JP7355772B2 - ニッケル水素蓄電池の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ニッケル水素蓄電池の製造方法に係り、詳細には、負極の活性をより好ましく行うニッケル水素蓄電池の製造方法に関する。
近年、ポータブル機器や携帯機器などの電源として、また電気自動車やハイブリッド自動車用の電源として、ニッケル水素蓄電池が用いられている。ニッケル水素蓄電池は、エネルギー密度が高く信頼性にも優れている利点を有するが、電池組立直後の初期出力が低下してしまうことがある。そこで、負極の材料である水素吸蔵合金を活性化させる技術が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の技術は、ニッケル水素蓄電池の正極中の水酸化ニッケルの活性化を含む正極活物質の活性化を行い、正極活性された蓄電池に対する1乃至複数回の充放電サイクルの実行によって負極の活物質である水素吸蔵合金の活性化を行う。そしてこの水素吸蔵合金の活性化に際し、1乃至複数回の充放電サイクル中、少なくとも1サイクルは、当該蓄電池の充電状態を過充電状態とする。
特許文献1に記載の技術では、負極活性工程に際し、蓄電池の充電状態が過充電状態になるまで充電し、負極中の水素吸蔵合金表面にいわゆる割れ(クラック)を発生させる。これにより、負極中の水素吸蔵合金を微粉化して、負極の表面積を大きくする。上記製造方法ではこのように、水素吸蔵合金の表面積を増大することによって、ニッケル水素蓄電池としての初期のDC-IR(内部抵抗)を低減させることが可能となる。当該蓄電池を過充電状態とした後は例えば「20%」以下等の低い充電状態まで放電する。
特開2010-153261号公報
ところで、ニッケル水素蓄電池の製造工程では、1個のニッケル水素蓄電池を製造する時間であるタクトタイムが定められている。負極活性工程の時間を長くすれば、従来の充放電条件を維持したまま負極活性工程における充放電サイクル数の増加が可能となり、ニッケル水素蓄電池を最大限活性化することができるが、タクトタイム等の生産時間の制約により、充放電サイクル数の増加にも限界がある。
上記課題を解決するため、本発明のニッケル水素蓄電池の製造方法では、水酸化ニッケルを活物質として含む正極と、水素吸蔵合金を活物質として含む負極と、アルカリ電解液とを排気弁を備えたケースに収容するニッケル水素蓄電池の製造方法であって、前記ニッケル水素蓄電池の充電状態であるSOCの範囲には、SOC100%を含む高SOC状態と前記高SOC状態よりも低い低SOC状態が含まれ、前記ニッケル水素蓄電池のSOCの上限値及び下限値を前記高SOC状態に維持しながら充放電を複数回繰り返す高SOC充放電工程を含む。
SOC100%を含む高SOC状態で充放電サイクルを複数回繰り返す高SOC充放電工程を行うことで、合金内に拡散した水素が合金に脆性をもたらす。合金が脆化するのみでも微粉化が進むが、合金に水素を吸蔵させたままで充放電を繰り返すことで、合金を脆化させつつ合金を膨張及び収縮させることができ、微粉化による負極の活性化が促進される。また、高SOC充放電工程では、SOCを低SOC状態に到達させることなく高いSOCで充放電を繰り返すため低いSOCに至るまで放電するための時間を削減できる。このため、合金の膨張及び収縮の増加又は負極の活性化のための時間を短縮化することが可能となるため、微粉化による負極の活性化を効率よく行うことができる。このように合金の微粉化により負極を活性化することが可能となるため、ニッケル水素蓄電池の初期の内部抵抗(DC-IR)を低減することができる。
上記ニッケル水素蓄電池の製造方法について、前記高SOC充放電工程の直前に、10%以下の所定のSOCに到達するまで前記ニッケル水素蓄電池の放電を行う中間深放電工程をさらに含んでいてもよい。
活性化工程において高い充電状態を長時間に亘り継続すると、副反応で発生した気体により、ニッケル水素蓄電池の内圧が上昇する。これに対し、高SOC充放電工程の前に、予め低い充電状態まで放電する中間深放電工程を行うことにより、高SOC充放電工程の途中又はその終了後に、ニッケル水素蓄電池の内圧が過度に上昇することを防ぐことができる。
上記ニッケル水素蓄電池の製造方法について、前記高SOC状態は、SOCが80%以上150%以下の範囲であってもよい。
