JP2016145372A - 油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法 - Google Patents

油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低温靭性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法の提供。【解決手段】mass%で、C:0.005〜0.05%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜1.8%、P≦0.03%、S≦0.005%、Cr:15.5〜18%、Ni:1.5〜5%、Cu≦3.5%、Mo:1〜3.5%、V:0.02〜0.2%、Al:0.002〜0.05%、N:0.01〜0.15%、O≦0.006%を含む組成の鋼素材を、鋼管素材加工/熱間加工時にT(K)=7650/{2.35−log10([C]×α[X])}([C]:C含有量、[X]:V、Ti、Nb、Zrの内最多の元素Xの含有量、α:係数)で定義される温度T未満で加熱し、熱間加工後に700℃以下で焼戻し或いは850℃以上で焼入れ焼戻す、小加工でも鋼管の肉厚中心部までフェライト粒が微細化し、低温靭性に優れた厚肉高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。【選択図】図1

Description

本発明は、炭酸ガス(CO)、塩素イオン(Cl)等を含み、極めて厳しい腐食環境下の油井、ガス井用として好適な、油井用継目無鋼管に係り、とくに、高強度でかつ、優れた耐食性と優れた低温靭性とを兼備する、油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法に関する。
近年、世界的なエネルギー消費量の増大による、原油等のエネルギー価格の高騰や、石油資源の枯渇という観点から、従来、省みられなかったような高深度の油田(深層油田)、硫化水素等を含む、いわゆるサワー環境下にある厳しい腐食環境の油田、ガス田、さらには極北におけるような厳しい気象環境下の油田やガス田、の開発が盛んに行われている。このような環境下で使用される鋼材(鋼管)として、高強度で、かつ優れた耐食性(耐サワー性)、さらには優れた低温靭性を兼ね備えた鋼材(鋼管)が要求されている。また、鋼材(鋼管)の肉厚も、薄肉から厚肉まで様々なものが要求されている。
従来から、炭酸ガスCO、塩素イオンCl等を含む環境下の油田、ガス田では、採掘に使用する鋼材として、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼が多く使用されてきた。しかし、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼は、サワー環境において十分な耐食性を保持していないため、最近ではC量を低減し、Cr量とNi量を増加させた二相ステンレス鋼の使用が拡大している。
また、マルテンサイト系ステンレス鋼をベースとした鋼材(鋼管)についても、高強度化、耐食性(耐サワー性)の向上が要望されている。このような要望に対して、例えば、特許文献1特許第5109222号公報には、耐食性に優れた油井用高強度ステンレス鋼管およびその製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、mass%で、C:0.005〜0.05%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜1.8%、Cr:15.5〜18%、Ni:1.5〜5%、Mo:1〜3.5%、V:0.02〜0.20%、N:0.01〜0.15%、O:0.006%以下を含有し、かつCr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧19.5およびCr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5を満足する組成を有する鋼管素材を加熱し、熱間加工により造管して、造管後、空冷以上の冷却速度で室温まで冷却して所定寸法の継目無鋼管とし、ついで継目無鋼管に、850℃以上の温度に再加熱したのち空冷以上の冷却速度で100℃以下まで冷却し、ついで700℃以下の温度に加熱する焼入れ−焼戻処理を施す、油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法である。
この高強度ステンレス継目無鋼管は、体積率で10〜60%のフェライト相を含み残部がマルテンサイト相である組織を有し、降伏強さ:654MPa以上の高強度で、COやClを含む、230℃までの高温の厳しい腐食環境下においても充分な耐食性を有し、しかもシャルピー衝撃試験の−40℃での吸収エネルギーが50J以上の高靭性を有するとしている。なお、本発明で対象とする高強度ステンレス継目無鋼管の肉厚は、好ましくは15mm以上である。
特許第5109222号公報
特許文献1に記載された技術では、ほとんどの熱間加工が、フェライト相とオーステナイト相の二相温度域で行なわれている。フェライト相とオーステナイト相の分率は、加熱保持温度や加熱時間によって異なるが、一般に、高温になるほど、フェライト相の分率が高くなる。フェライトは、粒成長が速いため、高温に保持されると、初期粒が微細であっても粗粒化しやすい。
一般的には、熱間加工を施すことにより、フェライト粒の分断、細粒化は可能である。しかし、厚肉材では、熱間加工を施しても、とくに肉厚中心部に歪を付与しにくいため、肉厚中心部ではフェライト粒の分断ができず、短時間の高温保持や熱間圧延後の放冷によっても、フェライト粒の粗大化が生じる。粗大なフェライト粒、とくに連結した粗大フェライト粒は、脆性き裂の伝播経路となりやすい。このため、例えば、フェライト相の分率が高い、高温で圧延された鋼管では、とくに、肉厚中央部で粗大フェライト粒を含む組織が形成され、靭性が低下している場合が多い。また、フェライト粒が粗大化すると、強度にも影響し、とくに降伏強さが低下する場合がある。
