JPH06329862A - 摺動部材用ふっ素樹脂組成物 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 ポリテトラフルオロエチレン樹脂を主成分と
する摺動部材用樹脂組成物の改良。 【構成】ポリテトラフルオロエチレン樹脂に、フィラー
として、薄片状チタン酸カリウム粒子を配合する。薄片
状チタン酸カリウム粒子は、大きさ（面方向サイズ）が
約１〜１００μｍ、厚さ約０．０１〜２μｍのものが好
ましい。配合量は、約２〜４０重量％が適当である。ポ
リテトラフルオロエチレン樹脂と薄片状チタン酸カリウ
ム粒子の複合効果として、低摩擦係数を有すると共に、
卓抜した摩耗抵抗性を有し、かつ剛性等の機械性質に優
れている。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、ポリテトラフルオロエ
チレン樹脂を主成分とする、耐摩耗性、強度等に優れた
摺動部材を製造するための樹脂組成物に関する。

【０００２】

【従来の技術】ポリテトラフルオロエチレン樹脂（四ふ
っ化エチレン樹脂、以下「ＰＴＦＥ樹脂」) は、耐熱
性、耐候性、耐寒性、不燃性、耐薬品性等と共に、低摩
擦性を備えたエンジニアリングプラスチックであり、各
種の摺動部品材料（例えば、ドライベアリング，ブッシ
ュ，ボールシート，ピストンリング，スライデイングパ
ッド，リングシール，リップシール等）として広く使用
されている。更に、その耐摩耗性や、摺動特性を改善す
るための工夫として、ＰＴＦＥ樹脂に、各種のフィラー
材、例えばアスベスト繊維，ガラス繊維，チタン酸カリ
ウム繊維，炭素繊維，有機耐熱繊維（ポリアミド樹脂繊
維等）, 金属繊維（ステンレス鋼繊維等），無機質粉末
（マイカ，シリカ，アルミナ，ジルコニア等），金属粉
末（鉛，亜鉛等）を配合した樹脂組成物について数多く
の提案がなされている（例えば、特開昭55-18430号, 特
開昭55-50052号, 特開昭58-167696 号, 特開昭60-25005
4 号, 特開昭62-146944 号等) 。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】近時、ＰＴＦＥ樹脂を
主成分とする摺動部材料の用途・使用態様は拡大・多様
化し、またドライベアリング等に見られるように摺動条
件の苛酷化（高速度・高面圧化等）が進むに伴い、その
耐久性、安定使用、摺動特性等を更に改善することが強
く要請されている。そこで、本発明は、ＰＴＦＥ樹脂特
有の低摩擦係数等の特性を保持しながら、摩耗抵抗性や
剛性等の機械性質を高め、高速・高面圧運転等の苛酷な
摺動条件に耐え得る摺動部材を形成することができる樹
脂組成物を提供しようとするものである。

【０００４】

【課題を解決するための手段】本発明の摺動部材用ふっ
素樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂（Ｐ
ＴＦＥ樹脂）を主成分とし、これに薄片状チタン酸カリ
ウム粒子を配合したことを特徴としている。ＰＴＦＥ樹
脂に配合される薄片状チタン酸カリウム粒子の形状は、
好ましくは、大きさ１〜１００μｍ、厚さ０．０１〜２
μｍである。薄片状チタン酸カリウム粒子の配合量は、
好ましくは、２〜４０重量％である。

