以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものである。従って、例えば、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
第1実施形態の説明以降においては、基本的に、先に説明された実施形態との相違部分についてのみ述べる。特に言及が無い事項については、先に説明された実施形態と同様とされたり、先に説明された実施形態から類推されたりしてよい。また、複数の実施形態間で対応する構成については、相違点が存在しても、同一の符号を用いることがある。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る弾性波デバイス1(以下、単に「デバイス1」ということがある。)の要部の構成を模式的に示す平面図である。
デバイス1は、いずれの方向が上方又は下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、D1軸、D2軸及びD3軸からなる直交座標系を図面に付すとともに、D3軸の正側を上方として、上面又は下面等の用語を用いることがある。なお、D1軸は、後述する圧電体3の上面3aに沿って伝搬する弾性波の伝搬方向に平行になるように定義され、D2軸は、上面3aに平行かつD1軸に直交するように定義され、D3軸は、上面3aに直交するように定義されている。
デバイス1は、圧電体3と、圧電体3の上面3a上に位置している導体層5(ハッチングして示されている。)とを有している。導体層5は、1以上(図示の例では3つ)のIDT電極7と、1以上のIDT電極7に並列に接続されている1以上(図示の例では1つ)の分極電極9とを有している。IDT電極7と分極電極9とは、例えば、配線21によって接続されている。
圧電体3は、弾性波を伝搬させる媒質として機能する。IDT電極7は、電気信号から弾性波への変換、及び弾性波から電気信号への変換の少なくとも一方に寄与する。この変換を利用して共振子又はフィルタとしての動作が実現される。分極電極9は、上記の変換に係る特性の向上に寄与する。弾性波は、例えば、SAW、BAW、弾性境界波又は板波(ただし、これらの弾性波は必ずしも明確に区別できるわけではない。)である。
デバイス1は、互いに並列に接続されている2以上の分極電極9を有していてもよい。ただし、以下の説明では、分極電極9が1つである態様を例に取る。
特に図示しないが、デバイス1は、導体層5の上から圧電体3の上面3aを覆う不図示の保護膜を有していてもよい。このような保護膜は、例えば、SiO2等の絶縁材料からなり、導体層5が腐食する蓋然性を低減したり、及び/又は温度変化に起因するIDT電極7に係る特性(例えば共振特性)の変化を補償したりすることに寄与する。
また、デバイス1は、IDT電極7の上面又は下面に重なり、基本的に平面透視においてIDT電極7に収まる形状を有している付加膜を有していてもよい。このような付加膜は、例えば、IDT電極7の材料とは音響的な特性が異なる絶縁材料又は金属材料からなり、弾性波の反射係数を向上させることに寄与する。
(導体層)
導体層5は、例えば、図示の範囲において、その全体が同一の材料及び厚さで構成されている。換言すれば、IDT電極7、分極電極9及び配線21は、互いに同一の材料及び厚さで一体的に構成されている。導体層5の材料は、例えば、金属である。金属は、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)である。Al合金は、例えば、Al-Cu合金である。導体層5は、複数の金属層が積層されて構成されていてもよい。導体層5の厚さは、IDT電極7が構成する素子(例えば共振子又はフィルタ)に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。一例として、導体層5の厚さは50nm以上600nm以下である。
(各IDT電極)
各IDT電極7は、1対の櫛歯電極11を有している。各櫛歯電極11は、例えば、バスバー13と、バスバー13から互いに並列に延びる複数の電極指15と、複数の電極指15の間においてバスバー13から突出する複数のダミー電極17とを有している。そして、1対の櫛歯電極11は、複数の電極指15が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。
バスバー13は、例えば、概略、一定の幅で弾性波の伝搬方向(D1方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、一対のバスバー13は、弾性波の伝搬方向に直交する方向(D2方向)において互いに対向している。なお、バスバー13は、幅が変化したり、弾性波の伝搬方向に対して傾斜したりしていてもよい。
各電極指15は、例えば、概略、一定の幅で弾性波の伝搬方向に直交する方向(D2方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。なお、電極指15は、幅が変化していてもよい。各櫛歯電極11において、複数の電極指15は、弾性波の伝搬方向に配列されている。また、一方の櫛歯電極11の複数の電極指15と他方の櫛歯電極11の複数の電極指15とは、基本的には交互に配列されている。別の観点では、一方の櫛歯電極11の電極指15と他方の櫛歯電極11の電極指15とは、ギャップG1を介して互いに対向している。
複数の電極指15のピッチp(例えば互いに隣り合う2本の電極指15の中心間距離)は、IDT電極7内において基本的に一定である。IDT電極7は、一部にピッチpに関して特異な部分を有していてもよい。特異な部分としては、例えば、大部分(例えば8割以上)よりもピッチpが狭くなる狭ピッチ部、大部分よりもピッチpが広くなる広ピッチ部、少数の電極指15が実質的に間引かれた間引き部が挙げられる。
以下において、ピッチpという場合、特に断りがない限りは、上記のような特異な部分を除いた部分(複数の電極指15の大部分)のピッチをいうものとする。また、特異な部分を除いた大部分の複数の電極指15においても、ピッチが変化しているような場合においては、大部分の複数の電極指15のピッチの平均値をピッチpの値として用いてよい。
電極指15の本数は、IDT電極7が構成する素子(例えば共振子又はフィルタ)に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。図1は模式図であることから、電極指15の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多くの電極指15が配列されてよい。
複数の電極指15の長さは、例えば、互いに同等である。なお、IDT電極7は、複数の電極指15の長さ(別の観点では交差幅W)が伝搬方向の位置に応じて変化する、いわゆるアポダイズが施されていてもよい。電極指15の長さは、要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。
複数の電極指15の幅は、例えば、互いに同等である。別の観点では、電極指15のデューディー比(ピッチpに対する電極指15の幅の比)、及び隣り合う電極指15の間隔s1は、例えば、複数の電極指15同士で同等である。ただし、IDT電極7は、電極指15の幅、デューティー比及び/又は間隔s1に関して特異な部分を有していてもよい。また、特異な部分を除いた大部分においても、電極指15の幅、デューティー比及び/又は間隔s1が変化していてもよい。
電極指15の幅、デューティー比及び/又は間隔s1は、例えば、要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、電極指15の幅は、例えば、0.3p以上又は0.4p以上とされてよく、また、0.7p以下又は0.6p以下とされてよい。上記の下限と上限とは、適宜に組み合わされてよい。この記載の裏返しとなるが、ギャップG1を介して互いに隣り合う電極指15同士の間隔s1は、0.3p以上又は0.4p以上とされてよく、また、0.7p以下又は0.6p以下とされてよい。上記の下限と上限とは、適宜に組み合わされてよい。なお、本段落でのピッチpは、上述した特異な部分を除いた大部分の電極指におけるものであってもよいし、個々の電極指15又は個々の間隔s1に係るものであってもよい。
ダミー電極17は、例えば、概ね一定の幅で弾性波の伝搬方向に直交する方向に突出している。その幅は、例えば電極指15の幅と同等である。また、複数のダミー電極17は、複数の電極指15と同等のピッチで配列されており、一方の櫛歯電極11のダミー電極17の先端は、他方の櫛歯電極11の電極指15の先端とギャップG2を介して対向している。別の観点では、一方の櫛歯電極11の電極指15の先端は、他方の櫛歯電極11の前記一方の櫛歯電極11側に面する縁部とギャップG2を介して対向している。IDT電極7は、ダミー電極17を含まないものであってもよい。
電極指15とダミー電極17との間隔s2は、例えば、複数の電極指15同士で互いに同等である。もちろん、複数の間隔s2は、互いに異なっていてもよい。間隔s2は、例えば、電極指15とダミー電極17とが短絡しない範囲で極力小さくされてもよいし、IDT電極7が構成する素子(例えば共振子又はフィルタ)に要求される電気特性を考慮して設定されてもよい。間隔s2は、例えば、0.2p以上、0.3p以上又は0.4p以上とされてよく、また、2p以下、1p以下、0.7p以下又は0.6p以下とされてよい。上記の下限と上限とは、適宜に組み合わされてよい。
