JP7645115B2 - 写像性および耐疵付き性に優れる鏡面仕上げ複相ステンレス鋼およびその製造方法 - Google Patents
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「ステンレス鋼」との用語は、具体的な形状が限定されないステンレス鋼材を意味する。このステンレス鋼材としては、例えば、鋼板、鋼管、条鋼等が挙げられる。
始めに、一般的なステンレス鋼帯の製造工程の一例について概略的に説明する。一般的なステンレス鋼帯の製造工程は、一例では、製鋼工程、熱間圧延工程、焼鈍工程、酸洗工程、冷間圧延工程、焼鈍・酸洗工程、および仕上圧延工程をこの順に含む。従来の製造工程におけるこれらの各工程については、公知の内容であることから、以下に説明することを除いて詳細な説明を省略する。
複相ステンレス鋼は、相対的に軟質であり延性を有するフェライト相と、強度の高いマルテンサイト相とからなる複相金属組織を有する。そのため、複相ステンレス鋼は、強度および延性の両方を備えるステンレス鋼として知られている。しかしながら、当該複相ステンレス鋼の硬度が高い(例えば、350HVより大きい)場合、変形抵抗が大きく、鏡面仕上げステンレス鋼を得るための工程の1つである矯正工程において、十分な平坦度が得られない場合がある。また、鏡面研磨工程では、研磨負荷が高くなり、砥石消費量が増大してしまう。
図1は、本発明の一実施形態に係る複相ステンレス鋼の任意の断面のSEM写真である。図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る複相ステンレス鋼の任意の断面において、炭化物は、材料内に分散した粒状物として観察され得る。当該複相ステンレス鋼中に存在する炭化物としては、例えば、(Fe,Cr)23C6などが挙げられる。炭化物の面積率とは、複相ステンレス鋼の断面の所定領域における、炭化物が存在している領域(炭化物粒子の面積の総和)の割合である。炭化物の長径とは、粒子状の炭化物の直径のうち、最大の長さの径を意味する。本発明の一実施形態に係る複相ステンレス鋼では、当該複相ステンレス鋼の断面において確認される個々の炭化物の長径が1μm以下である。マルテンサイト相および炭化物の面積率、ならびに炭化物の長径を測定するときの複相ステンレス鋼の断面の方向は特に限定されない。例えば、複相ステンレス鋼の圧延方向および板厚方向に平行な断面であってよい。
本実施形態に係る複相ステンレス鋼は、必須の成分として、質量%で、0.01~0.2%のC、0.01~2.0%のSi、0.1~4.0%のMn、0.05%以下のP、0.03%以下のS、10~20%のCr、0.01~4.0%のNi、0.15%以下のN、0.01%以下のOを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
本実施形態に係る複相ステンレス鋼は、上記の必須成分に加えて下記の元素群のうち1種類または2種類以上を選択的に含有していてもよい。
本発明の一実施形態に係る鏡面仕上げ複相ステンレス鋼の製造方法の一例について、以下に説明する。本発明の一実施形態に係る鏡面仕上げ複相ステンレス鋼の製造方法は、一般的なステンレス鋼の製造方法における最終焼鈍工程において、複相化熱処理を施した後、矯正工程および鏡面研磨工程を施すことを特徴とする。
前処理工程では、先ず、真空溶解炉を用いて、本発明の範囲内となるように組成を調整した鋼を溶製する。この鋼を鋳造して鋼塊を製造する。
熱間圧延工程では、上記前処理工程後の鋼塊を熱間圧延することにより、熱延鋼帯を製造する。熱間圧延工程における温度は一般的な範囲内であってよく、例えば800~1250℃程度であってよい。
第1の焼鈍工程では、上記熱延鋼帯に対して、例えばバッチ型焼鈍炉(ベル型焼鈍炉)を用いて焼鈍(バッチ焼鈍)を行う。この焼鈍工程を第1の焼鈍工程と称する。
第1の酸洗工程では、第1の焼鈍工程により得られた焼鈍鋼帯に対して酸洗処理を施す。この第1の酸洗工程では、焼鈍鋼帯の脱スケール処理が行われる。
冷間圧延工程では、上記酸洗工程によって脱スケールされた上記焼鈍鋼帯に対して、例えば圧下率50~90%にて冷間圧延を施すことにより冷延鋼帯とする。
本実施形態に係る複相ステンレス鋼の製造方法では、最終焼鈍工程として、上記冷間圧延工程によって冷延された上記冷延鋼帯に対して、複相化熱処理を施す。具体的には、冷延鋼帯を、800~1100℃、好ましくは900~1000℃の複相化温度域まで加熱し、前記複相化温度域での1分未満、好ましくは40秒以下の均熱保持後、1℃/s以上、好ましくは3℃/s以上の冷却速度で冷却する。最終焼鈍工程では、冷延鋼帯を800~1100℃の複相化温度域まで加熱することにより、フェライト相と、後の冷却によってマルテンサイト相に変態するオーステナイト相との2相の金属組織を生じさせる。その後、加熱した冷延鋼帯を1℃/s以上の冷却速度で冷却することにより、オーステナイト相をマルテンサイト相に変態させる。
必要に応じ、最終焼鈍工程後の鋼帯に対して、第2の酸洗工程における最終的な酸洗処理、および仕上げ圧延工程を行う。
