JP7428459B2 - ユーグレナのゲノム改変方法及びユーグレナの育種方法 - Google Patents

ユーグレナのゲノム改変方法及びユーグレナの育種方法 Download PDF

Info

Publication number
JP7428459B2
JP7428459B2 JP2019127118A JP2019127118A JP7428459B2 JP 7428459 B2 JP7428459 B2 JP 7428459B2 JP 2019127118 A JP2019127118 A JP 2019127118A JP 2019127118 A JP2019127118 A JP 2019127118A JP 7428459 B2 JP7428459 B2 JP 7428459B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
euglena
site
dna
genome
gracilis
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2019127118A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2021010344A (ja
Inventor
俊尚 野村
小槙 井上
由紀子 上原
恵一 持田
康嗣 山田
修 岩田
健吾 鈴木
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
RIKEN Institute of Physical and Chemical Research
Euglena Co Ltd
Original Assignee
RIKEN Institute of Physical and Chemical Research
Euglena Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by RIKEN Institute of Physical and Chemical Research, Euglena Co Ltd filed Critical RIKEN Institute of Physical and Chemical Research
Priority to JP2019127118A priority Critical patent/JP7428459B2/ja
Publication of JP2021010344A publication Critical patent/JP2021010344A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7428459B2 publication Critical patent/JP7428459B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Description

