料が一般に用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そのような構造を有す
るペーパー摩擦材においては、(1)基材が紙であるの
で強度,耐熱性,および耐摩耗性に劣り、(2)摩擦調
整剤の多くが繊維状であるので摺動時に得られる接触抵
抗が十分ではなく、潤滑油中において0.15を超える
摩擦係数が得られないという課題がある。
【0004】近年、このような課題を解決するために、
金属製湿式摩擦材の開発が検討され、その一例として、
経済性に優れた粉末冶金法を利用した焼結銅合金をベー
スとする焼結摩擦材が開発された。
【0005】しかし、このような金属ベースの摩擦材は
従来のペーパー摩擦材に比べて剛性が大きいので、摩擦
摺動時に低荷重が付与されるような使用条件下では摩擦
材の摺動面が相手材の摺動面と均一に接触せず、局所的
に接触するいわゆる片当り現象を生じる。その結果、摩
擦材が本来的に有する摩擦係数を実際の摩擦摺動時に発
揮することができず、十分な実効摩擦係数が得られない
という課題がある。さらに、一般の銅合金をベースとす
る摩擦材においては、極圧添加剤として硫黄を含有する
オイル中で硫化腐食現象を生じ、摩擦摺動特性の耐久性
が著しく阻害されるという課題もある。
【0006】以上のような先行技術による摩擦材におけ
る課題に鑑み、本発明は、摩擦摺動時の押付荷重が小さ
い場合でも相手材と局所的に接触する片当り現象を生じ
ることなく、摩擦材の摺動面と相手鋼材の摺動面が均一
に接触することによって潤滑油中で0.15以上の安定
した摩擦係数を得ることができ、かつ耐摩耗性,耐焼付
性,耐硫化腐食性に優れた湿式摩擦材を経済的に提供す
ることを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明による樹脂の素地
とその樹脂素地内で均一に分散させられた複合銅合金粉
末とを含む樹脂摩擦材は、10〜90重量%の範囲内で
複合銅合金粉末を含み、その複合銅合金粉末は銅合金素
地とその銅合金素地内で均一に分散させられた硬質粒子
とを含む粒子分散型銅合金粉末であり、樹脂素地は複合
銅合金粉末を固着するネットワーク構造を有し、摩擦材
は50容量%以下の気孔率と50GPa以下のヤング率
を有していることを特徴としている。
【0008】樹脂摩擦材は、好ましくは5重量%以下の
範囲内で、黒鉛(カーボン),MoS2 ,CaF2 ,W
2 ,およびBNの少なくとも1つの固体潤滑剤をさら
に含んでいる。
【0009】複合銅合金粉末は、好ましくは5〜80重
量%の範囲内で硬質粒子を含んでいる。
【0010】複合銅合金粉末の銅合金素地は、好ましく
は、5〜40重量%のZnと5〜40重量%のNiの少
なくとも一方を含み、かつZnとNiの合計含有量が6
0重量%以下であって、優れた耐硫化腐食性を有してい
る。
【0011】また、銅合金素地は、好ましくは3〜20
重量%のSnを含んでいる。硬質粒子として、Si,M
o,鉄系金属間化合物,酸化物,窒化物,および炭化物
の少なくとも1つを利用することができる。
【0012】硬質粒子の最大粒径は、50μm以下であ
るが好ましい。複合銅合金粉末は、30〜250μmの
平均粒径を有していることが好ましい。
【0013】樹脂摩擦材の樹脂素地として、フェノール
系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリアミ
ド・イミド系樹脂,およびメラミン系樹脂の少なくとも
1つを含む熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0014】樹脂摩擦材は、潤滑油中において鋼材の相
手材に対して摩擦摺動したときに0.15以上の摩擦係
数を有している。
【0015】本発明による樹脂摩擦材を製造する方法
は、硬質粒子が均一に分散された複合銅合金粉末と、樹
脂粉末と、さらに望まれる場合には固体潤滑剤粉末とを
所定の割合で混合した混合粉末を用意し、加熱された金
型内でその混合粉末を加圧して固化する工程を含んでい
る。
【0016】樹脂摩擦材の製造方法は、望まれる場合に
は固体潤滑剤粉末が添加された粒子分散型銅合金粉末を
その焼結温度より低い温度で加圧成形することによって
圧粉体を形成し、所定量の樹脂粉末を加熱溶融させてそ
の圧粉体中に含浸させる工程を含んでもよい。
【0017】樹脂粉末を加熱溶融させて圧粉体中に含浸
させる工程は、加熱された金型内で加圧下において行な
われてもよい。
【0018】複合銅合金粉末は、銅合金粉末と硬質粒子
とを含む混合粉末に機械的合金化法(メカニカルアロイ
ング法),機械的混合法(メカニカルグラインディング
法),および造粒法の少なくとも1つの機械的混合粉砕
処理を施すことによって硬質粒子を最大粒径で50μm
以下に粉砕するとともに銅合金粉末の素地内に均一に分
散させて得ることができる。
【0019】複合銅合金粉末は、50μm以下の最大粒
径を有する硬質粒子が均一に混合された銅合金溶湯に噴
霧法(アトマイズ法)を適用することによっても得るこ
とができる。
【0020】
【作用】本発明による樹脂摩擦材においては、摩擦抵抗
材としての添加剤として、従来の樹脂系摩擦材で使用さ
れていた単なる硬質成分である酸化物,窒化物などの粒
子やガラス繊維,セラミックファイバなどではなくて、
微細な硬質粒子が素地中に均一に分散された粒子分散型
複合銅合金粉末が用いられていることが重要な特徴であ
り、その結果、潤滑油中において鋼材を相手材として摩
擦摺動したときに片当り現象や焼付き現象を生じること
なく0.15以上の摩擦係数を安定して得ることができ
る。ここで、粒子分散型複合銅合金粉末は、互いに金属
的に結合せずに樹脂素地中で均一に分散して存在する必
要がある。なぜならば、それらの複合銅合金粉末が金属
的に結合した状態、すなわち複合銅合金粉末同士が焼結
すれば、摩擦材の剛性が増大して、たとえ樹脂成分が介
在していても摩擦材と相手材との間の局所的な片当り現
象が生じるからである。
【0021】すなわち、図1の模式的な組織図に示され
ているように、粒子分散型複合銅合金粉末同士が金属的
に結合せずに、摩擦材の素地を構成する樹脂成分中に均
一に分散することによって、局所的な片当り現象を抑制
して耐摩耗性や耐焼付性を著しく改善し得ることが見出
された。また、複合銅合金粉末中に分散する硬質粒子の
