JP7484410B2 - 転動装置の診断方法 - Google Patents

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Description

本発明は、転動装置の診断方法に関する。
軸受の如き転動装置は、自動車、各種産業機械など幅広い産業分野にて利用されている。転動装置の内部の潤滑状態を把握することは、機械の円滑な動作、転動装置の寿命の確保などの観点から極めて重要な事項であり、適切に把握することにより、各種潤滑剤(油、グリースなど)の供給や転動装置の交換等のメンテナンスを、過不足無く最適な時期に行うことができる。しかしながら、潤滑状態を直接目視により観察することは困難であるため、転動装置の診断方法として、振動、音、油膜状態をモニタリングする方法が提案されている。
特許文献1は、交流電圧を転動装置の回転輪に対して非接触な状態で印加し、測定した静電容量を用いて軸受の油膜状態の推定ができる。すなわち、油膜をコンデンサとみなして電気的な等価回路をモデル化し、転動装置の回転輪に対して非接触な状態で交流電圧を印加し、油膜の静電容量を測定する。静電容量と油膜厚さ(潤滑膜厚さ)は相関関係があるため、この相関関係から油膜の状態を推定するものである。
特許文献1に開示の技術によれば、油膜厚さを測定することは可能である。しかしながら、この方法では油膜厚さのみの算出が可能であり、その他の潤滑状態に影響を与える要素について把握することは困難である。
そこで、潤滑膜厚さだけでなく金属接触割合をも考慮して転動装置の潤滑状態を把握することを可能とする転動装置の診断方法が特許文献2に開示されている。
特許第4942496号公報 特許第6380720号公報
特許文献2に開示の技術によれば、油膜厚さおよび金属接触割合を測定することは可能である。しかしながら、これらの算出だけではなく、転動装置の構成要素として重要な、潤滑剤に起因する接触状態の変化を把握することについて検討の余地があった。
本発明は、潤滑膜厚さおよび金属接触割合の算出だけでなく、潤滑剤に起因する接触状態の変化による影響を踏まえた、転動装置の構成要素の接触状態の把握を可能とする転動装置の診断方法を提供する。
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
外方部材と、内方部材と、転動体と、潤滑剤とを備える転動装置の診断方法であって、
前記外方部材と、前記転動体と、前記内方部材と、前記潤滑剤とから構成される電気回路に交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定し、
前記測定した前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記外方部材と前記転動体の間または前記内方部材と前記転動体の間の少なくとも一つにおける潤滑剤膜厚さを算出し、測定した前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記外方部材と前記転動体の間または前記内方部材と前記転動体の間の少なくとも一つにおける金属接触割合を算出する、転動装置の診断方法であって、
前記電気回路の前記インピーダンスおよび前記位相角の測定を、2以上の異なる電圧で行うことを特徴とする、転動装置の診断方法。
ここで、上記転動装置の診断方法においては、前記インピーダンスおよび前記位相角を時系列的に測定するとともに、前記潤滑膜厚さおよび前記金属接触割合を時系列的に算出し、
前記金属接触割合もしくは前記潤滑膜厚さの時間的な変化に基づき、転動装置の潤滑状態に関する診断を行う、転動装置の診断方法とすることができる。
また、上記転動装置の診断方法においては、前記交流電圧の周波数は1Hz以上であり、かつ1GHz未満である、転動装置の診断方法とすることもできる。
また、上記転動装置の診断方法においては、前記潤滑剤が添加剤を含有する潤滑油である、転動装置の診断方法に好適に適用することができる。
本発明の一態様によれば、潤滑膜厚さおよび接触割合の算出だけでなく、潤滑剤に起因する接触状態の変化による影響を踏まえた転動装置の構成要素の接触状態を把握することが可能となる。
外輪または内輪と転動体の接触領域を示す概念図であり、(a)は接触領域の構造をモデル化したモデル図を示し、(b)は(a)のモデルに対応した電気回路(等価回路)を示す。 外輪または内輪と転動体の接触領域における表面における凹凸を示す概念図である。 軸受装置の診断における電気回路(等価回路)の図を示す。 試験装置の概略図である。 軸受装置の診断の工程を示すフローチャート図である。 固体の摩擦と潤滑について示す図である。 油膜厚さと破断率について示す図である。 幾つかの電気的方法について説明する図である。 固体の摩擦と潤滑について示す図である。 電気インピーダンス法について説明する図である。 接触領域の拡大図とその構造をモデル化した図である。 幾何学的モデルと電気モデルを示す図である。 電気インピーダンス法について説明する図である。 実験装置の仕様と模式図である。 速度Uの影響を示す図である。 幾何学的モデルと電気モデルを示す図である。 