JP2016125106A - 複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】板厚方向に複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板において、板面に対する{222}面集積度が55%以上99%以下であり、板面内の平均の飽和磁歪が−0.2×10−6以下である領域をA層とし、板面に対する{200}面集積度が25%以上で、{222}面集積度が40%以下である領域をB層とし、板厚方向に前記A層とB層が存在し、かつ板表面と、該板表面から該板表面の反対側の板表面に向かって最初に確認されるB層との間に、A層が存在する積層構成とする。
【選択図】なし
Description
特許文献1、2では、α−γ変態を生じ得る組成のFe又はFe合金からなる母材金属板の少なくとも一方の表面に、Si、Alなどのフェライト生成元素を含有する金属層を形成し、次に、この母材金属板を前記Fe又はFe合金のα−γ変態点(A3点)まで加熱して、フェライト生成元素を母材金属板中に拡散させて、{200}面集積度が25%以上、{222}面集積度が40%以下のフェライト相の合金領域を形成し、さらに母材金属板をA3点以上の温度まで加熱して、合金領域をフェライト相に維持しながら、{200}面集積度を増加させ、{222}面集積度を低下させ、冷却後に、板表面に対するフェライト相の{200}面集積度が30%以上で{222}面集積度が30%以下である、高い磁束密度を有するFe系金属板を得る技術が開示されている。
また、特許文献4の技術は磁歪定数を負の値にするため、SiやNiなどを高濃度で含有させる必要があり、加工性が劣化するばかりでなく、理論的な飽和磁束密度が低下し、実用的な磁束密度の劣化は避けられないものである。
これに対し、単一構造の鋼板では達成できない複数の機能を一つの鋼板で達成するために、複層構造の鋼板として、各層に目的とする個々の機能を担わせるようにすることが、特許文献5、6などで知られている。
しかしこれらの文献でも、高磁束密度を確保するという課題とコア用部材製造の際の磁気特性の劣化を防止するという課題を同時に解決する軟磁性鋼板は示されていない。
そこで、本発明者らは、それらの軟磁性Fe系金属板が有する機能を単一構造の金属板で実現するのではなく、特許文献5、6に記載のように複層構造とすることで、一つのFe系金属板で同時に実現することを検討した。
このような検討を経てなされた本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
板面に対するαFe相の{222}面集積度が55%以上99%以下であり、板面内の平均の飽和磁歪が−0.2×10−6以下である領域をA層とし、
板面に対するαFe相の{200}面集積度が25%以上で、αFe相の{222}面集積度が40%以下である領域をB層として、
板厚方向に前記A層とB層が存在し、
かつ板表面と、該板表面から該板表面の反対側の板表面に向かって最初に確認されるB層との間に、A層が存在する積層構成となっている
ことを特徴とする金属板。
前記A層でもB層でもない領域をC層とし、
板厚方向に前記A層とB層とC層が存在する
ことを特徴とする前記(1)に記載の金属板。
前記A層とB層の界面、さらにC層が存在する場合はA層またはB相とC層の界面が金属結合で一体化されている
ことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の金属板。
(4)板厚方向に複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板において、
前記A層、B層、さらにC層が存在する場合はC層の間の界面から両層側に10μmの距離における領域内のFe濃度の差が1.0%以下である
ことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属板。
前記A層について、板表面に最も近いA層の厚さが全体の板厚に対して3〜30%である
ことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の金属板。
該金属板の厚さが0.03mm以上1.5mm以下である
ことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の金属板。
70質量%以上のFeを含有しα−γ変態を生じ得る組成を有する金属板A1の表面にSi、Al、Sn、TiおよびVの少なくとも一種以上のフェライト生成元素を付着させた金属板を金属板A2とし、
70質量%以上のFeを含有しα−γ変態を生じ得る組成を有する金属板B1の表面にAl、Cr、Ga、Ge、Mo、Sb、Si、Sn、Ti、V、WおよびZnの少なくとも一種以上のフェライト生成元素を付着させた金属板を金属板B2とし、
少なくとも金属板A2と金属板B2を積層したものを、
前記α−γ変態点以上の温度で熱処理し、
フェライト生成元素を前記金属板A1または金属板B1の内部へ拡散させる
ことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の軟磁性Fe系金属板の製造方法。
以下では、まず各層の特徴について説明する。
(A層の結晶配向)
後述するように、A層は基本的に金属板の最表層または表面近傍の層を構成する層であり、打ち抜き加工の影響を強く受ける層になる。本発明では打ち抜き加工による磁気特性の劣化防止を図るために、A層については、αFe相の金属板面に対する{222}面集積度を高める。これにより、打ち抜き加工を行った際に歪が入り難くなり、歪による磁気特性劣化が少なくなる。また、{222}面集積度が高まると、磁化容易方向である[100]方位が使用磁界方向、すなわち板面内に存在する比率は低下するものの、磁化困難方位である[111]方位が使用磁界方向に存在する比率も低減するので、磁束密度の劣化は許容できる程度に抑えられる。一方、本発明は{222}面集積度を高めた領域の磁歪を負の値にするものあるが、SiやNiの含有量を抑制するためにもA層の結晶配向を発明範囲内に制御することが重要となる。
{222}面集積度は、高いほうが望ましいが、99%を越えても、前記磁気特性の劣化防止効果は飽和し、製造の困難性も伴う。
後述するように、B層は基本的に金属板の中心層または中心近傍の層を構成する層であるので、B層の{200}面集積度を高めることにより、本発明金属板の磁束密度を効果的に高めることが可能となる。
B層は、板面に対する{200}面集積度が25%以上で、{222}面集積度が40%以下とする。好ましくは、{200}面集積度が30%以上で、{222}面集積度が30%以下である。
{200}面集積度は高いほうが望ましいが、99%を越えても前記磁束密度向上の効果は飽和し、製造の困難性も伴う。
上記の面集積度の測定は、MoKα線によるX線回折(反射法)で行うことができる。
具体的には、各試料について、金属板表面に対して平行αFe相の11の方位面({110}、{200}、{211}、{310}、{222}、{321}、{411}、{420}、{332}、{521}、{442})の積分強度を測定し、その測定値それぞれを、ランダム方位である試料の理論積分強度で除して合計した値に対する、{222}強度または{200}強度の比率を百分率で求める。
{222}面集積度=[{i(222)/I(222)}/Σ{i(hkl)/I(hkl)}]×100 ・・・(1)
{200}面集積度=[{i(200)/I(200)}/Σ{i(hkl)/I(hkl)}]×100 ・・・(2)
ただし、記号は以下のとおりである。
i(hkl): 測定した試料における{hkl}面の実測積分強度
I(hkl): ランダム方位をもつ試料における{hkl}面の理論積分強度
Σ: αFe相の11の方位面についての和
ここで、ランダム方位を持つ試料の積分強度は、試料を用意して実測して求めてもよい。
結晶粒組織から見て、例えば板厚方向に3層または数層程度の変化しか有さないことが明確であれば、これら各層について代表的と判断できる位置で測定すればよい。
なお、結晶粒径は、板厚断面において研磨およびナイタール等による化学エッチングで結晶粒界を現出し、一定面積内で観察される結晶粒の個数を計測し、1個の結晶粒の平均面積を円相当とした際の直径である。
