JPH07179494A - ポリペプチドとその製造方法並びに用途 - Google Patents

ポリペプチドとその製造方法並びに用途

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JPH07179494A
JPH07179494A JP5344700A JP34470093A JPH07179494A JP H07179494 A JPH07179494 A JP H07179494A JP 5344700 A JP5344700 A JP 5344700A JP 34470093 A JP34470093 A JP 34470093A JP H07179494 A JPH07179494 A JP H07179494A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 花粉症を惹起する新規なポリペプチドと、そ
の製造方法並びに減感作剤としての用途を提供する。 【構成】 特定の理化学的性質を有するポリペプチド
と、スギ花粉を水性溶媒中で抽出し、その抽出物から当
該ポリペプチドを採取してなる方法と、有効成分として
当該ポリペプチドを含有する減感作剤を構成とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、花粉症を惹起する新
規なポリペプチドと、そのポリペプチドを製造するため
の方法並びに花粉症を治療、予防、診断するための減感
作剤に関する。
【0002】
【従来の技術】ここ十数年来、我国おいては、春先にな
ると花粉症による鼻炎や結膜炎を訴える人の数が増加し
続けている。患者の数が多いことと、発症季がいろいろ
な行事が続く春先ということもあって、マスコミなどで
も頻繁に取り上げられ、今や、公衆衛生上無視できない
問題の一つになっている。
【0003】花粉症はアレルギー症の一種であり、その
主因はスギ花粉中の抗原性物質、すなわち、スギ花粉ア
レルゲンであると言われている。大気中に飛散したスギ
花粉がヒトの体内に侵入すると、スギ花粉アレルゲンに
対するイムノグロブリンE抗体が産生する。この状態
で、次にスギ花粉が侵入すると、その花粉中のスギ花粉
アレルゲンとこのイムノグロブリンE抗体が免疫反応を
起し、アレルギー症状を呈することとなる。
【0004】現在、スギ花粉中には、抗原性の相違する
少なくとも二種類のアレルゲンの存在することが知られ
ている。その一つは、ヤスエダ等が『ジャーナル・オブ
・アレルギー・アンド・クリニカル・イムノロジー』、
第71巻、第1号、第77〜86頁(1983年)に報
告しているアレルゲンであり、今日、これは「Cryj
I」と呼称されている。もう一つは、タニアイ等『エ
フ・イー・ビー・エス・レターズ』、第239巻、第2
号、第329〜332頁(1988年)やサカグチ等
『アレルギー』、第45号、第309〜312頁(19
90年)に報告されているアレルゲンであり、今日、こ
れは「Cry j II」と呼称されている。スギ花粉
中には、通常、Cry j IとCry j IIが約
50:1乃至5:1の割合で存在し、花粉症患者から採
取した血清のほとんどがCryj IにもCry j
IIにも反応すると言われている。澤谷等は、『アレル
ギー』、第42巻、第6号、第738〜747頁(19
93年)において、Cry j IIが、皮内試験やR
AST試験すると、Cry j Iと同程度の抗原性を
発揮すると報告している。
【0005】このように、スギ花粉アレルゲンがすでに
幾つか単離され、その性質・性状もある程度解明された
ことから、精製スギ花粉アレルゲンをヒトに投与して減
感作することにより、花粉症を治療・予防できる見通し
がついてきた。最近ではそのための減感作剤も幾つか考
案されており、例えば、特開平1−156926号公報
や特開平3−93730号公報には、N末端にAsp−
Asn−Pro−Ile−Asp−Ser−又はAla
−Ile−Asn−Ile−Phe−Asn−で表わさ
れるアミノ酸配列を有するアレルゲンに多糖類の一種で
あるプルランを共有結合せしめ、得られる複合体を減感
作剤としてヒトに投与する提案が為されている。しかし
ながら、花粉症を惹起するアレルゲンはCry j I
やCryj IIだけではなく、正確な診断や効果的な
減感作療法をするうえでも、その余のアレルゲンを単離
し、性質・性状を解明するのが斯界の急務となってい
る。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】斯かる状況に鑑み、こ
の発明の目的は、花粉症を惹起する新規なポリペプチド
を提供することにある。
【0007】この発明の別の目的は、そのポリペプチド
を製造するための方法を提供することにある。
【0008】この発明のさらに別の目的は、そのポリペ
プチドの減感作剤としての用途を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】この発明は、前記第一の
課題を、理化学的性質が、 (1) 分子量 40,000±5,000ダルトン(SDS−ポリアク
リルアミドゲル電気泳動) (2) 等電点 9.5±0.5(等電点電気泳動) (3) N末端アミノ酸配列 N末端にX−Arg−His−Asp−Ala−Ile
−で表わされるアミノ酸配列を有する。ただし、X−
は、Ser−又はArg−Lys−Val−Glu−H
is−Ser−から選ばれるアミノ酸乃至オリゴペプチ
ドを表わすものとする。 (4) 紫外線吸収スペクトル 280nm付近に吸収極大を有する。 (5) 溶剤への溶解性 水、生理食塩水及び燐酸緩衝液に可溶である。 (6) 生物作用 花粉症を惹起する。花粉症患者の血液から採取したイム
ノグロブリンE抗体に結合する。 (7) 安定性 水溶液(pH7.2)中、100℃で10分間加熱する
と失活する。水溶液(pH7.2)中、4℃で1カ月間
放置しても、実質的に失活しない。 であるポリペプチド(以下、単に「ポリペプチド」と言
う。)により解決するものである。
【0010】この発明は、前記第二の課題を、スギ花粉
を水性溶媒中で抽出し、その抽出物からポリペプチドを
採取してなる方法により解決するものである。
【0011】この発明は、前記第三の課題を、有効成分
としてポリペプチドを含有する減感作剤により解決する
ものである。
【0012】
【作用】この発明のポリペプチドは、後述のごとき、従
来公知のスギ花粉アレルゲンには見られない、独特の理
化学的性質を有する新規物質である。
【0013】この発明の製造方法は、スギ花粉からポリ
ペプチドを所望量製造することを可能ならしめる。
【0014】この発明の減感作剤は、ヒトを含む哺乳動
物に投与すると、減感作効果を発揮する。
【0015】この発明は、花粉症を惹起する新規なポリ
ペプチドに関するものである。本発明者がスギ花粉中の
アレルゲンについて研究していたところ、従来未知の全
く新規なアレルゲンが含まれていることを見出した。カ
ラムクロマトグラフィーを中心とする種々の精製方法を
組合せてこのアレルゲンを単離し、その性質・性状を調
べたところ、その本質はポリペプチドであり、従来公知
のスギ花粉アレルゲンとは相違する性質・性状を有して
いることが判明した。
【0016】つぎに、この発明によるポリペプチドの独
特の性質・性状につき、実験例に基づいて説明する。
【0017】
【実験例1 ポリペプチドの精製】秋田県産のウラスギ
の雄花から採取した花粉1重量部を約16重量部の0.
125M炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.2)に浮
遊させ、撹拌しながら4℃で1時間抽出後、遠心分離に
より上清を採取した。残渣を同様に再処理し、得られた
上清と初回の抽出で得られた上清とをプールし、これに
セタブロンを1%(w/v)になるように加え、遠心分
離後、上清に硫酸アンモニウムを80%飽和になるよう
加えて蛋白質成分を塩析した。沈澱部分を50mMトリ
ス−塩酸緩衝液(pH7.8)に対して10時間透析
し、濾過後、予め50mMトリス−塩酸緩衝液(pH
7.8)で平衡化させておいたDEAE−セファデック
スカラムに負荷し、カラムに50mMトリス−塩酸緩衝
液(pH7.8)を通液して得られる非吸着画分を採取
した。この非吸着画分に酢酸を加えてpH5.0に調整
した後、予め10mM酢酸緩衝液(pH5.0)で平衡
化させておいたCM−セファデックスカラムに負荷し、
10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を通液してカラムを
洗浄した後、0.1M燐酸緩衝液(pH7.0)と0.
3M塩化ナトリウムからなる溶離液をカラムに通液して
蛋白質成分を溶出させた。採取した蛋白質成分を含む画
分を、今度は、予め10mM燐酸緩衝液(pH5.0)
で平衡化させておいたMono−Sカラムに負荷し、0
Mから0.5Mに上昇する塩化ナトリウムの濃度勾配下
でカラムに10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)
を通液したところ、塩化ナトリウム濃度が0.4Mのと
きに当該ポリペプチドが溶出した。最後に、常法によ
り、精製ポリペプチドを含む溶出画分を濃縮し、凍結乾
燥して以下の実験に供した。なお、収量は、原料のスギ
花粉固形分当たりに換算して約0.006%であった。
【0018】
【実験例2 ポリペプチドの理化学的性質】本実験例で
は、実験例1で得た精製ポリペプチドにつき、その理化
学的性質を調べた。
【0019】
【実験例2−1 分子量】ユー・ケー・レムリが『ネー
チャー』、第227巻、第680〜685頁(1970
年)に報告している方法に準じて精製ポリペプチドをS
DS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動したところ、分
子量40,000±5,000ダルトンに相当する位置
に主要なバンドが観察された。なお、このときの分子量
マーカは、ウシ血清アルブミン(67,000ダルト
ン)、オボアルブミン(45,000ダルトン)、カル
ボニックアンヒドロラーゼ(30,000ダルトン)、
キモトリプシノーゲンA(25,000ダルトン)及び
チトクロームC(12,000ダルトン)であった。
【0020】分子量40,000±5,000ダルトン
の画分をゲルからニトロセルロース膜に写し取り、マウ
ス由来の抗スギ花粉アレルゲン抗体及びセイヨウワサビ
由来のパーオキシダーゼで標識したヤギ由来の抗マウス
イムノグロブリン抗体を作用させたところ、顕著な免疫
染色が観察された。これは、当該ポリペプチドがスギ花
粉アレルゲンの一種であることを示唆している。
【0021】
【実験例2−2 等電点】等電点電気泳動法により測定
したところ、精製ポリペプチドの等電点は9.5±0.
