JP7391505B2 - 複合鉄酸化物焼結体および複合鉄酸化物粉末ならびにこれらの製造方法 - Google Patents

複合鉄酸化物焼結体および複合鉄酸化物粉末ならびにこれらの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、複合鉄酸化物焼結体および複合鉄酸化物粉末ならびにこれらの製造方法に関する。
酸化鉄は、酸化するにつれてウスタイト(Fe1-xO)からマグネタイト(Fe34)、マグヘマイト(γ-Fe23)、そして最終的にはヘマタイト(α-Fe23)へと相転移するため、半金属、フェリ磁性および半導体特性を示す。Fe34は、八面体BサイトにおけるFe2+と、四面体Aサイトおよび八面体Bサイトの両方におけるFe3+と、を有する逆スピネル構造を形成する。この状況は、120Kを超える温度で電子がFe2+とFe3+との間を移動するため(フェルベー転移)電気抵抗率が比較的低く(例えば、非特許文献1参照)、かつ、そのフェリ磁性挙動は850Kまで存在する(例えば、非特許文献2参照)。これらの特性は、スピントロニクスデバイス(例えば、非特許文献3参照)、ガスセンサ(例えば、非特許文献4参照)、抵抗変化型ランダムアクセスメモリ(例えば、非特許文献5参照)などへの適用可能性がある。
Fe34を含有するデバイスまたは素子の性能を維持し、他のアプリケーションでの使用を拡大するためには、Fe34の転移温度を上昇させる必要がある。粉末Fe34の相転移は、熱処理温度および結晶サイズに依存し(例えば、非特許文献6~17参照)、温度が493Kを超えると、300nm以下のサイズの結晶がγ-Fe23に変化する(例えば、非特許文献11参照)。これは、粒径が小さくなるにつれて、相転移の活性化エネルギーが減少するために起こる(例えば、非特許文献14参照)。Mn、Co、Ni、Zn、Cu、Al、Vおよびのうち少なくとも一種が添加された場合、転移温度は773Kから923Kまで上昇する。Fe34コアを酸化から保護するため、SnO2(例えば、非特許文献18参照)およびリン酸炭素材料(例えば、非特許文献19参照)のシェルを有するコア-シェル構造を形成することなど、鉄酸化物のナノ粒子に関する代替技術が提案されている。薄膜として形成された場合、573K~603Kの温度で空気中において無添加Fe34がγ-Fe23に相転移するが(例えば、非特許文献20参照)、金属添加Fe34薄膜に耐酸化性をもたせる方法は不明である。
Fe34ターゲット上に金属チップをセットした高周波(RF)スパッタリングを用いて製造された単相Fe34膜の製造方法のほか、金属チップを含まないセラミックFe34ターゲットがFe34およびα-Fe23相混合物が生成されることが報告されている(例えば、特許文献1および非特許文献21、22参照)。さらに、Fe34薄膜の磁化は、比較的低い金属濃度で最大化することが確認された。
特許第5389370号公報
E, J. Verwey, P. W. Haayman, and F. C. Romeijn, J. Chem. Phys. 15 (1947) 181. G. A. Samara, A. A. Giardini, Phys. Rev. 186 (1969)578. K. I. Aoshima and S. X. Wang, J. Appl. Phys. 93 (2003) 7954. M. Aronniemi, J. Saino and J. Lahtinen, Thin Solid Films 516 (2008) 6110. K. Kinoshita, T.Tamura, M. Aoki, Y. Sugiyama and H. Tanaka, Appl.Phys. Lett. 89 (2006) 103509. M. S. Cresser and N. T. Livesev, Analyst 109 (1984) 219. B. Gillot, A. Rouset and G. Dupre, J. Solid State Chem. 25 (1978) 263. C. E. Mvllins, J. SoilSci. 28 (1977) 223. R. Ven'ch and E. Schmiobauer, J. Mag. Mag. Mat. 37 (1983) 63. S. Nasrazadani and A . Raman, Corrosion Science 34 (1993) 1355. K. J. Gallagher, W. Feitknecht, and U. Mannweiler, Nature (London) 217 (1968) 1118. P. S. Sidhu, Clays Clay Miner. 36 (1988) 31-38. J. Lai, K. V. P. M. Shafi, K. Loos, A. Ulman, Y. Lee, T. Vogt, and C. Estournes, J. Am. Chem. Soc. 125 (2003) 11470. G. Gnanaprakash, S. Ayyappan, T. Jayakumar, J. Philip and B. Raj, Nanotechnology 17 (2006) 5851. S. S. Pati, S. Gopinath, G. Panneerselvam, M. P. Antony, and J. Philip, J. Appl. Phys. 112 (202) 054320. S. S. Pati and J. Philip, J. Appl. Phys. 113 (2013) 044314. A. Jafari, S. FarjamiShayesteh, M. Salouti, K. Boustani, J. Mag. And Mag. Mat. 379 (2015) 305. X. Xu, M. Ge, C. Wang, and J. Z. Jiang, Appl. Phys. Lett. 95 (2009) 183112. T. Muthukumaran and J. Philip, J. Appl. Phys. 115 (2014) 224304. S. Hattori, Y. Ishii, M. Shinohara and T. Nakagawa, IEEE Transactions on Magnetics, MAG-15 (1979) 1549-1552. S. Abe, D. H. Ping, M. Ohnuma and S. Ohnuma, Jpn. J. Appl. Phys. 50 (2010) 063002. S. Abe and S. Ohnuma, Appl. Phys. Express 1 (2008) 111304 E. Takayama, N. Kimizuka, K. Kato, H. Yamamura, and H. Haneda, J. Solid State Chemistry 38 (1981) 82. J. B. Nelson, D. P. Riley, Proc. Phys. Soc. 57 (1945) 160. M. Watanabe and S. Abe, J. Nanosci. Nanotech. 16 (2016) 2509-2516. H. S. C. O’Neil and A. Navrotsky, Am. Min. 69, (1984) 733. M. Seki, H. Tabata, H. Ohta, K. Inaba, and S. Kobayashi, Appl. Phys. Lett. 99 (2011) 242504. B. Gillot and M. El Guendouzi, Reactivity of Solids 1 (1986) 139-152. P. Tailhades, B. Gillot and A. Rousset, J. Phys. IV France 7 (1997) C1-249.
