JP7385487B2 - ステンレス鋼材及び拡散接合体 - Google Patents

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Description

本発明は、ステンレス鋼材及び拡散接合体に関する。
ステンレス鋼材同士の接合方法として拡散接合が知られている。拡散接合によって組み立てられたステンレス鋼材の拡散接合体は、熱交換器、機械部品、燃料電池部品、家電製品部品、プラント部品、装飾品構成部材、建材などの様々な用途に適用されている。
拡散接合性に優れる従来のステンレス鋼材としては、金属組織がフェライト相、マルテンサイト相及びオーステナイト相の少なくとも2種からなる複相組織を有し、平均結晶粒径が20μm以下であり、γmaxが10~90であり、1.0MPaの負荷を1000℃、0.5hで加えたときのクリープ伸びが0.2%以上である複相系ステンレス鋼材が提案されている(特許文献1)。この複相系ステンレス鋼材は、C:0.2質量%以下、Si:1.0質量%以下、Mn:3.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.03質量%以下、Ni:10.0質量%以下、Cr:10.0~30.0質量%、N:0.3質量%以下、Ti:0.15質量%以下、Al:0.15質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Ti及びAlの合計量が0.15質量%以下である組成を有する。
特開2016-89223号公報
ステンレス鋼材の拡散接合体を上述のような様々な用途に用いる場合、拡散接合体が他の部材と溶接して用いられることがあるため、ステンレス鋼材には、拡散接合後に溶接部の耐食性が良好であることが要求される。また、用途によっては拡散接合体の寸法精度も重要であるため、拡散接合体に使用されるステンレス鋼材の熱膨張が小さいことも要求される。
特許文献1に記載のステンレス鋼材は、拡散接合性は良好であるものの、拡散接合後の溶接部の耐食性や熱膨張について検討されておらず、これらの特性が十分であるとはいえない。そのため、ステンレス鋼材の拡散接合体の用途が実質的に限定されているというのが実情である。
本発明は、拡散接合性に優れるとともに、拡散接合後に溶接部の耐食性が高く且つ熱膨張が小さいステンレス鋼材を提供することを目的とする。
また、本発明は、拡散接合性に優れ、溶接部の耐食性及び寸法精度が高い拡散接合体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、組成、平均結晶粒径及びMsを制御することにより、拡散接合性に加えて、拡散接合後の溶接部の耐食性及び熱膨張を改善し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、フェライト相及びマルテンサイト相を含むステンレス鋼材であって、
C:0.030質量%以下、Si:0.60質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.040質量%以下、S:0.003質量%以下、Ni:1.0~6.0質量%、Cr:17.5~22.0質量%、Mo:1.5質量%以下、Cu:2.0質量%以下、Nb:8(C+N)~0.50質量%(C及びNはそれぞれの含有量を表す)、Al:0.10質量%以下、N:0.030質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
平均結晶粒径が10μm以下、下記式(1)で表されるMsが180℃以上であるステンレス鋼材である。
Ms(℃)=(3000×(0.068-(C+N))+50×(0.47-Si)+60×(1.33-Mn)+110×(8.9-Ni)+75×(14.6-Cr)-32)×5/9 (1)
式中、各元素は各元素の含有量を表す。
また、本発明は、2つのステンレス鋼材が拡散接合された拡散接合体であって、
ステンレス鋼材の少なくとも一方が、上記のステンレス鋼材である拡散接合体に関する。
本発明によれば、拡散接合性に優れるとともに、拡散接合後に溶接部の耐食性が高く且つ熱膨張が小さいステンレス鋼材を提供することができる。
また、本発明によれば、拡散接合性に優れ、溶接部の耐食性及び寸法精度が高い拡散接合体を提供することができる。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、フェライト相及びマルテンサイト相を含む。このような金属組織を有するステンレス鋼材は、拡散接合が進行する高温域では、マルテンサイト相がオーステナイト相へ相変態し、フェライト相及びオーステナイト相を含む組織となる。これらのお互いの相が高温域で生じる結晶粒成長を抑制することにより、微細な組織を維持することができるため、高温域で粒界すべりに起因すると推定される変形が生じ易くなる。その結果、拡散接合時に接合部の接合面積が増大し易くなるため、拡散接合性を向上させることができる。さらに、このような金属組織とすることにより、熱間加工性も向上させることができる。
