JP7447037B2 - 発光放射線遮蔽体および樹脂状遮蔽部の製造方法 - Google Patents

発光放射線遮蔽体および樹脂状遮蔽部の製造方法 Download PDF

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Description

本発明の実施形態は、発光放射線遮蔽体および樹脂状遮蔽部の製造方法に関する。
放射線遮蔽体に使われる材料は、放射線が放射線遮蔽体の材料に当たったときには当該放射線を散乱または吸収して放射線量の透過を減衰させる物質からなる。
ここで、放射線とは、α線、β線、γ線、X線、中性子線等の総称を指す。その中でも中性子線は物質と反応してα線、β線、γ線、X線を直接または二次的に放出する。従って、中性子線の遮蔽では中性子のみの遮蔽だけではなくα線、β線、γ線、X線の遮蔽も考える必要がある。
これら放射線と物質との相互作用は、放射線の種類やエネルギーの大きさによっても異なる。中でもγ線、X線、中性子線は物質を透過する性質が高いため、これらを遮蔽する物質についての研究開発がなされている。
なお、X線、γ線はその発生の仕方で呼び名が異なるが、以降X線とγ線をまとめてγ線と表記することとする。γ線と物質との反応は、原子番号Zの大きさに依存し、同じエネルギーのγ線であれば、遮蔽する物質の原子番号Zや密度が大きいほど反応割合が大きくなり遮蔽能力は高くなる。従って軽元素のカーボン(C)やアルミニウム(Al)よりもタングステン(W)やビスマス(Bi)、鉛(Pb)がγ線の遮蔽材として使用されている。
一方、中性子線は、原子番号Zには特に関係せず、特定の元素同位体での反応割合が異なる。例えば、γ線との反応割合が悪い例としては、水素やリチウム(Li)、ホウ素(B)などがあり、リチウムの場合は、Li同位体(天然存在比7.6%)、ホウ素の場合は10B同位体(天然存在比20%)が反応するが、Li同位体(天然存在比92.4%)や11B同位体(天然存在比80%)は中性子とほとんど反応しない。
中性子用の遮蔽材料としては、リチウムやホウ素の化合物が主に利用されている。γ線の場合は原子番号Zの大きさに依存しているが、同位体の存在割合には特に依存していない。従って中性子との反応割合を大きくするためには、反応する同位体の割合を濃縮して使用する場合がある。たとえば、天然のホウ素から同位体10B を90%以上に濃縮して使用する。
γ線の場合も中性子の場合も一般的には、中性子の同位体で特有の共鳴吸収を行う場合を除いて、放射線のエネルギーが高くなると反応割合が小さくなり、遮蔽能力も小さくなる。そのため、高いエネルギーの放射線を遮蔽するためには、放射線が通る遮蔽体の厚さを厚くする必要がある。
実用化されている遮蔽体には、セメント・コンクリート(モルタルもコンクリートに含まれる)の他にも、樹脂やゴムの中に放射線との反応材料を入れて遮蔽体を構成している場合がある。遮蔽用材料としてコンクリートが有利なことは、構造的強度、遮蔽能、加工性と適応性がすぐれているためであり、他面、欠点としては、さらに密実な材料と較べ遮蔽厚が大になることである。この欠点を補うため、各種重量コンクリート、特殊セメントの研究が行われている。
コンクリートはセメント、水、粗骨材、細骨材、混和材料から構成される。体積で占める割合で最も多いのが粗骨材、次に細骨材で、セメント、水、混和材料がこれらの隙間に入る。一般的に用いられる粗骨材や細骨材は砂利や砂となっているが、採取される場所により化学的な成分が異なり、アルミニウムやカルシウムなどの酸化物や珪酸塩、炭酸塩等の岩石鉱物である。砂にも、川砂と海砂があり、塩分が異なるが基本的には岩石の風化によって粒子が小さくなったものである。
放射線遮蔽用には重量コンクリートが用いられる。上記したように、原子番号Zが大きく密度が高い方がγ線を遮蔽する効果が高いため、粗骨材や細骨材に鉄の組成が高く密度が3~4g/cmの褐鉄鋼(2Fe・3HO)や、密度が4.6~5.1g/cmの磁鉄鉱(Fe)、密度が4.2~4.4g/cmの重晶石(BaSO)、更に密度の高い7.5g/cmの方鉛鉱(PbS)が用いられ、密度が7.6~7.8g/cmの鉄塊、鉄片、鋼球なども用いられている。
