JP7484450B2 - 粘着剤、粘着剤組成物及び粘着層付き基材 - Google Patents

粘着剤、粘着剤組成物及び粘着層付き基材 Download PDF

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Description

本発明は、粘着剤、粘着剤組成物及び粘着層付き基材に関する。より詳しくは、本発明は、剥離紙等の保護なしでも接着前の劣化が抑制された粘着層を構成できる粘着剤、それを含む粘着剤組成物及び粘着層付き基材に関する。
従来、圧力により接着可能な感圧接着剤が使用されている。この感圧接着剤は、例えば、基材の被接着面間に設置し、外側から機械的な圧力を印加することで基材同士を接着させるというものである(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
感圧接着剤は、液体接着剤が基材に塗工後、接着までに時間を要するのに比べ、加圧のみで短時間かつ簡便に接着できる利点がある。感圧接着剤は、典型的には以下の形態で使用される。感圧接着剤を層状に成形した粘着層の表面に剥離紙を貼付する。これにより、保管時に粘着層の表面が劣化するのを防止できる。そして、使用する際に剥離紙を除去して被接着面と粘着層の表面を貼合して、加圧し接着する。
しかしながら、上記粘着層は剥離紙等で保護されていないと、雰囲気中の埃等で粘着性が失われてしまう。さらなる利便性のために、雰囲気に晒された状態でも劣化が起こりにくい粘着層が求められていた。
特開2017-206603号公報 特開2012-102301号公報
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、剥離紙等の保護なしでも接着前の劣化が抑制された粘着層を構成できる粘着剤、それを含む粘着剤組成物及び粘着層付き基材を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、粘着剤を、粘着成分を含有するコア部と前記コア部を被覆するシェル層を有するコア・シェル部材からなる粘着剤とし、前記コア部のガラス転移温度Tg1と前記シェル層のガラス転移温度Tg2との差(Tg2-Tg1)を特定の温度以上とすることで、剥離紙等の保護なしでも接着前の劣化が抑制された粘着層を構成できる粘着剤を提供できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る課題は、以下の手段によって解決される。
1.粘着成分を含有するコア部と前記コア部を被覆するシェル層を有するコア・シェル部材からなる粘着剤であって、
前記コア部のガラス転移温度Tg1と前記シェル層のガラス転移温度Tg2との差(Tg2-Tg1)が50℃以上であり、
前記コア・シェル部材が、前記コア部としてシード粒子を有し、前記シェル層として前記シード粒子の表面にシード重合して得られた外殻を有する、シード重合粒子であり、
前記シード重合粒子の重量平均分子量が、3万以下であり、且つ
前記シード重合粒子を凝集・融着して形成される、体積平均径が2~15μmの範囲内にある凝集体であることを特徴とする粘着剤。
2.前記Tg2が40~80℃の範囲内にあることを特徴とする第1項に記載の粘着剤。
3.前記コア・シェル部材が、ハンセンの溶解度パラメーターに係り、前記シェル層について極性項をdP2及び水素結合項をdH2とし、かつ前記コア部について極性項をdP1及び水素結合項をdH1としたときに、下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とする第1項又は第2項に記載の粘着剤。
dP2-dP1>0 式(1)
dH2-dH1>0 式(2)
4.前記コア・シェル部材の全体に対する前記コア部の割合が50~90質量%の範囲内にあることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の粘着剤。
.前記シード重合粒子の体積平均径が、150nm以下であることを特徴とする第1項から第4項のいずれか一項に記載の粘着剤。
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の粘着剤と、前記粘着剤に非相溶な樹脂を含有することを特徴とする粘着剤組成物。
.基材と前記基材の表面に配置された粘着層を有する粘着層付き基材であって、
前記粘着層が、第1項から第項までのいずれか一項に記載の粘着剤を含有することを特徴とする粘着層付き基材。
本発明の上記手段により、剥離紙等の保護なしでも接着前の劣化が抑制された粘着層を構成できる粘着剤、それを含む粘着剤組成物及び粘着層付き基材を提供することができる。本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確になっていないが、以下のように推察している。
本発明の粘着剤は、粘着成分を含有するコア部をシェル層で被覆している。そして、コア部のガラス転移温度Tg1とシェル層のガラス転移温度Tg2との差(Tg2-Tg1;以下、「ΔT」ともいう。)が50℃以上である。また、本発明の別の態様の粘着剤は、このようなコア部とシェル層を有するシード重合粒子を凝集・融着して形成された凝集体であり、凝集体の表層は、シード重合粒子におけるシェル層の成分により構成された連続相となっている。この構成により、本発明の粘着剤は、圧力を印加することで、シェル層が崩壊して粘着成分を含有するコア部が表出して、粘着性を発現する。本発明の粘着剤においては、圧力が印加されるまでは、コア部がシェル層に被覆されているため、使用前に粘着性を有しない。
本発明の粘着剤を、例えば、防塵マットに使用する場合、加圧された箇所のみが粘着性を示すため、一定期間経過後も、未使用部分の粘着性は使用前と同等である。雰囲気に晒されることで埃等が付着して未使用領域を残して一定期間経過時に張替えが必要な従来のものと比べて、メンテナンスや経済性の点で有利である。
また、本発明の粘着剤は粉体の状態で使用できることから、狭い空間への供給において、従来の液状の粘着剤に比べて、周囲を汚染することが殆どない点、及びより狭い空間への供給が可能である点で有利である。
シード重合粒子を凝集・融着して凝集体を得る過程を模式的に示す図 本発明に係る粘着部材の一例の断面を示す図 本発明に係る粘着層付き基材の一例の断面を示す図 本発明に係る粘着層付き基材の別の一例の断面を示す図 本発明に係る粘着層付き基材のさらに別の一例の平面図 図5に示す粘着層付き基材のX-X線断面図
本発明の粘着剤は、粘着成分を含有するコア部と前記コア部を被覆するシェル層を有するコア・シェル部材からなる粘着剤であって、前記コア部のガラス転移温度Tg1と前記シェル層のガラス転移温度Tg2との差(Tg2-Tg1;以下、「ΔT」ともいう。)が50℃以上であることを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に共通する技術的特徴である。
本発明の粘着剤の実施態様としては、本発明の効果をより高く発現できる観点から、Tg2が、40~80℃の範囲内にあることが好ましい。Tg2が40℃未満であると保管時に圧力が印加されない場合であってもシェル層が崩壊して粘着性を発現してしまうおそれがある。Tg2が80℃を超えると、圧力を印加しても粒子が崩壊せず内部の粘着成分が表出しないことがある。
本発明の粘着剤の実施態様としては、本発明の効果をより高く発現できる観点から、前記コア・シェル部材が、ハンセンの溶解度パラメーターに係り、前記シェル層について極性項をdP2及び水素結合項をdH2とし、かつ前記コア部については極性項をdP1及び水素結合項をdH1としたときに、上記式(1)及び式(2)を満たすことが好ましい。上記式(1)及び式(2)を満たさない場合、コア・シェル部材のコア部とシェル層が相溶する傾向が高まり、Tg2が低下することがある。Tg2が低下すると、保管時において、圧力が印加されない場合であってもシェル層が崩壊して粘着性を発現してしまうおそれがある。
本発明の粘着剤の実施態様としては、本発明の効果をより高く発現できる観点から、前記コア・シェル部材の全体に対する前記コア部の割合が50~90質量%の範囲内にあることが好ましい。上記コア部の割合が50質量%未満であると、加圧によるシェル層の崩壊が困難になったり、使用時に十分な粘着性が得られなかったりすることがある。
本発明の粘着剤の実施態様としては、本発明の効果をより高く発現できる観点から、前記コア・シェル部材が、前記コア部としてシード粒子を有し、前記シェル層として前記シード粒子の表面にシード重合して得られた外殻を有する、シード重合粒子であることが好ましい。
