JP7469643B2 - 鋼線、非調質機械部品用線材、及び非調質機械部品 - Google Patents

鋼線、非調質機械部品用線材、及び非調質機械部品 Download PDF

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Description

本開示は、鋼線、非調質機械部品用線材、及び非調質機械部品に関する。
自動車や各種産業機械は、軽量化や小型化を目的に、通常、700MPa以上の引張強さを有する高強度機械部品が使用されている。
従来、この種の高強度機械部品は、機械構造用炭素鋼にMn、Cr、Mo、及びBなどの合金元素を添加した合金鋼からなる鋼材に対して熱間圧延、球状化焼鈍を順次施して軟質化し、次いで冷間鍛造や転造を施して所定形状とし、その後焼入れ・焼戻し処理を施して強度を付与することにより製造されている。
一方、球状化焼鈍や焼入れ・焼戻し処理を省略し、急速冷却や時効処理を行って強度を高めた線材に伸線加工を施し、所定の強度を付与する技術が知られている。この技術は機械部品等に利用され、この技術を用いて製造した機械部品等は非調質機械部品と呼ばれている。
非調質機械部品を製造するための鋼線として、例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.50~1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.005~0.060%、Ti:0.005~0.030%、B:0.0003~0.0050%、N:0.001~0.010%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる伸線加工された鋼線であって、面積率で金属組織90%以上がベイナイトであり、鋼線の表層において、縦断面で測定したベイナイトのブロック粒の平均アスペクト比Rが1.2~2.0であり、横断面で測定した表層のベイナイトの平均ブロック粒径が(15/R)μm以下であり、横断面で測定した表層のベイナイトの平均ブロック粒径と、中心部で測定したベイナイトの平均ブロック粒径の比である、(表層のベイナイトの平均ブロック粒径)/(中心部でのベイナイトの平均ブロック粒径)の値が1.0未満であり、かつ、ベイナイト中に分散したセメンタイトの平均粒径が0.1μm以下であることを特徴とする鋼線、が開示されている。
また、特許文献2には、化学組成が、質量%で、C:0.20~0.40%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.50~2.00%、Al:0.005~0.050%、P:0~0.030%、S:0~0.030%、N:0~0.0050%、Cr:0~1.00%、Ti:0~0.050%、Nb:0~0.05%、V:0~0.10%、B:0~0.0050%、O:0~0.0030%、並びに、残部:Fe及び不純物からなり、金属組織が、Cの質量%を[C%]とした場合に、面積率で(35×[C%]+50)%以上のベイナイトと、初析フェライト及びパーライトの少なくとも一方である残部と、からなり、鋼線の軸方向と平行であって中心軸を含む断面をL断面とし、鋼線の軸方向と垂直な断面をC断面とし、鋼線の直径をDとし、L断面における鋼線表面から深さ50μmの位置で測定したベイナイト粒の平均アスペクト比をARとし、C断面における鋼線表面から深さ50μmの位置で測定したベイナイト粒の平均粒径をGDとした場合に、ARが1.4以上であり、(AR)/(L断面における鋼線表面から深さ0.25Dの位置で測定したベイナイト粒の平均アスペクト比)が1.1以上であり、GDが(15/AR)μm以下であり、(GD)/(C断面における鋼線表面から深さ0.25Dの位置で測定したベイナイト粒の平均粒径)が1.0未満であり、引張強さが、900~1500MPaである非調質機械部品用鋼線、が開示されている。
また、特許文献3には、鋼線であって、化学成分として、質量%で、C:0.18%~0.65%、Si:0.05%~1.5%、Mn:0.50%~2.0%、Cr:0%~1.50%、Mo:0%~0.50%、Ti:0%~0.050%、Al:0%~0.050%、B:0%~0.0050%、Nb:0%~0.050%、V:0%~0.20%を含有し、P:0.030%以下、S:0.030%以下、N:0.0050%以下、O:0.01%以下に制限され、残部がFe及び不純物であり;
質量%での前記Cの含有量を[C%]とするとき、組織が、体積%で75×[C%]+25以上のベイナイトを含み、残部が、フェライト及びパーライトの1つ以上であり;
前記鋼線の長手方向に平行な断面において、前記鋼線の直径をDmmとし、前記鋼線の表面から前記断面の中心線に向かって深さ0.1×Dmmまでの領域を前記鋼線の第2表層部とし、前記鋼線の第2表層部におけるベイナイトブロックの平均アスペクト比をR1とするとき、前記R1が1.2以上であり;
前記鋼線の長手方向に垂直な断面において、前記鋼線の直径をDmmとし、前記鋼線の表面から前記断面の中心に向かって深さ0.1×Dmmまでの領域を前記鋼線の第3表層部、深さ0.25×Dmmから前記断面の中心までの領域を前記鋼線の第3中心部とし、前記鋼線の第3表層部における前記ベイナイトブロックの平均粒径をPS3μm、前記鋼線の第3中心部における前記ベイナイトブロックの平均粒径をPC3μmとするとき、前記PS3が下記式(c)を満たしてかつ、前記PS3と前記PC3とが下記式(d)を満たし;
S3≦20/R1・・・(c)
S3/PC3≦0.95・・・(d)
前記組織における前記ベイナイトブロックの粒径の標準偏差が8.0μm以下であり;
引張強さが800MPa~1600MPaであることを特徴とする非調質機械部品用鋼線、が開示されている。
国際公開第2018/008698号 国際公開第2017/122830号 国際公開第2016/121820号
以上のように非調質機械部品の製造に用いる鋼線は種々提案されているが、軟質化焼鈍や焼入れ焼戻し処理などの熱処理を省略して高強度な機械部品を製造することができ、より高強度で、冷間鍛造性に優れ、安価に製造することができる鋼線が望ましい。
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、引張強さが1100MPa~1600MPaであり、冷間鍛造性に優れ、安価に製造することができる鋼線、並びに、軸の引張強さが1100MPa~1600MPaである非調質機械部品及びその素材として使用することができる非調質機械部品用線材を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 化学成分が、質量%で、
C:0.65%超~0.80%、
Si:0.02%~1.00%、
Mn:0.50%~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.005%~0.060%、
Ti:0.005%~0.050%、
B:0.0003%~0.0040%、
N:0.0010%~0.0150%、
O:0.010%以下、並びに、
残部:Fe及び不純物であり、
鋼線の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上であり、
引張強さが1100MPa~1600MPaであり、
前記引張強さをTS(単位:MPa)とするとき、前記鋼線を長手方向に圧縮した場合に表面に割れが発生するまでの限界圧縮率が-0.036×TS+122.0%以上である鋼線。
<2> 前記Feの一部に代えて、質量%で、
Cr:1.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.20%以下、
Cu:0.40%以下、
Ni:0.70%以下、
Ca:0.005%以下、
Mg:0.005%以下、及び
Zr:0.050%以下
からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する<1>に記載の鋼線。