しかしながら、これらの骨材は、γ線に対する遮蔽効果は一般の軽量骨材と比べて高いものの、熱中性子に対しての遮蔽効果は低い。熱中性子吸収用の骨材としては、密度が2.42g/cmのコルマナイト(別名:コレマナイト)(B)や、密度が2.9g/cmのタンブリ石(B)、密度が2.25g/cmのホウケイ酸ガラスまたは硬質ガラス(B)、密度が2.5g/cmの炭化ホウ素(BC)がある。逆にこれらは軽量骨材となり、これだけだとγ線の遮蔽効率が悪くなるため、重量骨材と混ぜて製作する。その結果、全体の体積中に存在する中性子と反応する同位体の割合は更に低くなり、遮蔽の厚さを厚くしなければならない。
特公平7―17817号公報 特開2006-275645号公報
「JENDL-4.0データ」2016年2月2日、日本原子力研究開発機構、核データ研究グループ
放射線遮蔽体には、α線、β線、γ線、X線の遮蔽だけでなく中性子線に対しても遮蔽できることが求められる。
特に中性子の場合には、別の核種に変わってしまう場合がある。例えば、中性子吸収材としてよく用いられるホウ素は同位体の10Bが中性子と反応するとα線を放出してリチウムの同位体LiになりLiから478keVの即発γ線が放出される。さらに、中性子の場合は、原子炉を中性子源とした熱中性子(0.025eV付近)を中心とした遮蔽から、加速器中性子源やRI中性子源、宇宙環境における太陽からの高エネルギー中性子の領域を対象とする遮蔽まで、エネルギーの扱うレベルが異なる。
エネルギーが高くなると反応の仕方も異なるため、リチウムやホウ素でも遮蔽が難しくなり、中性子の減速材を混ぜてエネルギーを下げてから遮蔽するなど工夫が必要となる。γ線の遮蔽には重量骨材を中心とした放射線遮蔽用コンクリートでよいが、中性子も遮蔽するためには従来からのリチウムやホウ素を含む軽量骨材との最適な組み合わせが必要となっている。
また、放射線遮蔽体は、地震や衝撃などにより破損した状態で用いれば、放射線が漏洩することとなるため、破損による放射線遮蔽機能の劣化を確認する必要がある。
そこで、本発明の実施形態は、従来のγ線用遮蔽体のコンクリート遮蔽体と同程度の厚さでγ線および中性子の遮蔽を行い、かつ、放射線の漏洩の確認を可能とすることを目的とする。
上述の目的を達成するため、本実施形態に係る発光放射線遮蔽体は、入射する放射線を減衰させる発光放射線遮蔽体であって、この発光放射線遮蔽体は、コンクリートまたはモルタルからなるコンクリート遮蔽部を有し、このコンクリート遮蔽部は、賦活剤を添加したガドリニウム化合物である骨材とセメント部から構成され、前記賦活剤は前記ガドリニウム化合物を母材として前記放射線によって発光する、ことを特徴とする。
第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体の構成を示す断面図である。 第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体における骨材の物理的特性を示す特性表である。 第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体において、母材としてGOS、賦活剤としてプラセオジムを用いた場合の発光特性を示すグラフである。 第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体において、母材としてGOS、賦活剤としてテルビウムを用いた場合の発光特性を示すグラフである。 放射線遮蔽体におけるγ線エネルギーの各物質中の透過減衰割合についての計算値を示すグラフである。 第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体に欠損部が生じた場合を示す断面図である。 第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体に光検出器を配置した状態を示す断面図である。 第2の実施形態に係る発光放射線遮蔽体の構成を示す断面図である。 第2の実施形態に係る発光放射線遮蔽体の樹脂状遮蔽部の製造方法を示すフロー図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る発光放射線遮蔽体および樹脂状遮蔽部の製造方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体100の構成を示す断面図である。なお、図1では、発光放射線遮蔽体100の形状が、放射線1に面する遮蔽体線源側表面100fおよび遮蔽体反線源側表面100rを有する平板状の場合を例にとって示しているが、これに限定されない。曲面状の場合、あるいは、厚みに変化がある場合であってもよい。すなわち、原子炉、加速器施設、RI中性子源施設、核燃料施設、核燃料貯蔵施設、核シェルター、あるいは、医療分野での重粒子線施設、BNCT(中性子補足療法)施設など、放射線遮蔽を必要とする施設にあって、その遮蔽の目的に合った形状を有することでよい。なお、前述のように、以下、X線とγ線をまとめてγ線と表記する。
