JP7429525B2 - アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材及びその固定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、砂防ダムなどの水利構造物において、摩耗が激しい部位又は既設水利構造物の摩耗を受けた箇所の補修などに使用する、アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材及びその固定方法に関する。
河川や排水路からの取水または河床安定を目的とした水利構造物として、取水堰、砂防ダム及び床止め工などがある。これら水利構造物の堰体及びエプロン部の表面は、他の箇所に比較して早くから摩耗しやすいが、その主な原因としては、砂礫の流下に伴うエロージョンや、水のキャビテーションなどの作用が挙げられる。
特に我が国の河川は、諸外国に比して急勾配であるため水流が速く、水利構造物の堰体ないしエプロン部の表面の損耗進行が著しいものとなりやすく、水利構造物の供用後短期間で補修が必要となるといった問題がある。また、砂防ダムのような越流落差の大きな場所では、エプロン部が水と共に落下する石類によって滝つぼ状に抉られてしまうという問題がある。
こうした問題点を解決する方法として、特許3997180号公報においては、水たたきにプレキャストコンクリート部材を配置し、下地コンクリートにケミカルアンカー(登録商標)等でアンカーボルトを定着させ、プレキャストコンクリート部材に埋設した金属製の受け枠とその受け枠に収容した座金を介して、アンカーボルトにナットを螺合することでプレキャストコンクリート部材をアンカーボルトに固定することができるとともに、プレキャストコンクリート部材と下地コンクリートの間隙にグラウト材を注入することで、プレキャストコンクリート部材と下地コンクリートとを一体化することができる固定構造を提案している。
この固定構造によれば、工場で生産され、よく管理された質の高いプレキャストコンクリート部材を直ちに現場へ設置できるとともに、養生期間を設ける必要が無いといったなどの多くの利点が存在する。
また、設置するプレキャストコンクリート部材の下面と、プレキャストコンクリート部材の設置位置の下地コンクリートまたは水利構造物の摩耗部をはつった下地コンクリートとの間隙に充填されるグラウト材とが付着しないように、プレキャストコンクリート部材の下面に付着防止手段を備えているため、交換が容易であるという利点も有する。
特許3997180号公報
しかし、プレキャストコンクリート部材の下面においてグラウト材の付着を伴わない場合、プレキャストコンクリート部材と下地コンクリートとの一体性は、アンカーボルトへの固定にのみ依存している状態といえる。よって、上記従来技術は、受け枠に設置され長穴が形成された座金を介して、アンカーボルトにナットを螺合することで下地コンクリートにプレキャストコンクリート部材を固定する構造であるため、長穴の形成により座金の耐力が低下し、プレキャストコンクリート部材に対する揚圧力や流水圧による座金の変形が懸念され、最悪の場合にはプレキャストコンクリート部材が流失してしまう可能性も考えられる。
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、アンカーボルトへ固定可能であるとともにグラウト材を注入可能な構造を有し、設計上及び実験上優れた耐力を備え、十分な固定性能を確保しうる固定構造部材であるアンカー固定金具を備えるプレキャストコンクリート部材及びその固定方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明は、本体部に形成されたアンカーボルト取付孔内にアンカー固定金具が設置されたプレキャストコンクリート部材であって、前記本体部の面積の1m 2 毎に前記アンカー固定金具が少なくとも2個以上配置されているとともに、前記本体部の前後及び左右に前記アンカー固定金具が均等な個数配置され、前記アンカー固定金具は、受け枠と、該受け枠内に収容可能な固定プレートと、該固定プレート上に設置する座金とを有し、前記受け枠は円環状の底壁と、該底壁の周縁から起立する略円筒状の側壁を有し、前記固定プレートは、略円形状の板状部材であって前記受け枠内において自在に回動可能であり、下地コンクリートに固定したアンカーボルトの頭部を挿通させる略円形状のアンカーボルト固定孔とグラウト材を注入するためのグラウト注入孔を有し、前記固定プレートの中心を挟んで前記アンカーボルト固定孔が形成された位置と反対側の位置に前記グラウト注入孔が形成され、前記固定プレート上の前記アンカーボルト固定孔が形成された位置に前記座金が設置され、設計流水圧Pと前記固定プレートの前記アンカーボルト固定孔周りの耐力Pt 3 が下記式(1)を満たし、前記設計流水圧Pが下記式(2)から、前記固定プレートの前記アンカーボルト固定孔周りの前記耐力Pt 3 が下記式(3)からそれぞれ求められることを特徴とする。
(数1)
P/B<Pt 3 ・・・・(1)
(数2)
P=K・v 2 ・A・・・・(2)
(数3)
Pt 3 =(16・M 1 ・c)/(a 2 ・(1+ν))・・・・(3)
(但し、式(1)中、Bは前記本体部における前記アンカー固定金具の配置個数を表し、式(2)中、Kは形状係数、vは設計流速、Aは前記本体部の面積を表し、式(3)中、M 1 は前記固定プレートの抵抗モーメント、cは前記座金の外径、aは前記受け枠孔の半径、νは前記固定プレートの材料のポアソン比を表す。)
また、請求項2に係る発明は、前記本体部の面積の1m2毎に前記アンカー固定金具が少なくとも3個以上配置されている場合であって、前記受け枠孔の半径aが35~50mm、前記固定プレートの厚さtが6~9mm、前記座金の外径cが24~37mm、前記固定プレートがSS400材またはSS490材で形成され、前記受け枠及び前記座金が金属製であることを特徴とする。
また、請求項3に係る発明は、前記プレキャストコンクリート部材の前記本体部の前後方向及び左右方向において、前記アンカー固定金具が等間隔で直線状または千鳥状に複数配置されていることを特徴とする。
また、請求項4に係る発明は、前記プレキャストコンクリート部材の前記本体部の四隅付近に段差調整手段を有することを特徴とする。
また、請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載のプレキャストコンクリート部材に関する固定方法であって、前記受け枠内に収容された前記固定プレートを回動させて下地コンクリートに固定したアンカーボルトの頭部を前記アンカーボルト固定孔及び前記座金に挿通し突出せしめるとともに、前記アンカーボルトにナットを螺合して締結し、前記プレキャストコンクリート部材の前記本体部と下地コンクリートとの間隙に前記固定プレートの前記グラウト注入孔からグラウト材を注入し、該グラウト材を注入した前記グラウト注入孔を有する前記固定プレートの周囲に配置された前記固定プレートの前記グラウト注入孔から溢れ出るまで前記グラウト材を注入することを特徴とする。
また、請求項6に係る発明は、下地コンクリートに固定したアンカーボルトの上端が、前記プレキャストコンクリート部材の前記本体部に埋設された主筋より上方に位置するように前記プレキャストコンクリート部材を固定することを特徴とする。
本願の請求項1に係る発明によれば、固定プレートにおいて、その中心を挟んでアンカーボルト固定孔が形成された位置と反対側の位置にグラウト注入孔が形成されているため、固定プレートの耐力を保持したままプレキャストコンクリート部材の本体部と下地コンクリートの間隙にグラウト材を注入可能な構造となっている。
また、アンカー固定金具がプレキャストコンクリート部材の本体部の面積の1m2毎に少なくとも2箇所以上に配置され、本体部の前後及び左右に均等な個数配置された構造であるため、プレキャストコンクリート部材に作用する揚圧力や流水圧を本体部に配置された複数のアンカー固定金具によってバランス良く分散して支持することができる。そのため、固定プレートや受け枠の変形や損傷が抑えられ、固定プレートのアンカーボルトからの抜け出しを防止でき、プレキャストコンクリート部材を下地コンクリートに確実に固定しておくことができる。
また、アンカーボルトに固定していないアンカー固定金具がある場合には、そのアンカー固定金具における固定プレートのアンカーボルト固定孔を利用して、プレキャストコンクリート部材の本体部と下地コンクリートの間隙にグラウト材を注入することができる。