上記製造方法によれば、高SOC状態において合金の水素吸蔵量を多くすることができるため、合金に水素を吸蔵させた状態で充放電を繰り返し行うことができる。
上記ニッケル水素蓄電池の製造方法について、前記高SOC充放電工程の直後に、100%以上且つ前記上限値以下のSOCに到達するまでの充電、及び10%以下のSOCに到達するまでの放電を行うリフレッシュ充放電工程を行ってもよい。
活性化工程において高い充電状態を長時間に亘り継続すると、放電時に容量が残っているにも関わらず電圧降下が発生するメモリ効果が発生する。このため、活性化工程後にリフレッシュ充放電工程を行うことでメモリ効果を解消することができる。
上記ニッケル水素蓄電池の製造方法について、前記高SOC充放電工程は、充電レート及び放電レートの少なくとも一方が、2.3C以上4.6C以下であってもよい。
これによれば、1サイクルあたりの時間を短縮化することができるため、ニッケル水素蓄電池を製造するタクトタイムの制限の下で充放電回数を多くすることができる。これにより、微粉化による負極の活性化を促進することができる。
前記高SOC充放電工程は、前記ニッケル水素蓄電池のSOCを前記高SOC状態に維持する時間が1時間以上であってもよい。
上記方法によれば、1時間以上継続して充電状態を高い充電状態に維持することで、水素吸蔵合金を、内部抵抗を低下させる効果が得られる程度に脆化することができる。
本発明のニッケル水素蓄電池の製造方法によれば、ニッケル水素蓄電池としての初期の内部抵抗を低減させることを可能とし、初期出力性能をより高く確保することができる。
ニッケル水素蓄電池の製造方法で製造されるニッケル水素蓄電池の一実施形態について、部分断面構造を含む斜視図。 同実施形態における製造方法の手順を示すフローチャート。 同実施形態における活性化工程における負極のSOCの変化を示すグラフ。 同実施形態における活性化工程における電池モジュールの内圧の変化を時系列で示すグラフ。 従来における活性化工程における負極のSOCの変化を示すグラフ。 従来の電池モジュールの内部抵抗に対する同実施形態のモジュールの内部抵抗の変化を示すグラフ。 従来における活性化工程における負極のSOCの変化を示すグラフ。 従来における活性化工程における電池モジュールの内圧の変化を時系列で示すグラフ。
図1~図8を参照して、本発明のニッケル水素蓄電池の製造方法の一実施形態について説明する。
<ニッケル水素蓄電池の構成>
図1はニッケル水素蓄電池の一例を示す。本実施形態のニッケル水素蓄電池は、複数の単電池30を電気的に直列接続して構成された電池モジュール11である。
電池モジュール11は、複数の単電池30を収容可能なケース13と同ケース13の開口部16を封止する蓋部14とによって構成される直方体状の電池ケースとしての一体電槽10を有している。
一体電槽10を構成するケース13及び蓋部14は、アルカリ電解液(以下、電解液という)に対して耐性を有する樹脂材料であるポリプロピレン(PP)及びポリフェニレンエーテル(PPE)を含んで構成されている。そして一体電槽10の内部には、複数の単電池30を区画する隔壁18が形成されており、この隔壁18によって区画された部分が、単電池30毎の電槽15となる。一体電槽10は、例えば、6つの電槽15のそれぞれが単電池30を構成している。
こうして区画された電槽15内には、極板群20が電解液とともに収容されている。電解液は、例えば溶質の主成分を水酸化カリウムとする水酸化カリウム水溶液である。
極板群20は、複数の正極板21、複数の負極板22及びセパレータ23からなる。正極板21及び負極板22は矩形状であり、それらの間にセパレータ23を介して交互に位置する。このとき、正極板21、負極板22及びセパレータ23が積層された方向が積層方向である。正極板21は、側端部に正極集電部24が接合され、負極板22は、側端部に負極集電部25が接合されている。
複数の極板群20は、隔壁18の上部に位置する貫通孔32を介して電気的に直列接続されている。こうして直列接続された極板群20、すなわち複数の単電池30の総出力が正極の接続端子29A及び図示しない負極の接続端子から取り出される。
一方、蓋部14には、排気弁141と、極板群20の温度を検出するためのセンサを装着するセンサ装着穴142とが設けられている。排気弁141は、一体電槽10の内部圧力の値が所定圧力に到達した場合に開弁し、一体電槽10内部に発生したガスを排出する。なお、排気弁141は、特に限定されないが、例えば一旦開弁した後は閉弁することができないものである。
