JP7445113B2 - 熱間プレス成形用めっき鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は,熱間プレス成形用めっき鋼板に関するものである。
近年、環境の保護と地球温暖化の防止のために、化石燃料の消費を抑制する要請が高まっている。かかる要請は、様々な製造業に対して影響を与えている。例えば、移動手段として日々の生活や活動に欠かせない自動車についても例外ではなく、車体の軽量化などによる燃費の向上等が求められている。しかしながら、自動車では、単に車体の軽量化を実現することは製品機能上許されず、適切な安全性を確保する必要がある。
自動車の構造の多くは、鉄系材料、特に鋼板により形成されている。かかる鋼板の重量を低減することが、車体の軽量化にとって重要である。しかしながら、上述の通り、単に鋼板の重量を低減することは許されず、鋼板の機械的強度を確保することが同時に求められる。このような鋼板に対する要請は、自動車製造業のみならず、様々な製造業でも同様になされている。よって、鋼板の機械的強度を高めることにより、従来使用されていた鋼板より薄肉化しても機械的強度を維持又は向上させることが可能な鋼板について、研究開発が行われている。
一般的に、高い機械的強度を有する材料は、曲げ加工等の成形加工において、形状凍結性が低下する傾向にあり、複雑な形状に成形加工することが困難となる。かかる成形性についての問題を解決する手段の一つとして、いわゆる「熱間プレス法(ホットスタンプ法、ホットプレス法、又は、ダイクエンチ法とも呼ばれる。)」が挙げられる。
熱間プレス法では、成形対象である鋼板を一旦高温に加熱して、加熱により軟化した鋼板にプレス加工を行って成形した後、冷却する。かかる熱間プレス法によれば、鋼板を一旦高温に加熱して軟化させるため、対象とする鋼板を容易にプレス加工することが出来る。更に、成形後の冷却による焼入れ効果により、鋼板の機械的強度を高めることが出来る。従って、熱間プレス法により、良好な形状凍結性と高い機械的強度とを両立した成形品を得ることができる。
しかしながら、かかる熱間プレス法を鋼板に適用すると、鋼板が800℃以上の高温に加熱されることで鋼板の表面が酸化して、スケール(化合物)が生成される。従って、熱間プレス加工を行った後に、かかるスケールを除去する工程(いわゆる、デスケーリング工程)が必要となり、生産性が低下する。また、耐食性を必要とする部材等では、加工後に部材表面へ防錆処理や金属被覆をする必要があり、表面清浄化工程及び表面処理工程が必要となって、更に生産性が低下する。更に、鋼板のみでは、例え熱間プレス加工後に塗装を施しても耐食性が劣る課題がある。
例えば、特許文献1には亜鉛系めっき鋼板を用いた技術、特許文献2にはAl,Feを主成分とする金属間化合物層を有するアルミめっき鋼板を用いた技術、特許文献3には10~25質量%のNiを含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなるめっき層を有する鋼板を用いた技術が開示されている。
特開2003-73774号公報 特開2003-49256号公報 WO2012/070482号公報
特許文献1の技術では、ホットスタンプ後にZnが鋼板表層に残存するため、高い犠牲防食作用が期待できる。しかしながら、めっき層が酸化されやすく表面に酸化物が生成するために塗装密着性及び耐食性が低下することが問題である。また、熱間プレス成形時に金型に溶融Znが凝着するなどの問題がある。
特許文献2の技術では、めっき層にZnよりも融点が高いAlを用いている。しかしながら、Alめっき層が形成された鋼板には、自動車用部材の塗装前に行われる、りん酸塩処理時に、りん酸塩皮膜を形成し難くなり、塗膜密着性が低下する問題がある。また、Alめっき層はZnめっき層より鋼板に対する犠牲防触作用がないため、耐食性が劣る。
