JP7397305B2 - めっき液の製造方法およびめっき液、ならびにめっき鋼板の製造方法 - Google Patents

めっき液の製造方法およびめっき液、ならびにめっき鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、めっき液の製造方法およびめっき液、ならびにめっき鋼板の製造方法およびめっき鋼板に関する。
亜鉛系めっき鋼板は、自動車、電機機器、建築などの種々の用途に使用されている。亜鉛系めっき鋼板は、通常、溶融めっき法や電気めっき法で得られる。中でも、電気めっき法では、めっき液の温度を、溶融めっき法よりも低くすることができ、熱歪みによる鋼板の変形を生じにくい点、厚みが薄くても均一なめっき層を形成しやすい点などから、電気めっき法で亜鉛系めっき鋼板を得ることが望まれている。そして、上記用途に用いられる亜鉛系めっき鋼板には、耐食性や加工性などの向上が要求されている。
耐食性や加工性などを向上させるために添加される成分として、バナジウム(V)、および、水酸化バナジウムや酸化バナジウムなどのバナジウム化合物が知られている。
そのようなバナジウム化合物を含む亜鉛めっき層を形成する方法として、亜鉛源として硫酸亜鉛(ZnSO・7HO)と、バナジウム源としてオキシ硫酸バナジウム(VOSO・5HO)と、pH調整剤として硫酸と、水とを含むめっき液を用いて電気めっきを行うことにより、バナジウム化合物を含む亜鉛めっき層を形成する方法が知られている(例えば特許文献1、2および非特許文献1)。これらのめっき時には、カソード(被めっき材)近傍で水素ガスが発生することで(水素イオンが消費されることで)、カソード近傍のめっき液のpHが上昇する。それにより、カソード近傍において、バナジウム化合物が析出し、亜鉛と共析し、めっき層にバナジウム化合物として取り込まれる。
また、めっき層中のバナジウム含有量を均一にするために、低電流密度でめっきした後、高電流密度で再度めっきを行う二段めっき法も知られている(例えば特許文献3)。
国際公開第2016/199852号 特開2013-108183号公報 特開2008-25019号公報
Hiroaki Nakanoら、ISIJ International, 54(2014), p.1906-1912
しかしながら、特許文献1および2の方法では、めっき層に、デンドライトと呼ばれる樹枝状組織が形成されやすい。この樹枝状組織は、核生成、成長により伸びた一次アームおよび一次アームからさらに成長した二次アーム、三次アームと枝分かれした組織を有する。一般に、樹枝状組織と、樹枝状組織同士の間の領域とでは、組成や硬さが異なるため、めっき鋼板の加工時に、めっきの剥離や割れの起点になりやすいという問題があった。また、特許文献3のような二段めっき法では、設備の複雑化や既存の連続ラインでは対応できないという問題があった。
また、連続ラインでめっきを行う場合、亜鉛源やバナジウム源などのめっき成分を補給する必要がある。このとき、バナジウム源の補給剤としてオキシ硫酸バナジウムを用いると、オキシ硫酸バナジウムは硫酸成分を含むため、めっき液中の硫酸成分が増加し、めっき液の粘度上昇やpHの低下を生じやすい。
また、非特許文献1にも示されるように、バナジウム源としてオキシ硫酸バナジウムを溶解させためっき液を用いた場合、Znの電流効率は5~50%と、通常の亜鉛めっき(通常は60%以上)よりも低い。これは、4価のバナジン酸イオン(VO+2)からバナジウム化合物を析出させる場合、pHを上昇させるために多量の水素ガスを発生させる必要があるためである。また、オキシ硫酸バナジウムは、比較的高価であることから、連続操業を考慮すると、より低コストな材料を使用することが望まれる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、めっき液中に硫酸成分を過剰に蓄積させることなく、加工時の剥離や割れなどを生じにくい、バナジウム含有亜鉛めっき層を形成可能なめっき液の製造方法およびめっき液、めっき鋼板の製造方法およびめっき鋼板を提供することを目的とする。
本発明は、以下のめっき液の製造方法およびめっき液、ならびにめっき鋼板の製造方法およびめっき鋼板に関する。
本発明のめっき液の製造方法は、亜鉛源と、5価のバナジウム酸化物と、水とを混合して、式(1)で表される5価のバナジン酸水素イオンを含むめっき液を得る工程を含む。
式(1):H n-
(式(1)において、
x、yおよびzは、それぞれ整数であり、かつ
1≦x≦3、1≦y≦2、4≦z≦7、1≦n≦2である)
本発明のめっき液は、亜鉛源と、式(1)で表される5価のバナジン酸水素イオンと、水とを含む。
式(1):H n-
(式(1)において、
x、yおよびzは、それぞれ整数であり、かつ
1≦x≦3、1≦y≦2、4≦z≦7、1≦n≦2である)
本発明のめっき鋼板の製造方法は、本発明のめっき液を用いて電気めっきを行うことにより、鋼板上にめっき層を形成する工程を含む。
本発明のめっき鋼板は、鋼板と、亜鉛と、バナジウム化合物とを含むめっき層とを含み、前記バナジウム化合物は、粒子状、線状または板状の形状を有し、かつ前記めっき層中に分散しており、前記めっき層のバナジウムの含有量は、0.2~6質量%である。
本発明によれば、めっき液中に硫酸成分を過剰に蓄積させることなく、加工時の剥離や割れなどを生じにくい、バナジウム含有亜鉛めっき層を形成可能なめっき液の製造方法およびめっき液、めっき鋼板の製造方法およびめっき鋼板を提供することができる。