含有量を調節することによって、摩擦材が発現する摩擦
係数を制御し得ることも見出された。
【0022】図1に示されているような組織構造を有す
る樹脂摩擦材を湿式多板クラッチに用いるためには、そ
の摩擦材の剛性を50GPa以下にする必要がある。す
なわち、このような低い剛性を有する摩擦材であれば、
クラッチとして使用されたときに約5〜10kgf/c
2 の低い荷重が付加された場合でも摩擦材の摺動面が
変形して、局所的な片当り現象を生じることなく相手材
の摺動面と均一に接触することが可能となり、比較的高
い摩擦係数を安定して得ることができる。
【0023】樹脂摩擦材において、このような低剛性,
高摩擦係数,耐摩耗性,および耐焼付性を同時に実現す
るために、望まれる銅合金粉末素地および樹脂素地の成
分組成、硬質粒子の大きさや添加量、摩擦材の気孔率、
さらには摩擦材の製造工程における適正条件などが、本
発明者たちによる種々の実験と検討によって明らかにさ
れた。
【0024】まず、本発明者たちは、上述のように優れ
た摩擦摺動特性を発現させるためには、図1の模式図に
示されているような組織構造を有する粒子分散型銅合金
粉末を利用することが有効であることを見出した。その
組織構造は、所定の組成を有する銅合金粉末素地の内部
に微細な硬質粒子が均一に分散されて、しかもそれらの
硬質粒子がその銅合金素地と強固に結合して固定された
ものである。複合銅合金粉末がこのような組織構造を有
することによって、摩擦摺動時における硬質粒子の脱落
が抑制され、摩擦材が長期間にわたって安定した摩擦摺
動状況を実現し得ることが見出された。
【0025】すなわち、本発明における硬質粒子分散型
銅合金粉末は、樹脂摩擦材の摺動面内に微細かつ均一に
分散し、常温および高温での摩擦摺動時において相手材
との凝着発生を抑制して耐焼付性を向上させるととも
に、相手材の表面と直接接触して摩擦抵抗を生じて摩擦
係数を向上させる役割を果たす。ただし、このような役
割を効果的に果たすためには、前述のように摩擦摺動時
に硬質粒子が複合銅合金粉末の素地から脱落しないこと
が必要である。
【0026】本発明者たちは、種々の実験と検討を繰返
した結果、上述のような硬質粒子分散型銅合金粉末を経
済的に製造する方法として、粉末の機械的混合粉砕処理
法または噴霧法(アトマイズ法)を用いることが有効で
あることを見出した。
【0027】粉末の機械的混合粉砕処理法は、メカニカ
ルアロイング法,メカニカルグラインディング法,造粒
法などを代表とする粉末の混合処理法である。所定の組
成を有する銅合金粉末と硬質粒子とを含む混合粉末にこ
れらの高エネルギ混合粉砕処理法を適用することによっ
て、硬質粒子を微細に粉砕するとともに銅合金粉末素地
中にこれらの微細硬質粒子を均一に分散させることがで
きる。
【0028】なお、機械的な粉末混合粉砕処理は、従来
のボールミルによる粉砕や混合のような湿式法ではな
く、乾式法によって行なわれる。また、場合によっては
PCA(Process Control Agen
t:プロセス制御剤)として、ステアリン酸やアルコー
ルなどを少量添加することによって粉末の過度の凝集を
防ぐこともある。処理装置としては、アトライターやボ
ールミルを用いることができる。アトライターは、粉砕
効率に優れているので高速処理に適している。ボールミ
ルは、一般に長時間処理を必要とするが雰囲気制御が容
易であるので、投入エネルギの設計を適切に行なえば比
較的短時間で目標とする粉末の組織構造を実現すること
ができ、経済性に優れた装置である。
【0029】アトマイズ法では、所定の組成を有する銅
合金の溶湯中に硬質粒子を分散させて、この硬質粒子を
含む銅合金溶湯を噴霧することによって、内部に硬質粒
子が均一に分散された複合銅合金粉末を製造し得る。な
お、このアトマイズ法では硬質粒子を微細に粉砕し得な
いので、事前に望ましい粒度分布を有する微細(最大粒
径で50μm以下)な硬質粒子を準備する必要がある。
【0030】機械的混合粉砕処理法またはアトマイズ法
によって得られた粒子分散型銅合金粉末においては、銅
合金素地と硬質粒子との界面に反応層が形成されて硬質
粒子が銅合金素地中に強固に固定されるので、硬質粒子
は摩擦摺動時に摩擦材の摺動面から脱落することがな
く、摺動面の焼付きや摩耗損傷が抑制される。
【0031】潤滑油中において0.15以上の高い摩擦
係数を安定して確保し得る樹脂摩擦材を得るためには、
硬質粒子の最大粒径が50μm以下であることが望まし
く、さらに、銅合金粉末素地内で5〜80重量%の範囲
内の硬質粒子が均一に分散していることが望ましい。硬
質粒子の添加量が5重量%未満では、摩擦摺動時の接触
抵抗が小さくなって、潤滑油中において0.15を超え
るような高摩擦係数が得られない。他方、硬質粒子の添
加量が80重量%を超えれば、摩擦係数を向上させる効
果が飽和し、相手材を激しく摩耗させるので好ましくな
い。また、硬質粒子の最大粒径が50μmを超える場合
も、相手材を激しく摩耗させるので好ましくない。
【0032】本発明の摩擦材に適した硬質粒子として、
Si,Mo,鉄系金属間化合物,酸化物,窒化物,およ
び炭化物の少なくとも1つを含み得る。より具体的に
は、鉄系金属化合物としては、FeMo,FeCr,F
eTi,FeW,およびFeBなどから選択し得る。酸
化物としては、Al2 3 ,SiO2 ,TiO2 ,およ
びCr2 3 などから選択し得る。窒化物としては、A
lN,Si3 4 ,およびBNなどから選択し得る。そ
して、炭化物としては、SiC,WC,およびCrCな
どから選択し得る。なお、これらの硬質粒子の中で、S
i粒子と鉄系金属化合物粒子は脆性であるので粉砕性に
優れており、特に前述の機械的混合粉砕処理に適した硬
質粒子である。
【0033】次に、本発明における硬質粒子分散型銅合
金粉末における素地の好ましい合金組成を説明する。
【0034】Znは脱酸効果を有し、これを銅合金粉末
素地に添加すれば安定なZnO層が粉末表面において均
一に形成される。そして、このZnO層は保護膜の役割
を有するので、硫黄(S)を含む潤滑油中において銅イ
オンとSとの反応を阻害し、硫化腐食の原因となる硫化
銅の生成を抑制することができる。このような硫化腐食
現象の抑制のためには、複合銅合金粉末の銅合金素地が
5重量%以上のZnを含有する必要があり、その含有量
