JP7353424B2 - Au膜の形成方法 - Google Patents

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Description

本発明は、金スパッタリングターゲットによるAu膜の形成方法に関する。
金(Au)スパッタリングターゲットを用いて成膜されたAu膜は、Au自体の優れた化学的安定性と電気特性のために様々な分野で用いられている。例えば、水晶振動子デバイスにおいては、水晶チップの両面に形成する励振電極等としてAuスパッタ膜が用いられている。水晶振動子デバイスでは、Au膜の膜厚により振動周波数を調整すること等から、スパッタリング時に均一な膜厚分布でAu膜を成膜することが可能なAuスパッタリングターゲットが求められている。
スパッタリングターゲットの形状に関しては、プレーナマグネトロンスパッタリングに用いられる円板や矩形板等のプレート状のスパッタリングターゲットが一般的に知られている。これとは別に、円筒状のスパッタリングターゲットも知られている。円筒状のスパッタリングターゲットは、プレート状のスパッタリングターゲットに比べて、スパッタリング時におけるターゲット材料の使用率が向上することから、セラミックス材料のターゲット等で展開が始まり、金属/合金系のターゲットへの展開も進められており、銀(Ag)等の貴金属ターゲットへの適用も検討されている(特許文献1、2参照)。
Au膜の成膜に用いられるAuスパッタリングターゲットにおいても、プレート状ターゲットに限らず、円筒状ターゲットの使用が検討されている。しかしながら、従来のAuスパッタリングターゲットでは、プレート状ターゲットおよび円筒状ターゲットのいずれにおいても、水晶振動子デバイス等の電極として用いられるAu膜に求められる膜厚分布の均一性を満足させることが難しい。特に、円筒状のAuスパッタリングターゲットは、円筒形状加工に由来してAu膜の膜厚分布の均一性を高めることが難しい。
水晶振動子デバイスについて詳述すると、水晶振動子デバイスは携帯機器等に使用されており、携帯機器に対する小型化、軽量化、薄型化等の要求に伴って、水晶振動子デバイス自体も小型化、軽量化、薄型化等が求められている。例えば、水晶振動子デバイスのパッケージサイズは、5.0×3.2mm(5032サイズ)から、3.2×2.5mm(3252サイズ)、2.5×2.0mm(2520サイズ)、2.0×1.6mm(2016サイズ)、1.6×1.2mm(1612サイズ)へと小型化が進められており、それに伴って水晶振動子(水晶チップ)自体も小型化が進められている。
水晶振動子デバイスは、上述したように水晶チップ(ブランク)の両面にAu膜を電極として形成することにより構成される。水晶チップは、外形をエッチングにより整えて角を丸くする、またはプレスで抜いた場合に機械的に角を丸くし、重心が中央にくるようにして周波数を安定化させている。水晶チップの表面が粗いと周波数特性に悪影響を与えるので、平滑性が高いことが望まれる。水晶チップに形成される電極にも、平滑性が高いこと、すなわち膜厚バラツキが小さいことが望まれる。電極は厚さを有する立体構造であるため、水晶チップが小型化されると膜厚バラツキが立体形状に与える影響がより大きくなる。従って、水晶振動子デバイス等の小型化に伴って、電極に適用されるAu膜の膜厚バラツキをより小さくすることが求められている。
また、時計用として使用される周波数が32kHzの水晶振動子では、Au膜の質量のバラツキが周波数特性に及ぼす影響が大きい。周波数が32kHzの水晶振動子には、フォーク型や音叉型と呼ばれる形状が適用されている。音叉型水晶振動子は小型化に適するものの、Au膜の質量バラツキが周波数特性に影響を及ぼすことから、Au膜の膜厚バラツキに基づく質量バラツキを低減することが強く求められている。音叉型水晶振動子は周波数の調整が難しいことから、種々の工夫がなされてきた。例えば、Au膜の形成に関しては、蒸着法からスパッタリング法に移行している。Au膜をスパッタリング法で形成した後、レーザビームでAu膜の一部を除去して質量を調整したり、Au膜をスパッタリング法で形成する際に、質量調整用の錘を形成すること等が行われている。
このような状況下において、Au膜の膜厚バラツキに基づく質量バラツキを低減することが可能になれば、周波数の調整に要する手間を大幅に削減することができる。特に、水晶振動子が小型化するほど、膜厚バラツキの影響が大きくなるため、質量がばらつきやすくなる。このような点からも、Auスパッタ膜の膜厚バラツキを小さくすることが求められている。さらに、Au膜の使用用途によっては、より高純度のAu膜が求められることがある。例えば、Auの純度が99.999%以上というようなAu膜をスパッタリング法により形成する場合、Auの純度が99.999%以上のスパッタリングターゲットが用いられるが、そのような場合にAu膜の膜厚バラツキが生じやすくなる。このような点から、より高純度のAuスパッタリングターゲットを用いた場合において、Auスパッタ膜の膜厚バラツキを小さくすることが求められている。
特表2009-512779号公報 特開2013-204052号公報 国際公開第2015/111563号
本発明は、高純度のAu膜の膜厚分布の均一性を高めることを可能にした金スパッタリングターゲットを用いたAu膜の形成方法を提供することを目的とする。
本発明は、金および不可避不純物からなると共に、金純度が99.999%以上であり、スパッタ面を有するプレート状又は円筒状の金スパッタリングターゲットを用いたAu膜の形成方法において、前記金スパッタリングターゲットは、ビッカース硬さの平均値が20以上40未満であり、平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であり、前記スパッタ面は、下記要件を具備するように金の{110}面が優先配向していることを特徴とするAu膜の形成方法である。
条件:前記金スパッタリングターゲットの前記スパッタ面をX線回折し、金の各結晶面の回折強度比と下記の式(1)から各結晶面の配向指数Nを求めたとき、金の{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きいこと。
Figure 0007353424000001
式(1)において、I/I(hkl)はX線回折における(hkl)面の回折強度比、JCPDS・I/I(hkl)はJCPDSカードにおける(hkl)面の回折強度比、Σ(I/I(hkl))はX線回折における全結晶面の回折強度比の和、Σ(JCPDS・I/I(hkl))はJCPDSカードにおける全結晶面の回折強度比の和である。
