JP7372535B2 - 超音波処理装置及び超音波処理方法 - Google Patents

超音波処理装置及び超音波処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、超音波処理装置及び超音波処理方法に関する。
一般に、鋼板や鋼管といった各種の金属体の製造工程において、金属体の表面に存在する汚れやスケール等を除去するために、薬液(例えば、アルカリ脱脂剤、界面活性剤、硫酸溶液等)やリンス等が保持された洗浄槽に対して金属体を浸漬することで洗浄を行う洗浄処理方法が、広く採用されている。このような洗浄処理方法を実施する洗浄処理装置としては、例えば、高圧気流噴射ノズルを利用した処理装置や、超音波を利用した超音波処理装置がある。
ここで、鋼板や鋼管などのような大型材に対する、洗浄処理をはじめとする各種の表面処理に際して、超音波の伝導性及び均一性を向上させるために、特に管状部材に対して、以下の特許文献1のように管内に超音波マンドレルを挿入して管軸方向に移動させたり、以下の特許文献2のように管の外周に超音波振動体を装着したりすることが、行われている。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術は、1本の管状部材を処理する際には有効であるが、複数の処理対象物の全てに対して表面処理を施す場合には、処理時間が膨大なものとなってしまう。
一方、以下の特許文献3では、処理対象物が浸漬される処理槽に超音波を反射させる反射部材を設けて、処理対象物に対して超音波を伝播させる技術が開示されており、かかる技術では、複数の処理対象物をまとめて処理することも考慮されている。
特開昭62-269791号公報 実用新案登録第3209679号 国際公開第2018/169050号
表面処理の更なる効率化を図るために、複数の処理対象物をまとめて集合体とし、この集合体に対して処理を施す際、集合体の内部に位置する処理対象物への超音波の印加度合いは、集合体の外縁部に位置する処理対象物よりも低くなると考えられる。そのため、上記特許文献3に開示されている技術を用いたとしても、集合体の内部に位置する処理対象物と集合体の外縁部に位置する処理対象物とで、表面処理の処理度合いが相違してしまう可能性がある。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、複数の処理対象物をまとめて表面処理を施す際に、複数の処理対象物に対してより確実に超音波を伝播させて、表面処理のより一層の均一化を図ることが可能な、超音波処理装置及び超音波処理方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を行った結果、複数の処理対象物からなる集合体の内部に、超音波を発振する超音波発振体を設け、かつ、かかる超音波発振体といくつかの処理対象物とを、適度な間隙を保持しながら接触させることに着想した。本発明者らは、かかる着想に基づき更なる検討を行った結果、超音波発振体と処理対象物とを、適度な間隙を保持しながら接触させるための条件を見出すことができた。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)処理対象物に対して所定の表面処理を施す処理液を収容し、前記処理対象物が浸漬される処理槽と、前記処理液に浸漬される、複数の前記処理対象物からなる集合体の内部に設けられるものであり、前記処理液に対して超音波を印加する超音波発振体と、を備え、前記超音波発振体は、所定の軸方向に延伸する中空部材と、前記中空部材の中空部に保持された超音波印加機構と、を有しており、前記超音波印加機構から発振された超音波を前記中空部材の外部に透過させるものであり、前記超音波発振体は、少なくとも2つの前記処理対象物と接触しており、かつ、前記処理対象物の断面の大きさをa[mm]とし、前記中空部材の断面の大きさをD[mm]としたときに、断面の大きさの比(D/a)は、0.20≦D/a≦6.00を満足する、超音波処理装置。
(2)前記超音波印加機構における超音波の発振部と前記中空部材の内表面との間の離隔距離をLh[mm]とし、超音波の波長をλ[mm]としたときに、前記超音波印加機構は、Lh={(n-1)/2}×λ、(nは、2以上の整数)となるように保持される、(1)に記載の超音波処理装置。
(3)前記超音波印加機構は、前記軸方向に沿って複数設けられており、隣り合う前記超音波印加機構の間の離隔距離ΔL[m]は、0.5≦ΔL≦3.0を満足する、(1)又は(2)に記載の超音波処理装置。
(4)前記中空部材は、中空部に脱気された液体が封入された状態で、密閉されている、(1)~(3)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(5)前記液体は、溶存気体量が飽和溶存気体量の0.1~50%の範囲内となるまで脱気されている、(4)に記載の超音波処理装置。
(6)前記処理対象物は、所定の軸方向に沿って延伸する部材であり、前記処理対象物の長手方向の長さをLc[mm]とし、前記超音波発振体の長手方向の長さをLp[mm]としたときに、長さの比(Lp/Lc)は、0.5≦Lp/Lc≦1.5の関係を満足する、(1)~(5)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(7)前記中空部材の厚みt[mm]は、0.3≦t≦5.0の範囲内である、(1)~(6)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(8)前記中空部材は、固有音響インピーダンスが1×10[kg・m-2・sec-1]以上5×10[kg・m-2・sec-1]以下の範囲内である素材で形成されている、(1)~(7)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(9)前記中空部材の外表面には、フランジ部が設けられている、(1)~(8)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(10)前記フランジ部が設けられた部分の前記中空部材の断面の大きさをDf[mm]としたときに、断面の大きさの比(Df/D)は、1.1≦Df/D≦3.0の関係を満足する、(9)に記載の超音波処理装置。
(11)前記フランジ部は、横弾性係数G[GPa]が15≦G≦250の範囲内である素材を用いて形成される、(9)又は(10)に記載の超音波処理装置。
(12)前記フランジ部は、前記処理対象物の長手方向に沿って前記処理対象物の長さ5mの範囲内で、前記処理対象物と少なくとも1か所接触するように設けられる、(9)~(11)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(13)前記超音波印加機構は、棒状振動子を有する超音波発生装置である、(1)~(12)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(14)前記処理槽の壁面に対して、更に、前記処理液に対して超音波を印加する超音波印加機構が設けられる、(1)~(13)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(15)前記処理対象物は、表面に所定の皮膜が付着した、所定の軸方向に沿って延伸する部材である、(1)~(14)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(16)印加される超音波の周波数は、20~200kHzの範囲内である、(1)~(15)の何れか1つに記載の超音波処理装置。
