JP7401056B2 - コーティング済み電気ストリップを生成する方法及びコーティング済み電気ストリップ - Google Patents

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Description

本発明は、コーティング済み電気ストリップを生成する方法及びコーティング済み電気ストリップに関する。
コーティング済み電気ストリップは、電気産業で使用されており、発電機、電動機、変圧器、又は他の電気機器で使用される電気コアの構築における出発材料を形成する。このような電気コアは、コーティング済み電気ストリップを切断して個々のシート金属ラメラにし、シート金属ラメラをスタックし、これらを接合(例えば結合)してラメラパッケージを形成することによって製造される。積層構造は、電気コアにおける渦電流の発生を概ね防止し、電気コアの効率を著しく高める。
用途に応じて、異なる合金鋼、軟磁性、電力散逸、厚さ、及び用途に応じて重要な他の特性をもつ電気シートが選択される。
製造中に焼付ワニスの層で電気ストリップをコーティングすることは既に知られている。焼付ワニス層は、シートのスタックにおける電気的ラメラの電気的な絶縁を確実にする絶縁性ワニス層であり、また接着性がある。すなわち、絶縁に加えて、シートのスタックにおける電気的ラメラの結合も可能にする。焼付ワニス層には、結合プロセス(ラメラパッケージを形成する、いわゆる、スタックされた電気的ラメラの結合)中に活性化され、ラメラパッケージに必要とされる寸法安定性を与える接着剤が含有されている。
焼付ワニス層は電気コアの電気的有効体積を低減させるので、高効率で可能な限り薄い層厚さを実現することが意図される。一方で、層厚さは、電気コアの寿命にわたって必要とされる絶縁安全性を保証できるよう十分に大きくなければならない。
既存のコーティングシステムは、クリーニング(洗浄及びブラッシング)された裸の電気ストリップに焼付ワニス層を塗布する。焼付ワニス接着性は、電気ストリップのクリーニングによって改善される。
実際には、結合されたラメラパッケージの冷却は、複雑な問題を提示する。冷却ダクト、冷却媒体などの使用を含め、可能性のある多数の解決策が過去に議論されてきた。具体的で現実的な解決策は未だ知られていない。特に、不十分な湿式接着の結果としての水分による焼付ワニス層の浸潤によって困難が生じる。高合金電気ストリップの場合は特に、電気ストリップに対する焼付ワニス層の十分な接着が保証できないことが多い。
本発明の根底にある目的の1つは、良好な湿式接着性ひいては良好な冷却剤耐性をもつ焼付ワニスコーティングを可能にする、コーティング済み電気ストリップを生成する方法の提供に見ることができる。特に、この方法は、簡単かつ安価に実行できるはずであり、さらに、低いコーティング厚さを可能にするはずである。
この目的のさらなる態様は、顧客が行う従来の製造方法(ラメラを適当なサイズに切断し、これらを結合して寸法安定性のあるラメラパッケージにすることを含む)が可能な限り影響を受けないようにする方法及びそれにより製造された製品の提供に見ることができる。
この目的は、独立請求項の特徴によって果たされる。実施形態及びさらなる詳細の例は、従属請求項の主題である。
したがって、コーティング済み電気ストリップを生成する方法は、圧延アルミニウム合金電気ストリップの表面を加水分解する段階を備える。有機シリコン化合物を含有する前処理層が、圧延アルミニウム合金電気ストリップの表面上に塗布される。続いて、前処理層でコーティングされた圧延アルミニウム合金電気ストリップが、焼付ワニス層でコーティングされる。
有機シリコン化合物は、アルミニウム合金電気ストリップと焼付ワニス(バックラック)層との間の接着促進剤として作用する。特に、圧延アルミニウム合金電気ストリップの表面に対する焼付ワニス層の湿式接着性を増加させる。これにより、浸潤の傾向が低減し、後の製品(ラメラパッケージ)の冷却剤耐性が確実になる。これは、有機シリコン化合物が、焼付ワニスと圧延アルミニウム合金電気ストリップの加水分解表面との両方と共有結合を形成できることによって実現される。
圧延アルミニウム合金電気ストリップの表面の選択的加水分解によって、電気ストリップの表面隣接AlN層が明確なAl(OH)表面に変化する。このAl(OH)表面は、有機シリコン化合物の(第1の)官能基に共有結合するのに理想的である。これが意味するのは、焼付ワニス層の湿式接着性の増加が、とりわけ、アルミニウム合金電気ストリップの(少なくとも部分的に)加水分解された表面と、有機シリコン化合物の化学特性の相互作用に基づくということである。これは、電気ストリップ表面全体の加水分解、すなわち、好ましくは全表面加水分解を伴い得る。なぜなら、電気ストリップ表面全体上で電気ストリップ表面と有機シリコン化合物との間に共有結合が形成されることが可能になるからである。
