JP7492302B1 - 超高分子量ポリエチレン融着糸及びその製造方法 - Google Patents

超高分子量ポリエチレン融着糸及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント及び平均分子量が400以上の流動パラフィンを含む超高分子量ポリエチレンを提供する。その融着糸は、前記流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え13重量%以下であり、そのうち糸表面に存在する流動パラフィンの含有率が0重量%を超え10重量%以下である。

Description

本発明は、複数本の超高分子量ポリエチレンフィラメントが融着されている融着糸及びその製造方法に関する。
釣り糸や漁業用網などの水産用資材、ロープ、ラケット用ガットなどに使用される糸としては、モノフィラメント糸、及び、複数本のモノフィラメントからなるマルチフィラメント糸が知られている。
例えば、モノフィラメント糸は、表面平滑性に優れ、摩擦抵抗も少ない。このため、モノフィラメント糸を釣り糸として使用した場合、仕掛けを遠くへキャスティングできる。さらに、モノフィラメント糸は、内部に水を抱き込むことがないので、水切れも良い。しかし、モノフィラメント糸は、一般に剛性が高いため、太くすればするほど柔軟性が低下し、釣り糸として利用し難くなる。中でも超高分子量ポリエチレンフィラメントは、高強度であるが、太さに比例して製造が難しくなる上、剛性が大きくなるため、取り扱い難いという問題点がある。
一方、マルチフィラメント糸は、モノフィラメントの本数や太さを適宜設定することにより、所望の太さで且つ柔軟性に優れた糸となる。従って、マルチフィラメント糸は、取り扱い易く、例えば、釣り糸として好適に使用できる。特に、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント糸は、高強度でありながら取り扱い易いという利点がある。しかし、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント糸は、内部に水を抱き込みやすいため水切れが悪いという問題点がある。さらに、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント糸は、切断部分のフィラメントがバラけ、毛羽状になるおそれがあるという問題点がある。なお、「バラけ」とは、1つに纏まっていたものが複数のものに分かれることをいう。
モノフィラメント糸のごとく1本の糸のような形態を有するマルチフィラメント糸は、水切れが良く、フィラメントのバラけも抑制できる。以下、モノフィラメント糸のごとく1本の糸のような形態を「モノフィラメント様」という。
本件出願人は、各フィラメントが十分に融着している超高分子量ポリエチレン融着糸として、平均分子量が400以上の流動パラフィンを15重量%以上含む超高分子量ポリエチレン融着糸を先に提案している(特許文献1)。
特許第6862031号公報
前記超高分子量ポリエチレン融着糸は、例えば、釣り糸などとして使用される。釣り糸は、リールや竿のガイドなどに接触するため、前記超高分子量ポリエチレン融着糸には、優れた融着性だけでなく、動摩擦係数が低いことも求められる。
本発明の目的は、融着性に優れ、さらに、動摩擦係数の低い超高分子量ポリエチレン融着糸を提供することである。
本発明の1つの局面では、超高分子量ポリエチレン融着糸を提供できる。
第1例の超高分子量ポリエチレン融着糸は、複数のポリエチレンモノフィラメントが融着されている超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント及び平均分子量が400以上の流動パラフィンを含む融着糸であって、前記流動パラフィンが前記ポリエチレンモノフィラメントの内部に存在せず、前記流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え8重量%以下であり、表面に存在する流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え6重量%以下である。
第2例の超高分子量ポリエチレン融着糸は、上記第1例の超高分子量ポリエチレン融着糸において、前記流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え5重量%以下であり、前記糸表面に存在する前記流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え2重量%以下である。
第3例の超高分子量ポリエチレン融着糸は、上記第1例または第2例の超高分子量ポリエチレン融着糸において、前記融着糸の繊度が10dtex以上500dtex以下である。
本発明のもう1つの局面では、超高分子量ポリエチレン融着糸の製造方法を提供できる。
超高分子量ポリエチレン融着糸の製造方法は、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント及び平均分子量が400以上の流動パラフィンを含み、前記流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え13重量%以下であり、表面に存在する流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え10重量%以下である超高分子量ポリエチレン融着糸の製造方法であって、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントに平均分子量400以上の流動パラフィンを含浸させる工程と、前記流動パラフィンを含む超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントを加熱延伸することによって融着糸前駆体を得る工程と、前記融着糸前駆体を除去液に接触させることにより、前記融着糸前駆体の表面に存在する流動パラフィンを除去する工程と、を有する。
本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、融着性に優れているため、各フィラメントにバラけ難い。かかる超高分子量ポリエチレン融着糸は、モノフィラメント様を成し、水切れがよい。
また、本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、動摩擦係数が低く、例えば、釣り糸として好適に利用できる。
超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントの1つの形態を示す正面図。 超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントのもう1つの形態を示す正面図。 超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントのもう1つの形態を示す正面図。 超高分子量ポリエチレン融着糸の製造装置の1つの形態を示す参考図。 含浸装置及び余剰分除去装置の方式を示す参考図。 超高分子量ポリエチレン融着糸の製造装置のもう1つの形態を示す参考図。 同参考図。 超高分子量ポリエチレン融着糸の正面図。 図8のIX-IX線で切断し且つ拡大した、参考断面図。 糸のはりつき性の評価方法の説明図。
