JP7424042B2 - 撚線導体、絶縁電線、及び撚線導体の製造方法 - Google Patents

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本発明は、撚線導体、絶縁電線、及び撚線導体の製造方法に関する。
従来、複数本の素線を集合撚りした撚線導体が知られている。集合撚りによって形成された撚線導体は、例えば同心撚りによって形成された撚線導体と比較して耐屈曲性に優れているため、産業用ロボット等の可動部に配線される絶縁電線や、自動車用の絶縁電線等に広く用いられている。
特に繰り返し屈曲や揺動が加えられる絶縁電線に用いられる撚線導体では、耐屈曲性をより向上させるため、銅に錫を含有させた銅合金線等の硬質の素線が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
特開2000-251530号公報
しかしながら、硬質の素線は引張強さが高いために、撚り合わせた際に素線同士がばねのように反発してしまい、撚り合わせた形状を維持することが困難である、という課題がある。特に、絶縁電線として用いた場合に、端部において絶縁体を除去すると素線同士の撚りが開いてまとまりのないバラバラの状態になってしまい、コネクタへの接続等の端末加工の作業性が低下してしまう場合があった。
そこで、本発明は、硬質の素線を用いた場合であっても、撚り合わせた形状を維持できる撚線導体、絶縁電線、及び撚線導体の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決することを目的として、銅又は銅合金からなる複数本の素線が集合撚りされた撚線によって構成される撚線導体であって、前記素線は、引張強さが700MPa以上の硬質素線であり、前記複数本の素線が集合撚りされた状態で前記撚線の長手方向に対して垂直な方向に切断したときに、当該切断部で前記素線同士が径方向に広がった際の最長の径方向長さD1と、前記撚線の外径D2との比(D1/D2)が、8.5以下である、撚線導体を提供する。
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、前記撚線導体と、前記撚線導体の周囲を被覆している絶縁体と、を備えた、絶縁電線を提供する。
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、引張強さが700MPa以上の銅線又は銅合金線からなる複数本の素線を集合撚りして撚線を形成する撚合工程と、前記撚線に熱処理を施す熱処理工程と、を備え、前記熱処理工程では、180℃以下の温度で熱処理を行い、前記素線の内部に有する歪を除去する、撚線導体の製造方法を提供する。
本発明によれば、硬質の素線を用いた場合であっても、撚り合わせた形状を維持できる撚線導体、絶縁電線、及び撚線導体の製造方法を提供できる。
(a)は、本発明の一実施の形態に係る撚線導体の長手方向に垂直な断面を示す断面図であり、(b)は本発明の一実施の形態に係る絶縁電線の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。 撚線バラケの測定方法を説明する図である。 本発明の一実施の形態に係る撚線導体の製造方法を示すフロー図である。
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
(撚線導体及び絶縁電線)
図1(a)は、本実施の形態に係る撚線導体の長手方向に垂直な断面を示す断面図であり、図1(b)は本実施の形態に係る絶縁電線の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図1(a)に示すように、撚線導体1は、銅線又は銅合金線からなる複数本の素線11が集合撚りされた撚線(集合撚線)によって構成されている。また、図1(b)に示すように、絶縁電線10は、撚線導体1の周囲に絶縁体2を被覆して構成されている。絶縁電線10は、例えば、産業用ロボット等の可動部の配線や、自動車用の配線として用いられるものである。
素線11としては、例えば、銅に錫を0.3質量%含有する銅合金線や、銅に錫とインジウムとを所定含有量で含有する銅合金線等を用いることができる。また、素線11としては、銅に極微量のチタンを添加した高機能純銅HiFC(登録商標、特許第4809934号公報、特許第5077416号公報参照)を用いることもできる。また、素線11としては、Agを0.1質量%以上4.0質量%以下で含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる銅合金線を用いることもできる。なお、Agを含有する場合、その他の金属元素としてSn、Mg、Zn、In、Ni、Co、ZrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種を各々の含有量として0.05質量%以上0.40質量%以下で含有してもよい。