特許法第30条第2項適用 令和1年5月26日Palnt Biotechnology Journalにおける論文発表(https://onlinelibrary.willey.com/doi/10.1111/pbi.13174)
特許法第30条第2項適用 令和1年6月17日ウェブサイトにおける公表(https://ssl4.eir-parts.net/doc/2931/tdnet/1721808/00.pdf
特許法第30条第2項適用 令和1年6月17日ウェブサイトにおける公表(http://www.riken.jp/pr/press/2019/20190617_1/)
本発明は、ユーグレナのゲノム改変方法及びユーグレナの育種方に関する。
CRISPR(Clustered regularly interspaced short palindromic repeat)/Cas9(CRISPR-associated nuclease 9)システムベースのゲノム編集は、経済的に重要な農作物を含む広範囲の種に適用されてきた(非特許文献1)。リボ核タンパク質(RNPs)の直接送達によるゲノム編集は、高効率、低所要時間、オフターゲット効果の減少、および低細胞毒性など、従来の導入遺伝子ベースの方法と比較して様々な利点を提供する(非特許文献2及び3)。
さらに、導入遺伝子を含まないゲノム編集生物は、遺伝子組み換え生物に関する現在の規制を回避する可能性があり、農作物や微細藻類の分子育種などの食品および医療用途に適している。しかしながら、微細藻類におけるスクリーニングレスおよびDNAフリーのRNPベースのゲノム編集法は、突然変異効率が低いため(~1%)、導入遺伝子フリーのゲノム編集技術には、実用化のためには、更なる改善が必要である(非特許文献2及び3)。
ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)は、単細胞の光合成鞭毛虫であり、工業的に開発された微細藻類である。E. gracilisは栄養分が豊富で、結晶化されたβ-1,3-グルカンであるパラミロンを蓄積する(非特許文献4)。パラミロンは、様々な生理活性機能を持っている。したがって、大量培養されたE. gracilisは、機能性食品、飼料、および化粧品の商業的供給源である(非特許文献5)。さらに、嫌気性条件下では、パラミロンは分解され、主にミリスチン酸(C14:0)とミリスチルアルコール(C14:0)からなるワックスエステルに変換される。
Doudna JA, Charpentier E (2014) Genome editing. The new frontier of genome engineering with CRISPR-Cas9. Science (New York, N.Y.) 346: 1258096. Jeon S, Lim JM, Lee HG, Shin SE, Kang NK, Park YI, Oh HM,Jeong WJ, Jeong BR, Chang YK (2017) Current status and perspectives of genomeediting technology for microalgae. Biotechnology for Biofuels 10: 267. Spicer A, Molnar A (2018) Gene editing of microalgae:Scientific progress and regulatory challenges in europe. Biology 7. Inui H, Ishikawa T, Tamoi M (2017) wax ester fermentation andits application for biofuel production. Advances in Experimental Medicine andBiology 979: 269-283. Suzuki K (2017) Large-scale cultivation of euglena. In:Euglena: Biochemistry, Cell and Molecular Biology (SchwartzbachSD, Shigeoka S,eds), pp 285-293. Cham: Springer International Publishing.
E. gracilisのワックスエステルは、低い凝固点を有するバイオ燃料に容易に改質されるため、バイオジェット燃料の供給源として適している。再生可能な資源としてのE. gracilisの上記のような有望な特徴にもかかわらず、E.gracilisでは効果的かつ持続的な遺伝子機能改変法が確立されていなかった。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、効果的かつ持続的なユーグレナのゲノム改変方法及びユーグレナの育種方を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、リボ核タンパク質複合体であるCas9 RNPsを用いたユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)における高効率な導入遺伝子フリーの標的突然変異誘発及び一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)を介したノックインを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナに部位特異的DNAヌクレアーゼを導入する導入工程を行い、前記導入工程が、前記部位特異的DNAヌクレアーゼを前記ユーグレナの細胞内にエレクトロポレーション法によって直接導入することによって行われ、突然変異誘発率が80%以上であり、前記部位特異的DNAヌクレアーゼがガイドRNA及び核酸配列認識モジュールを含むリボ核タンパク質複合体であり、前記核酸配列認識モジュールが、CRISPR-Casシステムであることを特徴とするユーグレナのゲノム改変方法により解決される
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナ細胞に部位特異的DNAヌクレアーゼと一本鎖DNAとを導入する導入工程と、前記ユーグレナ細胞のゲノムDNAにおける前記部位特異的DNAヌクレアーゼによる切断部位の上流領域及び下流領域を、相同組換えによって前記一本鎖DNAで置換する置換工程と、を行い、前記導入工程が、前記部位特異的DNAヌクレアーゼを前記ユーグレナの細胞内にエレクトロポレーション法によって直接導入することによって行われ、前記部位特異的DNAヌクレアーゼがガイドRNA及び核酸配列認識モジュールを含むリボ核タンパク質複合体であり、前記核酸配列認識モジュールが、CRISPR-Casシステムであることを特徴とするユーグレナのゲノム改変方法により解決される。
このとき、前記一本鎖DNAが、前記ユーグレナ細胞のゲノムDNAに挿入すべき配列をさらに含むとよい。
また、前記課題は、本発明によれば、上記のユーグレナのゲノム改変方法により前記ユーグレナの細胞内のゲノムDNAを改変して変異を誘導するゲノム改変工程と、ゲノムが改変された前記ユーグレナの細胞を選抜する選抜工程と、を行うことを特徴とするユーグレナの育種方法により解決される。
本発明によれば、効果的かつ持続的なユーグレナのゲノム改変方法、ユーグレナの育種方法及び化合物の製造方法を提供することができる。
EgGSL2遺伝子の5’末端の部分ゲノム配列上の2つの標的部位およびプライマー配列の概略図。 E. gracilisにおけるCas9 RNPsを用いた標的突然変異誘発法のエレクトロポレーションのための実験ワークフローおよびセッティングの概略図。 エレクトロポレーションの72時間後に、RNPで処理していないE. gracilis細胞(-RNP)およびEgGSL2遺伝子を標的とするRNPで処理したものの代表的な画像。スケールバー=25μm、矢印は大きなパラミロン顆粒を有するE.gracilis細胞を示す。 -RNPおよびEgGSL2遺伝子を標的とするRNPで処理した細胞における、エレクトロポレーションの72時間後の表現型が変化した細胞の割合。グラフは7回の独立した実験の結果を表す(Exp.1~7)。N.D.は検出されなかったことを示す。独立した実験ごとに500を超える細胞を数えた。 T7EIアッセイによるエレクトロポレーションの72時間後のEgGSL2標的部位での突然変異の検出。MはDNAラダー、矢印は分解されたPCR断片のバンドを示す。 エレクトロポレーションの72時間後にCas9 RNP処理サンプルについてEgGSL2標的1(Target 1)(上)または標的2(Target 2)(下)で検出された代表的な突然変異パターンと野生型EgGSL2配列の配列。Ins/Delは挿入/欠失塩基の数を示す。 ディープアンプリコンシークエンシングにより推定したエレクトロポレーションの72時間後のCas9 RNP処理サンプルおよび未処理(-RNP)サンプルについてのEgGSL2標的1(Target 1)(左)、標的2(Target 2)(右)の突然変異(indel)頻度。グラフは、Cas-Analyzerソフトウェア(ヌクレアーゼタイプの分析パラメータ:シングルヌクレアーゼ、選択ヌクレアーゼ:SpCas9、比較範囲:70、最小頻度:0、WTマーカー、範囲:5)を使用して評価した3つの独立した実験(Exp.1~3)の結果を表す。WT or Sub.は、野生型または置換を示す。 EgGSL2遺伝子における、標的1(Target 1)および標的2(Target 2)の同時導入の72時間後の切断されたPCR断片の検出。