<極板群の構成>
正極板21は、基板と、正極合材とを有する。基板は、多数の孔を有し主成分を金属とするものであって、例えば発泡ニッケル基板である。正極合材は、正極活物質、及び添加材を含む。正極活物質は、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル等のニッケル酸化物である。添加材は、導電材、結着材等を含む。導電材は、金属化合物であり、ここではオキシ水酸化コバルト(CoOOH)等のコバルト化合物であってニッケル酸化物の表面を被覆している。導電性の高いオキシ水酸化コバルトは、正極内において導電性ネットワークを形成し、正極の利用率(「放電容量/理論容量」の百分率)を高める。正極合材は、基材に保持されている。
負極板22は、基材と、負極合材とを有する。基材は、多数の孔を有し主成分を金属とするものであって、打ち抜き加工が行われたパンチングメタル等である。負極合材は、水素吸蔵合金、カーボンブラック等の増粘材、及びスチレン-ブタジエン共重合体の結着材を含み、基材に保持されている。
水素吸蔵合金は、水素の吸蔵と放出とを可逆的に進行させる合金である。水素吸蔵合金は、「A」を水素化物を形成する元素、「B」を水素化物を形成しない元素としたとき、AB型、AB型、又はそれらの組み合わせを用いることができる。AB型の水素吸蔵合金は、TiCo,ZrCo等を用いることができる。AB型の水素吸蔵合金は、MmNi等を用いることができる。なお、「Mm」は、複数の希土類元素が含まれる合金であるミッシュメタルを指す。特に、MmNiとしては、ニッケル(Ni)の一部をCo,Mn,Al等で置換を行ったMmNi5-x(Co,Mn,Al)系合金、MmNi5-x(Co,Mn,Al,Fe)系合金を好適に用いることができる。ミッシュメタルは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)等の少なくとも一つを含む。
セパレータ23は、不織布、多数の微細な孔が設けられた樹脂製の膜、その他の液体を保持可能なシート、又はそれらの組み合わせである。例えば、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の不織布、又は不織布にスルホン化などの親水処理を施したものである。セパレータ23は単層であってもよいし、複数の層から構成されるものであってもよい。
電解液は、セパレータ23に保持される。電解液は、水酸化カリウム(KOH)を溶質の主成分とするアルカリ性水溶液である。
<電池モジュール11>
電池モジュール11の充電状態は、SOC(State Of Charge)で示される。SOCは、電池モジュール11に実際に充電されている電気量の定格容量に対する割合である。SOCは、電池モジュール11に対する充放電履歴に基づいて算出可能である他、開放された端子間の端子間電圧(OCV等)やインピーダンス、起電圧の推定等の周知の方法でも算出することができる。
ニッケル水素蓄電池の正極における充電反応は、式(1)にて表される。また、SOCが100%に近づく充電末期には、正極では、式(2)で表される反応が生じる。また、負極における充電反応は、式(3)にて表される。また、負極では、式(4)で表されるように電解液中の水が電気分解される。放電時には、逆方向に反応が進行する。
・正極
Ni(OH)+OH→NiOOH+HO+e…(1)
OH→1/4O+1/2HO+e…(2)
・負極
M+HO+e→MH+OH…(3)
O+e→1/2H+OH…(4)
反応式(2)、(4)を合わせると、反応式(5)に示すように、水の電気分解で酸素ガス(酸素分子:O)と水素ガス(水素分子:H)とが生じる反応となる。このとき、酸素ガスと水素ガスとの比率(H/O比率)であるガス比率は「2」となる。
2HO→2H+O…(5)
<電池モジュール11の製造方法>
図2を参照して、電池モジュール11の製造方法について説明する。
図2が示す電池モジュール11の製造方法は、極板群20が製造された後の工程を示す。製造方法は、モジュール組立工程(S10)、コバルト充電工程(S11)、活性化工程(S12)、エージング工程(S13)、検査工程(S14)と、組電池の組立工程(S15)とを有する。
モジュール組立工程(S10)では、極板群20を電槽15に収容し、極板群20、集電部24,25等の接合箇所を接合し、電解液を注入して、蓋部14でケース13の開口封止すること等により、電池モジュール11が組み立てられる。
