JP7356709B2 - ワークキャリア及びワークキャリアの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、シリコンウェーハ、ガラス、セラミックス、水晶等の薄板状のワークを研磨装置によって研磨加工する際に、ワークの保持に使用されるワークキャリア及びワークキャリアの製造方法に関するものである。
シリコンウェーハなどのワークの両面又は片面を研磨装置によって研磨加工する際に、ワーク保持孔を有するワークキャリアにワークを保持させることが知られている(特許文献1-3など参照)。
ワークキャリアの本体となるキャリア基板は、SK鋼やステンレス鋼といった硬質の金属素材によって形成されているため、キャリア基板に穿孔されたワーク保持孔に直接、ワークを保持させると、研磨加工中にワークがワーク保持孔の内周面に接触し、ワークに割れや欠けなどの損傷が生じるおそれがある。
そこで、特許文献1-3に開示されているように、ワーク保持孔の内周面に沿って合成樹脂製の軟質のインサートを取り付け、研磨加工中のワークの損傷を防ぐ処理が行われている。
一方、研磨加工による摩耗や変形は硬質のキャリア基板よりも軟質の樹脂インサートの方が起きやすいため、特許文献1では、キャリア基板から張り出される樹脂インサートの幅を狭くすることでワーク保持孔側に露出する面積を少なくして、樹脂インサートの摩耗を減らしている。
また、特許文献2には、キャリア基板のあり溝に樹脂インサートのありほぞを着脱自在に嵌合させる構成において、嵌合の強度を調整するために、あり溝とありほぞとの間に隙間を設けることが記載されている。
また、特許文献3には、キャリア基板のワーク保持孔の内周面に沿って樹脂インサートを設ける方法として、予め成形された樹脂インサートを嵌め込む方式と射出成形による方式とがあることを開示している。
特開2010-179375号公報 特開2003-340711号公報 特開2018-144221号公報
しかしながら射出成形によって樹脂インサートを設ける場合、キャリア基板のワーク保持孔の内周面に沿って設けられたあり溝に流し込まれた高温の合成樹脂材は、その後、冷えて固まる際にワーク保持孔の中心に向けて収縮する。このとき、あり溝に充填された合成樹脂材との引っ掛かりによりキャリア基板の母材が引っ張られて、キャリア基板に反りやひずみが生じるおそれがある。すなわち温度変化によって樹脂インサートの収縮量がキャリア基板の収縮量より大きくなると、キャリア基板が変形する可能性がある。
そこで、本発明は、キャリア基板に密着した樹脂インサート部に温度変化が起きた場合でも、キャリア基板に変形が生じにくいワークキャリア及びワークキャリアの製造方法を提供することを目的としている。
前記目的を達成するために、本発明のワークキャリアは、キャリア基板に形成されたワーク保持孔の内周面に沿って樹脂インサート部が設けられたワークキャリアであって、前記ワーク保持孔には、周方向に間隔を置いて平面視で開放側が狭い台形状の凹部が形成されるとともに、前記凹部に前記樹脂インサート部が密着して形成されていて、前記凹部の高さが0.5mm以上2.9mm未満であることを特徴とする。
ここで、前記凹部の斜辺と前記ワーク保持孔の周方向とが前記凹部の外側になす角が60°より大きく90°未満であることが好ましい。また、前記ワーク保持孔には、周方向に交互に、表裏方向に対する傾斜が反対となる正傾斜面と負傾斜面とが連続して形成されている構成とすることができる。
さらに、ワークキャリアの製造方法の発明は、上記いずれかのワークキャリアの製造方法であって、前記キャリア基板に前記ワーク保持孔を穿孔するために切断加工をする工程と、前記ワーク保持孔に対して射出成形によって樹脂インサート部を設ける工程とを備えたことを特徴とする。
このように構成された本発明のワークキャリアは、キャリア基板のワーク保持孔の周方向に間隔を置いて形成される平面視台形状の凹部に、樹脂インサート部が密着して形成されている。そして、この凹部の高さは、0.5mm以上2.9mm未満に設定されている。