本発明は、耐酸化性の向上が図られている複合鉄酸化物焼結体および複合鉄酸化物粉末ならびにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
本発明の複合鉄酸化物焼結体は、
組成式GexFe3-x4(0.2≦x≦0.5)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と
組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、により構成されている複合鉄酸化物焼結体であって、
前記複合鉄酸化物焼結体の表層部が、前記ヘマタイト結晶相により構成され、かつ、前記複合鉄酸化物焼結体のうち前記表層部により覆われている内部が、前記マグネタイト結晶相により構成されていることを特徴とする。
本発明の複合鉄酸化物粉末は、
組成式GexFe3-x4(0.2≦x≦0.5)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と
組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、により構成されている複合鉄酸化物粉末であって
前記複合鉄酸化物粉末の表層部が、前記ヘマタイト結晶相により構成され、かつ、前記複合鉄酸化物粉末のうち前記表層部により少なくとも部分的に覆われている内部が、前記マグネタイト結晶相により構成されていることを特徴とする。
本発明の複合鉄酸化物焼結体の製造方法は、
組成式GexFe3-x4(0.2≦x≦0.5)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と
組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、により構成されている複合鉄酸化物焼結体であって
前記複合鉄酸化物焼結体の表層部が、前記ヘマタイト結晶相により構成され、かつ、前記複合鉄酸化物焼結体のうち前記表層部により少なくとも部分的に覆われている内部が、前記マグネタイト結晶相により構成されている複合鉄酸化物焼結体を製造する方法であって、
非酸化雰囲気または真空において、第1温度範囲1073~1573Kに含まれる温度で、第1時間範囲0.1~170hrに含まれる時間にわたって、Fe34、FeOおよびGeO2の混合粉末を熱処理する工程と、
酸化雰囲気において、第2温度範囲673~973Kに含まれる温度で、第2時間範囲10分~500日に含まれる時間にわたって前記混合粉末をさらに熱処理する工程と、を含んでいることを特徴とする。
本発明の複合鉄酸化物粉末の製造方法は、
組成式GexFe3-x4(0.2≦x≦0.5)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、により構成されている複合鉄酸化物粉末であって、
前記複合鉄酸化物粉末の表層部が、前記ヘマタイト結晶相により構成され、かつ、前記複合鉄酸化物粉末のうち前記表層部により覆われている内部が、前記マグネタイト結晶相により構成されている複合鉄酸化物粉末を製造する方法であって、
Fe34、FeOおよびGeO2の混合粉末を成形することにより成形体を作製する工程と、
非酸化雰囲気または真空において、第1温度範囲1073~1573Kに含まれる温度で、第1時間範囲0.1~170hrに含まれる時間にわたって前記成形体を熱処理することにより焼結体を作製する工程と、
酸化雰囲気において、第2温度範囲673~973Kに含まれる温度で、第2時間範囲10分~500日に含まれる時間にわたって前記焼結体を粉砕した粉末を熱処理する工程と、を含んでいることを特徴とする。
本発明に係る複合鉄酸化物焼結体および粉末のそれぞれによれば、その耐酸化性の向上が図られる。
複合鉄酸化物の構成説明図。 673Kの空気中における熱処理時間の関数としての無添加Fe34薄膜の磁化に関する説明図。 異なる温度における熱処理時間の関数としての、複合鉄酸化物薄膜(Ge含有量3.4at.%)の磁化に関する説明図。 複合鉄酸化物薄膜における熱処理時間(T)と熱処理温度との関係に関する説明図。 673Kで空気中における熱処理時間に対する各複合鉄酸化物薄膜の磁化の測定結果に関する説明図。 Geが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜の熱処理期間および磁化の関係に関する説明図。 673Kで空気中において500日間にわたり熱処理された後のGeが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜のXRDパターンに関する説明図。 Geが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜の複合鉄酸化物薄膜の磁化曲線。 Geが添加されたFe34薄膜および実施例1の複合鉄酸化物薄膜のそれぞれのHAADF-STEM画像。 Geが添加されたFe34薄膜および実施例1の複合鉄酸化物薄膜のそれぞれのGe-KのSTEM-EDX元素マップ画像。 Geが添加されたFe34薄膜および実施例1の複合鉄酸化物薄膜のそれぞれのFe-KのSTEM-EDX元素マップ画像。 Geが添加されたFe34薄膜および実施例1の複合鉄酸化物薄膜のそれぞれのO-KのSTEM-EDX元素マップ画像。 Geが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜のSTEM断面画像。 粗構造のSAEDパターンに関する説明図。 