<3> 前記鋼線の長手方向に垂直な断面において、前記鋼線の直径をDとし、前記鋼線の表面から中心に向かって深さ0.1Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPS2とし、深さ0.25Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPC2とするとき、前記PS2と前記PC2とが下記式(b)を満たす<1>又は<2>に記載の鋼線。
S2/PC2≦0.95 ・・・(b)
<4> 前記金属組織の残部として、フェライト及びパーライトの少なくとも一方を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の鋼線。
<5> 非調質機械部品用である<1>~<4>のいずれか1つに記載の鋼線。
<6> 化学成分が、質量%で、
C:0.65%超~0.80%、
Si:0.02%~1.00%、
Mn:0.50%~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.005%~0.060%、
Ti:0.005%~0.050%、
B:0.0003%~0.0040%、
N:0.0010%~0.0150%、
O:0.010%以下、並びに、
残部:Fe及び不純物であり、
線材の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上である非調質機械部品用線材。
<7> 前記Feの一部に代えて、質量%で、
Cr:1.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.20%以下、
Cu:0.40%以下、
Ni:0.70%以下、
Ca:0.005%以下、
Mg:0.005%以下、及び
Zr:0.050%以下
からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する<6>に記載の非調質機械部品用線材。
<8> 前記線材の長手方向に垂直な断面において、前記線材の直径をDとし、前記線材の表面から中心に向かって深さ0.1Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPS1とし、深さ0.25Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPC1とするとき、前記PS1と前記PC1とが下記式(c)を満たす<6>又は<7>に記載の非調質機械部品用線材。
S1/PC1≦0.95 ・・・(c)
<9> 前記金属組織の残部として、フェライト及びパーライトの少なくとも一方を含む<6>~<8>のいずれか1つに記載の非調質機械部品用線材。
<10> 円柱状の軸を含み、
化学成分が、質量%で、
C:0.65%超~0.80%、
Si:0.02%~1.00%、
Mn:0.50%~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.005%~0.060%、
Ti:0.005%~0.050%、
B:0.0003%~0.0040%、
N:0.0010%~0.0150%、
O:0.010%以下、並びに
残部:Fe及び不純物であり、
前記軸の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上であり、
前記軸の引張強さが1100MPa~1600MPaである非調質機械部品。
<11> 前記軸の長手方向に垂直な断面において、前記軸の直径をDとし、前記軸の表面から中心に向かって深さ0.1Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPS3とし、深さ0.25Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPC3とするとき、前記PS3と前記PC3とが下記式(e)を満たす<10>に記載の非調質機械部品。
S3/PC3≦0.95 ・・・(e)
<12> 前記Feの一部に代えて、質量%で、
Cr:1.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.20%以下、
Cu:0.40%以下、
Ni:0.70%以下、
Ca:0.005%以下、
Mg:0.005%以下、及び
Zr:0.050%以下
からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する<10>又は<11>に記載の非調質機械部品。
<13> 前記金属組織の残部として、フェライト及びパーライトの少なくとも一方を含む<10>~<12>のいずれか1つに記載の非調質機械部品。
<14> ボルトである<10>~<13>のいずれか1つに記載の非調質機械部品。
本開示によれば、引張強さが1100MPa~1600MPaであり、冷間鍛造性に優れ、安価に製造することができる鋼線、並びに軸の引張強さが1100MPa~1600MPaである非調質機械部品及びその素材として使用することができる非調質機械部品用線材が提供される。
本開示に係る鋼線の長手方向に垂直な断面において、鋼線の直径をDとしたとき、鋼線の表面から断面の中心に向かって深さ0.1Dの位置、深さ0.25Dの位置、及び深さ0.5Dの位置を示す図である。
本開示の一例である実施形態について説明する。
なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、化学成分の元素の含有量は、元素量(例えば、C量、Si量等)と表記する場合がある。
また、化学成分の元素の含有量について、「%」は「質量%」を意味する。
また、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また、「XD」との表記(Xは数値)は、例えば鋼線の直径をDとしたとき、鋼線の表面から中心軸に向かって(径方向に向かって)、直径DのX倍の深さの位置を示す。例えば、「0.25D」は、直径Dの0.25倍(すなわち、直径Dの1/4)の深さの位置を示す。
また、本開示で対象とする非調質機械部品とは、軟質化焼鈍や焼入れ焼戻し処理などの熱処理を省略して、伸線や鍛造などの加工硬化により引張強さを付与した機械部品である。
本開示において、非調質機械部品を単に機械部品、非調質機械部品用線材を単に線材と称する場合がある。
本発明者は、線材を素材として鋼線を製造し、その鋼線から機械部品を製造する過程において、軟質化熱処理を省略しても冷間鍛造が可能であり、かつ、機械部品として成形後に焼入れ焼戻しなどの調質処理を行わなくても、引張強さが1100MPa以上になる高強度機械部品を製造することができる鋼線の化学成分及び組織並びにその製造方法を詳細に検討した。
例えば、特許文献1~3では、C含有量を0.30%以下、0.40%以下、あるいは0.65%以下に抑えることで冷間鍛造性と高強度化を図っている。すなわち、変形能が高い低炭素鋼鋼線を用いて、伸線加工のひずみを高くすることで強度を高くしている。しかしながら、伸線加工のひずみを高くすると、長手方向に繊維状の組織が発達し、周方向変形に対して、加工割れが発生しやすくなる。C含有量をさらに高くすることで、より高強度の鋼線を製造することができる。しかし、通常、C含有量を高くするほど、加工性が劣り、変形抵抗が高く、かつ、加工割れが発生し易い。
そこで、本発明者は、C含有量を高くして高強度化を図る一方、特に製造方法を工夫することで冷間鍛造性も向上させる手法について検討を重ねた。その結果、C(炭素)を0.65%を超えて含有させても特定の化学成分及び製造条件によってベイナイトの面積率が95%以上となる線材を製造し、この線材を伸線加工して鋼線にする際に減面率を比較的低く抑えることで、長手方向の繊維状組織の発達を抑制し、周方向の変形に対しても、加工割れの発生を抑制することができた。その結果、1100~1600MPaの引張強さを有するともに、冷間鍛造性に優れた鋼線が得られること、さらに、この鋼線を用いて機械部品に成形した後、焼入れ焼戻しなどの調質処理を行わなくても、冷間鍛造によって1100MPa~1600MPaの引張強さを有する高強度機械部品を製造することができることを見出した。
本実施形態に係る鋼線を用いれば、鋼線の球状化熱処理(軟質化熱処理)の軟質化焼鈍費用と、機械部品を製造する際、鋼線を成形した後の焼入れ焼戻し処理にかかる費用を削減できるほか、線材から鋼線を製造する際、伸線加工における減面率を低く抑えることができるので伸線作業の軽減も図ることができ、コスト面等において有利である。