要するに、凹部の高さが従来のあり溝の高さよりも低く設定されているため、射出成形などによってキャリア基板に密着した樹脂インサート部に温度変化が起きた場合でも、凹部に充填された合成樹脂材の収縮量を抑えることができ、キャリア基板に変形が生じにくい構成とすることができる。
また、凹部の斜辺とワーク保持孔の周方向とがなす角を60°より大きく90°未満にすることで、凹部における引っ掛かりを確保しつつ、キャリア基板の母材に生じる引張力を抑えることができる。
さらに、ワーク保持孔の周方向に交互に、表裏方向に対する傾斜が反対となる正傾斜面と負傾斜面とを連続して形成することで、キャリア基板の表裏いずれの方向に対しても樹脂インサート部がワーク保持孔から脱落することを防止することができる。
そして、ワークキャリアの製造方法の発明では、射出成形によって樹脂インサート部を設けることで、キャリア基板と樹脂インサート部との一体性が高いワークキャリアを容易に製造することができる。
本実施の形態のワークキャリアの構成を従来と比較して説明する拡大平面図である。 ワークキャリアの概略構成を説明する平面図である。 表加工と裏加工を説明するためにワークキャリアのワーク保持孔の内周面付近を拡大して説明する平面図である。 ワーク保持孔の内周面に樹脂インサート部を設けた状態で正傾斜面及び負傾斜面を説明する図であって、(a)は図3のA-A矢視方向で見た断面図、(b)は図3のB-B矢視方向で見た断面図である。 本実施の形態のワークキャリアの製造方法の工程を説明するフローチャートである。 射出成形の工程を説明するための模式図である。 射出成形後に樹脂インサート部が収縮する際に生じる力を示した説明図である。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1,2は、本実施の形態のワークキャリア10の構成を説明する図であって、図2が全体の概略構成を示し、図1が従来と比較して説明するためにワーク保持孔2の内周面付近を拡大して示している。
ワークキャリア10は、シリコンウェーハやガラスなどのワークの両面又は片面を研磨加工する平面研磨装置に装着して使用される。例えばワークの両面を研磨加工する平面研磨装置は、定盤である上定盤及び下定盤と、この上定盤及び下定盤の中心部に回転自在に配置されたサンギアと、上定盤及び下定盤の外周側に配置されたインターナルギアとを備えている。
そして、図2に示すようなワークキャリア10は、平面研磨装置の上定盤と下定盤との間に配置される。
ワークキャリア10は、例えば金属製のキャリア基板1によって円板状の本体が形成される。このキャリア基板1には、例えば円形のワーク保持孔2,・・・と研磨剤供給孔12,・・・とが穿孔される。そして、ワーク保持孔2の内周面に沿って樹脂インサート部3が設けられる。
このワークキャリア10には、外縁となる外形部11にサンギア及びインターナルギアに噛合する歯部(図示省略)が設けられており、サンギア及びインターナルギアの回転により自転及び公転していくようになっている。そして、ワークキャリア10の自転及び公転により、ワークキャリア10のワーク保持孔2内に配置されたワークの両面が研磨される。
キャリア基板1は、例えば金属板から円板状に切り出される。金属板としては、ステンレス鋼(SUS)、高炭素クロム軸受鋼、炭素工具鋼(SK鋼)、高速度工具鋼、合金工具鋼、高張力鋼、チタンなどが使用できる。また、ポリアミドイミド(PAI)などの合成樹脂材によって、キャリア基板1を成形することもできる。
一方、樹脂インサート部3は、合成樹脂材によって成形される。合成樹脂材には、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが使用できる。
ポリアミド樹脂は、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610などの脂肪族ポリアミド樹脂、及びポリアミドMXD6などの芳香族ポリアミド樹脂が使用できる。
ポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチルテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレート、ポリトリメチレンナフタレートなど、二価脂肪族アルコールと芳香族ジカルボン酸が縮重合したポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンナフタレートなどの樹脂が使用できる。さらには、ビスフェノールAなどの二価フェノールとイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸からなる全芳香族ポリエステル樹脂も使用できる。
また、変性ポリフェニレンエーテル樹脂のような複数の樹脂を混合したポリマーアロイも使用できる。さらに、上述の樹脂とアラミド繊維などの繊維を複合した繊維強化プラスチック(FRP)であっても使用できる。後述するように射出成形によって樹脂インサート部3を設ける場合には、熱可塑性樹脂が使用される。
本実施の形態のワーク保持孔2の内周面には、樹脂インサート部3との一体性を高めるために、図1に示すように、周方向に凹凸が連続して形成される。例えば凹凸は、キャリア基板1側に窪む凹部21を周方向に間隔を置いて設けることによって形成される。この場合、凹部21が設けられずにキャリア基板1の残った母材部分が、ワーク保持孔2の中心側に突出する凸部となる。
図1に示した凹部21は、平面視で開放側(ワーク保持孔2の中心側)が狭い台形状(楔状)に形成される。言い換えると凹部21は、平面視で奥側(キャリア基板1側)が広い台形状に形成される。
この凹部21は、開放側が狭い台形状であればすべてが違う平面形状であってもよいが、本実施の形態では、ほぼ同じ平面形状の凹部21が周方向に等間隔で繰り返し形成される場合について説明する。
続いて、本実施の形態のワークキャリア10の凹部21の形状の詳細を説明するために、図1に示したような、従来の一般的な凹部a21の形状と比較しながらの説明を行う。
従来のキャリア基板a1に設けられる一般的な凹部a21の形状は、平面視では開放側が狭い台形状に形成されるが、本実施の形態の凹部21と比べて大きく形成されている。すなわち、ワーク保持孔a2の径方向となる高さHaは、2.9mm以上となるのが一般的である。
また、ワーク保持孔a2の周方向と凹部a21の斜辺a211とがなす角θaは、60°以下に設定されていた。すなわち、樹脂インサート部a3とキャリア基板a1との嵌合力を高めるために、凹部a21の高さHaを高くするとともに、引っ掛かりが強くなるように、斜辺a211の角度(θa)を小さくして、引き抜きが起きにくくなる形状にしていた。
これに対して本実施の形態のワーク保持孔2の周辺のキャリア基板1に設けられる凹部21は、ワーク保持孔2の中心側への樹脂インサート部3の抜け落ちが起きない程度に、結合力(嵌合力)が弱くなる形状に形成されている。
すなわち、凹部21の高さHは、0.5mm以上2.9mm未満に設定され、従来の高さHaと比べて低くなっている。例えば、凹部21の高さHを、1.0mmから2.0mm程度、好ましくは1.5mmから1.7mm程度に設定する。
さらに、凹部21の斜辺211とワーク保持孔2の周方向とが凹部21の外側になす角θは、60°より大きく90°未満に設定され、従来のなす角θaと比べて起き上がった角度になっている。例えば、斜辺211とワーク保持孔2の周方向とがなす角θを、65°から70°程度に設定する。
すなわち、凹部21の高さHを従来よりも低くすることによって、凹部21に充填される樹脂インサート部3の合成樹脂材の量を少なくしている。また、斜辺211とワーク保持孔2の周方向とがなす角θを従来よりも大きくすることによって、樹脂インサート部3がワーク保持孔2の中心側に引っ張られた際に、キャリア基板1に作用する力が低減されるようにしている。このような凹部21の形状にしたことによる作用の詳細については、後述する。
ここで、本実施の形態のワークキャリア10のキャリア基板1には、ワーク保持孔2の周方向に沿って、キャリア基板1の表裏方向への樹脂インサート部3の脱落を防止するための加工が施される。以下では、脱落防止手段の一例について図3,4を参照しながら説明するが、この構成に限定されるものではなく、ワーク保持孔の径方向の断面形状が、凹形状、凸形状、階段形状などとなるようにキャリア基板の内周面を加工する公知の脱落防止手段を適用することもできる。