特許文献3の技術では、めっき層に10~25質量%のNiを含むことで、融点が881℃と高いγ相が形成されるので、加熱時におけるスケールやZnOの生成を最小限に抑制することができるため、耐食性を更に高めた技術である。しかしながら、表層のZnO生成を完全には抑制することが困難であり、更なる塗装密着性及び塗装後耐食性の向上が望まれている。
そこで、本発明の課題は、上記の問題点を解決し、熱間プレス成形時の金型への溶融Znの凝着を抑制しつつ、塗装密着性及び塗装後耐食性に優れる熱間プレス成形体の素材として好適な熱間プレス成形用めっき鋼板を提供することである。
上記課題を解決するための手段は、下記態様を含む。
[1]
鋼板と、前記鋼板の片面又は両面に設けられ、Niを含有する亜鉛めっき層と、を有し、
前記亜鉛めっき層のNi濃度が下記式(1)の関係を満たす熱間プレス成形用めっき鋼板。
式(1):[Ni]≦[Ni]
(式(1)中、[Ni]は、亜鉛めっき層の深さ方向の中心から、亜鉛めっき層及び鋼板の界面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。[Ni]は、亜鉛めっき層の深さ方向の中心から、めっき層の表面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。)
[2]
前記亜鉛めっき層は、走査型電子顕微鏡により観察したときに、観察像に見られるクラックで囲まれる領域数が、0個/mm以上5000個/mm以下である[1]に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
[3]
前記亜鉛めっき層のNi濃度が、質量%で9~26%である[1]又は[2]に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
[4]
前記亜鉛めっき層の付着量が、鋼板片面あたりで5~100g/mである[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
[5]
前記亜鉛めっき層のNi濃度が下記式(2)の関係を満たす[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
式(2):1.2×[Ni]≦[Ni]≦3×[Ni]
(式(2)中、[Ni]は、めっき層の深さ方向の中心から、めっき層及び鋼板の界面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。[Ni]は、めっき層の深さ方向の中心から、めっき層の表面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。)
本発明によれば、熱間プレス成形時の金型への溶融Znの凝着を抑制しつつ、塗装密着性及び塗装後耐食性に優れる熱間プレス成形体の素材として好適な熱間プレス成形用めっき鋼板が提供できる。
図1は、本発明の熱間プレス成形用めっき鋼板のめっき層における「クラックに囲まれた領域の個数(クラック個数)」の計測方法を説明するための図である。
本発明の一例である好適な実施の形態について詳細に説明する。
なお、本明細書において、化学組成の各元素の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
「めっき層の表面」とは、めっき層厚み方向で鋼板側とは反対側の表面を示す。
本発明の熱間プレス成形用めっき鋼板(以下、「めっき鋼板」とも称する)、鋼板の片面又は両面に設けられ、Niを含有する亜鉛めっき層(以下「めっき層」とも称する)と、を有する。
そして、亜鉛めっき層のNi濃度は、下記式(1)の関係を満たす。
式(1):[Ni]≦[Ni]
(式(1)中、[Ni]は、亜鉛めっき層の深さ方向の中心から、亜鉛めっき層及び鋼板の界面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。[Ni]は、亜鉛めっき層の深さ方向の中心から、めっき層の表面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。)
