以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用、結果、および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や、派生的な効果のうち、少なくとも一つを得ることが可能である。
<第1実施形態>
まず、第1実施形態として、車両内転倒防止装置について説明する。第1実施形態の車両内転倒防止装置は、複数の利用者が乗降可能な車両、例えば、路線バス(以下、単に「バス」という)において、乗車した利用者が車内で転倒することを防止、または軽減するような車両の発車制御を実現する。例えば、バスの場合、急ブレーキを除く場合でも、発車加速時にバランスを崩し易く、転倒する可能性がある。転倒し易い利用者は、例えば、下肢筋力、バランス力、瞬発力等一定の姿勢を維持する能力が低下していると考えられる。一般的に、下肢筋力、バランス力、瞬発力等は、高齢になるほど低下するが、年齢に拘わらず、身体能力が一時的に低下している利用者もいる。例えば、怪我や病気等の疾患を有している利用者、大きな荷物を持っていたり、子供を抱いていたりする利用者等は、十分な下肢筋力、バランス力、瞬発力等は備えているものの、乗車の際に十分に発揮できないことがある。その結果、姿勢の維持が困難になる。つまり、一時的に身体能力が低下し転倒し易い状況になっている場合がある。
このように、身体能力が低下している利用者の場合、例えば、バスに乗車する際にステップ(段差部分)に足をかけて、上体を持ち上げて乗り込む際に、上体を支えたり、姿勢を安定させたりする動作を無意識に取る場合がある。例えば、手すり等周囲の物を無意識に掴んだりする。また、バランスを取るために、足かけ動作や上体の引き上げ動作が無意識に緩慢になったりする場合がある。同様に、ステップに乗り終えた後も、無意識に周囲の物を掴んだり、次の一歩の踏みだしが遅くなったり、姿勢を維持するために歩隔(起立時の両足の左右間隔)を無意識に広げたりする。車両内転倒防止装置は、利用者がバスに乗り込む際の動作を撮影し、乗車動作を解析することにより、自身の身体能力の低下を補完するための(無意識の)行動特徴、または転倒に関わる身体機能の大きさを推定し、転倒危険度の決定基準とする。つまり、年齢や性別等の属性にかかわりなく、利用者の身体能力を客観的に評価および推定する。そして、身体能力値の推定に基づく転倒危険度を、車両の発車制御に反映させる。
図1は、第1実施形態の車両内転倒防止装置が搭載される車両10(例えば、バス)の例示的かつ模式的な斜視図である。車両10は、例えば、内燃機関(エンジン、図示されず)を駆動源とする自動車(内燃機関自動車)であってもよいし、電動機(モータ、図示されず)を駆動源とする自動車(電気自動車、燃料電池自動車等)であってもよいし、それらの双方を駆動源とする自動車(ハイブリッド自動車)であってもよい。また、車両10は、種々の変速装置を搭載することができるし、内燃機関や電動機を駆動するのに必要な種々の装置(システム、部品等)を搭載することができる。
図1に例示されるように、車両10は、車両前部の一方側に運転席12が配置され、車両前部の他方側に、乗降口14(例えば、乗車口)が設けられている。乗降口14には、路面より一段高くなったステップ14aが設けられ、開閉ドア14bの開放により、例えばステップ14aに足をかけた利用者M(Ma)が乗り込み可能になっている。また、車両10の車両中間部には、別の乗降口16(例えば、降車口)が設けられ、開閉ドア16bの開放により、例えばステップ16aを降りて利用者が降車可能になっている。
車両10の車室内には、複数の座席18が設置されている。例えば、車両10の前部領域では、車室側面に沿って、一列に座席18が1脚ずつ設置され、後部領域では、場所に応じて、座席18が1脚ずつ、2脚ずつで設置され、最後尾領域では、5脚が車幅方向に配置されている。また、車室内には、複数の手すり20が設置されている。手すり20は、例えば、金属の丸棒材で形成されている。手すり20は、天上面に平行な水平手すり20aと、床面や天上面、座席18の一部に固定された垂直手すり20bが設けられている。また、水平手すり20aには、例えば一定間隔で、リング状の把持部を備えるつり革22(一部のみ図示)が設けられている。
また、車両10の車室内には、乗降口14(乗車口)から乗り込む利用者Maを撮像する撮像部24が、例えば、乗降口14の上方の天上面等に設置されている。撮像部24は、例えば、CCD(charge coupled device)やCIS(CMOS image sensor)等の撮像素子を内蔵するデジタルカメラである。撮像部24は、所定のフレームレートで動画データを逐次取得し、撮像画像データとして出力する。なお、撮像部24は、人体が放射する赤外線を撮像する赤外線カメラでもよい。撮像部24の撮像領域は、例えば、乗降口14から乗り込もうとする利用者Maの挙動を撮像可能な範囲である。撮像部24の撮像領域は、例えば、乗込動作前の利用者Maを撮像可能な車外領域(車外側1~2mの領域)、ステップ14aに足をかけて上体の引き上げる動作を行っている利用者Maを撮像可能なドア領域を含む。さらに、撮像部24の撮像領域は、運転席12の側方の料金箱12aの横を通過して座席18が配置された座席領域に進入する車内領域等を含む。なお、撮像部24は、1台の撮像部24で、上述の車外領域、ドア領域、車内領域を全て撮像するようにしてもよいし、領域ごとに撮像部24を設けてもよい。
車両10の場合、乗降口16に対応する位置に、撮像部24と同様な撮像部26を設置してもよい。第1実施形態の車両内転倒防止装置は、利用者が車両10に乗車して、降車するまで転倒の有無を監視することができる。したがって、撮像部26は、主として、転倒監視対象の利用者の降車、すなわち、監視終了を確認するための画像を取得するために利用される。なお、乗降口16から利用者が乗車する仕様の車両10の場合、撮像部26が撮像部24と同様に機能し、乗降口16から乗り込もうとする利用者Maの挙動を撮像する。
また、車両10には、車室内の利用者Mの乗車姿勢を取得するためのセンサが複数設置されている。例えば、座席18ごとに、当該座席18に利用者Mが着座しているか否かを検出する圧力センサ28(シートセンサ28a)が設置されている。また、車室内での利用者Mの立ち位置を検出する圧力センサ28(床面センサ28b)が、床面に一定の間隔(例えばマトリックス状)に配置されている。また、つり革22のリング部には、当該つり革22を利用者Mが把持しているか否かを検出する把持センサ30(例えば、静電容量センサや圧力センサ等)が配置されている。同様に、手すり20(水平手すり20a、垂直手すり20b)にも把持センサ30が設置され、利用者Mが手すり20を把持しているか否かを検出する。また、車両10の車室内の天井等には、車室内の利用者Mの乗車後の位置や転倒の有無を検出するための撮像部32が設置されている。図1の場合、前部座席領域と後部座席領域をそれぞれ撮像範囲とする撮像部32が二つ設置されているが、設置数は適宜変更可能である。なお、利用者Mが転倒したか否かの判定は、例えば、画像解析等で、利用者Mが手を床面についたか否かを検出することで実施することができる。また、床面センサ28bの検出結果により、身体重心の移動(例えば移動速度)を検知し、所定の閾値を超えた場合に、身体が大きく揺れ(大きくよろめき)、バランスを失った、すなわち、転倒したと見なすようにしてもよい。
図2は、車両10に搭載される車両内転倒防止装置を含む車両制御システム100の構成の例示的なブロック図である。車両10の車室内には、表示装置34や、音声出力装置36が設けられている。表示装置34は、例えば、LCD(liquid crystal display)や、OELD(organic electroluminescent display)等である。音声出力装置36は、例えば、スピーカである。また、表示装置34は、例えば、タッチパネル等、透明な操作入力部38で覆われていてもよい。運転者(または乗員)は、操作入力部38を介して表示装置34の表示画面に表示される画像(例えば、乗車状態や転倒の有無、案内情報等)を視認することができる。また、運転者は、表示装置34の表示画面に表示される画像に対応した位置で、手指等で操作入力部38を触れたり押したり動かしたりして操作することで、操作入力を実行することができる。これら表示装置34や、音声出力装置36、操作入力部38等は、例えば、車両10の運転席に設置されたモニタ装置40に設けられている。モニタ装置40は、スイッチや、ダイヤル、ジョイスティック、押しボタン等の不図示の操作入力部を有することができる。
また、図2に例示されるように、車両制御システム100(車両内転倒防止装置を含む)は、撮像部24,26,32やモニタ装置40に加え、ECU42(electronic control unit)、ブレーキシステム44(ブレーキセンサ44a、アクチュエータ44b)、アクセルセンサ46、車輪速センサ48、圧力センサ28、把持センサ30等が、電気通信回線としての車内ネットワーク50を介して電気的に接続されている。車内ネットワーク50は、例えば、CAN(Controller Area Network)として構成されている。ECU42は、車内ネットワーク50を通じて制御信号を送ることで、ブレーキシステム44等を制御することができる。また、ECU42は、車内ネットワーク50を介して、ブレーキセンサ44a、アクセルセンサ46、車輪速センサ48、圧力センサ28、把持センサ30等の検出結果や、操作入力部38等の操作信号等を、受け取ることができる。
