JP7495655B2 - 熱伝導性フィラー及びそれを用いた熱伝導性複合材料、並びに熱伝導性フィラーの製造方法 - Google Patents

熱伝導性フィラー及びそれを用いた熱伝導性複合材料、並びに熱伝導性フィラーの製造方法 Download PDF

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本発明は、熱伝導性フィラー及びそれを用いた熱伝導性複合材料、並びに熱伝導性フィラーの製造方法に関する。
窒化ホウ素は熱伝導性の高い高絶縁性の材料として知られており、窒化ホウ素粒子を熱伝導性フィラーとしてマトリックス中に分散させた様々な熱伝導性複合材料が開発されている。また、そのような窒化ホウ素粒子を、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛、黒鉛等の他の熱伝導性材料の粒子と組み合わせて用いた熱伝導性複合材料も開発されている。
例えば、特開2005-29421号公報(特許文献1)には、窒化アルミニウム粉末にホウ素化合物とNH基を有する化合物とを混合して調製した原料粉末に低温加熱処理を施して前記原料粉末の熱分解により非晶質のB-N-O結合物質からなる窒化ホウ素前駆体を形成させ、次いで、この窒化ホウ素前駆体に水素又は窒素雰囲気中で還元加熱処理を施して乱層構造の窒化ホウ素を形成させるとともに、前記窒化アルミニウム粉末の表面を酸化してAl層を形成させ、次いで、このAl層に窒素雰囲気中、炭素の存在下で高温加熱処理を施して前記Al層を脱酸素、再窒化させて窒化アルミニウム層を形成することによって、窒化ホウ素を3~40体積%含有する窒化アルミニウム/窒化ホウ素複合粉末を製造する方法が記載されており、このようにして得られる窒化アルミニウム/窒化ホウ素複合粉末が、窒化アルミニウム粉末の表面を乱層構造の窒化ホウ素で被覆した複合粉末であることも記載されている。
また、特開2008-1536号公報(特許文献2)には、アルミナの表面をホウ素化合物で被覆した混合粉末に、低温加熱処理を施してホウ酸アルミニウムを生成させ、次いで、このホウ酸アルミニウムに窒素雰囲気中、カーボンの存在下で高温加熱処理を施すことによって、窒化アルミニウム/窒化ホウ素複合粉末を製造する方法が記載されており、このようにして得られる窒化アルミニウム/窒化ホウ素複合粉末が、窒化アルミニウム粒子の間隙に窒化ホウ素粒子が存在したものや、窒化アルミニウム粒子の表面に窒化ホウ素粒子が付着したものであることも記載されている。
さらに、特開2018-162335号公報(特許文献3)には、平均粒子径が10~100μmの窒化ホウ素粒子と、平均粒子径が前記窒化ホウ素粒子の平均粒子径の1/100~1/2の窒化アルミニウム粒子との混合物であり、前記窒化ホウ素粒子の含有率が前記窒化ホウ素粒子と前記窒化アルミニウム粒子との合計量に対して60~90体積%である熱伝導性フィラーが記載されている。
また、特開2019-43804号公報(特許文献4)には、窒化ホウ素粉末と窒化アルミニウム粉末との混合物を圧縮しながら焼成することによって圧縮焼成体を作製し、この圧縮焼成体を粉砕することによって、窒化ホウ素粒子と窒化アルミニウム粒子とを含有し、前記窒化アルミニウム粒子の外表面の50%以上が前記窒化ホウ素粒子の内部に包含され、かつ、前記窒化ホウ素粒子に当接した状態で形成されている複合粒子を含む熱伝導性フィラーが得られることが記載されている。
しかしながら、窒化アルミニウム粒子の表面にホウ素化合物を用いて窒化ホウ素を形成することによって得られる従来の熱伝導性フィラーや、窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素粒子とを混合することによって得られる従来の熱伝導性フィラーは、熱伝導性の向上に限界があり、必ずしも十分な熱伝導性を達成できるものではなかった。
また、特開2012-171842号公報(特許文献5)には、ホウ酸メラミンと、特定の鱗片状窒化ホウ素粉末からなる複合粒子を非酸化性雰囲気下で焼成することによって、熱伝導性に優れた窒化ホウ素粒子が得られることが記載されている。しかしながら、このようにして得られる窒化ホウ素粒子は、窒化ホウ素固有の熱伝導性を超えることはできないため、必ずしも十分な熱伝導性を達成できるものではなかった。
特開2005-29421号公報 特開2008-1536号公報 特開2018-162335号公報 特開2019-43804号公報 特開2012-171842号公報
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、マトリックスに高い熱伝導性を付与することが可能な熱伝導性フィラー及びその製造方法、並びに、優れた熱伝導性を有する複合材料を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、高熱伝導性粉末と非多孔性の六方晶窒化ホウ素粉末とホウ酸錯体との混合物を特定の圧力で圧縮成形した後、焼成し、得られた圧縮焼結体を粉砕することによって、高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に多孔性窒化ホウ素を介して六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を個数基準で40%以上含有する熱伝導性フィラーが得られることを見出し、さらに、この熱伝導性フィラーを用いることによって、マトリックスに高い熱伝導性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の熱伝導性フィラーは、窒化アルミニウム粒子及び酸化アルミニウム粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粒子と、該高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粒子と、多孔性窒化ホウ素とを含有し、走査型電子顕微鏡による焼結体の断面写真において、窒化ホウ素相に相当する領域の合計面積及び窒化ホウ素相内の空隙に相当する領域の合計面積から、下記式:
窒化ホウ素相の空隙率=窒化ホウ素相内の空隙に相当する領域の合計面積/{窒化ホウ素相内の空隙に相当する領域の合計面積+窒化ホウ素相に相当する領域の合計面積}×100
により算出され、20箇所の測定領域における平均値として求められる、前記六方晶窒化ホウ素粒子及び前記多孔性窒化ホウ素により形成される窒化ホウ素相の空隙率が10~50vol%である焼結体の粉砕物からなり、
前記粉砕物中の全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で40%以上の粒子が、該高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を形成していることを特徴とするものである。
本発明の熱伝導性フィラーにおいては前記多孔性窒化ホウ素が乱層構造を有するものであることが好ましい。さらに、本発明の熱伝導性フィラーにおいては、表面がアルキル化されていることが好ましい。
また、本発明の熱伝導性複合材料は、絶縁性の樹脂及び絶縁性のオイルからなる群から選択される少なくとも1種のマトリックスと、該マトリックス中に分散している前記本発明の熱伝導性フィラーとを含有することを特徴とするものである。
本発明の熱伝導性複合材料において、前記熱伝導性フィラーは、二峰性以上の粒度分布を有するものであることが好ましい。
また、本発明の熱伝導性複合材料としては、前記マトリックスが絶縁性のオイルであるグリース組成物が挙げられる。前記オイルとしては、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フルオロエーテルオイル、鉱物油、動植物性天然油、パラフィン及び合成油からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
さらに、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法は、窒化アルミニウム粉末及び酸化アルミニウム粉末からなる群から選択される少なくとも1種であり、平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粉末と、該高熱伝導性粉末の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粉末と、ホウ酸メラミン錯体及びホウ酸尿素錯体からなる群から選択される少なくとも1種のホウ酸錯体との混合物を20MPa以上の圧力で圧縮成形する第一の工程と
前記第一の工程で得られた圧縮成形体を不活性ガス雰囲気下で焼成する第二の工程と
前記第二の工程で得られた圧縮焼結体を粉砕して、高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に多孔性窒化ホウ素を介して六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を含有する熱伝導性フィラーを得る第三の工程と
を含むことを特徴とする方法である。
前記第一の工程においては、静水圧下で圧縮成形することが好ましい
また、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法においては、前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させて前記熱伝導性フィラーの表面をアルキル化する第四の工程を更に含むことが好ましい。
なお、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法によって、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を含有する熱伝導性フィラーが得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法においては、前記高熱伝導性粉末と前記六方晶窒化ホウ素粉末とホウ酸錯体との混合物を所定の圧力で圧縮成形し、得られた圧縮成形体を不活性ガス雰囲気下で焼成することによって、圧縮焼結体を形成し、この圧縮焼結体を粉砕することによって、熱伝導性フィラーを得ている。前記高熱伝導性粉末と前記六方晶窒化ホウ素粉末と前記ホウ酸錯体との混合物を所定の圧力で圧縮成形することによって、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とが前記ホウ酸錯体を介して接触した状態となり、このような状態の圧縮成形体を不活性ガス雰囲気下で焼成することによって、前記ホウ酸錯体が窒化ホウ素に変換されるとともに、酸素や炭素化合物が脱離するため、前記窒化ホウ素に空隙が形成される。その結果、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とが前記多孔性窒化ホウ素を介して接合した圧縮焼結体が得られる。そして、このような圧縮成形体を粉砕すると、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とが非常に硬質な材料であるため、前記多孔性窒化ホウ素が選択的に破壊され、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子が形成されると推察される。
