JP7427505B2 - スパッタリングターゲット材及びその製造方法並びに薄膜 - Google Patents

スパッタリングターゲット材及びその製造方法並びに薄膜 Download PDF

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Description

本発明はスパッタリングターゲット材及びその製造方法に関する。また、本発明は、スパッタリング法により形成された薄膜に関する。
バリウムスズ酸化物にランタンをドープした材料は、酸化物半導体、透明導電体及び熱電変換素子などとして有用なものである。この材料の製造方法として、例えば非特許文献1には、バリウム、ランタン及びスズを含むクエン酸の錯体を調製し、この錯体を加熱して粉末にし、該粉末を放電プラズマ焼結法によって焼結させてペレット状の焼結体を得ることが記載されている。
Material Science and Engineering B 173(2010) 29-32
非特許文献1に記載の方法に従えば、バリウムスズ酸化物にランタンをドープした材料を一応得ることができる。しかし、この材料を、例えば酸化物半導体や透明導電体等の薄膜の形態にする場合に、非特許文献1に記載の製造方法では、原料を錯体重合法(Polymerized Complex method)を用いて作製しているため、大量合成に適さない。またペレット化後に常圧焼成し、加圧焼結(SPS)を行う複雑なプロセスのため、コストがかかり工業的には極めて不利である。
したがって、本発明の課題は、ランタンをドープしたバリウムスズ酸化物の薄膜の工業的な製造に適した材料を提供することにある。
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討した結果、大面積の成膜や、高レートでの成膜にはスパッタリング法が適していることに着目し、更に検討を推し進めた結果、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は、Ba1-XLaSnO(xは0.0010以上0.10以下の数をいう)で表され、ペロブスカイト構造を有する酸化物からなり、相対密度([見掛け密度/真密度]×100)が90.0%以上であり、板面の面積が300mm以上であるスパッタリングターゲット材を提供することによって、前記の課題を解決したものである。
また本発明は、前記のスパッタリングターゲット材の製造方法として、バリウム源、ランタン源及びスズ源を含む仮成形体の表面にタンタルからなる箔を密着させた状態下に、該仮成形体をホットプレスする工程を有するスパッタリングターゲット材の製造方法を提供するものである。
本発明によれば、従来に比べて大面積としても割れの発生がなく、高い相対密度を有し、スパッタリング時に、パーティクルの発生が抑制されたスパッタリングターゲット材が提供される。また、本発明のスパッタリングターゲット材を用いて成膜し、所定の加熱処理を施せば、0.5cm/V・s以上の高い電子移動度を有する薄膜が提供される。
実施例で得られたスパッタリングターゲット材の体積抵抗の温度依存性を示すグラフである。 実施例で得られたスパッタリングターゲット材(x=0.020)を用いて成膜された薄膜のX線回折パターンと加熱温度(真空中加熱)との関係を示すグラフである。 実施例で得られたスパッタリングターゲット材(x=0.005、又はx=0.020)を用いて成膜され真空中700℃加熱を施された薄膜表面の柱状結晶の成長状況を示す走査型電子顕微鏡組織写真である。 実施例で得られたスパッタリングターゲット材(x=0.005~0.100)を用いて成膜され窒素中900℃加熱を施された薄膜表面の島状結晶の成長状況を示す走査型電子顕微鏡組織写真である。
以下本発明を、好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のスパッタリングターゲット材(以下、単に「ターゲット材」ともいう)は、Ba1-XLaSnOで表される酸化物から構成されている。式中のxの数値範囲は0.0010以上0.10以下の数である。すなわち、本発明のターゲット材は、バリウム、スズ及びランタンと酸素とを主たる構成元素として含んでいる。本発明のターゲット材は、バリウムスズ酸化物を主体とし、バリウムの一部がランタンで置換された構造を有している。バリウムがランタンで置換される量がxで表される。xの値を前記した範囲内で調整することで、本発明のターゲット材から製造される薄膜の特性をコントロールすることができる。