なお、本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、フェライト相及びマルテンサイト相以外の相を含んでもよいが、熱膨張の観点から、オーステナイト相が存在しないことが好ましく、フェライト相及びマルテンサイト相からなる二相ステンレス鋼材であることがより好ましい。
ここで、本明細書において「拡散接合」とは、2つのステンレス鋼材の間にインサート材を挿入して固相拡散又は液相拡散によって接合する「インサート材挿入法」及び2つのステンレス鋼材の表面同士を直接接触させて拡散接合する「直接法」の両方を含む概念である。その中でも拡散接合は、直接法による拡散接合であることが好ましい。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、C:0.030質量%以下、Si:0.60質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.040質量%以下、S:0.003質量%以下、Ni:1.0~6.0質量%、Cr:17.5~22.0質量%、Mo:1.5質量%以下、Cu:2.0質量%以下、Nb:8(C+N)~0.50質量%(C及びNはそれぞれの含有量を表す)、Al:0.10質量%以下、N:0.030質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する。
ここで、本明細書において「不可避的不純物」とは、Oなどの除去することが難しい成分のことを意味する。このような成分は、原料を溶製する段階で不可避的に混入する。
また、本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、Ti:0.10質量%以下、Ca:0.010質量%以下、REM(希土類):0.010質量%以下、V:1.0質量%以下、W:2.0質量%以下、Co:1.0質量%以下、Sn:0.30質量%以下、B:0.010質量%以下から選択される1種以上を更に含んでもよい。
Cは、ステンレス鋼材の耐食性に影響を与える元素である。Cの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限は、0.030質量%、好ましくは0.028質量%、より好ましくは0.025質量%に制御される。一方、Cの含有量の下限は、特に限定されないが、精練コストの上昇につながるため、好ましくは0.003質量%、より好ましくは0.005質量%に制御される。
Siは、ステンレス鋼材の拡散接合性に影響を与える元素である。Siの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の表面に酸化皮膜が形成され易くなり、拡散接合性が低下してしまう。そのため、Siの含有量の上限は、0.60質量%、好ましくは0.55質量%、より好ましくは0.50質量%に制御される。一方、Siの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、さらに好ましくは0.10質量%である。
Mnは、オーステナイト相安定化元素である。Mnの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材を高温域で拡散接合した際にオーステナイト相が多くなりすぎてしまう。そのため、Mnの含有量の上限は、2.0質量%、好ましくは1.8質量%、より好ましくは1.5質量%に制御される。一方、Mnの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、さらに好ましくは0.10質量%である。
Pは、ステンレス鋼材の靭性に影響を与える元素である。Pの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の靭性が低下してしまう。そのため、Pの含有量の上限は、0.040質量%、好ましくは0.038質量%、より好ましくは0.035質量%に制御される。一方、Pの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.005質量%、さらに好ましくは0.010質量%である。
Sは、ステンレス鋼材の加工性に影響を与える元素である。Sの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Sの含有量の上限は、0.003質量%、好ましくは0.0025質量%、より好ましくは0.002質量%に制御される。一方、Sの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.0003質量%、さらに好ましくは0.0005質量%である。
