本発明の実施形態について、図を基に説明する。
図1及び図2は、本発明の光吸収フィルタが搭載された光源角度測定装置の実施の一形態の分解斜視図であり、図3は、図1及び図2に示した光源角度測定装置の組立状態を示す斜視図及び要部断面図であり、図4は、図1及び図2に示した光源角度測定装置の要部を示す斜視図である。
本形態における光源角度測定装置は図1~図4に示すように、外装を構成する箱状の筐体10と、この筐体10内に配置される受光部品40と、受光部品40が内部に配置された筐体10の蓋部材となるバックカバー50とから構成されている。
筐体10は、光源からの光の受光側となる表面10aの中央部に、その厚さ方向に貫通した1つの円形貫通部11が設けられているとともに、円形貫通部11の開口周縁部を取り囲むように環状の突起部12が設けられている。
筐体10の受光側とは反対側には、円板形状のアパーチャ(導光部材)31が配置されている。なお、アパーチャ31を、円形の板状部材ではなく、四角形等、他の外形としてもよい。アパーチャ31には、中心部において厚さ方向に外径が漸小する貫通孔31aが設けられている。アパーチャ31は、貫通孔31aのうち外径が最も大きい側が、筐体10が有する円形貫通部11側に向けられ、貫通孔31aの外径が最も小さい側の開口によって導光孔となるピンホール30が形成されている。これにより、貫通孔31aの外径が最も小さい側の径によってピンホール30の外径が規定されている。
筐体10は、環状の突起部12の内側の面が、ピンホール30までの光路の一部を構成する環状傾斜面12aとなっており、この環状傾斜面12aの延長線上にピンホール30が形成されている。これにより、筐体10の外からの光は、環状傾斜面12aから貫通孔31aの内面に沿ってピンホール30に導かれることになる。
このように構成されたアパーチャ31は、筐体10の内壁に設けられた円形凹部(固定部)10cに埋設され、2つのビスB1を介して筐体10に固定されている。
アパーチャ31と筐体10との間には、光吸収フィルタ2が配置されている。光吸収フィルタ2は筐体10に直接固定されていてもよいし、アパーチャ31に直接固定されていてもよいし、筐体10とアパーチャ31とに把持固定されていてもよい。ただし、ピンホール30と光吸収フィルタ2とは一定の距離が設けられていることが好ましい。ピンホール30と光吸収フィルタ2との距離が短いと、画角による入射高さの差が小さいため、光吸収フィルタ2において狭い範囲で光学濃度分布を作製する必要があり、光吸収フィルタ2の製造が難しくなるためである。
アパーチャ31が筐体10に固定されると、筐体10に設けられた円形貫通部11の環状傾斜面12aが、アパーチャ31の貫通孔31aに向けて傾斜して接続された状態となる。これにより、筐体10の外から入射する光の入射角は、円形貫通部11の環状傾斜面12aとこれに連続するアパーチャ31の貫通孔31aとで決定され、アパーチャ31を通過する最小の光径は、貫通孔31aの最小開口、すなわち、ピンホール30の直径で決定される。
アパーチャ31の受光側とは反対側には、アパーチャ31に対面するようにセンサ基板42が配置されている。センサ基板42には、光学センサとしてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)やCCD(Charge Coupled Device)等の受光素子41が実装されている。筐体10の外からの光は、環状傾斜面12aから貫通孔31aの内面に沿ってピンホール30に導かれ、ピンホール30から受光素子4に対し、ピンホール30の外形に沿ってスポット的に入射することになる。そのため、ピンホール30は、筐体10の外からの光を受光素子4上に集光する集光手段となる。この際、光吸収フィルタ2において、受光素子41に入射する光量が減衰され、入射角による照射強度が調整されることになる。
センサ基板42の受光側とは反対側には、画像処理基板43が配置されている。画像処理基板43には、受光素子41に入射した光による画像データを処理する演算手段となるIC(Integrated Circuit)が実装されており、測定対象となる光源からの光が光吸収フィルタ2及びアパーチャ31のピンホール30を介して受光素子41にスポット的に入射すると、その出力から光源の角度を測定することで測定対象の位置を検出する。