このようなことから、ステンレス継目無鋼管において、所望の強度、靭性を確保するためには、熱間圧延条件や、その後の熱処理における温度管理を、適切に行う必要がある。しかしながら、特許文献1には、素材の高温加熱時や熱間加工時の温度管理についての言及は無く、とくに素材の高温加熱時や熱間加工時の温度が、ステンレス継目無鋼管の低温靭性に及ぼす影響について、なんの言及もされていない。しかも、特許文献1に記載された技術が対象としている継目無鋼管は、高々、肉厚12.7mmまでの鋼管であり、そのため、特許文献1には、肉厚15mmを超えるような厚肉鋼管についてまでの言及はない。
本発明は、かかる従来技術の状況に鑑み、高強度で、優れた耐食性を有し、しかも低温靭性にも優れた、油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
なお、ここでいう「高強度」とは、降伏強さYS:654MPa(95ksi)以上を保持する場合をいい、「優れた低温靭性」とは、JIS Z 2242の規定に準拠したシャルピー衝撃試験における試験温度:−40℃での吸収エネルギーvE−40が50J以上である場合をいうものとする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、まず、フェライト-マルテンサイトの二相組織を有する高強度ステンレス継目無鋼管の低温靭性におよぼす各種要因について鋭意研究した。その結果、上記したような二相組織を呈するステンレス継目無鋼管では、フェライト相の微細化が、低温靭性向上に最も有効な手段であることに思い至った。
上記したようなフェライト−マルテンサイトの二相組織を有する高強度ステンレス継目無鋼管の製造に際して、通常、所定の組成に調整された鋼管素材を、所定の加熱温度域まで加熱し、穿孔圧延等の熱間加工を行う。所定の加熱温度域では、鋼管素材は、フェライトとオーステナイトの二相に分離した組織を呈するが、加熱温度が上昇するにしたがい、フェライト相の分率が高くなる。しかも、フェライト粒は、高温でかつ長時間保持することにより、急激に粒成長して、粗大フェライト粒となりやすい。粗大フェライト粒が形成されると、低温靭性が低下する。
そこで、本発明者らは、この粗大フェライト粒の形成を防止する方策についてさらに研究した。その結果、鋼管素材組成の微妙な変化により、フェライト粒の成長速度が急激に上昇し始める温度が大きく異なることを知見した。そして、この現象は、とくに、炭素含有量および炭化物を形成しやすい元素(炭化物形成元素)の含有量(炭化物形成元素含有量)と強い相関があることを突き止めた。
まず、本発明者らが行った基礎的実験結果について説明する。
質量%で、0.009〜0.42%C−0.17〜0.25%Si−0.25〜0.61%Mn−15.7〜17.8%Cr−1.6〜4.2%Ni−0.15〜1.24%Cu−1.6〜3.3%Mo−0.038〜0.061%V−0〜0.07%Ti−0〜0.118%Nb−0〜0.098%Zr−0〜0.92%W−0〜0.001%B−0〜0.002%Ca−0〜0.004%REMを含む組成を有する溶鋼(15チャージ)を、小型高周波溶解炉で溶製し、鋳型に注入し小型鋼塊を得た。得られた鋼塊を、1100℃に再加熱し、実験圧延機で、圧下率:80%の熱間圧延を施し、25mm厚の鋼板とした。
得られた鋼板から、試験片(20×20×10mm)を採取した。そして、同一鋼板から採取した試験片ごとに、加熱温度を種々変化して加熱したのち、水中に浸漬し、急冷した。得られた試験片から組織観察用試験片を採取し、研磨、腐食(腐食液:ビエラ液)し、光学顕微鏡(倍率:100倍)を用いて、組織を観察した。そして、各6視野以上で撮像し、得られた組織写真から、画像解析により、各試験片のフェライト平均粒径を求めた。同一鋼板について得られたフェライト平均粒径と加熱温度との関係から、各鋼板について、加熱処理後のフェライト粒径が、加熱処理前のフェライト粒径の10倍以上になる加熱温度の下限値(フェライト粒粗大化温度Tともいう)を決定した。
得られたフェライト粒粗大化温度Tは、鋼板ごとで、すなわち組成により大きく変化していた。そこで、フェライト粒粗大化温度より高い温度に加熱された試験片と、フェライト粒粗大化温度より低い温度に加熱された試験片とについて、走査型電子顕微鏡で組織を観察すると、フェライト粒粗大化温度未満の温度に加熱された試験片では、析出物が認められたのに対し、フェライト粒粗大化温度より高い温度に加熱された試験片では析出物は認められなかった。なお、認められた析出物について、走査型電子顕微鏡に付設されたエネルギー分散型X線分光分析装置(EDX)を用いて、組成を分析すると、V、Nb、Ti、Zrなどの炭窒化物が主体であった。
このようなことから、加熱温度が低い場合は、上記した析出物がフェライト粒界をピン止めして、フェライト粒の粗大化を抑制しているのに対し、加熱温度が高くなり、上記した析出物が母相に固溶されると、粒界のピン止めが外れてフェライト粒が一気に粗大化したものと推察される。
そこで、各鋼板について、得られたフェライト粒粗大化温度T(K)の逆数(1/T)と、対応するCと、V、Nb、Ti、Zrのうち最も含有量が多い元素Xとの濃度積、との関係を求め、図1に示す。なお、Cと元素Xとの濃度積は、質量でなく物質量によって決まる値であるため、質量を物質量に変換するために、元素Xの含有量に係数αを乗じた、[C]・α[X]とした。ここで、αは、元素Xに該当する元素の原子量に応じて決定される値で、元素Xが、V、Tiの場合には2、Nb、Zrの場合には1とした。