以下、本発明について、適宜図面を参照しつつ説明する。
本明細書において、下限値以上上限値以下という表記の数値範囲が、別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値以上任意の上限値以下」の数値範囲を設定できるものとする。
[超高分子量ポリエチレン融着糸の概要]
本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントと、流動パラフィンと、を含み、前記超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントが融着されている。超高分子量ポリエチレン融着糸は、流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え13重量%以下であり、そのうち糸表面における流動パラフィンの含有率が0重量%を超え10重量%以下である。前記超高分子量ポリエチレン融着糸は、融着性に優れているためモノフィラメント様を成し、さらに、動摩擦係数が低いという利点もある。
ここで、「超高分子量ポリエチレン融着糸」は、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントを構成する各超高分子量ポリエチレンモノフィラメントを融着して得られる糸をいう。「超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント」は、各モノフィラメントが融着される前の状態をいい、「超高分子量ポリエチレンモノフィラメント」は、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントを構成する超高分子量ポリエチレン製長繊維をいう。以下、「超高分子量ポリエチレン」を「UHPE」と記す。
[UHPEマルチフィラメント(融着前のUHPEマルチフィラメント)]
UHPEマルチフィラメントは、複数本のUHPEモノフィラメントから構成される。
UHPEは、分子量を高めたポリエチレンであり、例えば、分子量が40万以上のポリエチレンであり、好ましくは分子量が60万以上のポリエチレンである。前記UHPEとしては、140℃以上の融点を有するものが用いられる。UHPEモノフィラメントは、UHPEをいわゆるゲル紡糸して作製されたフィラメントである。
UHPEマルチフィラメントの引張り強度は、19.6cN/dtex以上、好ましくは24.5cN/dtex以上49.0cN/dtex以下、より好ましくは29.4cN/dtex以上39.2cN/dtex以下である。このような高強度なUHPEマルチフィラメントは、例えば、市販品を用いることができる。市販品の例としては、DSM社製の商品名「ダイニーマ」、ハネウエル社製の商品名「スペクトラ」、東洋紡社製の商品名「イザナス」などが挙げられる。
前記引張り強度は、JIS L 1013(2010年)-8.5に準じて測定できる。
UHPEモノフィラメントの繊度は、特に限定されない。UHPEモノフィラメントの繊度が余り小さいと、マルチフィラメントにおいて隣接するモノフィラメントの隙間が相対的に小さくなり、流動パラフィンがマルチフィラメントの内部に均等に含浸し難くなって、融着性が低下するおそれがある。かかる観点から、UHPEモノフィラメントの繊度は、例えば、0.5dtex以上であり、好ましくは、1.0dtex以上である。一方、UHPEモノフィラメントの繊度が余り大きいと、マルチフィラメントにおいて隣接するモノフィラメントの隙間が相対的に大きくなり、単位体積当たりのフィラメント間の接合点(融着)が低くなるおそれがある。かかる観点から、UHPEモノフィラメントの繊度は、例えば、5.0dtex以下であり、好ましくは、4.0dtex以下である。
なお、本明細書において、繊度(太さ)の単位である「tex」は、1000m当たりの重量(グラム単位)であり、繊度(太さ)の単位である「dtex」は、10000m当たりの重量(グラム単位)である。本発明において、繊度は、JIS L 1013(2010年)-8.3.1-b)B法に準じて測定できる。
UHPEマルチフィラメントは、前記UHPEモノフィラメントの複数本から構成されている。UHPEマルチフィラメントを構成するUHPEモノフィラメントの本数は、特に限定されず、例えば、5本以上5000本以下であり、好ましくは、10本以上2500本以下である。なお、UHPEマルチフィラメントの繊度は、概ね、UHPEモノフィラメントの繊度×UHPEモノフィラメントの本数、で求められる。
UHPEマルチフィラメントは、それを構成する複数本のUHPEモノフィラメントを単に引き揃えた形態でもよく、或いは、複数本のUHPEモノフィラメントを引き揃え且つ撚りを加えた形態でもよく、或いは、複数本のUHPEモノフィラメントを編紐した形態でもよい。前記撚りは、S撚り(右撚り)又はZ撚り(左撚り)のいずれでもよい。また、前記編紐としては、複数本のフィラメントを交互に編み込んだ態様、芯材となるフィラメントの周りに複数本のフィラメントで編み込んだ態様などが挙げられる。なお、編紐に用いるフィラメントに予め撚りが加えられていてもよい。
図1は、引き揃えた複数本のUHPEモノフィラメント3からなるUHPEマルチフィラメント21を示し、図2は、引き揃えた複数本のUHPEモノフィラメント3をS撚りしたUHPEマルチフィラメント22を示し、図3は、引き揃えた複数本のUHPEモノフィラメント3をZ撚りしたUHPEマルチフィラメント23を示す。
UHPEマルチフィラメントが加撚されている場合、その撚り係数K1は、特に限定されないが、0を越え5500以下であることが好ましく、1000以上5000以下であることがより好ましく、2000以上4500以下であることがさらに好ましい。前記範囲の撚り係数K1を有するUHPEマルチフィラメントを用いることにより、結節強さ比a/bが0.9以上1.1以下の範囲となるUHPE融着糸を得ることができる。なお、複数本のUHPEモノフィラメントを単に引き揃えた形態のUHPEマルチフィラメントは、撚り係数K1が零である。
UHPEマルチフィラメントの撚り係数K1は、式1:K1=t×D1/2で求められる。ただし、前記式1のtは、UHPEマルチフィラメントの撚り数(回/m)を表し、前記式1のDは、UHPEマルチフィラメントの繊度(tex)を表す。
[流動パラフィン]
流動パラフィンは、標準状態下(23℃、1気圧、50%RH)で、無色の液状のパラフィンである。流動パラフィンは、主として炭素数20以上のアルカンの集合物である。
なお、鉱油は、石油、天然ガス及び石炭などの地下資源由来の炭化水素化合物と不純物との混合物の総称である。流動パラフィンは、炭素数20以上のアルカンを精製している点で鉱油とは異なる。
本発明では、平均分子量が400以上の流動パラフィンが用いられ、好ましくは、平均分子量が420以上の流動パラフィンが用いられ、より好ましくは、平均分子量が430以上の流動パラフィンが用いられ、さらに好ましくは、平均分子量が450以上の流動パラフィンが用いられる。このような流動パラフィンを糸内部及び糸表面にそれぞれ所定量含有させることにより、融着性に優れ且つ動摩擦係数の低いUHPE融着糸を得ることができる。流動パラフィンの平均分子量の上限は、特にないが、余りに大きいと流動性が低下し、マルチフィラメントの内部(各モノフィラメントの隙間)に流動パラフィンが均等に含浸し難くなるおそれがある。かかる観点から、流動パラフィンの平均分子量の上限は、800以下であり、好ましくは、700以下であり、より好ましくは、600以下であり、さらに好ましくは、490以下である。流動パラフィンは、例えば、市販品を用いることができる。市販品の例としては、MORESCO社の商品名「モレスコホワイト」などが挙げられる。
