JP7454363B2 - コンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造 - Google Patents

コンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造 Download PDF

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Description

本発明は、一般には、連続した強化繊維を含む連続繊維補強部材を使用して、耐震補強のためにコンクリート構造物を補修補強(以後、単に「補強」という。)するコンクリート構造物の補強方法に関するものである。特に、本発明は、例えば橋梁、建築物等のコンクリート構造物を構成する桁、梁、柱等の部材軸方向に延在するコンクリート部材のせん断補強をなすためのコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造に関するものである。
従来、例えば、既存或いは新設の各種のコンクリート構造物の桁、梁、柱などの部材軸方向に延在するコンクリート部材のせん断補強においては、コンクリート部材の表面に補強材として炭素繊維シートやアラミド繊維シートなどの繊維シートをエポキシ樹脂にて貼り付けたり、周方向に巻き付けたりする連続繊維シート接着工法が行われている。
しかし、コンクリート構造物の桁、梁、柱などのコンクリート部材のせん断補強においては、桁、梁、柱などに壁やスラブ(床)などが一体に形成された矩形、T形及びI形断面をもつコンクリート部材が多く、従って、連続繊維シート接着工法を適用する場合には、閉鎖型に巻き付けることができない場合が殆どとされている。斯かる構造のコンクリート部材のせん断補強においては、コンクリート部材に接着した繊維シートの端部がコンクリート部材から剥離するのを防止することが重要である。そのために、従来、繊維シートの端部を鋼板とアンカーボルトにより機械式にコンクリート部材に定着することが行われていた(例えば、非特許文献1を参照)。斯かる機械式定着方法は、手間が掛かり、また、騒音、振動の問題も有していた。
そこで、例えば、特許文献1においては、本願添付の図14(a)、(b)に示すように、炭素繊維等の強化繊維材料から成る補強シートC1を、柱110や梁120等のコンクリート部材の周方向に沿って配設し、補強シートC1の端部をコンクリート部材110、120、又は、これに隣接する床130や壁160のコンクリート部材部分に形成された溝150に定着させる柱や梁等のコンクリート部材のせん断補強構造を開示している。
また、特許文献2は、本願添付の図15(a)、(b)、(c)に示すように、炭素繊維等の複数本の強化繊維を長さ方向の一部で一体に束ねた定着用アンカーD1の、その束ねた部分D1aを柱110、梁120、床130、壁160等のコンクリート部材に形成された孔に定着させ、且つ、束ねていない部分D1bをコンクリート部材の表面に沿わせた状態で配設し、一方、例えば炭素繊維等から成るシート状の補強材(せん断補強シート)C1をコンクリート部材の周方向に沿わせて配設して、補強シートC1の端部を定着用アンカーD1の束ねていない部分D1bに重ねて接合することによって、補強シートC1が定着用アンカーD1を介してコンクリート部材に定着するようにしたコンクリート部材のせん断補強構造及びせん断補強工法を開示している。特許文献2は、更に、繊維シートC1と定着用アンカーD1とが重なる部分には、定着補強部材C2を重ねて配設することを開示している。
特許文献3には、本願添付の図16(a)に示すように、多数本の連続繊維ストランドを一方向に引き揃え、一端部或いは両端部に扇形状或いはラッパ形状の拡開部分10Paと、その他の部分に細幅或いは縮径部分10Pbを有する定着用アンカー10Pを示している。この定着用アンカー10Pは、図16(b)に示すように、柱220に近接した袖壁260の部分に形成された貫通孔に、定着用アンカー10Pを通し、貫通孔内に位置する中央部10Pbの両端部分10Paを扇状に成形して拡げ、柱220の左側外周面と右側外周面とに分断して貼り付けられた強化繊維シート50に樹脂を使用して貼り付け、分断された強化繊維シート50を連結する方法が記載されている。
また、特許文献4には、コンクリート構造物の表面に溝を形成し、この溝に多数本の連続強化繊維と未硬化の樹脂を有する可撓性の連続繊維補強部材を配置し、樹脂を硬化すると共に、固着剤にて切削溝内に定着することが記載されている。
特開平11-93427号公報 特開平11-152931号公報 特許第4463657号公報 特開2018-109268号公報
「コンクリート部材の補修・補強に関する共同研究報告書(III)-炭素繊維シート接着工法による道路橋コンクリート部材の補修・補強に関する設計・施工指針(案)-」平成11年12月、建設省土木研究所、構造橋梁部 橋梁研究室、炭素繊維補修・補強工法技術研究会、第64頁~第72頁
上記特許文献1、2、3に記載のコンクリート部材のせん断補強構造及びせん断補強工法によれば、非特許文献1に教示するような補強シートの端部を鋼板とアンカーボルトにより機械式にコンクリート部材に定着することは行われてはおらず、この点では、従来の機械式定着方法が有する問題を解決することができる。
しかしながら、上記特許文献1、2、3に記載のコンクリート部材のせん断補強構造及びせん断補強工法は、炭素繊維等の強化繊維をシート状に加工した補強シートをコンクリート部材の表面の周方向に沿わせて接着することにより桁、梁、柱などのせん断補強をする補強方法である。従って、補強対象となるコンクリート部材の表面に補強シートを接着するために、コンクリート部材表面のケレン処理が必須とされる。また、補強シートは、コンクリート部材の長手方向の出隅部CR(図15(c)参照)が凸状角部とされる場合にはこの角部には接着することができず、従って、部材の長手方向の出隅部全域にわたって湾曲状に加工する、所謂「R部形成」作業が余儀なくされる。斯かるケレン処理及び「R部形成」作業は、多くの作業時間とコストを必要とする。
特許文献4に記載の補強方法は、上述したように、可撓性のドライの連続繊維補強部材に樹脂を含浸して切削溝に押し込んで設置する補強方法であるが、補強対象は平坦な床版や桁の平面部とされ、コンクリート部材のせん断補強をなすものではない。
そこで、本発明者らは、多くの研究、実験を行った結果、多数本の強化繊維を長手方向に束ねて形成される紐状又はロープ状(単に、「ロープ状体」という。)の可撓性とされる連続繊維補強部材を補強対象物のコンクリート部材の表面に沿って形成した溝に埋め込み、連続繊維補強部材の両端部は、このコンクリート部材、又は、このコンクリート部材に隣接する他のコンクリート部材に形成された取付孔部に埋め込み、定着することで、コンクリート部材のせん断補強を極めて好適になし得ることを見出した。つまり、この新規な補強方法によれば、従来必要としたコンクリート部材表面全域に渡ってのケレン処理を必要とせず、また、従来の繊維シート端部を定着するための定着用アンカーを別個に必要とすることもない。
更に、本発明者らは、更に多くの研究、実験を行った結果、特に、上記特許文献3に記載する多数本の連続繊維ストランドを、編み組織の拘束糸と編み組織を結束する挿入糸により平帯状又は円筒状に保形された特異な構造の可撓性を有する定着用アンカーが有する形態安定性、取扱い容易性、及び、優れた施工性に着目し、この定着用アンカーを連続繊維補強部材として使用し、コンクリート部材のせん断補強を極めて好適に行い得ることを見出した。
本発明は、本発明者らの斯かる新規な知見に基づくものである。
つまり、本発明の目的は、可撓性のロープ状体の連続繊維補強部材を用いてコンクリート部材のせん断補強を極めて有効にしかも簡易な方法でなし得るコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造を提供することである。
上記目的は、本発明に係るコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造にて達成される。本発明の第一の態様によると、コンクリート構造物を構成する部材軸方向に延在するコンクリート部材であって、せん断補強される被補強コンクリート部材のせん断補強を連続繊維補強部材を用いて行うコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法であって、
前記連続繊維補強部材は、繊維径が5~20μmの連続した強化繊維を3000~96000本一方向に収束した連続強化繊維束である連続繊維ストランドを20~200本一方向に並列に引き揃えて、前記連続繊維ストランドの長手方向に沿って延在したロープ状体を形成するように賦形されており、
前記ロープ状体の連続繊維補強部材に樹脂を含浸させ、