以下、本実施形態に係る鋼線、非調質機械部品用線材、非調質機械部品について詳細に説明する。
[鋼線]
本実施形態に係る鋼線は、化学成分が、質量%で、
C:0.65%超~0.80%、
Si:0.02%~1.00%、
Mn:0.50%~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.005%~0.060%、
Ti:0.005%~0.050%、
B:0.0003%~0.0040%、
N:0.0010%~0.0150%、
O:0.010%以下、並びに、
残部:Fe及び不純物であり、
鋼線の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上であり、
引張強さが1100MPa~1600MPaであり、
前記引張強さをTS(単位:MPa)とするとき、前記鋼線を長手方向に圧縮した場合に表面に割れが発生するまでの限界圧縮率が-0.036×TS+122.0%以上である。
<鋼線の化学成分>
まず、本実施形態に係る鋼線の化学成分の限定理由についてより詳細に説明する。
なお、伸線加工、冷間鍛造や成形などの加工では、化学成分は変化しない。そのため、本実施形態に係る鋼線の素材となる線材及び本実施形態に係る鋼線を機械加工して得られる機械部品は、同一の化学成分を有する。
C:0.65%超~0.80%
Cは、所定の鋼線及び機械部品の引張強さを確保するために含有させる。
C含有量が0.65%以下では、1100MPa以上の引張強さを確保することが困難である。したがって、C含有量は0.65%超とする。
一方、C含有量が、0.80%を超えると、鋼線の冷間鍛造性が低下する。したがって、C含有量の上限を0.80%とする。
高強度と冷間鍛造性とを両立する観点から、C含有量の下限は0.66%、0.68%又は0.70%であってもよく、C含有量の上限は0.78%、0.76%又は0.74%であってもよい。
Si:0.02%~1.00%
Siは、脱酸元素として機能するとともに、固溶強化により鋼線及び機械部品の引張強さを高める効果を有する。Si含有量が0.02%未満では、これらの効果が不十分である。したがって、Si含有量の下限を0.02%とする。
一方、Si含有量が1.0%を超えると、これらの効果が飽和するとともに、鋼線において冷間加工性が低下し、加工割れが発生しやすくなる。したがって、Si含有量の上限を1.0%とする。
高強度と冷間加工性とを両立する観点から、Si含有量の下限は0.05%、0.07%又は0.10%であってもよく、Si含有量の上限は0.90%、0.70%又は0.40%であってもよい。
Mn:0.50%~1.50%
Mnは、ベイナイト変態を促進し、鋼線及び機械部品の引張強さを高める効果を有する。Mn含有量が0.50%未満では、この効果が不十分である。したがって、Mn含有量の下限を0.50%とする。
一方、Mn含有量が1.50%を超えると、この効果が飽和するとともに製造コストが増加する。したがって、Mn含有量の上限を1.50%とする。
機械部品に十分な引張強さ付与することを考慮すると、Mn含有量は、0.60%以上が好ましく、1.20%以下が好ましい。
P:0.030%以下
S:0.030%以下
PとSは、不可避的に鋼に混入する不純物であり、結晶粒界に偏析して、機械部品の耐水素脆化特性を低下させる。耐水素脆化特性とは、線材又は鋼線に侵入した水素の影響により、本来予想される応力より小さい応力にて機械部品が破壊する現象(水素脆化現象)に対する耐久性である。耐水素脆化特性が低いと、ボルトなどの場合には、締結してから暫く時間が経った後に、突然ボルトに破壊(「遅れ破壊」と呼ばれる。)が生じるため、耐水素脆化特性に優れることが好ましい。
したがって、P含有量及びS含有量は少ないほうが良く、P含有量及びS含有量の上限を、いずれも0.030%とする。
冷間加工性を考慮すると、P含有量及びS含有量は、0.015%以下が好ましい。
なお、P含有量及びS含有量の下限は0%を含む。しかしながら、P及びSは、不可避的に少なくとも0.0005%程度は鋼に混入するため、P含有量及びS含有量の下限は、いずれも0.0005%であってもよい。
Al:0.005%~0.060%
Alは、脱酸元素として機能するほか、AlNを形成して固溶Nを低減し、動的歪み時効を抑制する。AlNは、ピン止め粒子として機能して結晶粒を細粒化し、冷間加工性を向上させる。したがって、Al含有量の下限を0.005%とする。
しかしながら、Al含有量が0.060%を超えると、熱間延性が劣化し鋳造時に割れが発生しやすくなる場合がある。そのため、Al含有量の上限は0.060%とする。
冷間加工性の向上及び割れの抑制の観点から、Al含有量の下限は0.010%、0.015%又は0.020%であってもよく、Al含有量の上限は0.050%、0.045%、又は0.040%であってもよい。
Ti:0.005%~0.050%
Tiは、脱酸元素として機能するほか、TiNを形成して固溶Nを低減し、動的歪み時効を抑制する。TiNは、ピン止め粒子として機能して結晶粒を細粒化し、冷間加工性を向上させる。したがって、これらの効果を確実に得るため、Ti含有量の下限を0.005%とする。
しかしながら、Ti含有量が0.050%を超えると、粗大なTiNが形成されて、機械部品として使用時の疲労破壊の原因となる場合がある。そのため、Ti含有量の上限は0.050%が好ましい。
冷間加工性の向上及び疲労破壊の抑制の観点から、Ti含有量の下限は、0.010%、0.015%又は0.020%であってもよく、Ti含有量の上限は0.040%、0.030%又は0.025%であってもよい。
B:0.0003%~0.0040%
Bは、ベイナイト変態を促進し、鋼線及び機械部品の引張強さを高める効果を有する。
B含有量が0.0003%未満では、この効果が不十分となる場合がある。したがって、この効果を確実に得るために、B含有量の下限を0.0003%とする。
一方、B含有量が0.0040%を超えると、この効果が飽和する。したがって、B含有量の上限を0.0040%以下とする。
Bの効果をより十分に得るためには、B含有量は、0.0008%以上がより好ましく、0.0025%以下が好ましい。
N:0.0010%~0.0150%
Nは、AlN及びTiNを形成し、ピン止め粒子として機能して結晶粒を細粒化し、冷間加工性を向上させる効果を有する。N含有量が0.0010%未満では、この効果が不十分となる場合がある。したがって、この効果を確実に得るためには、N含有量の下限を0.0010%とする。上記効果を得るため、N含有量の下限は0.0015%、又は0.0020%でもよい。
一方、Nは、動的歪み時効により、鋼線の冷間加工性を低下させる。したがって、N含有量の上限を0.015%とする。冷間加工性を考慮すると、N含有量は好ましくは0.0040%以下である。
O:0.010%以下
Oは、鋼中に不可避的に混入され、Al、Tiなどの酸化物の形態で存在する。
O含有量が多いと、粗大な酸化物が生成して、機械部品として使用時の疲労破壊の原因となる。したがって、O含有量の上限を0.010%とする。
なお、O含有量の下限は、0%を含む。しかしながら、Oは、不可避的に、少なくとも0.0005%程度は鋼に混入するため、O含有量の下限は0.0005%であってもよい。
残部:Fe及び不純物
以上が、本実施形態に係る鋼線、非調質機械部品用線材、及び、非調質機械部品の基本的な化学成分であり、残部は、Fe及び不純物である。なお、「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから意図せずに混入するものを指す。
本実施形態に係る鋼線、非調質機械部品用線材、及び、非調質機械部品では、上記基本成分に加え、残部のFeの一部の代わりに、Cr、Mo、Nb、V、Cu、Ni、Ca、Mg、及び/又はZrを含有させてもよい。Cr、Mo、Nb、V、Cu、Ni、Ca、Mg、及びZrの含有は任意であり、それぞれの含有量は0%でもよいし、0%超であってもよい。具体的には、Feの一部の代わりに、Cr:1.50%以下、Mo:0.50%以下、Nb:0.05%以下、V:0.20%以下、Cu:0.40%以下、Ni:0.70%以下、Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下、及びZr:0.050%以下から選ばれる1種又は2種以上を含有してもよい。