本発明のめっき鋼板は、上記構成により、熱間プレス成形時の金型への溶融Znの凝着を抑制しつつ、塗装密着性及び塗装後耐食性に優れる熱間プレス成形体の素材として好適な熱間プレス成形用めっき鋼板となる。
そして、本発明のめっき鋼板は、次の知見により見出された。
めっき層中のNi濃度は、高い方がめっき層の融点が高くなる。しかし、めっき層中のNi濃度を過度に高めると、犠牲防食性が低下する。そこで、めっき層のNi濃度を式(1)の関係とすること、つまり、めっき層の表面側のNi濃度(表面Ni濃度[Ni]s)を、めっき層と鋼板との界面側のめっき層のNi濃度(界面Ni濃度[Ni])よりも、高くする。そうすると、めっき層全体のNi濃度は抑えつつ、めっき層表層の融点を高められる。めっき層の表層の融点を高めることで、熱間プレス時の加熱により、めっき層が溶融し難くなる。それにより、熱間プレス成形時の金型への溶融Znの凝着が抑制される。
また、めっき層の表面側のNi濃度(表面Ni濃度[Ni]s)を、めっき層と鋼板との界面側のめっき層のNi濃度(界面Ni濃度[Ni])よりも、高くすると、めっき層の表層は、酸化し難くなる。それにより、めっき層の表面において、ZnOの生成が抑えられ、表面凹凸が付与され難くなり。そのため、熱間プレス成形体の化成処理性が高まり、塗装密着性も高まる。そして、塗装密着性が向上するため、腐食による塗装膨れが抑制され、塗装後耐食性も向上すると考えられる。
以上の知見から、本発明のめっき鋼板は、熱間プレス成形時の金型への溶融Znの凝着を抑制しつつ、塗装密着性及び塗装後耐食性に優れる熱間プレス成形体となることが見出された。
以下、本発明のめっき鋼板の詳細について説明する。
(1)鋼板(以下、「素地鋼板」」とも称する。)
亜鉛めっき層が形成される素地鋼板は、特に限定されるものではなく、公知の特性や化学組成を有する各種の鋼板を使用することが可能である。
素地鋼板の化学組成は、特に限定されるものではないが、焼き入れによって高強度を得られる化学組成であることが好ましい。
例えば、引張強度が980MPa以上の熱間プレス成形体を得ようとする場合には、素地鋼板として、質量%で、C:0.05~0.4%、Si:0.5%以下、Mn:0.5~2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0~0.005%、Ti:0~0.1%、Cr:0~0.5%、Nb:0~0.1%、Ni:0~1.0%、及び、Mo:0~0.5%を含有し、残部は、Fe及び不純物からなる化学組成を有する焼入用鋼板が例示される。
なお、焼入れ時に強度が980MPa未満となる比較的低強度の熱間プレス成形体を得ようとする場合には、素地鋼板の化学組成は、上述の範囲でなくともよい。
素地鋼板において、上述の焼入れ時の焼き入れ性の観点、及び加熱後の酸化亜鉛層中にMn酸化物及びCr酸化物を形成する観点から、Mn含有量及びCr含有量の合計量Mn+Crは、0.5~3.0%であることが好ましく、0.7~2.5%であることがより好ましい。
(2)亜鉛めっき層
-式(1):[Ni]≦[Ni]
めっき層のNi濃度は、式(1):[Ni]≦[Ni]を満たす。
表面Ni濃度[Ni]を界面Ni濃度[Ni]よりも高くすることで、熱間プレス成形時の金型への溶融Znの凝着を抑制しつつ、塗装密着性及び塗装後耐食性が向上する。表面Ni濃度[Ni]を界面Ni濃度[Ni]よりも低いと、金型への溶融Znの凝着が発生し易くなると共に、塗装密着性及び塗装後耐食性が低下する。
よって、めっき層のNi濃度は、式(1)を満たすこととする。
金型への溶融Znの凝着の抑制、塗装密着性及び塗装後耐食性の向上の観点、並びに、表面Ni濃度[Ni]が界面Ni濃度[Ni]よりも過度に高くなると、塗装後耐食性が低下する傾向がある観点から、めっき層のNi濃度は、(2)を満たすことが好ましい。
式(2):1.2×[Ni]≦[Ni]≦3×[Ni]
界面Ni濃度[Ni]、および表面Ni濃度[Ni]は、高周波グロー放電発光表面分析装置(高周波GDS)で求めることができる。具体的には、次の通りである。