5であった。
【0022】
【実験例2−3 N末端アミノ酸配列】常法により、精
製ポリペプチドのN末端アミノ酸配列をアプライド・バ
イオシステム社製アミノ酸シーケンサー『473A型』
により分析したところ、(1) Ser−Arg−Hi
s−Asp−Ala−Ile−又は(2) Arg−L
ys−Val−Glu−His−Ser−Arg−Hi
s−Asp−Ala−Ile−で表わされる2種類の配
列が認められた。
【0023】
【実験例2−4 C末端アミノ酸配列】精製ポリペプチ
ド400μgを反応管にとり、6Mグアニジン塩酸塩と
10mM EDTAを含む0.5Mトリス−塩酸緩衝液
(pH8.5)300μlに溶解し、反応管内に窒素ガ
スを注入し、適量の4−ビニルピリジンとトリ−n−ブ
チルフォスフィンを加えた後、暗所に一晩静置してポリ
ペプチドをピリジルエチル化した。反応物を蒸留水に対
して透析し、透析内液を採取して凍結乾燥後、0.05
M N−エチルモリホリン−酢酸緩衝液(pH8.7)
300μlに溶解し、リシルエンドペプチダーゼを5μ
g加え、37℃で16時間インキュベートした。約10
0℃に5分間加熱して酵素反応を停止させた後、反応液
を、予め0.02M塩化カルシウムを含む0.05M酢
酸緩衝液(pH5.0)で平衡化させておいたアンヒド
ロトリプシンアガロースカラムクロマトグラフィーにか
け、非吸着画分を採取した。
【0024】その後、非吸着画分からペプチド成分を含
む画分を採取し、濃縮後、予め1%(v/v)トリフル
オロ酢酸水溶液で平衡化させておいたバイダック社製逆
相高速液体クロマトグラフィー用カラム『218TP5
4』に負荷し、次いで、214nm波長下で溶出画分を
モニターしながら、0.1%(v/v)トリフルオロ酢
酸を含み、アセトニトリル濃度が1%(v/v)/分の
割合で上昇する水性アセトニトリルを0.5ml/分の
流速で通液した。溶出液からペプチド成分を含む画分を
採取し、濃縮後、アプライド・バイオシステム社製アミ
ノ酸シーケンサ『473A型』によりアミノ酸配列を分
析したところ、当該ポリペプチドはC末端に−Asn−
Leu−Ser−Pro−Serで表わされるアミノ酸
配列を有していることが判明した。
【0025】
【実験例2−5 紫外線吸収スペクトル】分光光度計を
用いて水溶液中における紫外線吸収スペクトルを測定し
たところ、精製ポリペプチドは波長280nm付近に吸
収極大を示した。
【0026】
【実験例2−6 溶剤への溶解性】常法により試験した
ところ、精製ポリペプチドは、水、生理食塩水及び燐酸
緩衝液に可溶であった。
【0027】
【実験例2−7 生物作用】この発明のポリペプチド
は、下記に示す方法により試験すると、花粉症患者の血
液から採取したイムノグロブリンE抗体に結合する性質
と、当該ポリペプチドに特異的に反応するT細胞の増殖
を誘導する性質を示す。
【0028】
【実験例2−7(a) イムノグロブリンE抗体への結
合試験】96ウェルマイクロプレートに精製ポリペプチ
ドを1μg/ウェルずつ吸着させ、さらに、花粉症患者
若しくは健常人から採取した血清を100μl/ウェル
ずつ加えた後、37℃で2時間インキュベートした。つ
ぎに、マイクロプレートを0.1%(v/v)ウシ血清
アルブミンを含む0.1M燐酸緩衝液(pH7.2)で
洗浄して未結合血清を除去した後、セイヨウワサビ由来
のパーオキシダーゼで標識したヤギ由来の抗ヒトイムノ
グロブリンE抗体を100μl/ウェルずつ加え、37
℃でさらに2時間インキュベートした。マイクロプレー
トを新鮮な上記と同じ燐酸緩衝液で洗浄して未結合の抗
体を除去し、各ウェルに0.5mg/mlオルトフェニ
レンジアミンと0.03%(v/v)過酸化水素水を含
む0.1Mクエン酸緩衝液(pH5.0)100μlを
加えて発色させた後、492nmにおける吸光度を測定
した。
【0029】その結果、健常人の血清を使用する系にお
ける吸光度が約0.1であったのに対して、花粉症患者
の血清を使用する系では、吸光度が約2.0にも達して
おり、これは、当該ポリペプチドが花粉症患者の血液に
含まれるイムノグロブリンE抗体に顕著に結合すること
を示している。そして、このことは、当該ポリペプチド
が花粉症の原因物質の一つであること、すなわち、花粉
症を惹起する性質があることを裏付けるものである。
【0030】
【実験例2−7(b) T細胞増殖誘導試験】フィコー
ル・ハイパック比重遠心法により、花粉症患者のヘパリ
ン加末梢血から単核細胞を分離した。単核細胞を10%
(v/v)AB血清を補足したRPMI1640培地
(pH7.0)に濃度1×106個/mlになるように
浮遊させ、実験例1で得た精製ポリペプチドを20μg
/ml加えた後、5%CO2培養器中、37℃で5日間
培養した。その後、培養培地に組換え型ヒトインターロ
イキン−2を50単位/ml加え、上記と同様にしてさ
らに9日間培養した。このように前処理した単核細胞を
下記のT細胞増殖試験に供した。
【0031】96ウェルマイクロプレートに、10%
(v/v)AB血清を補足したRPMI1640培地
(pH7.0)に浮遊させた培養単核細胞を4×104
個/ウェルと、前記と同一の花粉症患者から採取し、マ
イトマイシン50μg/mlの存在下、37℃で30分
間処理しておいた末梢単核細胞1×106個/ウェル
と、精製ポリぺプチドを50μg/ml加え、新鮮な上
記と同じ培養培地で200μl/ウェルとした。ウェル
中の細胞を5%CO2培養器中、37℃で2日間培養
し、3H−チミジンを0.5μCi/ウェル加え、同じ
条件でさらに1日培養した後、シンチレーションカウン
タで細胞内における3H−チミジンの取込み量を測定し
た。同時に、ポリペプチド無含有の培養培地を使用する
系を設け、これを上記と同様に処理して対照とした。
【0032】その結果、対照系において約300cpm
の取込みが観察されたところ、精製ポリペプチドを添加
した系では、ポリペプチド50μg/ml当たり約6,
500cpmと顕著な取込みが認められ、精製ポリペプ
チドが花粉症患者の血液に含まれるT細胞の増殖を顕著
に促したことが判明した。このことは、当該ポリペプチ
ドに抗原性があることを示している。
【0033】
【実験例2−8 安定性】精製ポリペプチドを水溶液
(pH7.2)中、100℃で10分間インキュベート
したところ、残存活性は認められなかった。一方、精製
ポリペプチドを水溶液(pH7.2)中、4℃で1カ月
保存したところ、実質的な活性低下は認められなかっ
た。
【0034】以上のような理化学的性質を有するポリペ
プチドは未だ知られておらず、新規物質であると判断さ
れる。
【0035】つぎに、この発明によるポリペプチドの製
造方法について説明するに、この発明のポリペプチド
は、スギ科スギ属(クリプトメリア・ジャポニカ)に属
するオモテスギやウラスギなどのスギ木から採取した花
粉を水性溶媒中で抽出し、その抽出液を精製することに
より製造することができる。スギ花粉から当該ポリペプ
チドを抽出するには、通常、スギの雄花から採取した花
粉を水若しくは水にメチルアルコール、エチルアルコー
ル、アセトンなどの親水性有機溶媒や適宜の安定剤等を
適量混合した水性溶媒に浮遊させ、必要に応じて、撹拌
しながら、10℃未満の温度、望ましくは、約0乃至5
℃で30分間以上、望ましくは、約1乃至2時間浸漬さ
せる。スギ花粉の状態にも依るが、通常、斯かる操作を
1乃至5回行なうことにより、スギ花粉から大半のポリ
ペプチドを抽出することができる。
【0036】抽出液中のポリペプチドを精製するには、
斯界における通常一般の方法を採用し得る。すなわち、
前記のようにして得た抽出液に、例えば、塩析、透析、
濾過、濃縮、遠心分離、ゲル濾過クロマトグラフィーな
どの方法を適用すれば、部分精製ポリペプチドが得られ
る。この部分精製ポリペプチドは、通常、当該ポリペプ
チド以外に、Cry j Iなどのスギ花粉アレルゲン
を含んでいる。より高純度のポリペプチドを必要とする
場合には、この部分精製ポリペプチドに、例えば、ゲル
濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィ
ー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動、等
電点電気泳動などの方法の1種若しくは2種以上を適用
することにより、Cry j Iを始めとする当該ポリ
ペプチド以外の成分を除去すればよい。
【0037】斯くして得られる部分精製乃至精製ポリペ
プチドは、花粉症を診断若しくは治療・予防するための
減感作剤に有利に配合使用できる。また、精製ポリペプ
チドは、当該ポリペプチドに特異的なイムノグロブリン
E抗体を定性・定量分析するための酵素免疫測定や放射
免疫測定の検出用抗原として有用であり、花粉症の診断
や、アレルギー症一般の発症機序を解明するための学術
研究においても広範な用途を有する。
【0038】つぎに、この発明によるポリペプチドの製
造方法につき、2〜3の実施例を挙げて具体的に説明す
る。
【0039】
【実施例A−1 部分精製ポリペプチドの調製】秋田県
産のウラスギの雄花から採取した花粉1重量部を約16
重量部の0.125M炭酸水素ナトリウム水溶液(pH
8.2)に浮遊させ、撹拌しながら4℃で1時間抽出し
た後、遠心分離により上清を採取した。残渣を同様に再
処理し、得られた上清と初回の抽出で得られた上清をプ
ールし、これにセタブロンを0.1%(w/v)加え、
遠心分離後、硫酸アンモニウムを80%飽和になるよう
に加えて蛋白質成分を塩析した。沈澱部分を50mMト
リス−塩酸緩衝液(pH7.8)に対して10時間透析
し、濾過した後、予め50mMトリス−塩酸緩衝液(p
H7.8)で平衡化させておいたDEAE−セファデッ
クスカラムに負荷し、ついで、カラムに50mMトリス
−塩酸緩衝液(pH7.8)を通液し、非吸着画分を採
取した。この画分に酢酸を加えてpH5.0に調整した
後、予め10mM酢酸緩衝液(pH5.0)で平衡化さ
せておいたCM−セファデックスカラムに負荷し、10
mM酢酸緩衝液(pH5.0)を通液してカラムを洗浄
した後、0.1M燐酸緩衝液(pH7.0)と0.3M
塩化ナトリウムからなる溶離液をカラムに通液して蛋白
質成分を溶出させた。その後、常法により、この溶出画
分を濃縮し、凍結乾燥して、当該ポリペプチド以外にC
ry j Iを含む部分精製ポリペプチドを得た。収量
は、原料のスギ花粉固形分に換算して約0.1%であっ
た。
【0040】本例の部分精製ポリペプチドは、花粉症を
診断若しくは治療・予防するための減感作剤に有利に配
合使用できる。
【0041】
【実施例A−2 精製ポリペプチド】実施例A−1の方
法により得た部分精製ポリペプチドを少量の蒸留水に溶
解し、溶液を予め10mM燐酸緩衝液(pH5.0)で
平衡化させておいたMono−Sカラムに負荷した後、
0Mから0.5Mに上昇する濃度勾配下でカラムに10
mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)を通液したとこ
ろ、塩化ナトリウム濃度が0.4Mのときに当該ポリペ
プチドが溶出した。その後、常法により、溶出液を濃縮
し、凍結乾燥して、本質的に当該ポリペプチドのみから
なる精製ポリペプチドを得た。収量は、原料のスギ花粉
固形分当たりに換算して約0.006%であった。
【0042】本例の精製ポリペプチドは、花粉症を治
療、予防、診断するための減感作剤や、酵素免疫測定や
放射免疫測定用の抗原として有用である。
【0043】次に、この発明によるポリペプチドの用途
につき、実施例、実験例を示して具体的に説明する。
【0044】この発明のポリペプチドは、花粉症の原因
物質の一つであることから、花粉症を治療、予防、診断
するための減感作剤として広範な用途を有する。この発
明の減感作剤は、有効成分として、当該ポリペプチド
か、あるいは、後述の、当該ポリペプチドと特定糖質と
の複合体を含有せしめてなるものである。花粉症の診断
を目的とする減感作剤には、通常、前述のような方法に
より得た部分精製乃至精製ポリペプチドをそのまま配合
し、一方、花粉症の治療・予防を目的とする場合には、
配合に先立って、当該ポリペプチドに特定の糖質を共有