次にコバルト充電工程(S11)について説明する。コバルト充電工程では、正極に含まれているコバルトや水酸化コバルトをオキシ水酸化コバルトとし、オキシ水酸化コバルトを主成分とする導電ネットワークを構築する。また、この工程では、過放電時の転極を防止する放電リザーブを負極に形成する。なお、導電ネットワークを構築するには低レートでの充電を要すること、未充電の負極の活物質は活性化がなされておらず高レートで充電することが困難であることに鑑み、低レートでの充電を行う。コバルト充電工程の条件は特に限定されないが、例えば、0.05C以上0.2C以下の充電レートでSOCが10%以上30%以下の所定のSOCになるまで充電を行う。SOCが所定のSOCに到達したとき、放電レートで、所定のSOCに到達するまで放電を行う。
次に活性化工程(S12)について説明する。なお、以下の工程の充放電では、一定のレートで充放電を行ってもよいし、充放電の途中でレートを変更してもよい。なお、活性化工程の充電レート、放電レート、及び時間等の条件は、第1活性化工程における電池モジュール11の内圧が、排気弁141の開弁圧に到達しないような条件とする。
活性化工程では、過充電工程、通常充放電工程、中間深放電工程、高SOC充放電工程、及び、リフレッシュ充放電工程を含む。
過充電工程は、水素吸蔵合金の表面に、微粉化の起点となる割れ(クラック)を新たに発生させるための工程である。この工程では、SOCが100%以上150%以下の範囲に含まれる上限値に到達するまで充電を行う。そして、SOCが上限値に達した直後、放電を行う。
通常充放電工程は、SOCが10%以上100%以下である範囲内で水素吸蔵合金を膨張及び縮小させ、過充電工程で発生した割れを起点として、微粉化を促進する工程である。この工程では、SOCが上記範囲(10%以上100%以下)内の上限値になるまで充電を行い、SOCが上限値に達した直後にSOCが上記範囲(10%以上100%以下)内の下限値になるまで放電を行う。また、SOCが下限値に達した直後、充電を行う。そして、充放電サイクル数が所定数に到達するまで充放電を繰り返す。通常充放電工程のSOCの上限値は、過充電工程のSOCの上限値よりも小さいことが好ましい。
次に図3及び図4を参照して中間深放電工程について説明する。中間深放電工程は、電池モジュール11の内圧を下げる工程である。中間深放電工程は、図3の時間T1~T2の期間に実行される。電池モジュール11の放電では、上記の式(5)の逆方向の反応式で表されるように、水素ガス及び酸素ガスが消費される副反応が進行する。この工程では、SOCが10%以下の下限値に到達するまで放電を行う。中間深放電工程におけるSOCの下限値は、通常充放電工程のSOCの下限値よりも小さくてもよい。但し、副反応においてSOCが低くなるほど電池モジュール11の内圧は低下する傾向となるため、SOCが5%以下であることが好ましく、SOCが2%以下であることがさらに好ましい。また、放電レートは、例えば2.3C以上4.6以下であってもよい。さらにSOCが下限値に到達した状態を、例えば30分間~1時間等、所定時間維持するようにしてもよい。
図4に示すように、電池モジュール11の内圧は、中間深放電工程が行われる時間T1~T2を中心に低下する。このように予め内圧を低下させることによって、後に実行される高SOC充放電工程によって内圧が上昇しても、内圧が排気弁141の開弁圧に到達することを防ぐことができる。
次に図3を参照して、高SOC充放電工程について説明する。高SOC充放電工程は、図3の時間T2~T3の期間に実行される。この高SOC充放電工程は、水素吸蔵合金内に水素原子又は水素分子を滞留させることにより脆化を進行させるための工程である。水素と合金等の金属とを接触させることで金属が脆化するメカニズムは未だ明らかではないが、高いSOCを継続して維持することによって、合金が脆化する。本発明者らは、SOCの変動範囲を、SOC100%を含む高SOC状態と、高SOC状態よりも低い低SOC状態とに分けたとき、高SOC状態に維持された状態で充電及び放電を繰り返すことで、負極吸蔵合金の微粉化を促進させる相乗効果が得られることを見出した。SOCの変動範囲は、特に限定されないが、例えば0%以上150%以下である。なお、SOCの変動範囲は、電池モジュール11が出荷後に使用されるときの使用可能範囲と異なっていてもよい。