JP7468869B2 - 遺伝性徐脈性不整脈治療薬 - Google Patents

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Description

本発明は、徐脈性不整脈治療薬に関する。
不整脈とは、心拍数や心臓の拍動リズムが不規則になった状態をいい、様々な心電図の異常を呈する。心拍数の異常による不整脈は、頻脈性不整脈及び徐脈性不整脈に分類することができる。ヒトの安静時の心拍数は、通常50~100拍/分程度であるが、これを下回っている場合を徐脈、多い場合を頻脈という。徐脈性不整脈では、洞不全症候群 (SSS : Sick sinus syndrome)、房室ブロック (A-V block) 、房室解離 (A-V dissociation) 、接合部性調律 (Junctional rhythm) などが挙げられる。
洞不全症候群とは、主に洞結節の機能が低下することによって脈が遅くなり、そのために脳、心臓、腎臓等の機能不全が認められる疾患である。心電図的には、1)洞性徐脈(心拍数50拍/分以下)、2)洞停止又は洞房ブロック、3)徐脈頻脈症候群の3種に分類される。臨床的には、Adam-Stokes(アダムス・ストークス)発作、心不全、易疲労性などの症状が慢性的に出現する。治療方法としては、洞結節の自発的興奮回数を増強させるために、抗コリン薬(硫酸アトロピン)、β刺激剤などの経口薬や静脈注射剤を用いることがあり、これらの投与によっても徐脈が改善しない場合や、薬剤投与を中止すると症状が悪化する場合は、ペースメーカーを用いる場合がある。
心臓における電気刺激の始まりである洞結節は、心筋の一部が特殊化して自動能を獲得した組織であり、特異的なタンパクが発現している。そのなかでも、洞結節の機能にもっとも重要なのがチャネルとよばれる細胞膜タンパク群である。チャネルは細胞膜を介して、イオンを透過させることにより細胞内外における電位勾配の形成に寄与し、洞結節のみならず、すべての心筋細胞の電気信号の伝播と、それに続いておこる心臓の収縮という最も重要な心臓としての機能に関与する。
チャネル遺伝子の異常が不整脈を引き起こすことは古くから知られており、近年の遺伝子解析技術の進歩により、不整脈に関連する原因遺伝子としていくつかのチャネル遺伝子が同定されている。
近年、本発明者らが、先天的に徐脈を呈する家系において、徐脈に関連する遺伝子を解析したところ、洞結節の機能に重要なチャネルのうち、Gタンパク質制御カリウムチャネルのひとつであるKCNJ3の新規遺伝子変異が同定された。脈が異常に遅い表現型を有する患者について、患者へのインフォームドコンセント及び施設の倫理委員会の承認を得た上で、患者及びその家族の遺伝子解析を行った結果、家族における徐脈表現型の有無は、KCNJ3の同遺伝子変異の有無に連動していることが確認された。この変異は、KCNJ3の遺伝子産物であるKCNJ3タンパク質のN末端から83番目のアミノ酸がアスパラギン(N)からヒスチジン(H)に変化したもの(以降は「KCNJ3 N83H」と称する場合がある。)に対応する。KCNJ3 N83Hの表現型が徐脈を呈することから、KCNJ3遺伝子のKCNJ3 N83Hに係る変異は優性遺伝であることが示唆された(例えば、特許文献1を参照)。
KCNJ3の遺伝子産物であるKCNJ3蛋白質は、KCNJ5と共にヘテロ四量体として心臓アセチルコリン活性化カリウムチャネル(KAChチャネル又は、Kir3.1/3.4チャネル)を構成する。迷走神経終端よりアセチルコリンが放出されるとムスカリン作動性アセチルコリン受容体であるM2受容体の活性化を介してKAChチャネルが開口し、カリウムイオンが細胞外へ流出することにより心拍数を減少させる。アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた二電極電位クランプ法による実験において、アセチルコリン(ACh)添加前及び添加後のいずれも、変異型(KCNJ3 N83H)KAChチャネルは野生型(KCNJ3 WT)KAChチャネルに比べて5~10倍電流が流れやすく、変異型のほうがチャネル活性が大きいことが確認された。
このKCNJ3の変異による疾患は、遺伝性徐脈性不整脈の1つとして新たに定義された。同病は、KAChチャネロパチー又は、Kir3.1/3.4チャネロパチーとも呼ぶことができる。同病は、徐脈により生体機能の維持に必要な心拍出量が低下し、身体活動性・生活の質を下げる希少不整脈である。また同病は、進行に伴い、低心拍出量性心不全、意識消失、突然死などの深刻なリスクを有する。
前述のとおり、KAChチャネロパチーはKCNJ3の変異による遺伝性徐脈性不整脈であり、KCNJ3のモジュレーター(アゴニスト又はアンタゴニスト)により、病態を改善することが期待される。しかし、現在に至るまでKAChチャネルを標的とした徐脈性不整脈の治療効果を有する具体的な化合物は報告されていない。
また、どのようなモジュレーターが治療に有効であるかも不明である。ヒト野生型KCNJ3 のモジュレーターが、「KCNJ3 N83H」にも有効であるかについても、予測することは困難である。
特開2010-136660号
本発明は、新規な徐脈性不整脈治療薬を提供することを課題とする。