素線11としては、外径0.02mm以上0.26mm以下のものを用いることができる。このような素線11を7本以上500本以下集合撚りすることで、撚線導体1が構成される。例えば、外径0.05mmの素線11を77本集合撚りすることで、撚線導体1が構成される。撚線導体1の外径(D2)は、例えば0.50mm以上0.58mm以下である。また、撚線導体1の撚りピッチは、撚線導体1の外径の10倍以上26倍以下(例えば、6mm以上13mm以下)にするとよい。後述する熱処理により加工時の歪みが除去されるため、集合撚りされた後の素線11および撚線導体1の導電率は比較的高く、70%IACS以上、より好ましくは75%IACS以上である。
絶縁電線10の耐屈曲性を向上させるために、素線11としては、引張強さが700MPa以上、より好ましくは800MPa以上のものが用いられる。素線11は、集合撚りされた後の伸び(後述する熱処理が行われた後の伸び)が0.5%以上3%以下の硬質素線である。
絶縁電線10において撚線導体1の周囲を被覆する絶縁体2としては、例えば、フッ素樹脂等を用いることができる。絶縁電線10に屈曲や揺動を加えた際に絶縁体2内で各素線11が動きやすくするために、絶縁体2は、充実成形ではなく、チューブ押出により円筒状に形成されることが望ましい。これにより、絶縁電線10の可撓性及び耐屈曲性を向上できる。
ところで、本実施の形態では、引張強さが700MPa以上の硬質素線である素線11を用いて撚線導体1を構成しているため、単に撚り合わせるだけだと、素線11同士が反発して撚り合わせた形状を維持することが困難である。例えば、絶縁電線10の端末加工時に、端末部分の絶縁体2を除去すると撚線導体1の撚りが開いて素線11がばらばらの状態となってコネクタ等への接続が困難となったり、あるいは、絶縁体2の形成時に撚線導体1の撚りが開いて外観不良が発生したりするおそれがある。
そこで、本実施の形態では、このような不具合を抑制するために、複数本の素線11が集合撚りされた撚線の状態で低温(例えば、180℃以下)で、当該撚線に対して熱処理を行う。この熱処理では、素線11を硬質に維持したまま、伸線等の加工によって素線11の内部に蓄積された歪みを除去することにより、素線11が集合撚りされた撚線の形状に維持しやすくした。熱処理の詳細等については後述する。
本実施の形態では、撚線に対して低温で熱処理を行うことで、撚線導体1の端部における素線11同士がバラケてしまうことを抑制することが可能になる。すなわち、本実施の形態では、撚線に対して低温で熱処理を行うことで、撚線導体1の端部で素線11の撚りが開いてしまうことが抑制されるため、素線11同士がバラケてしまうことが抑制されている。
より具体的には、図2に示すように、本実施の形態では、複数本の素線11が集合撚りされた状態で撚線の長手方向に対して垂直な方向に切断したときに、当該切断部で素線11同士が径方向に広がった際の最長の径方向長さD1と、複数本の素線11を撚り合わせた状態での外径(撚線導体1の外径)D2との比(D1/D2)が、8.5以下である。以下、この比(D1/D2)を撚線バラケと呼称する。撚線バラケは、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは7.5以下であるとよい。
なお、長さD1は、撚線導体1の切断後に外力をかけずに、素線11の撚りが開いて自然に広がった状態で測定を行う。また、長さD1は、撚線導体1の切断部を径方向のさまざまな方向から観察して、素線11が最も広がっている方向を選定し、当該方向から見たときに最外に位置する素線11の先端同士の距離としてもよい。なお、撚線導体1において、長さD1は、例えば、4.5mm以下である。撚線導体1の切断は、例えば、ハサミを用いる。また、外径D2は、例えば、マイクロメータによって測定する。
(撚線導体1の製造方法)
図3は、本実施の形態に係る撚線導体の製造方法を示すフロー図である。図3に示すように、撚線導体1を製造する際には、まず、ステップS1にて、素線準備工程を行う。素線準備工程では、引張強さが700MPa以上の銅線又は銅合金線からなる複数本の素線(硬質素線)を準備する。準備する方法としては、例えば、銅線又は銅合金線を所定の外径(外径0.02mm以上0.26mm以下)に伸線し、素線11を形成する。銅線又は銅合金線を伸線加工することにより、加工硬化が生じ素線11の硬度が高くなる。本実施の形態では、素線準備工程において、引張強さが700MPa以上、より好ましくは800MPa以上の素線11を準備する。