本発明のターゲット材に含まれるバリウム、スズ及びランタンの量は、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析装置によって測定できる。酸素の量は、例えば酸素・窒素分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製PS3520UVDD)によって測定できる。
本発明のターゲット材は、上記した各元素を含むものであり、且つそれ以外の元素を含まないことが好ましい。尤も、本発明の効果を損なわない限りにおいて、意図しない不可避不純物がターゲット材に含有されることは妨げられない。
本発明のターゲット材はペロブスカイト構造を有するものである。この結晶構造を有していることによって本発明のターゲット材を用いてスパッタリングを行うことで、所望の特性を有する薄膜を製造できる。本発明のターゲット材の結晶構造は、例えば粉末X線回折法、表面X線回折法などによって確認できる。
ターゲット材をBa1-XLaSnOで表される酸化物から構成することで、目的とする薄膜を大面積で且つ高レートで形成することが可能となる。本発明者の検討の結果、Ba1-XLaSnOで表される酸化物からなるターゲット材を用いてスパッタリングを行うと、パーティクルが多量に発生することを知見した。そこで、パーティクルの発生を抑制する手段を検討した結果、ターゲット材の密度を調整することで、パーティクルの発生が抑制可能であることを知見した。詳細には、ターゲット材の相対密度を、好ましくは90.0%以上に設定することで、スパッタリング時のパーティクルの発生が効果的に抑制される。ターゲット材の相対密度を90.0%以上と高く設定することにより、ターゲット材が緻密なものとなり、ポア部(空孔)が少なくなり、スパッタリング時に放電が安定し、アーキングに起因するパーティクルの発生が効果的に抑制される。その効果を顕著なものとする観点から、ターゲット材の相対密度は更に好ましくは93%以上、一層好ましくは95%以上に設定する。ターゲット材の相対密度を上記した範囲に設定するには、例えば、後述する方法によって、ターゲット材を製造すればよい。
なお、xが0.005を超え0.049以下の範囲では特に95%以上の高い相対密度を有する、直径19.5mm(面積300mm)以上の大面積のターゲット材を安定して得ることができる。また、xの値が0.01以上0.10以下である場合には、本発明のターゲット材から製造される薄膜の特性が望ましいものになる。
なお、ここでいう「相対密度」とは、ターゲット材サンプルの見掛け密度を測定し、[(見掛け密度)/(真密度)]×100で算出した密度をいう。見掛け密度の測定は、アルキメデス法によって実施され、以下の式で算出される。
d1=[(C4)/(C4-C3)]×d2
ここで、d1:見掛け密度(g/cm)、C4:空気中重量(g)、C3:水中重量(g)、d2:試験時の水の密度(g/cm
なお、Ba1-XLaSnOで表される酸化物の真密度は、xの値によるが、理論的には、7.2380g/cm~7.1915g/cmの範囲である。
相対密度に関連して、本発明のターゲット材はその開気孔率が小さいことも、パーティクルの発生抑制の観点から好ましい。具体的には、本発明のターゲット材はその開気孔率が18.0%以下であることが好ましく、12.0%以下であることが更に好ましく、2.0%以下であることが特に好ましい。開気孔率は、0%であることが理想であるが、開気孔率が0.005%以上であれば、パーティクルの発生は充分に抑制できるため、これを下限値とした。
ターゲット材の開気孔率(%)の測定はアルキメデス法によって実施され、以下の式で算出される。
P=[(C―C)/(C―C)]×100
P:開気孔率(%)、C:乾燥重量(g)、C:飽水重量(g)、C:水中重量(g)