ブレーキシステム44は、車両10の通常走行時の制動制御を運転者のブレーキペダルの操作またはブレーキセンサ44aをはじめとする各種センサの検出結果に基づく自動制御により、車両10を制動させるようにアクチュエータ44bを動作させる。また、第1実施形態の場合、車両内転倒防止装置により監視対象となっている利用者M(Ma)の乗車姿勢が発車の条件を満たしていない場合に、ECU42は、発車を抑制するようにアクチュエータ44bを動作させる。アクセルセンサ46は、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出するセンサであり、通常走行時はアクセルセンサ46の検出する検出値に基づき、エンジンやモータの制御が行われ、車両10の加減速制御が実行される。なお、車両内転倒防止装置により監視対象となっている利用者M(Ma)の乗車姿勢が発車の条件を満たしていない場合に、アクセルセンサ46の検出値に拘わらず、ブレーキシステム44は制動制御(例えば、停止状態の維持制御)が実施される。車輪速センサ48は、車両10の各車輪に設けられ各車輪の回転量や単位時間当たりの回転数を検出するセンサであり、検出した回転数を示す車輪速パルス数を検出値として出力する。ECU42は、車輪速センサ48から取得した検出値に基づき、車両10の車速や移動量などを演算するとともに、車両10の移動の有無を検出する。また、CPU42aは、車両内転倒防止装置により監視対象となっている利用者M(Ma)の乗車姿勢が発車の条件を満たしていない場合、車輪速センサ48の検出結果に基づき、車両10が発車していないことを確認したり、許容される低速または低加速度で走行を開始したことを確認したりする。なお、図2は、車両内転倒防止装置の説明に関連する構成を示し、車両10を走行させる場合に必要となる他の構成は、図示およびその説明は省略する。
ECU42は、例えば、CPU42a(Central Processing Unit)や、ROM42b(Read Only Memory)、RAM42c(Random Access Memory)、表示制御部42d、音声制御部42e、SSD42f(Solid State Drive、フラッシュメモリ)等を有している。CPU42aは、車両内転倒防止装置(車両内転倒防止部)を実現するとともに、車両10の制御を行う。CPU42aは、ROM42b等の不揮発性の記憶装置にインストールされ記憶されたプログラムを読み出し、当該プログラムにしたがって演算処理を実行できる。RAM42cは、CPU42aでの演算で用いられる各種のデータを一時的に記憶する。また、表示制御部42dは、撮像部24等から取得した撮像画像データをCPU42aに提供するとともに、表示装置34で表示するための画像データを処理する。また、音声制御部42eは、ECU42での演算処理のうち、主として、音声出力装置36で出力される音声データの処理を実行する。また、SSD42fは、書き換え可能な不揮発性の記憶部であって、ECU42の電源がオフされた場合にあってもデータを記憶することができる。例えば、身体能力値を推定する場合に参照する動作特徴項目や転倒危険度を決定する場合に参照する関係テーブル等を記憶する。また、車両10内で利用者Mの転倒が発見された場合、転倒した利用者Mに関する情報を記憶する。なお、CPU42aや、ROM42b、RAM42c等は、同一パッケージ内に集積されうる。また、ECU42は、CPU42aに替えて、DSP(Digital Signal Processor)等の他の論理演算プロセッサや論理回路等が用いられる構成であってもよい。また、SSD42fに替えてHDD(Hard Disk Drive)が設けられてもよいし、SSD42fやHDDは、ECU42とは別に設けられてもよい。
なお、上述した各種センサやアクチュエータの構成や、配置、電気的な接続形態等は、一例であって、種々に設定(変更)することができる。
図3は、CPU42aで車両内転倒防止装置を実現する場合の構成を例示的かつ模式的に示すブロック図である。CPU42aは、ROM42bから読み出した車両内転倒防止制御プログラムを実行することにより車両内転倒防止部52を実現する。車両内転倒防止部52(車両内転倒防止装置)は、その機能を実現するための各種モジュールを含む。車両内転倒防止部52は、例えば、取得部54、能力推定部56、危険度決定部58、判定部60、制御部62、送受信部64、出力部66等のモジュールを含む。また、能力推定部56は、推定部56a、スコア変更部56b等の詳細モジュールを含む。危険度決定部58は、決定部58a、関係変更部58b等の詳細モジュールを含む。制御部62は、走行制御部62a、案内情報制御部62b等の詳細モジュールを含む。
取得部54は、各撮像部24,26,32等が撮像した撮像画像データ(撮像画像)を、表示制御部42dを介して逐次取得する。撮像部24は、例えば、乗降口14から乗車しようとする利用者Maおよび乗降口14周辺に存在する利用者Mの挙動を逐次撮像可能である。撮像部26は、例えば、乗降口16から降車しようとする利用者Mおよび乗降口16周辺に存在する利用者Mの挙動を逐次撮像可能である。撮像部32は、撮像部24や撮像部26の撮像範囲外を含む領域、例えば、前部座席領域や後部座席領域に存在する利用者Mの挙動を逐次撮像可能である。各撮像部24,26,32は、撮影場所(撮影領域)、撮影時刻等を識別する識別符号を撮像画像データに添付して取得部54に提供してもよいし、取得部54で取得した撮像画像データごとに識別符号を添付するようにしてもよい。
能力推定部56は、取得部54が取得した撮影画像データ、例えば、撮像部24が撮像した撮像画像データを画像解析することにより、撮像画像から利用者Maを抽出するとともに、利用者Maごとに個人識別符号を付す。そして、能力推定部56は、個人識別した利用者Maの乗車動作の詳細解析を行い、個別動作ごとに評価を行い、利用者Maの身体能力値を推定する。具体的には、能力推定部56の推定部56aは、利用者Maが乗車時に取り得る動作ごとに、スコアが付された動作特徴項目を記憶する項目記憶部68を参照する。そして、推定部56aは、利用者Maの動作のうち確認できた動作特徴項目に対応するスコアを逐次加算し、スコアの合計値を利用者Maの身体能力値とする(推定する)。なお、項目記憶部68は、例えば書き換え可能な不揮発性の記憶部であるSSD42fに、記憶領域が確保されている。
図4には、項目記憶部68に記憶されている動作特徴項目の一例が示されている。図4に例示されるように、複数の動作特徴項目と、その動作が確認できた場合に加算するスコアが対応付けられて記憶されている。なお、図4に示すスコアは、例えば、身体能力が高い程、数値が低くなるように定義されている。
推定部56aは、取得部54が取得した撮像部24の撮像画像データにおいて、ステップ14aを上り車室内に進入する利用者Maの動作が取得できた場合、その動作と項目記憶部68に記憶されている動作特徴項目との照合を行う。例えば、推定部56aにおいて、利用者Maがステップ14aを上り車室内に進入する際に、「手すりを使用していない」、「乗込みにかかる時間が規定時間T1秒以内」、「乗込後の最初の1歩が規定幅W1以上」等が確認できた場合、それぞれの動作特徴項目は、スムーズな乗車動作を実行するために必要な身体能力の一つである。この場合、推定部56aは、利用者Maの身体能力を示すスコアとして、確認された動作特徴項目ごとに、スコア値「0」をRAM42cの作業領域に登録する。同様に、利用者Maがステップ14aを上り車室内に進入する際に、「乗込み開始時の前傾姿勢変化量が規定値L1以上」、「乗込み中の体重心の変動量が規定値G1以上」、「ステップを一段ずつ上る」等が確認できた場合、それぞれの動作特徴項目は、若干の緩慢さが認められる動作を示す。したがって、利用者Maは、スコア=0の動作特徴項目を実現できる利用者Maに比べて、「小程度の身体能力低下」が認められると見なすことができる。この場合、推定部56aは、利用者Maの身体能力を示すスコアとして、確認された動作特徴項目ごとに、スコア値「1」をRAM42cの作業領域に登録する。
また、同様に、利用者Maが、ステップ14aを上り車室内に進入する際に、「手すりを使用しながら乗込む」、「乗車終了が規定時間T2以上」、「乗込後の最初の1歩が規定幅W2以下」、「乗車後の歩隔が規定距離M1以上」、「乗込み開始時の前傾姿勢変化量が規定値L2以上」、「乗込み中の体重心の変動量が規定値G2以上」等が確認できた場合、それぞれの動作特徴項目は、顕著な緩慢さが認められる動作を示す。したがって、利用者Maは、スコア=0の動作特徴項目を実現できる利用者Maに比べて、「中程度の身体能力低下」が認められると見なすことができる。この場合、推定部56aは、利用者Maの身体能力を示すスコアとして、確認された動作特徴項目ごとに、スコア値「2」をRAM42cの作業領域に登録する。
さらに、利用者Maが、ステップ14aを上り車室内に進入する際に、「ステップに足を乗せる前に手すりに手をかける」、「ステップに片足を乗せて一旦、動作が止まる」、「手すり側への身体の傾きが大きい」、「乗車終了後に一旦、動作が止まる」、「乗込み開始時に後傾姿勢変化がある」等が確認できた場合、それぞれの動作特徴項目は、身体のバランスを慎重にとるための動作を示す。したがって、利用者Maは、スコア=0の動作特徴項目を実現できる利用者Maに比べて、「大程度の身体能力低下」が認められると見なすことができる。この場合、推定部56aは、利用者Maの身体能力を示すスコアとして、確認された動作特徴項目ごとに、スコア値「3」をRAM42cの作業領域に登録する。
推定部56aは、撮像部24が撮像した利用者Maの乗込動作の中で確認できた動作特徴項目のスコアの合計を算出し、そのスコア合計値sを利用者Maの身体能力値とする。この場合、スコア合計値sは、値が大きくなるほど、身体能力が低いことを示す。
なお、図4に示す動作特徴項目は、一例であり、項目数の増減は適宜実施可能である。また、動作特徴項目ごとのスコアは、予め試験等により決定可能であるが、スコア合計値sにより身体能力値を推定し、転倒危険度を確定して車両10の発車制御を行った場合でも、転倒が発生することがある。そのため、スコア変更部56bは、実際に発生した転倒に基づき、動作特徴項目ごとのスコア値を変更することができる。スコア変更部56bによる処理の詳細は後述する。
能力推定部56により利用者Maの身体能力値が推定できると、危険度決定部58は、身体能力値に基づき利用者Maの転倒危険度を決定する。危険度決定部58の決定部58aは、スコア合計値と転倒する可能性を示す転倒危険度との関係を定めた関係テーブルを関係テーブル記憶部70から読み出し、利用者Maのスコア合計値に対応する担当危険度を決定する。なお、関係テーブル記憶部70は、例えば書き換え可能な不揮発性の記憶部であるSSD42fにその記憶領域が確保されている。
図5には、関係テーブル記憶部70に記憶されている、身体能力値を示すスコア合計値sと転倒危険度Dとの関係、および転倒危険度Dと車両発車の可否判断条件K(乗車姿勢)との関係を定めた関係テーブルの一例が示されている。図5に例示されるように、転倒危険度Dは、一定の幅のスコア合計値sに対応している。なお、図5に示す転倒危険度Dは、例えば、スコア合計値sが大きい程、転倒危険度Dが高い、すなわち、転倒リスクが高まり、車両10の発車を慎重に行うように設定されている。