本実施形態に係る発光放射線遮蔽体100は、遮蔽部5としてのコンクリート遮蔽部10を有する。コンクリート遮蔽部10は、骨材11およびセメント部14を有する。
骨材11は、粗骨材12および細骨材13から構成される。ここで、粗骨材12は、粒形が5mm以上の粒が全体の85%以上含まれている骨材であり、細骨材は、全ての粒の粒径が10mm以下、かつ、そのうち85%以上が5mm以下のものをいう。
具体的には、細骨材13としては、粉末状態のものを用いている。また、粗骨材12は、大サイズ骨材12a、中サイズ骨材12b、および小サイズ骨材12cのように、粒形が大きいもの、中くらいのもの、および相対的に小さなものを有する。
骨材11の材料は、ガドリニウム化合物である。ガドリニウム化合物としては、たとえば、酸化ガドリニウム(Gd:以下GOと略す)、ガドリニウムガリウムガーネット(GdGa12:以下GGGと略す)、酸硫化ガドリニウム(GdS:以下GOSと略す)、およびケイ酸ガドリニウム(GdSiO:以下GSOと略す)などを用いることができる。ここで、それぞれの密度は、GOが7.4g/cm、GGGが7.09g/cm、GOSが7.3g/cm、およびGSOが6.7g/cmである。
ガドリニウム(Gd)は希土類元素のレアアースで希少金属である。天然に存在する同位体は、154Gd(2.18%)、155Gd(14.80%)、156Gd(20.47%)、157Gd(15.65%)、158Gd(24.84%)、および160Gd(21.86%)の6種類である。ただし、()内の数値は天然存在割合を示す。160Gdはβ壊変(半減期3.1×1019年)により安定核種である160Dyとなる。それ以外のGd同位体は安定核種である。
Gdの主な反応は、中性子を吸収してγ線を放出する(n,γ)反応である。154Gd、155Gd、156Gd、および157Gdの各(n,γ)反応によって、それぞれ安定核種である155Gd、156Gd、157Gd、および158Gdが生成される。158Gdの場合は、(n,γ)反応で生成される159Gdがβ壊変を伴って安定同位体のテルビウム159(159Tb)になる。この壊変で、970.6keV(62%)、912.6keV(26%)、607.09keV(12%)、622.42keV(0.31%)のβ線が放出される。また、363.55keV(11.4%)、58keV(2.15%)、348.16keV(0.234%)、226.16keV(0.215%)のγ線が放出される。
特に熱中性子領域で反応断面積が大きい157Gdおよび155Gdは、(n,γ)反応で8MeVの中性子捕獲γ線を放出する。このγ線の放出モードは、連続スペクトルと離散スペクトルの2つに大別される。γ線の放出モードのほとんど(93.8%)が連続スペクトルであり、不安定な複合核から安定な基底レベルまで8MeVの単一エネルギーではなく高いエネルギーから低いエネルギーにわたって放出割合が多くなるスペクトルとなる。一方の離散スペクトルは、5.62MeV+2.25MeV(1.3%)、5.88MeV+1.99MeV(1.6%)、6.74MeV+1.11MeV(0.02%)、7.87MeV(0.02%)と高エネルギーのγ線が放出されるが、その割合は、6.2%と少ない。
なお、上述の中性子捕獲反応の共鳴領域は、154Gdの場合で約10eV~約3keV、155Gdの場合で約2eV~約200eV、156Gdの場合で約30eV~約2keV、および157Gdの場合で約3eV~約300eV程度の範囲である。したがって、いわゆる1/V領域と呼ばれる熱中性子領域を含むエネルギー領域と、それより高い共鳴領域を含む数keV、たとえば3keVまでの領域とを合わせて、ここでは、低エネルギー領域を呼ぶこととする。
γ線(X線を含む)に対する遮蔽性能は、密度だけではなく原子番号Zにも依存する。反応の状況(光電効果、コンプトン散乱、電子対生成)によりべき乗の数nが異なるが、鉄の原子番号26に比べてガドリニウムは原子番号64とZが約2.5倍となり、ガドリニウムを用いることが重要となる。また、比重についても、放射線用の遮蔽体について製作されている従来例では、比重は3.5程度である。現在骨材すべてをGOSとしているコンクリート遮蔽10の比重は4.9以上であり、鉄鋼材を骨材として製作された遮蔽体よりも大きな比重となっている。