1対の櫛歯電極11に電圧(別の観点では信号)が印加されると、複数の電極指15によって圧電体3の上面3aに電圧が印加され、上面3aが振動する。これにより、上面3aに沿って伝搬する弾性波が励振される。このとき、複数の電極指15によって励振された複数の弾性波は、その半波長が概ねピッチpと同等であるときに、複数の電極指15に直交する方向(D1方向)において互いに同相となり、その振幅が足し合わされる。すなわち、ピッチpを半波長とし、D1方向に伝搬する弾性波が最も励振されやすい。その結果、1対の櫛歯電極11に印加された電圧のうち、主として、概ねピッチpを半波長とする弾性波の周波数と同等の周波数を有する成分が弾性波に変換される。また、圧電体3の上面3aのうち1対の櫛歯電極11の配置領域に弾性波が生じた場合においては、上記とは逆の原理によって、主として、概ねピッチpを半波長とし、D1方向に伝搬する弾性波が電圧に変換される。このような原理を利用して、共振子又はフィルタが実現される。
IDT電極7は、種々の態様で利用されてよい。例えば、IDT電極7は、D1方向において後述する反射器31(図6)が配置されることによって、後述する1ポート共振子37(図10)を構成してよい。また、IDT電極7は、D1方向において他の1以上のIDT電極7と隣り合うとともに、複数のIDT電極7の両側に反射器が配置されることによって、後述する縦結合多重モード型フィルタ39(図10。ダブルモード型フィルタを含むものとする。)を構成してもよい。また、IDT電極7は、他のIDT電極7とD1方向において距離を空けて配置されることによって、トランスバーサル型フィルタ(不図示)を構成してもよい。
(複数のIDT電極)
複数のIDT電極7は、互いに直列に接続されている。なお、IDT電極7について接続という場合、特に断りがない限りは、1対の櫛歯電極11に電圧が印加される態様での接続をいうものとする。従って、複数のIDT電極7が互いに直列に接続されているというときは、例えば、不図示の第1の端子と、第1のIDT電極7の一の櫛歯電極11とが接続され、第1のIDT電極7の他の櫛歯電極11と、第2のIDT電極7の一の櫛歯電極11とが接続され、第2のIDT電極7の他の櫛歯電極11と、第3のIDT電極7の一の櫛歯電極11又は不図示の第2の端子(若しくは基準電位部)とが接続され、というような接続態様を指す。
より具体的には、図示の例では、複数のIDT電極7は、D2方向に1列で配列されており、隣り合うIDT電極7同士でバスバー13を共有することによって、互いに直列に接続されている。ただし、図示の例とは異なり、複数のIDT電極7は、共有されていないバスバー13同士が配線で接続されていてもよいし、D2方向に1列で配列されていなくてもよい。また、図示の例は、供給されていないバスバー13同士の間にバスバー13の長さと同じ幅の配線が設けられている態様と捉えられてもよい。
複数のIDT電極7を互いに直列に接続している目的は、種々の目的であってよい。換言すれば、互いに直列に接続されている複数のIDT電極7は、種々の態様の弾性波素子を構成してよい。
例えば、複数のIDT電極7は、1つのIDT電極7を分割したものであってよい。この場合、元の1つのIDT電極7に印加される電圧が分圧されて複数のIDT電極7に印加されることになる。その結果、耐電力性が向上する。この態様において、複数のIDT電極7の構成(寸法及び材料等)は、例えば、互いに同一とされてよい。
また、例えば、複数のIDT電極7は、後述するラダー型フィルタの複数の直列共振子37S(図10)を構成するものであってもよい。この態様において、複数のIDT電極7は、例えば、共振周波数同士が概ね一致し、反共振周波数同士が概ね一致するように構成される。複数のIDT電極7の構成(寸法及び材料等)は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、例えば、複数のIDT電極7は、横結合多重モード型フィルタを構成するものであってもよい。この場合、複数(一般には2つ)のIDT電極7同士が音響的に結合することによってフィルタが構成される。この態様において、複数のIDT電極7の構成(寸法及び材料等)は、例えば、互いに同一とされてよい。
(分極電極)
分極電極9は、ギャップG3を介して互いに対向している1対の対向電極19を有している。
なお、図1では、1対の対向電極19の間の間隔s3が最も狭い位置にギャップG3の符号を付している。以下の説明において、ギャップG3の語は、1対の対向電極19の間のギャップ全体を指すことがあり、また、特定の位置(例えば間隔s3が最も狭い位置)のギャップを指すことがある。同様に、間隔s3は、ギャップ全体の間隔を指すことがあり、特定の位置のギャップの間隔(例えば最も狭い間隔)を指すことがある。既述のギャップG1及びG2、並びに間隔s1及びs2についても同様である。
分極電極9及びギャップG3等の寸法の説明において、これらの寸法と、電極指15、ギャップG1及びG2等の寸法との比較を行うことがある。このときの電極指15等の寸法は、特異な部分を除いた大部分における電極指15等の寸法であってもよいし、特異な部分における電極指15等の寸法(別の観点では最小値又は最大値)であってもよい。
対向電極19の形状は適宜に設定されてよい。図示の例では、対向電極19は、基部19aと、基部19aから突出する1以上(図示の例では2つ)の突出部19bとを有している。そして、2つの対向電極19は、一方の対向電極19の突出部19bの先端と、他方の対向電極19の突出部19bの先端とがギャップG3を介して対向している。この先端同士の間のギャップG3は、1対の対向電極19の間のギャップのうち最も狭いギャップである。先端同士の間隔s3は、複数の突出部19b同士で互いに同一であってもよいし(図示の例)、互いに異なっていてもよい。
基部19aの形状は適宜に設定されてよい。例えば、基部19aは、矩形状(図示の例)、矩形以外の四角形状、四角形以外の多角形状、円形状又は楕円形状とされてよい。基部19aにおいて、2つの対向電極19の対向方向(図示の例ではD2方向)における長さ(例えば最大長さ)及び対向方向に直交する方向の長さ(例えば最大長さ)は、同等であってもよいし(図示の例)、一方が他方よりも長くてもよい。
突出部19bの形状は適宜に設定されてよい。例えば、突出部19bは、矩形状(図示の例)、矩形以外の四角形状、四角形以外の多角形状、円形状又は楕円形状とされてよい。突出部19bは、一定の幅で突出していてもよいし(図示の例)、先端ほど幅が狭くなるなど、幅が変化していてもよい。突出部19bの先端の縁部は、1対の対向電極19の対向方向(図示の例ではD2方向)に直交する直線状であってもよいし(図示の例)、先端側ほど幅が狭くなるように角部又は曲線を成していてもよい。突出部19bの突出方向は、1対の対向電極19の対向方向に平行であってもよいし(図示の例)、対向方向に対して傾斜していてもよい。
突出部19bの寸法は適宜に設定されてよい。例えば、突出部19bの幅(図示の例ではD1方向の長さ)は、電極指15の幅(D1方向の長さ)に対して、小さくてもよいし、同等でもよいし、大きくてもよい。換言すれば、最も狭いギャップG3の幅(1対の対向電極19の対向方向に直交する方向の長さ。図示の例ではD1方向の長さ)は、ギャップG2の幅(電極指15に直交する方向の長さ)に対して、小さくてもよいし、同等でもよいし、大きくてもよい。
突出部19bの本数及び突出部19b同士の間隔s4は適宜に設定されてよい。図示の例では、2本の突出部19bが設けられている。また、図示の例では、間隔s4は、比較的広くされており、例えば、間隔s3よりも広く、また、間隔s1及びs2よりも広くされている。より詳細には、例えば、間隔s4は、間隔s1の2倍以上とされてよい。もちろん、間隔s4は、間隔s1~s3のうちの少なくとも1つよりも小さくても構わない。
別の観点では、複数(図示の例では2つ)の突出部19bの幅と、複数の突出部19bの間の1つ以上(突出部19bの数-1)の間隔s4との合計長さは、突出部19bの本数と同数の電極指15の幅と、当該同数の電極指15の間の1つ以上(電極指15の数-1)の間隔s1との合計に対して、短くてもよいし、同等でもよいし、長くてもよい。図示の例では、前者は、後者に対して長く、例えば、1.5倍以上とされてよい。
図示の例では、2つの対向電極19の形状及び寸法は互いに同一である。ただし、2つの対向電極19の間で、形状及び/又は寸法が異なっていてもよい。また、図示の例では、1つの対向電極19が有する複数の突出部19bの形状及び寸法は互いに同一である。ただし、これらは互いに異なっていてもよい。図示の例では、一方の対向電極19の複数の突出部19bの先端と他方の対向電極19の複数の突出部19bの先端との間の複数のギャップG3は、D1方向の大きさ及び間隔s3が互いに同一である。ただし、これらは互いに異なっていてもよい。
対向電極19の形状は、図示の形状以外の形状とされて構わない。例えば、対向電極19の形状は、矩形状とされてよい。そして、短辺同士又は長辺同士がギャップG3を介して対向してよい。また、対向電極19の形状は、多角形状(上記の矩形を含む)とされてもよい。そして、辺同士又は角同士がギャップを介して対向してよい。また、対向電極19は、円形状又は楕円形状とされてもよい。また、1対の対向電極19の形状は、1対の櫛歯電極11と同様に、互いに噛み合うように配置される1対の櫛歯状とされてもよい。各対向電極19において、1対の対向電極19の対向方向における長さ及び対向方向に直交する方向における長さは、同等であってもよいし、一方が他方よりも長くてもよい。
1対の対向電極19が互いに対向する方向は任意である。例えば、1対の対向電極19が対向する方向は、弾性波の伝搬方向(D1方向)であってもよいし、伝搬方向に直交する方向(図示の例)であってもよいし、伝搬方向に傾斜する方向であってもよい。図示の例では、1対の対向電極19は、一方向のみ(D2方向のみ)において互いに対向している。ただし、1対の対向電極19が互いに噛み合う1対の櫛歯電極であってもよいことから理解されるように、1対の対向電極19は、ギャップを介してD1方向において対向する部分と、ギャップを介してD2方向において対向する部分とを有していてもよい。すなわち、1対の対向電極19は、2方向以上において対向していてもよい。
