JP7732016B1 - 摺動式等速自在継手及びその製造方法 - Google Patents

摺動式等速自在継手及びその製造方法

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Abstract

【課題】ダブルオフセット型等速自在継手の誘起スラストを低減して、電動モータを駆動源とした車両(EVやHEV)の動力伝達系に好適に使用可能とする。【解決手段】ダブルオフセット型等速自在継手1の外側継手部材2の円筒状内周面6、外側継手部材2のトラック溝7の表面、内側継手部材3の球状外周面8、内側継手部材3のトラック溝9の表面、保持器5の外周面の球面部13、及び、保持器5の内周面の球面部15のうちの少なくとも一つの面に、粗さ曲線の谷部の底部22に鍛造面、転造面あるいは機械加工面が残るように緩やかな噴射加工(ショットブラスト)を施す。【選択図】図4

Description

本発明は、摺動式等速自在継手及びその製造方法に関する。
自動車のドライブシャフトやプロペラシャフトに適用される等速自在継手は、二軸間の角度変位および軸方向相対移動の双方を許容する摺動式と、二軸間の角度変位を許容するが、二軸間の軸方向相対移動は許容しない固定式とに大別される。
摺動式等速自在継手としては、回転トルクを伝達する転動体としてボールを用いたダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)や、転動体としてローラを用いたトリポード型等速自在継手(TJ)が知られている。例えば下記の特許文献1には、ボールの個数を6個から8個に増やすことで、軽量コンパクト化を図ったダブルオフセット型等速自在継手が示されている。また、下記の特許文献2には、最大作動角を30°以上まで高角化すると共に、さらなる軽量コンパクト化を図ったダブルオフセット型等速自在継手が示されている。
ダブルオフセット型等速自在継手は、トリポード型等速自在継手と比べて、円周方向ガタが少なく応答性に優れ、製造コストが安価であるというメリットがある一方、摺動抵抗(スライド抵抗)が大きく、車両振動、特にアイドリング時のエンジンの振動が伝達されやすいというデメリットがある。そこで、ダブルオフセット型等速自在継手では、様々なアイドリング振動対策が検討されてきた。例えば、下記の特許文献3には、内輪の外周面と保持器の内周面との間に隙間を設けることで、アイドリング振動を吸収する技術が示されている。
特開平10-73129号公報 特開2007-85488号公報 特開2013-231518号公報
しかしながら、車両の乗り心地改善が進むにつれ、等速自在継手に求められるNVH(Noise,Vibration,Harshness)特性もより厳しくなっている。ダブルオフセット型等速自在継手は、構造上、部品同士の滑り接触が発生することは避けられないため、上記特許文献3に示されているような対策を施したとしても、部品同士が主に転がりで接触するトリポード型の摺動式等速自在継手と同等レベルまでスライド抵抗を下げることは難しい。このようなスライド抵抗の問題、特にアイドリング振動の問題がネックとなり、近年では、ダブルオフセット型等速自在継手の適用範囲は、エンジンの振動を受けにくい部位(例えば、リヤ用ドライブシャフト)にほぼ限定されている。
ところで、近年は車両の電動化が進んでおり、電動モータの動力のみで走行する電気自動車(以下、EVと言う。)や、電動モータ及びエンジンの動力で走行するハイブリット車(以下、HEVと言う。)が増えている。電動モータは、エンジンと比べて応答性に優れているため、電動モータの動力を伝達する等速自在継手にも、円周方向ガタが少なく応答性に優れたものが求められる。また、EVではエンジンの振動が発生することが無く、HEVでは、走行停止中(アイドリング中)には基本的にエンジンが停止されるため、これらの車両では、ダブルオフセット型等速自在継手の適用が限定される主要因であるアイドリング振動の問題が生じない。以上の観点から、EVやHEVでは、ドライブシャフトやプロペラシャフト等の動力伝達系に設けられる摺動式等速自在継手として、円周方向ガタが少なく応答性に優れたダブルオフセット型の採用が検討されている。