画像処理基板43の受光側とは反対側には、画像処理基板43にて画像処理されたデータ、すなわち、測定対象の位置を特定するためのデータを外部に出力する外部インターフェース基板44が配置されている。
センサ基板42は、筐体10の内壁10aに設けられたネジ穴に2つの連結ネジNが螺合されることで、筐体10に対して固定される。これにより、アパーチャ31のピンホール30と受光素子41のセンサ面との間の距離が所定の間隔、すなわち、ピンホール30を介して入射するスポット光が受光素子41の受光面に確実に着地する距離で固定される。なお、本実施形態においては、アパーチャ31と受光素子41とを接近してその間隔を小さく設定したことで、受光素子41の受光面の大きさを小さくできる。これにより、受光素子41の小型化に加えて、光源角度測定装置1の小型化や軽量化にも有効となる。
また、センサ基板42と画像処理基板43と外部インターフェース基板44とは、この順で連結ネジNによって相互に連結され、外部インターフェース基板44側から2つのビスB2により固定されている。これにより、センサ基板42と画像処理基板43との間、及び画像処理基板43と外部インターフェース基板44との間には、それぞれ、放熱用の空間が形成される。このように相互に連結したセンサ基板42、画像処理基板43及び外部インターフェース基板44は、センサ基板42と画像処理基板43とを連結する連結ネジNが筐体10の内壁10aに設けられたネジ穴に螺合されることで、筐体10に対して固定される。
上記のように構成、配置された光吸収フィルタ2、アパーチャ31、センサ基板42、画像処理基板43及び外部インターフェース基板44により、筐体10内に収容される光学部品が構成され、これら各光学部品が筐体10に収容され、そのまま、バックカバー50が2つのビスB3によって筐体10に固定されることで、筐体10の収容空間が実質的に封止される。なお、バックカバー50には、外部インターフェース基板44が有する2つの端子部44a,44bが挿通される2つの連通孔51が設けられている。
なお、本実施形態では、センサ基板42に対して、画像処理基板43と外部インターフェース基板44とを別々に基板として3層構造としたが、本発明はこれに限定されず、例えば、画像処理と外部インターフェースとを1つの基板とし、この基板とセンサ基板42とを組み合わせて2層構造としてもよく、また、イメージセンサと画像処理と外部インターフェースとを1つの基板に設けて1層構造としてもよい。このように基板の積層数を減らした場合、積層数を減らした分だけ、基板間の隙間や通信接続のための構成も無くなることになり、光源角度測定装置1の更なる小型化と軽量化を実現できる。
また、ピンホール30は、ガラス板などの透明な基板のピンホール以外の領域に光を透過させない金属の蒸着膜を成膜することで構成されていてもよい。図1~図4に示した光源角度測定装置1のピンホール30は、アパーチャ31の貫通孔31aを用いて構成されていたが、ガラス板への蒸着膜の成膜によってピンホール30を構成することで、ピンホール30自体の厚みをほとんど無視することができ、それにより、ピンホール30から受光素子41までの距離を短くすることができ、広角化を実現できる。
また、本実施形態では、アパーチャ31に対して受光素子41とは反対側に光吸収フィルタ2が配置されているが、アパーチャ31と受光素子41との間に光吸収フィルタ2を配置してもよい。この場合、アパーチャ31と受光素子41との距離が大きくなるものの、光吸収フィルタ2の屈折率を含めて受光素子41への入射角を決定し、受光素子41の大きさ等を決定すればよい。本実施形態では、アパーチャ31(ピンホール30)に対して受光素子41とは反対側にピンホール30から受光素子41の距離よりも離れた距離に光吸収フィルタ2を配置することによって、受光素子41の面積よりも広い領域に光吸収膜を成膜することができるので、濃度分布を緩やかにでき光吸収膜の濃度分布制御が行いやすい。
また、本実施形態では、筐体10とアパーチャ31とを別体で構成したが、筐体10とアパーチャ31とを一体の構造物としてもよい。このような構造とした場合、アパーチャ31と筐体10との間の取付けが無くなるため、受光素子41に対するピンホール30の位置精度が向上する他、例えば、取付構造としてのビスB1も不要となるため、軽量化にも有効なものとなる。なお、この場合も、光吸収フィルタ2は、受光素子41とピンホール30との間に設けてもよいし、本実施形態と同様に、ピンホール30の受光側に設けてもよい。