が40重量%を超えても耐硫化腐食性の改善効果は飽和
する。
【0035】NiはZnと同様に硫化銅の生成を抑制す
る効果を有するとともに、複合銅合金粉末における合金
素地の硬さを向上させる効果を有する。このような効果
を発現させるためには、合金素地に5重量%以上のNi
を添加することが必要であり、他方40重量%を超える
Niを添加してもそれらの効果が飽和し、却って合金粉
末のコストアップを招くので好ましくない。
【0036】また、ZnとNiの合計含有量が60重量
%を超えれば、合金粉末素地が著しく硬化するので、摩
擦摺動時に相手材を攻撃するという問題を生じる。した
がって、硫黄を含有する潤滑油中において本発明の摩擦
材を使用する場合には、5〜40重量%のZnと5〜4
0重量%のNiの少なくとも一方を含み、かつZnとN
iの合計含有量が60重量%以下であることが望まれ
る。この条件を満たすことによって、相手材を摩耗させ
ることなく優れた耐硫化腐食性を有する摩擦材を得るこ
とができる。
【0037】Snは、Cuとともに複合銅合金粉末の素
地を形成し、合金粉末素地の強度と靱性を向上させるよ
うに作用し、また高温での相手材との耐焼付性を向上さ
せるように作用する。したがって、摩擦摺動条件が過酷
な場合に、複合銅合金粉末の素地内へSnを添加するこ
とが好ましい。Snの添加量が3重量%未満ではそれら
の好ましい作用を生ぜず、20重量%を超えれば合金素
地中に硬くて脆い相が析出するために、却って合金素地
の靱性が低下する。すなわち、複合銅合金粉末素地中に
おける望ましいSnの添加量は、3〜20重量%であ
る。
【0038】本発明の樹脂摩擦材の樹脂素地中に複合銅
合金粉末を分散させる1つの目的は、複合銅合金粉末素
地中に分散させられた硬質粒子が樹脂摩擦材の摺動時に
摩擦抵抗粒子となって摩擦係数を向上させるという効果
を発現させるためであり、もう1つの目的は、複合銅合
金粉末の素地を構成する銅合金が樹脂摩擦材の耐摩耗性
と耐焼付性を向上させるという効果を発現させるためで
ある。そして、これらの複合銅合金粉末の周囲を摩擦材
の素地である樹脂成分がネットワーク状に取囲むことに
よって、摩擦摺動時に複合銅合金粉末が摩擦材の樹脂素
地から脱落することなく、また、樹脂が有する軟質で低
剛性の特性によって複合銅合金粉末が相手材の摺動面と
均一に接触して摩擦摺動することが可能となり、その結
果として優れた摩擦摺動特性を有する樹脂摩擦材を得る
ことができる。
【0039】このとき、樹脂摩擦材における複合銅合金
粉末の添加量が10重量%未満であれば、十分な摩擦係
数,耐摩耗性,および耐焼付性を得ることができない。
他方、樹脂摩擦材が90重量%を超える複合銅合金粉末
を含有する場合、摩擦材の樹脂素地の量が10重量%未
満の少量になって摩擦材全体の剛性が50GPaを超え
るために、低荷重下において相手材の摺動面と摩擦材の
摺動面が均一に接触できなくなる。その結果として、樹
脂摩擦材において、好ましい高摩耗係数,耐摩耗性,お
よび耐焼付性を得ることができなくなる。
【0040】また、複合銅合金粉末の平均粒径が30μ
mより小さい場合、樹脂粉末と混合するときに複合銅合
金粉末が凝集し、このような混合粉末を成形して固化す
れば、複合銅合金粉末が均一に分散された樹脂摩擦材を
得ることが困難になる。その結果、樹脂摩擦材中におけ
る複合銅合金粉末の凝集部からそれらの銅合金粉末が脱
落し、安定した摩擦摺動特性が得られなくなる。他方、
複合銅合金粉末の平均粒径が250μmを超える場合、
複合銅合金粉末を樹脂粉末と混合した後に圧縮成形する
ときの圧縮性が損なわれ、その結果として摩擦材の端部
に欠けが発生したり、摩擦材内部の空孔が不均一に分散
するために均一な組織が得られないという問題を生じ
る。
【0041】樹脂粉末は、複合銅合金粉末と混合された
後に加圧されて加熱成形される。そのとき、樹脂粉末は
一旦溶融・融解して複合銅合金粉末の周囲を取囲むこと
によって、摩擦材におけるネットワーク状の樹脂素地を
構成する。これによって、樹脂素地中に複合銅合金粉末
が強固に固着されて、摩擦摺動時に複合銅合金粉末が樹
脂摩擦材から脱落することがなく、また、樹脂の有する
軟質で低剛性の特性によって複合銅合金粉末が相手材の
摺動面と均一に接触して優れた摩擦摺動特性を発揮す
る。本発明者たちは種々の実験と検討を繰返した結果、
摩擦材においてこのように好ましい特性を生じさせる樹
脂成分として、フェノール系樹脂,エポキシ系樹脂,ポ
リイミド系樹脂,ポリアミド・イミド系樹脂,メラミン
系樹脂などを用い得ることを見出した。これらの樹脂は
混合して用いることも可能である。
【0042】固体潤滑剤は、摩擦材の摺動面に分散して
存在し、より過酷な摩擦摺動条件の下において相手材に
対する摩擦材の攻撃性を小さくするとともに、滑り速度
や加圧力などの摺動条件が大きく変動する場合でも潤滑
油中で0.15以上の比較的高い安定した摩擦係数を生
じさせる効果を有し、さらには、摺動面の潤滑性を改善
することによって摺動時の振動やびびりなどを抑制する
効果をも有する。これらの効果を有する固体潤滑剤とし
て、樹脂摩擦材は、経済的にも問題の少ない黒鉛(カー
ボン),MoS2 ,CaF2 ,WS2 ,およびBNの少
なくとも1つを5重量%以下の範囲内で含むことが好ま
しい。なお、固体潤滑剤の含有量が5重量%を超えて
も、固体潤滑剤による好ましい効果は飽和する。
【0043】摩擦材中に分散する空孔は、樹脂成分と同
様に摩擦材全体の剛性を小さくすることによって相手材
の摺動面と摩擦材の摺動面を均一に接触させる役割を果
たすとともに、摩擦摺動時に油溜として働くことによっ
て摺動面に潤滑油膜を形成し、より過酷な摺動条件下に
おいても焼付現象を抑制するという役割をも果たす。す
なわち、摩擦材を使用する条件によっては、樹脂摩擦材
中に空孔を分散させることによって、優れた摩擦摺動特
性を得ることができる。種々の実験や検討の結果、摩擦
材中に気孔が均一に分散して存在するときに、その気孔
率が増加するにつれて気孔による好ましい効果がより顕
著に現れることが見出された。しかし、気孔率が摩擦材
の50容量%を超えれば気孔による好ましい効果が飽和
し、却って摩擦材の機械的な強度低下を誘発するという
問題を生じる。すなわち、樹脂摩擦材における気孔率
は、その摩擦材の使用条件に応じて50容量%以下の好