シード重合法では、乳化重合反応の際に、単量体を含む反応液にあらかじめ核となるポリマー粒子(シード重合粒子におけるシード粒子)を加え、そのポリマー粒子表面で単量体を重合反応させることで、シード粒子の表面に重合体からなる外殻を形成する。本発明に係るシード重合粒子は、シード粒子と外殻を構成する樹脂が異なることから両者のガラス転移温度が異なる。
本発明の粘着剤がシード重合粒子である場合、本発明の効果をより高く発現できる観点から、実施形態としては、前記シード重合粒子の重量平均分子量が3万以下であることが好ましい。シード重合粒子の重量平均分子量を3万以下とすることで、使用時にシェル層を崩壊する際の圧力を適度なものとし易い。
本発明の粘着剤がシード重合粒子である場合、本発明の効果をより高く発現できる観点から、実施形態としては、前記シード重合粒子の体積平均径が150nm以下であることが好ましい。シード重合粒子の体積平均径を150nm以下とすることで、例えば、粘着剤としてシード重合粒子を基材上に付着させた場合に、これを密に配列できるので接触面積が広がり粘着性を良好にすることができる。
本発明は、上記粘着剤とは別の態様の接着剤として、上記のシード重合粒子を凝集・融着して形成される、体積平均径が2~15μmの範囲内にある凝集体からなる接着剤を提供する。上記凝集体の表層は、シード重合粒子におけるシェル層(外殻)の成分により構成された連続相となっている。凝集体の内部には、シード重合粒子のシード粒子が存在する。したがって、当該凝集体に圧力を印加することで、表層が崩壊して粘着成分を含有するシード粒子が表出して、粘着性を発現する。接着剤の体積平均径が2~15μmであることで、例えば、基材上に電子写真法により粘着剤をパターニング付与する等、用途に自由度が増し好ましい。
本発明の粘着剤組成物は、上記本発明の粘着剤(上記別の態様の接着剤を含む)と、前記粘着剤に非相溶な樹脂を含有することを特徴とする。本発明の粘着剤組成物は、本発明の粘着剤を含む種々の形状の粘着部材を作製する際に使用できる。また、本発明の粘着剤組成物を用いて、基材上に粘着層を形成することができる。
本発明の粘着層付き基材は、基材と前記基材の表面に配置された粘着層を有する粘着層付き基材であって、前記粘着層が、上記本発明の粘着剤(上記別の態様の接着剤を含む)を含有することを特徴とする。本発明の粘着層付き基材は、粘着層上に剥離紙等の保護材を設けることなく、粘着層の接着前の劣化を抑制することができ、利便性が高い。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
[粘着剤]
本発明に係る粘着剤は、粘着成分を含有するコア部と前記コア部を被覆するシェル層を有するコア・シェル部材からなる粘着剤であって、前記コア部のガラス転移温度Tg1と前記シェル層のガラス転移温度Tg2との差ΔTが以下の(a)の関係を有することを特徴とする。
(a)ΔT=Tg2-Tg1≧50℃
本発明に係るコア・シェル部材、すなわち、粘着成分を含有するコア部とコア部を被覆するシェル層を有し、Tg1とTg2が上記(a)の関係にあるコア・シェル部材を、以下、コア・シェル部材(A)ともいう。シェル層は、コア部の外側にあるシェル層のうち、ガラス転移温度が最も高い部分をシェル層とし、コア部が表出しないようにコア部を覆う構成であり、コア部の全体を覆う構成が好ましい。
(コア・シェル部材(A))
コア・シェル部材(A)のコア部及びシェル層はそれぞれ異なるガラス転移温度、Tg1及びTg2を有する非晶性樹脂を含有する。コア部が含有する粘着成分は、ガラス転移温度がTg1の非晶性樹脂である。なお、非晶性樹脂はガラス転移温度より高い温度では溶融状態となる。
ここで、コア部及びシェル層は、それぞれ上記Tg1及び上記Tg2の特性を損なわない範囲で他の成分を含有してもよい。他の成分とは、例えば、結晶性ポリエステルなどの結晶性物質や顔料などである。本発明において、コア部のガラス転移温度Tg1とは、コア部が含有する非晶性樹脂のガラス転移温度に相当し、シェル層のガラス転移温度Tg2とは、シェル層が含有する非晶性樹脂のガラス転移温度に相当する。
本発明に係る非晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において明確な吸熱ピークを示さないものをいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には示差走査熱量測定(DSC)において、例えば昇温速度10℃/分で測定した際、吸熱ピークの半値幅が15℃以内となるピークを示すものを意味する。
非晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定される値である。測定手順としては、測定試料(非晶性樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用する。測定条件としては、測定温度-50℃~100℃、昇温速度10℃/分で行い、得られた測定曲線においてベースラインのシフトを観察し、シフトする前のベースラインの延長線と、ベースラインのシフト部分の最大傾斜を示す接線との交点をガラス転移点(Tg)とする。
なお、上記DSC曲線において、エンタルピー緩和による吸熱ピークが認められた場合には吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移温度とする。
コア・シェル部材(A)において、コア部のガラス転移温度Tg1はシェル層のガラス転移温度Tg2より低く、その差ΔTは50℃以上である。ΔTは好ましくは、50~90℃の範囲内である。
コア・シェル部材(A)においては、ハンセンの溶解度パラメーターに係り、シェル層の極性項dP2とコア部の極性項dP1が下記式(1)の関係を満たし、かつシェル層の水素結合項dH2とコア部の水素結合項dH1が下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。
dP2-dP1>0 式(1)
dH2-dH1>0 式(2)
なお、ハンセンの溶解度パラメーターは、コア部及びシェル層を構成する成分に係る特性である。例えば、上記において、シェル層の極性項dP2とは、シェル層を構成する成分の極性項dP2を示す。
以下に説明するハンセンの溶解度パラメーターにおける極性項及び水素結合項は、当該化合物の極性に関係する項である。シェル層の極性項dP2がコア部の極性項dP1より大きく、シェル層の水素結合項dH2がコア部の水素結合項dH1より大きいと、シェル層とコア部は非相溶となることがわかった。シェル層とコア部が相溶性であると、Tg2が低下することがあり、粘着剤に圧力が印加されない場合であってもシェル層が崩壊して粘着性を発現してしまうおそれがある。
ここで、ハンセンの溶解度パラメーター(HSP値)とは、化合物の溶解度パラメーター(SP値)を、下記式に示すように、分散項(dD)、極性項(dP)、水素結合項(dH)の三つに分割して三次元のベクトルとして捉えたものである。ハンセンが提唱したこの考え方は、「化学工業社、化学工業2010年3月号、山本博志、Steven Abbott、Charles M.Hansen」に記載されている。
HSP値=(dD+dP+dH1/2
本発明において、コア部及びシェル層を構成する成分のHSP値は、具体的には、以下の1)~3)の手順で求めることができる。
1)各官能基のグループモルけん引定数(Fdi、Fpi、Ehi)及びモル体積(Vi)を、「PROPERTIES OF POLYMERS」(著者:D.W.VAN KREVELEN、発行所:ELSEVIER SCIENTIFIC PUBLISHING COMPANY、1989年発行、第5版)の「CHAPTER7 COHESIVE PROPERTIES AND SOLUBILITY」(129~158頁)の記載事項に従って、手法により算出する。
2)ポリマー(樹脂)の単位グループモルけん引定数は、上記1)で求めた各官能基のグループモルけん引定数(Fdi、Fpi、Ehi)及びモル体積(Vi)から、下記式(i)、式(ii)及び式(iii)によりそれぞれ算出する。
dD=ΣFdi/ΣVi 式(i)
dP=(Σ(Fpi)1/2/ΣVi 式(ii)
dH=(ΣEhi/ΣVi)1/2 式(iii)
3)複数個の単量体単位を含むポリマー(共重合体)については、各単位単量体の存在モル比率を掛けて算出する。
コア部及びシェル層を構成する成分が混合物である場合、各成分のHSP値の求め、混合物の組成に基づいて加重平均として求めることができる。