また、本実施形態では、アパーチャ31を筐体10に取り付け、その筐体10にセンサ基板42等を取り付けた構造例を説明したが、本発明は勿論これに限定されず、例えば、アパーチャ31をセンサ基板42に取り付けてもよい。
また、筐体10の外からの光を受光素子4上に集光する集光手段として、ピンホール30の代わりにスリットやレンズを用いてもよく、ピンホールやスリットとともにレンズを用いてもよい。さらに、光吸収フィルタ2と受光素子41との間にプリズムを設けてもよい。
例えば、図5に示すように、光吸収フィルタ2を筐体10の受光側に配置し、筐体10の受光側とは反対側において筐体10とピンホール30との間に、負レンズ60a,60bを配置した構成とすることも考えられる。このように構成された光源角度測定装置においては、負レンズ60a,60bによって、入射した光を屈折しピンホール30に導き、測定可能な光源の角度のさらなる広角化を実現することができる。なお、負レンズ60a,60bに正レンズを対向配置することで光学系をアフォーカル系としてもよい。負レンズ60a,60bはコストの観点から同一形状のものを2枚用いたが、異なる形状であっても、1枚であってもよい。このときの光学系は、ピンホール30に対して受光素子41とは反対側に負レンズ60a,60bを配置している。そして、光吸収フィルタ2は、負レンズ60a,60bよりも光源側に配置している。
光吸収フィルタ2は、ピンホール30に対して受光素子41とは反対側にピンホール30から受光素子41の距離よりも離れた距離に配置していることが好ましい。このようにすることで、受光素子41の面積よりも広い領域に光吸収膜22を成膜することができるので、濃度分布を緩やかにでき光吸収膜22の濃度分布制御が行いやすい。このときの光吸収フィルタ2の中心の光学濃度が一定な部分は、ピンホール30の径よりも大きく形成されている。
制御基板45は、ピンホール30の受光側とは反対側に配置され、図1に示したセンサ基板42、画像処理基板43及びインターフェース基板44の機能を有し、ピンホール30を介した光を受光する受光素子が搭載されている。このように配置された制御基板45は、連結ネジN及びビスB3によって筐体10及びバックカバー50に固定されている。
上記のように構成された光源角度測定装置においても、光源からの光は光吸収フィルタ2及びピンホール30を介して制御基板45上の受光素子に入射し、その入射角度や位置から光源の角度が測定される。
ここで、上記のように構成された光源角度測定装置1における測定対象光となる光源からの光の進行について説明する。
図6は、図1~図5に示した光源角度測定装置1における測定対象光となる光源からの光の進行を説明するための図である。
図1~図5に示した光源角度測定装置1においては、測定対象となる光源からの光は、上述したように、円形貫通部11を通過後、光吸収フィルタ2に入射し、光吸収フィルタ2を透過した光がピンホール30を介して受光素子41へ入射する。ここで、入射光と光吸収フィルタ2の面に対する法線とからなる角度を入射角θと称する。
その際、受光素子41に入射できる光は、図6に示すように、光吸収フィルタ2に入射した光のうち、光吸収フィルタ2の特定領域を通過した光のみとなる。この特定領域は、光吸収フィルタ2に入射する光の入射角θやピンホール30の大きさ、光吸収フィルタ2とピンホール30との距離等によって決まる。そして、入射角θの大きな光ほど、ピンホール30を通過して受光素子41に入射するためには、光吸収フィルタ2のうちピンホール30の中心から半径方向に離れた位置を通過することになる。
図7は、測定対象光の入射角に対する相対照度の依存を示すグラフである。
光吸収フィルタ2の光学濃度が面内方向で均一の場合、レンズ等により入射角の大きな光の照度を高めても、受光素子41に入射する光の相対照度は、図7に示すように、各入射角に対してcos4θに起因したカーブを有する特性となる。
本実施形態における光吸収フィルタ2は、入射角による照射強度を補正できるように、中心から放射状に径方向外側に向かって段階的または連続的に光学濃度が小さくなっていく構成としている。すなわち、受光素子41の各位置に入射した光の相対照度差が小さくなるように、受光素子41に到達する入射角θの大きな測定対象の光に対して、光吸収機能を小さくしていることを特徴としている。
