JP7389353B2 - リベット接合継手構造の製造方法、リベット接合継手構造、及び自動車部品 - Google Patents

リベット接合継手構造の製造方法、リベット接合継手構造、及び自動車部品 Download PDF

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Description

本発明は、リベット接合継手構造の製造方法、リベット接合継手構造、及び自動車部品に関する。
自動車の軽量化、及び衝突安全性の向上を目的として、高強度鋼板の適用が進められている。しかしながら、高強度鋼板から構成されるスポット溶接継手には、母材鋼板の引張強さが780MPaを超えると十字引張強さ(Cross Tension Strength、CTS)が低下するという課題がある。また、鋼板の引張強さが1500MPaを超えると、十字引張強さのみならず引張せん断強さ(Tensile Shear Strength、TSS)も低下する傾向にある。
スポット溶接継手の強度が低下すると、非常に厳しい条件における衝突などにより部材が変形した時に溶接部の破断が生じる恐れがある。従って、たとえ鋼板の強度を向上させたとしても、部材全体としての耐荷重が不足する恐れがある。そこで、高強度鋼板から構成される継手の強度を向上させる接合方法が求められている。
継手の十字引張強さを向上させる手段の一つとして、本発明者らはリベット接合に着目した。リベット接合とは、鋼板に通し穴を形成し、この通し穴に頭部と軸部とを有するリベットを挿通させ、リベットの軸部の先端を室温で塑性変形させ、そしてリベットの頭部及び塑性変形部によって鋼板をかしめる接合法である。本発明者らは、高強度鋼板をリベット接合することにより得られる継手(リベット接合継手)の十字引張強さが、スポット溶接継手のそれよりも、著しく高いことを知見した。鋼板を機械的に接合するリベット接合によれば、接合部の脆化が生じないので、高強度鋼板から構成される接合継手のCTSを高く保持可能であると考えられる。
一方、本発明者らは、リベット接合継手の引張せん断強さはスポット溶接継手のそれよりも劣ることを合わせて知見した。これは、リベットの軸部の引張せん断強さが低い理由はリベットの硬さがスポット溶接部より低いからであると考えられた。また、リベットと板材との間に隙間があるので、リベット接合継手におけるせん断応力がかかる領域の断面積が、スポット溶接継手のそれより小さいことも、引張せん断強さを低下させる一因であると考えられた。
ところで、リベット接合継手構造の製造方法に関し、例えば以下のような技術が開示されている。
特許文献1には、締結具によって2個以上の構成部材を互いに結合させる方法であって、各構成部材は、穴を備えるとともに、前記構成部材は、前記穴が互いに重なり合って前記締結具を前記穴内において受けるように配置され、前記穴内に配置される前記締結具は、機械的に加圧および加熱されることで、前記締結具が変形させられて、以って前記構成部材が互いに結合させられる方法において、前記締結具は本質的に前記締結具の変形段階においてのみ加熱されて、前記締結具から結合させられる前記構成部材への熱伝達が最小限に抑えられ、結合は、前記締結具と前記構成部材とのいずれもが金属間合金群の材料に含まれる同一または同様の合金により製作されて行なわれることを特徴とする方法が開示されている。
特許文献2には、1対の電極の間にリベットの頭部と先端部分とをはさんで通電加熱すると共に押圧してリベッティングする方法において、リベットの頭部裏面と被リベット材との間に、断面積が小さく、且つ、リベット穴にリベットの軸部が十分密着充填すると共に、又は、それ以後に、頭部裏面と被リベット材とが接触するような高さを有する間座部を設けて、リベッティングすることを特徴とするリベッティング方法が開示されている。
特許文献3には、リベットを電極ではさみ、電気を通して抵抗熱により加熱し、加圧成形を行うリベットの締結方法において、通電加熱後一旦成形側頭部電極をリベットから話して、リベットの先端部まで加熱をゆきわたらせることを特徴とするリベットの締結方法が開示されている。
特許文献4には、結合されるべき少なくとも2部材に貫通して形成されるリベット穴を少なくとも一部テーパ状穴に形成し、このリベット穴にリベットを嵌合させ、通電かしめによりリベットの軸部をテーパ状穴に沿った形状に膨出変形させ、通電かしめ後のリベットの熱収縮によりリベットの軸部とテーパ状穴とを密着させ隙間なく結合させることを特徴とするリベットの通電かしめによる部材結合方法が開示されている。ここで、通電かしめ時のリベット温度は700~900℃であるとされている。
特許文献5には、複数のワークを、リベットを用いて結合するリベット締め方法であって、複数のワークに挿通したリベットを1対の電極間に挟んで加圧した状態で通電し、通電によるリベット自体の抵抗発熱でリベットを軟化させて、リベットの端部をかしめる、ことを特徴とするリベット締め方法が開示されている。
しかし、特許文献1~5のいずれにおいても、リベット接合継手構造の十字引張強さ及び引張せん断強さについて何ら検討されておらず、また、これらを向上させるための構成についても十分に検討されていない。さらに、本発明者らが検討したところ、これらの技術を高強度鋼板に適用して得られるリベット接合継手構造の継手強度(TSS及びCTSなど)は十分ではなかった。
特表2006-507128号公報 特開昭55-27456号公報 特開昭53-78486号公報 特開昭61-165247号公報 特開平10-205510号公報
本発明は、十字引張強さ(CTS)及び引張せん断強さ(TSS)が高い接合部を製造可能なリベット接合継手構造の製造方法、並びに、CTS及びTSSが高い接合部を有するリベット接合継手構造及び自動車部品を提供することを課題とする。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るリベット接合継手構造の製造方法は、金属製のリベットを、重ねられた複数の板材の通し穴に挿通させる工程と、前記リベットを一対の電極の間に挟む工程と、一対の前記電極を介して、前記リベットに加圧及び通電し、前記リベットの内部の溶融と、前記リベットの軸部の先端の変形とを生じさせる工程と、前記リベットを冷却する工程と、を備える。