決定部58aは、推定部56aが算出したスコア合計値sが、例えば、規定値S1未満の場合、転倒危険度Dを「1」に決定する。転倒危険度D=1の場合、車両10に乗車した利用者Maは、例えば、車室内を移動している状況でも通常の車両10の発車、走行時の揺れに耐えうる身体能力を有していると判定するものである。また、決定部58aは、スコア合計値sが、規定値S1以上で、当該規定値S1より大きな規定値S2未満の場合、転倒危険度Dを「2」に決定する。転倒危険度D=2の場合、利用者Maは、例えば、車室内で移動することなく立ち位置等を定めて静止すれば、充分なバランス能力が発揮できて、通常の車両10の発車、走行時の揺れに耐えうる身体能力を有していると判定するものである。また、決定部58aは、スコア合計値sが、規定値S2以上で、当該規定値S2より大きな規定値S3未満の場合、転倒危険度Dを「3」に決定する。転倒危険度D=3の場合、利用者Maは、例えば、座席18に着座するか、手すり20を把持していれば、通常の車両10の発車、走行時の揺れに耐えうる身体能力を有していると判定するものである。また、決定部58aは、スコア合計値sが、規定値S3以上の場合、転倒危険度Dを「4」に決定する。転倒危険度D=4の場合、利用者Maは、例えば、起立姿勢の場合、通常の車両10の発車、走行時の揺れに耐えられずに転倒する可能性が高く、座席18に着座することが望ましいと判定するものである。このように、危険度決定部58は、利用者Maの乗車時の身体能力値を、乗車動作に基づいて決定するため、転倒危険度Dを客観的により正確に決定することができる。例えば、「高齢者=転倒危険度が高い」とする場合に比べて、転倒危険度の精度が向上し、転倒防止のための制御や警告が過剰に実行されることが回避され、よりスムーズな車両10の発車(運行)制御を行うことができる。
なお、図5に示すスコア合計値sと転倒危険度Dとの対応関係は、一例であり、転倒危険度Dに対するスコア合計値sの対応範囲をより詳細にしてもよい。つまり、転倒危険度Dをより詳細に分類してもよい。なお、スコア合計値sと転倒危険度Dとの対応関係は、予め試験等により決定可能であるが、転倒危険度Dに基づき車両10の発車制御を行った場合でも、転倒が発生することがある。そのため、関係変更部58bは、実際に発生した転倒に基づき、転倒危険度Dに対するスコア合計値sの対応範囲を変更することができる。関係変更部58bによる処理の詳細は後述する。
判定部60は、車両10に乗車した利用者Ma(M)ごとに、転倒危険度Dに対応する乗車姿勢が満たされたか否かを判定する。すなわち、利用者Mが車内での転倒発生確率を軽減できるような乗車姿勢を取っているか否かを判定する。換言すれば、転倒危険度Dに対応する乗車姿勢が満たされれば、利用者Mの車内における転倒発生を抑制しつつ、車両10の発車を許可する可否判断条件が満たされたことになる。前述したように、利用者Mは撮像部24で撮像された時に個人識別符号が付され、当該個人識別符号を追跡することにより、車内における利用者Mの行動を認識することができる。例えば、撮像部24,26,32等で撮像した撮像画像データの画像解析によって、車室内における利用者Mの移動の有無、座席18への着座の有無、手すり20やつり革22の把持の有無等の検出が可能である。つまり、撮像画像データに基づいて、利用者Mの乗車姿勢を認識することができる。また、圧力センサ28(シートセンサ28a、床面センサ28b)の検出結果により利用者Mの座席18への着座の有無や、車内における立ち位置等が検出できる。同様に、把持センサ30の検出結果に基づき、利用者Mが手すり20やつり革22を把持しているか否かをより正確に判定することができる。このように、圧力センサ28や把持センサ30の検出結果を用いることにより、利用者Mの乗車姿勢の認識精度を向上することができる。なお、撮像部32を省略して、圧力センサ28や把持センサ30の検出結果のみで利用者Mの乗車姿勢(手すり20、つり革22を利用している姿勢、座席18に着座している姿勢等)を認識してもよい。
図5には、転倒危険度Dと車両発車の可否判断条件K(乗車姿勢)との対応関係が例示されている。転倒危険度D=1の場合、可否判断条件Kは、例えば「乗車後、規定時間経過」が対応付けられている。すなわち、転倒危険度D=1の利用者Mの場合、例えば、車室内を移動している状況でも通常の車両10の発車の揺れ、走行時の揺れに耐えうる身体能力を有していると判定できる。したがって、判定部60は、利用者Mの乗車姿勢に拘わらず乗車完了(所定時間経過)が確認できた場合、車両10は発車可能であると判定する。また、転倒危険度D=2の場合、可否判断条件Kは、例えば「移動なし」が対応付けられている。すなわち、転倒危険度D=2の利用者Mの場合、例えば、車室内で移動することなく立ち位置等を定めて静止していれば、充分なバランス能力が発揮できて、通常の車両10の発車の揺れ、走行時の揺れに耐えうる身体能力を有していると判定できる。したがって、判定部60は、利用者Mの車内移動完了が確認できた場合、車両10は発車可能であると判定する。
また、転倒危険度D=3の場合、可否判断条件Kは、例えば「着座or手すり把持」が対応付けられている。すなわち、転倒危険度D=3の利用者Mの場合、例えば、座席18に着座するか、手すり20を把持していれば、通常の車両10の発車の揺れ、走行時の揺れに耐えうる身体能力を有していると判定できる。したがって、判定部60は、利用者Mの座席18への着座または手すり20やつり革22の把持を確認した場合、車両10は発車可能であると判定する。また、転倒危険度D=4の場合、可否判断条件Kは、例えば「着座」が対応付けられている。すなわち、転倒危険度D=4の利用者Mの場合、例えば、起立姿勢の場合、通常の車両10の発車の揺れ、走行時の揺れに耐えられずに転倒する可能性があり、座席18に着座することが望ましいと判定できる。したがって、判定部60は、利用者Mの座席18への着座を確認した場合、車両10は発車可能であると判定する。すなわち、転倒リスクの高い利用者Mが存在する場合、座席18への着座が完了するまで、車両10の発車を控える。
制御部62は、判定部60の判定結果に基づき、車両10の発車制御を実行する。制御部62の走行制御部62aは、例えば、可否判断条件Kが満たされるまで(転倒危険度に対応する利用者Mの乗車姿勢が満たされるまで)、例えば、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作の有無に拘わらず、ブレーキシステム44のアクチュエータ44bを制御して制動力を発生させる。すなわち、車両10の発車を抑制する。また、案内情報制御部62bは、発車が許可されていないことを示す案内を、出力部66を介して表示装置34や音声出力装置36に出力する。例えば、表示装置34に発車不許可を示すメッセージを表示させたり、警告灯を点灯させたりする。また、音声出力装置36から案内メッセージや警告音等を出力させてもよい。
ところで、複数の利用者Mが既に乗車していて車内が混雑している場合、転倒危険度D=3や転倒危険度D=4の利用者Mが乗車してきても、座席18に着座できない場合や、手すり20やつり革22を把持できない場合がある。この場合、利用者Mは、転倒危険度Dに対応する乗車姿勢を満たすことができないため、車両10の発車がなかなか許可されないことになる。そこで、制御部62の案内情報制御部62bは、転倒危険度Dに対応する乗車姿勢を満足すことができない利用者Mが存在する場合、その利用者Mが転倒危険度Dに対応する乗車姿勢を取れるようにする案内情報を出力することができる。案内情報制御部62bは、転倒危険度Dの高い利用者Mのために、座席18を譲ることを促す案内情報を出力することができる。例えば、「座席を必要とするお客様がいらっしゃいますので、席をお譲りください」等のメッセージを車室内スピーカ等から出力させるようにすることができる。また、車両内転倒防止部52は、撮像部24で撮像した撮像画像データの画像解析により、乗車時から利用者Mの転倒危険度Dを認識しているとともに、撮像部26,32、圧力センサ28、把持センサ30等により利用者M(利用者Ma)の乗車後の乗車姿勢や乗車位置を認識している。したがって、案内情報制御部62bは、例えば、転倒危険度Dの低い利用者Mから優先的に、転倒危険度Dの高い利用者Mに座席18を譲るように促すような案内情報を出力するようにしてもよい。案内情報は、例えば、ROM42bやSSD42f等に記憶させておくことができる。また、案内情報制御部62bは、各座席18に個別に設けられた例えば、LED灯の案内灯を点灯させて、他の利用者Mに気づかれにくい形態で座席18を譲る協力を求めるようにしてもよい。なお、案内情報制御部62bは、転倒危険度Dのレベルに応じて案内情報の内容を選択するようにしてもよい。或いは、各身体能力(転倒危険度D)の利用者Mの車両10の利用パターン(例えば、ある時間は、ある身体能力の利用者Mの乗車が多い等)を学習し、例えば、身体能力が低い(転倒危険度Dが高い)利用者Mが優先的に使用可能な優先席の数や立ち位置の領域の大きさ等を事前に調整するようにしてもよい。その結果、身体能力の低い(転倒危険度Dが高い)利用者Mの乗車をよりスムーズに行わせることができる。また、車両10の発車もスムーズに行うことができる。そして、車両10の運行効率を向上させることができる。
このように、第1実施形態の車両内転倒防止装置は、転倒危険度Dの高い利用者Mが、転倒危険度Dに対応する乗車姿勢を取れずに、車両10の発車が遅延してしまうことを軽減して、スムーズに車両10の運行(発車)を開始させることができる。なお、図5に示すように、制御部62は、転倒危険度Dごとに監視対象か否かを決定することができる。例えば、全ての利用者Mに対して、転倒危険度Dに対応する乗車姿勢が満たされるまで車両10の発車抑制を実施した場合、効率的な運行を妨げてしまう場合がある。そこで、転倒危険度Dごとに監視対象を決める。例えば、転倒危険度D=1~3の利用者Mに関しては、発車の可否判断条件Kの適用を外すようにしてもよい。この場合、例えば、発車する旨のアナウンスや揺れに対する注意を促すアナウンス等を行うようにしてもよい。なお、監視対象は、例えば、デフォルトとして、全ての転倒危険度Dを指定するようにいし、所定のルールに従い車両10の運転者等が変更できるようにしてもよい(図5は、転倒危険度D=4のみが監視対象の例)。