Niは、Mnと同様にオーステナイト相安定化元素である。Niの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材を高温域で拡散接合した際にオーステナイト相が多くなりすぎてしまう。そのため、Niの含有量の上限は、6.0質量%、好ましくは5.5質量%、より好ましくは5.0質量%に制御される。一方、Niの含有量が少なすぎると、ステンレス鋼材を高温域で拡散接合した際にオーステナイト相が少なくなりすぎてしまう。そのため、Niの含有量の下限は、1.0質量%、好ましくは1.5質量%、より好ましくは2.0質量%に制御される。
Crは、ステンレス鋼材に耐食性を付与する元素である。Crの含有量が多すぎると、金属間化合物(σ相)の生成が促進されるため、熱間加工性や靭性などの特性が低下してしまう。そのため、Crの含有量の上限は、22.0質量%、好ましくは21.5質量%、より好ましくは21.0質量%に制御される。一方、Crの含有量が少なすぎると、耐食性が十分に得られない。そのため、Crの含有量の下限は、17.5質量%、好ましくは18.0質量%に制御される。
Moは、ステンレス鋼材の耐食性を向上させる元素である。Moは高価であるため、Moの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Moの含有量の上限は、1.5質量%、好ましくは1.2質量%、より好ましくは1.1質量%に制御される。一方、Moの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.02質量%、さらに好ましくは0.03質量%である。
Cuは、ステンレス鋼材の加工性に影響を与える元素である。Cuの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Cuの含有量の上限は、2.0質量%、好ましくは1.8質量%、より好ましくは1.6質量%に制御される。一方、Cuの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.02質量%、さらに好ましくは0.03質量%である。
Nbは、炭化物又は炭窒化物を形成し、耐食性を向上させる元素である。Nbの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nb含有量の上限は、0.50質量%、好ましくは0.45質量%、より好ましくは0.40質量%に制御される。一方、Nbの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られない。そのため、Nb含有量の下限は、8(C+N)質量%に制御される。ここで、C及びNは、C及びNの含有量(質量%)をそれぞれ表す。
Alは、ステンレス鋼材の拡散接合性に影響を与える元素である。Alの含有量が多すぎると、拡散接合性が低下してしまう。そのため、Alの含有量の上限は、0.10質量%、好ましくは0.08質量%、より好ましくは0.05質量%に制御される。一方、Alの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.002質量%、さらに好ましくは0.003質量%である。
Nは、ステンレス鋼材の耐食性に影響を与える元素である。Nの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Nの含有量の上限は、0.030質量%、好ましくは0.025質量%、より好ましくは0.020質量%に制御される。一方、Nの含有量は、特に限定されないが、精練コストの上昇につながるため、好ましくは0.005質量%、より好ましくは0.006質量%、さらに好ましくは0.007質量%に制御される。
Tiは、ステンレス鋼材の表面品質に影響を与える元素である。Tiの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の表面品質が低下してしまう。そのため、Tiの含有量の上限は、0.10質量%、好ましくは0.09質量%に制御される。一方、Tiの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.005質量%、さらに好ましくは0.010質量%である。
また、Tiは、ステンレス鋼材の拡散接合性に影響を与える元素でもある。拡散接合性を確保する観点から、Ti及びAlの合計量が、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.098質量%以下に制御される。