電気インピーダンス法について説明する図である。 実験装置の仕様と模式図である。 試験条件を示す図である。 膜厚、軸受温度、金属接触割合、トルクを示すグラフである。 膜厚、軸受温度、金属接触割合、トルクを示すグラフである。 膜厚、軸受温度、金属接触割合、トルクを示すグラフである。 表面粗さを示すグラフ、および写真である。 接触割合、油膜パラメータを示すグラフである。 膜厚、軸受温度、金属接触割合、トルクを示すグラフである。 混合潤滑、流体潤滑を示す模式図である。 膜厚、軸受温度、金属接触割合、トルクを示すグラフである。 膜厚、軸受温度、金属接触割合、トルクを示すグラフである。 金属接触割合、油膜パラメータを示すグラフである。 混合潤滑、流体潤滑を示す模式図である。 電気インピーダンス法について説明する図である。 固体の摩擦と潤滑について示す図である。 混合潤滑、流体潤滑を示す模式図である。 印加電圧、金属接触割合を示すグラフである。
以下、本発明に係る転動装置の診断方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(膜厚および接触割合の算出方法)
以下、本発明に係る転動装置の診断方法の実施形態に係わる、膜厚および接触割合の算出方法およびその原理について、図1~図39を参照して説明する。
図1は、診断対象となる転動装置としての軸受装置の概念図である。軸受装置10は、固定された外輪(外方部材)1と、図示せぬ回転軸に嵌合する回転側輪である内輪(内方部材)3と、外輪1の内周面に形成された軌道面と内輪3の外周面に形成された軌道面との間に介在する複数個の転動体5を備える。さらに外輪1と転動体5の間、および内輪3と転動体5の間には、潤滑のために供給された油、グリース等の潤滑剤からなる油膜(潤滑膜)9が存在する。軸受装置10は、自動車、二輪車、鉄道車両などの如き移動体や、産業機械、工作機械などに適用されるが、適用される装置は特に限定されない。また、本図では、内輪側に回転軸が存在するいわゆる内輪回転型の軸受装置10を示しているが、本願発明はこれには限定されず、外輪側に回転軸が存在するいわゆる外輪回転型の軸受装置にも適用可能である。
本発明の発明者は、特に、外輪1と転動体5の間または内輪3と転動体5の接触領域において、図1(a)のような接触領域の構造をモデル化したモデル図を検討するに至った。すなわち、このような接触領域においては、外輪1、内輪3、転動体5などの各部材が油膜(潤滑剤)に覆われている部分のみならず、金属、すなわち外輪1、内輪3、転動体5などの各部材を構成する金属が接触し合う金属接触部が存在する。そこで、特定範囲の接触領域の全体面積をSと仮定し、この金属部分の接触領域中の油膜で覆われている面積と金属の接触が生じている面積の割合を1-α:αと仮定した。このとき、金属が接触し合う金属接触部7の面積はαSとなる。hは油膜9の厚さである潤滑膜厚さ(油膜厚さ)を示す。
ここで、図1(a)における外輪1と転動体5の接触領域の拡大図に示すように、油膜9を誘電体と捉え、外輪1と転動体5を電極と考えると、油膜9はコンデンサC1を形成する。油膜9は同時に抵抗R1をも有している。油膜(潤滑膜)9も電流が流れる際には、油膜(潤滑膜)9は抵抗成分を有しており、コンデンサとして作用するのみならず、抵抗としても作用するのが妥当である。
一方、金属が接触し合う金属接触部7は抵抗R2を有している。この結果、図1(b)に示すような、図1(a)のモデルに対応した電気回路(等価回路)E1(外輪1または内輪3と転動体5により形成される回路)が導かれる。油膜9は、コンデンサC1(静電容量C1)と抵抗R1(抵抗値R1)の並列回路を形成し、当該並列回路と、金属接触部7が形成する抵抗R2(抵抗値R2)が並列に接続される。後述するように、本発明は、この電気回路を用いて、潤滑膜厚さのみならず、接触領域の全体面積に対して金属接触部7が占める面積の割合である接触割合(すなわち金属接触割合、以下、油膜の破断率ということがある)αを算出し、転動装置の潤滑状態を診断することが可能である。
図2は、外輪1または内輪3と転動体5がなす接触領域の拡大図を示す。外輪1、内輪3、転動体5の表面は滑らかに研磨されているが、ミクロ的に見ると、本図のように細かい凹凸が生じている。このような凹凸により生ずる空間に油膜9が形成されており、また、破線で示すように、外輪1または内輪3と転動体5が直接接触する部分により金属接触部7が形成される。また、潤滑膜厚さhは、所定の範囲の接触領域における油膜9の平均的な厚さより得られる。
図3は、軸受装置10の診断における一実施形態の電気回路(等価回路)の図を示す。上述した様に、各転動体5について、外輪1または内輪3との間に図1(b)に示す様な電気回路(等価回路)E1が形成されている。各転動体5は、外輪1および内輪3の双方に接触しているため、図3に示すように、各転動体5について、二つの電気回路E1(外輪1-転動体5間および内輪3-転動体5間)が直列接続された電気回路(等価回路)E2が形成される。
