JP7429530B2 - 電波吸収塗料組成物、電波吸収塗膜、電波吸収塗膜付き基材および電波吸収塗膜付き基材の製造方法 - Google Patents

電波吸収塗料組成物、電波吸収塗膜、電波吸収塗膜付き基材および電波吸収塗膜付き基材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、電波吸収塗料組成物、電波吸収塗膜、電波吸収塗膜付き基材および電波吸収塗膜付き基材の製造方法に関する。
近年、様々な分野で電波が利用されている。
例えば、放送分野ではラジオ電波やテレビ電波などが利用され、通信分野では、無線LAN(Local Area Network)、ETC(Electronic Toll Collection System)、携帯電話などで電波が利用されている。
店舗などの販売分野や物流倉庫などの物流分野では、RFID(Radio Frequency Identification)と称される非接触型ICタグに電波が利用されている。
車、電車、船舶、航空機などの運送分野では、無線の通信機器などに各種波長の電波が利用されている。特に、船舶などでは、海上の船舶などを捕捉するレーダー、海中の魚影などを捕捉するレーダーなどで電波が利用されている。
例えば、船舶レーダーでは、該レーダーから電波を発射し、測定対象からの反射電波を測定することで測定対象を検知するが、測定対象とは異なる、当該船舶のマストなどの構造物でも電波が反射することがあり、この反射電波によって、偽像(実際には存在しないエコー等がレーダー画像上に現れること)が起こることがある。かかる偽像が起こると船舶運航上の安全性に関わることがある。
このような、測定対象とは異なる構造物等からの反射電波を防ぐことを目的として、該構造物等に電波が照射された場合に、該電波を熱エネルギー等に変換できる部材(電波吸収体)が該構造物等に設けられている。
前記測定対象とは異なる構造物等に電波吸収体を設ける際には、容易に電波吸収体を設けることができる等の点から、電波吸収塗料を用いることが望まれている。
このような電波吸収塗料を用いる電波吸収体として、特許文献1には、基材と、下塗り塗膜層と、前記下塗り塗膜層の上に積層された軟磁性金属を含有する電波吸収塗料から形成される電波吸収塗膜層とを含む電波吸収体が記載されている。
特開2017-220585号公報
しかしながら、前記従来の塗料を用いて電波吸収塗膜層を形成するには、電波吸収材である軟磁性金属を多量に用いる必要があり、このような軟磁性金属を多量に含む塗料は、塗料密度が高いため、スプレー塗装、刷毛塗り、ローラー塗り等による塗装が困難であり、塗装作業性の点で改良の余地があった。
本発明は、以上のことに鑑みてなされたものであり、電波吸収性能に優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができ、塗装作業性に優れる電波吸収塗料組成物を提供することを目的とする。
前記課題を解決する方法について鋭意検討した結果、特定の塗料組成物によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
[1] 塗膜形成樹脂と、ピッチ系カーボンファイバーとを含む電波吸収塗料組成物であって、
該組成物の固形分100体積%に対するピッチ系カーボンファイバーの含有量が2~15体積%である、
電波吸収塗料組成物。
[2] さらに中空粒子を含有する、[1]に記載の電波吸収塗料組成物。
[3] 23℃において、リオン粘度計で測定した粘度が1~20Pa・sである、[1]または[2]に記載の電波吸収塗料組成物。
[4] 密度が0.9~1.5g/cm3である、[1]~[3]のいずれかに記載の電波吸収塗料組成物。
[5] スプレー塗装用である、[1]~[4]のいずれかに記載の電波吸収塗料組成物。
[6] 前記塗膜形成樹脂として、液状樹脂、樹脂エマルションおよび樹脂ディスパージョンから選ばれる少なくとも1種を用いる、[1]~[5]のいずれかに記載の電波吸収塗料組成物。
[7] 水系塗料組成物である、[1]~[6]のいずれかに記載の電波吸収塗料組成物。
[8] さらにpH調整剤を含有する、[7]に記載の電波吸収塗料組成物。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の電波吸収塗料組成物を乾燥または硬化させた電波吸収塗膜。
[10] 膜厚が30~3,000μmである、[9]に記載の電波吸収塗膜。
[11] 基材と、[9]または[10]に記載の電波吸収塗膜とを含む、電波吸収塗膜付き基材。
[12] 基材に、[1]~[8]のいずれかに記載の電波吸収塗料組成物を塗布する塗布工程と、
前記塗布された電波吸収塗料組成物を乾燥または硬化させる工程とを含む、
電波吸収塗膜付き基材の製造方法。
本発明に係る電波吸収塗料組成物によれば、電波吸収性能、特にGHz帯の周波数の電波吸収性能に優れる電波吸収塗膜を容易に形成することができる。
また、本発明に係る電波吸収塗料組成物によれば、スプレー塗装などの簡便な方法で、所望の場所に所望の膜厚の電波吸収塗膜を容易に形成することができ、かつ膜厚の制御によって、所望の周波数の電波を吸収可能な電波吸収塗膜を容易に形成することができる。
図1は、実施例1で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図2は、実施例2で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図3は、実施例3で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図4は、実施例4で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図5は、実施例5で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図6は、実施例6で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図7は、実施例7で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図8は、実施例8で