分極電極9の配置領域の広さ(分極電極9の平面視における大きさ)は適宜に設定されてよい。例えば、分極電極9の配置領域は、分極電極9が並列に接続されている1以上のIDT電極7のうちのいずれか1つの配置領域、又は全ての配置領域に対して、小さくされてもよいし(図示の例)、同等とされてもよいし、大きくされてもよい。例えば、分極電極9の配置領域の面積は、分極電極9が並列に接続されている1以上のIDT電極7のうちのいずれか1つの配置領域、又は全ての配置領域の面積に対して、1/2以下とされてよい。なお、分極電極9(又は1つのIDT電極7)の配置領域は、例えば、分極電極9(又は1つのIDT電極7)を包含する最も小さい凸多角形によって定義されてよい。複数のIDT電極7の配置領域の面積は、各IDT電極7の配置領域の面積を合計した値とされてよい。
(対向電極の間の間隔)
2つの対向電極19の間の間隔s3のうち最も狭い間隔は、例えば、各IDT電極7内の2つの櫛歯電極11同士の間隔s1及びs2のうち最も狭い間隔を1以上のIDT電極7について合計した値よりも狭い。ここでいう1以上のIDT電極7は、分極電極9に並列に接続されている全てのIDT電極7のことである。従って、例えば、3つのIDT電極7と分極電極9とが並列に接続されており、各IDT電極7のうち最も狭い間隔が間隔s2であり、かつ間隔s2が3つのIDT電極7の間で互いに同一である場合においては、s3<3×s2である。なお、当然ながら、各IDT電極7で最も狭い部位及び/又は間隔は、IDT電極7同士で同一であってもよいし、異なっていてもよい。最も狭い間隔s3と、最も狭い間隔s1又はs2の上記の合計値との相違の程度は適宜に設定されてよい。例えば、前者は、後者の0.9倍以下又は0.5倍以下とされてよい。
2つの対向電極19の間の間隔s3のうち最も狭い間隔は、2つの櫛歯電極11の間の間隔s1及びs2のうち最も狭い間隔であって、分極電極9と並列に接続されている全てのIDT電極7の中で最も狭い間隔に対して、狭くてもよいし、同等でもよいし、広くてもよい(図示の例)。最も狭い間隔s3が、複数のIDT電極7の中で最も狭い間隔s1又はs2よりも広い場合、両者の相違の程度は適宜に設定されてよい。例えば、前者は、後者の1.1倍以上又は1.5倍以上とされてよい。間隔s3を狭くしすぎるとESD破壊や製造時の不良などのリスクが生じるため、間隔s3は技術的に常識的な範囲で設定してもよい。
(分極電極とIDT電極との関係)
分極電極9は、IDT電極7に対して並列に接続されている。なお、IDT電極7と同様に、分極電極9について接続という場合、特に断りがない限りは、1対の対向電極19に電圧が印加される態様での接続をいうものとする。従って、分極電極9が1つのIDT電極7に並列に接続されているというときは、例えば、上記1つのIDT電極7の一の櫛歯電極11と一の対向電極19とが直接に又は他の電子素子(例えば他のIDT電極7)を介して間接に接続され、上記1つのIDT電極7の他の櫛歯電極11と他の対向電極19とが直接に又は他の電子素子を介して間接に接続されている接続態様を指す。
本実施形態では、より詳細には、分極電極9は、互いに直列に接続されている複数のIDT電極7の全体に対して並列に接続されている。すなわち、一の対向電極19は、複数のIDT電極7が直列に接続されて構成されている電気的経路の最も一端側に位置するIDT電極7の前記一端側に位置する櫛歯電極11に接続されている。他の対向電極19は、上記電気的経路の最も他端側に位置するIDT電極7の前記他端側に位置する櫛歯電極11に接続されている。
IDT電極7と分極電極9との接続は、例えば、直接的になされている。すなわち、両者の間には、他の電子素子は介在しておらず、配線21のみが介在している。電子素子としては、例えば、IDT電極7、抵抗体、キャパシタ及びインダクタが挙げられる。ただし、例えば、後述する作用の少なくとも1つが多少なりとも維持される態様で、IDT電極7と分極電極9との間に他の電子素子が介在してもよい。例えば、櫛歯電極11から対向電極19へ電荷を移動させることができる電子素子が介在してもよい。このような電子素子としては、例えば、抵抗体及びインダクタが挙げられる。
IDT電極7と分極電極9との圧電体3の上面3aにおける相対位置は適宜に設定されてよい。例えば、分極電極9は、IDT電極7に対して、D1方向に位置してもよいし(図示の例)、D2方向に位置してもよいし、D1方向及びD2方向に傾斜する方向に位置してもよい。また、分極電極9は、IDT電極7と隣り合っていなくてもよいし、隣り合っていてもよい。換言すれば、分極電極9とIDT電極7との間には、他の電子素子又は配線21等が介在していてもよいし、介在していなくてもよい。また、分極電極9とIDT電極7との距離は、長くてもよいし、短くてもよい。
図示の例では、分極電極9は、IDT電極7に対して弾性波の伝搬方向(D1方向)に位置している。ここで、既述のように、IDT電極7は、1ポート共振子を構成してもよいし、縦結合多重モード型フィルタを構成してもよいし、トランスバーサル型フィルタを構成してもよい。このことから理解されるように、図示の位置関係において、分極電極9とIDT電極7との間には、反射器及び/又は他のIDT電極7が介在していてもよいし、そのような他の電子素子が介在していなくてもよい。
また、図示の例では、弾性波の伝搬方向に直交する方向(D2方向)に関して、分極電極9は、分極電極9に並列に接続されている1以上のIDT電極7が位置している範囲に収まっている。別の観点では、ギャップG3のうち最も狭い部分は、上記範囲内に位置している。このような場合において、分極電極9又は最も狭いギャップG3は、上記範囲内のいずれに位置してもよい。図示の例では、最も狭いギャップG3は、ギャップG2の外側に位置している。ギャップG2の外側は、交差幅Wの範囲、ダミー電極17の配置範囲、及びバスバー13の配置範囲である。
(配線)
IDT電極7と分極電極9とを結ぶ配線21の経路は、IDT電極7と分極電極9との相対位置、及び他の素子(例えば他のIDT電極7又は反射器)の配置等に応じて適宜な経路で延びてよい。また、配線21は、他の配線等と絶縁層を介して立体交差する部分を有していてもよい。配線21の幅は、信号が流れる方向の位置に対して、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
配線21の幅の具体的な大きさは適宜に設定されてよい。例えば、配線21の幅は、対向電極19の幅(図示の例ではD1方向の長さ)に対して、狭くてもよいし(図示の例)、同等でもよいし、広くてもよい。また、配線21の幅は、分極電極9に並列に接続されている複数のIDT電極7同士を結ぶ接続部の幅に対して、狭くてもよいし、同等でもよいし、広くてもよい。図1の例では、上記接続部の幅は、隣り合うIDT電極7によって共有されているバスバー13のD1方向の長さである。配線21は、このバスバー13のD1方向の長さよりも小さい。配線21の幅は、対向電極19の幅及び/又は上記接続部の幅に対して、例えば、0.9倍以下、0.5倍以下又は0.1倍以下とされてよい。
なお、配線21の幅、及び/又は複数のIDT電極7同士を結ぶ接続部の幅が、信号が流れる方向の位置に対して一定でない場合においては、上記の説明は、例えば、最も狭い部分同士に適用されてよい。配線21の幅について、複数のIDT電極7同士を結ぶ接続部との比較において説明したが、上記の説明は、IDT電極7と端子(例えば後述する図10に示すアンテナ端子103、送信端子105又は受信端子107)とを接続する接続部との比較に援用されてよい。
(圧電体)
圧電体3は、例えば、圧電性を有する単結晶によって構成されている。このような単結晶を構成する材料としては、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3。以下、LTと略すことがある。)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3。以下、LNと略すことがある。)及び水晶(SiO2)を挙げることができる。カット角、平面形状及び各種の寸法は適宜に設定されてよい。例えば、圧電体3の上面3aは、回転YカットX伝搬の平面とされてよい。この場合、X軸は上面3aに平行であり、Y軸は、上面3aに対して所定の角度で傾斜しており、Z軸は上面3aの法線に対して前記所定の角度で傾斜している。なお、圧電体3は、多結晶によって構成されていても構わない。
図2は、図1のII-II線における断面図である。
この図に示すように、圧電体3は、基板23の上面側の一部とされてよい。基板23の構成は適宜なものとされてよい。図示の例では、基板23は、支持基板25と、支持基板25上に位置する多層膜27と、多層膜27上に位置する膜状の圧電体3(圧電膜)と、を有している。多層膜27は、複数の音響膜29が積層されて構成されている。積層方向において隣り合う音響膜29は、互いにインピーダンスが異なっている。
基板23の構成は、図示の例以外にも種々可能である。例えば、基板23は、支持基板25の上面と、圧電体3としての圧電基板の下面とが、直接的に又は接着剤を介して間接的に貼り合わされた構成であってもよい。この構成において、圧電基板と支持基板25との間には、平面透視においてIDT電極7と重なるキャビティが構成されていてもよいし、そのようなキャビティが構成されていなくてもよい。また、基板23の全体が圧電体3によって構成されていても構わない。圧電体3は、基板23の上面全体を構成していてもよいし、基板23の上面のうちの一部の領域のみを構成していてもよい。