軟磁性Fe系金属板から打ち抜かれたコア材をコア部材に組み付ける際、金属板表面に平行な方向に圧縮応力が付与されコア部材の磁気特性を劣化させる原因となる。本発明ではA層を{222}面集積度を高めた状態でさらに板面内の平均の飽和磁歪を−0.2×10−6以下とすることによって、板面内圧縮応力による鉄損の劣化も抑制させる。
この効果は本発明に特徴的なものであり、ここで説明した磁歪のみならず、各層の積層構造および各層の結合状態(界面構造)に関連して発現する磁気相互作用に起因するものである。本発明の積層構造や界面構造に関する規定の後、メカニズムについて後述する。
まず、上述した板厚方向での結晶方位分布の変化に応じ、αFe相の{222}面集積度が55%以上99%以下である層を研磨等により切り出す。そして、切り出した金属板について、板面内で22.5°毎に360°にわたり飽和磁歪を測定する。この際、各方向とその方向に垂直方向へ800kA/mの磁場をそれぞれ印加し、磁場0を基準にした磁歪を歪みゲージなどで測定した後、狙い方向の磁歪と垂直方向の磁歪差に2/3を乗じた値が各方向での飽和磁歪であり、本発明で規定する飽和磁歪はこれらの平均値として求めることができる。
[110]方向の磁歪λ110は、式[λ110=(1/4)λ100+(3/4)λ111]から求められる。
Fe−X系の合金においては、[100]方向の磁歪は、6.5%Siでゼロになる以外はすべて正の値であり、[111]方向の磁歪は、元素XとしてSi、Al、V、Ti、Snが、Si=0〜4%、Al=0〜9%、V=0〜14%、Ti=0〜3%、Sn=0〜4%の範囲で負の値となることが知られている(例えば、「鉄鋼材料便覧」の図1・61参照)。
これらのことを考慮すると、α−γ変態成分系のFe系金属の飽和磁歪λ110は、Si、Al、V、Ti、Snの各含有量が、Si=0〜1.5%、Al=0〜3.5%、V=0〜6.5%、Ti=0〜3%、Sn=0〜4%。の範囲で負とすることができる。
本発明においてC層は、上記のA層でもB層でもない金属層として規定される。すなわち、板面に対する{222}面集積度が40%超、55%未満であるか、{222}面集積度が99%超であるか、{222}面集積度が55%以上99%以下であっても板面内の平均の飽和磁歪が−0.2×10−6超であるか、あるいは{222}面集積度が40%以下であっても{200}面集積度が25%未満である層である。
このような事情から、本発明においては、A層にもB層にも分類されない金属層が存在することを許容するものである。
(積層構造)
上記のA層、B層およびC層は本発明金属板において、板厚方向に積層した状態で存在するが、その配置として必要なのは、板表面と、該板表面から該板表面の反対側の板表面に向かって最初に確認されるB層との間に、A層が存在する積層構成となっていることである。本発明金属板は金属板の表と裏の両方の表面についてこの条件を満足する必要がある。
具体的な例として、最も単純な構成は、「A-B-A」である。
本発明はこれに限らず、例えば、「A-C-B-C-A」、「C-A-B-A-C」なども可能であるし、板厚中心に対して対象である必要はなく、例えば「A-C-B-A」、「C-A-C-B-A-B-A」のような構成も可能である。
もちろん、上記で単純に「A-B-A」とした場合に、各A層やB層内で板厚方向に結晶面の配向や磁歪の変動があっても構わない。つまり、「A1-A2-B1-B2-A1-A2]のような構成は簡単に「A-B-A」とも表記できる。一般には、例えば「A-B-A」の構成においても、A層の中では配向や磁歪は板厚方向に多少の変動が伴うことが通常とも言える。
本発明の軟磁性Fe系金属板全体の厚さは0.03mm以上1.5mm以下が好ましい。板の厚さが0.03mm以下であると、軟磁性Fe系金属板から製造したコア用部材を磁気コアに積層する場合に手間がかかり生産性が悪くなる。また、厚さが1.5mmを超えると渦電流が大きくなって鉄損が増加してしまう。より好ましくは、0.05mm以上1mm以下である。
本発明金属板はA層、B層およびC層が積層した構造を有することは前記のとおりであるが、これらの一体化の方法は特に問わない。単純には各層の間に接着剤のような特別な機能を有する物質を介在させて一体化することも可能である。しかし、この場合は、本発明の独創的な特徴である、各層間、特にA層とB層の間の磁気相互作用による効果が非常に小さくなってしまう。すなわち、A層とB層の間に接着剤のような非金属または非磁性物質が介在すると、各層間の磁気相互作用が小さくなるため、板面内圧縮応力下での磁気特性劣化を回避する効果が小さくなる。