好ましくは、有機シリコン化合物は、オルガノシランである。有機官能性シランとしても知られるオルガノシランは、アルキルシリケートの無機官能性を反応性有機基の官能性と組み合わせたハイブリッド化合物である。この特殊な特性により、アルミニウム合金電気ストリップの(無機)表面と(有機)焼付ワニスとの間の分子ブリッジとしてこれらを使用することが可能である。
有機シリコン化合物はさらに、オルガノシラノール、シロキサン、又はシリコーンの群の物質であり得る。
電気ストリップの加水分解可能な表面を実現するために、電気ストリップのアニーリング中、露点は、-35℃~-60℃の範囲内、特に-45℃未満に設定され得る。低い露点(すなわち、HO含有量の低いアニーリング雰囲気による乾燥環境)を設定することにより、電気ストリップの表面上に加水分解に利用可能なAlNが十分あるよう、好ましい条件が作り出される。
さらに、1000℃~1200℃の範囲内、特に1100℃より大きいアニーリング終了温度が設定され得る。アニーリング終了温度はまた、Al含有電気ストリップの表面酸化と表面窒化との間のトレードオフに影響する。アニーリング終了温度が高く、露点が低ければ、表面でより多くのAlNが加水分解のために利用可能になる。
例えば、前処理層は、1.0重量%~3.0重量%のオルガノシラン(例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン)、0.5重量%~2.0重量%の共溶媒(例えば、ブチルグリコール)、0.05重量%~0.3重量%の界面活性剤(例えば、Ligaphob N90)、残余分の有機若しくは無機溶媒及び/又は水を含有する組成物から成っていてもよい。
前処理層は、膜形成樹脂(いわゆる成膜剤)、例えば0.1重量%~2.0重量%のフェノキシ分散体をさらに含有していてもよい。これは、塗布及び乾燥中の前処理層の層特性に有利に影響し得る。しかしながら、成膜剤なしの前処理層を塗布することも可能である。
乾燥した前処理層の層厚さは、非常に薄く、例えば、ほんの10~100nm、特に20~50nmであり得る。前処理層は、層厚さが低いため、コーティングプロセスの全体的厚さにわずかにしか寄与しない。前処理層の使用は、事前の塗布と比較して、全体的なコーティング厚さの増加を必要としないと考えられる。したがって、本発明の電気ストリップから作製された電気コアの効率は、従来の電気コアと比較して劣化しないことが期待される。
前処理層の塗布後、かつ焼付ワニス層でのコーティング前に、エネルギーを供給することによって前処理層の活性乾燥が実行されてもよい。活性乾燥は、追加のエネルギーを、例えば放射又は対流熱の形態で供給することによって実行される。前処理層の層厚さが低いため、比較的短時間及び/又は低エネルギーのエネルギー供給で十分であり得る。活性乾燥は、コーティングプロセスのプロセス信頼性を高める。
例えば、前処理層は、第1のローラを使用したローラ式塗布によって塗布される。印刷方法又は噴霧方法など、他の塗布方法も可能である。
インラインプロセスで直列接続された2つのコーティングステーションを備えた既存のコーティングシステムを使用する場合、ストリップ走路における第1のコーティングステーションを前処理層でのコーティング用に変換し、次に第2のコーティングステーションで1回のみローラ式塗布を使用して焼付ワニス層を塗布することにより、製造プラントで非常に費用効果よくプロセスを実装することができる。必要であれば、2回のローラ式塗布の間に(第1の)乾燥システムを組み込むことのみが必要とされる。
コーティング済み電気ストリップは、圧延アルミニウム合金電気ストリップと、圧延アルミニウム合金電気ストリップの表面上の有機シリコン化合物を含有する前処理層と、前処理層上の焼付ワニス層とを含む。このようなコーティング済み電気ストリップは、焼付ワニス層の湿式接着及び冷却剤耐性の観点から高いコーティングの質を呈し得る。これらの利点は、従来の良好な焼付ワニス接着には不十分だが本発明では特に好適な条件をもたらす、高合金電気ストリップを使用する場合に特に効果的であり得る。
以下では、実施形態及びさらなる詳細の例を概略的な図面に基づいて例示的に説明するが、いくつかの場合では、異なる度合いの詳細が図面に使用されている。同一の参照符号は、同じ又は類似の部分を指定する。
電気ストリップに前処理層を、そして前処理層の上に焼付ワニス層を塗布し、さらに乾燥機器で層を乾燥する例示的な方法の長手方向断面図を示す。
電気ストリップの表面の加水分解を示す。
共有結合の形成前及び後の電気ストリップの加水分解表面と有機焼付ワニスとの間の分子ブリッジとしての有機シリコン化合物の作用機序を示す。