MはDNAラダー、矢印は切断されたPCR産物のバンドを示す。 切断されたPCR断片および野生型EgGSL2における代表的な突然変異パターンの配列。Ins/Delは挿入/削除された塩基数を示す。 設計されたssODNおよびEgGSL2標的部位2の概略図。 制限酵素断片長多型(RFLP:RestrictionFragment Length Polymorphism)によるEgGSL2標的2(Target 2) Cas9 RNPsとssODNsの同時送達の72時間後のEgGSL2標的部位におけるノックイン事象の検出。Mは、DNAラダー、矢印は、EcoRI、EcoRV、またはBamHIで分解したPCR断片のバンドを示す。 EgGSL2標的2(Target 2)Cas9 RNPおよびssODN処理試料においてエレクトロポレーションの72時間後に検出されたノックインパターンおよび野生型EgGSL2配列のアラインメント。 T7EIアッセイによるエレクトロポレーションの24、48、および72時間後のCas9 RNP媒介標的化突然変異誘発の検出実験のワークフロー。 T7EIアッセイによるエレクトロポレーションの24、48、および72時間後のEgGSL2標的部位1での突然変異の検出。M、DNAラダー。矢印は分解されたPCR断片のバンドを示す。 標的突然変異誘発効率に対するCas9 RNPの量の影響。T7EIアッセイによる、様々な量のCas9 RNPを用いた、エレクトロポレーションの72時間後のEgGSL2標的部位1での突然変異の検出。MはDNAラダー、矢印は分解されたPCR断片のバンドを示す。 RNP未処理(-RNP)およびEgGSL2標的1(Target 1) RNP処理条件におけるエレクトロポレーションの72時間後の表現型が変化した細胞の割合。グラフは、3つの独立した実験の結果をまとめたものである(Exp.1~3)。各試行につき500を超える細胞を数えた。 標的突然変異誘発に対する光条件の影響を検討する実験のワークフロー。 EgGSL2標的1(Target 1)部位での突然変異の、暗条件または明条件下でのエレクトロポレーションの72時間後のT7EIアッセイによる検出。MはDNAラダー、矢印は消化されたPCR断片のバンドを示す。 2つのCas9 RNPを用いた長い欠失の導入。EgGSL2遺伝子の5'末端の部分配列上の2つの標的部位の概略図。 E. gracilisにおけるCas9 RNPを用いたEgcrtBの標的突然変異誘発を検討した実験のワークフロー。 KH培地中、暗条件下で、次いでCM培地中で3日間、明条件下でエレクトロポレーションの3日後の、RNP未処理(-RNPs)および各EgcrtB標的化Cas9 RNP処理E.gracilisの代表的な画像。スケールバー=25μm。矢印は白化(chlorosis)を伴うE. gracilis細胞を示す。 エレクトロポレーションの72時間後のCas9 RNP処理および非処理(-RNP)サンプルを標的とするEgcrtBの突然変異(Indel)頻度は、ディープアンプリコンシークエンシングによって推定された。グラフは3つの独立した実験の結果をまとめたものである(Exp.1~3)。WTまたはSub.は野生型または置換を示す。
以下、本発明の実施形態について、図1乃至図17Cを参照しながら説明する。
本実施形態は、ユーグレナのゲノム改変方法、ユーグレナの育種方法及び化合物の製造方法に関するものである。
<ユーグレナ>
実施形態において、「ユーグレナ」とは、分類学上、ユーグレナ属(Euglena)に分類される微生物、その変種、その変異種及びユーグレナ科(Euglenaceae)の近縁種を含む。
ここで、ユーグレナ属(Euglena)とは、真核生物のうち、エクスカバータ、ユーグレノゾア門、ユーグレナ藻綱、ユーグレナ目、ユーグレナ科に属する生物の一群である。
ユーグレナ属に含まれる種として、具体的には、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis、Euglena granulata、Euglena mutabilis、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridisなどが挙げられる。
ユーグレナとして、ユーグレナ・グラシリス(E.gracilis),特に、ユーグレナ・グラシリス(E.gracilis)Z株を用いることができるが、そのほか、ユーグレナ・グラシリス(E.gracilis)Z株の変異株SM-ZK株(葉緑体欠損株)や変種のE.gracilis var. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株、Astasialonga等のその他のユーグレナ類であってもよい。
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用しても良く、また、既に単離されている任意のユーグレナ属を使用してもよい。
ユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え、形質導入、形質転換等により得られたものも含有される。
<ゲノム編集技術>
ゲノム編集は、ゲノム上の標的遺伝子座のDNA二重鎖を、部位特異的DNAヌクレアーゼを用いて特異的に切断し、切断したDNAの修復の過程でヌクレオチドの欠失や挿入、置換を誘導したり、外来ポリヌクレオチドを挿入するなどして、ゲノムを標的部位特異的に改変する技術である。ゲノム編集技術としては、使用する部位特異的DNAヌクレアーゼに対応して、TALEN(transcription activator-like effector nuclease)、ZFN(zinc-finger nuclease)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short PalindromicRepeat)-Cas9(CRISPR associated protein 9)などが知られている。
<部位特異的DNAヌクレアーゼ>
本実施形態で用いられる部位特異的DNAヌクレアーゼは、特定のゲノムDNA部位を特異的に認識して切断するDNAヌクレアーゼである。部位特異的DNAヌクレアーゼとしては、従来ゲノム編集技術で用いられている部位特異的人工DNAヌクレアーゼであり、TALEN、CRISPR/Cas9システム、CRISPR-Cpf1、又はZFN技術で用いられる部位特異的人工DNAヌクレアーゼが例として挙げられる。
<核酸配列認識モジュール>
本実施形態で用いる核酸配列認識モジュールとしては、CRISPR-Casシステム、ジンクフィンガーモチーフ及びTALエフェクター等の他、制限酵素、転写因子、RNAポリメラーゼ等のDNAと特異的に結合し得るタンパク質のDNA結合ドメインを含み、DNA二重鎖切断能を有しないフラグメント等が例示されるが、これらに限定されるものではない。DNA二重鎖切断能を有しない核酸配列認識モジュールを用いた場合、核酸塩基変換酵素と組み合わせることによって、欠失挿入以外の変異、例えば、塩基置換を導入することが可能となる。
(CRISPR/Cas9システム)
CRISPR/Cas9システムは、ゲノムDNAのいずれかの鎖のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直前に位置する標的配列に対応した標的認識配列を含むガイドRNA(gRNA)とCas9ヌクレアーゼ又はその変異体とを含む複合体を、細胞内のゲノムDNA中の標的部位に結合させることにより、その標的部位への変異(挿入、欠失、又は塩基置換など)の導入を促進するゲノム編集技術をいう。
ガイドRNA(gRNA)は、CRISPR/Cas9システムにおいて、ゲノムDNA上の標的部位に結合し、Cas9ヌクレアーゼ又はその変異体を標的部位に誘導するために用いるRNAである。gRNAは、ゲノムDNA中の標的部位と結合する標的認識配列を5'末端側に含むRNA配列(crRNA)と足場機能を有するRNA配列(tracrRNA;trans-activating crRNA)とを有し、crRNAの3'側配列とtracrRNAの5'側配列は互いに相補的な配列を有しており塩基対を形成する。gRNAは、crRNAとtracrRNAが連結された単鎖gRNA(single guide RNA; sgRNA)であってもよいし、別個の一本鎖RNAであるcrRNAとtracrRNAの複合体であってもよい。gRNAが特異的に結合する標的部位は、ゲノムDNAのいずれかの鎖のPAM配列の直前に位置し、そのおよそ20塩基長(通常は17~24塩基長)の配列を標的配列として設計することができる。gRNAは、そのような標的配列に対応した標的認識配列(RNA配列)を含む。gRNAはゲノムDNA中の標的配列の相補鎖配列とRNA-DNA塩基対形成により結合する。
プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列は、用いるCas9ヌクレアーゼ又はその変異体の由来する生物種やタイプによって異なり、例えば、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes;S. pyogenes)のCas9では5'-NGG-3'(N= A、T、G又はC)である。他に、例えば、Streptococcus thermophilus Cas9は5'-NGGNG-3'又は5'-NNAGAA-3'をPAM配列として認識する。gRNAの設計方法及び作製方法は周知である。例えば市販のgRNAベクターに標的配列を組み込み、発現させることによってgRNAを作製することができる。標的配列は、例えば、公知のgRNA設計用ソフトウェアを用いて簡便に設計することもできる。