(17)処理対象物に対して所定の表面処理を施す処理液の収容された処理槽を用いて、前記処理対象物に対して超音波を印加しながら表面処理を施す超音波処理方法であって、前記処理液に浸漬される、複数の前記処理対象物からなる集合体の内部に、所定の軸方向に沿って延伸する超音波発振体を、少なくとも2つの前記処理対象物に接触するように配置し、前記超音波発振体は、所定の軸方向に延伸する中空部材と、前記中空部材の中空部に保持された超音波印加機構と、を有しており、前記超音波印加機構から発振された超音波を前記中空部材の外部に透過させることで、前記処理液に対して超音波を印加し、前記超音波発振体は、前記処理対象物の断面の大きさをa[mm]とし、前記中空部材の断面の大きさをD[mm]としたときに、断面の大きさの比(D/a)は、0.2≦D/a≦6.0を満足する、超音波処理方法。
以上説明したように本発明によれば、複数の処理対象物をまとめて表面処理を施す際に、複数の処理対象物に対してより確実に超音波を伝播させて、表面処理のより一層の均一化を図ることが可能となる。
本発明の実施形態に係る超音波処理装置の全体構成の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る超音波処理装置の全体構成の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る超音波処理装置の全体構成の他の一例を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る超音波発振体について説明するための模式図である。 同実施形態に係る超音波発振体について説明するための模式図である。 同実施形態に係る超音波発振体について説明するための模式図である。 同実施形態に係る超音波発振体について説明するための模式図である。 同実施形態に係る超音波発振体について説明するための模式図である。 同実施形態に係る超音波発振体について説明するための模式図である。 同実施形態に係る超音波発振体について説明するための模式図である。 実験例1における超音波処理の実施状態を示した説明図である。 実験例1における超音波処理の実施状態を示した説明図である。 実験例2における超音波処理の実施状態を示した説明図である。 実験例2における超音波処理の実施状態を示した説明図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<超音波処理装置の全体構成>
まず、図1A、図1B及び図2を参照しながら、本発明の実施形態に係る超音波処理装置の全体的な構成について、簡単に説明する。図1A及び図1Bは、本実施形態に係る超音波処理装置の全体的な構成の一例を模式的に示した説明図であり、図2は、本実施形態に係る超音波処理装置の全体的な構成の他の一例を模式的に示した説明図である。なお、図中の各部材の大きさは、説明を容易とするため適宜強調されており、実際の寸法、部材間の比率を示すものではない。
本実施形態に係る超音波処理装置1は、処理対象物に対して所定の処理を施す処理液に加えて超音波を併用し、処理対象物の表面(処理液に接している部位)に対して所定の処理を施す装置である。かかる超音波処理装置1は、鋼材等に代表される各種の金属体や、プラスチック樹脂製部材等に代表される各種の非金属体等に対して、例えば洗浄等の各種の処理を施す際に利用することができる。例えば、鋼管、形鋼、棒鋼、鋼線材等といった、所定の軸方向に延伸する各種の金属体を処理対象物とし、本実施形態に係る超音波処理装置1を用いることで、これらの金属体に対して、酸洗処理や脱脂処理、更には洗浄処理を行うことができる。
ここで、酸洗処理とは、金属体の表面に熱処理や熱加工等により形成された酸化物スケールを除去する処理であり、脱脂処理とは、加工処理等に用いる潤滑剤や加工油等の油分を除去する処理である。これらの酸洗処理及び脱脂処理は、表面仕上げ処理(金属被覆処理、化成処理、塗装処理等)を金属体に対して施すに先だって実施される前処理である。かかる酸洗処理によって、地の金属の一部を溶解させることもある。また、表面仕上げ品質を向上させるためのエッチングによる金属体の溶解にも、かかる酸洗処理は用いられている。また、酸洗処理の前段に脱脂処理が設けられている場合もあり、脱脂処理における脱脂性能が、その後の酸洗処理のスケールの除去に影響を及ぼすこともある。更には、脱脂処理は、最終製品の仕上げ品質としての油分管理指標である濡れ性の改善にも、使用される。
更に、以下で詳述する本実施形態に係る超音波処理装置1は、上記のような製造ラインにおける洗浄工程以外にも、使用済み配管や定期的もしくは不定期に汚れ除去を必要とする配管などの洗浄等に対しても用いることが可能である。
このように、本実施形態に係る超音波処理装置1は、所定の軸方向に沿って延伸する長尺体のような処理対象物の各種表面処理に適用可能であり、表面処理皮膜(例えば、各種の酸化皮膜やめっき皮膜、表面処理仕上げ処理後の塗膜等)が表面に生成した長尺体を処理対象物とすることも可能である。更に、本実施形態に係る超音波処理装置1は、上記のような意図的に形成した各種の皮膜以外にも、例えば、酸化物スケールや油分等の意図しない表面付着物が膜状に付着した長尺体を処理対象物とすることも可能である。
以下では、処理液の保持されている処理槽が存在し、かかる処理槽の内部に、複数の長尺体が集合体となって浸漬される場合を例に挙げて、詳細に説明を行うものとする。この場合、複数の長尺体の集合体は、クレーン等の上下動が可能な駆動機構(図示せず。)によって、処理液の保持された処理槽の内部に浸漬される。また、複数の長尺体の集合体は、未図示のワイヤーやネット等によって束状に纏められた状態で、処理槽に浸漬されてもよい。
以下では、便宜的に、図1A及び図1Bに示した座標系を適宜利用して、説明を行うものとする。
本実施形態に係る超音波処理装置1は、図1A及び図1Bに例示したように、処理対象物Sの一例である複数の長尺体の集合体が収容される処理槽10と、複数の処理対象物Sの集合体の内部に、少なくとも2つの処理対象物Sと接触するように設けられる、超音波発振体20と、を有している。ここで、各処理対象物Sは、図1Aに模式的に示したように、y軸方向に沿って延伸している鋼板等の管状体であるとする。接触している処理対象物の数が1つである場合には、複数の処理対象物Sに対してより確実に超音波を伝播させることが困難となる。接触している処理対象物の数は、多ければ多いほどよく、その上限値は特に規定するものではない。