ここで、流動パラフィンの平均分子量は、ガスクロマトグラフィーを用い、標準物質としてノルマルパラフィンを用いて得られた検量線からノルマルパラフィン換算で算出できる。流動パラフィンの平均分子量の具体的な測定方法は、下記実施例に記載の通りである。
[UHPE融着糸の製造方法]
本発明のUHPE融着糸の製造方法は、例えば、UHPEマルチフィラメントに平均分子量400以上の流動パラフィンを含浸させる工程(含浸工程)と、前記流動パラフィンを含むUHPEマルチフィラメントを加熱延伸することによって融着糸前駆体を得る工程(融着工程)と、前記融着糸前駆体の表面に存在する流動パラフィンを除去する工程(除去工程)と、を有する。なお、前記除去工程では、融着糸前駆体の表面に存在する流動パラフィンを完全に除去する(表面の流動パラフィンを零にする)ものではなく、不完全な除去である。つまり、前記除去工程は、融着糸前駆体の表面の流動パラフィンを一部除去する工程である。ここで、「融着糸前駆体」は、表面に流動パラフィンが比較的多量に残存している状態のUHPE融着糸を意味する。
図4は、UHPE融着糸の製造装置8の一例を示す参考図である。製造装置8は、融着糸前駆体5b(表面に流動パラフィンが比較的多量に残存している状態のUHPE融着糸)を得るゾーンZ1と、前記融着糸前駆体5bの表面の流動パラフィンを積極的に除去するゾーンZ2と、を有する。図4中の矢印は、UHPEマルチフィラメント5aなどの進行方向を示す(図5も同様)。
<UHPEマルチフィラメントを融着して融着糸前駆体を作製するゾーン>
原糸であるUHPEマルチフィラメント5aは、糸繰り出し装置61に装填されている。上述のように、撚りが加えられたUHPEマルチフィラメント5aを装填してよく、或いは、撚りが加えられていないUHPEマルチフィラメント5aを装填してもよい。なお、糸繰り出し装置61と第1延伸装置62の間で、UHPEマルチフィラメント5aに撚りを加えてもよい。糸繰り出し装置61から引き出されたUHPEマルチフィラメント5aは、第1延伸装置62から第2延伸装置66へと送られている間に延伸される。第1及び第2延伸装置62,66としては、例えば、複数のローラーからなる延伸装置を用いることができる。第1延伸装置62と第2延伸装置66の間には、含浸装置63と、余剰分除去装置64と、加熱装置65と、がこの順で配置されている。前記含浸装置63は、UHPEマルチフィラメント5aに流動パラフィンを含浸させる。流動パラフィンの含浸方式は、特に限定されず、例えば、不織布、織布、刷毛又はスポンジなどを用いて流動パラフィンをUHPEマルチフィラメント5aに塗布する、流動パラフィンを貯めた浴中にUHPEマルチフィラメント5aを通過させる(ディッピング)、スプレーなどを用いて流動パラフィンをUHPEマルチフィラメント5aに吹き付ける、などの方式が挙げられる。前記余剰分除去装置64は、流動パラフィンを含浸させた後のUHPEマルチフィラメント5aから余分な流動パラフィンを取り除く。その除去方式は、特に限定されず、乾燥した不織布又は織布などを用いて流動パラフィンを拭い取る、ローラーなどを用いてUHPEマルチフィラメント5aの表面の流動パラフィンを取り除く、などの方式が挙げられる。加熱装置65は、流動パラフィンを含浸させた後のUHPEマルチフィラメント5aに熱を加える。加熱装置65としては、特に限定されず、オーブンなどが挙げられる。
図5は、含浸装置63及び余剰分除去装置64の一例を示す参考図である。
図5の例では、含浸装置63は、流動パラフィンを供給する供給部631と、前記供給部631から供給される流動パラフィンを貯める貯留部632と、前記貯留部632に貯められた流動パラフィンをUHPEマルチフィラメント5aに含浸させる含浸部633と、を有する。なお、流動パラフィンが存在する部分に無数のドットを付している。
貯留部632中の流動パラフィンの液面が所定の高さを維持するように、供給部631から貯留部632に流動パラフィンが供給される。含浸部633としては、流動パラフィンが含浸し得る布状体が用いられる。前記布状体としては、流動パラフィンが含浸し得る不織布、フェルト又は不織布とフェルトの複合素材などが挙げられる。その布状体の一方の部分(例えば下方部分)が、貯留部632の流動パラフィン中に浸され、且つ、その布状体の反対部分(例えば上方部分)が、UHPEマルチフィラメント5aに接触されている。貯留部632の流動パラフィンは、含浸部633である布状体を伝って、UHPEマルチフィラメント5aに接触され且つそれに含浸される。前記含浸部633は、前記貯留部632の液面からUHPEマルチフィラメント5aまでの距離、並びに、前記布状体に対する前記UHPEマルチフィラメント5aの接触面積及び接触圧(接触強さ)などが適宜設定できるように構成されている。含浸部633の前記事項を設定することにより、UHPEマルチフィラメント5aに対して流動パラフィンを含浸させる量を調整できる。
余剰分除去装置64は、前記含浸部633の下流側に配置されている。余剰分除去装置64としては、流動パラフィンを吸収し得る布状体が用いられる。前記布状体としては、流動パラフィンを吸収し得る不織布、フェルト又は不織布とフェルトの複合素材などが挙げられる。このような布状体をUHPEマルチフィラメント5aの周囲に巻き付けるようにすることにより、UHPEマルチフィラメント5aの余剰な流動パラフィンを除去できる。余剰分除去装置64は、前記UHPEマルチフィラメント5aに対する前記布状体の接触面積及び接触圧(接触強さ)が適宜設定できるように構成されている。余剰分除去装置64の前記事項を設定することにより、UHPEマルチフィラメント5aから余分な流動パラフィンを除去する量を調整できる。
糸繰り出し装置61から引き出したUHPEマルチフィラメント5aに、含浸装置63及び余剰分除去装置64にて平均分子量400以上の流動パラフィンを含浸させ且つ余剰分を除去する。流動パラフィンをUHPEマルチフィラメント5aに含浸させる量と流動パラフィンの除去量とを適宜調整することにより、最終製造物であるUHPE融着糸中に含まれる流動パラフィン量を設定できる。流動パラフィンを含浸させたUHPEマルチフィラメント5aを、加熱装置65にて加熱する。前記UHPEマルチフィラメント5aの温度が140℃以上158℃以下の範囲となるように、加熱することが好ましい。加熱後、第2延伸装置66にてUHPEマルチフィラメント5aを長手方向に延伸することにより、融着糸前駆体5bを得ることができる。第2延伸装置66のローラーの周速を、第1延伸装置62のローラーの周速よりも速くすることにより、適切にUHPEマルチフィラメント5aを延伸することができる。延伸倍率は、UHPEの分子鎖の配向を保存又は増加させるために、1.5倍以上2.5倍以下の範囲が好ましい。
なお、図示例では、1段加熱延伸装置を例示したが、延伸の段数、加熱装置の数及び長さなどは適宜変更できる。
<融着糸前駆体の表面の流動パラフィンを除去してUHPE融着糸を作製するゾーン>