前述したように、転倒危険度Dに基づく車両発車の可否判断条件Kを満たした場合に車両10を発車したにも拘わらず転倒が発生する場合がある。判定部60は、撮像部24,26,32や床面センサ28b等の検出結果を用いて、利用者M(利用者Ma)の車内における転倒の有無を検出することができる。利用者M(利用者Ma)の転倒の有無の判定は、例えば、手を床面についたか否かで検出することができる。この場合、撮像部24,26,32の撮像画像データの画像処理による利用者Mの上体の変位に加え、および床面センサ28bの検出結果の変化や推移等により、転倒の認識精度を向上することができる。
判定部60は、利用者Mの転倒が発生した場合、転倒者(利用者M)の転倒危険度Dと身体能力値を推定した際の動作特徴項目とを関連付けた第1転倒情報を転倒記憶部72の第1転倒記憶部72aに記憶する。また、判定部60は、転倒者の転倒危険度Dと身体能力値を推定した際のスコア合計値sを関連付けた第2転倒情報を転倒記憶部72の第2転倒記憶部72bに記憶する。転倒記憶部72は、例えば書き換え可能な不揮発性の記憶部であるSSD42fに記憶領域が確保されている。
判定部60の判定結果に基づく車両10の発車制御を実行して転倒が発生した場合、能力推定部56は、利用者Mの身体能力値の推定が不十分であったと推定する。そこで、スコア変更部56bは、第1転倒記憶部72aに記憶された第1転倒情報に基づいて、項目記憶部68に記憶している動作特徴項目ごとのスコアを変更することができる。例えば、転倒者の身体能力値の推定したときに採用した動作特徴項目が、スコア値=1の「ステップを一段ずつ上る」、スコア値=1の「乗込み中の体重心の変動量が規定値G1以上」および、スコア値=2の「手すりを使用しながら乗込む」であり、そのスコア合計値s=4により身体能力値を推定したとする。この場合、転倒者の身体能力を過大評価していた可能性がある。そこで、スコア変更部56bは、動作特徴項目のうち「ステップを一段ずつ上る」と「乗込み中の体重心の変動量が規定値G1以上」のスコア値を「2」に変更する。また、「手すりを使用しながら乗込む」のスコア値を「3」に変更する。この場合、スコア値の変更に伴い、他の動作特徴項目のスコア値を連動させて変更してもよい。「手すりを使用しながら乗込む」のスコア値が「3」に変更されたことに伴い、元々スコア値=3の「ステップに足を乗せる前に手すりに手をかける」という動作特徴項目のスコア値を一ランク上のスコア値=4としてもよい(スコア値=4の新設)。このように、動作特徴項目のスコア値を現実に発生した転倒に基づき変更する学習処理を実行することにより、身体能力値の推定精度を向上することができる。
また、判定部60の判定結果に基づく車両10の発車制御を実行して転倒が発生した場合、危険度決定部58は、利用者Mの転倒危険度Dの決定が不適切であったと推定する。そこで、関係変更部58bは、第2転倒記憶部72bに記憶された第2転倒情報に基づいて、関係テーブル記憶部70に記憶しているスコア合計値sと転倒危険度Dの対応関係を変更することができる。例えば、変更前は、スコア合計値sが、規定値S1以上で規定値S2未満の場合、転倒危険度Dは「2」に決定していたとする。この場合、利用者Mの車室内での移動が完了すると車両10の発車が許可される。ただし、その結果として、転倒危険度D=2の利用者Mが転倒した。そこで、関係変更部58bは、スコア合計値sが規定値S1以上で規定値S2未満の場合の転倒危険度Dを「3」に変更する学習処理を実行する。その結果、利用者Mがより安定した乗車姿勢、例えば、「着座or手すり把持」の条件を満たすまで、車両10の発車が控えられる(発車の不許可)。その結果、利用者Mの転倒の発生リスクを低減することができる。
なお、スコア変更部56bや関係変更部58bによるスコア値や対応関係の変更は、利用者Mの転倒発生の度に行ってもよいが、変更内容に偏り等が発生する可能が高まる。そこで、スコア変更部56bや関係変更部58bは、所定数のサンプル数が揃った場合や所定の期間が経過した場合等で、統計的な傾向がはっきりした段階で変更(学習)を行うようにしてもよい。この場合、車両内転倒防止部52は、転倒記憶部72から第1転倒情報や第2転倒情報を呼び出して、学習した結果に基づいて変更することができる。また、別の実施形態では、送受信部64が外部のシステム、例えば、車両10の運行を管理する管理センタのシステムに第1転倒情報や第2転倒情報を送信し、管理センタ側で学習を行い、変更内容を決定してもよい。この場合、管理センタで決定された変更内容は、送受信部64を介してスコア変更部56bや関係変更部58bに提供される。そして、スコア変更部56bやスコア変更部56bが項目記憶部68や関係テーブル記憶部70の内容を変更するようにしてもよい。なお、スコア変更部56bや関係変更部58bにおける学習内容の変更は、所定期間ごとに自動的に実行されてもよいし、運転者等が手動で変更処理を行うようにしてもよい。
また、送受信部64は、能力推定部56が推定した利用者Mの身体能力値に関する情報、危険度決定部58が決定した転倒危険度に関する情報、制御部62が実行した車両10の制御に関する情報、提供した案内情報に関する情報等を、利用者Mが乗車した場所や時間、天候等を関連付けて、管理センタ等の外部システムに送信してもよい。これらの情報により、転倒の可能性の高い利用者がよく利用する地域や時間帯等の分布情報を得ることができる。管理センタ等の外部システムに送信した各情報は、車両の運行態様の変更、例えば運行に利用する車両10の仕様(例えば、座席や手すり、つり革等の数、乗降口の高さ等)を利用者Mの傾向に応じて適切なものに変更するための検討材料として用いることができる。また、混雑緩和ができるような運行ダイヤや、運行時の揺れ軽減ができるような運行ルート等の検討材料として利用することができる。その結果、よりスムーズで転倒リスクを低減した、車両10の運行を実現することができる。なお、送受信部64は、取得部54が取得した撮像画像データを管理センタ等の外部システムに送信可能で、利用者M(利用者Ma)の傾向(年齢、性別、荷物の量、車内での乗車位置等)の分析に利用してもよい。利用者Mの情報が多くなることで、車両10の仕様や運行ダイヤ、運行ルート等についてより正確に検討することができる。
上述の説明において、能力推定部56の推定部56aは、取得部54が取得した撮像画像データを解析して得られた利用者Mの乗込動作と項目記憶部68に記憶された複数の動作特徴項目とを逐次照合してスコア合計値sを算出して、身体能力値を推定した。他の実施形態において、推定部56aは、利用者Mが乗車時に取り得る動作のうち身体能力値への影響度の高い動作を示す動作指標(説明変数)に基づいて予め作成したモデル式(重回帰式)を用いて、身体能力値を推定してもよい。モデル式は例えば以下のようになる。
身体能力指数p=α1×動作指標A+α2×動作指標B+α3×動作指標C+β
ここで、身体能力指数pが重回帰式における目的変数で、α1,α2,α3が偏回帰係数、動作指標A,B,Cは、身体能力値への影響度の高い動作を示す説明変数で、βが定数項となる。動作指標A,B,Cの内容は、予め行う試験で高精度の身体能力値を推定できるものが適宜選択される。動作指標Aは、例えば、車両10のステップ14aに乗ったときの歩隔である。身体能力が低い程、歩隔を広くして安定感を得ようとする動作が表れやすい。また、動作指標Bは、例えば、ステップ14aを登るときの上体の前傾量である。身体能力が低いほど前傾姿勢をとり、楽にバランスを取ろうとする動作が表れやすい。なお、前傾量は、例えば、顔と膝との距離やその距離の変化率等で表すことができる。また、動作指標Cは、例えば、ステップ14aを登った後に次の一歩を踏み出すまでの時間である。身体能力が低いほど、一動作(例えばステップ14aを登った動作)の後に一旦休憩を入れる動作が表れやすい。なお、重回帰式における、動作指標(説明変数)の数は、予め行う試験段階で複数のサンプルの検証により決定することができる。また、偏回帰係数は、試験段階のサンプルの数(データベース)に依存して決定される。
図6には、上述したモデル式で算出した身体能力指数p(スコア値)と転倒危険度Dとの対応関係が示されている。身体能力指数p(スコア値)が、例えば、3.0以上の場合、転倒危険度Dは、「1」が対応付けられる。転倒危険度D=1の場合、可否判断条件Kは、例えば「乗車後、規定時間経過」が対応付けられている。したがって、判定部60は、利用者Mの乗車姿勢に拘わらず乗車完了(所定時間経過)が確認できた場合、車両10は発車可能であると判定する。また、身体能力指数p(スコア値)が、例えば、2.0以上3.0未満の場合、転倒危険度Dは、「2」が対応付けられる。転倒危険度D=2の場合、可否判断条件Kは、例えば「移動なし」が対応付けられている。したがって、判定部60は、利用者Mの車内移動完了が確認できた場合、車両10は発車可能であると判定する。
また、身体能力指数p(スコア値)が、例えば、1.0以上2.0未満の場合、転倒危険度Dは、「3」が対応付けられる。例えば、転倒危険度D=3の場合、可否判断条件Kは、例えば「着座or手すり把持」が対応付けられている。したがって、判定部60は、利用者Mの座席18への着座または手すり20やつり革22の把持を確認した場合、車両10は発車可能であると判定する。また、身体能力指数p(スコア値)が、例えば、1.0以下の場合、転倒危険度Dは、「4」が対応付けられる。転倒危険度D=4の場合、可否判断条件Kは、例えば「着座」が対応付けられている。したがって、判定部60は、利用者Mの座席18への着座を確認した場合、車両10は発車可能であると判定する。なお、図6に示す例の場合も、制御部62は、転倒危険度Dごとに監視対象か否かを決定することができる(図6は、転倒危険度D=4のみが監視対象の例)。
このように、モデル式を用いる場合、利用者Mの特定の動作(数種類の説明変数)に限定して身体能力指数p(スコア値)を算出し、転倒危険度Dを決定するので、CPU42aの処理負荷が軽減できるとともに、より迅速に転倒危険度Dの決定を行うことができる。一方、項目記憶部68を用いて身体能力値の推定を行う場合、各動作特徴項目との照合が必要になり、CPU42aの処理負荷は増加するものの、利用者Mの乗車動作をより詳細に解析可能となる。その結果、身体能力値の推定精度の向上が可能であり、転倒危険度Dの信頼性を増加させることができる。
以上のように構成される車両内転倒防止装置(車両内転倒防止部52)による転倒防止処理の流れの一例を図7のフローチャートを用いて説明する。なお、図7のフローは、車両10の電源がONになっている間、所定の処理周期で繰り返し実行されるものとする。また、第1実施形態の場合、撮像部24,26,32は、車両10の電源がONになっている間、常時撮像しているものとする。