ましい量を選択することができる。
【0044】図2は、上述のような本発明の樹脂摩擦材
を製造し得る種々の工程を示している。すなわち、本発
明の樹脂摩擦材は、図2中の工程(a)〜(f)のいず
れかを用いることによって製造することができる。
【0045】工程(a)は、硬質粒子が均一に分散され
た複合銅合金粉末と樹脂粉末を準備するステップと、そ
れらの粉末を所定の割合で配合して混合するステップ
と、その混合粉末を加熱された閉塞金型内で加圧して固
化するステップを含んでいる。すなわち、工程(a)に
おいては、上述の機械的混合粉砕処理法またはアトマイ
ズ法によって準備された硬質粒子分散型銅合金粉末と所
定の成分を有する樹脂粉末が所定の割合で配合された後
に、V型ミキサ,ニーダー,ボールミルなどの粉末混合
機によって均一に混合される。そして、この混合粉末は
樹脂粉末の溶融・融解温度付近に加熱された閉塞金型内
に充填されて加圧成形され、これによって本発明の樹脂
摩擦材が製造され得る。
【0046】なお、本発明の摩擦材においては複合銅合
金粉末同士が金属学的に結合することなく樹脂素地中で
分散していることが特徴であるが、金型温度が高くなれ
ば銅合金粉末粒子間で焼結現象が生じ、その結果として
摩擦材全体の剛性が著しく増大して、低荷重下における
摩擦材と相手材との摺動面における均一接触が阻害され
る。さらに、金型温度が高くなりすぎれば樹脂成分が変
質し、その結果として摩擦材の特性が劣化する。したが
って、金型温度は樹脂粉末の溶融・融解温度付近でしか
も複合銅合金粉末が焼結を開始する温度よりも低い温度
域に保持する必要がある。なお、樹脂摩擦材中の気孔率
は金型内で加圧成形する際の加圧力を変えることによっ
て調整することができる。
【0047】工程(b)は工程(a)に類似している
が、複合銅合金粉末と樹脂粉末に加えて固体潤滑剤粉末
がさらに添加される点において異なっている。このよう
な工程(b)によって、樹脂の素地内に複合銅合金粉末
のみならず固体潤滑剤粉末も分散された樹脂摩擦材を得
ることができる。
【0048】工程(c)は、硬質粒子が均一に分散され
た複合銅合金粉末を準備するステップと、複合銅合金粉
末をその焼結温度より低い温度域で圧粉して成形するス
テップと、その圧粉成形体と樹脂粉末を加熱された閉塞
金型内に充填した後にその金型内で加圧して固化するス
テップとを含んでいる。すなわち、工程(c)において
は、まず複合銅合金粉末のみを圧粉して成形することに
よって複合銅合金粉末の圧粉体を摩擦材の骨格として形
成する。ただしこの場合にも、上述したように、複合銅
合金粉末粒子同士を金属学的に結合させることなく各粉
末粒子を個別に存在させる必要がある。そのために、複
合銅合金粉末粒子間で焼結現象を生じる温度域より低い
温度で圧粉して成形することが不可欠である。このよう
にして得られた複合銅合金粉末の圧粉体は所定の成分組
成を有する樹脂粉末とともに閉塞金型内に充填され、樹
脂粉末の溶融・融解温度付近の温度において加圧成形さ
れ、これによって本発明の樹脂摩擦材が製造され得る。
【0049】工程(d−1)は工程(c)に類似してい
るが、複合銅合金粉末に固体潤滑剤粉末が添加された後
に摩擦材の骨格としての圧粉体が成形される点において
異なっている。このような工程(d−1)によって、工
程(b)の場合と同様に、樹脂素地中に複合銅合金粉末
のみならず固体潤滑剤が分散された樹脂摩擦材を得るこ
とができる。
【0050】工程(d−2)も工程(c)に類似してい
るが、複合銅合金粉末の圧粉体が閉塞金型内に充填され
るときに樹脂粉末のみならず固体潤滑剤粉末も充填され
る点において異なっている。このように複合銅合金粉末
の圧粉体に加えて樹脂粉末とともに加熱された金型内に
充填された固体潤滑剤粉末は金型内で溶融する樹脂融液
中に混入し、樹脂融液が圧粉体内に含浸するときに樹脂
融液ともに圧粉体内に分散させられる。その結果、工程
(d−2)においても、工程(d−1)の場合と同様
に、樹脂素地中に複合銅合金粉末のみならず固体潤滑剤
粉末も分散させられた樹脂摩擦材が得られる。
【0051】工程(e)は、工程(c)に類似している
が、金型を用いない点において異なっている。すなわ
ち、工程(e)においては、溶融・融解された樹脂中に
複合銅合金粉末の圧粉体を浸漬することによってその圧
粉体内に樹脂を含浸させることができる。また、複合銅
合金粉末の圧粉体上に樹脂粉末を載置してその樹脂粉末
を溶融させることによって圧粉体内に含浸させてもよ
い。このような工程(e)によれば、金型を用いること
なく簡易かつ経済的に本発明の樹脂摩擦材を製造するこ
とができる。
【0052】工程(f)は工程(e)に類似している
が、複合銅合金粉末に固体潤滑剤粉末が添加された後に
摩擦材の骨格としての圧粉体が形成される点において異
なっている。工程(f)によれば、工程(b),(d−
1),および(d−2)の場合と同様に、樹脂素地中に
複合銅合金粉末のみならず固体潤滑材粉末が分散された
樹脂摩擦材を簡易かつ経済的に得ることができる。
【0053】
【実施例】
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】 表1,表2,および表3は、樹脂摩擦材の種々の特性を
評価するために準備された種々の樹脂摩擦材の組成など
を示している。これらの表は、本発明の範囲に属する試
料1〜22と比較例としての試料23〜38を含んでい
る。
【0057】表1において、樹脂摩擦材試料1〜38の
各々は、X重量%の複合銅合金粉末,Y重量%の固体潤
滑剤,およびZ重量%の樹脂素地成分を含んでいる。す
なわち、X+Y+Z=100%の関係にある。また、そ
れらの樹脂摩擦材試料の各々は、表1に示された容量%
の気孔率を有している。これらの気孔率は、浸油法によ
って測定された。樹脂摩擦材に含まれている複合銅合金
粉末は、X1重量%の硬質粒子とX2重量%の銅合金素
地を含んでいる。すなわち、X1+X2=100%の関
係にある。したがって、樹脂摩擦材試料の各々は、X1
×X重量%の硬質粒子を含んでいることになる。
【0058】表2と表3において、製法IとIIは、複
合銅合金粉末の製造方法を表わしている。すなわち、製
法Iにおいては、機械的混合粉砕処理方法を用いて硬質
粒子分散型銅合金粉末が作製された。他方、製法IIに