ここで、超音波発振体20は、少なくとも2つの処理対象物Sと接触するような状態となっていれば、処理対象物Sの集合体の内部に包含されていなくともよく、超音波発振体20の一部が、処理対象物Sの集合体から露出していてもよい。
なお、複数の処理対象物Sではなく、ただ一つの処理対象物Sが浸漬されている場合、この処理対象物Sに超音波発振体20が接触すれば、処理対象物Sに対して、近くで超音波を伝播させることが可能である。ただし、一つの処理対象物Sが全面露出していることから、複数の処理対象物Sの集合体が存在する場合よりも超音波は伝播しやすく、本発明による効果は小さい。
また、図1Bでは、超音波発振体20が1つだけ設けられている場合を図示しているが、用いられる超音波発振体20の個数についても特に限定されるものではない。超音波発振体20は、処理対象物の数に応じて適宜設定すればよく、2つ以上の超音波発振体20を用いてもよい。
また、本実施形態に係る超音波処理装置1は、図2に例示したように、上記処理槽10及び超音波発振体20に加えて、更に、処理槽10の壁面に超音波印加機構30が設けられていてもよい。
ここで、図2では、処理槽10の内壁面に対して、y軸方向に略平行な内壁面については各面6個の超音波印加機構30が設けられ、x軸方向に略平行な内壁面については各面2個の超音波印加機構30が設けられている。ただし、かかる超音波印加機構30の個数及び設置状態については、図2に示した例に限定されるものではなく、処理槽10の形状や大きさ等に応じて、適宜設定すればよい。
以下に、本実施形態に係る超音波処理装置1における各構成について、詳細に説明する。
<処理槽10>
処理槽10には、処理対象物に対して所定の処理を施すために用いられる処理液3や、処理対象物そのものや、反射振動体30が収容される。これにより、処理槽10内に収容された処理対象物は、処理液3で満たされた状態で存在するようになる。処理槽10に保持される処理液3の種類については、特に限定されるものではなく、処理対象物に対して行う処理に応じて、各種の処理液を用いることが可能である。このような処理液3として、純水、各種の化合物を含む水溶液、各種の有機溶媒等を挙げることができ、これらの処理液には、処理対象物から除去された各種物質や不純物が種々の形態で存在していてもよい。また、処理液3は、超音波の伝播効率を高めるために、脱気されていてもよい。また、処理液3には、気泡径が100μm以下の微細気泡であるファインバブルが存在していてもよい。処理液3中にファインバブルが存在することで、超音波の衝撃波の増大と共に処理効率を更に向上させることが可能となる。また、処理液3の温度は、処理液3を用いて実施する具体的な処理内容にもよるが、例えば、20℃~85℃程度であることが好ましい。
ここで、本実施形態に係る処理槽10を形成するために用いられる素材は、特に限定されるものではなく、鉄、鋼、ステンレス鋼板等といった各種の金属材料であってもよいし、繊維強化プラスチック(FRP)やポリプロピレン(PP)等といった各種のプラスチック樹脂であってもよいし、耐酸レンガ等のような各種のレンガであってもよい。すなわち、本実施形態に係る超音波処理装置1を構成する処理槽10として、上記のような素材で形成された処理槽を新たに準備することも可能であるし、各種の製造ライン等における既設の処理槽を利用することも可能である。
また、処理槽10の大きさについても特に限定されるものではなく、液面深さ1~2m程度×全長3~25m程度のような各種形状の大型処理槽であったとしても、本実施形態に係る超音波処理装置1の処理槽10として利用可能である。
<超音波発振体20>
本実施形態に係る超音波発振体20は、例えば図1Bに示したように、処理液3中に浸漬される複数の処理対象物の集合体の内部に設けられており、処理液3に対して超音波を印加する。ここで、処理対象物の集合体の内部とは、超音波発振体20の全てが処理対象物の集合体に囲まれている状態のみを意味するのではなく、超音波発振体20の少なくとも一部が、少なくとも2つの処理対象物と接触した状態で、処理対象物に囲まれている状態をも含むものとする。すなわち、超音波発振体20は、その少なくとも一部が、複数の処理対象物の集合体の内部に埋没していればよい。
かかる超音波発振体20は、所定の軸方向に沿って延伸した部材であり、図1Bに示した例では、超音波発振体20はy軸方向に沿って延伸している。
超音波発振体20から出力される超音波の周波数は、例えば、20kHz~200kHzであることが好ましい。超音波の周波数が20kHz未満である場合には、処理対象物の表面から発生するサイズの大きな気泡により超音波伝播が阻害され、超音波による処理性向上効果が低下する場合がある。また、超音波の周波数が200kHzを超える場合には、処理対象物を処理する際の超音波の直進性が強くなりすぎて、処理の均一性が低下する場合がある。超音波発振体20から出力される超音波の周波数は、より好ましくは20kHz~150kHzであり、更に好ましくは、25kHz~100kHzである。
なお、印加する超音波の周波数は、処理対象物の種別等に応じて上記範囲内で適切な値を選定することが好ましく、処理対象物の種類によっては、2種類以上の周波数の超音波を印加してもよい。
以下、図3~図9を参照しながら、本実施形態に係る超音波発振体20について、より詳細に説明する。
図3に例示したように、本実施形態に係る超音波発振体20は、所定の軸方向に延伸する中空部材201と、中空部材201の中空部に保持された超音波印加機構203と、を有しており、超音波印加機構203から発振された超音波を中空部材201の外部に透過させる。なお、図3では、超音波発振体20が備える中空部材201が、断面円形状の中空管状体である場合を例に挙げて、図示を行っている。
[中空部材201]
中空部材201は、所定の軸方向(図3に示した例ではy軸方向)に延伸している部材である。かかる中空部材201の断面形状(より詳細には、中空部材201の長軸方向に対して直交する断面の形状)は、図3及び図4左上に例示したような円形状であってもよいし、図4右上に例示したような楕円形状であってもよいし、図4左下に例示したような多角形状であってもよい。ただし、円形状に近ければ近いほど、超音波の進行方向に異方性が生じなくなり、また、処理対象物Sに対してより接触しやすい状態となるため、中空部材201の断面形状は円形状であることが好ましい。
図4に模式的に示したように、かかる中空部材201の厚みをt[mm]と表すものとする。この場合に、中空部材201の厚みtは、0.3mm以上5.0mm以下であることが好ましい。中空部材201の厚みtが0.3mm以上5.0mm以下となることで、超音波印加機構203から発振された超音波を、中空部材201の外部へとより確実に透過させることが可能となる。かかる中空部201の厚みは、より好ましくは、0.3mm以上3.0mm以下である。
本実施形態に係る中空部材201の外壁からは、図5に模式的に示したように、縦波である超音波が透過している。そのため、本実施形態に係る超音波発振体20を用いることで、複数の処理対象物の集合体の内部に位置するより多くの処理対象物に対して、超音波を印加することが可能となる。その結果、本実施形態に係る超音波処理装置1では、複数の処理対象物に対してより確実に超音波を伝播させて、表面処理のより一層の均一化を図ることが可能となる。