Cr、Mo、Nb、及びVは、ベイナイト変態を促進して、鋼線及び機械部品の引張強さを高める効果を有する。
Cu、Niは、鋼線及び機械部品の耐水素脆化特性を向上させる効果を有する。Ca、Mg、及びZrは、脱酸元素として機能し、鋼中の酸化物を微細化し、疲労特性を向上させるとともに、硫化物を形成することで固溶Sを低減し、耐水素脆化特性を向上させる効果を有する。
Cr:1.50%以下
上記効果を確実に得るためには、Cr含有量の下限は0.01%とすることが好ましい。
一方、Cr含有量が1.50%を超えると、合金コストが上昇する。したがって、Cr含有量の上限を1.50%とする。好ましくは1.10%以下である。より好ましくは、0.7%以下である。
Mo:0.50%以下
上記効果を確実に得るためには、Mo含有量の下限は0.01%とすることが好ましい。
一方、Mo含有量が0.50%を超えると、合金コストが上昇する。したがって、Mo含有量の上限を0.50%とする。好ましくは0.30%以下である。
Nb:0.05%以下
上記効果を得るためには、Nb含有量の下限は0.005%とすることが好ましい。
一方、Nb含有量が0.05%を超えると、合金コストが上昇する。したがって、Nb含有量の上限を0.05%とする。好ましくは0.03%以下である。
V:0.20%以下
上記効果を得るためには、V含有量の下限は0.01%とすることが好ましい。
一方、V含有量が0.20%を超えると、合金コストが上昇する。したがって、V含有量の上限を0.20%とする。好ましくは0.15%以下である。
Cu:0.40%以下
上記効果を得るためには、Cu含有量の下限は0.01%とすることが好ましい。
一方、Cu含有量が0.40%を超えると、合金コストが上昇する。したがって、Cu含有量の上限を0.40%とする。好ましくは0.30%以下である。
Ni:0.70%以下
上記効果を得るためには、Ni含有量の下限は0.01%とすることが好ましい。
一方、Ni含有量が0.70%を超えると、合金コストが上昇する。したがって、Ni含有量の上限を0.70%とする。好ましくは0.40%以下である。
Ca:0.005%以下
上記効果を得るためには、Ca含有量の下限は0.0005%とすることが好ましい。
一方、Ca含有量が0.005%を超えると、合金コストが上昇する。したがって、Ca含有量の上限を0.005%とする。好ましくは0.003%以下である。
Mg:0.005%以下
上記効果を得るためには、Mg含有量の下限は0.0005%とすることが好ましい。
一方、Mg含有量が0.005%を超えると、合金コストが上昇する。したがって、Mg含有量の上限を0.005%とする。好ましくは0.003%以下である。
Zr:0.050%以下
上記効果を得るためには、Zr含有量の下限は0.002%とすることが好ましい。
一方、Zr含有量が0.050%を超えると、合金コストが上昇する。したがって、Zr含有量の上限を0.050%とする。好ましくは0.020%以下である。
<鋼線の金属組織>
次に、本実施形態に係る鋼線の金属組織の限定理由についてより詳細に説明する。
ベイナイトの面積率:95%以上
本実施形態に係る鋼線は、鋼線の長手方向に垂直な断面(C断面)の金属組織におけるベイナイトの面積率が95%以上である。
ベイナイトは、高強度と良加工性とを有する組織である。C断面におけるベイナイトの面積率が95%以上であることで、鋼線の引張強さの低下を抑制するととともに、残部である非ベイナイト組織が破壊の起点となることを抑制することができる。その結果、機械部品を製造する冷間鍛造の際に加工割れが発生し難くなる。ベイナイトの面積率は97%以上でもよく、99%以上であってもよく、100%であってもよい。
ベイナイトの面積率は、後述の線材の製造方法に依存する。そのため、本実施形態に係る鋼線、この鋼線の素材となる線材及びこの鋼線を冷間鍛造して得られる機械部品において同じ値となる。
ベイナイト以外の残部組織(非ベイナイト組織)は、高強度及び冷間加工性が損なわれない限り特に限定されないが、フェライト及びパーライトの少なくとも一方を含むことが好ましい。フェライト及びパーライトの合計面積率は5%以下であり、3%以下でもよく、1%以下でもよく、0%であってもよい。
一方、マルテンサイトは、機械部品を成形する冷間鍛造の際の割れを発生し易くする。そのため、本実施形態に係る鋼線は、マルテンサイトを含まないことが好ましい。
ベイナイトブロックの平均粒径比:PS2/PC2≦0.95
本実施形態に係る鋼線は、図1に示すように、鋼線10の長手方向に垂直な断面において、鋼線10の直径をDとし、鋼線10の表面から中心16に向かって深さ0.1Dの位置12におけるベイナイトブロックの平均粒径をPS2とし、深さ0.25Dの位置14におけるベイナイトブロックの平均粒径をPC2とするとき、PS2とPC2とが下記式(b)を満たす。
S2/PC2≦0.95 ・・・(b)
ここで、ベイナイトブロックとは、方位性が整ったbcc鉄からなる組織単位であり、具体的には、EBSD装置(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)で測定したbcc構造の結晶方位マップにおいて、方位差が15°以上となる境界をベイナイトブロック粒界とする。そして、後述の方法によって得られた一つのベイナイトブロック粒の円相当粒径を、ベイナイトブロックの粒径と定義する。
S2とPC2との比率PS2/PC2が0.95以下であれば、冷間鍛造時に、加工割れが発生し難くなる。したがって、上記ベイナイトブロックの平均粒径の比率PS2/PC2を0.95以下とすることが好ましい。鋼線におけるベイナイトブロックの上記比率PS2/PC2のより好ましい上限は、0.90であり、より好ましい上限は0.80である。
一方、上記ベイナイトブロックの平均粒径の比率PS2/PC2の下限は特に限定されないが、製造性の観点から、0.60以上であることが好ましい。
また、本実施形態に係る鋼線において、ベイナイトブロックの平均粒径PS2、PC2は特に限定されないが、PSCが4.0μm未満では、冷間鍛造の際に周方向の割れが発生しやすくなり、18.0μmを超えると、冷間鍛造の際に割れが発生しやすくなる。このため、PS2は4.0~18.0μmであることが好ましい。同様に、PC2が5.0μm未満では、冷間鍛造の際に周方向の割れが発生しやすくなり、20.0μmを超えると、冷間鍛造の際に割れが発生しやすくなる。このため、PC2は5.0~20.0μmであることが好ましい。
<鋼線の機械特性及び直径D
本実施形態に係る鋼線の引張強さは1100MPa~1600MPaである。
引張強さが1100MPa以上の非調質機械部品を得るためには、機械部品に加工する前の鋼線にも同程度の引張強さが求められる。一方、1600MPaを超える鋼線は、鋼線から機械部品を冷間鍛造で製造することが困難である。
それ故、本実施形態に係る鋼線は、1100MPa~1600MPaの引張強さを有する。好ましい引張強さは1150MPa~1550MPa、より好ましくは1200MPa~1500MPa、さらに好ましくは1250~1450MPa未満である。
なお、引張強さは、以下の方法で求める。鋼線を長さ340mmに切断後、矯正、直棒とする。200mmがチャック間長さ(試験長さ)上下70mmをチャッキングし、引張試験を行う。得られた最大荷重を断面積で除することで引張強さ(MPa)を算出する。鋼線につき3本の引張試験を行い、その平均値を求める。
本実施形態に係る鋼線は、引張強さをTS(単位:MPa)とするとき、鋼線を長手方向に圧縮した場合に表面に割れが発生するまでの限界圧縮率が-0.036×TS+122.0%以上である。
一般的に引張強さが高いほど、変形抵抗が高く、限界圧縮率は小さくなる傾向がある。本実施形態に係る鋼線もそのような傾向はあるものの、例えば、引張強さが1100MPaである場合の限界圧縮率は82.4%以上であり、引張強さが1600MPaである場合でも64.4%以上の限界圧縮率を有する。従って、本実施形態に係る鋼線は、高強度かつ冷間鍛造性に優れたものとなる。
限界圧縮率は-0.036×TS+124.0%以上であることが好ましく、-0.036×TS+126.0%以上であることがより好ましい。