さらに、軸受装置10にn個の転動体5が設けられている場合、電気回路E2がn個並列に接続されることになる。よって、図3に示すように、n個全ての転動体5を含む軸受装置10は電気回路(等価回路)E3を形成することになる。本実施形態の軸受装置10の診断に際しては、軸受装置10に、コイルのインダクタンスL、抵抗Rを直列接続した状態で軸受装置10の外輪1と内輪3の間に、電源から交流電圧を印加するため、図3に示す全体の電気回路(等価回路)E4が形成される。ただし、コイルのインダクタンスL、抵抗Rの接続はあくまで一実施形態であり、電気回路(等価回路)E4の採用は必須ではない。
交流電圧の周波数は、1Hz以上であり、かつ、1GHz未満であることが望ましい。周波数が1Hz未満または1GHz以上であると、測定されるインピーダンスおよび位相角(後述)に接触域外の情報(ノイズ)が多く含まれるため、接触域内の情報が正確に得られなくなるおそれがある。また、交流電圧の電圧については、1μV以上であり、かつ、5V以下であることが望ましい。電圧が1μV未満であると、軸受装置10に電流が流れないためモニタリングできず(後述するLCRメーターの測定限界以下になるという意味)、また、5Vを超えると本発明の効果が十分に得られない可能性がある。
以下、具体的な方法について説明する。本実施形態における軸受装置10の診断方法は、図3にも示したように、軸受装置10に交流電圧を印加し、潤滑膜厚さhと接触割合αを求めることにより、軸受装置10の状態診断を行う。図3の電気回路E4を用いた場合、潤滑膜厚さhと接触割合αは、次式(1)、(2)により導かれる。
Figure 0007484410000001
各記号は以下の意味である。
ω:交流電圧の周波数
ε1:潤滑剤の誘電率
S:各接触領域を接触楕円に近似した場合の各接触楕円の面積の平均値
n:軸受装置10の転動体5の数(玉数)
Z:電気回路E4全体のインピーダンス
θ:位相角
R20:完全に油膜9がない状態における金属接触部7の抵抗
θ1:完全に油膜9がある状態(金属部分の接触領域がない状態)における位相角
L:軸受装置10に直列接続されているインダクタンスL
R:軸受装置10に直列接続されている抵抗R
上述した様に、潤滑膜厚さhは、軸受装置10の外輪1または内輪3と転動体5との全接触領域における油膜9の平均的な厚さである。接触割合αは、この全接触領域に対する金属接触部7の面積の割合である。
図4は、試験装置の一例の概略図である。軸受装置10を貫通する駆動軸の一端が回転コネクタ12を介して、一般的なLCRメーター20(交流電圧も兼ねる)に接続されるとともに、駆動軸の他端が駆動用のモーター14に接続されている。回転コネクタ12は、駆動軸の一端の回転輪に対してカーボンブラシを取り付けて構成したり、駆動軸にスリップリングを取り付けたりして構成することができるが、特に限定はされない。
軸受装置10の状態診断は、式(1)、(2)から求められる潤滑膜厚さhと接触割合αを用いて行う。図5は、図4の試験装置を用いた、軸受装置10の状態診断方法の工程を示すフローチャート図である。まず、モーター14を駆動して駆動軸を回転させた状態で、オペレータは、LCRメーター20に交流電圧の周波数ω、交流電圧の電圧Vを入力する(ステップS1)。入力を受けて、LCRメーター20がインピーダンスZ、位相角θを出力する(ステップS2)。この出力を受けて、図示せぬコンピュータ等が、(1)、(2)式より、潤滑膜厚さh、接触割合αを算出する(ステップS3)。ステップS2の出力、ステップS3の算出は、時系列的に、例えば所定の時間毎に(1秒間隔など)複数回行われる。更にコンピュータ、またはオペレータが、潤滑膜厚さh、接触割合αより、軸受装置10を診断する(ステップS4)。
外輪1、内輪3、転動体5の表面粗さに対して潤滑膜厚さhが十分な大きさを有し、金属接触部7が発生しない場合はh>0、α=0であり、軸受装置10として理想的な状態である。しかし、実際には潤滑剤、運転条件、運転時間など様々な要因によって、潤滑膜厚さh、接触割合αは刻々と変化する。潤滑膜厚さhと接触割合αの時間的な変化については、原理的には以下のようなケースが考えられる。
(1)潤滑膜厚さhが増加し、接触割合αが減少する。
(2)潤滑膜厚さhが減少し、接触割合αが増加する。
(3)潤滑膜厚さhが増加し、接触割合αも増加する。
(4)潤滑膜厚さhが減少し、接触割合αも減少する。
(1)の状態は、金属接触が生じることによって、内外輪の表面粗さが小さくなる(いわゆるマイルドななじみ)過程を示していると考えられる。
(2)の状態は、転動体5と外輪1および/または内輪3が接触していく過程を示していると考えられる。
(3)の状態は、摩耗によって生じた導通する摩耗粉が二面間(外輪1と転動体5との間、または内輪3と転動体5との間)に侵入することで、二面の隙間が大きくなり、その結果、潤滑膜厚さ(正確には二面間の隙間)hが増加し、接触割合αも増加する現象を示すと考えられる。つまり、(3)の状態は、摩耗によって導通する摩耗粉が接触領域に侵入する過程を示していると考えられる。
(4)の状態は、摩耗によって生じた導通する摩耗粉が二面間から排除されることで潤滑膜厚さ(正確には二面間の隙間)hが減少し、接触割合も減少したと考えられる。つまり、(4)の状態は、摩耗によって導通する摩耗粉が接触領域から排除される過程を示していると考えられる。