前記融着糸前駆体5bの表面に存在する流動パラフィンを所定量除去する。融着糸前駆体5bの表面に存在する流動パラフィンは、例えば、除去液に融着糸前駆体5bを接触させることによって容易に除去することができる。
除去液としては、代表的には、有機溶剤などが挙げられる。前記有機溶剤の種類は、流動パラフィンを溶解できる溶剤であれば特に限定されず、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、脂肪族および芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アミド類、セロソルブ類などが挙げられる。具体的には、有機溶媒としては、例えば、n-ブタノール、2-ブタノール、シクロヘキサノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-ペンタノン、2-ヘキサノン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、n-ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどがあげられる。これらの溶媒は、1種単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。
例えば、有機溶剤などの除去液を貯めた浴71に、前記融着糸前駆体5bを通過させる。図4の浴71に入れられた除去液に、無数の大きいドットを付している。浴中において、融着糸前駆体5bが除去液に接触しながら送られることにより、融着糸前駆体5bの表面の流動パラフィンを除去できる。除去液の種類、融着糸前駆体を除去液に接触させる時間などを調整することにより、融着糸前駆体5bの表面の流動パラフィンの除去量を設定できる。必要に応じて、前記浴71には、ブラシや超音波発生器などが具備されていてもよい。ブラシで融着糸前駆体5bの表面をなぞる、或いは、浴71の除去液中に超音波を付加することにより、融着糸前駆体5bの表面の流動パラフィンを除去する効果が高くなる。
浴71から取り出すことにより、糸表面の流動パラフィンが所定量に調整されたUHPE融着糸5cが得られる。浴71から取り出した後、必要に応じて、前記UHPE融着糸5cを乾燥してもよい。乾燥装置72としては、特に限定されず、オーブンなどの加熱装置、温風や常温風を吹き付ける送風機などが挙げられる。
得られたUHPE融着糸5cは、糸巻き取り装置67に巻き取られる。
<変形例>
図4に示す製造装置8は、UHPEマルチフィラメント5aの融着から融着糸前駆体5bの表面の流動パラフィンの除去までを一つのラインで行う場合を例示したがこれに限られず、2つ以上のラインに分けて行ってもよい。
例えば、図6及び図7に示すように、製造装置8は、UHPEマルチフィラメント5aの融着から融着糸前駆体5bを作製する第1ライン81と、融着糸前駆体5bの表面から流動パラフィンを除去してUHPE融着糸5cを作製する第2ライン82と、を有する。前記第1ライン81と第2ライン82は、独立している。かかる第1ライン81及び第2ライン82を有する製造装置8の動作も、図4に示す装置8と基本的に同様である。
簡単に説明すると、図6に示すように、糸繰り出し装置61から原糸であるUHPEマルチフィラメント5aを繰り出し、第1延伸装置62から第2延伸装置66へと送られている間に延伸する。さらに、前記第1延伸装置62と第2延伸装置66の間で、含浸装置63によってUHPEマルチフィラメント5aに流動パラフィンを含浸させ、余剰分除去装置64によって余剰の流動パラフィンを除去する。得られた融着糸前駆体5bは、糸巻き取り装置68に巻き取られる。続いて、図7に示すように、糸繰り出し装置69から前記融着糸前駆体5bを繰り出し、この融着糸前駆体5bを除去液が入れられた浴71に浸漬した後、必要に応じて乾燥装置72にて乾燥する。得られたUHPE融着糸5cは、糸巻き取り装置67に巻き取られる。
[UHPE融着糸]
UHPE融着糸は、上述のUHPEマルチフィラメントと、上述の平均分子量が400以上の流動パラフィンと、を含む。
前記UHPE融着糸において、流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え13重量%以下である。前記流動パラフィンの含有率は、UHPE融着糸を100重量%とした場合の、UHPE融着糸に含まれている全ての流動パラフィンの含有率をいう。以下、この流動パラフィンの含有率を「全含有率」という場合がある。前記流動パラフィンの全含有率は、0重量%を超え8重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上5重量%以下であることがより好ましく、1.0重量%以上5重量%以下であることがさらに好ましい。
さらに、前記UHPE融着糸において、糸表面に存在する流動パラフィンの含有率が0重量%を超え10重量%以下である。以下、この流動パラフィンの含有率を「表面含有率」という場合がある。前記流動パラフィンの表面含有率は、0重量%を超え6重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上5重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以上2重量%以下であることがさらに好ましい。
また、前記UHPE融着糸において、糸内部に存在する流動パラフィンの含有率は、0.1重量%以上6重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以上5重量%以下であることがより好ましく、0.4重量%以上4重量%以下であることがさらに好ましい。以下、この流動パラフィンの含有率を「内部含有率」という場合がある。
ここで、流動パラフィンの全含有率(糸全体に対する全ての流動パラフィンの含有率)は、式:全含有率(重量%)=X/M×100、で求めることができる。Xは、単位長さ当たりのUHPE融着糸に含まれる全ての流動パラフィンの重量を表し、Mは、流動パラフィンを含む単位長さ当たりのUHPE融着糸の重量を表す。単位長さ当たりのUHPE融着糸に含まれる全ての流動パラフィンの重量は、UHPE融着糸の成分分析によって測定することができる。
また、流動パラフィンの全含有率を簡便な測定法にて求めてもよい。例えば、流動パラフィンの全含有率は、式:全含有率(重量%)=(M-N)/M×100、で求めることもできる。前記Mは、流動パラフィンを含むUHPE融着糸の単位長さ当たりの重量を表し、前記Nは、流動パラフィンを含浸させないで加熱延伸処理して得られたUHPE融着糸(流動パラフィンを含まないUHPE融着糸)の単位長さ当たりの重量を表す。
流動パラフィンの表面含有率は、式:表面含有率(重量%)=(M-V)/M×100、で求めることができる。前記Mは、流動パラフィンを含むUHPE融着糸の単位長さ当たりの重量を表し、前記Vは、前記単位長さのUHPE融着糸の表面に存在する流動パラフィンを除去した後の、そのUHPE融着糸の重量を表す。例えば、前記Vは、単位長さのUHPE融着糸を、イソプロピルアルコールに所定時間浸漬し且つ乾燥した後の、そのUHPE融着糸の重量を測定することによって得ることができる。
流動パラフィンの全含有率及び表面含有率の具体的な測定方法は、下記実施例に記載の通りである。
また、流動パラフィンの内部含有率は、全含有率-表面含有率で求められる。