図1A~Cは、従来のめっき液からめっき層が形成される様子を示す模式図である。 図2A~Cは、本発明のめっき液からめっき層が形成される様子を示す模式図である。 図3AおよびBは、ビッカース硬さの測定方法を説明する図である。
前述の通り、特許文献1、2および非特許文献1のように、バナジウム源として、4価のバナジウムを含むオキシ硫酸バナジウム(VOSO・5HO)を溶解させためっき液(4価のバナジン酸イオン(VO+2)を含むめっき液)を用いると、得られるめっき層には、デンドライトと呼ばれる樹枝状組織が形成されやすく、加工時のめっき層の剥がれや割れなどを生じやすい。
これに対して本発明者らは、鋭意検討した結果、バナジウム源として、5価のバナジウムを含む酸化物(5価のバナジウム酸化物)を溶解させためっき液(5価のバナジン酸水素イオン(H やHVO )を含むめっき液)を用いることで、従来のような樹枝状組織を形成することなく、バナジウム化合物が良好に分散しためっき層が得られること、それにより、加工時のめっき層の剥がれや割れを抑制できることを見出した。
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。従来のように、オキシ硫酸バナジウムを水に溶解させためっき液(4価のバナジン酸イオンを含むめっき液)を用いてめっきを行うと、カソード近傍では、水素発生によりめっき液のpHが上昇し、4価のバナジウム化合物がめっき層中に析出する。この反応は、バナジウム(V)の価数が変化しないことから、pH上昇による化学反応(酸塩基反応)である。
これに対し、本発明のように、5価のバナジウム酸化物を水に溶解させためっき液(5価のバナジン酸水素イオンを含むめっき液)でめっきを行うと、カソードの近傍では、めっき時の水素発生によってめっき液のpHが上昇した状態で、めっき液中の5価のバナジン酸水素イオンが、電気化学反応によりVの価数が変化し、4価もしくは3価のバナジウム化合物として析出する。つまり、この反応は、バナジウム(V)の価数が変化することから、電気化学反応である。このような反応機構の違いにより、析出するバナジウム化合物の形状や分散状態が変わると考えられる。
また、オキシ硫酸バナジウムを、バナジウム補給剤として使用した場合、硫酸イオンがめっき液に蓄積しやすく、めっき時にめっき液の組成や粘度、pHなどが変動しやすい。これに対し、5価のバナジウム酸化物は、硫酸イオンを構成成分として含まないため、硫酸成分の過剰な蓄積も生じにくく、めっき液の組成や粘度、pHなどを変動させにくくしうる。以下、本発明の構成について説明する。
1.めっき液の製造方法
本発明のめっき液の製造方法は、亜鉛源と、バナジウム源としての5価のバナジウム酸化物と、水とを混合して、5価のバナジン酸水素イオンを含むめっき液を得る工程を含む。
(亜鉛源)
亜鉛源は、めっき層の主成分となる亜鉛(金属亜鉛(Zn))または亜鉛化合物である。亜鉛化合物の例には、硫酸亜鉛(ZnSO・7HO、ZnSO、またはZnSO・nHO(n=1~6))、酸化亜鉛(ZnO)、塩基性炭酸亜鉛(xZn(CO)・yZn(OH)・nHO)、塩化亜鉛((ZnCl)、硝酸亜鉛(Zn(NOまたはZn(NO・6HO)が含まれる。中でも、めっき時に塩化水素ガスやNOxガスなどの発生を抑制できる観点では、金属亜鉛、硫酸亜鉛(ZnSO・7HO、ZnSO、またはZnSO・nHO(n=1~6))、酸化亜鉛または塩基性炭酸亜鉛が好ましく、さらに硫酸イオンによるpH調整機能を兼ねる観点では、硫酸亜鉛が好ましい。
亜鉛源は、一種類であってもよいし、二種類以上であってもよい。
(5価のバナジウム酸化物)
バナジウム源として、5価のバナジウム酸化物を用いる。5価のバナジウム酸化物は、好ましくは五酸化バナジウム(V)である。五酸化バナジウムが水に溶解すると、5価のバナジン酸水素イオンおよび任意のバナジン酸イオンが生じる。
5価のバナジン酸水素イオンは、下記式(1)で表される。
式(1):H n-
(式(1)において、
x、yおよびzは、整数であり、かつ
1≦x≦3、1≦y≦2、4≦z≦7、1≦n≦2を満たす)
このような5価のバナジン酸水素イオンは、めっき時の水素発生によってめっき液のpHが上昇した状態で、電気化学反応によりバナジウムの価数が変化し、前述のような酸化バナジウムや水酸化バナジウムなどのバナジウム化合物、具体的には4価もしくは3価のバナジウム化合物として析出する。
このような5価のバナジウム酸化物は、バナジウム以外の元素が、水の構成元素である酸素原子のみであるため、水に溶解させても、めっき液中に不純物や不要な成分を増加させにくい。つまり、水の構成元素以外の成分がないため、不要な成分の蓄積がなく、めっき液の組成や粘性などが変化しにくく、安定である。それにより、めっき液を流動させながら行うめっき工程を容易に行うことができる。また、有害ガスの発生やそれによるめっき設備への影響もなくすことができる。また、五酸化バナジウムは、オキシ硫酸バナジウムの原料であることから、オキシ硫酸バナジウムよりも安価であり、コスト面でも優位である。
5価のバナジウム酸化物の形態は、特に制限されないが、通常、粒子状でありうる。
(他の成分)
また、必要に応じて、上記以外の他の成分をさらに添加してもよい。他の成分の例には、pH調整剤、導電助剤、亜鉛と合金化する合金成分などが含まれる。
<pH調整剤>
めっき液のpHを調整しやすくする観点から、pH調整剤をさらに混合してもよい。pH調整剤の例には、硫酸源などの酸成分や、水酸化ナトリウムなどのアルカリ成分が含まれる。