(2)上記(1)に記載のリベット接合継手構造の製造方法では、前記リベットの内部を溶融させる工程において、前記板材を金属板とし、前記リベット及び前記金属板の両方に跨る溶融凝固部を形成してもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のリベット接合継手構造の製造方法では、複数の前記板材のうち1枚以上を鋼板とし、前記リベットを鋼材としてもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造の製造方法では、複数の前記板材の間の、少なくとも前記通し穴の周辺に接着剤を塗布して、次いで複数の前記板材を重ねる工程をさらに有してもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造の製造方法では、スポット溶接、レーザ溶接、及びアーク溶接からなる群から選択される一種以上の溶接方法によって複数の前記板材を接合する工程をさらに有してもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造の製造方法では、隣接する複数の前記板材における、前記通し穴の直径の差を0.3mm~3mmの範囲内としてもよい。
(7)本発明の別の態様に係るリベット接合継手構造は、通し穴を有する、重ねられた複数の板材と、複数の前記板材の前記通し穴に挿通された軸部と、前記軸部の両端に配された頭部及び変形部とを有する金属製のリベットと、を備え、複数の前記板材は、前記頭部及び前記変形部によってかしめられ、前記リベットが、その内部に溶融凝固部を有する。
(8)上記(7)に記載のリベット接合継手構造では、前記板材が金属板であり、前記溶融凝固部が、前記リベット及び前記金属板の両方に跨ってもよい。
(9)上記(7)又は(8)に記載のリベット接合継手構造では、複数の前記板材のうち1枚以上が鋼板であり、前記リベットが鋼材であってもよい。
(10)上記(7)~(9)のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造は、複数の前記板材の間の、少なくとも前記通し穴の周辺に配された接着剤をさらに有してもよい。
(11)上記(7)~(10)のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造は、スポット溶接部、レーザ溶接部、及びアーク溶接部からなる群から選択される一種以上の溶接部をさらに有してもよい。
(12)上記(7)~(11)のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造では、隣接する複数の前記板材における、前記通し穴の直径の差が0.3mm~3mmの範囲内であってもよい。
(13)上記(7)~(12)のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造では、前記リベットの前記軸部の軸線に平行な断面視で、前記頭部及び/又は前記変形部の頂面が、前記軸部の前記軸線に沿った方向において、前記リベットの近傍の前記板材の面から、前記軸部から離れる側に向けて0.6mm離れた位置よりも、前記軸部側にあってもよい。
(14)本発明の別の態様に係る自動車部品は、上記(7)~(13)のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造を備える。
(15)上記(14)に記載の自動車部品は、バンパー、又はBピラーであってもよい。
本発明は、十字引張強さ(CTS)及び引張せん断強さ(TSS)が高い接合部を製造可能なリベット接合継手構造の製造方法、並びに、CTS及びTSSが高い接合部を有するリベット接合継手構造及び自動車部品を提供することができる。
本実施形態に係るリベット接合継手構造の製造方法を示す図である。 本実施形態に係るリベット接合継手構造の一例を示す断面図である。 通し穴の大きさが板材ごとに異なるリベット接合継手構造の一例を示す断面図である。 溶融凝固部がリベット及び金属板の両方に跨るリベット接合継手構造を示す断面図である。 通し穴の周辺に配された接着剤をさらに有するリベット接合継手構造を示す断面図である。 リベット接合継手構造と、他の接合手段とを併用したバンパーの斜視図である。 リベットと他の部品との干渉を防止するための手段の一例を示す断面図である。 リベットと他の部品との干渉を防止するための手段の一例を示す断面図である。 リベットと他の部品との干渉を防止するための手段の一例を示す断面図である。 本実施形態に係る自動車部品の一例であるBピラーの断面図である。 本実施形態に係る自動車部品の一例であるバンパーの断面図である。 本発明例(リベットA、電流5kA)の断面写真である。 本発明例(リベットA、電流7kA)の断面写真である。
本発明者らは、リベット接合部のTSSを高める方法について、さらなる検討を重ねた。その結果、リベットの内部に溶融凝固部を形成することにより、TSSが飛躍的に高められることが知見された。
通常のリベット接合方法は、母材となる複数の板材にリベットを挿通させる工程と、リベットに加圧して変形を生じさせ、これにより板材をかしめ接合する工程とを含む。ここで、リベットを加熱してもよいとされる。リベットを加熱して軟化させることにより、リベットの変形抵抗が低下し、かしめ接合が容易となるからである。また、リベットを加熱及び軟化させることにより、リベットと母材との間の隙間を減少させることもできる旨が報告されている。ただし、その加熱温度はリベットの融点よりはるかに低くされていた。これは、リベットを過剰に加熱した場合、板材に無用の熱履歴を与えて金属組織が変質するおそれが懸念されたりしたからであると推定される。例えば特許文献1には、締結具から構成部材への熱伝達が最小限に抑えられるべきである旨が記載されている。一方、リベットを過剰に加熱することの利点は何ら見いだされていなかった。
しかしながら本発明者らは、リベット接合の際にリベットを通常の範囲よりも高い温度域まで加熱し、その内部を溶融させることにより、リベット接合部のTSSが従来と比べて遥かに高められることを知見した。この原因は明らかではないが、リベットが変形しやすくなり母材との間の隙間が減じられ、さらに、接合された状態におけるリベットの軸径が拡大されたからであると推定される。リベットと母材との間の隙間を減じることがよいことは例えば特許文献4などで知られているが、ここではリベットを軟化させれば十分であると考えられていた。本発明者らの知見によれば、リベットの一部を溶融させることにより一層のTSS向上が得られる。また、リベットを溶融させるための加熱は特に母材となる板材の機械特性に悪影響を与えず、従ってCTSを低下させるような脆化を生じさせることもないことも、合わせて見いだされた。