更に、本実施形態における光吸収フィルタは受光素子41の感度を有する波長領域、即ち可視光波長から近赤外光波長(400~1200nm)の領域に光遮蔽領域を有している。このため、受光素子41に入射する光波長領域に制限がかかる。これにより、受光素子41上に集光する光の色収差が小さくなり、スポット光径が小さく・鮮明となる。本実施形態では光遮蔽領域を主に基板21の光吸収によって設けているが、光干渉膜で光遮蔽領域を設けた場合、図8(a)に示すように、入射角によって光遮蔽領域の変化や光透過領域における大きなリップルが発生してしまう。図8(b)に本実施形態に係る基板の、図8(c)に一般的な基板(B270i:SCHOTT社製)の入射角による透過率特性を示す。図8(b)より本実施形態の基板は入射角によらず、光遮蔽領域(図8(b)では700~1200nm程度)において安定して遮蔽機能を有していることが分かる。更に、光透過領域においても光干渉膜のようなリップルは見られない。なお、光透過波長において、入射角が大きくなるにつれて透過率が低くなるが、図8(c)に示した基板の入射角特性でも見られる現象であり、これは後述の光吸収膜で補正される。
なお、光吸収フィルタ2、アパーチャ31及び受光素子41は、測定対象に対してこの順で配置されていることが好ましい。このように配置することで、入射角による照度依存を好適に補正でき、さらにアパーチャ31と受光素子41との間隔を狭めることができるため、受光素子41の小型化にも貢献できる。
ここで、本発明の光吸収フィルタ2について詳細に説明する。
光学濃度(OD)Aは、下記式で表される。
OD(A)=-logT(m)
Tは、特定波長mの透過率を表す。
図9は、光吸収フィルタ2の断面図である。
本実施形態に係る光吸収フィルタ2は図9に示すように、基板21上に、少なくとも光吸収層222からなる光吸収膜22が積層されている。ここで、基板21は可視光領域から赤外波長領域において、光を透過する第一の波長領域と、基板21に含まれる光吸収剤によって光が吸収される第二の波長領域とを有する。ここでいう透過とは、透過率50%以上(基板の反射及び吸収が50%以下、光学濃度0.32以下)を示す。従って、可視光領域から赤外波長領域の光は、第二の波長領域において、基板21に含まれる光吸収剤と光吸収膜との吸収により遮蔽される。なお、本実施形態において遮蔽とは光学濃度3以上を指す。好ましくは、光学濃度3.5以上、より好ましくは光学濃度4以上を遮蔽と呼ぶ。このとき、所定の波長領域は、基板に含まれる吸収材の吸収のみで光学濃度3以上を実現してもよいが、透過領域から吸収が大きくなっていく遷移波長領域には、基板21の光吸収剤と光吸収膜によって遮蔽される波長領域が形成される。好ましくは、光吸収膜22は光吸収層222と誘電体層221からなり、最表層に反射防止層223が積層されて構成されている。光吸収膜22は、光吸収層222と誘電体層221とが複数層積層されて構成されている。そして、光吸収膜22は、光吸収膜22が成膜された領域の中心から径方向外側に向かって段階的または連続的に光学濃度が低くなる領域を有している。具体的には、成膜領域、すなわち基板21の面内方向の面積が互いに異なる複数の光吸収膜22を基板21の厚み方向で重なるように配置したり、光吸収膜22として、成膜領域の中心から外周に向けて連続的に光学濃度が低くなる領域を有する傾斜光吸収膜を形成したり、光吸収膜や傾斜光吸収膜を基板21の厚み方向で互いに重なるように配置したりした構成となっており、その詳細の構成例は後述の実施例にて示す。
また、光吸収膜22は基板21の外周部には形成されていないことが好ましい。図1~5で示した光源角度測定装置1に光吸収フィルタ2を配置する場合、光吸収フィルタ2とピンホール30や受光素子41などの位置関係を合わせる必要がある。このような時に、光吸収フィルタ2の外周部に光吸収膜22の非成膜領域があると、外周部と光吸収膜22との反射率が異なることより、光吸収フィルタ2の外周部が強調され、配置しやすくなる。
以下に、上述した基板21、光吸収膜22及び反射防止層223について説明する。
(基板)