図8は、UHPE融着糸5cの両端を省略した、UHPE融着糸5cの正面図であり、図9は、その断面図である。なお、図9は、糸の断面を模式的に表した参考図であることに留意されたい。
図9に示すように、UHPE融着糸5cは、複数のUHPEモノフィラメントXが融着されており、モノフィラメント様を成している。UHPEモノフィラメントXに斜線を引いている。なお、図9では、隣接するUHPEモノフィラメントXの間の界面(境界)を明瞭に表しているが、複数のUHPEモノフィラメントXは融着しているため、実際には、隣接するUHPEモノフィラメントXの間の界面は明確に現われない可能性がある。また、延伸されて融着しているUHPEモノフィラメントは、断面視で真円形になっていないことも留意されたい。
UHPE融着糸5cの内部(糸内部)には、流動パラフィンが存在している。つまり、隣接するUHPEモノフィラメントの間には、流動パラフィンが介在されている。なお、糸内部の流動パラフィンは、全ての隣接するUHPEモノフィラメントの間に介在されているわけではなく、所々で介在されている。さらに、UHPE融着糸5cの表面(糸表面)には、流動パラフィンが付着されている。なお、糸表面の流動パラフィンは、糸表面全体を覆っているわけではなく、所々で存在している。図9において、糸内部に存在する流動パラフィンに符号Yを付し、糸表面に存在する流動パラフィンに符号Zを付している。
前記流動パラフィンの全量は、糸内部の流動パラフィン量と糸表面の流動パラフィン量の和である。
UHPE融着糸の単糸繊度は、特に限定されないが、余りに小さい又は大きいと融着性が低下するおそれがある。かかる観点から、UHPE融着糸の単糸繊度は、0.7dtex以上2.5dtex以下であることが好ましく、さらに、0.7dtex以上2.2dtex以下がより好ましく、1.0dtex以上1.5dtex以下がさらに好ましい。
UHPE融着糸の単糸繊度は、UHPEマルチフィラメント(融着前のUHPEマルチフィラメント)の繊度を延伸倍率で除し、さらにフィラメント数で除した値をいう。
UHPEマルチフィラメントが加撚されている場合、加撚されたUHPE融着糸が得られる。この場合、UHPE融着糸の撚り係数K2は、特に限定されないが、0を越え2200以下であることが好ましく、400以上2100以下であることがより好ましく、900以上2050以下であることがさらに好ましい。前記範囲の撚り係数K2を有するUHPE融着糸は、結節強さ比a/bが0.9以上1.1以下の範囲となる。結節強さ比(a/b)が0.9以上1.1以下のUHPE融着糸は、結び方による糸強度の優劣が極めて小さい。このような範囲の結節強さ比を有するUHPE融着糸は、釣り糸として好適に使用できる。なお、複数本のUHPEモノフィラメントを単に引き揃えた形態のUHPEマルチフィラメントから得られるUHPE融着糸の撚り係数K2は零である。
UHPE融着糸の撚り係数K2は、式2:K2=t×D1/2で求められる。ただし、前記式2のtは、UHPE融着糸の撚り数(回/m)を表し、前記式2のDは、融着糸から含有するパラフィン量を除いた、長さ1000m当たりの融着糸の重量(単位グラム)を表す。
本発明のUHPE融着糸は、融着性に優れ且つ動摩擦係数が低い。融着性は、融着前のUHPEマルチフィラメントを構成する各モノフィラメントが融着によって互いに接合している度合いをいう。融着性に優れたUHPE融着糸は、モノフィラメント様を有する。このため、本発明のUHPE融着糸は、水切れが良く、表面平滑性に優れている上、切断した際にも毛羽立ち難く、耐摩耗性にも優れている。
[本発明の技術的意義]
流動パラフィンは、UHPE融着糸の製造時に、フィラメント同士を接合するための補助剤として機能する。具体的には、UHPE融着糸の製造は、上述のように、含浸工程、融着工程、及び、除去工程の順で実施される。前記含浸工程において、UHPEマルチフィラメントに流動パラフィンが含浸される。前記融着工程において、加熱された流動パラフィンがフィラメントの表面を部分的に溶解させ、延伸により、前記溶解された部分においてフィラメント同士が密着して融着する。平均分子量400以上の流動パラフィンは、前記フィラメントの溶解能に優れていると考えられる。流動パラフィンの役割は、融着工程の加熱延伸時に、フィラメントを溶解させることにあると考えられる。このため、流動パラフィンの含浸量が多いほど、溶解が進行し易く、融着性に優れたUHPE融着糸を提供できると言える。
ところが、流動パラフィンの量が多いUHPE融着糸を釣り糸として使用していると、その融着糸が釣り竿のガイドに貼り付き、遠くへ投げ難く、或いは、毛羽立ち(毛羽立ちは、マルチフィラメントのうちの一部のフィラメントが解けることに起因する)が生じるという問題があることが判ってきた。
この点、流動パラフィンは、潤滑剤のような動摩擦係数を下げる作用があると考えられる。このため、流動パラフィンを多量に含むUHPE融着糸は、ガイドに貼り付き難く、また、ガイドなどに擦れることに起因する毛羽立ちも生じ難いと本発明者等は考えていた。
そして、本発明者等が、さらに鋭意研究したところ、UHPE融着糸に含まれる流動パラフィンは、その融着糸の内部と表面に存在し、糸内部の流動パラフィンの量と糸表面の流動パラフィンの量のバランスが重要であることを見出した。
すなわち、糸内部に存在する流動パラフィンは、上述のように、UHPE融着糸の製造時にフィラメントを溶解させる作用があるが、フィラメントの融着力に寄与するものではない。よって、製造されたUHPE融着糸の内部に存在する流動パラフィンは、糸の融着性を高めるものではない。一方、糸内部に多量の流動パラフィンが存在すると、融着糸を使用しているうちに、その流動パラフィンが膨潤して、フィラメント同士の融着部分を脆化させるおそれがある。フィラメントの融着部分が脆化することにより、フィラメント同士が解れ、これが毛羽立ちの原因となる。よって、経時的に融着性が低下しないUHPE融着糸は、その糸内部に存在する流動パラフィンが少ないことが望ましい。
また、糸表面に多量の流動パラフィンが存在すると、表面にベタツキが生じ、UHPE融着糸の動摩擦係数が高くなると推定される。
このような理由から、流動パラフィンの全含有率が0重量%を超え13重量%以下で、且つ、流動パラフィンの表面含有率が0重量%を超え10重量%以下であるUHPE融着糸は、長期間使用してもフィラメントが解れ難く(つまり、経時的にも融着性に優れ)、動摩擦係数が低くなると考えられる。この効果は、下記実施例及び比較例からも明らかである。
本発明のUHPE融着糸は、釣り糸や漁業用網などの水産用資材、ロープ、ラケット用ガットなどの様々な用途に使用できる。前記UHPE融着糸は、動摩擦係数が低いため、竿のガイドなどに対する摩擦が小さくなる。このため、前記UHPE融着糸は、特に、釣り糸として好適に利用できる。
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
<使用したUHPEマルチフィラメント>
マルチフィラメント(1):40本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が85dtexのUHPEマルチフィラメント。
マルチフィラメント(2):20本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が55dtexのUHPEマルチフィラメント。
