JP7429826B1 - ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板 - Google Patents

ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板 Download PDF

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Abstract

本開示は、ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板に関する。複数本のフィラメントを含むガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、前記ガラス糸におけるガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、下記式(A):前記ガラスクロスの経糸方向の引張強度(N/25mm)/前記ガラスクロスの厚み(μm) ・・・(A)で表される、前記ガラスクロスの厚みあたりの経糸の引張強度が0.50~6.0の範囲であり、前記ガラスクロスの経糸方向の引張強度の変動係数が15%以下の範囲であり、前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0超え0.0010以下の範囲である。

Description

本発明はガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板に関する。
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、及び5G通信に代表される高速通信化が進んでいる。かかる背景に伴い、特に高速通信用のプリント配線板に対して、従来から求められている耐熱性の向上だけでなく、その絶縁材料の更なる誘電特性の向上(例えば、低誘電正接化)が望まれている。同様に、プリント配線板の絶縁材料に用いられるプリプレグ、及び該プリプレグに含まれるガラス糸並びにガラスクロスに対しても、誘電特性の向上が望まれている背景がある。
絶縁材料の低誘電化を図るため、低誘電樹脂(以下、「マトリックス樹脂」と称する。)をガラスクロスに含浸させたプリプレグを用いて絶縁材料を構成する手法が知られている(特許文献1及び2)。特許文献1及び2には、ビニル基又はメタクリロキシ基で末端変性させたポリフェニレンエーテルは低誘電特性及び耐熱性に有利である旨、及びこの変性ポリフェニレンエーテルをマトリックス樹脂として用いる旨が記載されている。
また、プリプレグの誘電特性の向上を図るため、低誘電ガラスを用いてプリプレグを構成する手法も知られている(特許文献3)。特許文献3では、二酸化ケイ素(SiO2)組成量が98~100質量%であるガラス糸が用いられている。そして、特許文献3には、不飽和二重結合基を有するシランカップリング剤で表面処理され、かつ、その強熱減量値が0.12~0.40質量%である等の各種要件を具備する低誘電ガラスクロスを用いてプリプレグを構成する手法が記載されている。
ここで、ガラスクロスの表面に存在するシラノール基が誘電特性の低下の要因である旨の報告もある(特許文献4及び5)。特許文献4及び5には、誘電特性の向上を図るため、ガラスクロスの表面をポリシラザンで処理してガラスクロスの表面に存在するシラノール基を低減させる手法が記載されている。そして、特許文献6及び7には、加熱処理することで、シリカガラスクロスの誘電正接を低下させることが記載されている。
ところで、一般に、ガラス糸の表面には、例えばガラス糸の毛羽発生の抑制及び吸水防止のため、主に澱粉を主成分とするサイジング剤が付与されている。そして、ガラス糸を製織する前後又はその過程で、サイジング剤を低減する目的(脱糊する目的)で、ガラス糸又はガラスクロスに対して洗浄が行われる。
なお、特許文献8及び9では、硝酸アンモニウムを含む石英ガラス繊維用集束剤、又は澱粉の少なくとも一部を硝酸エステル化した石英ガラス繊維用集束剤を用いることで、比較的低温での加熱脱油が可能であることが報告されている。
また、プリント配線板の高密度化によって、スルーホール同士の間、及び/又は内層ラインとスルーホールとの間、等が狭くなっていることで、絶縁抵抗が低下する現象が見られるようになり、従来よりも高い信頼性がプリント配線板に求められている。プリント配線板の絶縁抵抗を低下させる原因の一つとして、銅マイグレーション(電食)の影響が考えられる。電食は、電圧印加の高湿度環境下で、導体である銅が陽極から溶け出して析出し、絶縁材を通過して陰極と導通する現象である。電食は、表面レジスト及び/又は接着剤層に発生するデンドライトと、内層ガラス繊維及び樹脂の界面において発生するCAF(Conductive Anodic Filaments)と、に分けられる。CAFの発生原因の一つとして、ガラス繊維及び樹脂の界面におけるイオン成分が知られている。特許文献10には、Eガラス組成のガラスクロスから抽出されるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の量が20ppm以下であることで、プリント配線板の耐CAF性を向上させることが記載されている。特許文献11には、カップリング剤を主成分とした表面処理剤でガラスクロスの表面処理を行った後に水蒸気流を噴霧することで、ガラスクロス表面に付着しているカルシウムイオン量を低減し、耐CAF性を向上させることが記載されている。特許文献12には、アルカリ金属化合物の含有量を0.5重量%以下としたポリビニルアルコール及び/又はポリビニルアルコール誘導体を主剤とした経糸糊剤を用いることで、耐CAF性を向上させることが記載されている。
国際公開第2019/065940号 国際公開第2019/065941号 特開2018-127747号公報 特開2020-194888号公報 特開2021-88488号公報 特開2021-63320号公報 特開2021-195689号公報 特開2016-108162号公報 特開2016-113322号公報 特開2001-73253号公報 特開2005-42245号公報 特開平7-279055号公報
しかしながら、特許文献1及び2は、更なる誘電特性の向上を図る観点で検討の余地があった。例えば、特許文献1及び2においては、特許文献3に記載されるような低誘電ガラスの使用について考慮されていなかった。また、特許文献3には、SiO2組成量が98~100質量%であるガラスが実用上の観点から問題があると記載されており、そのため、この種のガラス糸を用いて好適にガラスクロスひいてはプリプレグを提供する、他の手法の提供が待たれていた。
特許文献4及び5で指摘されるような、ガラスクロスの表面に存在するシラノール基を低減させる手法では、シリカガラスクロスの10GHzにおける誘電正接の改善は1.0×10-3~1.0×10-4であり、その改善効果は小さいと考えられる。このことから、ガラス表面の水酸基の存在以外にもガラスクロスの誘電正接を上昇させる要因があると考えられ、改善の余地があった。また、特許文献6で指摘されるような、シリカガラスクロスを高温で加熱処理して誘電正接を低下させる手法では、過度の加熱処理によるガラスクロスの強度低下が懸念される、という問題があった。更には、プリント配線板に用いられるガラスクロスはシランカップリング剤等の表面処理加工が一般的に行われているが、特許文献6では、表面処理加工がなされておらず、プリント配線板用のガラスクロスとして実用的ではないため、改善の余地があった。また、特許文献7では、石英ガラスの歪層をエッチングにより除去することで、高温加熱処理後のガラスクロスの引張強度を回復させる手法が報告されている。しかしながら、高温加熱処理により強度の大幅な低下が生じるため、歪層除去工程でのガラスクロスの「切断(ちぎれ)」が発生し易い課題があった。また、ガラスクロスの織交点、及び/又はガラス繊維の撚り部といった、エッチング液が染み込みにくい部分での、歪層の除去が、十分になされない可能性があった。そのため、ガラスクロスの引張強度、及び/又はガラス繊維のフィラメント径にばらつきが生じ、ガラスクロス搬送時にシワ、ちぎれ等が生じ易いことも課題としてあった。さらには、エッチング処理によってガラスを溶解させるため、ガラスクロスの目付量が過度に減少してしまうという課題が考えられる。レジンコンテントと呼ばれるプリプレグ中のマトリックス樹脂量は、正確にコントロールされる必要があるが、ガラスクロス自身の目付量が変動してしまうエッチング処理は、プリプレグのレジンコンテント量の制御を難しくしてしまう。このことから、ガラスクロスの目付量の変動を抑制でき、ガラスクロスの引張強度を均一に向上させる加工法が強く求められている。
ガラスクロスの強度が低くなることで、ガラスクロス搬送時の張力制御範囲が極端に低くかつ狭くなり、ガラスクロス上に、「シワ」、及び/又は搬送中の部材に接触することによる「傷」、の発生が懸念される。ガラスクロスの強度低下を抑制するため、特許文献8及び9には、ガラスクロスを比較的低温で加熱脱油する方法が記載されている。しかしながら、更なるガラスクロスの誘電特性の向上のため、ガラスクロスの強度低下を抑制するだけでなく、ガラスクロスの誘電正接も下げる手法の開発が強く求められている、という背景があった。このように、ガラスクロスの切断、シワ等の外観不良が少なくできる加工方法もまた、強く求められている背景があった。
特許文献10、11及び12には、ガラス表面中のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を低減する手法が記載されている。特許文献10、11及び12を含めた従来技術において、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属と、耐CAF性と、に関する報告はなされているが、ガラスクロスの強度維持という観点では、いまだ十分に検討が進んでいなかった。特許文献8及び9では、アルカリ金属の存在によって、石英ガラス繊維の失透と呼ばれる再結晶化現象がガラス強度を著しく低下することが記載されているものの、どのような手法によって、失透現象を抑制するかの記載はない。ガラスクロスの誘電正接を下げる観点、ガラスクロスの強度低下を抑制できる観点での技術開発が、高速通信用のプリント配線板向けガラスクロスには強く求められていた。
そこで、本発明は、目付量の変動を抑制でき、かつ優れた誘電特性(例えば、低誘電正接)を有し、シワ、及び/又は傷が少なく、更にちぎれが少ない低誘電ガラスクロスを提供すること、及び該ガラスクロスを含有するプリプレグを提供することを目的とする。また、本発明は、該プリプレグを用いることで、収率の向上をも図ることができる、プリント配線板、集積回路及び電子機器を提供することも目的とする。更に、本発明は、上記ガラスクロスを好適に得るためのガラスクロスの製造方法を提供することも目的とする。
本発明者らは、ガラスクロスの強度と、金属イオン(アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオン等を含む)と、の関係を明らかにすることが、ガラスクロスの工業的生産という観点から非常に意義があると考えた。そして、石英ガラスクロスの強度を維持することで、ガラスクロスに十分な張力をかけることができ、これを利用することにより、搬送時における、シワ、及び/又は傷の発生を抑制することが可能になる、という着想を得た。