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図9は、実施例9で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図10は、実施例10で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図11は、実施例11で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図12は、実施例12で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図13は、実施例13で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図14は、実施例14で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図15は、実施例15で得られた電波吸収塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図16は、比較例1で得られた塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図17は、比較例2で得られた塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図18は、比較例3で得られた塗膜の電波吸収特性を示す図である。 図19は、比較例4で得られた塗膜の電波吸収特性を示す図である。
≪電波吸収塗料組成物≫
本発明に係る電波吸収塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、塗膜形成樹脂と、ピッチ系カーボンファイバー(以下「ファイバーA」ともいう。)とを含み、該組成物の固形分100体積%に対するファイバーAの含有量が2~15体積%であることを特徴とする。
本組成物は、分散媒および/または溶媒を含むことが好ましく、この場合、本組成物は、水系塗料組成物であってもよく、溶剤系塗料組成物であってもよく、用いる塗膜形成樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。これらの中でも、塗装環境や塗装作業者への影響等を考慮すると、水系塗料組成物が好ましい。
なお、本組成物は、塗布方法等に応じて、分散媒および/または溶媒で希釈して用いられることがある。本明細書における各説明は、希釈に関する内容および塗布工程以外は、希釈される前についての説明である。
なお、前記水系塗料組成物とは、組成物中の分散媒および溶媒の合計量100質量%に対し、水の含有量が50質量%以上である組成物のことをいい、組成物中の分散媒および溶媒の合計量100質量%に対する該水の含有量は、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%である。また、前記溶剤系塗料組成物とは、組成物中の分散媒および溶媒の合計量100質量%に対し、水以外の溶剤の含有量が50質量%以上の組成物のことをいい、組成物中の分散媒および溶媒の合計量100質量%に対する該溶剤の含有量は、好ましくは90~100質量%、より好ましくは95~100質量%である。
本組成物は、1成分型の組成物であってもよく、2成分型以上の組成物であってもよい。これらは、用いる塗膜形成樹脂の種類等に応じて適宜選択すればよく、例えば、塗膜形成樹脂とともに硬化剤を用いる場合には、塗膜形成樹脂を含む第1剤と硬化剤を含む第2剤などからなる2成分型以上の組成物とすればよい。また、塗膜形成樹脂を含む第1剤と下記その他の成分を含む第2剤などからなる2成分型以上の組成物としてもよい。
本組成物の23℃における粘度は、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、好ましくは1~20Pa・s、より好ましくは2~15Pa・sである。
該粘度は、リオン粘度計で測定した値であり、例えば、ビスコテスタ VT-06(リオン(株)製)で測定することができる。
本組成物の密度(塗料密度)は、好ましくは0.9~1.5g/cm3、より好ましくは0.9~1.4g/cm3である。
該密度は、本組成物を内容積100mlの比重カップに充満し、該組成物の質量を計量することで算出される値でもよく、用いる原料の密度から算出した値でも構わない。
密度が前記範囲にある本組成物は、塗装作業性、特にスプレー塗装性により優れ、塗膜密度の小さい電波吸収塗膜を容易に形成できる。塗膜密度の小さい電波吸収塗膜を用いることで、基材上に塗膜密度の大きい電波吸収塗膜を形成する場合と同じ質量の塗膜を形成する場合、塗膜密度の大きい電波吸収塗膜を形成する場合に比べ、膜厚を厚くすることができる。このように膜厚を厚くすることにより、特に低GHz帯(例:1.0~20.0GHz)の電波吸収性能により優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる傾向にある。また、膜厚を調整することで、電波吸収塗膜が吸収する電波の周波数を調整できるため、所望の周波数の電波を吸収する電波吸収塗膜を容易に形成することができる。
本組成物は、エアレススプレー、エアースプレー、刷毛塗り、ローラー塗り、ディッピングなどの従来公知の塗装方法のいずれにも適しているが、塗装作業性および生産性等に優れ、大面積の基材に対しても容易に塗装でき、本発明の効果がより発揮できる等の点から、エアレススプレーやエアースプレー等のスプレー塗装用であることが好ましい。
<塗膜形成樹脂>
前記塗膜形成樹脂としては特に制限されず、従来公知の樹脂を使用することができる。
このような塗膜形成樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリシロキサン系樹脂等の合成樹脂;セラック樹脂、ロジン樹脂、セルロース樹脂、ゴム系樹脂、カシュー樹脂等の天然樹脂が挙げられる。これらの塗膜形成樹脂は、水系(水中への乳化・分散系)でも、溶剤系(溶剤への溶解・分散系)でもよく、本組成物の形態に合わせて適宜選択すればよい。
これらの塗膜形成樹脂は、従来公知の方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。