前記樹脂含浸された連続繊維補強部材を、せん断補強される前記被補強コンクリート部材が一体に接合された隣接する他のコンクリート部材との接合部を除く前記被補強コンクリート部材の外周面において、前記被補強コンクリート部材の部材軸に直交して周方向に沿って形成された溝に配設して前記被補強コンクリート部材に接着すると共に、
前記ロープ状体の連続繊維補強部材の両端の取付部を、前記被補強コンクリート部材、又は、前記被補強コンクリート部材が接合された隣接する他のコンクリート部材に形成された取付孔部に埋め込み、定着する、
ことを特徴とするコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法が提供される。
本発明の実施態様によると、各前記連続繊維ストランドを構成する前記強化繊維の横断面積の総和が0.1~5mmである。
本発明の他の実施態様によると、前記連続繊維ストランドの前記強化繊維は、ヤング率が70~720GPaである。
本発明の他の実施態様によると、前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、又は、アラミド繊維などの有機繊維である。
本発明の他の実施態様によると、前記連続繊維補強部材は、
一方向に並列に引き揃えられている20~200本の前記連続繊維ストランドと、拘束糸がループ状に縦方向に連続して鎖編み目を形成しながら編成されて作製された複数の縦方向の編み組織により形成された編み構造と、を有し、
各前記連続繊維ストランドを、前記編み構造における前記縦方向に連続的に編成された前記編み組織の前記鎖編み目を貫通して挿入し、そして、前記縦方向の編み組織に対して横方向に挿入された挿入糸で互いに隣接した前記編み組織を結束することによって、前記縦方向編み組織の中に挿入された各前記連続繊維ストランドは、各前記連続繊維ストランドが互いに0.1~20mmだけ離間して形成されている。
本発明の他の実施態様によると、前記拘束糸及び前記挿入糸は、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系の繊維、アラミド繊維などの有機繊維;チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維;を単独で、又は、複数種混入して作製される糸条である。
本発明の他の実施態様によると、前記挿入糸は、前記編み組織に対して一定のコース毎に振って編み込まれている。
本発明の他の実施態様によると、各前記連続繊維ストランドは、複数の連続繊維ストランドを積層して形成される。
本発明の他の実施態様によると、前記連続繊維補強部材を平面状としたときは、幅が10~500mmであり、前記連続繊維補強部材を円筒状としたときは、直径が3~500mmとされる。
本発明の他の実施態様によると、前記取付孔部に充填樹脂を充填し、その後、前記連続繊維補強部材の前記取付部を、前記充填樹脂が充填された取付孔部に埋め込み、前記取付孔部に固着する。
本発明の他の実施態様によると、前記連続繊維補強部材の前記取付部の先端部に細長棒材を取付け、前記棒材を前記充填樹脂が充填された取付孔部に押し込むことにより、前記連続繊維補強部材の取付部を前記棒材と共に前記充填樹脂が充填された取付孔部に埋め込み、前記前記取付孔部に固着する。
本発明の他の実施態様によると、前記連続繊維補強部材は、断面が円形或いは矩形状とされる。
本発明の他の実施態様によると、前記含浸樹脂が硬化された前記連続繊維補強部材は、断面が円形状とされる場合には、直径が8~50mmとされ、断面が矩形状とされる場合には、幅8~30mm、厚さが5~20mmとされる。
本発明の他の実施態様によると、前記取付孔部は、直径が8~50mmの円形状か又は縦幅及び横幅がそれぞれ8~30mmの矩形状とされ、深さが100~400mmとされ、前記コンクリート部材の部材軸方向に沿って間隔100~500mmにて形成される。
本発明の他の実施態様によると、前記連続繊維補強部材に含浸される樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂;ナイロン、ポリアミド、PEEKなどの熱可塑性樹脂;又は、熱可塑性エポキシ樹脂である。
本発明の他の実施態様によると、前記含浸樹脂が硬化された前記連続繊維補強部材は、樹脂含浸硬化後の断面積が40~2000mmである。
本発明の第二の態様によると、コンクリート構造物を構成する部材軸方向に延在するコンクリート部材であって、せん断補強される被補強コンクリート部材のせん断補強を連続繊維補強部材を用いて行うコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強構造であって、
繊維径が5~20μmの連続した強化繊維を3000~96000本一方向に収束した連続強化繊維束である連続繊維ストランドを20~200本一方向に並列に引き揃えて形成されており、且つ、前記連続繊維ストランドの長手方向に沿って延在したロープ状体に賦形され、樹脂含浸された前記連続繊維補強部材を、せん断補強される前記被補強コンクリート部材が一体に接合された隣接する他のコンクリート部材との接合部を除く前記被補強コンクリート部材の外周面において、前記被補強コンクリート部材の部材軸に直交して周方向に沿って形成された溝に配設して前記被補強コンクリート部材に接着すると共に、
前記ロープ状体の連続繊維補強部材の両端取付部が、前記被補強コンクリート部材、又は、前記被補強コンクリート部材が接合された隣接する他のコンクリート部材に形成された取付孔部に埋め込み、定着されている、
ことを特徴とするコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強構造が提供される。
本発明のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造によれば、可撓性のロープ状体とされる連続繊維補強部材を用いてコンクリート部材のせん断補強を極めて有効にしかも簡易な方法で達成することができる。
図1(a)、(b)は、本発明の補強方法の一実施例を説明するための図であり、図1(a)は、梁コンクリート部材を有するコンクリート構造物の一実施例を示す斜視図であり、図1(b)は、梁コンクリート部材が連続繊維補強部材で補強された状態を示す正面図である。 図2は、他の構成とされる梁コンクリート部材が連続繊維補強部材で補強された状態を示す正面図である。 図3(a)、(b)は、本発明にて使用することのできる連続繊維補強部材の構成を説明する斜視図であり、図3(c)は、連続繊維ストランドの一実施例を示す斜視図である。 図4(a)は、本発明の補強方法の一実施例を説明するための図であり、図4(b)はコンクリート構造物の梁コンクリート部材と床コンクリート部材の部分断面図であり、図4(c)、(d)は取付孔部の実施例を示す梁コンクリート部材と床コンクリート部材の部分断面図である。 図5(a)、(b)は、定着用溝の実施例を説明するための図であり、図5(c)、(d)は、取付孔部の実施例を説明するための図である。 図6(a)、(b)、(c)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するための図である。 図7(a)、(b)は、本発明に使用する連続繊維補強部材の一実施例を示す概略構成図である。 図8は、本発明に使用する連続繊維補強部材の編成の一実施例を説明するための説明図である。 図9は、本発明に使用する連続繊維補強部材を構成する連続繊維ストランドの概略構成図である。 図10(a)、(b)は、連続繊維ストランドの他の実施例を説明する概略構成図である。 図11(a)~(c)は、本発明に使用する連続繊維補強部材の作製方法を説明するための説明図である。 図12は、本発明に使用する他の実施例に係る連続繊維補強部材を示す概略構成図である。 図13(a)、(b)は、本発明に使用する連続繊維補強部材の他の実施例と、この実施例の連続繊維補強部材の作製方法を説明するための説明図である。 図14(a)、(b)は、それぞれ、従来のコンクリート構造体の補強方法を説明するための正面図及び断面図である。 図15(a)は、従来のコンクリート構造体の補強方法に使用される定着用アンカーの一例を説明するための平面図であり、図15(b)、(c)は、それぞれ、従来のコンクリート構造体の補強方法を説明するための正面図及び断面図である。 図16(a)は、従来のコンクリート構造体の補強の際に使用される他の例の定着用アンカーを示す平面図であり、図16(b)は、定着用アンカーを使用したコンクリート構造物の補強態様を説明するための斜視図である。
以下、本発明に係るコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造を実施例に即して更に詳しく説明する。
実施例1