本発明のターゲット材は、その導電性が高い(すなわち体積抵抗が低い)ことが、スパッタリング時の成膜のしやすさや、成膜レートを高める点から好ましい。また、製造された薄膜の導電性を高めて、所望の半導体特性を発現させる観点からも好ましい。具体的には、本発明のターゲット材は、その体積抵抗が20.0Ω・cm以下であることが好ましく、8.0Ω・cm以下であることが更に好ましく、4.0Ω・cm以下であることが一層好ましい。体積抵抗の値に下限はなく、低ければ低いほど好ましい。ターゲット材の体積抵抗は、室温、すなわち27℃において測定された値である。ターゲット材の体積抵抗を調整するには、例えば、Ba1-XLaSnOにおけるxの値を、上記した範囲内において調整すればよい。一般にxの値を大きくすると、すなわちランタンのドープ量を増やすと、体積抵抗は低下する傾向にある。一方、Ba1-XLaSnOにおいては、xの値が0.03を超えると、異相の存在により体積抵抗は上昇する傾向にあるので、xの値は0.03以下とすることが好ましい。なお、ターゲット材の体積抵抗は、ナノメトリクス・ジャパン株式会社製HL5500PC(ホール効果測定装置)を用いて、以下の式から算出した。
ρ=(πt/ln2)(V/I
ρ:体積抵抗(Ω・cm)
t:サンプル厚さ(cm)
:測定される電圧(V)
:印可される電流(A)
ターゲット材の体積抵抗は、三菱ケミカルアナリテック社の抵抗率計(4端子法)を用いて測定することもできる。測定に際し、まず試料の表面に金属製の探針を4本一直線上に立て、外側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定し抵抗を求める。求めた抵抗に試料厚さ、補正係数RCF(Resistivity Correction Factor)をかけて、体積抵抗を算出する。各測定点の距離は20mm以上とする。
本発明のターゲット材は、温度上昇に伴い体積抵抗が上昇する性質を有することが好ましい。温度上昇に伴い体積抵抗が上昇する性質を有する材料は一般的に金属的性質を示す。このような性質を有するターゲット材は、低抵抗であるため、DCスパッタリングをスムーズに行うことができる。ターゲット材にこのような性質を付与するためには、例えば、Ba1-XLaSnOにおけるxの値を前記した範囲内に調整すればよい。
本発明のターゲット材形状には特に制限はなく、従来の形状を採用することができ、例えば平板状、あるいは円板状、円筒状を採用することができる。スパッタされる側の板面の面積は好ましくは300m以上(円板状である場合には、直径:19.5mm以上)であり、更に好ましくは直径50mm以上である。なお、大型のプレス装置等が必要となることから、直径500mm以下であることが好ましい。
次に、本発明のターゲット材の好適な製造方法について説明する。
本発明のターゲット材は、バリウム源、ランタン源及びスズ源を含む仮成形体の表面をタンタルからなる箔で被覆した状態下に、該仮成形体をホットプレスする工程を有する。
まず原料粉末であるバリウム源、ランタン源及びスズ源を準備する。バリウム源としては、例えばバリウムの炭酸塩や酸化物を用いることができる。ここで炭酸塩を用いた場合には、後述する焼結工程において二酸化炭素が発生し、そのことがターゲット材の割れの原因となる可能性がある。したがって、この割れ発生を抑制するためには炭酸塩を用いるより酸化物を用いることがより望ましい。一方で、バリウムの酸化物は大気中の水と反応して水酸化物を生成しやすいので、工程管理に充分な注意を要する点で不利である。両者を勘案すると、大気下における安定性が高いバリウムの炭酸塩、すなわち炭酸バリウムを用いることが好ましい。
ランタン源及びスズ源としても、炭酸塩や酸化物を用いることができる。ランタンやスズの酸化物は、バリウムの酸化物に比べて大気中で安定性が高いので、工程管理を厳密にする必要はない。したがって、ターゲット材の割れの発生の可能性のある炭酸塩を敢えて用いる必要はなく、酸化物を用いればよい。
上記の原料粉末を、目的とするターゲット材の組成、すなわちBa1-XLaSnOとなるように混合する。混合には、例えばボールミルなどの各種混合攪拌装置を用いることができる。ボールミルを用いた混合を行う場合には湿式混合を行うことが好ましい。湿式混合の溶媒体には、例えばエタノールなどの有機溶媒を用いることが好ましい。