コア・シェル部材(A)の全体に対するコア部の割合は、上に説明したとおり、50~90質量%の範囲内にあることが好ましい。コア部の割合は、55~75質量%の範囲内にあることがより好ましい。
<コア部>
コア部はガラス転移温度Tg1を有する。すなわち、コア部を構成する粘着成分としての非晶性樹脂は、ガラス転移温度Tg1を有する。シェル層のガラス転移温度Tg2の好ましい温度は、上記のとおり、40~80℃であり、上記(a)の関係に係り、ΔT(Tg2-Tg1)は50℃以上である。このような関係を考慮すると、Tg1は30℃以下が好ましい。
Tg1は、より好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは0℃以下、特に好ましくは-10℃以下である。コア部を構成する非晶性樹脂の粘着性は、Tg1によるところが大きく、Tg1が上記温度以下であれば、当該非晶性樹脂は十分な粘着性を発現できる。なお、コア部は上記Tg1の特性を損なわない範囲で、他の成分を含有してもよい。他の成分とは、例えば、結晶性ポリエステルなどの結晶性物質や顔料などである。
コア部を構成する成分、具体的には、上記Tg1を有する非晶性樹脂を含有する成分は、シェル層を構成する成分、具体的には、上記Tg2を有する非晶性樹脂を含有する成分に比べて極性が低いことが好ましい。具体的には、コア部を構成する成分、例えば、上記Tg1を有する非晶性樹脂を含有する成分において、ハンセンの溶解度パラメーターにおける極性項dP1及び水素結合項dH1は、それぞれシェル層を構成する成分、上記Tg2を有する非晶性樹脂を含有する成分の極性項dP2及び水素結合項dH2より小さいことが好ましい。すなわち、上記式(1)及び式(2)を満足することが好ましい。
より具体的には、コア部を構成する成分、例えば、上記Tg1を有する非晶性樹脂を含有する成分、特には上記Tg1を有する非晶性樹脂における極性項dP1は、0~4.5の範囲にあることが好ましく、水素結合項dH1は、0~15の範囲にあることが好ましい。
このような、コア部を構成する非晶性樹脂としては、スチレンアクリル共重合体樹脂(以下、「スチレンアクリル樹脂」ともいう。)、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、粒径制御性の観点から、スチレンアクリル樹脂が好ましく用いられる。
スチレンアクリル樹脂は、具体的には、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体の共重合体である。本明細書において、「スチレンアクリル樹脂」及び「アクリル樹脂」は、それぞれ「スチレンメタアクリル樹脂」及び「メタクリル樹脂」をその範疇に含む。「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタアクリル酸の少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
スチレンアクリル樹脂は、少なくとも、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成されるものである。ここでいうスチレン系単量体は、CH=CH-Cの構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものを含むものである。また、ここでいう(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル化合物やメタクリル酸エステル化合物の他に、アクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体等の構造中に公知の側鎖や官能基を有するエステル化合物を含むものである。
スチレンアクリル樹脂の形成が可能なスチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体の例を以下に示す。
スチレン系単量体の具体例としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらスチレン系単量体は、単独でも又は2種以上組み合わせても用いることができる。
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート及びこれらの誘導体等が挙げられる。これら(メタ)アクリル酸エステル単量体は、単独でも又は2種以上を組み合わせても使用することができる。
スチレンアクリル樹脂中の各単量体に由来する構成単位の含有割合は、Tg1及びハンセンの溶解度パラメーターにおける極性項dP1及び水素結合項dH1等が所望の範囲となるように適宜設定する。さらに、スチレンアクリル樹脂は、その構成単位を形成する単量体として、上記スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体に加え、以下のその他のビニル単量体を含んでいてもよい。
このようなその他のビニル単量体としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などのイオン性解離基を有するビニル単量体を用いることが好ましい。具体的には、以下のものがある。
カルボキシ基を有するビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。また、スルホン酸基を有するビニル単量体としては、例えば、スチレンスルフォン酸、アリルスルフォコハク酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルフォン酸などが挙げられる。さらに、リン酸基を有するビニル単量体としては例えばアシドホスホオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
さらに、その他のビニル単量体として、多官能性ビニル類を使用し、ビニル樹脂を、架橋構造を有するものとすることもできる。多官能性ビニル類としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
スチレンアクリル樹脂の製造方法は、特に制限されず、上記単量体の重合に通常用いられる任意の重合開始剤を用い、塊状重合、溶液重合、乳化重合法、ミニエマルション法、分散重合法など公知の重合手法により重合を行う方法が挙げられる。
重合開始剤としては、公知の種々のものを用いることができる。重合開始剤の具体例としては、例えば過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化-tert-ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1-フェニル-2-メチルプロピル-1-ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸-tert-ヒドロペルオキシド、過ギ酸-tert-ブチル、過酢酸-tert-ブチル、過安息香酸-tert-ブチル、過フェニル酢酸-tert-ブチル、過メトキシ酢酸-tert-ブチル、過N-(3-トルイル)パルミチン酸-tert-ブチルなどの過酸化物類;2,2′-アゾビス(2-アミノジプロパン)塩酸塩、2,2′-アゾビス-(2-アミノジプロパン)硝酸塩、1,1′-アゾビス(1-メチルブチロニトリル-3-スルホン酸ナトリウム)、4,4′-アゾビス-4-シアノ吉草酸、ポリ(テトラエチレングリコール-2,2′-アゾビスイソブチレート)などのアゾ化合物などが挙げられる。
また、分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばn-オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
<シェル層>
シェル層はガラス転移温度Tg2を有する。すなわち、シェル層はガラス転移温度Tg2の非晶性樹脂を含有する。シェル層は複数種で構成されてもよく、複数種で構成される場合、ガラス転移温度が最も高い成分のガラス転移温度をTg2とする。シェル層のガラス転移温度Tg2の好ましい温度は、上記のとおり、40~80℃であり、より好ましくは50~65℃である。
シェル層はガラス転移温度Tg2が上記範囲内にあることで、使用時までコア部を被覆した状態を維持し易い。そして、本発明の粘着剤においては、使用時に圧力が印加されシェル層が崩壊することで表出するコア部により粘着性を発現することができる。なお、シェル層は上記Tg2の特性を損なわない範囲で、他の成分を含有してもよい。