本実施例にて、本発明に係るせん断補強方法及びせん断補強構造は、図1(a)、(b)に図示するように、例えば、水平方向に配置された棒状の、即ち、部材軸方向に延在するコンクリート部材である梁120が、コンクリート部材である柱110、110にて支持されて構成される橋梁、建築物等のコンクリート構造物100に適用されるものとして説明する。ただし、本発明は、斯かる構造のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造に限定されるものでなく、同様の構造のせん断補強が必要とされる矩形、T形、I形断面を持つコンクリート桁等のコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造にも適用し得ることを理解されたい。
図1(a)、(b)に示す本実施例のコンクリート構造物100において、両端が柱(コンクリート部材)110、110に一体に接合されて構築されている水平方向に配置された部材軸の方向に延在した梁(コンクリート部材)120には、その上面に床部材130のようなコンクリート部材が一体に形成されているものとする。つまり、床部材はフランジであり、梁はウェブとされる断面T形の桁と同様の構造である。この床コンクリート部材130を介して梁コンクリート部材120に鉛直荷重が付与され、曲げモーメントが作用すると、この梁コンクリート部材120には、梁下面における軸に直角方向に入る曲げひび割れの他に、梁側面にて斜め方向にひび割れが生じ、これが原因で破壊することがある。所謂、せん断破壊である。
従来、本実施例のような構造の梁コンクリート部材120においては、梁コンクリート部材120に対するせん断破壊を防止するためのせん断補強方法として、例えば、本願添付の図15(a)~(c)を参照して上述したように、梁コンクリート部材120の周面に沿って繊維シートC1を接着し、その端部をこの梁コンクリート部材120、或いは、隣接する床コンクリート部材130を利用して定着アンカーD1を介して固定することが行われている。このような従来の補強方法では、上述したように、補強対象となる梁コンクリート部材120の表面に補強シートC1を接着するために、梁コンクリート部材表面のケレン処理が必須とされる。また、梁コンクリート部材120の長手方向の出隅部(凸状角部)CR(図15(c)参照)を長手方向の出隅部全域にわたって湾曲状に加工する、所謂「R部形成」作業が余儀なくされる。斯かるケレン処理及び「R部形成」作業は、多くの作業時間とコストを必要とする。
本発明によれば、従来使用されていた繊維シートC1を使用する代わりに、詳しくは図3(a)、(b)を参照して後述するが、長尺の、必須ではないが必要により緩く撚りを掛けられた紐状又はロープ状、即ち、「ロープ状体」の連続繊維補強部材1が使用される。
つまり、本発明は、コンクリート構造物を構成するコンクリート部材のせん断補強をロープ状体の連続繊維補強部材1を用いて有効に、しかも、従来に比して簡易な方法にて行うコンクリート構造物におけるコンクリー部材のせん断補強方法及びせん断補強構造である。
ここで、本発明にて使用する連続繊維補強部材1は、図3(a)、(b)に記載する形状とし得る。つまり、連続繊維補強部材1は、所定の長さ(L1)とされ、断面が略円形状とされるか(図3(a))、或いは、断面が略矩形状とされる(図3(b))、ロープ状体に賦形されている。連続繊維補強部材1は、詳しくは後述する。
本発明の一実施例を、図1(a)、(b)、図4(a)、(b)などを参照して、コンクリート構造物の梁コンクリート部材120のせん断補強について説明すれば、
(a)ロープ状体の連続繊維補強部材1に樹脂を含浸させ、
(b)連続繊維補強部材1の中央部領域の定着部1aを、棒状の梁コンクリート部材120の周面において軸方向に略直交して周方向に形成された定着用溝20(20a、20b)に沿わせて配設して接着すると共に、
(c)連続繊維補強部材1の両端取付部1b、1bを、梁コンクリート部材120、又は、梁コンクリート部材120に隣接する他の、例えば、床コンクリート部材130に形成された取付孔部10に埋め込み、定着する、
構成とされる。
本発明によれば、コンクリート部材のせん断補強のために補強材として繊維シートは使用されない。従って、繊維シートを使用した従来の方法では、例えば、図2に示すように、梁コンクリート部材120と柱コンクリート部材110との接合部に、梁コンクリート部材120、柱コンクリート部材の幅を中央部より大きくした、所謂、「ハンチ」140が形成されるコンクリート構造物においては、繊維シートをコンクリート部材の周面に沿って貼り付けることはできない。このような構造においても、図2に図示するように、ロープ状体の連続繊維補強部材を使用した本発明は極めて有効に適用することができる。
また、例えば、図14(a)、図15(b)に図示するように、柱コンクリート部材110に一体に袖壁コンクリート部材160が形成されているコンクリート構造物におけるこの柱コンクリート部材110のせん断補強にも本発明は適用し得ることは明らかである。
(連続繊維補強部材)
以下、本発明に使用する連続繊維補強部材1について図面に則して説明する。
第一の製造実施例
図3(a)~(c)に本発明に使用する連続繊維補強部材1の第一の製造実施例を示す。本実施例にて、連続繊維補強部材1は、図3(a)、(b)に示すように、柔軟性を有する連続繊維ストランド2を20本~200本(通常、80本~144本)の範囲で所定本数だけ一方向に引き揃えて束ね、必要に応じて、複数本の連続繊維ストランド2は、図示してはいないが、緩く撚りを掛けるか、或いは、ポリエステル繊維のようなカバーリング糸条を緩く巻き付けることもでき、柔軟性のあるロープ状体とされる。
更に説明すると、図3(c)に示すように、各連続繊維ストランド2は、一方向に並列に引き揃えられている多数の連続した強化繊維fを集束して連続強化繊維束Fを形成し、この繊維束Fにて連続繊維ストランド2が形成される。強化繊維fとしては、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、アラミド繊維などの有機繊維を好適に使用し得る。
つまり、強化繊維fとしては、上述のように、限定されるものではないが、ヤング率(引張弾性率)が70GPa以上の弾性を有した強化繊維を使用することが好ましい。特に、炭素繊維が好ましく、例えば、ヤング率が280~500GPaとされる中弾性の炭素繊維、及び、ヤング率が500GPa以上とされる高弾性の炭素繊維を好適に使用することができる。なお、他の繊維のヤング率について言えば、典型的には、ガラス繊維は70~90GPa、アラミド繊維は70~120GPaとされる。
連続繊維ストランド2は、図3(c)に示すように、通常、略円形断面形状とされるが、必要に応じて、同等面積とされる略矩形断面形状、更には、その他の種々の断面形状とすることができる。一般に繊維径が5~20μmとされる強化繊維fを3000~96000本収束して形成される強化繊維束Fにて構成される樹脂含浸されていない、所謂、ドライ状態の各連続繊維ストランド2であり、この連続繊維ストランド2は、横断面積が0.1~5mm(通常、0.6~1.2mm)であるのが、柔軟性の点、樹脂含浸性の点から好適である。ここで、連続繊維ストランド2の「横断面積」とは、空隙を含まない、強化繊維fのみの横断面積の総和を意味する。
本実施例にて、連続繊維補強部材1は、上述した図3(a)、(b)に示すように、所定の長さ(L1)とされ、断面が略円形状とされるか(図3(a))、或いは、断面が略矩形状とされる(図3(b))、ロープ状体に賦形されている。
第二の製造実施例
次に、本発明に使用する連続繊維補強部材1の他の製造実施例について説明する。連続繊維補強部材1は、上述したように、上記特許文献(特許第4463657号公報)に記載される定着用アンカーを構成する連続繊維補強部材と同様の構成とすることができる。以下に図面に則して説明する。
図7(a)、(b)に本発明に使用する連続繊維補強部材1の第二の製造実施例を示す。本実施例にて、連続繊維補強部材1は、平面状、即ち、シート状の補強シートとされ、図7(a)は、平面状の連続繊維補強部材1を一側(表)から見た図であり、図7(b)は、連続繊維補強部材1を他側(裏)から見た図である。
本実施例によると、連続繊維補強部材1は、上記第一の製造実施例で説明したと同様の柔軟性を有する連続繊維ストランド2を、20本~200本(通常、80本~144本)の範囲で所定本数だけ一方向に並列に引き揃えて、平面状、即ち、シート状とされる。各連続繊維ストランド2は、図3(c)、図9に示すように、多数の連続した強化繊維fを一方向に束ねて形成される。後述するように、このシート状の連続繊維補強部材1は、束ねて図3(a)、(b)に示すロープ状体に賦形される。
本製造実施例にて、連続繊維補強部材1は、拘束糸(即ち、鎖編糸)3がループ状に縦方向に連続して鎖編み目を形成しながら編成されて作製された鎖編み部(編み組織)30を有する。各連続繊維ストランド2は、詳しくは図8を参照して後述するが、この編み組織30の鎖編み目3Aの中に直交させて配置されている。