(ジンクフィンガーモチーフ)
ジンクフィンガーモチーフは、Cys2His2型の異なるジンクフィンガーユニット(1フィンガーが約3塩基を認識する)を3~6個連結させたものであり、9~18塩基の標的ヌクレオチド配列を認識することができる。ジンクフィンガーモチーフは、Modular assembly法、OPEN法、CoDA法、大腸菌one-hybrid法など、従来公知の手法により作製することができる。
(TALエフェクター)
TALエフェクター(tal Effector、TALE)は、約34アミノ酸を単位としたモジュールの繰り返し構造を有しており、1つのモジュールの12および13番目のアミノ酸残基(RVDと呼ばれる)によって、結合安定性と塩基特異性が決定される。各モジュールは独立性が高いので、モジュールを繋ぎ合わせるだけで、標的ヌクレオチド配列に特異的なTALエフェクターを作製することが可能である。TALエフェクターは、オープンリソースを利用した作製方法(REAL法、FLASH法、Golden Gate法など)が確立されており、比較的簡便に標的ヌクレオチド配列に対するTALエフェクターを設計することができる。
<リボ核タンパク質複合体>
本実施形態では、部位特異的DNAヌクレアーゼがガイドRNA(gRNA)及び核酸配列認識モジュールを含むリボ核タンパク質複合体であることが好ましい。リボ核タンパク質複合体は、RNAを含む核タンパク質、即ちリボ核酸とタンパク質の複合体である。
リボ核タンパク質複合体として、Cas9 RNP複合体、具体的には、Cas9(CRISPR associated protein 9)/gRNA(guild RNA)Ribonucleoproteinsを用いることが好ましい。ゲノム上の標的箇所に基づいて設計したgRNAとCas9タンパク質から構成される安定的なリボ核タンパク質複合体で、gRNAに対応するゲノム上の標的DNAサイトを特異的に切断する。
<ユーグレナのゲノム改変方法>
本実施形態に係るユーグレナのゲノム改変方法は、ユーグレナに部位特異的DNAヌクレアーゼを導入する導入工程を行うことを特徴とする。このとき、核酸配列認識モジュールが、CRISPR-Casシステム、ジンクフィンガーモチーフ及びTALエフェクターからなる群より選択されると好ましい。また、部位特異的DNAヌクレアーゼがガイドRNA及び核酸配列認識モジュールを含むリボ核タンパク質複合体であると好適である。
ユーグレナに部位特異的DNAヌクレアーゼを導入する場合、ユーグレナ細胞に直接導入してもよいし、該ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドをユーグレナ細胞に導入し、ユーグレナ細胞内で該ヌクレアーゼを発現させてもよい。
つまり、導入工程は、部位特異的DNAヌクレアーゼをユーグレナの細胞内に直接的又は間接的に導入することによって行うことが可能である。
ユーグレナにおいては、導入工程をエレクトロポレーション法によって行うことが好適である。エレクトロポレーション法は、電気穿孔法とも呼ばれ、電気パルスにより細胞膜に微小な穴を一時的に開け、物質(以下の実施例では、Cas9
RNP複合体及び/又はssODN)を直接的に導入する手法である。
以下の実施例に示すように、エレクトロポレーション法によってリボ核タンパク質複合体(Cas9 RNP複合体)をユーグレナの細胞内に直接送達することで非常に高い効率でのゲノムDNAに欠損・挿入変異導入を実現できること本発明者らは見出した。
また、本実施形態のユーグレナのゲノム改変方法は、ユーグレナ細胞に部位特異的DNAヌクレアーゼと一本鎖DNAとを導入する導入工程と、ユーグレナ細胞のゲノムDNAにおける部位特異的DNAヌクレアーゼによる切断部位の上流領域及び下流領域を、相同組換えによって一本鎖DNAで置換する置換工程と、を行うことを特徴とする。
ここで、一本鎖DNAは、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)とも呼ばれる。以下の実施例に示すように、ssODNをドナーDNAとして、RNP複合体等と一緒にユーグレナの細胞内に導入することで、相同性修復機構に基づくゲノムDNAへのノックインや塩基置換が可能となることを本発明者らは実証した。一本鎖DNAは、ユーグレナ細胞のゲノムDNAに挿入すべき配列を含むと好適である。
<ユーグレナの育種方法>
本実施形態に係るユーグレナの育種方法は、上記のユーグレナのゲノム改変方法によりユーグレナの細胞内のゲノムDNAを改変して変異を誘導するゲノム改変工程と、ゲノムが改変されたユーグレナの細胞を選抜する選抜工程と、を行うことを特徴とする。
改変するゲノムDNAは、特に限定されるものではなく、ユーグレナにおける遺伝子機能の解析などの基礎研究の観点や、有用物質生産能を向上させるなどの目的に応じて適宜選択をすればよい。
<化合物の製造方法>
本実施形態に係るユーグレナのゲノム改変方法やユーグレナの育種方法によれば、所望の性質を有するゲノム改変ユーグレナを提供することが可能となるため、例えば、有用物質生産能を向上させたユーグレナを提供することが可能である。
つまり、本実施形態に係る化合物(有用物質)の製造方法は、ユーグレナのゲノム改変方法により細胞内のゲノムDNAが改変されたユーグレナの細胞を用いて、パラミロン、ワックスエステル、カロトノイド、アミノ酸、ビタミン類、ミネラル、脂肪酸を含む群より選択される少なくとも1種以上の化合物を製造することで、有用物質を効率的に生産することが可能である。
パラミロンは、グルコースがβ-1,3結合したユーグレナにおける貯蔵多糖類であり、多くの機能性を有していることから、本実施形態に係るユーグレナのゲノム改変方法で多くのパラミロンを細胞内に貯蔵するユーグレナを育種してパラミロンの製造に用いることが好ましい。また、ユーグレナの細胞内でパラミロンが蓄積すると、粒状の構造体として観察されるるが、酸素が無い条件下では、ユーグレナは、エネルギー獲得のためにパラミロンを元にしてワックスエステル(油脂)を生産するため、本実施形態に係るユーグレナのゲノム改変方法で多くのパラミロンを細胞内に貯蔵するユーグレナを育種してワックスエステルの製造に用いることが好ましい。
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例では、まず、Euglena gracilisにおいて、パラミロン合成に関与する酵素EgGSL2をコードする遺伝子を標的としたcrRNAを設計し、標的DNAの切断活性を持ったCas9 RNP複合体を準備した。次に、パラミロン粒の形態変化やT7E1 assay法を指標にして、Cas9 RNP複合体をエレクトロポレーション法によりミドリムシ細胞内に直接導入するための最適な諸条件を探索した。
試験における各工程は、以下の方法で行った。
(1.Cas9リボ核タンパク質の調製)
各Alt-R CRISPR-Cas9 crRNA(表1、配列番号1~13)をIntegrated DNA Technologies(IDT)によって合成し、100μM溶液をNuclease-Free Duplex Buffer(IDT)を用いて調製した。各crRNA溶液および同量の100μM Alt-R CRISPR-Cas9 tracrRNA溶液(IDT)を混合し、95℃で5分間加熱した。RNP複合体の調製のために、冷却したgRNA複合体と20~25℃で15分間、3:2(v/v)の比率のAlt-R S.p. Cas9 Nuclease V3(IDT、62μM溶液)。
(2.エレクトロポレーションによるCas9 RNPの直接送達)
エレクトロポレーション溶液は、クエン酸ナトリウムを含まないCM培地(pH5.5)と濾過滅菌した0.3Mスクロース溶液とを3:2(v/v)の比で混合することによって調製した。KH培地で3日間培養したE. gracilisと1mLの培養液を2,000rpmで30秒間遠心した。E. gracilisペレットをエレクトロポレーション溶液で1回洗浄し、1×106細胞/ mLの濃度でエレクトロポレーション溶液で再懸濁した。エレクトロポレーションのために、2μLのRNP複合体溶液を48μLのE. gracilis懸濁液に添加した。RNPとE. gracilis懸濁液の混合溶液を2mmギャップキュベットEC-002(NEPPAGENE)に加え、RNP複合体の導入にはNEPA21 Super
Electroporator(NEPPAGENE)を用いた。エレクトロポレーション条件は表2に記載されている通りである。エレクトロポレーションの直後に、1mLのKH培地を添加し、続いて12ウェルプレートに移し、そして暗所条件下28℃でロータリーシェーカー(120rpm)上で培養した。
(3.T7エンドヌクレアーゼIアッセイ)
T7エンドヌクレアーゼIアッセイ(T7EI assay)は、DNAのミスマッチを認識して切断する酵素であるT7 Endonuclease I (T7EI)を用いて、ゲノム編集などによる欠失・挿入変異の有無を簡易的に検出する手法である。