めっき鋼板のめっき層の表面から、アルゴンスパッタリングしながら高周波GDSにて、めっき層の深さ方向にZnとNiとFeについて分析を行う。
得られたFeとZnとNiの発光強度から、Fe濃度を[Fe濃度(%)]=[Feの発光強度]/([Feの発光強度]+[Znの発光強度]+[Niの発光強度])より求める。また、ZnとNiの発光強度のみから、Ni濃度を[Ni濃度(%)]=[Niの発光強度]/([Znの発光強度]+[Niの発光強度])により求める。
そして、高周波GDSの測定時間とFe濃度及びNi濃度との関係を表すグラフを得る。
次に、測定時間0秒の位置をめっき層表面、Fe濃度が50%となる時間の位置を素地鋼板とめっき層との界面(界面位置時間と称す)と定義する。そして、測定時間0秒から[界面位置時間]/2の時間までのNi濃度を積分したものを「表面Ni濃度[Ni]」、[界面位置時間]/2から[界面位置時間]までのNi濃度を積分したものを「界面Ni濃度[Ni]」と定義して、各Ni濃度を算出する。
界面Ni濃度[Ni]、および表面Ni濃度[Ni]を変える方法としては、電気めっき法において、異なる条件で2回以上めっき処理する方法が挙げられる。
具体的には、電気めっき液中のNiイオン濃度を変更することで、Ni濃度が異なるめっき層を得ることができる。そのため、最初に、Niイオン濃度の高いめっき液で電気めっき処理した後に、Niイオン濃度の低いめっき液で電気めっきすることで、Ni濃度が式(1)の関係を満たすめっき層を形成することができる。
電気めっき液の種類および濃度は、特に規定するものではなく、必要に応じて適宜選定し、めっき層のNi濃度が本発明の規定に入るように事前に調整した条件とする。
また、電気めっきの電流密度などの条件によっても、Ni濃度は変化するため、必要に応じて適宜選定し、めっき層のNi濃度が本願発明の規定に入るように事前に調整した条件とする。
-クラックで囲まれる領域数-
めっき層において、走査型電子顕微鏡により観察したときに、観察像に見られるクラックで囲まれる領域数は、0個/mm以上5000個/mm以下とすることが好ましい。
一般的に、鋼板は焼鈍後に材質を調整するために、調質圧延又はレベラー加工などにより軽く加工して用いることが一般的である。めっき鋼板の場合、めっきした後に、これらの加工が施されることがある。Niを含有する亜鉛めっき層は、硬質であるため、Niを含有する亜鉛めっきを施した鋼板を調質圧延又はレベラー加工などで加工を施すと、加工条件によっては、めっき層に多数のクラックが発生する恐れがある。
めっき層に多数のクラックが入っためっき鋼板を、熱間プレス成形すると、めっき層の表面のみならず、クラックの内部からも酸化物(具体的にはZnO)が生成し、得られる熱間プレス成形体の表面に生成する酸化膜が不均一となる恐れがある。この酸化膜の不均一が原因で、化成処理性が低下し、塗装密着性及び塗装後耐食性が劣る恐れがある。
そのため、めっき層において、クラックで囲まれる領域数を上記範囲とすることが好ましい。塗装密着性及び塗装後耐食性の向上の観点から、クラックで囲まれる領域数は、0個/mm以上2000個/mm以下がより好ましく、0個/mm以上500個/mm以下がさらに好ましい。
「クラックで囲まれる領域数」は、めっき層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察可能で、めっき層の表面の観察像に見られるクラックで囲まれる領域数であって、単位面積(1mm)当たりのその領域の個数である。
ここで、「クラックに囲まれた領域」とは、SEMによる観察像において見られる、クラックにより島状に区画された領域である。
具体的には、次のようにして「クラックで囲まれる領域の個数」を求める。
めっき層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。SEMの種類、加速電圧などは特に限定されないが、FE-SEMなどのような高解像度を実現しうる顕微鏡を用いることが好ましい。SEMにより、めっき層の表面を観察し、クラックにより囲まれた領域の個数を計測する。