また、アンカーボルト固定孔周りの耐力Pt3及び設計流水圧Pを、上記式(1)の条件を満たす数値に設定することにより、プレキャストコンクリート部材に対する揚圧力や流水圧等の外力により固定プレートが変形・破損することを確実に防止するとともに、プレキャストコンクリート部材の流失を防止することができる。
また、上記式(2)及び(3)中の形状係数K等の変数の値を具体的に設定することで、設計流速vにおける設計流水圧P及びアンカーボルト固定孔周りの耐力Pt3を計算により求めることができるとともに、上記式(1)を用いることでプレキャストコンクリート部材が流失する可能性があるか否か判断を容易に行う事ができる。
また、本願の請求項2に係る発明によれば、本体部の面積の1m2毎にアンカー固定金具の配置個数を少なくとも3個とした場合において、アンカー固定金具の受け枠孔の半径a等の数値範囲を限定することで、プレキャストコンクリート部材に対する揚圧力や流水圧等の外力により固定プレートが変形・破損することを確実に防止することができるとともに、プレキャストコンクリート部材の流失を防止することができる。
また、本願の請求項3に係る発明によれば、プレキャストコンクリート部材の本体部の前後方向及び左右方向において、アンカー固定具が等間隔で複数配置されている構造であるため、プレキャストコンクリート部材に作用する揚圧力や流水圧を本体部に配置された複数のアンカー固定金具によって略均等に分散して支持することができる。そのため、固定プレートや受け枠の変形や損傷がより抑えられ、固定プレートのアンカーボルトからの抜け出しを防止できるため、プレキャストコンクリート部材を下地コンクリートにより確実に固定しておくことができる。
そして、プレキャストコンクリート部材の本体部と下地コンクリートの間隙に固定プレートのグラウト注入孔からグラウト材を注入する際に、そのグラウト材を注入するグラウト注入孔を有する固定プレートの周囲に配置された複数の固定プレートのグラウト注入孔から、グラウト材がまんべんなく行き渡っているか否かの注入状態を確認することができる。
また、本願の請求項4に係る発明によれば、本体部の四隅付近に段差調整手段を有する構造であるため、プレキャストコンクリート部材の四隅の高さを、設置する下地コンクリートの凹凸状況に応じて自在に調整することができるため、施工面を水平に保つことができる。その他、アンカーボルトの長さを調節することで一定のアンカー定着長さを確保することもできるため、プレキャストコンクリート部材を下地コンクリートにより確実に固定しておくことができる。
また、本願の請求項5に係る発明によれば、下地コンクリートにアンカーボルト及びアンカー固定金具を介してプレキャストコンクリート部材を固定するとともに、プレキャストコンクリート部材の本体部と下地コンクリートの間隙に、固定プレートのグラウト注入孔からグラウト材を注入する固定方法であるため、プレキャストコンクリート部材を下地コンクリートに容易かつ確実に固定することができる。
また、プレキャストコンクリート部材の本体部と下地コンクリートの間隙に、あるアンカー固定金具の固定プレートのグラウト注入孔からグラウト材を注入する際に、その固定プレートの周囲に配置された複数の固定プレートのグラウト注入孔から溢れ出るまでグラウト材を注入することで、グラウト材の注入不足を防止し、プレキャストコンクリート部材と下地コンクリートとの間隙を埋めて一体性(密着性)を確保し、プレキャストコンクリート部材を下地コンクリートに安定した状態で固定しておくことができる。更には、プレキャストコンクリート部材同士の目地部からの水流の侵入を防ぐことができる。
また、本願の請求項6に係る発明によれば、下地コンクリートに固定したアンカーボルトの上端が、プレキャストコンクリート部材の本体部に埋設された主筋より上方に位置した状態でプレキャストコンクリート部材を固定する固定方法であるため、プレキャストコンクリート部材の敷設後、流水等によって本体部が摩耗した場合に、埋設された主筋が露出する前にアンカーボルト上端が露出する状態となるため、アンカーボルト上端の露出によってプレキャストコンクリート部材交換時期を察知することができる。
本発明に係るアンカー固定金具の受け枠の平面図(a)とそのI-I線矢視断面図(b)である。 本発明に係るアンカー固定金具の固定プレートの平面図(a)とそのII-II線矢視断面図(b)である。 本発明に係るアンカー固定金具の分解斜視図(a)と組立て斜視図(b)である。 アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材の平面図である。 図4のIII-III線矢視断面図である。 アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材の固定構造を示す部分拡大断面図である。 アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材をアンカーボルトへ固定する際の固定部分の部分拡大断面図である。 図7の平面図(a)及び下地コンクリートの縦鉄筋や横鉄筋が固定プレートのアンカーボルト固定孔の真上に位置した場合の固定状態を示す平面図(b)である。 アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材の固定状態を示す部分拡大断面図である。 アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材の高さ調整時の状態を示す部分拡大断面図である。 アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材の高さ調整後の状態を示す部分拡大断面図である。 アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材の設置後の状態を示す部分拡大断面図である。 プレキャストコンクリート部材に配置した6箇所のアンカー固定金具の受け枠孔の半径aが44mmで固定プレートの厚さtが4.5mm場合の変数計算における、座金の外径cと固定プレートのアンカーボルト固定孔の周囲の耐力Pt3との関係図である。 プレキャストコンクリート部材に配置した6箇所のアンカー固定金具の受け枠孔の半径aが44mmで固定プレートの厚さtが6mm場合の変数計算における、座金の外径cと固定プレートのアンカーボルト固定孔の周囲の耐力Pt3との関係図である。 プレキャストコンクリート部材に配置した6箇所のアンカー固定金具の受け枠孔の半径aが44mmで固定プレートの厚さtが9mm場合の変数計算における、座金の外径cと固定プレートのアンカーボルト固定孔の周囲の耐力Pt3との関係図である。 プレキャストコンクリート部材に配置した6箇所のアンカー固定金具の固定プレートの厚さtが4.5mmの場合の変数計算における、受け枠孔半径aと固定プレートのアンカーボルト固定孔の周囲の耐力Pt3との関係図である。 プレキャストコンクリート部材に配置した6箇所のアンカー固定金具の固定プレートの厚さtが6mmの場合の変数計算における、受け枠孔半径aと固定プレートのアンカーボルト固定孔の周囲の耐力Pt3との関係図である。 プレキャストコンクリート部材に配置した6箇所のアンカー固定金具の固定プレートの厚さtが9mmの場合の変数計算における、受け枠孔半径aと固定プレートのアンカーボルト固定孔の周囲の耐力Pt3との関係図である。 アンカー固定金具を有するプレキャストコンクリート部材をアンカーボルトへ固定する際の施工手順を示した図である。
以下、本発明に係るアンカー固定金具1を有するプレキャストコンクリート部材である高強度コンクリート製耐摩耗被覆部材(以下「耐摩耗被覆部材」という。)10及びその固定方法について、図1から図15に従って説明する。尚、以下では本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図中の1は、アンカー固定金具であって、受け枠2と固定プレート3と座金4を有する。受け枠2は、SS400材やSS490材等の金属製の部材により形成されており、図1(a)に示すように、中央に大径の受け枠孔2dを有する円環状の底壁2bと、その底壁2bの周縁から起立する高さの低い略円筒状の側壁2cを有する。
