JP7546264B2 - ダイヤモンドの製造方法 - Google Patents

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Description

本開示は、ダイヤモンドの製造方法に関する。
ダイヤモンドの合成法としては、高温高圧(HPHT)法、化学蒸着(CVD)法、又は爆轟(Detonation)法などが知られている。HPHT法は、例えば、特許文献1に記載されている。CVD法は、例えば、特許文献2に記載されている。
特表2016-539072号公報 特表2019-519111号公報
HPHT法は、例えば、1500℃及び5万気圧の高温高圧状態を必要とする。CVD法は、精密かつ精巧な装置を必要とし、プラズマ発生等のためのエネルギ消費が多い。爆轟法は巨大な爆発力発生装置を必要とする。
本発明者は、HPHT法、CVD法、及び爆轟法とは異なる、新たなダイヤモンドの製造方法を見出した。
開示のダイヤモンドの製造方法は、化学反応によって液中に炭素が生じる反応液中にダイヤモンド基材が浸漬された状態を得ることを備える。
開示の製造方法は、前記反応液に紫外線を照射することを更に備えるのが好ましい。
前記反応液は、第1液及び第2液を混合することで調製されるのが好ましい。開示の製造方法は、前記反応液中に前記ダイヤモンド基材が浸漬された状態において、前記反応液に、前記第1液及び第2液を補充することを更に備えることができる。
前記第1液は、溶剤を含むのが好ましい。前記第2液は、強アルカリ溶液を含むのが好ましい。前記第1液及び前記第2液の少なくともいずれか一方は、炭素化合物を含むのが好ましい。
前記溶剤は、炭化水素系の溶剤であるのが好ましい。
前記溶剤は、アセトンであるのが好ましい。
前記強アルカリ溶液は、水酸化カリウム溶液であるのが好ましい。
前記第1液は、前記溶剤によって溶解する第1炭素化合物を含むのが好ましい。
前記第1炭素化合物は、プラスチックであるのが好ましい。
前記プラスチックは、発泡プラスチックであるのが好ましい。
前記第2液は、前記強アルカリ溶液によって溶解あるいは分解される第2炭素化合物を含むのが好ましい。
前記第2炭素化合物は、生体由来の炭素化合物であるのが好ましい。
前記第2炭素化合物は、タンパク質及び炭水化物の少なくともいずれか一方であるのが好ましい。前記第2炭素化合物は、タンパク質及び炭水化物の両方を含んでもよい。
図1は、ダイヤモンドの成長原理図である。 図2は、ダイヤモンド製造装置の概略図である。 図3は、第1実験におけるPCD表面の観察結果を示す図である。 図4は、第1実験におけるPCD表面のラマンスペクトルである。 図5は、第2実験におけるPCD表面の観察結果を示す図である。 図6は、第2実験における15月後のPCD表面の原子力間顕微鏡写真である。 図7は、第2実験におけるPCD表面のラマンスペクトルである。 図8は、第3実験におけるPCD表面の観察結果を示す図である。 図9は、第3実験におけるPCD表面のラマンスペクトルである。 図10は、第4実験における天然ダイヤモンド表面の観察結果を示す図である。 図11は、第4実験におけるダイヤモンド表面のラマンスペクトルである。 図12は、第5実験におけるHPHT合成ダイヤモンド表面の観察結果を示す図である。 図13は、第5実験におけるHPHT合成ダイヤモンド表面のラマンスペクトルである。 図14は、第6実験におけるPCD表面の観察結果を示す図である。 図15は、第6実験における15月後のPCD表面の原子力間顕微鏡写真である。 図16は、第6実験におけるPCD表面のラマンスペクトルである。 図17は、第7実験におけるPCD表面の観察結果を示す図である。 図18は、第7実験におけるPCD表面のラマンスペクトルである。 図19は、第8実験における天然ダイヤモンド表面の観察結果を示す図である。 図20は、第8実験における天然ダイヤモンド表面のラマンスペクトルである。 図21は、第8実験における天然ダイヤモンド表面のラマンスペクトルである。 図22は、第9実験におけるHPHT合成ダイヤモンド表面の観察結果を示す図である。 図23は、第9実験におけるHPHT合成ダイヤモンド表面のラマンスペクトルである。 図24は、第9実験におけるHPHT合成ダイヤモンド表面のラマンスペクトルである。 図25は、第10実験における天然ダイヤモンドパウダーの観察結果を示す図である。 図26は、第10実験における天然ダイヤモンドパウダー表面のラマンスペクトルである。 図27は、第10実験における天然ダイヤモンドパウダー表面のラマンスペクトルである。 図28は、第10実験における分塊された粒子の表面とラマンスペクトルを示す図である。 図29は、3月後における第12実験の反応液と第11実験の第2液の写真である。 図30は、第12実験におけるPCD表面の観察結果を示す図である。 図31は、第12実験におけるPCD表面のラマンスペクトルである。 図32は、液の乾燥物のラマンスペクトルである。 図33は、第13実験における液の乾燥物のラマンスペクトルである。
<1.製造方法>
実施形態において、ダイヤモンドは、反応液中にダイヤモンド基材が浸漬された状態を得ることで、ダイヤモンド基材上において成長する。反応液中のダイヤモンド基材は、種結晶として作用する。本発明者は、液中の炭素(炭素原子)が、ダイヤモンド基材上で結晶化し、液中で炭素物質の結晶が成長するという現象を実験的に見出した。そして、様々な実験の結果、ダイヤモンド基材上に生成された炭素物質の結晶は、ダイヤモンドであると同定された。実験結果については後述する。
実施形態において、ダイヤモンドは、化学反応を利用して、液中で生成されたため、実施形態に係る製造方法は、化学液相成長法と呼ぶことができる。また、実施形態に係る製造方法によって製造されるダイヤモンドは、化学液相成長ダイヤモンドと呼ぶことができる。
実施形態に係る反応液は、炭素化合物を含むことができる。また、反応液は、有機化合物を含むことができる。有機化合物は反応液中の化学反応により生じる。反応液中の炭素化合物および有機化合物は、反応液において、外部から与えられるエネルギによって分解される。炭素化合物および有機化合物の分解によっても、反応液中に炭素(炭素原子)が生じる。
反応液において生じる化学反応は、反応液中に炭素を生じさせる。化学反応は、液中において炭素が生じる反応であれば特に限定されない。炭素は様々な化合物に含まれているため、炭素を生じさせる化学反応も様々なものがある。実施形態の製造方法で用いられる化学反応は、反応液中において炭素が生じればよいため、様々な化学反応を、実施形態の製造方法における化学反応として利用可能である。反応液中に生じた炭素は、反応液中において成長するダイヤモンドの原料になる。
化学反応は、例えば、複数の物質同士の反応によって、炭素が生成されることである。化学反応の他の例は、反応液に対して外部から与えられたエネルギによって、反応液中の物質から炭素が生成されることである。外部から与えられるエネルギは、例えば、紫外線である。炭素化合物および有機化合物の分子結合エネルギよりも大きい紫外線エネルギが与えられると、炭素化合物および有機化合物の分子結合は切断される。外部から与えられるエネルギは、熱であってもよい。なお、化学反応としては、複数の物質同士の反応と、外部エネルギによる反応と、が併用されてもよい。
反応液中の炭素化合物および有機化合物は、反応液中において生じる化学反応によって、結合橋が切断される。炭素化合物における炭素原子の結合が切断されることにより、炭素原子が遊離する。つまり、炭素化合物に含まれる炭素は、反応液中において分解され、バラバラの原子状態になる。反応液中の炭素は、ダイヤモンドの成長の促進のため、過飽和状態にあるのが好ましい。つまり、反応液は、過飽和炭素溶液であるのが好ましい。
反応液中の炭素は、種結晶である基材上において結晶成長する。実験によれば、基材がダイヤモンドである場合に、基材上にダイヤモンドが成長することが確認された。反応液中の炭素(炭素原子)が、ダイヤモンド基材の結晶格子を構成する炭素原子に結合して、析出及び集合し、ダイヤモンドが成長したものと考えられる。よって、基材は、ダイヤモンド基材であるのが好ましい。
種結晶となる基材を構成するダイヤモンドは、天然ダイヤモンドであってもよいし、合成ダイヤモンドであってもよい。合成ダイヤモンドは、例えば、HPHT合成ダイヤモンド、CVD合成ダイヤモンド、Dotonation合成ダイヤモンドである。多結晶ダイヤモンド(PCD)は天然ダイヤモンドあるいは合成ダイヤモンドの焼結体である。なお、天然ダイヤモンドは単結晶である。HPHT合成ダイヤモンドは単結晶である。CVD合成ダイヤモンドは単結晶と多結晶である。Dotonation合成ダイヤモンドは単結晶と多結晶である。