この磁気相互作用による板面内圧縮応力下での磁気特性劣化回避の効果は、A層とB層の間の磁気相互作用によるものが主であり、A層とB層を連続して積層させることが好ましい。またA層とB層の間にC層が介在する場合は、C層の厚さは薄い方が好ましい。
各層の界面におけるFe濃度分布は、界面を含む断面で界面を跨ぐ板厚方向にEPMAライン分析によって測定することができる。
一般に板面内に圧縮応力が作用すると磁気特性が劣化するのは、以下のような現象による。
これとは逆に、磁歪定数が負の値である場合には、板面内方向に圧縮応力が作用しても、磁化ベクトルは板面内から外れず、むしろ板面内から外れていた磁化ベクトルがあればそれが板面内を向くようになり、磁束密度向上にも好ましく、渦電流は比抵抗が大きい板断面内で流れるため渦電流損失も抑制される。
本発明の軟磁性Fe系金属板の組成は特に限定されるものではない。組成に関して必要なのは、「Fe系金属」であることである。これは、本発明金属板がモータコア材として使用され、各種の磁気特性を必要とするためのものであるからである。
本発明では、「Fe系金属」を金属板全体の平均組成で、70%以上のFeを含有するものとする。Fe系金属の一般的な例としては、C:1ppm〜0.02%、残部Fe及び不可避不純物よりなる純鉄、C:0.02〜0.2%を含有する炭素鋼を基本とし、適宜、添加元素を含有させた鋼、C:0.1%以下、Si:0.1〜2.5%を基本成分とするケイ素鋼や、Mn:0.02〜3%、P:0.3%以下、S:0.05%以下、Al:4%以下、N:0.1%以下を含む公知の各種鋼などが例示できる。
また各層は組成として異なる必要性はない。しかし、各層は材質に差異を有するものであるので、組成としても差を有するものになることが一般的で、それでも構わない。
さらに、各層を個別に見ても、各層内の組成が均一であることは本発明効果の発現には必要な条件ではなく、例えば板厚方向での成分変動が許容される。
A層の化学組成は例えば、必要な特性に制御するために、一般的に電磁鋼板で使用され、さらに磁歪を制御するためSi、Al、V、Ti、Snのいずれか1種以上を含む組成となる。特に磁歪を負の値とするためには、Si=0〜1.5%、Al=0〜3.5%、V=0〜6.5%、Ti=0〜3%、Sn=0〜4%の範囲で含有させることが好ましい。
B層の化学組成は例えば、一般的に{200}面方位を多く含むように制御された電磁鋼板で使用されるAl、Cr、Ga、Ge、Mo、Sb、Si、Sn、Ta、Ti、V、W、Znのいずれか1種以上を含む組成となる。
C層についても、A層、B層と同様に、一般的に電磁鋼板で使用される元素を含む組成とすればよい。
各層とも、さらに公知の特定の目的をもって上記以外の元素を含有していても、本発明効果が消失するものではない。
本発明金属板は、一般的な電磁鋼板で知られているようなコーティングを施される場合もある。このようなコーティングは本発明効果を消失させるものではない。
本発明の複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板は、たとえば次のような工程を経て得られる。
以下では、A層に関する素材の準備、B層に関する素材の準備、該素材の一体化、一体とした材料の熱処理の順で説明する。
A層を形成する素材としては、例えば、70質量%以上のFeを含有し、α−γ変態を生じ得る組成のFe系金属板(以降、金属板A1と呼ぶ)を30%以上95%以下の圧下率で冷間圧延し、その表面にSi、Al、Sn、TiおよびVの少なくとも一種以上のフェライト生成元素を含有する金属または合金を付着させた金属板(以降、金属板A2と呼ぶ)を用いることができる。
この金属板A2を後述のように加工および熱処理することで、最終的に本発明金属板の中にA層に相当する領域を形成することができる。
B層を形成する素材としては例えば、70質量%以上のFeを含有しα−γ変態を生じ得る組成を有するFe系金属板(以降、金属板B1と呼ぶ)を97%超99.99%以下の圧下率で冷間圧延し、その表面にAl、Cr、Ga、Ge、Mo、Sb、Si、Sn、Ti、V、WおよびZnの少なくとも一種以上のフェライト生成元素を含有する金属または合金を付着させた金属板(以降、金属板B2と呼ぶ)を用いることができる。