3は受け枠2内に収納する略円形状の板状部材であって、SS400材やSS490材等の金属製の部材により形成された固定プレートで、受け枠2内に収納された際に水平面において自在に回動可能となるように、略円筒状の側壁2cの内径よりやや小さな外径で形成されている。また、この固定プレート3には、図2(a)等に示すように、略円形状のアンカーボルト固定孔5が形成されている。そして、固定プレート3の直径方向において、固定プレート3の中心を挟んでアンカーボルト固定孔5が形成された位置と反対側の位置に、略円形状のグラウト注入孔6が形成されている。このように、アンカーボルト固定孔5とグラウト注入孔6は、固定プレート3においてその耐力をなるべく落とすことなく保持することができる位置関係に形成されている。
尚、本実施形態における固定プレート3のアンカーボルト固定孔5は、図2(a)に示すように、固定プレート3の中心からやや周縁寄りの位置(固定プレート3の中心からやや左寄りの位置)に形成されているが、固定プレート3の更に中央寄りの位置に形成されていてもよいし、逆に周縁寄りの位置に形成されていてもよい。
このように、固定プレート3の中心からアンカーボルト固定孔5の位置の距離が異なるパターンの固定プレート3を数種類用意しておくことで、後述するように、下地コンクリート100に埋設されている縦鉄筋R及び横鉄筋Kを避けて設置したアンカーボルト8に、耐摩耗被覆部材10を固定する際の対応が可能となる。
また、図3(a),(b)に示すように、固定プレート3の上面のアンカーボルト固定孔5の位置には、耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100に固定する際に、固定プレート3におけるアンカーボルト固定孔5の周縁付近が変形するのを防止するための座金4が設置される。
尚、本実施形態における受け枠2は、外径Dが114.3mm、高さHが30mm、厚さTが4.5mm、受け枠孔2dの半径aが44mm(内径a1が88mm)、受け枠2の張出し長さLが8.65mmで形成されている。また、固定プレート3は、直径dが103mm、厚さtが6mm、アンカーボルト固定孔5の内径A1が18mm、グラウト注入孔6の内径A2が30mmであって、固定プレート3の中心とアンカーボルト固定孔5の中心の距離が20mm、固定プレート3の中心とグラウト注入孔6の中心の距離が28mmとなるように形成されている。
また、アンカーボルト固定孔5の内径A1の大きさは、以下で詳述するアンカーボルト8の呼び径に応じた内径(アンカーボルト8の呼び径に対し2mm程度大きい内径)の大きさになっている。
また、座金4は、JIS規格で定められた一般的に広く流通している平座金(JIS B1256-1978(並丸))であって、外径cが30mm(内径18mm、厚さ3.2mm)のものを使用しているが、外径cが30mmであって以下で詳述するアンカーボルト8の呼び径に応じた内径(アンカーボルト8の呼び径に対し約2mm程度大きい内径)を有する座金であれば、上記JIS規格で定められた平座金には限定されない。尚、座金4はステンレス鋼等の金属製の部材で形成されている。
10は、水利構造物のような損耗の激しい箇所に設置するのに最適な、アンカー固定金具1を有する耐摩耗被覆部材である。この耐摩耗被覆部材10は、図4に示すように、横長略長方形状である盤状の本体部11を有し、図5等に示すように、その内部に補強のための鉄筋である主筋12が埋設されている。また、本体部11の下面には、後述するグラウト材である高強度無収縮モルタルFと付着しない塗布膜ないしシートなどの付着防止層13を形成してもよい。尚、本実施形態における本体部11の上面の面積Aは、995mm×1995mmであり、厚さは80mmである。
耐摩耗被覆部材10の本体部11には、その上面から下面にかけて貫通するアンカーボルト取付孔14が、図4に示すように、本体部11の前方及び後方にそれぞれ横一列に等間隔で3つずつ、計6箇所に形成されている。
全てのアンカーボルト取付孔14内には、図5等に示すように、受け枠2が埋設され確実に固定されているため、耐摩耗被覆部材10にアンカー固定金具1を配置することが可能であるとともに、アンカーボルト8に耐摩耗被覆部材10を固定可能となっている。尚、本実施形態において受け枠2は、その側壁2cと耐摩耗被覆部材10の本体部11内の主筋12と溶接等により結合しつつ、耐摩耗被覆部材10内に埋設することで固定されているが、必ずしも受け枠2が主筋12に固定されている必要は無い。
アンカー固定金具1は、本体部11の1m2当たりに少なくとも2箇所以上配置されていることが望ましい。より望ましくは、1m2当たり3箇所以上、6箇所以下である。また、1m2当たり少なくとも1箇所のアンカー固定金具1における固定プレート3に、グラウト注入孔6が形成されていればよく、必ずしもすべてのアンカー固定金具1における固定プレート3にグラウト注入孔6が形成されている必要は無い。
そのため、本実施形態においては、耐摩耗被覆部材10の本体部11に配置された6箇所全てのアンカー固定金具1における固定プレート3に、アンカーボルト固定孔5とグラウト注入孔6が形成されている構造としているが、本体部11の左右方向の中央の2箇所のアンカー固定金具1における固定プレート3にはアンカーボルト固定孔5とグラウト注入孔6が形成されており、その他の本体部11の四隅のアンカー固定金具1における固定プレート3にはアンカーボルト固定孔5のみが形成されている構造としてもよい。
アンカー固定金具1は、本実施形態においては、本体部11の前後方向の真ん中を通る中心線を境にして前方及び後方に3つずつ配置されている。また、本体部11の左右方向の真ん中を通る中心線を境にして左側及び右側に2つずつ配置されている。また、左右方向の真ん中を通る中心線上に、受け枠2の中心が位置するアンカー固定金具1が2つ配置されている。このように、上記2つの中心線上に受け枠2の中心が位置するアンカー固定金具1以外のアンカー固定金具1については、本体部11の前方及び後方にそれぞれ等しい個数、本体部11の左側及び右側においてそれぞれ等しい個数が配置されていることが望ましい。尚、本実施形態においては、アンカー固定金具1が本体部11の前後及び左右において対称位置に配置されているが、上記のように等しい個数が配置されていれば、必ずしも対称位置に配置されていなくてもよい。
アンカー固定金具1を、耐摩耗被覆部材10の本体部11に上記のように前後及び左右に等しい個数配置することで、耐摩耗被覆部材10に作用する揚圧力や流水圧を、本体部11の前後左右に配置された複数のアンカー固定金具1によってバランス良く分散して支持させることができるとともに、アンカー固定金具1の一つ一つにかかる負荷を均等に近づけることができるため、アンカー固定金具1の受け枠2や固定プレート3の変形や損傷が抑えられ、固定プレート3のアンカーボルト8からの抜け出しを防止することができるとともに、耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100に確実に固定しておくことができる。
8は下地コンクリート100に設置するアンカーボルトで、アンカーボルト取付孔14内に固定されている受け枠2内に収納された固定プレート3のアンカーボルト固定孔5、及びその位置に設置されている座金4からアンカーボルト8の頭部を上方に突出せしめ、M16のステンレス製の六角ナット16を螺合し締め付けることで、耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100に固定するためのものである。
尚、本実施形態において使用するアンカーボルト8は、JIS規格で定められた一般的に広く流通しているアンカーボルト(JIS B1220)であって、M16×全長200mmの全ねじであるステンレス鋼(SUS304)製のアンカーボルト8(高強度ボルト(強度区分12.9))を使用しているが、M16の呼び径と同じ軸部径を有するアンカーボルトであれば、上記JIS規格で定められたアンカーボルトに限定されない。
そして、アンカードリルによって下地コンクリート100に形成された内径が18mmで深さが約130mm~140mmの穿孔101に、接着剤15が注入されるとともにアンカーボルト8が挿入されることで、下地コンクリート100に固定される。
上記構造により、下地コンクリート100に埋設されている縦鉄筋R及び横鉄筋Kを避けてアンカーボルト8を設置した場合であっても、固定プレート3を受け枠2内で回動させることにより(場合によっては固定プレート3を上記の他のパターンのものに交換しつつ回動させることにより)、アンカーボルト固定孔5の位置を移動させてアンカーボルト8の位置に合わせることができる。そのため、アンカーボルト取付孔14を所定の位置に備えた耐摩耗被覆部材10であっても、耐摩耗被覆部材10自体の敷設位置を移動調整する事無く、耐摩耗被覆部材10をアンカーボルト8に固定することができる。