このようにして得られた混合粉を用いて仮成形体を作製する。本発明において仮成形体とは、混合粉に圧力のみを加え、加熱することなく特定の形状に成形した成形体のことである。また、この成形方法のことを「仮成形」という。仮成形の加圧力は、5MPa以上100MPa以下、特に10MPa以上100MPa以下、とりわけ20MPa以上100MPa以下で行うことが、目的とする相対密度を有するターゲット材を得る点から好ましい。
バリウム源としてバリウムの炭酸塩を用いる場合には、上記した仮成形を行うのに先立ち、仮焼工程を行うことが好ましい。すなわち、バリウム源としての炭酸塩、ランタン源及びスズ源を含む粉体原料を仮焼する。これによって、粉体原料中のバリウムの炭酸塩を脱炭酸する。これとともに、バリウムを、スズ及び/又はランタンと反応させて、大気中で安定な複合酸化物を生成させる。この仮焼によって脱炭酸を行うことで、後述する焼結工程によって、得られたターゲット材に発生しやすい割れを効果的に抑制できる。
仮焼は、950℃以上1200℃以下で行うことが好ましく、1000℃以上1200℃以下で行うことが更に好ましく、1000℃以上1100℃以下で行うことが一層好ましい。この温度範囲内で仮焼することで、バリウムの炭酸塩を充分に脱炭酸させることが可能となる。仮焼の時間は、仮焼の温度が上記した範囲内であることを条件として、1時間以上10時間以下とすることが好ましく、1時間以上5時間以下とすることが更に好ましく、2時間以上4時間以下とすることが一層好ましい。これらの条件で仮焼を行い、それによって得られる仮焼物を粉砕して、上記した仮成形に供する。
次いで、得られた仮成形体を焼結工程に付して、目的とするターゲット材を得る。焼結工程には、ホットプレス法を用いることが、目的とする相対密度を有するターゲット材を得る点から好ましい。ホットプレス法を行う場合には、それに先立ち、仮成形体の表面をタンタルからなる箔で被覆し、タンタルを仮成形体に密着させる。
タンタル箔で被覆する理由は次のとおりである。ホットプレスに用いる成形型は一般にカーボンから構成されている。かかる成形型を用いてホットプレスを行うと、ホットプレス中に仮成形体に含まれるスズの酸化物が、それに接したカーボンによって一部還元されて金属スズが生成する。この金属スズは融点が低いため成形型の内面に付着してしまう。この内面に付着した金属スズのために、ホットプレス後の降温時にターゲット材に割れが発生することがある。そこで、スズの酸化物とカーボンとの接触を防止する目的で、仮成形体の表面をタンタル箔で覆い、スズの酸化物とカーボンとの接触を防いでいる。この目的のために、仮成形体の表面はその全域がタンタル箔で覆われていることが最も望ましい。なお、スズの酸化物とカーボンとの接触を防ぐことができる範囲内において、仮成形体の一部が露出していてもよい。
仮成形体の表面を被覆する箔としてタンタルを用いる理由は、タンタルが、仮成形体の焼結温度よりも高い融点を有すること、及びタンタル箔の塑性が高いことによるものである。なお、タンタル箔の厚みは5μm以上100μm以下が好ましい。同様の特性を有する金属箔であれば、タンタル箔以外のものを用いることを妨げるものではない。特に、仮成形体の焼結温度に対して600℃以上高い融点を有する金属の箔を用いることが好ましい。
表面がタンタル箔で被覆された仮成形体はホットプレスによる焼結工程に付される。目的とする相対密度を有するターゲット材を得るためには、焼結工程における昇温速度、焼結温度及びプレス圧力を適切に設定することが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。
焼結工程における昇温速度は、酸化物粉末を焼結させるときに採用される一般的な昇温速度よりも高くすることが、目的とする相対密度を有するターゲット材を得る観点から有利であることを知見した。具体的には、昇温速度を50℃/h以上1000℃/h以下が好ましく、200℃/h以上400℃/h以下に設定することがより好ましい。
