JP7461806B2 - ビールテイスト飲料の製造方法 - Google Patents

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本発明は、ビールテイスト飲料の製造方法に関する。
日本酒、ビールのような醸造業界では、オリを除去して清澄化する処理が行われてきた。例えば、ビール醸造における仕込工程では、煮沸した麦汁の熱凝固物を遠心力により清澄化槽(Whirlpool)の底面中心に集めてトゥルーブ(trub cone)を形成し、このトゥルーブを麦汁から分離することで清澄化している(非特許文献1)。このトゥルーブは、酵母に吸着して発酵を妨げたり、ビールの泡持ちを低下させるなど、品質に影響を及ぼすものであるため、発酵開始までの間に除去する必要がある。一方、トゥルーブを分離するに際し、麦汁とトゥルーブとを完全に切り分けることは困難であり、トゥルーブを含有するおそれのある麦汁は使用されないことから欠減が生じるが、生産性の観点からは、欠減が少ない製造方法が望まれる。
Wolfgang Kunze著, Susan Pratt訳, Kunze, Technology Brewing and Malting 第3版 2004年
しかしながら、実際に清澄化処理を行うまでは、どの程度の欠減が生じるかを判断することはできず、欠減が少ない製造条件を検討することは困難であった。
本発明の課題は、欠減の多寡を容易に推定する方法、及び推定結果に基づいて欠減を低減する方法を提供することである。
本発明は、下記[1]~[4]に関する。
[1]麦汁の煮沸工程を有するビールテイスト飲料の製造に際して、煮沸前の麦汁における総窒素濃度(mg/dl)に対するタンパク質濃度(ng/μl)の比を算出し、前記比に基づいて、ビールテイスト飲料を製造した場合における欠減の多寡を推定する方法。
[2]麦汁の煮沸工程を有するビールテイスト飲料の製造に際して、煮沸前の麦汁における総窒素濃度(mg/dl)に対する分子量10~25kDaのタンパク質濃度(ng/μl)の比を算出し、前記比に基づいて、ビールテイスト飲料を製造した場合における欠減の多寡を推定する方法。
[3][1]又は[2]に記載の方法により欠減が多いと推定された場合において、前記推定に供した麦汁よりも前記比を向上させた麦汁を用いてビールテイスト飲料を製造する、ビールテイスト飲料の製造方法。
[4][1]又は[2]に記載の方法により欠減が多いと推定された場合において、前記推定に供した麦汁よりも前記比を向上させた麦汁を用いてビールテイスト飲料を製造する、欠減の低減方法。
本発明によれば、欠減の多寡を容易に推定することができ、推定結果に基づいて欠減の低減を図ることができる。
実施例2において煮沸開始時のa/bと欠減の関係性を示すグラフである。
本発明者らが鋭意検討したところ、意外なことに、煮沸前の麦汁における総窒素濃度に対するタンパク質濃度の比が高い場合には、硬く崩れ難いトゥルーブが形成され、当該比が低い場合には、柔らかく崩れやすいトゥルーブが形成されることを新たに見出した。即ち、硬く崩れ難いトゥルーブが形成されれば、麦汁とトゥルーブとの分離が比較的容易であり、欠減も少ない。一方、柔らかく崩れやすいトゥルーブの場合、麦汁中にトゥルーブが混入してしまうことにより、使用できない麦汁の量も増加することから、欠減が多くなる。従って、当該比が高ければ欠減が少なく、当該比が低ければ欠減が多いと判断することができる。ここで、当該比が高いことにより硬く崩れ難いトゥルーブが形成する機序の仮説として、「煮沸時に十分な分子量を持つタンパク質の濃度が高い場合、タンパク質同士の結合や、その他の物質との重合反応が促進され凝集物が成長する。成長した凝集物を含む麦汁では清澄化槽における底面中心への集積時に密度が高まりやすく、トゥルーブの硬く崩れ難いという性状につながる。」と想定する。
本発明は、ビールテイスト飲料を製造した場合における欠減の多寡を推定する方法(以下、「本発明の推定方法」とも称する)を提供する。本発明の推定方法は、煮沸前の麦汁における総窒素濃度b(mg/dl)に対するタンパク質濃度a(ng/μl)の比(a/b)を算出し、前記比に基づいて欠減の多寡を推定する方法である。ここで、タンパク質濃度としては、任意の分子量範囲内のタンパク質濃度を採用することもでき、分子量10~85kDa、10~70kDa、10~60kDa、10~50kDa、10~40kDa、10~30kDa、20~85kDa、30~85kDa、40~85kDa、50~85kDa、60~85kDa、70~85kDaなどを適宜選択できるが、10~25kDaのタンパク質濃度における比(a/b)を指標とする態様が好適に例示される。以下、本発明を、分子量10~25kDaのタンパク質を指標とした場合における態様を例にして説明するが、本発明はこの態様に限定されるものではない。