さらに、これらから選定されたガドリニウム化合物を母材とする賦活剤が添加されている。賦活剤としては、希土類元素を用いる。希土類元素の中では、たとえば、プラセオジム(Pr)、やテルビウム(Tb)、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)等が特に好ましい。
細骨材13および粗骨材12は、上述したガドリニウム化合物に賦活剤を添加した粉体やそれを焼成した焼結体である。なお、この際は、熱間等方圧加圧法による処理(HIP:Hot Isostatic Pressing)やホットプレス法により焼成される。
ここで、ガドリニウム化合物に添加する賦活剤の割合は、0.001mol%(10ppm)~50mol%である。ここで、賦活剤の割合が0.001mol%未満では発光効果が有意でない。また、賦活剤の割合が50mol%を超えると濃度消光のために発光効果が有意でなく、かつ、ガドリニウムの割合が少なくなるので遮蔽効果が有意でなくなる。また、好ましくは、ガドリニウム化合物に添加する賦活剤の割合は、0.1mol%~10mol%である。
これらのセラミック、焼結体への焼成前に粒度分布をブロードにする、あるいは、セラミック、焼結体を焼成後に粉砕により粒度をブロードにすることにより、細骨材13および粗骨材12を得ることができる。
一般的に、コンクリートに用いられる粗骨材や細骨材は砂利や砂であり、コンクリートは、セメント、水、粗骨材、細骨材、混和材料から構成される。体積で占める割合で最も多いのが粗骨材、次に細骨材でセメント、水、混和材料がこれらの隙間に入る。
本願のコンクリート遮蔽部10においては、一般的なコンクリートの粗骨材および細骨材の材料を、ガドリニウム化合物および賦活剤から成形された粗骨材12および細骨材13に置き換えたものである。したがって、セメント14、水、粗骨材12、細骨材13、混和材料の割合や、混錬および固化等のプロセス等についは、通常のコンクリートと同様である。
なお、遮蔽部5において、骨材11の密度を、放射線1透過方向に対して単調に増加させる、すなわち、骨材11の密度を放射線1の透過方向に傾斜させ、低密度部分を入射側に配する構成でもよい。
次に、第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体における骨材の物理的特性を説明する。
図2は、第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体における骨材の物理的特性を示す特性表である。図2では、ガドリニウム化合物としてGOS、賦活剤としてPrを用いた例を示しており、その特性は、以下のとおりである。
密度: 7332kg/m
X線吸収係数: 7240m-1 (at 6.0KeV)
3380m-1 (at 8.0KeV)
屈折率: 2.22 (at 633nm)
マイクロビッカース硬度: 4420MPa (荷重 1.0kg)
線膨張係数: 8.8×10-6/℃ (at 23℃~385℃)
熱伝導率: 13.5W/(m・K) (at 29℃)
電気伝導率: 4.68×10-13-1・m-1
比熱: 0.287 (at 30℃)
γ線遮蔽の上で重要な密度は、7332kg/mであり、従来、中性子吸収材に用いられているBやLi等に比べると、はるかに大きく、鉄鋼等の密度に近い。
線膨張係数は、8.8×10-6/℃であり、鉄とコンクリートの線膨張係数1.0×10-5/℃に比べて十分に小さい。
その他の物理的特性についても、特に特異な点はない。
図3は、第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体において、母材としてGOS、賦活剤としてプラセオジムを用いた場合の発光特性を示すグラフである。横軸は発光波長(nm)、縦軸は発光強度の相対値である。
母材をGOS、賦活剤をPrとする図3に示す場合は、670nm付近、510nm付近、770nm付近、640m付近等に発光強度のピークが発生している。
図4は、第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体において、母材としてGOS、賦活剤としてテルビウムを用いた場合の発光特性を示すグラフである。図3と同様に、横軸は発光波長(nm)、縦軸は発光強度の相対値である。