この金属板B2を後述のように加工および熱処理することで、最終的に本発明金属板の中にB層に相当する領域を形成することができる。
上記で用いるFe系金属板B1のFe濃度については、金属板A1についてと同様の注意が必要である。
各金属板に付着させるフェライト生成元素の付着厚さは、0.05μm以上であることが望ましい。厚さが0.05μm未満では、後述の熱処理工程において十分な{222}面または{200}面集積度を有するA層またはB層を得ることができない。
また、ここで説明している方法においては、本発明金属板は最終的に板厚方向に少なからざる濃度変動を有するものになる場合があるが、最終的な本発明金属板は全板厚にわたって強磁性体元素であるFeの濃度が70%以上となっていることが好ましいため、金属板A2またはB2で表面に形成されたフェライト生成元素の層の最大厚さは、後述する熱処理条件も考慮し、熱処理後にFe系金属板A1またはFe系金属板B1と十分に合金化するように設定することが好ましい。
また、フェライト生成元素も金属板A2と金属板B2で同じ元素を使用できるし、異なる元素の組み合わせも使用できる。
金属板A1と金属板B1で同じ組成のFe系金属板を用い、フェライト生成元素も金属板A2と金属板B2で同じ元素を使用することにより、金属板全体の平均組成は一般的な単層の金属板とほぼ同じで、結晶配向性や磁歪定数が異なる複数の層で形成されたFe系金属板とすることもできる。
金属板A2と金属板B2を、積層体の最表面から該表面の反対側の表面に向かって最初に確認される金属板が金属板A1であるように積層する。このようにすることで、後述の熱処理後、最終的な本発明金属板において、板表面と、該板表面から該板表面の反対側の板表面に向かって最初に確認されるB層との間に、A層が存在する積層構成とすることができる。
最終的には後述する熱処理により各金属板を相互拡散による金属結合によって一体化するが、各金属板を単に重ねて熱処理しただけでは、各金属板の向かい合った表面の間の空隙が熱処理後も残存したり、向かい合った表面が酸化してこれが残存し一体化が阻害されやすい。このため、積層前に各鋼板表面をクリーニングして異物を取り除くことは望ましく、例えば、酸洗したり、逆スパッタして新生面を出しておくことが望ましい。また、熱処理前に低温で圧着させたり、放電により接合してもよい。熱処理時の各金属板の積層空隙の酸化や窒化を防ぐには、空隙を真空にして予め酸素や窒素を表面付近から除去した上で積層体周囲をシールして外部雰囲気からの酸素や窒素の侵入を防ぐことや、熱処理雰囲気を不活性ガスとすることも有効である。さらに熱処理時には積層方向に荷重をかけることも効果的である。
上記のように準備された積層体に熱処理を施し、金属板A2およびB2表面のフェライト生成元素を各金属板内および相互に拡散させて、各金属板を一体化すると同時に、各金属板の再結晶と変態を利用して、{222}面集積度の高いA層と、{200}面集積度の高いB層をそれぞれ形成する。また、A層では飽和磁歪の値が負になるように、フェライト生成元素を拡散させ合金化する。
以下では、A層について説明し、フェライト生成元素がAlで、{222}面集積度が増加する状況について説明する。
積層体を加熱すると、冷延加工が施されていた金属板A1の領域は再結晶を開始する。金属板A1では、冷延率が好ましく制御されているため{111}に配向した方位が比較的多数生成する。また、昇温につれて金属板A1に付着していたAlが金属板A1内部に拡散し、合金化してAl濃度が高まった領域はα単相成分となる。
すでにα単相成分となっている領域では再結晶で生じた{111}方位粒はそのまま保存され、その領域の中で{111}方位粒が優先成長して、{222}面集積度が増加する。この時、α単相組成でない領域(元の金属板A1の中心側領域)はα相からγ相に変態する。
この温度域で保持すると、Alの拡散に伴いα単相組成領域は元の金属板A1の中心側に広がっていく。このため元の金属板A1の中心側領域でγ相に変態していた領域は元の金属板A1の表面側領域から再びα相に変態していく。その際、すでにα単相組成となって{111}方位粒が優先成長しているα相領域の結晶粒がγ相側に成長する。このためγ相はα単相領域の結晶方位を引き継ぐかたちで変態することとなり、保持時間の増加にともない、元の金属板A1であった領域の{222}面集積度はさらに増加していく。