シェル層を構成する成分、具体的には、上記Tg2を有する非晶性樹脂を含有する成分は、コア部を構成する成分、例えば、上記Tg1を有する非晶性樹脂を含有する成分に比べて極性が高いことが好ましい。具体的には、上記式(1)及び式(2)を満足することが好ましい。
このような、シェル層を構成する非晶性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アクリル樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸エステル単量体を付加重合させて形成されるものである。アクリル樹脂の形成が可能な(メタ)アクリル酸エステル単量体の例は、上記スチレンアクリル樹脂の単量体として示した(メタ)アクリル酸エステル単量体の例と同様とすることができる。
アクリル樹脂は、その構成単位を形成する単量体として、(メタ)アクリル酸エステル単量体に加え、その他のビニル単量体を含んでいてもよい。その他のビニル単量体の例は、上記スチレンアクリル樹脂において示したその他のビニル単量体の例と同様とすることができる。
なお、アクリル樹脂中の各単量体に由来する構成単位の含有割合は、Tg2及びハンセンの溶解度パラメーターにおける極性項dP2及び水素結合項dH2等が所望の範囲となるように適宜設定する。
(コア・シェル部材の形態)
本発明の粘着剤に係るコア・シェル部材(A)は、上記本発明の特徴を満たす限り、その形態は特に制限されない。具体的には、粉体(粒子)状、板状、棒状、シート状等の形態及び、このような各種形態において表面に凹凸形状を有する形態等が挙げられる。コア・シェル部材(A)の大きさは、操作性を勘案して適宜調整される。特に、以下の使用時における圧力の印加条件に応じて、形態が適宜設定される。
本発明の粘着剤は、加圧することでシェル層が崩壊して、コア部が表出するように使用される。シェル層が崩壊するための圧力としては、保管時に容易に崩壊しない保管安定性及び使用時の作業性等の観点から、概ね100~1000kPaが好ましく、200~300kPaがより好ましい。
コア・シェル部材(A)の好ましい形態としては、コア部としてシード粒子を有し、シェル層として前記シード粒子の表面にシード重合して得られた外殻を有する、シード重合粒子が挙げられる。コア・シェル部材(A)は、好ましくは、粉体形状であり、川北式かさ密度測定機にて、以下の方法で測定される静かさ密度にて0.200~0.400g/cmを示す粉体が好ましい。
<流動性の評価方法>
流動性の指標として川北式かさ密度測定機(IH2000型)により静かさ密度を求めた。具体的な静かさ密度の測定法は以下のとおりである。
48メッシュの篩い上にコア・シェル部材(A)のサンプル20gをのせ振動強度6で30秒落下させた後、振動を停止し5分静置した後すり切り嵩密度(コア・シェル部材(A)重量/容積(20cm))を求める。(嵩密度)/(真密度)が大きいほど流動性が良好という指標である。
(シード重合粒子)
本発明に係るシード重合粒子は、シード粒子と外殻を有し、シード粒子のガラス転移温度Tg1と外殻のガラス転移温度Tg2が上記(a)の関係にある。当該シード重合粒子を、以下、シード重合粒子(S)ともいう。
本発明に用いるシード重合粒子(S)の、シード粒子は上記コア・シェル部材(A)のコア部に相当し、Tg1、ハンセンの溶解度パラメーターに係る極性項dP1及び水素結合項dH1等の物性値並びに構成材料は、上記コア部において説明したのと好ましい態様を含めて同様とすることができる。
本発明に用いるシード重合粒子(S)の、外殻は、上記コア・シェル部材(A)のシェル層に相当し、Tg2、ハンセンの溶解度パラメーターに係る極性項dP2及び水素結合項dH2等の物性値並びに構成材料は、上記シェル層において説明したのと好ましい態様を含めて同様とすることができる。
さらに、シード重合粒子(S)における、シード粒子と外殻のハンセンの溶解度パラメーターに係る関係は、コア・シェル部材(A)のコア部とシェル層の関係と同様、上記式(1)及び(2)を満足することが好ましく、両者の質量の割合も、コア・シェル部材(A)の場合と同様とすることができる。
シード重合粒子(S)は、例えば、以下のようにして、シード粒子を作製し、次いで、その表面にシード重合により外殻を形成することで得られる。
上記Tg1を有する非晶性樹脂、例えば、スチレンアクリル樹脂からなるシード粒子の製造方法は、粒径を調整する観点から乳化重合法が好ましい。乳化重合法では水系溶媒中で原料単量体を分散させるために、通常、界面活性剤を用いる。シード粒子を構成するスチレンアクリル樹脂の製造に用いる原料単量体は、上記コア・シェル部材(A)においてコア部を構成するスチレンアクリル樹脂の製造に用いる原料単量体と同様とすることができる。
上記乳化重合で用いる界面活性剤としては、従来公知の種々のカチオン系界面活性剤、ノニオン界面活性剤、アニオン系界面活性剤などを用いることができる。界面活性剤は、必要に応じて、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
カチオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ノリルフェニルポリキオシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル、スチリルフェニルポリオキシエチレンエーテル、モノデカノイルショ糖などが挙げられる。
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウムなどの脂肪族石鹸や、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどを挙げることができる。
シード粒子を構成する非晶性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、重量平均分子量(Mw)で、1000~20000であることが好ましく、5000~18000であることがより好ましい。なお、GPCによる重量平均分子量(Mw)の測定は、以下のように行うことができる。また、本明細書における、他の樹脂の重量平均分子量(Mw)についても、同様の方法で得られた重量平均分子量(Mw)である。
装置「HLC-8220」(東ソー社製)及びカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM-M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/分で流し、測定試料(非晶性樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mLになるようにTHFに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得る。
この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出し、分子量分布から重量平均分子量(Mw)を求める。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×10、2.1×10、4×10、1.75×10、5.1×10、1.1×10、3.9×10、8.6×10、2×10、4.48×10のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成する。また、検出器には屈折率検出器を用いる。
シード重合粒子(S)におけるシード粒子の粒径は、シード重合粒子(S)の製造に用いるシード粒子の粒径と同じである。シード粒子の粒径は、シード重合粒子(S)の全体に対するシード粒子の割合を上記好ましい範囲に調整しやすい点から、体積平均粒径として、50~100nmが好ましく、60~80nmがより好ましい。なお、体積平均粒径は、体積基準のメジアン径であり、動的光散乱法による測定装置、例えば、「マイクロトラックUPA-150」(日機装社製)により測定できる。
上記で得られたシード粒子を核として、その外側に乳化重合により重合体(樹脂)で構成される外殻を形成する。
外殻の形成は、上記シード粒子及び外殻形成のための原料単量体を用いて乳化重合により行う。外殻の形成に用いる原料単量体は、上記コア・シェル部材(A)においてシェル層の製造に用いる原料単量体と同様とすることができる。乳化重合の反応液には、上記各単量体の乳化重合に通常用いられる、界面活性剤、重合開始剤、連鎖移動剤を用いることができる。界面活性剤、重合開始剤及び連鎖移動剤の具体例としては、上記シード粒子の重合に用いるのと同様の例が挙げられる。
