JP7497103B1 - 磁歪式振動発電用積層材の製造方法 - Google Patents

磁歪式振動発電用積層材の製造方法 Download PDF

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秀典 松岡
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Abstract

【課題】Fe-Co系合金材の脆化が抑制され、磁歪応答性に優れ、かつ優れた接合強度を有する積層材を生産性高く得ることができ、産業上格段の効果を奏する磁歪式振動発電用積層材の製造方法を提供する。【解決手段】2層構造の積層材の製造方法であって、表面硬さで250HV以下の硬さを有するFe-Co系合金材と表面硬さで140HV以下の硬さを有するNi材の2種の金属帯板を素材とする。2種の金属帯板を重ねて、圧下率を45~90%とする圧着処理を行う圧着工程と、730~1400℃で拡散熱処理を行う拡散熱処理工程と、累積圧下率が10~98%の冷間圧延を行う冷間圧延工程と、加熱温度が730~1000℃で仕上熱処理を行う仕上熱処理工程とを、この順に備える。【選択図】図1

Description

本発明は、磁歪式振動発電に使用される2層クラッド構造を有する積層材の製造方法に関する。なお、ここでいう「磁歪式振動発電」とは、磁歪材料の振動による逆磁歪特性を利用した振動発電をいうものとする。
磁歪式振動発電は、磁化による形状の変化を利用できるエネルギー変換素子を用いて、衝撃や振動などの応力により発電させる方法である。また、上記したエネルギー変換素子は、交番磁場を与えると振動を発生する。
エネルギー変換素子の構成としては、磁場を与えると伸びる材料と縮む材料とを接合した2層クラッド構造体が一般である。磁歪式振動発電に用いられる材料は、磁歪が大きく飽和磁束密度も高い磁性材料であることが好ましい。
磁歪は、磁性体を磁化したときに寸法が変化する現象であり、比較的変化量が大きいFe-Co系合金材であれば飽和磁歪(λs/10-6)が70程度である。Ni材であれば飽和磁歪(λs/10-6)が-40程度である。
また、飽和磁束密度は、磁性体が磁気飽和する時の磁束密度であり、飽和磁束密度が大きいほど強力な磁石である。例えば、Fe50%-Co50%合金材は、広く用いられている磁性材料であるFeに、飽和磁束密度を高めるためにCoを添加した合金材であり、Slater-Pauling曲線においてボーア磁子数がピークを示す、非常に磁力の強い合金として知られている。
例えば、特許文献1には、磁歪材料と軟磁性材料とを接合したエネルギー変換部材が開示されている。特許文献1に記載されたエネルギー変換部材は、磁歪材料として、Fe-Co系合金、Fe-Al系合金、Ni、Ni-Fe合金、またはNi-Co合金が、軟磁性材料としては、保持力が3A/cm以下であること、磁歪材料の磁歪定数とは異なる符号の磁歪定数を有する磁性材料からなること、が示されている。そして、具体的な組合せとして、一方が、正の磁歪定数を有するFe-Co合金またはFe-Al合金からなり、他方が、負の磁歪定数を有するNi-0~20質量%Fe系合金またはNi-Co系合金からなるエネルギー変換部材が例示されている。
そして、特許文献1に記載された技術では、固体の磁歪材料と固体の軟磁性材料とを、熱拡散接合、熱間圧延加工、熱間引抜加工により接合するとしている。
国際公開WO2018/230154号
しかしながら、特許文献1には、上記した接合のプロセスについて、具体的な条件等の記載がない。
例えば、Fe-Co系合金では、熱処理条件等の製造条件によっては脆化が生じたり、磁歪応答性が低下する場合がある。また、体心立方構造の合金では、応力によって磁壁が動きにくいため、接合などの加工で生じた応力を熱処理等で取り除く必要がある。このようなことから、エネルギー変換素子に利用する磁性材料等は、当該材料に適した製造条件で製造することが重要となる。
また、特許文献1に記載された技術では、接合に際し、短冊状の素材を用いる枚葉加工を採用しているが、歩留まりが悪く生産性が劣るうえ、個々の製品に対して材料・部品、設備・機械、作業者、作業方法、及び検査・測定の観点において影響を受ける。このため、製品1枚毎に品質管理を徹底する必要があり、管理方法よっては品質にバラツキが生じるというリスクがある。