本組成物に用いる塗膜形成樹脂は、1種でもよく、2種以上でもよい。
前記エポキシ系樹脂としては特に制限されないが、分子内に2個以上のエポキシ基を含む樹脂、およびこれらのエポキシ基の開環反応によって生成する樹脂等が挙げられる。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂、エポキシ化油系エポキシ樹脂が挙げられる。
これらの中でも、基材に対する密着性に優れる電波吸収塗膜を容易に形成できる等の点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、さらにはビスフェノールA型およびビスフェノールF型のエポキシ樹脂がより好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。
前記エポキシ系樹脂としては、基材に対する密着性に優れる組成物が得られる等の点から、常温(25℃)で液状または半固形状の樹脂が好ましく、塗装作業性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、液状樹脂がより好ましい。
前記(メタ)アクリル系樹脂としては下記フッ素系樹脂以外の樹脂であれば特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の脂環・芳香環・複素環含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸アリル等のビニル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル等のアルコキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等のアルキルアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレグリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,6-ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン等のジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル;フタル酸2-(メタ)アクリロイルオキシエチル等のカルボキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等のモノマー群から選択される1種または2種以上を(共)重合させてなる樹脂が挙げられる。
ここで、例えば、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味し、その他の類似の記載も同様の意味である。
前記(メタ)アクリル系樹脂は、前記モノマー群に加えて、さらに、スチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロトン酸エステル、イタコン酸エステル等から選択される1種または2種以上を共重合させてなる樹脂であってもよい。
また、前記(メタ)アクリル系樹脂は必要に応じて、アルキッド変性、シリコーン変性、ウレタン変性、ポリエステル変性等をした変性(メタ)アクリル系樹脂であってもよい。
前記ポリウレタン系樹脂としては、前記(メタ)アクリル系樹脂以外の樹脂であり、かつ、分子中にウレタン結合を2個以上有する樹脂であれば特に制限されない。
前記ポリウレタン系樹脂は、例えば、両末端に活性水素を有する化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させることで合成できる。
前記活性水素を有する化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコール類、ポリブタジエングリコール類、ポリアルキレンアジペート類、ポリブタジエングリコール類、ポリアルキレンカーボネート類、シリコーンポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等のポリオール化合物が挙げられる。
前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族系ポリイソシアネート、芳香族系ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、β-ジケトン/オキシム/フェノール/カプロラクタム等でブロックされたブロック型ポリイソシアネートが挙げられる。
前記フッ素系樹脂としては特に制限されないが、例えば、含フッ素エチレン系モノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂が挙げられ、具体的には、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素原子を有するオレフィン化合物;フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物などの化合物を単独重合または他のモノマーと共重合することによって得られる樹脂等が挙げられる。前記他のモノマーとしては、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸、α,β-不飽和ニトリル、カルボニル基含有化合物、共役ジエン、芳香族ビニル、ビニルエーテル、アリルエーテル、アルコキシシラン等が挙げられる。
前記ポリエステル系樹脂としては、前記(メタ)アクリル系樹脂以外の樹脂であり、かつ、分子中にエステル結合を2個以上有する樹脂であれば特に制限されないが、例えば、多塩基酸またはその無水物と多価アルコールとを用いて合成される樹脂が挙げられる。
前記多塩基酸としては、例えば、フタル酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、セバシン酸、イソセバシン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ピメリン酸、アゼライン酸が挙げられる。
前記多価アルコールとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが挙げられる。