柱状構造のSAEDパターンに関する説明図。 Geが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜のXRDパターンに関する説明図。 Geが添加された複合鉄酸化物薄膜のSTEM平面図。 Geが添加された複合鉄酸化物薄膜のHAADF-STEM平面画像。 Geが添加された複合鉄酸化物薄膜のFe、OおよびGeのそれぞれのEELS線分析結果に関する説明図。 Geが添加された複合鉄酸化物薄膜のGe L2、3エッジを有するEELSスペクトルに関する説明図。 Moが添加された複合鉄酸化物薄膜のHAADF-STEM断面画像。 Wが添加された複合鉄酸化物薄膜のHAADF-STEM断面画像。 Mgが添加された複合鉄酸化物薄膜のHAADF-STEM断面画像。 Moが添加された複合鉄酸化物薄膜のMo-LのSTEM-EDX元素マッピングに関する説明図。 Wが添加された複合鉄酸化物薄膜のW-LのSTEM-EDX元素マッピングに関する説明図。 Mgが添加された複合鉄酸化物薄膜のMg-KのSTEM-EDX元素マッピングに関する説明図。 Moが添加された複合鉄酸化物薄膜のXRDパターンに関する説明図。 Wが添加された複合鉄酸化物薄膜のXRDパターンに関する説明図。 Mgが添加された複合鉄酸化物薄膜のXRDパターンに関する説明図。 試験片の作製および熱処理に関する模式的説明図。 673Kで空気中における熱処理時間に対する、保護層を有する無添加Fe34薄膜の磁化に関する説明図。 固溶体GexFe3-x4焼結体および粉末の作製方法に関する説明図。 GexFe3-x4粉末のXRDパターンに関する説明図。 GexFe3-x4粉末の格子定数およびxの値の関係に関する説明図。 x=0およびx=0.2の焼結体の熱処理時間の関数としての10kOeでの磁化曲線に関する説明図。 固溶体GexFe3-x4焼結体の、空気中で熱処理を施した際の、磁化とxの関係に関する説明図。 固溶体GexFe3-x4焼結体の、AM1.5の光の照射時間とエタノールガスの分解能との関係に関する説明図。 固溶体GexFe3-x4焼結体の、AM1.5の光を70時間照射した後の、エタノールガスの分解能とxとの関係に関する説明図。 固溶体GexFe3-x4焼結体(x=0.5)の、AM1.5の光を照射する前および70時間照射した後の、XRDパターンに関する説明図。
(複合鉄酸化物薄膜の構成)
複合鉄酸化物薄膜(Fe34/α-Fe23薄膜)は、図1に模式的に示されているように、マグネタイト(Fe34)結晶相またはマグヘマイト(γ-Fe23)結晶層により構成される第1鉄酸化物層X1と、ヘマタイト(α-Fe23)結晶相により構成される表面層としての第2鉄酸化物層X2と、を有している。第1鉄酸化物層X1と第2鉄酸化物層X2とはヘテロ構造を有している。ここで「ヘテロ構造」とは、2つの層がヘテロ接合されたかのような境界面を有し、一体不可分的な形態で積み重なっている構造を意味する。第2鉄酸化物層X2の表面は平坦度が低く、粗さ曲線が不規則的であり、表面粗さRaは200nm以下の範囲に含まれている。
第1鉄酸化物層X1は、組成式L1-x-yFexy(但し、0.90≦x+y<1.0、0.27≦x≦0.67、0.37≦y≦0.67、L:Mo、W、GeおよびMgからなる群から選ばれる一種以上の元素)で表わされる。LとしてGeのみが含まれている場合、第1鉄酸化物層X1はマグネタイト結晶相により構成される。LとしてMo、WおよびMgからなる群から選ばれる一種以上の元素が含まれている場合、第1鉄酸化物層X1はマグヘマイト結晶相により構成される。第2鉄酸化物層X2は、組成式L1-u-vFeuv(0.99≦u+v≦1.0、0.39≦u≦0.41、0.59≦v≦0.61)で表わされる。
LがMoである場合、x=0.40~0.46、y=0.54~0.60、u=0.37~0.43、v=0.57~0.63であることが好ましい。LがWである場合、x=0.41~0.45、y=0.55~0.59、u=0.38~0.42、v=0.58~0.62であることが好ましい。LがGeである場合、x=0.38~0.48、y=0.52~0.62、u=0.38~0.48、v=0.52~0.62であることが好ましい。LがMgである場合、x=0.38~0.48、y=0.52~0.62、u=0.35~0.45、v=0.55~0.65であることが好ましい。
第1鉄酸化物層X1が、組成式Ge1-x-yFexy(但し、0.90≦x+y<1.0、0.33≦x≦0.53、0.47≦y≦0.67)で表わされ、かつ、マグネタイト結晶相により構成され、第2鉄酸化物層X2が、組成式Ge1-u-vFeuv(0.99≦u+v≦1.0、0.39≦u≦0.41、0.59≦v≦0.61)で表わされ、かつ、ヘマタイト結晶相により構成されていることが好ましい。
(複合鉄酸化物薄膜の製造方法)
マグネタイト(Fe34)のターゲットにGe、Mo、W、およびMgからなる群から選択される一種以上の金属元素のチップが配置された複合ターゲットが、薄膜製造装置(例えば、スパッタリング装置)に設置される。金属添加濃度としては、金属添加Fe34薄膜の磁化が最大化されるような濃度、すなわちGeの場合は3.4at.%、Moの場合は1.3at.%、Wの場合は1.3at.%、Mgの場合は5.1at.%が採用された(例えば、非特許文献21、22参照)。そのうえで、例えばコーニング社製#7059ガラス基板等の基板が適当な時間にわたりスパッタエッチングされた後、交流電圧がターゲットに印加されて、Arガス等の雰囲気中で当該金属が添加されたFe34薄膜の成膜が行われる(例えば、特許文献1、非特許文献21参照)。この際、基板付近におけるバイアス電圧などの特殊な処理を施すことなく当該薄膜が作製される。