本実施形態に係る光吸収フィルタの基板21には、受光素子41の感度を有する波長領域、即ち可視光波長から近赤外光波長の領域において、光を透過する第一の波長領域と、基板21に含まれる光吸収剤によって光が吸収される第二の波長領域とを有する。ここで、第一の波長領域における基板21の光吸収量は、光吸収膜22を構成する光吸収層21の内、最も光吸収の大きい層(以下、最大光吸収層)の光吸収量よりも小さく、第二の波長領域における光吸収量は最大光吸収層よりも大きいことが好ましい。光吸収層はその膜厚や組成により光吸収量を調整するが、必要とする光吸収量が大きくなると制御が難しくなる。基板21が第二の波長領域において、最大光吸収層よりも大きな光吸収を有していることより、光吸収フィルタ2として透過を制限する遮蔽領域において、十分な光吸収を確保するために必要な光吸収層の光吸収を効果的に低減することができる。
図10に本実施形態の光吸収フィルタに使用できる基板21の分光特性例を示す。図10のアの様に近赤外光波長領域に光学濃度0.5以上の透過率特性を有した基板、図10のイのように可視光波長領域に光学濃度0.5以上の透過率特性を有した可視光遮蔽基板、図10のウの様に、可視光波長領域と近赤外光波長領域に光学濃度0.5以上の透過率特性を有し、光学濃度0.5以上の透過率特性を有する波長領域の間に領域が形成される狭帯域透過基板を用いることもできる。光源角度測定装置に搭載した場合、受光素子上での色収差を小さくするには、透過領域が光学濃度0.5以上の透過率特性を有する領域よりも狭い基板を用いることがより好ましい。
図10のアの様に赤外光波長に光学濃度0.5以上の透過率特性を有する領域が形成される基板としては、例えば、C500S、CM500SなどのC-500シリーズ、C700、CM700などのC-700シリーズ、C5000、CM5000などのC-5000シリーズ(以上、HOYA CA光吸収EO OPTRONICS社製)、NF50T、NF50EなどのNFシリーズ(旭硝子社製)、IR-5188、IR-578などのIRシリーズ、BS-4、BS-12などのBSシリーズ(以上、松浪硝子工業社製)、SC504、SCM504や、SC807、SC807HなどのSC807シリーズ(以上、住田光学社製)、ISK150、ISK153などのISKシリーズ、IEC501、IEC508などのIECシリーズ(以上、五十鈴精工硝子社製)などの基板を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
また、図10のイの様に可視光波長領域に光学濃度0.5以上の透過率特性を有する領域を有する基板としては、R70、R72などのRシリーズ、IR76N、IR80NなどのIRシリーズ、RM90、RM100などのRMシリーズ、L42、Y52、O58、R66、W-IR780などのシャープカットフィルターシリーズ(以上、HOYA CA光吸収EO OPTRONICS社製)、S-RG-715、S-RG-780などのS-RGシリーズ(SCHOTT社製)などの基板を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
また、図10のウの様に可視光波長領域と赤外光波長領域の両方に光学濃度0.5以上の透過率特性を有する領域を形成された基板としては、IVG530、IVG540などのIVGシリーズ(五十鈴工業硝子社製)、S-VG6、S-VG14などのS-VGシリーズ(SCHOTT社製)などの基板を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
基板21の光学濃度0.5以上の透過率特性を有する領域における光吸収は、有機染料、有機顔料、無機顔料、金属イオンなどの光吸収剤によって設けることができるが、例えば太陽の位置情報の取得用途等の過酷な状況で使用する場合、耐光性や耐候性を考慮して無機顔料、金属イオンなどによる光吸収を用いることが好ましい。無機顔料としては例えば、鉄、クロム、チタン、亜鉛、鉛、銅、アルミなどの金属化合物が用いられ、金属イオンとしては、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、鉛、銅、マンガン、金、カドニウムなどを含む金属イオンが好適に用いられる。光吸収成分による光の散乱などを考慮した場合、金属イオンにより光遮蔽領域を設けることが更に好ましい。
本実施形態では、耐熱性や耐久性が高く、剛性も強いことにより、例えば太陽の位置情報の取得用途等の過酷な状況で使用することを考慮すると、基板としてガラス製の基板を用いることが好ましい。