その後、ステップS2にて、撚合工程を行う。撚合工程では、素線準備工程で準備した素線11を複数本(例えば、7本以上500本以下)集合撚りして撚線を形成する。形成された当該撚線は、ドラム等の巻取部材に巻き取られる。なお、ステップS2の段階では素線11の撚りが開きやすい状態のままであることから、本実施の形態に係る撚線導体1と区別するために、単に撚線と呼称している。
その後、ステップS3にて、撚線に熱処理を施す熱処理工程を行う。熱処理工程では、素線11が硬質のままとなるように(素線11の引張強さや伸びがほぼ変化しないように)、低温で熱処理を行う。本実施の形態では、撚線がドラム等の巻取部材に巻き取られた状態でポット焼鈍により熱処理を行った。
より具体的には、熱処理工程では、熱処理前の素線11の引張強さ(TS1)に対する、熱処理後の素線11の引張強さ(TS2)の変化率(((TS1-TS2)/TS1)×100)が4%以下(例えば0.1%以上4%以下、より好ましくは0.2%以上1%以下)となるように熱処理を行うとよい。熱処理の温度は、180℃以下、より好ましくは100℃以上180℃以下、さらに好ましくは100℃以上150℃以下とするとよい。例えば、150℃で1.5時間熱処理を行うことができる。なお、熱処理の時間は、素線11に対して上述した熱処理を行う時間であれば、適宜変更することができる。また、100℃以上180℃以下で熱処理を行った場合は、180℃を超える温度で熱処理を行った場合に比べて、素線11が軟化しにくくなり、引張強さが700MPa以上である素線11を安定的に得ることができる。
熱処理工程を行うことにより、加工による素線11の歪みが除去されて、各素線11が撚り合わせられた形状で馴染み、撚り合わせた形状を維持できるようになる。その後、自然冷却を行うと、本実施の形態に係る撚線導体1が得られる。
(撚線導体1の撚線バラケ)
本実施の形態に係る撚線導体1を試作し、撚線バラケ(D1/D2)を測定した。ここでは、表1に示すように、銅に錫を0.3質量%含有する銅合金線からなり、外径が0.05mmの素線11を77本集合撚りし、120℃、180℃、150℃でそれぞれ1.5時間の熱処理を行う(熱処理前の素線11の引張強さに対する、熱処理後の素線11の引張強さの変化率が4%以下となるように熱処理を行う)ことで、実施例1~3の撚線導体1を形成した。また、比較のために、熱処理を行わない比較例1の撚線導体を形成した。なお、実施例1~3の撚線導体1および比較例1の撚線導体では、約10mmの撚りピッチで集合撚りした。
試作した実施例1~3の撚線導体1および比較例1の撚線導体の各々について、複数本の素線が集合撚りされた状態で撚線の長手方向に対して垂直な方向にハサミを用いて切断し、当該切断部でのD1と、撚線の外径D2とをそれぞれ測定した。そして、測定したD1とD2とから、撚線バラケD1/D2を算出した。
引張強さ、伸びは、試作した実施例1~3の撚線導体1および比較例1の撚線導体の各々から、1本の素線を採取し、採取した素線に対して引張試験機を用いて引張試験を行い、素線が破断したときの引張荷重と伸びを測定した。引張強さは、測定した引張荷重を、マイクロメータで測定した素線の横断面積で除算することによって求めた。
導電率は、試作した実施例1~3の撚線導体1および比較例1の撚線導体の各々から、1本の素線を採取し、JISC3002に準拠する方法により、採取した素線の電気抵抗を測定して算出した。
Figure 0007424042000001
表1に示すように、実施例1~3の撚線導体1における素線11の引張強さは、熱処理を行っていない比較例1とほぼ同等となっており、熱処理によって引張強さがほぼ変化しておらず硬質の状態を保っている。なお、実施例1~3の撚線導体1および比較例1の撚線導体では、素線の伸びが約2%であった。また、実施例1~3の撚線導体1における導電率は、比較例1と比較して若干向上しており、75%IACS以上となっている。
表1に示すように、熱処理温度を120℃、150℃とした実施例1,3では撚線バラケが6.60以下となり、また熱処理温度を180℃とした実施例2では撚線バラケが7.40以下となっている。このように、本発明による実施例1~3によれば、7.5以下の撚線バラケを実現でき、端末部分での素線11のバラケを抑制して、端末加工時の作業性を向上できる。また、撚線バラケをより小さくするという観点から、熱処理温度は150℃以下とすることがより好ましいことが分かる。
これに対して、熱処理を行わない比較例1では、撚線バラケが10以上となっている。そのため、端末部分で素線が広がってしまい、コネクタへの接続等の端末加工を行いにくい状態となっていることが分かる。実施例1~3のように熱処理を行うことで、熱処理を行わない比較例1と比較して、撚線バラケを抑えることが可能である。