おいては、アトマイズ法によって硬質粒子分散型銅合金
粉末が作製された。表3の備考欄において*1が付され
た試料37においては、機械的混合粉砕処理の条件を変
更することによって、硬質粒子の最大粒径が60μmに
されている。また、備考欄において*2が付された試料
38においては、機械的混合粉砕処理方法を用いること
なく銅合金粉末,硬質粒子,潤滑成分,および樹脂粉末
を単に混合して成形した後に加熱固化することによって
樹脂摩擦材にされている。
【0059】表2と表3において、各成分に関して示さ
れた数値は、重量%を表わしている。複合銅合金素地
は、Zn,Ni,およびSnの少なくとも1つと残部の
Cuを含んでいる。たとえば、樹脂摩擦材全体における
Zn含有率は、(X2×X)に表2または表3中のZn
に関する重量%を掛け合わせることによって算出するこ
とができる。
【0060】複合銅合金粉末に含まれる硬質粒子A,
B,C,およびDは、それぞれFeMo,Al2 3
AlN,およびSiCを表わしている。固体潤滑剤E,
F,G,H,およびIは、それぞれ黒鉛,MoS2 ,C
aF2 ,WS2 ,およびBNを表わしている。そして、
樹脂成分J,K,L,M,およびNは、それぞれフェノ
ール系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリ
アミド・イミド系樹脂,およびメラミン系樹脂を表わし
ている。
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】 表4と表5は、表1〜3に示された樹脂摩擦材試料1〜
38における種々の特性を示している。これらの表にお
いてヤング率は超音波法によって測定され、摩擦摺動特
性は図3に示されているようなリングオンディスク式の
湿式摩擦試験機を用いて測定された。
【0063】図3に示されているような摩擦摺動試験に
おいて、摩擦材試料および相手材(鋼材S35C)の摺
動面Sの面粗度は7s以下にされた。潤滑油としては、
コスモDEXRONII(ATF:自動変速機用潤滑
油)またはギア油Castrol−75W90のいずれ
かが用いられた。すなわち、表4と表5に示された潤滑
油AとBは、それぞれCastrol−75W90とコ
スモDEXRONIIを表わしている。摩擦材試験片1
は40mmの外径と30mmの内径と3mmの厚さを有
するリング形状に機械加工されており、図3において一
部が切断されて示されている。相手材2は60mmの直
径と5mmの厚さを有する円板に機械加工されており、
軸3によって矢印のように回転させられる。試験片1は
固定されており、相手材2に対して6kgf/cm2
圧力Wが加えられている。摺動面Sにおける試験片1と
相手材2との相対摺動速度は20m/秒であり、摺動開
始後30分と試験終了時である3時間後における摩擦係
数μ値を測定するとともに、試験期間中におけるμ値の
変動幅が測定された。また、摩擦試験終了後における摩
擦材と相手材の摩耗損傷量が測定された。さらに、各摩
擦材試料は約140℃に加熱された潤滑油中に24時間
保持された後に、試料表面を観察することによって硫化
腐食状況が調べられた。
【0064】表4に見られるように、本発明による樹脂
摩擦材試料1〜22のいずれにおいても、複合銅合金粉
末中に分散させられた硬質粒子の最大粒径は50μm以
下であり、摩擦材のヤング率は50GPa以下であっ
て、硫化腐食を生じていないことも確認された。また摩
擦摺動特性に関しても、試料1〜22の何れにおいても
0.15を優に超える摩擦係数μを安定して確保するこ
とができ、摩擦材と相手材の摩耗量も少なくて、耐摩耗
性,耐焼付性,および低相手攻撃性に優れていることが
確認された。
【0065】これに対して、表5に示された比較試料2
3〜38においては、以下のような具体的欠点が認めら
れた。
【0066】樹脂摩擦材試料23においては、複合銅合
金粉末が含有されていないので、0.15を超える十分
な摩擦係数が得られず、耐摩耗性も劣っている。
【0067】試料24においては、複合銅合金粉末の含
有量が10重量%未満の6重量%であったので、十分な
μ値と耐摩耗性が得られていない。
【0068】試料25においては、複合銅合金粉末の含
有量が90重量%を超える94重量%であるので、摩擦
材の構成が50MPaを超えている。その結果として、
この摩擦材は片当り現象を生じ、μ値の変動幅が大きく
て摩擦係数の安定性に欠けている。
【0069】試料26においては、複合銅合金粉末素地
が5重量%未満である3重量%のNiを含んでいるだけ
であるので、複合銅合金粉末に硫化腐食が発生して摩擦
材が大きく摩耗している。
【0070】試料27においては、複合銅合金粉末素地
が5重量%未満である3重量%のZnを含んでいるだけ
であるので、複合銅合金粉末の硫化腐食が発生し、摩擦
材がさらに大きく摩耗している。
【0071】試料28においては、複合銅合金粉末素地
中のZnとNiの合計含有量が60重量%を超える65
重量%であるので、複合銅合金粉末の素地が著しく硬化
して相手材の摩耗が大きくなっている。
【0072】試料29においては、複合銅合金粉末素地
が3重量%未満である2重量%のSnを含んでいるだけ
であるので、摩擦材の耐焼付性が低下して相手材に銅合
金が付着した。
【0073】試料30においては、複合銅合金粉末素地
が20重量%を超える25重量%のSnを含んでいるの
で、複合銅合金粉末の素地が著しく硬化し、相手材の摩
耗量が大きくなっている。
【0074】試料31と32においては、複合銅合金粉
末が5重量%未満の硬質粒子しか含んでいないので、十
分なμ値が得られていない。
【0075】試料33においては、複合銅合金粉末が8
0重量%を超える90重量%の硬質粒子を含んでいるの
で、相手材を攻撃し、最終的には焼付現象が発生して相
手材に銅合金が付着するとともに摩擦材が著しく摩耗し
た。
【0076】試料34と35においては、摩擦材が5重
量%を超える固体潤滑剤を含んでいるが、試料1〜22
に比べて摩擦摺動特性のさらなる改善が得られていな
い。
【0077】試料36においては、摩擦材が50容量%
を超える60容量%の気孔率を有しているので、摩擦材
の強度が低下して摩擦試験中に試料が破損した。
【0078】試料37においては、硬質粒子の最大粒径
が50μmを超える60μmであるので、摩擦試験中に
