JPH0635468B2 - 新規抗酸化性配糖体、その製法及び用途 - Google Patents

新規抗酸化性配糖体、その製法及び用途

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JPH0635468B2
JPH0635468B2 JP2176436A JP17643690A JPH0635468B2 JP H0635468 B2 JPH0635468 B2 JP H0635468B2 JP 2176436 A JP2176436 A JP 2176436A JP 17643690 A JP17643690 A JP 17643690A JP H0635468 B2 JPH0635468 B2 JP H0635468B2
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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は、植物由来の有用物質に関するものであり、更
に詳細には、ごま(Sesamum indicum L.)の植物体より人
工的に誘導した細胞(カルス)の大量培養法によって、
配糖体化合物を工業的に大量に製造する技術に関するも
のである。
本発明に係る配糖体は、従来未知の新規化合物でありし
かも強力な抗酸化活性を有するので、本発明は食品産業
のほか、医薬品産業及び化粧品産業等に広く応用される
ものである。
(従来の技術) 我々人間を初め地球上の多くの生物にとって、酸素は不
可欠である。しかし、最近、生体内における過剰量は酸
素はラジカルや過酸化脂質を生成し、その結果各種組織
が障害を受けることが問題となっている。この障害は動
脈硬化、肝疾患、網膜症、炎症などの病因となることが
明らかになっており、さらに老化や発癌との関連も示さ
れている。
脂質が過酸化される例として、生体の重要な構成成分で
あると共に、必須脂肪酸として不可欠な食品成分でもあ
る多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、第1図に示すような自動
酸化と呼ばれるラジカル連鎖反応を引き起こす、過酸化
脂質やマロンジアルデヒド(MDA)を初めとする酸化分解
物を生成することが知られている。(大澤・並木「現代
の食品化学」三共出版p.186)。
一方、このような脂質の酸化的劣化を防止するために、
食品系では冷凍保蔵や包装、脱酸素剤の使用などの物理
的手段と共に、抗酸化剤の添加という化学的手段が一般
的である。特にBHA(ブチルヒドロキシアニソール)やBH
T(ブチルヒドロキシトルエン)を初めとする合成抗酸化
剤が長く使用されてきたが、最近に至って安全性の面か
ら食品への使用が再検討されつつある。
そこで、その需要が急増してきたのは天然ビタミンEで
あるが、価格や効果の点から更に有効で安全な天然抗酸
化性物質の開発が要望されているのが現状である。さら
に、天然抗酸化性物質の積極的な摂取により生体内のラ
ジカル生成や脂質過酸化反応を抑制し、その結果、老化
や発癌を初めとするさまざまな疾患を防止し得ると考え
られている(大澤「食品の健全性と食品成分の生理機
能」缶詰技術研究会p2)。
こうした天然由来の抗酸化性物質を食品や医薬品、化粧
品などに適宜使用するためには、従来とは性質の異なっ
た天然抗酸化性物質を見い出し、それぞれの特徴を発揮
する条件で活用することが重要である。
天然系物質の内、例えば植物由来の香辛料等には、抗酸
化活性をもった種々の化合物が含まれており(第2
図)、香辛料は食品保存作用を持つものとしても食品に
添加されてきた。しかしながら香辛料には、強い香や色
を示すものが多く、こうした性質はこれらを食品、医薬
品、化粧品などに応用する場合に使用範囲を大幅に限定
してしまう。
実用例の代表としては、化学合成法によるビタミンCお
よび天然物から抽出精製されているビタミンEが挙げら
れている。この内、ビタミンCは水溶性の物質であるた
め、油や生体内の脂質には溶けない。一方、ビタミンE
は脂溶性であるため、血液などの水溶液には溶けず生体
内の脂質に蓄積される特徴が認められている。こうした
極端な水溶性や脂溶性の性質は、生体に応用する食品、
医薬品、化粧品などの場合、必ずしも有利な性質とは考
えられておらず、生体内の脂質と水溶液のいずれにおい
ても適宜、抗酸化活性を発揮するためには、水溶性と脂
溶性の両方の性質をもつ天然化合物が有利である。
本発明は、このような天然植物の内特にごまに着目し、