また、中空部材201の内部において発振された縦波である超音波が中空部材201に到達すると、中空部材201は、図5に模式的に示したように、横波を発生させる。先だって例示したように、本実施形態に係る超音波処理装置1において印加される超音波の周波数は、例えばkHz帯に属するものであるが、中九部材201により発生する横波の周波数は、超音波の周波数よりも低く、例えば数十~数百Hz程度である。発生した横波は中空部材201中を伝播していくが、横波は、処理対象物の接触部位を介して、処理対象物に対しても伝播する。更に、処理対象物中を伝播している横波は、他の処理対象物との接触部位を介して、他の処理対象物へと伝播していく。このような横波の伝播により、本実施形態に係る超音波処理装置1では、超音波キャビテーション以外にも処理対象物を振動させることが可能となる。その結果、本実施形態に係る超音波処理装置1では、処理対象物に対し、各種の表面処理をより確実に施すことが可能となる。
図5に示したような、中空部材201の外部へと透過した超音波は、媒質である処理液3を介して伝播していく。そのため、超音波を周囲の処理対象物Sへと確実に到達させるために、超音波発振体20の周囲には、間隙が存在していることが重要である。一方、図5に示したような横波を処理対象物Sへと伝播させるためには、超音波発振体20の少なくとも一部と処理対象物Sの少なくとも一部とが、互いに接触した状態にあることが重要である。このような、処理対象物Sとの間で間隙を生じさせつつ、接触状態も実現するための条件について、本発明者らが鋭意検討したところ、処理対象物Sの断面の大きさを基準とした、中空部材201の断面の大きさが満足すべき条件を見出すことができた。以下、かかる条件について説明する。
図4に示したような、中空部材201の断面形状(より詳細には、長軸方向に対して直交する断面の形状)に着目する。ここで、断面形状が図4左上のように円形状である場合には直径の大きさを、断面形状が図4右上のように楕円形状である場合には長径の大きさを、断面形状が図4左下のように多角形状である場合には最も長い対角線の大きさを、中空部材201の断面の大きさD[mm]とする。また、処理対象物Sについても、中空部材201と同様にして、断面の大きさをa[mm]とする。
この際、本実施形態に係る超音波処理装置1では、中空部材201の断面の大きさの比(D/a)は、0.20≦D/a≦6.00の関係を満足する。断面の大きさの比(D/a)が上記の範囲内となることで、中空部材201は、処理対象物Sとの間で間隙を生じさせつつ、接触状態も実現することが可能となる。
中空部材201の断面の大きさの比(D/a)が0.20未満である場合には、中空部材201と処理対象物Sとの間の間隙が狭くなりすぎ、処理液3を介して超音波の縦波を伝播させることができず、処理対象物Sに超音波を印加することができない。中空部材201の断面の大きさの比(D/a)は、好ましくは0.50以上であり、より好ましくは1.00以上である。中空部材201の断面の大きさの比(D/a)が上記のような好ましい範囲となることで、より確実に、中空部材201と処理対象物Sとの間で間隙を生じさせつつ、接触状態も実現することが可能となる。
一方、中空部材201の断面の大きさの比(D/a)が6.00を超える場合には、中空部材201が相対的に大きくなりすぎて、処理対象物Sを複数処理するだけのスペースを確保できない場合や、処理対象物Sとの接触状態を保持できたとしても、超音波発振体20が大きいがゆえに超音波発振源からの距離が生じてしまい、超音波の伝播が低下したり、透過後の超音波の反射効率が低下したりする場合が生じる。中空部材201の断面の大きさの比(D/a)は、好ましくは5.00以下であり、より好ましくは4.50以下である。中空部材201の断面の大きさの比(D/a)が上記のような好ましい範囲となることで、より確実に、中空部材201と処理対象物Sとの間で間隙を生じさせつつ、接触状態も実現することが可能となる。
かかる中空部材201は、音響インピーダンス(固有音響インピーダンス)が、1×10以上5×10以下である素材により形成されることが好ましい。このような音響インピーダンスを有する素材を用いることで、超音波印加機構203から発振された超音波を、より確実に中空部材201の外部へと透過させることが可能となる。
音響インピーダンスが上記の範囲内である素材としては、例えば、各種の金属又は金属酸化物や、非酸化物セラミックスを含む各種のセラミックス等を挙げることができる。このような素材の具体例としては、例えば、鋼(固有音響インピーダンス[kg・m-2・sec-1]:4.70×10、以下、カッコ内の数値は同様に固有音響インピーダンスの値を表す。)、鉄(3.97×10)、ステンレス鋼(SUS、3.97×10)、チタン(2.73×10)、亜鉛(3.00×10)、アルミニウム(1.38×10)、タングステン(1.03×10)、ガラス(1.32×10)、石英ガラス(1.27×10)、グラスライニング(1.67×10)、アルミナ(酸化アルミニウム、3.84×10)、ジルコニア(酸化ジルコニウム、3.91×10)、窒化ケイ素(SiN、3.15×10)、炭化ケイ素(SiC、3.92×10)等がある。本実施形態に係る超音波発振体20においては、処理槽10に保持される処理液3の液性や、超音波発振体20に求める強度等に応じて、中空部材201の形成に用いる素材を適宜選択すればよいが、上記のような音響インピーダンスを有する各種金属又は金属酸化物を用いることが好ましい。
[超音波印加機構203]
再び図3に戻って、本実施形態に係る超音波発振体20が有する超音波印加機構203について、詳細に説明する。
本実施形態に係る超音波印加機構203は、中空部材201の中空部に、1個又は複数個保持されるものであり、図3に模式的に示したように、中空部材201の中心軸(図3におけるy軸方向の中心軸)と同軸となるように設けられる。ここで、超音波印加機構203は、未図示の保持部材によって、超音波印加機構203の振動しない部分が保持されており、中空部材201に対して固定されている。超音波印加機構203の発振部(振動子部分。図示せず。)が所定の周波数で振動することで、超音波印加機構203から所定周波数の超音波が発振される。
かかる超音波印加機構203は、中空部材201の内表面へと(換言すれば、図3におけるx方向に)超音波を発振可能なものであれば特に限定されるものではなく、未図示の超音波発振器に接続された超音波振動子など、公知の各種のものを利用することが可能である。このような超音波印加機構203として、例えば、超音波発振器に接続された棒状振動子を有する超音波発生装置等を挙げることができる。更には、超音波印加機構203が有する振動子は、棒状先端からの発振ではなく、外周部に向かって発振可能な振動子となっていることが好ましい。