このような状況に鑑み、本発明は、生産性に優れかつ品質バラツキの少ない、振動発電特性に優れた磁歪式振動発電用積層材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した目的を達成するため、まず生産性の向上、さらに品質バラツキの低減等の品質管理上の観点から、使用する素材(磁性材料)をコイル状の金属帯板とすることに思い至った。そして、種々の製造条件について検討し、2種の金属帯板(Fe-Co系合金材とNi材)を重ねて圧着、接合し、2層クラッド構造を有する積層材とすることにした。これにより、一貫した製造条件で製造することができ、生産性が向上し、さらに品質管理の観点からも、品質を安定的に維持でき、品質検査も少なくできる。また、素材としてコイル状に巻かれた長い金属帯板を用いることにより、均一な厚み比率を有する積層材が得やすくなる。
本発明は、上記した知見に基づき、さらなる検討を加えて、完成されたものである。その要旨とするところは、下記のとおりである。
[1]2層クラッド構造を有する磁歪式振動発電用積層材の製造方法であって、
表面硬さで250HV以下の硬さを有するFe-Co系合金材と表面硬さで140HV以下の硬さを有するNi材の2種の金属帯板を素材とし、
前記2種の金属帯板を重ねて、圧下率:45~90%とする圧着処理を行い2層クラッド構造を有する積層材とする圧着工程と、
加熱温度:730~1400℃で拡散熱処理を行う拡散熱処理工程と、
累積圧下率:10~98%の冷間圧延を行う冷間圧延工程と、
加熱温度:730~1000℃で仕上熱処理を行う仕上熱処理工程とを、この順に備えることを特徴とする磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
[2]前記冷間圧延後の積層材が、板厚:0.03~2.0mmの冷延金属帯板であることを特徴とする[1]に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
[3]前記冷間圧延後の積層材が、Fe-Co系合金層を全板厚の40~60%の厚みで含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
[4]前記圧着処理は、20~720℃の加工温度範囲で行うことを特徴とする[1]ないし[3]のいずれか一項に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
[5]前記拡散熱処理は、保持時間:1~30分とすること、および、前記仕上熱処理は、保持時間:2時間以上とすることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれか一項に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
[6]前記Fe-Co系合金材は、質量%で、Fe:40~60%、あるいはさらにV:1~5%、残部Coおよび不可避的不純物からなる組成を有すること、および前記Ni材は、質量%で、Ni:99.5%以上、残部不可避的不純物からなる組成を有すること特徴とする[1]ないし[5]のいずれか一項に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
本発明によれば、Fe-Co系合金材の脆化が抑制され、磁歪応答性に優れ、かつ優れた接合強度を有する積層材を工業的に生産性高く得ることができ、振動発電用積層材として、産業上格段の効果を奏する。
本発明における製造工程を示す説明図である。 圧着処理の概略を模式的に示す説明図である。 冷間圧延の概略を模式的に示す説明図である。 実施例で使用した発電デバイスの概略を模式的に示す説明図である。
本発明は、磁歪式振動発電用として有用な、2層クラッド構造を有する積層材の製造方法である。本発明で得られる積層材は、Fe-Co系合金材とNi材の2層クラッド構造を有する。
本発明の積層材の製造方法では、Fe-Co系合金材とNi材の2種の金属帯板を素材とし、図1に示すように、好ましくは前処理工程、圧着工程、拡散熱処理工程、冷間圧延工程、仕上熱処理工程を、この順に備え、2層クラッド構造を有する積層材(金属帯板)を得る。以下、各工程について説明する。
[素材]
本発明では、Fe-Co系合金材とNi材の2種の金属帯板を素材とする。
ここで、Fe-Co系合金材は、質量%で、Fe:40~60%、残部Coおよび不可避的不純物からなる組成を有する。さらに、V:1~5%を含有する組成としてもよい。