黒ごま(Sesamum indicum L.)の植物成体より誘導して得
られた増殖性細胞を培養し、その培養物から構造式(A)
で示される配糖体化合物を得、これらの化合物に強力な
抗酸化活性を認めたものであるが、構造式(A)で示され
る化合物は、ごま種子から単離された代表的なリグナン
系化合物(第3図)とは全く異なっており、新規化合物
である。
さらに、ごま培養細胞より生成される本発明に係る新規
抗酸化性配糖体は、カフェ酸をアグリコンとし、六単糖
をほぼ中心に配糖化した構造をとっていることにより水
溶性と脂溶性の中間的な極性を示すものである。こうし
た性質は、さまざまな生理作用が期待される抗酸化性物
質の食品、医薬品、化粧品などへの応用に非常に有利で
あり、他の抗酸化性物質には全く見当らない。
また、本発明は、植物体自体から抽出するものでなく、
抗酸化性配糖体を生産する培養細胞を用いるものであっ
て、ごま細胞を大量培養することにより、天然の抗酸化
性配糖体を工業的に大量生産することに成功したもので
あって、この点においても新規である。
(発明が解決しようとする問題点) 化学工業の発展を背景として、合成抗酸化剤、例えばブ
チルヒドロキシアニソール(BHA)やブチルヒドロキシト
ルエン(BHT)などが一般的に使用されてきた。ところ
が、こうした合成抗酸化剤の使用が増えるにつれて、食
品公害が増加して安全性の面から大きな問題が生じ、消
費者の合成抗酸化剤に対する拒否反応が強くなり、その
使用量も低下しているのが現状である。
したがって安全性の高い、天然由来の抗酸化性物質は、
生体内における抗酸化的な生体の防御機構を支援する物
質として、食品、特に健康食品や栄養食品のほか、医薬
品や化粧品の技術分野において非常に期待されている。
しかしながら、食品公害上問題のある合成抗酸化剤に代
って、その使用が期待されている天然の抗酸化剤は、化
学合成法によるビタミンCおよび天然物から抽出精製さ
れているビタミンEが実用化されているにすぎない。
また天然の抗酸化剤は、その起源が天候等自然条件に左
右される植物や動物等であって安定供給が困難であり、
また、その含有量も非常に微量であるため、抽出にも非
常な困難が伴い且つ抽出中に成分が変化するといった点
から工業的に大量に抽出、製造することは困難であっ
た。
さらに香辛料等を起源とする抗酸化性物質の中には強い
香や色を持つものが多く、こうした性質は食品、医薬
品、化粧品などの使用を制限するものとなっている。
(問題点を解決するための手段) 本発明はこれらの欠点を一挙に解決するためになされた
ものであって、各方面から鋭意研究の結果、ごま(Sesam
um indicum L.)の植物成体から誘導した増殖性細胞(カ
ルス)を合成培地を用いて培養し、得られた培養細胞か
ら、下記する構造式(A)を有する新規抗酸化性配糖体を
大量に且つ計画的に工業生産することに成功し、本発明
の完成に至ったものである。
(但し、式中Rは、 または を表わす。) ごま培養細胞から生成される本発明に係る新規抗酸化性
配糖体は、カフェ酸をアグリコンとし六単糖をほぼ中心
に配糖化した構造をとっており、水溶性と脂溶性の中間
的な極性を有する化合物であり、極端な極性を有するビ
タミンCやビタミンEとは異り、その応用範囲を広げる
には非常に有利な物性を有している。したがって、老化
防止、発癌抑制などのさまざまな生理作用が期待される
抗酸化性物質の応用として、食品、医薬品、化粧品など
へも有効に利用される。
また本発明は、このような生産効率が非常に低い天然物
からの有効成分の抽出という技術に鑑み、目的物質を効
率的、且つ計画的、安定的に大量生産する方法を確立す
るためになされたものであって、生産効率が低く、自然
条件の影響を直接受ける植物体からの抽出法を改善する
ために各方面から研究、検討した結果、細胞を人工培養
する方法が最適であるとの結論に達した。
そこで、植物細胞の人工培養について徹底的に研究を行
い、このように有用な成分を含むごまの増殖性細胞を育
種するために、植物成体から人工的に増殖性細胞塊(カ
ルス)を誘導し、これより安定にかつ迅速に増殖する細
胞を選択する研究を行ってきた。その結果、ごまの種子
から無菌的に発芽させたごま芽ばえを素材として、ごま
細胞のカルスを誘導し、安定に継代培養が可能な高温度
培養細胞を取得することに成功しただけでなく、増殖し
た細胞内に有用成分が含有されておりしかもそれを有利
に抽出できることをはじめて見出し、これらの新知見を
基礎にして更に研究の結果、本発明が完成されたのであ
る。
すなわち、本発明は、ごま培養細胞を、特に植物細胞培