図3には、ワークキャリア10のワーク保持孔2の内周面付近を拡大して平面図で示している。図3のA-A矢視方向で見た図4(a)の断面図に示したように、ワーク保持孔2の中心側となる内周面は、キャリア基板1の表裏方向に対して傾斜面となっている。そこで、表側から裏側に向けてキャリア基板1が広がる傾斜面を、正傾斜面22Aとする。
そして、正傾斜面22Aが形成される範囲を、図3では「表加工」として示した。この「表加工」の範囲には、2つの凹部21,21が設けられていて、凹部21と凹部21,21間のワーク保持孔2側に露出する側面には、連続して正傾斜面22Aが設けられる。なお、1箇所の表加工の範囲に2つと説明した凹部21の数は例示であって、これに限定されるものではなく、凹部21の数は任意に設定することができる。
一方、図3のB-B矢視方向で見た図4(b)の断面図に示したように、図3に「裏加工」と示した範囲の内周面も、キャリア基板1の表裏方向に対して傾斜面となっている。そこで、表側から裏側に向けてキャリア基板1が狭くなる傾斜面を、負傾斜面22Bとする。
ここで図4は、図3の断面に樹脂インサート部3の構成を加えた断面図となっている。樹脂インサート部3は、正傾斜面22Aと負傾斜面22Bとにそれぞれ密着して形成される。すなわち、キャリア基板1側に正傾斜面22Aが設けられた箇所では、樹脂インサート部3の密着させる対峙面は負傾斜面32Bとなる(図4(a)参照)。
一方、キャリア基板1側に負傾斜面22Bが設けられた箇所では、樹脂インサート部3の密着させる対峙面は正傾斜面32Aとなる(図4(b)参照)。なお、樹脂インサート部3のワーク保持孔2の中心側に形成される内側面31は、すべて鉛直面となる。
また、参考までに図3及び図4には、従来の凹部a21の形状を2点鎖線で示した。図4(a)及び図4(b)を見ると明らかなように、従来の凹部a21の傾斜面の位置は、本実施の形態のワークキャリア10の凹部21の傾斜面(22A,22B)の位置よりも、大幅にキャリア基板1の内部側に設けられることになる。
次に、本実施の形態のワークキャリア10の製造方法について、図5,6を参照しながら説明する。
まず、レーザー切断加工機に金属板を設置し、金属板を表側から切断加工する(ステップS1)。ここで、金属板の「表側」とは、最初に切断加工が行われる表面を指し、反対側の面を「裏側」とする。また以下では、表側からの切断加工を「表加工」、裏側からの切断加工を「裏加工」と、省略した用語で説明する場合もある。
レーザー切断加工機によってレーザー加工を行うと、その切断面は、表側から裏側に向けて広がる傾斜面となる(図4(a)参照)。ステップS1では、図3に示す「表加工」の範囲の切断加工を行う。この表加工によって形成される傾斜面が正傾斜面22Aとなる。
そして、裏加工の領域に到達した時点で、一旦切断加工を中断し、レーザー光を照射させる位置を、裏加工領域を挟んで隣接する次の表加工領域の始点まで移動させる。このように断続的な表加工領域の切断加工を、ワーク保持孔2の周方向に間隔を置いて行う。
図2に示したワークキャリア10の場合では、キャリア基板1のすべてのワーク保持孔2に表加工領域の切断加工が行われる。そして、金属板を反転させ、金属板の裏側からの切断加工の工程に移行する(ステップS2)。
レーザー切断加工機に裏側にした金属板を設置すると、ステップS1において切断された切断線が周方向に間隔を置いて現れる。裏加工では、断続的な切断線を繋ぐ切断加工を行うことで、すべてのワーク保持孔2を切り出す。
裏加工においても、切断面は、裏側から表側に向けて広がる傾斜面に形成される(図4(b)参照)。この裏加工によって形成される傾斜面が負傾斜面22Bとなる。
そして、表加工による切断線に到達した時点で、一旦切断加工を中断し、レーザー光を照射させる位置を、表加工領域を挟んで隣接する次の裏加工領域の始点まで移動させる。このように断続的な裏加工領域の切断加工を、ワーク保持孔2の切断線が1周して繋がるまで行う。
また、ステップS2において、外形部11及び研磨剤供給孔12などの切断加工も行う。そして、キャリア基板1の厚さを調整するラッピング加工及びポリッシュ加工を行う(ステップS3)。
