JPH07278735A - 耐遅れ破壊特性に優れた高張力ボルト用鋼 - Google Patents

耐遅れ破壊特性に優れた高張力ボルト用鋼

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JPH07278735A JP7621894A JP7621894A JPH07278735A JP H07278735 A JPH07278735 A JP H07278735A JP 7621894 A JP7621894 A JP 7621894A JP 7621894 A JP7621894 A JP 7621894A JP H07278735 A JPH07278735 A JP H07278735A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 本発明は引張強さ125kgf/mm2 以上を有す
る耐遅れ破壊特性に優れた高張力ボルト用鋼に関するも
のである。 【構成】 C:0.30〜0.45%、Si:0.10%
未満、Mn:0.40%超1.00%未満、P:0.0
08%未満、S:0.010%以下、Cr:0.5〜
1.5%未満、Mo:0.35%超1.5%未満、A
l:0.010〜0.100%、V:0.30%超1.
0%以下を含有し、更に必要に応じてNb:0.005
〜0.030%、Ti:0.005〜0.030%の1種
又は2種を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からな
る鋼及び上記の鋼をボルト成形後焼入れ処理を行い、4
50℃以上の温度で焼戻すことにより引張強度を125
kgf/mm2以上に調質されることを前提とした耐遅れ破壊
特性に優れた高張力ボルト用鋼。 【効果】 本発明に従って得られた高張力ボルト用鋼は
引張強度125kgf/mm2以上と高強度であり、同時に水
素が侵入し難く、耐遅れ破壊特性にも優れている。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は引張強さ125kgf/mm2
以上を有する耐遅れ破壊特性に優れた高張力ボルト用鋼
に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車や産業用機械の高性能化、また建
築構造物の大型化に伴い、引張強さが125kgf/mm2
上の高張力ボルトの開発が要求されてきている。高張力
ボルトは、例えばJIS G4105で規定されている
SCM435等の低合金鋼に焼入れ、巻戻し処理を施す
ことによって製造されているが、このような機械用強靭
鋼を実用に供した場合、125kgf/mm2 以上の引張強さ
を有するボルトにおいては降伏応力以下での使用におい
ても締結からある時間経過後にボルトが突然破断する遅
れ破壊現象が顕著に現れるため、自動車、橋梁等の重要
部品であるボルトには使用できない。そのためボルトの
高強度化は100kgf/mm2 級、110kgf/mm2 級で停滞
しているのが現状である。
【0003】このような要求に答える高張力ボルト用鋼
及びその製造方法が例えば特開平3−173745号公
報、特開平1−191762号公報等のように提案され
ている。これらは遅れ破壊の破面が粒界破壊を呈するこ
とからP,S等の不純物を低減して粒界を強化し、組織
制御の観点からMo,Crを添加して400℃以上の高
温焼戻しを指向し、遅れ破壊の原因である水素が鋼中に
侵入しても容易に破壊に至らない特性を鋼に付与してい
る。また、従来より耐遅れ破壊特性向上には例えば特開
平5−9653号公報のように特にP量を低減すること
が有効であることが数多く報告されており、できるだけ
低減化することが望ましいとされている。この技術はP
量を低減化することにより粒界に偏析するPを低減し、
粒界強化を図ることを目的としている。
【0004】しかしながら上記の方法を用いてもある濃
度以上の水素がボルト中に侵入すれば遅れ破壊が引き起
こされるという問題がある。従って更に耐遅れ破壊特性
を向上させるには粒界強化技術のみでは不十分であり、
遅れ破壊の原因である水素を鋼中に侵入し難くするこ
と、あるいは旧オーステナイト粒界への水素の集積を低
減することが効果的である。メッキ等の表面処理によら
ずこれを実現したものは少ないが、例えば特開平5−7