養では他に報告例のない高温度(33〜36℃)細胞培養法
という全く新規な方法を確率することに成功したもので
あって、それにより新規なごま抗酸化性配糖体を大量に
且つ計画的に生産する工業的方法を提供することができ
るのである。
本発明者らは、こうした工業的な植物細胞培養に適した
ごま培養細胞を育種する研究を鋭意おこなった結果、従
来、植物細胞培養の可能な温度とは考えられていなかっ
たごとき高温度において、増殖性の高い細胞を取得する
ことに成功し、得られた培養細胞中には新規な抗酸化性
配糖体が生成されていることを見い出し本発明を完成し
たのである。
本発明の高温度で旺盛に増殖する培養細胞の育種及び培
養細胞より生成される新規抗酸化性配糖体の抽出・精製
について以下に述べる。
先ず、ごまとしては、芽、根、又は種子を用いる。そし
て、無菌条件下で芽ばえを調製し、芽、茎、葉及び/又
は根の切片を固体及び/又は液体の培地で培養してカル
ス細胞を誘導する。得られた増殖性カルスは、継代培養
することにより大きなカルスに成長させる。次いでこれ
を固体及び/又は液体培養で、静置及び/又は攪拌培養
してカルス細胞を増殖せしめるのである。
培地としては、各種培地を使用することができ、炭素源
としては、グルコース、フラクトース等の単糖類、マル
トース、シュークロース等の二糖類のほか、オリゴ糖や
澱粉等の多糖類も使用することができる。窒素源として
は、硝安、硝酸カリウムといった硝酸態窒素、硫安、酒
石酸アンモニウム等のアンモニア態窒素のほか、カザミ
ノ酸、アミノ酸、ペプトン、コーンスティープリカー、
酵母菌体、イーストエキストラクト、麦芽エキストラク
ト等が使用できる。
そのほか、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、サイアミ
ン、葉酸、ビオチン等のビタミン類;イノシトール、ア
デニル酸、グアニル酸、シチジル酸、チミジル酸、サイ
クリックAMP等の核酸関連物質;鉄、マンガン、亜鉛、
ホウ素、ヨウ素、カリウム、コバルト、マグネシウム、
モリブデン、リン、銅等のミネラルも使用する。
基本培地の1例を示すと、次の表1のとおりである。
基本培地にはオーキシン、サイトカイニンを添加するの
が好ましく、オーキシンとしては、インドール酢酸、イ
ンドール酪酸、ナフタレン酢酸、2,4ジクロロフェノキ
シ酢酸などが適宜利用される。また、サイトカイニンと
しては、ベンジルアデニン、カイネチンなどが使用でき
る。これらの植物ホルモンやサイトカイニンは単独でも
使用できるが、組合せて用いることが効果的である。増
殖性のカルスの培養には、表1に示した組成の培地でも
よいが、さらに増殖性を改善するためには、ココナツミ
ルク、カゼイン加水分解物、ジャガイモ油抽出液、コー
ンスティープリカー、イーストエキストラクト、麦芽抽
出液などの天然有機栄養源を添加することが有効であ
る。培養温度は28〜37℃で培養操作できるが、好ましく
は33〜36℃である。培養液のpHは弱酸性(pH5.6〜6.0)が
増殖い有利である。
このようにして得られたごまのカルス細胞から高温度で
安定に増殖できる細胞を育成するには、ジェランガムま
たは寒天による固体平板培地に細胞の小塊を移植し、こ
れを後記の増殖条件で1〜2週間培養を行なう。このと
きの培養温度は33〜36℃に維持することが好ましい。
さらに、多数の高密度培養細胞の培養系統の中より、増
殖性の高い培養系統を選択し、その細胞集団から、更に
細胞の小塊を多数取り出し、これらを新しい培地に移植
することによって、更に多数の培養系統を作る。こうし
た細胞の培養系統の継代培養を5〜10回、33〜36℃の高
温度で、くり返すことによって、高温度で安定に増殖で
きる、ごま増殖細胞を育成する。
培養して得た増殖性細胞から抗酸化性物質を抽出するに
は、セルラーゼやリゾチームを用いる生物学的処理、化
学的処理、機械的ないし超音波などの処理、又はこれを
組合わせたりして細胞を破壊し、メタノール、エタノー
ル、アセトン、クロロホルムその他の有機溶媒、水など
の単独ないしは、これらの有機溶媒と水との混合液で抽
出して回収できる。
抗酸化性物質の活性の分析は、リノール酸を反応基質と
する空気による自動酸化量をロダン鉄法によって測定す
る方法を用いる。この方法は、脂質の過酸化を調べるの
に用いられる常法である。(アグリカルチュラル・アン
ド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricultural and