Fe-Co系合金材は、上記した範囲の組成であれば、飽和磁歪(λs/10-6)が50~70と大きく、飽和磁束密度もSlater-Pauling曲線においてボーア磁子数が2.25を超えるほど強い磁力を示す。このような特性を有するFe-Co系合金材を利用すれば、振動発電特性の高いエネルギー変換素子を得ることができる。なお、上記した範囲のVをさらに、含有させることで冷間加工性が向上し、磁歪および飽和磁束密度も高い水準を維持できる。
また、Ni材は、Ni含有量が質量%で、99.5%以上、残部不可避的不純物である組成の材料を用いることが好ましい。Ni含有量が99.5%未満では、軟化温度や加工硬化特性が変化するため、接合後の厚み比率の均一性に影響を及ぼす恐れがある。なお、上記した組成のNi材であれば、飽和磁歪(λs/10-6)は-40と、Fe-Co系合金材との磁歪差が非常に大きくなる。
素材である金属帯板は、表面硬さで、Fe-Co系合金材がビッカース硬さで250HV以下、Ni材がビッカース硬さで140HV以下とすることが必要である。各々、上記した硬さを超えた場合、接合界面の結合が悪く、密着強度(接合強度ともいう)が低下する。圧着工程で接合(圧着)する際に、より軟らかい素材の方が加工性も良く、圧着時の1回の圧下率を大きくできることから、接合界面の変形度の大きさとともに密着強度も向上する。また、この時点での接合は、接合界面の新生面同士の接合であり、圧下率が高ければ高いほど新生面の面積が増加するため、密着強度は向上する。なお、素材とする金属帯板の表面硬さの調整は、焼鈍炉等での加熱で行うことが好ましい。
なお、素材とするFe-Co系合金材は、組み合わせるNi材に比べて、表面硬さ(変形抵抗)が高いため、Ni材と同じ厚みの金属帯板(素材)を用いて圧着等により積層材を製造すると、変形抵抗の差によりNi材の厚みが薄くなる。そこで素材の表面硬さ(変形抵抗)の違いに応じて、Fe-Co系合金材とNi材の素材厚みを適宜調整する必要がある。本発明では、Fe-Co系合金材の素材厚みを、Ni材の素材厚みの85~95%とすることが好ましい。これにより、製品である積層材におけるFe-Co系合金層の厚みを、積層材の総厚の40~60%とすることができる。なお、好ましくは45~55%である。Fe-Co系合金層の厚みを積層材の総厚の50%に近づけることにより、磁歪効果と逆磁歪効果の相殺を生じることがなくなる。
なお、Fe-Co系合金材に代えて、同じ磁性材料であるFe-Ni系合金材やFe-Al系合金材を利用してもよい。これら合金材は、Fe-Co系合金材よりも飽和磁歪および飽和磁束密度は劣るものの、本発明の製造方法を適用することにより、磁歪式振動発電用の積層材として利用することが可能となる。
また、上記した組成のNi材に代えて、Fe-Co系合金材と組み合わせて、同様に振動発電特性を保持できる材料としてNi-Co系合金材やSPCCのような軟磁性材(Fe材)が挙げられる。Ni-Co系合金材やFe材をFe-Co系合金材と組み合わせて、本発明の製造方法を適用することにより、Fe-Co系合金材とNi材との組合せよりは特性は劣るものの、同様に振動発電特性を保持できる磁歪式振動発電用の積層材を製造することができる。なお、素材として用いるFe-Co系合金材、Fe-Ni系合金材、Fe-Al系合金材の表面硬さは、ビッカース硬さで250HV以下で、Ni材、Ni-Co系合金材および軟磁性材(Fe材)の表面硬さは、ビッカース硬さで140HV以下とすることが好ましい。
[前処理工程]
まず、2種の素材を圧着しやすくするため、圧着工程の前に、素材であるFe-Co系合金材とNi材の表面の全面について、表面を活性化させる処理を行うことが好ましい。表面を活性化させる処理としてはブラッシング処理とすることが好ましい。ブラッシング処理は、ブラシで、素材表面を磨く処理である。なお、表面を活性化させる処理であれば、酸洗のような化学的処理、グラインダ、ブラストのような研磨、研削の機械的処理、あるいはイオンエッチング法を適用してもよい。なお、活性化処理後の表面粗さは、算術平均粗さRaで、活性化処理前の2倍以上、Fe-Co系合金材ではRa:0.1μm以上3.0μm以下、Ni材ではRa:0.1μm以上4.0μm以下とすることが好ましい。ここで、表面粗さはJIS B 0601の規定に準拠して測定するものとする。
[圧着工程]
