JPH029898B2 - - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 この発明は球状黒鉛鋳鉄から成るピストン本体
を具備する鋳鉄ピストン及びその製造方法に関す
るものであり、特に、耐熱性及び強度の優れた鋳
鉄ピストンを提供することを目的としている。

近年、大型デイーゼル機関用ピストンとして、
アルミニウム合金に代つて、球状黒鉛鋳鉄がその
優れた機械的性質を生かした薄肉構造として使用
されてきている。球状黒鉛鋳鉄は、アルミニウム
合金に比較して、高強度でかつ高耐熱性であるこ
と、また熱膨張係数が小さいため、ピストンとシ
リンダ間のクリアランスを小さくしてピストンス
ラツプに起因する騒音を小さくできること、また
熱伝導係数が小さいため、ピストンを通して潤滑
油、冷却水へ流れる熱量を小さくできると共に燃
焼室側の温度が高くなつてエンジンの熱効率を高
めることができること、またセタン価の低い燃料
や低質燃料を使用できることなど種々の利点を有
している。しかしながら、球状黒鉛鋳鉄製のピス
トンを部分的に熱負荷が高くなる部分が生ずるエ
ンジンに使用した場合、そこから熱亀裂が発生し
て、アルミニウム合金製のピストンに比較して必
ずしも寿命が改善されないという大きな欠点があ
ることが判明した。

これは、鋳鉄材料の熱伝導率が悪いため、部分
的に過熱される部分（例えば、直噴機関の燃焼室
口端部や渦流式機関、予燃焼室機関における燃焼
ガスがピストンに突き当る部分のように、燃焼室
を構成するピストンヘツド部の壁面）の温度勾配
が大きくなる結果生ずる過大な熱応力によつて亀
裂が発生するためである。

この発明は、従来の球状黒鉛鋳鉄製ピストンに
おける欠点を改善すべくなされたものであつて、
燃焼室側のピストン強度が実質的な悪影響を生ず
る程損なわれず、耐熱亀裂性が著しく向上した鋳
鉄ピストン及びその製造方法を提供するものであ
る。

この発明に係る鋳鉄ピストンのピストン本体
は、球状黒鉛が析出した球状黒鉛鋳鉄から成つて
いるが、その燃焼室を構成するピストンヘツド部
の壁面には少くとも部分的に、厚さ0.3〜３mm、
より好ましくは0.5〜２mmの片状黒鉛鋳鉄層が形
成されている。この部分における鋳肌直下の片状
黒鉛鋳鉄層の厚みは、熱亀裂防止の観点から最低
0.3mmある必要があり、また余り厚くなるとピス
トン全体の強度が低下して好ましくない。燃焼室
を構成するピストンヘツド部の壁面では、燃料が
燃焼するときに生ずる機械的な応力は小さく、熱
応力の方が大きいため、熱亀裂の発生を防止もし
くはその成長を抑制すれば、ピストンの寿命が向
上される。なお燃焼室を構成するピストンヘツド
部の壁面に形成された上記片状黒鉛鋳鉄層におけ
る片状黒鉛は鋳鉄の機械的強度を低下させる可能
性があるが、燃焼圧力によつて生ずる燃焼室周囲
の応力は通常小さいため、この部分は片状黒鉛組
織であつても強度上問題ない。また熱応力は直噴
機関のピストンの場合には燃焼室口端部の周囲全
体に発生するが、上記片状黒鉛は熱応力による歪
を吸収するよう働くので亀裂の発生を遅らせるこ
とが出来、また熱応力は方向性がないので全ての
片状黒鉛の先端が亀裂の出発点となる可能性があ
つて無数の片状黒鉛の先端に発生する微小な亀裂
が熱応力を解放するため、亀裂の進行速度が遅く
なる。