一方、摺動式等速自在継手では、作動角を取って回転する際に内部部品間の摩擦力に起因して軸方向荷重(誘起スラスト)が発生する。この誘起スラストが車体と共振することにより、発進時の横揺れやこもり音等の様々な振動問題を引き起こすことがある。このような問題は、静粛性に優れたEVやHEVにおいて特に顕著となる。従って、誘起スラストを低減することができれば、ダブルオフセット型等速自在継手を、EVやHEVに好適に使用できる可能性がある。
そこで、本発明は、ダブルオフセット型等速自在継手の誘起スラストを低減して、電動モータを駆動源とした車両(EVやHEV)の動力伝達系に好適に使用可能とすることを目的とする。
上述の通り、誘起スラストは、摺動式等速自在継手の内部部品間の摩擦力に起因して発生する軸方向荷重である。具体的には、図9に示すように、外側継手部材101のトラック溝101aとボール102との接触部の摩擦力に起因する軸方向抵抗Qxと、保持器103の外球面103aと外側継手部材101の円筒状内周面101bとの接触部の摩擦力に起因する軸方向抵抗Hxの合力が誘起スラストとなる。図10に、8個のボールを有するダブルオフセット型等速自在継手の誘起スラストFx(=Qx+Hx)を機構解析により求めた結果を示す。同図に示されるように、ダブルオフセット型等速自在継手では、ボールの個数(同図では8個)と同数の次数成分の誘起スラストが主に発生すると考えられていた。
一方、図11に、8個ボールのダブルオフセット型等速自在継手の実際の誘起スラストを測定した結果を示す。この試験では、車両発進時を想定して、等速自在継手の外側継手部材に回転数150rpmで900Nmのトルクを入力しながら、作動角を0degから12degまで10.7deg/minで変化させたときに、外側継手部材に加わる軸方向荷重(誘起スラスト)を測定した。図11のX軸は、等速自在継手に生じる振動の周波数、Y軸は等速自在継手の作動角、Z軸は外側継手部材に加わる軸方向荷重(誘起スラスト)の大きさを示す。図中の2.5Hzに現れたピークが誘起スラストの1次成分(等速自在継手が1回転する中で1回発生する振動成分)であり、5Hzに現れたピークが2次成分、7.5Hzに現れたピークが3次成分、・・・20Hzに現れたピークが8次成分となる。同図に示された実際の測定結果から、誘起スラストは、8次成分だけでなく、その他の次数成分も多数発生しており、特に1次成分が顕著に現れることが確認できる。
上記のように、様々な次数の誘起スラストが発生した原因としては、以下のようなことが考えられる。上述のように、誘起スラストFxは、ボールと外側継手部材との間の軸方向抵抗Qxと、保持器と外側継手部材との間の軸方向抵抗Hxとの合力である(図9参照)。また、軸方向抵抗Qx、Hxは、それぞれ、各位相で発生する荷重の合力である。尚、「各位相」とは、外側継手部材のトラック溝とボールとの接触部においては、各ボール及びこれに接触する各トラック溝の位相(8個ボールのダブルオフセット型等速自在継手の場合、第1~第8位相)であり、外側継手部材と保持器との接触部においては、外側継手部材のトラック溝間の各球面部及びこれに接触する保持器のポケット間の各柱部の位相(8個ボールのダブルオフセット型等速自在継手の場合、第1~第8位相)である。
ここで、8個ボールのダブルオフセット型等速自在継手において、外側継手部材の各位相のトラック溝に加わる軸方向荷重とその合力(Qx)の機構解析結果を図12、13に示す。図12は、全ての部品が均一な寸法で、且つ、すべての位相の面性状が均一の理想の状態のときの各位相のトラック荷重の軸方向成分及びその合力を示したものである。この場合、すべての位相のトラックにおける軸方向荷重(点線参照)が均一となり、これらの合力は、特定の次数成分(図示例では8次成分)が強く表れた規則的な形状となる(実線参照)。しかし、実際には、各部品の寸法のバラツキや、接触部の面性状のバラツキ等により、内部部品の接触状態が不均一となる。そのため、図13に示すように、各位相のトラックで発生する軸方向荷重にバラツキが生じ(点線参照)、その合力は不規則な形状となる(実線参照)。その結果、誘起スラスト(Fx=Qx+Hx)は、1次成分を含む様々な次数成分が発生する(図11参照)。このように、様々な次数成分の誘起スラストが発生すると、車体との共振点が多くなり、騒音・振動問題を引き起こす可能性がより高くなる。