ダイヤモンド基材の形状は特に限定されない。ダイヤモンド基材は、板状であってもよいし、粒状又は粉末状であってもよい。ダイヤモンド基材は、反応液と接触していればよい。ダイヤモンド基材は、化学反応が発生中である反応液と接触しているのが好ましい。換言すると、ダイヤモンド基材がダイヤモンドに浸漬されている状態において、反応液中の化学反応が持続するのが好ましい。
実施形態のダイヤモンドの製造方法は、炭素が生じる化学反応が生じる条件下であれば実施できるため、例えば、大気圧下、かつ、比較的低い温度下にて実施可能である。すなわち、実施形態の製造方法は、常温常圧においても実施可能である。実施形態の製造方法は、大気圧下、すなわち常圧下、において実施可能であるため、大気圧よりも高圧又は低圧にする装置が不要になる。比較的低い温度は、例えば、常温程度である。実施形態の製造方法は、常温下で実施可能であるため、温度を高くする装置が不要である。なお、常温は、5℃から35℃の範囲の温度である。
実施形態の製造方法が実施される温度の下限は、例えば、0℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは20℃以上である。実施形態におけるダイヤモンドの製造方法が実施される温度の上限は、例えば、100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下であり、さらに好ましくは50℃以下である。実施形態のダイヤモンドの製造方法が実施される温度の範囲は、例えば、0℃から100℃の範囲であり、好ましくは5℃から80℃であり、より好ましくは10℃から70℃であり、さらに好ましくは20℃から50℃である。
図1は、本発明者が様々な実験結果に基づいて推定したダイヤモンド成長原理を示している。まず、反応液(solution)中に存在する炭素化合物および有機化合物などの高分子(Polymers)の結合橋が切断される(ステップS11)。結合橋の切断は、例えば、紫外線(UV light)などの照射による。高分子の結合橋の切断によって、反応液中にモノマーが生じる(ステップS12)。モノマーは、紫外線などによって、さらに切断され、炭素原子が反応液中に遊離する。炭素が十分に生成されると反応液は過飽和炭素溶液になる。反応液中の炭素が、ダイヤモンドの原料となる。反応液中の炭素原子は、種結晶(Seed crystal)であるダイヤモンド基材上において、アモルファスとなって析出する(ステップS13)。アモルファスは、ダイヤモンド基材上において、相転移(Phase transition)によって結晶化し、ダイヤモンド結晶として析出する(ステップS14)。
実施形態のダイヤモンドの製造方法では、反応液中の化学反応により生成した有機化合物などの結合橋が切断されて炭素に分解され、反応液中において炭素が過飽和状態になるものと考えられる。そして、過飽和状態にある炭素は、自己組織化して、ダイヤモンド基材の上に自発的集合し、ダイヤモンドとして成長するものと考えられる。実施形態の製造方法によれば、液中でダイヤモンドを培養するが如く、ダイヤモンドを製造することができる。したがって、実施形態の製造方法は、ダイヤモンドの液中養殖法ということもできる。実施形態の製造方法によれば、反応液中の炭素の自己組織化と自発的集合とによりダイヤモンドが生成されるため、エネルギ消費は少ない。
実施形態において、化学反応による結合橋の切断とダイヤモンドの析出とは並行して行われるのが好ましい。ダイヤモンドの析出と並行して、化学反応による結合橋の切断による炭素の生成が持続的に行われることで、ダイヤモンドの析出中において、ダイヤモンドの原料となる炭素が反応液中へ持続的に供給される。ダイヤモンドの析出は、比較的長い期間を要するが、炭素が長期間にわたり持続的に供給されるため、長い期間をかけたダイヤモンドの析出が可能となる。つまり、反応液からの炭素の生成が長期間にわたって継続的に生じることで、ダイヤモンドの原料となる炭素原子が反応液に遊離した状態が長期間にわたって維持され、その結果、反応液中に遊離している炭素原子が、時間をかけてダイヤモンドとして成長することができる。
<2.反応液>
実施形態に係る反応液は、複数の液体を混合することで調製される。実施形態において、複数の液体は、第1液と第2液とを含む。以下では、反応液を「溶媒」ということがある。
実施形態において、反応液中に炭素を生じさせる化学反応は、第1液と第2液とを混合することで反応が生じる化学反応を含むのが好ましい。ダイヤモンドの析出中において、別々に用意された第1液及び第2液それぞれを反応液へ供給し続けることで、化学反応が持続し、ダイヤモンドの原料となる炭素が反応液において継続的に生成される。つまり、実施形態においては、炭素を生じさせる化学反応と、ダイヤモンドの析出とが並行して進行する。
実施形態において、反応液には紫外線が照射されるのが好ましい。紫外線は、炭素を生じさせる反応を促進させる。また、ダイヤモンドの析出も、紫外線が照射された反応液において行われる。
実施形態に係る第1液は、第1溶剤と、第1炭素化合物と、を含むことができる。実施形態に係る第1液は、炭素化促進剤として用いられる。第1溶剤は、第1炭素化合物を溶解し、第1液を有機高分子溶液(第1有機高分子溶液)にする。第1液は、第1炭素化合物が第1溶剤に溶解した液である。第1溶剤は、例えば、炭化水素系の溶剤である。炭化水素系の溶剤は、例えば、アセトン、又はイソブチルアルコール、キシレン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、トルエン、メタノール、ブタノール、などである。第1溶剤は、炭化水素系の溶剤以外に、例えば、四塩化炭素、1,2ジクロルエチレン、二硫化炭素などであってもよい。
第1炭素化合物は、第1溶剤によって溶解する物質である。第1炭素化合物は、例えば、炭素原子を含有して構成される高分子物質であり、好ましくは、塩化ビニール、ポリビニールアルコール、酢酸ビニール樹脂、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などのプラスチックである。プラスチックは、溶解し易さの観点から、発泡プラスチックであるのが好ましい。発泡プラスチックは、例えば、発泡スチロールである。
実施形態に係る第2液は、第2溶液と、第2炭素化合物と、を含むことができる。実施形態に係る第2液は、炭素化原料として用いられる。第2溶液は、第2炭素化合物を溶解あるいは分解し、第2液を有機高分子溶液(第2有機高分子溶液)にする。例えば、第2溶液は、第2炭素化合物を溶解あるいは加水分解する。第2溶液は、例えば、強アルカリ溶液である。強アルカリ溶液は、例えば、水酸化カリウム溶液である。水酸化カリウム溶液は、例えば、強塩基である水酸化カリウムの製剤を純水に入れて調製される。純水は、例えば、イオン交換水である。第2溶液は、水酸化カリウム溶液以外に、水酸化ナトリウム溶液、あるいは炭酸カリウム溶液、炭酸水素カリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液などであってもよい。
第2炭素化合物は、第2溶液によって溶解あるいは分解される物質である。第2炭素化合物は、生体由来の炭素化合物であるのが好ましい。第2炭素化合物は、例えば、生体高分子である。より具体的には、第2炭素化合物は、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪である。第2炭素化合物は、タンパク質及び炭水化物の両方を含んでもよい。水酸化カリウム溶液などの強アルカリ溶液は、タンパク質などの第2炭素化合物を溶解あるいは加水分解する。
第1液及び第2液は、少なくともいずれか一方が、化学反応により炭素を生じさせる炭素化合物を含めば足りる。ただし、第1液及び第2液の双方が、炭素化合物を含んでいると、ダイヤモンド原料としての炭素を豊富化させることができ、好適である。
<3.実験>
<3.1 ダイヤモンド製造装置>
図2は、実験に用いたダイヤモンドの製造装置1を示している。製造装置1は、容器3と、図示しない紫外線ランプと、を備える。紫外線ランプは、容器3に対して、紫外線を照射する。紫外線の波長は、一例として、253.7nmとした。容器3は、例えば、紫外線を透過する材料によって形成された容器である。紫外線を透過する材料は、例えば、ガラスである。図2において、容器3は、「Glass vessel」として示されている。
容器3は、その内部に、第1収納容器31と、第2収納容器32と、反応容器34と、を備える。第1収納容器31は、第1液を収納する。図2において、第1収納容器31は、「TubeA」として示されている。また、図2において、第1液は、“Liquid A”(A液)として示されている。第1液は、前述のように、第1溶剤と、第1炭素化合物と、を含む。製造プロセスの開始に先立って、第1収納容器31に、第1溶剤と第1炭素化合物とが投入される。第1収納容器31は、例えば、紫外線を透過する材料(例えば、ガラス)によって形成された容器である。