(3R,4S)-7-ヒドロキシメチル-2,2,9-トリメチル-4-(フェネチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2H-ピラノ[2,3-g]キノリン-3-オール(以下、化合物(I)とも記載する)は、心房細動の治療効果を有する化合物である(国際公開第2005/090357号など参照)。本発明者らは、化合物(I)がヒト野生型KCNJ3の遺伝子産物であるヒト野生型KCNJ3蛋白質とヒト野生型KCNJ5の遺伝子産物であるヒト野生型KCNJ5蛋白質から構成されるヒト野生型KAChチャネル(以降は「KCNJ3 WT KAChチャネル」という場合がある)の阻害作用を有することを見出している。
また、(3R,4S)-6-アミノ-3,4-ジヒドロ-2,2-ジメチル-7-ニトロ-4-(2-フェネチルアミノ)-2H-1-ベンゾピラン-3-オール(以下、化合物(II)とも記載し、化合物(I)と(II)合わせて本発明化合物とも記載する。)は、心房選択的な不応期延長作用を有し、不整脈への有効性が報告されている化合物である(国際公開第01/21610号など参照)。本発明者らは、化合物(II)も「KCNJ3 WT KAChチャネル」の阻害作用を有することを見出している。
上記のとおり、本発明化合物は、KCNJ3 WT KAChチャネルの阻害作用による抗心房細動作用が知られている。しかし、頻脈性疾患の中でも特に高頻脈である心房細動と、徐脈性の疾患である遺伝性徐脈性不整脈とはおよそ正反対の病態ともいえる。また、本発明化合物がKCNJ3 N83H蛋白質とヒト野生型KCNJ5蛋白質から構成される変異KAChチャネル(以降は「KCNJ3 N83H KAChチャネル」という場合がある)阻害作用を示すかは不明であった。したがって本発明化合物が遺伝性徐脈性不整脈の治療剤となるかについて予測は困難であった。
しかし、本発明者らが鋭意検討したところ、おどろくべきことに、本発明化合物が「KCNJ3 WT KAChチャネル」よりも「KCNJ3 N83H KAChチャネル」において強い阻害作用を示すことが見いだされた。
また、本発明者らが検討したところ、KAChチャネロパチーは、洞性徐脈のほか、洞停止、洞房ブロック、房室ブロックなど、様々な病態を呈することが明らかとなった。従来の不整脈治療において、これらの様々な病態の全てに1剤で有効な既存薬は知られていない。
しかし、本発明者らが鋭意検討したところ、おどろくべきことに、本発明化合物がゼブラフィッシュモデルにおいて「KCNJ3 N83H KAChチャネル」に由来する洞性徐脈、洞停止、洞房ブロック、房室ブロックの全ての病態に高い抑制効果を示すことを見出し、本発明化合物がKAChチャネル遺伝子の変異による遺伝性徐脈性不整脈(KAChチャネロパチー)の最初の薬剤になりうることを明らかにした。
さらに、本発明者らが検討したところ、野生型のゼブラフィッシュモデルにおいても、本発明化合物が心拍数を増加させた。すなわち、本発明化合物は、KAChチャネル変異によらない徐脈にも有効であることが確認された。
また、本発明化合物は、KCNJ5タンパク質の変異に基づく不整脈、特に、KCNJ5タンパク質のN末端から101番目のアミノ酸のトリプトファン(W)からシステイン(C)への変異に基づく徐脈性不整脈にも有効であることが確認された。
したがって、本発明は、以下のとおりである。
(1)
下記の化合物(I)若しくは化合物(II)又はそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含む徐脈性不整脈の治療剤。
Figure 0007468869000001
Figure 0007468869000002
(式中、Phはフェニル基を表す。)
(2)
前記徐脈性不整脈が、遺伝性徐脈性不整脈である、(1)に記載の治療剤。
(3)
前記徐脈性不整脈が、洞性徐脈、洞停止、洞房ブロック又は房室ブロックのいずれかである、(1)に記載の治療剤。
(4)
前記徐脈性不整脈が、洞性徐脈、洞停止、洞房ブロック又は房室ブロックのいずれかであり、かつ遺伝性徐脈性不整脈である、(1)に記載の治療剤。
(5)
下記の化合物(I)又はそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含む、(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の治療剤。
Figure 0007468869000003
(式中、Phはフェニル基を表す。)
(6)
下記の化合物(II)又はそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含む、(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の治療剤。
Figure 0007468869000004
(式中、Phはフェニル基を表す。)
(7)前記徐脈性不整脈が、KCNJ3タンパク質のN末端から83番目のアミノ酸のアスパラギン(N)からヒスチジン(H)への変異に基づく不整脈である、(1)乃至(6)のいずれか1つに記載の治療剤。
(8)前記徐脈性不整脈が、KCNJ5タンパク質のN末端から101番目のアミノ酸のトリプトファン(W)からシステイン(C)への変異に基づく不整脈である、(1)乃至(6)のいずれか1つに記載の治療剤。
本発明は、徐脈性不整脈の治療剤を提供する。