次に、金属添加Fe34薄膜が、例えば673~973Kの温度範囲に含まれる所定の熱処理温度で空気中において、例えば10分~500日の範囲に含まれる所定の熱処理期間にわたり熱処理された。これにより、金属添加Fe34薄膜の表面層が第2鉄酸化物層X2に変化し、当該表面層より基板側にあって当該薄膜の構造がほぼそのまま維持されている第1鉄酸化物層X1が構成されて本発明の複合鉄酸化物薄膜が作製される。
当該複合鉄酸化物薄膜は、チャンバの内部が窒素などの適当なガスによりパージされたうえで、当該チャンバから取り出される。
(薄膜評価方法)
振動型試料磁力計(Tamakawa、TM-VSM-2430、Japan)を用いて、雰囲気温度における薄膜の磁化が測定された。薄膜の構造は、CuKα線(Rigaku、RAD-X、Japan)を用いたX線回折(XRD)を用いて同定された。走査透過型電子顕微鏡(STEM)、高角環状暗視野(HAADF)STEM、電子エネルギー損失分光法(EELS)、および、Ge-K、Mo-L、WL、Mg-K、Fe-K、およびO-Kの元素分析のための200kVで動作するエネルギー分散型X線分光法(EDX)(JEOL ARM200F、Tokyo、Japan)を用いて観察された。イオンミリングおよび集束イオンビームを用いて、断面および平面画像のそれぞれが準備された。
(複合鉄酸化物薄膜の耐酸化性)
図2には、673Kの空気中における熱処理時間の関数としての無添加Fe34薄膜の磁化が示されている。単相Fe34薄膜が出発材料として確実に準備されるように、セラミックFe1-xOターゲットが用いられてAr/希薄酸素雰囲気中で成膜が行われた。磁化は熱処理時間が長くなるにつれて徐々に減少し、1日後に完全に消失した。無添加Fe34薄膜は、1日間にわたり熱処理されたα-Fe23の弱いフェロ磁性挙動(下部枠に示される磁化曲線参照)とは対照的に、熱処理前にはフェリ磁性挙動(上部枠に示される磁化曲線参照)を示した。
成膜されたFe34薄膜のXRDパターンは逆スピネル構造を特徴としており、熱処理過程において、α-Fe23への相転移を意味するコランダム構造を特徴とするパターンに変化する(図示略)。磁化が徐々に減少することによって、Fe34薄膜が酸化される過程が観察される。
図3には、異なる温度における熱処理時間の関数としての、複合鉄酸化物薄膜(Ge含有量3.4at.%)の磁化が示されている。比較的低い温度(673Kおよび823K)では、熱処理時間が長くなるにつれて磁化が低下する。磁化の低下は、熱処理温度が上昇するにつれて急速になる。磁化の変化は、無添加複合鉄酸化物薄膜(Fe34/α-Fe23薄膜)(比較例)とは顕著に異なっており(図2参照)、Geが添加された複合鉄酸化物薄膜は耐酸化性が高いことが示された。熱処理温度と熱処理時間との関係から、Fe34の相転移の活性化エネルギーが推定可能である。
図4には、複合鉄酸化物薄膜における熱処理時間(T)と熱処理温度との関係が示されている。各プロットは、磁化が2kGに達してから徐々に減少する際の熱処理時間が用いられた。比較のため、無添加複合鉄酸化物薄膜の結果も併せて示されている。線形変化を仮定すると、各線の傾きから活性化エネルギーが算出可能である。複合鉄酸化物薄膜の酸化による相転移の活性化エネルギーが表1に示されている。例えば、Geが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜は、最大活性化エネルギー(490kJ/mol)を示し、無添加Fe34薄膜の約2.5倍である。
異なる金属が添加された複合鉄酸化物薄膜のそれぞれの耐酸化性を比較するため、673Kで空気中における熱処理時間の関数としての各複合鉄酸化物薄膜の磁化が測定された(図5参照)。比較例の無添加複合鉄酸化物薄膜の磁化は、熱処理時間とともに急速に減少し、α-Fe23への相転移のため1日で磁化が消滅した。実施例4のMgが添加された複合鉄酸化物薄膜は比較例と同様の挙動を示したが、Ge、MoおよびWのそれぞれが添加された実施例1~3のそれぞれの複合鉄酸化物薄膜は、300日を超える熱処理時間後でさえ、比較的大きな磁化が維持された。
特に、Geが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜は、図6Aに示されているように、成膜されたFe34薄膜としての初期値3.1kGから熱処理により熱処理期間390分にわたり4.7kGに増加し、その後、熱処理期間500日にわたり3.7kGまで徐々に減少するという固有の挙動を示した。空気雰囲気中で熱処理されているにもかかわらず磁化は増加した(500日後に3.1kGが3.7kGになる)。
図6Bには、673Kで空気中において500日間にわたり熱処理された後のGeが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜のXRDパターンが示されている。逆スピネル構造のFe34の特徴的なパターンは依然として優勢であったが、コランダム構造を有するα-Fe23のパターン特性は弱いものの存在が確認された。これは、空気中での熱処理中のFe34の酸化によって引き起こされた。支配的な相がFe34であるため、図6Cに示されているように、複合鉄酸化物薄膜の磁化曲線はフェリ磁性挙動を示した。
(金属添加Fe34薄膜の微細構造)