このようにして成形されたキャリア基板1のワーク保持孔2,・・・の内周面に対して、ステップS4の工程では、樹脂インサート部3,・・・をそれぞれ設ける。樹脂インサート部3は、合成樹脂材の射出成形によって設けられる。
図6に、射出成形の工程を説明するための模式図を示した。射出成形機4は、キャリア基板1の例えば表面を接触させる金型41Aと、反対側の裏面を接触させる金型41Bと、合成樹脂材の投入口43とを備えている。
射出成形機4に一方の金型41Aをセットし、金型41Aから突出した位置決めピン42をキャリア基板1の位置決め孔13(図7参照)に挿し込みながら、キャリア基板1の表面を金型41Aに密着させる。また、樹脂インサート部3を設けるために空洞としておく必要のある箇所を除いたワーク保持孔2の領域には、内型枠45を配置する。
続いて、キャリア基板1の裏面に対して、もう一方の金型41Bを押し当てる。すなわち、2つの金型41A,41Bの間にキャリア基板1を介在させる。このようにして射出成形機4にキャリア基板1をセットした際には、投入口43から延びる注入経路44の分岐路441の先端は、樹脂インサート部3を設けるために設けられた空洞に繋がることになる。
そこで、投入口43に加熱溶融させた合成樹脂材を投入すると、注入経路44と分岐路441を流下した合成樹脂材が、樹脂インサート部3となる空洞に射出注入されることになる。
そして、射出注入された合成樹脂材を冷却によって固化させることで、樹脂インサート部3の射出成形が行われたことになる。なお、内型枠45を内側面31の位置に合わせて設置していない場合は、射出成形後に内側面31を形成するための切断加工が行われる。
このようにして射出成形を行うと、射出注入された高温の合成樹脂材が冷えて固まる際に急激な温度変化が生じることになる。図7は、射出成形後に一般的な樹脂インサート部a3が冷却によって収縮する際に生じる力を説明するための模式図である。
ここで、キャリア基板a1と樹脂インサート部a3とは熱膨張係数が異なっているため、温度変化に対する変形量が異なっている。さらに、凹部a21に充填された合成樹脂材の収縮量がキャリア基板a1の収縮量より大きくなると、凹部a21周辺のキャリア母材が引っ張られることになる。凹部a21周辺のキャリア母材は切り欠かれて弱くなっているため、ここに大きな引張力が生じると、キャリア基板a1全体に反りやゆがみが生じるおそれがある。
このようにして生じる引張力は、本実施の形態のワークキャリア10のように、凹部21の高さHを低くして収縮量を少なくすることで低減させることができる。また、凹部21に充填された合成樹脂材に収縮が起きても、凹部21の斜辺211における引っ掛かりの力が小さければ、キャリア基板1の母材に生じる引張力も少なくすることができる。要するに、凹部21の高さHを低くして、ワーク保持孔2の周方向と斜辺211とがなす角θを大きくすることで、キャリア母材が引っ張られて、キャリア基板1全体に反りやひずみが生じて変形することを防ぐことができるようになる。
次に、本実施の形態のワークキャリア10及びワークキャリア10の製造方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のワークキャリア10は、キャリア基板1のワーク保持孔2の周方向に間隔を置いて形成される平面視台形状の凹部21に、樹脂インサート部3が密着して形成されている。
そして、この凹部21の高さHは、0.5mm以上2.9mm未満に設定され、従来の凹部a21の高さHaよりも低く形成されている。凹部21の高さHが低くなると、射出成形時に高温となった合成樹脂材が冷却されて収縮する際の収縮量が抑えられるため、樹脂インサート部3に密着したキャリア基板1に作用する引張力も低減されることになる。この結果、キャリア基板1に反りやひずみなどの変形が起きにくくなる。
特に、凹部21の斜辺211とワーク保持孔2の周方向とがなす角θを60°より大きくすることで、角度が小さい場合と比べて斜辺211の引っ掛かりが弱くなって抜け出しやすくなるため、キャリア母材に作用する引張力を抑えることができる。ここで、なす角θは、90°未満に設定されていれば、凹部21に充填された合成樹脂材の最低限の引っ掛かりは確保することができる。