取得部54は、車両10の開閉ドア14bが開動作を開始すると乗降口14の内外を含む領域を撮像した撮像部24の撮像画像データを逐次取得する。そして、能力推定部56は、取得した撮像画像データに画像解析を施し利用者Mを抽出し、当該利用者Mごとに個人識別符号を付与するとともに、利用者Mごとの乗込動作を検出する(S100)。
そして、推定部56aは、検出した利用者Mの動作と、項目記憶部68から読み出した動作特徴項目(図4参照)との照合を行うとともに、身体能力値の推定を行う(S102)。すなわち、推定部56aは、利用者Mの動作と一致する動作特徴項目のスコア値を加算してスコア合計値sを算出する。
続いて、危険度決定部58は、関係テーブル記憶部70から読み出した関係テーブル(図5参照)を用いて、推定部56aで算出されたスコア合計値sに対応する転倒危険度Dを決定する(S104)。
そして、判定部60は、決定した転倒危険度Dが監視対象に指定さているか否か確認し(S106)、監視対象である場合(S106Yes)、利用者MがS104で決定された転倒危険度Dに対応する乗車姿勢を満たしているか否か判定する(S108)。転倒危険度Dに対応する乗車姿勢が満たされていない場合(S108のNo)、案内情報制御部62bは、例えば、その乗車姿勢をとるように利用者Mに促す案内情報を出力させたり、利用者Mがその乗車姿勢を取れるように他の利用者Mに協力を求める案内情報等を出力させたりして(S110)、S108の処理に戻る。一方、S108において、利用者Mが、転倒危険度Dに対応する乗車姿勢を満たした場合(S108のYes)、今回の開閉ドア14bの開放で乗車する全ての利用者Mの転倒危険度Dの決定が済み、乗車姿勢の確認が済んだか否かを確認する(S112)。全ての利用者Mの確認が済んでいない場合(S112のNo)、例えば、まだ、乗り込もうとしている利用者Mがいる場合、S100に戻り、S100以降の処理を繰り返し実行する。
S112において、全ての利用者Mの確認が済んだ場合(S112のYes)、すなわち、開閉ドア14bが閉動作し、乗り込んだ全ての利用者Mに対して転倒危険度Dが決定され、その転倒危険度Dに対応する乗車姿勢が満たされた場合、走行制御部62aは、車両10の発車を許可する信号を出力する(S114)。そして、走行制御部62aは、発車制御を実行して(S116)、このフローを一旦終了する。例えば、走行制御部62aは、ブレーキシステム44を制御し、ブレーキペダルの踏み込みの有無にかかわりなく発生させていた制動力を解除して、車両10の走行を可能とする。
なお、S106において、決定した転倒危険度Dが監視対象に指定さていない場合(S106のNo)、S112に移行して、S112以降の処理を実行する。
このように、本実施形態の車両内転倒防止装置によれば、利用者Mの身体能力値を利用者Mが乗り込む際の乗込動作に基づいて推定するので、年齢や性別等により推定する場合に比べ、より正確な身体能力値の推定が可能になる。その結果、利用者Mの車内での転倒の可能性の推定精度が向上し、より正確な転倒危険度Dを決定し、転倒の発生を低減することができる。また、より正確な身体能力値の推定が可能になることで、過剰に発車制限がかけられることが軽減され、適切な走行制御が可能なる。
上述したように、車両内転倒防止部52は、利用者Maに対して、乗込時に身体能力値の推定およびそれに基づき転倒危険度Dを決定する。また、車両内転倒防止部52は、利用者Maが車両10に乗車している間、撮像部32、圧力センサ28、把持センサ30等により乗車姿勢を確認し続けることができる。したがって、車両内転倒防止部52は、発車時に転倒危険度Dに対応する乗車姿勢を満たしていたが、その後満たさなくなった利用者Mを検出することができる。乗車中に転倒危険度Dに対応する乗車姿勢を満たさなくなった利用者M(Ma)を検出した場合、判定部60は、次の発車制御の際に、乗車中に乗車姿勢を満たさなくなった利用者Mも車両発車の可否判断の対象としてもよい。また、案内情報制御部62bは、乗車中に乗車姿勢を満たさなくなった利用者Mを対象として、乗車姿勢を戻すような案内情報や、他の利用者Mの協力を求める案内情報を出力するようにしてもよい。その結果、利用者Mの車内転倒の可能性をより軽減することできるとともに、スムーズな車両10の運行を実現することができる。
なお、上述した第1実施形態の場合、転倒危険度Dが監視対象でない場合、車両10の発車を許可したが、例えば、監視対象外となった転倒危険度Dに応じて、発車時の制御状態を変化させてもよい。例えば、加速勾配を緩めるような制御を行ったり、自動的に案内情報を出力したりするようにしてもよい。
また、上述した第1実施形態において、関係変更部58bは、転倒が発生した場合に関係テーブル記憶部70の内容を変更する例を示した。他の実施形態において、関係変更部58bは、車両10の混雑状態(乗車率)に応じて、関係テーブル記憶部70の内容を変更するようにしてもよい。例えば、車内が混雑している場合(乗車率が高い場合)、利用者間の隙間が少ない。このような場合、車両10が揺れても、身体能力値の低い利用者が転倒する可能性は低い。そのため、関係変更部58bは、スコア合計値s(身体能力指数p)に対する転倒危険度Dのレベルを下げるように変更してもよい。その結果、よりスムーズな発進制御を行うことができる。逆に、車内が空いている場合(乗車率が低い場合)、利用者の上体は混雑している場合に比べて動きやすい。つまり、転倒に繋がる可能性が増加する。そのため、関係変更部58bは、スコア合計値s(身体能力指数p)に対する転倒危険度Dのレベルを上げるように変更してもよい。その結果、車両10の運行状況により適した転倒防止制御ができる。
第1実施形態では、車両10の一例としてバス(路線バス)を示したが、複数の利用者が乗降可能な車両であれば、適用可能であり、例えば、新交通システム、路面電車等でも本実施形態の車両内転倒防止装置は適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態として、第1実施形態と同様に、利用者の身体能力を推定して転倒危険度を決定する第2実施形態について説明する。第2実施形態では、車両等に乗り込む前、例えば、車両等に向かって歩行しているときに、段差部分(例えば、階段やステップ)を通過する際の昇降動作を取得する。そして、取得した昇降動作に基づき、転倒危険度を含む転倒防止情報を作成し、外部のシステム、例えば、これから乗ろうとする車両や進入しようとする施設に提供して、車両や施設において利用者の転倒リスクを軽減できるように転倒防止対応(対策)を実施できるようにする。つまり、第2実施形態は、転倒防止情報提供装置であり、第1実施形態で、車両10で行っていた推定処理や決定処理を外部システムで行い、車両10等に提供することにより、車両10における処理負荷を軽減するとともに、転倒防止をさらに実施しやすくする。
図8は、第2実施形態の転倒防止情報提供装置200から提供される転倒防止情報を車両210(例えば、バス)や無人走行または半無人走行の車両を遠隔操作する遠隔監視システム212(管理システム)等に提供して活用することを示す例示的かつ模式的な説明するである。なお、図8の場合、転倒防止情報提供装置200の設置場所は、車両210の停留所214の近傍でもよいし、停留所214において検出される各種データを遠隔地に転送できれば、転倒防止情報提供装置200は、遠隔地の管理センタ等に設置されていてもよい。
図8の例は、停留所214の雨よけ214aに進入する入口214bの上部位置等に、撮像部216が設置されている。撮像部216は、これから車両210に乗り込むために待機する待機スペース214cにつながる入口214bに設けられた段差部分218(階段、ステップ等)を通過する際の利用者Mの昇降動作を撮像し、転倒防止情報提供装置200に逐次提供している例である。図8に示すように、段差部分218が上り階段の場合、撮像部216は利用者Mの昇降動作として、昇段動作を撮像し、段差部分218が下り階段の場合、撮像部216は、利用者Mの降段動作を撮像する。
利用者Mを撮像する撮像部216は、例えば、CCD(charge coupled device)やCIS(CMOS image sensor)等の撮像素子を内蔵するデジタルカメラである。撮像部216は、所定のフレームレートで動画データを逐次取得し、撮像画像データとして出力する。なお、撮像部216は、人体が放射する赤外線を撮像する赤外線カメラでもよい。撮像部216の撮像領域は、例えば、段差部分218を移動する利用者Mの挙動を撮像可能な範囲である。撮像部216の撮像領域は、例えば、段差部分218へ進入する前(1~2m手前の領域)を含み、218への進入を待っている状態の姿勢を撮像し、身体能力の判定情報に含めてもよい。
また、入口214bに設けられた段差部分218には、昇降する際に利用できる手すり220が設置されている。手すり220には、第1実施形態の手すり20と同様に、手すり220を利用している(把持している)ことを検出する把持センサ222(例えば、静電容量センサや圧力センサ等)が配置されている。また、段差部分218には、利用者Mの立ち位置の特定や身体重心の移動(例えば移動速度)の特定や、身体が大きな揺れた(大きくよろめいた)こと、バランスを失ったこと等を検出する圧力センサ224が、段差部分218の表面に一定の間隔(例えばマトリックス状)配置されている。
身体能力が低下している利用者Mの場合、第1実施形態で車両10に乗車する際と同様に、例えば、段差部分218を上る場合に当該段差部分218に足をかけて、上体を持ち上げる際に、上体を支えたり、姿勢を安定させたりする動作を無意識に取る場合がある。例えば、手すり220等周囲の物を無意識に掴んだりする。また、バランスを取るために、足かけ動作や上体の引き上げ動作が無意識に緩慢になったりする場合がある。同様に、段差部分218に上り終えた後も、無意識に周囲の物を掴んだり、次の一歩の踏みだしが遅くなったり、姿勢を維持するために歩隔(起立時の両足の左右間隔)を無意識に広げたりする。転倒防止情報提供装置200の撮像部216は、利用者Mが段差部分218を通過する際の昇降動作を撮影し、昇降動作を解析する。その結果、転倒防止情報提供装置200は、利用者Mの自身の身体能力の低下を補完するための(無意識の)行動特徴(手すり220の利用や緩慢な動作等)の有無を検出し、転倒に関わる身体機能の大きさを推定して転倒危険度を決定する。そして、転倒防止情報提供装置200は、転倒危険度を含む転倒防止情報提を作成する。つまり、転倒防止情報提供装置200は、年齢や性別等の属性にかかわりなく、利用者Mの身体能力を客観的に評価し推定した転倒防止情報を事前に作成する。そして、転倒防止情報提供装置200は、車両210や遠隔監視システム212等に転倒防止情報を提供することにより、より転倒を発生し難いような、車両制御や事前準備を実行させやすくすることができる。