ここで、図3に模式的に示したように、超音波印加機構203における超音波の発振部と中空部材201の内表面との間の離隔距離をLh[mm]と表すこととし、超音波の波長をλ[mm]と表すこととする。このときに、本実施形態に係る超音波印加機構203は、Lh={(n-1)/2}×λ、(nは、2以上の整数)となるように保持されることが好ましい。図3に示したような離隔距離Lhが超音波の波長λの半整数倍となることで、超音波印加機構203から発振された超音波が中空部材201の中空部内でより確実に増幅され、より強度の強い超音波を、中空部材201の外部へと透過させることが可能となる。
また、図3に示したように、中空部材201の中空部に、中空部材201の軸方向(図3におけるy軸方向)に沿って2つの超音波印加機構203が設けられる場合に、隣り合う超音波印加機構203の間の離隔距離ΔL[m]は、0.5≦ΔL≦3.0の関係を満足することが好ましい。離隔距離ΔL[m]が上記のような関係を満足することで、それぞれの超音波印加機構203からの超音波が互いに干渉して超音波の伝播状態が低下することを、より確実に防止することが可能となる。なお、このような隣り合う超音波印加機構203における離隔距離ΔLの関係は、中空部材201の中空部に3個以上の超音波印加機構203が設けられる場合においても、同様に成立することが好ましい。
なお、用いる超音波振動子の種別によっては、中空部材201の軸方向(図3におけるy軸方向)にも超音波が発振されることが考えられる。また、中空部材201の中空部に対し、上記のように複数の超音波印加機構203が設けられることもある。このような場合に、中空部材201の軸方向(図3におけるy軸方向)において超音波が互いに干渉して超音波の伝播状態が低下しないようにするために、図3に模式的に示したように、仕切部材205を設けて、仕切部材205まで到達した超音波を反射させたり拡散させたりすることが好ましい。
また、中空部材201において、超音波印加機構203が位置していないy軸方向の位置に対しても、より確実に超音波を伝播させるために、中空部材201は、図6に模式的に示したように、脱気された液体207が封入された状態で密閉されていることが好ましい。この場合、中空部材201の端部は、封止部材209によって封止されることとなる。中空部材201の中空部に脱気された液体207を封入することで、液体207が超音波の伝導体となって、超音波印加機構203が位置していないy軸方向の位置に対しても、より確実に超音波を伝播させることが可能となる。
なお、超音波印加機構203には、中空部材201の外部から未図示のケーブルが接続されることがある。この場合には、ケーブルを中空部の内部へと通過させるための開口部(図示せず)を封止部材209に設け、かかる開口部から液体207が漏れ出さないように、開口部をシールしておくことが好ましい。また、処理液3の液性等によっては、かかるケーブルの表面に対して、耐処理液用の保護処理を施すことが好ましい。これにより、超音波発振機構203をより長期間使用することが可能となる。
ここで、中空部に封入される液体207としては、各種の液体を用いることが可能であるが、上水や純水などの各種の水を用いることが簡便である。ただし、液体207は不純物を含まないことが好ましいため、液体207として水を用いる場合には、超純水を用いることが好ましい。また、中空部に封入される液体207の液温については、特に限定するものではないが、例えば、20~80℃程度とすることが好ましい。
また、中空部に封入される液体207は、かかる液体207の溶存気体量が飽和溶存気体量の0.1~50%の範囲内となるまで、脱気されていることが好ましい。飽和溶存気体量の0.1~50%の範囲内となるまで液体207の溶存気体量が脱気されることで、超音波の減衰及び伝播性の低下を抑制しながら、より効率良く超音波を伝播させることが可能となる。ここで、液体207の溶存気体量が飽和溶存気体量の50%を超える場合には、超音波発振によるキャビテーションによって脱気された気体(例えば空気)が、密閉空間内において空気溜まりを作ってしまい、超音波の減衰が生じる可能性がある。また、空気溜まりが中空部内で偏在した場合には、かかる偏在領域では超音波は伝播せず、表面処理に処理ムラが生じてしまう可能性がある。液体207の溶存気体量は、飽和溶存気体量の30%以下であることがより好ましく、飽和溶存気体量の10%以下であることが更に好ましい。一方、液体207の溶存気体量を飽和溶存気体量の0.1%未満とすることは可能であるが、不要なコストの増加が伴うため、好ましくない。
なお、液体207の溶存気体量は、加熱沸騰脱気、超音波脱気、真空減圧脱気、遠心脱気、中空糸膜脱気モジュールを用いた脱気など、各種の脱気方法を実施することで、所望の範囲内とすることが可能である。また、液体207中の溶存気体量は、隔膜電極法及び光学式溶存酸素計といった、公知の機器によって測定することが可能である。
以上説明したような中空部材201及び超音波印加機構203を主に備える超音波発振体20について、処理対象物Sの長手方向の長さ(例えば、図7に示したy軸方向の長さ)をLc[mm]と表すこととし、超音波発振体20の長手方向の長さ(例えば、図7に示したy軸方向の長さ)をLp[mm]と表すこととする。このとき、処理対象物Sが長手方向に複数並んだ場合は、その複数の処理対象物Sの総長さを、Lc[mm]とする。この際に、本実施形態に係る超音波発振体20において、長さの比(Lp/Lc)は、0.5≦Lp/Lc≦1.5の関係を満足することが好ましい。長さの比(Lp/Lc)が上記の範囲内となることで、超音波が処理対象物S以外の処理槽10や各種固定治具等に損傷を与える可能性をより確実に抑制することが可能となる。また、処理槽10の壁面に更に超音波印加機構30が設けられる場合であっても、処理対象物Sが存在しない領域での超音波の干渉をより確実に抑制することが可能となる。超音波発振体20と処理対象物Sとの長手方向の長さの比(Lp/Lc)は、より好ましくは、0.6以上1.0以下である。
なお、図7では、本実施形態に係る超音波発振体20が、継ぎ目の存在しない1本の部材であるように図示しているが、本実施形態に係る超音波発振体20は、複数の部材が連結された連結構造を有しているものであってもよい。複数の部材を連結させて一体化させる方法については、特に限定されるものではなく、溶接等によって複数の部材を連結させてもよいし、ナット及びボルト等といった各種の連結部材を利用して複数の部材を連結させてもよい。
[フランジ部213]
本実施形態に係る超音波発振体20は、図8に模式的に示したように、外表面にフランジ部213が設けられることが好ましい。このようなフランジ部213を設けることで、超音波によって中空部材201で発生した横波を、より効率よく処理対象物Sに伝播させることが可能となる。
かかるフランジ部213は、中空部材201と一体化されていることが好ましい。フランジ部213を中空部材201に一体化させる手段については、特に限定されるものではない。例えば、溶接によりフランジ部213を中空部材201と一体化させてもよいし、ボルト及びナット等といった各種の連結部材によりフランジ部213を中空部材201と一体化させてもよい。また、張り出し成形により中空部材201からフランジ部213を突出形成してもよいし、中空部材201に対して削り出し成形を施すことで、フランジ部213を形成してもよい。