前記ポリシロキサン系樹脂としては、前記(メタ)アクリル系樹脂以外の樹脂であれば特に制限されないが、例えば、主骨格がシロキサン(-Si-O-Si-)結合で構成され、側鎖にメチル基やフェニル基等の有機基が結合した樹脂が挙げられ、具体的には、国際公開第2017/099180号等に記載の樹脂が挙げられる。
前記塗膜形成樹脂(本組成物を調製する際の原料としての塗膜形成樹脂)としては、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、樹脂エマルション、樹脂ディスパージョンまたは常温(25℃)で液状の樹脂を用いることが好ましい。
これらエマルションやディスパージョンなどには、乳化剤や界面活性剤などの従来公知の添加剤が含まれていてもよく、これらは、前記各樹脂の欄に記載のモノマーを乳化重合等の公知の方法に従い重合することで得ることができる。
本組成物は、用いる塗膜形成樹脂の種類に応じて硬化剤を用いることが好ましい。該硬化剤としては、従来公知の硬化剤を用いることができるが、例えば、前記塗膜形成樹脂としてエポキシ系樹脂を用いる場合には、アミン系硬化剤を用いることが好ましい。
該アミン系硬化剤としては、三級アミン(3級アミノ基のみを有するアミン化合物)を除く、アミン系化合物であれば特に制限されないが、例えば、脂肪族系、脂環族系、芳香族系、複素環系のポリアミン、ポリアミドアミン、ポリエーテルアミンなどのアミン系化合物が好ましい。
前記硬化剤の使用量は、前記塗膜形成樹脂中の官能基と該硬化剤中の官能基の量を考慮して適宜設定すればよい。
本組成物の固形分100質量%に対する塗膜形成樹脂の含有量は、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、ファイバーAを十分に保持でき、電波吸収性能により優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは20~75質量%、より好ましくは30~70質量%である。
また、本組成物の固形分100質量%に対する塗膜形成樹脂および任意に使用可能な硬化剤の含有量の合計含有量は、前記と同様の理由から、好ましくは30~75質量%、より好ましくは40~70質量%である。
<ピッチ系カーボンファイバー>
前記ファイバーAとしては特に制限されず、従来公知のピッチ系炭素繊維を用いることができ、例えば、コールタールピッチや石油ピッチ等を用いて、ピッチを紡糸し、不融化後、炭化することで製造される。ここで用いるピッチとしては、メソフェーズピッチでもよく、等方性ピッチでもよい。ファイバーAは、従来公知の方法で作製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
ファイバーAを用いることで、電波吸収性能に優れる電波吸収塗膜を得ることができる。
本組成物に用いるファイバーAは、1種でもよく、2種以上でもよい。
ファイバーAの形態は特に制限されず、例えば、長繊維、チョップドファイバー、ミルドファイバーが挙げられる。これらの中でも、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、組成物中での分散性に優れ、電波吸収性能により優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、ミルドファイバーが好ましい。
ファイバーAの平均繊維長は、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、組成物中での分散性に優れ、電波吸収性能により優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは30~300μm、より好ましくは40~250μmである。
前記平均繊維長は、無作為に選択した25本のファイバーAの長さを、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定したときの平均値である。
なお、前記平均繊維長は、本組成物を調製する際の原料であるファイバーAの平均繊維長の規定であるが、本組成物中のファイバーAの平均繊維長も前記範囲にあることが好ましい。
ファイバーAの製造が容易であり、取り扱い性に優れる等の点から、ファイバーAの平均直径は、好ましくは5~15μm、より好ましくは7~12μmである。
前記平均直径は、無作為に選択した25本のファイバーAの直径を、SEMで測定したときの平均値である。なお、ファイバーAの断面が真円である場合は、該円の直径をファイバーAの直径とし、ファイバーAの断面が真円でない(真円でない円形、非円形など)場合は、該断面と同じ面積の円の直径(いわゆる円換算径)をファイバーAの直径とする。
なお、前記平均直径は、本組成物を調製する際の原料であるファイバーAの平均直径の規定であるが、本組成物中のファイバーAの平均直径も前記範囲にあることが好ましい。
ファイバーAの平均繊維長と平均直径との比(アスペクト比=平均繊維長/平均直径)は、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、組成物中での分散性に優れ、電波吸収性能により優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは2~50、より好ましくは3~25である。
ファイバーAのJIS R 7609:2007に従って測定した体積抵抗率は、電波吸収性能により優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは1×10-8Ω・m~1Ω・m、より好ましくは1×10-7~1×10-5Ω・mである。
ファイバーAのJIS R 1611:2010に従って測定した熱伝導率は、電波吸収性能により優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは500~1,200W/(m・K)、より好ましくは500~1,000W/(m・K)である。
本組成物の固形分100体積%に対するファイバーAの含有量は、2~15体積%であり、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、組成物中でファイバーAが分散しやすく、電波吸収性能により優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは3~12体積%である。