圧電体3の厚さt0は、IDT電極7が構成する素子(例えば共振子又はフィルタ)に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、厚さt0は、4p以下、2p以下又は1p以下とされてもよいし、これとは逆に、4p超とされてもよい。なお、基板23の構成が、図示の構成、又は支持基板25と圧電基板(圧電体3)とを貼り合わせた構成である態様においては、厚さt0を薄くしても基板23の強度を確保することが容易である。
(圧電体の分極方向)
図3(a)は、図1のIIIa-IIIa線における断面図である。図3(b)は、図1のIIIb-IIIb線における断面図である。これらの図では、便宜上、断面であることを示すハッチングは省略されている。
図中の矢印は、分極方向を示している。図3(a)及び図3(b)から理解されるように、分極電極9のギャップG3の直下における分極方向は、他の領域の分極方向とは異なっている。より詳細には、図示の例では、前者の分極方向と後者の分極方向とは、互いに平行で、かつ互いに逆向きになっている。
分極方向は、圧電体3の上面3aに対して適宜な方位に設定されてよく、また、その設定を実現する方法も適宜なものとされてよい。例えば、単結晶においては、分極方向は、結晶方位によって決定される。例えば、LT又はLNにおいては、分極方向は、Z軸に平行である。従って、上面3aと分極方向との関係は、カット角によって決定される。図示の例では、回転YカットX伝搬の圧電体3が用いられている態様を例示しており、分極方向(Z軸)は、上面3aの法線(D3方向)に対してD1軸回りに回転する方向に傾斜している。Z軸に平行な分極方向の向き(+Z側又は-Z側)は、例えば、圧電体3に対する電圧印加によって実現されてよい。また、圧電体3が多結晶体である場合においては、電圧印加によって任意の方向に分極方向が設定されてよい。
ギャップG3の直下において、分極方向は、他の領域の分極方向に対して完全に異なる方向となっていなくてもよい。例えば、ギャップG3の直下、及び/又は他の領域において、互いに異なる分極方向を有する複数の微小部分が混在してよい。そして、平均的に見たときに、又は大部分に着目したときに、ギャップG3の直下と、他の領域とで分極方向が異なっていてもよい。換言すれば、各領域において、最も分極が強い方向が分極方向として特定されてよい。圧電体3が多結晶体の場合においては、上記の微小部分は結晶粒であってよい。
ギャップG3の直下において、分極方向が他の領域の分極方向とは異なる深さは、適宜に設定されてよい。例えば、当該深さは、圧電体3の厚み全体であってもよいし(図示の例)、圧電体3の上面3a側の一部であってもよい。また、分極方向が異なる微小部分が混在してよい旨の既述の説明から理解されるように、ギャップG3の直下において、他の領域の分極方向と異なる方向における分極の強さは、深さ方向において、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
ギャップG3の直下において、分極方向が他の領域の分極方向と異なる領域は、1対の対向電極19の間のギャップG3全体に亘っていてもよいし、その一部にのみ亘っていてもよい。後者の例としては、図1に示す分極電極9の形状において、1対の対向電極19全体のギャップG3のうち、一方の対向電極19の突出部19bの先端と他方の対向電極19の突出部19bの先端との間の部分(本段落において第1部分と呼称する。)においてのみ、又は当該第1部分とその周囲においてのみ、分極方向が他の領域の分極方向と異なっている態様を挙げることができる。各突出部19bが2本以上の場合においては、第1部分は2つ以上存在する。この場合、2つ以上の第1部分と当該2つ以上の第1部分との間の部分とにおいてのみ、又はこれらの部分とその周囲においてのみ、分極方向が他の領域の分極方向と異なっていてもよい。分極方向が異なる微小部分が混在してよい旨の既述の説明から理解されるように、分極方向が他の領域の分極方向と異なる領域内において、他の領域の分極方向と異なる方向における分極の強さは、平面視における位置に対して、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
圧電体3の上面3aのうちギャップG3の直下の領域を除く全ての領域(本段落において第1領域と呼称する。)において、分極方向は、第1領域全体に亘って同一であってもよいし、同一でなくてもよい。別の観点では、ギャップG3の直下の領域と分極方向が比較される「他の領域」は、上面3aの全体であってもよいし、上面3aの一部であってもよい。上面3aの一部としては、例えば、分極電極9が並列接続されている1以上のIDT電極7の少なくとも1つ又は全ての配置領域とされてよい。
また、上記のような上面3a内の一部である他の領域内においても、分極方向は、他の領域全体に亘って同一であってもよいし、同一でなくてもよい。換言すれば、他の領域は、平均的に見たときに、又は当該他の領域の大部分において、分極方向が同じである領域とされてよい。例えば、他の領域の面積の20%以下、10%以下、5%以下又は1%以下の面積において、分極方向が残りの面積の領域(すなわち、他の領域の大部分)と異なっていてもよい。他の領域の大部分の分極方向とは異なる分極方向は、ギャップG3の直下の分極方向と同じであってもよいし、異なっていてもよい。他の領域の大部分の分極方向とは異なる分極方向を有する領域は、例えば、他の領域が分極電極9と並列接続されている1以上のIDT電極7の少なくとも1つ又は全ての配置領域である場合において、複数のギャップG2の一部であってよい。
以上の説明から理解されるように、ギャップG3の直下の領域における分極方向が、他の領域(例えばIDT電極7が配置されている領域)における分極方向と異なっているというとき、例えば、前者の領域の平面視における一部と後者の領域の平面視における一部との間で分極方向が異なっているだけであってもよいし、圧電体3の厚み方向の一部(ただし、上面3aを含む)において分極方向が異なっているだけであってもよい。
(製造方法)
弾性波デバイス1の製造方法は、例えば、分極電極9が設けられる点を除いて、公知の製造方法又は公知の製造方法を応用したものとされてよい。公知の製造方法であっても、分極電極9の作用によって、ギャップG3の直下における分極方向を他の領域の分極方向と異ならせることができる。例えば、以下のとおりである。
図4は、デバイス1の製造方法の手順の概要を示すフローチャートである。
ステップST1では、複数の圧電体3(別の観点では基板23)となる不図示のウェハが準備される。この時点において、分極方向は、ウェハの全面に亘って(別の観点では各圧電体3の全面に亘って)揃っている。分極方向は、例えば、結晶を成長させる過程で揃えられてもよいし、及び/又は結晶が成長した後に電圧を印加することによって揃えられてもよい。
ステップST2では、ウェハの複数の圧電体3となる領域に対して導体層5(換言すればIDT電極7及び分極電極9)を形成する。例えば、物理蒸着法又は化学蒸着法によってウェハの全面に導体層を形成し、その後、フォトリソグラフィーを用いて形成したマスク(レジスト)を介して導体層をエッチングしてよい。又は、フォトリソグラフィーを用いて形成したマスク(レジスト)を介して物理蒸着法又は化学蒸着法によって導体層を形成してよい。
ステップST3では、分極電極9に電圧を印加することによってギャップG3の直下における分極方向を元の方向から異ならせる。このステップST3は、例えば、電極形成後に行われる公知のステップとされてよい。換言すれば、ステップST3は、分極を目的として行われるステップでなくてよい。ただし、ステップST3は、温度変化を伴うステップである。例えば、ステップST3は、上述したマスクを除去してウェハを乾燥させるステップとされてよい。
上記のようなステップにおいて、ウェハの温度が変化すると、圧電体3の焦電効果によって圧電体3に電荷が生じる。この電荷は、導体層5に流れ、ひいては、2つの対向電極19に電圧が印加される。その結果、ギャップG3の直下において分極方向が変化する。例えば、図3(b)に示す例では、-D2側から+D2側への電界が圧電体3に印加されることによって、分極方向の向きが反転する。
なお、ステップST3は、分極電極9に電圧を印加することを目的としたステップとされても構わない。また、ギャップG3において分極方向が変化しやすいように、分極電極9に電圧を印加する前に、圧電体3の上面3aのうちギャップG3の直下となる領域に対して何らかのダメージを与えてもよい。例えば、プラズマ、薬液又はレーザー光によって上記領域にダメージを与えてよい。
ステップST4では、ウェハを複数の圧電体3に個片化する。個片化は、例えば、ダイシング等の公知の方法、又は公知の方法を応用した方法によって実現されてよい。なお、必ずしも図4のステップに従う必要はなく、例えばST4の後にST3を行ってもよい。し、弾性波デバイス完成後でもよい。
なお、特に図示しないが、デバイス1の製造方法は、上記のステップの他、導体層5を覆う保護膜を形成するステップ、及び/又はパッケージを形成するステップ等の種々のステップを有していてよい。
以上のとおり、本実施形態に係るデバイス1は、圧電体3と、圧電体3の上面3aに位置しているIDT電極7と、圧電体3の上面3aに位置しており、IDT電極7と並列に接続されている分極電極9と、を有している。分極電極9は、互いにギャップG3を介して対向する2つの対向電極19を有している。圧電体3は、ギャップG3の直下の領域における分極方向が、IDT電極7が配置されている領域における分極方向と異なっている。
従って、例えば、デバイス1の特性を向上させることができる。具体的には、以下のとおりである。