マルチフィラメント(3):120本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が275dtexのUHPEマルチフィラメント。
マルチフィラメント(4):240本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が440dtexのUHPEマルチフィラメント。
マルチフィラメント(5):480本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が880dtexのUHPEマルチフィラメント。
<使用した流動パラフィン>
流動パラフィン:表に示す平均分子量が異なる4種の流動パラフィン。MORESCO社製。
<流動パラフィンの分子量の測定>
流動パラフィンの平均分子量は、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製、商品名「GC-2010」)を使用し、標準物質であるノルマルパラフィン(SIGMA-ALDRICH社製、商品名「ASTM5442(C12-C60)Quantitative Linearity Standard」)の検量線からノルマルパラフィン換算で算出した。
具体的には、標準物質であるノルマルパラフィン(SIGMA-ALDRICH社製、商品名「ASTM5442(C12-C60)Quantitative Linearity Standard」)をガスクロマトグラフ(島津製作所社製、商品名「GC-2010」)で測定し、標準物質のピーク値の保持時間(リテンションタイム)と標準物質の分子量から検量線を作成した。
次に、測定対象である流動パラフィンを同様にガスクロマトグラフで測定した。クロマトグラフィーの原理によって、流動パラフィンは、その分子量に応じた保持時間(リテンションタイム)で検出器に移動した後、検出器で電気信号に変換される。サンプルを投入してからの経過時間を横軸に、検出器から得られた信号強度を縦軸にとることにより、クロマトグラムが得られ、その信号強度のピーク値の保持時間(リテンションタイム)を測定した。このピーク値の保持時間と上記検量線から、測定対象である流動パラフィンの分子量を決定した。
ガスクロマトグラフの測定条件の一例を下記に示す。
検出器タイプ:FID。
カラム:キャピラリーカラム(フロンティアラボ社製、商品名「Ultra alloy-SIMDIS(HT)」)。長さ:10m、内径:0.53mm、膜厚:0.1μm。
キャリアガス:ヘリウムガス。流量:24.0(ml/min)、線速度:140.5cm/s。
カラム初期温度:35℃。レート:10℃/min、最終温度:410℃、検出器温度:420℃。
注入方法:全量注入。サンプル注入量:0.5μl(マイクロリットル)。
<使用した製造装置>
図6及び図7に示すような、第1ライン81及び第2ライン82が独立した製造装置8を使用した。
この製造装置8の第1ライン81の含浸装置63及び余剰分除去装置64は、図5に示すような方式であった。すなわち、含浸装置63は、流動パラフィンを含ませた不織布をUHPEマルチフィラメントの表面に接触させる方式であり、余剰分除去装置64の除去方式は、乾燥した不織布をUHPEマルチフィラメントの表面に接触させる方式であった。前記含浸装置63は、前記不織布に連続的に流動パラフィンを供給する供給部631が具備されており、その供給部631によって不織布に対する流動パラフィン供給量を任意に設定できる。また、第1ライン81の加熱装置65は、輻射熱方式の長さ5mのオーブンが2基連なったものを用い、延伸装置は、1段延伸方式を用いた。
この製造装置8の第2ライン82の浴71には、有機溶媒であるイソプロピルアルコールが入れられている。また、第2ライン82の加熱装置72は、輻射熱方式の長さ5mのオーブンを1基用いた。
[実施例1]
室温下(23℃)に設置した前記製造装置8の第1ライン81の糸繰り出し装置61に、マルチフィラメントを装填し、含浸装置63に、流動パラフィンとして平均分子量483の流動パラフィンを供給した(図5及び図6参照)。マルチフィラメント5aを糸繰り出し装置61から繰り出し、含浸装置63の不織布からなる含浸部633にマルチフィラメント5aを接触させることにより、前記マルチフィラメント5aに流動パラフィンを塗布した後、余剰分除去装置64にて余剰の流動パラフィンをマルチフィラメント5aから除去した。さらに、加熱装置65で約155℃に加熱しながら前記マルチフィラメント5aを延伸処理することにより、融着糸前駆体5bを作製した。第1ライン81の作動に当たって、延伸倍率が約2.1倍となるように、第1延伸装置62の周速を11.5m/minに設定し、第2延伸装置66の周速を24.2m/minに設定した。
次に、室温下(23℃)に設置した前記製造装置8の第2ライン82の糸繰り出し装置69に、前記融着糸前駆体5bを装填した(図7参照)。融着糸前駆体5bを、糸繰り出し装置69から繰り出し、イソプロピルアルコールが満たされた浴71中に通過させることにより、融着糸前駆体5bの表面の流動パラフィンを不完全に除去した後、加熱装置72で約100℃に加熱し、巻き取り装置67に巻き取ることにより、実施例1のUHPE融着糸を作製した。第2ライン82において、融着糸前駆体5bの送り速度を20m/minに設定し、融着糸前駆体5bを浴71中に約2秒間通過させた。
なお、表1の「MF」は、マルチフィラメントを表し、「FY」は、UHPE融着糸を表す(以下、表2乃至表5も同様)。
[実施例2乃至7、及び、比較例1乃至4]
含浸装置63の含浸部633に対するマルチフィラメント5aの接触圧及び融着糸前駆体5bをイソプロピルアルコールの浴71中に通過させる時間の少なくとも1つを変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2乃至7、及び、比較例1乃至4のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。
なお、含浸装置63の含浸部633に対するマルチフィラメント5aの接触圧を高くすると、流動パラフィンの含浸量が高まり、前記接触圧を低くすると、流動パラフィンの含浸量が低くなる。また、融着糸前駆体5bをイソプロピルアルコールの浴71中に通過させる時間を長くすると、融着糸前駆体5bの表面に存在する流動パラフィンの除去量が多くなり、前記時間を短くすると、融着糸前駆体5bの表面に存在する流動パラフィンの除去量が少なくなる。
[実施例8]
平均分子量483の流動パラフィンに代えて、平均分子量430の流動パラフィンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8のUHPE融着糸を作製した。
[実施例9乃至14、及び、比較例5乃至8]
含浸装置63の含浸部633に対するマルチフィラメント5aの接触圧及び融着糸前駆体5bをイソプロピルアルコールの浴71中に通過させる時間の少なくとも1つを変更したこと以外は、実施例8と同様にして、実施例9乃至14、及び、比較例5乃至8のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。
[実施例15]
平均分子量483の流動パラフィンに代えて、平均分子量409の流動パラフィンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例15のUHPE融着糸を作製した。