このような{111}方位粒の発達は、元の金属板A1の表面に付着させていたAl層内に金属板A1側からFe原子が拡散していくことでも起きる。結果として、元の金属板A2領域全体において{222}面集積度が高まることとなる。
また、元の金属板A2領域全体にわたりα単相組成となるまで合金化されていない場合は、元の金属板A2の中心領域にはγ相が残存しており、冷却中にこれがα相へ変態する。この際も上記と同様に、γ相領域はα相粒の結晶方位を引き継いで変態する。この結果、合金化の程度とは無関係に、元の金属板A2領域全体にわたり{222}面集積度の高い層、すなわちA層が形成できる。
本発明で特に注意すべきは、拡散が過度になると、例えばA層とB層の間で拡散が進むと適切な結晶方位や磁歪定数を有する領域の境界が失われていくことである。このような領域は上述したC層に相当するものにもなる。これも通常のメタラジーの知識を有する当業者であれば、調整することは容易であるが、過度な熱処理は避けるべきである。
また例えば金属板A1の厚さとそれに付着させるフェライト生成元素の付着量によっては、熱処理により拡散が進むと熱処理の途中で、元の金属板A2の領域の全てがα−γの二相領域となってしまう。このような状況になると、上記のようなα単相領域からγ相領域への結晶方位の引き継ぎが不十分になるため好ましくない。このような構成である場合は、α単相領域が残存している間に冷却し、全体をα相に変態させることが好ましい。
金属板A1用として表1のAとBに示す成分系のFe系金属を用意し、金属板B1用として表1のC〜Fに示す成分系のFe系金属を用意した。各成分系のA3点を表1に示した。
まず、真空溶解によってそれぞれの組成を有するインゴットを溶製した後に、熱延と冷延によって所定の厚みに加工した。
金属板A1の作製は、以下のように行った。熱延では1200℃に加熱した厚み250mmのインゴットを厚み3mmまで薄肉化した。この熱延板の表面からスケールを除去した後に、冷延で厚み0.02mm〜2.0mmまで薄肉化した。さらに、窒素ガス中で800℃×600秒の熱処理を施して再結晶させて歪を取り除いた。引き続き、最終冷延で厚み0.005mm〜0.2mmまで薄肉化した。
金属板B1の作製は、以下のように行った。熱延では1200℃に加熱した厚み250mmのインゴットを厚み60mm〜3mmまで薄肉化した。3mmまで薄肉化した熱延板については、表面からスケールを除去した後に、最小厚で0.4mmまで冷延し、それぞれの厚みの冷延材を窒素ガス中で800℃×600秒の熱処理を施して再結晶させて歪を取り除いた。60mm〜3mmの熱延板の表面スケールも除去した。続いて、最終冷延によって、板厚60mm〜0.4mmから板厚1.2mm〜0.008mmまで薄肉化した。
表2−1、表4−1、表6−1、表8−1に、作製した金属板A1及び金属板B1の最終冷延の冷延前板厚、冷延後板厚、および、圧延率を合わせて記載した。
金属板A1には、Si、Al、V、Ti、Sn層のいずれかを形成し、金属板B1には、Zn、Sn、Al、Si、Ti、Mo、V、Cr、W層のいずれかを形成した。Snは電気めっき法または溶融めっき法、Zn、Alは溶融めっき法によって形成した。ただし、Alの付着厚みが1μm以下の場合にはスパッタリング法を用いた。その他はイオンプレーティング(以下IP法と呼ぶ)とスパッタリング法で行なった。
フェライト形生成元素の種類と付着厚み及びフェライト形生成元素(皮膜元素と記載)の量も前記のそれぞれの表に記載した。なお、皮膜元素の量は、金属板A1の含有量と付着量を合計して、全体に対する質量%(mass%と記載)で求めた。
金属板A2およびB2をロール圧着法で接合する場合には、ロール圧着させる前に各金属板の表面に脱脂処理を施し、新生面が出るようにした。
積層体の熱処理にはゴールドイメージ炉を用い、プログラム制御により昇温速度を10℃/分とし、加熱温度およびその温度での保持時間を表2−2、表4−2、表6−2、表8−2に記載の条件で制御した。昇温、保持の間は10-3Paレベルまで真空引きした雰囲気中で行なった。積層体の冷却時には、Arガスを導入して流量の調整によって100℃/分の冷却速度で冷却した。