まず、製造方法に着目する。ステップST3の説明で触れたように、電極形成後、圧電体3には、温度変化に起因して、意図されていない電荷が生じることがある。この電荷は、例えば、IDT電極7に電圧を印加することになり、ひいては、圧電体3の上面3aのうちギャップG1及びG2の直下の領域に電界を印加することになる。その結果、ギャップG1及び/又はG2の直下の領域において分極方向が変化する。このような分極方向の変化は、IDT電極7が構成する素子(例えば共振子又はフィルタ)の特性に影響を及ぼす。例えば、本願発明者の実験では、IDT電極7を用いたフィルタの通過特性にリップルが生じた。
しかし、分極電極9が設けられていると、IDT電極7の電荷を分極電極9に逃がし、ギャップG3の分極の変化(例えば分極反転)に伴って実質的に電流を流して電荷を中和することができる。その結果、ギャップG1及び/又はG2において、分極方向が変化する領域の面積が低減され、及び/又は変化後の分極方向における分極の強さが減じられる。ひいては、分極方向の変化に起因してIDT電極7に係る特性が低下する蓋然性が低減される。以上のことから、完成後のデバイス1を見たときに、ギャップG3の直下において分極方向がIDT電極7の配置領域の分極方向と異なっているということは、IDT電極7の配置領域における分極方向の変化が多少なりとも減じられており、デバイス1の特性が向上しているということができる。
次に、完成後のデバイス1に着目する。IDT電極7の配置領域において生じた弾性波は、IDT電極7の配置領域の外側へ漏れることがある。この漏れた弾性波は、例えば、反射してIDT電極7の配置領域に戻ったり、他のIDT電極7の配置領域に到達したりすることによって、IDT電極7が構成する素子の特性におけるリップルの要因となる。しかし、圧電体3の上面3aのうちギャップG3の直下の領域において分極方向が異なっていると、ギャップG3の直下の領域へ漏れた弾性波は、その位相及び/又は方向が乱されやすい。その結果、例えば、ギャップG3の直下の領域へ漏れた弾性波と、他の領域へ漏れた弾性波とがデバイス1の特性に及ぼす影響が足し合わされにくくなり、リップルの大きさを低減できる。
また、分極方向が変化した部分は、電圧が印加されることでさらに変化が進行したり、戻ったりしやすくなっている。ひいては、製品化後に発生した焦電電圧に対しても機敏に反応し、IDT電極7で分極方向が変化する。本実施形態は、例えば、そのような蓋然性を低減することができる。
また、例えば、分極方向が変化した部分で発生する偶数次の非線形歪(例えば2次高調波や2次の相補変調歪)は、IDT電極7で発生するものと逆位相になるので、総合的に非線形歪が低減され、ノイズの少ない弾性波デバイスとなる。
デバイス1において、IDT電極7は、所定のピッチp(既述のように大部分におけるピッチp、又はピッチpの平均値が参照されてよい。)で配列されている複数の電極指15を有してよい。圧電体3の厚さt0は、ピッチpの2倍以下とされてよい。
この場合、例えば、ギャップG3の直下の領域における分極方向をIDT電極7の配置領域における分極方向と異ならせることが容易化される。具体的には、圧電体3が比較的厚い場合、上面3aに電圧を印加して上面3a付近のみにおいて分極方向を異ならせても、その後、上面3a付近の分極方向は、下方の部分の分極方向に影響を受けて元に戻りやすい。従って、分極方向が変化した状態を維持するためには、ステップST3において分極電極9に印加する電圧を大きくしたり、及び/又は分極電極9とは別の電極(例えば圧電体3を厚み方向において挟む1対の電極)によって圧電体3に電界を印加したりする必要性が生じる。しかし、圧電体3が比較的薄い場合においては、そのような必要性は減じられる。
なお、上記から理解されるように、比較的厚い圧電体を有する弾性波デバイスにおいては、仮に分極電極9と類似した電極が設けられていたとしても、意図的に電極直下の領域の分極方向を他の領域の分極方向と異ならせるための何らかの処理を行っていない限り、分極方向は圧電体の上面全体に亘って一定である。すなわち、分極電極9と類似した電極を有する公知の弾性波デバイスは、デバイス1と同様の構成を有していない。
また、製造過程の温度変化に伴って生じる電荷によって1対の櫛歯電極11の間において分極方向が変化し、ひいてはIDT電極7が構成する素子の特性が低下するという現象(課題)は、比較的厚い圧電体を有する公知の弾性波デバイスにおいては生じない。圧電体が薄い場合に上記現象(課題)が生じることは、特性低下の要因を探る本願発明者の鋭意検討によって発見された知見であり、弾性波デバイスの分野において一般に知られている知見ではない。
デバイス1は、互いに直列に接続されている複数のIDT電極7を有していてよい。分極電極9は、複数のIDT電極7の全体に対して並列に接続されていてよい。複数のIDT電極7のそれぞれは、互いに噛み合っている2つの櫛歯電極11を有していてよい。2つの対向電極19の間の最も狭い間隔s3は、2つの櫛歯電極11の間の最も狭い間隔s1又はs2を複数のIDT電極7について合計した値よりも狭くされていてよい。
この場合、例えば、温度変化に起因して生じた電荷によって分極電極9のギャップG3の直下において分極方向を変化させることが容易化される。別の観点では、IDT電極7のギャップG1及び/又はG2の直下において分極方向の変化が生じる蓋然性を低減することが容易化される。具体的には、以下のとおりである。
図5は、比較例に係るデバイス1Aにおける分極方向の変化を説明する平面図である。
デバイス1Aは、分極電極9を有していない点のみが実施形態に係るデバイス1と相違する。デバイス1Aは、例えば、分極電極9が設けられない点を除いて、図3を参照して説明した実施形態に係る製造方法と同様の製造方法によって作製される。このとき、既述のように、温度変化に起因する電荷によって、ギャップG1及び/又はG2における分極方向が変化することがある。図5では、試作されたデバイス1Aの解析によって得られた分極方向の分布が模式化されて示されている。
図5において、ハッチングして示された複数の領域R1は、分極方向が変化した領域である。具体的には、試作されたデバイス1Aの圧電体3は、LTの単結晶からなり、分極方向はZ軸方向に平行である。そして、領域R1の分極方向は、他の領域の分極方向に対して逆向きになっている。
試作したデバイス1Aにおいては、分極方向の変化(分極反転)は、電極指15の先端とダミー電極17の先端との間のギャップG2の直下の領域を含む複数の領域R1において生じた。複数の領域R1の大きさは一定ではない。また、複数のIDT電極7同士において、領域R1の数は互いに異なっている。
本願発明者は、上記のような領域R1の大きさ及び分布についての考察の結果、以下の事項を見出した。各IDT電極7における領域R1の総面積は、複数のIDT電極7の間で同等である。このことから、矢印y1で示すように、直列に接続されている複数のIDT電極7全体に電流が流れ、複数のIDT電極7同士で流れる電流(総電荷量)は同じである。別の観点では、直列に接続されている複数のIDT電極7全体の両端に焦電荷が発生していると見做すことができる。
従って、例えば、分極電極9は、直列に接続されている複数のIDT電極7の全体に並列に接続されていても、個々のIDT電極7において分極方向の変化が生じる蓋然性を低減することができる。その結果、例えば、個々のIDT電極7に分極電極9を設ける態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれてよい。)に比較して、導体層5のパターンを簡素化することができる。
また、例えば、直列に接続されている複数のIDT電極7全体に印加される電圧は分圧される。従って、分極電極9の最も狭い間隔s3を個々のIDT電極7の最も狭い間隔s2(又はs1)よりも狭くしなくても、最も狭い間隔s2の複数のIDT電極7についての合計の値よりも狭くすれば、ギャップG3の直下において分極方向の変化が生じる蓋然性が高くなる。別の観点では、IDT電極7の電荷を分極電極9において中和して、IDT電極7において分極方向の変化が生じる蓋然性を低減できる。
2つの対向電極19の間の最も狭い間隔s3は、互いに噛み合っている2つの櫛歯電極11の間の間隔s1又はs2のうち最も狭い間隔であって、複数のIDT電極7の中で最も狭い間隔s1又はs2よりも広くされてよい。
この場合であっても、上述のように、最も狭い間隔s3が最も狭い間隔s1又はs2の合計値よりも狭ければ、分極電極9において分極方向の変化を生じさせて電荷を中和できる。その一方で、最も狭い間隔s3が複数のIDT電極7の中で最も狭い間隔s1又はs2よりも広いことにより、分極電極9の容量を小さくすることができる。その結果、分極電極9の容量が、IDT電極7が構成する素子の特性に及ぼす影響が低減される。
2つの対向電極19は、1方向(図1の例ではD2方向)のみにおいて互いに対向していてよい。
圧電体3では、元々の分極方向(ステップST1における分極方向)と上面3aとの関係等に起因して、分極方向の変化が生じやすい電圧印加方向と、分極方向の変化が生じ難い電圧印加方向とが存在することがある。従って、分極電極9の構成が1方向のみにおいて2つの対向電極19が対向する構成である場合においては、当該1方向として、分極方向が変化しやすい電圧印加方向を選択することができる。その結果、例えば、ステップST3において、ギャップG3の直下における分極方向を変化させて、電流を流すことが容易化される。別の観点では、分極電極9が櫛歯電極のように2方向以上において対向する構成である態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれてよい。)に比較して、2つの対向電極19の容量に対して、中和できる電荷量を相対的に大きくすることができる。