[実施例16乃至21、及び、比較例9乃至12]
含浸装置63の含浸部633に対するマルチフィラメント5aの接触圧及び融着糸前駆体5bをイソプロピルアルコールの浴71中に通過させる時間の少なくとも1つを変更したこと以外は、実施例15と同様にして、実施例16乃至21、及び、比較例9乃至12のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。
[比較例13]
平均分子量483の流動パラフィンに代えて、平均分子量365の流動パラフィンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例13のUHPE融着糸を作製した。
[比較例14乃至25]
含浸装置63の含浸部633に対するマルチフィラメント5aの接触圧及び融着糸前駆体5bをイソプロピルアルコールの浴71中に通過させる時間の少なくとも1つを変更したこと以外は、比較例13と同様にして、比較例14乃至25のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。
[比較例26]
流動パラフィンを含浸させなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例26のUHPE融着糸を作製した。
[実施例22乃至25]
MF(1)に代えてMF(2)乃至(5)を用いたこと(表5参照)、及び、第1延伸装置62及び第2延伸装置の周速を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例22乃至25のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。
<UHPE融着糸の流動パラフィンの全含有率の測定>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸に含まれる全ての流動パラフィンの含有率を測定した。
具体的には、実施例1のUHPE融着糸を100m切り出し、その重量を0.1mg単位で計測した。別途、流動パラフィンを塗布しなかったこと以外は、実施例1と同様にして糸(以下、対照糸という)を作製し、この対照糸を100m切り出し、その重量を0.1mg単位で計測した。そして、下記式に代入することにより、実施例1のUHPE融着糸の流動パラフィンの含有率を求めた。その結果を表1に示す。
同様に、実施例2乃至25及び比較例1乃至25のUHPE融着糸をそれぞれ100m切り出し、その重量を0.1mg単位で計測した。別途、流動パラフィンを塗布しなかったこと以外は、実施例2乃至25及び比較例1乃至25と同様にして、それぞれ対照糸を作製した。実施例2乃至25及び比較例1乃至25のそれぞれの対照糸を100m切り出し、その重量を0.1mg単位で計測した。そして、下記式に代入することにより、実施例2乃至25及び比較例1乃至25のUHPE融着糸の流動パラフィンの含有率を求めた。それらの結果を表1乃至表5に示す。
UHPE融着糸中の流動パラフィンの全含有率(重量%)=(M-N)/M×100。
ただし、Mは、各実施例及び比較例の100mのUHPE融着糸の重量を表し、Nは、各100mの対照糸の重量を表す。
<UHPE融着糸の糸表面に存在する流動パラフィンの含有率(表面含有率)の測定>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸の糸表面の流動パラフィンの含有率を測定した。
具体的には、実施例1のUHPE融着糸を100m切り出し、その重量を0.1mg単位で計測した。前記100mのUHPE融着糸を、20℃のイソプロピルアルコール500g中に、0.3時間浸漬した後、取り出して70℃で10分間乾燥した。このように除去液であるイソプロピルアルコールに0.3時間浸漬することにより、UHPE融着糸の表面に存在する流動パラフィンを、ほぼ完全に除去できる。以下、表面の流動パラフィンを完全に除去したUHPE融着糸を、除去糸という。乾燥後の100mの前記除去糸の重量を0.1mg単位で計測した。UHPE融着糸の重量と除去糸の重量から、実施例1のUHPE融着糸の流動パラフィンの表面含有率を求めた。その結果を表1に示す。
同様に、実施例2乃至25及び比較例1乃至25のUHPE融着糸をそれぞれ100m切り出し、その重量を0.1mg単位で計測した。実施例2乃至25及び比較例1乃至25のそれぞれの前記100mのUHPE融着糸を、20℃のイソプロピルアルコール500g中に、0.3時間浸漬した後、取り出して70℃で10分間乾燥した。乾燥後の100mの前記除去糸の重量を0.1mg単位で計測した。UHPE融着糸の重量と除去糸の重量から、実施例2乃至25及び比較例1乃至25のUHPE融着糸の流動パラフィンの表面含有率を求めた。それらの結果を表1乃至表5に示す。
UHPE融着糸の流動パラフィンの表面含有率(重量%)=(M-V)/M×100。
ただし、Mは、各実施例及び比較例の100mのUHPE融着糸の重量を表し、Vは、各100mの除去糸の重量を表す。
なお、表1乃至表5に、内部含有率(糸内部に存在する流動パラフィンの含有率)も併記している。内部含有率(重量%)は、全含有率-表面含有率、で算出した。
<UHPE融着糸の融着性の評価>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸の表面を目視で観察すると共に、各融着糸を指で強く擦り、フィラメントの融着度合いを評価し、さらに、釣り糸として適するかどうかを評価した。その結果を表に示す。
AA:融着糸の表面は十分に平滑であった。各モノフィラメントは十分に融着しており、融着糸がバラけることはなかった。釣り糸として非常に好適に利用できる。
A:融着糸の表面は十分に平滑であった。各モノフィラメントは十分に融着しており、融着糸はほぼバラけることはなかった。釣り糸として好適に利用できる。
B:融着糸の表面は平滑であった。融着糸の一部分(100m当たり1箇所又は2箇所)が少しバラけ、その部分において幾つかのモノフィラメントに分離した。釣り糸として利用できる。
C:融着糸の表面に多少の凹凸が確認された。融着糸の多くの部分(100m当たり3箇所以上)がバラけ、それらの部分において幾つかのモノフィラメントに分離した。釣り糸として利用できる可能性がある。
D:マルチフィラメントを構成する各モノフィラメントが融着しておらず、全ての部分で各モノフィラメントがバラけ、融着糸の態を成していなかった。釣り糸として利用できないと評価できる。
<UHPE融着糸の動摩擦係数の測定>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸の動摩擦係数を、JIS L 1015(2010)-8.13に準じて測定した。測定装置は、大栄科学精器製作所の糸動摩擦係数測定器を用いた。動摩擦係数μKは、以下の式で求められる。その結果を表に示す。なお、動摩擦係数は、数値が小さいほど摩擦抵抗が小さく、滑り易いと評価できる。
式:μK=0.733logW/(W-R)
W:糸の両端にかけた荷重(g)
R:Uゲージの読み(g)
<糸のはりつき性の評価>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸のはりつき性を、次のようにして評価した。