層乾燥後の電気ストリップの表面付近部分の一例の長手方向断面を示す。
図4の詳細図の概略表現である。
一実施形態に係るコーティング済み電気ストリップのコイルを示す。
互いの上部にスタックされた、コーティング済み電気ストリップラメラから構成された、電気ストリップシートのスタックを示す。
本明細書において、「塗布する」又は「堆積する」などの用語及び類似の用語(例えば、「塗布される」又は「堆積される」)は、概して、塗布又は堆積される層が、それが塗布又は堆積される表面と直接接触していなければならないという意味だと理解されてはならない。「塗布」又は「堆積」される要素又は層と、その下にある表面との間には、介在する要素又は層があってもよい。しかしながら、本開示における上記の用語又は類似の用語は、要素又は層が、その下にある表面と直接接触している、すなわち、介在する要素又は層がないという特定の意味を有する場合もある。
表面の「上」に形成又は塗布された材料の要素又は層に対して使用される「上」という用語は、本明細書では、材料の要素又は層が表面「に間接的に」塗布されるという意味で使用される場合があり、表面と材料の要素又は層との間に介在する要素又は層が存在してもよい。しかしながら、「上」という用語は、表面「上」に塗布又は堆積される材料の要素又は層が、対象の表面「に直接」、例えば直接接触して塗布されるという特定の意味を有する場合もある。同じことは、「覆う」、「下」、「下にある」などといった類似の用語にも同様に適用される。
図1は、ストリップコーティングシステム100において、圧延されたアルミニウム合金電気ストリップ(電気鋼ストリップ)110から、コーティング済み電気ストリップ150を生成する方法の一例を示す。電気ストリップ110は、連続的なストリップ走路(矢印P参照)において、ストリップコーティングシステム100に給送される。電気ストリップ110は、例えば、最終的なアニーリングされた状態の冷間圧延された無粒子方向性電気シート(電気鋼シート)(例えばDIN EN 10106)であり得る。他の電気(鋼)シート、例えば熱間圧延されたもの及び/又は仕上げアニーリングなしの電気シートなども可能である。冷間圧延又は熱間圧延された電気シートは、例えば、励磁機及び発電機におけるポールシートとして、又は変圧器などにおいて使用されている。
特に、本発明は、例えば、4重量%と等しいか、又はそれより大きい全合金含有量を有する、高合金又は超高合金の電気ストリップのコーティングを対象とする。例えば、このような電気ストリップは、例えば、3重量%と等しいか、又はそれより大きいシリコン含有量、及び1重量%と等しいか、又はそれより大きいアルミニウム含有量を有し得る。
前処理層の塗布の前に、圧延された電気ストリップを、洗浄及び/又はブラッシングあるいは他の機械的及び/又は化学的クリーニング段階によってクリーニングして、可能な限り異物を含まない裸の金属面を設けることができる。
例えば、ストリップコーティングシステム100に給送される電気ストリップ110は、矢印Pの方向でコイル(図示せず)から巻き戻すことができる「エンドレスな」金属ストリップの形態にあってもよい。
ストリップコーティングシステム100は、少なくとも前処理ステーション120とコーティングステーション130とを含む。前処理層乾燥システム125が、ストリップ経路において、前処理ステーション120とコーティングステーション130との間に設けられてもよい。さらに、ストリップコーティングシステム100は、ストリップ経路において第2のコーティングステーション130の下流に、乾燥キュアリングオーブン140などの焼付ワニス乾燥システムを含んでいてもよい。
ここで示す例において、コーティングシステム100は、両面コーティングシステム100として設計されている。しかしながら、電気ストリップ110の片方の平面(例えば、図1に示されている上側面)のみをコーティングすることも可能である。これに関して、以下に示す全ての詳細は、片面コーティングの場合と、例示されている電気ストリップ110の両平面をコーティングする可能性との両方に適用される。2番目の場合(両面のコーティング)、前処理、コーティング、及び乾燥に関する全ての詳細は、ストリップの上側面の加工と、電気ストリップ110の反対の下側面の加工の両方に適用され得る。さらに、両面の前処理及びコーティングは、ストリップの2つの面に異なる層を用いて実行することもできる。
圧延アルミニウム合金電気ストリップ110は、0.5重量%、1.0重量%、1.1重量%、又は1.3重量%と等しいか、又はそれより大きく、かつ2.0重量%又は2.5重量%と等しいか、又はそれ未満のAl含有量を含み得る。
特に、圧延アルミニウム合金電気ストリップ110は、0.5重量%、1.5重量%、1.7重量%、又は1.8重量%と等しいか、又はそれより大きく、かつ2.4重量%又は2.8重量%と等しいか、又はそれ未満のSi含有量を有し得る。