デバイス1は、第1接続部と、第2接続部とを有してよい。第1接続部は、分極電極9に並列に接続されているIDT電極7と、他のIDT電極7又は端子とを接続している部分であり、図1の例では、隣り合うIDT電極7同士で共有されているバスバー13である。第2接続部は、IDT電極7と分極電極9とを接続している部分であり、図1の例では、配線21である。第2接続部(配線21)の幅は、第1接続部の幅(図1の例ではバスバー13のD1方向の長さ)よりも狭くされてよい。
この場合、例えば、配線21の抵抗値が相対的に大きくなる。その結果、IDT電極7に信号が入力されたときに、信号が分極電極9に流れにくくなる。ひいては、分極電極9が、IDT電極7が構成する素子(例えば共振子又はフィルタ)の特性に、意図されていない影響を及ぼす蓋然性が低減される。
2つの櫛歯電極11のそれぞれは、バスバー13と、バスバー13から互いに並列に第1方向(D2方向)に延びている複数の電極指15と、複数の電極指15の間にてバスバー13からD2方向に突出しているダミー電極17と、を有していてよい。2つの櫛歯電極11のバスバー13は互いに対向していてよい。2つの櫛歯電極11の複数の電極指15は交互に配列されていてよい。一方の櫛歯電極11の複数の電極指15の先端と他方の櫛歯電極11のダミー電極17の先端とは先端ギャップ(ギャップG2)を介して対向してよい。分極電極9のギャップG3のうち最も狭い部分は、D2方向において、分極電極9が並列に接続されている1以上のIDT電極7が位置している範囲に収まってよく、また、前記1以上のIDT電極7のギャップG2が位置している範囲の外側に位置してよい。
ギャップG2は、IDT電極7の配置領域内において相対的に弾性波の乱れが生じやすい。一方、既述のように、ギャップG3の直下の領域は、分極方向が他の領域の分極方向と異なっていることによって、漏れた弾性波を乱してリップルを小さくできる。従って、ギャップG3の位置がギャップG2の位置とずれていることによって、漏れた弾性波を乱す効果が向上する。
本実施形態では、別の観点では、デバイス1の製造方法は、電極形成ステップ(ST2)と、その後に行われる分極ステップ(ST3)とを有する。電極形成ステップでは、分極方向が全面に亘って揃っている圧電体3に、IDT電極7と、当該IDT電極7に並列に接続されている分極電極9とを形成する。分極ステップでは、圧電体3に温度変化を生じさせ、焦電効果によって生じた電荷によって2つの対向電極19に電圧を印加して、ギャップG3の直下の領域における分極方向をIDT電極7が配置されている領域における分極方向と異ならせる。
従って、上述したデバイス1を簡便に実現することができる。また、別の観点では、温度変化に起因してIDT電極7のギャップG1又はG2の直下において分極方向が変化する蓋然性を低減できる。
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態に係るデバイス201の要部の構成を模式的に示す平面図である。
デバイス201は、第1実施形態でも触れた反射器31を有している。そして、デバイス201は、反射器31によって分極電極が実現されている点が第1実施形態のデバイス1と相違する。具体的には、例えば、以下のとおりである。
(反射器)
デバイス201は、例えば、各IDT電極7に対して弾性波の伝搬方向(D1方向)に位置する反射器31を有している。図示の例では、3つのIDT電極7に対してD1方向の一方側(-D1側)に3つの反射器31が図示されている。なお、反射器31は、後述する1ポート共振子37(図10)の構成から理解されるように、IDT電極7に対してD1方向の両側に設けられてもよい。また、縦結合多重モード型フィルタ39(図10)及びトランスバーサル型フィルタ(不図示)から理解されるように、IDT電極7に対してD1方向の片側にのみ設けられてもよい。
反射器31の材料及び厚さは、例えば、IDT電極7の材料及び厚さと同一である。反射器31は、例えば、格子状に形成されている。すなわち、反射器31は、互いに対向する1対のバスバー33と、1対のバスバー33間において延びる複数のストリップ電極35とを含んでいる。なお、図6は模式図であることから、電極指15と同様に、ストリップ電極35の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多くのストリップ電極35が配列されてよい。
バスバー33の構成は、例えば、基本的に、IDT電極7のバスバー13と同様とされてよい。従って、バスバー13についての説明は、矛盾等が生じない限り、適宜にバスバー33に援用されてよい。もちろん、IDT電極7と反射器31とでは要求される具体的な作用が異なるから、両者に相違が存在してもよい。例えば、バスバー33のD1方向の長さは、反射器31に要求される特性に応じて設定され、通常、バスバー13の長さとは異なる。また、バスバー33は、D2方向の位置及び/又は幅(D2方向の長さ)等がバスバー13のものと若干異なっていてもよい。
ストリップ電極35の構成は、例えば、1対のバスバー33間に掛け渡されている点を除いて、IDT電極7の電極指15の構成と概ね同様とされてよい。従って、電極指15についての説明は、矛盾等が生じない限り、適宜にストリップ電極35に援用されてよい。もちろん、IDT電極7と反射器31とでは要求される具体的な作用が異なるから、両者に相違が存在してもよい。例えば、ストリップ電極35の本数は、反射器31に要求される特性に応じて設定され、通常、電極指15の本数とは異なる。互いに隣接する電極指15とストリップ電極35とのピッチは、基本的には複数の電極指15のピッチp及び複数のストリップ電極35のピッチと同等である。
(分極電極)
最も+D2側の反射器31は、全てのストリップ電極35がその長さ方向(D2方向)の中途において分断されている。これにより、反射器31は、図1に例示した分極電極9の形状と同様の形状を有する分極電極9を構成している。具体的には、分断位置に対して、+D2側の部分及び-D2側の部分は、2つの対向電極19を構成している。バスバー33は、基部19aを構成している。ストリップ電極35の分断された一方側の部分及び他方側の部分はそれぞれ突出部19bを構成している。ストリップ電極35の分断された位置には、2つの対向電極19の間のギャップG3のうち、最も狭い部分が構成されている。
図示の例のように複数の反射器31が設けられている場合において、分極電極9とされる反射器31は、いずれの反射器31であってもよい。例えば、図示の例とは異なり、中央の反射器31又は最も-D2側の反射器31が分極電極9とされてもよい。
ストリップ電極35の分断位置におけるギャップG3のD2方向における位置及び大きさは適宜に設定されてよい。図示の例では、分断位置におけるギャップG3のD2方向における範囲と、ギャップG2のD2方向における範囲とは、一部同士が重複している。このようにすることによって、例えば、ストリップ電極35の分断に起因する反射器31の反射作用の低下を低減できる。分断位置におけるギャップG3とD2方向の範囲が重複するギャップG2は、交差幅W(図1参照)に対して+D2側及び-D2側のいずれに位置するものであってもよい。なお、図示の例とは異なり、D2方向の範囲に関して、分断位置におけるギャップG3は、ギャップG2と重複していなくてもよい。
第1実施形態で述べた間隔s3についての説明は、本実施形態に援用されてよい。例えば、分断位置における間隔s3(最も狭い間隔s3)は、間隔s2の大きさに対して、大きくてもよいし、同等でもよいし(図示の例)、小さくてもよい。分断位置における間隔s3と間隔s2とが同等の場合は、分断位置におけるギャップG3とギャップG2とは、第2方向における範囲に関して、全部同士が重複してもよいし(図示の例)、全部同士が重複しなくてもよい。分断位置における間隔s3及び間隔s2の一方が他方よりも大きい場合は、分断位置におけるギャップG3及びギャップG2は、第2方向における範囲に関して、大きい方が小さい方の全部を包含してもよいし、包含しなくてもよい。
図示の例では、複数の分断位置におけるギャップG3は、D2方向における位置、及び間隔s3が互いに同一である。ただし、これらは互いに異なっていてもよい。例えば、互いに隣り合うストリップ電極35同士で分断位置を異ならせる(例えば-D2側のギャップG2の位置と+D2側のギャップG2の位置とに交互に割り振る)ことによって、反射器31の反射作用の低下がD2方向の一方側に偏る蓋然性を低減できる。なお、図示の例のように、分断位置におけるギャップG3の位置を互いに同じとした場合においては、隣り合う分断位置同士の間の部分においても分極方向を他の領域(例えばIDT電極7の配置領域)の分極方向に対して異ならせることが容易である。
反射器31によって分極電極9を実現する態様において、分断位置は、図示の例とは異なり、ストリップ電極35を2つに分断する位置でなくてもよい。例えば、バスバー33とストリップ電極35との接続位置を分断位置としてもよい。換言すれば、バスバー33とストリップ電極35の先端とをギャップG3を介して対向させてもよい。
(分極電極の接続)
分極電極9は、第1実施形態と同様に、1以上のIDT電極7に対して並列接続されている。この接続に関して、第2実施形態では、配線21ではなく、反射器31が利用されている。具体的には、以下のとおりである。