このときの視野は、特に限定されないが、過度に広い場合、つまり低倍率の場合には、解像度が低くなるため領域数が低めに計測される傾向があり、過度に狭い場合、つまり高倍率の場合には、解像度は高いものの測定点ごとのばらつきが大きくなり、領域数の信頼性が低下する傾向がある。
したがって、次の方法により計測することが好ましい。すなわち、サンプルのめっき層表面における任意の場所30点について、倍率を1000倍として表面観察を行う。得られた30枚の観察像について任意に設定した0.1mm×0.05mmの範囲(計測範囲)の視野中にあるクラックに囲まれた領域の個数(クラック個数)を計測する。計測方法は特に限定されず、適切な画像解析手段を用いればよい。30枚の観察像から求めたクラック個数の平均値を算出し、これを200倍した値を「クラックで囲まれる領域数」(1mm当たりのクラック領域の個数)とする。
具体的な、「クラックに囲まれた領域の個数(クラック個数)」の計測は、次の通り行う。
図1(a)は、クラックを有するめっき鋼板のめっき層表面の観察像(SEM像)の一例である。この観察像(SEM像)で、0.1mm×0.05mmの範囲(計測範囲)に、クラックに囲まれた領域(以下「クラック領域」とも称する)の全体が入っている場合には、図1(b)のように、そのクラック領域を囲むクラックを実線で表す。一方、計測範囲にクラック領域の一部が入っている場合には、そのクラック領域を囲むクラックのうち、計測範囲外へと延びるものおよび計測範囲外にあるものを、図1(b)のように点線で囲む。こうして計測範囲内に少なくとも一部が含まれるクラック領域を特定したのち、実線のみで囲まれているクラック領域、すなわち全体が計測範囲に含まれるクラック領域の個数(第1のクラック個数)および一部が点線で囲まれているクラック領域、すなわち一部が計測範囲外にあるクラック領域の個数(第2のクラック個数)を求める。そして、第1のクラック個数+第2のクラック個数/4を、一つの計測範囲における「クラックに囲まれた領域の個数(クラック個数)」とする。
めっき層に発生するクラックを抑制するためには、めっき鋼板に調質圧延又はレベラー加工を施さずに、予め鋼板に調質圧延又はレベラー加工を施した後に、めっきすることが好適である。
-めっき層のその他特性-
めっき層の平均Ni濃度は、9~26%が好ましい。めっき層の平均Ni濃度が、9%未満であると、熱間プレス成形時の金型への溶融Znの凝着がしやすくなる恐れがあり、且つ熱間プレス成形時に発生するめっき層表面の酸化物量が多くなり、化成処理性が低下し、塗装密着性及び塗装後耐食性が劣る傾向がある。めっき層の平均Ni濃度が、26%超では、犠牲防食効果の高いZnの量が少なくなるため、塗装後耐食性(具体的に犠牲防食性)が低下する傾向がある。
そのため、めっき層の平均Ni濃度は、上記範囲が好ましい。塗装密着性及び塗装後耐食性の向上の観点から、めっき層の平均Ni濃度は、9~18%がより好ましく、9~13%がさらに好ましい。
めっき層の平均Ni濃度は、高周波グロー放電発光表面分析装置(高周波GDS)で求めることができる。具体的には、次の通りである。
まず、界面Ni濃度[Ni]、および表面Ni濃度[Ni]の測定と同様に、高周波GDSの測定時間とNi濃度との関係を表すグラフを得る。そして、測定時間0秒から[界面位置時間]までのNi濃度を積分したもの平均Ni濃度と定義して、めっき層の平均Ni濃度を算出する。
めっき層の付着量は、素地鋼板片面あたりで5~100g/mが好ましい。めっき層の付着量が、5g/m未満では耐食性に低下する傾向があり、100g/m超では電気めっき法でめっきする際に電流密度を高くなったり浸漬時間が長くなったりして生産性が低下する。
そのため、めっき層の付着量は、上記範囲が好ましい。耐食性および生産性の向上の観点から、めっき層の付着量は、30~50g/mがより好ましい。
(3)めっき鋼板の製造方法