全合金含有量(Si及びAl、場合によっては他の合金元素を含む)は、1.0重量%、2.0重量%、3.0重量%、又は3.5重量%と等しいか、又はそれより大きく、かつ3.7重量%、3.8重量%、4.0重量%、又は5.0重量%と等しいか、又はそれ未満であってもよい。特に、通常は比較的不十分な焼付ワニス接着性を呈する超高合金グレードを、電気ストリップ110として使用することもできる。
電気ストリップ110は、特に以下の組成を有する鋼ストリップであり得る(全ての数値は重量%単位である):
C:0.0010~0.02
Si:0.5~4.0
Mn:0.1~0.5
P:0.01~0.02
S:0.0001~0.005
Al:0.5~2.5
N:<0.005
Nb:<0.5
Ti:<0.5
B:<0.0020
Cr:<0.10
Cu:<0.10
V:<0.10
Sn:<0.10
Mo:<0.10
残余分は鉄及び不可避の不純物。
電気ストリップ110において個々に又は組み合わせて使用され得る好ましいエリアは次のとおりである:
C:0.0020~0.0050
Si:2.0~3.0(特殊な範囲:2.27~2.37)
Mn:0.25~0.3
P:0.01~0.02
S:0.0001~0.005
Al:0.8~1.3(特殊な範囲:1.0~1.1)
N:<0.005
Nb:<0.1
Ti:<0.1
B:<0.0020
Cr:<0.05(特殊な範囲:<0.05)
Cu:<0.05
V:<0.05
Sn:<0.05
Mo:<0.05
残余分は鉄及び不可避の不純物。
電気(鋼)ストリップの一例を以下に示す。値は化学分析によって得られた。
例:電気ストリップ
C:0.0038
Si:2.3
Mn:0.28
P:0.013
S:0.0008
Al:1.00
N:0.001
残余分は鉄及び不可避の不純物。
電気ストリップのグレードの組み合わせ及びアニーリングパラメータの一例を以下に示す。さらに、言及される量が取り得る範囲を括弧で例に付記する。
グレード
Al:1.0重量%(範囲:0.5~2.5重量%)
Si:2.3重量%(範囲:0.5~4.0重量%)
アニーリング
アニーリング終了温度T=1,000℃(範囲:800~1200℃、好ましくは920~1150℃)
アニーリング時間t=2分(範囲:0.5~5分)
露点=-45℃(範囲:-35~-60℃)
化学的及び/又は機械的にクリーニングされていてもよい、コーティングされていない電気ストリップ110は、前処理ステーション120において、前処理層112でコーティングされる。コーティングは、表面全体上に塗布されてもよい。すなわち、前処理層112は、電気ストリップ110の表面を完全に被覆してもよい。前処理層112は、電気ストリップ110の鋼表面に直接塗布されてもよい。
前処理層112は、電気ストリップ110の上側平面に(又は反対の下側平面にも)、ローラ122(又はローラ122のペア)によって塗布され得る。ローラ式塗布では、ローラ122が、移動している電気ストリップ110上で動き、ローラ122に事前に塗布された液体前処理物質124を薄膜の形態で電気ストリップ110の表面に堆積させる。これに関して、ウェットな前処理層112の膜厚は、ローラ式塗布のパラメータによって調節することができる。乾燥前の前処理層112のウェット膜厚は、1~10μm、好ましくは2~4μmの範囲内であり得る。膜厚が高いと、溶液がより希釈され、したがってより均一に分散することができるのに対し、膜厚が薄いと、前処理層112の個々の成分がウェットな膜にさほど希釈されず、したがってより精密に計量することができる。
前処理コーティング112は、電気ストリップ110に対する焼付ワニス134の湿式接着性を増加させる働きをする。概して、合金電気ストリップ110は、電気ストリップ110に対する焼付ワニス層114の接着に悪影響を及ぼす、表面上の酸化アルミニウム及び/又は酸化ケイ素の形成の増加を示す。前処理層112は、焼付ワニス層114に改善された接着ベースを提供する。この目的のために、電気ストリップ110の表面の加水分解と、前処理物質124中の有機シリコン化合物の使用との組み合わせにより、酸化アルミニウムの形成を阻止し、窒化アルミニウムの形成を促進し、改善された湿式接着に特に好適な焼付ワニス層114のための基板を作り出すことによって、ストリップ表面付近でのアルミニウムの蓄積(それ自体は良好な接着に有害である)を利用する。
前処理層112は、比較的薄く、乾燥状態で約10nm~100nmの厚さを有し得る。特に、50nmを下回る厚さを設定すると、既にワニス接着性の著しい改善が可能になり得る。