また、本発明においては、前記スパッタリングターゲット全体としての前記ビッカース硬さのばらつきが±20%以内であることが好ましい。更に、前記スパッタリングターゲット全体としての前記平均結晶粒径のばらつきが±20%以内であることが好ましい。
そして、本発明に適用される金スパッタリングターゲットは、プレート形状又は円筒形状を有するものが好ましい。
本発明の金スパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜することによって、高純度で膜厚分布の均一性に優れる金膜を再現性よく得ることができる。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。実施形態のスパッタリングターゲットは、金(Au)および不可避不純物からなる。スパッタリングターゲットにおけるAuの純度は、99.999%以上に設定される。99.999%以上のAu純度を有するスパッタリングターゲットを用いることによって、高純度のAu膜を得ることができる。なお、Auスパッタリングターゲットに含まれるAu以外の不可避不純物は、特に限定されるものではなく、上記したAu純度を満足していればよい。また、AuスパッタリングターゲットのAu純度の上限値は、特に限定されるものではなく、Auスパッタ膜に求められる純度に応じて設定されるものであるが、Auスパッタリングターゲットの製造工程や製造コスト等を考慮すると99.9999%以下が一般的であり、実用的には99.9990%以上99.9998%以下が好ましい。
実施形態のAuスパッタリングターゲットの形状は、特に限定されるものではなく、プレートおよび円筒のいずれであってもよい。プレート状スパッタリングターゲットの代表的な形状としては、例えば円板や矩形板のような多角形板等が挙げられる。これら以外に、例えば円板や多角形板の一部をくり抜いて中空部を形成したもの、円板や多角形板の表面の一部に傾斜部、凸部、凹部等を設けたものであってもよく、その形状は特に限定されるものではない。円筒状スパッタリングターゲットの形状は、特に限定されるものではなく、スパッタリング装置に応じた形状等が適用される。円筒状スパッタリングターゲットの代表的な形状としては、例えば外径が170~50mm、内径が140~20mm、長さが100~3000mmの形状が挙げられる。Auスパッタリングターゲットは、スパッタされる表面(スパッタ面)を有する。プレート状スパッタリングターゲットの場合、プレートの表面がスパッタ面となり、円筒状スパッタリングターゲットの場合、円筒の表面(円筒面)がスパッタ面となる。
実施形態のAuスパッタリングターゲットは、20以上40未満のビッカース硬さを有することが好ましい。このようなビッカース硬さを有するAu純度が99.999%以上のAuスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ成膜を行うことによって、膜厚分布の均一性に優れる高純度のAu膜を成膜することができる。すなわち、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さが40HV以上であるということは、Au純度が99.999%以上のAuスパッタリングターゲット内に製造時に生じた歪が残存していることを意味する。このような場合、スパッタリング時にターゲットからの粒子の飛翔が不均一になり、膜厚分布の均一性が損なわれることになる。Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは35HV以下がより好ましく、30HV以下がさらに好ましい。一方、ビッカース硬さが20HV未満のAuスパッタリングターゲットは、それ自体の製造が困難であることに加えて、結晶の粒成長の発生に伴う結晶配向が崩れ始めると思われ、これにより膜厚分布の均一性が損なわれる。Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは23HV以上がより好ましく、26HV以上がさらに好ましい。
Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは、以下のようにして測定するものとする。プレート状スパッタリングターゲットの場合、測定箇所はスパッタ面(スパッタされる面)の任意の直線上の10mmおきの3か所と、スパッタ面に対して直交する第1の断面の厚さ方向に3分割した領域から各1か所の計3か所(実施例では厚さ5mmの試料に対して厚さ方向の直線上に1.5mmおきに計3か所)と、スパッタ面と第1の断面に対して直角な第2の断面の厚さ方向に3分割した領域から各1か所の計3か所(実施例では厚さ5mmの試料に対して厚さ方向の直線上に1.5mmおきに計3か所)の計9か所とする。これら各測定箇所のビッカース硬さを、200gfの試験力(押し付け荷重)で測定する。スパッタ面におけるビッカース硬さの平均値(HVav1)、第1の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav2)、および第2の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)を、それぞれ算出する。これらスパッタ面、第1の断面、および第2の断面の各平均値(HVav1、HVav2、HVav3)を平均し、その値をプレート状のAuスパッタリングターゲットの全体としてのビッカース硬さの平均値(HVtav)とする。
プレート状のAuスパッタリングターゲットにおいては、上述したスパッタ面のビッカース硬さの平均値(HVav1)のターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav)に対する比(HVav1/HVtav)、第1の断面のビッカース硬さの平均値(HVav2)のターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav)に対する比(HVav2/HVtav)、および第2の断面におけるビッカース硬さの平均値のターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav)に対する比(HVav3/HVtav)が、それぞれ0.8~1.2の範囲であることが好ましい。すなわち、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さのばらつきを±20%以内とすることが好ましい。このように、Auスパッタリングターゲットの各部のビッカース硬さのばらつきを小さくすることによって、スパッタリング時における粒子の飛翔方向がより均一化され、膜厚分布の均一性がさらに向上する。