圧着工程では、表面活性化処理を施された2種の素材(Fe-Co系合金材とNi材)を重ねて、圧下率:45~90%とする圧着処理を行い、機械的物理的に密着させて(圧着させて)2層クラッド構造の積層材とする。なお、圧着処理では、図2に示すように、金属帯板1,2を重ねて、ロール3を用いて圧延により圧着する方法を用いる。
圧下率が45%未満では、接合(圧着)が十分に行われない。圧下率が90%を超えると、圧着時に耳割れが生じ圧着は困難となる。ここで、耳割れとは、圧着材の板幅方向のエッジ端部寄りの板材の表面に発生する割れのことである。このようなことから、圧着処理における圧下率は45~90%の範囲とした。また、圧着処理は1回とすることが好ましい。
圧着処理で用いる冷間圧延機の種類は特に限定する必要はなく、2段圧延機、4段圧延機等の常用の圧延機がいずれも適用できるが、板幅方向の圧下力分布や板厚プロフィールが均一な圧延機である多段圧延機とすることが好ましい。
また、圧着処理は、20~720℃の加工温度範囲で行う。温度が20℃未満では、塑性加工による加工発熱を考慮すると当該温度より低い温度で製造することは困難である。また、温度が720℃を超えると、α’相の規則化により著しく脆くなる恐れがある。そのため、温間での圧着処理中は、温調器等で上記した温度範囲内に調整することが好ましい。
Fe-Co系合金材における体心立方格子α相の規則-不規則変態点は730℃付近に存在し、700℃以下の温度域では体心立方格子のα’規則相と面心立方格子のγ相との混相となる。特に、変態点730℃付近からの冷却速度が遅いと、α’相の規則化により脆化現象がみられる。
なお、前処理工程として表面を活性化させる処理を行った場合には、圧着処理は、前処理工程後、12時間を経過する前に行うことが好ましい。12時間を経過した後に、圧着処理を行うと、得られた積層材(クラッド材)において接合界面の接合強度が低下する場合がある。
また、圧着工程で接合(圧着)された2層構造の金属帯板である積層材(圧着処理後の積層材ともいう)は、通常、巻取機(図示せず)により巻き取られる。
[拡散熱処理工程]
圧着工程を経て得られた積層材(圧着処理後の積層材ともいう)には、積層材の接合界面における金属原子の相互拡散を目的とした拡散熱処理を行う。拡散熱処理は、730~1400℃の温度範囲で加熱する処理とする。
加熱温度が730℃未満では、積層材の接合界面での相互拡散が生じ難く、十分な接合強度が得られなくなる場合がある。一方、加熱温度が1400℃を超えると、ニッケルの融点が1453℃であるため、溶融する恐れがある。
また、拡散熱処理の保持時間は、1~30分の範囲とすることが好ましい。保持時間が、1分未満では積層材の接合界面での相互拡散が生じ難く、十分な接合強度が得られなくなる。一方、保持時間が30分を超えると、生産性が著しく低下する。
上記したような拡散熱処理により、接合界面が強固に結合され、積層材の接合強度が向上する。金属原子の相互拡散後の接合界面の結合は非常に強固で、90度繰り返し曲げ試験においても、接合部の剥離は確認されていない。
上記したような拡散熱処理は、連続式熱処理炉を用いて行うことが好ましい。なお、連続式熱処理炉を用いる場合には、被熱処理材(圧着処理後の積層材)の最大厚さは5.0mm以下とすることが好ましい。最大厚さが5.0mmを超えると30分以内に熱処理を終了することができなくなる。
なお、Fe-Co系合金材における変態点730℃付近からのα’相の規則化による脆化を防止するために、拡散熱処理後の冷却速度を早める必要があり、300℃/分以上とすることが好ましい。また、拡散熱処理はAr、N等の不活性ガス雰囲気または水素ガスの還元性雰囲気で行うことが好ましい。
[冷間圧延工程]
冷間圧延工程では、拡散熱処理済みの積層材(圧着積層材)に、金属帯板状態のままで、累積圧下率が1~98%となるように圧下率を選択し、冷間圧延して、所定の製品板厚の積層材(冷間圧延後の積層材)とする。
累積圧下率が1%未満では、圧下する力よりも巻取機の前後張力の力が強く働き、被圧延材がスリップして冷間圧延が困難となる。また、累積圧下率が98%を超えると、被圧延材の加工硬化によって圧延限界に達し、軟化熱処理を追加する必要性が生じ、生産性が低下する。なお、生産性を考慮すると、累積圧下率は5~90%とすることが好ましい。ここでいう累積圧下率は、下記の式で計算できる。
累積圧下率(%)={(冷間圧延前の板厚)-(冷間圧延後の板厚)}÷(冷間圧延前の板厚)×100