また、固定プレート3に、アンカーボルト8の頭部を挿通するアンカーボルト固定孔5と、高強度無収縮モルタルFを注入するグラウト注入孔6をそれぞれ形成する構造であるため、耐摩耗被覆部材10のアンカーボルト8への固定と高強度無収縮モルタルFの注入をほぼ同一箇所で行うことができ、作業効率が向上するとともに、耐摩耗被覆部材10の本体部11に別途グラウト注入孔6を設ける必要がないため、耐摩耗被覆部材10の強度における品質の向上を図ることができる。
更には、耐摩耗被覆部材10の本体部11に形成された6箇所全てのアンカーボルト取付孔14には、それぞれアンカー固定金具1が配置されているため、ある固定プレート3のグラウト注入孔6から注入された高強度無収縮モルタルFが、耐摩耗被覆部材10の本体部11の下面の付着防止層13と下地コンクリート100の間隙に十分に行き渡っているか否かを、高強度無収縮モルタルFを注入したグラウト注入孔6を有する固定プレート3の周囲に配置された複数の固定プレート3のグラウト注入孔6から確認することができる。
また、そのグラウト注入孔6からの高強度無収縮モルタルFの注入により、耐摩耗被覆部材10と下地コンクリート100との密着が十分で、安定した状態で耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100に固定できているか否かの確認をすることもできる。
また、耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100に固定する際に、固定に使用していないアンカー固定金具1がある場合には、そのアンカー固定金具1における固定プレート3のアンカーボルト固定孔5を利用して、耐摩耗被覆部材10の本体部11と下地コンクリート100の間隙に高強度無収縮モルタルFを注入することもできる。
尚、上記のようにアンカー固定金具1に配置された固定プレート3の一部にだけアンカーボルト固定孔5とグラウト注入孔6が形成され、それ以外の固定プレート3にはアンカーボルト固定孔5のみが形成されグラウト注入孔6が形成されていない場合は、ある固定プレート3のグラウト注入孔6から注入された高強度無収縮モルタルFが、耐摩耗被覆部材10の本体部11の下面の付着防止層13と下地コンクリート100の間隙に十分に行き渡っているか否かを確認することができるとともに、後述するように、受け枠2の内部に高強度無収縮モルタルFを溢れ出させることのできる通し孔が、固定プレート3に形成されていることが望ましい(図示せず)。
また、本実施形態のように、耐摩耗被覆部材10の本体部11に数多くのアンカー固定金具1が配置される場合には、本体部11の前後方向及び左右方向の間隔がそれぞれ等しくなるように配置されているとともに、直線状(升目状)または千鳥状に配置されていることが望ましい。
アンカー固定金具1の上記配置構造にすることで、あるアンカー固定金具1の固定プレート3のグラウト注入孔6から高強度無収縮モルタルFを注入する際、その固定プレート3の周囲のある一定範囲内に配置された複数の固定プレート3の全てのグラウト注入孔6及び上記通し孔から高強度無収縮モルタルFが溢れ出すまで注入することで、耐摩耗被覆部材10の本体部11の下面の付着防止層13と下地コンクリート100の間隙における高強度無収縮モルタルFの注入不足を防止することができるとともに、ある一定範囲内において高強度無収縮モルタルFが十分行き渡っていることを間接的に確認することができる。
また、高強度無収縮モルタルFがグラウト注入孔6等から溢れ出すまで注入することで、耐摩耗被覆部材10の本体部11の下面の付着防止層13と下地コンクリート100の間隙を隙間なく埋めて一体性(密着性)を確保し、耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100に安定した状態で固定しておくことができる。また、耐摩耗被覆部材10同士の目地部からの水流の侵入を防ぐこともできる。
また、耐摩耗被覆部材10に作用する揚圧力や流水圧を、本体部11に配置された複数のアンカー固定金具1によってバランス良く分散して支持させることができるとともに、アンカー固定金具1の一つ一つにかかる負荷を略均等にすることができるため、アンカー固定金具1の受け枠2や固定プレート3の変形や損傷がより抑えられ、固定プレート3のアンカーボルト8からの抜け出しを防止することができるとともに、耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100により確実に固定しておくことができる。
18は段差調整ボルト取付孔で、図4に示すように、耐摩耗被覆部材10の本体部11の四隅付近であってアンカーボルト取付孔14と本体部11の長辺側の周縁との間の位置に1つずつ計4個形成されている。この段差調整ボルト取付孔18は、図5に示すように、本体部11の上面から下面の付着防止層13にかけて貫通する大径部と小径部とから構成されており、小径部の内周には雌ねじを有するインサート19が埋設されている。
20は内空断面を有する円筒状の弾性パッキンで、耐摩耗被覆部材10の下面にあって、段差調整ボルト取付孔18の周囲にその上端面が固定されており、弾性パッキン20の下端面には略円形状のプレート21が装着され、弾性パッキン20の下端面が密閉された状態となっている。また、22はインサート19に予め設置し或いは段差調整時に設置する段差調整ボルトである。上記構成から成る段差調整手段23は、耐摩耗被覆部材10をアンカーボルト8へ固定する前の段階で使用する。
また、段差調整を行うことにより、一定のアンカーボルト8の定着長さを確保することができるため、耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100により確実に固定しておくことができる。
以下、上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10を、特に水利構造物の水たたきを受けるエプロン部にように損耗の著しい箇所への設置する場合の設置方法について説明する(図15参照)。まず、設置する位置の既設コンクリートの表面をはつって下地コンクリート100を成形し、成形した下地コンクリート100の上面に耐摩耗被覆部材10を、その下面から突出するプレート21を介して設置する。
次に、設置した各耐摩耗被覆部材10,10間及び各耐摩耗被覆部材10とその周囲の既設コンクリート(下地コンクリート100)との間の段差調整をそれぞれ行う。この段差調整は、図10に示すように、耐摩耗被覆部材10に形成した段差調整ボルト取付孔18内のインサート19に予め設置した或いは段差調整時に設置する段差調整ボルト22を回転させながらインサート19に螺合し、その先端部を耐摩耗被覆部材10の本体部11の下面から突出せしめる。この段差調整ボルト22の先端部が位置するその下方部には、弾性パッキン20を介してプレート21が設けられているため、段差調整ボルト22を回転させ続けることによりその先端部はプレート21と衝当する。
そして、図11示すように、耐摩耗被覆部材10の下面から突出させた段差調整ボルト22の先端部の高さに応じて耐摩耗被覆部材10の高さが調整されるが、この段差調整時において段差調整ボルト22の先端部は、弾性パッキン20を介したプレート21により支承されている。そのため、耐摩耗被覆部材10を設置する下地コンクリート100の表面に凹凸があり、或いは傾斜している場合でも、確実かつ正確に耐摩耗被覆部材10の四隅の高さを下地コンクリート100の凹凸状況に応じて容易に段差調整することができ、耐摩耗被覆部材10を水平に保つことができるとともに、この段差調整後の状態を安定した状態で保持することができる。
つぎに、段差調整された耐摩耗被覆部材10の下地コンクリート100への固定作業を行う。この固定作業は、図7に示すように、アンカーボルト取付孔14内に固定した受け枠2内において、その大径の受け枠孔2dからドリルによって、上記のように下地コンクリート100に穿孔101を穿設し、その穿孔101内に接着剤15を充填してアンカーボルト8を設置し固定する。そして、図7及び図8(a)等に示すように、アンカーボルト8の頭部を固定プレート3に形成されたアンカーボルト固定孔5及び座金4に挿通せしめ、アンカーボルト8に六角ナット16を螺合し締め付けることで、耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100に固定する。