限界圧縮率は、日本塑性加工学会冷間鍛造分科会基準(塑性と加工,vol.22,No.211,1981,p139)の方法によって下記のように求める。
鋼線を機械加工して、直径5.0mm、高さ7.5mmの円柱状試験片を作製し、同心円状に溝がついた金型で両端面を拘束し、室温(25℃)にて、試料片の表面に割れが発生するまで高さ方向に圧縮する。なお、長さ0.5mm以上の割れが観察されたとき割れ発生と認定する。鋼線の直径Dが5.0mm未満のときは、直径D、高さ1.5Dの円柱状試験片を用いる。
変形前(圧縮前)の試料高さH、割れ発生限界における試料高さHから、下記式により限界圧縮率(%)を求める。
限界圧縮率(%)=(H-H)/H×100
10個の試験片について圧縮試験を行い、5個が割れる圧縮率を限界圧縮率とする。
本実施形態に係る鋼線の直径Dは特に限定されないが、例えば、冷間鍛造によってボルト等の機械部品に加工する場合は、鋼線の直径Dは3.5~15.0mmとすることが挙げられる。
<鋼線の用途>
本実施形態に係る鋼線の用途は特に限定されない。本実施形態に係る鋼線は、高強度であり、かつ冷間鍛造性に優れるため、自動車、各種産業機械における非調質機械部品用として好適である。
[非調質機械部品用線材]
次に、本実施形態に係る鋼線を非調質機械部品用とする場合、その素材となる非調質機械部品用線材について説明する。
本実施形態に係る非調質機械部品用線材は、化学成分が、質量%で、
C:0.65%超~0.80%、
Si:0.02%~1.00%、
Mn:0.50%~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.005%~0.060%、
Ti:0.005%~0.050%、
B:0.0003%~0.0040%、
N:0.0010%~0.0150%、
O:0.010%以下、並びに、
残部:Fe及び不純物であり、
線材の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上である。
<非調質機械部品用線材の化学成分>
本実施形態に係る非調質機械部品用線材は、前述した本実施形態に係る鋼線の素材となるものである。線材の伸線加工の前後において化学成分は変化しないため、線材の化学成分は前述した鋼線の化学成分と同じである。また、任意元素も鋼線について説明した任意成分と同様であり、Feの一部に代えて、質量%で、
Cr:1.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.20%以下、
Cu:0.40%以下、
Ni:0.70%以下、
Ca:0.005%以下、
Mg:0.005%以下、及び
Zr:0.050%以下
からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有してもよい。
各元素の含有量の限定理由、好ましい範囲についても前述した鋼線と同様であるため、ここでの説明は省略する。
<非調質機械部品用線材の金属組織>
本実施形態に係る線材は、線材の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上である。
上記の通り、本実施形態に係る鋼線では、C断面におけるベイナイト組織の面積率が95%以上である。ベイナイトの面積率は、伸線加工によって変化することが無いため、本実施形態に係る鋼線を得るためには、線材の段階でベイナイトの面積率を制御する必要がある。ベイナイトの面積率が95%以上であれば、良好な伸線加工性が得られ、残部である非ベイナイト組織が破壊の起点となることを抑制することができる。
金属組織の残部(ベイナイト以外の残部組織)は、高強度及び伸線加工性が損なわれない限り特に限定されないが、フェライト及びパーライトの少なくとも一方を含むことが好ましい。フェライト及びパーライトの合計面積率は5%以下であり、3%以下でもよく、1%以下でもよく、0%であってもよい。
一方、マルテンサイトは、伸線加工の際に断線を発生させ、伸線加工性を悪化させる。そのため、本実施形態に係る線材はマルテンサイトを含まないことが好ましい。
ベイナイトブロックの平均粒径比:PS1/PC1≦0.95
線材の長手方向に垂直な断面において、線材の直径をDとし、前記線材の表面から中心に向かって深さ0.1Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPS1とし、深さ0.25Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPC1とするとき、PS1とPC1とが下記式(c)を満たすことが好ましい。
S1/PC1≦0.95 ・・・(c)
線材において、PS1とPC1との上記比率PS1/PC1が0.95以下であれば、伸線加工の際に割れが発生し難くなるだけでなく、前述した「PS2/PC2≦0.95」の関係も満たす鋼線を製造し易く、鋼線の冷間加工性の悪化が抑制される。
線材におけるベイナイトブロックの上記比率PS1/PC1の好ましい上限は、0.90である。
一方、上記ベイナイトブロックの平均粒径の比率PS1/PC1の下限は特に限定されないが、製造性の観点から、0.60以上であることが好ましい。
また、本実施形態に係る線材において、ベイナイトブロックの平均粒径PS1、PC1は特に限定されないが、線材において、ベイナイトブロックの平均粒径が25.0μm以下であれば、鋼線への伸線加工の際に割れが発生し難くなるほか、伸線加工後の鋼線において、ベイナイトブロックの粒径のばらつきが小さくなる。したがって、線材のベイナイトブロックの平均粒径の上限を25.0μmとすることが好ましい。
一方、線材において、ベイナイトブロックの平均粒径を10.0μm未満とするためには、製造方法が複雑になり製造コストが上昇する。したがって、線材のベイナイトブロックの平均粒径の下限は10.0μmとすることが好ましい。
<非調質機械部品用線材の引張強さ及び直径D
本実施形態に係る線材の引張強さは特に限定されないが、後述する伸線加工(減面率:14.0~52.0%)によって1100MPa~1600MPaの引張強さを有する鋼線を製造する観点から、800MPa~1250MPaであることが好ましい。
また、本実施形態に係る線材の直径Dも特に限定されないが、後述する伸線加工(減面率:14.0~52.0%)によって前述した3.5~15.0mmの直径Dを有する鋼線を製造する観点から、線材は5.0~20.0mmの直径を有することが好ましい。
[非調質機械部品]
本実施形態に係る非調質機械部品は、円柱状の軸を含み、
化学成分が、質量%で、
C:0.65%超~0.80%、
Si:0.02%~1.00%、
Mn:0.50%~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.005%~0.060%、
Ti:0.005%~0.050%、
B:0.0003%~0.0040%、
N:0.0010%~0.0150%、
O:0.010%以下、並びに
残部:Fe及び不純物であり、
前記軸の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上であり、
前記軸の引張強さが1100MPa~1600MPaである。
<非調質機械部品の化学成分>
本実施形態に係る非調質機械部品は、前述した本実施形態に係る鋼線を冷間鍛造して得られるものである。鋼線の冷間鍛造の前後において化学成分は変化しないため、機械部品の化学成分は前述した鋼線の化学成分と同じである。任意元素も鋼線について説明した任意成分と同様であり、Feの一部に代えて、質量%で、
Cr:1.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.20%以下、
Cu:0.40%以下、
Ni:0.70%以下、
Ca:0.005%以下、
Mg:0.005%以下、及び
Zr:0.050%以下
からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有してもよい。
各元素の含有量の限定理由、好ましい範囲についても前述した鋼線と同様であるため、ここでの説明は省略する。
<非調質機械部品の金属組織>