以上の知見に基づいて得られた本発明の一態様に係るリベット接合継手構造の製造方法(以下、リベット接合方法と略す場合がある)は、図1に示されるように、金属製のリベット12を、重ねられた複数の板材11の通し穴111に挿通させる工程と、リベット12を一対の電極Aの間に挟む工程と、一対の電極Aを介してリベット12に加圧及び通電する工程とを備える。加圧及び通電する工程によって、リベット12に抵抗発熱を生じさせ、リベット12の内部の溶融と、リベット12の軸部121の先端の変形とを生じさせる。リベット接合方法は、リベットに加圧及び通電する工程の後、リベット12を冷却する工程をさらに備える。以下、この製造方法について詳細に説明する。
まず、リベット12の軸部121を、重ねられた複数の板材の通し穴111に挿通させ、一対の電極Aの間に挟む。板材11は、リベット接合継手構造1の母材となる。リベット12は、通常、軸部121及び頭部122を有し、この軸部121の先端は、リベッティングによって塑性変形されて変形部123を構成する。頭部122は、変形部123とともに板材11を挟持する(かしめる)働きを有する。なお、頭部122を有しないリベット12を通し穴111に挿通させ、軸部121の両端を塑性変形させたとしても、板材11をかしめることが可能である。この場合、2つの変形部123のうち一方を頭部122とみなすことができる。
板材11の構成は特に限定されない。例えば、板材11を鋼板、特に高強度鋼板(例えば引張強さTSが約590MPa以上の鋼板)とした場合、リベット接合継手構造1の強度を向上させることができて好ましい。また、本実施形態に係るリベット接合方法は、CTS低下を招く脆化を高強度鋼板に生じさせないので、高強度鋼板の接合に適用された場合に、高いCTSを有するリベット接合継手構造1を提供することができる。高強度鋼板の引張強さが980MPa以上である場合、CTSに関し、本実施形態に係るリベット接合の優位性は、スポット溶接に対して一層顕著となる。鋼板の引張強さは、より好適には1180MPa以上、さらに最適には1500MPa以上である。鋼板の引張強さの上限は特に限定されないが、2700MPa以下としてもよい。また、板材11をアルミ板、CFRP板、及びチタン板などとしてもよい。溶接による接合とは異なり、本実施形態に係るリベット接合では、板材11の材質を異ならせてもよい。例えば、鋼板とアルミ板との組み合わせ、又は鋼板とCFRP板との組み合わせでもよい。板材11に種々の表面処理がなされていてもよい。例えば、板材11がGAめっき、GIめっき、EGめっき、Zn-Mgめっき、Zn-Alめっき、Zn-Al-Mgめっき、Alめっき、塗装、並びにホットスタンプによって母材金属と合金化されたZn系めっき(Zn-Fe、Zn-Ni-Fe)及びAl系めっき(Al-Fe-Si)等を有してもよい。
板材11の板厚にも特に限定はなく、例えば0.5mm~3.6mmとしてもよい。板材11の厚さを異ならせてもよい。板材11の枚数も特に限定されない。本実施形態に係るリベット接合の説明においては、板材11の枚数を2枚と仮定するが、枚数を3枚以上とすることも妨げられない。好適な組み合わせとして例えば、板厚が約1.6mmの板材と約2.3mmの板材との2枚重ね、又は板厚が0.75mmの板材と、1.8mmの板材と、1.2mmの板材との3枚重ねが挙げられる。板材の好適な組み合わせの範囲として例えば、板厚が約0.7mm~2.9mmの板材と0.7mm~2.9mmの板材との2枚重ね、又は板厚が0.7mm~1.6mm板材、と0.7mm~2.9mmの板材と、0.7mm~2.9mmの板材との3枚重ねが挙げられる。板材は、冷間もしくは熱間でのプレス成形、冷間でのロール成形、又はハイドロフォーム成形された成形品であっても良い。また、板材はパイプ状に成形されていても良い。
リベット12を挿通させる通し穴111の構成も特に限定されない。リベット12を通し穴111に滞りなく通す観点からは、通し穴111の径がリベット12の径より大きいことが好ましい。例えば、通し穴111の径D1とリベット12の径D2との差(D1-D2)を0.2~1.5mmの範囲内としてもよい。
通し穴111の形状は、例えば円形等とすることができる。一方、通し穴111の形状が4角形、5角形、6角形、8角形など多角形であってもよい。これらの多角形の角部に曲率を持たせても良い。また、通し穴111の形状が楕円、又は、円の一部に凸部あるいは凹部がある形状であっても良い。通し穴111を円形状以外の形状とすることにより、リベット接合した板材が、通し穴のリベットを中心に回転することを防止したり、接合部のガタつきを軽減したりすることができるので、さらに望ましい。
リベット12を挿通させるための通し穴111は、レーザ切断、金型を用いた打ち抜き、ドリルを用いた穿孔等の任意の手段で形成することができる。板材11がホットスタンプ鋼板である場合は、熱間での金型打ち抜き、あるいはレーザ切断によって通し穴111を形成することが望ましい。
通し穴111の大きさは板材11の深さ方向に一定であってもよい。一方、深さ方向に通し穴111の大きさが相違する段形状、またはテーパ形状を、通し穴111に適用してもよい。また、複数の被接合材間の通し穴111の中心軸は一致していなくても良い。
複数の板材11における通し穴111の直径(通し穴111が円形でない場合は、円相当径)は、図2に示されるように同一であってもよいし、一方図3に示されるように相違してしてもよい。通常のリベット接合においては、接合部の隙間を減少させる観点から、通し穴111の直径を一定化することが好ましいと考えられる。一方、本実施形態に係るリベット接合継手構造の製造方法では、リベット12の内部が溶融して著しく軟化するので、たとえ通し穴111の直径が板材11毎に同一でなくとも、隙間を十分に減少させることができる。これにより、接合された状態における軸径を拡大できるため、TSSの向上に寄与する。また、通し穴111の大きさに差を設けることにより、応力緩和効果や、リベット12を挿通させる作業の効率化が期待できる。通し穴111の直径の相違の程度は特に限定されないが、例えば、隣接する板材11における通し穴111の直径の差が0.3mm~3mmの範囲内であることが好ましい。リベット12を挿通させる作業の容易化の観点では、リベットの入り口となる側(リベットの頭部がある側)とは逆側の板材の通し穴の直径を大きくする方が好ましい。これにより、リベット12の先端が通し穴111の中で詰まることを防止できる。
また、通し穴111の直径の最小値は、挿通するリベットの軸部の直径の最大値よりも0.1mm~5mm大きいことが望ましい。通し穴111の直径の最小値と、軸部の直径の最大値との差が0.1mmより小さいと挿通性が悪化し、5mmより大きいと通し穴111の隙間を十分に充填させることが難しくなるためである。通し穴111の直径の最小値と、軸部の直径の最大値との差は、より望ましくは、0.3mm~3mmの範囲であり、最適には0.3mm~1.5mmの範囲である。また、複数の被接合材間の通し穴111の中心軸のずれは1.5mm以内が望ましく、0.75mm以下がさらに望ましい。