アンカーボルト8の下地コンクリート100への設置時において、受け枠2の大径の受け枠孔2dが、下地コンクリート100を補強する縦鉄筋Rや横鉄筋Kの真上に位置する場合もある。その場合には、縦鉄筋Rと横鉄筋Kを避けた位置に穿孔101を穿設し、接着剤15を充填してアンカーボルト8を設置し固定する。
そして、図8(b)に示すように、受け枠2内に収容した固定プレート3を回動させ、アンカーボルト固定孔5の位置を移動させることで、アンカーボルト8の頭部をアンカーボルト固定孔5及び座金4から突出せしめ、アンカーボルト8に六角ナット16を螺合し締め付けることで耐摩耗被覆部材10を下地コンクリート100に固定する。この場合、段差調整後の耐摩耗被覆部材10自体の位置をずらすことなく行うことができるので、容易に固定作業を行うことができる。
耐摩耗被覆部材10の固定後は、固定プレート3に形成されたグラウト注入孔6からグラウト材として高強度無収縮モルタルFを注入して、耐摩耗被覆部材10の本体部11の下面の付着防止層13と下地コンクリート100の間隙に隙間なく充填し、高強度無収縮モルタルFを介して耐摩耗被覆部材10と下地コンクリート100を一体化させる。
このとき、高強度無収縮モルタルFの注入が不十分となることを防止するため、複数のアンカー固定金具1の固定プレート3のグラウト注入孔6から高強度無収縮モルタルFを注入する際、全ての固定プレート3のグラウト注入孔6から、図9に示すように、高強度無収縮モルタルFが受け枠2の内部に溢れ出し、側壁2cの上端の高さにくるまで注入する。
注入した高強度無収縮モルタルFが硬化した後は、図11の一点鎖線で示すように、段差調整ボルト22を段差調整ボルト取付孔18内のインサート19から取り外す。この段差調整ボルト22の先端部は弾性パッキン20及びプレート21によって周囲が覆われており、高強度無収縮モルタルFと直接接触していない状態であるため、段差調整ボルト22をインサート19から容易に取り外すことができ、取り外した段差調整ボルト22は再利用が可能となる。尚、段差調整ボルト22を取り外した後は、インサート19の上方開口部を塞ぐために、図12に示すように、シール24を設けてもよい。
つぎに、図9に示すように、アンカーボルト取付孔14内の受け枠2の上部に、耐摩耗性と流動性に優れた充填材J(例えば、耐摩耗性セラミック骨材の入った2液性エポキシ複合材等)を本体部11の上面の高さまで充填し、アンカーボルト8の頭部を充填材Jで覆う。
また、段差調整ボルト取付孔18内の段差調整ボルト22を取り外した後に設置したシール24の上方空間部及び各耐摩耗被覆部材10,10間の目地溝内に、充填材Jをそれぞれ充填することにより図6及び図12に示す状態となり、耐摩耗被覆部材10のアンカーボルト8への固定作業が完了する。
図9には、アンカーボルト8の頭部と本体部11に埋設されている主筋12との位置関係が示されており、耐摩耗被覆部材10の固定後のアンカーボルト8の上端が、本体部11に埋設されている主筋12よりも上方に位置するように耐摩耗被覆部材10が固定されている。従って、耐摩耗被覆部材10の本体部11の上面が流水等により均等に摩耗した場合は、主筋12よりアンカーボルト8の上端が先に現れる構造となっているため、アンカーボルト8の上端の露出によって、耐摩耗被覆部材10の交換時期を察知することができる。
ところで、河川における災害復旧の基本的な考え方(「美しい山河を守る災害復旧基本方針」(ガイドライン:平成26年3月31日改定)国土交通省)によれば、災害復旧では設計流速算定表(B表)を定めて護岸工法の算定を行うこととなっている。設計流速としては1~8m/sの範囲で例示されているが、例えば河川の護岸コンクリートブロック(練積)では4~8m/sの範囲が適用される。
一方、頭主工のエプロン部のような下地コンクリート100に、本発明の上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10を設置した場合、その本体部11の上面には流下水による水圧が作用するが、下地コンクリート100と耐摩耗被覆部材10との間隙には上記のように高強度無収縮モルタルFを隙間なく充填して耐摩耗被覆部材10と下地コンクリート100を一体化させるため、下地コンクリート100には等分布荷重として伝達される。そのため、耐摩耗被覆部材10には曲げモーメントは発生しない。
また、耐摩耗被覆部材10の本体部11の下面と下地コンクリート100との間隙への高強度無収縮モルタルFの充填による一体化により、耐摩耗被覆部材10の本体部11の下面には揚圧力は通常発生しない。
また、耐摩耗被覆部材10が有する段差調整手段23により段差調整を行い、耐摩耗被覆部材10同士の段差等を小さくすることができるため、耐摩耗被覆部材10の本体部11の側面への流水圧やキャビテーションの発生を抑えることができる。そのため、耐摩耗被覆部材10の本体部11の側面への流水圧は殆ど作用しない。
しかし、近年のゲリラ豪雨による流水の増加や、それにより流れ落ちてくる岩石の衝突等により、下地コンクリート100や耐摩耗被覆部材10の本体部11が破損して、耐摩耗被覆部材10の本体部11の下面と下地コンクリート100との間に空隙が発生するとともに、その空隙に流水が侵入することも考えられる。また、その空隙に浸入した流水の出口が無い場合、その流水により耐摩耗被覆部材10をめくり上げようとする上向きの力(揚圧力)が作用することが想定される。
そのため、頭主工のエプロン部のような下地コンクリート100を改修する場合においても、設計流速vの適用が必要であり、設計流速vが5~7m/sの範囲、一般には設計流速v=5m/sを適用すれば十分であるが、万全を期するのであれば設計流速v=7m/sを適用する。従って、以下では主に設計流速vが5m/s及び7m/sの場合の設計流水圧Pを、耐摩耗被覆部材10に生じる揚圧力と捉えて安全性を検討する。
設計流水圧P(kN)は道路橋示方書(I共通編・平成29年11月・日本道路協会)を参考に、下記式(2)によって求められる。
(数2)
P=K・v2・A・・・・(2)
ここで、Kは形状係数(上記実施形態においては耐摩耗被覆部材10の形状よりK=0.7)、vは設計流速(m/s)、Aは耐摩耗被覆部材10の流水方向に対する鉛直投影面積(m2)、即ち上記実施形態における本体部11の上面の面積(0.995m×1.995m≒1.985m2)である。上記式(2)において、設計流速v=5m/sとすると設計流水圧P≒34.738kN、設計流速v=7m/sとすると設計流水圧P≒68.086kNとなり、上記実施形態においては、耐摩耗被覆部材10に配置されたアンカー固定金具1の1箇所当たりの負担力はそれぞれ約5.790kN及び約11.348kNとなる。
実際、取水堰(越流部)とエプロン部をモデル化した模型水理実験及び水理解析によって流水圧を確認したところ、いずれの流水圧の値も上記式(2)で求めた設計流水圧Pの値よりも小さい値であった。そのため、上記式(2)で求めた設計流水圧の値は、安全性を確保できる値であることが確認できている。また、水流が取水堰を越流した場合に、その水流の挙動について模型水理実験及び水理解析により、上記設計条件が妥当であることも確認できている。
アンカー固定金具1の受け枠2に収納された固定プレート3におけるアンカーボルト固定孔5の周りの耐力をPt3とすると、Pt3は下記式(3)式により求められる。
(数3)
Pt3=(16・M1・c)/(a2・(1+ν))・・・・(3)
ここで、M1は固定プレート3の抵抗モーメント(N・mm)、cは座金4の外径(mm)、aは受け枠孔2dの半径(mm)、νは固定プレート3の材質のポアソン比である。また、固定プレート3の抵抗モーメントM1は、下記式(4)により求められる。
(数4)
1=σ1・Z1=σ1・(b12/6)・・・・(4)
ここで、σ1は固定プレート3の材料(SS400材またはSS490材)の引張応力度(N/mm2)、Z1は固定プレート3の断面係数、b1は固定プレート3のアンカーボルト固定孔5の周長(mm)、tは固定プレート3の厚さ(mm)である。
そして、耐摩耗被覆部材10に配置されたアンカー固定金具1のアンカーボルト固定孔5の周囲の耐力Pt3が、設計流速v=5m/sにおける設計流水圧P(≒34.738kN)または設計流速v=7m/sにおける設計流水圧P(≒68.086kN)を、耐摩耗被覆部材10の本体部11に配置されたアンカー固定金具1の配置個数(6箇所)で割った数値を上回れば、即ち下記式(1)を満たす場合には、上記実施形態のように本体部11の下面に付着防止層13を形成した場合であっても、固定プレート3が変形・破損することがなく、耐摩耗被覆部材10が流失する可能性が無いため安全性を確保できる。