板厚方向の{222}面集積度および{200}面集積度は、板厚方向の結晶組織を観察し、平均結晶粒径に相当する厚さに板厚方向で分割したそれぞれの領域で前述したX線回折法にて測定した。板厚方向でのX線の各測定面を出す方法には、製品板表面からエメリー紙による機械研磨と化学研磨を繰り返す方法を用いた。
No.1、No.2およびNo.11の比較例では、A層の{222}面集積度が55%未満であるため、板面内での[110]方向を向いている結晶の割合が低下しているため、飽和磁歪を−0.2×10-6以下にできていない。そのために、圧縮応力負荷による鉄損増加率が、圧縮応力負荷前鉄損に対する圧縮応力負荷後の鉄損の比(以降、「負荷後/負荷前」と簡略化して記載する。)で見た場合、1.3倍超と大きくなっている。
更に、No.1、No.2およびNo.11の比較例では、A層の{222}面集積度が55%未満であるため、打ち抜きリング試料の打ち抜きに歪による鉄損劣化が大きくなっている。これに対して、{222}面集積度が55%以上である実施例では、打ち抜き歪による鉄損劣化はほとんど生じていない。
No.3、No.4、および、No.6の比較例では、A層の飽和磁歪が−0.2×10-6超であるため、圧縮応力負荷による鉄損劣化が大きく、負荷後/負荷前の比で見た場合、1.3倍以上の鉄損増加が生じている。
No.7〜No.10の実施例の比較では、A、A’層の飽和磁歪が負の値の方へ低下するにつれて、負荷後/負荷前の比の値は小さくなり、鉄損劣化がより抑制されていることがわかる。
No.13〜No.18の実施例では、No.13からNo.18へ向かうにつれて、A、A’層の{222}面集積度がより大きくなっているが、このような場合には、打ち抜き加工による鉄損劣化が全く生じない確立が高くなっていることがわかる。
No.1、No.5、およびNo、12の比較例では、B層の{200}面集積度が25%未満であるために、磁束密度B50が1.6T以下と低い値となっている。これに対して、{200}面集積度が25%以上、{222}面集積度が40%以下の実施例では、高いB50が得られている。
各実施例において、C層は、付着させるフェライト生成元素がTi、W、および、Moの場合に界面に形成された。これらのC層の厚みはいずれも3μm以下であった。これら以外の元素の場合には、C層は確認できなかった。
No.31〜No.57の実施例において、A層が板面に対するαFe相の{222}面集積度が55%以上99%以下であり、かつ、板面内の平均の飽和磁歪が−0.2×10−6以下を満たすため、打ち抜きによる鉄損劣化と圧縮応力負荷による鉄損劣化が同時に抑制されている。
さらに、B層が板面に対するαFe相の{200}面集積度が25%以上で、αFe相の{222}面集積度が40%以下を満たすため、高いB50が得られている。
No.61−1からNo.61−5へと界面のFe濃度差が大きくなるにつれて、圧縮応力を負荷した場合の鉄損増加率は大きくなり、Feの濃度差が1.0%を超えると、鉄損増加率は1.1倍以上と1割以上の鉄損が増加している。これは、Fe濃度差が大きくなるにつれて、界面での磁気的相互作用を十分に活用できなることを意味している。No.62−1〜No.62−4、No.63−1〜No.63−4、No.64−1〜No.64−4、No.65−1〜No.65−4、および、No.66−1〜No.66−4のそれぞれの比較においても同様である。
No.71は、全体板厚が0.024mmと0.03mmより薄く、かつ、A層の厚さが全体板厚の33.3%と30%より大きくなっている。この場合には、全体板厚が薄く過ぎるため、取り扱い中に曲がりやすくなり、その影響で圧縮応力負荷による鉄損増加率が大きくなっている、また、A層の割合が増えB層の割合が低下するため、磁束密度B50も低下している。No.71からNo.78へと全体板厚が増加するにつれて鉄損が増加し、全体板厚が1.6mmのNo.78では鉄損が50W/kgを越えている。これは、全体板厚が増加するにつれて渦電流損失が増加するためである。また、全体板厚が増加するにつれて、B50が低下しているが、これは{200}面集積度が低下しているためである。