また、このような本発明の熱伝導性フィラーを用いることによって、熱伝導性に優れた複合材料が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、熱伝導性フィラーをマトリックス中に分散させた複合材料においては、フィラー粒子が接触した部位を通じて熱が伝達されるが、窒化アルミニウム粒子等の高熱伝導性粒子は粒子内熱抵抗が小さいという利点があるものの、概して硬い粒子であることから、粒子間接触する際に粒子が変形することなく、接触面積が小さい点接点となり、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が大きくなる。また、窒化ホウ素粒子は高熱伝導性粒子の中でも比較的軟らかい粒子ではあり、点接点よりは接触面積が大きくなり、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が小さくなる。そこで、従来の熱伝導性フィラーにおいては、窒化アルミニウム粒子等の高熱伝導性粒子と窒化ホウ素粒子とを併用して、接触面積を増加させ、粒子間熱抵抗を低下させているものの、必ずしも十分なものではなかった。
これに対して、本発明の熱伝導性フィラーは、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を含有するものである。ここで、前記多孔性窒化ホウ素は、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とを高い結合力で結合するだけでなく、これらの粒子の接触面積を増大させる役割も備えている。このため、本発明の熱伝導性フィラーにおいては、粒子間熱抵抗が更に小さくなり、得られる複合材料の熱伝導性が向上すると推察される。
本発明によれば、マトリックスに高い熱伝導性を付与することが可能な熱伝導性フィラー、及び、優れた熱伝導性を有する複合材料を得ることが可能となる。
実施例A5において作製した圧縮焼結体の断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。 実施例A3で得られた熱伝導性フィラーを示す走査型電子顕微鏡写真(二次電子像)である。 実施例A3で得られた熱伝導性フィラーを示す走査型電子顕微鏡写真(反射電子像)である。 実施例A4で得られた熱伝導性フィラーを示す走査型電子顕微鏡写真(無作為に抽出した25μm×20μmの視野)である。 窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が多孔性窒化ホウ素で被覆された粒子のX線回折パターンを示すグラフである。 実施例A7~A8及び比較例A8で得られた熱伝導性フィラーの粒径分布を示すグラフである。 実施例A6、A9及び比較例A9で得られた熱伝導性フィラーの粒径分布を示すグラフである。 実施例A4において作製した圧縮焼結体を示す走査型電子顕微鏡写真である。 実施例A4で得られた熱伝導性フィラーを示す走査型電子顕微鏡写真である。 比較例A6で得られた熱伝導性フィラーを示す走査型電子顕微鏡写真である。 実施例及び比較例で作製した円柱状の複合材料及びそれから切り出した熱伝導率測定用試料を示す模式図である。 圧縮成形時の静水圧圧力と複合材料の熱伝導率との関係を示すグラフである。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
(熱伝導性フィラー)
先ず、本発明の熱伝導性フィラーについて説明する。本発明の熱伝導性フィラーは、平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粒子と、該高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粒子と、多孔性窒化ホウ素とを含有し、前記六方晶窒化ホウ素粒子及び前記多孔性窒化ホウ素により形成される窒化ホウ素相の空隙率が10~50vol%である焼結体の粉砕物からなるものである。また、本発明の熱伝導性フィラーにおいては、前記粉砕物中の全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で40%以上の粒子が、該高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を形成している。
本発明に用いられる高熱伝導性粒子としては、熱伝導率が20W/mK以上の等方性の熱伝導性粒子であれば特に制限はなく、例えば、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、立方晶窒化ホウ素粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化亜鉛粒子、炭化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子が挙げられる。これらの高熱伝導性粒子は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの高熱伝導性粒子の中でも、焼結により前記六方晶窒化ホウ素粒子との間に密に接触した界面を形成でき、前記六方晶窒化ホウ素粒子との複合粒子が優れた熱伝導性を示すという観点から、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、立方晶窒化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子が好ましく、窒化アルミニウム粒子が特に好ましい。なお、本明細書における熱伝導率とは、室温(20℃)における熱伝導率である。
前記高熱伝導性粒子の平均粒子径は0.2~100μmである。前記高熱伝導性粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、得られる複合材料において前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記高熱伝導性粒子との間及び前記高熱伝導性粒子間の粒界数が増大するため全体の熱抵抗が増大する。他方、前記高熱伝導性粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、得られる複合材料において熱伝導性フィラーの分散均一性及び充填率が低下して熱伝導性が低下する。また、同様の観点から、前記高熱伝導性粒子の平均粒子径としては、0.3~95μmが好ましく、0.5~90μmがより好ましく、0.5~50μmが更に好ましく、1~20μmが特に好ましい。なお、本発明において、前記高熱伝導性粒子の平均粒子径は、熱伝導性フィラーに含まれる全ての前記高熱伝導性粒子、すなわち、前記六方晶窒化ホウ素粒子との複合粒子を形成している前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子と複合粒子を形成していない前記高熱伝導性粒子とを含む全ての前記高熱伝導性粒子の平均粒子径である。
なお、本明細書において、「平均粒子径」は、原料粉末等に関するカタログ値を除き、走査型電子顕微鏡(SEM)観察等により無作為に抽出した300個以上の粒子の粒子径の平均値を意味する。また、粒子が球形状(断面が円形状)でない場合には、粒子(断面)の外接円を想定し、その外接円の直径を粒子径とする。
本発明に用いられる窒化ホウ素粒子は、非多孔性の六方晶窒化ホウ素粒子であり、熱伝導性に優れている。このような六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、組合せて用いられる前記高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.01~5倍である。前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、得られる複合材料において前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記高熱伝導性粒子との間及び前記六方晶窒化ホウ素粒子間の粒界数が増大するため全体の熱抵抗が増大する。他方、前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、得られる複合材料において熱伝導性フィラーの分散均一性及び充填率が低下して熱伝導性が低下する。また、同様の観点から、前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径としては、組合せて用いられる前記高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.03~3倍が好ましく、0.05~1倍がより好ましい。なお、本発明において、前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、熱伝導性フィラーに含まれる全ての前記六方晶窒化ホウ素粒子、すなわち、前記高熱伝導性粒子との複合粒子を形成している前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記高熱伝導性粒子と複合粒子を形成していない前記六方晶窒化ホウ素粒子とを含む全ての前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径である。
また、前記六方晶窒化ホウ素粒子においては、黒鉛化指数が2.0以下であることが好ましい。前記六方晶窒化ホウ素粒子の黒鉛化指数が前記上限を超えると、前記六方晶窒化ホウ素粒子の熱伝導率そのものが小さくなるため、得られる複合材料の熱伝導性が低下する。
さらに、前記高熱伝導性粒子及び前記六方晶窒化ホウ素粒子においては、マトリックスへの分散性をより向上させるという観点から、それらの表面に水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アミノ基等の官能基が結合していてもよい。
本発明にかかる多孔性窒化ホウ素は、本発明にかかる焼結体や本発明の熱伝導性フィラーにおいて、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とを高い結合力で結合させるものである。また、このような多孔性窒化ホウ素は、配向性が高すぎると、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の熱伝導を妨げる位置に配置される可能性があるため、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の効率的な熱伝導という観点から、乱層構造を有していることが好ましい。
また、前記多孔性窒化ホウ素においては、002面に由来するX線回折ピークの半値幅が0.5~10°であることが好ましく、0.5~5°であることがより好ましく、0.5~2°であることが特に好ましい。多孔性窒化ホウ素の002面に由来するX線回折ピークの半値幅が前記下限未満になると、乱層構造の割合が少なくなり、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の結合力や接合力が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、乱層構造により結晶が乱れるため、熱伝導率が低下する傾向にある。