以上のような観点から、本発明者らは、ダブルオフセット型等速自在継手の各位相の接触部で発生する軸方向荷重を均一化することにより、誘起スラストの各次数成分を抑えることができるのではないかと考えた。具体的に、部品同士の接触部位が境界潤滑の場合、接触面の粗さが摩擦力に影響を及ぼすことはよく知られていることから、各位相の接触部における軸方向荷重(すなわち、摩擦力)を均一化するためには、位相ごとの面粗さのバラツキを抑えることが有効であると考えた。
そこで、本発明は、円筒状内周面に複数の直線状のトラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に複数の直線状のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に配された複数のボールと、前記外側継手部材の円筒状内周面と摺接する球面部が形成された外周面、及び、前記内側継手部材の球状外周面と摺接する球面部が形成された内周面を有し、前記複数のボールを保持する保持器とを備えた摺動式等速自在継手の製造方法において、
前記外側継手部材の円筒状内周面、前記外側継手部材のトラック溝の表面、前記内側継手部材の球状外周面、前記内側継手部材のトラック溝の表面、前記保持器の外周面の球面部、及び、前記保持器の内周面の球面部のうちの少なくとも一つの面を鍛造、転造あるいは機械加工で形成する工程と、
前記面に、当該面の粗さ曲線の谷部の底部に鍛造面、転造面あるいは機械加工面が残るように噴射加工を施す工程とを有する摺動式等速自在継手の製造方法を提供する。
また、本発明は、円筒状内周面に複数の直線状のトラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に複数の直線状のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に配された複数のボールと、前記外側継手部材の円筒状内周面と摺接する球面部が形成された外周面、及び、前記内側継手部材の球状外周面と摺接する球面部が形成された内周面を有し、前記複数のボールを保持する保持器とを備えた摺動式等速自在継手において、
前記外側継手部材の円筒状内周面、前記外側継手部材のトラック溝の表面、前記内側継手部材の球状外周面、前記内側継手部材のトラック溝の表面、前記保持器の外周面の球面部、及び、前記保持器の内周面の球面部のうちの少なくとも一つの面の粗さ曲線の山部の頂部が噴射加工面であり、前記面の粗さ曲線の谷部の底部が鍛造面、転造面あるいは機械加工面の何れかである摺動式等速自在継手を提供する。
このように、本発明では、部品同士の接触面に噴射加工(例えば、ショットブラスト)を施す。この噴射加工は、積極的に新たな凹部(谷部)を形成するものではなく、当該接触面の粗さ曲線の谷部の底部に、噴射加工を施す前の加工面(鍛造面、転造面、あるいは機械加工面)が残るような緩やかな噴射加工である。このような緩やかな噴射加工を施すことで、当該接触面の粗さ曲線の山部が噴射加工で除去あるいは潰されて、面粗さが小さくなる。これにより、位相ごとの面性状のバラツキが抑えられて、各位相の接触部で発生する軸方向荷重が均一化されるため、誘起スラストの各次数成分を低減することができる。
上記の緩やかな噴射加工が施された面の粗さパラメータRskは負の値であることが好ましい。また、上記の緩やかな噴射加工が施された面の粗さパラメータRpは2以下であることが好ましい。
例えば、外側継手部材のトラック溝の表面及び円筒状内周面や、内側継手部材のトラック溝の表面は、製造コストの観点から鍛造で形成されることが多い。このような鍛造面は、面粗さが粗いため、位相ごとの軸方向荷重のバラツキが大きくなりやすい。従って、母材の表面が鍛造面である場合、上記の緩やかな噴射加工を施して粗さのバラツキを抑えることが特に好ましい。この場合、噴射加工を施した面の粗さ曲線の谷部の底部は鍛造面となる。