ファイバーAの含有量が2体積%未満であると、得られる電波吸収塗膜は電波吸収性能に劣り、15体積%を超えると、塗装作業性、特にスプレー塗装性に劣る。
本組成物の固形分100質量%に対するファイバーAの含有量は、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、組成物中での分散性に優れ、電波吸収性能により優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは4~30質量%、より好ましくは5~30質量%、特に好ましくは5~25質量%、さらに好ましくは6~22質量%である。
<その他の成分>
本組成物は、前記以外の成分、例えば、中空粒子、難燃剤、pH調整剤、顔料(例:体質顔料、着色顔料)、PAN系カーボンンファイバーやカーボンナノチューブなどの繊維、分散剤、消泡剤、造粘剤、造膜助剤、たれ止め・沈降防止剤、分散媒/溶媒を含有していてもよい。
これらその他の成分は、それぞれ1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
なお、本組成物は、前記ファイバーA以外の電波吸収材料として、磁性材料(例えば、フェライトなど)を含んでもよいが、塗料密度の低い電波吸収塗料を容易に得ることができ、塗装作業性に優れ、膜厚が厚く、特に低GHz帯の電波吸収性能に優れる電波吸収塗膜を容易に形成できる点から、磁性材料を含まないことが望ましい。特に、本組成物が水系塗料組成物である場合は、磁性材料に生じ得る錆により所望の電波吸収塗膜を容易に得ることができない場合があることから、このような磁性材料を含まないことが望ましい。
・中空粒子
本組成物は、中空粒子を含有することが好ましい。本組成物が中空粒子を含有することで、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、塗料密度および塗膜密度を小さくする(塗料および塗膜を軽くする)こと、特に、塗料密度を前記範囲にすることができる。また、塗膜が軽量化することにより、膜厚の厚い電波吸収塗膜を形成することができるため、特に低GHz帯の電波吸収性により優れる電波吸収塗膜を得ることができる。
前記中空粒子としては、例えば、セラミックバルーン(例:パーライト)、ガラスバルーン、シラスバルーン、樹脂バルーン、フライアッシュバルーンが挙げられる。
前記中空粒子のJIS Z 8819:1999に従って測定した平均粒径(d50:メジアン径)は、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、所望膜厚の電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは3~100μm、より好ましくは10~80μmである。
前記中空粒子のASTM D2840で測定した真密度は、塗料密度および塗膜密度をより小さくすることができる等の点から、好ましくは0.15~0.95g/cm3、より好ましくは0.20~0.90g/cm3である。
本組成物が中空粒子を含む場合、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、所望の物性を有し、軽い塗料および塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対する中空粒子の含有量は、好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは1~12質量%である。
・難燃剤
本組成物および電波吸収塗膜の用いられる用途には、難燃性が求められる場合があり、この場合には、本組成物は難燃剤を含有することが好ましい。
該難燃剤としては、従来公知の難燃剤を用いることができ、例えば、リン酸エステル系難燃剤、リン酸塩系難燃剤、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが挙げられる。これらの中でも、塗料密度が小さく、塗装作業性に優れ、所望の物性を有する電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、リン酸エステル系難燃剤、リン酸塩系難燃剤が好ましい。
本組成物が難燃剤を含む場合、電波吸収性能を低下させることなく難燃性を付与できる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対する難燃剤の含有量は、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~25質量%である。
・pH調整剤
本組成物が水系塗料組成物である場合、塗装作業性および貯蔵安定性(ファイバーAの分散性)により優れる組成物が得られる等の点から、組成物のpHをアルカリ側へ調整するためのpH調整剤を用いることが好ましい。
該pH調整剤は、難燃剤以外の成分であり、このようなpH調整剤としては、従来公知のpH調整剤を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩、メチルケイ酸カリウムなどのケイ酸塩化合物、炭酸ガス、アンモニア、トリメチルアンモニウム、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物が挙げられる。
本組成物がpH調整剤を含む場合、塗装作業性および貯蔵安定性(ファイバーAの分散性)により優れる組成物が得られる等の点から、本組成物のpHが、好ましくは7~10、より好ましくは8~9となる量で用いる。
・顔料
本組成物は、塗膜物性等を考慮して、顔料、具体的には、体質顔料や着色顔料を含有することが好ましい。なお、該顔料は、ファイバーA、中空を有する顔料(中空粒子)、難燃剤およびpH調整剤以外の顔料である。
該顔料としては、従来公知の顔料を用いることができ、特に制限されないが、例えば、ウォラストナイト、シリカ、チタン白、硫酸バリウム、タルク、マイカ、カリ長石、ソーダ長石、バライト粉、クレー、珪藻土、ベンガラ、黄色ベンガラ、カーボンブラックが挙げられる。