(数1)
P/B<Pt3・・・・(1)
ここで、Bは耐摩耗被覆部材10の本体部11に配置されたアンカー固定金具1の配置個数を表す。
図13-1~図13-3は、上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10において、座金4の外径cの大きさと、上記式(1)~(4)を用いた変数計算により求められる固定プレート3のアンカーボルト固定孔5の周囲の耐力Pt3との関係について、固定プレート3の材質別(SS400材(黒三角で表示)及びSS490材(黒丸で表示))及び固定プレート3の厚さt別に示すとともに、そのアンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3と、設計流速v=5m/sにおける設計流水圧P(≒34.738kN)または設計流速v=7m/sにおける設計流水圧P(≒68.086kN)を、耐摩耗被覆部材10に配置されたアンカー固定金具1の配置個数(6箇所)で割った数値P5または数値P7との関係を示す図である。尚、一般には、アンカーボルト固定孔5の周囲の耐力Pt3が、設計流速v=5m/sにおける設計流水圧P(≒34.738kN)を、耐摩耗被覆部材10に配置されたアンカー固定金具1の配置個数(6箇所)で割った数値P5を上回れば良いものと考えられているため、以下ではその数値を基準として話を進めるものとする。
座金4の外径cは、JIS規格で定める平座金(JIS B1256-1978(並丸))の大きさに従って変化させて上記式(1)~(4)を用いた変数計算を行った。また、座金4の外形cの変化によりその内径も変化するため、耐摩耗被覆部材10を固定するために使用するアンカーボルト8の呼び径もそれに応じた大きさ(座金4の内径に対し2mm程度小さい大きさ)として変数計算を行った。また、アンカーボルト固定孔5の内径A1の大きさは、アンカーボルト8の呼び径に応じた内径(アンカーボルト8の呼び径に対し2mm程度大きい内径)の大きさとして上記変数計算を行った。その他のアンカー固定金具1の大きさ等の数値については、上記実施形態に係るアンカー固定金具1の数値と同じとして上記変数計算を行った。
固定プレートの厚さtが4.5mmのときは、図13-1に示すように、固定プレート3の材質がSS400材及びSS490材の両方において、座金4の外径cがいずれの数値(21mm~39mm)であっても、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、設計流速v=7m/sにおける設計流水圧P(≒68.086kN)をアンカー固定金具1(固定プレート3)の設置個数(6箇所)で割った数値P7(≒11.348kN)(以下「数値P7」という)を上回ることがない。
これに対し、座金4の外径cが37mm以上であるとともに固定プレート3の材質がSS400材のとき、及び座金4の外径cが28mm以上であるとともに固定プレート3の材質がSS490材のときは、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、設計流速v=5m/sにおける設計流水圧P(≒34.738kN)をアンカー固定金具1(固定プレート3)の設置個数(6箇所)で割った数値P5(≒5.790kN)(以下「数値P5」という)を上回る結果となるため、固定プレート3が変形・破損することなく、耐摩耗被覆部材10が流失する可能性が無いため安全性を確保できる。
一方、固定プレート3の厚さtが6.0mmのときは、図13-2に示すように、固定プレート3の材質がSS400材及びSS490材のときにおいて、座金4の外径cが21mm以上から、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P5を上回る結果となるため、上記と同様に安全性を確保できる。
また、座金4の外径cが30mm以上であるとともに固定プレート3の材質がSS490材のときにおいて、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P7を上回る結果となるため、より安全性を確保できる。
また、固定プレート3の厚さtが9.0mmのときは、図13-3に示すように、固定プレート3の材質がSS400材及びSS490材のときにおいて、座金4の外径cが21mm以上から、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P7を上回る結果となるため、上記と同様により安全性を確保できる。
上記式(1)~(4)を用いた変数計算の結果により、固定プレート3の厚さtが6~9mm、受け枠2及び固定プレートの材質をSS400材またはSS490材、座金4の外径cが21~39mm、好ましくは24mm~37mmとしたときに、上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10を設置する際に確実に安全性を確保することができる。
尚、上記式(3)を用いた変数計算上、座金4の外径cが大きくなると、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3も大きくなる一方、固定プレート3と重なる面積が広くなり、座金4の外周縁とグラウト注入孔6の外周縁との距離が近くなる。また、耐摩耗被覆部材10に揚圧力が生じた際に、アンカーボルト8を介して座金4が下方に引っ張られるため、固定プレート3において座金4の座面圧の生じる面積が広くなる。そのため、固定プレート3の中心部付近に負荷が生じてくることとなるため、固定プレート3の耐久性が損なわれる可能性が生じる。そこで、上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10に配置するアンカー固定金具1の固定プレート3に生ずる発生応力度をFEM解析により別途検証したところ、座金4の外径cが37mmを超えると、固定プレート3の中心部付近に負荷が集中する結果となった。そのため、好ましい座金4の外径cの大きさの上限は37mmとした。
図14-1~図14-3は、上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10において、受け枠2の受け枠孔2dの半径aの大きさと、上記式(1)~(4)を用いた変数計算により求められる固定プレート3のアンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3との関係について、固定プレート3の材質別(SS400材(黒三角で表示)及びSS490材(黒丸で表示))及び固定プレート3の厚さt別に示すとともに、そのアンカーボルト固定孔5の周囲の耐力Pt3と、数値P7または数値P5との関係を示す図である。
尚、受け枠2の受け枠孔2dの半径aの大きさによって、使用できる座金4の外径c及びアンカーボルト8の呼び径が相違する。そこで、上記式(1)~(4)を満たし安全性が確認されている上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10の条件を参考として、受け枠2の受け枠孔2dの半径a(44mm)と、座金4の外径c(30mm)との寸法の関係を示す下記式(5)を導き出した。そして、上記式(1)~(4)を用いた変数計算等により導き出した、耐摩耗被覆部材10を設置する際に安全性を確保することができる座金4の外径cの適切な数値範囲(24~37mm)を利用し、座金4の外径cの数値範囲に対応する受け枠2の受け枠孔2dの半径aの数値範囲を下記式(5)により計算し、その数値範囲を参考に受け枠2の受け枠孔2dの半径a5mmずつ変化させて、上記式(1)~(4)を用いた変数計算を行い図14-1~図14-3を作成した。
(数5)
a=1.47c・・・・(5)
尚、受け枠2の外径Dは、受け枠2の受け枠孔2dの半径aに、受け枠2の底壁2bの張出し長さL(8.65mm)と、受け枠2の厚さT(4.5mm)を加えた数値を2倍することで求めた。また、固定プレート3の直径dは、受け枠2の受け枠孔2dの半径aに、受け枠2の底壁2bの張出し長さL(8.65mm)を加えて2倍した数値(受け枠2の内径)よりも2mm程度小さい設定とした。
また、受け枠孔2dの半径aが50mmの場合は、上記式(5)より本来であれば座金4の外径cは34mmのものを使用することとなるが、一般的には34mmはあまり使用されていないため、37mmの座金4を使用して上記式(1)~(4)を用いた変数計算を行った。