本明細書における「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、酵母による発酵工程を経て得られるビール風味の炭酸飲料を全て包含する。具体的には、ビール、発泡酒、その他醸造酒、リキュール類、ノンアルコール飲料などが挙げられる。本明細書における「欠減」とは、煮沸後の麦汁の清澄化に係る仕込工程の欠減、即ち、以下の式により算出される。本明細書における「煮沸前の麦汁」とは、煮沸工程に供する麦汁を指す。本明細書において、総窒素濃度(mg/dl)は、改良デュマ法により全窒素(タンパク質)の定量法により測定する。本明細書において、タンパク質濃度(ng/μl)は、Labchipを用いて電気泳動により分析する。
欠減(L)=清澄化槽に供給した麦汁量-発酵に供される麦汁量(酵母添加工程による増分を除く)
その他の物質との重合反応としては、特に限定されるものではないが、例えばポリフェノールがあげられる。ポリフェノールはフェノール性のOH基を分子内に複数有する物質の総称であり、水素結合などを通じた会合や疎水結合などによって、タンパク質と相互作用することが知られている。後述する本発明の製造方法により得られるビールテイスト飲料においては、ポリフェノールを含むビールテイスト飲料が好ましく、煮沸前の麦汁においては、30ppm以上の濃度であることが好ましく、50ppm以上であることが好ましく、70ppm以上であることが好ましく、100ppm以上であることが好ましく、ビールテイスト飲料の香味を鑑みれば、さらには300ppm以下であることが好ましく、250ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることが好ましい。
本発明の推定方法において、欠減の多寡は、上記a/bの値が小さい場合には欠減が多いと推定し、大きい場合には欠減が少ないと推定することができる。ここで、判断基準となる値は任意に設定し得るが、分子量10~25kDaのタンパク質濃度における比(a/b)を指標とする場合においては、上記a/bの値が0.6以下の場合に欠減が多いと推定し、0.6を超える場合に欠減が少ないと推定する態様(態様A)が好適に例示される。後述する実施例2で示すように、上記a/bの値が0.6以下の場合に欠減が増加傾向にあるからである。その他、上記a/bの値が0.5以下、0.4以下、0.3以下などの場合に欠減が多いと推定する態様も挙げられる。
本発明は、本発明の推定方法により欠減が多いと推定された場合において、推定に供した麦汁よりも上記a/bの値を向上させた麦汁を用いてビールテイスト飲料を製造する、ビールテイスト飲料の製造方法や、欠減の低減方法についても提供する。ここで、向上の程度は任意であり、例えば、上記a/bの値が0.2であった場合には、0.3まで向上させてもよいし、0.5まで向上させてもよいが、0.6を超える値まで向上させることが好ましい。
上記a/bの値は、麦汁を調製する際のプロテアーゼの使用量の調整、麦からマッシュへのタンパク質抽出量の調整、分子量10~25kDaのタンパク質を含むタンパク抽出物の添加などにより調整することができる。例えば、プロテアーゼの使用量を減らすことや、麦からマッシュへのタンパク質抽出効率を上げることなどにより、上記a/bの値を向上させることができる。また、分子量10~25kDaのタンパク質を含む添加剤を麦汁に添加することによっても上記a/bの値を向上させることができる。このような添加剤としては酒製造で用いられるタンパク質を含むオリ下げ剤などを使用することができる。
本発明において、ビールテイスト飲料の製造方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、以下の態様が例示される。
まず、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料及び水を含む混合物に、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、糖化液とする。必要に応じてホップや苦味料などを糖化液に加えて煮沸し、清澄化槽にて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。この糖化液の代替として、麦芽エキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。発酵・貯酒工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。得られた発酵液を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のビールテイスト飲料を得る。なお、アルコール成分として、さらに、穀物に由来するスピリッツを添加してもよい。スピリッツとは、麦、米、そば、とうもろこし等の穀物を原料として、酵母を用いて発酵させた後、更に蒸留して得られる酒類を意味する。スピリッツの原材料である穀物としては麦が好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