Geが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜の微細構造が調べられることにより、熱処理過程において形成された相混合物(α-Fe23およびFe34)の形態が調べられた。図7A左側には、Geが添加されたFe34薄膜のHAADF-STEM画像が示されているがほぼ均一である。これは、元素が均一に分散していることを示すGe-K(図7B左側参照)、Fe-K(図7C左側参照)およびO-K(図7D左側参照)のそれぞれのSTEM-EDX元素マップ画像と一致している。図7A右側には、673Kで空気中において500日間にわたり熱処理されたGeが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜のHAADF-STEM画像が示されている。表面層(第2鉄酸化物層X2)において、Fe(図7C右側参照)およびO(図7D右側参照)が全体的に分布している一方で、Geが存在していない(図7B右側参照)、表面の粗さ曲線が不規則的な構造を示している。
図8Aには、673Kで空気中において500日間にわたり熱処理された、Geが添加された実施例1の複合鉄酸化物薄膜のSTEM断面画像が示されている。2つの異なる形態として(1)表面層(第2鉄酸化物層X2)における粗構造(ランダム構造)、および、(2)表面層より基板側にある第1鉄酸化物層X1における柱状構造の存在が確認された。(1)粗構造および(2)柱状構造によって特徴づけられた各形態に関して、選択領域電子回折(SAED)パターンが測定された。図8Bに示されているように(1)粗構造のSAEDパターンは、平面幅が0.266nm、0.249nmおよび0.274nmのそれぞれである(1-1-4)、(1-20)および(0-14)にブラッグ反射を有していた。これらは[841]の入射方向から検出されたα-Fe23に割り当てられた。図8Cに示されているように(2)柱状構造のSAEDパターンは、平面幅が0.300nm、0.246nmおよび0.252nmのそれぞれである(02-2)、(31-1)および(3-11)にブラッグ再反射を有していた。これらは[011]の入射方向から検出されたFe34に割り当てられた。したがって、熱処理により、複合鉄酸化物薄膜の表面層としての第2鉄酸化物層X2を構成するα-Fe23と、第1鉄酸化物層X1を構成するGeを含有するFe34とのヘテロ構造が生成された。
図8Aに示されているように、粗構造(α-Fe23)および柱状構造(Fe34)のヘテロ界面に細い直線が存在する。これは、熱処理前のFe34薄膜(図7A左側参照)および熱処理されて作製された複合鉄酸化物薄膜(図7A右側参照)におけるFe34層(第1鉄酸化物層X1)の厚さが同一であったため、熱処理開始時に形成された膜表面である可能性が高い。図8Dには、異なる熱処理時間にわたり673Kで空気中において熱処理されたGeが添加された複合鉄酸化物薄膜のXRDパターンが示されている。α-Fe23に起因するXRDピーク(○参照)は、90分にわたる熱処理の後に出現した。したがって、α-Fe23表面層(第2鉄酸化物層X2)は熱処理の比較的初期段階で形成され始める。
元素マッピング(図7B右側参照)は、GeがFe34層(第1鉄酸化物層X1)に分布していることを示しているが、第1鉄酸化物層X1がGexFe3-x4の固溶体であるか、あるいは、Fe34およびGeの両方を含む相混合物を形成しているかは不明であった。
図9Aには、673Kで空気中において500日間にわたり熱処理された、Geが添加された複合鉄酸化物薄膜のSTEM平面図が示されている。この画像は、集束イオンビームを用いてGeを含有するFe34層(第1鉄酸化物層X1)の領域が選択されることによって得られた。これは、薄膜の一部の領域(直径2mm)がアモルファスカーボンでコーティングされ、次に40μm×40μmの試験片がガラス基板に至るまで切断されて除去されることによって達成された。
ガラス基板の上に形成された薄膜は多結晶であるため、画像中には多くの結晶粒が存在する。図9Bには、試験片のHAADF-STEM平面画像が示されている。画像は、結晶粒が異なる配向を有し、異なる濃度のGeを含有していた可能性があるため、わずかに異なるコントラストを示した。図9Cには、試験片のFe、OおよびGeのそれぞれのEELS線分析結果が示されている。明るい場所から暗い場所からの走査により、HAADF-STEM画像で観察された異なるコントラストにもかかわらず、2つの領域間のGe濃度に差がないことが示された(図9Cの挿入図参照)。図9Dには、Ge L2、3エッジを有するEELSスペクトルが示されている。図9Dに「1」が付された領域、ヘテロ界面(2)、および暗い領域(3)によって示される点分析は、熱処理後に3.4at.%から減少した比較的低いGe含有量(1at.%)のためにスペクトル強度が弱いことを示している。しかし、スペクトルの形状は、分析対象とした異なる位置で同様であった。このように、HAADF-STEM画像における異なるコントラストの領域は、Fe34膜の多結晶構造に起因し、Fe34とGeとの間に相分離がないことを示していると結論付けることができる。