各RNP導入E. gracilisの標的上の部位における突然変異誘発の検出のために、T7エンドヌクレアーゼI(T7EI)ミスマッチ切断アッセイを、Alt-Rゲノム編集検出キット(IDT)を用いて実施した。E. gracilis由来のDNA鋳型は、Kaneka Easy DNA Extraction Kitバージョン2(KANEKA、東京、日本)を用いて抽出した。EgGSL2 Check F-Rプライマーセット(配列番号4,5)を用いてEgGSL2標的部位を含むDNA断片をTks Gflex DNA Polymerase(TAKARA)で増幅した(表1)。T7EI処理は、増幅されたDNA断片を用いて、製品に付属の説明書に従って実施した。分解されたDNA断片をアガロースゲル電気泳動により調べた。
(4.サンガーシークエンシングによる標的変異の検出)
EgGSL2 Check F-Rプライマーセット(配列番号4,5)を用いてEgGSL2標的部位を含むDNA断片をTks Gflex DNA Polymerase(TAKARA)で増幅した(表1)。PCR産物をクローニングするために、CloneJET PCRクローニングキット(Thermo Fisher Scientific)を使用した。各プラスミドは、プラスミドDNA抽出ミニキット(FAVORGEN、Ping-Tung、台湾)を用いて抽出され、配列はSanger配列決定によって決定された。
(5.ディープアンプリコンシークエンス解析)
アンプリコンシークエンス解析は、ゲノム上の特定の箇所(実施例では、EgGSL2遺伝子内の標的サイト)を増幅し、それらの塩基配列情報を、次世代シークエンサを用いて網羅的に取得する解析手法である。
E. gracilis由来のDNAテンプレートを、ISOPLANT II(NIPPON GENE、東京、日本)を用いて抽出した。各標的部位を含むDNA断片を、各amp-seq F-Rプライマーセット(配列番号8~11)を用いてKAPA HiFi HS ReadyMix(KAPA Biosystems、Wilmington、MA、USA)で増幅した(表1)。NEXTflex DNA-Seqキット(Bioo Scientific、Austin、TX、USA)をライブラリー調製に使用し、シングルエンドシークエンシングをイオンプロトンシステム(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)を使用して実施した。各標的開裂部位におけるIndelパーセンテージは、以下の分析パラメータ(Nucleaseタイプ:単一ヌクレアーゼ、Select Nuclease:SpCas9、比較範囲:70、最小頻度:0、WTマーカー範囲:5)を用いてCas-Analyzerソフトウェアを用いて分析した。
<試験1:Cas9 RNPに基づく導入遺伝子を含まない突然変異誘発>
E. gracilisにおけるCas9 RNPに基づく導入遺伝子を含まない突然変異誘発法を確立するために、推定上パラミロン生合成に関与しているEgGSL2(E. gracilis Glucan Synthase Like 2)遺伝子(GenBank登録番号:LC225615、配列番号14)の第2エクソン内に2つの標的配列を設計した(図1)。EgGSL2遺伝子は、ユーグレナのパラミロン合成に関与することが報告されている酵素遺伝子で、機能阻害により、従属培養条件でのパラミロン蓄積が低下する。EgGSL2遺伝子(配列番号14)は、配列番号15のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子を含むヌクレオチド配列である。
それぞれのcrRNAおよびtracrRNAは、Integrated DNA Technologies(IDT)のAlt-R CRISPR-Cas9システムによって合成され、同量の100μM溶液がアニーリングに使用された。Cas9 RNP複合体は、冷却したgRNA複合体とAlt-R S.p. Cas9 Nuclease V3(IDT、62μM溶液)を3:2(v/v)の割合で20~25℃で15分間インキュベートして合成した。エレクトロポレーション溶液は、クエン酸ナトリウムを含まないCM培地(pH5.5)と濾過滅菌した0.3Mスクロース溶液を3:2(v/v)の比で混合することによって調製した。
IAM(東京、日本)により提供されたE.gracilis Z株をロータリーシェーカー(120rpm)上でKH培地(pH 5.5)中、28℃、50μmolの連続光の下で3日間培養し、そして1mLの培養液を400×gで30秒間遠心した。E. gracilisのペレットをエレクトロポレーション溶液で1回洗浄し、1×106cells/mLの濃度でエレクトロポレーション溶液で再懸濁した。エレクトロポレーションのために、2μLのRNP複合体溶液を48μLのE. gracilis懸濁液に添加した。
2-mmギャップキュベットEC-002(NEPPA GENE)を備えたNEPA21スーパーエレクトロポレーターを用いたエレクトロポレーションにより、EgGSL2中の標的領域についてのCas9 RNPをE.gracilis細胞に導入した。エレクトロポレーションの直後に、1mLのKH培地を添加し、続いて12ウェルプレートに移し、暗所条件下、28℃でロータリーシェーカー(120 rpm)で培養した(図2)。
72時間培養した後、これら2つのEgGSL2標的化RNPを有するE.gracilis細胞が、より少数ではあるがより大きなパラミロン顆粒を示すことを確認した(図3)。標的1(Target1)および標的2(Target2)についての変化した表現型の平均頻度は、それぞれ71.3%および80.6%であった(図4)。
Alt-Rゲノム編集検出キット(IDT)を用いたT7エンドヌクレアーゼI(T7EI)アッセイのために、Gflexポリメラーゼ(Takara Bio)を用いてEgGSL2遺伝子座を増幅し、Cas9 RNPの直接送達の72時間後に突然変異誘発を検出した(図5)。
また、両方の標的領域のサンガー配列決定を行い、そして種々の挿入および欠失(Indel)パターンを同定した(図6)。イオンプロトンシステム(Thermo Fisher Scientific)を用いてKAPA HiFi HS ReadyMix(KAPA Biosystems)で増幅されたEgGSL2標的領域のアンプリコンシークエンシングに基づき、エレクトロポレーションの72時間後においてCas-Analyzerソフトウェアによって評価することで、EgGSL2標的1(Target 1)で77.7~86.8%、標的2(Target 2)で88.8~90.1%のIndel突然変異率を検出した。(図7)。
さらに、EgGSL2への異なる部位を標的とする2つのCas9 RNP(標的1(Target 1)および標的2(Target 2))の同時導入により、標的間に約200bpの欠失が生じたことから(図8及び図9)、E. gracilisにおける標的領域の長い欠失変異体を生成する能力が示唆された。
<試験2:ssODN媒介ノックイン実験>
E. gracilisでCas9 RNPベースのゲノム編集をさらに進めるために、正確なssODN媒介ノックイン実験を行った。ホモロジーアームとしてEgGSL2の標的2(Target 2)切断部位の上流および下流の50ntを含むssODN(エレクトロポレーション溶液中、1μLの200μMストック溶液、最終濃度4μM)と共にEgGSL2標的2(Target 2) Cas9 RNPs及びEcoRI, EcoRV, and BamHIサイトを含有する42ntノックインDNA断片を使用した。(図10)。これらの制限酵素で消化することにより、ssODN処理したE. gracilisサンプルにおいて効果的なノックインを検出した(図11)。また、エレクトロポレーションの72時間後に全E. gracilis細胞を用いてノックイン標的領域のサンガー配列決定を行い、標的部位に我々の設計したssODNに由来する正確なノックイン配列を有する35個のランダムクローンPCR産物のうち24個を同定した(図12)。これらの結果は、ssODNを介したノックイン実験がE. gracilisに十分に適用可能であることを実証するものである。
<補足データ>
以下に概略を記すように、図13A乃至図17Cは、試験に関連する補足データである。
図13A及び図13Bは、T7EIアッセイによるエレクトロポレーションの24、48、および72時間後のCas9 RNP媒介標的化突然変異誘発の検出実験のワークフロー及び結果である。
図14A及び図14Bは、標的突然変異誘発効率に対するCas9 RNPの量の影響を検討した結果を示している。
図15Aは、標的突然変異誘発に対する光条件の影響を検討する実験のワークフロー及び結果であり、図15Bは、EgGSL2標的1(Target 1)部位での突然変異の、暗条件または明条件下でのエレクトロポレーションの72時間後のT7EIアッセイによる検出結果である。
図16は、2つのCas9 RNPを用いた長い欠失の導入試験に関して、EgGSL2遺伝子の5'末端の部分配列上の2つの標的部位の概略図である。
図17Aは、E. gracilisにおけるCas9 RNPを用いたEgcrtBの標的突然変異誘発を検討した実験のワークフローであり、図17Bは、その代表的な画像であり、図17Cは、突然変異(Indel)頻度を示すグラフである。
以下の表3は、EgGSL2及びEgcrtBの標的部位のIndelレートを示している。
<試験結果の考察>
試験1では、条件検討の結果、アンプリコンシークエンス解析による評価において、Cas9 RNP複合体を導入後72時間で、80%程度という非常に高い効率での欠損・挿入変異導入を、E. gracilisにおいて実現することに成功した。また、ゲノム上の離れた位置を標的とする2種類のCas9 RNPをE. gracilisの細胞内に同時に導入することで、長い欠損変異を誘発できることも確認された。