焼結温度に関しては、850℃以上1300℃以下に設定することが好ましく、1000℃以上1100℃以下に設定することがより好ましい。焼結時間は、焼結温度がこの範囲内であることを条件として、0.5時間以上10時間以下に設定することが好ましく、1.0時間以上7時間以下に設定することが更に好ましく、2時間以上5時間以下に設定することが一層好ましい。
プレス圧力に関しては、焼結温度が上記した範囲内であることを条件として、20MPa以上100MPa以下に設定することが好ましく、25MPa以上100MPa以下に設定することが更に好ましく、30MPa以上100MPa以下に設定することが一層好ましい。焼結雰囲気は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
焼結終了後、加熱を停止して焼結体を降温させる。これとともに、加圧を解除し、焼結体にプレス圧力が加わらないようにする。加圧を解除する理由は、降温時にプレス圧力を維持していると、焼結体の収縮時に割れが発生しやすいことによるものである。
以上の焼結条件を採用することによって、目的の相対密度を有する酸化物半導体の焼結体である、ターゲット材が得られる。このようにしてターゲット材が得られたら、その表面を研削加工して平滑にした後に、バッキングプレート等に貼り付ける。研削加工は、アーキングの発生を抑制する観点から、表面粗さRa(JIS B 0601)が好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下、一層好ましくは0.5μm以下となるように行う。バッキングプレートへの貼り付けにはインジウムなどのボンディング材を用いることができる。バッキングプレートとしては、例えば、無酸素銅を用いることができる。本発明において、ターゲット材とは、平面研削やボンディング等のターゲット材仕上工程前の状態も包含する。また、ターゲット材の形状は、平板に限定されず、円筒形状のものも含まれる。本発明においてスパッタリングターゲットとは、こうした単数又は複数のターゲット材をバッキングプレート等にボンディングしたものであって、スパッタリングに供されるものをいう。このターゲットを用いてスパッタリングを行うと、パーティクルの発生が従来よりも抑制される。
このようにして得られたターゲットは、例えばDCスパッタリングやRFスパッタリングのターゲットとして好適に用いられる。本発明のターゲット材を有するターゲットを用いることで、例えば薄膜からなる酸化物半導体や透明導電体を容易に形成できる。
この薄膜は、バリウム、ランタン及びスズを含む酸化物からなり、好ましくはBa1-XLaSnO(xは0.0010以上0.10以下の数をいう)で表される酸化物からなる。この薄膜を酸化物半導体や透明導電体として用いるためには、その厚みを400nm以下に設定することが好ましく、更には50nm以上300nm以下に設定することが好ましく、特に110nm以上280nm以下に設定することが好ましい。
スパッタリング直後の酸化物は一般にアモルファスの状態になっている。この酸化物に加熱処理に付すことにより、結晶化を観察することが可能となる。結晶化によって、酸化物半導体や透明導電体としての機能が発現する。加熱処理は、500℃以上で行うことが結晶化を促進する観点から好ましく、結晶化を一層確実に行う観点から、更に好ましくは500℃以上800℃以下、一層好ましくは600℃以上800℃以下、最も好ましくは700℃以上800℃以下である。加熱時間は、加熱温度がこの範囲内であることを条件として、0.2時間以上10時間以下に設定することが好ましく、0.5時間以上7時間以下に設定することが更に好ましく、1時間以上5時間以下に設定することが一層好ましい。加熱処理の雰囲気は、10Pa以下10-6Pa以上の真空中が好ましく、更に好ましくは10Pa以下10-6Pa以上、一層好ましくは10-2Pa以下10-6Pa以上とすることが好ましい。
なお、加熱処理の雰囲気は、真空中に代えて、窒素中としてもよい。加熱処理の雰囲気を窒素中とすることにより、結晶化のための加熱温度を、高い温度とすることができる。窒素中では、加熱処理は、800℃以上で行うことが好ましく、更に好ましくは800℃以上1100℃以下、一層好ましくは900℃以上1000℃以下である。加熱時間は、加熱温度がこの範囲内であることを条件として、0.2時間以上10時間以下に設定することが好ましく、0.5時間以上7時間以下に設定することが更に好ましく、1時間以上5時間以下に設定することが一層好ましい。