第2収納容器32は、第2液を収納する。図2において、第2収納容器32は、「TubeB」として示されている。また、図2において、第2液は、“Liquid B”(B液)として示されている。第2液は、第2溶液と、第2炭素化合物と、を含む。製造プロセスの開始に先立って、第2収納容器32に、第2溶液と、第2炭素化合物とが投入される。第2収納容器32は、例えば、紫外線を透過する材料(例えば、ガラス)によって形成された容器である。
第1収納容器31中の第1液は、第1移送部41を介して、反応容器34へ移送される。第2収納容器32中の第2液は、第2移送部42を介して、反応容器34へ移送される。反応容器34へ移送された第1液及び第2液は、反応容器34において混合され、反応液になる。反応容器34は、例えば、紫外線を透過する材料(例えば、ガラス)によって形成された容器である。したがって、反応容器34内の反応液には紫外線が照射される。紫外線照射により、反応液において生じる化学反応、分解及びダイヤモンド成長が促進される。
第1移送部41は、移送用の第1糸41Aと、第1糸41Aによって移送された第1液を貯留する第1貯留部41Bと、を備える。第1糸41Aは、液体を毛細管現象によって第1糸41Aの長手方向に移送する。第1糸41Aは、例えば、繊維を紡績して構成されている。第1糸41Aの長手方向一端は、第1収納容器31内の第1液中に浸漬されている。第1糸41Aの長手方向他端は、第1貯留部41B内に収納されている。第1貯留部41Bは、下端が、反応容器34内の反応液中に存在する筒状の容器である。第1貯留部41Bは、紫外線を透過する材料(例えば、ガラス)によって形成された容器である。図2において、第1貯留部41Bは、「Tube A」として示されている。
第1糸41Aは、第1収納容器31の上部開口から、第1貯留部41Bの上部開口を通って、第1貯留部41B内に至るように配置されている。第1貯留部41B内に位置する第1糸41Aの長手方向他端は、第1収納容器31から毛細管現象によって移送された第1液を、滴下し、第1貯留部41Bの下部に第1液を貯留させる。第1貯留部41Bに貯留された第1液は、反応容器34内の反応液へ徐々に供給される。
第2移送部42は、移送用の第2糸42Aと、第2糸42Aによって移送された第2液を貯留する第2貯留部42Bと、を備える。第2糸42Aは、液体を毛細管現象によって第2糸42Aの長手方向に移送する。第2糸42Aは、例えば、繊維を紡績して構成されている。第2糸42Aの長手方向一端は、第2収納容器32内の第2液中に浸漬されている。第2糸42Aの長手方向他端は、第2貯留部42B内に収納されている。第2貯留部42Bは、下端が、反応容器34内の反応液中に存在する筒状の容器である。第2貯留部42Bは、紫外線を透過する材料(例えば、ガラス)によって形成された容器である。図2において、第2貯留部42Bは、「Tube B」として示されている。
第2糸42Aは、第2収納容器32の上部開口から、第2貯留部42Bの上部開口を通って、第2貯留部42B内に至るように配置されている。第2貯留部42B内に位置する第2糸42Aの長手方向他端は、第2収納容器32から毛細管現象によって移送された第2液を、滴下し、第2貯留部42Bの下部に第1液を貯留させる。第2貯留部42Bに貯留された第2液は、反応容器34内の反応液へ徐々に供給される。
反応容器34に供給された第1液及び第2液は、反応容器34内で混合され、反応液として調製される。反応液は、必要に応じて攪拌される。反応液中には、ダイヤモンド基材50が浸漬される。
実施形態において、容器3は、スタイラ70に載置される。スタイラ70は、反応容器34中の反応液を攪拌する。スタイラ70は、例えば、ホットスタイラである。ホットスタイラは、反応液の温度調整器として機能し、反応液を所定温度に保つことができる。実施形態のスタイラ70は、例えば、マグネティックスタイラであり、反応液中に入れられたロータ60を作動させて、反応液を攪拌する。
製造装置1によれば、別々に用意された第1液及び第2液それぞれが、徐々に補充されるため、反応容器34においては、長期間(例えば、数カ月又は数年)にわたって、反応液における化学反応が持続し、ダイヤモンドの原料となる炭素が反応液において継続的に生成される。ダイヤモンドは、反応液中に浸漬されたダイヤモンド基材50上に成長する。
<3.2 実験例(実施例及び比較例)>
<3.2.1 第1実験(実施例:PCD3基材,タンパク質)>
第1実験において、第1液は、第1溶剤としてのアセトン(100mL)に、第1炭素化合物としての発泡スチロール(2.5g)を投入して調製された。アセトンは発泡スチロールを溶解する。つまり、第1実験における第1液は、アセトンにスチロールが溶解した液である。
第2液は、第2溶液としての水酸化カリウム溶液に、第2炭素化合物(タンパク質)としてのゼラチン(15g)を投入して調製された。水酸化カリウム溶液は、タンパク質を溶解する。つまり、第1実験における第2液は、水酸化カリウム溶液にタンパク質の溶解物を含む液である。水酸化カリウム溶液は、イオン交換水(100mL)に水酸化カリウム製剤(10g)を投入することで調製した。なお、20℃の温度において、イオン交換水(100mL)に対する水酸化カリウム製剤の溶解度は112gである。
第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有するPCD(PCD3)を、ダイヤモンド面を上にして反応容器34内に入れた。第1実験で使用したPCDは、ダイヤモンド粒子が約95%以上であり、残りはCoである。第1実験で使用したPCDは、電気抵抗が極大であり、測定不能な絶縁体である。第1実験で使用したPCD3は、ダイヤモンド粒子径が1μm以下である。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50であるPCDが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。実験期間は、6月間である。実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、6月後それぞれのPCDの状態を観察した。
図3(A)及び(B)は、第1実験におけるPCDの研磨面(Grinding Plane)のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図3(C)及び(D)は、第1実験におけるPCDの研磨面を原子力間顕微鏡によって観察した画像を示している。図3(A)及び(C)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の研磨面を示す。図3(B)及び(D)は、6月後の研磨面を示す。
実験開始前のPCD研磨面(図3(A))では、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が確認できたのに対して、6月後(図3(B))では、研磨面がわずかに覆われ、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が見えにくくなっている。また、図3(A)及び(C)では、PCD表面の微細な穴が観察できるのに対して、図3(B)及び(D)では、PCD表面の穴が塞がれている。図3(D)によれば、PCDのダイヤモンド面の上にかなりの厚さの膜が析出していることがわかる。
浸漬前のPCDの質量は、282mgであり、厚さは、0.637mmであったのに対して、6月後のPCDの質量は、284mgであり、厚さは、0.641mmであった。6月後のPCDは、電気抵抗が極大であり測定不能な絶縁体であった。なお、図3において示すRaは、算術平均粗さを示し、P-Vは、最大山高さと最大谷深さの差を示し、Rzは、10点平均粗さを示し、以下の図においても同様である。
図4は、第1実験におけるPCDの研磨面のラマンスペクトルを示している。図4において、縦軸は強度であり、横軸はラマンシフト(cm-1)である。ダイヤモンドは、1333cm-1付近において、ピークを持つ。
図4において、実線は、実験前(Pre-Culturing)におけるPCDのラマンスペクトルを示し、点線は、6月後のPCDのラマンスペクトルを示す。実験前におけるPCDのラマンスペクトルでは、1333cm-1付近に大きなピークと、1580cm-1付近にやや小さいピークと、がみられる。1580cm-1付近のピークは黒鉛の存在を示す。つまり、実験前のPCDには、ダイヤモンド以外に黒鉛が含まれていることがわかる。
6月後(6month later)においては、ダイヤモンドを示す1333cm-1のピークは、実験前よりもシャープになっている一方で、黒鉛を示す1550cm-1付近のピークはなくなっている。したがって、6月後においては、実験前のPCDとは異なるダイヤモンドが観察されていることがわかる。つまり、図4のラマンスペクトルは、ダイヤモンド基材であるPCD上に、新たにダイヤモンド薄膜が成長していることを示している。