このような多孔性窒化ホウ素は、例えば、後述するように、ホウ酸錯体を不活性ガス雰囲気下で焼成することによって形成することができる。ホウ酸錯体は、不活性ガス雰囲気下での焼成によって、窒化ホウ素に変換される。このとき、酸素や炭素化合物が脱離するため、前記窒化ホウ素に空隙が形成され、多孔性の窒化ホウ素が得られる。
本発明の熱伝導性フィラーは、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素とを含有する焼結体の粉砕物である。前記焼結体において、前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素とによって形成される窒化ホウ素相の空隙率は10~50vol%である。前記窒化ホウ素相の空隙率が前記範囲内にあると、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との接触面積が増加し、粒子間の熱抵抗が低減される。また、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との密着性の向上と前記窒化ホウ素相の熱伝導性の向上とを両立させることができる。一方、前記窒化ホウ素相の空隙率が前記下限未満になると、前記窒化ホウ素相の熱伝導性は向上するものの、焼結体の粉砕時に、前記多孔性窒化ホウ素が優先的に破断されないため、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子が形成しにくく、得られる熱伝導性フィラーにおいて、前記複合粒子の含有量が少なくなる。他方、前記窒化ホウ素相の空隙率が前記上限を超えると、前記窒化ホウ素相の熱伝導性が低下するため、得られる複合材料の熱伝導性も低下する。また、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との密着性が低下するため、焼結体の粉砕時に、前記高熱伝導性粒子の表面から前記六方晶窒化ホウ素粒子が脱離しやすく、得られる熱伝導性フィラーにおいて、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子の含有量が少なくなる。また、同様の観点から、前記窒化ホウ素相の空隙率としては、15~40vol%が好ましい。
また、本発明の熱伝導性フィラーにおいては、前記粉砕物中の全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で40%以上の粒子が、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を形成している。全ての前記高熱伝導性粒子のうちの40%以上の粒子が前記複合粒子を形成している熱伝導性フィラーは、粒子間の熱抵抗が小さく、得られる複合材料の熱伝導性が向上する。一方、前記複合粒子を形成している粒子の割合が前記下限未満の熱伝導性フィラーは、粒子間の熱抵抗が高く、得られる複合材料の熱伝導性が低下する。熱伝導性フィラーにおいて粒子間の熱抵抗が更に小さくなり、得られる複合材料の熱伝導性が更に向上するという観点から、全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で50%以上の粒子が前記複合粒子を形成していることが好ましく、55%以上の粒子が前記複合粒子を形成していることがより好ましい。なお、全ての高熱伝導性粒子の個数は、表面の少なくとも一部に前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合している高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合していない高熱伝導性粒子とを含む全ての前記高熱伝導性粒子の個数を意味する。
さらに、本発明の熱伝導性フィラーにおいては、前記複合粒子が必ずしも前記高熱伝導性粒子の全表面が前記六方晶窒化ホウ素粒子により被覆されていなくてもよいが、前記高熱伝導性粒子の表面の40%以上が被覆されていることが好ましく、55%以上が被覆されていることがより好ましく、全表面が被覆されていることが特に好ましい。
本発明の熱伝導性フィラーにおいて、前記高熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素相(前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素とにより形成される相)との体積比率(高熱伝導性粒子:窒化ホウ素相)としては特に制限はないが、30:70~98:2が好ましく、40:60~90:10がより好ましい。前記高熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素相との体積比率が前記下限未満になると、前記高熱伝導性粒子による熱伝導性の向上効果が十分に得られず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる複合材料において、前記高熱伝導性粒子が関与する熱抵抗の大きい接触界面が相対的に増加するため、優れた熱伝導性を有する複合材料が得られない傾向にある。
また、本発明の熱伝導性フィラーにおいて、前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素との体積比率(六方晶窒化ホウ素粒子:多孔性窒化ホウ素)としては特に制限はないが、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましい。前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素との体積比率が前記下限未満になると、前記六方晶窒化ホウ素粒子が関与する熱抵抗の小さい接触界面が相対的に減少するため、優れた熱伝導性を有する複合材料が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との密着性が低下するため、焼結体の粉砕時に、前記高熱伝導性粒子の表面から前記六方晶窒化ホウ素粒子が脱離しやすく、得られる熱伝導性フィラーにおいて、前記複合粒子の含有量が少なくなり、優れた熱伝導性を有する複合材料が得られない傾向にある。
さらに、本発明の熱伝導性フィラーにおいては、表面がアルキル化されていることが好ましい。これにより、後述するマトリックス中に熱伝導性フィラーを添加した場合に、熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができ、複合材料の流動性が向上するため、熱抵抗が更に低減された、熱伝導性に更に優れた複合材料を得ることが可能となる。
(熱伝導性フィラーの製造方法)
次に、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法について説明する。本発明の熱伝導性フィラーの製造方法は、平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粉末と、該高熱伝導性粉末の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粉末と、ホウ酸錯体との混合物を20MPa以上の圧力で圧縮成形する第一の工程と
前記第一の工程で得られた圧縮成形体を不活性ガス雰囲気下、1800~2200℃の温度で焼成する第二の工程と
前記第二の工程で得られた圧縮焼結体を粉砕して、高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に多孔性窒化ホウ素を介して六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を含有する熱伝導性フィラーを得る第三の工程と
を含む方法である。
また、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法においては、前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させて前記熱伝導性フィラーの表面をアルキル化する第四の工程を更に含むことが好ましい。
(第一の工程)
第一の工程においては、先ず、高熱伝導性粉末と六方晶窒化ホウ素粉末とホウ酸錯体との混合物を調製する。ここで用いる高熱伝導性粉末は、前記本発明の熱伝導性フィラーにおける高熱伝導性粒子となる原料粉末であり、その平均粒子径は0.2~100μmであり、0.3~95μmであることが好ましく、0.5~90μmであることがより好ましく、0.5~50μmであることが更に好ましく、1~20μmであることが特に好ましい。また、ここで用いる六方晶窒化ホウ素粉末は、前記本発明の熱伝導性フィラーにおける六方晶窒化ホウ素粒子となる原料粉末であり、その平均粒子径は組合せて用いられる前記高熱伝導性粉末の平均粒子径の0.01~5倍であり、0.03~3倍であることが好ましく、0.05~1倍であることがより好ましい。
また、前記ホウ酸錯体としては不活性ガス雰囲気下での焼成によって多孔性の窒化ホウ素を形成できるものであれば特に制限はなく、例えば、ホウ酸メラミン錯体、ホウ酸尿素錯体が挙げられる。
前記混合物を調製する際の混合方法としては特に制限はなく、例えば、湿式ボールミル粉砕混合法、乾式ボールミル粉砕混合法、機械混合法、撹拌混合法、乳鉢等による混合法等を採用することができ、必要に応じて、ろ過、洗浄、乾燥、分粒等の処理を施してもよい。このようなろ過、洗浄、乾燥、分粒等の処理としてはいずれも特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
前記高熱伝導性粉末と前記六方晶窒化ホウ素粉末と前記ホウ酸錯体との混合比率としては特に制限はないが、得られる熱伝導性フィラーにおいて、前記高熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素相との体積比率及び前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素との体積比率が前記範囲内となる混合比率が好ましい。
次に、このようにして得られた混合物を所定の圧力で圧縮成形する。これにより、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とが前記ホウ酸錯体を介して密着した圧縮成形体を得ることができる。
圧縮成形時の圧力は20MPa以上であり、60MPa以上であることが好ましく、80MPa以上であることがより好ましい。圧縮成形時の圧力が前記下限未満になると、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とが前記ホウ酸錯体を介して十分に密着せず、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とが前記多孔性窒化ホウ素を介して高い結合力で結合している複合材料が形成されにくく、得られる熱伝導性フィラー及び複合材料の熱伝導性が向上しにくい傾向にある。
前記混合物を圧縮成形する方法としては特に制限はないが、静水圧下での圧縮成形が好ましい。これにより、前記混合物に均一に圧力が印加され、効果的な密着状態の圧縮成形体を得ることができる。また、静水圧下で圧縮成形することにより、窒化ホウ素の配向による熱伝導性フィラーの熱伝導率異方性を抑制することができる。このような熱伝導性フィラーの熱伝導率異方性は成形履歴による熱伝導率異方性を生じさせるため、場合によっては好ましくない。
(第二の工程)