顔料のJIS Z 8819:1999に従って測定した平均粒径(d50:メジアン径)は、塗膜物性に優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは1~100μmである。
本組成物が顔料を含む場合、塗膜物性に優れる電波吸収塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対する顔料の含有量は、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~35質量%である。
本組成物のPWC(顔料質量濃度)は、本組成物の固形分の質量に対する、顔料成分の合計の質量の百分率であり、次の式で表される。本発明では、ファイバーA、中空粒子、顔料および繊維を前記顔料成分とする。また、難燃剤が固体成分である場合は、これも顔料成分に含める。
PWC = [ファイバーA、中空粒子、顔料、繊維および難燃剤の固体成分の質量合計]/[組成物中の固形分の質量]×100(%)
本組成物のPWCは、好ましくは20~60%、より好ましくは30~55%である。
また、本組成物のPVC(顔料体積濃度)は、本組成物の固形分の体積に対する、前記顔料成分の合計の体積の百分率であり、次の式で表される。
PVC = [ファイバーA、中空粒子、顔料、繊維および難燃剤の固体成分の体積合計]/[組成物中の固形分の体積]×100(%)
本組成物のPVCは、好ましくは15~60%、より好ましくは20~50%である。
PWCまたはPVCが前記範囲にあると、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができ、電波吸収性により優れる電波吸収塗膜を得ることができる。
・分散媒/溶媒
本組成物は、塗装作業性、特にスプレー塗装性に優れる組成物を容易に得ることができる等の点から、分散媒および/または溶媒を含むことが好ましい。
前記分散媒/溶媒としては特に限定されないが、例えば、水;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、メトキシプロパノール等のアルコール系溶剤;ミネラルスピリット、n-ヘキサン、n-オクタン、2,2,2-トリメチルペンタン、イソオクタン、n-ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
本組成物中の分散媒および/または溶媒の量は特に制限されず、該組成物に含まれる各成分の分散性、溶解性等や、該組成物を塗布する際の塗布方法等に応じて適宜選択すればよい。
本組成物が分散媒および/または溶媒を含む場合、本組成物中の固形分の量が、好ましくは40~90質量%、より好ましくは45~85質量%となる量で用いることが望ましい。
[電波吸収塗料組成物の製造]
本組成物は、前記各種成分を混合して調製することができる。この混合の際には、必要により、例えば、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、三本ロール、ボールミル、アトライターなど、従来から公知の分散用装置を用いてもよい。
前記各種成分は、所定の量となるように、一度にまたは分割して混合すればよく、この際には、任意の順序で加えればよい。
≪電波吸収塗膜、電波吸収塗膜付き基材および電波吸収塗膜付き基材の製造方法≫
本発明に係る電波吸収塗膜(以下「本塗膜」ともいう。)は、前記本組成物の乾燥体または硬化体であり、前記本組成物を乾燥または硬化させることで得ることができる。
該本塗膜は、通常、基材上に形成され、基材と本塗膜とを含む電波吸収塗膜付き基材として使用される。このような電波吸収塗膜付き基材は、好ましくは、基材に、前記本組成物を塗布する塗布工程と、該塗布された本組成物を乾燥または硬化させる工程とを含む方法で製造される。
本塗膜は、優れた電波吸収特性を有する。通常、本塗膜の膜厚を厚くすると、吸収する電波の周波数は低周波数側にシフトし、逆に薄くすると、吸収する電波の周波数は高周波数側にシフトするため、本塗膜の膜厚を調整することで、本塗膜が吸収する電波の周波数を調整することができる。
該吸収する電波の周波数としては特に制限されず、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくはGHz帯の電波であり、該GHz帯としては、低GHz帯と高GHz帯とが挙げられる。前記低GHz帯は、好ましくは1.0~20.0GHz、より好ましくは3.0~18.0GHz、特に好ましくは5.0~13.5GHzである。また、前記高GHz帯は、好ましくは20.0~100.0GHz、より好ましくは22.0~90.0GHz、さらに好ましくは25.0~75.0GHz、特に好ましくは25.0~60.0GHzである。
なお、本発明における吸収する電波の周波数とは、下記実施例における電波吸収性能の測定と同様にして得られる電波反射量の曲線のピークトップの周波数のことをいう。
本塗膜の電波の吸収量(反射減衰量)の最大値(前記ピークトップの値)は大きいほどよいが、好ましくは10dB以上、より好ましくは15dB以上、特に好ましくは20dB以上である。
本塗膜の膜厚は、所望の用途に応じて適宜選択すればよく、また、吸収したい電波の周波数に応じて適宜選択すればよいが、低GHz帯、特に周波数5.0~13.5GHzの電波の吸収特性に優れる本塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは600~3,000μm、より好ましくは800~2,500μmである。また、特に高GHz帯の電波の吸収特性に優れる本塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは30~750μm、より好ましくは50~700μmである。
本組成物によれば、このような膜厚の塗膜を容易に形成することができる。
本塗膜は、線径が0.1~1.0mmの単繊維または複合繊維を、メッシュサイズが1.7~16メッシュとなるように織ることにより形成されたメッシュなどのメッシュ材を含むように、本塗膜とメッシュ材を積層して形成してもよいが、塗装作業性の観点から、このようなメッシュ材は含まないことが好ましい。本組成物は塗料密度が低く軽いため、このようなメッシュ材を用いなくとも、スプレー塗装等の簡便な塗装方法により容易に電波吸収性に優れる本塗膜を形成できる。