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る撚線導体1では、素線11が、引張強さが700MPa以上の硬質素線であり、かつ、複数本の素線11が集合撚りされた状態で長手方向に対して垂直な方向に切断したときに、当該切断部で素線11同士が径方向に広がった際の最長の径方向長さD1と、撚線の外径D2との比(D1/D2)である撚線バラケが、8.5以下である。
すなわち、本実施の形態によれば、引張強さが700MPa以上の硬質の素線11を用いた場合であっても、撚線バラケが小さく、従来と比較して撚り合わせた形状を維持できる撚線導体1を実現できる。その結果、可動部への配線に適した耐屈曲性を有しつつも、例えばコネクタへの接続等の端末加工時の作業における作業性を向上した撚線導体1を実現できる。また、熱処理により素線11の歪みが除去されることにより、撚線導体1の導電率を向上することもできる。
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
[1]銅又は銅合金からなる複数本の素線(11)が集合撚りされた撚線によって構成される撚線導体(1)であって、前記素線(11)は、引張強さが700MPa以上の硬質素線であり、前記複数本の素線(11)が集合撚りされた状態で前記撚線の長手方向に対して垂直な方向に切断したときに、当該切断部で前記素線(11)同士が径方向に広がった際の最長の径方向長さD1と、前記撚線の外径D2との比(D1/D2)が、8.5以下である、撚線導体(1)。
[2]導電率が70%IACS以上である、[1]に記載の撚線導体(1)。
[3][1]または[2]に記載の撚線導体(1)と、前記撚線導体(1)の周囲を被覆している絶縁体(2)と、を備えた、絶縁電線(10)。
[4]引張強さが700MPa以上の銅線又は銅合金線からなる複数本の素線(11)を集合撚りして撚線を形成する撚合工程と、前記撚線に熱処理を施す熱処理工程と、を備え、前記熱処理工程では、180℃以下の温度で熱処理を行い、前記素線の内部に有する歪を除去する、撚線導体の製造方法。
[5]前記熱処理工程では、熱処理前の前記素線(11)の引張強さに対する、熱処理後の前記素線(11)の引張強さの変化率が4%以下となるように熱処理を行う、[4]に記載の撚線導体の製造方法。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では言及しなかったが、上述の撚線導体1を子撚線とし、さらに複数本の子撚線を撚り合わせた集合撚線としてもよい。これにより、耐屈曲性をより向上させることが可能になる。
1…撚線導体
11…素線
2…絶縁体
10…絶縁電線

Claims (4)

  1. 銅又は銅合金からなる複数本の素線が集合撚りされた撚線によって構成される撚線導体であって、
    前記複数本の素線は、導電率が70%IACS以上、引張強さが700MPa以上の硬質素線であり、
    前記撚線は、前記複数本の素線が前記撚線の外径の10倍以上26倍以下の撚りピッチで集合撚りされたものであり、
    前記撚線の長手方向に対して垂直な断面は、前記複数本の素線が集合撚りで撚り合わせされた状態の形状からなり、
    前記複数の素線が集合撚りで撚り合わせされた前記形状のまま、前記撚線の長手方向に対して垂直な方向に切断したときに、当該切断部で前記素線同士が径方向に広がった際の最長の径方向長さD1と、前記撚線の外径D2との比(D1/D2)が、8.5以下である、
    撚線導体。
  2. 請求項に記載の撚線導体と、
    前記撚線導体の周囲を被覆している絶縁体と、を備えた、
    絶縁電線。
  3. 導電率が70%IACS以上、引張強さが700MPa以上の銅又は銅合金線からなる複数本の素線を集合撚りして撚線を形成する撚合工程と、
    前記撚線に熱処理を施す熱処理工程と、を備え、
    前記撚合工程では、前記複数本の素線を前記撚線の外径の10倍以上26倍以下の撚りピッチで集合撚りして前記撚線を形成し、
    前記熱処理工程では、前記撚線の長手方向に対して垂直な断面を、前記複数本の素線が集合撚りで撚り合わせされた状態の形状に維持したまま、前記撚線に対して180℃以下の温度で熱処理を行い、前記素線を硬質素線の状態に維持したまま、前記素線の内部に有する歪を除去する、
    撚線導体の製造方法。
  4. 前記熱処理工程では、熱処理前の前記素線の引張強さに対する、熱処理後の前記素線の引張強さの変化率が4%以下となるように熱処理を行う、
    請求項に記載の撚線導体の製造方法。
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