かかる着想のもと、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、加熱脱油加工する前の、ガラスクロスに付着しているナトリウムイオン量に着目するに至った。そして、ナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水でガラスクロスを洗浄することで、700℃以上での高温下でも、石英ガラスクロスの失透現象による、ガラスクロスの強度低下を抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。石英ガラスの失透現象による、ガラスクロス強度低下を抑制することで、ガラスクロス搬送時の張力制御が容易になり、ガラスクロスの目付量の変動を抑制でき、かつシワ及び/又は傷が少なく、更にちぎれも少ないガラスクロスを得ることが可能となった。本発明の態様の一部を以下に例示する。
[1]
複数本のフィラメントを含むガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、
前記ガラス糸におけるガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
下記式(A):
前記ガラスクロスの経糸方向の引張強度(N/25mm)/前記ガラスクロスの厚み(μm) ・・・(A)
で表される、前記ガラスクロスの厚みあたりの経糸の引張強度が0.50~6.0の範囲であり、
前記ガラスクロスの経糸方向の引張強度の変動係数が15%以下の範囲であり、
前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0超え0.0010以下の範囲である、ガラスクロス。
[2]
複数本のフィラメントを含むガラス糸を製織して成る、ガラスクロスであって、
前記ガラス糸におけるガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
下記式(A):
前記ガラスクロスの経糸方向の引張強度(N/25mm)/前記ガラスクロスの厚み(μm) ・・・(A)
で表される、前記ガラスクロスの厚みあたりの経糸の引張強度が0.50~6.0の範囲であり、
前記ガラスクロスを構成するガラス繊維のフィラメント径の変動係数が10%以下の範囲であり、
前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0超え0.0010以下の範囲である、ガラスクロス。
[3]
前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0超え0.0055以下の範囲である、項目1又は2に記載のガラスクロス。
[4]
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0~100質量%である、項目1~3のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[5]
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で99.0~100質量%である、項目1~4のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[6]
前記ガラス糸が、シランカップリング剤を含む表面処理剤で処理されている、項目1~5のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[7]
前記表面処理剤が、下記式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
(式(1)中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の少なくとも一方を有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる基である)
で示される前記シランカップリング剤を含む、項目6に記載のガラスクロス。
[8]
前記式(1)中のXが、イオン性化合物と塩を形成していない有機官能基である、項目7に記載のガラスクロス。
[9]
前記式(1)中のXが、アミンもしくは、アンモニウムカチオンを含まない、項目7又は8に記載のガラスクロス。
[10]
前記式(1)中のXが、メタクリロキシ基、又はアクリロキシ基を1つ以上有する有機官能基である、項目7~9のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[11]
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%以上0.18質量%未満である、項目1~10のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[12]
前記ガラスクロスの10GHzにおける、誘電正接が0.00050以下の範囲である、項目1~11のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[13]
前記ガラスクロスの厚みが60μm以下である、項目1~12のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[14]
前記ガラスクロスの目付量(g/m2)の変動係数が3%以下である、項目1~13のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[15]
前記ガラスクロスの目付量(g/m2)の変動係数が1.5%以下である、項目1~4のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[16]
前記ガラスクロスの、ひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下である、項目1~15のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[17]
プリント配線板用である、項目1~16のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[18]
項目1~17のいずれか1項に記載のガラスクロスと、熱硬化性樹脂と、無機充填剤と、を含有する、プリプレグ。
[19]
項目18に記載のプリプレグを含む、プリント配線板。
[20]
項目19に記載のプリント配線板を含む、集積回路。
[21]
項目19に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
[22]
ナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水でガラスクロスを洗浄する工程を含む、ガラスクロスの製造方法。
[23]
前記ガラスクロスを洗浄する工程の後に、前記ガラスクロスを加熱脱油する工程を有する、項目22に記載のガラスクロスの製造方法。
[24]
前記加熱脱油する工程は、700℃以上で加熱脱油する工程を含む、項目23に記載のガラスクロスの製造方法。
[25]
前記ガラスクロスを洗浄する工程は、該ガラスクロスをナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水に浸漬する工程を含む、項目22~24のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[26]
前記ガラスクロスを洗浄する工程は、該ガラスクロスをナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水に浸漬しながらガラスクロスを超音波を用いて洗浄する工程を含む、項目22~25のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[27]
前記ガラスクロスを洗浄する工程は、該ガラスクロスをナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水をスプレーを用いて洗浄する工程を含む、項目22~26のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[28]
前記ガラスクロスを洗浄する工程は、該ガラスクロスを搬送させながら、該ガラスクロスをナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水で洗浄する工程を含む、項目22~27のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[29]
前記ガラスクロスを搬送させながら、該ガラスクロスをナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水で洗浄する工程と、該ガラスクロスを700℃以上の温度で加熱する工程と、を含む、項目22~28のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[30]
前記ガラスクロスを構成するガラス糸におけるケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0~100質量%である、項目22~29のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
本発明によれば、目付量の変動を抑制できる上、優れた誘電特性(例えば、低誘電正接)を有し、かつ、外観不良が少ない低誘電ガラスクロス、及び該ガラスクロスを含有するプリプレグを提供することができる。また、本発明は、該プリプレグを用いることで、収率の向上をも図ることができる、プリント配線板、集積回路及び電子機器を提供することもできる。更に、本発明によれば、上記ガラスクロスを好適に得るためのガラスクロスの製造方法を提供することもできる。
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本実施形態において、「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。また、本実施形態では、段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えることができる。更に、本実施形態では、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えることもできる。そして、本実施形態において、「工程」の語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、工程の機能が達成されれば、本用語に含まれる。
[ガラスクロス]
〔全体構成〕
本実施形態に係るガラスクロスは、ガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、
ガラス糸におけるガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
下記式(A):
ガラスクロスの経糸方向の引張強度(N/25mm)/ガラスクロスの厚み(μm)・・・(A)
で表される、ガラスクロスの厚みあたりの経糸の引張強度が0.50~6.0の範囲であり、