リベット12の構成も特に限定されず、母材となる板材11の厚さ及び機械特性、並びに通し穴111の大きさなどに応じて適宜選択することができる。例えば、リベット12の軸部121の径(軸部121の断面が円形ではない場合は、軸部121の円相当径)は、継手強度を確保する観点から3mm以上としてもよい。また、通電によりリベット12を溶融させる場合、軸部121の径が大きすぎると電流密度が低下し溶融部が形成しづらくなる。そのため、軸部121の径の上限は12mm以下としても良い。軸部121の長さ(リベット12の長さから、頭部122の厚さを除いた値)は、板材11の合計板厚より大きくする必要があり、頭部があるリベットの場合、好ましくは、以下の範囲内とする。
板材の合計板厚+軸部の径×0.3≦軸部の長さ≦板材の合計板厚+軸部の径×2.0
リベット12の軸部121の長さを、板材11の合計板厚+軸部121の径×0.3より大きくすることにより、軸部121の先端を変形させた後のかしめ部(変形部123)の大きさを確保し、継手強度を一層高めることができる。軸部121の長さを板材11の合計板厚+軸部121の径×2.0以下とすることにより、製造効率を高めることができる。
また、頭部がないリベットの場合は、軸部121の長さ(即ちリベット12の長さ)は、好ましくは以下の範囲内とする。
板材の合計板厚+軸部の径×0.6≦軸部の長さ≦板材の合計板厚+軸部の径×4.0
頭部がないリベットを用いて接合する場合、リベットの両端を変形させる必要がある。そのため、頭部が無いリベットの軸部121の長さは、頭部があるリベットのそれより大きくすることが好ましい。
なお、軸部121の径は一定であってもよい。一方、軸部121の先端に向かって、軸部121の径が減少する形状(いわゆるテーパ形状)をリベット12が有してもよい。テーパ部が、軸部121の全体にわたって形成されていても、軸部121の先端付近にのみ形成されていてもよい。テーパ形状を有するリベット12は、通し穴111に挿通させやすいので好ましい。なお、本実施形態に係るリベット接合継手構造の製造方法では、リベット12の内部が溶融され、リベット12全体が著しく軟化するので、たとえテーパ形状を有するリベット12であっても通し穴111の内部に密に充填される。
リベット12の頭部122の形状は、一般的なフランジ形状とすればよい。例えば頭部122の形状を、半球形(いわゆる丸頭)、円盤形(いわゆる平頭)、又は表面側が平らで根本が円錐形となる形状(いわゆる皿頭)とすることができる。頭部122の平面視での形状は、例えば円形、四角形、又は六角形など多角形とすることができる。頭部122の電極側の中心部に、位置決め用の凹部が設けられていてもよい。また、頭部122の座部(被接合材と接触する面)に、軸部121を取り囲む凹部(いわゆる座部アンダーカット)が設けられていてもよい。このような凹部は、頭部122に弾性を付与し、これによりリベット12のかしめ力を一層増大させる。また、頭部122の座部(被接合材と接触する面)に、1つ以上の突起部が設けられていても良い。このような突起部は、リベッティング時に被接合材にめり込むこと、又は被接合材との接合部を形成することにより、リベット12のかしめ力を一層増大させる。突起部の形状は、円状、多角形状、軸部を囲むリング状が挙げられる。
リベット12は、その頭部122を用いて板材11をかしめる。そのため、頭部122の直径は、通し穴111の直径より1.5mm以上大きくすることが好ましい。また、頭部122の厚みは0.8mm~5mmとすることが好ましい。頭部122の厚みが0.8mm未満だと、継手強度が十分に得られない。一方、頭部122の厚みが5mm超であると頭部が大きすぎ、他部品との干渉がおきやすくなる。頭部122のないリベット12の場合、リベット接合後の変形されたリベット端(即ち、変形部123)の直径は、通し穴111の直径より1.5mm以上大きいことが好ましい。また、変形されたリベット端の厚みは、0.8mm~5mmとすることが好ましい。
リベットは、電流を流すため、鋼材、ステンレス、チタン、アルミニウムなど金属製である必要がある。板材11を鋼板とする場合、リベット12も低炭素鋼などの鋼材から構成されるものとすることが好ましい。特に、板材11が高強度鋼材である場合、リベット12も相応の強度を持つ高強度鋼材とすることが好ましい。リベット接合はリベット12を変形させる工程を必然的に含むので、通常であればリベット12の高強度化は変形抵抗の増大を招き好ましくない。しかし本実施形態に係るリベット接合方法では、リベット12の内部を溶融させるので、変形抵抗は問題とならない。
リベットは、例えば、コイル線材を切断し、次いで切削加工又は冷間鍛造加工することによって製造される。生産性の観点では、冷間鍛造加工が望ましい。リベットは加工ままで用いてもよいが、リベット材質が鋼材の場合は、切削加工又は冷間鍛造加工後に焼入れ、焼戻し等の熱処理をしても良い。熱処理により、リベット頭部も含めたリベット全体の硬さが上がり、継手強度がさらに向上する。
リベットは表面処理がされていないものでよいが、耐食性が必要な場合は、表面処理がなされていてもよい。例えばリベットに、亜鉛系めっき、アルミ系めっき、クロム系めっき、ニッケル系めっき、及びクロメート処理などがされても良い。特に耐食性が必要な場合や、後塗装なしで使用する場合は、リベットはステンレス製が望ましい。
次に、一対の電極Aを介して、リベット12に加圧及び通電し、リベット12に抵抗発熱を生じさせ、これによりリベット12の内部の溶融と、リベット12の軸部121の先端の変形を生じさせる。
本実施形態に係るリベット接合では、リベット12の内部を溶融させる。本発明者らは、通常より高い温度までリベット12を加熱して製造された種々のリベット接合継手の強度評価及び接合部断面観察を行った。その結果、リベット12の内部に溶融凝固部が形成されたリベット接合継手のCTS及びTTSが通常のリベット接合継手より著しく高いことが見いだされた。以上の実験結果に基づき、本実施形態に係るリベット接合では、リベット12の内部を溶融させることができるように抵抗発熱を生じさせることとした。
なお、溶融凝固部124を生じさせることで継手強度が向上するメカニズムは明らかではない。本発明者らは、リベット12の内部が溶融することによりリベット12が著しく軟化し、板材11の通し穴111の内部にリベット12が隙間なく充填されるために、接合強度が著しく向上したものと推定している。なお、リベット12を凝固点未満の温度域まで加熱して軟化させたとしても、板材11とリベット12との隙間を減少させる効果はある程度得られるはずである。しかし、本発明者らの実験結果によれば、溶融凝固部124を有しないリベット接合継手構造1の接合強度は、本実施形態に係るリベット接合によって得られたリベット接合継手構造1のそれに比べて顕著に劣ることが示された。従って、リベット12の一部を溶融させなければ、リベット12と板材11との間の隙間を十分に減少させられないと推定される。