ここで、図9に模式的に示したように、フランジ部213が設けられた部分の中空部材201の断面(y軸方向に対して直交する断面)の大きさをDf[mm]と表すこととし、フランジ部213が設けられていない部分の中空部材201の断面の大きさをD[mm]と表すこととする。この場合に、断面の大きさの比(Df/D)は、1.1≦Df/D≦3.0の関係を満足することが好ましい。断面の大きさの比(Df/D)が上記の関係を満足することで、中空部材201で発生した横波を、強度の減衰を抑制しながら処理対象物Sへと伝播させることが可能となる。断面の大きさの比(Df/D)は、より好ましくは、1.2以上2.0以下である。
また、フランジ部213の厚み(図8に示したy軸方向のフランジ部33の厚みt1)は、中空部材201の厚みt[mm]と同じか、又は、中空部材201の厚みtよりも大きいことが好ましい。これにより、中空部材201で発生した横波を、強度の減衰を抑制しながら処理対象物Sへとより確実に伝播させることが可能となる。フランジ部213の厚みt1は、中空部材201の厚みtに対して、より好ましくは2倍以上10倍以下である。
図8では、中空部材201に対して3つのフランジ部213が設けられる場合について図示しているが、1つの中空部材201に設けられるフランジ部213の個数は、特に限定されるものではなく、1つ又は2つでもよいし、4つ以上であってもよい。また、隣り合うフランジ部213間の離隔距離(図8における離隔距離p)についても、特に限定されるものではなく、中空部材201のy軸方向の長さに応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1m~5.0m程度とすることが好ましい。
かかるフランジ部213は、横弾性係数G[GPa]が15≦G≦250の範囲内である素材を用いて形成されることが好ましい。横弾性係数(せん断弾性係数ともいう。)Gは、変形のしにくさを表す指標として捉えることができる。超音波により中空部材201で発生する横波の伝播状態は、横弾性係数に依存し、変形しやすい素材であるほど横波は減衰してしまう。横波は、超音波(疎密波)の進行方向に対して直交する方向に伝播することで、上下の変位を生じさせ、中空部材201の固体中を横波の振動が伝播していく。このような横波をより確実に伝播させるためには、フランジ部213を形成する素材の横弾性係数Gは、大きい値であることが好ましい。一方で、横弾性係数が大きくなりすぎると超音波発振体20との音響インピーダンス差が大きくなる場合があり、異質材界面で反射してしまう可能性が高まるため、好ましくない。このような観点から、フランジ部213を形成する素材の横弾性係数G[GPa]は、15≦G≦250の範囲内であることが好ましい。フランジ部213を形成する素材の横弾性係数G[GPa]は、より好ましくは25以上100以下である。
上記のような横弾性係数Gを有する素材としては、例えば、鋼(80GPa)、ステンレス鋼(74GPa)、チタン合金(41GPa)、石英(31GPa)、マグネシウム合金(17GPa)等を挙げることができる。
また、フランジ部213と中空部材201の本体部との固有音響インピーダンス差が大きくなりすぎると、異材質界面で反射が発生する可能性が高くなる。かかる観点から、フランジ部213は、中空部材201と同質の素材で形成されることが好ましく、張り出し加工又は削り出し加工により中空部材201と一体成形されることがより好ましい。
以上説明したような超音波発振体20のフランジ部213は、処理対象物Sの長手方向に沿って処理対象物Sの長さ5mの範囲内で、処理対象物Sと少なくとも1か所接触するように設けられることが好ましい。上記のような位置関係が満たされるように超音波発振体20を設けることで、複数の処理対象物Sからなる集合体に対して表面処理を施す際に、複数の処理対象物に対してより一層確実に超音波を伝播させることが可能となる。フランジ部213は、処理対象物Sの長さ5mの範囲内で処理対象物Sと5か所以上接触するように設けられることが、より好ましい。また、接触箇所を多く設ける場合、接触間隔が0.1m以上空いていることが、より好ましい。フランジ部213の接触間隔が0.1mよりも小さくなると、反射した超音波が閉鎖空間のみで多重反射を繰り返してしまい、フランジ部213での減衰を招いてしまう場合がある。
以上、本実施形態に係る超音波発振体20について、詳細に説明した。
<超音波印加機構30>
再び図2に戻って、本実施形態に係る超音波処理装置1が有していてもよい超音波印加機構30について、簡単に説明する。
超音波印加機構30は、処理槽10に収容されている処理液3や処理対象物に対して、所定周波数の超音波を印加するものである。超音波印加機構30は、特に限定されるものではなく、未図示の超音波発振器に接続された超音波振動子など、公知の各種のものを利用することが可能である。また、図2では、超音波印加機構30を処理槽10の壁面に設ける場合について図示しているが、超音波印加機構30の処理槽10への設置位置についても特に限定されるものではなく、処理槽10の壁面や底面に対して、1又は複数の超音波振動子を適宜設置すればよい。なお、処理槽10全体に均一に超音波が伝播されるような条件となれば、個々の超音波振動子の発振負荷のバランスが一様となるため、超音波振動子の個数が複数であったとしても、発生した超音波間で干渉が生じなくなる。
超音波印加機構30から出力される超音波の周波数は、例えば、20kHz~200kHzであることが好ましい。超音波の周波数が20kHz未満である場合には、処理対象物の表面から発生するサイズの大きな気泡により超音波伝播が阻害され、超音波による処理性向上効果が低下する場合がある。また、超音波の周波数が200kHzを超える場合には、処理対象物を処理する際の超音波の直進性が強くなりすぎて、処理の均一性が低下する場合がある。超音波印加機構30から出力される超音波の周波数は、より好ましくは20kHz~150kHzであり、更に好ましくは、25kHz~100kHzである。
なお、印加する超音波の周波数は、処理対象物の種別等に応じて上記範囲内で適切な値を選定することが好ましく、処理対象物の種類によっては、2種類以上の周波数の超音波を印加してもよい。
以上、本実施形態に係る超音波処理装置1について、詳細に説明した。
以下に、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る超音波処理装置及び超音波処理方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る超音波処理装置及び超音波処理方法の一例にすぎず、本発明に係る超音波処理装置及び超音波処理方法が下記に示す例に限定されるものではない。
(実験例1)