なお、第1実験及び以降に説明する他の実験において、ラマン分析は、株式会社RENISHAW社製のin-Via Reflexによって行った。この装置を用いたラマン分析では、測定対象に波長が532nmであるレーザ光が照射される。レーザ光は、測定対象の表面から数nm程度進入して、原子振動に関連する微弱なラマン光をピックアップする。実験において、基材50上に形成された薄膜は、レーザ光が進入する深さよりも十分に大きさ厚さを持っていた。したがって、ラマン分析結果は、薄膜の下にある基材50を測定したものではなく、薄膜自体を測定したものである。
<3.2.2 第2実験(実施例:PCD1基材,タンパク質)>
第2実験において、第1液は、第1実験と同様であり、第2液は、ゼラチンの量を30gとした以外は、第1実験と同様である。
第1実験と同様に、第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有するPCD(PCD1)を、ダイヤモンド面を上にして反応容器34内に入れた。第2実験で使用したPCDは、ダイヤモンド粒子が約95%以上であり、残りはCoである。第2実験で使用したPCD1は、ダイヤモンド粒子径が1μm以下である。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50であるPCDが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。実験開始から6月までは反応液の攪拌は行わず、6月後から9月後の間と、9月後から15月後の間において反応液の攪拌を行った。また、実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、6月後、9月後、15月後それぞれのPCDの状態を観察した。
図5(A)から(D)は、第2実験におけるPCDの研磨面(Grinding Plane)のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図5(E)から(H)は、第2実験におけるPCDの研磨面を原子力間顕微鏡によって観察した画像を示している。図5(A)及び(E)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の研磨面である。図5(B)及び(F)は、6月後の研磨面である。図5(C)及び(G)は、9月後の研磨面である。図5(D)及び(H)は、15月後の研磨面である。
実験開始前のPCD研磨面(図5(A))では、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が確認できたのに対して、15月後(図5(D))では、研磨面が薄膜によって完全に被覆され、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が確認できなかった。
図5(F)に示すように、6月後には、PCD研磨面上に分散的に物質が成長しており、実験前の研磨面(図5(E))に比べて凹凸が増加している。9月後(図5(G))及び15月後(図5(H))では、研磨面全体に物質が成長しており、6月後に比べて凹凸が減少しており、PCD研磨面における研削跡もみられず、PCD研磨面上に薄膜が形成されたことが確認できる。なお、9月後(図5(G))の薄膜の厚さは150nm程度である。図6は、図5(H)の拡大画像である。図6に示すように、15月後においては、格子状態がみられる。
図7は、第2実験におけるPCDの研磨面のラマンスペクトルを示している。実線で示す実験前(Pre-Culturing)におけるPCDのラマンスペクトルでは、1333cm-1付近に大きなピークと、1550cm-1付近にやや小さいピークと、がみられる。1550cm-1付近のピークは黒鉛の存在を示す。つまり、実験前のPCDには、ダイヤモンド以外に黒鉛が含まれていることがわかる。
点線で示す6月後(6month later),9月後(9month later),15月後(15month later)においては、ダイヤモンドを示す1333cm-1のピークは、実験前よりもシャープになっている一方で、黒鉛を示す1550cm-1付近のピークはなくなっている。したがって、6月後以降においては、実験前のPCDとは異なるダイヤモンドが観察されていることがわかる。つまり、図6のラマンスペクトルは、ダイヤモンド基材であるPCD上に、新たにダイヤモンド薄膜が成長していることを示している。なお、6月後以降のラマンスペクトルは右肩上がりであるため、成長したダイヤモンドが有機化合物を含有することを示唆している。
<3.2.3 第3実験(実施例:PCD4基材,タンパク質)>
第3実験において、第1液及び第2液は、第2実験と同様である。第2実験と同様に、第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有するPCD(PCD4)を、ダイヤモンド面を上にして反応容器34内に入れた。第3実験で使用したPCDは、ダイヤモンド粒子が約85%程度であり、残りはCoである。第3実験で使用したPCD4は、ダイヤモンド粒子径が約3μmである。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50であるPCDが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。適宜、反応液の攪拌を行った。また、実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、3月後、9月後それぞれのPCDの状態を観察した。
図8(A)から(C)は、第3実験におけるPCDの研磨面(Grinding Plane)のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図8(D)から(F)は、第3実験におけるPCDの研磨面を原子力間顕微鏡によって観察した画像を示している。図8(A)及び(D)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の研磨面である。図8(B)及び(E)は、3月後の研磨面である。図8(C)及び(F)は、9月後の研磨面である。
実験開始前のPCD研磨面(図8(A))では、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が確認できたのに対して、9月後(図8(C))では、研磨面が薄膜によって覆われ、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が見えにくくなっている。また、図8(A)及び(D)では、PCD表面の微細な穴が観察できるのに対して、図8(B)(C)(E)及び(F)では、PCD表面の穴が塞がれている。図8(E)及び図8(F)では、図8(D)にみられる研削跡がなくなっており、平坦になっている。
図9は、第3実験におけるPCDの研磨面のラマンスペクトルを示している。実線で示す実験前(Pre-Culturing)におけるPCDのラマンスペクトルでは、1333cm-1付近に大きなピークと、1550cm-1付近にやや小さいピークと、がみられる。1550cm-1付近のピークは黒鉛の存在を示す。つまり、実験前のPCDには、ダイヤモンド以外に黒鉛が含まれていることがわかる。
点線で示す3月後(3month later),9月後(9month later)においては、1333cm-1のピークはダイヤモンドを示す。黒鉛を示す1550cm-1付近のピークはなくなっている。したがって、3月後以降においては、実験前のPCDとは異なるダイヤモンドが観察されていることがわかる。つまり、図9のラマンスペクトルは、ダイヤモンド基材であるPCD上に、新たにダイヤモンド薄膜が成長していることを示している。なお、9月後以降のラマンスペクトルは右肩上がりであるため、成長したダイヤモンドが有機化合物を含有することを示唆している。
<3.2.4 第4実験(実施例:天然ダイヤモンド基材,タンパク質)>
第4実験において、第1液及び第2液は、第2実験と同様である。第2実験と同様に、第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有する天然ダイヤモンド(ND6)を、反応容器34内に入れた。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50である天然ダイヤモンドが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。適宜、反応液の攪拌を行った。また、実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、3月後、9月後それぞれの天然ダイヤモンドの状態を観察した。