溶融凝固部124は、例えば図13に示されるように、少なくともリベット12の内部において形成されれば十分である。溶融凝固部124の大きさは特に限定されないが、例えば、溶融凝固部124の幅が軸部121の径の20%以上、40%以上、又は60%以上とされていることが好ましい。溶融凝固部124の幅は、リベット12をリベット12の中心軸を通る平面に沿って切断し、切断面を観察することによって測定可能である。
一方、板材を金属板とした場合、図4及び図12に示されるように、溶融凝固部124がリベット12の内部のみならず外部に及んでもよい。即ち、溶融凝固部124が、リベット12及び板材11の両方に跨ってもよい。溶融凝固部124がリベット12の外部に及ぶように通電をした場合、リベット接合継手構造1の接合強度が一層向上する。これは、溶融凝固部124において接合面積が増大するからであると推定される。また、リベットが鋼製でかつ板材11が高強度鋼板である場合、高強度鋼板とリベットとの間で希釈が生じ、リベット12の焼入れ性が溶融凝固部124において向上し、一層の接合強度向上効果が得られると考えられる。ただし、溶融凝固部124を、リベット12及び板材11の両方に跨るものとする場合、板材11及びリベット12を同種の材料とすることが好ましい。同種の材料とは、溶融による希釈が生じた際に脆い金属間化合物を形成しない程度に類似した材料をいう。
本実施形態に係るリベット接合では、電極Aを用いてリベット12に加圧した後で、リベット12に通電することが好ましい。加圧した状態で通電を開始すると、軸部121の軟化及び軸部121の先端の変形が生じ、さらにリベット12の内部の溶融が生じる。この場合、リベット12を電極Aの間に挟み込み、リベット12を加圧し、リベット12に通電し、そしてリベット12を冷却するという手順で、接合が実施されることになる。しかしながら、リベット12への加熱の開始のタイミング、及びリベット12への加圧の開始のタイミングは、上述の好ましい例に限定されない。なお、リベット12の内部の溶融、及びリベット12の軸部121の先端の変形が生じる順番は特に限定されない。
なお、通常のリベット接合ではリベット12を板材11の通し穴111に挿通する前にリベット12を加熱及び軟化させことが許容される。一方、本実施形態に係るリベット接合では、リベット12を溶融させるための加熱は、リベット12の挿通後に行われる必要がある。もっとも、リベット12を溶融させない範囲内でリベット12を予備加熱し、次いでリベット12を板材11に挿通させることは妨げられない。
リベット12は、板材11が重ね合わされた後で、例えば、リベット供給装置により通し穴111に挿入される。そして、例えばスポット溶接機を用いて、リベットに加圧しながらリベットに通電加熱を行う。リベット12への加圧条件及び通電条件(電流値、電圧値、及び通電時間等)は特に限定されず、リベット12の形状及び材質に応じて適宜選択することができる。リベット12の溶融凝固部は、リベット12を切断し、切断面をエッチングすることによって容易に視認することが可能である(図12及び図13参照)。従って、当業者であれば、種々の条件でリベット12への加圧及び通電を実施することにより、リベット12の形状及び材質に応じた最適な加圧、通電の条件を検討することができる。
リベット12の加圧力及び通電条件として、例えば以下のものを例示することができる。下表において、電圧値の記載は省略されている。電圧値はリベット12及び電流値に応じて決まるからである。リベット12の軸部121の径を増大させた場合、電流値及び通電時間の一方又は両方を増大させて、入熱量を増大させればよい。
Figure 0007389353000001
リベット12への加圧及び通電は、一対の電極Aを用いて行う。一対の電極Aの構成は特に限定されない。例えば、スポット溶接用の電極は加圧及び通電を実施することが可能であるので、これを用いて本実施形態に係るリベット接合を行ってもよい。電極Aの形状は、リベット12の形状に合わせて適宜選択することができる。例えば電極Aは、フラット型電極、シングルR型、CF型、及びDR型等であっても良い。電極Aの材質の例としては、導電性に優れたクロム銅、アルミナ分散銅、及びクロムジルコニウム銅等が挙げられる。
溶接機の電源の例としては、単相交流、直流インバータ、及び交流インバータ等が挙げられる。ガンの形式の例としては、定置式もしくはC型、又はX型等が挙げられる。電極Aがリベットに印加する加圧力は、例えば150kgf~1000kgfである。加圧力は、好適には250kgf~600kgfである。加圧力の設定値は一定値で良いが、必要に応じて、加圧力を変化させても良い。溶融凝固部にブローホールが発生する場合は、ブローホールを潰すために通電後半もしくは通電終了後に加圧力を上げてもよい。また、通電終了後の保持時間の間に加圧力を変化させてもよい。電極によるリベットの加圧方向はリベットの軸が伸びる方向に対して、10°以下の角度とすることが、良好な接合部を得る観点から望ましい。より望ましくは4°以下である。通電時間は、例えば0.15秒~2秒である。通電時間は好適には0.2秒~1秒である。通電回数は1回でも良い(いわゆる単通電)が、必要に応じて2段通電、3段以上の多段通電や電流を調整して焼き戻しのテンパー通電を行っても良い。また、パルス通電や、電流を徐々に上げるアップスロープ、電流を徐々に下げるダウンスロープの通電でも良い。また、通電の前半に高い電流を流して溶融凝固部を形成させ、後半に電流を下げても良い。電流値は例えば4kA~20kAである。
軟化されたリベット12を加圧し、その軸部121の先端を変形させた後で、リベット12を冷却する。これにより、複数の板材11がリベット12によってかしめられ、接合される。具体的には、リベット12の頭部122、及びリベット12の軸部121のつぶされた先端(即ち変形部123)によって、複数の板材11がかしめられる。
リベット12の冷却条件は特に限定されない。通電終了後に、接合継手構造を大気中に放置することで、リベット12を自然冷却させてもよい。なお、リベット12への通電を終了してから、リベット12を電極Aから離すまでの間に若干のタイムラグが存在し、この間にリベット12から電極Aへの熱移動が生じることが多い。また、内部に冷媒を流通させた電極Aをリベット12に接触させることなどにより、リベット12を加速冷却してもよい。リベット12を加速冷却することにより、リベット12を焼き入れし、継手の接合強度を一層高めることができる。加速冷却は、リベット12への通電が終了してから、リベット12を電極Aから解放するまでの時間である保持時間を用いて実施すれば良い。生産性向上の観点から、保持時間は3秒以下が望ましい。保持時間は、より望ましくは0.01秒以上1.0秒以下である。保持時間は、最適には0.1秒以上0.8秒以下である。