0890号公報のようにSi,Niの同時添加が鋼材へ
の水素侵入・拡散を抑制するとされている。しかしSi
の添加はボルトの冷鍛性を損ない、Niの添加はコスト
高であるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記のような
要求に答えるため125kgf/mm2 以上の引張強さを有し
かつ耐遅れ破壊特性に優れたボルト用鋼を提供すること
を目的とする。詳細には現在ボルト用鋼として一般に使
用されている100kgf/mm2 級、110kgf/mm2級に調
質したJIS G4105で規定されているSCM43
5等の低合金鋼が遅れ破壊を引き起こす水素量が侵入し
ても遅れ破壊を起こさず、同時に厳しい腐食環境中でも
水素が侵入し難い引張強度125kgf/mm2 以上を有する
高張力ボルト用鋼を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の本発明の目的を達
成するため本発明者らは数多くの実験を重ねた結果、以
下の事項を知見した。すなわちMo,Cr,Vをある
成分範囲で複合添加して450℃以上の温度域で焼戻し
を施すことによって低温焼戻し脆性域を回避し、粒界炭
化物の形態を制御することができる、特定量のV添加
により旧オーステナイト粒を微細化することが可能であ
るとともに、焼戻し時に析出するV炭窒化物が水素のト
ラップサイトとなり、粒界に集積する水素が低減するこ
とによって耐遅れ破壊特性が大幅に向上する、粒界に
偏析する不純物であるSi,S,P量を規制することが
耐遅れ破壊特性向上に対して極めて効果的であり、特に
P量を規制することによって従来から知見されている耐
遅れ破壊特性の向上にとどまらず鋼中に侵入する水素量
が著しく減少する。
【0007】具体的な方策としては、焼戻し時に顕著
な二次硬化を起こす元素であるMo,Cr,Vの複合添
加により、450℃以上の高温焼戻しにおいても強度1
25kgf/mm2 以上を達成することを可能とし、0.3
5%超1.0%以下のV添加によって旧オーステナイト
粒度をNo.10以下の細粒とし、450℃以上の高温で
焼戻すことにより水素のトラップサイトとなるV炭窒化
物を析出させ、粒界に偏析する不純物であるP,S,
Siを低減して旧オーステナイト粒界を強化し、特にP
量を0.008%以下に低減することによって厳しい腐
食環境である36%塩酸浸漬においてもボルトが容易に
腐食せず、鋼中に侵入する水素量が著しく減少し、同時
に耐遅れ破壊特性も向上させ、フェライトの固溶強化
元素であるSiを低減することによって球状化焼鈍時の
軟化量を確保し、他の耐遅れ破壊特性を向上させる合金
元素添加量を削減することなく冷間鍛造が可能となるこ
とを明らかにして本発明を完成させるに至ったものであ
る。
【0008】図1にP量低減の効果を示す。これは、9
20℃×60分で焼入れ、475℃×30分で焼戻し処
理した22mmφの棒鋼を5mmφ×55mmのVノッチ付き
試験片に切削加工し、36%塩酸に所定時間浸漬して強
制的に鋼中に水素を吸蔵させた後に熱的分析法により鋼
中の拡散性水素量を測定したものである。図から明らか
なようにP量低減が水素侵入を抑制するのに非常に有効
であることがわかる。図2は上記の試験片の塩酸浸漬に
よる腐食減量を測定したものである。すなわち、P量低
減化により非常に厳しい腐食環境中でも腐食し難い特性
を付与することができることを示している。
【0009】図3,図4にVの添加の効果を示す。図3
はVを含有しないSCM435に水素を吸蔵させた後、
熱的分析法により測定した水素の放出挙動であり、図4
はVを0.36%含有する鋼の水素放出挙動を同様にし
て測定したものである。図3,4から明らかなようにV
添加鋼は270℃付近で多くの水素が放出されている一
方、Vを含有しないSCM435では、この温度域から
放出される水素は存在しないことから、V炭窒化物が水
素の安定なトラップサイトとなっていることがわかる。
【0010】本発明に従うと、重量%でC:0.30〜
0.45%、Si:0.10%未満、Mn:0.40%
超1.00%未満、P:0.008%未満、S:0.0
10%以下、Cr:0.5〜1.5%未満、Mo:0.
35%超1.5%未満、Al:0.010〜0.100
%、V:0.30%超1.0%以下を含有し、更に必要
に応じてNb:0.005〜0.030%、Ti:0.