Geが添加されたFe34薄膜が、熱処理過程においてα-Fe23/Fe34ヘテロ構造に変化した。Mo、WおよびMgのそれぞれが添加されたFe34薄膜を調べることにより、構造変化がGe添加膜に特異的であるかどうかが確認された。図10A、図10Bおよび図10Cのそれぞれには、673Kで空気中において323日間にわたり熱処理された、Mo、WおよびMgのそれぞれが添加された複合鉄酸化物薄膜のHAADF-STEM断面画像が示されている。すべての薄膜においてα-Fe23(SAED分析)に対応する粗構造の存在が確認された。Mo-L(図11A)、W-L(図11B)のSTEM-EDX元素マッピングはGeが添加された複合鉄酸化物薄膜のそれと類似しており(図7B右側参照)、これはMoおよびWのそれぞれが複合鉄酸化物薄膜において均一に分布していることを意味している。粗い表面内のMoの検出信号が弱いのは、試料ホルダーにMoが含まれているためであった。
しかし、熱処理後の複合鉄酸化物薄膜における構造はGeが添加された複合鉄酸化物薄膜とは異なっていた。具体的には、Geが添加された複合鉄酸化物薄膜においてはFe34のままであるのに対して、XRDパターン(図12Aおよび図12B参照)、SAED分析、および光透過率データは、MoおよびWが検出された領域で出発材料(Fe34)が殆どγ-Fe23に変化したことを示している。
対照的に、Mg-Kの元素マッピング(図11C参照)により、Mgが全領域にわたって不均一に分布していることが示されている。XRDパターン(図12C参照)、XRD(図12C参照)、SAED分析および光透過率データから、Mgが検出された領域がγ-Fe23であり、他の領域がα-Fe23であることが示唆されている。さらに、Mgの分布態様は、基板に隣接する領域が熱処理中にα-Fe23が最終的にα-Fe23に変化する前に残存している比較的多量のMgを含有するため、表面から内部に酸化が進行することを示している。
(Geが添加された複合鉄酸化物薄膜の耐酸化性)
金属元素(Ge、Mo、W、およびMgからなる群から選択される一種以上の金属)は、複合鉄酸化物薄膜において異なる酸化挙動をもたらした。Geが添加された複合鉄酸化物薄膜が最も高い耐酸化性を示す理由として、(1)最も安定な酸化鉄であるα-Fe23表面層が残りのFe34の酸化を防止することおよび(2)GexFe3-x4固溶体を形成することが考えられる。
熱処理過程においてGeが添加されたFe34薄膜(第1鉄酸化物層X1)の上に200nm未満の厚さのα-Fe23層(第2鉄酸化物層X2)が形成された(図1および図7A~図7D参照)。Fe23およびGeO2の不溶性系とは対照的に、Fe34およびGeO2の間に固溶体が形成されることを示す相図によって、このα-Fe23層でGeが検出されなかったことが分かる(図7B参照)(例えば、非特許文献23参照)。
α-Fe23層の存在が、実際にFe34の酸化を最小限に抑制または防止するかを確認するため、α-Fe23により構成される保護層または被覆層を有する無添加Fe34薄膜の試験片が作製され、当該試験片が続いて673Kで空気中において熱処理された(図13参照)。α-Fe23により構成される保護層は、Ar雰囲気においてα-Fe23ターゲットを用いたRFスパッタリングにより作製された。4つの異なる厚さ(50nm、100nm、150nmおよび200nm)の保護層を有する試験片が評価対象として作成された。保護層の厚さは、最初に膜堆積のために決定された堆積速度を用いて制御された。図14には、673Kで空気中における熱処理時間の関数としての、保護層を有する無添加Fe34薄膜の磁化が示されている。比較のため、保護層がない添加されていないFe34薄膜の挙動も示されている(図2参照)。全ての試験片の磁化は、熱処理時間の増加とともに単調に減少し、この挙動は、保護層がFe34の酸化の抑制または防止に対してほとんど効果がないことを示している。
Fe34を酸化から保護するためのα-Fe23層の利点は、すべての試験片が0.5日間の熱処理後にかなりの量の磁化を失ったため否定的であった。このヘテロ構造はまた、表面層または保護層を構成するα-Fe23の特徴的なピークを示すXRDパターンが確認された。熱処理時間が長くなるにつれてFe34からのピークの強度は低くなるが、α-Fe23からのピークの強度が高くなることが確認された。したがって、Ge添加Fe34薄膜の耐酸化性の向上は、GexFe3-x4固溶体の形成によるものであると考えられる。しかし、GeのEELS分析スペクトルが弱いためにGeがFe34と固溶体を形成するかどうかは不明であった(図9D参照)。
(複合鉄酸化物焼結体の構成)
本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物焼結体は、組成式GexFe3-x4(0<x<1)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、の混合相により構成される。
(複合鉄酸化物焼結体の製造方法)
本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物焼結体を作製するため、まず、Fe34、FeOおよびGeO2の混合粉末を成形することにより成形体が作製される。Fe34、FeOおよびGeO2の混合粉末(1次粒子)が用いられ、スプレードライ法により造粒された顆粒(2次粒子)が成形されることにより成形体が作製されてもよい。非酸化雰囲気または真空において、第1温度範囲1073~1573Kに含まれる温度で、第1時間範囲0.1~170hrに含まれる時間にわたって成形体が熱処理することにより焼結体(または仮焼体)が作製される。酸化雰囲気において、第2温度範囲673~973Kに含まれる温度で、第2時間範囲10分~500日に含まれる時間にわたって焼結体が熱処理される。これらの結果、本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物焼結体が作製される。