焼付現象が生じて摩擦係数の測定が不可能となった。
【0079】試料38においては、機械的混合粉砕処理
とアトマイズ法のいずれをも用いることなく単に銅合金
粉末,硬質粒子,固体潤滑剤,および樹脂粉末が混合さ
れて成形された後に加熱固化することによって摩擦材が
作製されているので、硬質粒子が銅合金粉末素地中に分
散した組織構造を有しておらず、摩擦試験中に硬質粒子
が樹脂から脱落して焼付現象を生じた。
【0080】図4と図5は、本発明による樹脂摩擦材の
光学顕微鏡組織写真の例を示している。図4(A)は表
1〜5中の試料6の組織を示し、図4(B)は図4
(A)をさらに拡大した顕微鏡写真である。
【0081】図5(A)は表1〜5中の試料14の組織
を示しており、図5(B)は図5(A)をさらに拡大し
た顕微鏡写真である。これらの図4および図5に見られ
るように、複合銅合金粉末は樹脂摩擦材中に均一に分散
し、ネットワーク状構造を有するフェノール系樹脂によ
って周囲を取囲まれており、樹脂の素地に強固に固定さ
れていることがわかる。また、複合銅合金粉末素地内に
は、微細な硬質粒子が均一に分散させられており、図1
に示されているような本発明による組織構造が実現され
ていることがわかる。
【0082】
【表6】 表6は、複合銅合金粉末の平均粒径が樹脂摩擦材の特性
に及ぼす影響を示している。表6中の試料41〜47
は、表2中の試料18に対応した組成を有しているが、
複合銅合金粉末の平均粒径が種々に変えられている。す
なわち、複合銅合金粉末の作製には機械的混合粉砕処理
法として振動ボールミルが用いられ、その混合粉砕処理
における処理時間,ボール投入量,振動条件などを変更
することによって種々の平均粒径を有する複合銅合金粉
末が調製された。試料41〜47の各々は60mmの外
径と50mmの内径と5mmの厚さを有するリング状試
験片の加工され、これらの試験片について表4および表
5の場合と同様に摩擦摺動試験が行なわれた。
【0083】表6に見られるように、複合銅合金粉末が
30〜250μmの範囲内の好ましい平均粒径を有する
本発明による試料41〜45においては、樹脂摩擦材中
で複合銅合金粉末の凝集や偏在が生じず、また摩擦材の
外観状況も欠けや割れを生じることなく良好であった。
さらに、摩擦材中には空孔が均一に分散して存在してい
た。そして、試料41〜45において、表6に示されて
いるような比較的高い安定した摩擦係数が得られた。
【0084】他方、比較試料46と47においては、次
のような具体的な問題が生じた。試料46においては、
複合銅合金粉末の平均粒径が30μm以下の20μmで
あるので、摩擦材中で複合銅合金粉末が凝集し、その結
果として、摩擦摺動試験中に複合銅合金粉末が樹脂素地
から脱落して焼付を生じ、安定した摩擦係数を得ること
ができなかった。
【0085】試料47においては、複合銅合金粉末の平
均粒径が250μmより大きな285μmであったの
で、混合粉末を加熱・固化して摩擦材を作製する際に、
摩擦材の角部に欠けが発生した。
【0086】
【表7】 表7は、図2の工程(a)中と工程(b)中で金型を用
いて混合粉末を固化するときの金型温度,加圧力,およ
び保持時間が摩擦材の特性に及ぼす影響を示している。
この表は、本発明に属する試料51〜56と比較例とし
ての試料57〜59を含んでいる。粉末AとBはそれぞ
れ表2中の試料18と17に対応する組成を有している
ことを表わし、工程(a)と(b)は図2中に示されて
いる。
【0087】表7からわかるように、適切な金型温度,
加圧力,および保持時間をもちいて固化された本発明に
属する試料51〜56は、いずれも50容量%以下の気
孔率と50GPa以下のヤング率を有し、良好な外観形
状をも有していた。
【0088】他方、比較試料57〜59においては、以
下のような具体的な欠陥を生じた。試料57において
は、金型温度が低くて60℃であったので、樹脂粉末が
溶融・融解しなくて、混合粉末が固化され得なかった。
【0089】試料58においては、金型温度が高すぎて
580℃であったので、樹脂成分が変質して良好な摩擦
材が得られなかった。
【0090】試料59においては、加圧力が非常に小さ
くて5kg/cm2 であったので、樹脂粉末を十分強固
に固化することができなかった。
【0091】
【表8】 表8は図2中の工程(c),(d−1),および(d−
2)における圧粉体の成形条件と圧粉体および樹脂粉末
の固化条件が樹脂摩擦材の特性に及ぼす影響を示してい
る。この表は本発明に属する試料61〜64と比較試料
65および66を含み、粉末AとBはそれぞれ表2中の
試料18と17に対応する組成を表している。圧粉体の
成形条件として、金型温度と加圧力が種々に変えられて
いる。また、圧粉体と樹脂粉末の硬化条件として、金型
温度,加圧力,および保持時間が種々に変えられてい
る。
【0092】表8からわかるように、適正な圧粉体の成
形条件および適正な圧粉体と樹脂粉末の固化条件によっ
て作製された本発明による試料61〜64は、いずれも
50容量%以下の気孔率と50GPa以下のヤング率を
有し、良好な外観形状をも有していた。
【0093】他方、比較試料65と66においては、具
体的に次のような欠陥を生じた。試料65においては、
圧粉体を成形する際の金型温度が非常に高くて720℃
であったので、複合銅合金粉末が焼結した。その結果と
して、摩擦材のヤング率が50GPaを超えて83GP
aになっている。
【0094】試料66においては、複合銅合金粉末の圧
粉体を形成する際の加圧力が小さくて1.5t/cm2
であったので、圧粉体がその搬送中に欠けを生じ、完全
な形状の摩擦材の作製が不可能であった。
【0095】
【表9】 表9は、図2中の工程(e)および(f)における圧粉
体の成形条件である金型温度と加圧力が圧粉体の気孔率
や摩擦材の特性に及ぼす影響を示している。この表は、
本発明に属する試料71〜73および比較試料74と7
5を含んでおり、粉末AとBはそれぞれ表2中の試料1
8と17に対応する組成を有していることを表わしてい
る。なお、工程(e)および(f)において圧粉体中に
樹脂を含浸させる温度は、150℃から175℃の範囲
内に設定されている。
【0096】表9からわかるように、本発明に属する試
料71〜73においては圧粉体の成形条件である金型温
度と加圧力が適正な範囲にあるので、適正範囲の気孔率