図10(A)から(C)は、第4実験における天然ダイヤモンドの研磨面(Grinding Plane)のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図10(D)から(F)は、第4実験における天然ダイヤモンドの研磨面を原子力間顕微鏡によって観察した画像を示している。図10(A)及び(D)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の研磨面である。図10(B)及び(E)は、3月後の研磨面である。図10(C)及び(F)は、9月後の研磨面である。
実験開始前の天然ダイヤモンド研磨面(図10(A))には、表面の凹みが少なかったのに対して、9月後(図10(C))では、凹みが増えているため、元の研磨面が薄膜によって覆われていることがわかる。また、図10(F)では、研磨面に薄膜が薄く生成していることが確認できた。
図11は、第4実験における天然ダイヤモンドの研磨面のラマンスペクトルを示している。図11に示すように、実験前(Pre-Culturing)、3月後、及び9月後において、1333cm-1付近に大きなピークが生じており、これらのピークに大差はない。したがって、いずれもダイヤモンドが観察されていることがわかる。しかし、2460cm-1付近では変化が生じている。9月後では、2460cm-1付近のピークが小さくなっている。また、実験前(Pre-Culturing)には、3350cm-1付近にピークはみられなかったが、3月後及び9月後にはピークがみられる。3350cm-1付近のピークは、実験前にはなかった有機化合物の存在を示している。したがって、3月後以降においては、実験前の天然ダイヤモンドとは異なるダイヤモンドが観察されていることがわかる。つまり、図11のラマンスペクトルは、ダイヤモンド基材である天然ダイヤモンド上に、新たにダイヤモンド薄膜が成長していることを示している。
<3.2.5 第5実験(実施例:HPHTダイヤモンド基材,タンパク質)>
第5実験において、第1液及び第2液は、第2実験と同様である。第2実験と同様に、第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有するHPHT合成ダイヤモンド(HPHTmm)を、反応容器34内に入れた。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50であるHPHT合成ダイヤモンドが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。適宜、反応液の攪拌を行った。また、実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、3月後、9月後それぞれのPCDの状態を観察した。
図12(A)から(C)は、第5実験におけるHPHT合成ダイヤモンドの研磨面(Grinding Plane)のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図12(D)から(F)は、第5実験におけるHPHT合成ダイヤモンドの研磨面を原子力間顕微鏡によって観察した画像を示している。図12(A)及び(D)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の研磨面である。図12(B)及び(E)は、3月後の研磨面である。図12(C)及び(F)は、9月後の研磨面である。
図12からは、HPHT合成ダイヤモンド上の薄膜をはっきりとは確認できなかった。
図13は、第5実験におけるHPHT合成ダイヤモンドの研磨面のラマンスペクトルを示している。図13に示すように、実験前(Pre-Culturing)、3月後、及び9月後において、1333cm-1付近に大きなピークが生じており、これらのピークに大差はない。したがって、いずれもダイヤモンドが観察されていることがわかる。しかし、2460cm-1付近では変化が生じている。9月後では、2460cm-1付近のピークが小さくなっている。また、実験前(Pre-Culturing)には、3100cm-1付近にピークはみられなかったが、3月後及び9月後にはピークがみられる。3100cm-1付近のピークは、実験前にはなかった有機化合物の存在を示している。したがって、3月後以降においては、実験前の天然ダイヤモンドとは異なるダイヤモンドが観察されていることがわかる。つまり、図13のラマンスペクトルは、ダイヤモンド基材であるHPHT合成ダイヤモンド上に、新たにダイヤモンド薄膜が成長していることを示している。ただし、図12に示す結果によれば、生成されたダイヤモンドの量は、ダイヤモンド基材がPCD又は天然ダイヤモンドである場合に比べて少ない。この原因としては、HPHT合成ダイヤモンドは、0.02%の窒素(N)を内包しており、この窒素(N)が、炭素の集合を阻害していることが考えられる。
<3.2.6 第6実験(実施例:PCD2基材,炭水化物)>
第6実験において、第1液は、第1実験と同様である。第2液は、第2溶液としての水酸化カリウム溶液に、第2炭素化合物(炭水化物)としての米(15g)を投入して調製された。なお、米は、タンパク質も含む。水酸化カリウム溶液は、イオン交換水(100mL)に水酸化カリウム製剤(10g)を投入することで調製した。なお、20℃の温度において、イオン交換水(100mL)に対する水酸化カリウム製剤の溶解度は112gである。
第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有するPCD(PCD2)を、ダイヤモンド面を上にして反応容器34内に入れた。第6実験で使用したPCDは、ダイヤモンド粒子が約95%以上であり、残りはCoである。第6実験で使用したPCD2は、ダイヤモンド粒子径が1μm以下である。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50であるPCDが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。実験期間は、15月間である。実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、6月後、9月後、15月後それぞれのPCDの状態を観察した。
図14(A)から(D)は、第6実験におけるPCDの研磨面(Grinding Plane)のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図14(E)から(H)は、第6実験におけるPCDの研磨面を原子力間顕微鏡によって観察した画像を示している。図14(A)及び(E)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の研磨面である。図14(B)及び(F)は、6月後の研磨面である。図14(C)及び(G)は、9月後の研磨面である。図14(D)及び(H)は、15月後の研磨面である。
実験開始前のPCD研磨面(図14(A))では、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が確認できたのに対して、15月後(図14(D))では、研磨面が薄膜によって完全に被覆され、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が確認できなかった。
実験開始前の図14(E)では、研削跡がみられるのに対して、6月後、9月後及び15月後では、研削跡がみられなくなっている。また、時間の経過にともない、表面の凹みが徐々にふえているため、薄膜の成長が確認できる。図15は、図14(H)の拡大画像である。図15に示すように、15月後においては、表面に格子状の形状がみられる。これは、結晶格子の形状であると考えられる。
図16は、第6実験におけるPCDの研磨面のラマンスペクトルを示している。実線で示す実験前(Pre-Culturing)におけるPCDのラマンスペクトルでは、1333cm-1付近に大きなピークと、1580cm-1付近にやや小さいピークと、がみられる。前者のピークは、ダイヤモンドの存在を示し、後者のピーク(Gバンド)は、黒鉛(グラファイト)の存在を示す。つまり、実験前のPCDには、ダイヤモンド以外に黒鉛が含まれていることがわかる。
点線で示す6月後(6month later),9月後(9month later),15月後(15month later)においては、ダイヤモンドを示す1333cm-1のピークは、実験前よりもシャープになっている一方で、黒鉛を示す1580cm-1付近のピークは徐々になくなっている。したがって、6月後以降においては、実験前のPCDとは異なるダイヤモンドが観察されていることがわかる。つまり、図16のラマンスペクトルは、ダイヤモンド基材であるPCD上に、新たにダイヤモンド薄膜が成長していることを示している。
<3.2.7 第7実験(実施例:PCD5基材,炭水化物)>