Auスパッタリングターゲットが円筒状スパッタリングターゲットの場合、測定箇所はスパッタ面(円筒面)における円筒軸に平行な任意の第1の直線上の10mmおきの3か所と、第1の直線から90°回転させた第2の直線上の10mmおきの3か所と、円筒軸に対して直交する断面の厚さ方向に3分割した領域から各1か所の計3か所(実施例では厚さ5mmの試料に対して厚さ方向の直線上に1.5mmおきに計3か所)の計9か所とする。これら各測定箇所のビッカース硬さを、200gfの試験力(押し付け荷重)で測定する。スパッタ面上の第1の直線上におけるビッカース硬さの平均値(HVav1)、第2の直線上におけるビッカース硬さの平均値(HVav2)、および断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)を、それぞれ算出する。これらスパッタ面および断面の各平均値(HVav1、HVav2、HVav3)をさらに平均し、その値を円筒状のAuスパッタリングターゲットの全体としてのビッカース硬さの平均値(HVtav)とする。
円筒状のAuスパッタリングターゲットにおいては、上述したスパッタ面の第1のビッカース硬さの平均値(HVav1)のターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav)に対する比(HVav1/HVtav)、スパッタ面の第2のビッカース硬さの平均値(HVav2)のターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav)に対する比(HVav2/HVtav)、および断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)のターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav)に対する比(HVav3/HVtav)が、それぞれ0.8~1.2の範囲であることが好ましい。すなわち、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さのばらつきを±20%以内とすることが好ましい。円筒状のAuスパッタリングターゲットの各部のビッカース硬さのばらつきを小さくすることによって、スパッタリング時における粒子の飛翔方向がより均一化され、膜厚分布の均一性がさらに向上する。円筒状のAuスパッタリングターゲットは、円筒状ターゲットを回転させながら円筒面全体がスパッタリングされるため、スパッタ面(円筒面)の各部におけるビッカース硬さのばらつきを小さくすることで、膜厚分布の均一性を向上させることができる。
実施形態のAuスパッタリングターゲットにおいて、平均結晶粒径は15μm以上200μm以下であることが好ましい。このような平均結晶粒径を有するAuスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ成膜を行うことによって、Au膜の膜厚分布の均一性をさらに高めることができる。すなわち、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径が15μm未満であると、スパッタリング時にターゲットからの粒子の飛翔が不均一になり、膜厚分布の均一性が損なわれるおそれがある。Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径は25μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましく、33μm以上がさらに好ましい。一方、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径が200μmを超えると、スパッタリング時における粒子の飛翔性が低下し、膜厚分布の均一性が損なわれるおそれがある。Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径は150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径は、以下のようにして測定するものとする。Auスパッタリングターゲットがプレート状スパッタリングターゲットの場合、測定箇所はスパッタ面の任意の直線上の10mmおきの3か所と、スパッタ面に対して直交する第1の断面の厚さ方向に3分割した領域から各1か所の計3か所(実施例では厚さ5mmの試料に対して厚さ方向の直線上に1.5mmおきに計3か所)と、スパッタ面と第1の断面に対して直角な第2の断面の厚さ方向に3分割した領域から各1か所の計3か所(実施例では厚さ5mmの試料に対して厚さ方向の直線上に1.5mmおきに計3か所)の計9か所とする。各測定箇所について光学顕微鏡で拡大写真を撮影する。写真の倍率は結晶粒径を計測しやすい倍率、例えば50倍または100倍とする。拡大写真の中心を通るように縦と横に直線を引き、それぞれの直線で切断された結晶粒の数を数える。なお、線分の端の結晶粒は、0.5個とカウントする。縦横それぞれの直線の長さを結晶粒の数で割り、縦横の平均粒径を求め、これらの値の平均値を1つの試料の平均粒径とする。
このようにして、スパッタ面における結晶粒径の平均値(ADav1)、第1の断面における結晶粒径の平均値(ADav2)、および第2の断面における結晶粒径の平均値(ADav3)を、それぞれ算出する。これらスパッタ面、第1の断面、および第2の断面の結晶粒径の各平均値(ADav1、ADav2、ADav3)をさらに平均し、その値をプレート状のAuスパッタリングターゲットの全体としての平均結晶粒径(ADtav)とする。
プレート状のAuスパッタリングターゲットにおいては、上述したスパッタ面の平均結晶粒径(ADav1)のターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)に対する比(ADav1/ADtav)、第1の断面の平均結晶粒径(ADav2)のターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)に対する比(ADav2/ADtav)、および第2の断面における平均結晶粒径(ADav3)のターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)に対する比(ADav3/ADtav)が、それぞれ0.8~1.2の範囲であることが好ましい。すなわち、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径のばらつきを±20%以内とすることが好ましい。このように、Auスパッタリングターゲットの各部の平均結晶粒径のばらつきを小さくすることによって、スパッタリング時における粒子の飛翔方向がより均一化され、膜厚分布の均一性がさらに向上する。