転倒防止情報提供装置200は、PC(Personal Computer)などといった一般的な情報処理装置と同様のコンピュータ資源を有している。図9は、転倒防止情報提供装置200に含まれるCPU226で実現される転倒防止情報提供部228の構成を示す例示的かつ模式的なブロック図である。転倒防止情報提供装置200は、CPU(Central Processing Unit)226と、ROM(Read Only Memory)230と、RAM(Random Access Memory)232と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)234等の記憶部と、通信インターフェースと、入出力インターフェース(いずれも不図示)等で構成されている。CPU226は、転倒防止情報提供装置200の動作を統括的に制御する。ROM230は、各種プログラムやデータを記憶する不揮発性の記憶装置である。RAM232は、各種プログラムを一時的に記憶したり、各種データを書き換えたりするための記憶装置である。CPU226は、RAM232をワークエリア(作業領域)としてROM230、記憶部等に格納されたプログラムを実行する。SSD234は、書き換え可能な不揮発性の記憶部であって、転倒防止情報提供装置200の電源がオフされた場合にあってもデータを記憶することができる。例えば、身体能力値を推定する場合に参照する動作特徴項目や転倒危険度を決定する場合に参照する関係テーブル等を記憶する。
CPU226は、ROM230から読み出した転倒防止情報提供プログラムを実行することにより転倒防止情報提供部228を実現する。転倒防止情報提供部228は、その機能を実現するための各種モジュールを含む。転倒防止情報提供部228は、例えば、取得部236、能力推定部238、危険度決定部240、出力部242等のモジュールを含む。また、能力推定部238は、推定部238a、スコア変更部238b等の詳細モジュールを含む。危険度決定部240は、決定部240a、関係変更部240b等の詳細モジュールを含む。
取得部236は、撮像部216が撮像した撮像画像データ(撮像画像)を逐次取得する。取得部236は、撮影場所(撮影領域)、撮影時刻等を識別する識別符号を撮像画像データに添付して取得部236に提供してもよいし、当該取得部236で取得した撮像画像データごとに識別符号を添付するようにしてもよい。
能力推定部238は、取得部236が取得した撮影画像データを画像解析(例えば、周知の顔認識等を用いた画像解析)することにより、撮像画像から利用者Mを抽出するとともに、利用者Mごとに個人識別符号を付与する。そして、能力推定部238は、個人識別した利用者Mの昇降動作の詳細解析を行い、個別動作ごとに評価を行い、利用者Mの身体能力値を推定する。具体的には、能力推定部238の推定部238aは、利用者Mが段差部分218の通過時に取り得る動作ごとに、スコアが付された動作特徴項目を記憶する項目記憶部234aを参照する。そして、推定部238aは、利用者Mの動作のうち確認できた動作特徴項目に対応するスコアを逐次加算し、スコアの合計値を利用者Mの身体能力値とする(推定する)。なお、項目記憶部234aは、例えば書き換え可能な不揮発性の記憶部であるSSD234に、記憶領域が確保されている。
図10には、項目記憶部234aに記憶されている動作特徴項目の一例が示されている。図10に例示されるように、複数の動作特徴項目と、その動作が確認できた場合に加算するスコアが対応付けられて記憶されている。なお、図10に示すスコアは、例えば、身体能力が高い程、数値が低くなるように定義されている。
推定部238aは、取得部236が取得した撮像部216の撮像画像データにおいて、段差部分218を上り、待機スペース214cに進入する利用者Mの動作が取得できた場合、その動作と項目記憶部234aに記憶されている動作特徴項目との照合を行う。例えば、推定部238aにおいて、利用者Mが段差部分218を通過して待機スペース214cに進入する際に、「手すりを使用していない」、「昇降動作にかかる時間が規定時間T1秒以内」、「昇降動作後の最初の1歩が規定幅W1以上」等が確認できた場合、それぞれの動作特徴項目は、スムーズな昇降動作を実行するために必要な身体能力の一つである。この場合、推定部238aは、利用者Mの身体能力を示すスコアとして、確認された動作特徴項目ごとに、スコア値「0」をRAM232の作業領域に登録する。同様に、利用者Mが段差部分218を通過し待機スペース214cに進入する際に、「昇降動作開始時の前後傾姿勢変化量が規定値L1以上」、「昇降動作中の体重心の変動量が規定値G1以上」、「段差部分を一段ずつ昇降する」等が確認できた場合、それぞれの動作特徴項目は、若干の緩慢さが認められる動作を示す。したがって、利用者Mは、スコア=0の動作特徴項目を実現できる利用者Mに比べて、「小程度の身体能力低下」が認められると見なすことができる。この場合、推定部238aは、利用者Mの身体能力を示すスコアとして、確認された動作特徴項目ごとに、スコア値「1」をRAM232の作業領域に登録する。
また、同様に、利用者Mが、段差部分218を上り、待機スペース214cに進入する際に、「手すりを使用しながら昇降動作をとる」、「昇降動作終了が規定時間T2以上」、「昇降動作後の最初の1歩が規定幅W2以下」、「昇降動作後の歩隔が規定距離M1以上」、「昇降動作開始時の前後傾姿勢変化量が規定値L2以上」、「昇降動作中の体重心の変動量が規定値G2以上」等が確認できた場合、それぞれの動作特徴項目は、顕著な緩慢さが認められる動作を示す。したがって、利用者Mは、スコア=0の動作特徴項目を実現できる利用者Mに比べて、「中程度の身体能力低下」が認められると見なすことができる。この場合、推定部238aは、利用者Mの身体能力を示すスコアとして、確認された動作特徴項目ごとに、スコア値「2」をRAM232の作業領域に登録する。
さらに、利用者Mが、段差部分218を上り、待機スペース214cに進入する際に、「段差部分に足を乗せる前に手すりに手をかける」、「段差部分に片足を乗せて一旦、動作が止まる」、「手すり側への身体の傾きが大きい」、「昇降動作終了後に一旦、動作が止まる」、「昇降動作開始時に後傾姿勢変化がある」等が確認できた場合、それぞれの動作特徴項目は、身体のバランスを慎重にとるための動作を示す。したがって、利用者Mは、スコア=0の動作特徴項目を実現できる利用者Mに比べて、「大程度の身体能力低下」が認められると見なすことができる。この場合、推定部238aは、利用者Mの身体能力を示すスコアとして、確認された動作特徴項目ごとに、スコア値「3」をRAM232の作業領域に登録する。
推定部238aは、撮像部216が撮像した利用者Mの昇降動作の中で確認できた動作特徴項目のスコアの合計を算出し、そのスコア合計値sを利用者Mの身体能力値とする。この場合、スコア合計値sは、値が大きくなるほど、身体能力が低いことを示す。
なお、図10に示す動作特徴項目は、一例であり、項目数の増減は適宜実施可能である。また、動作特徴項目ごとのスコアは、予め試験等により決定可能であるが、スコア合計値sにより身体能力値を推定し、転倒危険度を確定して車両210等の発車制御を行った場合でも、転倒が発生することがある。そのため、スコア変更部238bは、実際に発生した転倒に基づき、動作特徴項目ごとのスコア値を変更することができる。スコア変更部238bによる処理の詳細は後述する。
能力推定部238により利用者Mの身体能力値が推定できると、危険度決定部240は、身体能力値に基づき利用者Mの転倒危険度を決定する。危険度決定部240の決定部240aは、スコア合計値と転倒する可能性を示す転倒危険度との関係を定めた関係テーブルを関係テーブル記憶部234bから読み出し、利用者Mのスコア合計値に対応する担当危険度を決定する。なお、関係テーブル記憶部234bは、例えば書き換え可能な不揮発性の記憶部であるSSD234にその記憶領域が確保されている。
図11には、関係テーブル記憶部234bに記憶されている、身体能力値を示すスコア合計値sと転倒危険度Dとの関係を定めた関係テーブルの一例が示されている。図11に例示されるように、転倒危険度Dは、一定の幅のスコア合計値sに対応している。なお、図11に示す転倒危険度Dは、例えば、スコア合計値sが大きい程、転倒危険度Dが高い、すなわち、転倒リスクが高いことを示すように設定されている。
決定部240aは、推定部238aが算出したスコア合計値sが、例えば、規定値S1未満の場合、転倒危険度Dを「1」に決定する。転倒危険度D=1の場合、例えば、転倒の可能性は低く、特に転倒防止対応は要しないと判定するものである。また、決定部240aは、スコア合計値sが、規定値S1以上で、当該規定値S1より大きな規定値S2未満の場合、転倒危険度Dを「2」に決定する。転倒危険度D=2の場合、利用者Mは、例えば、転倒の可能性が僅かにあるため、転倒防止対応(対策)は必要としないものの注意が必要であると判定するものである。
決定部240aは、スコア合計値sが、規定値S2以上で、当該規定値S2より大きな規定値S3未満の場合、転倒危険度Dを「3」に決定する。転倒危険度D=3の場合、利用者Mは、例えば、転倒の可能性はあるため、転倒防止対応(対策)が必要であると判定するものである。また、決定部240aは、スコア合計値sが、規定値S3以上の場合、転倒危険度Dを「4」に決定する。転倒危険度D=4の場合、利用者Mは、例えば、転倒の可能性が高く、優先的に転倒防止対応(対策)が必要であると判定するものである。このように、危険度決定部240は、利用者Mの段差部分218を通過する際の身体能力値を、昇降動作に基づいて決定するため、転倒危険度Dを客観的により正確に決定することができる。例えば、「高齢者=転倒危険度が高い」とする場合に比べて、転倒危険度の精度が向上する。その結果、転倒防止情報を受け取った車両210や遠隔監視システム212等の情報利用者は、転倒防止のための制御や警告等の対策を過剰に実行する必要がなく、よりスムーズな自然なサービスを利用者Mに提供することができる。なお、決定部240aは、転倒危険度Dごとに監視対象か否かを決定することができる。図11は、転倒危険度D=4のみが監視対象となっている例である。