本実施形態に係るリベット接合継手構造の製造方法では、他の接合手段を併用することも妨げられない。異なる2種以上の接合手段を組み合わせることにより、リベット接合継手構造の接合強度を一層高めることができる。
例えば、本実施形態に係るリベット接合方法が、スポット溶接、レーザ溶接、及びアーク溶接(例えばMAG溶接、MIG溶接、CO溶接、及びプラズマ溶接等)からなる群から選択される一種以上の溶接方法によって複数の板材11を接合する工程をさらに有してもよい。溶接は、リベット接合の前に行われても後に行われてもよい。部品組立て精度確保の観点からは、溶接後にリベット接合することが望ましい。溶接時に部品が固定されるため、接合する部品の組み付け精度ばらつきが小さくなる。その後さらに溶接を行っても良い。スポット溶接の場合、スポット溶接後リベット接合を実施する、あるいは、スポット溶接で部品を仮止めした後、リベット接合を行い、その後、スポット溶接で増し打ちをしても良い。
また、本実施形態に係るリベット接合方法が、複数の板材11の間の、少なくとも通し穴111の周辺に接着剤13を塗布して、次いで複数の板材11を重ねる工程をさらに有してもよい。これにより、図5に示されるように、板材11が接着される。接着剤13の塗布は、複数の板材11を重ね、リベット12を板材11に挿通させる前に行う必要がある。熱硬化型接着剤の場合、接着剤の硬化は、リベット接合後、電着塗装ラインでの焼き付け工程の加熱で行なってもよい。反応硬化型の接着剤の場合は、接着剤の硬化は、リベット接合後、時間が経過することにより行われる。接着剤としては、エポキシ系あるはゴム系が好ましく用いられる。なお、板材11のスポット溶接においては、爆飛を防止するために、接着剤13の塗布箇所とスポット溶接箇所とを離隔させる必要が生じることがある。しかし本実施形態に係るリベット接合方法では、爆飛が生じないので、接着剤13の塗布箇所が限定されないという利点がある。リベット12と接着剤13とを併用することで接合継手の剛性を一層向上できる利点が得られる。また、リベット12と接着剤13とを併用することで、異種金属の接合や金属とCFRPとの接合において、重ね面の接触腐食を防止することができる。接着剤13の他に、シーラーを板材11の間に塗布してもよい。シーラーはリベット接合継手構造1の耐水性及び耐食性を高める。また、リベットの頭部及び/又は変形部を覆うようにシーラーを塗布しても良い。これにより、リベットの頭部及び/又は変形部と、金属又はCFRPとの隙間からの水の侵入を、防ぐことができる。さらに、異種金属の接合の場合や、金属とCFRPとの接合の場合は、少なくとも片側の金属板に、リベット接合前に化成処理と塗装を施してもよい。これにより、異種材料間の接触腐食についてもさらに強く抑制し、耐食性を高めることができる。また、接着層として、アイオノマーなどの樹脂接着テープを用いても良い。
次に、本発明の別の実施形態に係るリベット接合継手構造について説明する。本実施形態に係るリベット接合継手構造1は、図2に示されるように、通し穴111を有する、重ねられた複数の板材11と、複数の板材11の通し穴111に挿通された軸部121と、軸部121の両端に配された頭部122及び変形部123とを有する金属製のリベット12と、を備え、複数の板材11は、頭部122及び変形部123によってかしめられ、リベット12が、その内部に溶融凝固部124を有する。
複数の板材11の構成は特に限定されない。また、板材11に形成され、リベット12が挿通される通し穴111の構成も特に限定されない。これらの具体例は、本実施形態に係るリベット接合継手構造の製造方法の説明において詳述された通りである。
複数の板材11における通し穴111の直径(通し穴111が円形でない場合は、円相当径)は、同一であってもよいし、相違してしてもよい。通常のリベット接合継手においては、接合部の隙間を減少させる観点から、通し穴111の直径を一定化することが好ましいと考えられる。一方、本実施形態に係るリベット接合継手構造1では、リベット12の内部がリベッティングの際に溶融して著しく軟化するので、たとえ通し穴111の直径が板材11毎に同一でなくとも、隙間を十分に減少させることができる。従って、本実施形態に係るリベット接合継手構造1では、通し穴111の直径が相違していたとしても、リベット12の軸部121の外壁は通し穴111の内壁に沿った形状を有することとなる(ただし、後述するように溶融凝固部124がリベット12の外部に及ぶ場合、溶融凝固部124においてはこの限りではない)。また、通し穴111の大きさに差を設けることにより、応力緩和効果や、リベット12を挿通させる作業の効率化が期待できる。通し穴111の直径の相違の程度は特に限定されないが、例えば、隣接する板材11における通し穴111の直径の差が0.3mm~3mmの範囲内であることが好ましい。
リベット12は、軸部121と、軸部121の両端に設けられた頭部122及び変形部123とを備える。軸部121は、複数の板材11の通し穴111に挿通され、頭部122及び変形部123は複数の板材11を挟持し、これにより軸部121は複数の板材11をかしめ接合している。変形部123は、軸部121の先端が潰されることによって形成されている。リベット12の構成(形状、材質及び表面処理など)の具体例は、本実施形態に係るリベット接合継手構造の製造方法の説明において詳述された通りである。
リベット12は、その内部に、さらに溶融凝固部124を有する。溶融凝固部124を有するリベット12は、かしめられる際にその内部が溶融するまで加熱され、著しく軟化されたものである。そのため、リベット12は、通し穴111の壁面に整合するように変形されており、高い継手強度をリベット接合継手構造1に付与していると考えられる。
溶融凝固部124は、少なくともリベット12の内部において形成されれば十分である。溶融凝固部124の大きさは特に限定されないが、例えば、溶融凝固部124の幅が軸部121の径の20%以上、40%以上、又は60%以上とされていることが好ましい。溶融凝固部124の幅は、リベット12をリベット12の中心軸を通る平面に沿って切断し、切断面を観察することによって測定可能である。