Auスパッタリングターゲットが円筒状スパッタリングターゲットの場合、測定箇所はスパッタ面(円筒面)における円筒軸に平行な任意の第1の直線上の10mmおきの3か所と、第1の直線から90°回転させた第2の直線上の10mmおきの3か所と、円筒軸に対して直交する断面の厚さ方向に3分割した領域から各1か所の計3か所(実施例では厚さ5mmの試料に対して厚さ方向の直線上に1.5mmおきに計3か所)の計9か所とする。スパッタ面の第1の直線上における結晶粒径の平均値(ADav1)、第2の直線上における結晶粒径の平均値(ADav2)、および断面における結晶粒径の平均値(ADav3)を、それぞれ算出する。これらスパッタ面および断面の各平均値(ADav1、ADav2、ADav3)をさらに平均し、その値を円筒状のAuスパッタリングターゲットの全体としての平均結晶粒径(ADtav)とする。
円筒状のAuスパッタリングターゲットにおいては、上述したスパッタ面の第1の平均結晶粒径(ADav1)のターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)に対する比(ADav1/ADtav)、スパッタ面の第2の平均結晶粒径(ADav2)のターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)に対する比(ADav2/ADtav)、および断面における平均結晶粒径(ADav3)のターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)に対する比(ADav3/ADtav)が、それぞれ0.8~1.2の範囲であることが好ましい。すなわち、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径のばらつきを±20%以内とすることが好ましい。このように、円筒状のAuスパッタリングターゲットの各部の平均結晶粒径のばらつきを小さくすることによって、スパッタリング時における粒子の飛翔方向がより均一化され、膜厚分布の均一性がさらに向上する。円筒状のAuスパッタリングターゲットは、円筒状ターゲットを回転させながら円筒面全体がスパッタリングされるため、スパッタ面(円筒面)の各部における平均結晶粒径のばらつきを小さくすることで、膜厚分布の均一性をさらに向上させることができる。
実施形態のAuスパッタリングターゲットにおいて、スパッタ面にはAuの{110}面が優先配向していることが好ましい。Auは面心立方格子構造を有し、それを構成する結晶面のうち、{110}面は他の結晶面よりスパッタされやすい。そのような{110}面をスパッタ面に優先配向させることによって、スパッタリング時における粒子の飛翔方向が安定するため、膜厚分布の均一性をさらに向上させることができる。ここで、スパッタ面が{110}面に優先配向している状態とは、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、Auの各結晶面の回折強度比から下記のウィルソンの式(1)から各結晶面の配向指数Nを求め、{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きい場合を示すものとする。Auの{110}面の配向指数Nは1.3以上であることがより好ましい。
Figure 0007353424000002
式(1)において、I/I(hkl)はX線回折における(hkl)面の回折強度比、JCPDS・I/I(hkl)はJCPDS(Joint Committee for Powder Diffraction Standards)カードにおける(hkl)面の回折強度比、Σ(I/I(hkl))はX線回折における全結晶面の回折強度比の和、Σ(JCPDS・I/I(hkl))はJCPDSカードにおける全結晶面の回折強度比の和である。
実施形態のAuスパッタリングターゲットは、上述した20以上40未満のビッカース硬さと15μm以上200μm以下の平均結晶粒径とAuの{110}面が優先配向したスパッタ面の組み合わせに基づいて、Au純度が99.999%以上の高純度のAuスパッタ膜の膜厚分布の均一性を格段に向上させることを可能にしたものである。すなわち、上述したビッカース硬さと平均結晶粒径とAuの優先配向面の個々の効果が相乗的に作用することによって、Au純度が99.999%以上のAuスパッタリングターゲットからスパッタリング時にAu粒子が飛翔する際の飛翔性およびその均一性、さらにAu粒子の飛翔方向の安定性が向上する。これらによって、例えば小型化が進められている水晶振動子デバイスのような電子デバイスの電極等に高純度のAuスパッタ膜を適用する際に、膜厚バラツキおよびそれに基づく質量バラツキが小さく、膜厚分布および質量分布の均一性に優れる高純度のAu膜を提供することが可能になる。
上述した実施形態のAuスパッタリングターゲットの製造方法は、特に限定されるものではない。実施形態のAuスパッタリングターゲットの製造方法は、例えば、99.999%以上の金純度を有する金インゴットを用意する工程と、金インゴットを加工して所望の板状または円筒状の金ビレットを形成する第1の加工工程と、金ビレットを加圧下で板厚を減少させつつ加工して所望のプレート状または円筒状のターゲット素材を形成する第
2の加工工程と、ターゲット素材を熱処理する熱処理工程とを具備することが好ましい。
実施形態のAuスパッタリングターゲットの製造方法について詳述する。例えば、プレート状のAuスパッタリングターゲットの場合には、Au原料の鋳造、切削、鍛造、および熱処理を組み合わせた製造方法により作製することができる。また、プレート状のAuスパッタリングターゲットの場合、Au原料の鍛造に代えて、圧延を適用してもよい。円筒状のAuスパッタリングターゲットの場合には、Au原料の鋳造、切削、パイプ加工、および熱処理を組み合わせた製造方法により作製することができる。パイプ加工としては、ラフロ法のような押出加工、引き抜き加工、鍛造加工等が挙げられる。これら各加工工程における加工率や熱処理温度を制御することによって、上述したビッカース硬さ、平均結晶粒径、優先結晶面等を得ることができる。
Au原料の鋳造工程は、真空雰囲気または不活性雰囲気中にて黒鉛るつぼまたはセラミックスるつぼ内で溶解するか、あるいは大気溶解炉を用いて溶湯表面に不活性ガスを吹き付けながら、または炭素系固体シール材で溶湯表面を覆いながら黒鉛るつぼまたはセラミックスるつぼ内で溶解し、黒鉛または鋳鉄製の鋳型内に鋳造することにより実施することが好ましい。Au原料の鋳造工程は、AuインゴットのAu純度が99.999%以上(5N以上)となるように調整する。なお、AuインゴットのAu純度の上限値は、特に限定されるものではなく、Auスパッタ膜に求められる純度に応じて設定されるものであるが、Auインゴットの製造工程やAuスパッタリングターゲットの製造コスト等を考慮すると99.9999%以下とすることが一般的である。