上記の摺動式等速自在継手は、電動モータを駆動源とした車両の動力伝達系に好適に組み込むことができる。具体的には、電動モータと、車輪と、前記電動モータの駆動力を、上記の摺動式等速自在継手を介して前記車輪に伝達する動力伝達系とを備えた車輪駆動装置を得ることができる。
上記の噴射加工として、例えばショットブラストを施すことができる。また、上記の噴射加工は、少なくとも一部がエラストマーで形成された弾性メディアを用いて行うことができる。
以上のように、本発明によれば、ガタが少なく応答性に優れたダブルオフセット型の摺動式等速自在継手の誘起スラストを低減することができるため、これをEVやHEVの動力伝達系に好適に使用することができる。
本発明の一実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手の軸方向断面図である。 図1の摺動式等速自在継手の軸直交方向断面図である。 噴射加工(ショットブラスト)を施す前のトラック溝の表面の拡大断面図である。 噴射加工(ショットブラスト)を施した後のトラック溝の表面の拡大断面図である。 図1の等速自在継手が搭載された電気自動車(EV)の平面図である。 噴射加工を施す前の外側継手部材のトラック溝の表面の粗さ曲線(左図)、負荷曲線(中央)、及び振幅分布曲線(右図)である。 噴射加工を施した後の外側継手部材のトラック溝の表面の粗さ曲線(左図)、負荷曲線(中央)、及び振幅分布曲線(右図)である。 ダブルオフセット型等速自在継手の誘起スラストの測定結果を示すグラフである。 ダブルオフセット型等速自在継手が作動角を取って回転したときに、軸方向荷重が加わる部位を示す断面図である。 ダブルオフセット型等速自在継手の誘起スラストの解析結果を示す図である。 ダブルオフセット型等速自在継手の誘起スラストの実測結果を示す図である。 外側継手部材のトラック溝に加わる軸方向荷重の解析結果を示す図である(各位相のトラック溝に加わる軸方向荷重が均一である場合)。 外側継手部材のトラック溝に加わる軸方向荷重の解析結果を示す図である(各位相のトラック溝に加わる軸方向荷重が不均一である場合)。
本発明に係る摺動式等速自在継手の実施形態を、図面に基づいて以下に詳述する。
図5は、電動モータの動力のみで走行する電気自動車(EV)を示す。この電気自動車は、前輪51を駆動するフロント側の車輪駆動装置61と、後輪52を駆動するリヤ側の車輪駆動装置62とを有する。各車輪駆動装置61、62は、電動モータを含む駆動ユニット63と、電動モータの駆動力を前輪51あるいは後輪52に伝達する動力伝達系としてのドライブシャフト64とを有する。図示例では、フロント側の車輪駆動装置61の駆動ユニット63が、左右のドライブシャフト64を介して左右の前輪51に連結され、リヤ側の車輪駆動装置62の駆動ユニット63が、左右のドライブシャフト64を介して左右の後輪52に連結される。
各ドライブシャフト64は、例えば、インボード側(駆動ユニット63側)に設けられた摺動式等速自在継手1と、アウトボード側(車輪51、52側)に設けられた固定式等速自在継手65と、両等速自在継手1、65を連結する中間シャフト66とを有する。この摺動式等速自在継手1として、本発明の一実施形態に係るダブルオフセット型等速自在継手が適用される。以下、この摺動式等速自在継手1の構成を詳しく説明する。
本実施形態の摺動式等速自在継手1は、図1及び2に示すように、軸方向一端(図1の左端)を開口したカップ状の外側継手部材2と、外側継手部材2の内周に配された内側継手部材3と、複数のボール4と、複数のボール4を保持する保持器5とを備えている。内側継手部材3、ボール4および保持器5からなる内部部品10が外側継手部材2の内周に軸方向変位可能に収容されている。内側継手部材3の軸孔11に、中間シャフト66(図5参照)の端部がスプライン嵌合により結合される。尚、以下の説明では、図1に示すように作動角0°の状態で、外側継手部材2及び内側継手部材3の軸心方向を「軸方向」と言い、軸方向で外側継手部材2の底部側(図1の右側)を「継手奥側」、外側継手部材2の開口側(図1の左側)を「継手開口側」と言う。