前記基材としては特に制限されず、例えば、測定対象とは異なる構造物(不要な電波を反射し得る構造物)等が挙げられ、具体的には、土木構造物、建築物、港湾設備、船舶設備(マストなど)、橋梁、電力設備、通信設備、機械設備等が挙げられ、船舶、航空機、自動車、鉄塔、橋梁、高層建造物が好ましい。
例えば、本塗膜を、船舶レーダーの偽像防止用として用いる場合、前記基材としては、船体のマスト部などが挙げられる。
前記基材の材質は特に制限されない。
前記基材は、本組成物との良好な付着性を確保する等のため、本組成物を基材に塗布する前に、錆、油脂、水分、塵埃、スライム、塩分などの基材表面の付着物を清掃、除去しておくことが好ましい。つまり、前記基材としては、このような基材表面の付着物を清掃、除去したものであってもよい。
また、前記基材が金属製基材等である場合には、基材に予め防食塗膜などの下塗り塗膜を形成しておくことが好ましい。つまり、前記基材としては、このような下塗り塗膜付き基材であってもよい。該下塗り塗膜としては従来公知の塗膜を用いることができ、例えば、エポキシ系塗膜やウレタン系塗膜が挙げられる。
本組成物を基材に塗布する方法としては特に制限されず、従来公知の方法を制限なく使用可能できる。例えば、エアレススプレー、エアースプレー、刷毛塗り、ローラー塗り、ディッピングが挙げられる。これらの中でも、塗装作業性および生産性等に優れ、大面積の基材に対しても容易に塗装でき、本発明の効果がより発揮できる等の点から、エアレススプレーやエアースプレー等のスプレー塗装が好ましい。
本組成物を塗布するに際し、必要により、塗装方法に適した粘度に調整してもよい。
本組成物が多成分型の組成物である場合、塗装直前に、これら成分を混合し、塗布すればよい。
前記スプレー塗装の条件は、形成したい本塗膜の厚みに応じて適宜調整すればよいが、エアレススプレー時には、例えば、1次(空気)圧:0.4~0.8MPa程度、2次(塗料)圧:10~26MPa程度、ガン移動速度50~120cm/秒程度に塗装条件を設定すればよい。
前記塗布は、得られる本塗膜の膜厚が前記範囲になるよう塗布することが好ましい。
このような膜厚の本塗膜を形成する際は、1回の塗装(1回塗り)で、所望の厚みの塗膜を形成してもよいし、2回(必要によりそれ以上)の塗装で、所望の厚みの塗膜を形成してもよい。
本組成物を乾燥または硬化させる方法としては特に制限されず、用いる塗膜形成樹脂の種類に応じて加熱や光照射等の条件を設定すればよい。
本組成物を乾燥または硬化させる際には、常温(0~40℃)、大気下で2時間以上放置することで、乾燥または硬化させることが好ましい。また、該乾燥または硬化の時間を短縮させるために30~60℃程度に加熱してもよい。
前記電波吸収塗膜付き基材は、必要により、電波吸収塗膜上に上塗り塗膜を形成してもよい。また、上塗り塗膜上に、さらに本塗膜を形成してもよい。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
なお、下記において、温度条件や圧力条件について特に記載されていない操作は、温度条件は常温(通常25℃)付近、圧力条件は常圧(通常0.1013MPa)で行ったものである。
以下の実施例および比較例で用いた原料の詳細を表1に示す。
Figure 0007429530000001
[実施例1~3]
表2に記載の各成分(原料)を表2に記載の量で混合することで、電波吸収塗料組成物を調製した。
Figure 0007429530000002
表2中の原料の欄の数値は質量部を示す。表3~5中の原料の欄の数値も同様である。
表2中の「固形分(質量%)」は、電波吸収塗料組成物を調製する際に用いた原料の合計質量に対する電波吸収塗料組成物を調製する際に用いた原料の固形分(溶剤以外の成分)の合計質量の百分率であり、「固形分(体積%)」は、電波吸収塗料組成物を調製する際に用いた原料の合計体積に対する電波吸収塗料組成物を調製する際に用いた原料の固形分(溶剤以外の成分)の合計体積の百分率である。
表2中の「塗膜中のカーボン(質量%)」は、前記「固形分(質量%)」に対する、用いたカーボンの質量(塗料を100質量%とした時のピッチ系カーボンファイバーとその他カーボンの合計質量)の百分率であり、「塗膜中のカーボン(体積%)」は、前記「固形分(体積%)」に対する、用いたカーボンの体積(塗料を100体積%とした時のピッチ系カーボンファイバーとその他カーボンの合計体積)の百分率である。
表2中の「塗料密度(g/cm3)」は、電波吸収塗料組成物を内容積100mlの比重カップに充満し、該組成物の質量を計量することで算出される値であり、「塗膜密度(g/cm3)」は、乾燥塗膜重量を乾燥塗膜体積で除することにより測定した値である。
表2中の「PWC(%)」は、前記「固形分(質量%)」に対する、顔料成分の質量(塗料を100質量%とした時の、ピッチ系カーボンファイバー、その他カーボン、顔料および中空粒子の合計の質量)の百分率であり、「PVC(%)」は、具体的には、前記「固形分(体積%)」に対する、顔料成分の体積(塗料を100体積%とした時の、ピッチ系カーボンファイバー、その他カーボン、顔料および中空粒子の合計の体積)の百分率である。
表3~5中のこれらの値も、前記と同様にして算出した値であるが、表3および表5では、固体の難燃剤をPWCおよびPVCの算出に用いる顔料成分に含めている。
<電波吸収塗料組成物の粘度測定>
前記で得られた電波吸収塗料組成物の温度を23℃に調整し、リオン粘度計(ビスコテスタ VT-06、リオン(株)製)を用いて粘度(Pa・s)を測定した。測定結果を表2に示す。粘度が1~20Pa・sの範囲内にある組成物は、スプレー塗装性に優れると評価できる。
<電波吸収性能の測定>
300mm×300mm×4mm(縦×横×厚み)のアルミ板に、エポキシ樹脂系防食塗料(バンノー500、中国塗料(株)製)を塗布し、乾燥させて膜厚150μmの下塗り塗膜を形成した。次に、前記下塗り塗膜上に、前記で得られた電波吸収塗料組成物を、それぞれ対応する図に記載の膜厚までエアースプレー塗装し、乾燥させて塗膜(電波吸収塗膜)付き基材を作製した。