電気ストリップ110の片面又は両面に前処理層112が塗布された後、前処理された電気ストリップ110は、例えば40℃~50℃の範囲内(例えば、約45℃)の比較的低い温度に電気ストリップ110又はその上の前処理層112を加熱する連続乾燥システムとして設計されていてもよい(任意選択の)前処理層乾燥システム125を通過する。換言すると、計画的な活性乾燥は、単に、前処理層112の「フラッシュオフ(flashing off)」又は「ドライオン(drying on)」である。コーティングプロセスのプロセス信頼性は、前処理層112のフラッシュオフ又はドライオンによって著しく高まり得ることが示されている。
続いて、予めコーティング済みの電気ストリップ110がコーティングステーション130に入る。コーティングステーション130では、例えば、ローラ132(又はローラ132のペア)が、ウェットな焼付ワニス層114を前処理層112に塗布する。層厚さ(乾燥後に測定される)は、ローラ式塗布のパラメータによって比較的精密に調節することができる。また、焼付ワニスコーティング114は、完全な被覆とすることができ、すなわち、前処理層112の表面を完全に被覆することができる。
焼付ワニス層(バックラック層)は、例えば、エポキシ樹脂又はエポキシ樹脂混合物と、ジシアンジアミドなどの少なくとも1つの潜在性硬化剤(キュアリング剤)とを含む、熱硬化性で水ベースのホットメルトワニス層である。硬化剤は熱可塑性を熱硬化性に変える。焼付ワニス層により、電気ストリップから切り出された電気ストリップラメラを一緒に焼付けて、寸法安定性のある電気コアを形成することが可能になる。
焼付ワニス134は、追加の結合手段(溶接されたジョイントなど)を用いない、電気コア中の電気シートラメラの乾式結合を可能にし得る。
例えば、絶縁クラスC3/EC-3、C4/EC-4、C5/EC-5、又はC6/EC-6の焼付ワニスを使用することができる。
絶縁クラスC3/EC-3の焼付ワニス134は、純粋な有機成分を含有し得る無充填の有機系ワニスであり、さらなるアニーリングプロセスにかけられない絶縁性電気ストリップラメラのために使用される。これらのワニスは、優れたダイカット特性を呈する。
絶縁クラスC4/EC-4の焼付ワニス134は、アニーリングに耐性があり良好な溶接特性を有する無機絶縁性ワニスである。これらの無機の水希釈可能な焼付ワニスは、アニーリング中に電気シートが一緒に付着することを防止する。
絶縁クラスC5/EC-5の焼付ワニス134は、高い絶縁特性、耐熱性、及び必要であれば改善された溶接性を必要とする用途のための、無充填の有機系又は無機系ワニスである。
絶縁クラスC6/EC-6の焼付ワニス134は、さらに改善された絶縁特性及び増加した圧縮強度をもたらす有機又は無機ベースの充填型ワニスである。これらのワニスは、高い割合の無機充填剤を含む熱的に安定な有機ポリマーに基づいている。これらは特に、高圧及び温度負荷のかかる大きな電気コアに使用される。
焼付ワニス層114は、事前に塗布された前処理層112の表面に直接塗布してもよい。
例えば、焼付ワニス層114の層厚さは、1~12μmであり得る。特に、焼付ワニス層114の層厚さは、6μm、4μm、2μm、又は1μmと等しいか、又はそれ未満であり得る。
例えば、両面に異なるコーティングを用いる場合、上側面と異なる焼付ワニス層114を電気ストリップ110の下側面に塗布してもよい。例えば、焼付ワニス層を上側面(又は下側面)に塗布することができ、接着特性のない絶縁性ワニス層を下側面(又は上側面)に塗布することができる。
前処理ステーション120及びコーティングステーション130は、空間的に、かつ、ストリップ移動速度に関連して時間的に、離れていてもよい。例えば、前処理ステーション120と第2のコーティングステーション130との間の空間的距離(すなわち、例えば、ローラ122及び132の軸同士の間の距離)は、10m、8m、6m、5m、又は4mと等しいか、又はそれ未満と規定してもよい。前処理ステーション120における前処理層112の塗布と、コーティングステーション130における焼付ワニス層114の塗布との間の期間は、20秒、15秒、10秒、5秒、又は3秒と等しいか、又はそれ未満であり得る。例えば、典型的なストリップ速度は、100m/分の範囲内であり得るが、この値は、例えば、±10%、±20%、±30%、±40%、又は±50%変動してもよい。
例えば、コーティングステーション130の下流のストリップ経路には、乾燥オーブン140がある。第2のコーティングステーション130と乾燥オーブン140への入口との間の時間的及び空間的な距離は、例えば、前処理ステーション120とコーティングステーション130との間の時間的及び空間的な距離について上記で言及したものと同じ値をとり得る。