また、低SOC状態は、少なくともSOC50%を含む。低SOC状態の最小値から最大値までのSOCの幅(ΔSOC)は「60%」以上「130%」以下であってもよく、「90%」以上「120%」以下であってもよく、さらには「100%」以上「110%」以下であってもよい。高SOC状態における最小値から最大値までのSOCの幅(ΔSOC)は「20%」以上「80%」以下であってもよく、さらには「30%」以上「60%」以下であってもよく、「40%」以上「50%」以下であってもよい。高SOC状態は、電池モジュール11のSOCが、80%以上150%以下の状態であり、さらには90%以上150%以下の状態であってもよい。低SOC状態は、電池モジュール11のSOCが、0%以上80%未満であり、さらには0%以上90%未満であってもよい。
高SOC充放電工程は、1時間以上継続されることが好ましい。また、高SOC充放電工程は、2.3C以上4.6C以下の高いレートで充放電を繰り返す。このような高レートで充放電を繰り返し行うことで、充放電サイクル数を増加させることができる。
また図3に示すように、高SOC充放電工程は、SOCの上限値が、充放電のサイクル数が増加するに伴い大きくなるように充放電を繰り返してもよい。上限値を大きくする場合には、合金に吸蔵される水素量を徐々に大きくすることができるので、脆化が進みやすくなる。或いは、SOCの上限値は一定であってもよい。
図4に示すように、高SOC充放電工程(時間T2~T3)では電池モジュール11の内圧は充電に伴い上昇し放電に伴い下降する。高SOC充放電工程において内圧が全体的に上昇しても、予め中間深放電効果を行うことによって、排気弁141の開弁圧以下の所定範囲に収まる。
次にリフレッシュ充放電工程について説明する。一般的にニッケル水素蓄電池を含めた電池は、使用条件に応じて、充放電可能範囲を狭める効果であるメモリ効果が生じることがある。特に高SOC充放電工程のように狭いSOC範囲で充放電を繰り返すとその影響が顕著である。このため、高SOC充放電工程を行った後は、電池モジュール11を満充電としてから深い放電を行うことによりメモリ効果を解消する。リフレッシュ充放電工程は、図3に示す時間T3~T4の期間に実行される。リフレッシュ充放電工程の充電レート及び放電レートは特に限定されないが、例えば高SOC充放電工程と同じレートで行うことが可能である。
図4に示すように、リフレッシュ充放電工程(T3~T4)では電池モジュール11の内圧が上昇しやすい。このため、排気弁141が開弁圧に到達しないように充電レート等を調整する。
このように活性化工程を行うと、エージング工程(S13)を行う。エージング工程では、例えば、電池モジュール11を満充電状態とした後、2つの接続端子を開放した状態で所定期間、所定温度となる環境下で保存する。所定温度は、例えば、50℃である。
検査工程(S14)は、電池モジュール11を検査する工程であり、検査で良品と判定された所定個数の電池モジュール11を用いて組電池が組み立てられる(S15)。
次に図5を参照して、活性化工程において高SOC充放電工程を行わない場合について説明する。通常充放電工程を行った後、SOCの変動範囲に低SOC状態を含む充放電工程(時間T10~T11)と、リフレッシュ充放電工程(T11~T12)を行う。この充放電工程の例では、低いSOCに到達するまで放電を行う点が高SOC充放電工程と異なる。この充放電工程の例では、SOC100%を超える過充電状態を30分程度維持した後に、SOCが10%~20%程度になるまで放電を行う充放電サイクルを2回繰り返している。
図6は、図5に示すようにSOCを変化させて活性化工程を行った電池モジュールの内部抵抗(DC-IR)と、高SOC充放電工程を含む電池モジュール11の内部抵抗とを比較するグラフである。活性化工程の中に高SOC充放電工程を含む3つの電池モジュールの内部抵抗は、活性化工程の中に高SOC充放電工程を含まない3つの電池モジュールの内部抵抗よりもいずれも低くなった。また、活性化工程の中に高SOC充放電工程を含まない3つの電池モジュールの内部抵抗の平均値50を基準とし「100%」とした場合、活性化工程の中に高SOC充放電工程を含む3つの電池モジュールの内部抵抗は98%以上99.3%以下となり、その平均値51は98.8%であった。なお、高SOC充放電工程と、高SOC充放電工程に代えて行われる充放電工程(時間T10~T11)の時間は同一であり、リフレッシュ充放電工程の時間も一定であるものとする。