化合物(II)による、アフリカツメガエルの卵母細胞に発現させたKCNJ3 WT KAChチャネル(Kir3.1-WT)及びKCNJ3 N83H KAChチャネル(Kir3.1-N83H)の電流振幅の変化を、二電極電位クランプ法を用いて検出した際のグラフである。 化合物(II)の濃度の対数に対する、アフリカツメガエルの卵母細胞に発現させたKCNJ3 WT KAChチャネル(WT)及びKCNJ3 N83H KAChチャネル(N83H)の電流振幅の変化率(%)(膜電位が+20mVの点での電流量で評価)を、二電極電位クランプ法を用いて検出した際のグラフである。 トランスジェニック・ゼブラフィッシュの作製のための、ヒトKCNJ3 WT、ヒトKCNJ5及びmCherryの3つの遺伝子を2Aペプチドで連結した遺伝子を含む遺伝子コンストラクト(Kir3.1-WT)並びにヒトKCNJ3 N83H、ヒトKCNJ5及びmCherryの3つの遺伝子を2Aペプチドで連結した遺伝子を含む遺伝子コンストラクト(Kir3.1-N83H)である。 心室にGFPおよび心房にGFPとmCherryを発現した生後2日目のKCNJ3 WTゼブラフィッシュ及びKCNJ3 N83H変異ゼブラフィッシュの稚魚の心臓におけるGFP及びmCherryの発現の程度を、蛍光顕微鏡で観察した際の写真である。 KCNJ3 WTゼブラフィッシュ及びKCNJ3 N83H変異ゼブラフィッシュに化合物(II)を作用させた際、及び作用させる前における各ゼブラフィッシュにおける静脈洞、心房及び心室の拍動の動画を基に、解析ソフトを用いて心拍数と拍動リズムの詳細な解析を行った図である。 KCNJ3 WTゼブラフィッシュ及びKCNJ3 N83H変異ゼブラフィッシュにおける、化合物(II)を作用させた際、及び作用させる前の心拍数を比較するグラフである。 アフリカツメガエルの卵母細胞に発現させたKCNJ3 WT KAChチャネル(野生型KAChチャネル)及びKCNJ3 N83H KAChチャネル(N83H変異型チャネル)に、化合物(I)を0.01μM、0.1μM及び1μMの3用量で作用させた際の、各膜電位における電流量を、二電極電位クランプ法を用いて測定した際のグラフである。 洞停止および房室ブロックを起こすKCNJ3 N83H変異ゼブラフィッシュに化合物(I)の100nMを作用させる前及び作用後1時間における静脈洞、心房及び心室の拍動の動画を基に、解析ソフトを用いて心拍数と拍動リズムの詳細な解析を行った図である。 洞停止を起こすKCNJ3 N83H変異ゼブラフィッシュにTertiapin-Qの100nMを作用させる前及び作用後1時間における静脈洞、心房及び心室の拍動の動画を基に、解析ソフトを用いて心拍数と拍動リズムの詳細な解析を行った図である。 アフリカツメガエルの卵母細胞に発現させたKCNJ5 WT/W101C KAChチャネル(W101Cヘテロ接合変異型KAChチャネル)に、化合物(I)を0.01μM、0.1μM及び1μMの3用量で作用させた際の、各膜電位における電流量を、二電極電位クランプ法を用いて測定した際のグラフである。 アフリカツメガエルの卵母細胞に発現させたKCNJ5 WT/W101C KAChチャネル(W101Cヘテロ接合変異型KAChチャネル)に、化合物(I)を0.01μM、0.1μM及び1μMの3用量で作用させた際の、-70mVと+30mVの2つの膜電位における各濃度を作用させた際の電流量の阻害率を示したグラフである。
遺伝性徐脈性不整脈とは、先天的に徐脈を呈する家系において見いだされた遺伝性かつ徐脈性の不整脈である。本家系の遺伝性徐脈性不整脈は、本発明者らにより、KCNJ3の遺伝子変異の有無に連動していることが確認された。より具体的には、この変異は、KCNJ3の遺伝子産物であるKCNJ3タンパク質のN末端から83番目のアミノ酸のアスパラギン(N)からヒスチジン(H)への変異であることが確認された。KAChチャネロパチー又はKir3.1/3.4チャネロパチーは、遺伝性かつ徐脈性の不整脈の新たな1病態として理解される。
したがって、本発明における遺伝性徐脈性不整脈とは、以下に記載の疾患と理解される。
(1)KCNJ3の変異に基づく徐脈性不整脈。
(2)KCNJ3タンパク質のN末端から83番目のアミノ酸の変異に基づく徐脈性不整脈。
(3)KCNJ3タンパク質のN末端から83番目のアミノ酸のアスパラギン(N)からヒスチジン(H)への変異に基づく徐脈性不整脈。
(4)徐脈性不整脈が、洞性徐脈、洞停止、洞房ブロック又は房室ブロックである(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の疾患。
本発明において、洞性徐脈とは、不整脈の症状のうち、拍動リズムは正常で規則的でありながらも心拍数が遅くなる病態である。洞性徐脈は、一般に、心拍数が毎分50回以下に減少する病態として理解される。洞性徐脈は、洞不全症候群のうちRubenstein分類によるI群の病態として理解される。
本発明において、洞停止とは、洞結節から電気信号が発生しなくなり心房興奮が起こらなくなる病態である。
本発明において、洞房ブロックとは、洞結節と心房との間の興奮伝導障害により心房興奮が起こらなくなる病態をいう。
本発明において、房室ブロックとは、心房と心室との間の興奮伝導障害により心室興奮が起こらなくなる病態をいう。房室ブロックは、以下の病型分類を含む。
(1)第I度房室ブロック