外側継手部材2の円筒状内周面6には、軸方向に延びる直線状のトラック溝7が円周方向複数箇所に等間隔で形成されている。内側継手部材3の球状外周面8には、軸方向に延びる直線状のトラック溝9が円周方向複数箇所に等間隔で形成されている。ボール4は、半径方向で対向する外側継手部材2のトラック溝7と内側継手部材3のトラック溝9との間に1個ずつ配されて、両継手部材2,3の間で回転トルクを伝達する。
保持器5は、複数のポケット12が設けられ、各ポケット12にボール4が一つずつ保持される。保持器5の外周面には、外側継手部材2の円筒状内周面6と摺動する球面部13と、球面部13の軸方向両側に設けられたテーパ面14が形成される。保持器5の内周面には、内側継手部材3の球状外周面8と摺動する球面部15が形成される。本実施形態では、図2に示すように、トラック溝7、9、ボール4、及びポケット12の数が8である場合を示しているが、これに限らず、例えばこれらの数を6としてもよい。
保持器5の外周面の球面部13の曲率中心O1と内周面の球面部15の曲率中心O2(すなわち、内側継手部材3の球状外周面8の曲率中心)は、継手中心O(全てのボール4の中心を通る平面と両継手部材2、3の軸心との交点)に対して軸方向反対側に等距離Fだけオフセットしている(図1参照)。図示例では、保持器5の外周面の球面部13の曲率中心O1が継手中心Oに対して継手奥側にオフセットし、保持器5の内周面の球面部15の曲率中心O2が継手中心Oに対して継手開口側にオフセットしている。これにより、外側継手部材2と内側継手部材3との間に作動角が付与されたとき、保持器5のポケット12に保持されたボール4は、どの作動角においても常にその作動角の二等分面内に維持され、これにより外側継手部材2と内側継手部材3との間での等速性が確保される。また、保持器5に保持されたボール4が外側継手部材2のトラック溝7上を転動することにより、外側継手部材2に対して内部部品10が軸方向移動自在となっている。尚、上記とは逆に、保持器5の外周面の球面部13の曲率中心O1を継手開口側に配し、保持器5の内周面の球面部15の曲率中心O2を継手奥側に配してもよい。
外側継手部材2は、鍛造工程、旋削工程、転造工程、熱処理工程、及び研削工程を経て製造される。鍛造工程では、外側継手部材原形が型成形される。旋削工程では、外側継手部材原形の外周面を旋削する。転造工程では、外側継手部材原形の軸部に雄スプラインを形成する。熱処理工程では、外側継手部材原形に熱処理(例えば、高周波焼き入れ焼き戻し)が施される。研削工程では、外側継手部材原形の外周面が研削される。このような手順で製造されると、外側継手部材2の円筒状内周面6及びトラック溝7は鍛造面となる。
内側継手部材3は、鍛造工程、旋削工程、ブローチ工程、熱処理工程、及び研削工程を経て製造される。鍛造工程では、略円筒状の内側継手部材原形が型成形される。旋削工程では、内側継手部材原形の内周面及び外周面を旋削する。ブローチ工程では、内側継手部材原形の内周に雌スプラインを形成する。熱処理工程では、内側継手部材原形に熱処理(例えば、浸炭焼き入れ焼き戻し)が施される。研削工程では、内側継手部材原形の球状外周面(トラック溝を除く領域)が研削される。このような手順で製造されると、内側継手部材3の球状外周面8は研削面、トラック溝9は鍛造面、内周面(雌スプライン)は切削面となる。
保持器5は、鍛造工程、旋削工程、ポケット打ち抜き工程、熱処理工程、及び研削工程を経て製造される。鍛造工程では、略円筒状の保持器原形が型成形される。旋削工程では、保持器原形の内周面及び外周面を旋削する。ポケット打ち抜き工程では、保持器原形を半径方向に打ち抜いてポケット12を形成する。熱処理工程では、保持器原形に熱処理(例えば、浸炭焼き入れ焼き戻し)を施す。研削工程では、保持器原形の外周面の球面部13、内周面の球面部15、及びポケット12の内面を研削する。このような手順で製造されると、保持器5の外周面の球面部13、内周面の球面部15、及びポケット12の内面は研削面となり、その他の領域はポケット打ち抜き面あるいは旋削面となる。