図10A及び図10Bは、鋼管の水洗(リンス)を模した、実験例1における超音波処理の実施状態を示した説明図である。処理液3として機能するリンス溶液としては、上水を用いた。処理槽10は、外壁がSUS製で、幅2.0×長さ2.0m×0.5mの水深0.4mとした容量1.6mのものを用い、複数の処理対象物Sの一例である4本の処理鋼管は、処理槽10に固定されているワイヤーの上に保持された状態とした。超音波印加機構203の超音波発振器は、出力が1200Wであり、超音波の周波数は、40kHzであり、超音波発振体20の中にチタン合金製棒状振動子2台を両端で固定して、超音波を印加した。
処理鋼管と共に接触するように設置する超音波発振体20は、大きさ、厚み、形状、材質(音響インピーダンス、横弾性係数)、密閉構造、脱気条件、接触条件を変化させて比較を行った。ここで、超音波発振体20と処理鋼管の長さは、それぞれ1.5mとし(Lp/Lc=1.0)、超音波印加機構203の間の離隔距離ΔLは、0.8mとした。なお、フランジ部213の素材として、ステンレス鋼(G:74GPa)及び石英(G:31GPa)に加えて、炭化タングステン(G:219GPa)と、ポリスチレン(G:1.4GPa)を用いた。
脱気制御は、三浦工業製膜式脱気装置PDO4000Pを用い、試験時に溶存気体量を制御した。LAQUA OM-51を用い、溶存気体量に比例する値として溶存酸素量を測定し、溶存飽和量に対する溶存気体量(%)を見積もった。調整していない上水は、100%飽和状態であることを確認した。密閉方法としては、超音波発振体20両端に内ネジを設け、振動子ケーブルをキャップ中央から取出し、キャップをねじ込んだ後ケーブル部をシールして密閉することとした。
本実験例では、超音波レベルモニター(カイジョー製19001D)を用いて、処理槽に保持した処理鋼管の1点(図10Aに示した側面図における位置A)と、振動子から離れた処理槽内の1点(図10Bにおける位置B)の超音波強度(mV)の測定を行い、相対超音波強度(比較例1の測定結果、すなわち、超音波発振体20を設置せず、ホーン型振動子を側面に設置した場合における測定超音波強度を1としたときの相対強度)を算出して、処理鋼管及び槽内への伝搬性を比較した。
また、3軸加速度センサー(ローツェ製デバッグスコープ)を用いて、超音波発振体20と、その超音波発振体203に接触した処理鋼管それぞれの加速度測定を行った。3軸加速度センサーは液に触れないように、測定対象物を液面から少し出すことで測定することとした。以下の表1において、「測定A」が超音波発振体203の測定結果であり、「測定B」が超音波発振体203に接触した処理鋼管の測定結果である。
得られた結果を、以下の表1にまとめて示した。
Figure 0007372535000001
まず、比較例をみると、超音波発振体20の断面積が処理鋼管に対して0.2よりも小さい比較例2と、6.0を超える比較例3では、本発明に係る超音波発振体20を設置しなかった比較例1と、処理鋼管内及び処理槽10内の相対超音波強度はほぼ変わらず、変化は見られなかった。比較例2では、超音波発振体20が小さく、超音波を伝播させる役割を果たせていないものと考えられる。また、比較例3では、超音波発振体20が大きく、処理鋼管に到達する超音波が小さいか、又は、透過した超音波の反射効率が低下しているものと考えられる。加速度において、比較例3では大面積で超音波を受けるため超音波発振体20に振動が伝播したものの、伝播した振動はわずかであった。
一方、本発明に係る超音波発振体20を設けた実施例1~29の相対超音波強度は、1.5倍以上と高くなり、加速度も大きくなった。特に、密閉構造で脱気制御にした実施例8~10では、相対超音波強度が3倍以上と高くなった。そして、固有音響インピーダンスが1×10[kg・m-2・sec-1]に満たない、又は、5×10[kg・m-2・sec-1]を超える素材からなる実施例11,13よりも、固有音響インピーダンスが10[kg・m-2・sec-1]以上5×10[kg・m-2・sec-1]以下の素材からなる実施例4,12が、相対超音波強度も高く観測された。
また、超音波発振体20の厚みtが0.3mm以上5.0mm以下の実施例15~16が、相対超音波強度が高くなった。これら超音波強度が高くなることで、振動加速度も大きくなった。
ここで、フランジ部213を設けた実施例18~25では、超音波強度比も高くなるが、振動加速度が比較例と比べて6倍以上と大きくなった。特に、フランジ部213の断面比が1.1≦Df/D≦3.0である実施例19~20と、横弾性係数Gが30以上となる実施例22~23は、振動加速度が7倍以上と高かった。接触距離はより短い方が、また接触数もより多い方が、振動加速度が高くなった。
(実験例2)
図11A及び図11Bは、鋼管の水洗(リンス)を模した、実験例2における超音波処理の実施状態を示した説明図である。処理槽10は、外壁がSUS製で、幅1.0×長さ15.0×0.6mの容量9mのものを用いた。この処理槽10を利用して、酸洗後の管内外に残存している酸化スケールの付着した処理鋼管Sを所定時間浸漬する水洗で、検証を行った。処理液3として機能する洗浄液としては、温度20℃の上水を用い、酸洗液が持ち込まれるため酸性条件pH4~7での洗浄液を用いた。
超音波印加機構203の超音波発振器は、出力が1200Wであり、超音波発振体20の長さ方向1mの中にチタン合金製棒状振動子1台を片端に固定したものを、複数連結させて印加した。また、超音波発振体20とは別に、SUS製投込み振動子を槽壁面に複数台配置する場合も検討した。これら超音波出力が同じになるように台数を揃えた。超音波の周波数は、25~192kHzの単一発振振動子を用いた。処理槽10の壁面には、処理鋼管Sが傷つかないように緩衝部材(図示せず。)が保持されている。
処理鋼管Sと共に接触するように設置する超音波発振体20は、大きさ、形状、長さ、密閉構造、接触条件を変化させて比較を行った。ここで、超音波発振体20として用いる素材(フランジ含む)は、SUS材(固有音響インピーダンス4.0×10[kg・m-2/sec-1])とし、厚みtは3mmで一定とした。
本実験例では、処理槽10内の中央に、複数の処理対象物Sの一例として、外径50mm×長さ4~14mの処理鋼管を10本束にした場合と、外径300mm×長さ10mの処理鋼管を3本束にした場合と、の洗浄評価を行なった。
本実験例では、管内面の酸化スケール除去率を測定し、測定した除去率を水洗性能として評価した。より詳細には、水洗前後の管内面の酸化スケールをファイバースコープにて撮影し、二値化画像により酸化スケール除去率を算出した。水洗前の酸化スケール残存量に対し、各条件で除去できた酸化スケール除去量の割合を、酸化スケール除去率とした。下記表2における水洗性能の評価基準階下の通りである。
酸化スケール残存皮膜の除去率
100%以下~95%以上:A
95%未満~90%以上:B
90%未満~80%以上:C
80%未満~60%以上:D
60%未満~40%以上:E
40%未満 :F
すなわち評価A及び評価Bは、水洗性能が非常に良好であったことを意味し、評価Cは、水洗性能が良好であったことを意味し、評価Dは、水洗性能にやや難があったことを意味し、評価E及び評価Fは、水洗性能が不良であったことを意味する。評価A~評価Cとなったものを、合格とした。