矯正工程では、仕上げ圧延工程後の鋼帯に対して、例えば、テンションレベラを用いて繰り返し引張曲げ戻し加工を与えて平坦度を向上させる、矯正処理を施す。鏡面仕上げ複相ステンレス鋼は高い平坦度を必要とするため、圧延工程だけでは必要とされる平坦度を満足することができない。矯正処理を施すことにより、圧延工程後に残存する形状不良または反り不良などの平坦度不良(例えば、うねり)を改善することができる。
鏡面研磨工程は、矯正工程後の鋼帯に対して、バフで研磨することにより、鋼帯表面を鏡面加工する工程である。バフによる研磨方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。また、バフ研磨に用いられる砥石の砥粒サイズは任意に選択され得る。鏡面研磨工程を施すことにより、表面の算術平均粗さ(Ra)が0.1μm以下の鏡面仕上げ複相ステンレス鋼が得られる。
上述の製造方法によって得られた本発明の一実施形態に係る鏡面仕上げ複相ステンレス鋼は、フェライト相およびマルテンサイト相を含む。また、前記鏡面仕上げ複相ステンレス鋼の硬度は200~350HV、うねり(算術平均うねり:Wa)は2.0μm以下、表面粗さは0.1μm以下である。さらに、当該鏡面仕上げ複相ステンレス鋼の断面において、マルテンサイト相の面積率は60~80%であり、炭化物の面積率は0.5~2.0%であり、当該炭化物の長径は1μm以下である。
以上の通り例示した鏡面仕上げ複相ステンレス鋼の製造方法によって得られる複相ステンレス鋼は、優れた写像性および耐疵付き性を有している。また、本発明の一実施形態に係る複相ステンレス鋼の製造方法は、複相化熱処理後に追加の熱処理を施すことなく、高強度かつ変形加工性に優れた複相ステンレス鋼を得ることができる。さらに、高強度であるにもかかわらず、研磨負荷が低いため砥石消費量が抑制され、製造コストが増大する可能性を低減して鏡面仕上げ複相ステンレス鋼を製造することが可能である。
以下に、本発明の実施例(本発明例)および比較例に係るステンレス鋼板を評価した結果について説明する。
各条件での最終焼鈍工程、矯正工程および鏡面研磨工程を施すことによって得られた鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板について、各鋼板の断面におけるマルテンサイト相の面積率を測定した。各鋼板について、圧延方向および板厚方向に平行な断面の板厚中心部を、光学顕微鏡を用いて1000倍で撮影した。撮影した組織写真を基に点算法(JIS G0555)によってマルテンサイト相の体積率を求めた。結果を、表2の「マルテンサイト面積率(%)」に示した。
各条件での最終焼鈍工程、矯正工程および鏡面研磨工程を施すことによって得られた鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板について、各鋼板の断面における炭化物の面積率を測定した。各ステンレス鋼板の圧延方向および板厚方向に平行な断面の板厚中心部を、SEM(操作電子顕微鏡)を用いて2000倍で撮影した。撮影した反射電子像を基に、点算法(JIS G0555)によって炭化物の面積率を求めた。結果を、表2の「炭化物面積率(%)」に示した。
各条件での最終焼鈍工程、矯正工程および鏡面研磨工程を施すことによって得られた鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板に存在する炭化物の長径を測定した。各鋼板の圧延方向に平行な断面の板厚中心部を、SEMを用いて2000倍で撮影した。撮影した反射電子像における最大の炭化物の長径を測定し、結果を表2の「炭化物径(μm)」に示した。
各条件での最終焼鈍工程、矯正工程および鏡面研磨工程を施すことによって得られた鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板について、JIS Z2244に基づき、ビッカース硬さ試験機を用い、試験荷重を5kgとして、各ステンレス鋼板のビッカース硬さを測定した。評価結果を表2の「ビッカース硬さ(HV)」に示した。
各条件での最終焼鈍工程、矯正工程および鏡面研磨工程を施すことによって得られた鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板について、JIS B0601に基づき、うねり(算術平均うねり:Wa)を測定した。測定結果を表2の「うねり(μm)」に示した。
各条件での最終焼鈍工程、矯正工程および鏡面研磨工程を施すことによって得られた鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板について、JIS B0601に基づき、表面の算術平均粗さ(Ra)を測定した。測定結果を表2の「粗さ(μm)」に示した。
各条件での最終焼鈍工程、矯正工程および鏡面研磨工程を施すことによって得られた鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板について、JIS H8686に基づき、写像性を測定した。測定結果を表2の「写像性(%)」に示した。
各条件での最終焼鈍工程、矯正工程および鏡面研磨工程を施すことによって得られた鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板について、耐疵付き性を評価した。耐疵付き性の評価は、100gfの荷重をかけた試験針を鋼板表面に摺動させ、目視で疵の有無を確認することにより実施した。表2において、「〇」は疵が視認されず、耐疵付き性が良好であったことを示している。一方「×」は疵が視認され、耐疵付き性が不良であったことを示している。