この発明に係る鋳鉄ピストンは第１図〜第４図
に示す各種の例に従つて製造することができる。
例えば、所定の化学成分を含有する溶湯を作成す
ると共に、第１図に示すように、ウレタン樹脂に
よるコールド・ボツクス法で中子１を作成し、ピ
ストン７の燃焼室２の口端部２ａに対応する中子
１の所定箇所に、S10％を含む土状黒鉛を塗型基
材としかつフエノール樹脂をバインダとし更にメ
タノールを溶媒としてリング状の塗型３を形成す
る。そしてこの中子１をピストンヘツド部が下方
になるように主型４の下部に嵌め込んで、前記溶
湯を注湯し、塗型３を形成した部分２ａに対応し
たピストンヘツド部の表面に例えば約１mm厚みの
リング状の片状黒鉛層５を形成し、残りの部分で
あるピストン本体６を球状化率90％以上の球状黒
鉛鋳鉄か構成した第２図に示すよやうな鋳鉄ピス
トン７を作成する。

片状黒鉛鋳鉄層を形成させる方法としては、Ｓ
の他に球状化を阻害する物質、例えばBi、Pb、
Sb、Snなどの元素を塗型剤に混合する方法など
が挙げられる。またこのような方法によつて、ピ
ストンヘツド部の表面下に片状黒鉛鋳鉄層５を確
実に形成することができる。ただし、球状化阻害
元素のうち、TeおよびＢは、白銑化の傾向があ
り、熱亀裂の点では逆効果となるため、上述の目
的に用いるのはあまり好ましくない。

またイオウ系のガスを発生させる鋳型材料を硬
化剤とする有機粘結剤を用いても片状黒鉛鋳鉄層
５を形成することができる。例えば第３図に示す
ように、尿素変性フラン樹脂を粘結剤としかつパ
ラトルエンスルホン酸を硬化剤とする中子１を使
用し、前述したＳ含有黒鉛の塗型３を形成するこ
とによつて、そのスルホン酸が熱分解して硫化物
系ガスが発生し、これが溶湯と反応する結果、第
１図に示すように塗型剤を単独で使用する場合よ
りも深い部分まで片状黒鉛鋳鉄層５を形成するこ
とができる。ただし、この場合には、片状黒鉛を
所定の箇所以外に析出させないようにするため
に、溶湯と接するその他の部分には、ベンガラ
（Fe₂O₃）などのように、溶湯が注入されたとき
にガラス化して中子１からの硫化物系ガスの溶湯
との反応を防止する作用を有する塗型剤を用いて
別の塗型８を形成しておく必要がある。

なお以上に述べた例において、塗型３は必ずし
も連続したリング状である必要はなく、間欠的な
ものであつてもよい。この場合、片状黒鉛鋳鉄層
５も同様に間欠的なものとなる。また塗型３の塗
型基材としては、黒鉛の他に、アルミナ、ジルコ
ニア、クロマイトサンドなどが挙げられる。しか
し黒鉛は加炭材として作用し、片状黒鉛の生成を
助ける作用があるため、都合がよい。

また第３図に示す方法において、第４図に示す
ように、第１の塗型３を省略して第２の塗型４の
みとしてもよい。この場合、中子１が発生する硫
化物系ガスによつてのみ片状黒鉛の析出が促進さ
れることになる。

この発明において、塗型基材、塗型剤の溶媒、
球状化阻害元素、鋳型用粘結剤とその硬化剤など
は組合せて使用することにより、必要な片状黒鉛
鋳鉄層の厚みを所望の厚みに自由に変えることが
できる。また溶湯の化学成分、調整方法は、ピス
トン本体６の球状化が十分に確保されれば十分で
あり、特に限定されるものではない。

以下、この発明の具体例により更に詳しく説明
する。

具体例 銑鉄（３種１号Ｄ）250Kg、鋼屑130Kg、戻り材
110Kg、Fe−Si0.95Kgを用いて、化学成分がC3.5
％、Si2.5％、Mn0.3％、P0.011％、S0.010％にな
るように高周波電気炉（500Hz×300KW、500Kg）
で溶湯を作成した。次に、第１図に示すように、
ウレタン樹脂によるコールド・ボツクス法で中子
１を作成後、ピストン７の燃焼室２の口端部２ａ
に対応する中子１の所定箇所に、S10％を含有す
る土状黒鉛を塗型基材としかつフエノール樹脂を
バインダーとし更にメタノールを溶媒とするリン
グ状の塗型３を形成した。この中子１を主型４の
下部に嵌め込み、前記溶湯をSi−Mgによつて残
留Mgが0.03％になるように球状化処理しかつFe
−Siで接種してから鋳型内に注湯して、第２図に
示すように、その口端部２ａに厚み約0.5mmのリ
ング状の片状黒鉛鋳鉄層５を有する鋳鉄ピストン
７を形成した。このピストンの残りの部分である
ピストン本体６は球状化率が90％以上の球状黒鉛
鋳鉄から成つていた。このようにして得られた鋳
鉄ピストン７のピストンヘツド部の燃焼室口端部
２ａの光学顕微鏡写真（倍率100）による組織写
真を第５図に示す。この第５図において、上側の
約1/4の部分（灰色部分）は球状黒鉛鋳鉄から成
るピストン本体６の一部であり、下側の約1/6の
空間部分（黒色部分）を除く残りの部分（白つぽ
い部分）は片状黒鉛鋳鉄層５を示している。