図11に示すスコア合計値sと転倒危険度Dとの対応関係は、一例であり、転倒危険度Dに対するスコア合計値sの対応範囲をより詳細にしてもよい。つまり、転倒危険度Dをより詳細に分類してもよい。なお、スコア合計値sと転倒危険度Dとの対応関係は、予め試験等により決定可能であるが、転倒危険度Dに基づき車両210等の発車制御を行った場合でも、転倒が発生することがある。そのため、関係変更部240bは、実際に発生した転倒に基づき、転倒危険度Dに対するスコア合計値sの対応範囲を変更することができる。関係変更部240bによる処理の詳細は後述する。
出力部242は、危険度決定部240が決定した転倒危険度Dを含む転倒防止情報を作成し、外部のシステム(例えば車両210や遠隔監視システム212等)に出力する。転倒防止情報は、撮像部216が撮像した利用者Mごとの個人識別符号と転倒危険度Dを関連付けた情報の他、利用者Mの身体的特徴、例えば顔認識情報、体型情報、荷物の有無、付添人の有無等、利用者Mを特定するための情報を含んでもよい。
出力部242は、例えば、転倒防止情報を車両210に提供することにより、車両210では、これから乗車してくると予想される利用者Mに対する転倒防止対応(対策)を事前に行うことができる。例えば、利用者Mが乗車しようとする停留所214に到着する前に、転倒危険度D=4の利用者Mのために、優先席等を空けるように事前の車内放送を行ったり、既に乗車している利用者Mに協力を求めたりすることができる。また、例えば、第1実施形態で説明したように、車両210の発進時の制御を行う場合にも停留所214の到着前に、既に乗車している利用者Mに対して、次の停留所214で発車を慎重に行うこと等のアナウンスが可能になり、既に乗車している利用者Mの協力をより得やすくすることができる。その結果、例えば、転倒危険度D=4の利用者Mの乗車(受け入れ)をスムーズに行うことが可能になり、転倒危険度D=4の利用者Mの転倒の可能性を低減することができる。また、転倒防止対応(対策)を停留所214に到着する前に完了させることができるので、停留所214における利用者Mの受け入れをより迅速に行うことが可能になり、車両210の出発(運行)をよりスムーズに行うことができる。
また、車両210の運転者は、事前に例えば転倒危険度D=4の利用者Mを把握し、そのために転倒防止対応(対策)を行うことができるので、転倒危険度D=4の利用者Mが車両210に乗車してきた場合、注意を払いやすく、また、転倒防止が完了したか否かが確認しやすくなる。このように、転倒防止情報提供装置200から事前に転倒防止情報を受け取ることにより、第1実施形態の車両10のように新たに撮像装置やセンサ等を増設することなく、既存の車両において転倒防止対策を実施することができる。なお、第1実施形態の車両内転倒防止部52を備える車両10においても、転倒防止情報提供装置200から転倒防止情報を受け取ることが可能である。この場合、乗降口16に設けた撮像部24の省略が可能であるとともに、車両内転倒防止部52において、能力推定部56や危険度決定部58等の省略が可能であり、システムの簡略化、処理負荷の軽減化、コストダウン化等に寄与できる。その場合でも、車室内の撮像部32や、座席18や床に設けた圧力センサ28、手すり20等に設けた把持センサ30等により車内での利用者Mの行動(動作)を継続して監視することにより、転倒防止をより確実に行うことができる。
ところで、転倒防止情報提供装置200から転倒防止情報の提供を受けた車両210において、転倒危険度Dに基づく転倒防止対応を行った場合でも、転倒が発生する場合がある。例えば、利用者Mが車両210に乗り込んだ後も車両210内で利用者Mの撮影を継続して行い画像解析等を行うことで、転倒防止情報提供装置200から提供された転倒防止情報に含まれる個人識別符号に基づく特定の利用者Mの追跡が可能である。つまり、利用者Mの車内における動作や転倒の有無等を検出することが可能で、転倒防止情報提供装置200に転倒の事実をフィードバック可能である。また、車両210の運転者や乗員は、転倒防止情報提供装置200から提供された転倒防止情報に基づき、利用者Mごとの転倒危険度Dを把握可能なので、転倒が発生した場合、転倒防止情報提供装置200に転倒した利用者Mに関する情報をフィードバック可能である。
転倒防止情報提供装置200は、提供した転倒防止情報に基づく転倒防止対応を車両210で実行したにも拘わらず転倒が発生した場合、能力推定部238による利用者Mの身体能力値の推定が不十分であったと推定する。そこで、スコア変更部238bは、車両210からフィードバックされた転倒情報に基づいて、項目記憶部234aに記憶している動作特徴項目ごとのスコアを変更することができる。例えば、転倒者の身体能力値の推定したときに採用した動作特徴項目が、スコア値=1の「段差部分を一段ずつ昇降する」、スコア値=1の「昇降動作中の体重心の変動量が規定値G1以上」および、スコア値=2の「手すりを使用しながら昇降動作をとる」であり、そのスコア合計値s=4により身体能力値を推定したとする。この場合、転倒者の身体能力を過大評価していた可能性がある。そこで、スコア変更部238bは、動作特徴項目のうち「段差部分を一段ずつ昇降する」と「昇降動作中の体重心の変動量が規定値G1以上」のスコア値を「2」に変更する。また、「手すりを使用しながら昇降動作をとる」のスコア値を「3」に変更する。この場合、スコア値の変更に伴い、他の動作特徴項目のスコア値を連動させて変更してもよい。「手すりを使用しながら昇降動作をとる」のスコア値が「3」に変更されたことに伴い、元々スコア値=3の「段差部分に足を乗せる前に手すりに手をかける」という動作特徴項目のスコア値を一ランク上のスコア値=4としてもよい(スコア値=4の新設)。このように、動作特徴項目のスコア値を現実に発生した転倒に基づき変更する学習処理を実行することにより、身体能力値の推定精度を向上することができる。
また、転倒防止情報提供装置200は、提供した転倒防止情報に基づく転倒防止対応を車両210で実行したにも拘わらず、転倒が発生した場合、危険度決定部240は、利用者Mの転倒危険度Dの決定が不適切であったと推定する。そこで、関係変更部240bは、車両210からフィードバックされた転倒情報に基づいて、関係テーブル記憶部234bに記憶しているスコア合計値sと転倒危険度Dの対応関係を変更することができる。例えば、変更前は、スコア合計値sが、規定値S1以上で規定値S2未満の場合、転倒危険度Dは「2」に決定していたとする。そして、転倒危険度D=2に基づき転倒防止対応を例えば車両210で実施したのも拘わらず、監視対象者が転倒した。そこで、関係変更部58bは、スコア合計値sが規定値S1以上で規定値S2未満の場合の転倒危険度Dを「3」に変更する学習処理を実行する。その結果、利用者Mに対する、転倒防止対応の内容がレベルアップされる。例えば、車両210において着座や手すり把持が確実にできるように転倒防止対応(対策)の内容が変更される。その結果、利用者Mの転倒の発生リスクを低減することができる。
なお、スコア変更部238bや関係変更部240bによるスコア値や対応関係の変更は、利用者Mの転倒発生のフィードバックが行われるごとに行ってもよいが、変更内容に偏り等が発生する可能が高まる。そこで、スコア変更部238bや関係変更部240bは、所定数のサンプル数が揃った場合や所定の期間が経過した場合等で、統計的な傾向がはっきりした段階で変更(学習)を行うようにしてもよいし、所定期間ごとに自動的に実行されてもよい。また、転倒防止情報提供装置200のオペレータが手動で変更処理を実行できるようにしてもよい。
上述の説明において、能力推定部238の推定部238aは、取得部236が取得した撮像画像データを解析して得られた利用者Mの昇降動作と項目記憶部234aに記憶された複数の動作特徴項目とを逐次照合してスコア合計値sを算出して、身体能力値を推定した。他の実施形態において、第1実施形態と同様に、推定部238aは、利用者Mが218の昇降時に取り得る動作のうち身体能力値への影響度の高い動作を示す動作指標(説明変数)に基づいて予め作成したモデル式(重回帰式)を用いて、身体能力値を推定してもよい。モデル式は例えば以下のようになる。
身体能力指数p=α1×動作指標A+α2×動作指標B+α3×動作指標C+β
ここで、身体能力指数pが重回帰式における目的変数で、α1,α2,α3が偏回帰係数、動作指標A,B,Cは、身体能力値への影響度の高い動作を示す説明変数で、βが定数項となる。動作指標A,B,Cの内容は、予め行う試験で高精度の身体能力値を推定できるものが適宜選択される。動作指標Aは、例えば、段差部分218を昇降する際の歩隔である。身体能力が低い程、歩隔を広くして安定感を得ようとする動作が表れやすい。また、動作指標Bは、例えば、段差部分218を登る(降りる)ときの上体の前(後)傾量である。身体能力が低いほど前傾姿勢(後傾姿勢)をとり、楽にバランスを取ろうとする動作が表れやすい。なお、前後傾量は、例えば、顔と膝との距離やその距離の変化率等で表すことができる。また、動作指標Cは、例えば、段差部分218を昇降した後に次の一歩を踏み出すまでの時間である。身体能力が低いほど、一動作(例えば段差部分218を昇降した動作)の後に一旦休憩を入れる動作が表れやすい。なお、重回帰式における、動作指標(説明変数)の数は、予め行う試験段階で複数のサンプルの検証により決定することができる。また、偏回帰係数は、試験段階のサンプルの数(データベース)に依存して決定される。
図12には、上述したモデル式で算出した身体能力指数p(スコア値)と転倒危険度Dとの対応関係が示されている。身体能力指数p(スコア値)が、例えば、3.0以上の場合、転倒危険度Dは、「1」が対応付けられる。転倒危険度D=1の場合、例えば、転倒の可能性は低く、特に転倒防止対応(対策)は要しないと判定するものである。また、身体能力指数p(スコア値)が、例えば、2.0以上3.0未満の場合、転倒危険度Dは、「2」が対応付けられる。転倒危険度D=2の場合、利用者Mは、例えば、転倒の可能性が僅かにあるため、転倒防止対応(対策)は必要としないものの注意が必要であると判定するものである。