を有する圧粉体が得られ、樹脂が含浸された樹脂摩擦材
は50容量%以下の気孔率と50GPa以下のヤング率
を有しかつ良好な外観形状を有していた。
【0097】他方、比較試料74と75においては、具
体的に次のような欠陥を生じた。試料74においては、
金型温度が非常に高い750℃でありかつ加圧力が10
t/cm2 であったので、圧粉体が焼結されてわずか3
容量%の気孔率の閉鎖空孔を含むだけであって、圧粉体
内への樹脂の含浸が不可能であった。
【0098】試料75においては、圧粉体の成形条件で
ある加圧力が小さな1.5t/cm2 であったので、圧
粉体が搬送時に欠けを生じ、完全な形状の摩擦材を得る
ことができなかった。
【0099】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、摩擦摺
動時の押付荷重が小さい場合でも相手材の摺動面と均一
に接触して潤滑油中で0.15以上の摩擦係数を安定し
て生じることができ、かつ耐摩耗性,耐焼付性,および
耐硫化腐食性に優れた樹脂摩擦材を経済的に提供するこ
とができる。これらの樹脂摩擦材は、たとえば自動車の
AT用湿式クラッチや自動二輪のMT用湿式クラッチに
好ましく用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による樹脂摩擦材の組織構造を概略的に
示す模式図である。
【図2】本発明による樹脂摩擦材を製造するための種々
の工程を示すフロー図である。
【図3】摩擦摺動試験を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施例による樹脂摩擦材の粒子構造
を示す光学顕微鏡写真である。
【図5】本発明のもう一つの実施例による樹脂摩擦材の
粒子構造を示す光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 樹脂摩擦材 2 相手材 3 軸 S 摺動面 W 圧力荷重

Claims (18)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 樹脂の素地と前記樹脂素地内で均一に分
    散させられた複合銅合金粉末とを含む樹脂摩擦材であっ
    て、 前記摩擦材は10〜90重量%の範囲内で前記複合銅合
    金粉末を含み、 前記複合銅合金粉末は銅合金素地と前記銅合金素地内で
    均一に分散させられた硬質粒子とを含む粒子分散型銅合
    金粉末であり、 前記樹脂素地は前記複合銅合金粉末を固着するネットワ
    ーク構造を有し、 前記摩擦材は50容量%以下の気孔率と50GPa以下
    のヤング率を有していることを特徴とする樹脂摩擦材。
  2. 【請求項2】 前記摩擦材は、5重量%以下の範囲内
    で、黒鉛(カーボン),MoS2 ,CaF2 ,WS2
    およびBNの少なくとも1つの固体潤滑剤をさらに含む
    ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂摩擦材。
  3. 【請求項3】 前記複合銅合金粉末は5〜80重量%の
    範囲内で前記硬質粒子を含んでいることを特徴とする請
    求項1または2に記載の樹脂摩擦材。
  4. 【請求項4】 前記銅合金素地は5〜40重量%のZn
    と5〜40重量%のNiの少なくとも一方を含み、かつ
    ZnとNiの合計含有量が60重量%以下であって、優
    れた耐硫化腐食性を有することを特徴とする請求項1な
    いし3のいずれかの項に記載された樹脂摩擦材。
  5. 【請求項5】 前記銅合金素地は3〜20重量%のSn
    を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの
    項に記載された樹脂摩擦材。
  6. 【請求項6】 前記硬質粒子として、Si,Mo,鉄系
    金属間化合物,酸化物,窒化物,および炭化物の少なく
    とも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし5のい
    ずれかの項に記載された樹脂摩擦材。
  7. 【請求項7】 前記硬質粒子の最大粒径は50μm以下
    であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかの
    項に記載された樹脂摩擦材。
  8. 【請求項8】 前記複合銅合金粉末は30〜250μm
    の平均粒径を有していることを特徴とする請求項1ない
    し7のいずれかの項に記載された樹脂摩擦材。
  9. 【請求項9】 前記樹脂素地は、フェノール系樹脂,エ
    ポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリアミド・イミド
    系樹脂,およびメラミン系樹脂の少なくとも1つを含む
    熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1ないし8
    のいずれかの項に記載された樹脂摩擦材。
  10. 【請求項10】 潤滑油中において鋼材の相手材に対し
    て摩擦摺動したときに0.15以上の摩擦係数を有する
    ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれかの項に記
    載された樹脂摩擦材。
  11. 【請求項11】 請求項1に記載の樹脂摩擦材を製造す
    る方法であって、 硬質粒子が均一に分散された複合銅合金粉末と樹脂粉末
    とを準備し、 前記複合銅合金粉末と前記樹脂粉末とを所定の割合で混
    合して混合粉末を調製し、 加熱された金型内で前記混合粉末を加圧して固化する工
    程を含むことを特徴とする樹脂摩擦材の製造方法。
  12. 【請求項12】 請求項2に記載の樹脂摩擦材を製造す
    る方法であって、 硬質粒子が均一に分散された複合銅合金粉末,樹脂粉
    末,および固体潤滑剤粉末を準備し、 前記複合銅合金粉末,前記樹脂粉末,および前記固体潤
    滑剤粉末を所定の割合で混合して混合粉末を調製し、 加熱された金型内で前記混合粉末を加圧して固化する工
    程を含むことを特徴とする樹脂摩擦材の製造方法。