ガラスクロスの経糸方向の引張強度の変動係数(CV:Coefficient of Variation)が15%以下の範囲であり、
ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0超え0.0010以下の範囲である。
これによれば、目付量の変動を抑制できる上、優れた誘電特性(例えば、低誘電正接)を有し、かつ、外観不良が少ないガラスクロス及びプリプレグを提供することができる。
なお、ガラスクロスの目付量の変動を抑制できることは、実施例に記載のとおり、ガラスクロスの目付量の変動係数が所定値以下であることによって確かめられる。
なお、本明細書における「目付量の変動を抑制できる」の概念には、目付量が変動しないことも含まれる。
本実施形態に係るガラスクロスは、ガラス糸(例えば、複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸)を経糸及び緯糸として製織して成ることができる。ガラスクロスの織り構造は、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り等の織り構造が挙げられる。なかでも、平織り構造が好ましい。
本実施形態に係るガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度は、好ましくは10~120本/inch(=10~120本/25mm)であり、より好ましくは40~100本/inchである。打ち込み密度が上記の範囲内であれば、本発明の効果が得られ易い。経糸及び緯糸の打ち込み密度は異なってよい。
本実施形態に係るガラスクロスの目付量(ガラスクロスの質量)は、好ましくは8~250g/m2であり、より好ましくは8~100g/m2であり、更に好ましくは8~80g/m2であり、特に好ましくは8~50g/m2である。ガラスクロスの目付量が上記の範囲内であれば、本発明の効果が得られ易い。
本実施形態に係るガラスクロスの目付量の変動係数(CV:Coefficient of Variation)は、好ましくは3%以下、より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1.3%以下、より更に好ましくは1%以下、特に好ましくは0.9%以下である。ガラスクロスの目付量の変動係数が上記範囲内であれば、ガラスクロスの引張強度の変動が少なく、外観に優れたガラスクロスを得やすくなる。また、プリプレグのレジンコンテントの制御が容易に行うことが可能となる点も利点が大きい。変動係数の下限は、理論的には0である。
本実施形態において、ガラスクロスの厚みあたりの経糸方向の引張強度は、好ましくは0.50以上の範囲であり、より好ましくは0.52以上の範囲であり、更に好ましくは0.54以上の範囲であり、より更に好ましくは0.56以上の範囲であり、特に好ましくは0.58以上の範囲である。ガラスクロスの厚みあたりの経糸方向の引張強度が0.50未満であると、ガラスクロス搬送時に加える張力を十分にかけることができないため、シワ、及び/又は設備等への予期せぬ接触による傷等が発生し易くなる。ガラスクロスの厚みあたりの経糸方向の引張強度は、6.0以下、5.0以下、4.0以下、3.5以下、又は3.0以下でよい。
本実施形態に係るガラスクロスの、経糸方向の引張強度の変動係数は、好ましくは15%未満であり、より好ましくは10%以下であり、更に好ましくは7%以下であり、より更に好ましくは5%以下であり、特に好ましくは3%以下である。引張強度の変動係数が15%を超えると、ガラスクロスを搬送する際にガラスクロスにシワ等が発生し易くなる。
本実施形態に係るガラスクロスの別の態様は、複数本のフィラメントを含むガラス糸を製織して成る、ガラスクロスであって、
ガラス糸におけるガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
下記式(A):
ガラスクロスの経糸方向の引張強度(N/25mm)/ガラスクロスの厚み(μm) ・・・(A)
で表される、ガラスクロスの厚みあたりの経糸の引張強度が0.50~6.0の範囲であり、
ガラスクロスを構成するガラス繊維のフィラメント径の変動係数が10%以下の範囲であり、
ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0超え0.0010以下の範囲である。
これによれば、目付量の変動を抑制できる上、優れた誘電特性を有し、かつ、外観不良が少ないガラスクロス及びプリプレグを提供することができる。
フィラメント径の変動係数は、好ましくは10%未満であり、より好ましくは7%以下であり、更に好ましくは5%以下であり、より更に好ましくは4%以下であり、特に好ましくは3%以下である。ガラス繊維のフィラメント径の変動係数が10%を超えると、ガラスクロスを搬送する際にガラスクロスにシワ等が発生しやすくなる。
経糸方向の引張強度の変動係数、及びフィラメント径の変動係数は、それぞれ下記式:
(経糸方向の引張強度の標準偏差/経糸方向の平均引張強度)×100
(フィラメント径の標準偏差/平均フィラメント径)×100
により求めることができる。平均引張強度は、ガラスクロスの経糸方向の引張強度を5点求めたときのその平均値であり、平均フィラメント径は、フィラメント径を10点求めたときのその平均値である。複数点で得られた引張強度の各値、及び、複数点で得られたフィラメント径の各値は、それぞれ、引張強度の標準偏差、及び、フィラメント径の標準偏差の算出に用いてよい。
上記変動係数が小さいガラスクロスは、経糸方向の引張強度、又はフィラメント径のばらつきが相対的に低く、従って、均一性の高い、ひいては、外観不良が少ないガラスクロスとなる。変動係数の下限は、理論的には0である。変動係数は、加熱脱油処理前にガラスクロス表面に付着しているナトリウムイオン量を調整する(ガラスクロス表面を高純度な洗浄水により洗浄してナトリウムイオン量を調整する)ことで、制御可能である。例えば、ナトリウムイオンを含有する洗浄水への、生機クロスの浸漬時間(秒)を制御することで、上記変動係数の制御が可能である。該浸漬時間(秒)を所定時間確保することで、洗浄液による洗浄効果を十分に得易く、ゆえに、本実施形態の効果を奏し易い。
本実施形態に係るガラスクロスの厚みは、好ましくは60μm以下であり、より好ましくは55μm以下であり、更に好ましくは50μm以下である。ガラスクロスの厚みが上記の範囲内であれば、本発明の効果が得られ易い。ガラスクロスの厚みは、0超え、5μm以上、又は5μm以上でよい。
〔ガラス糸〕
本実施形態に係るガラスクロスを構成するガラス糸は、低誘電ガラスを原料にして得られる。具体的に、該ガラス糸は、そのガラス糸における、Si含有量が、SiO2換算で95.0~100質量%の範囲である。このようなガラス糸を用いることで、例えば、得られるガラスクロスの誘電特性の向上を図ることができる。得られるガラスクロスの誘電特性の向上の観点から、Si含有量は、99.0~100質量%の範囲が好ましく、99.5~100質量%の範囲がより好ましく、99.9~100質量%の範囲が更に好ましい。
SiO2換算で99.0質量%以上のガラスが、ある程度厚みを有するバルクの状態である場合、その誘電正接(バルク誘電正接)は、一般に、下記式(2):
バルク誘電正接≦1.2×10-3 ・・・(2)
の関係を示す。
ガラス糸を構成するガラスフィラメントの平均フィラメント径は、好ましくは2.5~9.0μmであり、より好ましくは2.5~7.5μmであり、更に好ましくは3.5~7.0μmであり、より更に好ましくは3.5~6.0μmであり、特に好ましくは3.5~5.0μmである。フィラメント径が上記の値未満であると、フィラメントの破断強度が低くなるため、得られるガラスクロスに毛羽が発生し易い。また、フィラメント径が上記の値を超えると、ガラスクロスの質量が大きくなるため、搬送又は加工を行い難くなる。また、ガラスフィラメントの平均フィラメント径が上記の範囲内であれば、本発明の効果が得られ易い。
〔シランカップリング剤〕
ガラスクロスを構成するガラス糸(ガラスフィラメントを含む)は、好ましくはシランカップリング剤により、表面処理される。すなわち、一態様において、ガラス糸の表面処理剤は、シランカップリング剤を含む。シランカップリング剤としては、例えば、下記式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
{式(1)中、Xは、ラジカル反応性を有する炭素-炭素二重結合等のラジカル反応性を有する不飽和二重結合基、及びアミノ基の少なくとも一方を有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、メチル基、エチル基及びフェニル基から成る群より選ばれる基である}
で示されるシランカップリング剤を使用することが好ましい。
本実施形態では、従来、ガラスクロスの誘電正接を上昇させた原因が、
(i)ガラスヤーン表面に物理的に付着した状態で残存する、ごく微量のサイジング剤の熱酸化劣化物、及び
(ii)ガラス表面と化学結合を形成せずに物理付着し、水による洗浄では低減できない表面処理剤の残留物又はその変性物
にあったことに着目している。上記(i)熱酸化劣化物の発生、及び/又は(ii)残留物若しくは変性物の発生を抑制するという観点から、式(1)中のXは、イオン性化合物と塩を形成していない有機官能基であることが好ましい。また、式(1)中のXは、マトリックス樹脂との反応性の観点から、メタクリロキシ基、又はアクリロキシ基を1つ以上有する有機官能基であることがより好ましい。なお、本発明の効果が発現し易いという観点からは、式(1)中のXは、例えば第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等のアミン、又は、例えば第4級アンモニウムカチオン等のアンモニウムカチオンを含まないことが好ましい。
上記の式(1)中のYについて、アルコキシ基としては、ガラスクロスへの安定処理化のため、炭素数1~5(炭素数が、1、2、3、4又は5)のアルコキシ基が好ましい。
表面処理剤として、式(1)に示すシランカップリング剤は、単体で使用されてよく、式(1)中のXが異なる2種以上のシランカップリング剤と混合して使用されてもよい。また、式(1)に示されるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、5-ヘキセニルトリメトキシシラン等の単体、又はこれらの混合物として使用されることができる。
シランカップリング剤の分子量は、好ましくは100~600、より好ましくは150~500、更に好ましくは200~450である。なかでも、分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いることが特に好ましい。分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いてガラス糸表面を処理することにより、ガラス表面での処理剤密度が高くなり、マトリックス樹脂との反応性が更に向上する傾向にある。