図1から、フェライト粒の急激な成長が認められない領域とフェライト粒の急激な成長が生じる領域との境界は、次(3)式
T(K)=7650/{2.35−log10([C]×α[X])} ………(3)
(ここで、[C]:C含有量(mass%)、[X]:V、Ti、Nb、Zrのうち、含有量がもっとも多い元素Xの含有量(mass%)、α:係数。元素XがV、Tiの場合には2、元素XがNb、Zrの場合は1)
で定義される関係式で表されることを見出した。
すなわち、加熱温度が、(3)式で定義される温度T(K)未満であれば、フェライト粒の急激な成長が認められないことから、本発明者らは、すべての熱間圧延工程の加熱を、上記した(3)式で定義される温度T(K)未満の温度で行うことに思い至った。これにより、フェライト粒の粒成長が抑制され、引続く、熱間圧延においてフェライト粒を分断、細粒化できることから、容易に組織の微細化が達成でき、その後にさらに、適切な熱処理を施すことで低温靭性がさらに顕著に向上し、所望の高強度、所望の優れた低温靭性を兼備する高強度ステンレス継目無鋼管を容易に製造することができるようになるという知見を得た。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)鋼素材に、加熱し熱間加工して丸形状の鋼管素材とする鋼管素材加工工程を施したのち、該鋼管素材に、加熱し、造管、成形し、空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度まで冷却する熱間加工工程を施して継目無鋼管とし、ついで、該継目無鋼管に、熱処理を行う熱処理工程を施す継目無鋼管の製造方法であって、前記鋼素材を、mass%で、C:0.005〜0.05%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:15.5〜18%、Ni:1.5〜5%、Cu:3.5%以下、Mo:1〜3.5%、V:0.02〜0.2%、Al:0.002〜0.05%、N:0.01〜0.15%、O:0.006%以下を、次(1)式および次(2)式
Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧19.5 ………(1)
(ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C:各元素の含有量 (mass%))
Cr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5 ………(2)
(ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C、Si、Mn、N:各元素の含有量 (mass%))
を満足するように含み、さらに、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記鋼管素材加工工程および前記熱間加工工程における加熱を、次(3)式
T(K)=7650/{2.35−log10([C]×α[X])} ………(3)
(ここで、[C]:C含有量(mass%)、[X]:V、Ti、Nb、Zrのうち、含有量がもっとも多い元素Xの含有量(mass%)、α:係数、元素XがV、Tiの場合には2、元素XがNb、Zrの場合は1)
で定義される温度T(K)未満となる条件で行い、前記熱処理工程における熱処理を、焼戻温度:700℃以下の温度に加熱したのち、放冷する焼戻処理を施す処理とすることを特徴とする降伏強さ:654MPa以上で低温靭性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
(2)(1)において、前記熱処理工程における熱処理を、前記焼戻処理の前に、焼入れ温度:850℃以上の温度に再加熱したのち、空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度まで冷却する焼入れ処理を施し、しかる後に前記焼戻処理を施す処理とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、次A群〜B群
A群:W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種、
B群:Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種
のうちから選ばれた1群または2群を含有することを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
本発明によれば、高強度で、優れた耐食性を有し、しかも低温靭性にも優れた、油井用高強度ステンレス継目無鋼管を、容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、比較的少ない加工量でも、高強度ステンレス継目無鋼管の肉厚中心部まで、フェライト粒の微細化が可能となり、肉厚中心位置での加工量を大きくすることができない厚肉継目無鋼管においても、低温靭性の向上が図れるという効果もある。
フェライト粒粗大化温度T(K)と、C含有量と、V、Ti、Nb、Zrのうちの最も含有量の多い元素Xの含有量との濃度積との関係を示すグラフである。 継目無鋼管の製造プロセスの一例を模式的に示す説明図である。
本発明では、まず、鋼素材に鋼管素材加工工程を施して、鋼管素材とする。
なお、本発明で使用する鋼素材は、その製造方法をとくに限定する必要はなく、転炉、電気炉等の常用の溶製炉を用いて所望の組成の溶鋼を溶製し、連続鋳造法等の常用の鋳造方法で製造された鋳片を用いることが好ましい。なお、造塊−分塊圧延法で製造された鋼片を、鋼素材としてもなんら問題はない。