005〜0.030%の1種又は2種を含有し、残部が
Fe及び不可避的不純物からなる耐遅れ破壊特性に優れ
た高張力ボルト用鋼と、上記成分の鋼をボルト成形後焼
入れ処理を行い、450℃以上の温度から焼戻すことに
より引張強度125kgf/mm2 以上に調質されることを前
提とした耐遅れ破壊特性に優れた高張力ボルト用鋼が提
供される。
【0011】
【作用】本発明を上記のような成分、焼戻し温度に限定
した理由を述べる。 (A)鋼の化学成分 C:Cは鋼に容易に強度を付与させるのに有効な元素で
あるが、その含有量が0.30%未満では強度を確保す
ることができず、また0.45%を超えて添加すると靭
性が劣化する。従ってその成分範囲を0.30〜0.4
5%以下とした。
【0012】Si:Siは鋼の脱酸に必要な元素であり
鋼の強度向上に有効であるが、その含有量が0.1%以
上であると靭性が劣化し、鋼の脆性が著しくなる。ま
た、フェライトの固溶強化作用の大きい元素であるため
に、球状化焼鈍を行っても冷間鍛造が困難となる。更に
熱処理時に粒界酸化が起き易くなり、その切欠効果によ
ってボルトの耐遅れ破壊特性を劣化させる元素であるた
め極力低減すべきである。従ってその成分範囲を0.1
0%未満に制限した。
【0013】Mn:Mnは焼入性を向上させるのに有効
な元素であるが、その添加量が0.40%以下では所望
の効果を得ることができず、また1.00%以上添加す
ると焼戻し脆化を生じ、耐遅れ破壊特性が劣化するので
その成分範囲を0.40%超1.00%未満と定めた。 P:Pは粒界に偏析し、粒界強度を低下させ耐遅れ破壊
特性を劣化させる元素である。また厳しい腐食環境であ
る塩酸中において鋼材表面での水素発生を促進する効果
を通じて鋼の腐食量を増加させる元素であり、極力低減
すべきである。その含有量が0.008%以上であると
鋼材中に侵入する水素量が著しく増大するため0.00
8%未満とした。
【0014】S:Sは粒界に偏析して鋼の脆化を促進す
る元素であるためその含有量を極力低減すべきである。
その含有量が0.010%を超えると脆化が著しくなる
ため、上限を0.010%以下と定めた。 Cr:Crは鋼の焼入性を向上させるのに有効な元素で
あり、かつ鋼に焼戻し軟化抵抗を付与する効果がある
が、その添加量が0.5%未満では前記作用に効果が得
られず、他方経済性を考慮しその添加量を0.5〜1.
5%未満とした。
【0015】Mo:Moは顕著な二次硬化を起こす元素
であり、高温焼戻しを可能とすることによって耐遅れ破
壊特性を向上させる元素であるがその添加量が0.35
%未満では所望の効果を得ることができず、1.5%を
超えて添加すると焼入れ時に未溶解炭化物が母相に固溶
し難くなり、延性を損なうためその添加量を0.35%
超〜1.5%未満と定めた。 Al:Alは鋼の脱酸に必要な元素であり、窒化物を形
成して旧オーステナイト粒を微細化させる効果がある。
しかし0.010%未満ではその効果が小さく、また
0.100%を超えるとアルミナ系介在物が増大し、靭
性を阻害することからその成分範囲を0.010〜0.
100%と定めた。
【0016】V:Vは焼戻し時に微細な窒化物、炭化物
として析出して鋼の強度を向上させ、高温焼戻しを可能
とする元素であり、かつ旧オーステナイト粒を微細化さ
せる効果がある。更に焼戻し時に粒内に析出した炭窒化
物は水素のトラップサイトとなり、粒界に集積する水素
を低減することによって耐遅れ破壊特性を大幅に向上さ
せる効果を持つ。しかしその添加量が0.3%以下では
旧オーステナイト粒度No.10を達成できず、耐遅れ破
壊特性を向上させるまでには至らない。また1.0%を
超えて添加するとボルトの冷鍛性を損なう。またVは高
価な元素であるため経済性も考慮してその含有量を0.