上記の手順で作成した摺動式等速自在継手1のボール4を除く各部品(外側継手部材2、内側継手部材3、保持器5)の表面のうち、他の部品と接触する接触面に噴射加工を施す。具体的には、外側継手部材2の円筒状内周面6、外側継手部材2のトラック溝7の表面、内側継手部材3の球状外周面8、内側継手部材3のトラック溝9の表面、保持器5の外周面の球面部13、及び、保持器5の内周面の球面部15のうちの少なくとも一つの面に噴射加工を施す。噴射加工は、数μm~数mmの粒子(メディア)を圧縮空気あるいは機械的な遠心力で噴射し,加工表面に衝突させる加工法である。本実施形態では、外側継手部材2のトラック溝7の表面に対し、メディアを噴き付けるショットブラストを施す。
ショットブラストを施す前のトラック溝7の表面は鍛造面であり、図3に示すように多数の微小な凹凸が形成されている。この鍛造面にメディアを噴き付けることにより、図4に示すように粗さ曲線の山部の頂部が潰され、あるいは除去される。このショットブラストは、鍛造面に積極的に凹部を形成するものではなく、粗さ曲線の山部の頂部のみを除去し、粗さ曲線の谷部の底部は成形しない緩やかなものである。このような緩やかなショットブラストが施された後のトラック溝7の表面は、粗さ曲線の山部の頂部21はショットブラストで加工された面(噴射加工面)であり、粗さ曲線の谷部の底部22は、ショットブラストが施されず、鍛造面のまま残っている。
一般的な金属メディアを用いてショットブラストを行うと、表面の粗さ曲線の山部を除去すると同時に、谷部をより深くしてしまうため、図4に示すような面性状を得ることは難しい。そこで、例えば、少なくとも一部がエラストマーで形成された弾性メディアを用いれば、上記のように粗さ曲線の山部の頂部のみを除去する緩やかなショットブラストを行うことができる。弾性メディアとしては、例えば、研磨剤をエラストマーで結合してなる粒子を使用することができる。尚、上記のようにメディアの材質を変える他、メディアの大きさや噴射速度を変えることで、上記のような緩やかなショットブラストを行ってもよい。
上記のような緩やかなショットブラストが施された面(トラック溝7の表面)は、Rskが負の値であること、及び、Rpが2以下であることの少なくとも一方を満たす。上記の条件に加えて、Raが1.5以下であること、好ましくは0.6以下であること、及び、Rzが10以下であること、好ましくは6以下であることの少なくとも一方を満たすことが望ましい。本実施形態では、トラック溝7の表面が上記の全ての条件を満たしている。上記の面粗さパラメータの下限値を設定する必要はないが、例えば、Rskの下限値は-3、Rpの下限値は0.5、Raの下限値は0.2、Rzの下限値は1.0とされる。
尚、Rsk、Rp、Ra、Rzは、それぞれ、JIS B 0601-2013において規定する基準長さの粗さ曲線のスキューネス、最大山高さ、算術平均高さ、最大高さである。Rskは、粗さ曲線の平均線に対して、振幅分布曲線の山が多いときは正、谷が多いときは負の値となる。これらのパラメータの測定は、各部品間接触位置で行われ、軸方向に沿って設けられた基準長さ0.8mm×5区間の合計4mmの範囲で実施する。
上記の摺動式等速自在継手1が作動角を取った状態で、電動モータから外側継手部材2にトルクが入力されると、保持器5及びボール4を介して内側継手部材3にトルクが伝達される。このとき、各部品間の接触部に軸方向の摺動抵抗が生じることで、外側継手部材2に軸方向荷重(誘起スラスト)が発生するが、各部品の寸法や面性状のバラツキに起因して、各位相における軸方向荷重は均一ではなくバラツキが生じる。本実施形態では、上記のように、外側継手部材2のトラック溝7の表面に緩やかなショットブラストを施すことで、この表面の面粗さを小さくして位相ごとの面性状のバラツキを抑えている。これにより、各位相のトラック溝7とボール4との接触部で発生する軸方向荷重が均一化されるため、誘起スラストの各次数成分を低減することができる。
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