【０００５】

【作用】ＰＴＦＥ樹脂中に適量配合される薄片状チタン
酸カリウム粒子は、その薄片状形状の効果として、摺動
部材を多層に強化することにより、摺動面の摩耗抵抗性
を高め、かつ強度，剛性等を高める。また、樹脂中の薄
片状チタン酸カリウム粒子は、摺動面の昇・降温に伴う
内部応力を吸収緩和し、摺動部材の剥離・亀裂を抑制防
止する。主成分樹脂の特性である低摩擦係数等は薄片状
チタン酸カリウム粒子の配合で損なわれることなく、良
好な摺動特性が維持される。薄片状チタン酸カリウム粒
子の配合効果は、同じチタン酸カリウム粒子であって
も、針状形態を有するチタン酸カリウム粒子（ウィス
カ）に比べて、後記実施例にも示したように、低摩擦係
数μの確保、および摩耗抵抗性や剛性等の改善効果にお
いて格段にすぐれている。なお、薄片状チタン酸カリウ
ム粒子は、モース硬度が約３．５程度とガラス繊維等に
比べて適度に軟質であり、相手材攻撃性も少ない。

【０００６】以下、本発明の樹脂組成物の成分構成、お
よびその組成物からなる摺動部材の製造について詳しく
説明する。本発明の樹脂組成物にフィラー材として配合
される薄片状チタン酸カリウム粒子は、一般式：Ｋ₂ Ｏ
・ｎＴｉＯ₂ （ｎは正の整数）で表される合成無機化合
物の多結晶体である。殊に、四チタン酸カリウム（Ｋ₂
Ｔｉ₄ Ｏ₉ ）、六チタン酸カリウム（Ｋ₂ Ｔｉ
₆ Ｏ₁₃）、八チタン酸カリウム（Ｋ₂ Ｔｉ₈ Ｏ₁₇）等の
薄片状粒子は、耐熱性や補強効果の点から好適に使用さ
れる。これらの薄片状チタン酸カリウム粒子は、その１
種のみの使用であってもよく、または２種以上を複合的
に使用してもよい。

【０００７】薄片状チタン酸カリウム粒子のサイズは、
あまり粗大であると、樹脂組成物中の均一配合性が悪く
なり、逆に余りに微細のものでは、薄片状粒子としての
形態的特徴に基づく補強効果（摩耗抵抗性や強度，剛性
等の向上効果）が弱くなる。また、薄片の肉厚について
は、あまり厚くなると、摺動面の平滑性を損ない、逆に
薄過ぎると、樹脂組成物の混合調製において薄片形状が
破損し易く、その配合効果を確保することが困難とな
る。これらの点から、大きさ（面方向さしわたし径）は
約１〜１００μｍ、厚さ約０．０１〜２μｍ程度のもの
が好適である。殊に、その大きさについて、長さ（面方
向の最長さしわたし径）が約５〜１００μｍ、幅（最短
さしわたし径）が約１〜３０μｍ、アスペクト比「長さ
／幅」が約３以上である形態を有するものは、混練・分
散の均一性、補強効果等の点で最も好適に使用される。

【０００８】ＰＴＦＥ樹脂中の薄片状チタン酸カリウム
粒子の配合割合は、目的とする摺動部材の用途・使用条
件等によるが、その配合効果を十分に発現させるため
に、約２重量％以上とするのがよい。その増量に伴って
耐熱性、摩耗抵抗性、耐荷重性等の向上をみるが、余り
多くすると、均一な混練・分散が困難となるほか、ＰＴ
ＦＥ樹脂の結合が弱められ強度の低下をきたす。また焼
成工程において、亀裂・割れ等の発生傾向が増大する。
このため、約４０重量％を上限とするのが適当である。

【０００９】上記薄片状チタン酸カリウム粒子は、樹脂
組成物の調製に先立って、主成分のＰＴＦＥ樹脂中の分
散性，樹脂との結着性の改善のために必要じ応じて、そ
の表面に、シラン系カップリング剤（アミノシラン，ビ
ニルシラン，エポキシシラン，メタアクリロキシラン，
メルカプトキシラン等）、またはチタネート系カップリ
ング剤（イソプロピルトリイソステアロイルチタネー
ト，ジ（ジオクチルパイロホスフェート）エチレンチタ
ネート等）によるカップリング処理が施されて使用され
る。また、本発明の樹脂組成物は、所望により、公知の
固体潤滑剤（例えば、黒鉛，酸化鉛等）を適量（例え
ば、２〜１０重量％）配合することができる。