本実施形態に係る機械部品は、軸の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上である。
上記の通り、本実施形態に係る鋼線は、ベイナイト組織の面積率が95%以上である。ベイナイトの面積率は、伸線加工及び冷間鍛造によって変化することが無い。ベイナイトの面積率が95%以上であれば、軸の引張強さの低下を抑制するととともに、残部である非ベイナイト組織が破壊の起点となることを抑制することができる。その結果、鋼線から機械部品を製造する冷間鍛造の際に加工割れが発生し難くなる。そのため、加工割れが無い、高強度の非調質機械部品とすることができる。
金属組織の残部(ベイナイト以外の残部組織)は、高強度及び冷間加工性が損なわれない限り特に限定されないが、フェライト及びパーライトの少なくとも一方を含むことが好ましい。フェライト及びパーライトの合計面積率は5%以下であり、3%以下でもよく、1%以下でもよく、0%であってもよい。
一方、マルテンサイトは、鋼線から機械部品を成形する冷間鍛造の際の割れを発生し易くする。そのため、本実施形態に係る機械部品は、マルテンサイトを含まないことが好ましい。
軸の長手方向に垂直な断面において、軸の直径をDとし、軸の表面から中心に向かって深さ0.1Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPS3とし、深さ0.25Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPC3とするとき、PS3とPC3とが下記式(e)を満たすことが好ましい。
S3/PC3≦0.95 ・・・(e)
S3とPC3との比率PS3/PC3が0.95以下であれば、鋼線を冷間鍛造して機械部品に成形する際、加工割れが発生し難くなり、加工割れが抑制された機械部品が得られ易い。したがって、上記ベイナイトブロックの平均粒径の比率PS3/PC3を0.95以下とすることが好ましい。機械部品の軸におけるベイナイトブロックの上記比率PS3/PC3のより好ましい上限は、0.90である。
一方、上記ベイナイトブロックの平均粒径の比率PS3/PC3の下限は特に限定されないが、製造性の観点から、0.60以上であることが好ましい。
また、本実施形態に係る機械部品の軸において、ベイナイトブロックの平均粒径PS3、PC3は特に限定されないが、製造性の観点から、PS3は4.0μm以上が好ましく、機械部品の延性確保の観点から18.0μm以下であることが好ましい。同様にPC3も製造性の観点から5.0μm以上が好ましく、機械部品の延性確保の観点から、20.0μm以下であることが好ましい。
<非調質機械部品の軸の機械特性及び直径D
本実施形態に係る非調質機械部品は、軸の引張強さが1100MPa~1600MPaである。
本開示は、引張強さで1100MPa以上の非調質機械部品を得ることを基本としている。機械部品としての強度が軸の引張強さで1100MPa未満では、本開示を適用する必要がない。
一方、本実施形態に係る鋼線を冷間鍛造によって軸の引張強さが1600MPaを超える機械部品を得ることは困難であり、また、引張強さが1600MPaを超えると耐水素脆化特性が低下する。それ故、本実施形態に係る機械部品の軸の引張強さは1100MPa~1600MPaとする。
好ましい引張強さは1150MPa~1550MPa、より好ましくは1200MPa~1500MPa、さらに好ましくは1250~1450MPaである。
本実施形態に係る非調質機械部品の軸の直径Dは特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。鋼線の直径Dと機械部品の円柱状の軸の直径Dは一致してもよい。
<非調質機械部品の用途>
本実施形態に係る非調質機械部品は、円柱状の軸を含む機械部品であれば用途は特に限定されず、例えば、ボルト、トーションバー、スタビライザーなどの軸形状を有する自動車部品や各種産業機械への適用が挙げられ、特に、自動車用や建築用のボルト等に好適である。
[金属組織の測定方法]
次に、本実施形態に係る鋼線、非調質機械部品用線材及び非調質機械部品の組織の測定方法について説明する。なお、以下の説明では、鋼線を例に説明するが、線材、機械部品も同様の測定方法を適用することができる。
<ベイナイトの面積率の測定方法>
ベイナイトの面積率は、例えば、走査型電子顕微鏡で、鋼線のC断面、すなわち、鋼線の長手方向に垂直な断面を1000倍の倍率で撮影し、画像解析して求める。
鋼線のC断面を鏡面研磨した後、ピクラール(5%ピクリン酸+95%エタノール溶液)でエッチングし金属組織を現出させる。図1に示す鋼線10のC断面において、鋼線の表層(表面近傍)である0.1Dの位置12、0.25Dの位置14(鋼線の表面から深さ方向に鋼線の直径Dの1/4離れた部分)、及び、0.5Dの位置16(鋼線の中心部分)において、それぞれ、125μm×95μmの領域で撮影する。
撮影した写真のベイナイト組織を目視でマーキングし、各領域内のそれぞれのベイナイトの面積を画像解析して測定し、その合計値を観察領域で除算することによって、ベイナイトの面積率が得られる。非ベイナイト組織の面積率は、100%より、ベイナイトの面積率を減算することによって得られる。
なお、C断面の0.5Dの位置(中心部)、並びに0.1Dの位置及び0.25Dの位置においてそれぞれ90°間隔の4箇所、合計9箇所で測定する。鋼線の長手方向に100mm間隔で採取した2箇所のC断面で同様に測定し、合計18箇所の平均値をベイナイトの面積率とする。
<ベイナイトブロックの平均粒径の測定方法>
ベイナイトブロックの粒径は、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)装置を用いて測定できる。
具体的には、鋼線については、鋼線の長手方向と垂直な断面であるC断面を鏡面研磨し、鋼線の直径をDとしたとき、表面から深さ0.1Dの位置及び0.25Dの位置を中心に、500μm×500μmの領域において、測定ステップを1.0μmとして各測定点のbcc-Feの結晶方位を測定し、方位差が15度以上の境界をベイナイトブロック境界と定義し、その境界に囲まれた5ピクセル以上の領域をベイナイトブロック粒とする。ベイナイトブロック粒の平均円相当径を、混粒が前提となる粒集団の平均粒径の求め方であるJohnson-Saltykovの測定方法(「計量形態学」内田老鶴圃新社、S47.7.30発行、原著:R.T.DeHoff.F.N.Rbiness.P189参照)を用いて得る。
なお、ベイナイトブロックについても、C断面の0.1Dの位置及び0.25Dの位置においてそれぞれ90°間隔の4箇所において、それぞれ500μm×500μmの領域を測定し、合計8視野のベイナイトブロックの円相当径を得る。これらの平均値をベイナイトブロック粒の平均円相当径とする。
[線材、鋼線及び機械部品の製造方法]
次に、本実施形態に係る線材、鋼線及び機械部品の好ましい製造方法について説明する。なお、以下に説明する線材、鋼線及び機械部品の各製造方法は、本実施形態に係る線材、鋼線及び機械部品を得るための一例であり、以下の手順及び方法に限定されるものではなく、本実施形態に係る線材、鋼線及び機械部品を実現できる方法であれば、如何なる方法を採用してもよい。
<線材及び鋼線の製造方法>
まず、所定の化学成分からなる鋼片を1050℃以上に加熱する。
次いで、加熱した鋼片を熱間圧延し、900℃超でリング状に巻き取る。
その後、後述するような1次冷却、2次冷却を含む2段階冷却を行い、次いで、恒温保持(恒温変態処理)を行って、線材を得る。
1次冷却として、巻取り終了温度から600℃までを、20℃/秒~100℃/秒の1次冷却速度で冷却し、さらに、2次冷却として、600℃から500℃までを、20℃/秒以下の2次冷却速度で冷却する。
2段階冷却後、恒温保持(恒温変態処理)を行い、次いで、伸線加工をすることによって、上記の金属組織を有する本実施形態に係る非調質機械部品用鋼線を製造することができる。
巻取温度は、変態後のベイナイト組織に影響する。巻取温度が900℃以下では、ベイナイトブロックの粒径の標準偏差が大きくなり、鋼線の冷間加工性や機械部品において加工割れが発生する場合がある。そのため、巻取り温度は900℃超とする。