Caは、ステンレス鋼材の熱間加工性に影響を与える元素である。Caの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の熱間加工性が低下してしまう。そのため、Caの含有量の上限は、0.010質量%、好ましくは0.008質量%、より好ましくは0.006質量%に制御される。一方、Caの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.00001質量%、より好ましくは0.00005質量%、さらに好ましくは0.00010質量%である。
REMは、ステンレス鋼材の加工性に影響を与える元素である。REMの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、REMの含有量の上限は、0.010質量%、好ましくは0.008質量%、より好ましくは0.006質量%に制御される。一方、REMの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.0005質量%、さらに好ましくは0.0010質量%である。
Vは、固溶Cを炭化物として固定することにより、ステンレス鋼材の加工性や靭性を向上させる元素である。Vの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Vの含有量の上限は、1.0質量%、好ましくは0.8質量%、より好ましくは0.6質量%に制御される。一方、Vの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、さらに好ましくは0.10質量%である。
Wは、ステンレス鋼材の耐熱性を向上させる元素である。Wの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Wの含有量の上限は、2.0質量%、好ましくは1.5質量%、より好ましくは1.0質量%に制御される。一方、Wの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、さらに好ましくは0.10質量%である。
Coは、ステンレス鋼材の高温強度を向上させる元素である。Coの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Coの含有量の上限は、1.0質量%、好ましくは0.8質量%、より好ましくは0.6質量%に制御される。一方、Coの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、さらに好ましくは0.10質量%である。
Snは、ステンレス鋼材の熱間加工性に影響を与える元素である。Snの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の熱間加工性が低下してしまう。そのため、Snの含有量の上限は、0.30質量%、好ましくは0.20質量%、より好ましくは0.10質量%に制御される。一方、Snの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.005質量%、さらに好ましくは0.01質量%である。
Bは、ステンレス鋼材の耐食性に影響を与える元素である。Bの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Bの含有量の上限は、0.010質量%、好ましくは0.008質量%、より好ましくは0.005質量%に制御される。一方、Bの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.003質量%、さらに好ましくは0.005質量%である。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、平均結晶粒径が10μm以下、好ましくは8μmである。平均結晶粒径を10μm以下に制御することにより、拡散接合性を向上させることができる。一方、平均結晶粒径の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.1μm、より好ましくは1μm以上である。
ここで、本明細書において「平均結晶粒径」とは、拡散接合前のステンレス鋼材における金属組織の平均結晶粒径であり、後述の求積法により算出される結晶粒径の平均値を意味する。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、下記式(1)で表されるMsが180℃以上、好ましくは185℃以上、さらに好ましくは190℃以上である。
Ms(℃)=(3000×(0.068-(C+N))+50×(0.47-Si)+60×(1.33-Mn)+110×(8.9-Ni)+75×(14.6-Cr)-32)×5/9 (1)
式(1)中、各元素は各元素の含有量(質量%)を表す。