試験2では、Cas9 RNP複合体と一緒に、標的配列部位の相同配列を負加したssODN(一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド)を、ドナーDNAとしてE. gracilisの細胞内に導入することで、正確な小規模ノックインにも成功した。
本実施例の結果は、他の微細藻類で以前に報告されたゲノム編集の試みと比較して非常に高い効率で、E. gracilisにおける導入遺伝子を含まない標的化突然変異誘発を、初めて実証するものである。本発明者らは、EgGSL2ターゲティングについて80%以上の最大突然変異誘発率を見出したが(図7)、これは以前に報告されたCas9 RNPを用いたDNAフリー標的突然変異誘発率(~1%)またはssODNを含むCpf-1 RNPについての突然変異誘発率(~10%)より有意に高い。この結果は、RNPに基づく方法を用いたE. gracilisの高い編集可能性を示唆している(Jeon et al. 2017; Spicer and Molnar 2018)。ユーグレナゾア門に属するユーグレナのような細胞壁を欠く光合成単細胞真核生物と比較して、緑色植物亜界(Viridiplantae subkingdom)の微細藻類における低いゲノム編集効率は、細胞内へのRNP浸透を潜在的に阻害するそれらの独特の細胞壁または細胞表面構造に関連すると仮説を立てることができる(Jeon et al。2017)。
Euglenozoaに属する寄生原生動物であるTrypanosoma cruziにおいて、一般的に使用されているSpCas9(163 kDa)の代わりに小さなSaCas 9(124 kDa)で非常に効率的なゲノム編集を実証されている(Medeiros et al。2017)が、こののとは、RNPベースのゲノム編集の効率が、RNP分子の物理化学的性質と同様に細胞表面構造によって影響されることを示唆している。E.gracilisゲノムにおける高い突然変異誘発効率は、食品および飼料へのその産業上の利用を加速するであろう。染色体上の隣接部位から設計された2つのgRNAを用いて、比較的大きな欠失の誘導が示されたが(図9)、これは、長い非コードRNA遺伝子や非コードRNA遺伝子などの非タンパク質コード遺伝子コードの機能解析に有用である。本発明者らは、また、Cas9 RNPsとssODNsをDNAドナーとして使用した効率的なノックインを実証した(図10~図12)。今後、ノックインの長さおよび標的部位がノックイン効率に及ぼす影響を検討することが必要であるが、この技術は、E.gracilisにおける遺伝子機能の解明に向けて、より正確で精巧なゲノム編集、安定したノックイン形質転換体の創成につながるであろう。
CRISPRベースの技術は、ユーグレナにおける遺伝子発見および分子育種を著しく加速するであろう。E. gracilisでのRNPベースのゲノム編集アプローチを使用することで、CRISPRを介した塩基編集(base editing)や染色体の可視化など、さまざまなCRISPR由来の技術を実装することができる可能性がある。CRISPRベースの遺伝子ターゲティング(gene targeting)はまた、コムギおよび綿のような倍数体作物植物と同様に、倍数体であると考えられているE. gracilisの重複遺伝子に機能的変異を導入することを可能にする。
イオンビーム突然変異誘発によるE. gracilisにおける脂質生産性の改善(Yamada et al. 2016)、および細胞シグナル伝達経路のRNA干渉に基づく下方調節(Kimura and Ishikawa 2018)などの最近の例は、負の調節遺伝子のターゲティングが、E. gracilisの脂質生産性に関与する遺伝的要因を特定し、この形質を安定的に改善する有望なアプローチであることを示唆するものである。
E. gracilisのRNPベースのゲノム編集法は、他のユーグレナ属、Excavataスーパーグループの二次色素体含有グループの遺伝子の機能を解明するためのブレークスルーを提供し、産業的に重要な形質を改善し、バイオベースの材料生産によって持続可能性を促進する新たな道を切り開くものである。
<まとめ>
以上、Cas9 RNP複合体を直接導入する手法を用いて、E.gracilisでの最適な条件を見出すことにより、実験で用いた遺伝子では80%以上という非常に高い効率での標的遺伝子への変異導入に成功した。他の微細藻類を対象としたRNP複合体の直接導入によるゲノム編集法は、変異導入の効率が悪く、マーカー遺伝子の導入と選抜等の効率を上げるための労力を要する操作が必要であった。一方、E.gracilisにおける、高い編集効率による手法では、編集された細胞の選抜操作が不要となり、効率よくE.gracilisの育種が進められることが期待できる。
さらに、上記の手法をもとに、2種類のRNP複合体を用いて、ゲノムDNAの特定の領域に長い欠損変異を導入することや、一本鎖のドナーDNA分子を用いることによる正確な外来DNA分子の導入にも成功したことから、E.gracilisのゲノム編集技術は、持続的な社会の構築を目指した今後の微細藻類の利用技術の開発における基盤技術を提供すると考えられる。今後、本発明の技術を駆使することにより、E.gracilisにおける遺伝子機能の解析などの基礎研究の推進に加え、有用物質生産能を向上させた株の分子育種や目的に応じてデザインしたE. gracilisの創出が可能となることが期待される。
<参考文献>
・Doudna JA, Charpentier E (2014) Genome editing. The new frontier of genome engineering with CRISPR-Cas9. Science (New York, N.Y.) 346: 1258096.
・Inui H, Ishikawa T, Tamoi M (2017) wax ester fermentation and its application for biofuel production. Advances in Experimental Medicine and Biology 979: 269-283.
・Jeon S, Lim JM, Lee HG, Shin SE, Kang NK, Park YI, Oh HM, Jeong WJ, Jeong BR, Chang YK (2017) Current status and perspectives of genome editing technology for microalgae. Biotechnology for Biofuels 10: 267.
・Kimura M, Ishikawa T (2018) Suppression of DYRK ortholog expression affects wax ester fermentation in Euglena gracilis. Journal of Applied Phycology 30: 367-373.
・Medeiros LC, South L, Peng D, Bustamante JM, Wang W, Bunkofske M, Perumal N, Sanchez-Valdez F, Tarleton RL (2017) Rapid, selection-free, high-efficiency genome editing in protozoan parasites using CRISPR-Cas9 ribonucleoproteins. MBio 8: e01788-01717.
・Park J, Lim K, Kim JS, Bae S (2017) Cas-analyzer: an online tool for assessing genome editing results using NGS data. Bioinformatics (Oxford, England) 33: 286-288.
・Spicer A, Molnar A (2018) Gene editing of microalgae: Scientific progress and regulatory challenges in europe. Biology 7.
・Suzuki K (2017) Large-scale cultivation of euglena. In: Euglena: Biochemistry, Cell and Molecular Biology (SchwartzbachSD, Shigeoka S, eds), pp 285-293. Cham: Springer International Publishing.
・Tanaka Y, Ogawa T, Maruta T, Yoshida Y, Arakawa K, Ishikawa T (2017) Glucan synthase-like 2 is indispensable for paramylon synthesis in Euglena gracilis. FEBS Letters 591: 1360-1370.
・Yamada K, Suzuki H, Takeuchi T, Kazama Y, Mitra S, Abe T, Goda K, Suzuki K, Iwata O (2016) Efficient selective breeding of live oil-rich Euglena gracilis with fluorescence-activated cell sorting. Scientific Reports 6: 26327.