このように、本発明の実施形態でも、外方部材である外輪1と、転動体5と、内方部材である内輪3とから電気回路が構成され、この電気回路に交流電圧を印加することを前提としている。そして、LCRメーター20が、交流電圧の印加時の電気回路のインピーダンスZおよび位相角θを測定して出力する。この測定したインピーダンスZおよび位相角θに基づき、例えばコンピュータ等の演算装置を用いて、外輪1と転動体5の間または内輪3と転動体5の間の少なくとも一つにおける潤滑膜厚さhおよび接触割合αを算出する。このような値の算出により、簡易にかつ正確に転動装置である軸受装置10の状態、特に潤滑状態を診断することが可能となる。
特に本発明の実施形態でも、インピーダンスZおよび位相角θを時系列的に複数回測定するとともに、潤滑膜厚さhおよび接触割合を時系列的に複数回算出する。この結果、上記(1)~(4)に挙げたように、潤滑膜厚さhおよび接触割合αの時間的な変化を把握することができ、この時間的な変化から転動装置の潤滑状態に関する診断を行うことが可能となる。
(転動装置の構成要素の接触状態を把握する方法)
次に、転動装置の診断方法として、上述の膜厚および接触割合の算出方法を用いた転動装置の構成要素の接触状態を把握する方法について説明する。
本実施形態における転動装置の構成要素の接触状態を把握する方法では、上述の膜厚および接触割合の算出方法において、複数の電圧の交流電圧を印加することで転動装置の構成要素の接触状態を把握する。すなわち、図4に示す装置において、外輪1と、転動体5と、内輪3とから構成される電気回路に第一の電圧の交流電圧を印加し、第一の交流電圧の印加時の上記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する。また、第一の交流電圧と異なる電圧の交流電圧を印加し、第二の交流電圧の印加時の上記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する。そして、これらの値に基づき、上述のように、外輪1と転動体5の間または内輪3と転動体5の間の少なくとも一つにおける接触割合を算出して、それぞれの表面同士の接触状態を診断する方法である。
なお、本実施形態の転動装置の診断方法の対象は、転がり軸受に限定されず、回転(転動)を伴う複数の動力伝達要素及びそれらに介在する潤滑剤を有する構成を有するもの(例えば歯車など)にも適用することが可能である。
<印加電圧>
ここで、上記の第一、第二の交流電圧の印加時の印加電圧は、潤滑剤が絶縁破壊を起こさない電圧、かつ軸受の軌道面に損傷を与えない程度の電圧を上限とし、好ましくは5V以下である。
<潤滑剤>
潤滑剤については、その種類に限定はなく、転動装置の使用条件に適した潤滑剤を用いればよい。具体的には、各種の液状や半固体状の潤滑剤、例えば潤滑油やグリース組成物が使用される。また、これらの潤滑剤は単一成分で構成されるものもあるが、一般的には、混合物である。例えば潤滑油であれば、基油(ベースオイル)と各種添加剤の混合物であることが通常である。そして、これらの混合割合やその種類の違いにより上記接触状態に影響が及ぶことになる。
ここで、上述のように、異なる電圧で測定することにより、上記潤滑剤に起因する接触状態の変化による影響を踏まえた診断が可能となる。
特に、金属表面に吸着してその効果を発揮するといわれている油性剤に起因する接触状態の変化やその効果のモニタリングを好適に行うことができる。
[油性剤]
上記油性剤は、極性基を有して軸受表面に吸着することにより摩擦調整(抑制)効果を発揮する添加剤を指す。一般的に使用される好適な油性剤としては、例えば以下の化合物を使用することができる。オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、オレイルアルコール等の脂肪酸アルコール、ポリオキシエチレンステアリン酸エステルやポリグリセリルオレイン酸エステル等の脂肪酸エステル、リン酸、トリクレジルホスフェート、ラウリル酸エステルまたはポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸等のリン酸エステル等を使用することができる。
また、潤滑剤全量に対する油性剤の添加量は、油性剤としての効果が飽和するような添加量を超えて油性剤を加えることは好ましくない。すなわち、油性剤分子が金属表面に吸着あるいは配向するために必要な量を超えて添加しても油性剤の効果は飽和することになる。より具体的には、潤滑剤全量に対して概ね1%以下の添加量であり、本発明の診断も適切に行える。
また、外輪1および内輪3と、転動体5との間に油性剤が添加された潤滑剤を有することによって、外輪1および内輪3と、転動体5との表面同士の接触状態が、潤滑剤に添加された油性剤が上記表面に吸着した境界膜同士の接触となる状態であってもよい。以下、本明細書では、境界膜同士の接触も金属接触として扱っている。
この境界膜は、極性基を有する油性剤の分子が、上記表面を覆うように配向して導電性の吸着膜として形成されるので、いわゆる金属接触とは異なる接触状態を呈する。これによって、極性基を有する油性剤が添加された潤滑剤による接触状態の影響、すなわち、潤滑剤の変化による影響も含めた診断やモニタリングが必要となってくる。