本発明で、使用する鋼素材は、mass%で、C:0.005〜0.05%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:15.5〜18%、Ni:1.5〜5%、Cu:3.5%以下、Mo:1〜3.5%、V:0.02〜0.2%、Al:0.002〜0.05%、N:0.01〜0.15%、O:0.006%以下を、次(1)式および次(2)式
Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧19.5 ………(1)
(ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C:各元素の含有量 (mass%))
Cr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5 ………(2)
(ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C、Si、Mn、N:各元素の含有量 (mass%))
を満足するように含み、さらに、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、あるいはさらに、次A群〜B群
A群:W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種、
B群:Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種
のうちから選ばれた1群または2群を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とする。
つぎに、使用する鋼素材の組成限定理由について説明する。以下、組成におけるmass%は、単に%で記す。
C:0.005〜0.05%
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼の強度増加に寄与する重要な元素であるが、耐食性向上という観点からは、Cはできるだけ低減することが望ましい。しかし、所望の高強度を確保するために、0.005%以上の含有を必要とする。なお、Cは、炭化物を形成しフェライト粒の成長を抑制する作用を有する。一方、0.05を超えて含有すると、Ni含有による焼戻時の鋭敏化が増大する。このようなことから、Cは0.005〜0.05%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.030〜0.05%である。
Si:0.05〜0.5%
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.5%を超える含有は、耐食性を低下させ、さらには熱間加工性をも低下させる。このため、Siは0.05〜0.5の範囲に限定した。なお、好ましくは0.10〜0.30%である。
Mn:0.2〜1.8%
Mnは、強度を増加させる作用を有する。このような効果を得るためには0.2%以上の含有を必要とする。一方、1.8%を超えて含有すると、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.2〜1.8の範囲に限定した。なお、好ましくは0.20〜1.00%である。
P:0.03%以下
Pは、不純物として粒界等に偏析し、耐食性、低温靭性等に悪影響をおよぼす元素で、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、過度の低減は精錬コストの高騰を招く。しかし、0.03%以下であれば、耐食性、低温靭性等へ顕著な悪影響を及ぼさないため、許容できる。このようなことから、Pは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.02%以下である。
S:0.005%以下
Sは、熱間加工性を著しく低下させる元素であり、できるだけ低減することが望ましいが、過度の低減は精錬コストの高騰を招く。0.005%以下であれば、通常の熱間加工を実施することが可能となる。このため、Sは0.005%以下に限定した。なお、好ましくは0.002%以下である。
Cr:15.5〜18%
Crは、保護皮膜を形成し耐食性を向上させる作用を有する。また、さらには、固溶して鋼の強度を増加させる。このような効果を得るためには、15.5%以上の含有を必要とする。一方、18%を超えて多量に含有すると、熱間加工性が低下し、さらに強度も低下する。このため、Crは15.5〜18%の範囲に限定した。なお、好ましくは16.6〜18.0%である。
Ni:1.5〜5%
Niは、保護膜を強固にし、耐食性を高める作用を有する。また、さらには、固溶して鋼の強度を増加させ、さらに靭性を向上させる。このような効果は1.5%以上の含有で認められる。一方、5%を超えて含有すると、マルテンサイト相の安定性が低下し、強度が低下する。このため、Niは1.5〜5%に限定した。なお、好ましくは2.5〜4.5%である。
Cu:3.5%以下
Cuは、保護皮膜を強固し、鋼中への水素の侵入を抑制し、耐硫化物応力腐食割れ性を高める。このような効果を得るためには0.5%以上含有することが望ましい。一方、3.5%を超える含有は、CuSの粒界析出を招き、熱間加工性が低下する。このため、Cuは3.5%以下に限定した。なお、好ましくは0.8〜1.2%、より好ましくは0.5〜1.14%である。
Mo:1〜3.5%
Moは、塩素イオン(Cl)による孔食に対する抵抗性を増加させる。このような効果を得るためには、1%以上含有する必要がある。一方、3.5%を超える多量の含有は、強度が低下するとともに、材料コストが高騰する。このため、Moは1〜3.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは2.0〜3.5%である。