母材をGOS、賦活剤をTbとする図4に示す場合は、540nm付近、590nm付近、620nm付近等に発光強度のピークが発生している。
図3および図4により、母材としてGOS、賦活剤としてPrやTbを用いた場合を例にとって示したが、これらの発光現象は、GOSを母材とする賦活剤としてのPrやTb、あるいは図示しないユーロピウム(Eu)の発光現象であり、それぞれの元素で特有の発光波長となる。
この場合の発光現象は、GOSを構成するGd原子を含むGOS全体が、放射線1の照射によってキャリア(電子正孔)が生成し、賦活剤を励起し、低エネルギー準位に遷移する過程で発光するものである。
光検出器(カメラを含む)の感度領域によって、検知できるピークは異なるが、通常の光検出手段で、いずれかのピークを検出することができる。光の検出に際しては、S/N比を確保するために、検出対象とするピーク波長を含む領域のみを通過させる帯域フィルターを用いることが好ましい。ここで、帯域フィルターは、光学的なフィルターでよいし、光電変換後に電気的な帯域フィルターを用いることでもよい。
図5は、放射線遮蔽体におけるγ線エネルギーの各物質中の透過減衰割合についての計算値を示すグラフである。横軸は、γ線エネルギー(MeV)、縦軸は、入射時の放射線束に対する減衰結果I/Iである。放射線遮蔽体は、各物質とも、厚さが5cmの場合を示している。
実線で示す曲線C1は、GOSの場合を示す。点線で示す曲線C2は、鉛(Lead)の場合を示す。破線で示す曲線C3は、鉄(Iron)の場合を示す。また、1点鎖線で示す曲線C4は、BCの場合を示す。
これらの物質において、原子番号Zが82と最も大きな鉛が、γ線の減衰が最も大きい。一方、Gdの原子番号Zは64と大きいことからγ線に対する遮蔽効果が高く、GOSは、Gd、OおよびSの化合物であり、鉄と同程度の減衰効果を示す。中性子遮蔽には効果を有するBCは、最も減衰効果が小さい。
Gdは、熱中性子に対する反応断面積が、元素の中で最も大きい。前述のGdの天然同位体の中で特に157Gdと155Gdは、中性子のエネルギー0.0253eVの熱中性子エネルギーにおいて、反応断面積が、10Bと比べて、157Gdは66倍、155Gdは15.8倍である。また、前述のように、100eVから1KeV付近のエネルギーでは、他のGd同位体を含めて複数の共鳴吸収ピークを持ち、10Bよりも大きな断面積を有する。
前述のように、Gdの中性子との主な反応は、ホウ素とは異なり、中性子と反応してγ線を放出する(n,γ)反応である。ホウ素の場合は(n,α)反応であり、7*Liが生成され、Liになる過程で478KeVの即発γ線を放出する。一方、Gdの場合には、154Gd、155Gd、156Gd、および157Gdのそれぞれの(n,γ)反応により生成されるそれぞれ155Gd、156Gd、157Gd、および158Gdは安定同位体であり、壊変に伴ってβ線やγ線を放出するような二次的な生成物は生じない。
以上のように、GOSは、前述の中性子に対する遮蔽効果とともに、γ線に対しても鉄と同程度の減衰効果を有している。
図6は、第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体100に欠損部が生じた場合を示す断面図である。遮蔽体線源側表面100f側から遮蔽体反線源側表面100rに向かって、深さがL1の欠損部100dが発生している状態を示している。なお、遮蔽体反線源側表面100rをカメラ31で観察できる。
このように、発光放射線遮蔽体100に欠損部100dが生じた場合は、遮蔽体反線源側表面100rの発光強度が部分的に大きくなることから確認することができる。また、この確認は、遠隔でも光を視認できれば可能である。
図7は、第1の実施形態に係る発光放射線遮蔽体100に光検出器を配置した状態を示す断面図である。
図7では、発光放射線遮蔽体100が、3層のコンクリート遮蔽部10a、10b、10cが、放射線1の透過方向に積層されている場合を示している。
ここで、それぞれのコンクリート遮蔽部10a、10b、10cの遮蔽体反線源側表面100m、100n、100rからの光を検出するために、第1光検出器32a、第2光検出器32b、および第3光検出器32cがそれぞれ設けられている。