また、上記電気回路のインピーダンスおよび位相角を時系列的に測定するとともに、上記潤滑膜厚さおよび上記接触割合を時系列的に算出し、上記接触割合の時間的な変化に基づき、転動装置の潤滑状態に関する診断を行ってもよい。
また、上記接触割合は金属接触割合としてもよい。
以下に補足説明を記す。
油性添加剤がトライボロジー性能に及ぼす影響については、既に様々な研究が報告されている。図6は、固体の摩擦と潤滑について示す図である。ここで、実際の接触面積には境界フィルム(境界膜)の接触面積が含まれている。実際の軸受のEHD(elastohydrodynamic:弾性流体)接触における境界膜の破断プロセスは、明らかにされていなかった。
EHD接触における境界膜の破断プロセスを明確にするには、潤滑状態の監視技術が必要である。図7は、油膜厚さと破断率について示す図である。破断率αは、実接触面積を見かけの接触面積で除算した値で表される。なお、軸受用途では、潤滑状態を高精度で監視することは困難である。例えば、油膜の厚さを正確に測定できる光学的方法は、スチール/スチールの接触には適用できない。一方、電気的方法は、スチール/スチール接触の状態監視に適用されている。
電気的方法については、幾つかの文献に示されている。図8は、幾つかの電気的方法について説明した図である。EHD接触の油膜厚さhと破断率αを正確に測定するために、電気インピーダンス法を改善する必要がある。
図9は、固体の摩擦と潤滑について示す図である。実際の軸受のEHD接触における境界膜の破断プロセスは、電気インピーダンス法を適用することにより調査される。
次に、電気インピーダンス法の測定原理について説明する。
図10は、電気インピーダンス法についての説明図である。ここでは、実験装置の模式図と、AC電圧(交流電圧)と電流の時間変化を示す。インピーダンスZに基づいて、油膜厚さh、及び破断率αを算出する。
図11は、接触領域の拡大図とその構造をモデル化した図である。幾何学的モデルにおいて、見かけの(ヘルツ)接触面積をSとし、破断率をαとし、実際の接触面積をαSとし、油膜厚さをhとし、平均油膜厚さ(1-α)hを求めている。
図12は、幾何学的モデルと電気モデルを示す図である。幾何学的モデルにおいて、ヘルツ接触面積をSとし、破断率をαとし、実際の接触面積をαSとし、ヘルツ接触半径をcとし、ボール半径をrbとし、油膜厚さをhとする。ここでは、ボールの半径rbの位置まで、ボールの試験片は完全にオイル(潤滑油)で満たされている。電気モデルにおいて、絶縁破壊領域の抵抗をRとし、EHD接触内の油膜形成領域の静電容量をCとし、EHD接触周辺の静電容量をCとする。
図13は、電気インピーダンス法を示す図である。ここでは、ボール半径をrbし、ヘルツ接触半径をcとし、電圧の角周波数をωとし、オイルの誘電率をεとし、ランベルトW関数をWとし、固定接点のインピーダンスを|Z|とし、静止接触のフェーズをθとし、動的接触のインピーダンスを|Z|とし、動的接触のフェーズをθとする。平均油膜厚さha、及び破断率αは、図中の数式によって記述される。この測定原理を検証するために、油膜厚さの測定は、ボールオンディスクタイプの装置で、電気的方法と光学的干渉法を併用して行った。
図14は、実験装置の仕様と模式図である。ここでは、電気的方法による平均油膜厚さhaの精度は、光学的方法による油膜厚さhcと比較して決定されている。また電気的方法によって破断率αも測定し、摩擦係数μと比較している。
図15は、速度Uの影響を示す図である。電気的方法は、光学的方法に匹敵する高精度でhを測定できる。また、摩擦係数μも低速域で増加するため、破断率αは定性的に評価される。この方法は、実際のベアリング(転がり軸受)の混合潤滑下で潤滑状態を監視することができる。
図16は、幾何学的モデルと電気モデルを示す図である。幾何学的モデルにおいて、x軸における有効半径をRxとし、y軸における有効半径をRyとし、油膜厚さをhとし、ボール半径をrとする。なお、全ての転動体は完全にオイルで満たされている。電気モデルにおいて、内輪側と外輪側に接触面があり、これらは直列回路となる。また、各転動体に相当するボールは、並列回路となる。これにより、ボールベアリングの全接触面積の平均値(平均油膜厚さha及び破断率α)を評価できる。
図17は、ボールベアリングの電気インピーダンス法を示す図である。ここでは、ボール半径をrとし、接触楕円の長軸をaとし、接触楕円の短軸をbとし、x軸における有効半径をRxとし、y軸における有効半径をRyとする。また、ベアリングの数をkとし、転動体あたりの接触面積の数をlとし、ベアリング内のボール数をnとし、電圧の角周波数をωとし、オイルの誘電率をεとし、ランベルトW関数をWとする。また、固定接点のインピーダンスを|Z|とし、静止接触のフェーズをθとし、動的接触のインピーダンスを|Z|とし、動的接触のフェーズをθとし、定数をζとする。平均油膜厚さha、及び破断率αは、図中の数式によって記述される。目的は、実用的なベアリングのEHD接触における境界膜の破壊プロセスを明らかにすることである。