固溶体の耐酸化性を検証するため、図15に模式的に示すように固溶体GexFe3-x4粉末が作製された。Fe34、FeOおよびGeO2粉末が、焼結体の目標組成に鑑みて適切な割合で混合され、さらにメノウ乳鉢で混合された。次に、混合粉末が49MPaの圧力でプレスされることにより成形体が作製された。さらに、成形体が石英管に真空密封された状態で1273Kにおいて48時間にわたり熱処理され、その後で水中で急冷された。
合成されたGexFe3-x4のXRDパターンは逆スピネル構造を有し、分析されたGe濃度では異相のピークは検出されなかった(x=0~x=1.0、図16A参照)。粉末試料の格子定数は、100°≦2Θの高角度領域の回折線のみを用いて算出された。すなわち、各回折線から算出される格子定数とネルソンーライリー(NR)関数により算出される値の関係において、NR値をゼロに直線外挿した切片として格子定数を決定した(例えば、非特許文献24参照)。GexFe3-x4の格子定数は、xの値が増加するにつれて直線的に増加した(図16B参照)。
したがって、作製された試料が、単相GexFe3-x4固溶体であることが確認された。次に、試料が773Kで空気中(酸化雰囲気)において熱処理された。これにより、実施例の複合鉄酸化物焼結体または仮焼体が作製された。図16Cには、x=0およびx=0.2の試料の熱処理時間と10kOeでの磁化との関係が近似曲線により示されている。Ge含有量(x=0.2)は2.9at%に相当し、Ge添加薄膜で採用された含有量とほぼ同じであった。Geを含まない(x=0)試料は熱処理中に磁化をほぼ完全に失ったが、固溶体試料(x=0.2)の磁化は熱処理後でも60emug-1を超える値を維持した。この結果は、Geを含有することによりFe34が耐酸化性を有し、かつ、その耐酸化性が向上することを示している。
図17には、xおよび酸化雰囲気における熱処理時間が相違する複数の試料(複合鉄酸化物焼結体)のそれぞれの10kOeでの磁化と、xとの関係が近似曲線により示されている。図17からx=0.2~0.5の範囲に含まれている試料の磁化は、当該熱処理時間が120日になっても50emug-1を超える値を維持していることがわかる。この結果は、x=0.2~0.5の範囲に含まれるように複合鉄酸化物焼結体がGeを含有することにより、当該焼結体を構成するマグネタイト結晶相(Fe34)が耐酸化性を有し、かつ、その耐酸化性が向上することを示している。
図18には、空気中において773Kで120日にわたって熱処理された、xが相違する複数の試料のそれぞれについて、当該試料に対する光照射時間と、当該試料によるエタノールの吸収率との関係が示されている。照射光として分光分布AM(エアマス)1.5、放射照度100W/cm2の光が用いられた。光透過性がある略円筒状の容器の内部に試料が設置され、かつ、当該容器の内部にエタノールガスを含有する気体が充填されたうえで容器の両端が封止される。容器の内部に存在するエタノールガスによる赤外吸光スペクトルのピーク強度が初期値よりも低いほど、同じく容器の内部に設置されている試料によって多くのエタノールガスが分解されたことを意味している。図18から、x=0.2、0.5の場合の複合鉄酸化物焼結体によるエタノールガスの分解能が、x=0、0.1、0.8、1.0の場合の複合鉄酸化物焼結体によるエタノールガスの分解能よりも高いことがわかる。
図19には、空気中において773Kで120日にわたって熱処理された、xが相違する複数の試料のそれぞれについて、xと、70hrにわたり光が照射された際のエタノールガスによる赤外吸光スペクトルのピーク強度との関係が示されている。図18と同様に図19からも、x=0.2、0.5の場合の複合鉄酸化物焼結体によるエタノールガスの分解能が、x=0、0.1、0.8、1.0の場合の複合鉄酸化物焼結体によるエタノールガスの分解能よりも高いことがわかる。
Fe34、FeOおよびGeO2の混合粉末または当該混合粉末由来の顆粒が、非酸化雰囲気または真空において、第1温度範囲1073~1573Kに含まれる温度で、第1時間範囲0.1~170hrに含まれる時間にわたって熱処理され、さらに、酸化雰囲気において、第2温度範囲673~973Kに含まれる温度で、第2時間範囲10分~500日に含まれる時間にわたって熱処理されることにより、本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物粉末が作製される。複合鉄酸化物粉末は、複合鉄酸化物焼結体が研削加工された際に生じる粉末であってもよい。複合鉄酸化物粉末は、内側部分が組成式GexFe3-x4(0<x<1)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相により構成され、当該内側部分を少なくとも部分的に覆う外側部分(表層部)が組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相により構成され、当該結晶相の界面の存在が認められる場合もあると推察される(図1参照)。
図20には、x=0.5であり、かつ、空気中において773Kで120日にわたって熱処理された実施例の複合鉄酸化物焼結体のXRDパターンが上側に示され、x=0.5である一方で当該熱処理が施されていない比較例の複合鉄酸化物焼結体のXRDパターンが下側に示されている。図20から、空気中での熱処理を開始する際は、(●)で示される固溶体GexFe3-x4のみのXRDピークが観測されるのに対し、空気中で120日間熱処理を施した後では、(〇)で示されるα-Fe23のXRDピークが出現する。すなわち、空気中での熱処理を施すと、GexFe3-x4とα-Fe23との混合相を形成していることがわかる。