心房-心室間の伝導時間が延長しているもの。(興奮の伝導は保たれている)
(2)第II度房室ブロック:心房-心室の伝導が突然途絶するもの。以下の2類型を含む。
(2-1)Wenckebach型:心房-心室間の伝導が徐々に延長したあとに心室の興奮が脱落するもの。
(2-2)MobitzII型:心房-心室間の伝導の延長なしに突然心室の興奮が脱落するもの。
(2-3)高度房室ブロック:まれにしか房室伝導を認めない。
(3)第III度房室ブロック:心房-心室間の伝導が完全に途絶したもの。
KCNJ3とは、ヒトの遺伝子の一つであり、KCNJ3の遺伝子産物であるKCNJ3タンパク質は、KCNJ5タンパク質と共にヘテロ四量体として心臓アセチルコリン活性化カリウムチャネル(KAChチャネル又は、Kir3.1/3.4チャネル)を構成する。
なお、KCNJ3タンパク質は、Kir3.1またはGIRK1とも呼ばれ、KCNJ5タンパク質は、Kir3.4またはGIRK4とも呼ばれる。
本発明において、KCNJ3 N83Hとは、前述のとおり、KCNJ3の遺伝子産物であるKCNJ3タンパク質のN末端から83番目のアミノ酸がアスパラギン(N)からヒスチジン(H)に変化したものを意味する。
本発明の治療剤が対象とする患者は、本治療剤が有効である限りにおいて限定されない。より詳細に特定すると、本発明の治療剤が対象とする患者は、以下のいずれかの態様である。
(1)遺伝性徐脈性不整脈の可能性がある患者
(2)遺伝性徐脈性不整脈と診断された患者
(3)KCNJ3遺伝子に変異を有する患者。
(4)KCNJ3タンパク質のN末端から83番目のアミノ酸に変異を有する患者。
(5)KCNJ3タンパク質のN末端から83番目のアミノ酸がアスパラギン(N)からヒスチジン(H)に変化している患者。
(6)KCNJ5遺伝子に変異を有する患者
(7)遺伝性かつ徐脈性の不整脈患者。
(8)徐脈性不整脈の患者。
(9)不整脈の患者。
本発明の治療剤が対象とする疾患は、本治療剤が有効である限りにおいて限定されない。本発明の治療剤が対象とする症状は、以下を含みうる。
(1)不整脈、(2)徐脈性不整脈、(3)洞性徐脈、(4)洞停止、(5)洞房ブロック、(6)房室ブロック、(7)洞機能不全、(8)徐脈性心不全。
前述のとおり、脈が異常に遅い表現型を有する患者について、患者及びその家族の遺伝子解析を行った結果、家族における徐脈表現型の有無は、KCNJ3の同遺伝子変異の有無に連動していることが確認された。
発明者らは、KCNJ3およびKCNJ5について、N83H以外の希少変異をも同定した。これらの変異も不整脈の病態に関与している可能性がある。
N83H以外の変異とは、(1)KCNJ3 F85L、(2)KCNJ3 N496H、(3)KCNJ5 D262G、(4)KCNJ5 V303I、(5)KCNJ5 G387Rである。
なお、前述の特許文献1(特開2010-136660号)の他に、本発明の優先日ののち、GIRKチャネルの変異、特にKCNJ5の変異による遺伝性徐脈性不整脈の例が報告された(Circ Genom Precis Med. 2019;12:e002238 2019年1月15日公開を参照)。前述のとおり、このKCNJ5の変異による不整脈も本発明の治療対象である。
その他の態様として、N83H以外の変異とは、(6)KCNJ5 W101Cである。
本明細書に示された本発明化合物は、前述の(1)乃至(6)の変異に基づく不整脈についても治療効果を有する可能性がある。
なお、前述の(1)乃至(6)の変異に対する本発明化合物による効果は、KCNJ3 N83H変異への効果と、相乗的でも、相加的でも、別の効果であっても良い。
したがって、本発明の治療剤が対象とする疾患は、前述の、KCNJ3のN83H変異に基づく徐脈性不整脈(ここに再掲するにあたり(A)と記載する)の他に以下のものも挙げられる。
(A1)KCNJ3タンパク質のN末端から85番目のアミノ酸の (F)から(L)への変異に基づく不整脈。
(A2)KCNJ3タンパク質のN末端から496番目のアミノ酸の (N)から(H)への変異に基づく不整脈。
(B)KCNJ5の変異に基づく不整脈。
(B1)KCNJ5タンパク質のN末端から262番目のアミノ酸の(D)から(G)への変異に基づく不整脈。
(B2)KCNJ5タンパク質のN末端から303番目のアミノ酸の(Y)から(I)への変異に基づく不整脈。
(B3)KCNJ5タンパク質のN末端から387番目のアミノ酸の(G)から(R)への変異に基づく不整脈。
これら5つのうち、より重要な疾患は(A2)及び(B1)であり、その不整脈としては特に心房細動が想定される。
その他の態様として、本発明の治療剤が対象とする疾患は、前述の、KCNJ3のN83H変異に基づく徐脈性不整脈の他に以下のものも挙げられる。
(B4)KCNJ5タンパク質のN末端から101番目のアミノ酸のトリプトファン(W)からシステイン(C)への変異に基づく不整脈。
疾患(B4)も重要であり、その不整脈としては、徐脈性不整脈が想定される。
したがって、前述した本発明の治療剤が対象とする患者の詳細な態様には、以下も含まれる。
(10)KCNJ5タンパク質のN末端から101番目のアミノ酸がトリプトファン(W)からシステイン(C)に変化している患者。