結合させて複合体とする。
【0045】この発明でいう糖質とは、当該ポリペプチ
ドに共有結合させることができ、且つ、複合体とするこ
とにより、当該ポリペプチドの減感作効果及び/又は副
作用を増強若しくは低減するものをいう。斯かる糖質と
しては、例えば、澱粉、アミロース、デキストラン、ポ
リスクロース、プルラン、エルシナン、カードラン、ア
ラビアガム、トラガカントガム、グアガム、キサンタン
ガム、カラゲナン、セルロース、グルコマンナン、キト
サン、リポ多糖などの単純若しくは複合多糖並びにそれ
ら糖質の誘導体及び部分加水分解物が挙げられ、その平
均分子量は、通常、約500乃至10,000,000
ダルトン、望ましくは、約10,000乃至1,00
0,000ダルトンの範囲にある。上記糖質のうちで
も、本質的にマルトトリオースを反復単位とするプルラ
ン、エルシナン又はそれらの部分加水分解物との複合体
は、ヒトを含む哺乳動物に投与すると、減感作に有効な
イムノグロブリンG抗体やイムノグロブリンM抗体を著
量産生する一方、アナフィラキシーショックを含む望ま
しくない副作用の主因たるイムノグロブリンE抗体を産
生し難い性質が顕著である。このことは、反復投与を必
須とする減感作療法を安全且つ効果的に実施するうえで
極めて好都合である。
【0046】また、例えば、大腸菌、サルモネラ菌、セ
ラチア菌などの微生物に由来するリポ多糖やその部分加
水分解物には、当該ポリペプチドとの複合体とすること
により、当該ポリペプチドの哺乳動物の粘膜に対する親
和性を高め、摂取効率を有意に改善する性質がある。こ
のことから、これら糖質との複合体は、経皮若しくは経
粘皮投与を前提とする減感作剤において特に有用であ
る。
【0047】斯かる複合体は、通常、当該ポリペプチド
を活性化糖質と反応させるか、あるいは、1分子中に2
以上の活性官能基を有する試薬により、当該ポリペプチ
ドと糖質とを架橋すればよい。個々の反応方法として
は、例えば、ジアゾ法、ペプチド法、アルキル化法、架
橋法、アミド結合法、過沃素酸酸化法、ジスルフィド結
合法などが挙げられるが、これら反応方法自体は斯界に
おいて公知であり、例えば、特開平3−93730号公
報などには、その代表的な方法が詳述されている。反応
開始時におけるポリペプチドと糖質との割合は、重量比
で、通常、約1:0.001乃至1:1,000、望ま
しくは、約1:0.01乃至1:100の範囲が選ばれ
る。反応方法にも依るが、この範囲を下回るとペプチド
同志の結合が顕著となり、反対に、この範囲を上回ると
糖質同志の反応が顕著となる。いずれにしても、反応と
反応後の精製の効率低下をもたらすものであり、上記の
範囲をもって最良とした。反応時の温度、pH及び反応
時間は、ポリペプチドが失活したり、分解し難く、しか
も、望ましくない副反応が最少限になるように設定する
のがよく、通常、温度を約0乃至100℃、pHを約
0.1乃至12とし、約0.1乃至50時間で完結させ
るのが望ましい。
【0048】反応により生成した複合体は、例えば、透
析、塩析、濾過、濃縮、遠心分離、ゲル濾過クロマトグ
ラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニテ
ィークロマトグラフィー、電気泳動、等電点電気泳動な
どの斯界における通常一般の方法により精製でき、必要
に応じて、これら方法を適宜組合せればよい。そして、
最終使用形態に応じて、精製した複合体を濃縮・凍結乾
燥することにより、液状若しくは固状にすればよい。
【0049】この発明の減感作剤は、上記のようにして
得られたポリペプチド及び/又は複合体単独の形態はも
とより、それ以外の生理的に許容される、例えば、担
体、賦形剤、希釈剤、免疫助成剤、安定剤、さらには、
必要に応じて、ステロイドホルモンやクロモグリク酸ナ
トリウムなどの抗炎症剤や抗ヒスタミン剤を含む1種又
は2種以上の他の薬剤との組成物としての形態を包含す
る。さらに、この発明の減感作剤は、投薬単位形態の薬
剤をも包含し、その投薬単位形態の薬剤とは、この発明
のポリペプチド若しくは複合体を、例えば、1日当たり
の用量又はその整数倍(4倍まで)若しくはその約数
(1/40まで)に相当する量を含有し、投与に適する
物理的に分離した一体の剤型にある薬剤を意味する。こ
のような投薬形態の薬剤としては、散剤、細粒剤、顆粒
剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ
剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、坐剤、点眼剤、
点鼻剤、噴霧剤、注射剤などが挙げられる。
【0050】この発明による減感作剤の使用方法につい
て説明するに、この発明の減感作剤は、スギ花粉アレル
ゲンを含む通常一般の減感作剤と同様に使用することが
できる。すなわち、この発明の減感作剤により花粉症の
診断をするには、スクラッチ試験あるいは皮内試験とし
て知られる通常の試験方法を採用し、まず、被験者の皮
膚面に出血しない程度の傷をつけ、この発明による診断
用減感作剤を適量滴下するか、あるいは、この発明によ
る診断用減感作剤の適量を皮内に注射投与する。そし
て、15乃至30分経過後に膨疹の有無と大きさを調
べ、膨疹の大きさが一定値以上の場合、陽性と判定す
る。
【0051】この発明の減感作剤による治療において
は、通常、上述の診断結果に基づいて適切な用量・用法
を決定する。診断結果が陽性の被験者については、当該
ポリペプチドと特定糖質との複合体を含有するこの発明
の減感作剤を経口若しくは非経口的に投与する。症状、
用法などに依っても変わるが、具体的には、患者の症状
や投与後の経過を観察しながら、通常、成人1回当たり
約0.0001乃至100,000ng、望ましくは、
約0.001乃至10,000ngを目安とし、毎週1
回乃至毎月1回の頻度で、約1カ月乃至1年間、通常、
用量を増やしながら、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内若し
くは経粘皮的に反復投与する。花粉症の予防もほぼ同じ
用量、用法でよく、対象者の健康状態や投与後の経過を
観察しながら、通常、成人1回当たり約0.0001乃
至100,000ng、望ましくは、約0.001乃至
10,000ngを目安とし、毎週1回乃至毎月1回の
頻度で、約1乃至6カ月間、通常、用量を増やしなが
ら、皮内、皮下、筋肉内若しくは経粘皮的に反復投与す
る。この発明による減感作剤を秋口から翌年の春先にか
けて定期的に反復投与するときには、翌年の発症季にお
けるアレルギー症状を僅少若しくは皆無とすることがで
きる。
【0052】次に、この発明による減感作剤につき、2
〜3の実施例を挙げて具体的に説明する。
【0053】
【実施例B−1 乾燥注射剤】平均分子量約200,0
00ダルトンの精製プルラン2gを蒸留水100mlに
溶解し、塩化シアヌルの1.7%(w/v)アセトン溶
液を2ml加えた。次いで、5%(w/v)炭酸ナトリ
ウム水溶液により溶液のpHを7付近に保ちつつ、氷浴
中、4℃以下で2時間静置して反応させた。このように
して得られた活性化プルランを含む溶液に実施例A−2
の方法により得た精製ポリペプチドを40mg加え、撹
拌下、pH7.0、37℃で5時間反応させた。その
後、反応物にグリシンを1%(w/v)加え、撹拌しな
がら37℃で1時間インキユベートして未反応活性基を
ブロックした後、0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)
に対して5時間透析し、次いで、予め0.01M酢酸緩
衝液(pH5.0)で平衡化させておいたCM−セファ
デックスカラムクロマトグラフィーにかけ、非吸着画分
から当該ポリペプチドとプルランとの複合体を採取し
た。その後、常法により、複合体を安定剤として1%
(w/v)ヒト血清アルブミンを含む生理食塩水に最終
ポリペプチド濃度が約100ng/mlになるように溶
解し、滅菌濾過した後、滅菌バイアル瓶に2mlずつ分
注し、凍結乾燥し、密栓した。
【0054】本品は、投与に先立ち、先ず、バイアル瓶
内に注射用蒸留水等を1ml加え、次いで、内容物を均
一に溶解して使用する。安定性に優れ、有効成分として
当該ポリペプチドとプルランとの複合体を含有する本品
は、花粉症を治療・予防するための乾燥注射剤として有
用である。
【0055】
【実施例B−2 注射剤】平均分子量約20,000ダ
ルトンのCM−セルロース1gを蒸留水200mlに溶
解し、溶液に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプ
ロピル)カルボジイミド−メチオジドを2g加えた後、
1N塩酸により溶液のpHを4付近に保ちながら、撹拌
下、常温で2時間反応させた。反応物を蒸留水に対して
24時間透析後、透析内液を採取し、実施例A−2の方
法により調製した精製ポリペプチドを30mg加え、常
温下、pH4.5で15時間静置して反応させた。その
後、反応物中の複合体を実施例B−1と同様に精製し、
濃縮後、50%(v/v)グリセリン水溶液に溶解し、
滅菌濾過し、滅菌バイアル瓶に2mlずつ分注し、密栓
した。
【0056】本品は、投与に先立ち、先ず、スクラッチ
試験や皮内試験等による診断結果を参考に、100乃至
100,000倍容の50%(v/v)グリセリン水溶
液をバイアル瓶内に加え、次いで、内容物を均一に希釈
して使用する。有効成分として当該ポリペプチドとCM
−セルロースとの複合体を含有する本品は、花粉症を治
療・予防するための減感作注射剤として有用である。
【0057】
【実施例B−3 液剤】サルモネラ菌由来の精製リポ多
糖100mgを約4℃の50%飽和酢酸ナトリウム水溶
液25mlに溶解し、0.5N水酸化ナトリウムにより
溶液のpHを9.0に調整後、溶液のpHを8.5付近
に保ちながら、ブロモアセチルブロミド20μlを含む
無水ジオキサン1mlを滴々加えた。次いで、6N酢酸
により反応物のpHを約4.5に調整後、4℃の蒸留水
に対して48時間透析して活性化リポ多糖を含む水溶液
を得た。この水溶液に実施例A−1の方法により得た部
分精製ポリペプチドを40mg加えた後、溶液のpHを
約4.5に保ちながら、室温下で48時間静置して反応
させた。その後、反応物を実施例B−1と同様に精製
し、濃縮し、凍結乾燥して当該ポリペプチドとリポ多糖
との複合体固状物を得た。その後、この固状物を最終濃
度が100ng/mlになるように安定剤として1%
(w/v)精製ゼラチンを含む蒸留水に溶解し、常法に
より滅菌濾過して液剤とした。
【0058】有効成分として当該ポリペプチドとリポ多
糖との複合体を含む本品は、花粉症を治療・予防するた
めの点眼剤、点鼻剤、口腔内噴霧剤用の液剤として有用
である。
【0059】
【実施例B−4 舌下剤】平均分子量約200,000
ダルトンの精製エルシナンを蒸留水400mlに均一に
溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液により溶液のpH
を10.7に調整後、水溶液のpHを10.0付近に保
ちながら、臭化シアン3gを徐々に加え、1時間反応さ
せた。1N塩酸により反応物のpHを5.0に調整後、
このpHを保ちつつ、冷水に対して10時間透析するこ
とにより、活性化エルシナンを含む水溶液を得た。次い
で、この水溶液に実施例A−2の方法により得た精製ポ
リペプチドを20mg加え、常温下で24時間静置して
反応させた。反応終了後、反応物に3倍容のアセトンを
加え、生成した沈澱部を採取し、0.01M酢酸緩衝液
(pH5.0)に溶解し、遠心分離により不溶物を除去
した後、予め0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)で平
衡化させておいたCM−セファデックスカラムクロマト
グラフィーにかけ、非吸着画分から当該ポリペプチドと
エルシナンとの複合体を含む画分を採取した。その後、
常法により、この画分を滅菌濾過し、濃縮し、凍結乾燥
し、粉砕後、林原製無水結晶α−マルトース粉末『ファ
イントース』を均一に混合し、常法により、混合物を打
錠して製品1錠(200mg)当たりポリペプチドを1