更に、例えば宇宙空間での使用を考慮し、基板は耐放射線機能を有していることが好ましい。耐放射線機能は例えばCeやSn、Sbなどイオンあるいは化合物を添加することで得られ、例えばガンマ線照射量20krad程度の照射量において、基板の可視光波長から近赤外光波長領域の波長領域で透過率変化が略ないことが好ましい。
基板21の厚みは、必要とされる剛性を保持できる厚みでありながらも、軽量化のために極力薄いことが好ましく、0.4~5.0mm程度、さらには0.8~3.0mm程度が好ましい。
(光吸収膜)
本実施形態の光吸収フィルタは少なくとも一つの光吸収膜22からなり、光吸収膜による光吸収は主に光吸収層にて行われる。好ましくは、光吸収膜22は光吸収層222と誘電体層221の積層膜である。光吸収層222と誘電体層221とを適切な膜厚で積層させることで、光吸収層における光吸収量が所望の光波長領域に応じて略均一とすることができる。
光吸収層222は金属あるいは金属化合物からなり、例えば、Ti、Ni、Cr、Fe、Nb、Ta、等の金属や合金、酸化物、窒化物等を用いることができる。光吸収層222に金属酸化層や金属窒化層、金属酸化窒化層を用いる場合、光吸収層は光の吸収を得られる程度に化学量論的に欠損を有する。例えば、光吸収層をTiの酸化物であるTiOxとした場合、酸化数xは0<x<2を満たす。一般に、金属酸化物あるいは窒化物、若しくは酸化窒化物は、金属と比較すると消衰係数が小さい。このため、光吸収層の膜厚をある程度厚く保つことができ、膜設計の自由度が高まる。さらに、光吸収層に極端に薄い層を設ける必要がなくなるため、膜厚制御精度が向上し分光特性が良好で且つ、光学再現性の良い光吸収フィルタ2とすることができる。
一方、誘電体層221は金属化合物からなり、例えば、MgF2、SiO2、SiO、Si3H4、Al2O3、MgO、LaTiO3、ZrO2、TiO2、Nb2O5、Ta2O5等を用いることができる。誘電体層221としては、ガスバリア性が高く基板21の光透過領域に顕著な光吸収特性を有さないものが好ましく、例えばAl2O3やSiO2等が最適である。
光吸収層222及び誘電体層221は、真空蒸着やイオンプレーティング法、イオンアシスト法等の既知の様々な手法で成膜でき、必要に応じて、空気、酸素、窒素等の反応性ガスを導入してもよい。
なお、光吸収膜22が光減衰機能を有する波長領域は、受光素子41の感度特性や測定対象にもよるが、光波長400~1200nm程度の一部あるいは全域であることが好ましい。これは、この波長領域が、CMOSやCCDといった一般的な受光素子41が感度を有し、かつ太陽、地球、恒星等の測定対象光の光量が比較的多いためである。
(反射防止膜)
光吸収フィルタ2には、その最表層に反射防止層223を形成することが好ましい。反射防止層223は、SiO2やMgF2等の屈折率の小さな材料からなり、反射を抑制する波長領域の中心波長をλとした時、光学膜厚がλ/4程度となるように成膜される。ここで、光学膜厚とは、屈折率と物理膜厚との積で表される。反射防止層223は、真空蒸着法やイオンプレーティング法、イオンアシスト法等の既知の様々な手法で成膜でき、必要に応じて成膜時に空気や酸素等のガスを導入する。なお、反射防止層223は必要に応じて屈折率の異なる複数の薄膜から形成されていてもよい。複数の薄膜から形成される場合も、最表層の光学膜厚はλ/4程度であることが好ましい。ここで、λ/4程度とは、(0.7×λ/4)~(1.3×λ/4)程度の膜厚を指す。光吸収膜に用いられる光吸収層222と誘電体層221との積層体を反射防止の膜設計とすることで、反射防止層223は必ずしも必要ではない場合がある。
以下に、本発明の光吸収フィルタ2の構成について複数の実施例を挙げて具体的に説明する。
(実施例1)
図11は、本発明に係る光吸収フィルタ2の実施例1における一形態を示す図であり、(a)は層構成を示す図、(b)は(a)に示した層構成の各領域における光学濃度(OD:Optical Density)を示すグラフ、(c)は上方から見た図である。更に図12は実施例1における光吸収フィルタの透過率特性を示したグラフである。