一方、板材を金属板とした場合、溶融凝固部124がリベット12の内部のみならず外部に及んでもよい。即ち、溶融凝固部124が、リベット12及び板材11の両方に跨ってもよい。溶融凝固部124がリベット12の外部に及ぶリベット接合継手構造1は、一層高い接合強度を有する。これは、溶融凝固部124において接合面積が増大するからであると推定される。また、板材11が高強度鋼板である場合、高強度鋼板とリベットとの間で希釈が生じ、リベット12の焼入れ性が溶融凝固部124において向上し、一層の接合強度向上効果が得られると考えられる。ただし、溶融凝固部124をリベット12の外部に及ばせる場合、板材11及びリベット12を同種の材料とすることが好ましい。同種の材料とは、溶融による希釈が生じた際に脆い金属間化合物を形成しない程度に類似した材料をいう。例えば普通鋼と高強度鋼板との組み合わせは、同種材料の組み合わせということができる。通常の溶接において許容される組み合わせか否か、という観点から、同種の材料であるか否かを判断することもできる。
複数の板材11のうち1枚以上が鋼板であり、リベット12が鋼材であってもよい。特に、板材11及びリベット12が高強度鋼(例えば引張強さが590MPa以上、又は980MPa以上の鋼)である場合、リベット接合継手構造1の強度を飛躍的に高めることができる。なお、スポット溶接部とは異なり、リベット12は鋼材を脆化させず、従ってCTSの低下を生じさせない。また、通常のリベットとは異なり、本実施形態に係るリベット接合継手構造のリベット12は高いTTSを有するので、高強度鋼板の接合に適する。
また、リベット接合継手構造1が、少なくとも複数の板材11の間の通し穴111の周辺に配された接着剤をさらに有してもよい。リベット接合継手構造1が、スポット溶接部、レーザ溶接部、及びアーク溶接部からなる群から選択される一種以上の溶接部をさらに有してもよい。上述したように、複数の接合手段を組み合わせることにより、リベット接合継手構造1の継手強度を一層高めることができる。リベット接合継手構造1が、複数の板材11の間に配されたシーラーをさらに有してもよい。これによりリベット接合継手構造1の耐水性及び耐食性が高められる。
リベット12と、その他の接合手段とを併用したリベット接合継手構造1の例を図6に示す。図6において、黒丸は本実施形態に係るリベット接合継手構造1を示し、白丸は従来のスポット溶接部2を示す。図6に示されるように、衝突時に負荷される応力が高くなると予想される部位に、本実施形態に係るリベット接合継手構造1を適用し、その他の箇所では別の接合手段(例えば安価なスポット溶接によって形成されるスポット溶接部2)を採用してもよい。
本実施形態に係るリベット接合継手構造1では、リベット12の軸部121の軸線に平行な断面視で、頭部122および/又は変形部123の頂面が、軸部121の軸線に沿った方向において、リベット12の近傍の板材11の面から、軸部121から離れる側に向けて0.6mm離れた位置よりも、軸部121側にあってもよい。好ましくは、頭部122および/又は変形部123の頂面が、リベット12の近傍の板材の面112(外面)よりも軸部121側にある。これにより、頭部122および/又は変形部123と、他の部品との干渉を抑制することができる。図7および図9の例では、リベット12の変形部123の頂面が、リベット12の近傍の板材の面112(外面)よりも、軸部121側にある。図8の例では、リベット12の頭部122および変形部123の双方の頂面が、リベット12の近傍の板材それぞれに対して、これらの板材の面112(外面)よりも軸部121側にある。ここで、板材の面112(外面)とは、それぞれの板材において、他の板材と接していない方の面を意味する。なお、図7~図9では頭部122および/又は変形部123の頂面が、リベット12の近傍の板材の面112(外面)よりも軸部121側にあるが、頭部122および/又は変形部123の頂面が最大で0.6mmだけ外面からはみ出していてもよい。即ち、図7~図9において、頭部122および/又は変形部123の頂面が、点線から0.6mm突出したとしても、他の部品との干渉を抑制する効果が得られる。
上述した手法によりリベット接合する前、あるいは、リベット接合してから、板材をプレス成形することで、リベット12近傍の板材を変形させ、頭部122の頂面および/又は変形部123の頂面が、板材の面112から、軸部121から離れる側に向けて0.6mm離れた距離よりも軸部121側となるようにしてもよい。図7の例では、2つの板材のうち変形部123側にあるものが、リベット12の近傍において、変形部123側へ変形されている。これにより、図7の例では、変形部123の頂面が、板材の面112から、軸部121から離れる側に向けて0.6mm離れた距離よりも軸部121側とされている。図8の例では、2つの板材のうち頭部122側にあるものが、リベット12の近傍において頭部122側へ変形され、かつ、2つの板材のうち変形部123側にあるものが、リベット12の近傍において、変形部123側へ変形されている。これにより、図8の例では、頭部122の頂面および変形部123の頂面が、板材の面112から、軸部121から離れる側に向けて0.6mm離れた距離よりも軸部121側とされている。図9の例では、2つの板材のうち変形部123側にあるものが、リベット12の近傍において変形部123側へ変形され、かつ、2つの板材のうち頭部122側にあるものが、リベット12の近傍において、もう一方の板材に対応して変形されている。これにより、図9の例では、変形部123の頂面が、板材の面112から、軸部121から離れる側に向けて0.6mm離れた距離よりも軸部121側とされている。なお、図7~図9においては、上述した溶融凝固部124の記載は省略している。また、図7~図9に記載の破線は、板材の面112に一致する面を示す。
本発明の別の態様に係る自動車部品は、本実施形態に係るリベット接合継手構造を有する。これにより、本実施形態に係る自動車部品は、高い接合強度を有する。本実施形態に係る自動車部品とは、例えば、衝突安全性を確保するために重要な部材であるバンパー、及びBピラーである。図6に、本実施形態に係る自動車部品の一例であるバンパーの斜視図を示す。図10に、本実施形態に係る自動車部品の一例であるBピラーの断面図を示す。図11に、本実施形態に係る自動車部品の一例であるバンパーの断面図を示す。また、Aピラー、サイドシル、フロアメンバー、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、フロントサスタワー、トンネルリンフォース、トルクボックス、シート骨格、シートレール、バッテリーケースのフレームおよびそれらのピラー同士の結合部(Bピラーとサイドシルの結合部、Bピラーとルーフレールの結合部、ルーフクロスメンバーとルーフレールの結合部)を、本実施形態に係る自動車部品としてもよい。