図7を参照して、中間深放電工程を省略した活性化工程について説明する。図7は、高SOC充放電工程(T20~T21)、及び、リフレッシュ充放電工程(T21~T22)を実行したときのSOCの変化及び内圧変化を示す。活性化工程全体に要する時間は、図3及び図4に示す例の活性化工程全体に要する時間(T1~T4)と同一としている。高SOC充放電工程(T20~T21)において、高SOC状態の上限値に到達すると、高SOCの下限値に到達するまで放電し、以下この充放電を繰り返す。高SOC充放電工程が終了すると、リフレッシュ工程を行う。
図8に示すように、高SOC充放電工程を、中間深放電を挟まずに長時間継続すると電池モジュール11の内圧が排気弁141の開弁圧に到達する。これにより排気弁141が開いて、電池モジュール11内のガスが排気弁141を介して外部に放出される。排気弁141の開弁圧は、電池モジュール11内で発生しても電池特性に悪影響を与えないような圧力の許容範囲の最大値付近に設定されている。このため、排気弁141が開弁後は閉弁状態に復帰できない構造である場合、排気弁141が開弁すると電池モジュール11が使用できなくなるだけでなく、内圧が開弁圧に到達するまでガスが発生し続けることで電解液が枯渇する等、電池特性に悪影響を及ぼすことがある。このため、高SOC充放電工程を行う場合には、上記実施形態のように、中間深放電工程を高SOC充放電工程の前に予め行うことが好ましい。
上記実施形態の効果について説明する。
(1)SOC100%を含む高SOC状態で充放電サイクルを複数回繰り返す高SOC充放電工程を行うことで、合金内に拡散した水素が合金に脆性をもたらす。高いSOCを継続して維持することにより合金が脆化するのみでも微粉化が進むが、合金に水素を吸蔵させたままで充放電を繰り返すことで、合金を脆化させつつ合金を膨張及び収縮させることができ、微粉化による負極の活性化が促進される。また、高SOC充放電工程では、SOCを低SOC状態に到達させることなく高いSOCで充放電を繰り返すため低いSOCに至るまで放電するための時間を削減できる。このため、合金の膨張及び収縮の増加又は負極の活性化のための時間を短縮化することが可能となるため、微粉化による負極の活性化を効率よく行うことができる。このように合金の微粉化により負極を活性化することが可能となるため、ニッケル水素蓄電池の初期の内部抵抗を低減することができる。
(2)上記実施形態では、高SOC充放電工程の前に、予め低い充電状態まで放電する中間深放電工程を行う。これにより、高SOC充放電工程の途中又はその後において電池モジュール11の内圧が排気弁141の開弁圧に到達することを防ぐことができる。
(3)高SOC状態をSOC80%以上150%以下とした。このため、高SOC状態において合金の水素吸蔵量を多くすることができるため、合金に水素を吸蔵させた状態で充放電を繰り返し行うことができる。
(4)上記実施形態では、高SOC充放電工程の後にリフレッシュ充放電工程を行う。これにより、高SOC充電工程を行うことで発生又は増強されたメモリ効果を解消することができる。
(5)上記実施形態では、高SOC充放電工程の充電レート及び放電レートを、2.3C以上4.6C以下とした。これにより、1サイクルあたりの時間を短縮化することができるため、ニッケル水素蓄電池を製造するタクトタイムの制限の下で充放電回数を多くすることができる。これにより、微粉化による負極の活性化を促進することができる。
(6)上記実施形態では、高SOC充放電工程は、前記ニッケル水素蓄電池のSOCを前記高SOC状態に維持する時間が1時間以上であるこれによれば、1時間以上継続して充電状態を高い充電状態に維持することで、水素吸蔵合金を、電池モジュール11の内部抵抗を低下させる程度に十分に脆化することができる。
<変形例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、通常充放電工程及び中間深放電工程を別の工程とした。これに代えて若しくは加えて、通常充放電工程において、10%等の低いSOCに到達するまで深放電するようにしてもよい。この場合、通常充放電工程は、中間深放電工程を兼ねるため、中間深放電工程を省略してもよい。
・上記実施形態では、高SOC充放電工程に要する時間を1時間以上としたが、タクトタイムに応じて、1時間未満としてもよい。