図18は、実験装置の仕様と模式図である。ここでは、ベアリングを2つ使用して、平均油膜厚さha、破断率α、外輪温度T、軸受トルクMの各平均値を測定(テスト、test)した。
以下、具体的な実施例について説明する。
潤滑剤としてのポリアルファオレフィン(PAO、17mm/s、40℃)および、上記PAOに油性剤として、潤滑剤全量に対して0.1質量%のステアリン酸を添加した組成からなる潤滑剤を封入した、内径8mm、外径22mm、高さ7mmの単列深溝玉軸受(名番:608)を用いて、潤滑膜厚さhおよび接触割合αの測定を行った。試験条件は、印加電圧を0.2V、アキシアル荷重を30N、回転数を図19に示すように、50rpm~6000rpmまで40分おきに速度を上げて600分(10時間)行い、温度は常温、潤滑剤の封入量は0.04gであり、図18に示す試験装置を用いて測定した。ここでは、電気的方法による平均油膜厚さhaの精度は、Hamrock-Dowsonの膜厚計算式による油膜厚さhcと比較して決定されている。また電気的方法によって破断率αも測定し、軸受トルクMと比較している。
このようにして得られた膜厚h、軸受温度T、接触割合(破断率)α、トルクMの回転数に対するグラフを図21に示す。図21の各グラフの横軸は軸受の回転数である。以下、各図において、横軸の対象の記載がないグラフは、同図中の他のグラフの横軸と同じである。図21のグラフ中の各プロットは各回転速度で40分後の測定値を示している。
図21に示すように、添加剤を含まないPAOの場合、膜厚hは、外輪温度Tが一定であるときの低速領域での理論膜厚と同じであるが、高回転域では理論膜厚より薄くなった。また、低速域では軸受トルクMも増加するため、破断率αは定性的に評価されることが分かる。これは、高回転になるにつれて軸受温度Tが上がることで潤滑剤の粘度が低くなって膜厚が薄くなったためと考えられる。
一方、接触割合αは、低回転域になるにつれて高くなっており、このタイミングがトルクMの変化とリンクしている。つまり、この結果としての接触割合αは、金属接触していることを示していると考えられる。
ここで、Hamrock-Dowsonの式を用いて、軸受温度Tが膜厚hに与える影響を確認したところ、軸受の高速域では、軸受温度Tの影響を考慮しても、膜厚hは理論膜厚よりまだ低い。これは、枯渇潤滑が発生し、高速域でトルクMが減少したと考えられる。
また、図20に示すように、高速域(N=6000rpm)における測定値の経時変化を確認したところ、膜厚hはときどき厚くなり、同時にトルクMも大きくなった。これは、高速域においてせん断発熱だけでなく枯渇も発生していることが分かった。
また、同様にHamrock-Dowsonの式を用いて、軸受温度Tが膜厚hに与える影響を確認したところ、図21に示すように、高速域では、軸受温度Tの影響を考慮しても膜厚hは理論膜厚を下回った。これにより、高速域での膜厚hが、軸受温度T(すなわち、せん断発熱)だけでなく、潤滑不足によっても減少しており、その結果高速域でもトルクMが小さくなることが分かった。
次に、転がり軸受の潤滑条件に及ぼすステアリン酸の影響を調べた。具体的には、上述のステアリン酸を添加した潤滑剤を用いて測定した潤滑膜厚さhおよび接触割合αと、ステアリン酸を添加しない潤滑剤を用いて測定した潤滑膜厚さhおよび接触割合αとの比較を行った。
図22に示すように、ステアリン酸を添加した潤滑剤(PAO)の場合、膜厚hは、ステアリン酸を添加しない場合の膜厚hの測定値とほぼ同じであった。
一方、接触割合αについては、低回転域において、ステアリン酸を添加したほうが小さくなっており、それに対応するようにトルクMも小さくなった。これは、油性剤を潤滑剤に添加することによって、金属接触を防いで、トルクが小さくなっていると考えられる。
ここで、上記測定(試験)の試験前、油性剤無添加(PAO)、油性剤添加(PAO+ステアリン酸)について、内輪の表面の状態を比較してみたところ、図23に示すように、「試験前」と「油性剤添加」においては、摩耗痕が確認できなかった。これは、表面粗さを測定したグラフからも同様に確認できた。すなわち、この結果は図22のグラフに示された結果を裏付けるものである。これらの観察から、ステアリン酸が破断率α、及びトルクMを減少させることが分かる。
次に、油性剤を潤滑剤に添加するか否かで得られた測定結果について、Λ値と接触割合αとの関係を考察した。Λ値は「油膜パラメータ」とも称されるもので、図24に示すように、測定した膜厚を表面粗さで割ったものであり、表面粗さに対して十分に油膜があるかを示したものである。
ここで、Λ値が3以上においては、潤滑剤に油性剤が添加/無添加にかかわらず、流体潤滑(接触割合αがほぼ0)であると示されたが、Λ値が3未満では、接触割合αが高くなっており、しかも油性剤が添加された場合のほうが接触割合αが低く示された。
次に、図18に示す装置における印加電圧を0.2Vから1.5Vにして、油性剤が潤滑剤に添加されていない場合で得られた測定結果について、膜厚h、軸受温度T、接触割合α、トルクMの回転数に対する値を測定した。