また、ワーク保持孔2の周方向に交互に、表裏方向に対する傾斜が反対となる正傾斜面22Aと負傾斜面22Bとが連続して形成され、それらの傾斜面(22A,22B)に密着して樹脂インサート部3が設けられる。
このように傾斜が反対となる正傾斜面22Aと負傾斜面22Bとが設けられることにより、キャリア基板1の表裏いずれの方向に対しても樹脂インサート部3がワーク保持孔2から脱落することを防止できるようになる。
すなわち、射出成形によって樹脂インサート部3を設けた場合、冷却して固化させた際に収縮が起きるが、両方向の傾斜面(22A,22B)が設けられていれば、樹脂インサート部3が多少収縮したとしても脱落を防ぐことができる。
また、正傾斜面22Aと負傾斜面22Bがワーク保持孔2の周方向に連続して設けられることで、樹脂インサート部3の対峙面、つまりワーク保持孔2の内周面と接する面が正傾斜面22Aと負傾斜面22Bにより全周にわたり支持されることになって、ワーク保持孔2が樹脂インサート部3を保持する保持力を高めることができる。
さらに、ワーク保持孔2の周方向に間隔を置いて凹部21,・・・が形成されることによって、それによる嵌合と正傾斜面22A及び負傾斜面22Bとの相乗効果により、キャリア基板1と樹脂インサート部3との一体性が高いワークキャリア10とすることができる。
そして、本実施の形態のワークキャリア10の製造方法であれば、射出成形によって樹脂インサート部3を設けるので、キャリア基板1と樹脂インサート部3との一体性が高いワークキャリア10を容易に製造することができる。
また、切断加工が行われると、キャリア基板1には応力や加工熱が作用して反りやうねりなどの加工ひずみが発生することがあるが、表側と裏側の両方から切断加工を行うことで、加工ひずみを相殺させて減少させることができる。特に、ワーク保持孔2の周方向に等間隔で表加工と裏加工とを交互に繰り返すことで、より平坦度の高いキャリア基板1に加工することができる。
以下、本実施例1では、前記実施の形態で説明したワークキャリア10の変形の有無を確認するために行った実験の結果について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
本実施例1では、ワークキャリア10のキャリア基板1に形成される凹部21の高さH(図1参照)を0.4mmから2.9mmまで変化させるとともに、凹部21の斜辺211とワーク保持孔2の周方向とが凹部21の外側になす角θ(以下、「角度θ」という。)を60°から90°まで変化させた各ケースについて確認を行った。
要するに、凹部21の高さHと角度θを変数にして、キャリア基板1に変形が発生するか否かを、白色光の照明下において光の反射状態を確認するという目視評価で行った。
実験を行ったワークキャリア10は、前記実施の形態で説明したワークキャリア10の製造方法によって製作した。以下表1に、実験結果を示した。
上記した凹部21の高さHと角度θとの組み合わせは72通りあり、すべての組み合わせを確認することは現実的に出来ないので、実験を行わなかった組み合わせについては「-」印を付した。また、高さHが0.4mmの場合は、キャリア基板1のワーク保持孔2に設けられた凹部21における樹脂インサート部3の嵌合力が小さくなりすぎて不安定になるため、実験を行わなかった。さらに、角度θが90°の場合は、凹部21における引っ掛かりが発生せず、キャリア基板1に引張力が生じないため実験を行わなかった。
表1に示した実験結果の「〇」印は、キャリア基板1に変形が発生せず一様に光が反射しているという評価が得られたケースである。また、実験結果の「×」印は、変形が認められたケースである。そして、実験結果の「△」印は、わずかに変形が認められたケースである。
表1を見ると、凹部21の高さHが0.5mm,1.0mm,1.5mm,1.7mm及び2.0mmに設定されたキャリア基板1では、すべての角度θにおいて変形は認められなかった。これは、凹部21における樹脂インサート部3の収縮量が少ないため、キャリア基板1の変形が発生しなかったものと考えられる。