Biological Chemisty)第45巻、735頁(1981年)) 次に本発明により育種され、高温度培養ができる、ごま
培養細胞の取得について実験工程を追って詳細に説明す
る。
1.無菌的に成育したごま芽ばえの調製 ごま種子を、よく水洗したのち、75%エタノール水溶液
に数秒間浸漬する。これを別に用意した殺菌水で洗浄
し、ついで、0.1%ベンザルコニウムクロライド(市販
殺菌剤)液に2〜5分間浸漬して種子に付着している微
生物を殺菌する。この種子を再び殺菌水でよく洗浄した
のち、1%次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬製)(0.1
%の界面活性剤ツイーン20を含む)の殺菌剤液によっ
て、30分間処理して、ごま種子を完全に殺菌する。
いっぽう、殺菌した、ふた付きの広口容器(プラスチッ
ク製市販品)を用意する。これに表1に示した組成の基
本培地(ただし蔗糖は添加せず、固化剤として寒天の場
合0.8〜1.5%、ジェランガムの場合0.2〜0.3%を添加し
た)を別途オートクレーブ殺菌したものを、広口容器に
注いで固化させ播種用の固型培地とする。また、殺菌水
と殺菌したガーゼを、広口容器に無菌的に入れて、播種
用の床としてもよい。このような播種用の培地又は床
に、殺菌処理をしたごま種子を無菌操作によって播種す
る。28〜30℃の恒温室で蛍光灯の光のもとで保温する
と、殺菌処理したごま種子は死滅することなしに、発芽
し、10日間程度で長さ3〜5cmのごま芽ばえが調製でき
る。このごま芽ばえは、完全に無菌状態であり、増殖性
細胞の育種に利用される。
2.ごま由来の増殖性細胞塊の誘導培養 表1に示した組成の基本培地に、オーキシンとして、ナ
フタレン酢酸(10-8〜10-5M)、あるいは、2,4ジクロロ
フェノキシ酢酸(10-8〜10-5M)、サイトカイニンとし
て、ベンジルアデニン(10-6〜10-4M)、あるいはカイ
ネチン(10-6〜10-4M)を組合せて添加した、各種組成
の培地を調合する。これに、固化剤としてジェランガム
0.2%または寒天0.8%を加えて、pHを5.7に調整したの
ち、微生物培養に常用されるペトリディッシュに分注し
て固化する。これに、先に述べたように無菌的に調製し
たごまの芽ばえの断片を移植し、温度28〜30℃の恒温室
又は恒温箱の中で、暗所で培養を行なうと、培養2〜3
週間後には、ごま芽ばえの切断片の切り口より、細胞が
増殖し、塊となってカルスを形成する。この増殖性のカ
ルスを、同一組成の培地に継代培養することによって、
大きなカルスを育てることができる。
カルスの人工的な誘導に用いる基本培地は表1に示した
培地組成(ムラシゲースクーグの培地)を用いたが、植
物の細胞培養に通常用いられている培地ならいづれも使
用できる。こうした培地の基本組成は、当業界において
よく知られている。(植物細胞培養マニュアル、講談社
(1984)) 3.カルス細胞の増殖培養細胞の育成 ごまの芽ばえより誘導した増殖性細胞塊(カルス)は、
表1に示した組成の培地、ナフタレン酢酸(1〜5×10-5
M)、ベンジルアデニン(1〜5×10-5M)などのオーキシン
やサイトカイニンを添加したものに、更に固化剤として
ジュランガム0.2%又は寒天0.8%を加えて滅菌、固化し
た培地を用いて、安定に増殖する細胞を育成する。
ごま細胞は暗所でもよく増殖するが、明所の方が、更に
増殖に活発である。したがって、3,000〜30,000ルク
ス、好ましくは8,000〜15,000ルクスの明所においてよ
く増殖することが観察される。温度は、30〜37℃でも増
殖するが、好ましくは、33〜36℃で増殖することができ
る。
ごまのカルスから高温度で安定に増殖できる細胞を育成
するには、ジュランガム又は寒天による固体平板培地に
細胞の小塊を移植し、これを前記の増殖条件で1〜2週
間培養を行なう。
このときの培養温度はカルス細胞の誘導培養に用いた温
度よりも高温度にする。すなわち培養温度を33〜36℃に
維持して、旺盛に増殖する細胞を濃縮することができ
る。
このようにして得た多数の培養系統の中より、増殖性の
旺盛な培養系統を選択し、その細胞集団から、更に細胞
の小塊を多数取り出し、これらを新しい培地に移植する
ことによって、再び多数の培養系統を調製する。こうし
た細胞の培養系統の継代培養を5〜10回くり返すことに
よって、33〜36℃の高温度で安定に増殖できる。ごま細
胞を育成する。
4.増殖性細胞の培養 安定に継代培養が可能なごま細胞の増殖培養には、表1
に示した組成の培地が用いられるが、植物細胞の培養に