巻取り後の1次冷却速度が20℃/秒未満であると、ベイナイトブロックの粒径の標準偏差が大きくなり、鋼線の冷間加工性や機械部品において加工割れが発生する場合がある。
一方、600℃から500℃までの2次冷却速度が20℃/秒を超えると、ベイナイトの面積率は95%以上を満たすことが出来ない。
したがって、巻取終了温度から600℃までを、20℃/秒~100℃/秒の1次冷却速度で冷却し、600℃から500℃までを、20℃/秒以下の2次冷却速度で冷却する。
具体的に、2段階冷却は次のような方法で行われる。熱間圧延時の残熱を利用し、線材を溶融塩槽に浸漬して、ベイナイト変態を生じさせる。すなわち、巻取終了後、直ちに線材を、450℃~500℃の第1溶融塩槽に浸漬させ600℃まで冷却し、次いで500℃まで冷却する2段階冷却と恒温保持を行う。その後、第1溶融塩槽に連続する500℃~600℃の第2溶融塩槽に浸漬させて恒温保持を行う。
第1溶融塩槽への浸漬時間は15秒~50秒とし、第2溶融塩槽への浸漬時間は30秒~100秒とする。
第1溶融塩槽と第2溶融塩槽との合計の浸漬時間は45秒以上とする。
特に、機械部品に1100MPa~1600MPaの引張強さが要求される場合には、第1溶融塩槽への浸漬時間は20秒~50秒とし、第2溶融塩槽への浸漬時間は35秒~100秒とすることが好ましい。
また、機械部品に1100MPa~1600MPaの引張強さが要求される場合には、第1溶融塩槽と第2溶融塩槽との合計の浸漬時間は60秒以上とすることが好ましい。
恒温変態処理により生成したベイナイトは、連続冷却処理により生成したベイナイトと比較して、ベイナイトブロックの粒径のばらつきが小さい。
上記の通り、溶融塩槽への浸漬時間は、線材の充分な温度保持と生産性の点から、第1溶融塩槽では15~50秒、第2溶融塩槽では30~100秒とする。
なお、溶融塩槽に所定時間保持した後の冷却は、水冷でも放冷でもよい。
なお、浸漬槽として、溶融塩槽ではなく、鉛浴槽や流動床などの設備を使用しても、同様の効果が得られる。しかしながら、環境や製造コストの観点から、溶融塩槽が好ましい。
以上の方法により、本実施形態に係る鋼線の素材となる線材を製造することができる。
本実施形態に係る線材から鋼線を製造する際の伸線加工においては、減面率を14.0%~60.0%とする。
伸線加工の減面率が14.0%未満の場合、加工硬化が不十分となり、引張強さが不足する。一方、減面率が60.0%を超えると、鋼線から機械部品を製造する冷間鍛造の際に加工割れが発生し易くなる。
なお、機械部品において1100MPa~1600MPaの引張強さが要求される場合には、伸線加工において、減面率を14.0%~52.0%とすることが好ましい。
伸線加工の減面率が14.0%未満の場合、機械部品の耐水素脆化特性が低下する。
一方、減面率が52.0%を超えると、鋼線から機械部品を製造する冷間鍛造の際に加工割れが発生し易くなる。
伸線加工の減面率は、14.0%~52.0%が好ましい。
<機械部品の製造方法>
上記のようにして得られた鋼線を用いて最終の機械部品へ成形加工するが、上記金属組織の特徴を維持するため、成形加工前に熱処理は行わなくてもよい。
上記のようにして得られた鋼線を冷間鍛造することにより、軸の引張強さが1100MPa~1600MPaである非調質機械部品が得られる。
本実施形態に係る機械部品では、軸の引張強さを1100MPa以上とする。
機械部品として要求される軸の引張強さが1100MPa未満の場合には、本開示に係る鋼線を適用する必要がない。
一方、機械部品として要求される引張強さが1600MPaを超える場合には、本実施形態に係る機械部品を冷間鍛造で製造することが困難であるとともに、機械部品の耐水素脆化特性が劣化する。
そのため、機械部品の引張強さを1100MPa~1600MPaとする。
本実施形態に係る機械部品は、このままでも高強度である。
一方、降伏強度・降伏比、又は、延性という、機械部品として必要な他の材質特性を向上させるために、部品形状に冷間鍛造した後、機械部品を、200℃~600℃に10分~1時間保持し、その後、冷却してもよい。なお、この熱処理は、調質のための熱処理には該当しない。
次に、本開示の実施例について説明する。実施例での条件は、本開示の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本開示は、この一条件例に限定されるものではない。本開示は、本開示の要旨を逸脱せず、本開示の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
<線材及び鋼線の製造>
線材及び鋼線の製造に用いた鋼の化学成分を表1に示す。表1~表5中の下線は、本開示の範囲外であることを示す。

これらの鋼種(化学成分)からなる鋼片を加熱し、表2に記載の線径に熱間圧延した。
熱間圧延後、表2に記載の巻取温度でリング状に巻取り、圧延ライン後方に設置した溶融塩槽に浸漬して、表2に記載の方法にて2段階冷却と恒温保持(恒温変態処理)を行い、室温まで冷却し、線材を得た。試験番号20と21の線材は、表2に記載の巻取り温度でリング状に巻き取り、衝風冷却した。その後、室温まで冷却した線材を、950℃に再加熱し、480℃の鉛槽に60秒間浸漬して恒温変態処理を行い、その後、室温まで冷却し、線材を得た。
表2に、熱間圧延後の巻取り温度、第1溶融塩槽の温度及び保持時間、巻取温度から600℃までの1次冷却速度、600℃から500℃までの2次冷却速度、第2溶融塩槽での恒温保持温度と恒温保持時間、並びに線材の直径を示す。

恒温変態処理を行った線材に、表4に示す減面率で伸線加工を施して鋼線を得た。
上記のようにして製造した線材及び鋼線について、C断面における金属組織及びベイナイトブロックの平均粒径をそれぞれ前述した方法によって測定し、さらにベイナイトブロックの平均粒径比を求めた。
表3に線材の金属組織、ベイナイトブロックの平均粒径、及びベイナイトブロックの平均粒径比PS1/PC1を示し、表4に鋼線の金属組織、ベイナイトブロックの平均粒径、及びベイナイトブロックの平均粒径比PS2/PC2を示す。
<線材及び鋼線の評価>
表3に線材の引張強さと伸線加工性を示し、表4に鋼線の引張強さ、変形抵抗、限界圧縮率を示す。
線材の伸線加工性は、線材から鋼線への伸線加工時に断線が1回でも起こった場合に、伸線加工性が「不良」と判断した。
引張強さと限界圧縮率は前述した方法によって測定した。
鋼線の変形抵抗は、以下の方法で測定した。
伸線加工後の鋼線を機械加工して、直径5.0mm、高さ7.5mmの円柱状試験片を作製し、日本塑性加工学会冷間鍛造分科会基準(塑性と加工,vol.22,No.211,1981,p139)に記載された同心円状に溝がついた金型を用いて両端面を拘束し、室温にて、ひずみ速度10/sで圧縮率57.3%の据え込み加工を行った。2個の試験片を用いた据え込み加工から得られた最大応力の平均値を変形抵抗とした。なお、圧縮率は、加工前の試験片高さH、加工後の試験片高さHから、下記式で求めた。
圧縮率(%)=(H-H)/H×100
鋼線の冷間加工性は、限界圧縮率により評価した。
引張強さTS(単位:MPa)に対し、限界圧縮率が-0.036×TS+122.0%以上である場合は「合格」、-0.036×TS+122.0%未満である場合は「不合格」と判定した。
なお、線材を伸線加工して、目的の組織を持つ鋼線が出来なかった場合の線材については、比較例である。

<機械部品の製造>
引き続き、鋼線を冷間鍛造、すなわち冷間加工してボルト形状の機械部品を得て、その後、非調質ボルトのブルーイング処理に相当する350℃にて30分間保持する熱処理を施した。
鋼線の冷間鍛造後に施した熱処理の熱処理温度と保持時間、機械部品の金属組織の面積率、軸におけるベイナイトブロックの平均粒径、軸の表層部におけるベイナイトブロックの平均粒径PS3、軸の深さ0.25Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径PC3、ベイナイトブロックの平均粒径比PS3/PC3を示す。さらに、表5に軸の引張強さを示す。

本開示で規定する要件を満たす試験番号1~11、19、21、22の鋼線は、引張強さが1100~1600MPaであり、かつ冷間加工性も合格となった。