次いで、鋳造したAuインゴットを所望の板状または円筒状の金ビレットに加工する(第1の加工工程)。プレート状のAuスパッタリングターゲットを作製する場合には、例えば板状に成形したAuインゴットの外周面の表面欠陥を研削除去することによって、板状の金ビレットを作製する。円筒状のAuスパッタリングターゲットを作製する場合には、円柱状に成形したAuインゴットの外周面の表面欠陥を研削除去すると共に、内部をくり抜き加工することによって、円筒状の金ビレットを作製する。
次に、金ビレットを所望のプレート状または円筒状のターゲット素材に加工する(第2の加工工程)。プレート状のAuスパッタリングターゲットを作製する場合には、板状のAuインゴットを所望のプレート形状に鍛造する。Auインゴットの鍛造工程は、200~800℃の範囲の熱間で実施することが好ましく、さらに加工率(断面減少率または厚さ減少率)が50%以上90%以下となるように実施することが好ましい。鍛造工程は複数回実施してもよく、その途中で熱処理を実施してもよい。鍛造工程を複数回実施する場合、加工率は全体としての加工率が50%以上90%以下となるように調整する。
鍛造加工の加工率を50%以上とすることによって、鋳造組織を壊して均一な再結晶組織が得られやすくなると共に、その後の熱処理工程における硬さや結晶粒径の制御性や均一性を高めることができる。Au鍛造材に必要に応じて冷間で圧延処理を施してもよい。圧延処理の加工率は鍛造時の加工率にもよるが、50%以上90%以下であることが好ましい。さらに、Auビレットの加工工程には、鍛造工程に代えて圧延工程を適用してもよい。Auビレットの圧延工程は、鍛造工程と同様に、200~800℃の範囲の熱間で実施することが好ましく、また加工率(断面減少率または厚さ減少率)が50~90%の範囲となるように実施することが好ましい。
円筒状のAuスパッタリングターゲットを作製する場合には、円柱状のAuビレットを、ラフロ法のような押出加工、引き抜き加工、鍛造加工等によりパイプ状に加工する。ラフロ法のような押出加工を適用する場合、押出加工は冷間で実施することが好ましく、またダイスの形状(内径等)とマンドレルの形状(外径等)によりパイプの外径および肉厚を制御する。この際、押出比(ビレットの外径/パイプの外径)を1.5以上3.0以下となるように調整することが好ましい。押出比を1.5以上とすることによって、鋳造組織を壊して均一な再結晶組織が得られやすくなると共に、その後の熱処理工程における硬さの制御性や均一性を高めることができる。ただし、押出比が3.0を超えると、内部歪が大きくなりすぎると共に、割れやシワ等が発生しやすくなる。
引き抜き加工を適用する場合、押出加工やくり抜き加工等で作製したAu素管を冷間で引き抜き加工して所望形状のパイプ状に加工することが好ましく、またダイスの形状(内径等)とプラグの形状(外径等)によりパイプの外径および肉厚を制御する。この際、1回当たりの加工率を2%以上5%以下に調整することが好ましい。引き抜き加工は複数回繰り返し実施することが好ましく、そのような場合に加工率の合計を50%以上90%以下に調整することが好ましい。加工率の合計を50%以上とすることによって、鋳造組織を壊して均一な再結晶組織が得られやすくなると共に、その後の熱処理工程における硬さの制御性や均一性を高めることができる。ただし、加工率の合計が90%を超えると、内部歪が大きくなりすぎると共に、割れやシワ等が発生しやすくなる。
鍛造加工を適用する場合、押出加工やくり抜き加工等で作製したAu素管を200~800℃の範囲の温度で熱間鍛造して所望のパイプ状に加工することが好ましく、また鍛造時の加工率によりパイプの外径および肉厚を制御する。鍛造工程は、加工率を30%以上80%以下に調整して実施することが好ましい。加工率を30%以上とすることによって、鋳造組織を壊して均一な再結晶組織が得られやすくなると共に、その後の熱処理工程における硬さの制御性や均一性を高めることができる。鍛造工程の加工率は50%以上がより好ましい。ただし、加工率が80%を超えると、内部歪が大きくなりすぎると共に、割れやシワ等が発生しやすくなる。
次に、鍛造工程や圧延工程で作製したプレート状のターゲット素材、およびパイプ加工で作製したパイプ状のターゲット素材を、例えば大気中または不活性ガス雰囲気中にて200℃以上500℃以下の温度で熱処理することによって、ターゲット素材の金属組織を再結晶させる。このような熱処理によって、20以上40未満のビッカース硬さを有するAuスパッタリングターゲットを得ることができる。さらに、15μm以上200μm以下の平均結晶粒径を有するAuスパッタリングターゲットや、スパッタ面を{110}面に優先配向させたAuスパッタリングターゲットを得ることかできる。熱処理工程は、複数回実施してもよい。熱処理工程後には、必要に応じて切削加工等によりスパッタリングターゲットの形状を整える工程を実施してもよい。
熱処理温度が200℃未満であると、加工時に生じた内部歪を十分に除去することができず、ビッカース硬さが40以上になるおそれがある。また、スパッタ面を{110}面に優先配向させることができないおそれがある。一方、熱処理温度が500℃を超えると、再結晶組織が成長しすぎて、平均結晶粒径が200μmを超えたり、スパッタ面が{110}面以外の結晶面に優先配向するおそれがある。熱処理温度による保持時間(熱処理時間)は、例えば10分以上120分以下とすることが好ましい。熱処理時間が短すぎると、歪の除去が不十分であったり、金属組織を十分に再結晶化させることができないおそれがある。一方、熱処理時間が長すぎると、ビッカース硬さが低下しすぎたり、平均結晶粒径が大きくなりすぎるおそれがある。
上述したように、Auインゴットをプレート状や円筒状に加工する工程の加工率と再結晶化熱処理工程の温度を制御することによって、ビッカース硬さが20以上40未満で、かつビッカース硬さのばらつきが小さいAuスパッタリングターゲットを得ることができる。さらに、平均結晶粒径が15μm以上200μm以下で、平均結晶粒径のばらつきが小さいAuスパッタリングターゲット、またスパッタ面を{110}面に優先配向させた
Auスパッタリングターゲットを得ることができる。このようなAuスパッタリングターゲットを用いてAu膜を成膜することによって、例えば水晶振動子デバイス等の電極に求められる膜厚分布の均一性を満足させた高純度のAu膜を得ることができる。実施形態のAuスパッタリングターゲットは、水晶振動子デバイスの電極膜(Au膜)に限らず、各種電子部品に適用されるAu膜の成膜に用いることができる。