その他のアンカー固定金具1の大きさ等の数値については、上記実施形態に係るアンカー固定金具1の数値と同じとして上記変数計算を行った。
固定プレートの厚さtが4.5mmのときは、図14-1に示すように、固定プレート3の材質がSS400材及びSS490材の両方において、受け枠孔2dの半径aがいずれの数値(30mm~60mm)であっても、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P7を上回ることがない。
これに対し、受け枠孔2dの半径aが35mm以下であるとともに固定プレート3の材質がSS400材のとき、及び受け枠孔2dの半径aが45mm以下であるとともに固定プレート3の材質がSS490材のときはアンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P5を上回る結果となるため、固定プレート3が変形・破損することなく、耐摩耗部材10が流失する可能性が無いため安全性を確保できる。
一方、固定プレートの厚さtが6.0mmのときは、図14-2に示すように、固定プレート3の材質がSS400材及びSS490材の両方において、受け枠孔2dの半径aが50mm以下から、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P5を上回る結果となるため、上記と同様に安全性を確保できる。
また、受け枠孔2dの半径aが45mm以下であるとともに固定プレート3の材質をSS490材とすることで、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P7を上回る結果となるため、上記と同様により安全性を確保できる。
また、固定プレート3の厚さtが9.0mmのときは、図14-3に示すように、固定プレート3受け枠孔2dの半径aが50mm以下であるとともに固定プレート3の材質がSS400材のとき、及び固定プレート3受け枠孔2dの半径aが55mm以下であるとともに固定プレート3の材質がSS490材のときはアンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P5
上回る結果となるため、上記と同様に安全性を確保できる。
また、固定プレート3受け枠孔2dの半径aが45mm以下であるとともに固定プレート3の材質がSS400材のとき、及び固定プレート3受け枠孔2dの半径aが50mm以下であるとともに固定プレート3の材質がSS490材のときは、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P7を上回る結果となるため、上記と同様により安全性を確保できる。
上記式(1)~(5)を用いた変数計算により、上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10に配置するアンカー固定金具1において、受け枠2及び固定プレート3がSS400材またはSS490材で形成され、受け枠孔2dの半径aを30~50mm、好ましくは35mm~50mm、固定プレート3の厚さtを6~9mm、座金4の外径cを24~37mmの数値範囲とすることで、頭主工のエプロン部のような基礎部を改修する際に一般的に適用される設計流速v=5m/sにおける設計流水圧P(≒34.738kN)をアンカー固定金具1(固定プレート3)の配置個数(6箇所)で割った数値P5(≒5.790kN)を、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が上回る結果となるため、固定プレート3が変形・破損することなく、耐摩耗部材10が流失する可能性が無いため安全性を確保することができる。
尚、受け枠孔2dの半径aを小さく(35mm未満)とすると、それに伴い固定プレート3の直径dも小さくなるため、固定プレート3におけるグラウト注入孔6(内径A2:30mm)の形成が難しくなり、ひいてはアンカーボルト固定孔5(内径A1:座金4の外径cに応じた上記大きさ)の形成も難しくなる。そのため、好ましい受け枠孔2dの半径aの下限を35mmとした。
また、固定プレート3におけるアンカーボルト固定孔5とグラウト注入孔6の位置関係は、受け枠孔2dの半径aが変化しても、上記実施形態の場合と同様に固定プレート3の直径方向において固定プレート3の中心を挟んでアンカーボルト固定孔5とグラウト注入孔6は反対側の位置に形成されているものとした。また、固定プレート3の直径dが変化する場合、固定プレート3の中心とアンカーボルト固定孔5及びグラウト注入孔6の中心の距離は、固定プレート3の耐力が損なわれないような距離にするものとし、例えば、上記実施形態における固定プレート3の直径d(113mm)を基準として、それよりも固定プレート3の直径dが大きくなる場合には、それに比例して固定プレート3の中心とアンカーボルト固定孔5及びグラウト注入孔6の中心の距離を上記実施形態の距離(20mm及び28mm)よりも長くし、それ(113mm)よりも固定プレート3の直径dが小さくなる場合には、それに比例して固定プレート3の中心とアンカーボルト固定孔5及びグラウト注入孔6の中心の距離を上記実施形態の距離よりも短くするものとしてもよい。
アンカー固定金具1において、固定プレート3の厚さtが4.5mmの場合であって、アンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3が、数値P5を下回る場合には、固定プレート3の厚さtやその材質を変更することで、Pt 3 について数値P5を容易に上回らせることができ、安全性を確保することができる。
また、設計流速vを7m/sとするなど速く設定した場合であっても、耐摩耗被覆部材10の本体部11の上面の面積Aの1m2毎のアンカー固定金具1の配置個数を増やせば、アンカーボルト固定孔5の周囲の耐力Pt3 について、設計流速vにおける設計流水圧Pをアンカー固定金具1(固定プレート3)の配置個数で割った数値を容易に上回らせることができ、安全性を確保することができる。
しかし、アンカー固定金具1の配置作業の手間及びコスト等を考慮すると、本体部11の面積Aの1m2毎の配置個数を少なくとも3箇所以上6箇所以下とすることが現実的であるため、本体部11におけるアンカー固定金具1の配置個数を6箇所として上記変数計算を行った。
尚、本体部11の面積Aの1m2毎の配置個数を2箇所(本体部11全体で4箇所)とすることも上記変数計算上は可能であるが、その場合は設計流速v=5m/sにおける数値P5は約8.685kNとなり、これを上回るアンカーボルト固定孔5の周りの耐力Pt3を有する上記受け枠孔2dの半径aや座金4の外径c等の数値範囲が非常に狭いものとなってしまうため、本体部11の面積Aの1m2毎の配置個数を3箇所以上とすることが望ましい。
ところで、上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10に揚圧力が生じた場合、耐摩耗被覆部材10の本体部11から受け枠2が抜け出す方向に力が働く。一方、受け枠2は耐摩耗被覆部材10の製造時に本体部11からの抜け出し防止のため、上記のように本体部11の内部の主筋12に溶接されているため、受け枠2が単独で本体部11から抜け出す事は考えにくい。
そのため、本体部11の受け枠2の周囲のコンクリートがコーン状破壊すると考え、そのコーン耐力Pt 2 (コンクリートのコーン状破壊が生じるまでの耐力)が、数値P5を上回っていることが必要となる。そして、コンクリートのコーン耐力Pt2は下記式(6)により求められる。
(数6)
Pt2=φ1・Ac・√Fc・・・・(6)
ここで、φ1は低減係数(上記実施形態においては長期荷重でφ1=0.4)、Acはコンクリートコーンの有効水平投影面積(mm2)、Fcは耐摩耗被覆部材10の設計基準強度(90N/mm2)を表す。また、Acは下記式(7)により求められる。
(数7)
Ac=π・H・(H+D)・・・・(7)
ここで、Hは受け枠2の高さ(30mm)、Dは受け枠2の外径(114.3mm)を表す。そのため、受け枠2の側壁2c周りのコンクリートのコーン耐力Pt2は、下記式(8)より求められる。
(数8)
Pt2=φ1・π・H・(H+D)・√Fc・・・・(8)
ここで、上記式(1)~(5)を用いた変数計算により求められた受け枠孔2dの半径aが35~50mmの場合における受け枠2の外径Dの数値範囲を求め、上記式(8)を用いた変数計算を行った。その結果、上記の受け枠2の外径Dの数値範囲において、コンクリートのコーン耐力Pt2が、数値P5のみならず数値P7を上回る結果となった。そのため、受け枠孔2dの半径aが35~50mmの場合においては、耐摩耗被覆部材10の本体部11から受け枠2が抜け出すことなく、耐摩耗部材10が流失する可能性が無いため安全性を確保できる。