また、各連続繊維ストランド2を拘束する編み組織30は、互いに隣接した編み組織30が互いに挿入糸4により結束される。つまり、挿入糸4は、編み組織30に対して横方向に挿入され、本実施例では、隣り合った連続繊維ストランド2を囲包して編成された編み組織30に対して、連続繊維ストランド2の長手方向(即ち、縦方向)に沿って所定間隔にて絡み合い、複数の連続繊維ストランド2を平面状に、即ち、強化繊維シート状態に保形する。
図8を参照して、拘束糸3がループ状に縦方向に連続して編成された編み組織30の中を、各連続繊維ストランド2が直交して配置されている状態、及び、編み組織30に対する挿入糸4の編絡状態について説明する。
図8に示すように、拘束糸3は、ループ状に縦方向に連続して編成されて編み組織30を形成し、複数の縦方向編み組織30により編み構造30Aが形成される。この編み構造30Aを構成する各編み組織30の鎖編み目3Aを貫通するようにして、連続繊維ストランド2が挿入配置される。
図8は、理解を容易とするために、連続繊維ストランド2が編み組織30の鎖編み目3Aを貫通するように屈曲している状態にて示すが、実際には、連続繊維ストランド2が曲がることはなく、図7(a)、(b)に示すように、直線状態に配置された連続繊維ストランド2に対して、拘束糸3により編成された編み組織30の鎖編み目3Aが編み込まれることとなる。
このような編み組織30に対して、図8に示すように、横方向に挿入して挿入糸4が編み込まれ、隣り合った編み組織30が互いに結束される。
つまり、本実施例の連続繊維補強部材1によれば、拘束糸3が縦方向に連続的に、且つ、平面状に編成して編み構造30Aが形成され、この編み構造30Aにおける縦方向に連続的に編成された編み組織30の中に、多数の連続した強化繊維fを一方向に束ねて形成した連続繊維ストランド2が挿入される。そして、縦方向編み組織30の中に挿入された各連続繊維ストランド2は、縦方向の編み組織30に対して横方向に挿入された挿入糸4で連結することによって保形される。
上記編み構造30Aにより拘束され、保形された連続繊維補強部材1は、当業者には周知の編成機(経編機)を用いて、複数の連続繊維ストランド2、編み組織30を構成する拘束糸3、及び、編み組織30を結束する挿入糸4を編み込むことによって生産性良く、高品質にて作製することができる。また、連続繊維ストランド2を拘束糸3及び挿入糸4による編み構造により拘束し、保形しているために、強化繊維を縫製して拘束保形する場合に発生する針によるダメージや繊維束割れなどの問題は発生しない。
つまり、本実施例によれば、連続繊維補強部材1が編み構造とされるために、伸縮性を有し且つ形態が安定しており、また、編み機による連続生産が可能であり、品質が均一で高品質の製品を製造することができる。また、連続繊維補強部材1は、挿入糸4によりその形状が横方向に対して伸縮自在に保形されているために、横方向形状の広狭が変形可能とされる。挿入糸4と編み組織30との結合回数を変更することにより、連続繊維補強部材1の柔軟性を調整することが可能である。
本実施例においても、各連続繊維ストランド2は、上記第一の製造実施例で説明したように、多数の連続した強化繊維fを集束して形成される繊維束Fにて構成される。強化繊維fとしては、好ましくは、ヤング率が70GPa以上の弾性を有した強化繊維を使用することができるが、上述したように、特に、ヤング率(引張弾性率)が280~500GPaとされる中弾性の炭素繊維、及び、ヤング率が500GPa以上とされる高弾性の炭素繊維を好適に使用することができる。
上述のように、本実施例にて、複数の連続繊維ストランド2が一方向に引き揃え並置された平面状の、即ち、シート状の連続繊維補強部材1では、各連続繊維ストランド2は、互いに空隙(g)=0.1~20mmだけ近接離間して、挿入糸4にて伸縮性を有して固定され、シート状態に保形される。また、このようにして形成された連続繊維補強部材1の長さ(L)及び幅(W)は、適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W)は、10~500mmとされる。又、長さ(L)は、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
連続繊維ストランド2の繊維量を増やしたい場合には、図10(a)、(b)に示すように、縦方向或いは横方向に繊維束Fを複数、例えば、図示するように2本、或いはそれ以上積層し、つまり、複数の連続繊維ストランド2a、2bを一つの連続繊維ストランド2として使用する構成としても良い。積層数は、必要幅内に使用される強化繊維及び連続繊維ストランドの太さと糸本数で決定される。この場合においても、上述したように、本実施例の連続繊維補強部材1は、拘束糸3及び挿入糸4と共に編み構造とされ、安定した形態にて均一な且つ高品質の製品とし得る。
上述のように、本実施例の連続繊維補強部材1は、各連続繊維ストランド2が個々に、編み組織30を形成している拘束糸3により拘束され、且つ、互いに並置された各連続繊維ストランド2は、挿入糸4により所定形状へと変形可能に保形されている。
このように、本実施例にて、拘束糸3は、コンクリート補修補強の施工時に連続繊維ストランド2、即ち、強化繊維fに樹脂を含浸する樹脂含浸時において強化繊維が膨潤し、繊維配向に乱れや樹脂含浸不良が発生するのを防止する。又、挿入糸4は、拘束糸3で拘束された連続繊維ストランド2、2間の距離を規定し、各連続繊維ストランド2がずれてストランド間の距離が変わらないように、拘束糸3と絡み合い固定化する機能をなす。
従って、本実施例の連続繊維補強部材1によれば、樹脂含浸時においても繊維の直線性が維持され、従来の他の連続繊維補強部材或いは定着用アンカーのように、樹脂含浸時に繊維の配向が乱れ、定着後の強度が低下するようなことはない。
前記拘束糸3及び挿入糸4は、15~1500d(デニール)のマルチフィラメント糸やモノフィラメント糸とすることができ、例えば、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系及びポリオレフィン系の繊維、アラミド繊維、などのような有機繊維、更には、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維、また、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維を単独で、又は、複数種混入して作製された糸を使用することができる。又、無機繊維に熱可塑性有機繊維を巻き付け或いは撚り合わせた構成の糸を使用することもできる。
上記構成の本実施例の平面状の連続繊維補強部材1は、連続繊維補強部材1が有する編み構造、及び、挿入糸4が有する伸縮性により、自由度の高い特性を有しており、図11(a)、(b)に示すように、連続繊維補強部材1の幅方向両端より圧縮することにより、容易に縮むことができ、又、幅方向両端を外方へと引っ張ることにより容易に伸ばすことができる。
従って、図11(a)に示すように、上記長尺の平面状の連続繊維補強部材1を、コンクリート部材の周面に沿って定着するに必要な所定の長さ(L1)に切断し、この切断された所定長さ(L1)の細長帯状の連続繊維補強部材1を、例えば、図11(b)に示すように、幅方向両端より圧縮することにより縮めて、各ストランド2、2間が密とされた幅(W2)とし、次いで、更に幅(W2)より小さくなるように、巻き込んだり、或いは、図示してはいないが、幅方向に折り畳むことにより、図3(a)、(b)に示すように、ロープ状とされる連続繊維補強部材1を作製することができる。連続繊維補強部材1は、所望により緩く撚りが掛けられていても良い。また、別法として、図11(a)に示す平面状の連続繊維補強部材1は、図11(b)に示すように幅方向に縮小することなく、図11(c)に示すように、幅方向に巻き込んだり、或いは、図示してはいないが、長手方向に沿って折り返しながら畳み込むことなどにより、図3(a)、(b)に示すように、ロープ状に賦形することができる。
次に、本実施例の連続繊維補強部材1の一具体例について更に説明する。
具体例1
本具体例では、図11(a)を参照して説明した構成の平面状の連続繊維補強部材1を次のようにして作製した。
連続繊維補強部材1における連続繊維ストランド2は、繊維fとして平均径5μm、収束本数36000本のPAN系炭素繊維ストランドを用いた。炭素繊維は、中弾性の炭素繊維であり、ヤング率が450GPaであった。拘束糸(鎖編糸)3としては、ポリエステルマルチフィラメント(番手100d)を使用した。また、挿入糸4としては、フロントにポリエステルモノフィラメント(番手63d)を使用し、そして、バックにポリエステルモノフィラメント(番手63d)に低融点ポリアミド繊維(番手100d)を撚り合わせたものを用いた。