D2方向に配列された複数の反射器31は、互いに直列に接続されている。より詳細には、隣り合う反射器31同士でバスバー33が共有されている。また、D2方向の一方側(-D2側)に位置する反射器31の前記一方側(-D2側)に位置するバスバー33は、D1方向に延びてIDT電極7のバスバー13に接続されている(バスバー13と連続している。)。同様に、D2方向の他方側(+D2側)に位置する反射器31の前記他方側(+D2側)に位置するバスバー33は、D1方向に延びてバスバー13に接続されている。一方、他のバスバー33は、D1方向において隣り合うバスバー13とギャップG5を介して離れている(接続されていない)。このような構成によって、分極電極9は、複数のIDT電極7の全体に対して並列に接続されている。
ギャップG5の間隔(D1方向の長さ)は、例えば、概ね間隔s1と同等とされてよい。また、最も狭い間隔s3は、ギャップG5の間隔に対して、小さくてもよいし、同等でもよいし、大きくてもよい。
図示の例とは異なり、反射器31同士の接続は、共有されていないバスバー33同士を接続する配線によって実現されてもよい。また、バスバー33とバスバー13との接続は、バスバー33及びバスバー13を連続させることによって実現するのではなく、両者の間に配線が設けられて実現されてもよい。これらの場合において、配線は、第1実施形態の配線21と同様に、比較的細くされてもよい。配線21の説明は、上記の配線に援用されてよい。
図示の例とは異なり、IDT電極7と分極電極9との接続は、反射器31を利用せずに実現されてもよい。例えば、複数の反射器31は、互いに直列に接続されず、IDT電極7と分極電極9とが配線21によって接続されてもよい。この場合、複数の反射器31のうちの2以上が分極電極9とされてもよい。
図示の例とは異なり、配線として機能する反射器31は、反射器31を兼ねていない分極電極9(第1実施形態)と組み合わされてもよい。例えば、第1実施形態の分極電極9が反射器31に対してIDT電極7とは反対側に位置しており、IDT電極7と分極電極9とが反射器31を介して接続されていてもよい。
以上のとおり、本実施形態では、デバイス201は、第1実施形態のデバイス1と同様に、IDT電極7と並列に接続されている分極電極9を有している。従って、第1実施形態の効果と同様の効果が奏される。例えば、デバイス201の特性を向上させることができる。
デバイス201は、複数のIDT電極7と弾性波の伝搬方向(D1方向)において隣り合っている複数の反射器31を有していてよい。複数の反射器31は、互いに直列に接続されていてよい。複数の反射器31の全体は、複数のIDT電極7の全体に並列に接続されていてよい。複数の反射器31それぞれは、D1方向に直交する方向(D2方向)に互いに並列に延びている複数のストリップ電極35を有していてよい。複数の反射器31のうち1つは、複数のストリップ電極35においてD2方向に分断されることによって分極電極9とされていてよい。
この場合、例えば、分極電極9の形状は、第1実施形態の分極電極9の形状と同様となる。その結果、例えば、分極電極9の容量を低減しつつ、分極電極9の間隔s3を小さくできる。一方で、分極電極9を配置するための領域を圧電体3の上面3aに新たに確保する必要性が低減される。その結果、デバイス201の小型化を図ることができる。また、ストリップ電極35の数は複数であることから、最も間隔が狭いギャップG3の数も複数となる。その結果、ギャップG3の直下において分極方向を異ならせることによる効果が向上する。
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態に係るデバイス301の要部の構成を模式的に示す平面図である。
デバイス301は、分極電極9が並列に接続されているIDT電極7の数が1つである点が第1実施形態のデバイス1と相違する。その他の点については、基本的に、デバイス301は、デバイス1と同様とされてよい。
分極電極9の最も狭い間隔s3は、第1実施形態と同様に、各IDT電極7の最も狭い間隔s1又はs2を、分極電極9が並列に接続されている1以上のIDT電極7の全てについて合計した値よりも狭くされてよい。ただし、本実施形態では、分極電極9に並列に接続されているIDT電極7の数は1つであるから、最も狭い間隔s3は、1つのIDT電極7の最も狭い間隔s1又はs2よりも狭くされることになる。
図示の例では、分極電極9の形状は、第1実施形態の分極電極9の形状と同様とされている。また、第1実施形態と同様に、配線21によってIDT電極7と分極電極9とが接続されている。ただし、分極電極9は、第2実施形態と同様に、反射器31によって構成されてもよいし、及び/又は反射器31によってIDT電極7と接続されてもよい。例えば、1つのIDT電極に対してD1方向の少なくとも一方側に1つの反射器31が配置されてよい。そして、1つの反射器31の1対のバスバー33が1つのIDT電極7の1対のバスバー13と連続してよい。
以上のとおり、本実施形態では、デバイス301は、第1実施形態のデバイス1と同様に、IDT電極7と並列に接続されている分極電極9を有している。従って、第1実施形態の効果と同様の効果が奏される。例えば、デバイス301の特性を向上させることができる。
本実施形態では、分極電極9と並列に接続されているIDT電極7の数は1つである。IDT電極7は、互いに噛み合う2つの櫛歯電極11を有している。2つの対向電極19の間の最も狭い間隔s3は、2つの櫛歯電極11の間の最も狭い間隔s1又はs2よりも狭くされてよい。
この場合、デバイス301が有している1以上のIDT電極7のうちの1つのIDT電極7に対してのみ分極電極9が接続される。ここで、分極方向の変化が生じる蓋然性は、例えば、端子及び/又は他の素子に対するIDT電極7の接続状態(別の観点では電荷の逃げやすさ)によって影響を受ける。従って、例えば、複数のIDT電極7のうち、分極方向の変化が生じる蓋然性が高い1つのIDT電極7に分極電極9を接続することによって、全体として効果的に分極方向の変化が低減されることが期待される。
<変形例>
以下、変形例について説明する。以下の変形例は、これまでに述べたいずれの実施形態に適用されてもよい。
(分極電極の容量)
分極電極9の容量は、IDT電極7が構成する素子(例えば共振子又はフィルタ)の特性を調整する目的で適宜に設定されてもよいし、IDT電極7が構成する素子の特性に及ぼす影響が小さくなるように設定されてもよい。例えば、以下のとおりである。
図8(a)は、IDT電極7を含む共振子の特性を模式的に示す図である。この図において、横軸は周波数fを示している。縦軸は、インピーダンスの絶対値|Z|を示している。共振子は、例えば、1つのIDT電極7に対して弾性波の伝搬方向(D1方向)の両側に反射器31を有している1ポート共振子37(図10)である。
共振子37の|Z|は、例えば、共振周波数frにおいて極小値となり、また、反共振周波数faにおいて極大値となる。共振周波数frと反共振周波数faとの周波数差Δfは、共振子37の特性を示す項目の1つである。例えば、複数の共振子37をラダー型に接続したフィルタ(後述)においては、通過帯域及びその両側の遷移帯域の合計の幅は、概ねΔfの2倍となる。
IDT電極7に対してキャパシタが並列に接続されると、Δfは小さくなる。分極電極9は、このキャパシタとして利用可能である。この場合は、分極電極9の容量は、所望のΔfが得られるように適宜に設定されてよい。一方、上記とは異なり、分極電極9がΔfに影響を及ぼさないようにする場合においては、分極電極9の容量は比較的小さくされてよい。
図8(b)は、分極電極9の容量が周波数差Δfに及ぼす影響の例を示す図である。この図において、横軸は容量の比C2/C0を示している。容量C0は、IDT電極7の容量である。容量C2は、分極電極9の容量である。縦軸は、周波数Δf0に対する周波数Δfの比Δf/Δf0を示している。Δf0は、容量C2が0であるとき(換言すれば分極電極9が設けられていないとき)のΔfである。図中の線L1は、C2/C0の変化に対するΔf/Δf0の変化を示している。
この例のように、容量C2が大きくなると、周波数差Δfは小さくなる。分極電極9がΔfに及ぼす影響を小さくする観点においては、例えば、容量C2は、Δf/Δf0が90%以上となるように設定されてよい。このとき、容量の比C2/C0は、図示の例では、12%以下である。
IDT電極7の具体的な形状及び寸法によっては、周波数差Δfが90%以上となる容量の比C2/C0の具体的な値は、図8(b)に示す例とは相違する。ただし、周波数差Δfは、理論上、IDT電極7の容量C0と、IDT電極7の等価回路における直列共振回路の容量とによって決定され、他の値の影響を受けない。また、分極電極9の容量C2は、実質的にC0を大きくすることに寄与する。そして、図8(b)は、各種の値を比で表している。また、図8(b)の例では、IDT電極7の形状及び寸法として特殊なものは想定されていない。従って、図8(b)は、一般的な共振子においても成り立つと考えてよい。
(分極電極の形状)
図9は、分極電極9の形状の変形例を示す図である。
第1実施形態の説明において、各対向電極19が有する1以上の突出部19bの本数は任意とされてよいことを述べた。図9では、図1に例示した本数(2本)よりも多くの本数の突出部19bを有する対向電極19が例示されている。このような場合において、突出部19bの本数は、例えば、3本以上、5本以上又は10本以上とされてよい。
このように突出部19bの数を多くすると、例えば、分極方向が変化する領域が、突出部19bが突出している方向に直交する方向(紙面上下方向)に広くなる。一方で、分極方向が変化する領域の広さに対して、最も狭い間隔s3で対向する部分は突出部19bの先端に限られるから、分極電極9の容量の増加は抑制される。
また、第1実施形態の説明では、突出部19b間の間隔s4の大きさは任意であることを述べた。図9では、図1に例示した間隔s4よりも狭い間隔s4が例示されている。具体的には、図1の例では、間隔s4は、間隔s1~s3よりも広かったが、図9の例では、間隔s4は、間隔s3以下とされている。このようにすると、最も狭いギャップG3に対して紙面上下方向の領域において分極方向を変化させることが容易化される。