なお、念のため、前記の記載におけるアミノ酸の一文字表記を以下のとおり補足する。F:フェニルアラニン、L:ロイシン、N:アスパラギン、H:ヒスチジン、D:アスパラギン酸、G:グリシン、V:バリン、I:イソロイシン、R:アルギニン、W:トリプトファン、C:システイン。
本発明の治療剤に含まれる化合物(I)とは、前述のとおり、(3R,4S)-7-ヒドロキシメチル-2,2,9-トリメチル-4-(フェネチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2H-ピラノ[2,3-g]キノリン-3-オールである。
一つの態様として、化合物(I)は、(3R,4S)体を含むラセミ混合物またはジアステレオマー混合物でもよい。
その他の態様として、本発明の治療剤に含まれる化合物は、化合物(I)の類縁体であっても良い。当該類縁体の例としては、国際公開第2005/090357号に記載の化合物が挙げられる。
本発明の治療剤に含まれる化合物(II)とは、前述のとおり、(3R,4S)-6-アミノ-3,4-ジヒドロ-2,2-ジメチル-7-ニトロ-4-(2-フェネチルアミノ)-2H-1-ベンゾピラン-3-オールである。
一つの態様として、化合物(II)は、(3R,4S)体を含むラセミ混合物またはジアステレオマー混合物でもよい。
その他の態様として、本発明の治療剤に含まれる化合物は、化合物(II)の類縁体であっても良い。当該類縁体の例としては、国際公開第01/21610号に記載の化合物が挙げられる。
本発明の治療剤に含まれる化合物(I)及び(II)は、薬理学的に許容される塩の形態であっても良い。
薬理学的に許容される塩の例としては塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩及びサリチル酸塩等が挙げられる。
化合物(I)の好ましい塩は、塩酸塩、マレイン酸塩及びメタンスルホン酸塩である。
化合物(II)の好ましい塩は、塩酸塩である。
本発明の治療剤に含まれる化合物は、結晶であっても良い。結晶は、本発明の目的を阻害しない限り、どのような結晶形であっても良い。化合物(I)の好ましい結晶形の例としては、国際公開第2010/126138号に記載の結晶形が挙げられる。一つの態様として、同結晶は、X線源としてCu・Kαを用いた際の粉末X線回折のパターンとして、回折角2θ=5.6、8.2、12.0、14.7、16.6、16.9、17.9、18.4、22.5、24.5、27.6(±0.2°)に特徴的なピークを有する結晶である。その他の態様として、同結晶は、前記11本のピークのうち、任意の3本、5本、7本または9本のピークを有する結晶である。粉末X線回折による結晶形の同定は、当業者による技術常識、例えば、日本薬局方の記載に基づき行われる。Cu・Kα線以外のX線を用いた場合は、ブラッグの式に基づく2θ値の換算により回折角のパターンが比較される。2θ値の測定誤差は、通常±0.2°の範囲であるが、0.2°以上の誤差を有するピークが少数存在したとしても、当業者の合理的な同定を妨げるものではない。
本発明の治療剤に含まれる化合物(I)は、公知の方法によって製造できる。当該公知の方法とは、例えば、国際公開第2005/090357号、国際公開第2010/126138号である。また、化合物(I)の製造にあたっては、国際公開第2007/105658号、国際公開第2014/050613号、国際公開第2014/051077号、国際公開第2015/012271号などを参考にすることができる。
本発明の治療剤に含まれる化合物(II)は、国際公開第01/21610号などの公知の方法によって製造できる。
本発明は、前記の治療に有効な量の本発明化合物を含む医薬組成物又は獣医薬組成物を提供する。
本発明に係る化合物の投与形態としては、注射剤(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内注射)、軟膏剤、坐剤、エアゾール剤等による非経口投与又は錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁液剤等による経口投与をあげることができる。
本発明に係る化合物を含有する上記の医薬的又は獣医薬的組成物は、全組成物の重量に対して、本発明に係る化合物を約0.01~99.5%、好ましくは、約0.1~30%を含有する。
本発明に係る化合物に又は該化合物を含有する組成物に加えて、他の医薬的に又は獣医薬的に活性な化合物を含ませることができる。
また、これらの組成物は、本発明に係る化合物の複数を含ませることができる。
本発明化合物の臨床的投与量は、年令、体重、患者の感受性、症状の程度等により異なるが、通常効果的な投与量は、成人一日0.003~1.5g、好ましくは、0.01~0.6g程度である。しかし必要により上記の範囲外の量を用いることもできる。
本発明化合物は、製薬の慣用手段によって投与用に製剤化される。
即ち、経口投与用の錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤は、賦形剤、例えば白糖、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、マンニット;結合剤、例えばヒドロキシプロピルセルロース、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン;崩壊剤、例えばでんぷん、カルボキシメチルセルロース又はそのカルシウム塩、微結晶セルロース、ポリエチレングリコール;滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム又はカルシウム、シリカ;潤滑剤、例えばラウリル酸ナトリウム、グリセロール等を使用して調製される。