  13. 【請求項13】 請求項1に記載の樹脂摩擦材を製造す
    る方法であって、 硬質粒子が均一に分散された複合銅合金粉末と樹脂粉末
    とを準備し、 前記複合銅合金粉末をその焼結温度より低い温度で加圧
    成形することによって複合銅合金圧粉体を形成し、 所定量の前記樹脂粉末を加熱溶融させて前記複合銅合金
    圧粉体中に含浸させる工程を含むことを特徴とする樹脂
    摩擦材の製造方法。
  14. 【請求項14】 前記樹脂粉末を加熱溶融させて前記複
    合銅合金圧粉体中に含浸させる工程は加熱された金型内
    で加圧下において行なわれることを特徴とする請求項1
    3に記載の樹脂摩擦材の製造方法。
  15. 【請求項15】 請求項2に記載の樹脂摩擦材を製造す
    る方法であって、 硬質粒子が均一に分散された複合銅合金粉末,樹脂粉
    末,および固体潤滑剤粉末を準備し、 前記複合銅合金粉末と前記固体潤滑剤粉末を所定の割合
    で混合した混合粉末をその焼結温度より低い温度で加圧
    成形することによって圧粉体を形成し、 所定量の前記樹脂粉末を加熱溶融させて前記圧粉体中に
    含浸させる工程を含むことを特徴とする樹脂摩擦材の製
    造方法。
  16. 【請求項16】 前記樹脂粉末を加熱溶融させて前記圧
    粉体中に含浸させる工程は加熱された金型内で加圧下に
    おいて行なわれることを特徴とする請求項15に記載の
    樹脂摩擦材の製造方法。
  17. 【請求項17】 前記複合銅合金粉末は、銅合金粉末と
    硬質粒子とを含む混合粉末に機械的合金化法(メカニカ
    ルアロイング法),機械的混合法(メカニカルグライン
    ディング法),および造粒法の少なくとも1つの機械的
    混合粉砕処理を施すことによって前記硬質粒子を最大粒
    径で50μm以下に粉砕するとともに前記銅合金粉末の
    素地内に均一に分散させて得られることを特徴とする請
    求項11ないし16のいずれかの項に記載された樹脂摩
    擦材の製造方法。
  18. 【請求項18】 前記複合銅合金粉末は、50μm以下
    の最大粒径を有する硬質粒子が均一に混合された銅合金
    溶湯に噴霧法(アトマイズ法)を適用することによって
    得られることを特徴とする請求項11ないし16のいず
    れかの項に記載された樹脂摩擦材の製造方法。
JP33780194A 1994-12-26 1994-12-26 樹脂摩擦材とその製造方法 Withdrawn JPH08176315A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP33780194A JPH08176315A (ja) 1994-12-26 1994-12-26 樹脂摩擦材とその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP33780194A JPH08176315A (ja) 1994-12-26 1994-12-26 樹脂摩擦材とその製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPH08176315A true JPH08176315A (ja) 1996-07-09

Family

ID=18312100

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP33780194A Withdrawn JPH08176315A (ja) 1994-12-26 1994-12-26 樹脂摩擦材とその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JPH08176315A (ja)

Similar Documents

Publication Publication Date Title
KR100187616B1 (ko) 소결 마찰재와 이에 사용되는 복합 동합금 분말 및 이들의 제조방법
TWI413685B (zh) 用於粉末冶金組合物的潤滑劑
JPH08100227A (ja) 焼結摺動部材
KR20080083275A (ko) 분말 야금 조성물용 윤활제
JP4419299B2 (ja) ハイブリッド砥石及びその製造方法
KR0149739B1 (ko) 소결접동부재 및 그 제조방법
JP2006063400A (ja) アルミニウムベース複合材料
Pérez et al. Influence of abrasives and graphite on processing and properties of sintered metallic friction materials
JPH08245949A (ja) 乾式摩擦材とその製造方法
KR101167712B1 (ko) 싱크로나이저 링
JPH07166278A (ja) 銅系摺動材とその製造方法
EP2012038B1 (de) Trockenlaufreibbelag
JPH08176315A (ja) 樹脂摩擦材とその製造方法
JPH08200413A (ja) 湿式摩擦係合板とその製造方法
JPH06145845A (ja) 焼結摩擦材
JPH04266993A (ja) 改良型弾力性金属摩擦接面材料
JP3485270B2 (ja) 湿式摩擦材料
JPH0979288A (ja) 変速機用同期リングおよびその製造方法
JPH0689363B2 (ja) 粉末治金用高強度合金鋼粉
JPH07102335A (ja) 焼結摺動部材
JPS6330526B2 (ja)
JPH0499836A (ja) 焼結銅系摺動材料
JP2000355685A (ja) 摩擦材料
JPH07149921A (ja) 青銅系湿式摩擦材の製造方法
WO2023157637A1 (ja) 焼結金属摩擦材及びその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A300 Withdrawal of application because of no request for examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300

Effective date: 20020305