このようにして、上記乳化重合により、シード粒子の外側に外殻が形成されたシード重合粒子(S)が、水系媒体中に分散された分散液の形態で得られる。シード重合粒子(S)を粘着剤とする場合、得られた分散液から適当な方法で水系媒体を除去して粉体とする。例えば、水系媒体の除去(乾燥)を加熱により行う場合、外殻のガラス転移温度Tg2未満の温度で行う。本発明において、シード重合粒子(S)の好ましい乾燥方法は、凍結乾燥である。
なお、シード重合粒子(S)を凝集・融着して、本発明の別の態様の粘着剤である、体積平均径が2~15μmの範囲内にある凝集体を作製する場合には、例えば、上記分散液をそのまま出発原料として用いることができる。
ここで、外殻のTg2は、例えば、シード粒子のTg1が既知の場合、シード重合粒子(S)を示差走査熱量測定(DSC)することで測定できる。すなわち、シード重合粒子(S)のDSC曲線からは2つのガラス転移温度(Tg)が測定される。当該DSC曲線から測定される2つのTgのうち、シード粒子のTg(Tg1)ではない方のTgが外殻のTg(Tg2)である。また、シード粒子のTg1が未知の場合、シード重合微粒子(S)を、例えば、UV硬化樹脂で包埋し、nano-TA(nanoscale thermal analysis)にて、断面の内部(シード粒子)のTg(Tg1)と外部(外殻)のTg(Tg2)を測定する。
シード重合粒子(S)の重量平均分子量(Mw)は、使用時にシェル層を崩壊する際の圧力を適度なものとする観点から、3万以下であることが好ましい。シード重合粒子(S)の重量平均分子量(Mw)は、1000~20000の範囲にあることがより好ましく、5000~18000の範囲にあることがより好ましい。
シード重合粒子(S)の体積平均粒径は、上に説明したとおり、150nm以下であることが好ましく、50~150nmの範囲内にあることがより好ましく、60~120nmの範囲内にあることがさらに好ましい。なお、シード重合粒子(S)の体積平均粒径は、体積基準のメジアン径であり、上記、分散液の状態で、動的光散乱法による測定装置、例えば、「マイクロトラックUPA-150」(日機装社製)により測定できる。ここで、分散液から乾燥して得られる粉体としてのシード重合粒子(S)における体積平均粒径は、分散液中で測定されるシード重合粒子(S)の体積平均粒径と同じである。
[本発明の別の態様の粘着剤]
本発明は、上記粘着剤とは別の態様の接着剤として、上記のシード重合粒子(S)を凝集・融着して形成される、体積平均径が2~15μmの範囲内にある凝集体(以下、シード重合粒子凝集体(B)ともいう。)からなる接着剤を提供する。
図1にシード重合粒子(S)を凝集・融着してシード重合粒子凝集体(B)を得る過程を模式的に示す。図1(a)は、シード粒子C1とシード粒子C1を被覆する外殻S1からなるシード重合粒子(S)の多数が、水系媒体中に分散している状態を示す。図1(b)は、シード重合粒子(S)を凝集・融着して得られた、シード重合粒子凝集体(B)が水系媒体中に分散している状態を示す。
シード重合粒子凝集体(B)は、房状の粒子であり、その表層S2は、シード重合粒子(S)における外殻S1の成分により構成された連続相のシェル層となっている。シード重合粒子凝集体(B)の内部には、シード重合粒子(S)に由来するシード粒子C1が多数存在し、その周囲にシード重合粒子(S)の外殻S1の成分が存在する構成である。
シード重合粒子凝集体(B)の内部に存在するシード粒子C1は、上記コア・シェル部材(A)のコア部に相当し、Tg1、ハンセンの溶解度パラメーターに係る極性項dP1及び水素結合項dH1等の物性値並びに構成材料は、上記コア部において説明したのと好ましい態様を含めて同様である。
また、シード重合粒子凝集体(B)の表層S2は、上記コア・シェル部材(A)のシェル層に相当し、上記のとおりシード重合粒子(S)における外殻S1の構成成分で構成されることから、Tg2、ハンセンの溶解度パラメーターに係る極性項dP2及び水素結合項dH2等の物性値並びに構成材料は、上記シェル層において説明したのと好ましい態様を含めて同様である。
シード重合粒子凝集体(B)は、上記構成を有することで、シード重合粒子凝集体(B)に圧力を印加することで、表層S2が崩壊して粘着成分を含有するシード粒子C1が表出して、粘着性を発現することができる。
シード重合粒子凝集体(B)は、内部に存在するシード重合粒子(S)に由来するシード粒子C1と表層S2のハンセンの溶解度パラメーターに係る関係は、コア・シェル部材(A)のコア部とシェル層の関係と同様、上記式(1)及び(2)を満足することが好ましく、両者の質量の割合も、コア・シェル部材(A)の場合と同様とすることができる。
シード重合粒子凝集体(B)の製造に際して、シード重合粒子(S)を凝集・融着する方法としては、乳化凝集法が挙げられる。乳化凝集法は、具体的には、界面活性剤や分散安定剤によって分散されたシード重合粒子(S)の分散液に、凝集剤を添加することによって目的とするシード重合粒子凝集体(B)の粒径となるまでシード重合粒子(S)を凝集させ、その後又は凝集と同時に、シード重合粒子(S)間の融着を行うことにより、シード重合粒子凝集体(B)を形成する方法である。
凝集は、pH調整によるシード重合粒子(S)表面の反発力と電解質体よりなる凝集剤の添加による凝集力とのバランスを取りながら緩慢に行うことが好ましい。これにより平均粒径及び粒度分布の制御が容易となる。融着は、凝集と同時に行うことが好ましく、加熱撹拌する方法が一般的である。融着における加熱温度は、Tg2以上の温度が好ましく、Tg2+10~20℃の温度がより好ましい。シード重合粒子凝集体が目的の粒径、すなわち、体積平均径で2~15μmとなったこところで、停止剤を添加し融着のための加熱を停止して、シード重合粒子凝集体(B)の分散液を得る。
上記凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属の塩から選択されるものが好適に使用される。例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩などの一価の金属の塩、例えばカルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属の塩、鉄、アルミニウムなどの三価の金属の塩などが挙げられ、具体的な塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができる。これらの中で特に好ましくは二価の金属の塩である。二価の金属の塩を使用すると、より少量で凝集を進めることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記で得られたシード重合粒子凝集体(B)の分散液に対して、水等の溶媒を用いて、固液分離を行う。濾別されたシード重合粒子凝集体(B)を含むケーキ状の集合物から界面活性剤などの付着物を除去するための洗浄を行う。具体的な固液分離及び洗浄の方法としては、遠心分離法、アスピレータ、ヌッチェなどを使用する減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用する濾過法などが挙げられ、これらは特に限定されるものではない。この際、適宜、pH調整や粉砕などを行ってもよい。このような操作は繰り返し行ってもよい。また、洗浄においては、濾液の電気伝導度が10μS/cm以下になるまで水洗浄することが好ましい。
次いで、洗浄後の水等の溶媒を含むシード重合粒子凝集体(B)から、当該溶媒を除去する乾燥を行う。乾燥に用いる乾燥機としては、オーブン、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などが挙げられ、これらは特に限定されるものではない。なお、乾燥処理されたシード重合粒子凝集体(B)中のカールフィッシャー電量滴定法にて測定される水分量は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
本発明に係るシード重合粒子凝集体(B)の体積平均粒径は、2~15μmの範囲である。シード重合粒子凝集体(B)の体積平均粒径は、4~7μmの範囲にあることが好ましい。シード重合粒子凝集体(B)の体積平均粒径は、体積基準メジアン径(D50%径)として、例えば、「マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)」に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステム(ベックマン・コールター製)を接続した装置を用いて、測定、算出することができる。