No.79からNo.84へと全体板厚に対するA層板厚の割合が低下するにつれて、B50が増加する傾向にあるのがわかる。これはB50の向上により効果が大きい{200}面集積度の高いB層の板厚割合が相対的に増加しているためである。No.79では、A層の厚さの割合が33.3%と30%を越えているため、相対的にB層の割合が低下し、高いB50が低くなっている。No.84では全体板厚にたいするA層の割合が1.7%と3%より小さくなっている。この場合には、A層が薄くなり過ぎるため、圧縮応力負荷による鉄損増加の抑制効果が低下している。更に、A層が薄くなり過ぎるため、打ち抜きによる鉄損劣化の抑制効果が低下している。
Claims (7)
- 板厚方向に複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板において、
板面に対するαFe相の{222}面集積度が55%以上99%以下であり、板面内の平均の飽和磁歪が−0.2×10−6以下である領域をA層とし、
板面に対するαFe相の{200}面集積度が25%以上で、αFe相の{222}面集積度が40%以下である領域をB層として、
板厚方向に前記A層とB層が存在し、
かつ板表面と、該板表面から該板表面の反対側の板表面に向かって最初に確認されるB層との間に、A層が存在する積層構成となっている
ことを特徴とする金属板。 - 板厚方向に複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板において、
前記A層でもB層でもない領域をC層とし、
板厚方向に前記A層とB層とC層が存在する
ことを特徴とする請求項1に記載の金属板。 - 板厚方向に複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板において、
前記A層とB層の界面、さらにC層が存在する場合はA層またはB相とC層の界面が金属結合で一体化されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の金属板。 - 板厚方向に複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板において、
前記A層、B層、さらにC層が存在する場合はC層の間の界面から両層側に10μmの距離における領域内のFe濃度の差が1.0%以下である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属板。 - 板厚方向に複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板において、
前記A層について、板表面に最も近いA層の厚さが全体の板厚に対して3〜30%である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属板。 - 板厚方向に複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板において、
該金属板の厚さが0.03mm以上1.5mm以下である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属板。 - 板厚方向に複数の結晶配向層を有する軟磁性Fe系金属板の製造において、
70質量%以上のFeを含有しα−γ変態を生じ得る組成を有する金属板A1の表面にSi、Al、Sn、TiおよびVの少なくとも一種以上のフェライト生成元素を付着させた金属板を金属板A2とし、
70質量%以上のFeを含有しα−γ変態を生じ得る組成を有する金属板B1の表面にAl、Cr、Ga、Ge、Mo、Sb、Si、Sn、Ti、V、WおよびZnの少なくとも一種以上のフェライト生成元素を付着させた金属板を金属板B2とし、
少なくとも金属板A2と金属板B2を積層したものを、
前記α−γ変態点以上の温度で熱処理し、
フェライト生成元素を前記金属板A1または金属板B1の内部へ拡散させる
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の軟磁性Fe系金属板の製造方法。
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