一方、C量が本開示の下限未満であり、ベイナイトの面積率が本開示の下限未満である試験番号12、13の鋼線は、冷間加工性が不合格である。
C量が本開示の上限を超える試験番号14の鋼線は、冷間加工性が不合格である。
Si量が本開示の上限を超え、ベイナイトの面積率が本開示の下限未満である試験番号15の鋼線は、伸線加工の際に断線が発生し、冷間加工性も不合格である。
Mn量が本開示の上限を超え、ベイナイトの面積率が本開示の下限未満である試験番号16の鋼線は、伸線加工の際に断線が発生した。
ベイナイトの面積率が本開示の下限未満である試験番号17、18の鋼線は、冷間加工性が不合格である。
試験番号20の鋼線は、素材とした線材の伸線加工性は良好であったが、伸線加工時の減面率が過大であり、冷間加工性が不合格である。
本開示によれば、引張強さが1100MPa~1600MPaであり、冷間鍛造性に優れ、安価に製造することができる鋼線、並びにそれを用いて軟質化焼鈍や焼入れ焼戻し処理などの熱処理を省略して製造することができ、軸の引張強さが1100MPa~1600MPaである非調質機械部品及びその素材として使用することができる非調質機械部品用線材を提供することができる。
この高強度機械部品は、自動車、各種産業機械、及び、建設用部材の軽量化や小型化にも寄与することが出来る。
10 鋼線
12 鋼線の表面から中心に向けて0.1Dの位置
14 鋼線の表面から中心に向けて0.25Dの位置
16 鋼線の中心
鋼線の直径

Claims (14)

  1. 化学成分が、質量%で、
    C:0.65%超~0.80%、
    Si:0.02%~1.00%、
    Mn:0.50%~1.50%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Al:0.005%~0.060%、
    Ti:0.005%~0.050%、
    B:0.0003%~0.0040%、
    N:0.0010%~0.0150%、
    O:0.010%以下、並びに、
    残部:Fe及び不純物であり、
    鋼線の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上であり、
    引張強さが1100MPa~1600MPaであり、
    前記引張強さをTS(単位:MPa)とするとき、前記鋼線を長手方向に圧縮した場合に表面に割れが発生するまでの限界圧縮率が-0.036×TS+122.0%以上である鋼線。
  2. 前記Feの一部に代えて、質量%で、
    Cr:1.50%以下、
    Mo:0.50%以下、
    Nb:0.05%以下、
    V:0.20%以下、
    Cu:0.40%以下、
    Ni:0.70%以下、
    Ca:0.005%以下、
    Mg:0.005%以下、及び
    Zr:0.050%以下
    からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項1に記載の鋼線。
  3. 前記鋼線の長手方向に垂直な断面において、前記鋼線の直径をDとし、前記鋼線の表面から中心に向かって深さ0.1Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPS2とし、深さ0.25Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPC2とするとき、前記PS2と前記PC2とが下記式(b)を満たす請求項1又は請求項2に記載の鋼線。
    S2/PC2≦0.95 ・・・(b)
  4. 前記金属組織の残部として、フェライト及びパーライトの少なくとも一方を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鋼線。
  5. 非調質機械部品用である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の鋼線。
  6. 化学成分が、質量%で、
    C:0.65%超~0.80%、
    Si:0.02%~1.00%、
    Mn:0.50%~1.50%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Al:0.005%~0.060%、
    Ti:0.005%~0.050%、
    B:0.0003%~0.0040%、
    N:0.0010%~0.0150%、
    O:0.010%以下、並びに、
    残部:Fe及び不純物であり、
    線材の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上である非調質機械部品用線材。
  7. 前記Feの一部に代えて、質量%で、
    Cr:1.50%以下、
    Mo:0.50%以下、
    Nb:0.05%以下、
    V:0.20%以下、
    Cu:0.40%以下、
    Ni:0.70%以下、
    Ca:0.005%以下、
    Mg:0.005%以下、及び
    Zr:0.050%以下
    からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項6に記載の非調質機械部品用線材。
  8. 前記線材の長手方向に垂直な断面において、前記線材の直径をDとし、前記線材の表面から中心に向かって深さ0.1Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPS1とし、深さ0.25Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPC1とするとき、前記PS1と前記PC1とが下記式(c)を満たす請求項6又は請求項7に記載の非調質機械部品用線材。
    S1/PC1≦0.95 ・・・(c)
  9. 前記金属組織の残部として、フェライト及びパーライトの少なくとも一方を含む請求項6~請求項8のいずれか1項に記載の非調質機械部品用線材。
  10. 円柱状の軸を含み、
    化学成分が、質量%で、
    C:0.65%超~0.80%、
    Si:0.02%~1.00%、
    Mn:0.50%~1.50%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Al:0.005%~0.060%、
    Ti:0.005%~0.050%、
    B:0.0003%~0.0040%、
    N:0.0010%~0.0150%、
    O:0.010%以下、並びに
    残部:Fe及び不純物であり、
    前記軸の長手方向に垂直な断面の金属組織におけるベイナイトの面積率が、95%以上であり、
    前記軸の引張強さが1100MPa~1600MPaである非調質機械部品。
  11. 前記軸の長手方向に垂直な断面において、前記軸の直径をDとし、前記軸の表面から中心に向かって深さ0.1Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPS3とし、深さ0.25Dの位置におけるベイナイトブロックの平均粒径をPC3とするとき、前記PS3と前記PC3とが下記式(e)を満たす請求項10に記載の非調質機械部品。
    S3/PC3≦0.95 ・・・(e)
  12. 前記Feの一部に代えて、質量%で、
    Cr:1.50%以下、
    Mo:0.50%以下、
    Nb:0.05%以下、
    V:0.20%以下、
    Cu:0.40%以下、
    Ni:0.70%以下、
    Ca:0.005%以下、
    Mg:0.005%以下、及び
    Zr:0.050%以下
    からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項10又は請求項11に記載の非調質機械部品。
  13. 前記金属組織の残部として、フェライト及びパーライトの少なくとも一方を含む請求項10~請求項12のいずれか1項に記載の非調質機械部品。
  14. ボルトである請求項10~請求項13のいずれか1項に記載の非調質機械部品。
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