通常よく用いられている組成の培地も利用できる。この
ような基本培地に、オーキシンとして、ナフタレン酢酸
(1〜5×10-5M)、サイトカイニンとして、ベンジルアデ
ニン(1〜5×10-5M)を加えたものを調合する。液体培養
の場合にはそのまま増殖培養に使用できるが、固体培地
での培養の時には、これにジュランガム0.2%又は寒天
0.8%を加えて、滅菌、固化させて使用する。細胞の増
殖には光を照射するのが有利である。通常3,000〜30,00
0ルクス、好ましくは8,000〜15,000ルクスの照射であれ
ばよい。温度は28〜37℃で増殖するが好ましくは33〜36
℃でよく増殖培養ができる。液体培養は、通常の微生物
の培養に用いられる振とう培養法や通気攪拌培養法が適
用できるが、微生物の培養に比較して、ゆるやかな条件
で操作するのが好ましい。微生物の培養に比較して、酸
素の必要量は著しく少なくてよいから、わずかに空気を
通気しつつ、細胞が培養液の底に沈でんしない程度の攪
拌を行うことが増殖に好ましい。
増殖培養を更に効果的に行なうためには、培養液のpHを
5.6〜5.8に維持するのがよい。
通常の増殖培養では、1〜2週間で培養が終了するか
ら、培養液から細胞を遠心分離法などの常法で回収する
ことが可能である。また固体培養の場合には、増殖した
細胞塊は容易に回収できる。
かくして、工業的な規模で、生産が可能なごま細胞の育
成を行い、これを多量に増殖培養することが出来るので
ある。
このような操作によって取得された高温度培養が出来る
ごま培養細胞の増殖量と培養温度との関係を第4図に示
す。植物細胞を通常培養する時に用いられている25〜28
℃の温度における増殖量に比べて、35〜36℃では、約2
倍以上の増殖量を示しており増殖速度も早くなることか
ら工業的な植物細胞の培養において、有効に使用できる
ものである。
5.抗酸化性物質の抽出及び分析 上記によって得た増殖性のカルス細胞を、ブレンダー等
で細かく破砕したのち、石英砂と共に磨砕する。これを
メタノールなどの溶媒で抽出し、無水硫酸ナトリウムに
よって脱水し、30〜35℃で蒸発乾固する。再びメタノー
ルに溶解させて、抗酸化性物質を含んだ分画を得る。
次に抗酸化活性の分析法について述べる。リノール酸を
反応基質とする方法であり、油脂の酸化の程度を測定す
るためによく用いられているロダン鉄法を利用するもの
である。即ち油脂の自動酸化により生成する過酸化物に
よって二価鉄イオンが三価鉄イオンに酸化され、これが
チオシアン酸アンモニウムと反応した赤色のロダン鉄を
生成させ、その吸光度を測定することから、油脂の過酸
化物の量を求める方法である。(アグリカルチュラル・
アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricultural
and Biological Chemistry、第45巻、735頁(1981年)) また、ロダン鉄法に比較してより生体系に近い分析法と
して兎赤血球膜脂質の過酸化反応を利用した、いわゆる
赤血球ゴースト法も併せて使用した。
兎の赤血球から、その膜のみを調製し、これを赤血球ゴ
ーストと呼ぶ。
この赤血球ゴーストに、酸化の開始剤として、t-ブチル
ハイドロキシパーオキサイドを加えて、赤血球膜のリン
脂質の過酸化反応を促進させたのち、生成するマロンジ
アルデヒドあるいは、これに類似した物質を、チオバル
ビツール酸で発色させその吸光度を測定する。(バイオ
ケミストリー、78巻、6858頁(1981年))。
反応系に添加されるサンプル中の抗酸化活性の程度によ
って、チオバルビツール酸による発色度が変化するか
ら、抗酸化性物質を含まない対照区と比較することによ
って、サンプル中に含まれている抗酸化活性を測定する
ことができる。
6.新規抗酸化性配糖体の抽出、分離及び構造解析 液体培養法によって増殖した細胞は、重力分離法や遠心
分離法によって容易に回収することができる。得られた
細胞を最終濃度が80%になるようにエチルアルコールを
添加し、機械攪拌ホモジナイザーによって抽出する。遠
心分離して抽出液を回収した残りの細胞について再び80
%エチルアルコールで抽出する。得られた抽出液を減圧
下で濃縮して乾固すればアメ状、黄褐色の抗酸化性物質
の粗抽出物が得られる。
これを、たとえばアンバーライトXAD-IIを用いる吸着ク
ロマトグラフ法によって、樹脂に吸着させ、水とメタノ
ールの混合溶媒によって溶出し、抗酸化活性のある画分
を取得する。メタノール60%水溶液により溶出する分画