なお、粉体のシード重合粒子凝集体(B)について、体積平均粒径を測定する場合には、まず、検体の0.02gを、界面活性剤溶液20mLに分散させ、馴染ませた後超音波分散を1分間行い、シード重合粒子凝集体(B)の分散液を作製する。上記界面活性剤溶液としては、例えば、界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈したものを用いるとよい。この分散液を、ISOTONII(ベックマン・コールター社製)のビーカーに測定濃度5~10%になるまで滴下していき、測定機カウントを25000個に設定して測定する。ここで、マルチサイザー3のアパチャー径は100μmのものを使用する。測定は、2~60μmの範囲を256分割しての頻度数を算出し、体積積算分率が大きい方から50%の粒子径を体積基準メジアン径(D50%径)として得て、シード重合粒子凝集体(B)の体積平均粒径とする。
乾燥後のシード重合粒子凝集体(B)は、粉体形状であり、川北式かさ密度測定機にて、上記の方法で測定される静かさ密度は、0.200~0.400g/cmであることが好ましい。
本発明の粘着剤(上記別の態様の粘着剤を含む)は、例えば、シード重合粒子(S)やシード重合粒子凝集体(B)の場合、そのまま粉体として使用することができる。また、粘着剤をバインダー成分とともに所望の形状に成形して用いることができる。本発明の粘着剤を、粉体として使用する場合、平面以外の形状の被接着面に対応できる利点を有する。例えば、被接着面が凹凸形状を有する部材同士を接着する場合、各部材の凹部の底面にも十分な量の粘着剤を供給することができる。そして、粘着剤を供給した後、両部材を被接着面を対向させて組み合わせて加圧することで、強固な接着が実現できる。また、本発明の粘着剤が粉体である場合、狭い管の中を流動させ配置することができる。
このように、本発明の粘着剤が粉体である場合、被接着面が様々な形状の部材を周囲の汚染を殆ど起こすことなく貼り合わせることができる。従来の液状の粘着剤は小さな凹部には入り込みがたく、周囲への汚染が発生してしまうため、本発明の粘着剤が粉体である場合、利便性の点で有利である。
シード重合粒子凝集体(B)は、任意の方法で無機微粒子を外添し一成分現像剤および二成分現像剤として電子写真プロセスを用いて潜像を形成しメディア上に任意のパターンで配置することができる。例えば、A4サイズの紙の四辺にシード重合粒子凝集体(B)を潜像形成し、もう1枚のA4サイズの紙を合わせて押圧することで封書が作製できる。例えば、オフライン機として潜像形成でき圧力印加できるマシンを、プロダクションプリンターの後工程に接続することで、画像が入った封書を一連動作で作製することが可能となる。
[粘着剤組成物及び粘着部材]
本発明の粘着剤組成物は、上記粘着剤と、当該粘着剤に非相溶な樹脂(以下、「樹脂(P)」ともいう。)を含有することを特徴とする。本発明の粘着剤組成物は、樹脂(P)をバインダー成分として、本発明の粘着剤を含有する粘着剤部材を製造するのに用いることができる。また、基材上に本発明の粘着剤を含む粘着層を形成するのに用いることができる。
粘着剤に非相溶な樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂等が挙げられる。粘着剤組成物は、液状組成物として、支持体上に塗布して塗膜とした後、それを硬化させることで、フィルムやシート等に成形できる。成形後、支持体から剥離して、粘着部材である粘着フィルムや粘着シートとしてもよく、支持体をそのまま基材として、粘着層付き基材としてもよい。
樹脂(P)は、例えば、硬化型樹脂であってもよい。粘着剤組成物が含有する樹脂(P)が硬化型樹脂である場合、粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、架橋剤、重合開始剤等の成分を含んでいてもよい。粘着剤組成物は、また、樹脂(P)を溶解する溶媒を含んでいてもよい。
本発明の粘着剤組成物における、粘着剤と樹脂(P)の含有割合は、粘着剤の100質量部に対する樹脂(P)の割合として、粘着性と成形性の両立の観点から、10~70質量部が好ましく、30~50質量部がより好ましい。
本発明に係る粘着部材は、上記粘着剤と、樹脂(P)を含有する部材であり、例えば、上記粘着剤組成物を用いて成形される。粘着部材における樹脂(P)は粘着剤組成物で例示したとおりである。粘着部材における粘着剤と樹脂(P)の含有割合は、粘着剤組成物における粘着剤と樹脂(P)の含有割合と同様とすることができる。
本発明に係る粘着部材は、また、本発明の効果を損なわない範囲で粘着剤及び樹脂(P)以外のその他の成分を含有できる。その他の成分として、具体的には、上記粘着剤組成物で挙げた添加剤が挙げられる。
本発明に係る粘着部材の形状は特に制限されない。例えば、フィルム状、シート状、棒状等の形態及び、このような各種形態において表面に凹凸形状を有する形態等使用される箇所の形状に応じた形状が挙げられる。図2に、本発明に係る粘着部材の一例として、フィルム状又はシート状の粘着部材の断面図を示す。粘着部材10は、樹脂2をバインダー成分として、粘着部材10中に粘着剤1が略均一に分散されたフィルム状又はシート状の粘着部材である。
フィルム状又はシート状である粘着部材10の厚さとしては、特に制限されないが、0.5~2mmの厚さが挙げられる。フィルム状又はシート状である粘着部材は、例えば、粘着テープ、捕虫テープ等の用途に用いることができる。また、加圧するまでは粘着性がないので、位置決めを行ったのちに押圧して止めることができるため、仮止めテープとしても優れている。
[粘着層付き基材]
本発明の粘着層付き基材は、基材と前記基材の表面に配置された粘着層を有する粘着層付き基材であって、前記粘着層が、本発明の粘着剤を含有することを特徴とする。
図3及び図4は、それぞれ本発明に係る粘着層付き基材の一例及び他の一例の断面を示す図である。図3に示す粘着層付き基材20Aは、基材3の一方の主面の全面に粘着剤1からなる粘着層4Aが形成された例である。図4に示す粘着層付き基材20Bは、基材3の一方の主面の全面に粘着剤1と樹脂2からなる粘着層4Bが形成された例である。
基材3の構成材料としては、紙、プラスチック、金属、等が挙げられる。粘着層付き基材20A及び20Bにおいて、基材3の形状は、フィルム状又はシート状であって、粘着層4A及び4Bを有する主面は平坦である。本発明の粘着層付き基材における基材の形状はこれに限定されない。基材の形状は用途に応じて適宜選択される。
粘着層4A及び4Bにおける粘着剤1及び樹脂2の構成材料については、上記のとおりである。粘着層4Aの厚さは、用いる粘着剤1の大きさにもよるが、5μm~1mmとすることができ、10μm~1mmが好ましい。粘着層4Bの厚さは、5~20μmとすることができ、7~15μmが好ましい。
本発明の粘着層付き基材において、基材上に粘着層が積層される位置は、粘着層付き基材20A及び20Bに示される位置に限定されない。粘着層は、例えば、フィルム状又はシート状の基材の一方又は両方の主面の全面又は一部に形成することができる。
図5及び図6に、本発明に係る粘着層付き基材のさらに別の一例の平面図及び当該粘着層付き基材のX-X線断面図を示す。図5及び図6に示す粘着層付き基材20Cは、フィルム状又はシート状の基材の一方の主面の一部に所定の平面形状の粘着層を有する例である。粘着層付き基材20Cは、平面視が矩形状の基材3と、基材3の一方の主面上に主面の外周から内側に向かって所定の幅を有する、平面視の形状が額縁形状である粘着層4を有する。粘着層4の構成は、粘着層4Aと同様に粘着剤1のみからなってもよく、粘着層4Bと同様に粘着剤1及び樹脂2からなってもよい。
フィルム状又はシート状の基材の主面の一部に粘着層を形成する方法としては、粉体状の粘着剤、好ましくはシード重合粒子(S)又はシード重合粒子凝集体(B)を用いて電子写真法で形成する方法、粘着層を形成しない箇所をマスキングした後、本発明の粘着剤組成物を用いて上記の方法により形成する方法等が挙げられる。基材上に複雑な平面形状を有する粘着層を形成する場合は、電子写真法による粘着層の形成が有利である。
本発明の粘着剤が適用される被接着面を構成する材料としては、紙、プラスチック、金属等が挙げられ、紙に適用されることが好ましい。本発明の粘着剤は、上記のとおり圧力が印加されることで接着性が発現する構成である。接着性を発現させるための圧力としては、保管安定性及び使用時の作業性等の観点から、概ね100~1000kPaが好ましく、200~300kPaがより好ましい。
本発明の粘着剤については、以下の方法で評価される接着力が80gf/25mm以上であることが好ましく、90gf/25mm以上がより好ましい。さらに、当該接着力が温度20℃、湿度50%の環境下で1か月放置された後に同様の値であることが好ましい。