第二の工程においては、前記第一の工程で得られた圧縮成形体を不活性ガス雰囲気下で焼成する。これにより、前記圧縮成形体中の前記ホウ酸錯体が窒化ホウ素に変換されるとともに、酸素や炭素化合物が脱離するため、前記窒化ホウ素内に空隙が形成され、多孔性の窒化ホウ素が得られる。
前記不活性ガスとしては、窒素、希ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン)等が挙げられる。焼成温度としては、前記混合物が十分に焼結する温度であれば特に制限はないが、1600~2200℃が好ましく、1650~1900℃がより好ましい。また、焼成時間としては、前記混合物が十分に焼結する時間であれば特に制限はないが、0.5~6時間が好ましく、1~4時間がより好ましい。
(第三の工程)
第三の工程においては、前記第二の工程で得られた圧縮焼結体を粉砕する。このとき、前記圧縮成形体の多孔性窒化ホウ素が選択的に破断されるため、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子が形成され、この複合粒子を多く含有する熱伝導性フィラーが得られる。
前記圧縮焼結体の粉砕方法としては特に制限はなく、例えば、各種粉砕機(ミル)や乳鉢を用いた粉砕方法や湿式ボールミルや乾式ボールミルを用いた粉砕方法等を採用することができる。
(第四の工程)
第四の工程においては、前記第三の工程で得られた熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させる。このとき、前記熱伝導性フィラー中の前記BN粒子とシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とが反応することによって、前記熱伝導性フィラーの表面がアルキル化され、後述するマトリックス中に熱伝導性フィラーを添加した場合に、熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができ、複合材料の流動性が向上するため、熱抵抗が更に低減された、熱伝導性に更に優れた複合材料を得ることが可能となる。
一方、前記第三の工程で得られた熱伝導性フィラーの表面をシラン系カップリング剤又はアルミネート系カップリング剤で処理した場合、シラン系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤の加水分解反応が進行してカップリング剤のゲル化が起こり、前記熱伝導性フィラー中の前記BN粒子とシラン系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤との反応が進行しないため、前記熱伝導性フィラーの表面がアルキル化されず、後述するマトリックス中に熱伝導性フィラーを添加した場合に、熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができず、複合材料の流動性が低下する。また、生じたゲルの介在により、熱伝導性フィラー間の接触熱抵抗が上昇する。これらの結果、複合材料は、熱抵抗が低減されず、熱伝導性が向上しない。
前記シラザン系カップリング剤及び前記チタネート系カップリング剤のうち、熱伝導性フィラーの凝集を十分に抑制することができ、複合材料の流動性が向上し、また、ゲルの介在による熱伝導性フィラー間の接触熱抵抗の上昇も起こらないため、得られる複合材料の熱抵抗がより低減され、熱伝導性がより高くなるという観点から、シラザン系カップリング剤が好ましい。
前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させる方法としては、例えば、トルエン等の有機溶媒中に前記熱伝導性フィラーを分散させ、得られた分散液にシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤を添加した後、加熱する方法が挙げられる。
前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤との混合比としては、前記熱伝導性フィラー100質量部に対して、シラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤の量が1~20質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。
反応温度としては室温~100℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。また、反応時間としては0.5~20時間が好ましく、1~5時間がより好ましい。
(熱伝導性複合材料)
次に、本発明の熱伝導性複合材料について説明する。本発明の熱伝導性複合材料は、マトリックスと、このマトリックス中に分散している前記本発明の熱伝導性フィラーとを含有するものである。
このような本発明の熱伝導性複合材料において、前記マトリックスとしては、絶縁性の樹脂や絶縁性のオイルが好ましく、例えば、樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリオレフィンエラストマー、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、オイルとしては、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フルオロエーテルオイル、鉱物油、動植物性天然油、パラフィン、合成油等が挙げられ、沸点が200℃以上の、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、パラフィン、合成油が好ましい。これらの樹脂やオイルは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
また、本発明の熱伝導性複合材料においては、前記熱伝導性フィラーの表面がアルキル化されていることが好ましい。これにより、前記マトリックス中での前記熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができ、複合材料の流動性が向上するため、複合材料の熱抵抗が更に低減され、熱伝導性が更に向上する。
本発明の熱伝導性複合材料において、前記熱伝導性フィラーの含有量としては特に制限はないが、前記熱伝導性複合材料の全量に対して、10~90vol%が好ましく、15~70vol%がより好ましく、20~60vol%が特に好ましい。前記熱伝導性フィラーの含有率が前記下限未満になると、複合材料中で前記熱伝導性フィラー間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が十分に形成されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記熱伝導性フィラーの含有率が前記上限を超えると、得られる複合材料が脆くなって自立した複合材料が得られにくくなる傾向にある。
また、本発明の熱伝導性複合材料においては、前記熱伝導性フィラーが二峰性以上の粒度分布を有するものであることが好ましい。これにより、複合材料の粘度が低減され、複合材料の流動性が向上することにより、複合材料の厚みが薄くなるため、複合材料の熱抵抗が更に低減され、熱伝導性が更に向上する。このような二峰性以上の粒度分布を有する熱伝導性フィラーとしては、例えば、粒度分布が異なる2種以上の熱伝導性フィラーの混合物が挙げられるが、本発明の熱伝導性複合材料に含まれる二峰性以上の粒度分布を有する前記熱伝導性フィラーはこれに限定されるものではない。また、二峰性以上の粒度分布を有する前記熱伝導性フィラーにおいては、得られる複合材料の粘度が低減され、複合材料の流動性が向上することにより、複合材料の厚みが薄くなるため、複合材料の熱抵抗が更に低減され、熱伝導性が更に向上するという観点から、前記粒度分布におけるピークのうちの粒子径が最も大きいピークを形成する熱伝導性フィラーの割合が70~95質量%であることが好ましく、75~90質量%であることがより好ましい。
さらに、本発明の熱伝導性複合材料においては、粒子間の転がりが促進され、複合材料の粘度が低減されるという観点から、真球状のナノ粒子を含んでいてもよい。また、このような真球状のナノ粒子は、表面処理が施されていてもよい。なお、前記複合材料に真球状ナノ粒子が含まれていても、熱抵抗の低減効果は維持され、熱伝導性に優れた複合材料を得ることができる。
このような真球状ナノ粒子としては、熱伝導性フィラー表面への吸着性、及びマトリックス中での分散性の向上による複合材料の流動性の向上という観点から、真球状シリカナノ粒子、表面処理が施された真球状シリカナノ粒子が好ましい。また、このような真球状ナノ粒子は、熱伝導性フィラー表面に吸着していることが好ましい。これにより、マトリックス中での分散性が向上し、粒子間摩擦が低減されるため、複合材料の粘度が低減される。
また、このような真球状ナノ粒子の平均粒子径としては、熱伝導性フィラー表面への吸着の均一性、真球状ナノ粒子による界面熱伝導阻害の回避という観点から、前記熱伝導性フィラーの平均粒子径の1/2倍以下が好ましく、1/4倍以下がより好ましく、1/5倍以下が特に好ましい。
本発明の熱伝導性複合材料が前記真球状ナノ粒子を含む場合、その含有量としては、前記熱伝導性複合材料の全量に対して、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、0.5~5質量%が特に好ましい。前記真球状ナノ粒子の配合量が前記下限未満になると、前記真球状ナノ粒子を配合する効果が十分に得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱伝導性フィラー間の接触を妨げ、界面熱伝導を阻害し、熱伝導性複合材料の熱伝導性を低下させる傾向にある。
このような熱伝導性複合材料は、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、先ず、前記熱伝導性フィラーとマトリックスとを混合する。その際、得られる複合材料中の熱伝導性フィラーの含有率が目的の含有率となるように熱伝導性フィラーとマトリックスとの混合割合を定める。また、熱伝導性フィラーとマトリックスとを混合する方法は特に制限されず、公知の混合方法が適宜用いられる。
このようなマトリックスとして前記樹脂を用いる場合、前記熱伝導性フィラーと前記樹脂とを混合して均一混合物とし、得られた混合物を成形することにより前記熱伝導性複合材料を得ることができる。このように前記熱伝導性フィラーと前記樹脂とを混合して均一混合物とする際に、分散媒を更に加えて均一スラリーとしてもよく、その場合は真空乾燥等の公知の方法で分散媒を除去した後に成形することが好ましい。このような分散媒としては特に制限されず、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸アミル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロフェノール、フェノール、テトラヒドロフラン、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、N-ジメチルピロリドン、ペンタン、ヘキサン、ネオペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ジエチルエーテル等の有機溶媒が挙げられる。