また、凹部21の高さHが2.9mmに設定されたキャリア基板1については、角度θが85°では変形が認められなかったものの、角度θが70°と60°のキャリア基板1では変形が認められた。要するに、凹部21の高さHが高くて樹脂インサート部3の収縮量が増加する場合でも、楔となる角度θによる引っ掛かりの力が小さければキャリア母材に生じる引張力が小さくなって、キャリア基板1に変形が発生しなかったものと考えられる。一方で、角度θが70°と60°のキャリア基板1は、引っ掛かりの力が大きく働くためにキャリア基板1の変形が見受けられた。
これらの結果から判断すると、凹部21の高さHは、0.5mm以上2.9mm以下であれば変形が発生しないケースがあり、2.9mm未満であれば変形が起きにくくなるとともに、0.5mmから2.0mmの間であれば、いずれの角度θでも変形が起きないと言える。
また、角度θは、60°以上90°未満であれば変形が発生しないケースがあり、角度θが60°で凹部21の高さHが2.8mmのときにわずかに変形が生じるので、高さHが2.9mm未満で、かつ角度θが60°より大きく90°未満に設定されることが好ましいと言える。
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
例えば前記実施の形態では、ワーク保持孔2が円形のワークキャリア10について説明したが、これに限定されるものではない。例えば長方形(正方形を含む)のワーク保持孔を有するワークキャリアに対しても本発明を適用することができる。さらに、ワーク保持孔は、円形及び長方形以外の別の形状であってもよい。
また、前記実施の形態では、キャリア基板1をレーザー加工により切断加工する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ウォータージェット加工、ワイヤー加工など凹部21が形成できる切断加工であればよい。
ウォータージェット加工は、高圧水をノズルより噴出させて行われる切断加工で、傾斜面を形成しつつ精密な切断を行うことができる。また、水に研磨材を添加することで、硬質の材料であっても切断が可能になる。
ワイヤー加工は、ワイヤー線とキャリア基板との間に電圧を印加し放電を起して行われる切断加工で、傾斜面を形成しつつ精密な切断を行うことができる。
また、前記実施の形態では、ワーク保持孔2の内周面の全周に等間隔で凹部21が形成される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、凹部21は周方向に任意の間隔を置いて断続的に設けられていてもよい。
10 :ワークキャリア
1 :キャリア基板
2 :ワーク保持孔
21 :凹部
211 :斜辺
22A :正傾斜面
22B :負傾斜面
3 :樹脂インサート部
H :高さ
θ :なす角

Claims (4)

  1. キャリア基板に形成されたワーク保持孔の内周面に沿って熱可塑性樹脂による樹脂インサート部が連続して環状に設けられたワークキャリアであって、
    前記ワーク保持孔には、周方向に間隔を置いて平面視で開放側が狭い台形状の凹部が形成されるとともに、前記凹部に前記樹脂インサート部が接着剤を介することなく密着して形成されていて、
    前記凹部の高さが0.5mm以上2.9mm未満であることを特徴とするワークキャリア。
  2. 前記凹部の斜辺と前記ワーク保持孔の周方向とが前記凹部の外側になす角が60°より大きく90°未満であることを特徴とする請求項1に記載のワークキャリア。
  3. 前記ワーク保持孔には、周方向に交互に、表裏方向に対する傾斜が反対となる正傾斜面と負傾斜面とが連続して形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のワークキャリア。
  4. 請求項1乃至3のいずれか一項に記載のワークキャリアの製造方法であって、
    前記キャリア基板に前記ワーク保持孔を穿孔するために切断加工をする工程と、
    前記ワーク保持孔に対して射出成形によって樹脂インサート部を設ける工程とを備えたことを特徴とするワークキャリアの製造方法。
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