冷間圧延は、複数回の圧延を行う繰返し圧延とする。繰返し数は、5~10回とすることが好ましい。また、1回の圧延毎にコイル巻取機(図示せず)によりコイル状に巻き取られるが、圧延回数が多い場合は、巻取り方向が一方だけではなく、逆方向にも巻取り可能なリバース式とすることが好ましい。なお、冷間圧延に用いられる圧延機としては、常用の2段圧延機や4段圧延機、およびゼンジミア圧延機やローン圧延機のような多段圧延機がいずれも好適であるが、板幅方向の圧下力分布や板厚プロフィールが均一な圧延機である例えば多段圧延機を選ぶことが好ましい。というのは、最終工程である仕上熱処理工程後に、必要に応じてスリット(図示せず)し、幅方向に分割裁断して出荷する場合があるためである。図3に4段圧延機を用いた冷間圧延の概略を示す。
なお、冷間圧延中は、圧延油による被圧延材の冷却を行うが、塑性加工による加工発熱が避けられないため、冷間圧延は、室温~200℃の加工温度範囲で行うことが好ましい。さらに好ましくは、室温~100℃の温度範囲である。
また、冷間圧延後の積層材の板厚は、所定の製品板厚である0.03~2.0mmとすることが好ましい。板厚が0.03mm未満では、平坦度が悪くなり、テンションレベラーによる形状修正も困難になる。平坦度は、振動発電特性の観点から100mm2の面積において、反りやうねりが1mm以下であることが好ましい。平坦度の測定は、定盤上にて、シックネスゲージやダイヤルゲージを用いて行うものとする。冷延積層材の板厚が2.0mmを超えると、拡散熱処理工程における保持時間が30分を超えるため、生産性が低下する。
冷間圧延後の積層材では、積層材中のFe-Co系合金層の厚みは、総厚の40~60%とする。Fe-Co系合金層の厚みが総厚の40%未満または60%超えでは、Fe-Co系合金材、Ni材のそれぞれの磁歪効果/逆磁歪効果の相殺が生じ、振動発電特性が低下する。なお、好ましくは総厚の45~55%である。このような冷間圧延後の積層材中のFe-Co系合金層の厚みは、それぞれの素材厚みの調整により達成できる。
[仕上熱処理工程]
仕上熱処理工程では、上記した積層材(冷間圧延後の積層材)に、加熱温度:730~1000℃とする仕上熱処理を行い、製品とする。
加熱温度が、730℃未満ではFe-Co系合金材の応力が除去できない。BCC構造の合金では残留する応力によって磁壁が動きにくくなるため、振動発電特性が低下する。また、加熱温度が、1000℃を超えるとγ相が析出し始め、磁性材料としての機能が低下し、磁歪および飽和磁束密度も小さくなる。なお、好ましくは900℃以下である。なお、Fe-Ni系合金材、Fe-Al系合金材を素材として用いる場合は、加熱温度はFe-Ni系合金材では370~1200℃、Fe-Al系合金材では700~1200℃とすることが好ましい。
なお、仕上熱処理で使用する熱処理炉は、仕上熱処理後の冷却を徐冷にする必要があるため、バッチ式熱処理炉とすることが好ましい。仕上熱処理工程は最終工程であり、脆化は考慮せず、磁歪を大きくすることが重要となる。Fe-Co系合金材のα’相は、規則化により脆くなる半面、飽和磁歪(λs/10-6)が70と、α相やγ相よりも高くなることから、仕上熱処理後の組織はα’相とすることが適切である。そのため、仕上熱処理後の冷却は徐冷とし、冷却速度は300℃/時間以下とすることが好ましい。
また、仕上熱処理の保持時間は、2時間以上とすることが好ましい。保持時間が2時間未満では、730~1000℃の加熱温度域においてα相を十分に析出できず、冷却後にα’相とγ相の混相になるため、磁歪が小さくなる。なお、仕上熱処理の雰囲気は水素ガスの還元雰囲気とすることが好ましい。冷却時にはAr、N等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
上記した各工程を備える製造方法により製造された積層材は、エネルギー変換部材として逆磁歪特性を利用した振動発電の発電効率を高めることができる。例えば、本発明になる積層材を両振り梁とし、両振り振動させた場合、Fe-Co系合金層およびNi層に引張と圧縮変形が繰り返し起こり発電する。しかも電圧の向きが両層で常に同じとなるため、高発電効率を達成できる。また、本発明積層材を用いれば、磁歪特性を利用した振動部の振動効率も高めることができる。
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