を集め、これを減圧濃縮することにより、ごま培養細胞
中に含まれている抗酸化性物質の代表的な成分を得る。
天然物化学の分野で、通常用いられている高速液体クロ
マトグラフ法により、含有成分の分離分析を行うことに
より、目的成分の精製程度を検定する。ごま培養細胞の
アルコール抽出物の吸着クロマトグラフ法により60%メ
タノール水溶液で溶出した画分の高速液体クロマトグラ
フのチャート図を第5図に示す。
多数のピークの中より、強い抗酸化活性をもつピークと
して、ピーク1及びピーク2の二つのピークを更に精製
する。この時、天然物の精製法として通常用いられてい
る。高速液体クロマトグラフ法を、くり返し使用して、
順次目的物質を純化する。第6図に、高速液体クロマト
グラフ法により精製した物質1、物質2のそれぞれの物
質の単一性を示す。
単一な成分として単離された抗酸化性物質1、2それぞ
れについて機器分析を行い、その化学構造を以下のよう
に決定した。
先ず物質1、2それぞれの紫外線吸収スペクトラムを第
7図に示す。得られた紫外線吸収スペクトラムはいずれ
もカフェ酸系化合物の特徴とよく符号していた。
次に物質1、2を高速電子衝突質量分析法(FAB-MS)によ
り解析し、それぞれ第8図に示すようなマススペクトラ
ムを得た。これより、分子イオンピーク(M-1)-はいずれ
も667であり、物質1、2の分子量はいずれも668と判明
した。またプロトン核磁気共鳴法(NMR)により、物質
1、2のそれぞれの二置換t-オレフィン、2つの芳香族
環の存在と置換様式が解明された(第9図)。
物質1、2は、いずれも糖の呈色反応により糖分子が結
合した配糖体であることが判っていたが、それぞれの構
造を決定するために炭素13核磁気共鳴法により構造の解
析を行った。それぞれのスペクトラムを第10図に示す。
こうした天然物の構造解析法を駆使して物質1、物質2
のそれぞれの構造は、次のとおりであると決定された。
物質1: 物質2: 7.新規抗酸化性配糖体の抗酸化活性 ごま培養細胞から80%エタノールで抽出して得た粗抽出
物、これをアンバーライトXAD-IIによる吸着クロマトグ
ラフ法により60%メタノール水溶液で溶出して得た中間
精製物、さらに、中間精製物を高速液体クロマトグラフ
法により単一ピークまで精製した。物質1、2それぞれ
について、前述の兎赤血球ゴースト法により、抗酸化活
性を測定した結果を第11図に示した。横軸は分析におけ
る反応系に添加したサンプルの濃度をとり、縦軸に、チ
オバルビツール酸による発色度を、抗酸化性物質を無添
加の対照区を100%として相対比率で示した。市販され
ている合成抗酸化剤ブチルヒドロキシアニソール(BHA)
を抗酸化剤の対照区に用いて比較したものである。
このように、ごま培養細胞から抽出して得た抗酸化性配
糖体はいずれも、(BHA)にほぼ相当する抗酸化活性をも
っていることがわかった。
抗酸化剤として工業的に物質1及び2を応用する時には
目的に応じて精製品や粗製品を使用することが便利であ
る。
このことは第11図に示したように、純品にまで精製した
標品と、吸着クロマトグラフ法によって得られた中間精
製品の抗酸化活性には大きな差はなく、厳密に考えると
中間精製品に含まれている、物質1、2以外の成分にも
抗酸化活性が認められたり、また、共存物質による抗酸
化活性の促進作用(相乗作用)が考えられる。こうした
ことは、粗製品でも使用できることを充分に示唆するも
のである。
また、配糖体の構造をもっていることは、水溶性と脂溶
性の双方の特性を示すことが特徴として考えられ、水溶
性のビタミンC、脂溶性のビタミンEやブチルヒドロキ
シアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)な
どに比較して、抗酸化剤としての使用範囲が拡大され、
また生体内での作用においても、有利性が大いに期待さ
れる。
以下に実施例及び試験例をもって本発明を説明するが、
これらは例示であって、本発明を制限するものではな
い。
なお、本発明に係る各細胞は、通常のごま植物を用い、
前記した手法及び後記する実施例の手法にしたがってご
ま成体細胞をそれぞれ処理すれば容易に取得することが
でき、充分に再現性があることが確認された。原料の入
手にも何の困難性もなくその処理にも格別の困難は無い
もので、本発明に係る細胞は、何人も容易に入手するこ
とができる。
実施例1 (1)ごま(Sesamum indicum L.)の種子を用意し、これを7
5%エタノール液に数秒間浸漬したのち、殺菌した蒸留
水で2回水洗した。これを0.1%ベンザルコニウムクロ