00ng含む錠剤を得た。
【0060】摂取性、安定性に優れた本品は、花粉症を
治療・予防するための舌下剤として有用である。
【0061】
【実施例B−5 診断剤】実施例A−1の方法により得
た部分精製ポリペプチド10mgを生理食塩水20ml
に溶解し、常法により、滅菌濾過した後、滅菌したバイ
アル瓶に1mlずつ分注し、凍結乾燥し、密栓して診断
剤を得た。
【0062】本品は、注射用蒸留水1mlに溶解後、同
蒸留水でさらに10倍希釈してスクラッチ試験や皮内試
験等による花粉症の診断に使用する。
【0063】
【実施例B−6 診断剤】実施例A−2の方法により得
た精製ポリペプチド1mgを5%(w/v)塩化ナトリ
ウムを含む50%(v/v)グリセリン20mlに溶解
し、常法により、滅菌濾過した後、滅菌したバイアル瓶
に1mlずつ分注した。
【0064】本品は、50%(v/v)グリセリン水溶
液に20倍希釈してスクラッチ試験や皮内試験等による
花粉症の診断に使用する。
【0065】次に、2〜3の実験例に基づき、この発明
による減感作剤の効果等について説明する。
【0066】
【実験例3 動物実験】本実験例は、この発明による減
感作剤を実際に実験動物に投与することにより、この発
明のポリペプチドと特定糖質との複合体が花粉症の治療
・予防に効果があることを裏付けるためのものである。
【0067】
【実験例3−1 予防効果】10乃至12週齢の雌BA
LB/cマウス6匹からなる一群に、実施例B−1の方
法により得た減感作剤をポリペプチドの量に換算して1
μg/匹の割合で毎週1回、3週間に亙って腹腔内に注
射投与した。減感作剤の最終投与から1週間後に、花粉
症を惹起すべく、抗原として実施例A−2の方法により
得た精製ポリペプチド1μgと免疫助成剤としての水酸
化アルミニウム4mgを含む生理食塩水0.2mlを上
記と同様に注射投与した。そして、抗原投与の直前と抗
原投与から1週間後にマウスの血液を採取し、そこに含
まれる当該ポリペプチドに特異的なイムノグロブリンE
抗体、イムノグロブリンG抗体及びイムノグロブリンM
抗体の量を調べた。
【0068】別途、減感作剤に代えて、実施例A−2の
方法により得た精製ポリペプチドと平均分子量約20
0,000ダルトンの精製プルランとを重量比で1:1
5の割合で含む混合物を投与する系を設け、これを上記
と同様に処置して対照とした。なお、当該ポリペプチド
に特異的なイムノグロブリンE抗体の量は、アイ・モー
タ等『ライフ・サイエンシーズ』、第8巻、第16号、
パートII、第813〜820頁(1969年)に報告
されているPCA反応により、また、当該ポリペプチド
に特異的なイムノグロブリンG抗体とイムノグロブリン
M抗体の量は、エス・ヨシタケ等『ザ・ジャーナル・オ
ブ・バイオケミストリー』、第92巻、第5号、第1,
413〜1,424頁(1982年)に報告されている
酵素免疫吸着法(EIA)により測定し、それぞれ、マ
ウス6匹の平均抗体価で表示した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】表1に示す結果から明らかなように、対照
と比較すると、予め、当該ポリペプチドとプルランとの
複合体を含有するこの発明の減感作剤を投与した系にお
いては、減感作に有効なイムノグロブリンG抗体及びイ
ムノグロブリンM抗体が著量産生する一方、イムノグロ
ブリンE抗体の産生が実質皆無なまでに抑えられてい
た。イムノグロブリンE抗体は、アナフィラキシーショ
ックを始めとする望ましくない副作用の主因と言われて
おり、この発明の減感作剤をマウスに投与することによ
り、その産生が顕著に抑制されたことは、複合体を含有
するこの発明の減感作剤が、ヒトを含む哺乳動物におけ
る花粉症の予防に安全且つ効果的に使用し得ることを意
味している。
【0071】
【実験例3−2 非経口投与による治療効果】10乃至
12週齢の雌BALB/Cマウス6匹からなる一群に、
抗原として、実施例A−2の方法により得た精製ポリペ
プチド1μgと免疫助成剤としての水酸化アルミニウム
4mgを含む生理食塩水0.2mlを毎週1回、3週間
に亙って腹腔内に注射投与して花粉症を惹起した。抗原
の最終投与から1週間後に、実施例B−1の方法により
得た減感作剤をポリペプチド量に換算して100ng/
匹の用量で毎週1回、3週間に亙って上記と同様に注射
投与した。減感作剤の最終投与から1週間後に、再度、
抗原のみを上記と同様に投与してイムノグロブリンE抗
体の産生を再誘導する処置をした。そして、減感作剤の
投与直前、減感作剤の最終投与から1週間後及びイムノ
グロブリンE抗体の再誘導から1週間後にマウスから採
血し、そこに含まれる当該ポリペプチドに特異的なイム
ノグロブリンE抗体、イムノグロブリンG抗体及びイム
ノグロブリンM抗体の量を実験例3−1と同じ方法によ
り調べた。
【0072】別途、減感作剤に代えて、実施例A−2の
方法により得た精製ポリペプチドと平均分子量約20
0,000ダルトンの精製プルランとを重量比で1:1
5の割合で含む混合物を投与する系を設け、これを上記
と同様に処置して対照とした。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】表2に示す結果から明らかなように、対照
と比較すると、予め、当該ポリペプチドとプルランとの
複合体を含有するこの発明の減感作剤を投与した系で
は、減感作剤の投与後においても、イムノグロブリンE
抗体の再誘導後においても、著量のイムノグロブリンG
抗体とイムノグロブリンM抗体が認められた。イムノグ
ロブリンE抗体についてみると、減感作剤の投与後はも
とより、イムノグロブリンE抗体の再誘導後においてす
ら、産生が実質皆無なまでに抑えられていた。これらの
結果は、複合体を含有するこの発明の減感作剤を非経口
投与することにより、ヒトを含む哺乳動物における花粉
症を安全且つ効果的に治療し得ることを意味している。
【0075】
【実験例3−3 経口投与による治療効果】10乃至1
2週齢の雌BALB/cマウス6匹からなる一群に、抗
原として、実施例A−2の方法により得た精製ポリペプ
チド1μgと免疫助成剤としての水酸化アルミニウム4
mgを含む生理食塩水0.2mlを毎週1回、3週間に
亙って腹腔内に注射投与して花粉症を惹起した。抗原の
最終投与から1週間後に、実施例B−4の方法により得
た舌下剤を粉砕し、ポリペプチドの量に換算して100
ng/匹の用量で毎週1回、3週間に亙って経口投与し
た。舌下剤の最終投与から1週間後にマウスから採血
し、そこに含まれる当該ポリペプチドに特異的なイムノ
グロブリンA抗体、イムノグロブリンG抗体及びイムノ
グロブリンE抗体の量を調べた。
【0076】別途、舌下剤に代えて、実施例A−2の方
法により得た精製ポリペプチドとサルモネラ菌由来の精
製リポ多糖とを重量比で1:15の割合で含む固状混合
物を経口投与する系を設け、これを上記と同様に処置し
て対照とした。なお、当該ポリペプチドに特異的なイム
ノグロブリンA抗体とイムノグロブリンG抗体の量は、
アール・メオリーニ等『ジャーナル・オブ・イムノロジ
カル・メソッズ』、第6巻、第355〜362頁(19
75年)に報告されているEIA法により、また、当該
ポリペプチドの特異的なイムノグロブリンE抗体の量
は、実験例3−1と同様の方法により測定し、それぞ
れ、マウス6匹の平均抗体価で表示した。結果を表3に
示す。
【0077】
【表3】
【0078】表3に示す結果から明らかなように、対照
と比較すると、予め、当該ポリペプチドとリポ多糖との
複合体を含有するこの発明の減感作剤を投与した系にお
いては、イムノグロブリンA抗体及びイムノグロブリン
G抗体が著量産生する一方、イムノグロブリンE抗体の
産生は実質皆無なまでに抑えられていた。このことは、
複合体を含有するこの発明の減感作剤が、経口投与によ
っても、ヒトを含む哺乳動物における花粉症を安全且つ
効果的に治療し得ることを示している。
【0079】なお、データは示していないものの、斯界
における通常一般の方法により、実施例B−1乃至B−
4の方法により得た減感作剤をマウス、ラット及びモル
モットの皮内、皮下、筋肉内若しくは腹腔内に注射投与
するか、あるいは、点眼剤、点鼻剤若しくは口腔内噴霧
剤の形態にして経粘皮投与したところ、以上すべての減
感作剤が重篤な副作用を惹起することなく、花粉症の治
療・予防に有意な効果を発揮した。このことは、当該ポ
リペプチドとプルラン、エルシナンなどの、本質的にマ
ルトトリオースを反復単位とする糖質との複合体におい
て特に顕著となり、しかも、この場合、他の糖質との複
合体と比較して、所期の減感作を達成するに要する投与
量と投与期間が一段と低減乃至短縮できることが判明し
た。
【0080】
【実験例3−4 急性毒性試験】常法により、生後20
日目のマウスに実施例B−1乃至B−4の方法により得
た治療・予防用減感作剤を経口若しくは腹腔内投与し
た。その結果、これら減感作剤は、いずれの投与経路に
よっても1,000,000ng以上のLD50である
ことが判明した。このことは、当該ポリペプチドと特定
糖質との複合体を含有するこの発明の減感作剤が、ヒト
を含む哺乳動物に投与する医薬品に安全に配合使用し得
ることを示している。
【0081】
【発明の効果】叙上のように、この発明によるポリペプ
チドは、新規な花粉症原因物質である。この発明のポリ
ペプチドは、ヒトを含む哺乳動物において花粉症を惹起
する性質を有することから、花粉症を診断若しくは治療
・予防するための減感作剤はもとより、酵素免疫測定や
放射免疫測定による花粉症の診断、さらには、アレルギ
ー症一般の発症機序を解明する学術研究において広範な
用途を有する。とりわけ、この発明のポリペプチドと特
定糖質との複合体は、ヒトを含む哺乳動物に投与する
と、減感作に有効なイムノグロブリン抗体を著量産生す
る一方、アナフィラキシーショックを含む望ましくない
副作用の主因たるイムノグロブリンE抗体を実質的に産
生しない性質がある。この性質により、この発明による
減感作剤を使用して花粉症を治療・予防するときには、
治療・予防に要する抗原の投与量と投与期間を有意に低
減乃至短縮できることとなる。斯くも有用なる当該ポリ
ペプチドは、この発明の製造方法により、スギ花粉を原
料に、所望量を比較的容易に製造することができる。
【0082】この発明は、斯くも顕著な効果を奏するも
のであり、斯界に貢献すること誠に多大な意義のある発
明であるといえる。
【手続補正書】
【提出日】平成6年4月8日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正内容】
【書類名】 明細書
【発明の名称】 ポリペプチドとその製造方法並びに用
【特許請求の範囲】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、花粉症を惹起する新
規なポリペプチドと、そのポリペプチドを製造するため
の方法並びに花粉症を治療、予防、診断するための減感
作剤に関する。
【0002】
【従来の技術】ここ十数年来、我国おいては、春先にな
ると花粉症による鼻炎や結膜炎を訴える人の数が増加し
続けている。患者の数が多いことと、発症季がいろいろ
な行事が続く春先ということもあって、マスコミなどで
も頻繁に取り上げられ、今や、公衆衛生上無視できない
問題の一つになっている。
【0003】花粉症はアレルギー症の一種であり、その
主因はスギ花粉中の抗原性物質、すなわち、スギ花粉ア
レルゲンであると言われている。大気中に飛散したスギ
花粉がヒトの体内に侵入すると、スギ花粉アレルゲンに
対するイムノグロブリンE抗体が産生する。この状態
で、次にスギ花粉が侵入すると、その花粉中のスギ花粉
アレルゲンとこのイムノグロブリンE抗体が免疫反応を
起し、アレルギー症状を呈することとなる。
【0004】現在、スギ花粉中には、抗原性の相違する
少なくとも二種類のアレルゲンの存在することが知られ
ている。その一つは、ヤスエダ等が『ジャーナル・オブ
・アレルギー・アンド・クリニカル・イムノロジー』、
第71巻、第1号、第77〜86頁(1983年)に報
告しているアレルゲンであり、今日、これは「Cryj
I」と呼称されている。もう一つは、タニアイ等『エ