第7実験において、第1液及び第2液は、第6実験と同様である。第6実験と同様に、第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有するPCD(PCD5)を、ダイヤモンド面を上にして反応容器34内に入れた。第7実験で使用したPCDは、ダイヤモンド粒子が約85%程度であり、残りはCoである。第7実験におけるPCDは電気抵抗が小さく、導電体である。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50であるPCDが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。適宜、反応液の攪拌を行った。また、実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、3月後、9月後それぞれのPCDの状態を観察した。
図17(A)から(C)は、第7実験におけるPCDの研磨面(Grinding Plane)のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図17(D)から(F)は、第7実験におけるPCDの研磨面を原子力間顕微鏡によって観察した画像を示している。図17(A)及び(D)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の研磨面である。図17(B)及び(E)は、3月後の研磨面である。図17(C)及び(F)は、9月後の研磨面である。
実験開始前のPCD研磨面(図17(A))では、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が確認できたのに対して、9月後(図17(C))では、研磨面が薄膜によって覆われ、PCDに含まれる白いダイヤモンド粒子が見えにくくなっている。図8(E)及び図8(F)では、図8(D)にみられる研削跡がなくなっており、平坦になっている。
図18は、第7実験におけるPCDの研磨面のラマンスペクトルを示している。実線で示す実験前(Pre-Culturing)におけるPCDのラマンスペクトルでは、1333cm-1付近のピークが小さい。これは、PCDの表面が金属に被覆されているためであるものと思われる。3月後では、1333cm-1付近のピークが大きくなっている。3月後では、1542cm-1付近に鋭いピークがみられ、黒鉛の存在も認められる。9月後では、1333cm-1付近のピークがはっきりとみられ、ダイヤモンドの存在が認められる。9月後では、1400cm-1付近にもピークがみられ、成長したダイヤモンドが有機化合物を含有することを示唆している。
<3.2.8 第8実験(実施例:ND7基材,炭水化物)>
第8実験において、第1液及び第2液は、第6実験と同様である。第6実験と同様に、第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、粒状の天然ダイヤモンド(ND7)を、反応容器34内に入れた。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50である天然ダイヤモンドが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。適宜、反応液の攪拌を行った。また、実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、3月後、9月後それぞれの天然ダイヤモンドの状態を観察した。
図19(A)から(D)は、第8実験における天然ダイヤモンド表面のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図19(A)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の天然ダイヤモンド粒である。図19(B)は、3月後の天然ダイヤモンド粒である。図19(C)は、9月後の天然ダイヤモンド粒である。図19(D)は、図19(C)の拡大写真である。
9月後では、天然ダイヤモンド表面の見た目に変化が生じており、表面に薄膜が形成されていることがわかる。
図20は、第8実験における天然ダイヤモンド表面のラマンスペクトルを示している。図20に示すように、実験前(Pre-Culturing)、3月後、及び9月後において、1326cm-1付近に大きなピークが生じており、これらのピークに大差はない。したがって、いずれもダイヤモンドが観察されていることがわかる。9カ月後では、1430cm-1付近に小さなピークがみられ、有機化合物の生成が認められる。
図21は、第8実験におけるラマンスペクトルであって、2100cm-1から2700cm-1の範囲を拡大したものを示している。実験前と3月後では、2460cm-1付近にピークがあることがわかる。なお、そのピークは9月後には無くなった。また、実験前と3月後では、2100cm-1から2700cm-1の範囲全体にわたってスペクトルが変化しており、3月後では、実験前とは異なる有機化合物の存在が示唆される。したがって、実験前と9月後では、異なるダイヤモンドが観察されていることがわかる。つまり、図20及び図21のラマンスペクトルは、ダイヤモンド基材である天然ダイヤモンド上に、新たにダイヤモンド薄膜が成長していることを示している。成長したダイヤモンド薄膜は、ダイヤモンドに少量の有機化合物が混在したものである。
<3.2.9 第9実験(実施例:HPHTダイヤモンド基材,炭水化物)>
第9実験において、第1液及び第2液は、第6実験と同様である。第6実験と同様に、第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有するHPHT合成ダイヤモンドを、反応容器34内に入れた。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50であるHPHT合成ダイヤモンドが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。適宜、反応液の攪拌を行った。また、実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、3月後、9月後それぞれのHPHT合成ダイヤモンドの状態を観察した。
図22(A)から(C)は、第9実験におけるHPHT合成ダイヤモンドの研磨面(Grinding Plane)のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図22(D)から(F)は、第9実験におけるHPHT合成ダイヤモンドの研磨面を原子力間顕微鏡によって観察した画像を示している。図22(A)及び(D)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の研磨面である。図22(B)及び(E)は、3月後の研磨面である。図22(C)及び(F)は、9月後の研磨面である。
図22からは、HPHT合成ダイヤモンド上の薄膜をはっきりとは確認できなかった。
図23及び図24は、第9実験におけるHPHT合成ダイヤモンドの研磨面のラマンスペクトルを示している。図23に示すように、実験前(Pre-Culturing)、3月後、及び9月後において、1333cm-1付近に大きなピークが生じており、これらのピークに大差はない。したがって、いずれもダイヤモンドが観察されていることがわかる。しかし、図24に示すように、2460cm-1付近では変化が生じている。9月後では、2460cm-1付近のピークが実験前よりも小さくなっている。また、実験前(Pre-Culturing)には、3100cm-1付近にピークはみられなかったが、9月後にはピークがみられる。3100cm-1付近のピークは、実験前にはなかった有機化合物の存在を示している。したがって、9月後以降においては、実験前の天然ダイヤモンドとは異なるダイヤモンドが観察されていることがわかる。つまり、図23及び図24のラマンスペクトルは、ダイヤモンド基材であるHPHT合成ダイヤモンド上に、新たにダイヤモンド薄膜が成長していることを示している。ただし、図22によれば、薄膜をはっきりと確認できなかったため、生成されたダイヤモンドの量は、ダイヤモンド基材がPCD又は天然ダイヤモンドである場合に比べて少ないものと考えられる。この原因としては、HPHT合成ダイヤモンドは、0.02%の窒素(N)を内包しており、この窒素(N)が、炭素の集合を阻害していることが考えられる。
<3.2.10 第10実験(実施例:天然ダイヤモンドパウダー基材,炭水化物)>