ライド液(甘槽化学産業(株)製)に2分間浸漬した。
殺菌した蒸留水で3回よく洗浄したのち、1%次亜塩素
酸ナトリウム(和光純薬)0.1%ツイーン20(和光純
薬)を含む殺菌剤液に30分間浸漬し、殺菌水で水洗して
殺菌ごま種子を調製した。
植物培養用のプラスチック製容器(フロー・ラボラトリ
ー社製)に殺菌水と殺菌したガーゼを入れ、その上に、
予め殺菌したごま種子を播種した。30℃の恒温室で20ワ
ットの蛍光灯の光のもとで2週間放置したところ、長さ
5〜7cmのごま芽ばえが得られた。
(2)表1に示した組成の培地2を調製し、これを等分
し、それぞれの100mに、ジュランガム(三栄化学工
業製)0.2%と、表2に示した実験条件のサイトカイニ
ン、オーキシンを添加して、増殖性細胞塊(カルス)の
誘導培地とした。これらを常法にしたがい120℃、10分
間のオートクレーブ殺菌処理をした。
これらの培地を、温かいうちに、直径10cmのプラスチッ
ク製ペトリディッシュにそれぞれ3枚宛30mづつ分注
し、室温で固化させた。
これに(1)で調製した、ごま芽ばえを無菌操作によっ
て、茎、葉を5〜7mmの切片に切断して、ペトリディッ
シュの固型培地上に移植した。水分の蒸発を防止するた
めパラフィルム(アメリカン・カン社製)で封をし、28
〜30℃の恒温室に暗所で3週間放置してごま芽ばえ切片
からのカルスの誘導を行ない、表2の結果を得た。
(3)表1の組成の基本培地に、ジュランガム0.2%、ナフ
タレン酢酸5×10-5M、ベンジルアデニン1×10-5Mを添
加した培地600mを(1)と同様にして殺菌調製した。こ
れをプラスチック製ペトリディッシュ20枚に、それぞれ
30m宛分注して固化させた。(1)で誘導培養して得た
増殖性カルスを、ペトリディッシュ当り4ケ宛移植し
た。33〜36℃、12,000ルクスの光の植物細胞培養装置の
中で、2週間培養を行った。増殖性の良好な細胞集塊を
選抜し、これを種細胞として、33〜36℃で継代培養を4
回くり返した。かくして、高温度で安定に増殖する培養
細胞を育成した。この細胞をN5B5S-HT(ナフタレン酢酸
5×10-5M、ベンジルアデニン×10-5Mで継代培養したご
ま培養細胞)と命名した。
(4)表1の組成の基本培地にジュランガム0.2%、ナフタ
レン酢酸5×10-5M、ベンジルアデニン1×10-5Mを添加
した培地1を(1)と同様にして殺菌調製した。これを
直径4cm、深さ13cmの植物細胞培養用のガラス製容器に
40m宛分注して固化させた。(3)で継代培養して育成
してごまの増殖性細胞N5B5S-HT細胞の5〜7mm角を移植
して35〜36℃、12,000ルクスの光の植物細胞培養装置の
中で10日間培養を行った。その結果、培養容器中に増殖
した細胞の生重量は平均14.5gであった。
この細胞のうち60gを乳ばちに取り、6gの石英砂を加
えて5分間磨砕したのち80%エタノール水溶液200m
を加えてよく攪拌し抗酸化性物質を抽出した。これを遠
心分離(2,500回転/分、10分間)して上澄液を集め、
細胞残渣には再び200mの80%エタノール水溶液を加
えて抽出した。3回のエタノール水溶液による抽出液を
集め40℃でロータリエバポレーターにて蒸発乾固し、黄
褐色の抽出物4.8gを取得した。
実施例2 表1に示した組成の培地3を、通気攪拌装置を備えた
5容量の植物細胞培養槽に入れ、オートクレーブによ
って、120℃、20分間加圧殺菌した。別に300m三角フ
ラスコに表1に示した組成の培地60mを入れ、同様に
殺菌したものに、ごま培養細胞のシードを添加し、35
℃、蛍光灯の光照射下で、振とう数60往復/分の条件で
振とう培養した。7日間培養したフラスコ5本分の培養
細胞を無菌操作によって回収し、植物細胞培養槽に接種
した。植物細胞培養槽の培養条件は、攪拌数30回転/
分、pH5.7±0.1、通気量1.5/分、光照射8,000ルク
ス、温度35℃で10日間培養した。培養終了液を遠心分離
して、細胞を回収したところ、乾燥重量として44gが取
得された。
培養して得られたごま細胞を生重量として500gを用いて
抗酸化性物質の抽出精製を行った。すなわち、1.9の
エタノールを加えて、ホモジナイザーにより攪拌しつつ
20分間抽出したのち、濾過器によって細胞と抽出液を分
離した。細胞残渣に2の80%エタノール水を加え、同
様に抽出操作を20分間行ったのち濾過器によって細胞残
渣を分離し、更に2の80%エタノールで抽出した。
抽出液を合せて、40℃で減圧濃縮を行い褐色の粗抽出液
13.3gが取得された。