作製した電波吸収塗膜付き基材の電波吸収性能を、ベクトルネットワークアナライザー(ローデ・シュワルツ社製、ZVB20)を用いて評価した。この際、電波吸収塗膜付き基材の電波吸収塗膜面に対し垂直方向から電波を入射させた。電波吸収塗膜付き基材の電波吸収塗膜面からの反射量を測定し、無塗装アルミ板からの反射量を減した値を電波吸収性能の評価に使用した。
電波反射量の曲線のピークトップ(電波の吸収ピーク)が-10dB以上に負に大きい場合、電波吸収性能が良好であると評価できる。
実施例1~3で得られた電波吸収塗料組成物を用いた場合の電波吸収塗膜の電波吸収性能の測定結果をそれぞれ図1~3に示す。
[実施例4]
表3に記載の各成分(原料)を表3に記載の量で混合することで、電波吸収塗料組成物を調製した。
得られた電波吸収塗料組成物を用いて、前記と同様に粘度および電波吸収性能の測定を行った。粘度の測定結果を表3に示し、電波吸収性能の測定結果を図4に示す。また、後述の方法により得られた電波吸収塗膜の難燃性の測定を行った。結果を表3に示す。
<難燃性の測定>
片面がシリコーンで離型処理されたPETフィルムの離型処理面に対し、前記で得られた電波吸収塗料組成物を、膜厚が2mmになるまで塗装し、乾燥させることで塗膜を形成した。形成した塗膜をPETフィルムから除去することで遊離塗膜を作製した。作製した遊離塗膜に対し、JIS K 6911:2006に記載の耐燃性A法に基づいて評価を行った。評価は、該JIS規格で規定する、「不燃性」となった場合を◎、「自消性」となった場合を○、これら以外の場合を×とした。
Figure 0007429530000003
[実施例5]
表4に記載の各成分(原料)を表4に記載の量で混合することで、電波吸収塗料組成物を調製した。
得られた電波吸収塗料組成物を用いて、前記と同様に粘度および電波吸収性能の測定を行った。粘度の測定結果を表4に示し、電波吸収性能の測定結果を図5に示す。
Figure 0007429530000004
[実施例6~15および比較例1~4]
表5に記載の各成分(原料)を表5に記載の量で混合することで、電波吸収塗料組成物を調製した。
得られた電波吸収塗料組成物を用いて、前記と同様に粘度および難燃性の測定を行った。結果を表5に示す。また、実施例6~13および比較例1~4に関しては、得られた電波吸収塗料組成物を用いて、前記と同様に電波吸収性能の測定を行った。ただし、比較例2および4は、電波吸収塗料組成物の粘度が高すぎるため、分散媒である水で希釈して、固形分30質量%、粘度を10Pa・sに調整した上で、エアースプレー塗装を行った。
なお、実施例14および15は、下記方法により、電波吸収性能の測定を行った。
<電波吸収性能の測定(実施例14および15)>
150mm×150mm×2mm(縦×横×厚み)のアルミ板に、実施例14および15で得られた電波吸収塗料組成物を、それぞれ対応する図に記載の膜厚までエアースプレー塗装し、乾燥させて塗膜(電波吸収塗膜)付き基材を作製した。作製した電波吸収塗膜付き基材の電波吸収性能を、ベクトルネットワークアナライザー(Anristu社製、MS4647B)を用いて評価した。この際、電波吸収塗膜付き基材の電波吸収塗膜面に対し垂直方向から電波を入射させた。電波吸収塗膜付き基材の電波吸収塗膜面からの反射量を測定し、無塗装アルミ板からの反射量を減した値を電波吸収性能の評価に使用した。
電波反射量の曲線のピークトップ(電波の吸収ピーク)が-10dB以上に負に大きい場合、電波吸収性能が良好であると評価できる。
実施例6~15および比較例1~4の電波吸収性能の測定結果をそれぞれ図6~19に示す。
図16中の曲線は、膜厚が1,100μm、1,300μmおよび1,550μmの塗膜の電波吸収特性を示し、図17中の曲線は、膜厚が1,350μmの塗膜の電波吸収特性を示し、図18中の曲線は、膜厚が1,110μm、1,450μmおよび1,650μmの塗膜の電波吸収特性を示し、図19中の曲線は、膜厚が1,020μm、1,320μmおよび1,570μmの塗膜の電波吸収特性を示す。なお、比較例で得られた組成物からいずれの膜厚の塗膜を形成した場合であっても、GHz帯において、反射量が-10dBより負に大きくなることはなかった。
Figure 0007429530000005
本組成物によれば、電波、特に低GHz帯および高GHz帯、さらには周波数5.0~13.5GHzおよび25.0~60.0GHzの電波の吸収特性に優れる電波吸収塗膜を得ることができた。
また、形成する電波吸収塗膜の厚みを変化させることで、吸収する電波の周波数を調整できた。さらに、本組成物は、粘度が低くスプレー塗装性にも優れていた。

Claims (11)

  1. 塗膜形成樹脂と、ピッチ系カーボンファイバーと、中空粒子とを含む電波吸収塗料組成物であって、
    該組成物の固形分100体積%に対するピッチ系カーボンファイバーの含有量が2~15体積%であり、
    前記ピッチ系カーボンファイバーの平均繊維長が30~300μmである、
    電波吸収塗料組成物。
  2. 23℃において、リオン粘度計で測定した粘度が1~20Pa・sである、請求項1に記載の電波吸収塗料組成物。
  3. 密度が0.9~1.5g/cm3である、請求項1または2に記載の電波吸収塗料組成物。
  4. スプレー塗装用である、請求項1~のいずれか1項に記載の電波吸収塗料組成物。
  5. 前記塗膜形成樹脂として、液状樹脂、樹脂エマルションおよび樹脂ディスパージョンから選ばれる少なくとも1種を用いる、請求項1~のいずれか1項に記載の電波吸収塗料組成物。
  6. 水系塗料組成物である、請求項1~のいずれか1項に記載の電波吸収塗料組成物。
  7. さらにpH調整剤を含有する、請求項に記載の電波吸収塗料組成物。
  8. 請求項1~のいずれか1項に記載の電波吸収塗料組成物を乾燥または硬化させた電波吸収塗膜。
  9. 膜厚が30~3,000μmである、請求項に記載の電波吸収塗膜。
  10. 基材と、請求項またはに記載の電波吸収塗膜とを含む、電波吸収塗膜付き基材。
  11. 基材に、請求項1~のいずれか1項に記載の電波吸収塗料組成物を塗布する塗布工程と、
    前記塗布された電波吸収塗料組成物を乾燥または硬化させる工程とを含む、
    電波吸収塗膜付き基材の製造方法。
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