V:0.02〜0.2%
Vは、強度を増加させるとともに、耐食性、とくに耐応力腐食割れ性を改善させる作用を有する。このような効果を得るためには、0.02%以上の含有を必要とする。一方、0.2%を超えて含有すると、靭性が低下する。このため、Vは0.02〜0.2%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.08%である。
Al:0.002〜0.05%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには、0.002%以上含有する必要がある。一方、0.05%を超える含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Alは0.002〜0.05%に限定した。なお、好ましくは0.004〜0.04%である。
N:0.01〜0.15%
Nは、耐孔食性を著しく向上される元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.15%を超えて含有すると、種々の窒化物を形成し靭性を低下させる。このため、Nは0.01〜0.15%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.08%である。
O:0.006%以下
O(酸素)は、鋼中では酸化物として存在し、各種特性に悪影響を及ぼす。このため、できるだけ低減することが望ましい。とくに、Oが0.006%を超えて多量に含有すると、熱間加工性、靭性、耐食性の低下が著しくなる。このため、O(酸素)は0.006%以下に限定した。
本発明では、上記した成分を上記した範囲で、かつ次(1)式および次(2)式
Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C ≧ 19.5 ………(1)
Cr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N ≧ 11.5 ………(2)
を満足するように調整して含有する。ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C、Si、Mn、Nは、各元素の含有量 (mass%)である。なお、(1)式、(2)式の左辺値を計算する際には、(1)式、(2)式に記載された元素のうち、含まれない元素は零%として計算するものとする。
Cr、Ni、Mo、Cu、C含有量を(1)式を満足するように調整することにより、230℃までの高温で、CO、Clを含む高温腐食環境下での耐食性が顕著に向上する。なお、CO、Clを含む高温腐食環境下での耐食性の観点からは、(1)式左辺値は20.0以上とすることが好ましい。
また、Cr、Mo、Si、C、Mn、Ni、Cu、N含有量を、(2)式を満足するように調整することにより、熱間加工性が向上する。本発明では、P、S、Oを著しく低減しているが、P、S、Oを低減するのみでは、マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管を造管するために必要十分な熱間加工性を確保することは難しく、マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管を造管するためには、P、S、Oを低減したうえで、(2)式を満足するように、Cr、Mo、Si、C、Mn、Ni、Cu、N含有量を調整することが肝要となる。なお、熱間加工性向上の観点から、(2)式の右辺値は12.0以上とすることが好ましい。
Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Nb、Ti、Zrはいずれも、強度増加に寄与する元素であり、また、炭化物を形成してフェライト粒の成長を抑制する元素であり、選択して1種または2種以上を含有する。このような効果を得るためには、Nb:0.03%以上、Ti:0.03%以上、Zr:0.03%以上、含有することが望ましい。一方、Nb:0.2%、Ti:0.3%、Zr:0.2%、をそれぞれ超える含有は、靭性を低下させる。このため、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下に、それぞれ限定した。なお、好ましくは、Nb:0.05〜0.12%、Ti:0.03〜0.07%、Zr:0.02〜0.10%である。
上記した成分が基本の成分であるが、基本成分に加えてさらに、選択元素として、A群〜B群のうちから選ばれた1群または2群を含有することができる。
A群:W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種
A群:W、Bはいずれも、強度増加に寄与するとともに、耐応力腐食割れ性をも改善する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種を含有できる。このような効果を得るためには、W:0.2%以上、B:0.0005%以上、含有することが望ましい。一方、W:3.0%、B:0.01%、をそれぞれ超える含有は、靭性を低下させる。このため、含有する場合は、W:3.0%以下、B:0.01%以下に、それぞれ限定することが好ましい。
B群:Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種
B群:Ca、REMは、硫化物系介在物の形状を球状化する作用を有し、介在物周囲のマトリックスの格子歪を小さくして、介在物の水素トラップ能を低下させる効果を有する元素であり、必要に応じて1種または2種を含有できる。このような効果を得るためには、Ca:0.0005%以上、REM:0.001%以上含有することが望ましいが、Ca:0.01%、REM:0.01%を超えて含有すると、耐食性が低下する。このため、含有する場合には、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、Co:0.1%以下が許容できる。