このように、放射線1の透過方向に沿って、遮蔽体反線源側表面100m、100n、100rにおける発光強度を測定することによって、放射線1の減衰効果を確認することができる。
以上のように、本実施形態に係る発光放射線遮蔽体100によれば、以下のような特徴、効果を得ることができる。
第1に、発光放射線遮蔽体100が、特に熱中性子領域の中性子およびガンマ(X)線により発光する点である。放射線1を光検出器で検知できることは、たとえば、生体遮蔽を目的とした放射線遮蔽体の外側まで放射線1が漏れている場合、それを遠隔で視認することが可能となる。これによって、放射線1が漏れている個所、強度までも把握することができる。一方、放射線検出器を用いた場合は、放射線遮蔽体の表面の放射線強度を測定しない限り、このように、放射線1が漏れている個所を特定することはできない。
第2に、発光放射線遮蔽体100の骨材11は、従来のγ線遮蔽用のコンクリート遮蔽体と同程度の重量であり、中性子およびガンマ(X)線の両者の遮蔽機能を有する点である。すなわち、従来のγ線用遮蔽体のコンクリート(モルタルも含む)と同等もしくはより薄いコンクリート厚さで、中性子およびガンマ(X)線の両者を効率的に遮蔽することができる。
第3に、発光放射線遮蔽体100においては、一般のコンクリートの劣化現象の一つであるアルカリ骨材反応が起きにくい点である。アルカリ骨材反応としては、アルカリシリカ反応(ASR)とアルカリ炭酸塩反応が知られている。これらは、セメントに含まれるナトリウムやカリウムなどの金属イオンが骨材鉱物中のシリカと化学反応を起こし、この結果、異常膨張が起こりコンクリートにひび割れを生じさせる反応現象である。本実施形態による発光放射線遮蔽体100の骨材11は、このアルカリシリカ反応を発生させる物質を含まない無害骨材であるという特徴を有する。
第4に、発光放射線遮蔽体100の骨材11は、HIP処理して製作されたものであるため、骨材11自体が高温・高圧状態に強く、かつ、骨材11の熱膨張係数が非常に小さい点である。すなわち、GOSの線膨張係数は、8.8×10-6/℃であり、鉄とコンクリートの線膨張係数1.0×10-5/℃に比べて十分に小さい。このため、骨材自体の熱膨張による割れやひび割れは起こし難いという特徴がある。
[第2の実施形態]
図8は、第2の実施形態に係る発光放射線遮蔽体の構成を示す断面図である。
本実施形態は、第1の実施形態の変形である。すなわち、本実施形態に係る発光放射線遮蔽体100aは、遮蔽部5として、第1の実施形態と同様のコンクリート遮蔽部10を有するが、さらに樹脂状遮蔽部20を有する。
樹脂状遮蔽部20は、図8に示すように、コンクリート遮蔽部10より放射線1の入射側に配置されている。
樹脂状遮蔽部20は、骨材21および樹脂部24を有する。
骨材21は、粗骨材22および細骨材23を有する。骨材21の材料は、骨材11と同様に、ガドリニウム化合物の粉粒と賦活剤の粉粒とを混合したものから成形されたセラミック、あるいは焼結体を用いることができる。
骨材21は、樹脂状遮蔽部20において、放射線1の入射方向の下流側に偏在しており、樹脂とともに骨材保有層20bを形成している。また、樹脂層20aは、樹脂のみの層であるが、細骨材23については、樹脂層20aの領域内に存在してもよい。
図9は、第2の実施形態に係る発光放射線遮蔽体100aの樹脂状遮蔽部20の製造方法を示すフロー図である。
まず、骨材21および樹脂部24のそれぞれために、骨材および樹脂を準備する(ステップS1)。なお、樹脂部24には、パラフィンや水素含有量の多い樹脂を用いる。また、樹脂は、たとえば、2液混合タイプの透明樹脂で、粘性が低く、硬化時間が長いものを用いる。たとえば、エポキシ樹脂の量はGOS片の容積の約1.5~2倍以上の割合とする。温度との関係で低い温度の場合に硬化時間が長くなる場合には、移行のステップにおいて温度管理して硬化時間が長くなるようにする。
次に、樹脂の体積量に対して半分以下の体積割合の骨材を樹脂に混合させ、攪拌する(ステップS2)。たとえば、まず、1液目の主剤と発光GOS片を容器に収納した後に十分に攪拌する。次に2液目の硬化剤を入れる。
次に、容器を振動させ、樹脂中の空気等の脱泡、抜気を行う(ステップS3)。容器の振動は、例えば、振動台に搭載して行う。また、抜気は、たとえば、真空槽を用いることにより可能である。ここで、容器の環境温度はエポキシ樹脂の硬化速度が遅くなるよう低温の状態とする。