これら、連続繊維ストランド2、拘束糸3及び挿入糸4を使用して、編成機により、連続繊維ストランド2が43本とされるシート状の連続繊維補強部材1、即ち、補強シートを作製した。
図11(a)にて、挿入糸4は、連続繊維ストランド2の長手方向に対して10mmの一定の間隔(P4)にて編み込まれた。
このようにして作製した連続繊維補強部材1は、幅(W)が125mm、長さ(L)が100mであった。各ストランド間の間隙(g)は、3~4mmであった。
次に、上記連続繊維補強部材1を、所要の長さ(L1)にて切断し、図11(a)に示す細長帯状とされる矩形状の補強シートとした。
この矩形シート状とされる連続繊維補強部材1は、図11(b)に示すように、その幅方向両端を圧縮することにより、容易に縮むことができた。
また、図11(a)、(b)に示すシート状の連続繊維部材1を、図11(c)に示すように、幅方向に巻き込むことにより図3(a)、(b)に示すロープ状の連続繊維補強部材を作製したが、この成形作業においても連続繊維ストランド2の直線性が乱れることはなかった。
本実施例によれば、
(1)連続繊維補強部材1を構成する連続繊維ストランド2の本数が常に一定であるため、当然なこととして、施工現場において連続繊維ストランド数を間違えることはない。
(2)連続繊維補強部材1を切り分けて使用するための成形作業に際して、幅方向に容易に伸ばしたり、縮めたりすることができ、また、幅方向に巻き込んだり、長手方向に折り畳むこともでき、施工現場で容易に変形させることができた。また、縮めた部分の近傍が皺になることもなく、作業性が良かった。更には、強度低下を起こすこともなかった。
(3)個々の連続繊維ストランド2は拘束糸3による編み組織30にて拘束し、挿入糸4にてその形態が保形されているために、樹脂が含浸した際に繊維が揺らいで強度低下を起こすことはなかった。
第三の製造実施例
図12に、本発明の平面状とされる連続繊維補強部材1の他の製造実施例を示す。
本製造実施例の連続繊維補強部材1では、第二の製造実施例と同様に、各連続繊維ストランド2は、拘束糸3がループ状に縦方向に連続して編成された編み組織30の鎖編み目3Aの中に直交させて配置されている。
ただ、本製造実施例によると、縦方向編み組織30に対して横方向に挿入された挿入糸4が、各連続繊維ストランド2を拘束する編み組織30に対して、一定のコース毎に振って編み込まれている。
つまり、本製造実施例では、第二の製造実施例と同様に、図8に示すように、拘束糸3は、各連続繊維ストランド2が鎖編み目3Aを直交して貫通するようにして、各コース毎に鎖編み目3Aを形成しながら編み組織30を形成する。これにより、各連続繊維ストランド2は拘束される。
本製造実施例によると、挿入糸4は、横方向への挿入糸であり、本製造実施例では、1ウェールずつ飛んで編み組織30を構成する拘束糸3に掛けながら蛇行させて挿入される。これにより、編み組織30に拘束された連続繊維ストランド2を有した連続繊維補強部材1が、シート状に保形される。
本製造実施例においても、平面状とされる連続繊維補強部材1は、第二の製造実施例の場合と同様に、図11(a)に示すように、連続繊維補強部材1の幅方向両端より圧縮することにより、容易に縮むことができ、又、幅方向両端を外方へと引っ張ることにより容易に伸ばすことができる。この作業により、連続繊維ストランド2の直線性が乱れることはなかった。
また、平面状の連続繊維補強部材1は、図11(c)に示すように幅方向に巻き込んだり、或いは、図示してはいないが、長手方向に沿って折り返しながら畳み込むことなどにより、図3(a)、(b)に示すようにロープ状に賦形することができる。
第三の製造実施例の連続繊維補強部材1も又、第二の製造実施例と同様に、経編機を用いて作製することができ、第二の製造実施例と同様の作用効果を達成することができる。
第四の製造実施例
図13(a)、(b)に、本発明の連続繊維補強部材1の更に他の製造実施例を示す。
第二、第三の製造実施例においては、本発明に係る連続繊維補強部材1は、柔軟性を有する連続繊維ストランド2を所定本数一方向に並列に引き揃え、拘束糸3にて各連続繊維ストランド2を拘束し、挿入糸4をも使用して、複数の連続繊維ストランド2を平面状、即ち、シート状に保形するものとして説明した。
本製造実施例においては、第二、第三の製造実施例と同様に、連続繊維補強部材1は、柔軟性を有する連続繊維ストランド2を所定本数一方向に並列に引き揃えて作製されるが、拘束糸3にて各連続繊維ストランド2を拘束し、挿入糸4を使用することにより複数の連続繊維ストランド2が、円筒状に保形される。
本製造実施例においても、連続繊維補強部材1が円筒形状とされる以外は、第二、第三の製造実施例と同じ構成とされ、又、同じ経編機を用いて作製することができる。従って、連続補強部材を構成する連続繊維ストランド2、拘束糸3、挿入糸4、更には、円筒状の連続繊維補強部材1の製造方法についての再度の説明は省略し、第二、第三の製造実施例の説明を援用する。
尚、連続繊維補強部材1の直径(D)は、3~500mm、長さ(L)が100m以上にて製造し得る。
本製造実施例の連続繊維補強部材1も、第二、第三の製造実施例の連続繊維補強部材1と同様の作用効果を達成することができる。
図13(a)に示す円筒形状とされる全体形状を押圧して平面状と成し、次いで、幅方向に縮小して、図3(a)、(b)に示すようなロープ状体とすることも可能である。
(補強方法及び構造)
次に、本発明に係るコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法及びせん断補強構造を実施例に即して更に具体的に説明する。本発明は、本実施例では、図1(a)、(b)に示した水平方向に配置された棒状のコンクリート部材である梁120がコンクリート部材である柱110、110にて支持されて構成される橋梁、建築物等のコンクリート構造物100に適用されるものとして説明する。つまり、本実施例では、梁コンクリート部材120のせん断補強について説明する。
また、本実施例の梁コンクリート部材のせん断補強では、梁コンクリート部材120は、梁の軸方向に対して直交する横断面形状が高さ(H0)、幅(W0)とされる矩形とされるものとする。通常、矩形断面を有した梁コンクリート部材120は、高さ(H0)が200~3000mm、幅(W0)が200~1000mmとされる。
本実施例で使用する連続繊維補強部材1は、図1(a)及び図3(a)、(b)を参照すると理解されるように、梁コンクリート部材120の両側面120a、120a及び下面120bに沿って部材軸方向に直交して周方向に配設して接着される定着部1aと、梁コンクリート部材120、又は、梁コンクリート部材120に隣接する他のコンクリート部材130に定着される連続繊維補強部材1(即ち、定着部1a)の両端を形成する取付部1bとにて構成される。
図4(a)を参照して更に詳しく説明すると、連続繊維補強部材1の定着部1aは、図1(a)に示すように、梁コンクリート部材120の外周面、即ち、梁コンクリート部材の両側面とされる補強対象面120a、120a及び梁コンクリート部材120の下面(即ち、梁コンクリート部材120に一体に形成された床コンクリート部材130とは反対側の面)120bに沿って形成した定着用溝20(20a、20a、20b)に適合して樹脂にて接着、即ち、定着される。従って、連続繊維補強部材1の定着部1aの長さ(L1a)は、梁コンクリート部材120の寸法により異なり、梁コンクリート部材120の部材軸方向に直交する外周面の長さ、即ち、両側面120a、120a及び下面120bの総和に等しくされる。
取付部1bは、詳しくは後述するが、図1(a)、図4(a)~(d)に示すように、梁コンクリート部材120又は床コンクリート部材130に形成した取付孔部10に埋め込み、樹脂にて固着される。取付部1bの長さL1bは、100~400mmの長さが必要とされる。
なお、詳しくは後述するが、連続繊維補強部材1は、せん断補強材であり、樹脂が含浸され、硬化されると繊維強化プラスチック(FRP)材となる。従って、連続繊維補強部材1に含浸される樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂;ナイロン、ポリアミド、PEEKなどの熱可塑性樹脂;又は、熱可塑性エポキシ樹脂などを使用し得る。好適には、常温硬化型液状樹脂を使用し、連続繊維補強部材1を取付孔部10及び定着用溝20に設置した後、常温にて硬化させるか、又は、熱硬化型液状樹脂を使用し、取付孔部10及び定着用溝20に設置した後、加熱して硬化させることも可能である。樹脂含有量は、20~75重量%とされるが、好ましくは、40~60重量%である。