第10実験において、第1液及び第2液は、第6実験と同様である。第6実験と同様に、第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、天然ダイヤモンドパウダー(ND100)を、反応容器34に入れた。天然ダイヤモンドパウダーは、ガラス板の上に張り付けた状態で、反応容器34に入れた。天然ダイヤモンドパウダー(ND100)の平均粒径は、約200μmである。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50である天然ダイヤモンドが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。適宜、反応液の攪拌を行った。また、実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、6月後それぞれの天然ダイヤモンドパウダーの状態を観察した。
図25(A)から(E)は、第10実験における天然ダイヤモンド表面のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図25(A)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の天然ダイヤモンドパウダーである。図25(B)(C)(D)(E)は、6月後の天然ダイヤモンドパウダーである。図25(B)に示すように、6月後においては、天然ダイヤモンドパウダーを被覆するように白い粉末の生成がみられる。白い粉末によって、天然ダイヤモンドパウダーが塊になっている。図25(C)は、図25(B)の塊を分塊して粒子状にしたものを示している。分塊された粒子の表面は白い粉末によって部分的に被覆されている。図25(D)は、分塊された粒子の拡大写真である。図25(E)において、「Diamond part」は、天然ダイヤモンドパウダーの地の部分であり、それ以外の粉末状の部分が、天然ダイヤモンドパウダーを覆っている。粉末(Particle)の大きさは、約10μmである。
図26及び図27は、第10実験における天然ダイヤモンド表面のラマンスペクトルを示している。図26において、実線は、実験前(Pre-Culturing)の天然ダイヤモンドのラマンスペクトルを示し、点線は、6月後において分塊された粒子の表面の白い粉末のラマンスペクトルを示す。実験前及び6月後のいずれにおいても、1327cm-1付近のDバンドに大きなピークが生じており、これらのピークに大差はない。したがって、いずれもダイヤモンドが観察されていることがわかる。すなわち、白い粉末は、ダイヤモンドであると同定される。
図26の6月後のラマンスペクトルにおいては、Gバンドに相当する1530cm-1付近にピークが生じている。一方で、実験前のラマンスペクトルにおいては、Gバンドに相当するピークはみられない。また、図26の6月後のラマンスペクトルにおいては、有機化合物の存在を示している。つまり、白い粒子は、有機化合物を内包するダイヤモンドである。また、図27に示すように、実験前においては、有機高分子の存在を示す2460cm-1付近のピークが存在するのに対して、6月後においては、2460cm-1付近のピークはみられなかった。以上より、白い粉末は、基材である天然ダイヤモンドパウダーとは異なるダイヤモンドである。
図28は、6月後に分塊された粒子において、天然ダイヤモンドパウダーの地の部分「Diamond part」、及び、白い粉末の部分「Particle part」それぞれのラマンスペクトルを示している。「Diamond part」のラマンスペクトルは、図26に示す実験前のラマンスペクトルと同じである。
分塊された粒子から、表面の白い粉末を取り出して集めた。この白い粉末で、超硬合金(タングステンカーバイト合金)の研削面を数分程度手動で研磨した。すると、超硬合金の研削面跡が除去され、光沢面となった。したがって、白い粉末は、超硬合金よりも固い。この点からも、白い粉末はダイヤモンドであると同定される。
<3.2.11 第11実験(比較例:PCD,第2液のみ(炭水化物))>
第11実験においては、第1液を用いずに、第2液だけを用いた。第2液は、第2溶液としての水酸化カリウム溶液に、第2炭素化合物(炭水化物)としての米(15g)を投入して調製された。水酸化カリウム溶液は、イオン交換水(100mL)に水酸化カリウム製剤(10g)を投入することで調製した。
第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34には、第2液だけが供給される。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有するPCD(PCD8)を、ダイヤモンド面を上にして反応容器34内に入れた。第11実験で使用したPCDは、ダイヤモンド粒子が約85%程度であり、残りはCoである。第11実験で使用したPCD8は、ダイヤモンド粒子径が約3μmである。反応容器34に第2液が供給され、ダイヤモンド基材50であるPCDが第2液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。実験期間は、3月間である。実験中において、第2液は、反応容器34に供給され続けた。第1実験から第10実験において、少なくとも3月後の反応液は、炭素が生じる化学反応により濃い黒色に変化していたが、第11実験では、第2液は、薄茶色からやや変色したが、光が透過可能な程度の透明度を有していた。
図29(A)は、黒色に変色した反応液の例として第12実験(後述する)における3月後の反応液を示している。図29(B)は、第11実験における3月後の第2液を示している。後述の第12実験と同様に第1実験から第10実験においては、化学反応により生じた炭素(炭素原子;遊離炭素)のうち、ダイヤモンド生成に用いられなかった分が、黒鉛などの黒色炭素物質として反応液中に生じたため、反応液が黒色になっている。つまり、後述の第12実験及び第1実験から第10実験では、化学反応により炭素が生じていることが確認できる。一方、図29(B)に示すように、第2液は、3月後でも、薄い色を保っており、炭素が生じる化学反応が生じていないか、ほとんど生じていないことがわかる。
第11実験における3月後のPCDに対して、デジタルマイクロスコープ観察とラマン分析とを行った。その結果、PCD表面を微量の有機高分子が覆っていたが、ダイヤモンドは確認されなかった。したがって、炭素化原料である第2液は、ダイヤモンド原料となる炭素原子を含むものの、第2液だけでは、ダイヤモンドを成長させることはできなかった。したがって、第11実験によれば、液(反応液)中に炭素を生じさせる化学反応が必要であることがわかる。
<3.2.12 第12実験(実施例:PCD,第1炭素化合物及び第2炭素化合物を加えない反応液)>
第12実験において、第1液は、第1溶剤としてのアセトン(100mL)のみからなる。つまり、第1液に、第1炭素化合物としてのスチロールは含まれていない。第12実験において、第2液は、第2溶液としての水酸化カリウム溶液だけからなる。つまり、第2液に、第2炭素化合物としてのタンパク質あるいは炭水化物などは含まれていない。なお、アセトン(CHCOは、は、炭素原子(C)を含むため、第1液及び第2液が混合された反応液は、炭素を生じ得る。
第1液40mLを第1収納容器31に入れ、第2液40mLを第2収納容器32に入れた。反応容器34内には、ダイヤモンド基材50として、研磨面(ダイヤモンド面)を有するPCD(PCD9)を、ダイヤモンド面を上にして反応容器34内に入れた。第12実験で使用したPCDは、ダイヤモンド粒子が約85%程度であり、残りはCoである。第12実験で使用したPCD9は、ダイヤモンド粒子径が約3μmである。反応容器34に第1液及び第2液が供給されることで、反応容器34内で反応液が調製され、ダイヤモンド基材50であるPCDが反応液に浸漬された状態が得られる。
容器3に対して紫外線を照射して、実験を行った。実験中において、紫外線は常時照射とした。実験時の温度は、約35℃である。実験期間は、3月間である。実験中において、第1液及び第2液は、反応容器34に供給され続けた。実験前(浸漬前)、3月後それぞれのPCDの状態を観察した。3月後の反応液は、図29(A)のように濃い黒色となった。したがって、炭素が生じる化学反応の発生が確認された。
図30(A)及び(B)は、第12実験におけるPCDの研磨面(Grinding Plane)のデジタルマイクロスコープ写真を示している。図30(C)及び(D)は、第12実験におけるPCDの研磨面を原子力間顕微鏡によって観察した画像を示している。図30(A)及び(C)は、実験開始前(浸漬前;Pre-Culturing)の研磨面を示す。図30(B)及び(D)は、3月後の研磨面を示す。3月後には、ごく薄い薄膜の形成が観察された。
図31は、第12実験におけるPCDの研磨面のラマンスペクトルを示している。図31において、実線は、実験前(Pre-Culturing)におけるPCDのラマンスペクトルを示し、点線は、3月後のPCDのラマンスペクトルを示す。図31によれば、PCD表面において、ごく微量のダイヤモンドの析出及び集合が認められるとともに、高分子(有機)がPCDの表面を覆っていることがわかる。