樹脂との反応性を阻害し難いという観点から、シランカップリング剤は非イオン性であることが好ましい。非イオン性のシランカップリング剤のなかでも、ビニル基、メタクリロキシ基、及びアクリロキシ基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤が好ましく、なかでもメタクリロキシ基、又はアクリロキシ基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤が特に好ましい。樹脂との反応性を阻害しないことで、プリント配線板の耐熱性及び信頼性を高めることができる。
一態様において、式(1)中、Xは、上記不飽和二重結合基、及びアミノ基の少なくとも一方を有する有機官能基である。従って、Xが、上記不飽和二重結合基、及び上記アミノ基の両方を有する態様だけでなく、上記不飽和二重結合基を有するが上記アミノ基を有しない態様と、上記不飽和二重結合基を有しないが上記アミノ基を有する態様と、のいずれの態様も、式(1)の範囲に含まれる。ただし、式(1)中のXは、上記不飽和二重結合基であることが好ましく、アミノ基を含まないことが好ましい。
ガラスクロスの誘電正接を下げるという観点から、本実施形態に係るガラスクロスの強熱減量値は、0.01質量%以上0.180質量%未満が好ましく、0.01質量%以上0.174質量%未満が好ましく、0.01質量%以上0.150質量%未満がより好ましく、0.01質量%以上0.130質量%未満が更に好ましい。強熱減量値が0.180質量%以上であると、ガラス表面と化学結合を形成せずに物理付着し、水洗浄で低減できない表面処理剤の残留物、及び/又はその変性物がガラスクロス表面上に多く存在することになって、その結果、ガラスクロスの誘電正接が増加し易い。また、強熱減量値が0.010質量%未満であると、樹脂とガラスクロスの接着が不十分になり易いため、プリント配線板にした際の耐熱性及び絶縁信頼性が乏しくなり易い。
〔バルク誘電正接〕
本明細書では、バルク誘電正接とは、ガラスクロスの原料についてスプリットシリンダー共振器を用いて10GHzで測定される誘電正接を意味する。ガラスクロスの原料は、例えば、後述されるとおり、ガラス種、ガラスフィラメント、ガラス糸等のガラス原料でよい。ガラスクロスを構成するガラス原料のバルク誘電正接は、ガラス原料と同じ種類及び組成を有する厚み300μm以下のガラス板を、ガラスクロスの誘電正接測定と同様の方法で測定することが可能である。
本発明の効果を更に向上させるという観点から、本実施形態に係るガラスクロスの製織について、ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接は、スプリットシリンダー共振器を用いて測定されるとき、10GHzにおいて、2.5×10-3以下が好ましく、2.0×10-3以下がより好ましく、1.7×10-3以下が更に好ましく、1.5×10-3以下が更に好ましく、1.2×10-3以下がより更に好ましく、1.0×10-3以下が特に好ましく、8.0×10-4以下が最も好ましい。バルク誘電正接は、0超えでよい。
ガラスクロスの誘電正接、バルク誘電正接、及びそれらの差は、理論に拘束されることを望まないが、例えば、
下記(i)又は(ii)の残存及び発生を抑制するように、表面処理剤を選択する;
ガラスクロス製造プロセスにおいて、加熱脱油(加熱脱糊)工程、残糊低減工程、固着工程、洗浄工程、乾燥工程、仕上げ洗浄工程、仕上げ乾燥工程等の条件を最適化する;
仕上げ洗浄工程では表面処理ガラスクロスを有機溶媒で洗浄する;
等によって、上記の数値範囲内に調整されることが考えられる。
(i)ガラス糸表面に物理付着したサイジング剤の、熱酸化劣化物の発生
(ii)ガラス表面と化学結合を形成せずに物理付着し、水洗浄で低減できない表面処理剤の残留物、及び/又はその変性物の発生
〔ガラスクロスの誘電正接の測定方法〕
本実施形態に係るガラスクロスの誘電特性は、共振法を用いて測定することができる。共振法を用いた好ましい測定機器としては、スプリットシリンダー共振器が挙げられる。共振法によれば、測定サンプルとしてのプリント配線板を作製して誘電特性を評価する従来の測定方法と比べて、簡便かつ精度よく測定することができる。この理由としては、理論に限定されないが、共振法は高周波数領域での低損失材料を評価することに適しているためである。共振法以外の誘電特性の評価法としては、例えば、集中定数法又は反射伝送法が知られている。他方、集中定数法では、測定試料を2枚の電極で挟んでコンデンサを形成する必要があるため、オペレーションが煩雑である。また、反射伝送法では、低損失材料を評価する場合、ポートのマッチング特性の影響が表れ易く、そのため、試料の誘電正接を高精度に評価することが困難になり易い。
プリント配線板、特に、高速通信用のプリント配線板に適用可能な、本実施形態に係るガラスクロスの誘電特性を測定するにあたり、その測定機器の測定可能範囲は、周波数誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)ともに、好適な範囲であることが好ましい。例えば、Dkは、1.1~50Fm-1の範囲が好ましく、1.5~10Fm-1の範囲がより好ましく、2.0~5Fm-1の範囲が更に好ましい。また、Dfは、0超えでよく、1.0×10-6~1.0×10-1の範囲が好ましく、1.0×10-5~5.0×10-1の範囲がより好ましく、5.0×10-5~1.0×10-2の範囲が更に好ましい。
測定機器の測定可能な周波数は10GHz以上であることが好ましい。周波数が10GHz以上であれば、高速通信用のプリント配線板のガラスクロスとして実際に使用される場合に想定される周波数帯領域での特性評価を行うことが可能である。
測定面積は、10mm2以上であることが好ましく、15mm2以上であることがより好ましく、20mm2以上であることが更に好ましい。より大面積でガラスクロスの誘電特性を測定することで、ガラスクロスに対する検査結果の信頼性を高めることができる。
測定可能なサンプルの厚みは、3~300μmであることが好ましく、5~200μmがより好ましく、7~150μmが更に好ましい。これによれば、ガラスクロスに対する検査結果の信頼性を高めることができる。
バルク誘電正接から、ガラスクロスの誘電正接にある程度見当をつけることが可能であり、その逆も可能である。他方、バルク誘電正接に対して、ガラスクロスの誘電正接に差が生じる場合がある。この差の要因は、理論に拘束されることを望まないが、例えば、(1)ガラス糸の表面に物理付着したサイジング剤の熱酸化物、及び/又はその劣化物の発生、(2)ガラス糸の表面と化学結合を形成せずに物理付着し、洗浄しきれなかった不要成分の残存及び発生、が挙げられる。従って、サイジング剤の種類の選択、ガラスクロスの製造プロセスにおける各種条件の最適化、等により、ガラスクロスの誘電正接を上記範囲内に制御することができる。
本実施形態に係るガラスクロスは、上記共振法で測定した、10GHzにおける誘電正接が0.0010以下である。このようなガラスクロスであれば、誘電特性の向上を図ることができるプリプレグを提供することができる。10GHzにおけるガラスクロスの誘電正接は、0.0009以下であることが好ましく、0.0008以下であることがより好ましく、0.00055以下であることが更に好ましく、0.00053以下であることが更に好ましく、0.00050以下であることが更に好ましく、0.00045以下であることが更に好ましく、0.00040以下であることがより更に好ましく、0.00035以下であることが特に好ましい。このようなガラスクロスであれば、誘電特性の向上をより図ることができるプリプレグを提供することができる。また下限は、0超えでよい。
〔ガラスクロスの含浸性〕
本実施形態に係るガラスクロスは、ひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下であることが好ましい。これによれば、ガラスクロスが樹脂と良好な含浸性を有することから、プリント配線板の絶縁性及び耐熱性を向上させ易い。5分後のボイド数が160以下の範囲がより好ましく、140以下の範囲が更に好ましく、120以下の範囲がより更に好ましく、100以下の範囲が特に好ましい。5分後のボイド数が少ないほど、含浸性が良好であることを示し、ガラスクロスと樹脂の密着性が強固になる。このため、良好な絶縁信頼性及び耐熱性を有するプリント配線板を提供し易い。ひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数を180以下に制御するためには、例えば、ガラスクロスを上述の式(1)で示されるシランカップリング剤で処理すること、また、ドライアイスブラスト加工又は曲げ加工等といった開繊手法を用いること、等が有効である。
[ガラスクロスの製造方法]
本実施形態に係るガラスクロスの製造方法は、ナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水でガラスクロスを洗浄する工程を含む。また、本実施形態に係るガラスクロスの製造方法は、ガラスクロスを加熱脱油処理する工程と、表面処理剤を用いてガラスクロスを処理する工程と、をそれぞれ含むことができる。
〔ガラスクロスの加熱脱油方法〕
本実施形態に係るガラスの加熱脱油方法は、Si含有量がSiO2換算で95.0~100質量%であるガラス糸から構成されるガラスクロスを700℃以上の温度で加熱脱油することで、ガラスクロスの誘電正接を下げることが可能である。本実施形態の効果を好適に得る観点から、加熱脱油の温度は700~1500℃の範囲が好ましく、800~1300℃の範囲がより好ましく、900~1100℃の範囲が更に好ましい。加熱脱油温度が700℃を下回ると、ガラスクロスに付着する糊剤の残留物等を十分に除去できないため、ガラスクロスの誘電正接を下げることが困難である。他方、加熱脱油温度が1500℃を超えると、ガラスの失透現象を抑制し難くなり、ガラスクロスの強度低下を防ぐことが困難である。加熱時間は、適宜選択でき、例えば、3~120秒である。
ガラスクロスを加熱する手段は、加熱脱油温度が700℃以上となるように加熱が行なわれる限り、既知の加熱方法、加熱媒体、加熱機構、加熱装置、及び加熱部品を用いることができ、例えば、(1)加熱炉内でガラスクロスを加熱する、(2)加熱部にガラスクロスを接触させる、(3)高温蒸気をガラスクロスに当てる、等でよい。加熱脱油温度が700℃以上となるようにガラスクロスを加熱することによって、ガラスクロス表面に付着している有機物を効率よく除去したり、有機物の除去時間を短縮したりすることができる。ガラスクロスの加熱は、逐次的若しくは連続的に、閉鎖系若しくは開放系で、行われることができ、又は閉鎖系と開放系を組み合わせて行われることができる。
閉鎖系の場合には、加熱手段による好適な加熱の観点から、ガラスクロスを加熱炉内に配置することが好ましく、かつ/又は貯蔵スペース及び加熱範囲の観点から、ガラスクロスを巻物の状態で貯蔵しながら加熱することが好ましい。また、有機物の除去効率を上げたり、有機物の除去時間を短縮したりするという観点から、加熱炉内でガラスクロスを搬送しながら加熱することも好ましい。
開放系の場合には、被加熱面積の観点から、ガラスクロスを搬送させながら加熱することが好ましい。ガラスクロスの搬送は、例えば、巻出機構と巻取機構により行われることができる。
〔加熱炉〕
加熱炉の加熱手段としては、加熱脱油温度が700℃以上となるように加熱できるのであれば、電気式ヒーター、バーナー等種々のものが考えられ、特定の手段のみに限定されない。また、複数の手段を組み合わせて加熱をしてもよいが、ガス式シングルラジアントチューブバーナー又は電気式ヒーターを用いることが好ましい。