本発明のめっき鋼板は、電気めっき法にて製造することが好ましい。電気めっきを利用する場合、具体的なめっき操作としては、ZnイオンおよびNiイオンを含有する電解液中にて、鋼板を負極として対極との間で電解処理を実施する。また、素地鋼板へのめっき層の付着量の制御は、電解液組成や電流密度、電解時間により行う。
なお、めっき層の、界面Ni濃度[Ni]、表面Ni濃度[Ni]、及び「クラックで囲まれる領域数」の制御方法については、上述した通りである。
(4)熱間プレス成形
本発明のめっき鋼板は、熱間プレス成形に供される。熱間プレス成形は、めっき鋼板を所定の温度まで加熱させた後、プレス成形を行う成形方法である。
熱間プレス成形は、緩加熱による熱間プレス成形と、急速加熱による熱間プレス成形という2つの方法があるが、いずれでもよい。めっき鋼板を加熱する加熱方法としては、電気炉、ガス炉、火炎加熱、通電加熱、高周波加熱、誘導加熱等の周知の加熱方法が利用できる。加熱時の雰囲気も、特に制限されるものではない。
熱間プレス成形では、通常、熱間プレス前に、700~1000℃にめっき鋼板を加熱するが、急速冷却後にマルテンサイト単相としたり、マルテンサイトを体積率で90%以上としたりする場合、加熱温度の下限温度は、Ac3点以上とすることが好ましい。
特に、急速冷却後の熱間プレス成形体の組織をマルテンサイト/フェライトの2相域とする場合も、加熱温度としては、上記のように700~1000℃とすることが好ましい。
熱間プレス前のめっき鋼板加熱時の平均昇温速度は、特に規定するものではないが、20℃/秒以上が好ましい。また、板温が最高温度に到達した後の保持時間も特に規定するものではなく、必要に応じて適宜選定することができる。
昇温後に加熱炉から取り出されためっき鋼板は、金型を用いてプレスされる。めっき鋼板をプレスする際に、金型によって鋼板が冷却される。金型内には、冷却媒体(例えば水など)が循環しており、金型が鋼板を抜熱して冷却する。以上の工程により、通常加熱により熱間プレス成形体が製造される。
本発明のめっき鋼板を熱間プレス成形した熱間プレス成形体は、後処理として、例えば、1)成形体表面を洗浄する脱脂処理、2)りん酸亜鉛処理、一般に金属酸化物処理(金酸処理)とも呼ばれるジルコン処理等の化成処理、3)カチオン電着塗装が順次施される。これら処理を施すと、成形体の耐食性が向上する。
脱脂処理は、市販のアルカリ脱脂液を用いることができ、処理条件も処理液メーカーの推奨条件で実施することができる。
りん酸亜鉛処理、ジルコン処理等の化成処理は、自動車用に用いている一般に公知の処理液で実施することができる。化成処理の処理条件も必要に応じて適宜選定することができる。
カチオン電着塗装も、一般に公知のカチオン電着塗装で実施することができる。
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
<素地鋼板>
まず、表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。その後、製造したそれぞれの溶鋼を用いて、連続鋳造法によりスラブを製造した。得られたスラブを熱間圧延し、熱延鋼板を製造した。続いて、熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造し、表1に記載の化学組成を有する鋼#1~#8の鋼板を作製した。表1に示すとおり、各鋼種の鋼板の板厚は、いずれも1.6mmとなるように製造した。
<めっき層の形成>
硫酸水溶液に金属亜鉛を亜鉛イオンとして65g/L溶解し、更に金属亜鉛を溶解した溶液に対して炭酸ニッケルをニッケルイオンとして40g/L添加し、更に硫酸又は炭酸ナトリウムでpH調整して、pH1.5のめっき浴を作製した。なお、めっき浴中の亜鉛イオン量とニッケルイオン量は誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MAS)にて分析して、必要に応じて金属亜鉛添加量及び炭酸ニッケル添加量を調整して、求める濃度のめっき浴を作製した。