硫酸源は、水に添加すると、硫酸イオン(SO 2-)または硫酸水素イオン(HSO 2-)(以下、これらを総称して硫酸イオンという)を生成する化合物である。硫酸源の例には、硫酸、硫酸塩(硫酸亜鉛、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸錫、硫酸鉄、硫酸バナジウムなど)が含まれる。これらの硫酸塩は、亜鉛源または導電助剤と兼用されうる。
<導電助剤>
導電助剤は、電気めっき時の電圧を下げ、電気めっき電源設備の低コスト化、めっき電力を低減する観点で、添加されうる。導電助剤の種類は、特に制限されず、その例には、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムが含まれる。中でも、pH調整機能も兼ね備える観点から、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウムなどの硫酸塩が好ましい。
導電助剤の添加量は、(金属原子と結合している)硫酸の濃度で2.9mol/L以下となる範囲であることが好ましい。硫酸の濃度が2.9mol/L以下であると、常温(25℃程度)で保管する際に、導電助剤が析出しにくく、めっき性能を低下させにくいからである。
<合金成分>
合金成分の例には、Niまたはその化合物、Coまたはその化合物、Snまたはその化合物、Feまたはその化合物が含まれる。
(混合)
そして、これらの亜鉛源、5価のバナジウム酸化物、水および必要に応じて他の成分を混合する。
上記混合は、めっき液のpHが2.0~5.0となるように行うことが好ましい。すなわち、pHが2.0以上であると、5価のバナジウム酸化物が水に溶解しやすく、一旦溶解した後に再析出しにくい。それにより、5価のバナジウム酸化物を安定して水に溶解させることができる。また、pHが2.0以上であると、析出したバナジウム化合物がめっき層内に取り込まれやすい。これは、めっきを行う前のめっき液のpHが低すぎないため、バナジウム化合物がカソード近傍で析出および安定化するpHまで十分に上昇させやすいからである。一方、めっき液のpHが5.0以下であると、めっき時にめっき液中のZnイオンが、水酸化亜鉛Zn(OH)として析出するのを抑制しうる。それにより、めっき時において、めっき液中のZn成分の減少や、得られるめっき層の外観不良、めっき設備の下部での堆積などを抑制しうる。また、以下の観点では、めっき液のpHは3.0以下であることがより好ましい。
pHを3.0以下にすることが好ましい理由としては、以下の点も挙げられる。すなわち、めっき液に、溶出したFeイオンが含まれていると、めっき液は流動しているため、空気中の酸素と接触しやすく、2価のFeイオン(Fe2+)は、空気中の酸素で酸化されやすい。2価のFeイオン(Fe2+)は、酸素で酸化されると、3価のFeイオン(Fe3+)となる。3価のFeイオン(Fe3+)が多い状態でpHを高くしすぎると、3価Feイオンは、水酸化鉄(Fe(OH))やオキシ水酸化鉄(FeOOH)に変化しやすい。これらは溶解度が低いため、めっき液中で粒子として析出しやすく、析出した水酸化鉄やオキシ水酸化鉄の粒子は、時間の経過とともに凝集してスラッジになりやすい。スラッジが発生すると、めっき層にスラッジが付着し、外観を悪化させるとともに、付着したスラッジが金型で加工する際にスラッジが金型に引っ掛かり、加工困難になる場合がある。
めっき液のpHは、めっき時の温度、好ましくは60℃において、ガラス電極、比較電極および温度補償電極の3つを一体化した複合電極(以下pH複合電極)を用いて測定することができる。
めっき液のpHは、例えばpH調整剤である硫酸源の添加量や、硫酸イオンを含む亜鉛源の添加量で調整することができる。
また、上記混合は、めっき液の組成が以下を満たすように行うことが好ましい。
すなわち、めっき液の亜鉛濃度(Zn濃度)は、0.3~1.9mol/Lであることが好ましい。Zn濃度が0.3mol/L以上であると、電気めっきする際に、十分な量の亜鉛イオンをめっき面に供給しやすいため、電気めっきを安定して継続しうる。Zn濃度が1.9mol/L以下であると、めっき液を常温(25℃程度)で保管する場合に、亜鉛源の析出を抑制しやすい。同様の観点から、めっき液のZn濃度は、0.5~1.6mol/Lであることがより好ましい。
めっき液のバナジウム濃度(V濃度)は、0.005~0.2mol/Lであることが好ましい。めっき液のV濃度が0.005mol/L以上であると、めっき液中に十分な量の5価のバナジン酸水素イオンを生成しうるため、得られるめっき層中に十分な量のバナジウム化合物を含有させやすい。一方、めっき液のV濃度が0.2mol/L以下であると、めっき液中の5価のバナジン酸水素イオンが過剰に生成しにくいため、めっき層に過剰量のバナジウム化合物が取り込まれるのを抑制しうる。また、めっき液を常温(25℃程度)で保管する場合に、5価のバナジウム酸化物の析出を抑制しやすい。同様の観点から、めっき液のV濃度は、0.01~0.1mol/Lであることがより好ましい。
めっき液中のZn濃度またはV濃度は、イオン、非イオンに関係なく、添加した亜鉛源または5価のバナジウム酸化物の量に対応するZnまたはVの体積当たりのモル数である。めっき液中のZn濃度またはV濃度は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により測定することができる。