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
(実施例1)
まず、Au塊を黒鉛るつぼに挿入して溶解した。Au溶湯を黒鉛鋳型に鋳造してAu板状のインゴットを作製した。Auインゴットの表面を研削除去することによって、幅が190mm、長さが270mm、厚さが50mmのAuビレット(純度99.999%)を作製した。次いで、Auビレットを800℃の温度で熱間鍛造し、幅が70mm、長さが200mm、厚さが45mmのAuターゲット素材とした。鍛造時の加工率は三軸方向共に80%とした。鍛造後のAuターゲット素材を500℃の温度で30分間熱処理した。熱処理後のAuターゲット素材を研削加工して、直径が152.4mm、厚さが5mmの円板状のAuスパッタリングターゲットを作製した。Auスパッタリングターゲットは、各部の特性測定と膜厚特性の測定のために2個作製した。以下の実施例および比較例においても同様である。
得られたAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さを、前述したプレート状スパッタリングターゲットの測定方法にしたがって測定した(装置名:mitsutoyo HM123)。前述した各測定箇所のビッカース硬さを、200gfの試験力(押し付け荷重)で測定した結果、スパッタ面のビッカース硬さの平均値(HVav1)は25.6、第1の断面のビッカース硬さの平均値(HVav2)は33.2、第2の断面のビッカース硬さの平均値(HVav3)は33.1、これら各値の平均値(ターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav))は30.6であった。ターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav)に対する各部のビッカース硬さ(HVav1、HVav2、HVav3)の比は、HVav1/HVtavが0.84、HVav2/HVtavが1.08、HVav3/HVtavが1.08であった。
さらに、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径を、前述したプレート状スパッタリングターゲットの測定方法にしたがって測定した。その結果、ターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)は32.2μmであった。また、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、前述した方法にしたがって優先配向している結晶面を評価した。その結果、スパッタ面にはAuの{110}面が優先配向していることが確認された。前述した方法にしたがって{110}面の配向指数Nを求めたところ、{110}面の配向指数Nは1.52であった。このようなAuスパッタリングターゲットを後述する成膜工程に供して特性を評価した。
(実施例2~7、比較例1~2)
実施例1と同様にして作製したAuビレットに対して、実施例1と同様に表1に示す加工率を適用した鍛造加工を施してAuターゲット素材を作製した。次いで、鍛造後のAuターゲット素材に表1に示す条件で熱処理を施した。この後、熱処理後のAuターゲット素材を研削加工することによって、実施例1と同一形状のAuスパッタリングターゲットを作製した。これらAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さ、平均結晶粒径、スパッタ面の優先配向面、および{110}面の配向指数Nを、実施例1と同様にして測定および評価した。それらの測定結果を表2に示す。このようなAuスパッタリングターゲットを後述する成膜工程に供して特性を評価した。なお、比較例1のAuスパッタリングターゲットでは、結晶粒界を明瞭に識別することができなかったため、平均結晶粒径を測定することはできなかった(表1中には「-」と表記)。
Figure 0007353424000003
Figure 0007353424000004
上述した実施例1~7および比較例1~2による各Auスパッタリングターゲットを枚様式スパッタリング装置(装置名:ANELVA SPF530H)に取り付け、装置内を1×10-3Pa以下まで真空排気した後、Arガス圧:0.4Pa、投入電力:DC100W、ターゲット-基板間距離:40mm、スパッタ時間:5分の条件でスパッタを行い、6インチSi基板(ウエハ)上にAu膜を成膜した。得られたAu膜の膜厚分布を以下のようにして評価した。Au膜を成膜した基板を蛍光X線膜厚計に取り付け、測定時間:60秒、繰り返し測定回数:10回、測定開始点:基板端部、測定点間隔:5mmの条件で、Au膜の膜厚を測定した。膜厚の測定軸は4軸、すなわち基板の中心を通る縦および横の2軸と、それから45度回転させた状態での基板の中心を通る縦および横の2軸とした。測定後、各測定点の10点平均膜厚を算出し、4軸の同測定位置における測定値の標準偏差を算出し、全測定位置の標準偏差の平均値を算出した。この値を膜厚の標準偏差σとして表3に示す。次に、Au膜の抵抗値を四端子法により測定し、膜厚と同様に抵抗値の標準偏差σを求めた。その結果を表3にAu膜の抵抗値の標準偏差σとして示す。
Figure 0007353424000005
表2および表3から明らかなように、実施例1~7の各Auスパッタリングターゲットにおいては、ビッカース硬さが20以上40未満の範囲であり、また各部のビッカース硬さのばらつきも小さいことが分かる。平均結晶粒径は15~200μmの範囲であり、さらにスパッタ面には{110}面が優先配向しており、{110}面の配向指数Nは1より大きいことが分かる。このようなビッカース硬さ、平均結晶粒径、およびスパッタ面の優先配向面が組み合わされたAuスパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜したAu膜は、膜厚分布の均一性に優れ、また抵抗値の均一性も優れていることが分かる。
(実施例8~12)
実施例1と同様にして作製したAuビレットに対して、実施例1と同様に表4に示す加工率を適用した鍛造加工を施してAuターゲット素材を作製した。次いで、鍛造後のAuターゲット素材に表4に示す条件で熱処理を施した。この後、熱処理後のAuターゲット素材を研削加工することによって、実施例1と同一形状のAuスパッタリングターゲットを作製した。
Figure 0007353424000006
得られたAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さを、実施例1と同様にして測定した。さらに、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径を、前述したプレート状スパッタリングターゲットの測定方法にしたがって測定した。測定結果として、スパッタ面、第1の断面、および第2の断面のそれぞれの平均結晶粒径(ADav1、ADav2、ADav3)、これら各値の平均値(ターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav))、およびターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)に対する各部の平均結晶粒径(ADav1、ADav2、ADav3)の比を、表5に示す。さらに、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、前述した方法にしたがって優先配向
している結晶面を評価した。前述した方法にしたがって{110}面の配向指数Nを求めた。それら結果を表5に示す。このようなAuスパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして成膜工程を実施し、Au膜の膜厚の標準偏差σと抵抗値の標準偏差σを求めた。それらの結果を表6に示す。
Figure 0007353424000007
Figure 0007353424000008
(実施例13~21、比較例3~4)
まず、Au塊を黒鉛るつぼに挿入して溶解した。Au溶湯を黒鉛鋳型に鋳造してAuインゴットを作製した。Auインゴットの表面を研削除去することによって、幅が200mm、長さが300mm、厚さが45mmのAuビレット(純度99.999%)を作製した。次いで、Auビレットを800℃の温度で熱間圧延し、幅が70mm、長さが200mm、厚さが45mmのAuターゲット素材とした。圧延時の加工率は厚さの減少率として80%とした。圧延後のAuターゲット素材を表7に示す条件で熱処理した。熱処理後のAuターゲット素材を研削加工して、直径が152.4mm、厚さが5mmの円板状のAuスパッタリングターゲットを作製した。
Figure 0007353424000009
得られたAuスパッタリングターゲットについて、ターゲット全体としてのビッカース硬さの平均値(HVtav)、およびターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)を、実施例1と同様にして測定した。さらに、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面に優先配向している結晶面を実施例1と同様にして評価すると共に、{110}面の配向指数Nを実施例1と同様にして求めた。それら結果を表8に示す。このようなAuスパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして成膜工程を実施し、Au膜の膜厚の標準偏差σと抵抗値の標準偏差σを求めた。それらの結果を表9に示す。
Figure 0007353424000010
Figure 0007353424000011
(実施例22)
まず、Au塊を黒鉛るつぼに挿入して溶解した。Au溶湯を黒鉛鋳型に鋳造して円柱状のAuインゴットを作製した。Auインゴットの表面を研削除去すると共に、内径50mmでくり抜き加工することによって、外径が100mm、内径が50mm、長さが200mmの円筒状Auビレット(純度99.999%)を作製した。次いで、円筒状Auビレットの中空部に芯材を挿入した状態で、800℃の温度に加熱して熱間鍛造し、外径が80mm、内径が50mm、長さが400mm以上のパイプ状Auターゲット素材とした。鍛造時の加工率は厚さの減少率として35%とした。鍛造後のパイプ状Auターゲット素材を500℃の温度で30分間熱処理した。熱処理後のAuターゲット素材を研削加工することによって、外径が70mm、内径が65mm、長さが350mmの円筒状のAuスパッタリングターゲットを作製した。
得られたAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さを、前述した円筒状スパッタリングターゲットの測定方法にしたがって測定した。各測定箇所のビッカース硬さを、200gfの試験力(押し付け荷重)で測定した結果、スパッタ面の第1の直線上におけるビッカース硬さの平均値(HVav1)は24.0、スパッタ面の第2の直線上におけるビッカース硬さの平均値(HVav2)は31.2、断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)は33.6、これら各値の平均値(ターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav))は29.6であった。ターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav)に対する各部のビッカース硬さ(HVav1、HVav2、HVav3)の比については、HVav1/HVtavが0.81、HVav2/HVtavが1.05、HVav3/HVtavが1.14であった。
さらに、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径を、前述した円筒状スパッタリングターゲットの測定方法にしたがって測定した。その結果、ターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)は36.3μmであった。また、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、前述した方法にしたがって優先配向している結晶面を評価した。その結果、スパッタ面にはAuの{110}面が優先配向していることが確認された。前述した方法にしたがって{110}面の配向指数Nを求めたところ、{110}面の配向指数Nは1.28であった。このような円筒状のAuスパッタリングターゲットを後述する成膜工程に供して特性を評価した。
(実施例23~28、比較例5~6)
実施例22と同様にして作製したAuビレットに対して、実施例22と同様に表10に示す加工率を適用した鍛造加工を施して円筒状のAuターゲット素材を作製した。次いで