Claims (4)

  1. ユーグレナに部位特異的DNAヌクレアーゼを導入する導入工程を行い、
    前記導入工程が、前記部位特異的DNAヌクレアーゼを前記ユーグレナの細胞内にエレクトロポレーション法によって直接導入することによって行われ、
    突然変異誘発率が80%以上であり、
    前記部位特異的DNAヌクレアーゼがガイドRNA及び核酸配列認識モジュールを含むリボ核タンパク質複合体であり、
    前記核酸配列認識モジュールが、CRISPR-Casシステムであることを特徴とするユーグレナのゲノム改変方法。
  2. ユーグレナ細胞に部位特異的DNAヌクレアーゼと一本鎖DNAとを導入する導入工程と、
    前記ユーグレナ細胞のゲノムDNAにおける前記部位特異的DNAヌクレアーゼによる切断部位の上流領域及び下流領域を、相同組換えによって前記一本鎖DNAで置換する置換工程と、を行い、
    前記導入工程が、前記部位特異的DNAヌクレアーゼを前記ユーグレナの細胞内にエレクトロポレーション法によって直接導入することによって行われ、
    前記部位特異的DNAヌクレアーゼがガイドRNA及び核酸配列認識モジュールを含むリボ核タンパク質複合体であり、
    前記核酸配列認識モジュールが、CRISPR-Casシステムであることを特徴とするユーグレナのゲノム改変方法。
  3. 前記一本鎖DNAが、前記ユーグレナ細胞のゲノムDNAに挿入すべき配列をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のユーグレナのゲノム改変方法。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のユーグレナのゲノム改変方法により前記ユーグレナの細胞内のゲノムDNAを改変して変異を誘導するゲノム改変工程と、
    ゲノムが改変された前記ユーグレナの細胞を選抜する選抜工程と、を行うことを特徴とするユーグレナの育種方法。
JP2019127118A 2019-07-08 2019-07-08 ユーグレナのゲノム改変方法及びユーグレナの育種方法 Active JP7428459B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2019127118A JP7428459B2 (ja) 2019-07-08 2019-07-08 ユーグレナのゲノム改変方法及びユーグレナの育種方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2019127118A JP7428459B2 (ja) 2019-07-08 2019-07-08 ユーグレナのゲノム改変方法及びユーグレナの育種方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2021010344A JP2021010344A (ja) 2021-02-04
JP7428459B2 true JP7428459B2 (ja) 2024-02-06