前記混合物を成形する際、加圧して圧縮することが好ましい。このような圧縮方法としては特に制限されず、一軸圧縮であっても二軸圧縮であってもよい。また、静水圧で等方的に圧縮してもよい。また、圧縮時の圧力も特に制限はないが、5~20MPaが好ましい。圧縮時の圧力が前記下限未満になると、得られる複合材料に空隙が残存しやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる複合材料内のフィラーの破壊変形が顕著となり、残留ひずみが発生する傾向にある。
前記混合物を成形する際に樹脂を固化させる方法としては特に制限はなく、公知の方法、例えば、樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合には放冷等の冷却による方法、各種(熱、光、水)硬化性樹脂を用いた場合にはそれぞれ適切な硬化方法を採用することができる。また、このような固化は、成形時又は成形後のいずれにおいて実施してもよい。
また、前記マトリックスとして前記オイルを用いる場合は、前記熱伝導性フィラーと前記オイルとを混合して均一スラリーとすることにより前記熱伝導性複合材料(すなわち、グリース組成物)を得ることができる。
さらに、本発明の熱伝導性複合材料が前記真球状ナノ粒子を含む場合、前記真球状ナノ粒子は、前記熱伝導性フィラーと前記マトリックスとを混合する際に、これらとともに混合してもよいが、前記熱伝導性フィラーと前記マトリックスとを混合する前に、予め、前記熱伝導性フィラーと混合して前記熱伝導性フィラーに真球状ナノ粒子を吸着させることが好ましい。これにより、前記真球状ナノ粒子が前記マトリックス中に分散しやすく、粒子間摩擦の低減により、複合材料の粘度が低減される。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用したホウ酸メラミン錯体の合成方法及び窒化ホウ素粉砕粒子の調製方法を以下に示す。
(合成例1)
95℃に加熱した800mlの水に、ホウ酸24gを添加し、攪拌することにより溶解させた後、さらに、メラミン16gを添加し、攪拌することにより溶解させた。加熱攪拌を10分間継続してホウ酸とメラミンとを反応させ、得られた反応液を水冷した後、室温で12時間放置した。その後、析出した結晶を濾過により回収し、40℃で真空乾燥して、ホウ酸メラミン錯体31.5gを得た。
(調製例1)
原料窒化ホウ素粉末として非多孔性の六方晶窒化ホウ素粉末(スリーエム社製「3MTM窒化ホウ素クーリングフィラー Platelets003」、平均粒子径3μm)を濃度が5質量%となるようにエタノールに分散させた。得られた分散液を、湿式粉砕装置を用いてノズル(ノズル径0.15mm)から100MPaの圧力で噴射させ、圧縮された状態から常圧まで急激に圧力を開放する湿式粉砕処理を行った。その後、1回目の湿式粉砕処理を施した分散液に同じ条件で2回目及び3回目の湿式粉砕処理を施した後、粉砕された窒化ホウ素粉末を濾過により回収して真空乾燥させ、窒化ホウ素粉砕粒子(BN粉砕粒子)を得た。このBN粉砕粒子の平均粒子径は1μmであった。
(実施例A1)
先ず、得られる圧縮焼結体の組成比が窒化アルミニウム粒子(AlN粒子)/窒化ホウ素粒子(BN粒子)/多孔性窒化ホウ素(多孔性BN)=80vol%/15vol%/5vol%となるように、ポリエチレン製ポットに、等方性の高熱伝導性粒子であるAlN粉末(株式会社トクヤマ製「高純度窒化アルミニウム粉末・顆粒 Eグレード」、平均粒子径1μm、熱伝導率180W/mK)22.8g、非多孔性の六方晶BN粉末(スリーエム社製「3MTM窒化ホウ素クーリングフィラー Platelets001」、平均粒子径1μm)2.97g及び合成例1で得られたホウ酸メラミン錯体4.95gを投入し、さらに、ジルコニアボール(3mm径)500g及びアセトン165gを投入して、ボールミルにより400rpmの条件で12時間混合した。その後、濾過によりジルコニアボールを取り除き、さらに、エバポレーション及び真空乾燥によりアセトンを完全に除去した。得られた混合物を294MPaの静水圧下で圧縮した後、窒素雰囲気下、380℃で1時間加熱し、さらに、1800℃で1時間焼成して圧縮焼結体を得た。この圧縮焼結体を室温まで冷却した後、60秒間ミル粉砕して、前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを得た。
次に、この熱伝導性フィラーと一液型熱硬化性エポキシ樹脂(セメダイン株式会社製「EP160」)とをフィラーの体積分率が60%となるように混合した後、ジクロロメタンを添加してスラリーを調製した。得られたスラリーを大気中で攪拌してジクロロメタンを蒸発させ、さらに、15分間の真空乾燥によりジクロロメタンを完全に除去した。このようにして得られたエポキシ樹脂組成物を、110℃で30分間予備加熱した円筒容器(内径14mm)に成形後の厚みが30~40mmの範囲内となるように素早く充填した後、プランジャーを用いて円筒容器の長手方向に5~10MPaの範囲内の圧力で圧縮し、この圧縮状態をクランプを用いて保持しながら110℃で30分間加熱してエポキシ樹脂を硬化させ、前記熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を得た。
(実施例A2)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/16.7vol%/3.3vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉末3.3g及び前記ホウ酸メラミン錯体3.3gを混合した以外は実施例A1と同様にして前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A3)
平均粒子径が1μmの前記BN粉末(スリーエム社製「3MTM窒化ホウ素クーリングフィラー Platelets001」)の代わりに調製例1で得られたBN粉砕粒子(平均粒子径1μm)2.97gを用いた以外は実施例A1と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A4)
平均粒子径が1μmの前記AlN粉末(株式会社トクヤマ製「高純度窒化アルミニウム粉末・顆粒 Eグレード」)の代わりに等方性の高熱伝導性粒子である平均粒子径が5μmのAlN粉末(古河電子株式会社製「高熱伝導AlNフィラーFAN-f05」、熱伝導率170W/mK)を用い、平均粒子径が1μmの前記BN粉末(スリーエム社製「3MTM窒化ホウ素クーリングフィラー Platelets001」)の代わりに調製例1で得られたBN粉砕粒子(平均粒子径1μm)を用い、得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/10vol%/10vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉砕粒子1.98g及び前記ホウ酸メラミン錯体9.98gを混合した以外は実施例A1と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A5)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/15vol%/5vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉砕粒子2.97g及び前記ホウ酸メラミン錯体4.95gを混合した以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A6)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=70vol%/15vol%/15vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉砕粒子3.40g及び前記ホウ酸メラミン錯体17.01gを混合した以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A7)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=60vol%/20vol%/20vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉砕粒子5.29g及び前記ホウ酸メラミン錯体26.46gを混合した以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A8)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=60vol%/30vol%/10vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉砕粒子7.94g及び前記ホウ酸メラミン錯体13.2gを混合した以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A9)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=70vol%/22.5vol%/7.5vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉砕粒子5.10g及び前記ホウ酸メラミン錯体8.51gを混合した以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A10)
前記BN粉砕粒子の代わりに平均粒子径が1μmの前記BN粉末(スリーエム社製「3MTM窒化ホウ素クーリングフィラー Platelets001」)1.98gを用いた以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A11)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/15vol%/5vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉末2.97g及び前記ホウ酸メラミン錯体4.95gを混合した以外は実施例A10と同様にして前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A12)
静水圧圧力を98.1MPaに変更した以外は実施例A10と同様にして前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(実施例A13)
静水圧圧力を29.4MPaに変更した以外は実施例A10と同様にして前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A1)
前記BN粉末及び前記ホウ酸メラミン錯体を用いずに前記AlN粉末22.8gのみを用い、また、静水圧での圧縮及び1800℃での加熱を行わなかった以外は実施例A1と同様にして前記AlN粒子のみからなる熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A2)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/0vol%/20vol%となるように、前記BN粉末を用いずに前記AlN粉末22.8g及び前記ホウ酸メラミン錯体20gを混合した以外は実施例A1と同様にして前記AlN粒子の表面の少なくとも一部が多孔性BNで被覆された粒子(多孔性BN被覆AlN粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A3)