表2に示す形状、及び表3に示す成分(残部は鉄及び不純物)を有するリベットA~Cを、重ねられた2枚の引張強さ1800MPa級の高強度鋼板(板厚1.6mm)の通し穴に挿通させて、表4に示された条件で種々のリベット接合継手構造を作製した。表2には、鋼板の通し穴(下穴)の径も合わせて記載した。なお、表3に示される成分からわかるように、リベットA~Cの焼入れ性は低い。そのため、リベットと高強度鋼板との間で希釈が生じない限り、リベッティング後にリベットA~Cに焼入れ硬化は生じないものと推定される。表4に記載の保持時間とは、リベットへの通電の終了から、リベットへの加圧の終了までに経過した時間のことである。
Figure 0007389353000002
Figure 0007389353000003
Figure 0007389353000004
このようにして得られた種々のリベット接合継手構造の引張せん断強さTSS(JIS Z 3136)、及び十字引張強さCTS(JIS Z 3137)を測定した。ただし、チリが発生したリベット接合継手構造に関しては、測定を行わなかった。リベットA~Cを用いたリベット接合継手構造の測定結果を表5に示す。参考に、リベットA(電流5kA)の断面写真を図12に示し、リベットA(電流7kA)の断面写真を図13に示す。なお、リベットAに関しては、電流値9~10kAでの評価は省略した。リベットBに関しては、電流値を5kAとした場合に溶融凝固部が生じなかった。電流値が5kA未満の場合にもリベットBには溶融凝固部が生じないと推定されるので、リベットBに対して、電流4kAでの評価は省略した。リベットCに関しても、リベットBと同様に、溶融凝固部が生じなかった電流値である7kAに満たない電流値での評価は省略した。
Figure 0007389353000005
表5に示されるように、溶融凝固部が形成されたリベット接合継手のTSSは、溶融凝固部を有しないリベット接合継手のTSSと比べて飛躍的に高められた。また、溶融凝固部が鋼板に及ぶ場合、リベット接合継手構造の接合強度が一層高められた。
本発明は、十字引張強さ(CTS)及び引張せん断強さ(TSS)が高い接合部を製造可能なリベット接合継手構造の製造方法、並びに、CTS及びTSSが高い接合部を有するリベット接合継手構造及び自動車部品を提供することができるので、高い産業上の利用可能性を有する。
1 リベット接合継手構造
11 板材
111 通し穴
112 板材の面
12 リベット
121 軸部
122 頭部
123 変形部
124 溶融凝固部
13 接着剤
2 スポット溶接部
A 電極

Claims (15)

  1. 金属製のリベットを、重ねられた複数の板材の通し穴に挿通させる工程と、
    前記リベットを一対の電極の間に挟む工程と、
    一対の前記電極を介して、前記リベットに加圧及び通電し、前記リベットの内部の溶融と、前記リベットの軸部の先端の変形とを生じさせる工程と、
    前記リベットを冷却する工程と、
    を備えるリベット接合継手構造の製造方法。
  2. 前記リベットの内部を溶融させる工程において、前記板材を金属板とし、前記リベット及び前記金属板の両方に跨る溶融凝固部を形成することを特徴とする請求項1に記載のリベット接合継手構造の製造方法。
  3. 複数の前記板材のうち1枚以上を鋼板とし、前記リベットを鋼材とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のリベット接合継手構造の製造方法。
  4. 複数の前記板材の間の、少なくとも前記通し穴の周辺に接着剤を塗布して、次いで複数の前記板材を重ねる工程をさらに有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造の製造方法。
  5. スポット溶接、レーザ溶接、及びアーク溶接からなる群から選択される一種以上の溶接方法によって複数の前記板材を接合する工程をさらに有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造の製造方法。
  6. 隣接する複数の前記板材における、前記通し穴の直径の差を0.3mm~3mmの範囲内とすることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造の製造方法。
  7. 通し穴を有する、重ねられた複数の板材と、
    複数の前記板材の前記通し穴に挿通された軸部と、前記軸部の両端に配された頭部及び変形部とを有する金属製のリベットと、を備え、
    複数の前記板材は、前記頭部及び前記変形部によってかしめられ、
    前記リベットが、その内部に溶融凝固部を有することを特徴とするリベット接合継手構造。
  8. 前記板材が金属板であり、前記溶融凝固部が、前記リベット及び前記金属板の両方に跨ることを特徴とする請求項7に記載のリベット接合継手構造。
  9. 複数の前記板材のうち1枚以上が鋼板であり、前記リベットが鋼材であることを特徴とする請求項7又は8に記載のリベット接合継手構造。
  10. 複数の前記板材の間の、少なくとも前記通し穴の周辺に配された接着剤をさらに有することを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造。
  11. スポット溶接部、レーザ溶接部、及びアーク溶接部からなる群から選択される一種以上の溶接部をさらに有することを特徴とする請求項7~10のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造。
  12. 隣接する複数の前記板材における、前記通し穴の直径の差が0.3mm~3mmの範囲内であることを特徴とする請求項7~11のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造。
  13. 前記リベットの前記軸部の軸線に平行な断面視で、前記頭部及び/又は前記変形部の頂面が、前記軸部の前記軸線に沿った方向において、前記リベットの近傍の前記板材の面から、前記軸部から離れる側に向けて0.6mm離れた位置よりも、前記軸部側にある
    ことを特徴とする請求項7~12のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造。
  14. 請求項7~13のいずれか一項に記載のリベット接合継手構造を備える自動車部品。
  15. バンパー、又はBピラーであることを特徴とする請求項14に記載の自動車部品。
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