フ・イー・ビー・エス・レターズ』、第239巻、第2
号、第329〜332頁(1988年)やサカグチ等
『アレルギー』、第45号、第309〜312頁(19
90年)に報告されているアレルゲンであり、今日、こ
れは「Cry j II」と呼称されている。スギ花粉
中には、通常、Cry j IとCry j IIが約
50:1乃至5:1の割合で存在し、花粉症患者から採
取した血清のほとんどがCryj IにもCry j
IIにも反応すると言われている。澤谷等は、『アレル
ギー』、第42巻、第6号、第738〜747頁(19
93年)において、Cry j IIが、皮内試験やR
AST試験すると、Cry j Iと同程度の抗原性を
発揮すると報告している。
【0005】このように、スギ花粉アレルゲンがすでに
幾つか単離され、その性質・性状もある程度解明された
ことから、精製スギ花粉アレルゲンをヒトに投与して減
感作することにより、花粉症を治療・予防できる見通し
がついてきた。最近ではそのための減感作剤も幾つか考
案されており、例えば、特開平1−156926号公報
や特開平3−93730号公報には、N末端にAsp−
Asn−Pro−Ile−Asp−Ser−又はAla
−Ile−Asn−Ile−Phe−Asn−で表され
るアミノ酸配列を有するアレルゲンに多糖類の一種であ
るプルランを共有結合せしめ、得られる複合体を減感作
剤としてヒトに投与する提案が為されている。しかしな
がら、花粉症を惹起するアレルゲンはCry j Iや
Cryj IIだけではなく、正確な診断や効果的な減
感作療法をするうえでも、その余のアレルゲンを単離
し、性質・性状を解明するのが斯界の急務となってい
る。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】斯かる状況に鑑み、こ
の発明の目的は、花粉症を惹起する新規なポリペプチド
を提供することにある。
【0007】この発明の別の目的は、そのポリペプチド
を製造するための方法を提供することにある。
【0008】この発明のさらに別の目的は、そのポリペ
プチドの減感作剤としての用途を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】この発明は、前記第一の
課題を、理化学的性質が (1) 分子量 40,000±5,000ダルトン(SDS−ポリアク
リルアミドゲル電気泳動) (2) 等電点 9.5±0.5(等電点電気泳動) (3) N末端アミノ酸配列 N末端にX−Arg−His−Asp−Ala−Ile
−で表されるアミノ酸配列を有する。ただし、X−は、
Ser−又はArg−Lys−Val−Glu−His
−Ser−から選ばれるアミノ酸乃至オリゴペプチドを
表すものとする。 (4) 紫外線吸収スペクトル 280nm付近に吸収極大を有する。 (5) 溶剤への溶解性 水、生理食塩水及び燐酸緩衝液に可溶である。 (6) 生物作用 花粉症を惹起する。花粉症患者の血液から採取したイム
ノグロブリンE抗体に結合する。 (7) 安定性 水溶液(pH7.2)中、100℃で10分間加熱する
と失活する。水溶液(pH7.2)中、4℃で1カ月間
放置しても、実質的に失活しない。 であるポリペプチド(以下、単に「ポリペプチド」と言
う。)により解決するものである。
【0010】この発明は、前記第二の課題を、スギ花粉
を水性溶媒中で抽出し、その抽出物からポリペプチドを
採取してなる方法により解決するものである。
【0011】この発明は、前記第三の課題を、有効成分
としてポリペプチドを含有する減感作剤により解決する
ものである。
【0012】
【作用】この発明のポリペプチドは、後述のごとき、従
来公知のスギ花粉アレルゲンには見られない、独特の理
化学的性質を有する新規物質である。
【0013】この発明の製造方法は、スギ花粉からポリ
ペプチドを所望量製造することを可能ならしめる。
【0014】この発明の減感作剤は、ヒトを含む哺乳動
物に投与すると、減感作効果を発揮する。
【0015】この発明は、花粉症を惹起する新規なポリ
ペプチドに関するものである。本発明者がスギ花粉中の
アレルゲンについて研究していたところ、従来未知の全
く新規なアレルゲンが含まれていることを見出した。カ
ラムクロマトグラフィーを中心とする種々の精製方法を
組合せてこのアレルゲンを単離し、その性質・性状を調
べたところ、その本質はポリペプチドであり、従来公知
のスギ花粉アレルゲンとは相違する性質・性状を有して
いることが判明した。
【0016】つぎに、この発明によるポリペプチドの独
特の性質・性状につき、実験例に基づいて説明する。
【0017】
【実験例1 ポリペプチドの精製】秋田県産のウラスギ
の雄花から採取した花粉1重量部を約16重量部の0.
125M炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.2)に浮
遊させ、撹拌しながら4℃で1時間抽出後、遠心分離に
より上清を採取した。残渣を同様に再処理し、得られた
上清と初回の抽出で得られた上清とをプールし、これに
セタブロンを0.1%(w/v)になるように加え、遠
心分離後、上清に硫酸アンモニウムを80%飽和になる
よう加えて蛋白質成分を塩析した。沈澱部分を50mM
トリス−塩酸緩衝液(pH7.8)に対して10時間透
析し、濾過後、予め50mMトリス−塩酸緩衝液(pH
7.8)で平衡化させておいたDEAE−セファデック
スカラムに負荷し、カラムに50mMトリス−塩酸緩衝
液(pH7.8)を通液して得られる非吸着画分を採取
した。この非吸着画分に酢酸を加えてpH5.0に調整
した後、予め10mM酢酸緩衝液(pH5.0)で平衡
化させておいたCM−セファデックスカラムに負荷し、
10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を通液してカラムを
洗浄した後、0.1M燐酸緩衝液(pH7.0)と0.
3M塩化ナトリウムからなる溶離液をカラムに通液して
蛋白質成分を溶出させた。採取した蛋白質成分を含む画
分を、今度は、予め10mM燐酸緩衝液(pH5.0)
で平衡化させておいたMono−Sカラムに負荷し、0
Mから0.5Mに上昇する塩化ナトリウムの濃度勾配下
でカラムに10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)
を通液したところ、塩化ナトリウム濃度が0.4Mのと
きに当該ポリペプチドが溶出した。最後に、常法によ
り、精製ポリペプチドを含む溶出画分を濃縮し、凍結乾
燥して以下の実験に供した。なお、収量は、原料のスギ
花粉固形分当たりに換算して約0.006%であった。
【0018】
【実験例2 ポリペプチドの理化学的性質】本実験例で
は、実験例1で得た精製ポリペプチドにつき、その理化
学的性質を調べた。
【0019】
【実験例2−1 分子量】ユー・ケー・レムリが『ネー
チャー』、第227巻、第680〜685頁(1970
年)に報告している方法に準じて精製ポリペプチドをS
DS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動したところ、分
子量40,000±5,000ダルトンに相当する位置
に主要なバンドが観察された。なお、このときの分子量
マーカは、ウシ血清アルブミン(67,000ダルト
ン)、オボアルブミン(45,000ダルトン)、カル
ボニックアンヒドロラーゼ(30,000ダルトン)、
キモトリプシノーゲンA(25,000ダルトン)及び
チトクロームC(12,000ダルトン)であった。
【0020】分子量40,000±5,000ダルトン
の画分をゲルからニトロセルロース膜に写し取り、マウ
ス由来の抗スギ花粉アレルゲン抗体及びセイヨウワサビ
由来のパーオキシダーゼで標識したヤギ由来の抗マウス
イムノグロブリン抗体を作用させたところ、顕著な免疫
染色が観察された。これは、当該ポリペプチドがスギ花
粉アレルゲンの一種であることを示唆している。
【0021】
【実験例2−2 等電点】等電点電気泳動法により測定
したところ、精製ポリペプチドの等電点は9.5±0.
5であった。
【0022】
【実験例2−3 N末端アミノ酸配列】常法により、精
製ポリペプチドのN末端アミノ酸配列をアプライド・バ
イオシステム社製アミノ酸シーケンサー『473A型』
により分析したところ、(1) Ser−Arg−Hi
s−Asp−Ala−Ile−又は(2) Arg−L
ys−Val−Glu−His−Ser−Arg−Hi
s−Asp−Ala−Ile−で表される2種類の配列
が認められた。
【0023】
【実験例2−4 C末端アミノ酸配列】精製ポリペプチ
ド400μgを反応管にとり、6Mグアニジン塩酸塩と
10mM EDTAを含む0.5Mトリス−塩酸緩衝液
(pH8.5)300μlに溶解し、反応管内に窒素ガ
スを注入し、適量の4−ビニルピリジンとトリ−n−ブ
チルフォスフィンを加えた後、暗所に一晩静置してポリ
ペプチドをピリジルエチル化した。反応物を蒸留水に対
して透析し、透析内液を採取して凍結乾燥後、0.05
M N−エチルモリホリン−酢酸緩衝液(pH8.7)
300μlに溶解し、リシルエンドペプチダーゼを5μ
g加え、37℃で16時間インキュベートした。約10
0℃に5分間加熱して酵素反応を停止させた後、反応液
を、予め0.02M塩化カルシウムを含む0.05M酢
酸緩衝液(pH5.0)で平衡化させておいたアンヒド
ロトリプシンアガロースカラムクロマトグラフィーにか
け、非吸着画分を採取した。
【0024】その後、非吸着画分からペプチド成分を含
む画分を採取し、濃縮後、予め0.1%(v/v)トリ
フルオロ酢酸水溶液で平衡化させておいたバイダック社
製逆相高速液体クロマトグラフィー用カラム『218T
P54』に負荷し、次いで、214nm波長下で溶出画
分をモニターしながら、0.1%(v/v)トリフルオ
ロ酢酸を含み、アセトニトリル濃度が1%(v/v)/
分の割合で上昇する水性アセトニトリルを0.5ml/
分の流速で通液した。溶出液からペプチド成分を含む画
分を採取し、濃縮後、アプライド・バイオシステム社製
アミノ酸シーケンサ『473A型』によりアミノ酸配列
を分析したところ、当該ポリペプチドはC末端に−As
n−Leu−Ser−Pro−Serで表されるアミノ
酸配列を有していることが判明した。
【0025】
【実験例2−5 紫外線吸収スペクトル】分光光度計を
用いて水溶液中における紫外線吸収スペクトルを測定し
たところ、精製ポリペプチドは波長280nm付近に吸
収極大を示した。
【0026】
【実験例2−6 溶剤への溶解性】常法により試験した
ところ、精製ポリペプチドは、水、生理食塩水及び燐酸
緩衝液に可溶であった。
【0027】
【実験例2−7 生物作用】この発明のポリペプチド
は、下記に示す方法により試験すると、花粉症患者の血
液から採取したイムノグロブリンE抗体に結合する性質
と、当該ポリペプチドに特異的に反応するT細胞の増殖
を誘導する性質を示す。
【0028】
【実験例2−7(a) イムノグロブリンE抗体への結
合試験】96ウェルマイクロプレートに精製ポリペプチ
ドを1μg/ウェルずつ吸着させ、さらに、花粉症患者
若しくは健常人から採取した血清を100μl/ウェル
ずつ加えた後、37℃で2時間インキュベートした。つ
ぎに、マイクロプレートを0.1%(v/v)ウシ血清
アルブミンを含む0.1M燐酸緩衝液(pH7.2)で
洗浄して未結合血清を除去した後、セイヨウワサビ由来
のパーオキシダーゼで標識したヤギ由来の抗ヒトイムノ
グロブリンE抗体を100μl/ウェルずつ加え、37
℃でさらに2時間インキュベートした。マイクロプレー
トを新鮮な上記と同じ燐酸緩衝液で洗浄して未結合の抗
体を除去し、各ウェルに0.5mg/mlオルトフェニ
レンジアミンと0.03%(v/v)過酸化水素水を含
む0.1Mクエン酸緩衝液(pH5.0)100μlを
加えて発色させた後、492nmにおける吸光度を測定
した。
【0029】その結果、健常人の血清を使用する系にお
ける吸光度が約0.1であったのに対して、花粉症患者
の血清を使用する系では、吸光度が約2.0にも達して
おり、これは、当該ポリペプチドが花粉症患者の血液に
含まれるイムノグロブリンE抗体に顕著に結合すること