特に、本発明のターゲット材を用い、単結晶SrTiO基板上にスパッタリングにより形成された前記の薄膜は、上記した加熱処理によって単結晶化を観察することが可能である。薄膜を単結晶化することで、酸化物半導体や透明導電体として伝導度が向上するため、当該薄膜は酸化物半導体として一層有用なものとなる。この場合、単結晶SrTiO基板における(001)面に対しスパッタリングを行って薄膜を形成することが、結晶方位の観点から好ましい。なお基板としては、薄膜の単結晶化が可能なものであれば、単結晶SrTiOに限られず、他の単結晶材料を用いてもよい。そのような材料としては、例えば単結晶NdScOや、単結晶NdGaO、単結晶MgOなどが挙げられる。
結晶化が観察された薄膜は、結晶化の程度が充分になるに従い、電子移動度が高くなる。
本発明のターゲット材を用い、単結晶SrTiO基板上にスパッタリングにより形成された薄膜は、真空中で好ましくは500℃以上800℃以下のいずれかの温度で1時間加熱した後に、柱状に成長する結晶が観察され、1.0cm/V・s以上20.0cm/V・s以下程度の電子移動度を示す。また、本発明のターゲット材を用い、単結晶SrTiO基板上にスパッタリングにより形成された薄膜は、窒素中で、好ましくは800℃以上1100℃以下のいずれかの温度で1時間加熱した後に、0.5cm/V・s以上40.0cm/V・s以下程度の電子移動度を示す。なお、窒素中で900℃以上の温度で1時間以上加熱することにより、島状に成長する結晶が観察される。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
〔実施例1〕
〈原料粉末〉
バリウム源としてBaCOの粉末を用いた。スズ源としてSnOを用いた。ランタン源としてLaを用いた。
〈原料粉末の秤量〉
Ba1-XLaSnO(xは0.0010)の原子比となるように、各原料の粉末を電子天秤で秤量した。
〈原料粉末の混合〉
ボールミルを用いて各原料粉末を混合した。ポリプロピレン製のポットにBaCO粉末、SnO粉末及びLa粉末、エタノール、並びにφ10mmのジルコニアボールを投入し、15時間にわたって混合した。
〈原料粉末の濾過及び乾燥〉
上記したポットからスラリーを取り出し、濾紙を用いて濾過を行い、原料粉末を分離した。この原料粉末を乾燥機で乾燥した。
〈仮焼〉
乾燥させた原料粉末を高温炉中に入れ1050℃で3時間仮焼し、脱炭酸を行った。
〈仮成形〉
超硬ダイスを用いて原料粉末をプレスして表1に示す大きさの円板状(厚さ:8mm)の仮成形体を得た。プレス圧力は20MPaとした。
〈ホットプレス〉
仮成形体の上下面及び側面を、厚さ10μmのタンタル箔で被覆した。被覆後の仮成形体を、カーボンダイスを用いてホットプレスした。プレス条件は、窒素雰囲気下で、表1に示す昇温速度、焼結温度、焼結時間、プレス圧力に設定した。
〈降温〉
焼結が完了したのち、焼結体への加熱及び加圧を停止して、焼結体を冷却させた。これにより、目的とする酸化物焼結体、すなわちターゲット材を得た。
このようにして得られたターゲット材の表面を研削して表面粗さをRaで0.5μmにした後、無酸素銅からなるバッキングプレートにインジウムはんだを用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。このターゲットは、XRDによる同定で、ペロブスカイト構造を有することが確認された。
〔実施例2ないし17〕
Ba1-XLaSnO(表1に示すx)の原子比となるように、各原料の粉末を電子天秤で秤量し、表1に示す条件を採用し、実施例1と同様の手順でターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。これらのターゲットは、XRDによる同定で実施例1と同様に、いずれもペロブスカイト構造を有することが確認された。
〔比較例1〕