焼付ワニス層114の乾燥は、乾燥オーブン140で行われる。この目的のために、乾燥オーブン140は、コーティング済み電気ストリップ110が連続的に通過する連続乾燥オーブン(トンネルオーブン)として設計されていてもよい。例えば、乾燥オーブン140における電気ストリップ110の最高温度は、150℃~300℃とすることができ、特に、170℃、180℃、190℃、200℃、210℃、220℃、又は230℃と等しいか、又はそれより大きい温度値、及び/又は250℃、220℃、210℃、200℃、若しくは190℃と等しいか、又はそれ未満の温度値を規定してもよい。
例えば、乾燥オーブン140における熱処理の時間は、10秒~40秒であってもよく、特に、20秒又は30秒未満か、それと等しいか、又はそれより大きくてもよい。他の温度及び熱処理時間も可能である。
乾燥オーブン140では、以下でより詳細に説明するように、前処理層112と焼付ワニス層114との間に化学結合(共有結合)が形成される。これにより接着性が高まる。焼付ワニス層114は、少なくとも、乾燥オーブン140の下流のストリップ経路で電気ストリップ110に結合する際に機械的安定性及び耐摩耗性がある程度まで乾燥させる。これにより、次に、乾燥したコーティング済み電気ストリップ150を、乾燥オーブン140の下流のストリップ経路において、例えば偏向ローラの手段又はコイル(図1には示していない)への巻き付けによって、さらに取り扱うことが可能になる。
図2は、電気ストリップ110の表面の(少なくとも部分的な)加水分解の概略表現を示す。
既に言及したように、合金電気ストリップ110は、その表面上に、合金構成成分の、この場合は特にアルミニウムの蓄積が起こる領域110A(拡大して示されている)を有する。電気ストリップ110の加水分解可能な表面を作り出すためには、酸化アルミニウムの形成を可能な限り防止し、その代わりに、表面層110A中にAlNを供給する必要がある。露点が十分に低く(例えば、-45℃以下)、かつアニーリング終了温度が比較的高い(例えば、1000℃又は1100℃と等しいか、又はそれより大きい)場合、窒素が空気から解離し、表面層110A中のアルミニウムと化合物AlNを形成することが実現され得る。このようにして、図2の左部分に示される表面付近のAlN含有表面層110Aが設けられる。
次に、電気ストリップ110のAlN含有表面層110Aの加水分解により、電気ストリップ110の金属面にヒドロキシ基(-OH)が発生する。図2の右部分を参照のこと。加水分解は、好ましくは、金属の表面全体上で、「被覆する」ように起こる。しかしながら、AlN化合物は、表面に直接隣接していない場合には特に、全てが加水分解される必要はない。すなわち、一部又は大部分の加水分解でさえ、ヒドロキシ基による表面被覆率を十分に高くする可能性があり得る。
電気ストリップ110の加水分解は、前処理層112でのコーティングの前に起こってもよく、又は前処理層112の塗布と前処理層乾燥システム125での乾燥との間の時間枠内でも起こり得る。
AlN含有表面層110AのAlN含有量に応じて、湿度のみによって十分に加水分解された電気ストリップ110の表面を設けることが可能であり得る。しかしながら、好適な物質をストリップ表面に塗布することにより、加水分解を選択的に誘起することもできる。第1の可能性は、物質(例えば弱アルカリ性溶液、ただし加水分解は酸性環境でも可能である)を、前処理ステーション120の前のストリップ走路で、電気ストリップ110に塗布することである。第2の可能性は、加水分解を、その場(in-situ)で、前処理層112の塗布と前処理層乾燥システム125での層乾燥との間の時間枠内で、堆積反応と準同時に実施することである。
図3は、電気ストリップ110の加水分解表面層110Aと有機焼付ワニス114との間の分子ブリッジとしての有機シリコン化合物の作用機序を説明する。
図3において、Rは、加水分解される金属電気ストリップ110との反応に利用可能な、加水分解可能な官能基(例えば、アルコキシ基)を表している。Xは、有機シリコン化合物が焼付ワニス114に化学結合することを可能にする、概して加水分解不可能な有機官能性基を表している。シリコン原子と有機官能性基Xとの間には、可変な構成及び長さの炭素鎖がある。炭素鎖は、例えば、エーテル基(2つのオルガニル基で置換された酸素原子)又は他の有機鎖であり得る。
図3の下側部分では、有機シリコン化合物のブリッジ機能が示されている。既に言及したように、有機シリコン化合物は、金属面のヒドロキシ基と反応して、Si-O共有結合を形成する。この堆積反応は加水分解凝縮とも称される。Si-O結合は、高い化学的安定性及び熱安定性を呈するので、環境からの化学的影響及び中間の影響に対して化合物を概ね不活性にさせる。これが湿式接着性の増加の1つの理由である。
堆積反応は急速に進行し、すなわち、有機シリコン化合物(前処理層に含有されている)が塗布されたときに既に開始し、特に活性乾燥中に起こり、したがってプロセス信頼性が高まると考えることができる。