吸着クロマトグラフ法に用いるアンバーライトXAD-II樹
脂を直径5cm、長さ40cmのガラス製カラムに充填して、
水を流して平衡化した。これに抽出物5gをカラムの上
部に樹脂に吸着させた状態で重層し、水から順次メタノ
ール濃度を増加させる段階溶出法によって、目的物質の
溶出を行った。60%メタノールで溶出される分画を集
め、40℃で減圧濃縮したところ、黄褐色の中間精製物の
165mgが得られた。これを高速液クロマトグラフ法を繰
返して、単一ピークになるまで精製を行った結果、精製
物として物質1、2がそれぞれ6mg、13mg得られた。
これらの粗成分、中間精製物、および精製物の抗酸化活
性を兎赤血球ゴースト法により測定したところ第11図に
示すように、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)とほぼ
同程度の強い抗酸化活性が認められた。
試験例1 本発明によって調製した抗酸化性配糖体のすぐれた抗酸
化効果を次のようにして確認した。
実施例によって得た抽出物100mgを100mの80%エタノ
ール水溶液に溶かし(1mg/m濃度)抗酸化性物質の
分析サンプルとした。これの1mをサンプルとしてリ
ノール酸の自動酸化の抑制の程度をロダン鉄法によって
測定した。その結果、第12図からも明らかなように、ご
ま増殖細胞から抽出した画分(1mg)には、α−トリフェ
ロール(0.2mg)あるいは、ブチルヒドロキシアニソール
(BHA、0.2mg)に相当する高い活性の抗酸化性物質が含ま
れていることが確認された。
(発明の効果) 本発明は、高温度増殖性ごま細胞を増殖容器の中で多量
に調製し、それによって、ごま細胞中に含まれている新
規抗酸化性配糖体を工業的に大量生産することを可能と
したものである。したがって本発明の方法によれば、栽
培によらず工業的な手段によって安全な食品、医薬品、
化粧品として使用される天然物由来の新規抗酸化性配糖
体を計画的に且つ大量に供給することができるという著
効が奏されるのである。
【図面の簡単な説明】
第1図は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)の自動酸化機構を図
示したものであり、第2図は、フェノール性抗酸化物質
の構造を図示したものであり、第3図は、ごまから単離
された抗酸化性物質の構造を図示したものである。 第4図は、高温度培養細胞の増殖量と培養温度との関係
を示すグラフである。 第5図は、吸着クロマトグラフ法で溶出した中間精製品
の液体クロマトグラフ法による含有成分の組成を示す図
面である。 第6図は、液体クロマトグラフ法により精製した物質1
(上段)及び物質2(下段)のクロマトグラムである。 第7図は、物質1(上段)及び物質2(下段)の紫外線
吸収スペクトラムである。 第8図は、物質1(上段)及び物質2(下段)の高速電
子衝突マススペクトルによる解析図である。 第9図は、物質1(上段)及び物質2(下段)のプロト
ン核磁気共鳴法によるスペクトラムである。 第10図は、物質1(上段)及び物質2(下段)の炭素13
核磁気共鳴法によるスペクトラムである。 第11図は、兎赤血球ゴースト法によるごま培養細胞から
の粗抽出物、中間精製物、精製物(物質1及び2)の抗
酸化活性を示したものである。 ▲:粗抽出物 ●:中間精製物 ◆:精製物(物質1) ■:精製物(物質2) ○:ブチル・ヒドロキシ・アニソール(BHA) 第12図は、リノール酸を反応基質とした自動酸化の経過
をロダン鉄法により分析した。リノール酸の酸化曲線で
ある。 −●−:対照区 −○−:α−トコフェロール区 −−△−−:ブチルヒドロキシアニソール区 −◎−:ごま細胞よりの粗抽出物

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】下記の構造式(A)を有する配糖体。 (但し式中Rは、 または を表わす。)
  2. 【請求項2】ごま(Sesamum indicum L.)の植物成体から
    誘導した増殖性細胞を培地に培養し、その培養物から、
    構造式(A)を有する配糖体を製造する方法。
  3. 【請求項3】ごま(Sesamum indicum L.)の植物成体から
    誘導した高温度培養細胞を培地に培養し、その培養物か
    ら構造式(A)を有する配糖体を製造する方法。
  4. 【請求項4】構造式(A)で示される配糖体を有効成分と
    する抗酸化剤。
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