めっき液中のバナジウム(V)と亜鉛(Zn)のモル比V/Znは、例えば0.001~0.2でありうる。モル比V/Znが0.001以上であると、めっき層中に十分な量のバナジウム化合物を含有させやすく、0.2以下であると、めっき層に過剰量のバナジウム化合物が取り込まれるのを抑制しやすい。同様の観点から、V/Znは、0.02~0.06であることがより好ましい。めっき液のV/Znは、めっき液のV濃度とZn濃度から算出することができる。
2.めっき液
本発明のめっき液は、本発明のめっき液の製造方法で得られるものであり、亜鉛源と、5価のバナジン酸水素イオンと、水とを含む。
5価のバナジン酸水素イオンは、前述の式(1)で表されるイオンである。中でも、pHが2.0~5.0のめっき液中で安定に溶解しうる観点から、式(1)で表される5価のバナジン酸水素イオンは、H およびHVO の少なくとも一方であることが好ましい。
めっき液のZn濃度、V濃度、V/ZnおよびpHも、それぞれ前述の通りである。
本発明のめっき液は、種々の電気めっきに用いることができるが、好ましくは鋼板の表面に亜鉛系めっきを施す際の亜鉛系めっき液として好ましく用いることができる。
3.めっき鋼板の製造方法
本発明のめっき鋼板の製造方法は、本発明のめっき液を用いて、電気めっきを行うことにより、鋼板上にめっき層を形成する工程を含む。
具体的には、めっき液中で、カソードである鋼板を、それと対向するように配置されたアノードとの間で通電させることにより、カソードである鋼板(被めっき材)の表面にめっき層を形成する。
カソードとなる鋼板の種類は、特に制限されないが、その例には、冷延鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)が含まれる。
鋼板の厚みは、用途に応じて適宜設定されうる。例えば、めっき鋼板が電気機器の材料として用いられる場合は、鋼板の厚みは、例えば0.2~4.0mmであることが好ましく、軽量化の観点から、0.2~2.0mmであることが好ましい。
アノードとしては、例えば酸化イリジウムをコーティングしたチタン電極が用いられる。
電気めっきは、鋼板(カソード)を固定して行ってもよいし(バッチ式)、鋼板(カソード)を搬送しながら行ってもよい(連続式)。また、電気めっきは、鋼板(カソード)とアノードとの間にめっき液を連続的に供給しながら行ってもよいし、供給せずに行ってもよい。さらに、電気めっきのセル構造は、横型(水平型)であってもよいし、縦型であってもよいし、ラジアル型であってもよい。
電気めっきは、めっき液を流動させることなく行ってもよいし、流動させながら行ってもよい。特にバッチ方式で電気めっきを行う場合、消費されるZnイオン、5価のバナジン酸水素イオン、その他成分を鋼板のめっき面近傍に連続的に供給しやすくする観点では、めっき液を流動させることが好ましい。
具体的には、めっき液の鋼板に対する流速(相対速度)は、0.1~10m/sであることが好ましい。めっき液の相対速度が10m/s以下であると、めっき面近傍への水素イオンの供給速度が過剰になりにくいため、めっき面近傍のめっき液のpHが下がりにくく、バナジウム化合物の析出が阻害されにくい。また、相対流速が0.1m/s以上であると、めっき成分などをめっき面に安定に供給しやすい。なお、鋼板とアノードとの間にめっき液が供給される連続めっきラインのようなめっき装置では、電気めっき時に消費される亜鉛源や5価のバナジウム酸化物、その他成分はめっき面に連続的に供給されるため、めっき液と鋼板の相対速度はゼロでもよい。
めっき液の温度は、鋼板のめっき面にめっき層を安定に形成できる温度であればよく、特に制限されないが、20~80℃であることが好ましい。めっき液の温度が20℃以上であると、Znイオンや5価のバナジン酸水素イオンなどのめっき成分のめっき面への拡散が低下しにくく、これらが十分に供給されやすいため、めっきを安定に継続しやすい。めっき液の温度が80℃以下であると、めっき液からの水の蒸発が過剰となりにくいため、めっき成分の濃化によるめっき液の組成変化が生じにくく、めっきの品質が安定しやすい。めっき液の温度は、同様の理由から、40~70℃であることがより好ましい。
電流密度は、特に制限されないが、電気めっき時の鋼板のめっき面のpHをZnと同時にバナジウム化合物を析出させやすくする観点、すなわち、水素発生によりめっき面のpHを上昇させやすくする観点では、10A/dm以上であることが好ましい。電流密度が10A/dm以上であると、鋼板のめっき面での水素の発生量が十分に増えるため、実質的にめっき面の直上でpHが適度に上昇しやすい。電流密度の上限は、pH上昇が大きくなりすぎることによる水酸化亜鉛の発生、めっき層中への水酸化亜鉛の混入、およびそれによる外観悪化を抑制する観点から、例えば300A/dm以下としうる。
(作用)
このように、5価のバナジウム酸化物を溶解させためっき液(5価のバナジン酸水素イオンを含むめっき液)で電気めっきを行うと、めっき時の水素発生によりpHが上昇したカソードの近傍において、めっき液中の5価のバナジン酸水素イオンが、電気化学反応によりVの価数が変化し、4価もしくは3価のバナジウム化合物として析出する。
それにより、従来のような樹枝状組織を形成することなく、バナジウム化合物が、亜鉛を主成分とする連続相中に分散しためっき層が得られる。これは、反応機構の違いによるものと考えられる。具体的には、以下のように推測される。
図1A~Cは、従来のめっき液からめっき層が形成される様子を示す模式図である。図2A~Cは、本発明のめっき液からめっき層が形成される様子を示す模式図である。