共有結合は、焼付ワニス114と有機シリコン化合物との間にも形成される。特定の有機官能性基X(例えばアミノ基又はエポキシ基)を選択することにより、有機シリコン化合物は、焼付ワニス114と優れた共有結合を形成することができる(図3、下側部分を参照のこと)。
例えば、前処理物質124を用意するには、下記に示す量の範囲内で、以下の成分を一緒に混合してもよい。
オルガノシラン(例えばGLYMO):0.5~3.0重量%
成膜剤(例えばフェノキシド分散体)0.0~2.0重量%
共溶媒(例えばブチルグリコール):0.2~2.0重量%
界面活性剤(例えばLigaphob N90):0.02~0.3重量%
残り:有機又は無機溶媒
好ましい量の範囲:
オルガノシラン(例えばGLYMO):1.0~2.5重量%
成膜剤(例えばフェノキシ分散体)0.0~1.5重量%
共溶媒(例えばブチルグリコール):0.5~1.3重量%
界面活性剤(例えばLigaphob N90):0.05~0.22重量%
残り:有機又は無機溶媒
組成物例
例1:成膜剤(樹脂)あり:
成分:重量%
GLYMO(3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン):2.0
PKHW-34(フェノキシ分散体):1.0
ブチルグリコール(共溶媒):1.0
Ligaphob N90(界面活性剤):0.2
水:95.8
例2:成膜剤(樹脂)なし:
成分:重量%
GLYMO(3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン):2.0
ブチルグリコール(共溶媒):1.0
Ligaphob N90(界面活性剤):0.2
水:96.8
特に、前処理物質124は、硬化剤又は焼付ワニスを含まなくてもよい。
図4は、乾燥オーブン140の下流のエリアにおけるコーティング済み電気ストリップ110の表面付近部分の簡略化された長手方向断面図を示す。層厚さの変動は示していない。断面図は、示されている長手方向図と同一であり得る。
(乾燥)前処理層112は厚さD1を有し、(乾燥)焼付ワニス層114は厚さD2を有する。例えば、層厚さD1は、10、25、又は50と等しいか、又はそれより大きい倍数だけ、層厚さD2より小さくてもよい。例えば、層厚さD2は、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、11μm、又は12μmと等しいか、又はそれより大きいか、又はそれ未満であり得る。例えば、電気ストリップ110のシート厚さD3は、0.5mm、0.4mm、0.35mm、又は0.3mmと等しいか、又はそれ未満であり得る。
図5は、図4の詳細Dの概略表現を示す。電気ストリップ110の表面のエリアでは、電気ストリップ110の表面付近のアルミニウム原子に結合するSi-O共有結合が示されている。
図6は、ストリップコーティングシステム100の出力側でコーティング済み電気ストリップ150が巻き付けられ得るようなコイル610を示している。コイル610は、例えば、顧客に供給されて、電気コア(場合によっては、統合された冷却チャネルを備える)にさらに加工され得る。
図7は、コーティング済み電気ストリップ150を短手方向に分割することによって得られた電気シート710をスタックすることにより実装される電気コア700の部分を概略図で示す。
通常、電気シート710は、スタックする前に、パンチ又はレーザ切断などの形切断作業により、最終形状へと形成される。
シートのスタックは、焼付ワニス層114のキュアリングにより、寸法安定性のある電気コア700へと統合される。凝固機構は、焼付ワニス層114中の接着剤の化学反応、通常は三次元架橋に基づく。焼付ワニスのキュアリングは、積層された電気シート710をクランプし、層のスタックを例えばオーブンで加熱することによって達成され得る。
ここで示す例では、両面がコーティングされた電気シート710から作製された電気コア700が示されている。上記で言及したように、片面がコーティングされた電気シート710、又は両面が異なってコーティングされた電気シート710を使用してもよく、これによって、より高い占積率が実現可能であり得る。図7は、前処理層112の厚さが誇張されているため、正確な縮尺ではない。
特に、結合されたラメラパッケージに冷却チャネルを備える、このような電気コア700を提供することが想定され得る。ここで説明した手段の結果として、水分による焼付ワニス層114の浸潤に起因する腐食のリスクは著しく低減し、高合金及び最高合金の電気ストリップは、冷却用途に使用することもできる。

Claims (21)

  1. コーティング済み電気ストリップを生成する方法であって、