第12実験では、炭素が生じる化学反応の発生及びダイヤモンドの成長は確認できるが、生成されるダイヤモンドはごく微量である。これは、反応液中の物質のうち、炭素原子を含むのがアセトンだけであり、ダイヤモンド原料となる炭素の量が少ないことに起因しているものと認められる。したがって、効率的なダイヤモンドの生成には、反応液は、他の炭素化合物を含むのが望ましい。すなわち、第1液及び第2液の少なくとも一方が、炭素化合物を含むのが好ましく、より好ましくは、第1実験から第10実験のように、第1液が第1炭素化合物を含み、第2液が第2炭素化合物を含むのが好ましいことがわかる。
図32は、第11実験の第2液を乾燥させたもの、及び第12実験の反応液を乾燥させたもののラマンスペクトルを示している。ここでは、各実験における3月後のPCD基材上に第2液又は反応液を載せて乾燥させて、ラマン分析を行った。第12実験の反応液の乾燥物では、炭素と有機化合物の存在が認められるが、炭素の量は少ない。したがって、反応液中に遊離した炭素は存在していたが、ごく微量であると認められる。第11実験の第2液の乾燥物では、ある程度の有機化合物の存在は認められるが、1555cm-1付近のピークが小さく炭素の量はほとんどない。したがって、第2液中に遊離した炭素はほとんどないと認められる。
第11実験と第12実験との対比より、反応液中において、化学反応により生じる炭素の存在が、ダイヤモンドの成長にとって必要であることがわかる。また、第12実験と、第1実験から第10実験との対比より、反応液中に発生する炭素の量が多い方が、効率的なダイヤモンドの成長に有利であることがわかる。
<3.2.13 第13実験(浸漬後の反応液の乾燥物のラマン分析);紫外線ON/OFF>
図33は、第6実験における9月後の反応液(黒色)を乾燥させたもののラマンスペクトルを示している。ここでは、PCD基材上に反応液を載せて乾燥させて、ラマン分析を行った。乾燥は、空気中で6日間行った。図33(A)は、乾燥時に紫外線を照射しなかった場合を示し、図33(B)は、乾燥時に紫外線を照射した場合である。紫外線を照射しなかった図33(A)では、反応液に含まれていた炭水化物の存在が確認される一方、図33(B)では、炭水化物が分解により、減少していることがわかる。したがって、紫外線を照射すると、反応液における炭素(炭素原子)の遊離を促進できることが確認された。
<3.2.14 化学反応式>
第12実験における第1液と第2液との化学反応式は、以下の(1)又は(2)であると推定される。
(CH3)2CO + 4KOH + H2O = C + 2K2CO3 + 6H2 (1)
(CH3)2CO + KOH + H2O = 2C + KHCO3 + 4H2 (2)
式(1)の場合、反応により生じた炭素(C)は、反応液中において遊離炭素として存在する。2K2CO3は、反応液中に溶解する(アルカリ性)。H2は、気体として拡散する。化学反応後の反応液は、反応により生じた炭素(C)のため、黒色になる。
式(2)の場合、反応により生じた炭素(C)は、反応液中において遊離炭素として存在する。KHCO3は、結晶体として、反応液中に存在する(弱塩基性)。H2は、気体として拡散する。化学反応後の反応液は、反応により生じた炭素(C)のため、黒色になる。
第1実験及び第10実験のように、第1液及び第2液に炭素化合物を混入した場合、(1)又は(2)よりも複雑な化学反応になる。どのような化学反応であるとしても、第1液及び第2液に混入される炭素化合物は、炭素原子を多く含むため、反応液中に遊離する炭素は増加することになる。
<3.2.15 ダイヤモンド基材以外の基材の利用>
基材50としてダイヤモンド以外の物質を用いるほかは、第6実験と同様の実験条件で実験を行った結果、いずれの物質においても、基材50上にダイヤモンドの生成は確認されなかった。したがって、基材50としては、ダイヤモンドが好適である。
基材50が、アルミニウム(Al)である場合、3月後には基材50が反応液中に溶解していた。
基材50が、スズ(Sn)である場合、3月後には基材50が反応液中に溶解していた。
基材50が、シリコン(Si)である場合、3月後には基材50が反応液中に溶解していた。
基材50が、チタン(Ti)である場合、3月後には、チタン表面が酸化して、青色を呈した。ダイヤモンドの析出は認められなかった。
基材50が、コバルト(Co)合金である場合、3月後においても、基材50表面に変化はなく、ダイヤモンドの析出は認められなかった。
基材50が、SUSである場合、3月後においても、基材50表面に変化はなく、ダイヤモンドの析出は認められなかった。
基材50が、ガラスである場合、3月後には基材50が反応液中で腐食していた。
基材50が、4H-SiCである場合、3月後においても、基材50表面に変化はなく、ダイヤモンドの析出は認められなかった。
基材50が、グラファイトである場合、3月後においても、基材50表面に変化はなく、ダイヤモンドの析出は認められなかった。
基材50が、CVD膜を形成したシリコン(CVD on Si)である場合、3月後には、シリコンが反応液中に溶解していた。
<実施形態における用語の説明>
理解の容易のため、実施形態における用語の意義を以下に説明する。なお、以下の説明は、実施形態の理解を容易にすることを目的とするものであり、特許請求の範囲を限定的に解釈するために用いられることを意図するものではない。
反応液は、第1液及び第2液を混合することで調製されるのが好ましい液である。
第1液は、第1溶剤を含むのが好ましい。第1液は、第1溶剤によって溶解する第1炭素化合物を含むのが好ましい。
第1溶剤は、炭化水素系であるのが好ましい。第1溶剤は、アセトンであるのが好ましい。
第1炭素化合物は、プラスチックであるのが好ましい物質である。
プラスチックは、発泡プラスチックであるのが好ましい物質である。
第2液は、第2溶液を含むのが好ましい液である。第2液は、第2溶液によって溶解あるいは分解される第2炭素化合物を含むのが好ましい液である。
第2溶液:強アルカリ溶液を含むのが好ましい液である。
強アルカリ溶液は、水酸化カリウム溶液であるのが好ましい液である。
第2炭素化合物は、生体由来の炭素化合物であるのが好ましい物質である。第2炭素化合物は、タンパク質及び炭水化物の少なくともいずれか一方であるのが好ましい物質である。
第1液及び第2液は、少なくともいずれか一方は、炭素化合物を含むのが好ましい。
有機化合物は、反応液中の化学反応によって生じる物質である。
高分子は、炭素化合物あるいは有機化合物などからなる物質である。
溶媒は、反応液である。
第1有機高分子溶液は、第1炭素化合物を第1溶剤に溶解した液である。
第2有機高分子溶液: 第2炭素化合物を強アルカリ溶液に溶解あるいは加水分解した液である。
<5.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
1 :製造装置
3 :容器
31 :第1収納容器
32 :第2収納容器
34 :反応容器
41 :第1移送部
41A :第1糸
41B :第1貯留部
42 :第2移送部
42A :第2糸
42B :第2貯留部
50 :ダイヤモンド基材
60 :ロータ
70 :ホットスタイラ

Claims (10)

  1. 化学反応によって液中に炭素が生じる反応液中にダイヤモンド基材が浸漬された状態を得ること、及び、前記反応液に紫外線を照射すること、を備え、
    前記反応液は、炭化水素系溶剤を含む第1液と、強アルカリ溶液を含む第2液と、が混合されたものである、
    ダイヤモンドの製造方法。
  2. 前記反応液中に前記ダイヤモンド基材が浸漬された状態において、前記反応液に、前記第1液及び第2液を補充することを更に備える
    請求項1に記載のダイヤモンドの製造方法。
  3. 前記炭化水素系溶剤は、アセトンである
    請求項1又は請求項2に記載のダイヤモンドの製造方法。
  4. 前記強アルカリ溶液は、水酸化カリウム溶液である
    請求項から請求項のいずれか1項に記載のダイヤモンドの製造方法。
  5. 前記第1液は、前記炭化水素系溶剤によって溶解する第1炭素化合物を含む
    請求項から請求項のいずれか1項に記載のダイヤモンドの製造方法。
  6. 前記第1炭素化合物は、プラスチックである
    請求項に記載のダイヤモンドの製造方法。
  7. 前記プラスチックは、発泡プラスチックである
    請求項に記載のダイヤモンドの製造方法。
  8. 前記第2液は、前記強アルカリ溶液によって溶解あるいは分解される第2炭素化合物を含む
    請求項から請求項のいずれか1項に記載のダイヤモンドの製造方法。
  9. 前記第2炭素化合物は、生体由来の炭素化合物である
    請求項に記載のダイヤモンドの製造方法。
  10. 前記第2炭素化合物は、タンパク質及び炭水化物の少なくともいずれか一方である
    請求項又は請求項に記載のダイヤモンドの製造方法。
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