鋼#1~#8の鋼板に対して、作製しためっき浴を温度50℃で電流密度を5~100A/dmと変化させて電気めっきを行った。電気めっきは必要に応じて2種のめっき浴を用いて2段階でめっきした。更に、必要に応じて、電気めっき完了後に通電していない、めっき浴にめっき鋼板を浸漬させることで、めっき層の表面にクラックを発生させた。なお、無通電のめっき浴浸漬に使用するめっき浴の組成は、2段目めっきで使用するめっき浴と同じ組成とした。
具体的には、表2の条件に従って、鋼板にめっき層を形成した。
<評価>
(各種測定)
各種測定について以下に記す。また、測定の結果については表3に記載した。
-クラックで囲まれる領域数-
作製しためっき鋼板のめっき層における「クラックで囲まれる領域数」を走査型電気顕微鏡にて測定した。具体的には、(株)日立ハイテクサイエンスシステムズ社製S-3400N型走査電子顕微鏡で、加速電圧25.0kVのSEM像にてクラックを観察し、既述の方法に従って、「クラックで囲まれる領域数」を測定した。
測定した「クラックで囲まれる領域数」については、クラックが観察されない場合、「0」、50000超の場合、「50000超」、1以上、50000以下については100刻みの範囲で記載した。
-めっき層の、各種Ni濃度-
既述の方法に従って、堀場製作所社製の高周波GDS「GD-Profiler2」にて、作製しためっき鋼板のめっき層の、平均Ni濃度、界面Ni濃度[Ni]、表面Ni濃度[Ni]を測定した。
(塗装密着性及び塗装後耐食性評価)
1)熱間プレス成形体の作製
作製しためっき鋼板に対して、炉加熱方式にて熱間プレス加熱を行い、熱間プレスを実施した。炉加熱では、炉内雰囲気を910℃、空燃比を1.1とし、鋼板温度が900℃に到達後、めっき鋼板を速やかに炉内から取り出した。熱間プレス加熱後、鋼板温度が650℃になるまで冷却した。冷却後、水冷ジャケットを備えた平板金型を利用して、めっき鋼板を挟み込んで、熱間プレスし、熱間プレス成形体を製造した。熱間プレス時冷却速度が遅い部分でも、マルテンサイト変態開始点である360℃程度まで、50℃/秒以上の冷却速度となるように冷却し、焼入れした。
2)化成処理及び電着塗装
-リン酸塩処理-
作製した熱間プレス成形体に対して、日本パーカライジング株式会社製の表面調整処理剤プレパレンX(商品名)を用いて、表面調整を室温で20秒実施した。更に、日本パーカライジング株式会社製のリン酸亜鉛処理液パルボンド3020(商品名)を用いて、リン酸塩処理を実施した。処理液の温度は43℃とし、板状の熱間プレス成形体を処理液に120秒間浸漬後、水洗及び乾燥を行った。
-電着塗装-
リン酸塩処理を実施した後、熱間プレス成形体に対して、日本ペイント株式会社製のカチオン型電着塗料を電圧160Vのスロープ通電で電着塗装した。更に、焼き付け温度170℃で20分間焼き付け塗装した。電着塗装後の塗料の膜厚の平均は15μmとした。
3)塗装密着性評価
電着塗装した熱間プレス成形体を、50℃の温度を有する5%NaCl水溶液に、500時間浸漬した。浸漬後、試験面60mm×120mmの領域(面積A10=60mm×120mm=7200mm)全面に、ポリエステル製テープを貼り付けた。その後、テープを引きはがした。テープの引きはがしにより剥離した塗膜の面積A2(mm)を求め、式:塗膜剥離率=(A2/A10)×100に基づいて、塗膜剥離率(%)を求めた。
そして、塗膜剥離率が5%未満の場合は「A(○)」、剥離率が5%以上10%未満の場合は「A(○△)」、剥離率が10%超50%未満の場合は「B(△)」、剥離率が50%以上の場合は「C(×)」と評価した。
4)塗装後耐食性評価
電着塗装した熱間プレス成形体に対して、素地鋼板にまで到達するようにクロスカットをいれ、日本自動車規格(JASO)に記載のJASO M609に準じたサイクル腐食試験を実施した。試験期間は180サイクルとした。塗装膨れ幅にて耐食性を評価し、180サイクルの複合腐食試験を実施した後の塗装膨れ幅が2.0mm以下のものを「A(○)」、2.0mm超3.0mm以下のものを「A(○△)」、3.0mm超5.0mm以下のものを「B(△)」、5.0mm超のものを「C(×)」と評価した。