上記の実施形態では、外側継手部材2のトラック溝7に緩やかな噴射加工(ショットブラスト)を施す場合を示したが、これに代えて、あるいはこれに加えて、外側継手部材2の円筒状内周面6、内側継手部材3の球状外周面8、内側継手部材3のトラック溝9の表面、保持器5の外周面の球面部13、及び保持器5の内周面の球面部15のうちの1箇所あるいは複数箇所に、上記のような緩やかな噴射加工を施してもよい。例えば、内側継手部材3の球状外周面8、保持器5の外周面の球面部13及び内周面の球面部15に上記の緩やかな噴射加工を施した場合、これらの面の粗さ曲線の山部の頂部は噴射加工面となり、谷部の底部は機械加工面、具体的には研削面となる。また、内側継手部材3のトラック溝9の表面に上記の緩やかな噴射加工を施した場合、この面の粗さ曲線の山部の頂部は噴射加工面となり、谷部の底部は鍛造面となる。
また、外側継手部材2のトラック溝7及び円筒状内周面6、内側継手部材3のトラック溝9は、製造コストを抑えるために上記のように鍛造仕上げとすることが一般的であるが、熱処理(焼き入れ)後の切削加工や研削加工で仕上げてもよい。これらの面に上記の緩やかな噴射加工を施した場合、これらの面の粗さ曲線の山部の頂部は噴射加工面となり、谷部の底部は機械加工面(切削面あるいは研削面)となる。また、保持器5の外周面及び内周面は、上記のように研削仕上げが一般的であるが、熱処理(焼き入れ)後の切削加工や転造加工(ローリング加工)で仕上げてもよい。これらの面に上記の緩やかな噴射加工を施した場合、これらの面の粗さ曲線の山部の頂部は噴射加工面となり、谷部の底部は切削面あるいは転造面となる。
上記の摺動式等速自在継手1において、保持器5のポケット12の軸方向寸法をボール4の直径よりも大きくして、ポケット12の壁面とボール4との間に軸方向隙間を設けてもよい。この軸方向隙間は、例えば、0.001~0.05mmの範囲内に設定することができる。この他、保持器5のポケット12の軸方向寸法をボール4の直径よりも小さくして、ポケット12の壁面とボール4とを負隙間(締め代)を介して接触させてもよい。
また、保持器5の内周面の球面部15と内側継手部材3の球状外周面8との間に、軸方向隙間を設けてもよい。この場合、保持器5と内側継手部材3とが相対的に軸方向移動可能となり、このときの両社の相対的な軸方向移動量の最大値が上記の軸方向隙間となる。この軸方向隙間は、例えば0.6~1.5mmの範囲内に設定することができる。この他、保持器5と内側継手部材3との間の軸方向隙間を実質的に0としてもよい。例えば、保持器5の内周面の球面部15と内側継手部材3の球状外周面8の曲率中心を一致させ、これらの曲率半径を略同一としてもよい。この場合、保持器5の内周面の球面部15と内側継手部材3の球状外周面8との間には、両者の相対移動を許容するための僅かな半径方向隙間が形成されるが、両者の相対的な軸方向移動量はほぼ0となる。
また、本発明に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手は、電動モータの駆動力のみで走行する電気自動車(EV)に限らず、電動モータ及びエンジンの動力で走行するハイブリット車(HEV)や、エンジンの動力のみで走行する車両の動力伝達系に適用することもできる。
上記の等速自在継手1の外側継手部材2のトラック溝7の表面(鍛造面)に、ショットブラストを施していない比較例と、弾性メディアを用いて緩やかなショットブラストを施した実施例とを用意し、それぞれの面粗さ及び誘起スラストを測定した。図6は、比較例の外側継手部材のトラック溝の表面の粗さ曲線、負荷曲線、及び振幅分布曲線である。図7は、実施例の外側継手部材のトラック溝の表面の粗さ曲線、負荷曲線、及び振幅分布曲線である。これらの図から分かるように、ショットブラストを施した実施例のトラック溝の表面は、ショットブラストを施していない比較例のトラック溝の表面よりも粗さが小さくなっており、特に、粗さ曲線の山部が小さくなっている(Rskが負の値になっている)。
図8に、実施例及び比較例の誘起スラストの測定結果を示す。測定条件は、図11の試験と同様であり、具体的には、回転数150rpmで900Nmのトルクを入力しながら、作動角を0degから12degまで10.7deg/minで変化させたときに、外側継手部材に加わる軸方向荷重(誘起スラスト)を測定した。この図からわかるように、外側継手部材のトラック溝に緩やかなショットブラストを施した実施例は、トラック溝にショットブラストを施していない比較例と比べて、誘起スラスト、特に比較的大きい作動角(7°以上)における誘起スラストが低減されている。