うねりおよび表面粗さは、鏡面加工した製品の表面品質として小さい方が好ましい。本発明では、うねり2.0μm以下、表面粗さ0.1μm以下であることを、注目するステンレス鋼が本発明の技術的範囲内に含まれる条件の一部とする。表2において、比較例No.14、15、17、18、20~23は、他の実施例および比較例と同様の矯正処理および鏡面研磨処理を施したにもかかわらず、うねりが2.0μmより大きく、表面の算術平均粗さが0.1μmよりも大きくなった。この結果は、硬度が高いことにより、変形加工性または研磨性が低下したことが要因であると考えられる。発明鋼種本発明の製造方法を適用した実施例No.1~13は、全てうねり2.0μm以下、表面の算術平均粗さ0.1μm以下であった。
図2は、複相化温度での保持時間および複相化温度が複相ステンレス鋼の硬度に及ぼす影響を示すグラフである。上記鋼種Iの組成を有する鋼板に対して、保持時間が40秒と90秒との場合について、複相化温度を900~1100℃の間で変化させた場合の複相ステンレス鋼のビッカース硬さ(HV5)を測定した。HV5の値は、ビッカース硬さの測定について上述したように、ビッカース硬さ試験機を用い、試験荷重を5kgとして測定したときの硬さを示す。保持時間について、40秒は、本発明の範囲内であり、90秒は、本発明の範囲外である。
図3は、複相化温度での保持時間および複相化温度が、複相ステンレス鋼のマルテンサイト面積率(M率)に及ぼす影響を示すグラフである。上記鋼種Iの組成を有する鋼板に対して、保持時間が40秒と90秒との場合について、複相化温度を900~1100℃の間で変化させた場合のマルテンサイト相の面積率を測定した。マルテンサイト相の面積率の測定は、上述した方法に従って実施した。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
Claims (6)
- 質量%で、0.01~0.2%のC、0.01~2.0%のSi、0.1~4.0%のMn、0.05%以下のP、0.03%以下のS、10~20%のCr、0.01~4.0%のNi、0.15%以下のN、0.01%以下のOを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である組成を有し、
フェライト相およびマルテンサイト相を含み、
硬度が200~350HV、うねりが2.0μm以下、表面の算術平均粗さ(Ra)が0.1μm以下であり、
任意の断面において、前記マルテンサイト相の面積率は60~80%であり、炭化物の面積率は0.5~2.0%であり、個々の前記炭化物の長径は1μm以下である、鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板。 - 質量%で、4.0%以下のCuを含有する、請求項1に記載の鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板。
- 質量%で、1.0%以下のMo、1.0%以下のW、0.5%以下のCo、0.2%以下のAl、1.0%以下のV、1.0%以下のNb、1.0%以下のTi、0.005%以下のB、0.005%以下のCa、0.005%以下のMg、0.5%以下のSn、0.5%以下のSb、0.01%以下のGa、0.01%以下のTa、0.5%以下のZr、0.1%以下のY、0.01%以下のHfおよび0.1%以下のREMの少なくとも何れか1つを含有する、請求項1または2に記載の鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板。
- 冷間圧延工程後に800~1100℃の温度域まで加熱し、前記温度域での1分未満の均熱保持後、1℃/s以上の冷却速度で冷却する、最終焼鈍工程と、
繰り返し引張曲げ戻し加工による矯正工程と、
鏡面研磨工程を含む、請求項1に記載の鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板の製造方法。 - 前記鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板は、質量%で4.0%以下のCuを含有する、請求項4に記載の鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板の製造方法。
- 前記鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板は、質量%で、1.0%以下のMo、1.0%以下のW、0.5%以下のCo、0.2%以下のAl、1.0%以下のV、1.0%以下のNb、1.0%以下のTi、0.005%以下のB、0.005%以下のCa、0.005%以下のMg、0.5%以下のSn、0.5%以下のSb、0.01%以下のGa、0.01%以下のTa、0.5%以下のZr、0.1%以下のY、0.01%以下のHfおよび0.1%以下のREMの少なくとも何れか1つを含有する、請求項4または5に記載の鏡面仕上げ複相ステンレス鋼板の製造方法。
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