本発明にて使用される連続繊維補強部材1は、上述のように、連続繊維補強部材1を構成する連続強化繊維束(連続繊維ストランド)及び各連続繊維ストランド間に樹脂が含浸され、硬化されると複合材、即ち、繊維強化プラスチック(FRP)材となる。本発明では、好ましくは、強化繊維fとして炭素繊維を使用するので、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とされ、上述したように、好ましくは、中弾性或いは高弾性の炭素繊維を使用した高強度、高弾性型CFRPである。本発明にて、CFRPとされる連続繊維補強部材1はヤング率が70GPa以上とされる。勿論、強化繊維として、上述したように、ガラス繊維、アラミド繊維などを使用した場合にもFRP材は、70GPa以上のヤング率を達成することができる。
ここで、本願明細書、特許請求の範囲などで使用する連続繊維補強部材1の「ヤング率」について説明する。
FRP材(複合材)とされる連続繊維補強部材1は、強化繊維と樹脂の複合材とされ、複合材を用いた補強強度計算に際してのFRP材とされる連続繊維補強部材1のヤング率、強度の計算における連続繊維補強部材1の横断面積は、強化繊維と樹脂とが組み合わさった複合材の断面積が使用される。これに対して、本発明が関連する土木、建築の分野では、ヤング率、強度の計算における連続繊維補強部材1の横断面積は、強化繊維と樹脂とが組み合わさった複合材の断面積ではなく、複合材中の強化繊維のみの断面積とされている。従って、本発明においても、FRP材とされる連続繊維補強部材1のヤング率、強度の計算における連続繊維補強部材1の横断面積は、複合材中に含まれる強化繊維の横断面積の総和を使用するものとする。
本発明では、上述のように、FRP材とされる連続繊維補強部材1はヤング率が70GPa以上とされるが、ヤング率が70GPa未満では補強材としての連続繊維補強部材1の剛性が不足し、コンクリート部材の基部100Aにおける十分な補強が達成されない。
一方、例えば炭素繊維に関して言えば、ヤング率が720GPaを超える炭素繊維も製品としてはあるが、一般にヤング率が高くなると、加工性や取扱い性が悪く、編成機によりシート状に加工するのが難しくなる。つまり、ヤング率が高くなると、加工時に炭素繊維が擦過されるとダメージとなり、編成機によりシート状に加工するのが難しくなり、更に、値段(コスト)が高くなり、土木や建築の補強用の材料として実態に合わない。
従って、特に、本発明の連続繊維補強部材に用いる強化繊維として好ましいとされる炭素繊維は、70~720GPaとされ、編成機による加工の良好性、コスト、引張強度をも含めた物性のバランスから、好ましくは、ヤング率は280~640GPaとされる。つまり、本発明において、樹脂含浸され硬化された後のCFRPである連続繊維補強部材1のヤング率は、70~720GPaとされ、好ましくは、ヤング率は280~640GPaとされる。
尚、本発明者らは、強化繊維として炭素繊維を使用した場合の編成機による連続繊維補強部材を作製した際の物性の低下を評価するために下記の試験を行った。つまり、本発明では、炭素繊維束(連続繊維ストランド2)を拘束糸3や挿入糸4を使用し、編成機によりシート状に加工した連続繊維補強部材を使用するため、この加工による影響、即ち、加工による物性低下が生じるか否かを引張試験にて確認した。
本試験では、炭素繊維として典型的な三種類の、即ち、高強度タイプ、中弾性及び高弾性の炭素繊維を使用し、編成機にてシート状の連続繊維補強部材を作製し、ロープ状体に賦形した後、樹脂を含浸させ、硬化して引張試験体を作製した。試験体には歪ゲージを接着し、万能試験機に設置し引張試験を行った。荷重と歪、及び、試験体の断面積(炭素繊維のみの断面積の総和)より、引張応力及びヤング率を求めた。その結果を表1に示す。表1より、編成機による加工によっても物性、特に、ヤング率が低下していないことが分かる。更に、連続繊維補強部材は、樹脂含浸時においても繊維の直線性が維持され、樹脂含浸時における繊維配向の乱れ、強度の低下がないことが分かった。
Figure 0007454363000001
上述したように、連続繊維補強部材1を形成する連続強化繊維束の断面形状は限定されるものではなく円形状か、或いは、矩形状、更に、その他、楕円形状、長円形状など種々の形状とすることも可能である。ただ、本発明にて、連続繊維補強部材1は、コンクリート部材のせん断補強を行う補強材としての機能を有するものであり、剛性を有することが必要である。従って、図3(a)、(b)を参照して言えば、連続繊維補強部材1は、通常、上述したように、連続繊維ストランド2が20~200本使用された場合、連続強化繊維束に樹脂が含浸され硬化された繊維強化プラスチック(FRP)の状態で、断面積(S)は40~2000mm(通常、70~1000mm)とされる。例えば、円形断面の連続繊維補強部材1の場合(図3(a))は、直径(D1)は、8~50mm、通常、20~30mmとされ、矩形断面の連続繊維補強部材1の場合(図3(b))は、幅(W1)が8~30mm、厚さ(H1)が5~20mmとされ、通常、幅(W1)は12~20mm、厚さ(H1)は8~16mmとされる。
・定着用溝・取付孔部形成
本実施例のせん断補強によれば、図1(a)、(b)及び図4(a)、(b)に示すように、梁コンクリート部材120の外周面、即ち、矩形状断面をした梁コンクリート部材120の両側面120a、120a及び下面120bに沿って定着用溝20(20a、20b)を形成する。
定着用溝20は、図1(a)に示すように、梁コンクリート部材120に定着される連続繊維補強部材1の定着部1aを受容するためのものであり、従って、この定着用溝20は、連続繊維補強部材1の定着部1aを受容し得る形状とされる。例えば、図3(a)に示すような円形断面の連続繊維補強部材1を使用した場合には、図5(a)に示すように、湾曲した半円形状の溝とすることができ、また、図3(b)に示すような矩形断面の連続繊維補強部材1を使用した場合には、図5(b)に示すように、正方形若しくは長方形の矩形断面形状とすることができる。更に、図示してはいないが、その他、半長円形状、半楕円形状など任意の形状とすることができる。通常、定着用溝20は、半円形状の場合、半径(R20)は5~20mm、深さ(H20)が5~20mmとされ、矩形状の場合、幅(W20)が8~30mm、深さ(H20)が5~20mmとされる。一例を挙げれば、例えば、半円形状の場合、半径(R20)は13mm、深さ(H20)が6mmとされ、矩形状の場合、幅(W20)及び深さ(H20)が、各々15mmの正方形とされる。
定着用溝20は、図1(a)、及び、図5(a)、(b)に示すように、梁コンクリート部材120の長手(軸線)方向に所定のピッチPにて複数個形成することができる。ピッチPは、100~500mm、通常、200~300mmの範囲の所定の値とされる。ピッチPは一定(等)間隔とすることもできるが限定されるものではない。所望に応じて、梁コンクリート部材120の長手方向にて、所定の長さ範囲の領域は密とし、他の長さ範囲の領域にては、疎とすることもできる。
なお、上述したように、定着用溝20(20a、20b)にはロープ状の連続繊維補強材1が配置されるので、溝に角部が形成されるのは好ましくない。つまり、図4(a)に示すように、梁コンクリート部材120の側面と底面との交差部分に角部CRが形成されている場合には、この角部CRに相当する定着用溝、即ち、定着用溝20aと20bが連結される領域は湾曲形状となるようにR(湾曲)加工する必要がある。半径Rとしては、30~50mm程度とすることができる。定着用溝20(20a、20b)は、ダイヤモンドカッター或いはウォータージェットなどを利用して形成することができる。
また、図5(a)、(c)を参照すると理解されるように、梁コンクリート部材120の両側面120aに形成した定着用溝20aに隣接して、定着用溝20aの延長線上に定着用溝20aと整列して、且つ、好ましくは、定着用溝20aと連通して、連続繊維補強部材1の取付部1bを受容するための所定の長さ(L10)とされる取付孔部10が形成される。
更に説明すれば、図4(b)を参照すると、コンクリート構造物にて、取付孔部10は、取付孔部中心線10CLが梁コンクリート部材120の側面120aに対して所定の角度(θ)にて、且つ、中心線10CLが梁コンクリート部材120と床コンクリート部材130との境界部CSから△Eだけ離間して、床コンクリート部材130へと突入して穿孔される。このとき、距離△Eは、例えば、△E=0~10mmだけ離間するようにするのが穿孔作業上好ましいが、場合によっては、△Eはマイナス、即ち、取付孔部中心線10CLが境界部CSから更に床コンクリート部材130側へと位置していても良い。また、取付孔部中心線10CLの角度(θ)は、0°以上90°以下とすることができる。つまり、角度θが90°の場合、図4(c)に図示するように、取付孔部10を梁コンクリート部材120の方に延在して穿設することができ、角度(θ)を0°とすることにより、図4(d)に示すように、取付孔部10を床コンクリート部材130の方へと延在して穿設することができる。