1 摺動式等速自在継手(ダブルオフセット型等速自在継手)
2 外側継手部材
3 内側継手部材
4 ボール
5 保持器
6 円筒状内周面
7 トラック溝
8 球状外周面
9 トラック溝
10 内部部品
12 ポケット
13 球面部
14 テーパ面
15 球面部
21 山部の頂部
22 谷部の底部
51 前輪
52 後輪
61、62 車輪駆動装置
63 駆動ユニット
64 ドライブシャフト(動力伝達系)
65 固定式等速自在継手
66 中間シャフト
O 継手中心
O1 保持器の外周面の球面部の曲率中心
O2 保持器の内周面の球面部の曲率中心
Fx 誘起スラスト
Qx 外側継手部材-ボール間の軸方向抵抗
Hx 外側継手部材-保持器間の軸方向抵抗

Claims (9)

  1. 円筒状内周面に複数の直線状のトラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に複数の直線状のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に配された複数のボールと、前記外側継手部材の円筒状内周面と摺接する球面部が形成された外周面、及び、前記内側継手部材の球状外周面と摺接する球面部が形成された内周面を有し、前記複数のボールを保持する保持器とを備えた摺動式等速自在継手において、
    前記外側継手部材の円筒状内周面、前記外側継手部材のトラック溝の表面、前記内側継手部材の球状外周面、前記内側継手部材のトラック溝の表面、前記保持器の外周面の球面部、及び、前記保持器の内周面の球面部のうちの少なくとも一つの面の粗さ曲線の山部の頂部が噴射加工面であり、前記面の粗さ曲線の谷部の底部が鍛造面、転造面あるいは機械加工面の何れかである摺動式等速自在継手。
  2. 前記面の粗さパラメータRskが負の値である請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
  3. 前記面の粗さパラメータRpが2以下である請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
  4. 前記面の粗さ曲線の谷部の底部が鍛造面である請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
  5. 電動モータを駆動源とした車両の動力伝達系に設けられる請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
  6. 電動モータと、車輪と、前記電動モータの駆動力を、請求項1に記載の摺動式等速自在継手を介して前記車輪に伝達する動力伝達系とを備えた車輪駆動装置。
  7. 円筒状内周面に複数の直線状のトラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に複数の直線状のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に配された複数のボールと、前記外側継手部材の円筒状内周面と摺接する球面部が形成された外周面、及び、前記内側継手部材の球状外周面と摺接する球面部が形成された内周面を有し、前記複数のボールを保持する保持器とを備えた摺動式等速自在継手の製造方法において、
    前記外側継手部材の円筒状内周面、前記外側継手部材のトラック溝の表面、前記内側継手部材の球状外周面、前記内側継手部材のトラック溝の表面、前記保持器の外周面の球面部、及び、前記保持器の内周面の球面部のうちの少なくとも一つの面を鍛造、転造あるいは機械加工で形成する工程と、
    前記面に、当該面の粗さ曲線の谷部の底部に鍛造面、転造面あるいは機械加工面が残るように噴射加工を施す工程とを有する摺動式等速自在継手の製造方法。
  8. 前記噴射加工がショットブラストである請求項7に記載の摺動式等速自在継手の製造方法。
  9. 少なくとも一部がエラストマーで形成された弾性メディアを用いて前記噴射加工を施す請求項7に記載の摺動式等速自在継手の製造方法。
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