まず、アノードとカソードの間で電流を流すと、めっき液中のZnイオンおよび水素イオンが電子とそれぞれ反応して、Znと水素ガスが発生する。水素ガスが発生することで、カソード近傍のめっき液のpHが上昇し、バナジウム化合物が析出しやすくなる。
ここで、4価のバナジン酸イオンを含む従来のめっき液を用いてめっきした場合、下記式(a)の酸塩基反応により、バナジウム化合物が析出する。
2VO2++4OH→V+2HO・・・(a)
上記反応では、水酸化物イオン(OH)が消費されるため、析出したバナジウム化合物近傍では、めっき液のpHは低下しやすい(図1A、pH低下領域bを参照)。それにより、析出したバナジウム化合物は、安定化しにくい。
また、析出した亜鉛近傍では、(導電性が高いため)引き続きZnと水素ガスが発生するため、めっき液のpHが上昇しやすく(図1A、pH上昇領域aを参照)、主に亜鉛が析出および成長しやすい(付随的にバナジウム化合物も析出する)のに対し;析出したバナジウム化合物近傍では、導電性が低く、めっき液のpHも低いため(図1Aのb参照)、バナジウム化合物が析出および成長しにくい。その結果、主に亜鉛が析出および成長した部分は樹枝状組織1となり;樹枝状組織同士の間の領域2では、バナジウム化合物が主に析出しやすい(図1B参照)。それにより、亜鉛濃度が高い樹枝状組織1と、それらの間を埋める、バナジウム濃度が高い領域2とを有するめっき層が形成されると考えられる(図1C参照)。
これに対し、本発明のように、5価のバナジン酸水素イオン(H またはHVO )を含むめっき液を用いてめっきした場合、所定のpH下において、下記式(b-1)または下記式(b-2)の電気化学反応により、バナジウム化合物が析出する。
+3H+2e→V+3HO・・・(b-1)
2HVO +4H+2e→V+4HO・・・(b-2)
上記反応では、水素イオン(H)が消費されるため、析出したバナジウム化合物近傍では、析出した亜鉛近傍と同様に、めっき液のpHは上昇しやすい(図2A、pH上昇領域aを参照)。それにより、析出したバナジウム化合物は、安定化しやすい。
また、析出したバナジウム化合物近傍では、亜鉛と同様に、めっき液のpHが上昇するため、析出したバナジウム化合物近傍では、亜鉛と同様に、バナジウム化合物が析出および成長しやすい(図2B参照)。それにより、亜鉛濃度が高い連続相11に、バナジウム濃度が高い分散相12が分散しためっき層が形成されると考えられる(図2C参照)。
また、5価のバナジウム酸化物は、V以外の元素が、水の構成元素であるO成分のみであるため、水に溶解させても、めっき液中に不純物や不要な成分を増加させにくい。つまり、水の構成元素以外の成分がないため、不要な成分の蓄積がなく、めっき液の組成や粘性などが変動しにくく、安定である。それにより、めっき液を流動させながら行うめっき工程を安定に行うことができる。また、有害ガスの発生やそれによるめっき設備への影響もなくすことができる。
さらに、従来では、4価のバナジン酸イオン(VO+2)からバナジウム化合物を析出させる場合、pHを上昇させるために多量の水素ガスを発生させる必要がある。これに対して本発明では、バナジウム化合物の析出は、電気化学反応によって起こるため、従来のように、pH上昇のために過剰に水素ガスを発生させる必要がない。それにより、電流効率を高めることもできる。なお、電流効率とは、めっき物の価数変化から計算される必要な電気量を、実際のめっきに必要な電気量で除し、百分率で表した値である。
4.めっき鋼板
本発明のめっき鋼板の製造方法により得られるめっき鋼板は、鋼板と、その少なくとも一方の面に形成されためっき層とを有する。
めっき層は、亜鉛(Zn)と、バナジウム化合物とを含む。
バナジウム化合物は、前述の通り、酸化バナジウムや水酸化バナジウム、およびそれらの水和物などである。
バナジウム化合物は、めっき層中に分散している。具体的には、バナジウム化合物は、粒子状、線状、または板状の形状を有し、亜鉛を主成分とする連続相(マトリクス)中に分散相として分散または点在している。すなわち、めっき層は、樹枝状組織(めっき層の鋼板側の面から厚み方向に延びており、かつ枝別れ構造を有する組織、図1C参照)を実質的に有しない。樹枝状組織を実質的に有しないとは、具体的には、めっき層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により20μm×25μm(×5000視野)の領域で観察したときに、観察領域内のめっき層の部分の面積に対する樹枝状組織の面積比が20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは0%であることをいう。
上記断面を観察したときの、粒子状のバナジウム化合物のアスペクト比は、1~4であることが好ましい。粒子状のバナジウム化合物の平均粒子径は、例えば0.1~1.5μmでありうる。
線状とは、直線状または曲線状を意味する。上記断面を観察したときの、線状のバナジウム化合物のアスペクト比(平均長さ/平均径)は、4超30以下であることが好ましい。線状のバナジウム化合物の平均長さは、例えば0.4~15μmでありうる。なお、曲線状の場合、曲線を短い直線で細かく区切り、それらの各直線の長さを測定し、それらの合計を「長さ」とする。
粒子状または線状のバナジウム化合物の平均粒子径、アスペクト比または平均長さは、めっき層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。