本発明では、上記した組成の鋼素材に、鋼管素材加工工程を施して、鋼管素材とする。本発明で好適に使用できる、継目無鋼管の製造プロセスの一例を図2に示す。
本発明における鋼管素材加工工程では、上記した組成を有する鋼素材を、鋼素材加熱装置1で所定の温度に加熱し、熱間加工装置2で熱間加工を施して、鋼管素材である所定形状の丸ビレットとする。熱間加工装置2としては、通常、使用する鋼片圧延機(粗および仕上圧延機)等の熱間加工装置が適用できる。
ついで、得られた鋼管素材を、鋼管素材加熱装置3に装入し、所定の温度に加熱したのち、該加熱された鋼管素材に熱間加工装置4で熱間加工を施して継目無鋼管とする熱間加工工程を施す。なお、熱間加工の途中で、例えば再加熱装置5で、再加熱を行って、さらに熱間加工を続けても良い。
なお、熱間加工工程で使用する熱間加工装置4は、通常、鋼管素材を所定寸法の継目無鋼管とする際に使用する熱間加工装置、例えば、マンネスマン−プラグミル方式、マンネスマン−マンドレルミル方式等の熱間加工装置がいずれも適用できる。熱間加工装置4としては、加熱された鋼管素材に穿孔圧延を施し中空素材とする穿孔圧延装置41がある。穿孔圧延装置41としては、例えば、バレル形ロール、コーン型ロール等を用いるマンネスマン傾斜式穿孔機が適用できる。これ以外にも、熱間押出式穿孔機等の、通常公知の穿孔圧延装置がいずれも適用できる。
また、熱間加工装置4としては、穿孔圧延装置41で得られた中空素材に、熱間加工を施し所定形状の継目無鋼管とする圧延装置42がある。圧延装置42には、縮径圧延や矯正圧延等を行なう通常公知の圧延装置がいずれも適用できる。例えば、圧延装置42としては、穿孔された中空素管を拡管するエロンゲータ421、拡管された中空素管を薄く長く延ばすプラグミル422、中空素管の内外表面を滑らかにするリーラ423、中空素管を所定寸法に整えるサイジングミル424を、その順に配置された構成とすることが好ましい。
なお、鋼管温度の低下を補償するための再加熱装置5を、熱間加工の途中工程に設置することができる。図2では、サイジングミル424の入り側に設けた例を示している。また、図示はしていないが、目的に応じて、圧延装置42として、穿孔された中空素管を所定寸法の中空鋼管とするマンドレルミル、若干の圧下を行ない外径、肉厚を調整するレデューサを、順次、配置した構成としてもよい。
本発明では、上記した鋼管素材加工工程における鋼素材の加熱、および上記した熱間加工工程における鋼管素材の加熱、あるいは再加熱等、すべての工程における加熱を、鋼素材、鋼管素材の組成に応じて、次(3)式
T(K)=7650/{2.35−log10([C]×α[X])} ………(3)
(ここで、[C]:C含有量(mass%)、[X]:V、Ti、Nb、Zrのうち、含有量がもっとも多い元素Xの含有量(mass%)、α:係数、元素XがV、Tiの場合には2、元素XがNb、Zrの場合は1)
で定義される温度T(K)未満の温度で行う。
鋼管素材加工工程における加熱、熱間加工工程における加熱、あるいは再加熱等の加熱温度が、上記した(3)式で定義される温度T以上であれば、フェライト粒の急速な成長が生じ、その後に熱間加工を施しても、所望の組織微細化を達成できなくなる。そのため、本発明では、鋼管素材加工工程の加熱、熱間加工工程の加熱、あるいは再加熱等、すべての工程における加熱温度を、最も高い場合でも、温度T(K)未満の範囲に収まるように調整する。これにより、フェライト粒の成長が抑制でき、製品管における所望の高強度、高靭性を確保できるようになる。なお、保持時間は、とくに限定する必要はない。加熱温度における保持時間の影響は、加熱温度に比べて小さく、生産性等の観点からは、短時間とすることが望ましいが、被加熱材が所定温度に均一に加熱される時間以上に限定されることはいうまでもない。予め、その上限を実験等により定めておくことが好ましい。
鋼管素材加工工程における鋼素材の加熱に使用する加熱装置1は、鋼素材を上記した所定温度に加熱できる、常用の加熱炉であればよく、とくに限定する必要はないが、例えば、ウォーキングビーム式加熱炉が例示できる。なお、誘導加熱方式の加熱炉としてもよい。また、上記した熱間加工工程における鋼管素材の加熱に使用する鋼管素材加熱装置3は、鋼管素材を上記した所定温度に加熱できる、常用の加熱炉であればよく、とくに限定する必要はないが、例えば、回転炉床式加熱炉が例示できる。なお、誘導加熱方式の加熱炉としてもよい。
上記した加熱条件で加熱された鋼管素材は、熱間加工工程を施され、熱間加工後、空冷以上の冷却速度で、100℃以下の温度まで冷却され、継目無鋼管(熱処理素管)とされる。熱間加工工程は、所定の寸法形状の継目無鋼管とすることができればよく、とくに限定する必要はなく、所定の寸法形状を確保できるように、常用の熱間加工装置を使用して、常用の穿孔圧延、延伸圧延、縮径圧延、矯正圧延等の熱間加工を施す。これら熱間加工後は、空冷以上の冷却速度で、100℃以下、好ましくは室温まで冷却され、所定の寸法形状の継目無鋼管(熱処理素管)とする。空冷以上の冷却速度で100℃以下、好ましくは室温まで冷却されると、マルテンサイト相が主体の組織となり、所望の高強度を有する高強度継目無鋼管とすることができる。
得られた熱処理素管(継目無鋼管)には、ついで熱処理を行なう熱処理工程を施す。
熱処理工程における熱処理は、焼戻温度:700℃以下の温度に加熱した後、放冷する焼戻処理とする。
700℃以下、好ましくは400℃以上の焼戻温度に加熱し、焼戻することにより、組織が焼戻マルテンサイト相を主体とし、微細フェライト相およびオーステナイト相からなる組織を有する、所望の強度、および優れた低温靭性を有する高強度ステンレス継目無鋼管(製品管)とすることができる。