Msを180℃以上に制御することにより、残留オーステナイトの残存を抑制し、拡散接合による熱膨張を抑制することができる。一方、Msの上限は、特に限定されないが、好ましくは500℃、より好ましくは450℃、さらに好ましくは300℃である。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、マルテンサイト相の割合が好ましくは40~80体積%、より好ましくは45~75体積%である。この範囲にマルテンサイト相の割合を制御することにより、フェライト相とマルテンサイト相との割合を適切な範囲に安定して調整することができる。そのため、これらのお互いの相が高温域で生じる結晶粒成長を抑制することにより、微細な組織を維持することができるため、高温域で粒界すべりに起因すると推定される変形が生じ易くなる。その結果、拡散接合時に接合部の接合面積が増大し易くなるため、拡散接合性を向上させることができる。さらに、このような組織とすることにより、熱間加工性も向上させることができる。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、下記式(2)で表されるA値が好ましくは50~60である。
A=7.2×(Cr+0.88×Mo+0.78×Si)-8.9×(Ni+0.03×Mn+0.72×Cu+22×C+21×N)-44.9 (2)
式(2)中、各元素は、各元素の含有量(質量%)である。
A値を上記の範囲に制御することにより、ステンレス鋼材の製造時に耳切れを抑制することができる。そのため、歩留まりが高くなり、製造コストを低減することができる。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、上記のような特徴を有していれば、熱延板、熱延焼鈍板、冷延板、冷延焼鈍板などの各種板材とすることができるが、製造性の観点から冷延焼鈍板であることが好ましい。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、上記の組成を有するステンレス鋼を溶製すること以外は、当該技術分野において公知の方法を用いることによって製造することができる。具体的には、ステンレス鋼材が冷延焼鈍板である場合、次のようにして製造することができる。まず、上記の組成を有するステンレス鋼を溶製して鍛造又は鋳造した後、熱間圧延を行って熱延板を得る。次に、熱延板に対して焼鈍、酸洗、冷間圧延を適宜行って冷延板を得る。次に、冷延板に対して焼鈍及び酸洗を適宜行って冷延焼鈍板を得る。
なお、各工程における条件については、ステンレス鋼の組成に応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、組成、平均結晶粒径及びMsを制御しているため、拡散接合性に優れるとともに、拡散接合後に溶接部の耐食性が高く且つ熱膨張を小さくすることができる。したがって、このステンレス鋼材は、拡散接合体の製造に用いるのに適している。
本発明の実施形態に係る拡散接合体は、2つのステンレス鋼材が拡散接合された拡散接合体である。2つのステンレス鋼材は、少なくとも一方が上記のステンレス鋼材であれば上記の効果を得ることができるが、両方が上記のステンレス鋼材とすることにより、上記の効果をより一層高めることができる。
本発明の実施形態に係る拡散接合体は、2つのステンレス鋼材を拡散接合することによって製造することができる。拡散接合は、直接法による真空拡散接合を用いることが好ましい。具体的な拡散接合方法としては、例えば、接触面圧0.1~1.0MPaで2つのステンレス鋼材を直接接触させた状態とし、圧力を1.0×10-2Pa以下(好ましくは1.0×10-3Pa以下)に制御した炉内で、900~1100℃に加熱保持すればよい。保持時間は、特に限定されないが、0.5~3時間の範囲に調整すればよい。
本発明の実施形態に係る拡散接合体は、2つのステンレス鋼材のうちの少なくとも一方に上記のステンレス鋼材を用いているため、拡散接合性に優れ、溶接部の耐食性及び寸法精度を高めることができる。
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
(実施例1~12及び比較例1~12)
表1に示す組成を有するステンレス鋼30kgを真空溶解で溶製し、厚さ30mmの板に鍛造した後、1230℃で2時間加熱し、厚さ3mmに熱間圧延して熱延板を得た。次に、熱延板を焼鈍及び酸洗した後、厚さ1.0mmに冷間圧延して冷延板を得た。次に、冷延板を1100で焼鈍した後、水冷し、酸洗を行うことによって冷延焼鈍板(ステンレス鋼材)を得た。
上記で得られた冷延焼鈍板について以下の評価を行った。
(平均結晶粒径)