このように、本発明によれば、取付孔部10は、梁コンクリート部材120、又は、この梁コンクリート部材120に隣接した床コンクリート部材130の方へと延在して形成される。
図5(c)には、取付孔部10は円形状の孔とされ、通常、円形断面とされる図3(a)に示す連続繊維補強部材1の取付部1bを受容し得る寸法、形状とされ、直径(D10)は8~50mmとされ、深さ(L10)は、100~400mmとされる。また、図5(d)に示されるように、取付孔部10の断面形状が矩形状とされる場合には、縦幅(W10)及び横幅(H10)が、それぞれ、8~30mmとされ、通常、矩形断面とされる図3(b)に示す連続繊維補強部材1を受容し得る寸法、形状とされ、この場合も、取付孔部10の深さ(L10)は、100~400mmとされる。一例を挙げれば、例えば、円形状の場合、直径(D10)は25mm、深さ(L10)が200mmとされ、矩形状の場合、縦幅(W10)及び横幅(H10)が、各々15mmの正方形とされ、深さ(L10)は200mmとされる。
定着用溝20が梁コンクリート部材120の部材軸方向に所定のピッチPにて複数個形成される場合には、取付孔部10も又、各定着用溝20と整列して形成されるように、定着用溝20と同じに梁コンクリート部材120、又は、床コンクリート部材130の長手(部材軸)方向に所定のピッチPで複数の孔が形成される。
・連続繊維補強部材の取付け
連続繊維補強部材1を、上述のようにして形成された定着用溝20及び取付孔部10に取付けるに際して、先ず、定着用溝20及び取付孔部10内にプライマー、例えば、エポキシ樹脂プライマーを塗布する。ただ、プライマーは必ずしも必要とするものではない。
本実施例にて使用される、図3(a)、(b)に示す構成の樹脂未含浸の連続繊維ストランド2を有した、所謂、ドライのロープ状連続繊維補強部材1に樹脂を含浸させる。樹脂含浸は、例えば、樹脂が満たされた容器内に連続繊維補強部材1を浸漬することで行うことができるが、これに限定されるものではなく任意の方法を採用し得る。連続繊維補強部材1における樹脂含有量は、上述したように、20~75重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
連続繊維補強部材1に含浸される樹脂としては、上述したように、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂;ナイロン、ポリアミド、PEEKなどの熱可塑性樹脂;又は、熱可塑性エポキシ樹脂などを使用し得る。好適には、常温硬化型液状樹脂が使用される。
樹脂含浸された連続繊維補強部材1を梁コンクリート部材120に設置する方法についてその一例を説明する。ただ、以下に説明する方法に限定されるものではない。
本実施例によれば、図1(a)に示すように、樹脂含浸された連続繊維補強部材1は、可撓性を有した樹脂未硬化の状態で一端の取付部1bを先端部より順次、取付孔部10内に装入して設置する。
次いで、連続繊維補強部材1の本体部分(即ち、定着部)1aを、取付部1bが設置された取付孔部10に連接して形成されている一側の梁側面120aの定着用溝20a、次いで、梁下面120bの定着用溝20bを跨ぎ、次いで梁の他側の側面120aの定着用溝20aへと、梁の外周面に沿って密着して設置する。
次に、上記連続繊維補強部材定着部1aの定着用溝20(20a、20b)に対する設置工程が終わると、連続繊維補強部材1の他端の取付部1bを、定着用溝20に連接して形成された取付孔部10内に装入して設置する。
本発明によれば、樹脂が含浸され、樹脂が未だ未硬化状態の連続繊維補強部材1は可撓性を有しているために、連続繊維補強部材1は、定着用溝20、及び、この定着用溝20と所定の角度(θ)をもって形成された取付孔部10に沿って変形することができ、定着用溝20及び取付孔部10への連続繊維補強部材1の取付、定着作業は容易に行うことができる。
なお、必要に応じて、取付孔部10及び定着用溝20に接着された連続繊維補強部材1に対して更に接着剤を塗布して空隙を充填することができる。
連続繊維補強部材1を取付孔部10及び定着用溝20に設置した後、連続繊維補強部材1の含浸樹脂は、常温にて硬化させるか、又は、熱硬化型液状樹脂を使用し、取付孔部10及び定着用溝20に設置した後、加熱して硬化させることも可能である。これにより、連続繊維補強部材1の含浸樹脂が硬化すると共に、連続繊維補強部材1が取付孔部10及び定着用溝20内に固着する。本実施例では、連続繊維補強部材1に含浸された樹脂が、連続繊維補強部材1の取付孔部10及び定着用溝20内への固着剤としても機能する。
上記作業を、図1(a)、(b)に示すように、梁コンクリート部材120の部材軸方向所要領域に所定のピッチ間隔Pにて、所要の数の連続繊維補強部材1を設置することにより、梁コンクリート部材120に対して、繊維強化プラスチック(FRP)材とされた連続繊維補強部材1によりせん断補強がなされる。本発明は、作業工程が極めて容易であり、熟練作業者を必ずしも必要とせず、作業時間の短縮を図ることができる。
更に、連続繊維補強部材1の樹脂が硬化した後、必要に応じて耐候性を向上させるために、中央連結コンクリート部材120Aの面に露出している連続繊維補強部材1の表面に保護塗装を施すことができる。保護塗装としては、例えば、アクリル系塗料を塗布することができる。
実施例2
上記実施例1においては、連続繊維補強部材1は、樹脂含浸させた状態にて、取付孔部10内に押し込んで装入配置して固着するものとして説明した。
本発明者らの研究実験の結果によると、本発明のせん断補強方法においては、上記実施例1に記載するように、連続繊維補強部材1は樹脂含浸させた状態にて、取付孔部10内に押し込んで装入配置して固着するが、連続繊維補強部材1に樹脂を含浸させる際に、更には、樹脂を含浸し取付孔部10に装入する際に、強化繊維に揺らぎが生じたり、更には、取付孔部10内に空気が混入したり、取付孔部10内に空隙が生じたりすることを完全に防止し得ない虞がある。
そこで、連続繊維補強部材1を取付孔部10内に押し込むに先立って、取付孔部10内に予め先込充填樹脂を充填して置き、この樹脂が充填された取付孔部10内に、樹脂が含浸された連続繊維補強部材1の端部を挿入することとした。これにより、連続繊維補強部材1が取付孔部10内に挿入される際に、取付孔部10の内壁と擦過し繊維に損傷を生じることを防ぎ、繊維の直線性を保持することが可能であり、また、取付孔部10内に空気が混入し残存することで生じる空隙を防ぎ、連続繊維補強部材1が躯体と強固に接着し硬化することが分かった。従って、斯かる手段をとることによって、樹脂を含浸し取付孔部10に挿入する際に、強化繊維に揺らぎが生じたり、更には、取付孔部10内に空気が混入したり、取付孔部10内に空隙が生じたりすることを防止することが可能となり、これにより、連続繊維補強部材1が有する性能、特に、せん断補強における剛性を安定して発揮することができる。
更に、図6(a)~(c)を参照して説明すれば、連続繊維補強部材1を取付孔部10内に挿入する際に、挿入時の連続繊維補強部材1の直線性を保持し、挿入をスムーズに行うために連続繊維補強部材1の取付孔部挿入端部(即ち、取付部)1bに細長形状の挿入棒部材70を取付け、先込充填樹脂60が充填された取付孔部10へと棒材70を押し込みことにより、連続繊維補強部材1の取付部1bも又取付孔部10内へと極めて容易に押し込むことができる。棒材70は、そのまま取付孔部10内に埋設し、固着する。これにより、更なる取付部の強度、剛性等の向上を図ることができる。
挿入棒部材70としては、図6(a)に一例を示すように、直径(D70)が4~8mm、長さ(L70)は、取付孔部10と略同じ長さ、或いは、より長くされ、通常、L70=15~30cm程度とされる。挿入棒部材70は、限定するものではないが、金属製とされ、例えばステンレススチール、鋼材、などで作製することができる。
一例によれば、図6(a)~(c)に図示するように、挿入棒部材70には、先端から距離(L71)だけ離間した位置に直径(D71)が2~3mm程度の貫通孔71を設け、この貫通孔71を利用して紐状物72により連続繊維補強部材1の先端部1aを結束し、連続繊維補強部材1の樹脂含浸処理した後、充填樹脂60が充填された取付孔部10内へと挿入棒部材70を押し込む。これによって、連続繊維補強部材1の取付部1bを取付孔部10内へと押し込むことができる。
取付孔部10内に充填する先込充填樹脂としては、上述の連続繊維補強部材1に含浸する樹脂と同じ樹脂を使用することができるが、垂れ防止、空気巻き込み防止のために、粘度が23℃において50~5000Pa・s、チクソトロピックインデックス4~7に調整されたものを好適に使用し得る。
1 連続繊維補強部材
1a 定着部
1b 取付部
2 連続繊維ストランド(連続強化繊維束)
3、3a、3b 拘束糸
3A 鎖編み目
4 挿入糸
10 取付孔部
20(20a、20b) 定着用溝