<接着力の測定方法>
厚さ25μmのPETフィルムを幅20mm、長さ150mmに切断する。PETフィルム上に厚さ1mm、1cm角の粘着層を形成し、上方から同形のPETフィルムを載せ、200kPaの圧力を印加し接着させる。万能引張試験機『TCM-1kNB』(ミネベア社製)を用い、剥離角度180°、引っ張り速度300mm/分で剥離試験を行い、接着力を測定する。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
[粘着剤の作製]
以下のとおり、本発明の粘着剤として、シード重合粒子(S)に相当するシード重合粒子(S1)~(S4)(粉体粘着剤1~4)及びシード重合粒子(S)の範疇にない比較例用のシード重合粒子(Scf)(粉体粘着剤5)を作製した。
〔粉体粘着剤1;シード重合粒子(S1)の作製〕
(1)シード樹脂粒子(SS1)分散液の調製
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2.0質量部をイオン交換水500質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤を仕込み、窒素気流化230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム(KPS)」2.0質量部を添加し、内温を80℃と安定させた後、以下の組成の単量体溶液(m1)を3時間かけて滴下し、滴下終了後、90℃において1時間にわたって加熱・撹拌することで重合を行いシード樹脂粒子(SS1)の分散液を調製した。
(単量体溶液(m1))
スチレン 26.9質量部
n-ブチルアクリレート 213質量部
n-オクチルメルカプタン 3.5質量部
シード樹脂粒子(SS1)のガラス転移温度(シード粒子のTgであるTg1に相当)を測定したところ、-40℃であった。シード樹脂粒子(SS1)の体積平均粒径は70nmであった。
(2)シード重合粒子(S1)分散液の調製
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2.0質量部をイオン交換水500質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤と、シード樹脂粒子(SS1)分散液を95質量部仕込み、窒素気流化230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム(KPS)」0.4質量部を添加し、内温を80℃と安定させた後、以下の組成の外殻単量体溶液(g1)を45分かけて滴下し、滴下終了後、90℃において1時間にわたって加熱・撹拌することで重合を行い「シード重合粒子(S1)」の分散液を調製した。
(外殻単量体溶液(g1))
メタクリル酸メチル 20.5質量部
n-ブチルアクリレート 9.1質量部
メタクリル酸 2.6質量部
n-オクチルメルカプタン 0.54質量部
シード重合粒子(S1)の分散液を適量ビーカーにとり、凍結乾燥を行い、粉体状粘着剤1を得た。粉体状粘着剤1の素性は流動性の良いサラサラな粉体であった。粉体状粘着剤1としての、シード重合粒子(S1)のガラス転移温度を測定したところ、シード粒子由来のTg(Tg1)である-40℃と、外殻由来のTg(外殻のTgであるTg2に相当)である50℃の2つが認められた。シード重合粒子(S1)(粉体状粘着剤1)の体積平均粒径は120nmであった。
〔粉体粘着剤2;シード重合粒子(S2)の作製〕
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2.0質量部をイオン交換水500質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤と、シード樹脂粒子(SS1)分散液を95質量部仕込み、窒素気流化230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム(KPS)」0.4質量部を添加し、内温を80℃と安定させた後、以下の組成の外殻単量体溶液(g2)を45分かけて滴下し、滴下終了後、90℃において1時間にわたって加熱・撹拌することで重合を行い「シード重合粒子(S2)」の分散液を調製した。
(外殻単量体溶液(g2))
スチレン 20.7質量部
n-ブチルアクリレート 8.9質量部
メタクリル酸 2.6質量部
n-オクチルメルカプタン 0.54質量部
シード重合粒子(S2)の分散液を適量ビーカーにとり、凍結乾燥を行い、粉体状粘着剤2を得た。粉体状粘着剤2の素性は流動性の良いサラサラな粉体であった。
〔粉体粘着剤3;シード重合粒子(S3)の作製〕
(1)シード樹脂粒子(SS2)分散液の調製
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2.0質量部をイオン交換水500質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤を仕込み、窒素気流化230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム(KPS)」2.0質量部を添加し、内温を80℃と安定させた後、以下の組成の単量体溶液(m2)を3時間かけて滴下し、滴下終了後、90℃において1時間にわたって加熱・撹拌することで重合を行いシード樹脂粒子(SS2)の分散液を調製した。
(単量体溶液(m2))
メタクリル酸メチル 26.9質量部
n-ブチルアクリレート 213質量部
n-オクチルメルカプタン 3.5質量部
(2)シード重合粒子(S3)分散液の調製
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2.0質量部をイオン交換水500質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤と、シード樹脂粒子(SS2)分散液を95質量部仕込み、窒素気流化230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム(KPS)」0.1質量部を添加し、内温を80℃と安定させた後、以下の組成の外殻単量体溶液(g3)を45分かけて滴下し、滴下終了後、90℃において1時間にわたって加熱・撹拌することで重合を行い「シード重合粒子(S3)」の分散液を調製した。
(外殻単量体溶液(g3))
メタクリル酸メチル 62.2質量部
n-ブチルアクリレート 26.6質量部
メタクリル酸 7.7質量部
シード重合粒子(S3)の分散液を適量ビーカーにとり、凍結乾燥を行い、粉体状粘着剤3を得た。粉体状粘着剤3の素性は流動性の良いサラサラな粉体であった。
〔粉体粘着剤4;シード重合粒子(S4)の作製〕
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」1.0質量部をイオン交換水500質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤と、シード樹脂粒子(SS1)分散液を95質量部仕込み、窒素気流化230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム(KPS)」0.4質量部を添加し、内温を80℃と安定させた後、外殻単量体溶液(g1)を45分かけて滴下し、滴下終了後、90℃において3時間にわたって加熱・撹拌することで重合を行い「シード重合粒子(S4)」の分散液を調製した。
シード重合粒子(S4)の分散液を適量ビーカーにとり、凍結乾燥を行い、粉体状粘着剤4を得た。粉体状粘着剤4の素性は流動性の良いサラサラな粉体であった。
〔粉体状粘着剤5;シード重合粒子(Scf)の作製〕
(1)シード樹脂粒子(SS3)分散液の調製
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2.0質量部をイオン交換水500質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤を仕込み、窒素気流化230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム(KPS)」2.0質量部を添加し、内温を80℃と安定させた後、以下の組成の単量体溶液(m3)を3時間かけて滴下し、滴下終了後、90℃において1時間にわたって加熱・撹拌することで重合を行いシード樹脂粒子(SS3)の分散液を調製した。
(単量体溶液(m3))
スチレン 120.4質量部