金属組織(各相)の結晶粒径は、冷延焼鈍板の圧延方向(L方向)と平行な板厚方向断面を鏡面研磨し、フッ酸:硝酸:グリセリン=1:2:3(体積比)の混合液でエッチングを施した後、当該エッチング面について光学顕微鏡観察を行うことによって測定した。光学顕微鏡観察では、エッチング面内に無作為に設定した複数の視野にて合計200μm×200μm以上の面積を観察し、求積法を用いて単位面積内に含まれる結晶数の個数を算出し、結晶粒1つ当たりの平均面積の1/2乗した値を平均結晶粒径とした。
(金属組織)
1.オーステナイト相の割合
冷延焼鈍板の圧延方向(L方向)と平行な板厚方向断面を鏡面研磨し、EBSD法によってオーステナイト相の割合を測定した。EBSDの測定条件は、測定倍率2000倍で0.2μmステップの条件とし、得られたデータについてTSL社OIM解析ソフトを用いて解析した。オーステナイト相の面積割合が3%以上となったものは、後述のマルテンサイト相の割合は算出不可とし、マルテンサイト相の割合の結果において×と表した。
2.マルテンサイト相の割合
冷延焼鈍板の圧延方向(L方向)と平行な板厚方向断面を鏡面研磨し、フッ酸:硝酸:グリセリン=1:2:3(体積比)の混合液でエッチングを施した後、当該エッチング面について光学顕微鏡観察を行い、光学顕微鏡画像を画像処理ソフトウェアにて二値化処理した。また、エッチング面内に無作為に設定した複数の視野にて合計200μm×200μm以上の面積を観察し、観察総面積に占めるマルテンサイト相の合計面積の割合を算出し、この割合をマルテンサイト相の割合(体積%)とした。
(拡散接合性)
冷延焼鈍板から20mm×20mmの平板試験片を取り出し、表面を#1000まで研磨した後、以下の方法で拡散接合を行った。
同一組成系の2枚の平板試験片を互いに表面同士が接触するように積層した状態とし、錘を有する冶具を用い、これら2枚の平板試験片の接触表面に付与される面圧を0.1MPaとなるように調整した。以下、積層した平板試験片を「鋼材」という。当該鋼材が積層された状態のものを「積層体」という。その後、冶具と積層体を真空炉に挿入し、真空引きを行って圧力1.0×10-3~1.0×10-4Paの初期真空度とした後、1000℃まで約1時間で昇温し、その温度で2時間保持した後、冷却室に移して冷却した。冷却は900℃まで上記真空度を維持し、その後Arガスを導入して90kPaのArガス雰囲気中で約100℃以下まで冷却した。上記の熱処理を終えた積層体について、超音波厚さ計(オリンパス社製;Model35DL)を用いて、20mm×20mmの積層体表面上に縦横3mmピッチで設けた合計49箇所の測定点において厚さ測定を行った。プローブ径は1.5mmとした。ある測定点での板厚測定値が2枚の鋼材の合計板厚を示す場合には、その測定点に対応する両鋼材の界面位置では原子の拡散によって両鋼材が一体化しているとみなすことができる。一方、板厚測定値が両鋼材の合計板厚に満たない場合には、その測定点に対応する両鋼材の界面位置に未接合部(欠陥)が存在する。加熱処理後の積層体の断面組織と、この測定手法により得られた測定結果との対応関係を調べたところ、測定結果が両鋼材の合計板厚となった測定点の数を測定総数49で除した値(これを、以下「接合率」という。)によって、接触面積に占める接合部分の面積率が精度良く評価できることを確認した。この評価において、接合率が90%以上であれば、拡散接合部の強度が十分に確保され、且つ両部材間のシール性(連通する欠陥を介する気体の漏れが生じない性質)も良好であると判定することができる。
(熱膨張性)
拡散接合性の評価で用いた平板試験片と同じ平板試験片1枚を準備し、拡散接合と同じ熱処理条件で熱処理を行った。次に、この平板試験片について、示差膨張式の熱膨張測定装置(株式会社リガク製の熱機械分析装置TMA、標準試料:石英)を用い、昇温速度1℃/秒で30℃~100℃に加熱した。このときの平板試験片の膨張量を測定し、30℃~100℃での平均熱膨張係数(α30-100℃)として算出した。この評価において、熱膨張係数が12×10-6/℃以下であれば、熱膨張が小さいと判定することができる。
(溶接部の耐食性)
拡散接合性の評価で用いた平板試験片と同じ平板試験片1枚を準備し、拡散接合と同じ熱処理条件で熱処理した後、酸洗を行った。次に、この平板試験片について、電極W(直径1.6mm)、電極間距離0.6mm、溶接電流密度100A、トーチ移動速度500mm/分、シールドガスAr、流速10L/分の条件でTIGなめ付け溶接行った。評価面は溶接表面とし、溶接ビード部凸部をグラインダーで平滑化し、最終的に母材部と併せて#600乾式研磨で仕上げた。その後、以下の(1)~(3)を1サイクルとして50サイクル繰り返す耐食性試験(塩乾湿複合サイクル試験[CCT試験])を行った。
(1)塩水噴霧(35℃、5%NaCl、15分)
(2)乾燥(60℃、30%RH、60分)
(3)湿潤(50℃、95%RH、3時間)
CCT試験後、60℃、30質量%の硝酸水溶液に浸漬して錆を落とした後、評価面に発生した孔食深さをマイクロスコープの焦点深度法で測定した。この評価において、最大孔食深さが50μm未満であれば、溶接部の耐食性が高いと判定することができる。