原料粉末として、La粉末を用いなかった。これ以外は実施例と同様の手順で、表1に示す条件にて、ターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
〔比較例2〕
原料粉末として、La粉末を用いなかった。また、仮成形体の被覆をカーボン箔(厚さ:80μm)で行った。これ以外は実施例と同様の手順で、表1に示す条件にて、ターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
〔比較例3〕
xの値を表1に示すとおりとし、加圧を行わず焼結を行った。これ以外は実施例と同様の手順で、表1に示す条件にて、ターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
〔比較例4〕
xの値を表1に示すとおりとし、ホットプレスにおいて、仮成形体の表面をタンタル箔で被覆せず、圧力を表1に示すとおりとし、且つ降温時に加圧した。これ以外は実施例と同様の手順で、表1に示す条件にて、ターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
〔比較例5〕
xの値を表1に示すとおりとし、ホットプレスにおいて、プレス圧を17.5MPaとした。これ以外は実施例と同様の手順で、表1に示す条件にて、ターゲット材及びスパッタリングターゲットを得た。
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られたターゲット材について、[見掛け密度/真密度]×100で算出される相対密度、開気孔率及び27℃での体積抵抗を測定し、また外観の良否を評価した。その結果を表1に示す。表1に示す体積抵抗は、三菱ケミカルアナリテック社の抵抗率計(4端子法)を用いて測定した。なお、外観の良否は、次の基準で評価した。
A:焼結が充分であり、且つ割れが観察されない。
B:焼結が不十分であるか、又は割れが観察される。
Figure 0007427505000001
また、温度変化に対するターゲット材の体積抵抗値の変化を図1に示す。図1に示す体積抵抗は、ナノメトリクス・ジャパン株式会社製HL5500PC(ホール効果測定装置)を用いて測定した。
表1に示すように、実施例はいずれも、直径20mm以上(314mm以上)の大面積の円板状に成形しても、相対密度が90.0%以上と高く、且つ27℃における体積抵抗が20.0Ω・cm以下と低いターゲット材となっている。なお、ランタンのドープ量xが少ないターゲット材では、直径50mmの大面積の円板状のターゲット材であっても、相対密度が97.0%以上と高い密度を示している。なお、図1から判るように、ランタンのドープ量xの増加に応じてx=0.03までは、体積抵抗が低下する傾向を示すが、ランタンのドープ量xが0.03を超えると、異相が存在するようになるため、xの増加に応じて、体積抵抗が上昇する傾向を示す。
また、ターゲット材No.12とNo.17とを比較すれば、ホットプレス圧力が低下すると、開気孔率が高くなり、相対密度が低下する傾向を示すことが判る。なお、相対密度が低くなると、体積抵抗は上昇する傾向を示す。
また図1から、本発明のターゲット材は、温度上昇に伴い体積抵抗が上昇する傾向を示し、温度上昇に伴い体積抵抗が上昇する金属的性質を有することが判る。
一方、ランタンのドープがない比較例1、比較例2では、体積抵抗の測定ができなかった。また、比較例2では、カーボン箔で被覆したため外観検査で色むらが認められたが、割れは発生しなかった。また、比較例3は、ホットプレス時のゲージ圧を0MPaとして圧力をかけていなかったため、ターゲット材の焼結が充分でなく、測定中に粉々になったため、以降の工程及び評価に使用できなかった。また、比較例4では、被覆用タンタル箔を使用しなかったため金属スズが還元されて金型に付着し、また降温時に加圧したため、割れが発生し、以降の工程及び評価に使用できなかった。比較例5ではプレス圧が低いために開気孔率が上昇した。
次に、得られたターゲット材のうち、実施例である、ターゲット材No.7(x=0.005)、No.8(x=0.020)、No.18(x=0.050)、No.20(x=0.100)について、単結晶SrTiO基板における(001)面に対してスパッタリングを行い、厚さ200nmの薄膜を製造した。成膜条件は次のとおりである。