(麦汁Aの製造方法)
50℃の温水96Lに、市販の二条大麦麦芽24kgを粉砕して攪拌しながら加え、80分経過後に65℃に昇温したのち、80℃に昇温した。得られたマッシュを濾過槽にて濾過し、110Lの麦汁を得た。得られた麦汁について、上記の方法で総窒素濃度b及び分子量10~25kDaのタンパク質濃度aを測定し、煮沸開始時におけるa/bの値を算出した。次に、得られた麦汁にホップを添加し70分煮沸し、清澄化槽に移送して40分間静置し、トゥルーブを形成したのち、清澄化槽から熱麦汁を受けタンクに移送し、上記の方法で欠減を算出した。移送にあたってはトゥルーブを観察し、清澄化槽からトゥルーブが流出する直前で移送を中断し、受けタンク麦汁量を「発酵に供される麦汁量」とした。受けタンクの麦汁について、上記の方法で総窒素濃度b及び分子量10~25kDaのタンパク質濃度aを測定し、トゥルーブ分離後におけるa/bの値を算出した。結果を表1に示す。
(麦汁Bの製造方法)
50℃の温水96Lと麦芽24kgを混和する際、麦芽重量0.66%のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を添加し、その後は麦汁Aと同様の方法で麦汁Bを得た。
Figure 0007461806000001
表1に示すように、麦汁AとBでは、煮沸開始~トゥルーブ分離後にかけて、総窒素濃度bに対する分子量10~25kDaのタンパク質濃度aが減少していた。また、煮沸開始~トゥルーブ分離後にかけてのa/bの減少幅はプロテアーゼを添加していないAで大きく、麦汁AとBで比較すると麦汁Bでトゥルーブ崩れによる麦汁欠減が多かった。ビールにおけるトゥルーブ形成の重要な反応として、煮沸工程にて生じる熱凝固性タンパク質とポリフェノールの結合による凝集物の生成は過去から知られており、a/bが高いことで熱凝固性タンパク質濃度が高くなり、凝集物の生成が促進されたことでトゥルーブの性状が改善されたと推察される。
実施例2
プロテアーゼの添加量を変更した以外は実施例1と同様にして麦汁C~Eを調製し、煮沸開始時におけるa/bの値と欠減量を算出した。結果を図1に示す。
図1より、煮沸開始時のa/bが0.6以下の場合においては、a/bに比例して欠減は減少することが分かった。煮沸開始時のa/bが0.6を超える場合においても、a/bを向上することにより欠減を低減することができるが、a/bが0.6以下の場合にa/bを向上すると、より欠減の低減効果が高いと考えられる。
本発明によれば、欠減が少なく生産性に優れるビールテイスト飲料の製造方法を提供することができる。

Claims (8)

  1. 麦汁の煮沸工程を有するビールテイスト飲料の製造に際して、煮沸前の麦汁における総窒素濃度(mg/dl)に対する分子量10~25kDaのタンパク質濃度(ng/μl)の比を算出し、前記比に基づいて、ビールテイスト飲料を製造した場合における欠減の多寡を推定する方法。
  2. 前記比が0.6以下の場合に欠減が多いと推定し、0.6を超える場合に欠減が少ないと推定する、請求項に記載の推定方法。
  3. 請求項1又は2に記載の方法により欠減が多いと推定された場合において、前記推定に供した麦汁よりも前記比を向上させた麦汁を用いてビールテイスト飲料を製造する、ビールテイスト飲料の製造方法であって、麦汁中のタンパク質の組成を調整して前記比を向上させる、製造方法
  4. 前記比が0.6を超えるまで向上させた麦汁を用いる、請求項に記載の製造方法。
  5. プロテアーゼの使用量を調整して前記比を向上させる、請求項又はに記載の製造方法。
  6. 請求項1又は2に記載の方法により欠減が多いと推定された場合において、前記推定に供した麦汁よりも前記比を向上させた麦汁を用いてビールテイスト飲料を製造する、欠減の低減方法であって、麦汁中のタンパク質の組成を調整して前記比を向上させる、低減方法
  7. 前記比が0.6を超えるまで向上させた麦汁を用いる、請求項に記載の低減方法。
  8. プロテアーゼの使用量を調整して前記比を向上させる、請求項又はに記載の低減方法。
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