Geが添加された熱処理されていないFe34膜のX線光電子スペクトルは、添加したGeが4価であり、少量のゼロ価元素を有することが確認された(例えば、非特許文献25参照)。その一方、ラマン分光法によってはGeO2の存在は確認されなかった(例えば、非特許文献25参照)。EDX分析により、673Kでの熱処理後、Ge濃度が3.4at%(初期値)から1.0at%に減少したことが示された。さらに、ドーピングされたGeがFe34層全体に均一に分布していた(図7B右側参照)。したがって、Geが添加された複合鉄酸化物薄膜においては、GeFe24化合物ではなく、GexFe3-x4の固溶体が形成されていると考えられる。したがって、4価のGeはスピネル構造に取り込まれる可能性が高い。この場合、Ge4+はスピネルの四面体Aサイトまたは八面体Bサイトに位置すると推察される。
Co2GeO4-Co2TiO4固溶体においては、GeがBサイトに置換されることが示唆されている(例えば、非特許文献26参照)。さらに、エピタキシャル薄膜においてAサイト置換およびBサイト置換の可能性も示唆されている(例えば、非特許文献27参照)。GexFe3-Xにおける固溶Ge4+によって八面体のBサイトにおけるFe3+の置換が仮定されると、四面体サイトにおけるFe3+が電荷中性を維持するためにFe2+に還元される必要がある。さらに、四面体サイトの第一鉄イオンは、八面体サイトよりも酸化されにくい(例えば、非特許文献28、29参照)。したがって、スピネル中の八面体Bサイトが添加されたGeを支持するため、Geが添加された複合鉄酸化物薄膜の耐酸化性が向上していると推察される。
X1‥第1鉄酸化物層、X2‥第2鉄酸化物層。

Claims (4)

  1. 組成式GexFe3-x4(0.2≦x≦0.5)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と
    組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、により構成されている複合鉄酸化物焼結体であって、
    前記複合鉄酸化物焼結体の表層部が、前記ヘマタイト結晶相により構成され、かつ、前記複合鉄酸化物焼結体のうち前記表層部により覆われている内部が、前記マグネタイト結晶相により構成されている
    ことを特徴とする複合鉄酸化物焼結体。
  2. 組成式GexFe3-x4(0.2≦x≦0.5)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と
    組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、により構成されている複合鉄酸化物粉末であって
    前記複合鉄酸化物粉末の表層部が、前記ヘマタイト結晶相により構成され、かつ、前記複合鉄酸化物粉末のうち前記表層部により少なくとも部分的に覆われている内部が、前記マグネタイト結晶相により構成されている
    ことを特徴とする複合鉄酸化物粉末。
  3. 組成式GexFe3-x4(0.2≦x≦0.5)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と、組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、により構成されている複合鉄酸化物焼結体であって、
    前記複合鉄酸化物焼結体の表層部が、前記ヘマタイト結晶相により構成され、かつ、前記複合鉄酸化物焼結体のうち前記表層部により覆われている内部が、前記マグネタイト結晶相により構成されている複合鉄酸化物焼結体を製造する方法であって、
    Fe34、FeOおよびGeO2の混合粉末を成形することにより成形体を作製する工程と、
    非酸化雰囲気または真空において、第1温度範囲1073~1573Kに含まれる温度で、第1時間範囲0.1~170hrに含まれる時間にわたって前記成形体を熱処理することにより焼結体を作製する工程と、
    酸化雰囲気において、第2温度範囲673~973Kに含まれる温度で、第2時間範囲10分~500日に含まれる時間にわたって前記焼結体を熱処理する工程と、を含んでいることを特徴とする複合鉄酸化物焼結体の製造方法。
  4. 組成式GexFe3-x4(0.2≦x≦0.5)で表わされるGeが固溶したマグネタイト結晶相と
    組成式GeyFe2-y3(0≦y≦0.01)で表わされるヘマタイト結晶相と、により構成されている複合鉄酸化物粉末であって
    前記複合鉄酸化物粉末の表層部が、前記ヘマタイト結晶相により構成され、かつ、前記複合鉄酸化物粉末のうち前記表層部により少なくとも部分的に覆われている内部が、前記マグネタイト結晶相により構成されている複合鉄酸化物粉末を製造する方法であって、
    非酸化雰囲気または真空において、第1温度範囲1073~1573Kに含まれる温度で、第1時間範囲0.1~170hrに含まれる時間にわたって、Fe34、FeOおよびGeO2の混合粉末を熱処理する工程と、
    酸化雰囲気において、第2温度範囲673~973Kに含まれる温度で、第2時間範囲10分~500日に含まれる時間にわたって前記混合粉末をさらに熱処理する工程と、を含んでいることを特徴とする複合鉄酸化物粉末の製造方法。
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