このようにして得られたピストン７について高
周波加熱による熱疲労試験を行つた。この試験
は、ピストン７の燃焼室２の口端部２ａを450℃
まで７秒間加熱した後、100℃まで20秒間で空冷
する加熱冷却のサイクルを繰り返すことによつて
行つた。比較のために、球状黒鉛鋳鉄だけからな
るピストンについても同様に試験した。その試験
結果を示す第６図において、直線Ａは上記具体例
によつて得た鋳鉄ピストン、曲線Ｂは比較例の鋳
鉄ピストンについてのものである。

この第６図に示す試験結果から、所定箇所に片
状黒鉛鋳鉄組織を有する本発明によるピストンで
は、球状黒鉛鋳鉄組織のみの比較例のピストンよ
りも亀裂発生が遅く、しかも球状黒鉛鋳鉄組織の
みの比較例の場合、亀裂の数は少ないが大きく長
く成長するのに対し、片状黒鉛鋳鉄組織を有する
本発明によるピストンの場合、細かい数多くの亀
裂が生じるけれど、その成長は非常に遅いことが
確認された。なお細かい亀裂が数多く生じても、
これらが長くならなければ、ピストンが破壊する
ことはなく、その寿命が大きく向上することは云
う迄もない。

【図面の簡単な説明】

第１図はこの発明による鋳鉄ピストンの製造方
法の一例を示す概略断面図、第２図は第１図に示
す方法によつて製造されたこの発明による鋳鉄ピ
ストンの要部の概略断面図、第３図及び第４図は
この発明による鋳鉄ピストンの製造方法のそれぞ
れ別の例を示す概略断面図、第５図は第２図に示
す鋳鉄ピストンの燃焼室口端部の光学顕微鏡写真
（倍率100）による組織写真、第６図は第５図に示
す鋳鉄ピストン及び比較例の鋳鉄ピストンについ
ての高周波加熱による熱疲労試験における加熱冷
却サイクル数と総亀裂長さとの関係を示すグラフ
である。 なお図面に用いられている符号において、１…
…中子、３……塗型、４……主型、５……片状黒
鉛鋳鉄層、６……ピストン本体である。

Claims (1)

1. 【特許請求の範囲】 １ 球状黒鉛鋳鉄から成るピストン本体と、燃焼
   室を構成するピストンヘツド部の壁面に形成され
   た厚さ0.5〜３mmの片状黒鉛鋳鉄層とから構成し
   たことを特徴とする鋳鉄ピストン。 ２ 球状黒鉛鋳鉄から成るピストン本体を具備す
   る鋳鉄ピストンの製造方法において、黒鉛の球状
   化を阻害するＳ、Bi、Pb、Sb及びSnのうちの少
   くとも１種の元素を含む塗型剤を鋳型の所定箇所
   に付着させることによつて、燃焼室を構成するピ
   ストンヘツド部の壁面に厚さ0.3〜３mmの片状黒
   鉛鋳鉄層を形成するようにしたことを特徴とする
   鋳鉄ピストンの製造方法。 ３ 球状黒鉛鋳鉄から成るピストン本体を具備す
   る鋳鉄ピストンの製造方法において、黒鉛の球状
   化を阻害するイオウ系のガスを発生させる鋳型材
   料から成る鋳型を用いて成型することによつて、
   燃焼室を構成するピストンヘツド部の壁面に厚さ
   0.3〜３mmの片状黒鉛鋳鉄層を形成するようにし
   たことを特徴とする鋳鉄ピストンの製造方法。