<利用例>
以下、弾性波デバイスの利用例としての分波器及び通信装置について説明する。以下の分波器及び通信装置においては、これまでに述べたいずれの実施形態のデバイスが利用されてもよい。ただし、便宜上、以下の説明では、デバイス1、201及び301を代表してデバイス1を例に取ることがある。
(分波器)
図10は、分波器101の構成を模式的に示す回路図である。図10の紙面左上に示された符号から理解されるように、この図では、櫛歯電極11が二叉のフォーク形状によって模式的に示されている。反射器31は両端が屈曲した1本の線で表わされている。
図示の分波器101は、より詳細には、デュプレクサとして構成されている。分波器101は、例えば、送信端子105からの送信信号をフィルタリングしてアンテナ端子103へ出力する送信フィルタ109と、アンテナ端子103からの受信信号をフィルタリングして1対の受信端子107に出力する受信フィルタ111とを有している。
送信フィルタ109は、例えば、複数の共振子37(37S及び37P)がラダー型に接続されて構成された、ラダー型フィルタによって構成されている。すなわち、送信フィルタ109は、送信端子105とアンテナ端子103との間で直列に接続された複数(1つでも可)の直列共振子37Sと、その直列のライン(直列腕)と基準電位部113とを接続する複数(1つでも可)の並列共振子37P(並列腕)とを有している。
各共振子37は、圧電体3(ここでは不図示)と、圧電体3の上面3aに位置しているIDT電極7と、上面3aに位置しており、弾性波の伝搬方向においてIDT電極7の両側に位置している1対の反射器31とを有している。
受信フィルタ111は、例えば、共振子37と、縦結合多重モード型フィルタ39(以下、MMフィルタ39ということがある。)と、を含んで構成されている。MMフィルタ39は、圧電体3(ここでは不図示)と、圧電体3の上面3aに位置しており、弾性波の伝搬方向に配列された複数(図示の例では3つ)のIDT電極7と、複数のIDT電極7の配列の両側に配置された1対の反射器31とを有している。
分波器101が有する複数のIDT電極7(及び反射器31)は、1つの圧電体3(別の観点では、基板23。以下、本段落において同様。)に設けられてもよいし、2以上の圧電体3に分散して設けられてもよい。例えば、送信フィルタ109を構成する複数の共振子37は、例えば、同一の圧電体3に設けられてよい。同様に、受信フィルタ111を構成する共振子37及びMMフィルタ39は、例えば、同一の圧電体3に設けられてよい。送信フィルタ109及び受信フィルタ111は、例えば、同一の圧電体3に設けられてもよいし、互いに異なる圧電体3に設けられてもよい。上記の他、例えば、複数の直列共振子37Sを同一の圧電体3に設けるとともに、複数の並列共振子37Pを他の同一の圧電体3に設けてもよい。
別の観点では、1つの圧電体3を有するデバイス1は、分波器101の全部を構成していてもよいし、分波器101の一部のみを構成していてもよい。また、デバイス1は、フィルタ(例えば送信フィルタ109又は受信フィルタ111)の全部を構成していてもよいし、フィルタの一部のみを構成していてもよい。また、デバイス1は、単に共振子37を構成しても構わない。
図10に示すデュプレクサの構成は、あくまで一例である。従って、例えば、受信フィルタ111が送信フィルタ109と同様にラダー型フィルタによって構成されたり、逆に、送信フィルタ109がMMフィルタ39を有していたりしてもよい。
分極電極9は、分波器101が有する複数のIDT電極7のうちの任意の1以上のIDT電極7に対して任意の数で設けられてよい。図示の例では、3つの直列共振子37Sのうちの中央の直列共振子37SのIDT電極7に対して並列に接続された1つの分極電極9が設けられている。図示の例とは異なり、全てのIDT電極7に対して分極電極9が設けられてもよい。また、1以上の直列共振子37S、1以上の並列共振子37P、他の共振子37、及びMMフィルタ39のIDT電極7のいずれかに選択的に1以上の分極電極9が設けられてもよい。
1つの分極電極9は、第3実施形態のように1つのIDT電極7に対して並列に接続されていてもよいし、直列に接続されている2以上のIDT電極7に対して並列に接続されていてもよい。後者に関して、例えば、1つの分極電極9は、2以上の直列共振子37SのIDT電極7の全体に対して並列に接続されてよい。図示の例では、1つの直列共振子37SのIDT電極7に対して分極電極9が並列に接続されている。このIDT電極7は、図示のとおり1つのIDT電極7であってもよいし、第1実施形態の3つのIDT電極7のように2以上のIDT電極7に分割されてもよい。
図示の例では、分極電極9が並列に接続されているIDT電極7(以下、便宜上、「第1のIDT電極7」ということがある。)は、いずれの端子にも直接的に接続されていない。すなわち、アンテナ端子103と第1のIDT電極7との間、送信端子105と第1のIDT電極7との間、及び第1のIDT電極7と基準電位部113との間のいずれにおいても、他のIDT電極7が介在している。IDT電極7に代えて、他の電子素子(例えば、抵抗体、キャパシタ又はインダクタ)が端子と第1のIDT電極7との間に介在してもよい。
このように、デバイス1は、第1端子(例えばアンテナ端子103)と第2端子(例えば送信端子105)との間、又は第1端子と基準電位部113との間で直列に接続されている第1素子及び第2素子(例えば3つの直列共振子37Sのうち両側の2つの直列共振子37S)を有していてよい。第1のIDT電極7と分極電極9とは、第1素子と第2素子との間で互いに並列に接続されていてよい。
この場合、例えば、第1のIDT電極7の焦電荷は、端子又は基準電位部113に逃げにくい。特に、第1素子及び第2素子がIDT電極7又はキャパシタである場合においては、第1のIDT電極7は電気的に浮遊状態となりやすく、焦電荷が逃げにくい。ひいては、第1のIDT電極7においては分極方向の変化が生じやすい。このような第1のIDT電極7に対して分極電極9が並列に接続されることによって、IDT電極7の配置領域における分極方向の変化を効率的に低減することができる。
(通信装置)
図11は、分波器101(デバイス1)の利用例としての通信装置151の要部を示すブロック図である。通信装置151は、電波を利用した無線通信を行う。
通信装置151において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF-IC(Radio Frequency Integrated Circuit)153によって変調及び周波数の引き上げ(搬送波周波数を有する高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ155によって送信用の通過帯以外の不要成分が除去され、増幅器157によって増幅されて分波器101(送信端子105)に入力される。そして、分波器101(送信フィルタ109)は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯以外の不要成分を除去し、その除去後の送信信号TSをアンテナ端子103からアンテナ159に出力する。アンテナ159は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号(電波)に変換して送信する。
また、通信装置151において、アンテナ159によって受信された無線信号(電波)は、アンテナ159によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器101(アンテナ端子103)に入力される。分波器101(受信フィルタ111)は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯以外の不要成分を除去して受信端子107から増幅器161へ出力する。出力された受信信号RSは、増幅器161によって増幅され、バンドパスフィルタ163によって受信用の通過帯以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF-IC153によって周波数の引き下げ及び復調がなされて受信情報信号RISとされる。
なお、送信情報信号TIS及び受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された信号である。無線信号の通過帯は、適宜に設定されてよく、比較的高周波の通過帯(例えば5GHz以上)とされても構わない。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。回路方式は、図11では、ダイレクトコンバージョン方式を例示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、図11は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にローパスフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
本開示に係る技術は、以上の実施形態及び変形例に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
IDT電極の構成は、図示したものに限定されない。例えば、IDT電極は、一方の櫛歯電極の電極指と他方の櫛歯電極の電極指とが、弾性波の伝搬方向に1本ずつ交互に配列されるのではなく、2本ずつ交互に配列されるものであってもよい。また、IDT電極は、弾性波の伝搬方向に直交する方向に対して斜めに延びているものであってもよい。