図25に示すように、油性剤が添加されていない潤滑剤を用いた場合、膜厚h、軸受温度T、トルクMは、印加電圧を0.2Vから1.5Vに高くした結果、その影響を受けなかったが、接触割合αだけが上昇した。このことから、インピーダンス法が、上述したように膜厚hと接触割合αとを同時に算出するのにもかかわらず、電圧の変化は、接触割合αにのみ影響していることが分かった。
図25のような結果について、図26の模式図を用いて考察した。
図26に示すように、表面の一部が接触している状態(mixed lubrication)においては、印加電圧を上げると、接触割合が大きくなる。これは、例えば内輪と転動体とが接触している領域の周辺部の潤滑剤の膜厚が薄いので、高電圧にすることで、絶縁破壊を起こしてあたかも接触しているという測定結果が示されているのだと考えられる。印加電圧0.2Vと1.5Vとの間に絶縁破壊するところがあると考えられる。
一方、流体潤滑状態(hydrodynamic lubrication)では、例えば、内輪と転動体との間に介在する潤滑剤の膜厚が十分に厚いので、印加電圧を上げても接触割合αは0なのだと考えられる。
次に、図18に示す装置における印加電圧を1.5Vとし、油性剤が添加された潤滑剤を用いて、膜厚h、軸受温度T、接触割合α、トルクMの回転数に対する値を測定した。
その結果、図27に示すように、膜厚h、軸受温度T、トルクMは、印加電圧を0.2Vから1.5Vに高くした結果、その影響を受けなかったが、油性剤を添加しない潤滑剤を用いた場合と同様、接触割合αだけが上昇した。
しかも、油性剤を添加しない潤滑剤を用いた場合と比べて、低速領域で接触割合αが高くなっているだけでなく、高速領域で接触割合αがほぼ0ではない点が異なっていた。なお、この時図23と同様、軸受(内輪)表面の状態を確認してみると、摩耗していないことも確認された。
そこで、図18に示す装置における印加電圧を1.5Vとし、潤滑剤に油性剤が添加されるか否かのそれぞれの場合について測定された、膜厚h、軸受温度T、接触割合α、トルクMの回転数に対する値を比較した。
図28に示すように、印加電圧を0.2Vに対して1.5Vと高くし、油性剤が添加された潤滑剤を用いた場合は、高回転域で接触割合αが0ではないだけでなく、全回転域において油性剤が添加されていない潤滑剤を用いた場合に比べて大きくなっていた。しかも、軸受(内輪)表面の状態を確認してみると、図23と同様、摩耗痕は確認できなかった。
次に、図18に示す装置における印加電圧を1.5Vとし、潤滑剤に油性剤が添加されるか否かのそれぞれの場合について測定されたΛ値を比較した。
図29に示すように、印加電圧を1.5Vとし、潤滑剤に油性剤が添加された場合では、流体潤滑(Λ>3)を示すはずの領域で接触している(接触割合αが0よりも大きい)と示された。
図29のような結果について、図30の模式図を用いて考察した。
図30に示すように、表面の一部が接触している状態(mixed lubrication)においては、電圧が高くなると(0.2Vから1.5V)、油性剤が添加されているほうが、無添加の場合より大きく接触範囲が評価されることが分かった。これはおそらく、油性剤が、潤滑剤の表面に分子が配向して潤滑剤の表面を覆うように境界膜(吸着膜)を形成し、これによって電気が通りやすい導電層を形成しているのではないかと考えられる。そのために導電の範囲が広い結果に出たのではないかと考えられる。
一方、流体潤滑状態(hydrodynamic lubrication、図30下図)では、十分に膜厚があるのにも関わらず、境界膜が導電層を形成しているために、接触割合α=0にならないのではないかと考えられる。
図31は、上述したインピーダンス法による膜厚h(ha)および接触割合αの算出式であるが、上記の結果を踏まえて、本発明は、実用的な軸受のEHD接触における境界膜の破断過程のモニタリングに利用できると考えられる。
また、電圧の変化について明確な記載はされていないものの、境界膜が配向し、その箇所も荷重を支えていることの示唆が図32に示す文献「Bowden, F. P. and Tabor, D., The Friction and Lubrication of Solids, Oxford (1950) 223.」に記載されている。
以上のことから、図33に示すように、油性剤が添加された潤滑剤を封入した転がり軸受について、印加電圧を所定の値(例えば1.5V)としたとき、境界膜の影響を含めた接触割合αを測ることができることが分かる。上記油性剤は、極性基を有する添加剤(油性剤)であり、潤滑剤の全量に対して所定割合(例えば1質量%)以下含まれることが好ましい。
つまり、印加電圧が低いとき(例えば0.2V)では、油性剤を添加すると接触割合αが小さくなるので、金属接触割合をモニタリングすることになる。一方、印加電圧が高いとき(例えば1.5V)では、油性剤を添加すると接触割合αが小さくなるだけでなく、本来、接触してない(接触割合α=0)領域にもかかわらず、接触していると示されてしまう。