加熱炉は、加熱効率の観点から、加熱炉内で生成したガスを排出する手段、及び/又は空気循環手段を備えることが好ましい。ガス排出手段は、例えば、ノズル、ガス管、小穴、ガス抜き弁等でよい。空気循環手段は、例えば、ファン、空気調和設備等でよい。
また、ガラスクロス表面に付着している有機物を効率よく除去するため、ガラス繊維織物を巻芯に巻いて、所定の雰囲気温度でガラスクロスを加熱するバッチ方式よりも、ガラスクロスを連続的に加熱炉に通しながら、加熱することが可能な連続方式が好ましい。更には、逆浸透(RO)水によるガラスクロスの洗浄を連続で行えるような方式が最も好ましい。
〔ガラスクロスを加熱するための接触部材〕
ガラスクロスを加熱する方法として、上記加熱炉を使用してもよいが、低ランニングコストの観点から、所定の温度に加熱した部材と、ガラスクロスと、を接触させることで、ガラスクロスを加熱してもよい。
ガラスクロスの加熱脱油温度が700℃以上になるように加熱できれば、接触部材の形状は特に限定されないが、ガラスクロスの搬送のし易さから、ロール形状が好ましい。ロール形状でガラスクロスを加熱することが可能な部材としては、高温領域での使用が可能で、幅方向の温度のばらつきが比較的少ない、誘導発熱方式で加温するロールが好ましい。接触部材でガラスクロスを加熱するときには、接触部材の温度とガラスクロスの表面温度が概ね等しいことが考えられる。
また、ガラスクロスを連続加熱するにつれ、加熱ロールに付着する炭化物を除去するために、上記加熱ロール方式は、付着した異物を除去する機構、例えば、ブレード等の機構を備えた方式であることが好ましい。
〔高温蒸気をガラスクロスに適用する手段(蒸気適用手段)〕
ガラスクロスに適用される蒸気は、例えば、揮発性溶媒、水蒸気、水蒸気以外のガスなどを含んでよいが、人体への毒性の観点、ガラス繊維に用いられる集束剤の分解が促進し易い観点から、水蒸気が好ましい。その高温蒸気の温度は、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度にするために、必要であれば、高温蒸気と加熱空気を任意の割合で供給できる方法を用いても良い。高温蒸気の温度は、400℃以上であり、450℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましく、600℃以上がさらに好ましく、650℃以上が特に好ましい。蒸気適用手段は、限定されるものではないが、噴霧、シャワー拡散、ジェットノズルなどでよい。代替的には、加熱炉から排出したガスを高温蒸気として再利用することがある。
発明者らが鋭意検討した結果、ガラスクロス表面中に付着しているナトリウムイオンが所定の量を超えた際に、700℃以上でガラスクロスを加熱脱油処理すると、石英ガラスの失透現象により、ガラスクロスの引張強度が著しく低下することを見出した。また、失透現象を抑制するため、加熱脱油処理をする前に、ナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水で、ガラスクロスを洗浄すると、ガラス表面中のナトリウムイオン量が低下することで、700℃以上で加熱脱油処理を行っても石英ガラスの失透現象を抑制することが可能であることを見出した。加熱脱油後のガラスクロスの強度を維持することで、表面処理剤を用いて、ガラスクロスを処理する工程での、シワ及び/又は傷等を抑制することができる。
本実施形態の効果を好適に得る観点から、洗浄する水のナトリウムイオン含有量は18ppm以下の範囲が好ましく、15ppm以下の範囲がより好ましく、12ppm以下の範囲が更に好ましく、10ppm以下の範囲がより更に好ましく、7ppm以下の範囲が特に好ましい。洗浄水のナトリウムイオン含有量が20ppmを超えると、700℃以上で加熱脱油を行った際の石英ガラスの失透現象を抑制することができず、ガラスクロスの引張強度の低下が発生してしまう。ナトリウムイオン含有量の下限値としては、無い方が好ましいが、0を超えても構わない。
ガラスクロスをナトリウムイオン含有量が20ppm以下で洗浄する手段は、ガラス表面のナトリウムイオンを除去できる限り、既知の洗浄方法でよい。例えば、超音波を用いる手法(例えば、超音波振動子を用いる手法)、スプレーによる噴射(例えば、高圧スプレーによる噴射)、水蒸気噴霧等の方法が考えられる。安価に加工できるという観点から、洗浄水(ナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水)を貯めた水槽にガラスクロスを浸漬した後に、スクイズローラ等で余分な洗浄水を除去した後に、ガラスクロスを乾燥させる方法が好ましい。この場合、浸漬時間としては、例えば、2秒以上、5秒以上、10秒以上、15秒以上又は120秒以下、90秒以下、60秒以下、45秒以下でよい。
ナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水の製造方法は、既知の製造方法でよい。例えば、RO膜を用いたろ過、イオン交換樹脂を用いた脱イオン化等の方法が考えられる。「ナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水」は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他の液体成分(水以外の液体;等)を含んでよい。
〔ガラスクロスの加熱脱油装置〕
本実施形態に係るガラスクロスの加熱脱油装置は、上述のとおり、ガラスクロスを加熱脱油温度が700℃以上となるようにガラスクロスを加熱することができる。より詳細には、ガラスクロスの加熱脱油装置は、下記の構成とされることができる:
該装置は、巻出機構と巻取機構を有し、
ガラスクロスを搬送させながら、ガラスクロスをナトリウムイオン含有量が20ppm以下の水で洗浄し、ガラス表面中のナトリウムイオンを除去する工程と、加熱脱油温度が700℃以上となるように加熱する工程と、を実行可能な加熱炉を含む、ガラスクロスの加熱脱油装置が好ましい。
巻出機構と巻取機構は、例えば、少なくとも一対のロール、Roll tо Roll方式等でよい。加熱炉、空気循環手段、接触部材、および蒸気適用手段は、ガラスクロスの製造方法において説明されたとおりである。
〔ガラスクロスの表面処理方法〕
本実施形態に係るガラスの処理方法は、ガラス糸に適用することができ、また、ガラスクロスにも適用することができる。言い換えれば、ガラス糸を製織してガラスクロスを得る工程は、本実施形態に係るガラスの処理方法の前に設けられてもよく、途中に設けられてもよく、後に設けられてもよい。なお、本実施形態に係るガラスの処理方法において「低減」とは、例えば、サイジング剤又はシランカップリング剤を含む表面処理剤の少なくとも一部を取り除く趣旨であって、除去しきれなかった残存物の発生が許容される。
表面処理剤を付着させる工程は、例えば、
濃度0.1~0.5質量%の処理液によってガラスの表面にシランカップリング剤を付着させる被覆工程と、
加熱乾燥によりシランカップリング剤をガラスの表面に固着させる固着工程と、
の少なくとも1つの工程を有することができる。これにより、ガラスを好適に表面処理し易くなる。
被覆工程で処理液をガラスに塗布する方法としては、(a)バスに溜めた処理液にガラスを浸漬又は通過させる方法(以下、「浸漬法」という。)、(b)ロールコーター、ダイコーター又はグラビアコーター等で処理液をガラスに塗布する方法、等が可能である。浸漬法を採用する場合は、ガラスの処理液への浸漬時間を0.5秒以上1分以下に選定することが好ましい。また、浸漬法を採用する場合は、ガラスに所定の張力(例えば、100~250N)を付与しながら、搬送速度10~50m/分の速度で、該ガラスを処理液内に通過させることができる。また、ガラスに処理液を塗布した後、熱風、電磁波等の方法により、処理液に含まれる溶媒を加熱乾燥させることができる。
処理液の濃度は、濃度0.1~0.5質量%が好ましく、濃度0.1~0.45質量%がより好ましく、濃度0.1~0.4質量%が更に好ましい。これによれば、ガラスをより好適に表面処理し易くなる。
固着工程において、加熱乾燥温度は、シランカップリング剤とガラスとの反応が十分に行われるように、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、加熱乾燥温度は、シランカップリング剤が有する有機官能基の劣化を防ぐため、300℃以下が好ましく、180℃以下であればより好ましい。
シランカップリング剤を低減する工程は、例えば、ガラスの表面と化学結合を形成しなかったシランカップリング剤を洗浄する洗浄工程と、洗浄後のガラスを加熱及び乾燥する乾燥工程と、洗浄しきれなかった、ガラスの表面と化学結合を形成していない不要成分を低減する仕上げ洗浄工程と、の少なくとも1つの工程を有することができる。これにより、強熱減量値を制御し易くなる。なお、シランカップリング剤を低減する工程は、仕上げ洗浄工程後に、例えば、仕上げ乾燥工程を有することができる。
このうち、仕上げ洗浄工程では、洗浄工程で水洗浄しきれなかった、ガラスの表面と化学結合を形成していない不要成分を低減することができる。この仕上げ洗浄工程では、例えば、洗浄液として有機溶媒を用いることができる。仕上げ洗浄工程を有することで、本実施形態のような低誘電ガラスを用いるとしても、得られるガラスクロスの誘電正接とバルク誘電正接の差を、上記で説明された数値範囲内に調整し易くなる。ここでの有機溶媒としては、疎水性の高い有機溶媒が好ましく、また、水酸基を有するシランカップリング剤の残留物及び変性物との親和性が高い有機溶媒も好ましい。洗浄方法は、浸漬法、シャワー噴霧等を採用でき、必要に応じて加温又は冷却してもよい。洗浄液に溶解したガラスが再付着するのを抑制できるよう、絞りローラー等により、洗浄後のガラスから、余剰な溶媒を低減することが好ましい。
仕上げ洗浄工程において洗浄液として使用可能な有機溶媒は、例えば、下記の溶媒を単独、又は複数種を組み合わせて使用することができる。疎水性の高い有機溶媒としては、例えば、
n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン)、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、i-デカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン(イソドデカン)等の飽和鎖状脂肪族炭化水素;
シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の飽和環状脂肪族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等の芳香族炭化水素;
クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の含ハロゲン溶媒;
等が挙げられる。シランカップリング剤の残留物又は変性物との親和性が高い有機溶媒としては、
メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類;
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;
メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;
ジメチルスルホキシド;
等が挙げられる。なかでも、ガラスに物理的に付着したシランカップリング剤を効率的に低減し易いという観点から、芳香族炭化水素、アルコール類又はケトン類が好ましく、メタノールがより好ましい。従って、仕上げ洗浄工程における洗浄液としては、メタノールが主成分(洗浄液100質量%に対してメタノール50質量%以上、又は60質量%以上)である洗浄液を用いることが好ましい。
仕上げ乾燥工程では、上記仕上げ洗浄工程で用いた洗浄液を低減することができる。乾燥による洗浄液の低減の容易性から、上記仕上げ洗浄工程で用いる洗浄液は、沸点が120℃以下であることが好ましい。乾燥には、加熱乾燥又は送風乾燥の方法を採用できる。なお、洗浄液として有機溶媒を用いる場合、安全上の観点から、低圧蒸気又は熱媒オイル等を熱源とした熱風乾燥により加熱乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は、洗浄液の沸点以上であることが好ましく、シランカプリング剤の劣化を抑制する観点から180℃以下であることが好ましい。
ガラスクロスの開繊工程での開繊方法としては、例えば、ガラスクロスを、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水又はマングル等で開繊加工する方法を採用できる。この開繊加工時に、ガラスクロスに掛かる張力を下げることにより、通気度をより小さくすることができる傾向にある。なお、開繊加工によるガラスクロスの引張強度の低下を抑えるため、ガラス糸を製織する際の接触部材との低摩擦化、及び集束剤の最適化並びに高付着量化、等の対策を施すことが好ましい。ひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数を小さくする観点からは、開繊工程における加工圧力を大きくすることが有効である。ガラス硬度が高いガラス糸から構成されるガラスクロスの開繊方法としては、ドライアイスブラスト加工が好ましい。
ドライアイスブラスト加工は、粒径5~300μmのドライアイス微粒子を、5~1000mmの高さから0.05~1MPaのエアー圧力で噴射する(吹きかける)方法である。より好ましくは粒径5~300μmのドライアイス微粒子を5mm~600mmの高さから0.1~0.5MPaのエアー圧力で噴射する方法である。この範囲内であることで、ガラス繊維の糸切れ等の品質が起き難く、ゆえに、含浸性向上の効果が見込まれる。
上記工程は、必ずしも別工程で行われる必要はなく、複数の工程を1工程にまとめて行うこともできる。例えば、洗浄工程を製織工程後に行う場合には、洗浄工程に高圧水スプレー等を用いることで、開繊工程を兼ねることができる。開繊前後ではガラスクロスの組成は通常変化しない場合が多い。また、ガラスクロスの製造方法は、上記工程以外においても任意の工程を有することができる。例えば、開繊工程後に、スリット加工工程を有することができる。また、可能であれば、上記工程の順番は入れ替えることができる。
以上説明した、本実施形態に係るガラスクロスの表面処理方法によれば、誘電正接を上昇させると考えられる不要成分を好適に低減した上で、ガラス糸を構成するガラスフィラメント1本1本の表面に、シランカップリング剤を付与し易くなる。
〔ガラスクロス上のシワ及び/又は傷〕
ガラスクロスの外観欠点として、ガラスクロス搬送時に生じるシワ、及び/又は、予期せず設備に接触することで生じる当たり傷、が知られている。ガラスクロス上のシワ及び/又は傷は、プリプレグを作製した際に不良部分となることから、発生しないことが好ましい。シワ及び/又は傷を抑制する方法として、ガラスクロス搬送時の張力制御が有効であり、ガラスクロスに張力を十分に加えることで、ガラスクロスのバタツキを抑制することができるため、シワ、及び/又は傷を発生し難くすることができる。しかしながら、ガラスクロスの厚みあたりの経糸方向の引張強度が低すぎると、ガラスクロスに十分な張力を加えることができないため、シワ及び/又は傷を抑制することが困難となる。厚みあたりの経糸方向の引張強度の範囲については、上記のとおりである。ガラスクロスの厚みあたりの経糸方向の引張強度が0.50未満であると、ガラスクロスの搬送工程で切断が発生し易いために十分な張力を加えることができない。特に表面処理液にガラスクロスを浸漬させてから、絞液後に、表面処理剤をガラスクロスに固着させるために乾燥させるが、張力を十分に加えないと、ガラスクロスに絞液部でシワ、及び/又は、加熱炉への予期せぬ接触による当たり傷が発生する。また、更に悪い場合は、絞液部でガラスクロスの切断が発生する。
〔ガラスクロスのちぎれ〕
ガラスクロスの強度が著しく低下する場合、ガラスクロスに切断(ちぎれ)が生じ易い。このようなガラスクロスの強度の著しい低下は、ガラスクロスに高温加熱処理(例えば、700~1500℃)が施される場合に生じ易い。
また、ガラスクロスにおける、経糸方向の引張強度の均一性、及び/又は、フィラメント径の均一性が低い場合、ガラスクロス搬送時に、ちぎれが発生し易い。このとき、上記のシワ及び/又は傷も生じ易い。従って、本実施形態に係るガラスクロスは、経糸方向の引張強度の変動係数が15%以下の範囲である、及び/又は、ガラスクロスを構成するガラス繊維のフィラメント径の変動係数が10%以下の範囲である。変動係数が上記の範囲であるガラスクロスは、均一性の高い、ひいては、外観不良が少ないガラスクロスとなる。
ここで、ガラスクロスに高温加熱処理(例えば、700~1500℃)が施される場合の比(経糸方向の引張強度の変動係数/フィラメント径の変動係数)が1.3~1.4の範囲であると仮定する。このとき、本実施形態に係るガラスクロスでは、比(経糸方向の引張強度の変動係数/フィラメント径の変動係数)が、0超え5.0以下(ただし、1.3~1.4の範囲を除く)ことが好ましい。かかる態様は、外観不良が少ないガラスクロスの一態様である。
また、ガラスクロスに高温加熱処理(例えば、700~1500℃)が施される場合の比(フィラメント径の変動係数/経糸方向の引張強度の変動係数)が0.7~0.8の範囲であると仮定する。このとき、本実施形態に係るガラスクロスでは、比(フィラメント径の変動係数/経糸方向の引張強度の変動係数)が、0超え4.5以下(ただし、0.7~0.8の範囲を除く)ことが好ましい。かかる態様も、外観不良が少ないガラスクロスの一態様である。
[プリプレグ]
本実施形態に係るプリプレグは、上記ガラスクロスと、上記ガラスクロスに含侵されたマトリックス樹脂と、を含有する。これにより、ボイドの少ないプリプレグを提供することができる。
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用可能である。可能であれば、両者を併用してもよいし、他の樹脂を更に含んでもよい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、
(a)エポキシ基を有する化合物と、該エポキシ基に反応するアミノ基、フェノール基、酸無水物基、ヒドラジド基、イソシアネート基、シアネート基、及び水酸基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有する化合物と、を反応させて硬化させて成るエポキシ樹脂;
(b)アリル基、メタクリル基、及びアクリル基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有する化合物を硬化させて成るラジカル重合型硬化樹脂;
(c)シアネート基を有する化合物と、マレイミド基を有する化合物と、を反応させて硬化させて成るマレイミドトリアジン樹脂;
(d)マレイミド化合物と、アミン化合物と、を反応させて硬化させて成る熱硬化性ポリイミド樹脂;
(e)ベンゾオキサジン環を有する化合物を加熱重合により架橋硬化させて成るベンゾオキサジン樹脂;
等が例示される。なお、(a)エポキシ樹脂を得るにあたり、無触媒で化合物を反応させることができ、また、イミダゾール化合物、3級アミン化合物、尿素化合物、及びリン化合物等の反応触媒能を持つ触媒を添加して化合物を反応させることもできる。また、(b)ラジカル重合型硬化樹脂を得るにあたり、熱分解型触媒又は光分解型触媒を反応開始剤として使用することができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、不溶性ポリイミド、ポリアミドイミド、及びフッ素樹脂等が例示される。高速通信用のプリント配線板の絶縁材料としては、ラジカル反応性に富んだポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルが好ましい。
高速通信用のプリント配線板に使用されるマトリックス樹脂が、ビニル基又はメタクリル基を有する場合、疎水性が比較的高く、かつ、メタクリル基等のラジカル反応に関与する官能基を有するシランカップリング剤が、該マトリックス樹脂との相性が良い。
上記のとおり、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とは併用することができる。また、プリプレグは、無機充填剤を更に含有することができる。無機充填剤は、熱硬化性樹脂と併用されることが好ましく、例えば、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、マイカ、炭酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、タルク、ガラス短繊維、ホウ酸アルミニウム、及び炭化ケイ素等が挙げられる。無機充填剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
[プリント配線板]
本実施形態に係るプリント配線板は、上記プリプレグを含有する。これにより、絶縁信頼性に優れたプリント配線板を提供することができる。
[集積回路及び電子機器]
また、上記プリント配線板を含む集積回路及び電子機器も本実施形態の一態様である。本実施形態に係るプリント配線板を用いて得られる集積回路及び電子機器は、各種特性に優れる。
次に、本発明を実施例及び比較例によって説明する。
〔ガラスクロスの厚みの測定方法〕
JIS R 3420の7.10に準拠して、ガラスクロスの厚みを求めた。具体的には、マイクロメータを用いて、スピンドルを静かに回転させてサンプルの測定面に平行に軽く接触させた。そして、ラチェットが3回音を立てた後の目盛を読み取った。なお、JIS R 3420の7.10には、ガラスクロス等のクロス製品の一般試験方法が規定されている。
〔目付量(クロスの質量)の測定方法〕
クロスを所定のサイズにカットし、その質量をサンプル面積で除することで求めた。本実施例では、ガラスクロスを10cm2のサイズに切り出し、その質量を測定する操作を20回おこなった。得られた値を用いて、各ガラスクロスの目付量の平均値(g/m)および変動係数を求めた。
ガラスクロスの目付量の変動係数(%)=
(ガラスクロスの目付量の標準偏差/ガラスクロスの目付量の平均値)×100
〔換算厚みの測定方法〕
ガラスクロスは、ガラス繊維の間に空気が存在する、不連続の面状体であるため、各ガラスクロスの目付量(クロスの質量)をガラスの密度で除することで、換算厚みを算出した。具体的に、下記式:
換算厚み(μm)=目付量(g/m2)÷密度(g/cm3
により、換算厚みを算出した。この換算厚みの値を、共振法での測定に用いた。
〔誘電正接の測定方法〕
IEC 62562に準拠して、各ガラスクロスの誘電正接を求めた。具体的には、スプリットシリンダー共振器での測定に必要なサイズにサンプリングしたガラスクロスのサンプルを、23℃,50%RHの恒温恒湿オーブンに8時間以上保管した。そして、保管後のサンプルに対して、スプリットシリンダー共振器(EMラボ社製)及びインピーダンスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて誘電特性を測定した。測定は、各サンプルで5回実施し、その平均値を求めた。また、各サンプルの厚みとして、上記換算厚みを用いて測定を行った。同様に、各ガラスクロスと同様の組成を有する厚み300μm以下のガラス板を用意して、該ガラス板の厚み測定から得られた厚み値から、バルク誘電正接も測定した。なお、IEC 62562は、主に、マイクロ波回路に用いるファインセラミックス材料の、マイクロ波帯における誘電特性の測定方法が規定されている。
〔ガラスクロスの強熱減量値の測定方法〕
JIS R3420に準拠して、ガラスロスの強熱減量値を求めた。
〔ガラスクロスの引張強度および変動係数〕
JIS R3420に準拠して、ガラスクロスの経糸方向の引張試験を5回行い、その平均値を経糸方向の引張強度とした。また、下記式を用いて、経糸方向の引張強度の変動係数を求めた。
経糸方向の引張強度の変動係数(%)=
(経糸方向の引張強度の標準偏差/経糸方向の平均引張強度)×100
〔ガラスクロスの厚みあたりの経糸方向の引張強度〕
ガラスクロスの厚みと、経糸方向の引張強度と、を用いて、下記式(A):
ガラスクロスの経糸方向の引張強度(N/25mm)/ガラスクロスの厚み(μm)・・・(A)
から、ガラスクロスの厚みあたりの経糸方向の引張強度を求めた。
〔フィラメント径の変動係数〕
ガラスクロスの経糸を引き抜き、任意のガラス繊維を構成するフィラメントの径を1cmごとに計測を行う作業を10cm分実施して、その平均値を平均フィラメント径とした。得られた測定結果から下記式を用いて、フィラメント径の変動係数を求めた。
フィラメント径の変動係数(%)=
(フィラメント径の標準偏差/平均フィラメント径)×100
〔脱油前洗浄に用いる水に含有しているナトリウムイオン量の測定〕
加熱脱油前にガラスクロスを洗浄する水に含まれているナトリウムイオン量をイオンクロマトグラフを用いて、測定した。
<前処理条件>
適宜水で希釈して試料調整を行った。
<カチオン イオンクロマト条件>
装置:Tosoh,IC-2010
分離カラム:Tosoh,TSKgel-Super IC-Cation/P(4.6mm×150mm)
分離液:2.5mM HNO3+0.5mM L-ヒスチジン
流速:1.0mL/min
検出:電気伝導度
カラム温度:40℃
注入量:30μL
〔樹脂含浸性の測定・評価方法〕
ガラスクロスを50mm×50mmのサイズとなるようにサンプリングした。この際、測定箇所は曲げたり、触ったりしないようにサンプリングを行った。25℃の液温のひまし油(林純薬工業株式会社製、品番:03001535)に、サンプリングしたガラスクロスを所定時間含浸させた際のボイド数をカウントした。ガラスクロスに対して垂直方向の位置に高精度カメラ(フレームサイズ:5120×5120pixel)を設置し、光源としてLEDライト(CCS株式会社製、パワーフラッシュ・バー型照明)を、ガラスクロスから15cm離れた真横の位置から、ガラスクロスを挟み込むように両側方向から照射した。そして、32mm×32mm視野角において、ガラスフィラメント間に存在する160μm以上のボイドの数をカウントし、そして、3回測定した平均値をボイド数とした。
すなわち、「ガラスクロスの、ひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数」は、上記条件のもと、ひまし油に5分間含浸させたガラスクロスを対象としたときに観察されるボイド数である。
ボイドは、マトリックス樹脂への未含浸部分に相当する。従って、ガラスクロスのボイド数が少ないことは、該ガラスクロスがマトリックス樹脂への含浸性に優れることを意味する。
〔Q1035(生機クロス)の製造〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多いガラス糸を用いて、エアジェットルームを用い、経糸66本/25mm、緯糸68本/25mmの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。また、緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。
〔Q1078(生機クロス)の製造〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多いガラス糸を用いて、エアジェットルームを用い、経糸54本/25mm、緯糸54本/25mmの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。また、緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。
〔Q1017(生機クロス)の製造〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多いガラス糸を用いて、エアジェットルームを用い、経糸95本/25mm、緯糸95本/25mmの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。経糸として、平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数50本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。また、緯糸として、平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数50本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。
(実施例1)
得られたQ1035生機クロスを、洗浄水1(ナトリウムイオン含有量=2ppm)を貯留した水槽に20秒間浸漬するライン速度で搬送させながら、ガラス表面に付着しているナトリウムイオンを洗浄した(脱油前洗浄工程)。その後、同一ライン上に設けている加熱炉で、800℃で15秒加熱し、脱油を行った。(加熱脱油工程)。続いて、酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.3質量%分散させた処理液を調整した。ライン張力が200N及びライン速度が30m/分の速度でクロスを処理液に浸漬し(表面処理剤塗工工程)、絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った(固着工程)。乾燥させたクロスを水中で周波数25kHz、出力0.50W/cm2の超音波を照射することで、クロスに物理付着した余分なシランカップリング剤を低減し(洗浄工程)、その後、130℃で1分乾燥(乾燥工程)することで、ガラスクロスを得た。
(実施例2)
洗浄水2(ナトリウムイオン含有量=10ppm)でガラスクロスを洗浄した点と900℃で15秒間加熱脱油した点以外は、実施例1と同様の手法でガラスクロスを得た。
(実施例3)
1000℃で15秒間加熱脱油した点以外は、実施例1と同様の手法でガラスクロスを得た。
(実施例4)
酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.15質量%と、5-ヘキセニルトリメトキシシラン(シランカップリング剤B);Z6161(ダウ・東レ社製)を0.40質量%と、を分散させた処理液を用いた点以外は、実施例3と同様の手法でガラスクロスを得た。
(実施例5)
1100℃で15秒間加熱脱油した点、ライン張力を130Nに変更した点、及び5-ヘキセニルトリメトキシシラン(シランカップリング剤B);Z6161(ダウ・東レ社製)を0.50質量%分散させた処理液を用いて、シランカップリング剤の固着を行った点以外は、実施例1と同様の手法でガラスクロスを得た。
(実施例6)
得られたQ1078生機クロスを、洗浄水1(ナトリウムイオン含有量=2ppm)を貯留した水槽に20秒間浸漬するライン速度で搬送させながら、ガラス表面に付着しているナトリウムイオンを洗浄した(脱油前洗浄工程)。その後、同一ライン上に設けている加熱炉で、800℃で15秒加熱し、脱油を行った。(加熱脱油工程)。続いて、酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.3質量%分散させた処理液を調整した。ライン張力が260N及びライン速度が30m/分の速度でクロスを処理液に浸漬し(表面処理剤塗工工程)、絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った(固着工程)。乾燥させたクロスを水中で周波数25kHz、出力0.50W/cm2の超音波を照射することで、クロスに物理付着した余分なシランカップリング剤を低減し(洗浄工程)、その後、130℃で1分乾燥(乾燥工程)することで、ガラスクロスを得た。
(実施例7)
洗浄水2(ナトリウムイオン含有量=10ppm)でガラスクロスを洗浄した点と1000℃で15秒間加熱脱油した点以外は、実施例6と同様の手法でガラスクロスを得た。
(実施例8)
酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.15質量%と、5-ヘキセニルトリメトキシシラン(シランカップリング剤B);Z6161(ダウ・東レ社製)を0.3質量%と、を分散させた処理液を用いて、シランカップリング剤の固着を行った点以外は、実施例7と同様の手法でガラスクロスを得た。
(実施例9)
1100℃で15秒間加熱脱油した点以外は、実施例6と同様の手法でガラスクロスを得た。
(実施例10)
1200℃で15秒間加熱脱油した点、及びライン張力を150Nに変更した点以外は、実施例6と同様の手法でガラスクロスを得た。
(実施例11)
得られたQ1017生機クロスを、洗浄水1(ナトリウムイオン含有量=2ppm)を貯留した水槽に20秒間浸漬するライン速度で搬送させながら、ガラス表面に付着しているナトリウムイオンを洗浄した(脱油前洗浄工程)。その後、同一ライン上に設けている加熱炉で、1000℃で15秒加熱し、脱油を行った。(加熱脱油工程)。続いて、酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.15質量%と、5-ヘキセニルトリメトキシシラン(シランカップリング剤B);Z6161(ダウ・東レ社製)を0.3質量%分散させた処理液を調整した。ライン張力が150N及びライン速度が30m/分の速度でクロスを処理液に浸漬し(表面処理剤塗工工程)、絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った(固着工程)。乾燥させたクロスを水中で周波数25kHz、出力0.50W/cm2の超音波を照射することで、クロスに物理付着した余分なシランカップリング剤を低減し(洗浄工程)、その後、130℃で1分乾燥(乾燥工程)することで、ガラスクロスを得た。