具体的には、めっき層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)、×5000の視野、加速電圧15kVの条件で観察して得られる反射電子像から、任意の10個のバナジウム化合物の粒子径、アスペクト比または長さをそれぞれ測定し、それらの平均値を平均粒子径、アスペクト比または平均長さとしうる。
なお、線状のバナジウム化合物は、樹枝状組織とは異なる。具体的には、線状のバナジウム化合物は、複数の枝別れ構造を有しないことが好ましい。また、線状のバナジウム化合物の長さ方向の、水平方向(めっき層の厚み方向と直交する方向)に対してなす角度は、例えば±40°以下、好ましくは±30°以下でありうる。また、線状のバナジウム化合物は、樹枝状組織のように、めっき層の鋼板側の面とは繋がっていない。
めっき層のバナジウム(バナジウム元素)の含有量は、特に制限されないが、0.2~6.0質量%であることが好ましい。めっき層中のバナジウムの含有量が0.2質量%以上であると、めっき層に十分な耐食性を付与しやすく、6.0質量%以下であると、めっき層が硬くなりすぎないため、加工時のめっき層の割れや剥がれを生じにくい。めっき層のバナジウムの含有量は、同様の観点から、1.0~4.0質量%であることがより好ましい。
めっき層におけるバナジウムの含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)や一次線を電子線としたエネルギー分散型X線分光法により測定することができる。
なお、バナジウム化合物は、例えば水和物として含まれることがある。このような水和物は、保管中に白錆が発生する原因となることがある。すなわち、めっき層に含まれる酸化バナジウムや水酸化バナジウムの水和物から水が脱離し、腐食が生じることがある。そのような腐食を高度に抑制する観点では、これらの水和物の割合は少ないことが好ましい。
具体的には、めっき層中の酸素原子Oと、バナジウム原子Vのモル比O/Vは、特に制限されないが、1.5~13であることが好ましい。モル比O/Vが13以下であると、バナジウム化合物中で水和している水分子が多すぎないため、めっき層の耐水性が損なわれにくい。同様の観点から、モル比O/Vは、8以下であることがより好ましい。
モル比O/Vは、めっき液中の5価のバナジン酸水素イオン濃度やpH、めっき液の攪拌流速により調整することができる。
めっき層は、上記以外の他の成分、例えば合金成分や、導電助剤に由来する成分(Na、Al、Mgなど)をさらに含んでもよい。他の成分の合計含有量は、めっき層に対して好ましくは5質量%以下でありうる。
めっき層の付着量は、特に制限されないが、片面あたり1~60g/mであることが好ましく、2~30g/mであることがより好ましい。
(ビッカース硬さ)
めっき層のビッカース硬さは、バナジウムの含有量にもよるが、例えばめっき層のバナジウム含有量が0.2~6.0質量%であるとき、160HV以下であることが好ましい。めっき層のビッカース硬さが上記範囲内であると、適度な柔軟性を有するため、めっき鋼板を曲げるなどの加工をする際に、めっき層の剥がれや割れを抑制しやすい。めっき層のビッカース硬さは、同様の観点から、90~150HVであることがより好ましい。
めっき層のビッカース硬さは、JIS Z 2244ビッカース硬さ試験-試験方法に準拠した測定することができる。測定条件は、後述する実施例と同様としうる。
めっき層のビッカース硬さは、めっき液の種類やバナジウム含有量によって調整されうる。具体的には、めっき層のビッカース硬さを上記範囲内にするためには、本発明のめっき液を用い、かつバナジウム含有量を上記範囲内とすることが好ましい。
(密着性)
また、めっき鋼板の20mm×50mmの試験片を180°折り曲げた後、曲げ部分にセロハンテープ(登録商標)を貼り付け、急速に引き剥がしたときのセロハンテープへのめっき付着量が、めっきに貼り付けた箇所の面積の20%以下であることが好ましい。
めっき鋼板は、例えば自動車、電気機器、建材、塗装鋼板の原板として好ましく用いることができる。
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
1.めっき液の構成成分
(1)バナジウム源(V源)
五酸化V:五酸化バナジウム(V)、純度99.5%、固体(粉体)
オキシ硫酸V:オキシ硫酸バナジウム(VOSO・5HO)、固体(粉体)
(2)亜鉛源(Zn源)
硫酸Zn:硫酸亜鉛 七水和物(ZnSO・7HO)、固体(粉体)
(3)導電助剤
硫酸Na:硫酸ナトリウム無水物(NaSO)、固体(粉体)
(4)pH調整剤
硫酸、水酸化ナトリウム
2.めっき液の作製、およびめっき鋼板の作製および評価
<試験1~19>
(1)めっき液の作製
表1に示されるZn源、V源、導電助剤、pH調整剤およびイオン交換水を、表1に示される組成およびpHとなるように混合して、めっき液を得た。なお、硫酸亜鉛の配合量は、350g/Lとし、導電助剤の配合量は、80g/Lとした。
なお、めっき液中のV濃度は、五酸化バナジウムの添加量から算出した。また、めっき液のpHは、主に硫酸および水酸化ナトリウム水溶液によって調整した。めっき液のpHは、以下の方法で測定した。
(pH)
めっき液のpHは、pH1.62シュウ酸塩標準液、pH4.01フタル酸塩標準液およびpH6.86中性リン酸塩標準液で3点校正したpH複合電極を用いて、60℃(昇温後)で測定した。
(2)めっき鋼板の作製
(前処理)
まず、鋼板として、焼鈍済みの冷延鋼板を準備した。この鋼板を、60℃の2.5質量%の水酸化ナトリウムのアルカリ溶液中で電解脱脂した後、5質量%の硫酸水溶液中で酸洗した。