Family

ID=74226556

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2019127118A Active JP7428459B2 (ja) 2019-07-08 2019-07-08 ユーグレナのゲノム改変方法及びユーグレナの育種方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7428459B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2022189976A1 (en) * 2021-03-08 2022-09-15 Noblegen Inc. Genetic alterations in microalgae organisms, and methods and compositions

Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2014193154A (ja) 2013-02-28 2014-10-09 Euglena Co Ltd ユーグレナの形質転換体
JP2016539653A (ja) 2013-12-13 2016-12-22 セレクティス 微小藻類のゲノム操作のためのCas9ヌクレアーゼプラットフォーム
JP2018500037A (ja) 2014-12-31 2018-01-11 シンセティック ジェノミクス インコーポレーテッド 高効率なインビボゲノム編集のための組成物及び方法
JP2019083740A (ja) 2017-11-07 2019-06-06 株式会社ユーグレナ 運動性低下ユーグレナ

Patent Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2014193154A (ja) 2013-02-28 2014-10-09 Euglena Co Ltd ユーグレナの形質転換体
JP2016539653A (ja) 2013-12-13 2016-12-22 セレクティス 微小藻類のゲノム操作のためのCas9ヌクレアーゼプラットフォーム
JP2018500037A (ja) 2014-12-31 2018-01-11 シンセティック ジェノミクス インコーポレーテッド 高効率なインビボゲノム編集のための組成物及び方法
JP2019083740A (ja) 2017-11-07 2019-06-06 株式会社ユーグレナ 運動性低下ユーグレナ

Non-Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
BAEK, Kwangryul et al.,Scientific Reports,2016年07月28日,Vol. 6, Article No. 30620,pp. 1-7,DOI: 10.1038/srep30620

Also Published As

Publication number Publication date
JP2021010344A (ja) 2021-02-04

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP7038079B2 (ja) Crisprハイブリッドdna/rnaポリヌクレオチドおよび使用方法
Wang et al. Genome editing of model oleaginous microalgae Nannochloropsis spp. by CRISPR/Cas9
KR102647766B1 (ko) 클래스 ii, 타입 v crispr 시스템
CN108473998B (zh) 用于以高效率从植物原生质体生成基因组工程改造的植物的方法
KR102093570B1 (ko) 조작된 핵산 표적화 핵산
CN110520528A (zh) 高保真性cas9变体及其应用
Nomura et al. Highly efficient transgene‐free targeted mutagenesis and single‐stranded oligodeoxynucleotide‐mediated precise knock‐in in the industrial microalga Euglena gracilis using Cas9 ribonucleoproteins
KR20210139254A (ko) Ruvc 도메인이 존재하는 효소
JP2018532419A (ja) CRISPR−Cas sgRNAライブラリー
JP6958917B2 (ja) 遺伝子ノックイン細胞の作製方法
CN110300802A (zh) 用于动物胚胎碱基编辑的组合物和碱基编辑方法
US20230416710A1 (en) Engineered and chimeric nucleases
CN110892074A (zh) 用于增加香蕉的保质期的组成物及方法
WO2020041387A1 (en) Degradation domain modifications for spatio-temporal control of rna-guided nucleases
WO2020041384A1 (en) 3-phenyl-2-cyano-azetidine derivatives, inhibitors of rna-guided nuclease activity
JP7428459B2 (ja) ユーグレナのゲノム改変方法及びユーグレナの育種方法
KR102358538B1 (ko) 유전자 총법을 이용한 미세조류의 교정 방법
JP2024533940A (ja) Ruvcドメインを有する酵素
JP2021505144A (ja) シグナル伝達タンパク質の遺伝子改変を介した藻類脂質生産性の改善方法
JP2021505158A (ja) Tprドメイン含有タンパク質の遺伝子改変を介した藻類脂質生産性の改善方法
WO2022256462A1 (en) Class ii, type v crispr systems
JP2024501892A (ja) 新規の核酸誘導型ヌクレアーゼ
CN116848228A (zh) 具有高脂质生产率的重组藻类
JP7452884B2 (ja) Dnaが編集された植物細胞を製造する方法、及びそれに用いるためのキット
Ortolá et al. Conserved structural motifs in the hammerhead ribozyme of a chloroplast viroid mimic tRNA anticodon structure to hijack tRNA ligase for viroid circularization

Legal Events

Date Code Title Description
A80 Written request to apply exceptions to lack of novelty of invention

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A80

Effective date: 20190722

A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A711

Effective date: 20200220

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20200220

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20220616

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20230613

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20230707

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20230829

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20231003

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20231031

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20231108

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20240109

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20240123

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7428459

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150