表1に示す組成のFe-Co系合金材(種類:F1~F9)及び表2に示す組成のNi材(種類:N1~N3)を素材として用意した。素材の形状は、Fe-Co系合金材、Ni材ともにコイル状の金属帯板(単量:1.0kg)とし、寸法は板厚0.2~4.8mm×幅40~150mm×長さ20~100mとした。
素材として用意したFe-Co系合金材、Ni材の硬さを、焼鈍処理により、表3に示すように種々変化させた。また、Ni材の硬さに応じて、Fe-Co系合金材の厚さを、Ni材の厚さの85~95%の範囲となるように、冷間圧延により調整した。なお、一部では、Fe-Co系合金材の厚さをNi材の厚さの85~95%の範囲から外れる場合も用意した。また、前処理工程として、素材である金属帯板の表面全面にブラッシング処理を行う表面の活性化処理を行った。活性化処理後に、JIS B 0601に準じて測定した表面粗さRaは、Fe-Co系合金材でRa:0.1~3.0μm、Ni材でRa:0.1~4.0μmであった。
上記したように硬さ調整、厚み調整を行った2種の素材(金属帯板)を表3に示すように組合せて、圧着工程、拡散熱処理工程、冷間圧延工程、仕上熱処理工程を、この順に備える製造方法で、2層構造の積層材を製造した。
[圧着工程]
2種の素材(Fe-Co系合金材とNi材)を重ねて、多段圧延機を用いて、金属帯板状態で、表3に示す温度および圧下率で、1回の圧着処理を行い、2種の素材を圧着させて2層構造の積層材を得た。圧着処理後は、巻取り機を用いてコイル状に巻き取った。未圧着の場合は、その後の処理を中止した。なお、表3には、圧着処理により得られた積層材の板厚を併記した。
「拡散熱処理工程」
得られた圧着処理後の積層材に、連続式熱処理炉を用いて、表3に示す温度及び保持時間で拡散熱処理を行った。拡散熱処理は水素ガス雰囲気で行った。なお、拡散熱処理後は、間接的な水冷による冷却を行った。冷却速度は300~350℃/分の範囲であった。
また、拡散熱処理後の積層材を試験片として、接合強度を評価した。接合強度の評価は、JIS Z 2248の規定に準拠した曲げ試験によりおこなった。曲げ試験は、押金具(先端部半径R:0.4mm)を用いた90°曲げとした。破断するまで繰返し曲げを行ったのち、曲げ破断面を実体顕微鏡(×20)で観察して、その破断面が、接合部で剥離していない場合を「○」、接合部で剥離(破断)している場合を「×」として、評価した。得られた結果を表3に併記した。なお、「×」と評価されたものは、その後の処理を行っていない。
[冷間圧延工程]
拡散熱処理後の積層材に、多段圧延機を用いて、表3に示す温度および累積圧下率で、繰返し冷間圧延を施し、所定の製品板厚の積層材(冷間圧延後の積層材)を得た。冷間圧延後は、巻取り機を用いてコイル状に巻き取った。得られた積層材の板厚を表3に併記して示す。
また、拡散熱処理後の積層材を冷間圧延する際に、第1回の冷間圧延における破断の有無を観察した。第1回の冷間圧延で破断した場合を「×」、破断しなかった場合を「〇」として、積層材(拡散熱処理後の積層材)の脆化について評価した。得られた結果を表3に併記した。なお、冷間圧延で破断したものは、その後の処理を行っていない。
[仕上熱処理工程]
得られた冷間圧延後の積層材に、バッチ式熱処理炉を用いて、表3に示す加熱温度、保持時間で仕上熱処理を行い、製品(積層材)を得た。仕上熱処理は水素ガスの還元雰囲気で行った。なお、仕上熱処理後は、徐冷した。冷却速度は250~300℃/時間の範囲内であった。
得られた製品(積層材)について、図4に示す発電デバイスを用いて発電量(mW)を測定した。得られた発電量(mW)を、Fe-Co系合金(種類:60Fe5VCo)単一材を用いた場合の発電量(mW)と比較して発電振動特性の評価を行った。発電量がFe-Co系合金単一材を用いた場合の3倍以上である場合を〇、3倍未満の場合は×として評価した。
発電デバイスは、図4に示すように、ヨーク9、永久磁石8、発電用コイル6、振動源7、錘10で構成される。測定片である積層材(Fe-Co系合金層5とNi層4からなる2層構造)は、厚みを製品板厚とし、幅5mm×長さ50mmとした。共振周波数は、概ね70Hzになるように錘の重量を調整した。
また、得られた製品(積層材)について、板厚方向断面を研磨し、光学顕微鏡(倍率:100倍)を用いて、撮像し、各層(Fe-Co系合金層5とNi層4)の厚みを測定し、各層の厚さ比率を算出した。得られた結果を表3に併記した。
Figure 0007497103000002