注射剤、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤及びエアゾール剤は、活性成分の溶剤、例えば水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール;界面活性剤、例えばソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、水素添加ヒマシ油のポリオキシエチレンエーテル、レシチン;懸濁剤、例えばカルボキシメチルナトリウム塩、メチルセルロース等のセルロース誘導体、トラガント、アラビアゴム等の天然ゴム類;保存剤、例えばパラオキシ安息香酸のエステル、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸塩等を使用して調製される。
経皮吸収型製剤である軟膏には、例えば白色ワセリン、流動パラフィン、高級アルコール、マクロゴール軟膏、親水軟膏、水性ゲル基剤等が用いられる。
坐剤は、例えばカカオ脂、ポリエチレングリコール、ラノリン、脂肪酸トリグリセライド、ココナット油、ポリソルベート等を使用して調製される。
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、以下に実施例中で用いる用語を補足する。
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
cRNA:相補的RNA
Addgene:非営利のプラスミドバンクの名称
DMSO:ジメチルスルホキシド
ND96溶液:以下の水溶液
96 mM NaCl, 2 mM KCl, 1.8 mM CaCl2, 1 mM MgCl2, 5 mM HEPES, pH 7.4
Ba2+:塩化バリウム水溶液(又はその他の2価のバリウム塩水溶液)
mCherry:赤色蛍光タンパク質(実験医学増刊 Vol.35 No.5など参照)
GFP:緑色蛍光タンパク質(日本薬理学雑誌 Vol.138 (2011) No.1 P13-17など参照)
ジャームライン・トランスミッション:生殖細胞系伝達
(実施例1)
KCNJ3 N83H KAChチャネルに対する化合物(II)の阻害作用について解析するため、アフリカツメガエルの卵母細胞にKCNJ3 N83H又は野生型KCNJ3(KCNJ3 WT)のcRNA及び野生型KCNJ5のcRNAを注入することによりKAChチャネルを発現させ、電極を挿入して二電極電位クランプ法によりチャネル活性を確認した。Gタンパク質のβおよびγサブユニットと共発現させることにより、活性化状態にあるKAChチャネルを介した全細胞電流量を直接測定することができる。
ヒトKCNJ3 WTのコード配列はヒトKCNJ3 cDNAクローン(Invitrogen社)をPCRで増幅し、pCS2+ベクター(Addgene製)にサブクローニングした。KCNJ3 N83Hを与えるc.247A>C変異は、PCRによる部位特異的変異導入法により導入した。ヒトKCNJ5コード配列は同様に、ヒトKCNJ5 cDNAクローン(Invitrogen社)をPCRで増幅し、pCS2+ベクターにサブクローニングした。KCNJ3 WT、KCNJ3 N83HおよびKCNJ5のcRNAは、線形化されたcDNAよりmMESSAGE mMACHINEキット(Life Technologies社)を用いてin vitro転写することにより合成した。KCNJ3 N83H又はKCNJ3 WTのcRNA及び野生型KCNJ5のcRNAをGタンパク質のβおよびγサブユニットのcRNAとともにアフリカツメガエルの卵母細胞に注入し、ND96溶液中で18℃にて48-96時間孵置した。
ガラスピペット電極は、3Mの塩化カリウム水溶液を充填した場合、0.3~1.0MΩの抵抗を有した。細胞外液は、40mMの塩化カリウム、50mMの塩化ナトリウム、3mMの塩化マグネシウムM、0.15mMのニフルム酸、および5mMのHEPESを含む試験浴溶液を、水酸化カリウムでpH7.4に調整した。
発現させたKAChチャネルを介した全細胞電流量は、GeneClamp 500 増幅器 (Molecular Devices社)を用いて 二電極電位クランプ法により測定した。化合物(II)はDMSOに溶解し、最終濃度0.001, 0.01, 0.03, 0.1, 1, 10 μMとなるように潅流液を調製した。電流量がほぼ定常になった状態で化合物(II)を含む潅流液を低濃度より添加し、その後同様に順に高濃度潅流液へ置換しながら電流量を記録した。記録終了時にBa2+(3mM)を加えて内因性リーク電流を測定した。パルスプロトコールは図の凡例に示す。測定データはClampfit 10.2 (Molecular Devices社)を用いて解析した。IC50値はGraphPad Prism version 5.00(GraphPad Software社)を用いて算出した。