    表面にAlNが設けられた圧延アルミニウム合金電気ストリップの前記表面を加水分解する段階と、
    前記圧延アルミニウム合金電気ストリップの前記表面上に前処理層を塗布する段階であって、前記前処理層は有機シリコン化合物を有する段階と、
    前記前処理層でコーティングされた前記圧延アルミニウム合金電気ストリップを焼付ワニス層でコーティングする段階と
    を備える方法。
  2. 前記有機シリコン化合物は、オルガノシランである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記有機シリコン化合物は、オルガノシラノールである、請求項1に記載の方法。
  4. 前記有機シリコン化合物は、シロキサン又はシリコーンである、請求項1に記載の方法。
  5. 前記有機シリコン化合物は、第1の官能基及び第2の官能基を有し、前記第1の官能基は、前記加水分解された表面と共有結合を形成し、前記第2の官能基は、焼付ワニスと共有結合を形成する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記第1の官能基はアルコキシ基である、請求項5に記載の方法。
  7. 前記第1の官能基の前記共有結合はSi-O結合である、請求項5又は6に記載の方法。
  8. 前記第2の官能基はアミノ基又はエポキシ基である、請求項5又は6に記載の方法。
  9. 前記加水分解の前に前記電気ストリップのアニーリングが実行され、前記電気ストリップの前記アニーリング中、露点が-35℃~-60℃の範囲内に設定される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記加水分解の前に前記電気ストリップのアニーリングが実行され、1000℃~1200℃の範囲内のアニーリング終了温度が設定される、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 前記前処理層は、0.5重量%~3.0重量%のオルガノシラン、0.2重量%~2.0重量%の共溶媒、0.02重量%~0.3重量%の界面活性剤、残余分の有機若しくは無機溶媒及び/又は水を含有する組成物から用意されている、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記前処理層は、膜形成樹脂をさらに有する、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 乾燥した前記前処理層の層厚さは、10~100nm、特に20~50nmである、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記前処理層の塗布後、かつ前記焼付ワニス層でのコーティング前に、エネルギーを供給することによって前記前処理層の活性乾燥が実行される、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記前処理層は、第1のローラを使用したローラ式塗布によって塗布される、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
  16. 前記焼付ワニス層は、第2のローラを使用したローラ式塗布によって塗布される、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
  17. コーティング済み電気ストリップであって、
    圧延アルミニウム合金電気ストリップと、
    前記圧延アルミニウム合金電気ストリップの表面上の有機シリコン化合物を有する前処理層と、
    前記前処理層上の焼付ワニス層と
    を備え
    前記圧延アルミニウム合金電気ストリップの前記表面と前記前処理層との間の界面層にSi-O-Al共有結合が形成されている、コーティング済み電気ストリップ。
  18. 前記有機シリコン化合物は、オルガノシラン、オルガノシラノール、シロキサン、又はシリコーンである、請求項17に記載のコーティング済み電気ストリップ。
  19. 前記前処理層は、膜形成樹脂を有する、請求項17又は18に記載のコーティング済み電気ストリップ。
  20. 前記前処理層は、膜形成樹脂を有しない、請求項17又は18に記載のコーティング済み電気ストリップ。
  21. 前記圧延アルミニウム合金電気ストリップは、0.5重量%、1.0重量%、1.1重量%、又は1.3重量%と等しいか、又はそれより大きく、かつ2.0重量%又は2.5重量%と等しいか、又はそれ未満のAl含有量を有する、請求項17~20のいずれか1項に記載のコーティング済み電気ストリップ。
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