また、上記実施形態に係る耐摩耗被覆部材10に揚圧力が生じた場合、固定プレート3を介して受け枠2の底壁2bの箇所(張出し箇所)を下方に引っ張る方向に力が働く。そのため、受け枠2の底壁2bの耐力Pt4が、数値P5を上回っていることが必要となる。そして、受け枠2の底壁2bの耐力Pt4は下記式(9)により求められる。
(数9)
Pt4=M2/L・・・・(9)
ここで、M2は受け枠2の底壁2bの抵抗モーメント(N・mm)、Lは受け枠2の底壁2bの張出し長さ(8.65mm)である。また、受け枠2の底壁2bの抵抗モーメントM2は下記式(10)により求められる。
(数10)
2=σ2・Z2=σ2・(b22 /6)・・・・(10)
ここで、σ2は受け枠2の材料(SS400材及びSS490材)の引張応力度(N/mm2)、Z2は受け枠2の断面係数、b2は受け枠2の外周長(mm)、Tは受け枠2の厚さ(4.5mm)であるため、受け枠2の底壁2bの耐力Pt4は下記式(11)により求められる。
(数11)
Pt4=σ2・(b22/6)/L・・・・(11)
ここで、上記式(1)~(5)を用いた変数計算により求められた受け枠孔2dの半径aが35~50mmの場合における受け枠2の外周長b2の数値範囲を求め、上記式(11)の変数計算を行った。その結果、上記の受け枠2の外周長b2の数値範囲において、受け枠2の底壁2bの耐力Pt4が、数値P5のみならず数値P7を上回る結果となった。そのため、受け枠孔2dの半径aが35~50mmの場合においては、耐摩耗被覆部材10の本体部11に固定された受け枠2から固定プレート3が抜け出すことなく、耐摩耗被覆部材10が流失する可能性が無いため安全性を確保できる。
また、受け枠2の厚さTは4.5~6mmの数値範囲内で、受け枠2の底壁2bの張出し長さLは6~12mmの数値範囲内で変更をしたとしても、数値P5のみならず数値P7を上回る結果となり、上記と同様に安全性を確保できる。
また、本実施形態におけるアンカーボルト8についての降伏による許容引張荷重、アンカーボルト8が埋め込まれたコンクリートの破壊による許容引張荷重、アンカーボルト8における接着剤15の付着破壊による許容引張荷重についても、それぞれ数値P5のみならず数値P7を上回ることとなるため、耐摩耗被覆部材10が流失する可能性が無いため安全性を確保できる。
また、本実施形態においては、上記コンクリートのコーン耐力Pt2を上回ることとなる許容引張荷重を有するアンカーボルト8を使用しているため、耐摩耗被覆部材10の本体部11のコンクリートが破壊されるまで耐摩耗被覆部材10が流失する可能性が無いため安全性を確保できる。
また、上記式(1)~(5)を用いた変数計算より求められた受け枠孔2dの半径a等の数値範囲においては、耐摩耗被覆部材10に大きな揚圧力が生じた場合であっても固定プレート3が変形するに先立って、受け枠2や耐摩耗被覆部材10の本体部11が変形・破損しないことが実験的に証明されている。
また、摩耗被覆部材10に、設計流速v=5m/sにおける設計流水圧P(≒34.738kN)を超える揚圧力を作用させた場合において、受け枠2内に収容されている固定プレート3に生ずる発生応力度をFEM解析により別途検証したところ、固定プレート3に形成されているグラウト注入孔6には大きな変形が生じない結果となった。
1 アンカー固定金具 16 六角ナット
2 受け枠 18 段差調整ボルト取付孔
2b 底壁 19 インサート
2c 側壁 20 弾性パッキン
2d 受け枠孔 21 プレート
3 固定プレート 22 段差調整ボルト
4 座金 23 段差調整手段
5 アンカーボルト固定孔 24 シール
6 グラウト注入孔 100 下地コンクリート
8 アンカーボルト 101 穿孔
10 耐摩耗被覆部材 R 縦鉄筋
11 本体部 K 横鉄筋
12 主筋 F 高強度無収縮モルタル
13 付着防止層 J 充填剤
14 アンカーボルト取付孔
15 接着剤

Claims (6)

  1. 本体部に形成されたアンカーボルト取付孔内にアンカー固定金具が設置されたプレキャストコンクリート部材であって、前記本体部の面積の1m 2 毎に前記アンカー固定金具が少なくとも2個以上配置されているとともに、前記本体部の前後及び左右に前記アンカー固定金具が均等な個数配置され、前記アンカー固定金具は、受け枠と、該受け枠内に収容可能な固定プレートと、該固定プレート上に設置する座金とを有し、前記受け枠は円環状の底壁と、該底壁の周縁から起立する略円筒状の側壁を有し、前記固定プレートは、略円形状の板状部材であって前記受け枠内において自在に回動可能であり、下地コンクリートに固定したアンカーボルトの頭部を挿通させる略円形状のアンカーボルト固定孔とグラウト材を注入するためのグラウト注入孔を有し、前記固定プレートの中心を挟んで前記アンカーボルト固定孔が形成された位置と反対側の位置に前記グラウト注入孔が形成され、前記固定プレート上の前記アンカーボルト固定孔が形成された位置に前記座金が設置され、設計流水圧Pと前記固定プレートの前記アンカーボルト固定孔周りの耐力Pt 3 が下記式(1)を満たし、前記設計流水圧Pが下記式(2)から、前記固定プレートの前記アンカーボルト固定孔周りの前記耐力Pt 3 が下記式(3)からそれぞれ求められることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
    (数1)
    P/B<Pt 3 ・・・・(1)
    (数2)
    P=K・v 2 ・A・・・・(2)
    (数3)
    Pt 3 =(16・M 1 ・c)/(a 2 ・(1+ν))・・・・(3)
    (但し、式(1)中、Bは前記本体部における前記アンカー固定金具の配置個数を表し、式(2)中、Kは形状係数、vは設計流速、Aは前記本体部の面積を表し、式(3)中、M 1 は前記固定プレートの抵抗モーメント、cは前記座金の外径、aは前記受け枠孔の半径、νは前記固定プレートの材料のポアソン比を表す。)
  2. 前記本体部の面積の1m2毎に前記アンカー固定金具が少なくとも3個以上配置されている場合であって、前記受け枠孔の半径aが35~50mm、前記固定プレートの厚さtが6~9mm、前記座金の外径cが24~37mm、前記固定プレートがSS400材またはSS490材で形成され、前記受け枠及び前記座金が金属製であることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材。
  3. 前記プレキャストコンクリート部材の前記本体部の前後方向及び左右方向において、前記アンカー固定金具が等間隔で直線状または千鳥状に複数配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレキャストコンクリート部材。
  4. 前記プレキャストコンクリート部材の前記本体部の四隅付近に段差調整手段を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載のプレキャストコンクリート部材。
  5. 請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載のプレキャストコンクリート部材に関する固定方法であって、前記受け枠内に収容された前記固定プレートを回動させて下地コンクリートに固定したアンカーボルトの頭部を前記アンカーボルト固定孔及び前記座金に挿通し突出せしめるとともに、前記アンカーボルトにナットを螺合して締結し、前記プレキャストコンクリート部材の前記本体部と下地コンクリートとの間隙に前記固定プレートの前記グラウト注入孔からグラウト材を注入し、該グラウト材を注入した前記グラウト注入孔を有する前記固定プレートの周囲に配置された前記固定プレートの前記グラウト注入孔から溢れ出るまで前記グラウト材を注入することを特徴とするプレキャストコンクリート部材の固定方法。
  6. 下地コンクリートに固定したアンカーボルトの上端が、前記プレキャストコンクリート部材の前記本体部に埋設された主筋より上方に位置するように前記プレキャストコンクリート部材を固定することを特徴とする請求項5に記載のプレキャストコンクリート部材の固定方法。
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