前記BN粉砕粒子及び前記ホウ酸メラミン錯体を用いずに前記AlN粉末22.8gのみを用い、また、静水圧での圧縮を行わなかった以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子のみからなる熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A4)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/0vol%/20vol%となるように、前記BN粉砕粒子を用いずに前記AlN粉末22.8g及び前記ホウ酸メラミン錯体20gを混合した以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子の表面の少なくとも一部が多孔性BNで被覆された粒子(多孔性BN被覆AlN粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A5)
混合物の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/20vol%/0vol%となるように、前記ホウ酸メラミン錯体を用いずに前記AlN粉末22.8g及び前記BN粉砕粒子3.96gを混合し、また、静水圧での圧縮及び1800℃での加熱を行わなかった以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子との混合粒子(AlN/BN混合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A6)
静水圧下での圧縮を行わなかった以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A7)
前記BN粉砕粒子及び前記ホウ酸メラミン錯体を用いずに前記AlN粉末22.8gのみを用い、また、静水圧での圧縮及び1800℃での加熱を行わなかった以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子のみからなる熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A8)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=60vol%/0vol%/40vol%となるように、前記BN粉砕粒子を用いずに前記AlN粉末22.8g及び前記ホウ酸メラミン錯体52.9gを混合した以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子の表面の少なくとも一部が多孔性BNで被覆された粒子(多孔性BN被覆AlN粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A9)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=70vol%/0vol%/30vol%となるように、前記BN粉砕粒子を用いずに前記AlN粉末22.8g及び前記ホウ酸メラミン錯体34.0gを混合した以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子の表面の少なくとも一部が多孔性BNで被覆された粒子(多孔性BN被覆AlN粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A10)
静水圧圧力を15MPaに変更した以外は実施例A4と同様にして前記AlN粒子と前記BN粉砕粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
(比較例A11)
静水圧圧力を2.9MPaに変更した以外は実施例A10と同様にして前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
<圧縮焼結体の電子顕微鏡観察>
実施例A5において作製した圧縮焼結体から電子顕微鏡観察用の断面を切出し、この断面に、研磨剤としてダイヤモンドサスペンション及びコロイダルシリカを用いて研磨機(ビューラー社製「ミニメットTM1000」)により機械研磨を施した後、小型プラズマ装置(ヤマト科学株式会社製「PR300」)を用いて120Wで3分間の酸素プラズマエッチングを施し、さらに、オスミウムコーターを用いてオスミウムコーティングを施した。得られた観察用断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて観察した。その結果を図1に示す。図1において、明灰色部1がAlN粒子、灰色部2がBN粒子、暗灰色部3が多孔性BN、黒色部4が多孔性BN相の空隙に相当する領域である。図1に示した結果から、前記圧縮焼結体においては、AlN粒子の表面の少なくとも一部に多孔性BNを介してBN粒子が結合していることがわかった。
<熱伝導性フィラーの電子顕微鏡観察>
実施例A3で得られた熱伝導性フィラーを走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて観察した。図2Aには、熱伝導性フィラーの二次電子像、図2Bには熱伝導性フィラーの反射電子像を示す。図2Aの明部はBNであり、図2Bの明部はAlNである。図2A及び図2Bに示した結果から、粒子の内部はAlNにより形成され、表面はBNにより形成されており、AlN粒子の表面がBN粒子で被覆されていることがわかった。
<熱伝導性フィラーの元素分布>
実施例A4で得られた熱伝導性フィラーをエネルギー分散型X線分析装置を備える走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて観察した。得られたSEM像において無作為に25μm×20μmの視野(図3)を抽出し、この視野内のホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、アルミニウム(Al)の各元素の分布を観察した。その結果、Alが存在している領域にはBも存在していることが確認され、AlN粒子の表面がBN粒子で被覆されていることがわかった。また、Alが存在している領域の中から無作為に1箇所の測定点(図3中の点A)を抽出し、元素組成の分析を行った。その結果を表1に示す。
表1に示した結果からも、AlN粒子の表面がBN粒子で被覆されていることが確認された。
<多孔性窒化ホウ素の構造解析>
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=50vol%/0vol%/50vol%となるように、ポリエチレン製ポットに、等方性の高熱伝導性粒子である平均粒子径が5μmの前記AlN粉末(古河電子株式会社製「高熱伝導AlNフィラーFAN-f05」)及び合成例1で得られたホウ酸メラミン錯体4.95gを投入し、さらに、ジルコニアボール(3mm径)500g及びアセトン165gを投入して、ボールミルにより400rpmの条件で12時間混合した。その後、濾過によりジルコニアボールを取り除き、さらに、エバポレーション及び真空乾燥によりアセトンを完全に除去した。得られた混合物を294MPaの静水圧下で圧縮した後、窒素雰囲気下、380℃で1時間加熱し、さらに、1800℃で1時間焼成して圧縮焼結体を得た。この圧縮焼結体を室温まで冷却した後、60秒間ミル粉砕して、前記AlN粒子の表面の少なくとも一部が多孔性BNで被覆された粒子(多孔性BN被覆AlN粒子)を含有する熱伝導性フィラーを得た。
この熱伝導性フィラーのX線回折パターンを測定した。その結果を図4に示す。図4に示したように、得られたX線回折パターンにおいては、AlN粒子に由来する回折ピークと多孔性BNに由来する回折ピークとが存在した。また、多孔性BNに由来する回折ピークは幅の広いBNの002面の回折ピーク(半値幅1.2°)であり、ホウ酸メラミン錯体を用いて形成した前記多孔性BNは乱層構造を有するものであることがわかった。
<熱伝導性フィラーの粒径分布>
実施例A6~A9及び比較例A8~A9で得られた熱伝導性フィラーをエタノールに分散させ、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「MT3300EX」)を用いて、レーザ回折・散乱法により前記熱伝導性フィラーの体積基準の粒径分布を測定した。その結果を図5及び図6に示す。図5及び図6に示したように、BN相が多孔性BNのみからなる場合(比較例A8、比較例A9)には、熱伝導性フィラーは、原料のAlN粉末と同程度の大きさまで粉砕されるのに対して、BN相がBN粒子と多孔性BNとからなる場合(実施例A7~A8、実施例A6及びA9)には、熱伝導性フィラーの粒子径は、原料のAlN粉末に比べて大きくなることがわかった。これは、BN相がBN粒子と多孔性BNとからなる場合(実施例A7~A8、実施例A6及びA9)には、BN粒子が多孔性BNを介してAlN粒子に結合することにより、機械的強度が向上し、粉砕の衝撃力に対して高い耐性を示すAlN粒子とBN粒子との複合粒子が、熱伝導性フィラーに多く含まれるためと考えられる。
<窒化ホウ素相の空隙率>
実施例及び比較例において作製した圧縮焼結体から電子顕微鏡観察用の断面を切出し、この断面において無作為に抽出した20箇所の測定領域(縦60μm、横40μm)に、研磨剤としてダイヤモンドサスペンション及びコロイダルシリカを用いて研磨機(ビューラー社製「ミニメットTM1000」)により機械研磨を施した後、小型プラズマ装置(ヤマト科学株式会社製「PR300」)を用いて120Wで3分間の酸素プラズマエッチングを施し、さらに、オスミウムコーターを用いてオスミウムコーティングを施した。得られた測定用断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて観察した。図7には、実施例A4において作製した圧縮焼結体の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)を示す。図7において、明灰色部5がAlN粒子、灰色部6がBN相、黒色部7がBN相内の空隙、黒色部8がBN相外の空隙に相当する領域である。
得られたSEM像において、BN相に相当する領域(灰色部6)の合計面積及びBN相内の空隙に相当する領域(黒色部7)の合計面積を求め、下記式:
BN相の空隙率[vol%]=BN相内の空隙に相当する領域の合計面積/{BN相内の空隙に相当する領域の合計面積+BN相に相当する領域の合計面積}×100
により各測定領域におけるBN相の空隙率を算出し、20箇所の測定領域におけるBN相の空隙率の平均値を求めた。その結果を表2に示す。
<AlN/BN複合粒子の割合>
実施例及び比較例で得られた熱伝導性フィラーを走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて観察した。図8及び図9には、それぞれ実施例A4及び比較例A6で得られた熱伝導性フィラーの走査型電子顕微鏡写真(SEM像)を示す。
得られたSEM像において、明度と形状に基づいて、
(i)AlN粒子
(ii)表面の少なくとも一部がBN粒子で被覆されているAlN粒子(AlN/BN複合粒子)