化合物(II)は、KCNJ3 N83H KAChチャネルに対しても濃度依存性の阻害効果を認め、そのIC50値はKCNJ3 WT KAChチャネルに対してのものより低く(N83H変異型; 50 ± 12 nM (n=14), 野生型; 230 ± 60 nM (n=13), p < 0.01)、化合物(II)は変異型KAChチャネルに対してより高い親和性を示した(図1、2)。
(実施例2)
生体内における化合物(II)のKCNJ3 N83H KAChチャネルに対する阻害作用について解析するため、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)の受精卵にKCNJ3 N83Hをコードする遺伝子を組み込むことにより、疾患モデル動物としてKCNJ3変異を導入したトランスジェニック・ゼブラフィッシュを作製した。比較例として、KCNJ3 WT発現用ゼブラフィッシュも同様に作製した。
トランスポゾンTol2を用いたトランスポゾン転移システムによってトランスジェニック・ゼブラフィッシュを作製した。心臓KAChチャネルは洞房結節、房室結節、心房筋に発現しているため、ゼブラフィッシュにおいて標的遺伝子を心房特異的に発現させるamhc(atrial myosin heavy chain)プロモーターの制御下でヒトKCNJ3 WT又はN83HとヒトKCNJ5、さらにこれらの遺伝子導入が蛍光顕微鏡下で判別できるようにmCherryの3つの遺伝子を2Aペプチドで連結した遺伝子コンストラクトを作製した(図3)。次に、Tol2のコードする転移酵素のmRNAとこのコンストラクトを同時に受精卵に微量注入した。これにてできた成魚を野生型ゼブラフィッシュと交配させることで、蛍光顕微鏡で心房にmCherryが陽性の稚魚を産むことによってジャームライン・トランスミッションが確認できた魚をF0ファウンダーとした。このF0ファウンダーと心室・心房の両方にGFPを発現する野生型ゼブラフィッシュhspGFF3A(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 2008;105:1255-1260.)を交配させることにより、心室にGFPおよび心房にGFPとmCherryを発現した生後2日目のF1トランスジェニック・ゼブラフィッシュ稚魚を用いて(図4)、心拍数および心臓の拍動リズムの解析を行った。具体的には、35mm径のガラスボトムディッシュ上に0.5%の低融点アガロースゲルでゼブラフィッシュ稚魚を固定し、0.03% sea salt水溶液中で稚魚の心臓を蛍光顕微鏡で観察した。蛍光顕微鏡の付属カメラで取得した心拍動の動画をオリジナルのMモード解析ソフト(The Journal of clinical investigation. 2007;117:2812-2824.)を用いて心拍数と拍動リズムの詳細な解析を行った。心拍数は、洞結節が存在する静脈洞部の拍動を測定した。心房におけるmCherryの発現の程度は、KCNJ3 WTゼブラフィッシュとKCNJ3 N83H変異ゼブラフィッシュとの間で差が認められなかったことから、KAChチャネル遺伝子の発現量は両者で同等であるものと考えられた。KCNJ3 N83H変異ゼブラフィッシュでは、著明な心房拡大とヒト症例同様の徐脈性不整脈の表現型(洞停止、洞性徐脈、洞房ブロック、房室ブロック)が認められた(図5)。次に、0.03% sea salt水溶液を100 nM 化合物(II)入りの0.03% sea salt水溶液に置換し、1時間後の心拍動を同様に解析した。おどろくべきことに、100 nMの化合物(II)は、KCNJ3 N83H変異ゼブラフィッシュにおいて心拍数の増加と徐脈性不整脈の改善効果を示した(図5、6)。
なお、図5中の横軸のスケールバーは2秒である。
以上から、化合物(II)は、生体内においてもKCNJ3 N83H KAChチャネルに対する阻害作用を有し、KAChチャネル遺伝子の変異による遺伝性徐脈性不整脈治療薬となり得ることが示唆された。さらに、KCNJ3 WTゼブラフィッシュにおいても化合物(II)は過剰な頻拍をきたすことなく、適度な心拍数の増加をもたらしたことから、KAChチャネル遺伝子の変異によらない徐脈に対しても有効性を示す可能性が示唆された(図6)。
(実施例3)
化合物(I)についても、実施例1および2と同様の手法、すなわちアフリカツメガエル卵母細胞での二電極電位クランプ法およびトランスジェニック・ゼブラフィッシュモデルを用いた実験において、KCNJ3 N83H KAChチャネルに対する阻害効果と変異ゼブラフィッシュにおける心拍数増加と徐脈性不整脈の改善効果を確認した(図7、8)。
化合物(I)は、KCNJ3 WT KAChチャネルのみならずKCNJ3 N83H KAChチャネルに対しても阻害効果を認めたが、その作用は、WTに対してよりもN83Hに対しての方が強いものであった(図7)。
さらに、化合物(I)は、トランスジェニック・ゼブラフィッシュモデルを用いた実験において、N83H変異に基づく洞停止および房室ブロックを改善した(図8)。
(実施例4)
実施例1と同様にして、KCNJ5 WT/W101C KAChチャネル(W101Cヘテロ接合変異型KAChチャネル)に対する化合物(I)の阻害作用について解析した。