を示している。そして、このことは、当該ポリペプチド
が花粉症の原因物質の一つであること、すなわち、花粉
症を惹起する性質があることを裏付けるものである。
【0030】
【実験例2−7(b) T細胞増殖誘導試験】フィコー
ル・ハイパック比重遠心法により、花粉症患者のヘパリ
ン加末梢血から単核細胞を分離した。単核細胞を10%
(v/v)AB血清を補足したRPMI1640培地
(pH7.0)に濃度1×106個/mlになるように
浮遊させ、実験例1で得た精製ポリペプチドを20μg
/ml加えた後、5%CO2培養器中、37℃で5日間
培養した。その後、培養培地に組換え型ヒトインターロ
イキン−2を50単位/ml加え、上記と同様にしてさ
らに9日間培養した。このように前処理した単核細胞を
下記のT細胞増殖試験に供した。
【0031】96ウェルマイクロプレートに、10%
(v/v)AB血清を補足したRPMI1640培地
(pH7.0)に浮遊させた培養単核細胞を4×104
個/ウェルと、前記と同一の花粉症患者から採取し、マ
イトマイシン50μg/mlの存在下、37℃で30分
間処理しておいた末梢単核細胞1×106個/ウェル
と、精製ポリぺプチドを50μg/ml加え、新鮮な上
記と同じ培養培地で200μl/ウェルとした。ウェル
中の細胞を5%CO2培養器中、37℃で2日間培養
し、3H−チミジンを0.5μCi/ウェル加え、同じ
条件でさらに1日培養した後、シンチレーションカウン
タで細胞内における3H−チミジンの取込み量を測定し
た。同時に、ポリペプチド無含有の培養培地を使用する
系を設け、これを上記と同様に処理して対照とした。
【0032】その結果、対照系において約300cpm
の取込みが観察されたところ、精製ポリペプチドを添加
した系では、ポリペプチド50μg/ml当たり約6,
500cpmと顕著な取込みが認められ、精製ポリペプ
チドが花粉症患者の血液に含まれるT細胞の増殖を顕著
に促したことが判明した。このことは、当該ポリペプチ
ドに抗原性があることを示している。
【0033】
【実験例2−8 安定性】精製ポリペプチドを水溶液
(pH7.2)中、100℃で10分間インキュベート
したところ、残存活性は認められなかった。一方、精製
ポリペプチドを水溶液(pH7.2)中、4℃で1カ月
保存したところ、実質的な活性低下は認められなかっ
た。
【0034】以上のような理化学的性質を有するポリペ
プチドは未だ知られておらず、新規物質であると判断さ
れる。
【0035】つぎに、この発明によるポリペプチドの製
造方法について説明するに、この発明のポリペプチド
は、スギ科スギ属(クリプトメリア・ジャポニカ)に属
するオモテスギやウラスギなどのスギ木から採取した花
粉を水性溶媒中で抽出し、その抽出物を精製することに
より製造することができる。スギ花粉から当該ポリペプ
チドを抽出するには、通常、スギの雄花から採取した花
粉を水若しくは水にメチルアルコール、エチルアルコー
ル、アセトンなどの親水性有機溶媒や適宜の安定剤等を
適量混合した水性溶媒に浮遊させ、必要に応じて、撹拌
しながら、10℃未満の温度、望ましくは、約0乃至5
℃で30分間以上、望ましくは、約1乃至2時間浸漬さ
せる。スギ花粉の状態にも依るが、通常、斯かる操作を
1乃至5回行なうことにより、スギ花粉から大半のポリ
ペプチドを抽出することができる。
【0036】抽出物中のポリペプチドを精製するには、
斯界における通常一般の方法を採用し得る。すなわち、
前記のようにして得た抽出液に、例えば、塩析、透析、
濾過、濃縮、遠心分離、ゲル濾過クロマトグラフィーな
どの方法を適用すれば、部分精製ポリペプチドが得られ
る。この部分精製ポリペプチドは、通常、当該ポリペプ
チド以外に、Cry j Iなどのスギ花粉アレルゲン
を含んでいる。より高純度のポリペプチドを必要とする
場合には、この部分精製ポリペプチドに、例えば、ゲル
濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィ
ー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル電気泳
動、等電点電気泳動などの方法の1種若しくは2種以上
を適用することにより、Cry j Iを始めとする当
該ポリペプチド以外の成分を除去すればよい。
【0037】斯くして得られる部分精製乃至精製ポリペ
プチドは、花粉症を診断若しくは治療・予防するための
減感作剤に有利に配合使用できる。また、精製ポリペプ
チドは、当該ポリペプチドに特異的なイムノグロブリン
E抗体を定性・定量分析するための酵素免疫測定や放射
免疫測定の検出用抗原として有用であり、花粉症の診断
や、アレルギー症一般の発症機序を解明するための学術
研究においても広範な用途を有する。
【0038】つぎに、この発明によるポリペプチドの製
造方法につき、2〜3の実施例を挙げて具体的に説明す
る。
【0039】
【実施例A−1 部分精製ポリペプチドの調製】秋田県
産のウラスギの雄花から採取した花粉1重量部を約16
重量部の0.125M炭酸水素ナトリウム水溶液(pH
8.2)に浮遊させ、撹拌しながら4℃で1時間抽出し
た後、遠心分離により上清を採取した。残渣を同様に再
処理し、得られた上清と初回の抽出で得られた上清をプ
ールし、これにセタブロンを0.1%(w/v)加え、
遠心分離後、硫酸アンモニウムを80%飽和になるよう
に加えて蛋白質成分を塩析した。沈澱部分を50mMト
リス−塩酸緩衝液(pH7.8)に対して10時間透析
し、濾過した後、予め50mMトリス−塩酸緩衝液(p
H7.8)で平衡化させておいたDEAE−セファデッ
クスカラムに負荷し、ついで、カラムに50mMトリス
−塩酸緩衝液(pH7.8)を通液し、非吸着画分を採
取した。この画分に酢酸を加えてpH5.0に調整した
後、予め10mM酢酸緩衝液(pH5.0)で平衡化さ
せておいたCM−セファデックスカラムに負荷し、10
mM酢酸緩衝液(pH5.0)を通液してカラムを洗浄
した後、0.1M燐酸緩衝液(pH7.0)と0.3M
塩化ナトリウムからなる溶離液をカラムに通液して蛋白
質成分を溶出させた。その後、常法により、この溶出画
分を濃縮し、凍結乾燥して、当該ポリペプチド以外にC
ry j Iを含む部分精製ポリペプチドを得た。収量
は、原料のスギ花粉固形分に換算して約0.1%であっ
た。
【0040】本例の部分精製ポリペプチドは、花粉症を
診断若しくは治療・予防するための減感作剤に有利に配
合使用できる。
【0041】
【実施例A−2 精製ポリペプチド】実施例A−1の方
法により得た部分精製ポリペプチドを少量の蒸留水に溶
解し、溶液を予め10mM燐酸緩衝液(pH5.0)で
平衡化させておいたMono−Sカラムに負荷した後、
0Mから0.5Mに上昇する濃度勾配下でカラムに10
mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)を通液したとこ
ろ、塩化ナトリウム濃度が0.4Mのときに当該ポリペ
プチドが溶出した。その後、常法により、溶出液を濃縮
し、凍結乾燥して、本質的に当該ポリペプチドのみから
なる精製ポリペプチドを得た。収量は、原料のスギ花粉
固形分当たりに換算して約0.006%であった。
【0042】本例の精製ポリペプチドは、花粉症を治
療、予防、診断するための減感作剤や、酵素免疫測定や
放射免疫測定用の抗原として有用である。
【0043】次に、この発明によるポリペプチドの用途
につき、実施例、実験例を示して具体的に説明する。
【0044】この発明のポリペプチドは、花粉症の原因
物質の一つであることから、花粉症を治療、予防、診断
するための減感作剤として広範な用途を有する。この発
明の減感作剤は、有効成分として、当該ポリペプチド
か、あるいは、後述の、当該ポリペプチドと特定糖質と
の複合体を含有せしめてなるものである。花粉症の診断
を目的とする減感作剤には、通常、前述のような方法に
より得た部分精製乃至精製ポリペプチドをそのまま配合
し、一方、花粉症の治療・予防を目的とする場合には、
配合に先立って、当該ポリペプチドに特定の糖質を共有
結合させて複合体とする。
【0045】この発明でいう糖質とは、当該ポリペプチ
ドに共有結合させることができ、且つ、複合体とするこ
とにより、当該ポリペプチドの減感作効果及び/又は副
作用を増強若しくは低減するものをいう。斯かる糖質と
しては、例えば、澱粉、アミロース、デキストラン、ポ
リスクロース、プルラン、エルシナン、カードラン、ア
ラビアガム、トラガカントガム、グアガム、キサンタン
ガム、カラゲナン、セルロース、グルコマンナン、キト
サン、リポ多糖などの単純若しくは複合多糖並びにそれ
ら糖質の誘導体及び部分加水分解物が挙げられ、その平
均分子量は、通常、約500乃至10,000,000
ダルトン、望ましくは、約10,000乃至1,00
0,000ダルトンの範囲にある。上記糖質のうちで
も、本質的にマルトトリオースを反復単位とするプルラ
ン、エルシナン又はそれらの部分加水分解物との複合体
は、ヒトを含む哺乳動物に投与すると、減感作に有効な
イムノグロブリンG抗体やイムノグロブリンM抗体を著
量産生する一方、アナフィラキシーショックを含む望ま
しくない副作用の主因たるイムノグロブリンE抗体を産
生し難い性質が顕著である。このことは、反復投与を必
須とする減感作療法を安全且つ効果的に実施するうえで
極めて好都合である。
【0046】また、例えば、大腸菌、サルモネラ菌、セ
ラチア菌などの微生物に由来するリポ多糖やその部分加
水分解物には、当該ポリペプチドとの複合体とすること
により、当該ポリペプチドの哺乳動物の粘膜に対する親
和性を高め、摂取効率を有意に改善する性質がある。こ
のことから、これら糖質との複合体は、経皮若しくは経
粘皮投与を前提とする減感作剤において特に有用であ
る。
【0047】斯かる複合体は、通常、当該ポリペプチド
を活性化糖質と反応させるか、あるいは、1分子中に2
以上の活性官能基を有する試薬により、当該ポリペプチ
ドと糖質とを架橋すればよい。個々の反応方法として
は、例えば、ジアゾ法、ペプチド法、アルキル化法、架
橋法、アミド結合法、過沃素酸酸化法、ジスルフィド結
合法などが挙げられるが、これら反応方法自体は斯界に
おいて公知であり、例えば、特開平3−93730号公
報などには、その代表的な方法が詳述されている。反応
開始時におけるポリペプチドと糖質との割合は、重量比
で、通常、約1:0.001乃至1:1,000、望ま
しくは、約1:0.01乃至1:100の範囲が選ばれ
る。反応方法にも依るが、この範囲を下回るとペプチド
同志の結合が顕著となり、反対に、この範囲を上回ると
糖質同志の反応が顕著となる。いずれにしても、反応と
反応後の精製の効率低下をもたらすものであり、上記の
範囲をもって最良とした。反応時の温度、pH及び反応
時間は、ポリペプチドが失活したり、分解し難く、しか
も、望ましくない副反応が最少限になるように設定する
のがよく、通常、温度を約0乃至100℃、pHを約
0.1乃至12とし、約0.1乃至50時間で完結させ
るのが望ましい。
【0048】反応により生成した複合体は、例えば、透
析、塩析、濾過、濃縮、遠心分離、ゲル濾過クロマトグ
ラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニテ
ィークロマトグラフィー、ゲル電気泳動、等電点電気泳
動などの斯界における通常一般の方法により精製でき、
必要に応じて、これら方法を適宜組合せればよい。そし
て、最終使用形態に応じて、精製した複合体を濃縮・凍
結乾燥することにより、液状若しくは固状にすればよ
い。
【0049】この発明の減感作剤は、上記のようにして
得られたポリペプチド及び/又は複合体単独の形態はも
とより、それ以外の生理的に許容される、例えば、担
体、賦形剤、希釈剤、免疫助成剤、安定剤、さらには、
必要に応じて、ステロイドホルモンやクロモグリク酸ナ
トリウムなどの抗炎症剤や抗ヒスタミン剤を含む1種又
は2種以上の他の薬剤との組成物としての形態を包含す
る。さらに、この発明の減感作剤は、投薬単位形態の薬
剤をも包含し、その投薬単位形態の薬剤とは、この発明
のポリペプチド若しくは複合体を、例えば、1日当たり