(電気めっき)
次いで、上記作製しためっき液4Lを、矩形の管内に流動させた。この矩形の管内に、上記処理した鋼板を浸漬させるとともに、当該鋼板に対向するようにアノード電極を10mmの間隔をあけて配置した。アノード電極には、チタンに酸化イリジウムをコーティングしたものを用いた。そして、浴温60℃、流速0.4m/s、電流密度60A/dmの条件で、電気めっきを行った。また、めっき付着量は20g/mとした。
(3)評価
得られためっき鋼板のめっき層中のV濃度、めっき層におけるバナジウム化合物の形状、ビッカース硬さ、密着性(0T曲げ)、および耐食性を、以下の方法で測定した。
(V濃度)
めっき層中のVの含有量は、一次線を15keVの電子線としたエネルギー分散型X線分光法により測定した。
(めっき層におけるバナジウム化合物の形状)
めっき層に含まれるバナジウム化合物の形状を、走査型電子顕微鏡(SEM)で×5000の視野、加速電圧15kVの条件で観察した。
また、試験4のめっき層の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により×5000の視野、加速電圧15kVの条件で観察し、得られた反射電子像において、任意の10個のバナジウム化合物の粒子径、アスペクト比または長さをそれぞれ測定した。この操作を、視野を変えて3箇所行った。そして、得られた測定値の平均値を、平均粒子径、アスペクト比または平均長さとした。
その結果、粒子状のバナジウム化合物の平均粒子径は0.6μm程度であり、線状のバナジウム化合物の平均長さは2.3μm、アスペクト比は12.7程度であった。
(ビッカース硬さ)
めっき層のビッカース硬さは、JIS Z 2244ビッカース硬さ試験-試験方法に準拠した測定した。
具体的には、正四角錘のダイヤモンド圧子23(対面角θは136°)を、めっき鋼板20のめっき層22の表面に対し垂直に押し込み、試験力Fを解除した後、表面に残ったくぼみ(圧痕)の対角線長さd1、d2を測定した(図3A参照)。
くぼみの対角線長さの測定は、金属顕微鏡でくぼみを×500の視野で読み取り、以下の計算式に当てはめて、ビッカース硬度を算出した。
Figure 0007397305000001
ここで、定数=0.102、F:試験力(N)、d:くぼみの対角線長さd1とd2の平均(mm)を示す。
試験力Fを2.0Nとして測定した。ダイヤモンド圧子23がめっき層22を超えて、鋼板21まで押し込まれる条件で実施した(図3B参照、表層からの押し込み深さhが約9~13μm程度)。試験力Fを2.0Nとしたのは、2.0N未満ではめっき層22の表面のくぼみが小さく、測定が困難となる場合があるためであり、試験力Fが2.0Nより大きい場合は、めっき付着量20g/mでは、ダイヤモンド圧子23の圧下量が大きくなり、測定硬さに対するめっき層22の硬さの比率が低下するためである。
実施例における硬さ測定は、めっき母材である鋼板21の影響を受けるため、鋼板21を一般加工用冷延軟質材(SPCC)とし、平均的なビッカース硬さであるビッカース硬さHV99のものを用いた。
(密着性)
得られためっき鋼板を所定の大きさにカットして、試験片とした。この試験を、180°折り曲げた後、曲げ部分にセロハンテープを貼り付け、急速に引き剥がしたときのセロハンテープへのめっき付着量を測定した。そして、以下の基準に基づいて、密着性を評価した。
○:めっき層の剥がれなし(セロハンテープへのめっき付着が全くない)
△:めっき層の一部に剥がれがあるが、実用上問題ないレベル(セロハンテープへのめっき付着量が、めっきに貼り付けた箇所の面積の0%超20%以下)
×:めっき層の大部分が剥がれ、実用上問題となるレベル(セロハンテープへのめっき付着量が、めっきに貼り付けた箇所の面積の20%超)
△以上であれば、許容範囲とした。
(耐食性)
JIS Z 2371塩水噴霧試験方法を行い、赤錆が発生するまでの時間を測定した。赤錆が発生するまでの時間が長いほど、耐食性が高いことを示す。
(電流効率)
電流効率は、以下の式を用いて算出した。
Figure 0007397305000002
なお、Znの析出量から求めた電気量およびVの析出量から求めた電気は、めっき後に得られためっき層中のZn、V濃度をそれぞれ測定し、その濃度から電気量をそれぞれ算出した。また、計算にあたり、析出するバナジウム化合物は、4価のものと仮定した。
試験1~19のめっき液の作製条件および評価結果を、表1に示す。なお、表1におけるpHは、昇温後(60℃)のpHを示す。
Figure 0007397305000003
表1に示されるように、バナジウム源が五酸化バナジウム(五酸化V)であり、かつpHが2~5に調整されためっき液を使用した試験1~16(本発明)では、めっき層のバナジウム化合物は、粒子状、線状または板状で分散しており、樹枝状組織は形成されないことがわかる。それにより、良好な耐食性を有しつつ、ビッカース硬さも高すぎないため、高い密着性を有することがわかる。また、電流効率は80%程度と高いこともわかる。
特に、めっき液中のV濃度が0.005mol/L以上であると、めっき層中のバナジウム濃度も適度に高くなりやすく、耐食性が一層高まることがわかる(試験1、2、4、9~11および13の対比)。
また、めっき液のpHが適度に高くなるほど、めっき層中のバナジウム濃度も適度に高くなりやすく、耐食性が一層高まることがわかる(試験3および5~8の対比、試験14と15の対比)。