なお、熱処理素管には、上記した焼戻処理の前に、焼入れ処理を施し、しかる後、上記した焼戻処理を施す、熱処理を施してもよい。
焼入れ処理は、焼入れ温度:850℃以上、好ましくは1150℃以下の温度に再加熱したのち、空冷以上の冷却速度で100℃以下、好ましくは50℃以下まで冷却する処理とすることが好ましい。焼入れ温度が850℃未満では、焼入れが不十分となり、所望の高強度を確保できなくなる。このため、焼入れ温度は850℃以上の温度に設定することが好ましい。
なお、焼入れ処理においても、加熱温度は、上記した(3)式で定義される温度T(K)未満とする必要がある。これにより、加熱時のフェライト粒の成長が抑制され、所望の微細化された組織を確保でき、所望の低温靭性を有する製品管とすることができる。
これらの熱処理により、焼戻マルテンサイト相を主体とし、微細なフェライト相と、残留オーステナイト相からなる組織とすることができる。なお、ここでいう「主体」とは、体積率で50%以上を占有する場合をいうものとする。なお、残留オーステナイト相は、体積率で20%以下である。また、フェライト相は、体積率で10〜40%、好ましくは20〜35%である。フェライト相が10%未満では、所望の耐食性が得られない。一方40%を超えて含有すると、強度が低下する。
このような組織を有する鋼管は、降伏強さ:654MPa以上の高強度と、肉厚中心位置でのシャルピー衝撃試験の試験温度:−40℃での吸収エネルギーが50J以上となる、優れた低温靭性を有する継目無鋼管となる。
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
表1に示す組成の溶鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳片(スラブ:肉厚260mm)とした。
まず、得られた鋳片から、試験片(大きさ:20mm×20mm×10mm)を切り出し、該試験片を小型加熱炉に装入し、主として加熱温度(保持時間:30min)を種々変化させて加熱したのち、水中に浸漬し急冷する、加熱実験を行なった。得られた試験片から、組織観察用試験片を採取、研磨、腐食(腐食液:ビエラ液)して、光学顕微鏡(倍率:200倍)で組織を観察し、撮像した。得られた組織写真から、画像解析により、各試験片のフェライトの平均粒径を求めた。各鋼種について、加熱温度とフェライト平均粒径の関係を求め、当該鋼種における加熱処理後のフェライト粒が、急激に粗大化し、加熱処理前のフェライト粒の10倍になる温度(フェライト粒粗大化温度T)を決定し、表1に示す。表1から、鋼種、すなわち組成により、フェライト粒粗大化温度Tが異なることがわかる。
Figure 2016145372
得られた鋳片を鋼素材とし、図2に示す装置列を利用して、継目無鋼管とした。すなわち、鋼素材(鋳片)を、鋼素材加熱装置1に装入し、表2に示す条件(ビレット圧延:最高加熱温度、抽出温度)で加熱した後、熱間加工装置2で熱間加工(ビレット圧延)を施し、ビレット鋼片(鋼管素材:外径260mmφ)とし、常温まで放冷した。
ついで、これら鋼管素材を、鋼管素材加熱装置3に装入し、表2に示す条件(穿孔圧延:最高加熱温度、抽出温度)で加熱し、直に、熱間加工装置4(穿孔圧延装置(ビアサミル)41、定型圧延装置(サイジングミル)42)により、累積減面率60%の熱間圧延(熱間加工)を施したのち、空冷して継目無鋼管(外径268.3mmφ×肉厚32.7mm)とした。なお、加熱条件は、パターンa〜パターンeの5種類のパターンとした。
ついで、得られた継目無鋼管に、熱処理工程として、表3に示す条件で、焼戻処理、あるいは焼入れ処理および焼戻処理を施した。なお、焼入れ処理は、鋼管を焼入れ加熱炉に装入し表3に示す焼入れ加熱温度に加熱し、表3に示す時間保持したのち、水槽に浸漬する処理とした。また、焼戻処理は、表3に示す焼戻温度に加熱し、表3に示す時間保持したのち、空冷する処理とした。
得られた熱処理済み継目無鋼管から、試験片を採取し、組織観察、引張試験、衝撃試験、耐食性試験を実施した。試験方法はつぎの通りとした。
(1)組織観察
得られた継目無鋼管から、組織観察用試験片を採取し、管軸方向に直交する断面(C断面)が観察面となるように、研磨し、腐食(ビレラ液腐食)して、光学顕微鏡(倍率:100倍)または走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)を用いて、組織を観察し、撮像した。得られた組織写真を用い、画像解析して、組織の種類、およびその分率を求めた。なお、フェライト粒については、走査型電子顕微鏡を用い、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)法で測定し、隣接する粒の方位が15°以上異なる領域の面積を算出した。
なお、残留オーステナイト相分率は、X線回折法を用いて測定した。X線回折では、オーステナイトγの(220)面、αの(211)面、の回折X線積分強度を測定し、次式
γ(体積率)=100/{1+(IαRγ/IγRα)}
ここで、Iα:αの積分強度、Iγ:γの積分強度、Rα:αの結晶学的理論計算値、Rγ:γの結晶学的理論計算値を用いて、計算した。なお、マルテンサイト相の分率はこれらの相以外の残部として計算した。
(2)引張試験
得られた継目無鋼管の肉厚中心位置から、管軸方向が引張方向となるように、丸棒引張試験片(平行部6mmφ×GL20mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施した。なお、降伏強さは伸び:0.2%での強度とした。
(3)衝撃試験