【００１０】本発明の樹脂組成物の調製、およびその樹
脂組成物からなる摺動部材の製造は、ＰＴＦＥ樹脂に薄
片状チタン酸カリウム粒子を配合する点を除いて、常法
に従って行うことができる。すなわち、ＰＴＦＥ樹脂粉
末に、薄片状チタン酸カリウム粒子の所定量を添加し、
必要に応じ固体潤滑剤を配合し均一に混練して樹脂組成
物を調製する。これを型に充填し、室温下に適当な加圧
力、例えば１０〜３０ＭＰａ（約１００〜３００Kg/cm
² ）で圧縮成形したのち、成形体を型から取り出し、焼
結炉中で温度約３５０〜４００℃に適当時間（例えば１
〜４Ｈｒ）保持することにより焼結処理を達成する。得
られる焼結品は、これを高緻密化し、耐摩耗性、強度・
剛性を高めるために、圧縮成形加工を加えるのが好まし
い。その圧縮成形加工は、炉から取り出した焼結体を直
ちに金型に装入して加圧（約２０〜５０ＭＰａ）下に適
当時間（例えば、２〜１０分間）保持することにより達
成される。加圧成形の後、その成形体に機械加工および
必要な研磨加工を加えて摩擦材に仕上げる。

【００１１】

【実施例】

〔１〕樹脂組成物の調製および摺動部材の製作：ＰＴＦ
Ｅ樹脂の粉末に、フィラーとして薄片状チタン酸カリウ
ム粒子、または針状チタン酸カリウム粒子を配合し、ミ
キサーで均一に混合して樹脂組成物を調製する。これを
金型に充填し、室温下、加圧力24.5ＭＰａ（250Kg/c
m² ）で圧縮成形した後、焼成炉中に装入する。温度３
８０℃で約３時間保持することにより焼結を達成した
後、炉中から取り出し、直ちに金型に入れ、34.4ＭＰａ
(350Kg/cm ² ）で圧縮成形し、そのまま冷却する。これ
に機械加工を加えて試験片を得る。表１に供試材の樹脂
組成を示す。No.1〜3 は、フィラーとして薄片状チタン
酸カリウム粒子を使用した発明例、No.11 〜13は針状チ
タン酸カリウム粒子を配合した比較例、No.14 はフィラ
ー無配合のＰＴＦＥ樹脂単体材である。 ＰＴＦＥ樹脂：ダイキン工業（株）製「ポリフロンTFE
モールデイングパウダーM-15」、 薄片状チタン酸カリウム粒子：（株）クボタ製「ＴＸＡ
Ｘ−ＳＡ」〔粒子形状：長さ１０〜７０μｍ，幅３〜１
５μｍ，厚さ０．２〜１μｍ〕、 針状チタン酸カリウム粒子：大塚化学（株）製「ティス
モ−Ｄ」〔粒子形状：直径０．２〜０．５μｍ、長さ１
０〜２０μｍ〕。

【００１２】

【表１】

【００１３】〔２〕材料特性の評価 (2.1) 摩擦摩耗試験：ピン・オン・ディスク摩擦摩耗試
験により、摩擦係数μおよび比摩耗率（mm³/Kgf・Km）
を測定。 相手材：S45C炭素鋼（表面粗さ １．６Ｓ）、 摩擦速度：0.5 ｍ／秒，摩擦距離：4000ｍ、 摺動面圧：１〜７Kgf 。 (2.2) 曲げ試験：ASTM D790 「プラスチックの曲げ試
験」に準拠して曲げ強度（ＭＰａ）および曲げ弾性率
（ＭＰａ）を求める。 試験片サイズ（ｍｍ）：１２０^L ×１３^W ×６^H 、 スパン距離：１００ｍｍ。