すなわち、本発明は、添加された油性剤が、表面に配向して十分にその機能を発揮しているかをモニタリングすることに利用できるものであると考えられる。例えば、金属接触をモニタリングしたい場合は、低い印加電圧(例えば0.2V:第一の電圧に相当)で膜厚hおよび接触割合αを測り、油性剤の機能をモニタリングしたい場合は、高い印加電圧(例えば1.5V:第二の電圧に相当)で膜厚hおよび接触割合αを測ればよい。さらには、高い印加電圧(例えば1.5V)で膜厚hおよび接触割合αを測ることにより、添加剤が接触している割合や、油性剤の配向度合いをモニタリングすることができ、潤滑剤に含まれる添加剤の劣化度の評定などに利用できる期待も存在する。上記第一、第二の電圧の差、ひいては、更に多くの電圧を用いる場合の電圧の差については、所望の測定ができる範囲であれば限定はない。
ここで、下記に示す文献に記載のように、脂肪酸の単層あるいは多層(ラングミュア-ブロジェットフィルム)は導電性を持つことが知られています。
単層: Fowler-Nordheim tunneling
B. Mann and H. Kuhn, “Tunneling through Fatty Acid Salt Monolayers,” Journal of Applied Physics, 42, (1971) 4398.
多層: Poole-Frenkel effect
M. Sugi , T. Fukui , S. Iizima and K. Iriyama, “Effect of Chromophore Aggregation in the Langmuir Multilayer Photoconductors,” Molecular Crystals and Liquid Crystals, 62, 3-4 (1980) 165-172.
また、図34に示すように、上述の測定結果に基づいて、印加電圧と接触割合αとの相関関係を示すと、潤滑剤に油性剤を添加するか否かで表面同士の接触状態のモニタリングに好適な印加電圧の範囲の傾向が示唆されることが分かる。
また、本発明は、効果を発揮する添加剤の最小量の決定に適用できる期待も存在する。例えば、上述のインピーダンス法を使って電圧を上げて膜厚hおよび接触割合αを測定することで、従来より濃度が低くても、吸着膜が内外輪や転動体の表面に形成されている、というモニタリングに用いることができると考えられる。
また、本発明は、軸受の構成要素の表面粗さの形状を評価するのに適用できる期待も存在する。
上述したように、潤滑剤に油性剤を添加しない場合でも、印加電圧を上げると接触したような結果が示されたが、これは、接触域周辺部の潤滑剤の薄い領域が絶縁破壊した結果ではないかと考えられる。よって、これを利用して軸受の構成要素の表面粗さの形状の評価やモニタリングするのに利用できると考えられる。特に、その表面粗さの形状の評価やモニタリングによっては、上述した接触割合αが変化しやすい表面形状(アスペクト比など)の評定に適用できると考えられる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態の種々の変形例とともに本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲は、本発明の範囲及び要旨に含まれるこれらの変形例又は実施形態も網羅すると解すべきである。
1 外輪(外方部材)
3 内輪(内方部材)
5 転動体
7 金属接触部
9 油膜(潤滑膜)
10 軸受装置(転動装置)
12 回転コネクタ
14 モーター
20 LCRメーター

Claims (4)

  1. 外方部材と、内方部材と、転動体と、潤滑剤とを備える転動装置の診断方法であって、
    前記外方部材と、前記転動体と、前記内方部材と、前記潤滑剤とから構成される電気回路に交流電圧を印加し、
    前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定し、
    前記測定した前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記外方部材と前記転動体の間または前記内方部材と前記転動体の間の少なくとも一つにおける潤滑剤膜厚さを算出し、測定した前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記外方部材と前記転動体の間または前記内方部材と前記転動体の間の少なくとも一つにおける金属接触割合を算出する、転動装置の診断方法であって、
    前記電気回路の前記インピーダンスおよび前記位相角の測定を、2以上の異なる前記交流電圧を印加することで行うことを特徴とする、転動装置の診断方法。
  2. 請求項1に記載の転動装置の診断方法であって、
    前記インピーダンスおよび前記位相角を時系列的に測定するとともに、前記潤滑膜厚さおよび前記金属接触割合を時系列的に算出し、
    前記金属接触割合もしくは前記潤滑膜厚さの時間的な変化に基づき、転動装置の潤滑状態に関する診断を行う、転動装置の診断方法。
  3. 請求項1又は2に記載の転動装置の診断方法であって、前記交流電圧の周波数は1Hz以上であり、かつ1GHz未満である、転動装置の診断方法。
  4. 請求項1~3の何れか一項に記載の転動装置の診断方法であって、前記潤滑剤が添加剤を含有する潤滑油である、転動装置の診断方法。
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