、鍛造後のAuターゲット素材に表10に示す条件で熱処理を施した。この後、熱処理後のAuターゲット素材を研削加工することによって、実施例22と同一形状のAuスパッタリングターゲットを作製した。これらAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さ、および平均結晶粒径(ADtav)を、実施例22と同様にして測定した。さらに、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面に優先配向している結晶面を実施例22と同様にして評価すると共に、{110}面の配向指数Nを実施例22と同様にして求めた。それらの結果を表11に示す。このような円筒状のAuスパッタリングターゲットを後述する成膜工程に供して特性を評価した。
Figure 0007353424000012
Figure 0007353424000013
上述した実施例22~28および比較例5~6による各Auスパッタリングターゲットを円筒型スパッタリング装置に取り付け、装置内を1×10-3Pa以下まで真空排気した後、Arガス圧:0.4Pa、投入電力:DC100W、ターゲット-基板間距離:40mm、スパッタ時間:5分の条件でスパッタを行い、6インチSi基板(ウエハ)上にAu膜を成膜した。得られたAu膜の膜厚分布を前述した方法にしたがって測定し、Au膜の膜厚の標準偏差σを求めた。また、前述した方法にしたがってAu膜の抵抗値の標準偏差σを求めた。これらの結果を表12に示す。
Figure 0007353424000014
表11および表12から明らかなように、実施例22~24の各Auスパッタリングターゲットにおいては、ビッカース硬さが20以上40未満の範囲であり、各部のビッカース硬さのばらつきも小さいことが分かる。平均結晶粒径は15~200μmの範囲であり、スパッタ面には{110}面が優先配向しており、{110}面の配向指数Nは1より大きいことが分かる。このようなビッカース硬さ、平均結晶粒径、およびスパッタ面の優先配向面が組み合わされたAuスパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜したAu膜は、膜厚分布の均一性に優れ、また抵抗値の均一性も優れることが分かる。
(実施例29~33)
実施例22と同様にして作製したAuビレットに対して、実施例22と同様に表13に示す加工率を適用した鍛造加工を施して円筒状のAuターゲット素材を作製した。次いで、鍛造後のAuターゲット素材に表13に示す条件で熱処理を施した。この後、熱処理後のAuターゲット素材を研削加工することによって、実施例22と同一形状のAuスパッタリングターゲットを作製した。
Figure 0007353424000015
得られたAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さを、実施例22と同様にして測定した。さらに、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径を、前述した円筒状スパッタリングターゲットの測定方法にしたがって測定した。測定結果として、第1のスパッタ面、第2のスパッタ面、および断面のそれぞれの結晶粒径の平均値(ADav1、ADav2、ADav3)、これら各値の平均値(ターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav))、およびターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)に対する各部の平均結晶粒径(ADav1、ADav2、ADav3)の比を、表14に示す。さらに、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、前述した方法にしたがって優先配向している結晶面を評価すると共に、{110}面の配向指数Nを求めた。それらの結果を表14に示す。このようなAuスパッタリングターゲットを用いて、実施例22と同様にして成膜工程を実施し、Au膜の膜厚の標準偏差σと抵抗値の標準偏差σを測定した。それらの結果を表15に示す。
Figure 0007353424000016
Figure 0007353424000017
本発明のAuスパッタリングターゲットは、各種の用途に用いられる高純度のAu膜の成膜用として有用である。本発明のAuスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うことによって、膜厚分布および抵抗値の均一性に優れる高純度のAu膜を得ることができる。従って、各種用途に用いられるAu膜の特性を高めることができる。

Claims (5)

  1. 金および不可避不純物からなると共に、金純度が99.999%以上であり、スパッタ面を有するプレート状又は円筒状の金スパッタリングターゲットを用いたAu膜の形成方法において、
    前記金スパッタリングターゲットは、
    ビッカース硬さの平均値が20以上40未満であり、
    平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であり、
    前記スパッタ面は、下記要件を具備するように金の{110}面が優先配向していることを特徴とするAu膜の形成方法。
    前記金スパッタリングターゲットの前記スパッタ面をX線回折し、金の各結晶面の回折強度比と下記の式(1)から各結晶面の配向指数Nを求めたとき、金の{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きいこと。
    Figure 0007353424000018
    式(1)において、I/I(hkl)はX線回折における(hkl)面の回折強度比、JCPDS・I/I(hkl)はJCPDSカードにおける(hkl)面の回折強度比、Σ(I/I(hkl))はX線回折における全結晶面の回折強度比の和、Σ(JCPDS・I/I(hkl))はJCPDSカードにおける全結晶面の回折強度比の和である。
  2. 前記スパッタリングターゲット全体としての前記ビッカース硬さのばらつきが±20%以内である、請求項1に記載のAu膜の形成方法。
  3. 前記スパッタリングターゲット全体としての前記平均結晶粒径のばらつきが±20%以内である、請求項1または請求項2に記載のAu膜の形成方法。
  4. プレート形状を有する、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のAu膜の形成方法。
  5. 円筒形状を有する、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のAu膜の形成方法。


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