次に、振動を継続状態し、密度の大きな骨材を沈降させ、樹脂層20aと骨材保有層20bとに分離する(ステップS4)。エポキシ樹脂の比重は1.1~1.4g/cm3程度であり、一方、GOS片の密度は7.3g/cm3以上であることから、容器全体を振動させながら硬化させると、GOS片は比重の違いから沈降して下側に密に堆積する状況となり、上部は透明な樹脂層だけになる。すなわち、樹脂層20aと骨材保有層20bとは、樹脂層20aを上にして互いに上下に分離する。樹脂層20a、樹脂部24のみ、あるいは、細骨材23の一部を含む。骨材保有層20bは、骨材21および樹脂部24を含む。
次に、樹脂の硬化を完了させる(ステップS5)。
なお、ステップS4において、完全に沈降させずに、途中の段階で、樹脂を硬化させることでもよい。この場合、遮蔽部5において、骨材11の密度を、放射線1透過方向に対して単調に増加させる、すなわち、骨材11の密度を放射線1の透過方向に傾斜させ、低密度部分を入射側に配することが可能である。
以上のように、本実施形態によれば、早期に、高速中性子を減速させ熱中性子領域あるいは共鳴領域を含む低エネルギー領域に移行させることにより、低エネルギー中性子と骨材11および骨材21との反応を加速させることができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
1…放射線、5…遮蔽部、10…コンクリート遮蔽部、10a…第1ブロック、10b…第2ブロック、10c…第3ブロック、11…骨材、12…粗骨材、12a…大サイズ骨材、12b…中サイズ骨材、12c…小サイズ骨材、13…細骨材、14…セメント部、20…樹脂状遮蔽部、20a…樹脂層20a…骨材保有層、21…骨材、22…粗骨材、23…細骨材、24…樹脂部、31…カメラ、32…光検出器、32a…第1光検出器、32b…第2光検出器、32c…第3光検出器、100、100a…発光放射線遮蔽体、100d…欠損部、100f…遮蔽体線源側表面、100m、100n、100r…遮蔽体反線源側表面

Claims (9)

  1. 入射する放射線を減衰させる発光放射線遮蔽体であって、
    この発光放射線遮蔽体は、コンクリートまたはモルタルからなるコンクリート遮蔽部を有し、
    このコンクリート遮蔽部は、賦活剤を添加したガドリニウム化合物である骨材とセメント部から構成され
    前記賦活剤は前記ガドリニウム化合物を母材として前記放射線によって発光する、
    ことを特徴とする発光放射線遮蔽体。
  2. 前記遮蔽部は、透明樹脂とともに形成されることを特徴とする請求項1に記載の発光放射線遮蔽体。
  3. 前記遮蔽部は、γ線および低エネルギー中性子を対象とすることを特徴とする請求項1に記載の発光放射線遮蔽体。
  4. 前記ガドリニウム化合物は、酸化ガドリニウム、ガドリニウムガリウムガーネット、酸硫化ガドリニウムおよびケイ酸ガドリニウムの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の発光放射線遮蔽体。
  5. 前記賦活剤は、希土類元素を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の発光放射線遮蔽体。
  6. 前記希土類元素は、テルビウム、プラセオジム、ユウロピウム、およびセリウムの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項5に記載の発光放射線遮蔽体。
  7. 前記ガドリニウム化合物および前記賦活剤を、これらの焼結体として有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の発光放射線遮蔽体。
  8. 前記透明樹脂の一部は、前記放射線の入射側に配されている、もしくは前記遮蔽部の密度を傾斜させ低密度部分が入射側に配されている、
    ことを特徴とする請求項2に記載の発光放射線遮蔽体。
  9. 入射する放射線によって発光する賦活剤を添加したガドリニウム化合物を透明樹脂で形成し、前記入射する放射線を減衰させる樹脂状遮蔽部の製造方法であって、
    前記ガドリニウム化合物と前記賦活剤とを有する骨材と樹脂とを容器内で混合するステップと、
    密度の大きい前記骨材を沈降させ、骨材保有層と樹脂層とに分離するステップと、
    を有することを特徴とする樹脂状遮蔽部の製造方法。
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