電力:1.5W/cm
圧力:0.4Pa
基板温度:室温
酸素分圧:0%
[薄膜の結晶化の確認]
得られた薄膜(ターゲット材No.8を用いて得られた薄膜)に、真空中で、500℃、600℃、700℃、800℃の各温度にそれぞれ、加熱(1時間保持)し冷却する加熱処理を施した。加熱処理後、X線回折法(XRD)を用いて薄膜の結晶化の有無を調査した。その結果を図2に示す。図2から、500℃加熱では、結晶化を示すピーク(BSO(002))が認められず、アモルファス状態であるが、600℃加熱では結晶化を示すピークが認められた。このようなことから、Ba1-XLaSnO(x=0.020)は、500℃と600℃間で結晶化が観察されることが判る。
また、得られた薄膜(ターゲット材No.7、No.8を用いて得られた薄膜)に、真空中で、700℃に加熱(1時間保持)し冷却する加熱処理を施したのち、薄膜表面を走査型電子顕微鏡(倍率:20000倍)で観察し、表面組織を撮像した。その一例を図3に示す。図3から、基板に垂直に柱状の単結晶が成長していることが判る。
次いで、得られた薄膜(ターゲット材No.7、No.8、No.18、No.20を用いて得られた各薄膜)に、窒素ガス中で、900℃に加熱(1時間保持)し冷却する加熱処理を施したのち、薄膜表面を走査型電子顕微鏡(倍率:20000倍)で観察した。その表面組織を撮像して一例を図4に示す。図4から、各薄膜には島状の単結晶が成長していることが判る。図4から判るように、ランタンのドープ量xが増加するに従い、形成される薄膜は均質になる傾向を有している。
〔薄膜の電子移動度の測定〕
得られたターゲット材No.7(x=0.005)、No.8(x=0.020)、No.18(x=0.050)、No.20(x=0.100)を用いて、単結晶SrTiO基板における(001)面に対してスパッタリングを行い得られた薄膜(厚さ200nm)について、真空中にて800℃で1時間加熱したのち、当該薄膜の電子移動度を測定した。得られた結果を表2に示す。また、当該薄膜について、窒素中にて1000℃で1時間加熱したのち、当該薄膜の電子移動度を同様に測定した。得られた結果を表3に示す。なお、当該薄膜の電子移動度は、ホール効果測定装置(ナノメトリクス・ジャパン株式会社製HL5500PC)を用いて、以下の式から算出した。
μ=-RHS/ρ=-(V/(I・B))/(ρ/t)
μ:電子移動度(cm/V・s)
HS:シートホール係数(m/C)
ρ:シート抵抗(Ω/Sq.)
:測定されるホール電圧(V)
:印可される電流(A)
B:印加される磁場(T)
ρ:体積抵抗(Ω・cm)
t:サンプル厚さ(cm)
Figure 0007427505000002
Figure 0007427505000003
表2から、本発明のターゲット材を用いて成膜した薄膜は、真空中で800℃の温度に1時間加熱することにより、1.0cm/V・s以上の電子移動度を示し、充分に結晶化されていることが判る。また表3から、窒素中で1000℃の温度で1時間加熱することにより、0.5cm/V・s以上の電子移動度を示し、充分に結晶化されていることが判る。

Claims (4)

  1. Ba1-XLaSnO(xは0.0010以上0.10以下の数を表す)で表され、ペロブスカイト構造を有する酸化物からなり、相対密度([見掛け密度/真密度]×100)が95.0%以上であり、板面の面積が300mm以上であり、開気孔率が0.005%以上2.0%以下であるスパッタリングターゲット材。
  2. xが0.005を超え0.049以下の数である請求項1に記載のスパッタリングターゲット材。
  3. 27℃における体積抵抗が20.0Ω・cm以下である請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット材。
  4. 温度上昇に伴って体積抵抗が上昇する請求項1ないしのいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材。
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