30、30a~30d 編み組織
30A 編み構造
60 先込充填樹脂
70 挿入棒部材
100 コンクリート構造物
120 梁コンクリート部材
130 床コンクリート部材

Claims (17)

  1. コンクリート構造物を構成する部材軸方向に延在するコンクリート部材であって、せん断補強される被補強コンクリート部材のせん断補強を連続繊維補強部材を用いて行うコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法であって、
    前記連続繊維補強部材は、繊維径が5~20μmの連続した強化繊維を3000~96000本一方向に収束した連続強化繊維束である連続繊維ストランドを20~200本一方向に並列に引き揃えて、前記連続繊維ストランドの長手方向に沿って延在したロープ状体を形成するように賦形されており、
    前記ロープ状体の連続繊維補強部材に樹脂を含浸させ、
    前記樹脂含浸された連続繊維補強部材を、せん断補強される前記被補強コンクリート部材が一体に接合された隣接する他のコンクリート部材との接合部を除く前記被補強コンクリート部材の外周面において、前記被補強コンクリート部材の部材軸に直交して周方向に沿って形成された溝に配設して前記被補強コンクリート部材に接着すると共に、
    前記ロープ状体の連続繊維補強部材の両端の取付部を、前記被補強コンクリート部材、又は、前記被補強コンクリート部材が接合された隣接する他のコンクリート部材に形成された取付孔部に埋め込み、定着する、
    ことを特徴とするコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  2. 各前記連続繊維ストランドを構成する前記強化繊維の横断面積の総和が0.1~5mmであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  3. 前記連続繊維ストランドの前記強化繊維は、ヤング率が70~720GPaであることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  4. 前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、又は、アラミド繊維などの有機繊維であることを特徴とする請求項1~3のいずれかの項に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  5. 前記連続繊維補強部材は、
    一方向に並列に引き揃えられている20~200本の前記連続繊維ストランドと、拘束糸がループ状に縦方向に連続して鎖編み目を形成しながら編成されて作製された複数の縦方向の編み組織により形成された編み構造と、を有し、
    各前記連続繊維ストランドを、前記編み構造における前記縦方向に連続的に編成された前記編み組織の前記鎖編み目を貫通して挿入し、そして、前記縦方向の編み組織に対して横方向に挿入された挿入糸で互いに隣接した前記編み組織を結束することによって、前記縦方向編み組織の中に挿入された各前記連続繊維ストランドは、各前記連続繊維ストランドが互いに0.1~20mmだけ離間して形成されている、
    ことを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  6. 前記拘束糸及び前記挿入糸は、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系の繊維、アラミド繊維などの有機繊維;チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維;を単独で、又は、複数種混入して作製される糸条であることを特徴とする請求項5に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  7. 前記挿入糸は、前記編み組織に対して一定のコース毎に振って編み込まれていることを特徴とする請求項5又は6に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  8. 各前記連続繊維ストランドは、複数の連続繊維ストランドを積層して形成されることを特徴とする請求項5~7のいずれかの項に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  9. 前記連続繊維補強部材を平面状としたときは、幅が10~500mmであり、前記連続繊維補強部材を円筒状としたときは、直径が3~500mmとされることを特徴とする請求項5~8のいずれかの項に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  10. 前記取付孔部に充填樹脂を充填し、その後、前記連続繊維補強部材の前記取付部を、前記充填樹脂が充填された取付孔部に埋め込み、前記取付孔部に固着する、
    ことを特徴とする請求項1~9のいずれかの項に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  11. 前記連続繊維補強部材の前記取付部の先端部に細長棒材を取付け、前記棒材を前記充填樹脂が充填された取付孔部に押し込むことにより、前記連続繊維補強部材の取付部を前記棒材と共に前記充填樹脂が充填された取付孔部に埋め込み、前記前記取付孔部に固着する、
    ことを特徴とする請求項10に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  12. 前記連続繊維補強部材は、断面が円形或いは矩形状とされることを特徴とする請求項1~11のいずれかの項に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  13. 前記含浸樹脂が硬化された前記連続繊維補強部材は、断面が円形状とされる場合には、直径が8~50mmとされ、断面が矩形状とされる場合には、幅8~30mm、厚さが5~20mmとされることを特徴とする請求項12に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  14. 前記取付孔部は、直径が8~50mmの円形状か又は縦幅及び横幅がそれぞれ8~30mmの矩形状とされ、深さが100~400mmとされ、前記コンクリート部材の部材軸方向に沿って間隔100~500mmにて形成されることを特徴とする請求項1~13のいずれかの項に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  15. 前記連続繊維補強部材に含浸される樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂;ナイロン、ポリアミド、PEEKなどの熱可塑性樹脂;又は、熱可塑性エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1~14のいずれかの項に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  16. 前記含浸樹脂が硬化された前記連続繊維補強部材は、樹脂含浸硬化後の断面積が40~2000mmであることを特徴とする請求項1~15のいずれかの項に記載のコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強方法。
  17. コンクリート構造物を構成する部材軸方向に延在するコンクリート部材であって、せん断補強される被補強コンクリート部材のせん断補強を連続繊維補強部材を用いて行うコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強構造であって、
    繊維径が5~20μmの連続した強化繊維を3000~96000本一方向に収束した連続強化繊維束である連続繊維ストランドを20~200本一方向に並列に引き揃えて形成されており、且つ、前記連続繊維ストランドの長手方向に沿って延在したロープ状体に賦形され、樹脂含浸された前記連続繊維補強部材を、せん断補強される前記被補強コンクリート部材が一体に接合された隣接する他のコンクリート部材との接合部を除く前記被補強コンクリート部材の外周面において、前記被補強コンクリート部材の部材軸に直交して周方向に沿って形成された溝に配設して前記被補強コンクリート部材に接着すると共に、
    前記ロープ状体の連続繊維補強部材の両端取付部が、前記被補強コンクリート部材、又は、前記被補強コンクリート部材が接合された隣接する他のコンクリート部材に形成された取付孔部に埋め込み、定着されている、
    ことを特徴とするコンクリート構造物におけるコンクリート部材のせん断補強構造。
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