これに対して、V源がオキシ硫酸バナジウム(オキシ硫酸V)であるめっき液を使用した試験17~19(比較例)では、めっき層に、樹枝状組織が形成されることがわかる。それにより、めっき層の密着性が低いことがわかる。また、電流効率も60%以下と低いことがわかる。
また、ビッカース硬さについては、以下のことがわかる。まず、表1において、実施例および比較例のめっき鋼材は、いずれもめっき層のバナジウム含有量が高くなるほど、めっき層も硬くなることがわかる。しかしながら、めっき層のバナジウム含有量がほぼ同じある試験12および14(実施例)と試験19(比較例)とを対比すると、試験19(比較例)のめっき層のほうが硬く、密着性が低いことがわかる。これは、得られるめっき層の構造が、実施例と比較例とで異なるためであると推察される。
つまり、比較例のめっき層の構造は、亜鉛を主成分とする変形しやすい樹枝状組織と、バナジウム化合物を主成分とする変形しにくい領域(樹枝状組織同士の間の領域)とで構成されている。そのため、圧子が押し込まれても、変形しやすい柱状組織は、変形しにくい組織間領域で囲まれているため変形しにくく、めっき層全体としても変形しにくく、硬くなると考えられる。一方、実施例では、めっき層には、バナジウム化合物が、粒子状、線状または板状の形態で分散しているため、亜鉛を主成分とする領域の変形性が損なわれにくい。したがって、実施例のめっき層のほうが、比較例のめっき層よりも変形しやすく(硬すぎず)、密着性に優れると考えられる。
<試験20~23>
(1)めっき液の作製
表2に示されるZn源、V源、導電助剤、pH調整剤およびイオン交換水を、表2に示される組成およびpHとなるように混合した以外は、試験1と同様にしてめっき液を得た。
(2)めっき鋼板の作製・評価
めっき液を、表2のめっき液に変更した以外は試験1と同様にして、めっき鋼板を作製し、同様の評価を行った。
試験20~23のめっき液の作製条件および評価結果を、表2に示す。なお、対比のために、試験2~4、7、16および19の評価結果も併せて示す。
Figure 0007397305000004
表2に示されるように、V源が五酸化バナジウムであるめっき液を使用し、かつめっき液中のO/V(モル比)を1.5~13とすることで、密着性および耐食性を一層高めうることがわかる(試験20、21、2~4および7の対比)。これらの耐食性は、バナジウム化合物を含まない試験23のめっき層の耐食性よりも格段に高いことがわかる。
これに対して、V源がオキシ硫酸バナジウムであるめっき液を使用した試験19および22では、前述と同様に、得られるめっき層内のバナジウム化合物が樹枝状組織となり、五酸化バナジウムと同程度のV濃度であっても、密着性が得られないことがわかる。
また、ビッカース硬さについては、以下のことがわかる。すなわち、めっき層のバナジウム含有量が同等である試験7(実施例)と試験19(比較例)とを対比すると、試験7(実施例)では、めっき層が硬すぎず、曲げ試験においてめっき層の剥離が生じないのに対し、試験19(比較例)は、めっき層が硬く、曲げ試験においてめっき層の剥離が生じることがわかる。これは、実施例では、めっき層が適度に柔らかいため、曲げたときにめっき層と母材の界面に大きな応力がかかりにくいためと推察される。
本発明によれば、めっき液中に硫酸成分を過剰に蓄積させることなく、加工時の剥離や割れなどを生じにくい、バナジウム含有亜鉛めっき層を形成可能なめっき液の製造方法およびめっき液、めっき鋼板の製造方法およびめっき鋼板を提供する。
1 樹枝状組織(亜鉛濃度が高い領域)
2 樹枝状組織同士の間の領域(バナジウム濃度が高い領域)
11 連続相(亜鉛濃度が高い領域)
12 分散相(バナジウム濃度が高い領域)
21 鋼板
22 めっき層
23 ダイヤモンド圧子

Claims (7)

  1. 亜鉛源と、5価のバナジウム酸化物と、水とを混合して、式(1)で表される5価のバナジン酸水素イオンを含むめっき液を得る工程を含み、
    前記めっき液の60℃におけるpHは2.0~5.0であり、
    前記めっき液のバナジウム濃度は、0.005~0.08mol/Lである、
    めっき液の製造方法。
    式(1):H n-
    (式(1)において、
    x、yおよびzは、それぞれ整数であり、かつ
    1≦x≦3、1≦y≦2、4≦z≦7、1≦n≦2である)
  2. 前記5価のバナジウム酸化物は、五酸化バナジウムである、
    請求項1に記載のめっき液の製造方法。
  3. 前記亜鉛源は、硫酸亜鉛を含む、
    請求項1又は2に記載のめっき液の製造方法。
  4. 亜鉛源と、式(1)で表される5価のバナジン酸水素イオンと、水とを含み、
    60℃におけるpHは2.0~5.0であり、
    バナジウム濃度は0.005~0.08mol/Lである、
    めっき液。
    式(1):H n-
    (式(1)において、
    x、yおよびzは、それぞれ整数であり、かつ
    1≦x≦3、1≦y≦2、4≦z≦7、1≦n≦2である)
  5. 前記亜鉛源は、硫酸亜鉛を含む、
    請求項に記載のめっき液。
  6. 請求項4又は5に記載のめっき液を用いて電気めっきを行うことにより、鋼板上にめっき層を形成する工程を含む、
    めっき鋼板の製造方法。
  7. 前記電気めっきは、電流密度10A/dm以上で行う、
    請求項に記載のめっき鋼板の製造方法。
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