Figure 0007372535000002
まず、比較例を見ると、本発明に係る超音波発振体20を処理槽に保持しなかった比較例1と、処理鋼管との断面比が0.20に満たない、又は、6.00を超える超音波発振体20を設けた比較例2~3では、水洗性能が不良、又は、水洗不足となる領域が発生した。この結果は、実験例1で確認した超音波強度と振動加速度の結果と一致しており、比較例2~3の超音波発振体20の超音波の伝播効率が上がらずに、超音波発振体の効果を発揮できていないことが分かった。
一方、本発明に係る超音波発振体20を設け、形状、処理鋼管との断面比、超音波発振体との離隔距離、長さ比を変えた実施例1~15は、水洗性能が良好以上となることが確認された。
特に、密閉構造で脱気制御した実施例16~18において、優れた水洗性能が確認された。また、フランジ部213を設けた実施例19~25においても、優れた水洗性能が確認された。これら水洗性能と、超音波強度及び振動加速度とは、相関が得られた。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 超音波処理装置
3 処理液
10 処理槽
20 超音波発振体
30 超音波印加機構
201 中空部材
203 超音波印加機構
205 仕切部材
207 液体
209 封止部材
213 フランジ部

Claims (17)

  1. 処理対象物に対して所定の表面処理を施す処理液を収容し、前記処理対象物が浸漬される処理槽と、
    前記処理液に浸漬される、複数の前記処理対象物からなる集合体の内部に設けられるものであり、前記処理液に対して超音波を印加する超音波発振体と、
    を備え、
    前記超音波発振体は、
    所定の軸方向に延伸する中空部材と、
    前記中空部材の中空部に保持された超音波印加機構と、
    を有しており、前記超音波印加機構から発振された超音波を前記中空部材の外部に透過させるものであり、
    前記超音波発振体は、少なくとも2つの前記処理対象物と接触しており、かつ、前記処理対象物の断面の大きさをa[mm]とし、前記中空部材の断面の大きさをD[mm]としたときに、断面の大きさの比(D/a)は、0.20≦D/a≦6.00を満足する、超音波処理装置。
  2. 前記超音波印加機構における超音波の発振部と前記中空部材の内表面との間の離隔距離をLh[mm]とし、超音波の波長をλ[mm]としたときに、前記超音波印加機構は、Lh={(n-1)/2}×λ、(nは、2以上の整数)となるように保持される、請求項1に記載の超音波処理装置。
  3. 前記超音波印加機構は、前記軸方向に沿って複数設けられており、
    隣り合う前記超音波印加機構の間の離隔距離ΔL[m]は、0.5≦ΔL≦3.0を満足する、請求項1又は2に記載の超音波処理装置。
  4. 前記中空部材は、中空部に脱気された液体が封入された状態で、密閉されている、請求項1~3の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  5. 前記液体は、溶存気体量が飽和溶存気体量の0.1~50%の範囲内となるまで脱気されている、請求項4に記載の超音波処理装置。
  6. 前記処理対象物は、所定の軸方向に沿って延伸する部材であり、
    前記処理対象物の長手方向の長さをLc[mm]とし、前記超音波発振体の長手方向の長さをLp[mm]としたときに、長さの比(Lp/Lc)は、0.5≦Lp/Lc≦1.5の関係を満足する、請求項1~5の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  7. 前記中空部材の厚みt[mm]は、0.3≦t≦5.0の範囲内である、請求項1~6の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  8. 前記中空部材は、固有音響インピーダンスが1×10[kg・m-2・sec-1]以上5×10[kg・m-2・sec-1]以下の範囲内である素材で形成されている、請求項1~7の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  9. 前記中空部材の外表面には、フランジ部が設けられている、請求項1~8の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  10. 前記フランジ部が設けられた部分の前記中空部材の断面の大きさをDf[mm]としたときに、断面の大きさの比(Df/D)は、1.1≦Df/D≦3.0の関係を満足する、請求項9に記載の超音波処理装置。
  11. 前記フランジ部は、横弾性係数G[GPa]が15≦G≦250の範囲内である素材を用いて形成される、請求項9又は10に記載の超音波処理装置。
  12. 前記フランジ部は、前記処理対象物の長手方向に沿って前記処理対象物の長さ5mの範囲内で、前記処理対象物と少なくとも1か所接触するように設けられる、請求項9~11の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  13. 前記超音波印加機構は、棒状振動子を有する超音波発生装置である、請求項1~12の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  14. 前記処理槽の壁面に対して、更に、前記処理液に対して超音波を印加する超音波印加機構が設けられる、請求項1~13の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  15. 前記処理対象物は、表面に所定の皮膜が付着した、所定の軸方向に沿って延伸する部材である、請求項1~14の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  16. 印加される超音波の周波数は、20~200kHzの範囲内である、請求項1~15の何れか1項に記載の超音波処理装置。
  17. 処理対象物に対して所定の表面処理を施す処理液の収容された処理槽を用いて、前記処理対象物に対して超音波を印加しながら表面処理を施す超音波処理方法であって、
    前記処理液に浸漬される、複数の前記処理対象物からなる集合体の内部に、所定の軸方向に沿って延伸する超音波発振体を、少なくとも2つの前記処理対象物に接触するように配置し、
    前記超音波発振体は、所定の軸方向に延伸する中空部材と、前記中空部材の中空部に保持された超音波印加機構と、を有しており、前記超音波印加機構から発振された超音波を前記中空部材の外部に透過させることで、前記処理液に対して超音波を印加し、
    前記超音波発振体は、前記処理対象物の断面の大きさをa[mm]とし、前記中空部材の断面の大きさをD[mm]としたときに、断面の大きさの比(D/a)は、0.2≦D/a≦6.0を満足する、超音波処理方法。
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