(実施例12)
超音波洗浄によって、余分なシランカップリング剤を低減したガラスクロスに、5~50μmのドライアイス微粒子を、0.4MPaのエアー圧力でガラスクロス全体に均一に噴射することで開繊処理を行った以外は、実施例1と同様の手法でガラスクロスを得た。
(実施例13)
超音波洗浄によって、余分なシランカップリング剤を低減したガラスクロスに、5~50μmのドライアイス微粒子を、0.45MPaのエアー圧力でガラスクロス全体に均一に噴射することで開繊処理を行った以外は、実施例6と同様の手法でガラスクロスを得た。
(比較例1)
脱油前洗浄工程で洗浄水3(ナトリウムイオン含有量=24ppm)を用いた点、及びライン張力を60Nに変更した点以外は、実施例1と同様の手法でガラスクロスを得た。張力が低いため、ガラスクロスの搬送時のばたつきが大きく、処理液の固着工程において、ガラスクロス上に、シワ、及び乾燥炉への接触による当たり傷、が目視で確認できた。
(比較例2)
1000℃で15秒加熱脱油した点、及びライン張力を90Nに変更した点以外は、比較例1と同様の手法でガラスクロスを得た。張力が低いため、ガラスクロスの搬送時のばたつきが大きく、処理液の固着工程において、ガラスクロス上に、シワ、及び乾燥炉への接触による当たり傷、が目視で確認できた。
(比較例3)
ライン張力を130Nに変更した点以外は、比較例2と同様の手法で、ガラスクロスの加工を試みた。しかしながら、ライン張力に対するガラスクロスの引張強度の比(ガラスクロスの引張強度(経糸方向)/ライン張力)が低いため、シランカップリング剤の固着工程でガラスクロスが切断し、ガラスクロスを得ることができなかった。
(比較例4)
脱油前洗浄工程で洗浄水3(ナトリウムイオン含有量=24ppm)を用いた点、及びライン張力を80Nに変更した点以外は、実施例7と同様の手法でガラスクロスを得た。張力が低いため、ガラスクロスの搬送時のばたつきが大きく、処理液の固着工程において、ガラスクロス上に、シワ、及び乾燥炉への接触による当たり傷、が目視で確認できた。
(比較例5)
ライン張力を150Nに変更した点以外は、比較例4と同様の手法でガラスクロスの加工を試みた。しかしながら、ライン張力に対するガラスクロスの引張強度の比(ガラスクロスの引張強度(経糸方向)/ライン張力)が低いため、シランカップリング剤の固着工程でガラスクロスが切断し、ガラスクロスを得ることができなかった。
(比較例6)
350℃で10時間加熱脱油した点、及びライン張力を200Nにした点、及び洗浄水2に変更した点以外は、実施例4と同様の手法でガラスクロスを得た。得られたガラスクロスは、シワ及び傷等は確認できなかったが、加熱脱油の温度が低いため、ガラスクロスの誘電正接は高い結果となった。
〔ガラスクロスの外観検査方法〕
上述の実施例及び比較例のガラスクロスを、Roll-to-Rollの検査台にて、張力100N/1300mmをかけてハロゲンランプを照射しながら、ガラスクロス上にシワ、傷、ちぎれが発生していないかを、製品1mごとに目視検査を行った。外観不良が製品1mあたりに1箇所以上発生した製品部分を不良数量、外観不良が製品1mあたりに1箇所も発生しなかった製品部分を良品数量として、製品2000mあたりの不良数量をカウントした。検査結果から、下記の指標に従い、実施例及び比較例のガラスクロスの格付けを行った。
シワ
A:シワがみられた製品部分の合計が101m未満(=不良数量の発生率が5%未満)
B:シワがみられた製品部分の合計が101以上~200m未満(=不良数量の発生率が5%以上10%未満)
C:シワがみられた製品部分の合計が200m以上(=不良数量の発生率が10%以上)

A:傷がみられた製品部分の合計が101m未満(=不良数量の発生率が5%未満)
B:傷がみられた製品部分の合計が101以上~200m未満(=不良数量の発生率が5%以上10%未満)
C:傷がみられた製品部分の合計が200m以上(=不良数量の発生率が10%以上)
ちぎれ
A:クロスが裂けた製品部分の合計が7m未満(不良数量の発生率が0.3%未満)
B:クロスが裂けた製品部分の合計が7m以上~12m未満(不良数量の発生率が0.3%以上0.6%未満)
C:クロスが裂けた製品部分の合計が12m以上(不良数量の発生率が0.6%以上)
実施例及び比較例の製造条件及び評価結果を下表に示す。なお、実施例のガラスクロスを用いて、常法により、プリプレグ、プリント配線板、集積回路、及び電子機器を作製することができた。
〔積層板の作製方法〕
ポリフェニレンエーテル(SABIC社製、Noryl SA9000)45質量部、トリアリルイソシアヌレート10質量部、トルエン45質量部、1,3-ジ(tert-ブチルイソプロピルベンゼン)0.6質量部をステンレス製の容器に加えて、1時間室温で撹拌させることで、ワニスを作製した。作製したワニスに実施例1、6、12、13で得たガラスクロスを含浸させてから、115℃で1分間乾燥後、プリプレグを得た。得られたプリプレグを重ね、更に上下に厚さ12μmの銅箔を重ね、200℃、40kg/cm2で120分間加熱加圧することで、厚さが1mmの積層板をそれぞれ得た。
〔積層板の絶縁信頼性の評価方法〕
上記のようにして得られた積層板の両面の銅箔上に、0.30mm間隔のスルーホールを配する配線パターンを作製して絶縁信頼性評価の試料を得た。得られた試料に対して温度85℃、湿度85%RHの雰囲気下で50Vの電圧を掛け、抵抗値の変化を測定した。この際、試験開始後500時間以内に抵抗が1MΩ未満になった場合を絶縁不良としてカウントした。10枚の試料について同様の測定を行い、10枚中、絶縁不良とならなかったサンプルの枚数を求めた。

Claims (21)

  1. 複数本のフィラメントを含むガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、
    前記ガラス糸におけるガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
    下記式(A):
    前記ガラスクロスの経糸方向の引張強度(N/25mm)/前記ガラスクロスの厚み(μm) ・・・(A)
    で表される、前記ガラスクロスの厚みあたりの経糸の引張強度が0.50~6.0の範囲であり、
    前記ガラスクロスの経糸方向の引張強度の変動係数が15%以下の範囲であり、
    前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0超え0.0010以下の範囲である、ガラスクロス。
  2. 複数本のフィラメントを含むガラス糸を製織して成る、ガラスクロスであって、
    前記ガラス糸におけるガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
    下記式(A):
    前記ガラスクロスの経糸方向の引張強度(N/25mm)/前記ガラスクロスの厚み(μm) ・・・(A)
    で表される、前記ガラスクロスの厚みあたりの経糸の引張強度が0.50~6.0の範囲であり、
    前記ガラスクロスを構成するガラス繊維のフィラメント径の変動係数が10%以下の範囲であり、
    前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0超え0.0010以下の範囲である、ガラスクロス。
  3. 前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0超え0.0055以下の範囲である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  4. 前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0~100質量%である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  5. 前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で99.0~100質量%である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  6. 前記ガラス糸が、シランカップリング剤を含む表面処理剤で処理されている、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  7. 前記表面処理剤が、下記式(1):
    X(R)3-nSiYn ・・・(1)
    (式(1)中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の少なくとも一方を有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる基である)
    で示される前記シランカップリング剤を含む、請求項6に記載のガラスクロス。
  8. 前記式(1)中のXが、イオン性化合物と塩を形成していない有機官能基である、請求項7に記載のガラスクロス。
  9. 前記式(1)中のXが、アミンもしくは、アンモニウムカチオンを含まない、請求項7に記載のガラスクロス。
  10. 前記式(1)中のXが、メタクリロキシ基、又はアクリロキシ基を1つ以上有する有機官能基である、請求項7に記載のガラスクロス。
  11. 前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%以上0.18質量%未満である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  12. 前記ガラスクロスの10GHzにおける、誘電正接が0.00050以下の範囲である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  13. 前記ガラスクロスの厚みが60μm以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  14. 前記ガラスクロスの目付量(g/m2)の変動係数が3%以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  15. 前記ガラスクロスの目付量(g/m2)の変動係数が1.5%以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  16. 前記ガラスクロスの、ひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  17. プリント配線板用である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
  18. 請求項1又は2に記載のガラスクロスと、熱硬化性樹脂と、無機充填剤と、を含有する、プリプレグ。
  19. 請求項18に記載のプリプレグを含む、プリント配線板。
  20. 請求項19に記載のプリント配線板を含む、集積回路。
  21. 請求項19に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
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