UHPE融着糸を釣り用のスプールに巻き取った。次に、図10に示すように、スプールの中央部の孔に軸部材を嵌め入れ、前記軸部材を水平にして、前記UHPE融着糸が巻き取られたスプールの軸部材を片手で持ち、そのスプールを、その軸芯周りであって前記融着糸の巻取り方向とは反対方向に回転させた。このようにスプールを回転させたときに、巻き取られた融着糸がスプールから解けていく際の状況を、次の基準で評価した。その結果を表1乃至表5に示す。
回転に応じて糸が解けて出ていく場合をはりつき性が「無」と評価し、融着糸の端部が解けず、スプールと共に回転する場合をはりつき性が「有」と評価した。
なお、はりつき性が無い融着糸は、これを釣り糸として使用した場合、スプールからの放出抵抗が小さくなる。このため、キャスティング時に、より遠くへ飛ばすことができる融着糸であると評価できる。
<UHPE融着糸の取り扱い性の評価>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸を、釣り糸として使用したときの取り扱い易さを評価した。その結果を表1乃至表5に示す。
○:融着糸を釣り糸として利用し且つルアーを水面に向かってキャスティングしたときに、釣り竿のガイドと釣り糸との摩擦抵抗が低く、より遠くへ投げることができた。また、100回/日でキャスティングしている間、釣り糸の切断や釣り糸が釣り竿のガイドに絡まることがなかった。
×:融着糸を釣り糸として利用し且つルアーを水面に向かってキャスティングしたときに、釣り竿のガイドと釣り糸との摩擦抵抗が高く、余り遠くへ投げることができなかった。また、100回/日でキャスティングしている間、釣り糸の切断や釣り糸が釣り竿のガイドに絡まることが、1回以上生じた。
Figure 0007492302000001
Figure 0007492302000002
Figure 0007492302000003
Figure 0007492302000004
















































Figure 0007492302000005
実施例1乃至25の結果から、平均分子量が400以上の流動パラフィンの全含有率が0重量%を超え13重量%以下で、且つ、表面含有率が0重量%を超え10重量%以下であるUHPE融着糸は、融着性が良好であり、動摩擦係数が低く、さらに、釣り糸としての取り扱い性に優れていることが判る。特に、実施例1乃至14と、実施例15乃至21との対比から、分子量420以上の流動パラフィンを含む実施例1乃至14は、より融着性に優れている。
また、比較例1乃至12の結果から、平均分子量が400以上の流動パラフィンを用いた場合であっても、流動パラフィンの全含有率が13重量%を超えている場合、及び/又は、流動パラフィンの表面含有率が10重量%を超えている場合、動摩擦係数が高く、糸のはりつき性及び取り扱い性が悪いことが判る。取り扱い性が悪くなる理由は、融着糸をキャスティングしている間に、糸内部の融着部分に存在する流動パラフィンが膨潤し、脆化が生じるためと推定される。また、比較例24のように、表面の流動パラフィンが0%であると、動摩擦係数が小さくても、糸表面にパラフィンがほぼ無いことに起因して、局部的破壊及び毛羽立ちが急激に進み、融着糸が釣り竿のガイドに絡みやすくなり、取り扱い性が低下すると推定される。
本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、レジャー用又は漁業用の釣り糸、漁業用網、延縄などの水産用資材;ロープ、たこ糸などの産業用資材;テニスラケットなどのガット、洋弓弦などのスポーツ用資材;ギターの弦などの楽器用資材;防護服を形成する糸;などに利用できる。特に、本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、レジャー用又は漁業用の釣り糸(フィッシングライン)として好適に利用できる。
21,22,23,5a 超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント
3 超高分子量ポリエチレンモノフィラメント
5b 融着糸前駆体
5c 超高分子量ポリエチレン融着糸
6 超高分子量ポリエチレン融着糸の製造装置

Claims (4)

  1. 複数のポリエチレンモノフィラメントが融着されている超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント及び平均分子量が400以上の流動パラフィンを含む融着糸であって、
    前記流動パラフィンが前記ポリエチレンモノフィラメントの内部に存在せず、
    前記流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え8重量%以下であり、表面に存在する流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え6重量%以下である、超高分子量ポリエチレン融着糸。
  2. 前記流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え5重量%以下であり、前記糸表面に存在する前記流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え2重量%以下である、請求項1に記載の超高分子量ポリエチレン融着糸。
  3. 前記融着糸の繊度が10dtex以上500dtex以下である、請求項1に記載の超高分子量ポリエチレン融着糸。
  4. 超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント及び平均分子量が400以上の流動パラフィンを含み、前記流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え13重量%以下であり、表面に存在する流動パラフィンの含有率が糸全体に対して0重量%を超え10重量%以下である超高分子量ポリエチレン融着糸の製造方法であって、
    超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントに平均分子量400以上の流動パラフィンを含浸させる工程と、
    前記流動パラフィンを含む超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントを加熱延伸することによって融着糸前駆体を得る工程と、
    前記融着糸前駆体を除去液に接触させることにより、前記融着糸前駆体の表面に存在する流動パラフィンを除去する工程と、を有する、超高分子量ポリエチレン融着糸の製造方法。
JP2023561104A 2023-06-16 2023-06-16 超高分子量ポリエチレン融着糸及びその製造方法 Active JP7492302B1 (ja)

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JP2008526406A (ja) 2005-01-11 2008-07-24 ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. デンタルテープおよびその製造方法
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