n-ブチルアクリレート 119.6質量部
n-オクチルメルカプタン 3.8質量部
(2)シード重合粒子(Scf)分散液の調製
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」1.0質量部をイオン交換水500質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤と、シード樹脂粒子(SS3)分散液を95質量部仕込み、窒素気流化230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム(KPS)」0.4質量部を添加し、内温を80℃と安定させた後、外殻単量体溶液(g1)を45分かけて滴下し、滴下終了後、90℃において1時間にわたって加熱・撹拌することで重合を行い「シード重合粒子(Scf)」の分散液を調製した。
シード重合粒子(Scf)の分散液を適量ビーカーにとり、凍結乾燥を行い、粉体状粘着剤5を得た。粉体状粘着剤5の素性は流動性の良いサラサラな粉体であった。
〔Tg1及びTg2〕
上記において、シード重合粒子(S2)、(S3)、(S4)及び(Scf)を作製する際に、シード粒子のTgであるTg1及び外殻のTgであるTg2をシード重合粒子(S1)の場合と同様に測定した。
〔ハンセン溶解度パラメーター〕
シード重合粒子(S1)、(S2)、(S3)、(S4)及び(Scf)のシード粒子及び外殻について、それぞれハンセン溶解度パラメーターの極性項dP1及びdP2、並びに水素結合項dH1及びdH2を上記のとおり単量体組成に基づいて算出した。
〔体積平均粒径〕
上記において、シード重合粒子(S2)、(S3)、(S4)及び(Scf)を作製する際に、シード粒子(シード樹脂粒子)及びシード重合粒子の体積平均粒径をシード重合粒子(S1)の場合と同様に測定した。
〔重量平均分子量(Mw)〕
シード重合粒子(S1)、(S2)、(S3)、(S4)及び(Scf)の重量平均分子量を上記の方法で測定した。
表Iに各シード重合粒子の作製に用いた単量体溶液(m1)~(m3)、外殻単量体溶液(g1)~(g3)の組成と得られる共重合体のTg、dP、dHを示す。表I中、「St」はスチレンを、「MMA」はメタクリル酸メチルを、「BA」はn-ブチルアクリレートを、「MAA」はメタクリル酸をそれぞれ示す。また、表IIに各シード重合粒子(粉体状粘着剤)における、上記で得られた物性値、及びTg1-Tg2、dP2-dP1、dH2-dH1等をシード粒子及び外殻の形成に用いた単量体溶液の種類及びシード重合粒子におけるシード粒子の割合(質量%)とともに示す。
Figure 0007484450000001
Figure 0007484450000002
〔粉体状粘着剤6;シード重合粒子凝集体(B1)の作製〕
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、上記で得られたシード重合粒子(S1)の分散液を固形分換算で126質量部、イオン交換水100質量部を投入後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10、液温度を20℃に調整した。
次いで、塩化マグネシウム12.8質量部をイオン交換水12.8質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、20℃において10分間かけて添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分かけて80℃まで昇温し、80℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「マルチサイザー4」(ベックマン・コールター社製)にて粒子の粒径を測定し、体積基準におけるメジアン径(D50%径)が6.0μmになった時点で撹拌数をあげ粒子成長を停止させた。
その後、さらに、昇温を行い、85℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.950になった時点で30℃に冷却し、「シード重合粒子凝集体(B1)の分散液」を得た。
シード重合粒子凝集体(B1)の分散液を適量ビーカーにとり、凍結乾燥を行い、粉体状粘着剤6を得た。粉体状粘着剤6の素性は流動性の良いサラサラな粉体であった。
[粘着テープ]
上記で得られた粉体状粘着剤1~6を用いて、以下の方法で粘着層付き基材の形態の粘着テープ1~5を作製し、これらを用いての接着力を評価した。粘着テープ1~4が本発明の粘着テープであり、粘着テープ5は比較例(比較例1)の粘着テープである。なお、比較例2として、市販(ナイスタック、ニチバン社製)の両面テープを使用した。結果を表IIIに示す。
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを幅20mm、長さ150mmに切断して基材とした。基材の一方の主面上に、厚さ1mm、1cm角の穴があいたSUS板をのせ、粒子状粘着剤1を擦り切れいっぱい添加した。SUS板を外し、粘着テープ1として粒子状粘着剤1からなる厚さ1mm、1cm角の粘着層が付いたPETフィルムを得た。同様にして粉体状粘着剤2~6を用いて粘着テープ2~6を得た。以下、表IIIにおける実施例1~4を、参考例1~4と読み替える。
[接着力の評価]
各粘着テープについて、その粘着層側に粘着テープの基材と同形のPETフィルムを載せ、200kPaの圧力を印加し接着させた。万能引張試験機『TCM-1kNB』(ミネベア社製)を用い、剥離角度180°、引っ張り速度300mm/分で剥離試験を行い、初期の接着力を測定した。また、各粘着テープについて、作製後1か月間、20℃50%で保管した後に、上記同様にPETフィルムを載せ、同圧力を印加し接着させた後、上記同様にして接着力を測定した。接着力が、80gf/25mm以上であれば実用上問題なく使用できる。
Figure 0007484450000003
表IIIから、本発明の粘着剤は、剥離紙等の保護なしでも接着前の劣化が抑制された粘着層を構成できることがわかる。
1 粘着剤
2 樹脂
3 基材
4A、4B、4 粘着層
10 粘着部材
20A、20B、20C 粘着層付き基材

Claims (7)

  1. 粘着成分を含有するコア部と前記コア部を被覆するシェル層を有するコア・シェル部材からなる粘着剤であって、
    前記コア部のガラス転移温度Tg1と前記シェル層のガラス転移温度Tg2との差(Tg2-Tg1)が50℃以上であり、
    前記コア・シェル部材が、前記コア部としてシード粒子を有し、前記シェル層として前記シード粒子の表面にシード重合して得られた外殻を有する、シード重合粒子であり、
    前記シード重合粒子の重量平均分子量が、3万以下であり、且つ
    前記シード重合粒子を凝集・融着して形成される、体積平均径が2~15μmの範囲内にある凝集体であることを特徴とする粘着剤。
  2. 前記Tg2が40~80℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の粘着剤。
  3. 前記コア・シェル部材が、ハンセンの溶解度パラメーターに係り、前記シェル層について極性項をdP2及び水素結合項をdH2とし、かつ前記コア部について極性項をdP1及び水素結合項をdH1としたときに、下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の粘着剤。
    dP2-dP1>0 式(1)
    dH2-dH1>0 式(2)
  4. 前記コア・シェル部材の全体に対する前記コア部の割合が50~90質量%の範囲内にあることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の粘着剤。
  5. 前記シード重合粒子の体積平均径が、150nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の粘着剤。
  6. 請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の粘着剤と、前記粘着剤に非相溶な樹脂を含有することを特徴とする粘着剤組成物。
  7. 基材と前記基材の表面に配置された粘着層を有する粘着層付き基材であって、
    前記粘着層が、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の粘着剤を含有することを特徴とする粘着層付き基材。
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