の用量又はその整数倍(4倍まで)若しくはその約数
(1/40まで)に相当する量を含有し、投与に適する
物理的に分離した一体の剤型にある薬剤を意味する。こ
のような投薬形態の薬剤としては、散剤、細粒剤、顆粒
剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ
剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、坐剤、点眼剤、
点鼻剤、噴霧剤、注射剤などが挙げられる。
【0050】この発明による減感作剤の使用方法につい
て説明するに、この発明の減感作剤は、スギ花粉アレル
ゲンを含む通常一般の減感作剤と同様に使用することが
できる。すなわち、この発明の減感作剤により花粉症の
診断をするには、スクラッチ試験あるいは皮内試験とし
て知られる通常の試験方法を採用し、まず、被験者の皮
膚面に出血しない程度の傷をつけ、この発明による診断
用減感作剤を適量滴下するか、あるいは、この発明によ
る診断用減感作剤の適量を皮内に注射投与する。そし
て、15乃至30分経過後に膨疹の有無と大きさを調
べ、膨疹の大きさが一定値以上の場合、陽性と判定す
る。
【0051】この発明の減感作剤による治療において
は、通常、上述の診断結果に基づいて適切な用量・用法
を決定する。診断結果が陽性の被験者については、当該
ポリペプチドと特定糖質との複合体を含有するこの発明
の減感作剤を経口若しくは非経口的に投与する。症状、
用法などに依っても変わるが、具体的には、患者の症状
や投与後の経過を観察しながら、通常、成人1回当たり
約0.0001乃至100,000ng、望ましくは、
約0.001乃至10,000ngを目安とし、毎週1
回乃至毎月1回の頻度で、約1カ月乃至1年間、通常、
用量を増やしながら、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内若し
くは経粘皮的に反復投与する。花粉症の予防もほぼ同じ
用量、用法でよく、対象者の健康状態や投与後の経過を
観察しながら、通常、成人1回当たり約0.0001乃
至100,000ng、望ましくは、約0.001乃至
10,000ngを目安とし、毎週1回乃至毎月1回の
頻度で、約1乃至6カ月間、通常、用量を増やしなが
ら、皮内、皮下、筋肉内若しくは経粘皮的に反復投与す
る。この発明による減感作剤を秋口から翌年の春先にか
けて定期的に反復投与するときには、翌年の発症季にお
けるアレルギー症状を僅少若しくは皆無とすることがで
きる。
【0052】次に、この発明による減感作剤につき、2
〜3の実施例を挙げて具体的に説明する。
【0053】
【実施例B−1 乾燥注射剤】平均分子量約200,0
00ダルトンの精製プルラン2gを蒸留水100mlに
溶解し、塩化シアヌルの1.7%(w/v)アセトン溶
液を2ml加えた。次いで、5%(w/v)炭酸ナトリ
ウム水溶液により溶液のpHを7付近に保ちつつ、氷浴
中、4℃以下で2時間静置して反応させた。このように
して得られた活性化プルランを含む溶液に実施例A−2
の方法により得た精製ポリペプチドを40mg加え、撹
拌下、pH7.0、37℃で5時間反応させた。その
後、反応物にグリシンを1%(w/v)加え、撹拌しな
がら37℃で1時間インキュベートして未反応活性基を
ブロックした後、0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)
に対して5時間透析し、次いで、予め0.01M酢酸緩
衝液(pH5.0)で平衡化させておいたCM−セファ
デックスカラムクロマトグラフィーにかけ、非吸着画分
から当該ポリペプチドとプルランとの複合体を採取し
た。その後、常法により、複合体を安定剤として1%
(w/v)ヒト血清アルブミンを含む生理食塩水に最終
ポリペプチド濃度が約100ng/mlになるように溶
解し、滅菌濾過した後、滅菌バイアル瓶に2mlずつ分
注し、凍結乾燥し、密栓した。
【0054】本品は、投与に先立ち、先ず、バイアル瓶
内に注射用蒸留水等を1ml加え、次いで、内容物を均
一に溶解して使用する。安定性に優れ、有効成分として
当該ポリペプチドとプルランとの複合体を含有する本品
は、花粉症を治療・予防するための乾燥注射剤として有
用である。
【0055】
【実施例B−2 注射剤】平均分子量約20,000ダ
ルトンのCM−セルロース1gを蒸留水200mlに溶
解し、溶液に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプ
ロピル)カルボジイミド−メチオジドを2g加えた後、
1N塩酸により溶液のpHを4付近に保ちながら、撹拌
下、常温で2時間反応させた。反応物を蒸留水に対して
24時間透析後、透析内液を採取し、実施例A−2の方
法により調製した精製ポリペプチドを30mg加え、常
温下、pH4.5で15時間静置して反応させた。その
後、反応物中の複合体を実施例B−1と同様に精製し、
濃縮後、50%(v/v)グリセリン水溶液に溶解し、
滅菌濾過し、滅菌バイアル瓶に2mlずつ分注し、密栓
した。
【0056】本品は、投与に先立ち、先ず、スクラッチ
試験や皮内試験等による診断結果を参考に、100乃至
100,000倍容の50%(v/v)グリセリン水溶
液をバイアル瓶内に加え、次いで、内容物を均一に希釈
して使用する。有効成分として当該ポリペプチドとCM
−セルロースとの複合体を含有する本品は、花粉症を治
療・予防するための減感作注射剤として有用である。
【0057】
【実施例B−3 液剤】サルモネラ菌由来の精製リポ多
糖100mgを約4℃の50%飽和酢酸ナトリウム水溶
液25mlに溶解し、0.5N水酸化ナトリウムにより
溶液のpHを9.0に調整後、溶液のpHを8.5付近
に保ちながら、ブロモアセチルブロミド20μlを含む
無水ジオキサン1mlを滴々加えた。次いで、6N酢酸
により反応物のpHを約4.5に調整後、4℃の蒸留水
に対して48時間透析して活性化リポ多糖を含む水溶液
を得た。この水溶液に実施例A−1の方法により得た部
分精製ポリペプチドを40mg加えた後、溶液のpHを
約4.5に保ちながら、室温下で48時間静置して反応
させた。その後、反応物を実施例B−1と同様に精製
し、濃縮し、凍結乾燥して当該ポリペプチドとリポ多糖
との複合体固状物を得た。その後、この固状物を最終濃
度が100ng/mlになるように安定剤として1%
(w/v)精製ゼラチンを含む蒸留水に溶解し、常法に
より滅菌濾過して液剤とした。
【0058】有効成分として当該ポリペプチドとリポ多
糖との複合体を含む本品は、花粉症を治療・予防するた
めの点眼剤、点鼻剤、口腔内噴霧剤用の液剤として有用
である。
【0059】
【実施例B−4 舌下剤】平均分子量約200,000
ダルトンの精製エルシナンを蒸留水400mlに均一に
溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液により溶液のpH
を10.7に調整後、水溶液のpHを10.0付近に保
ちながら、臭化シアン3gを徐々に加え、1時間反応さ
せた。1N塩酸により反応物のpHを5.0に調整後、
このpHを保ちつつ、冷水に対して10時間透析するこ
とにより、活性化エルシナンを含む水溶液を得た。次い
で、この水溶液に実施例A−2の方法により得た精製ポ
リペプチドを20mg加え、常温下で24時間静置して
反応させた。反応終了後、反応物に3倍容のアセトンを
加え、生成した沈澱部を採取し、0.01M酢酸緩衝液
(pH5.0)に溶解し、遠心分離により不溶物を除去
した後、予め0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)で平
衡化させておいたCM−セファデックスカラムクロマト
グラフィーにかけ、非吸着画分から当該ポリペプチドと
エルシナンとの複合体を含む画分を採取した。その後、
常法により、この画分を滅菌濾過し、濃縮し、凍結乾燥
し、粉砕後、林原製無水結晶α−マルトース粉末『ファ
イントース』を均一に混合し、常法により、混合物を打
錠して製品1錠(200mg)当たりポリペプチドを1
00ng含む錠剤を得た。
【0060】摂取性、安定性に優れた本品は、花粉症を
治療・予防するための舌下剤として有用である。
【0061】
【実施例B−5 診断剤】実施例A−1の方法により得
た部分精製ポリペプチド10mgを生理食塩水20ml
に溶解し、常法により、滅菌濾過した後、滅菌したバイ
アル瓶に1mlずつ分注し、凍結乾燥し、密栓して診断
剤を得た。
【0062】本品は、注射用蒸留水1mlに溶解後、同
蒸留水でさらに10倍希釈してスクラッチ試験や皮内試
験等による花粉症の診断に使用する。
【0063】
【実施例B−6 診断剤】実施例A−2の方法により得
た精製ポリペプチド1mgを5%(w/v)塩化ナトリ
ウムを含む50%(v/v)グリセリン20mlに溶解
し、常法により、滅菌濾過した後、滅菌したバイアル瓶
に1mlずつ分注した。
【0064】本品は、50%(v/v)グリセリン水溶
液に20倍希釈してスクラッチ試験や皮内試験等による
花粉症の診断に使用する。
【0065】次に、2〜3の実験例に基づき、この発明
による減感作剤の効果等について説明する。
【0066】
【実験例3 動物実験】本実験例は、この発明による減
感作剤を実際に実験動物に投与することにより、この発
明のポリペプチドと特定糖質との複合体が花粉症の治療
・予防に効果があることを裏付けるためのものである。
【0067】
【実験例3−1 予防効果】10乃至12週齢の雌BA
LB/cマウス6匹からなる一群に、実施例B−1の方
法により得た減感作剤をポリペプチドの量に換算して1
μg/匹の割合で毎週1回、3週間に亙って腹腔内に注
射投与した。減感作剤の最終投与から1週間後に、花粉
症を惹起すべく、抗原として実施例A−2の方法により
得た精製ポリペプチド1μgと免疫助成剤としての水酸
化アルミニウム4mgを含む生理食塩水0.2mlを上
記と同様に注射投与した。そして、抗原投与の直前と抗
原投与から1週間後にマウスの血液を採取し、そこに含
まれる当該ポリペプチドに特異的なイムノグロブリンE
抗体、イムノグロブリンG抗体及びイムノグロブリンM
抗体の量を調べた。
【0068】別途、減感作剤に代えて、実施例A−2の
方法により得た精製ポリペプチドと平均分子量約20
0,000ダルトンの精製プルランとを重量比で1:1
5の割合で含む混合物を投与する系を設け、これを上記
と同様に処置して対照とした。なお、当該ポリペプチド
に特異的なイムノグロブリンE抗体の量は、アイ・モー
タ等『ライフ・サイエンシーズ』、第8巻、第16号、
パートII、第813〜820頁(1969年)に報告
されているPCA反応により、また、当該ポリペプチド
に特異的なイムノグロブリンG抗体とイムノグロブリン
M抗体の量は、エス・ヨシタケ等『ザ・ジャーナル・オ
ブ・バイオケミストリー』、第92巻、第5号、第1,
413〜1,424頁(1982年)に報告されている
酵素免疫吸着法(EIA)により測定し、それぞれ、マ
ウス6匹の平均抗体価で表示した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】表1に示す結果から明らかなように、対照
と比較すると、予め、当該ポリペプチドとプルランとの
複合体を含有するこの発明の減感作剤を投与した系にお
いては、減感作に有効なイムノグロブリンG抗体及びイ
ムノグロブリンM抗体が著量産生する一方、イムノグロ
ブリンE抗体の産生が実質皆無なまでに抑えられてい
た。イムノグロブリンE抗体は、アナフィラキシーショ
ックを始めとする望ましくない副作用の主因と言われて
おり、この発明の減感作剤をマウスに投与することによ
り、その産生が顕著に抑制されたことは、複合体を含有
するこの発明の減感作剤が、ヒトを含む哺乳動物におけ
る花粉症の予防に安全且つ効果的に使用し得ることを意
味している。
【0071】
【実験例3−2 非経口投与による治療効果】10乃至
12週齢の雌BALB/Cマウス6匹からなる一群に、
抗原として、実施例A−2の方法により得た精製ポリペ
プチド1μgと免疫助成剤としての水酸化アルミニウム
4mgを含む生理食塩水0.2mlを毎週1回、3週間