得られた継目無鋼管の肉厚中心から、圧延方向と直交する方向(C方向)が試験片長手方向となるように、Vノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施した。試験温度は−40℃とし、吸収エネルギーを測定し、靭性を評価した。なお、試験片は各3本とし、それらの平均値を当該継目無鋼管の吸収エネルギー(J)とした。試験温度:−40℃での吸収エネルギーvE−40が50J以上である場合を、「低温靭性に優れる」として「○」と評価した。なお、平均の吸収エネルギー値が50J以上であっても、個別の値が50J未満のものがある場合には「△」として評価した。それ以外は「×」とした。
(4)耐食性試験
得られた継目無鋼管から、腐食試験片(大きさ:厚さ3mm×幅30mm×長さ40mm)を採取し、腐食試験を実施した。なお、本発明の範囲を外れる鋼管については、耐食性試験は実施しなかった。
腐食試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:20%NaCl水溶液(液温:230℃、100気圧のCOガス雰囲気)中に、腐食試験片を浸漬し、浸漬期間:7日として実施した。腐食試験後の試験片について、重量を測定し、腐食試験前後の重量減から計算した腐食速度を求めた。
得られた結果を表3に示す。
Figure 2016145372
Figure 2016145372
Figure 2016145372
Figure 2016145372
本発明例はいずれも、組織の微細化ができ、降伏強さ:654MPa以上の高強度であるにもかかわらず、試験温度:−40℃における吸収エネルギーが50J以上と靭性が顕著に向上し、また、耐食性にも優れている。一方、本発明範囲を外れる比較例は、組織が微細化できず、所望の高靭性を確保できていない。
1 鋼素材加熱装置
2 熱間加工装置
3 鋼管素材加熱装置
4 熱間加工装置
41 穿孔圧延装置
42 圧延装置
421 エロンゲータ
422 プラグミル
423 リーラ
424 サイジングミル
5 再加熱装置

Claims (3)

  1. 鋼素材に、加熱し熱間加工して丸形状の鋼管素材とする鋼管素材加工工程を施したのち、該鋼管素材に、加熱し、造管、成形し、空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度まで冷却する熱間加工工程を施して継目無鋼管とし、ついで、該継目無鋼管に、熱処理を行う熱処理工程を施す継目無鋼管の製造方法であって、
    前記鋼素材を、mass%で、
    C :0.005〜0.05%、 Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.2〜1.8%、 P :0.03%以下、
    S :0.005%以下、 Cr:15.5〜18%、
    Ni:1.5〜5%、 Cu:3.5%以下、
    Mo:1〜3.5%、 V :0.02〜0.2%
    Al:0.002〜0.05%、 N :0.01〜0.15%、
    O :0.006%以下
    を、下記(1)式および下記(2)式を満足するように含み、さらに、
    Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
    前記鋼管素材加工工程および前記熱間加工工程における加熱を、下記(3)式で定義される温度T(K)未満となる条件で行い、
    前記熱処理工程における熱処理を、焼戻温度:700℃以下の温度に加熱したのち、放冷する焼戻処理を施す処理とする
    ことを特徴とする降伏強さ:654MPa以上で低温靭性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。

    Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧19.5 ………(1)
    ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C:各元素の含有量 (mass%)
    Cr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5 ………(2)
    ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C、Si、Mn、N:各元素の含有量 (mass%)
    T(K)=7650/{2.35−log10([C]×α[X])} ………(3)
    ここで、[C]:C含有量(mass%)、[X]:V、Ti、Nb、Zrのうち、含有量がもっとも多い元素Xの含有量(mass%)、α:係数、元素XがV、Tiの場合には2、元素XがNb、Zrの場合は1。
  2. 前記熱処理工程における熱処理を、前記焼戻処理の前に、焼入れ温度:850℃以上の温度に再加熱したのち、空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度まで冷却する焼入れ処理を施し、しかる後に前記焼戻処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
  3. 前記組成に加えてさらに、mass%で、次A群〜B群
    A群:W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種
    B群:Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種
    のうちから選ばれた1群または2群を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
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