上記の各評価結果を表2に示す。
表1及び2に示されるように、組成、Ms及び平均結晶粒径が所定の範囲にある実施例1~12のステンレス鋼材は、拡散接合性、熱膨張性及び接合部の耐食性の結果が全て良好であった。
これに対して比較例1のステンレス鋼は、Msが低すぎたため、熱膨張性の結果が十分でなかった。比較例2のステンレス鋼は、Tiの含有量が高すぎたため、拡散接合性の結果が十分でなかった。比較例3のステンレス鋼は、Msが低すぎるとともに、平均結晶粒径が大きすぎたため、拡散接合性及び熱膨張性の結果が十分でなかった。比較例4~6のステンレス鋼は、平均結晶粒径が大きすぎたため、拡散接合性の結果が十分でなかった。比較例7のステンレス鋼は、C、Ni及びNbの含有量、Ms並びに平均結晶粒径が所定の範囲外であったため、拡散接合性及び熱膨張性の結果が十分でなかった。比較例8のステンレス鋼は、C、Ni、Cr及びNbの含有量並びに平均結晶粒径が所定の範囲外であったため、拡散接合性及び接合部の耐食性の結果が十分でなかった。比較例9のステンレス鋼は、C、Cr及びNbの含有量が所定の範囲外であったため、接合部の耐食性の結果が十分でなかった。比較例10のステンレス鋼は、Mn、Nb及びNの含有量並びにMsが所定の範囲外であったため、熱膨張性及び接合部の耐食性の結果が十分でなかった。比較例11のステンレス鋼は、S、Ni、Cr、Mo、Nb及びNの含有量、並びにMsが所定の範囲外であったため、熱膨張性の結果が十分でなかった。比較例12のステンレス鋼は、平均結晶粒径が所定の範囲外であったため、拡散接合性の結果が十分でなかった。
以上の結果からわかるように、本発明によれば、拡散接合性に優れるとともに、拡散接合後に溶接部の耐食性が高く且つ熱膨張が小さいステンレス鋼材を提供することができる。また、本発明によれば、拡散接合性に優れ、溶接部の耐食性及び寸法精度が高い拡散接合体を提供することができる。

Claims (9)

  1. フェライト相及びマルテンサイト相を含むステンレス鋼材であって、
    C:0.030質量%以下、Si:0.60質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.040質量%以下、S:0.003質量%以下、Ni:1.0~6.0質量%、Cr:17.5~22.0質量%、Mo:1.5質量%以下、Cu:2.0質量%以下、Nb:8(C+N)~0.50質量%(C及びNはそれぞれの含有量を表す)、Al:0.10質量%以下、N:0.030質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
    平均結晶粒径が10μm以下、下記式(1)で表されるMsが180℃以上であるステンレス鋼材。
    Ms(℃)=(3000×(0.068-(C+N))+50×(0.47-Si)+60×(1.33-Mn)+110×(8.9-Ni)+75×(14.6-Cr)-32)×5/9 (1)
    式中、各元素は各元素の含有量(質量%)を表す。
  2. Ti:0.10質量%以下を更に含み、Ti及びAlの合計量が0.10質量%以下である、請求項1に記載のステンレス鋼材。
  3. Ca:0.010質量%以下、REM:0.010質量%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1又は2に記載のステンレス鋼材。
  4. V:1.0質量%以下、W:2.0質量%以下、Co:1.0質量%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のステンレス鋼材。
  5. Sn:0.30質量%以下、B:0.010質量%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のステンレス鋼材。
  6. 前記マルテンサイト相の割合が40~80体積%である、請求項1~5のいずれか一項に記載のステンレス鋼材。
  7. 下記式(2)で表されるA値が50~60である、請求項1~6のいずれか一項に記載のステンレス鋼材。
    A=7.2×(Cr+0.88×Mo+0.78×Si)-8.9×(Ni+0.03×Mn+0.72×Cu+22×C+21×N)-44.9 (2)
    式中、各元素は、各元素の含有量(質量%)である。
  8. 冷延焼鈍板である、請求項1~7のいずれか一項に記載のステンレス鋼材。
  9. 2つのステンレス鋼材が拡散接合された拡散接合体であって、
    前記ステンレス鋼材の少なくとも一方が、請求項1~8のいずれか一項に記載のステンレス鋼材である拡散接合体。
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