を抽出し、視野内の(i)AlN粒子の数及び(ii)AlN/BN複合粒子の数をそれぞれ求め、視野内の全てのAlN粒子のうちのBN粒子で被覆されているAlN粒子の割合{(ii)/[(i)+(ii)]}を算出した。この割合を10視野について求め、その平均値を求めた。その結果を表2に示す。
<複合材料の熱伝導率>
図10に示すように、実施例及び比較例で得られた円柱状の複合材料11から熱伝導率測定用試料12(z軸方向厚さ:3mm、直径:14mmφ)を切り出し、得られた試料の表面を黒色スプレーで黒色化した。この試料の厚さ方向(z軸方向)を熱流方向としてキセノンフラッシュアナライザー(NETZSCH社製「LFA 447 NanoFlash」)を用いて圧縮方向に平行な方向(z軸方向)の熱拡散率を測定した。
また、前記試料の比熱を熱振動型示差走査熱量測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いてDSC法により測定した。さらに、前記試料の密度を水中置換法(アルキメデス法)により求めた。これらの結果から下記式:
熱伝導率(W/(m・K))=比熱(J/(kg・K))×密度(kg/m)×熱拡散率(m/秒)
により、圧縮方向に平行な方向(z軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表2に示す。
表2に示した結果から明らかなように、AlN粉末とBN粉末とホウ酸メラミン錯体との混合物を20MPa以上の静水圧下で圧縮成形した後、焼成した場合(実施例A1~A13)には、BN粒子及び多孔性BNからなるBN相の空隙率が10~50vol%の圧縮焼結体が得られることがわかった。また、この圧縮焼結体を粉砕することによって、AlN/BN複合粒子を個数基準で40%以上含有する熱伝導性フィラーが得られることがわかった。
一方、ホウ酸メラミン錯体を用いず、AlN粉末とBN粉末とを混合しただけの場合(比較例A5)には、得られた熱伝導性フィラー中のAlN/BN複合粒子の含有率は0vol%であり、AlN/BN複合粒子は形成されないことがわかった。
また、圧縮成形を行わずに焼成した場合(比較例A6)や20MPa未満の静水圧下で圧縮成形した後、焼成した場合(比較例A10~A11)には、得られた焼結体におけるBN粒子及び多孔性BNからなるBN相の空隙率は31vol%であったが、この圧縮焼結体を粉砕することによって得られた熱伝導性フィラーにおけるAlN/BN複合粒子の含有率は40vol%未満であった。これは、静水圧圧力が20MPa未満の場合には、BN粒子がAlN粒子の表面に多孔性BNを介して高い結合力で結合していないため、粉砕の衝撃力によってBN粒子がAlN粒子の表面から剥離したことによるものと考えられる。
さらに、表2に示した結果から明らかなように、AlN/BN複合粒子を個数基準で40%以上含有する熱伝導性フィラーを含む複合材料(実施例A1~A13)は、熱伝導性フィラーとしてAlN粒子のみを含む複合材料(比較例A1、A3、A7)、熱伝導性フィラーとして表面の少なくとも一部が多孔性BNで被覆されているAN粒子のみを含む複合材料(比較例A2、A4、A8、A9)、熱伝導性フィラーとしてAlN粒子とBN粒子との混合粒子のみを含む複合材料(比較例A5)に比べて、熱伝導性に優れていることがわかった。
また、AlN/BN複合粒子を個数基準で40%以上含有する熱伝導性フィラーを含む複合材料(実施例A1~A13)は、AlN/BN複合粒子の含有率が40vol%未満の熱伝導性フィラーを含む複合材料(比較例A6、A10~A11)に比べて、熱伝導性に優れていることがわかった。
さらに、実施例A10、A12~A13及び比較例A11で得られた複合材料の熱伝導率を静水圧圧力に対してプロットしたところ、図11に示すように、20MPa以上(好ましくは80MPa以上)の静水圧下で圧縮成形して作製した圧縮焼結体を粉砕することによって得られた熱伝導性フィラーを用いることによって、熱伝導性に優れた複合材料が得られることがわかった。
(実施例B1)
先ず、得られる圧縮焼結体の組成比が窒化アルミニウム粒子(AlN粒子)/窒化ホウ素粒子(BN粒子)/多孔性窒化ホウ素(多孔性BN)=70vol%/15vol%/15vol%となるように、ポリエチレン製ポットに、等方性の高熱伝導性粒子であるAlN粉末(古河電子株式会社製「高熱伝導AlNフィラーFAN-f05」、平均粒子径5μm、熱伝導率170W/mK)22.8g、非多孔性の六方晶BN粉末(スリーエム社製「3MTM窒化ホウ素クーリングフィラー Platelets001」、平均粒子径1μm)3.40g及び合成例1で得られたホウ酸メラミン錯体17.01gを投入し、さらに、ジルコニアボール(3mm径)500g及びアセトン165gを投入して、ボールミルにより400rpmの条件で12時間混合した。その後、濾過によりジルコニアボールを取り除き、さらに、エバポレーション及び真空乾燥によりアセトンを完全に除去した。得られた混合物を294MPaの静水圧下で圧縮した後、窒素雰囲気下、1800℃で1時間焼成して圧縮焼結体を得た。この圧縮焼結体を室温まで冷却した後、前記方法に従って窒化ホウ素相の空隙率を求めた。その結果を表3に示す。
次に、得られた圧縮焼結体を60秒間ミル粉砕し、目開き53μmの篩を通して粗粒子を得た。この粗粒子を分級により8μm以下の粒子を回収して、前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを得た。前記方法に従って、前記熱伝導性フィラー中のAlN/BN複合粒子の割合を求めた。また、前記方法に従って、前記熱伝導性フィラーの体積基準の粒度分布を測定し、最大粒子径及び平均粒子径を求めた。これらの結果を表3に示す。
次に、前記熱伝導性フィラー10gをトルエン100mlに分散させ、さらにヘキサメチルジシラザン(HMDS)1mlを添加した後、容器を密閉し、時々振とうしながら50℃で5時間加熱した。その後、遠心分離及びトルエン洗浄を2回繰返し、ベンゼンを用いて凍結乾燥を行い、表面がHMDSでメチル化された熱伝導性フィラーを得た。
次に、表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラー500mgとシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)253mgとを混合し、得られた混合物を、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製「あわとり練太郎ARV-310」)を用いて1200rpmで2分間、さらに2000rpmで2分間攪拌してグリース組成物を得た。
(実施例B2)
実施例B1と同様にして、表面がHMDSでメチル化された熱伝導性フィラーを調製した。表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラー500mg及び真球状シリカナノ粒子(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンQSB-170」、平均粒子径:170nm)5mgを乾式混合して、前記熱伝導性フィラーの表面に真球状シリカナノ粒子を吸着させた。表面に真球状シリカナノ粒子が吸着した前記熱伝導性フィラーとシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)253mgとを混合し、得られた混合物を実施例B1と同様に撹拌してグリース組成物を得た。
(実施例B3)
得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/10vol%/10vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉末1.98g及び前記ホウ酸メラミン錯体9.98gを混合した以外は実施例B1と同様にして圧縮成形体を調製し、さらに、前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製した。実施例B1と同様にして、窒化ホウ素相の空隙率、前記熱伝導性フィラー中のAlN/BN複合粒子の割合、前記熱伝導性フィラーの最大粒子径及び平均粒子径を求めた。これらの結果を表3に示す。また、実施例B1と同様にして、得られた熱伝導性フィラーの表面をHMDSでメチル化した。
また、平均粒子径が5μmの前記AlN粉末(古河電子株式会社製「高熱伝導AlNフィラーFAN-f05」)の代わりに等方性の高熱伝導性粒子である平均粒子径が1μmのAlN粉末(株式会社トクヤマ製「高純度窒化アルミニウム粉末・顆粒 Eグレード」、熱伝導率180W/mK)を用い、得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/10vol%/10vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉末1.98g及び前記ホウ酸メラミン錯体9.98gを混合した以外は実施例B1と同様にして圧縮成形体を調製し、さらに、前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製した。実施例B1と同様にして、窒化ホウ素相の空隙率、前記熱伝導性フィラー中のAlN/BN複合粒子の割合、前記熱伝導性フィラーの最大粒子径及び平均粒子径を求めた。これらの結果を表3に示す。また、実施例B1と同様にして、得られた熱伝導性フィラーの表面をHMDSでメチル化した。
次に、表面がHMDSでメチル化された平均粒子径が2.6μmの前記熱伝導性フィラー450mg、表面がHMDSでメチル化された平均粒子径が0.9μmの前記熱伝導性フィラー50mg及び真球状シリカナノ粒子(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンQSB-170」、平均粒子径:170nm)5mgを乾式混合して、前記2種類の熱伝導性フィラーの表面に真球状シリカナノ粒子を吸着させた。表面に真球状シリカナノ粒子が吸着した前記2種類の熱伝導性フィラーとシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)245mgとを混合し、得られた混合物を実施例B1と同様に撹拌してグリース組成物を得た。
(実施例B4)
表面がHMDSでメチル化された平均粒子径が2.6μmの前記熱伝導性フィラーの配合量を400mgに、表面がHMDSでメチル化された平均粒子径が0.9μmの前記熱伝導性フィラーの配合量を100mgに変更した以外は実施例B3と同様にして、グリース組成物を得た。
(実施例B5)
ヘキサメチルジシラザン(HMDS)の代わりにチタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社製「プレンアクトTTS」)1mlを用いた以外は実施例B3と同様にして、平均粒子径が2.6μmの前記熱伝導性フィラー及び平均粒子径が0.9μmの前記熱伝導性フィラーの表面をそれぞれアルキル化した。
次に、表面がチタネート系カップリング剤でアルキル化された平均粒子径が2.6μmの前記熱伝導性フィラー400mg、表面がチタネート系カップリング剤でアルキル化された平均粒子径が0.9μmの前記熱伝導性フィラー100mg及び真球状シリカナノ粒子(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンQSB-170」、平均粒子径:170nm)5mgを乾式混合して、前記2種類の熱伝導性フィラーの表面に真球状シリカナノ粒子を吸着させた。表面に真球状シリカナノ粒子が吸着した前記2種類の熱伝導性フィラーとシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)245mgとを混合し、得られた混合物を実施例B1と同様に撹拌してグリース組成物を得た。