また、身体能力指数p(スコア値)が、例えば、1.0以上2.0未満の場合、転倒危険度Dは、「3」が対応付けられる。例えば、転倒危険度D=3の場合、利用者Mは、例えば、転倒の可能性はあるため、転倒防止対応(対策)が必要であると判定するものである。また、身体能力指数p(スコア値)が、例えば、1.0以下の場合、転倒危険度Dは、「4」が対応付けられる。転倒危険度D=4の場合、利用者Mは、例えば、転倒の可能性が高く、優先的に転倒防止対応(対策)が必要であると判定するものである。なお、図12に示す例の場合、決定部240aは、転倒危険度Dごとに監視対象か否かを決定することができる。図12は、転倒危険度D=4のみが監視対象となっている例である。
このように、モデル式を用いる場合、利用者Mの特定の動作(数種類の説明変数)に限定して身体能力指数p(スコア値)を算出し、転倒危険度Dを決定するので、CPU226の処理負荷が軽減できるとともに、より迅速に転倒危険度Dの決定を行うことができる。一方、項目記憶部234aを用いて身体能力値の推定を行う場合、各動作特徴項目との照合が必要になり、CPU226の処理負荷は増加するものの、利用者Mの乗車動作をより詳細に解析可能となる。その結果、身体能力値の推定精度の向上が可能であり、転倒危険度Dの信頼性を増加させることができる。
以上のように構成される転倒防止情報提供装置(転倒防止情報提供部228)による転倒防止情報提供処理の流れの一例を図13のフローチャートを用いて説明する。
転倒防止情報提供部228の取得部236は、転倒防止情報の作成期間か否か判定する(S200)。転倒防止情報の作成期間は、例えば、車両210の運行スケジュールに基づき、車両210の停留所214への到着の例えば10分前から発車するまでの期間としてもよいし、運行スケジュールに拘わらず、段差部分218に利用者Mが接近した場合に、作成を開始してもよい。なお、作成期間でない場合(S200のNo)、このフローを一旦終了する。
転倒防止情報の作成期間であると判定した場合(S200のYes)、取得部236は、段差部分218を昇降する利用者Mの昇降動作に関するデータを取得する(S202)。取得部236は、例えば、撮像部216が撮像した撮像画像データや、把持センサ222が検出した把持の有無を示すデータ、圧力センサ224が検出した段差部分218上における利用者Mの足の運びを示すデータ等を取得する。また、取得部236は、取得した各データに識別符号(ID)を付与し(S204)、利用者Mごとに識別できるようにする。なお、撮像部216は、転倒防止情報の作成期間である場合にのみ撮像を行ってもよいし、監視を兼ねて常時撮像していてもよい。
推定部238aは、取得した利用者Mの昇降動作と、項目記憶部234aから読み出した動作特徴項目(図10参照)との照合を行い、身体能力値の推定を行う(S206)。すなわち、推定部238aは、利用者Mの動作と一致する動作特徴項目のスコア値を加算してスコア合計値sを算出する。
続いて、決定部240aは、関係テーブル記憶部234bから読み出した関係テーブル(図11参照)を用いて、推定部238aで算出されたスコア合計値sに対応する転倒危険度Dを決定する(S208)。ところで、一般に、停留所214まで歩いてくる利用者Mは、転倒の危険性がない利用者Mの方が多数存在すると考えられる。つまり、転倒防止情報に含む必要がない利用者Mが多数存在する。したがって、出力部242は、決定した利用者Mごとに転倒危険度Dに基づいて監視対象か否かを判定し(S210)、例えば車両210において、転倒防止対応(対策)が必要な監視対象者である場合のみ(S210のYes)、転倒防止情報を作成または既存の転倒防止情報を更新する(S212)。例えば、図11において、転倒危険度D=2以上を監視対象者として、転倒防止情報に記載するようにして、監視対象者でない場合(S210のNo)、つまり、転倒の危険性の低い利用者Mについては、転倒防止情報から除く。その結果、車両210等に提供する転倒防止情報がシンプル化され、監視対象者(利用者M)に対し十分な注意を払いやすくすることができる。なお、監視対象者とする転倒危険度Dの設定は、適宜変更可能であり、転倒防止情報の提供先によって変更してもよいし、提供する時間帯(例えば混雑時と非混雑時)、天候(晴天時と雨天時、降雪時等)等によって変更してもよい。
出力部242は、車両210や遠隔監視システム212等から転倒防止情報の送信要求があった場合(S214のYes)、作成した最新の転倒防止情報を要求元へ出力(送信)する(S216)。なお、転倒防止情報提の要求は、車両210や遠隔監視システム212から個別に手動で行われてもよいし、所定タイミング、例えば停留所214到着の所的期間前(一つ前の停留所の発進時等)に自動的に行われるようにしてもよい。
S214において、転倒防止情報の要求がまだ来ていない場合(S214のNo)、S202に移行し、引き続き段差部分218を昇降する利用者Mに関するデータの収集を行い、以降の処理を繰り返し実行する。
車両210は、所定のタイミング、例えば、転倒防止対応を行おうとする停留所214の一つ前の停留所を出発するタイミング等に、転倒防止情報提供装置200に対して、次の停留所214の関する転倒防止情報を要求する。この要求は、車両210の運転席に配置された要求スイッチ等を用いて行うことができる。そして、車両210の運転者は、転倒防止情報提を取得した場合、転倒防止情報に基づき、転倒防止対応が必要な監視対象者の受け入れ準備を行うことができる。なお、転倒防止情報提供装置200から取得した転倒防止情報は、運転席等に設置された表示装置に表示される。転倒防止情報は、例えば、監視対象者の顔画像や転倒危険度D、転倒危険度Dに基づく転倒防止対応(対策)の内容、例えば、空席の準備を示す情報や、発進時の注意事項等が含まれてもよい。
このように、監視対象者が存在する場合、車両210の運転者や乗員は、監視対象者(利用者M)の乗車準備として、例えば、監視対象者のための空席や、手すりやつり革につかまることができるスペース等の確保を事前に行うことができる。その結果、監視対象者(例えば、転倒危険度D=4等の利用者M)の乗車(受け入れ)をスムーズに行うことがきる。また、車両210は、第1実施形態で説明したように、監視対象者(転倒危険度D=4等)に配慮した発進制御等を実行することができる。
図14は、第2実施形態の転倒防止情報提供装置200から提供される転倒防止情報を車両300(例えば、電車)や無人走行または半無人走行の電車を遠隔操作する遠隔監視システム302等に提供して活用することを示す例示的かつ模式的な説明するである。なお、図14の場合、転倒防止情報提供装置200の設置場所は、駅舎やホーム304の近傍でもよいし、駅舎やホーム304において検出される各種データを遠隔地に転送できれば、転倒防止情報提供装置200は、遠隔地の管理センタ等に設置されていてもよい。図14では、車両300(例えば、電車)に乗車するためにホーム304に進入する利用者Mに関する昇降動作を収集している以外、図8で示した例と同じであり、実質的に同じ構成には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図14の例は、車両300が入線するホーム304に進入する入口304aの上部位置等には、撮像部216が設置されている。撮像部216は、これから車両300に乗り込むために待機するホーム304につながる通路に設けられた段差部分218(階段、ステップ等)を通過する際の利用者Mの昇降動作を撮像し、逐次転倒防止情報提供装置200に提供している例である。図14の場合も、段差部分218が上り階段の場合、撮像部216は利用者Mの昇降動作として昇段動作を撮像し、段差部分218が下り階段の場合、撮像部216は、利用者Mの降段動作を撮像する。
また、入口304aに設けられた段差部分218には、昇降する際に利用できる手すり220が設置されている。手すり220には、手すり220を利用している(把持している)ことを検出する把持センサ222(例えば、静電容量センサや圧力センサ等)が配置されている。また、段差部分218には、利用者Mの立ち位置の特定や身体重心の移動(例えば移動速度)の特定や、身体が大きな揺れた(大きくよろめいた)こと、バランスを失ったこと等を検出する圧力センサ224が、段差部分218の表面に一定の間隔(例えばマトリックス状)配置されている。なお、撮像部216、手すり220に設置される把持センサ222、段差部分218に世知される圧力センサ224等は、駅の改作付近や駅舎につながる通路等に設置されてもよい。
そして、撮像部216は、車両300に乗り込むために段差部分218を昇降(昇段)する利用者Mの昇降動作を撮像し、転倒防止情報提供装置200に逐次提供する。また、把持センサ222や圧力センサ224で検出された各種データも逐次転倒防止情報提供装置200に提供される。転倒防止情報提供装置200では、上述した処理と同様な処理が実行され、ホーム304に向かう利用者Mに関する転倒防止情報を作成し、乗車対象となる車両300や遠隔監視システム302等に提供する。その結果、電車等の車両300においても、転倒防止対応(対策)を事前に準備可能となり、ダイヤ遅れ等を最小限に抑えることができる。特に、地方都市等で利用者数が少ない単線等では、転倒防止対応を事前に十分かつスムーズに実施し易くなるので、車両300の乗員の負荷軽減とともにサービス向上にも寄与できる。
なお、第2実施形態では、転倒防止情報提供装置200が作成した転倒防止情を車両210,車両300、遠隔監視システム212,遠隔監視システム302に提供する例を示したが、例えば、施設に提供してもよい。例えば、施設内で、監視対象者のために椅子を準備したり、監視対象者が転倒せずに安全に移動できるような誘導路の案内や誘導補助員の配置等を事前に行ったりすることが可能であり、サービスの向上に寄与できる。
また、200が作成した転倒防止情に利用者Mが確認された場所や時間、天候等の関連情報を付けて出力するようにしてもよい。これらの情報により、転倒の可能性の高い利用者がよく利用する地域や時間帯等の分布情報を得ることができる。例えば、転倒防止情を取得した管理センタ等の外部システムでは、取得した各情報に基づき、車両210,300等の仕様や施設の仕様の変更の検討材料にすることができる。また、また、車両210,300等に対しては、混雑緩和ができるような運行ダイヤや、運行時の揺れ軽減ができるような運行ルート等の検討材料として利用することができる。その結果、よりスムーズで転倒リスクを低減した運行を実現することができる。
本発明の実施形態及び変形例を説明したが、これらの実施形態及び変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。