アフリカツメガエルの卵母細胞に、常染色体優性遺伝形式によるヘテロ接合を模するため、等モル量の野生型KCNJ5(KCNJ5 WT)とKCNJ5 W101CのcRNAを、野生型KCNJ3(KCNJ3 WT)のcRNAとともに注入することにより、W101Cヘテロ接合変異型KAChチャネルを発現させ、電極を挿入して二電極電位クランプ法によりチャネル活性を確認した。
前述のヒトKCNJ5 cDNAクローン(Invitrogen社)をPCRで増幅し、pCS2+ベクター(Addgene製)にサブクローニングしたものを鋳型にして、KCNJ5 W101Cを与えるc.303G>C変異をPCRによる部位特異的変異導入法により導入した。KCNJ5 WT、KCNJ5 W101CおよびKCNJ3のcRNAは、線形化されたcDNAよりmMESSAGE mMACHINEキット(Life Technologies社)を用いてin vitro転写することにより合成した。等モル量のKCNJ5 WTとKCNJ5 W101CのcRNA及び野生型KCNJ3のcRNAをアフリカツメガエルの卵母細胞に注入し、ND96溶液中で18℃にて48-96時間孵置した。
ガラスピペット電極は、3Mの塩化カリウム水溶液を充填した場合、0.3~1.0MΩの抵抗を有した。細胞外液は、40mMの塩化カリウム、50mMの塩化ナトリウム、3mMの塩化マグネシウムM、0.15mMのニフルム酸、および5mMのHEPESを含む試験浴溶液を、水酸化カリウムでpH7.4に調整した。
発現させたKAChチャネルを介した全細胞電流量は、GeneClamp 500 増幅器 (Molecular Devices社)を用いて 二電極電位クランプ法により測定した。化合物(I)はDMSOに溶解し、最終濃度0.01, 0.1, 1 μMとなるように潅流液を調製した。電流量がほぼ定常になった状態で化合物(I)を含む潅流液を低濃度より添加し、その後同様に順に高濃度潅流液へ置換しながら電流量を記録した。記録終了時にBa2+(3mM)を加えて内因性リーク電流を測定した。パルスプロトコールは図の凡例に示す。
化合物(I)は、KCNJ5 WT/W101C KAChチャネル(W101Cヘテロ接合変異型KAChチャネル)に対しても濃度依存性の阻害効果を示した(図10、11)。
(比較例1)
Tertiapin-Qは、KCNJ3 WT KAChチャネルの阻害作用を有するペプチドである(Synthesis of a stable form of tertiapin: a high-affinity inhibitor for inward-rectifier K+ channels. Jin W, Lu Z. Biochemistry. 1999 Oct 26;38(43):14286-93.)。この、KCNJ3 WT KAChチャネルの阻害であるTertiapin-Qを用いて、KCNJ3 N83H KAChチャネルに対する阻害効果を調べた。
実施例2と同様の手法で、Tertiapin-Qについて、トランスジェニック・ゼブラフィッシュモデルを用いた実験を行った。Tertiapin-Qは、N83H変異に基づく洞停止を改善しなかった(図9)。
本比較実験により、本発明における治療効果が、本発明化合物に特有の効果であり、かつ顕著な効果であることが確かめられた。
本発明により、本発明化合物(I)および(II)は徐脈性不整脈の治療剤として用いることができる。

Claims (8)

  1. 下記の化合物(I)若しくは化合物(II)又はそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含む徐脈性不整脈の治療剤。
    Figure 0007468869000005
    Figure 0007468869000006
    (式中、Phはフェニル基を表す。)
  2. 前記徐脈性不整脈が、遺伝性徐脈性不整脈である、請求項1に記載の治療剤。
  3. 前記徐脈性不整脈が、洞性徐脈、洞停止、洞房ブロック又は房室ブロックのいずれかである、請求項1に記載の治療剤。
  4. 前記徐脈性不整脈が、洞性徐脈、洞停止、洞房ブロック又は房室ブロックのいずれかであり、かつ遺伝性徐脈性不整脈である、請求項1に記載の治療剤。
  5. 下記の化合物(I)又はそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の治療剤。
    Figure 0007468869000007
    (式中、Phはフェニル基を表す。)
  6. 下記の化合物(II)又はそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の治療剤。
    Figure 0007468869000008
    (式中、Phはフェニル基を表す。)
  7. 前記徐脈性不整脈が、KCNJ3タンパク質のN末端から83番目のアミノ酸のアスパラギン(N)からヒスチジン(H)への変異に基づく不整脈である、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の治療剤。
  8. 前記徐脈性不整脈が、KCNJ5タンパク質のN末端から101番目のアミノ酸のトリプトファン(W)からシステイン(C)への変異に基づく不整脈である、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の治療剤。
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