Figure 0007497103000003
Figure 0007497103000004
本発明例はいずれも、接合界面が高い接合強度を有し、積層材の脆化が抑制され、優れた振動発電特性を有することが確認できた。一方、本発明の範囲を外れた比較例は、圧着ができないか、圧着できても接合強度が十分でないか、脆化が進行しているか、振動発電特性が低下していた。
積層材No.25(比較例)は、素材として用いたNi材の表面硬さが140HVを超えて高いため、圧着加工時の密着強度が低く、接合することができなかった(接合未着)。また、積層材No.26は、素材として用いたFe-Co系合金材の表面硬さが250HVを超えて高いため、圧着加工時の接合強度が低く、接合することができなかった(接合未着)。また、積層材No.27は、圧着加工時の圧下率が45%未満と低いため、接合することができなかった(接合未着)。また、積層材No.28は、圧着加工時の加工温度が720℃を超えたため、α’相の規則化による脆化が進行し、第1回冷間圧延時に破断した。また、積層材No.29は、拡散熱処理の加熱温度が730℃未満であったため、接合界面での相互拡散が生じ難く、十分な接合強度が得られなかった。また、積層材No.30は、拡散熱処理の保持時間が1分未満であったため、接合界面での相互拡散が生じ難く、十分な接合強度が得られなかった。また、積層材No.31は、仕上熱処理の加熱温度が730℃未満であったため、Fe-Co系合金材における応力が除去できず、振動発電特性が低下している。また、積層材No.32は、仕上熱処理の保持時間が2時間未満であったため、冷却後にα’相とγ相の混相になり、振動発電特性が低下している。また、積層材No.33とNo.34は、冷間圧延後のFe-Co系合金層の厚みが、積層材(冷延積層材)の総厚の40~60%の範囲を外れているため、Fe-Co系合金材とNi材のそれぞれの磁歪/逆磁歪効果の相殺が生じ、振動発電特性が低下している。
1 Fe-Co系合金材
2 Ni材
3 ロール
4 Ni層
5 Fe-Co系合金層
6 発電用コイル
7 振動源
8 永久磁石
9 ヨーク
10 錘

Claims (6)

  1. 2層クラッド構造を有する磁歪式振動発電用積層材の製造方法であって、
    表面硬さで250HV以下の硬さを有するFe-Co系合金材と表面硬さで140HV以下の硬さを有するNi材の2種の金属帯板を素材とし、
    前記2種の金属帯板を重ねて、圧下率:45~90%とする圧着処理を行い2層クラッド構造を有する積層材とする圧着工程と、
    加熱温度:730~1400℃で拡散熱処理を行う拡散熱処理工程と、
    累積圧下率:10~98%の冷間圧延を行う冷間圧延工程と、
    加熱温度:730~1000℃で仕上熱処理を行う仕上熱処理工程とを、この順に備えることを特徴とする磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
  2. 前記冷間圧延後の積層材が、板厚:0.03~2.0mmの冷延金属帯板であることを特徴とする請求項1に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
  3. 前記冷間圧延後の積層材が、Fe-Co系合金層を全板厚の40~60%の厚みで含有することを特徴とする請求項2に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
  4. 前記圧着処理は、20~720℃の加工温度範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
  5. 前記拡散熱処理は、保持時間:1~30分とすること、および、前記仕上熱処理は、保持時間:2時間以上とすることを特徴とする請求項1に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
  6. 前記Fe-Co系合金材は、質量%で、Fe:40~60%、あるいはさらにV:1~5%、残部Coおよび不可避的不純物からなる組成を有すること、および前記Ni材は、質量%で、Ni:99.5%以上、残部不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1に記載の磁歪式振動発電用積層材の製造方法。
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