(金型への溶融Zn凝着付着評価)
金型への溶融Zn凝着付着評価を次の通り実施した。
前記「(塗装密着性及び塗装後耐食性評価)の1)」に記載の熱間プレス成形体の作製時に、各水準の熱間プレス成形体を作製後に金型にめっき金属の付着有無を目視にて評価した。金型と試験片とが接触する面積部分の50%以上にめっき金属が付着していた場合を「C(×)」、20%以上50%未満にめっき金属が付着ししていた場合を「△」、5%以上20%未満にめっき金属が付着していた場合を「A(○△)」、めっき金属の付着量が5%未満であった場合を「A(○)」と評価した。
(熱間プレス成形体の引張強さ評価)
前記「(塗装密着性及び塗装後耐食性評価)の1)」に記載の熱間プレス成形体から、JIS5号試験片を切り出し、常温で引張試験を行うことで熱間プレス成形体の引張強さを評価した。そして引張強度が980MPa以上であったものを「A(○)」、980MPa未満であったものを「B(△)」と評価した。
(めっき層形成の生産性評価)
前記「<めっき層の形成>」に記載しためっき層の形成において、1段目めっきのめっき時間と2段目めっきのめっき時間、無通電めっきの浸漬時間の合計時間をめっき層の形成の生産性として評価した。生産性について、合計時間が60秒以下であれば、「A(○)」、60秒超120秒以下であれば「B(△)」、120秒超150秒以下であれば「B(△×)」、150秒超であれば「C(×)」と評価した。
上記結果から、本実施例のめっき鋼板は、比較例のめっき鋼板に比べ、熱間プレス成形時の金型への溶融Znの凝着を抑制しつつ、塗装密着性及び塗装後耐食性に優れる熱間プレス成形体が得られることがわかる。

Claims (3)

  1. 鋼板と、前記鋼板の片面又は両面に設けられ、Niを含有する亜鉛めっき層と、を有し、
    前記亜鉛めっき層のNi濃度が下記式(1)及び下記式(2)の関係を満たし、
    前記亜鉛めっき層の表面から、前記亜鉛めっき層及び前記鋼板の界面までの領域におけるNi濃度の平均値が、質量%で9~26%であり、
    前記亜鉛めっき層は、走査型電子顕微鏡により観察したときに、観察像に見られるクラックで囲まれる領域数が、0個/mm 以上5000個/mm 以下である熱間プレス成形用めっき鋼板。
    式(1):[Ni]≦[Ni]
    (式(1)中、[Ni]は、亜鉛めっき層の深さ方向の中心から、亜鉛めっき層及び鋼板の界面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。[Ni]は、亜鉛めっき層の深さ方向の中心から、めっき層の表面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。)
    式(2):1.2×[Ni]≦[Ni]≦3×[Ni]
    (式(2)中、[Ni]は、めっき層の深さ方向の中心から、めっき層及び鋼板の界面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。[Ni]は、めっき層の深さ方向の中心から、めっき層の表面までの領域におけるNi濃度の平均値を示す。)
  2. 前記亜鉛めっき層は、走査型電子顕微鏡により観察したときに、観察像に見られるクラックで囲まれる領域数が、0個/mm以上500個/mm以下である請求項1に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
  3. 前記亜鉛めっき層の付着量が、鋼板片面あたりで5~100g/mである請求項1又は請求項2に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
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