(実施例B6)
実施例B1と同様にして前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製した。この熱伝導性フィラー500mgとシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)253mgとを混合し、得られた混合物を実施例B1と同様に撹拌してグリース組成物を得た。
(比較例B1)
ヘキサメチルジシラザン(HMDS)の代わりにアルミネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社製「プレンアクトAL-M」)1mlを用いた以外は実施例B3と同様にして、平均粒子径が2.6μmの前記熱伝導性フィラー及び平均粒子径が0.9μmの前記熱伝導性フィラーの表面を処理したところ、いずれの熱伝導性フィラーにおいても、粒子が凝集して単離できなかった。このため、表面をアルミネート系カップリング剤で処理した平均粒子径が2.6μmの前記熱伝導性フィラーが450mg、表面をアルミネート系カップリング剤で処理した平均粒子径が0.9μmの前記熱伝導性フィラーが50mgとなるように、2回目のトルエン洗浄後の2種類の分散液を混合し、さらに、真球状シリカナノ粒子(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンQSB-170」、平均粒子径:170nm)5mg及びシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)245mgを混合した後、真空乾燥によりトルエンを除去してグリース組成物を調製した。
<グリース組成物の熱抵抗>
実施例及び比較例で得られたグリース組成物(約4μl)を、直径14mm、厚さ1mmのセラミック板で挟持して積層板を作製し、この積層板に3MPaの圧力を印加した状態でキセノンフラッシュアナライザー(NETZSCH社製「LFA447 NanoFlash」)を用いて前記積層板の熱拡散率を測定した。また、マイクロメーターを用いて前記積層板の厚さを測定した。得られた前記積層板の熱拡散率及び厚さ、前記セラミック板の熱拡散率、密度、比熱、厚さ、並びにグリース組成物の密度、比熱を用いてグリース組成物の熱抵抗率を算出した。その結果を表4に示す。
表4に示したように、前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーの表面をシラザン系カップリング剤(HMDS)(実施例B1~B4)又はチタネート系カップリング剤(実施例B5)でアルキル化した場合には、表面処理を施さなかった場合(実施例B6)に比べて、グリース組成物の熱抵抗が低くなる(すなわち、熱伝導性が高くなる)ことがわかった。これは、前記熱伝導性フィラーの表面をシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤で処理することによって、前記熱伝導性フィラー中の前記BN粒子とシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とが適度に反応してB-O-C結合又はB-O-Ti結合が形成され、前記熱伝導性フィラーの表面がアルキル化されたことにより、前記熱伝導性フィラーの凝集が抑制されてグリース組成物の流動性が向上したためと考えられる。
一方、前記熱伝導性フィラーの表面をアルミネート系カップリング剤で処理した場合(比較例B1)には、表面処理を施さなかった場合(実施例B6)に比べて、グリース組成物の熱抵抗が高くなる(すなわち、熱伝導性が低くなる)ことがわかった。これは、前記熱伝導性フィラーの表面をアルミネート系カップリング剤で処理した場合、前記熱伝導性フィラー中の前記BN粒子とアルミネート系カップリング剤との反応に比べてアルミネート系カップリング剤の加水分解反応が速く、B-O-Al結合が十分に形成されず、前記熱伝導性フィラーの表面がアルキル化されなかったことにより、前記熱伝導性フィラーの凝集が十分に抑制されず、グリース組成物の流動性が低下したためと考えられる。
また、表4に示したように、表面がアルキル化された前記熱伝導性フィラーと真球状ナノ粒子とを含有するグリース組成物(実施例B2)は、真球状ナノ粒子を含まないグリース組成物(実施例B1)と同程度の熱抵抗を示した。この結果から、真球状ナノ粒子を添加しても熱抵抗の低減効果は維持されることが確認された。
さらに、表面がアルキル化された平均粒子径が異なる2種類の前記熱伝導性フィラーを含有するグリース組成物(実施例B3~B4)は、表面がアルキル化された1種類の前記熱伝導性フィラーを含有するグリース組成物(実施例B2)に比べて、熱抵抗が低下する(すなわち、熱伝導性が高くなる)ことがわかった。
また、表面がシラザン系カップリング剤(HMDS)でアルキル化された前記熱伝導性フィラーを含有するグリース組成物(実施例B4)は、表面がチタネート系カップリング剤でアルキル化された前記熱伝導性フィラーを含有するグリース組成物(実施例B5)に比べて、熱抵抗が低下する(すなわち、熱伝導性が高くなる)ことがわかった。
以上の結果から、AlN粉末とBN粉末とホウ酸錯体との混合物を所定の静水圧下で圧縮成形した後、焼成することによって、BN相の空隙率が所定の範囲内にある圧縮焼結体が得られ、この圧縮焼結体を粉砕することによって、多孔性BNを介してAlN粒子の表面にBN粒子が高い結合力で結合している複合材料を多く含有する熱伝導性フィラーが得られることがわかった。また、このような熱伝導性フィラーを用いることによって、熱伝導性に優れた複合材料が得られることがわかった。さらに、前記熱伝導性フィラーの表面をアルキル化することによって、マトリックス中での前記熱伝導性フィラーの凝集が抑制され、複合材料の流動性が向上するため、熱伝導性に更に優れた複合材料が得られることがわかった。
以上説明したように、本発明によれば、マトリックスに高い熱伝導性を付与することが可能な熱伝導性フィラー及びそれを含有する複合材料を得ることが可能となる。したがって、本発明の複合材料は、熱伝導性に優れるため、例えば、自動車用、電子素子用、各種電気製品用の放熱材料やヒーター材料、グリース組成物等として有用である。
1:窒化アルミニウム粒子
2:窒化ホウ素粒子
3:多孔性窒化ホウ素
4:多孔性窒化ホウ素相の空隙
5:窒化アルミニウム粒子
6:多孔性窒化ホウ素相
7:窒化ホウ素相内の空隙
8:窒化ホウ素相外の空隙
10:複合材料
11:熱伝導率測定用試料

Claims (10)

  1. 窒化アルミニウム粒子及び酸化アルミニウム粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粒子と、該高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粒子と、多孔性窒化ホウ素とを含有し、走査型電子顕微鏡による焼結体の断面写真において、窒化ホウ素相に相当する領域の合計面積及び窒化ホウ素相内の空隙に相当する領域の合計面積から、下記式:
    窒化ホウ素相の空隙率=窒化ホウ素相内の空隙に相当する領域の合計面積/{窒化ホウ素相内の空隙に相当する領域の合計面積+窒化ホウ素相に相当する領域の合計面積}×100
    により算出され、20箇所の測定領域における平均値として求められる、前記六方晶窒化ホウ素粒子及び前記多孔性窒化ホウ素により形成される窒化ホウ素相の空隙率が10~50vol%である焼結体の粉砕物からなり、
    前記粉砕物中の全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で40%以上の粒子が、該高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を形成していることを特徴とする熱伝導性フィラー。
  2. 前記多孔性窒化ホウ素が乱層構造を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性フィラー。
  3. 表面がアルキル化されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導性フィラー。
  4. 絶縁性の樹脂及び絶縁性のオイルからなる群から選択される少なくとも1種のマトリックスと、該マトリックス中に分散している請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の熱伝導性フィラーとを含有することを特徴とする熱伝導性複合材料。
  5. 前記熱伝導性フィラーが二峰性以上の粒度分布を有するものであることを特徴とする請求項4に記載の熱伝導性複合材料。
  6. 前記マトリックスが前記絶縁性のオイルであり、前記熱伝導性複合材料がグリース組成物であることを特徴とする請求項4又は5に記載の熱伝導性複合材料。
  7. 前記オイルが、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フルオロエーテルオイル、鉱物油、動植物性天然油、パラフィン及び合成油からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の熱伝導性複合材料。
  8. 窒化アルミニウム粉末及び酸化アルミニウム粉末からなる群から選択される少なくとも1種であり、平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粉末と、該高熱伝導性粉末の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粉末と、ホウ酸メラミン錯体及びホウ酸尿素錯体からなる群から選択される少なくとも1種のホウ酸錯体との混合物を20MPa以上の圧力で圧縮成形する第一の工程と
    前記第一の工程で得られた圧縮成形体を不活性ガス雰囲気下で焼成する第二の工程と
    前記第二の工程で得られた圧縮焼結体を粉砕して、高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に多孔性窒化ホウ素を介して六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を含有する熱伝導性フィラーを得る第三の工程と
    を含むことを特徴とする熱伝導性フィラーの製造方法。
  9. 前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させて前記熱伝導性フィラーの表面をアルキル化する第四の工程を更に含むことを特徴とする請求項8に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
  10. 前記第一の工程において、静水圧下で圧縮成形することを特徴とする請求項8又は9に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
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