3%超1.0%以下と定めた。
【0017】Nb:Nbは旧オーステナイト粒を微細化
させ、更に析出硬化して鋼の強度を向上させる作用があ
る。しかしその添加量が0.005%未満ではその効果
を得ることはできず、一方0.030%を超えて含有さ
せてもその効果は飽和してしまうため、その含有量を
0.005〜0.030%とした。 Ti:Tiは旧オーステナイト粒を微細化させ、更に析
出硬化して鋼の強度を向上させる作用がある。しかしそ
の添加量が0.005%未満ではその効果を得ることは
できず、一方0.030%を超えて含有させてもその効
果は飽和してしまうため、その含有量を0.005〜
0.030%とした。
【0018】(B)焼戻し温度 遅れ破壊は旧オーステナイト粒界割れを呈することか
ら、ボルトの耐遅れ破壊特性の向上には250〜400
℃の低温焼戻し脆性温度領域を避けること、更に旧オー
ステナイト粒界へのフィルム状セメンタイトの析出を抑
制するため焼戻し温度上昇による炭化物の形態の制御が
有効であること、及び水素のトラップサイトとなるV炭
窒化物を析出させ、粒界に集積する水素を低減すること
が有効であるので焼戻し温度を450℃以上と定めた。
【0019】
【実施例】まず真空溶解炉により表1に示す成分組織の
鋼を溶製した。No.1〜27は本発明のボルト用鋼に従
ったものであり、No.28〜33は比較鋼である。これ
らの鋼の22mmφ棒鋼を表2の熱処理条件で焼入れ、焼
戻しを行うことによりそれぞれ125kgf/mm2 以上の強
度に調質した。この時の引張強度を表2に示す。
【0020】これらの鋼が遅れ破壊に対してどの程度の
拡散性水素を許容し得るか、すなわち各鋼の限界拡散性
水素量を調査した。遅れ破壊試験はVノッチ付き試験片
を切削加工により製作し実施した。この試験片を所定時
間36%塩酸に浸漬し強制的に水素を吸蔵させた後、大
気中に30分間放置し、定荷重負荷装置によってノッチ
引張強度×0.7の引張応力を負荷した。
【0021】この時鋼中に侵入した拡散性水素量を熱的
分析法により測定し、拡散性水素量と破断時間との関係
を調査して試験片が100時間以上破断しない限界の拡
散性水素量で耐遅れ破壊特性を評価した。結果を表2に
示すが、本発明鋼は比較鋼に比べ耐遅れ破壊特性に優れ
ていることが明らかである。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【発明の効果】本発明に従って得られた高張力ボルト用
鋼は従来のボルト用鋼に比べ引張強度125kgf/mm2
上と高強度であり、同時に水素が侵入し難く、耐遅れ破
壊特性にも優れている。本発明を用いればボルトの小径
化による軽量化、締結数を削減による作業工数の低減、
高強度化による設計の自由度の向上等が可能となるた
め、近年の鋼構造物の大型化・高層化、あるいは自動車
・産業機械の高性能化・軽量化への要求に大きく寄与す
ることができる耐遅れ破壊特性に優れた高張力ボルト用
鋼を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】侵入水素量に及ぼすP量低減の効果を示す図表
である。
【図2】腐食減量に及ぼすP量低減の効果を示す図表で
ある。
【図3】従来鋼であるSCM435の水素放出挙動を示
す図表である。
【図4】Vを0.36%含有する鋼の水素放出挙動を示
す図表である。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、 C :0.30〜0.45%、 Si:0.10%未満、 Mn:0.40%超1.00%未満、 P :0.008%未満、 S :0.010%以下、 Cr:0.5〜1.5%未満、 Mo:0.35%超1.5%未満、 Al:0.010〜0.100%、 V :0.30%超1.0%以下 残部がFe及び不可避的不純物からなる耐遅れ破壊特性
    に優れた高張力ボルト用鋼。
  2. 【請求項2】 重量%で、 C :0.30〜0.45%、 Si:0.10%未満、 Mn:0.40%超1.00%未満、 P :0.008%未満、 S :0.010%以下、 Cr:0.5〜1.5%未満、 Mo:0.35%超1.5%未満、 Al:0.010〜0.100%、 V :0.30%超1.0%以下 を含有し、 Nb:0.005〜0.030%、 Ti:0.005〜0.030% の1種又は2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純
    物からなる耐遅れ破壊特性に優れた高張力ボルト用鋼。
  3. 【請求項3】 請求項1または2記載の成分を有し、ボ
    ルト成形後焼入れ処理を行い、450℃以上の温度で焼
    戻すことにより引張強度が125kgf/mm2 以上に調質さ
    れることを前提とした耐遅れ破壊特性に優れた高張力ボ
    ルト用鋼。
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