に亙って腹腔内に注射投与して花粉症を惹起した。抗原
の最終投与から1週間後に、実施例B−1の方法により
得た減感作剤をポリペプチド量に換算して100ng/
匹の用量で毎週1回、3週間に亙って上記と同様に注射
投与した。減感作剤の最終投与から1週間後に、再度、
抗原のみを上記と同様に投与してイムノグロブリンE抗
体の産生を再誘導する処置をした。そして、減感作剤の
投与直前、減感作剤の最終投与から1週間後及びイムノ
グロブリンE抗体の再誘導から1週間後にマウスから採
血し、そこに含まれる当該ポリペプチドに特異的なイム
ノグロブリンE抗体、イムノグロブリンG抗体及びイム
ノグロブリンM抗体の量を実験例3−1と同じ方法によ
り調べた。
【0072】別途、減感作剤に代えて、実施例A−2の
方法により得た精製ポリペプチドと平均分子量約20
0,000ダルトンの精製プルランとを重量比で1:1
5の割合で含む混合物を投与する系を設け、これを上記
と同様に処置して対照とした。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】表2に示す結果から明らかなように、対照
と比較すると、予め、当該ポリペプチドとプルランとの
複合体を含有するこの発明の減感作剤を投与した系で
は、減感作剤の投与後においても、イムノグロブリンE
抗体の再誘導後においても、著量のイムノグロブリンG
抗体とイムノグロブリンM抗体が認められた。イムノグ
ロブリンE抗体についてみると、減感作剤の投与後はも
とより、イムノグロブリンE抗体の再誘導後においてす
ら、産生が実質皆無なまでに抑えられていた。これらの
結果は、複合体を含有するこの発明の減感作剤を非経口
投与することにより、ヒトを含む哺乳動物における花粉
症を安全且つ効果的に治療し得ることを意味している。
【0075】
【実験例3−3 経口投与による治療効果】10乃至1
2週齢の雌BALB/cマウス6匹からなる一群に、抗
原として、実施例A−2の方法により得た精製ポリペプ
チド1μgと免疫助成剤としての水酸化アルミニウム4
mgを含む生理食塩水0.2mlを毎週1回、3週間に
亙って腹腔内に注射投与して花粉症を惹起した。抗原の
最終投与から1週間後に、実施例B−4の方法により得
た舌下剤を粉砕し、ポリペプチドの量に換算して100
ng/匹の用量で毎週1回、3週間に亙って経口投与し
た。舌下剤の最終投与から1週間後にマウスから採血
し、そこに含まれる当該ポリペプチドに特異的なイムノ
グロブリンA抗体、イムノグロブリンG抗体及びイムノ
グロブリンE抗体の量を調べた。
【0076】別途、舌下剤に代えて、実施例A−2の方
法により得た精製ポリペプチドとサルモネラ菌由来の精
製リポ多糖とを重量比で1:15の割合で含む固状混合
物を経口投与する系を設け、これを上記と同様に処置し
て対照とした。なお、当該ポリペプチドに特異的なイム
ノグロブリンA抗体とイムノグロブリンG抗体の量は、
アール・メオリーニ等『ジャーナル・オブ・イムノロジ
カル・メソッズ』、第6巻、第355〜362頁(19
75年)に報告されているEIA法により、また、当該
ポリペプチドの特異的なイムノグロブリンE抗体の量
は、実験例3−1と同様の方法により測定し、それぞ
れ、マウス6匹の平均抗体価で表示した。結果を表3に
示す。
【0077】
【表3】
【0078】表3に示す結果から明らかなように、対照
と比較すると、予め、当該ポリペプチドとリポ多糖との
複合体を含有するこの発明の減感作剤を投与した系にお
いては、イムノグロブリンA抗体及びイムノグロブリン
G抗体が著量産生する一方、イムノグロブリンE抗体の
産生は実質皆無なまでに抑えられていた。このことは、
複合体を含有するこの発明の減感作剤が、経口投与によ
っても、ヒトを含む哺乳動物における花粉症を安全且つ
効果的に治療し得ることを示している。
【0079】なお、データは示していないものの、斯界
における通常一般の方法により、実施例B−1乃至B−
4の方法により得た減感作剤をマウス、ラット及びモル
モットの皮内、皮下、筋肉内若しくは腹腔内に注射投与
するか、あるいは、点眼剤、点鼻剤若しくは口腔内噴霧
剤の形態にして経粘皮投与したところ、以上すべての減
感作剤が重篤な副作用を惹起することなく、花粉症の治
療・予防に有意な効果を発揮した。このことは、当該ポ
リペプチドとプルラン、エルシナンなどの、本質的にマ
ルトトリオースを反復単位とする糖質との複合体におい
て特に顕著となり、しかも、この場合、他の糖質との複
合体と比較して、所期の減感作を達成するに要する投与
量と投与期間が一段と低減乃至短縮できることが判明し
た。
【0080】
【実験例3−4 急性毒性試験】常法により、生後20
日目のマウスに実施例B−1乃至B−4の方法により得
た治療・予防用減感作剤を経口若しくは腹腔内投与し
た。その結果、これら減感作剤は、いずれの投与経路に
よっても1,000,000ng以上のLD50である
ことが判明した。このことは、当該ポリペプチドと特定
糖質との複合体を含有するこの発明の減感作剤が、ヒト
を含む哺乳動物に投与する医薬品に安全に配合使用し得
ることを示している。
【0081】
【発明の効果】叙上のように、この発明によるポリペプ
チドは、新規な花粉症原因物質である。この発明のポリ
ペプチドは、ヒトを含む哺乳動物において花粉症を惹起
する性質を有することから、花粉症を診断若しくは治療
・予防するための減感作剤はもとより、酵素免疫測定や
放射免疫測定による花粉症の診断、さらには、アレルギ
ー症一般の発症機序を解明する学術研究において広範な
用途を有する。とりわけ、この発明のポリペプチドと特
定糖質との複合体は、ヒトを含む哺乳動物に投与する
と、減感作に有効なイムノグロブリン抗体を著量産生す
る一方、アナフィラキシーショックを含む望ましくない
副作用の主因たるイムノグロブリンE抗体を実質的に産
生しない性質がある。この性質により、この発明による
減感作剤を使用して花粉症を治療・予防するときには、
治療・予防に要する抗原の投与量と投与期間を有意に低
減乃至短縮できることとなる。斯くも有用なる当該ポリ
ペプチドは、この発明の製造方法により、スギ花粉を原
料に、所望量を比較的容易に製造することができる。
【0082】この発明は、斯くも顕著な効果を奏するも
のであり、斯界に貢献すること誠に多大な意義のある発
明であるといえる。 ─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成6年8月4日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0059
【補正方法】変更
【補正内容】
【0059】
【実施例B−4 舌下剤】平均分子量約200,000
ダルトンの精製エルシナン2gを蒸留水400mlに均
一に溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液により溶液の
pHを10.7に調整後、水溶液のpHを10.0付近
に保ちながら、臭化シアン3gを徐々に加え、1時間反
応させた。1N塩酸により反応物のpHを5.0に調整
後、このpHを保ちつつ、冷水に対して10時間透析す
ることにより、活性化エルシナンを含む水溶液を得た。
次いで、この水溶液に実施例A−2の方法により得た精
製ポリペプチドを20mg加え、常温下で24時間静置
して反応させた。反応終了後、反応物に3倍容のアセト
ンを加え、生成した沈澱部を採取し、0.01M酢酸緩
衝液(pH5.0)に溶解し、遠心分離により不溶物を
除去した後、予め0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)
で平衡化させたおいたCM−セファデックスカラムクロ
マトグラフィーにかけ、非吸着画分から当該ポリペプチ
ドとエルシナンとの複合体を含む画分を採取した。その
後、常法により、この画分を滅菌濾過し、濃縮し、凍結
乾燥し、粉砕後、林原製無水結晶α−マルトース粉末
『ファイントース』を均一に混合し、常法により、混合
物を打錠して製品1錠(200mg)当たりポリペプチ
ドを100ng含む錠剤を得た。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0080
【補正方法】変更
【補正内容】
【0080】
【実験例3−4 急性毒性試験】常法により、生後20
日目のマウスに実施例B−1乃至B−4の方法により得
た治療・予防用減感作剤を経口若しくは腹腔内投与し
た。その結果、これら減感作剤は、いずれの投与経路に
よっても1,000,000ng/kg以上のLD50
であることが判明した。このことは、当該ポリペプチド
と特定糖質との複合体を含有するこの発明の減感作剤
が、ヒトを含む哺乳動物に投与する医薬品に安全に配合
使用し得ることを示している。

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記の理化学的性質を有するポリペプチ
    ド。 (1) 分子量 40,000±5,000ダルトン(SDS−ポリアク
    リルアミドゲル電気泳動) (2) 等電点 9.5±0.5(等電点電気泳動) (3) N末端アミノ酸配列 N末端にX−Arg−His−Asp−Ala−Ile
    −で表わされるアミノ酸配列を有する。ただし、X−
    は、Ser−又はArg−Lys−Val−Glu−H
    is−Ser−から選ばれるアミノ酸乃至オリゴペプチ
    ドを表わすものとする。 (4) 紫外線吸収スペクトル 280nm付近に吸収極大を有する。 (5) 溶剤への溶解性 水、生理食塩水及び燐酸緩衝液に可溶である。 (6) 生物作用 花粉症を惹起する。花粉症患者の血液から採取したイム
    ノグロブリンE抗体に結合する。 (7) 安定性 水溶液(pH7.2)中、100℃で10分間加熱する
    と失活する。水溶液(pH7.2)中、4℃で1カ月間
    放置しても、実質的に失活しない。
  2. 【請求項2】 C末端に−Asn−Leu−Ser−P
    ro−Serで表わされるアミノ酸配列を有する請求項
    1に記載のポリペプチド。
  3. 【請求項3】 スギ花粉に由来する請求項1又は2に記
    載のポリペプチド。
  4. 【請求項4】 スギ花粉を水性溶媒中で抽出し、その抽
    出物から請求項1のポリペプチドを採取することを特徴
    とするポリペプチドの製造方法。
  5. 【請求項5】 抽出物に塩析、透析、濾過、濃縮、遠心
    分離、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマ
    トグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電
    気泳動及び等電点電気泳動から選ばれる1種以上の方法
    を適用してポリペプチドを採取する請求項4に記載のポ
    リペプチドの製造方法。
  6. 【請求項6】 ポリペプチドがC末端に−Asn−Le
    u−Ser−Pro−Serで表わされるアミノ酸配列
    を有する請求項4又は5に記載のポリペプチド。
  7. 【請求項7】 有効成分として請求項1のポリペプチド
    を含有する減感作剤。
  8. 【請求項8】 ポリペプチドがC末端に−Asn−Le
    u−Ser−Pro−Serで表わされるアミノ酸配列
    を有する請求項7に記載のポリペプチド。
  9. 【請求項9】 スギ花粉を水性溶媒中で抽出し、その抽
    出物を精製することにより得られるポリペプチドを有効
    成分として含有する請求項7又は8に記載の減感作剤。
  10. 【請求項10】 ポリペプチドに糖質が共有結合してい
    る請求項7、8又は9に記載の減感作剤。
  11. 【請求項11】 糖質が、本質的にマルトトリオースを
    反復単位とする多糖類である請求項10に記載の減感作
    剤。
  12. 【請求項12】 安定剤として血清アルブミン及び/又
    はゼラチンを含有する請求項7、8、9、10又は11
    に記載の減感作剤。
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