【００１４】ピン・オン・ディスク摩擦摩耗試験結果
を、図１および図２（図１：比摩耗率、図２：摩擦係
数）に示す。曲げ試験結果を、図３および図４（図３：
曲げ強度、図４：曲げ弾性率）に示す。各図中の符号は
供試材Noを示している。図１（図中，左上の枠内は比較
材No.14 ）に示したように、ＰＴＦＥ樹脂に薄片状チタ
ン酸カリウム粒子を配合した発明例No. １〜３は、ＰＴ
ＦＥ樹脂単体材であるNo.14 に比べて、著しく摩耗抵抗
性が高く、その耐摩耗性は面圧が高くなっても安定に保
持されている。針状チタン酸カリウム粒子を添加した供
試材No.11〜13も、ＰＴＦＥ樹脂単体材No. 14に比べて
高度の耐摩耗性を有してはいるが、面圧の増加と共にそ
の摩耗抵抗性は急激に低下し安定性に欠けている。

【００１５】また、図２から明らかなように、薄片状チ
タン酸カリウム粒子を配合した発明例No.1〜3 は、ＰＴ
ＦＥ樹脂単体材であるNo.14 と同等の低摩擦係数を有
し、しかもその低摩擦係数は低面圧から高面圧の広い範
囲に亘つて安定である。これと異なって針状チタン酸カ
リウム粒子を配合した比較例No.11 〜13の摩擦係数は、
ＰＴＦＥ単体材のNo. 14よりも却って増大しており、し
かもその摩擦係数は面圧の変化に伴って変化するという
不安定さを有している。

【００１６】更に、機械性質（図３，図４）をみると、
薄片状チタン酸カリウム粒子を使用した発明例No.1〜3
は、針状チタン酸カリウム粒子を使用した比較例No11〜
13に比し曲げ強度（図３）および曲げ弾性率（図４）の
改善効果が大きく、殊に曲げ弾性率〔剛性〕（図４）の
改善効果は配合量の増加と共に顕著となっている。発明
例No.1〜3 が高い弾性率を有していることは、例えばド
ライベアリングの用途において、荷重による変形や、そ
れに起因する片へりおよび振動等の不具合を生じ難いと
いうことであり、耐荷重性にすぐれ、高速・高面圧の運
転条件における安定な回転運動を確保することが可能と
なることを意味している。

【００１７】

【発明の効果】本発明の樹脂組成物を使用して得られる
摺動部材は、ＰＴＦＥ樹脂特有の低摩擦係数等と共に、
薄片状チタン酸カリウム粒子の配合効果による高度の摩
耗抵抗性や強度，剛性等を有しており、各種分野におけ
る摺動部材形成材料として、苛酷な摺動条件に対する部
材の耐久性・安定性の向上等の要請に応えるものであ
り、例えば、高速度・高面圧摺動条件のドライベアリン
グ等においてもスムースな回転運動を安定に維持するこ
とが可能となる。

【図面の簡単な説明】

【図１】摩擦係数−面圧の測定結果を示すグラフであ
る。

【図２】比摩耗率−面圧の測定結果を示すグラフであ
る。

【図３】曲げ強度の測定結果を示すグラフである。

【図４】曲げ弾性率の測定結果を示すグラフである。

Claims (3)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 ポリテトラフルオロエチレン樹脂を主成
   分とし、これに薄片状チタン酸カリウム粒子を配合した
   ことを特徴とする摺動部材用ふっ素樹脂組成物。
2. 【請求項２】 薄片状チタン酸カリウム粒子の形状が、
   大きさ１〜１００μｍ、厚さ０．０１〜２μｍであるこ
   とを特徴とする請求項１に記載の摺動部材用ふっ素樹脂
   組成物。
3. 【請求項３】 薄片状チタン酸カリウム粒子の配合量
   が、２〜４０重量％であることを特徴とする請求項１な
   いし請求項２に記載の摺動部材用ふっ素樹脂組成物。