・上記実施形態では、高SOC充放電工程の充電レート及び放電レートを、2.3C以上4.6C以下としたが、充電レート及び放電レートの少なくとも一方が当該範囲内であればよい。また、タクトタイムに応じて、高SOC充放電工程の充電レート及び放電レートを、2.3C未満、又は4.6C超としてもよい。
・上記実施形態では、活性化工程に、リフレッシュ充放電工程を含めるようにした。これに代えて、メモリ効果が小さい場合にはリフレッシュ充電工程を省略するようにしてもよい。
・上記実施形態では、高SOC状態は、SOCが80%以上150%以下の範囲であるとした。
・上記実施形態では、高SOC充放電工程の前に中間深放電工程を行うようにした。これに代えて、電池モジュール11の内圧が、排気弁141の開弁圧に到達しない条件で当該高SOC充放電工程を行うことができれば、中間深放電工程を省略してもよい。又は、高SOC充放電工程の途中で中間深放電工程を行うようにしてもよい。
・上記実施形態では、活性化工程は、過充電工程、通常充放電工程、中間深放電工程、高SOC充放電工程、及び、リフレッシュ充放電工程を含むものとしたが、活性化工程は、少なくとも高SOC充放電工程を含んでいればよい。活性化工程は、高SOC充放電工程に、過充電工程、通常充放電工程、中間深放電工程、及びリフレッシュ充放電工程の少なくとも一つを組み合わせることができる。又は、これらの工程以外の活性化のための工程を付加してもよい。
・上記実施形態では、中間深放電工程、及び高SOC充放電工程を一定の充電レート及び放電レートで行うようにした。これに代えて、これらの工程の少なくとも一方について、充電レート及び放電レートを段階的に変更してもよい。
・上記実施形態では、組電池を組み立てる前の電池モジュール11の各々について活性化工程を行うようにした。これに代えて、組電池に対して活性化工程を行うようにしてもよい。
・上記実施形態では、ニッケル水素蓄電池を、複数の単電池30を直列に接続した電池モジュール11に具体化して説明したが、負極に負極活物質を備えるものであればよく、この形態に限定されない。ニッケル水素蓄電池は、発電要素として1つの単電池30からなるものであってもよい。また、ニッケル水素蓄電池は、積層型の極板群20を備えるものに限らず、正極シート及び負極シートを、セパレータを介して捲回した捲回体を備えるものであってもよく、ボタン型のケース内に正極合材及び負極合材を充填したものであってもよく、その構成は限定されない。
・以上、上記実施形態により、本発明の実施形態を説明したが、充放電工程の条件、SOCの上限や下限など、状況に応じて負極の内部抵抗(DC-IR)が目標値まで低減するように設定を変えることができる。
11…ニッケル水素蓄電池としての電池モジュール
21…正極としての正極板
22…負極としての負極板

Claims (5)

  1. 水酸化ニッケルを活物質として含む正極と、水素吸蔵合金を活物質として含む負極と、アルカリ電解液とを備えたニッケル水素蓄電池の製造方法であって、
    前記ニッケル水素蓄電池の充電状態であるSOCの範囲には、SOC100%を含む高SOC状態と前記高SOC状態よりも低い低SOC状態が含まれ、
    前記ニッケル水素蓄電池のSOCを、80%以上150%以下の範囲の前記高SOC状態に維持しながら充放電を複数回繰り返す高SOC充放電工程を有する
    ニッケル水素蓄電池の製造方法。
  2. 前記高SOC充放電工程の直前に、10%以下の所定のSOCに到達するまで前記ニッケル水素蓄電池の放電を行う中間深放電工程をさらに含む
    請求項1に記載のニッケル水素蓄電池の製造方法。
  3. 前記高SOC充放電工程の直後に、100%以上且つ前記150%以下のSOCに到達するまでの充電、及び10%以下のSOCに到達するまでの放電を行うリフレッシュ充放電工程を有する
    請求項1又は2に記載のニッケル水素蓄電池の製造方法。
  4. 前記高SOC充放電工程は、充電レート及び放電レートの少なくとも一方が、2.3C以上4.6C以下である
    請求項1~のいずれか1項に記載のニッケル水素蓄電池の製造方法。
  5. 前記高SOC充放電工程は、前記ニッケル水素蓄電池のSOCを前記高SOC状態に維持する時間が1時間以上である
    請求項1~のいずれか1項に記載のニッケル水素蓄電池の製造方法。
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