本形態における光吸収フィルタ2は図11(a),(c)に示すように、厚さ2mmの基板21(NF50T:旭硝子社製)の一方の面に光吸収膜22aが円型に形成されるととともに、基板21の他方の面に光吸収膜22bが円型に形成されて構成されている。光吸収膜22aと光吸収膜22bとは、基板21の面内方向における面積が互いに異なり、光吸収膜22bよりも光吸収膜22aの方がその面積が大きくなっている。そして、光吸収膜22aと光吸収膜22bとは、基板21における成膜領域の中心が基板21の厚み方向で重なっていることで、基板21の厚み方向で光吸収膜22bの全ての領域が光吸収膜22aに重なるように形成されている。また、光吸収膜22a,22bは、基板21よりもその面積が小さくなっており、それにより、光吸収膜22a,22bと基板21とが重なり合って光の減衰量が一定となる光減衰領域20aと、光吸収膜22aと基板21とが重なり合って、光減衰領域20aから光の減衰量が変化する光減衰領域20bと、基板21のみからなる非光減衰領域20cとを有している。なお、本実施例における基板21に含まれる光吸収剤が光学濃度0.5以上の透過率特性を有する波長領域は光波長700nm~1100nm程度である。
また、光吸収膜22aと光吸収膜22bとはその膜厚が互いに異なることで光学濃度が互いに異なり、光吸収膜22aの光学濃度は2.1であり、光吸収膜22bの光学濃度は0.4となっており、それにより、基板21の厚み方向で基板21と光吸収膜22aと光吸収膜22bとが重なる光減衰領域20aの光学濃度が2.5となり、基板21と光吸収膜22aとが重なる光減衰領域20bの光学濃度が2.1となっている。本実施例においては、610nmの波長において、基板の光吸収剤の光学濃度が0.5以上となり、610nmの波長以上の波長領域は、遮蔽している。これにより、本形態の光吸収フィルタ2は、図11(b)に示すように、光吸収膜22a,22bの成膜領域の中心から光吸収フィルタ2の端部に向かって光学濃度が放射状に径方向外側に向かって段階的に低くなっている。なお、本実施例において、光吸収フィルタ2の中心部側で基板21の光吸収剤と光吸収膜22a,22bとの光吸収で形成される遮蔽領域の最大の光学濃度は、光減衰領域20aにおいて750nm~1100nmの波長において、およそ7.5であった。このとき、基板21には均一に光吸収材が分散しており、光減衰領域20bも750~1100nmではおよそ7.1となり、光学濃度3以上となっている。
このように、光吸収膜22a,22bを有することで光が減衰して透過する光減衰領域20a,20bと、基板21のみからなることで光が減衰せずに透過する非光減衰領域20cとを有することで、非光減衰領域20cをつかむことができ、取り扱いやすくなる。さらに、非光減衰領域20cを撮像装置の筐体の取り付け部に挿入したり、接着剤を用いて撮像装置の筐体に接着したりすることができ取り扱い易くなる。また、受光素子に受光した光のうち光吸収機能によって減衰した光と減衰していない光との境界部分が明確となり、光軸と受光素子の中心を合わせ易くなる。本実施例においては、非光減衰領域20cは、基板31のみからなる領域であるため、光が反射して、境界部分がより明確になっている。光吸収膜を成膜していなければ、光の減衰量の違いによって境界がわかるため、反射防止膜を成膜してもよい。また、最表層の光学膜厚はλ/2程度とした増反射膜を成膜して境界をより分かり易くしてもよい。
なお、本実施例における光学濃度は光波長550nmにおける光学濃度を指す。しかし、光源角度測定装置1の受光素子41や光源となる位置取得対象によっては、任意の光波長で光学濃度を算出及び決定して良い。以後、特に言及しない限り、光学濃度とは光波長550nmにおける光学濃度とする。
以下に、図11に示した光吸収フィルタ2の作製方法について説明する。
図11に示した光吸収フィルタ2は、真空蒸着法によって作製し、誘電体層221をAl2O3層、光吸収層222をTiOx層、反射防止層223をMgF2層とすることができる。
その場合、まず、基板21を成膜治具にセットし、基板21の光吸収膜22aを成膜する面が蒸着材料と対向するように成膜治具を蒸着ドームに取り付ける。ここで、成膜治具には、光吸収膜22aの蒸着領域を決定する開口が設けられた成膜マスクが含まれる。
次に、蒸着ドームを蒸着チャンバーに投入し、排気を行う。蒸着チャンバー内が所望の真空度、例えば1.0×10-3Pa程度となったら、1層目の誘電体層221の成膜を行う。誘電体層221の成膜は、坩堝に充填されたアルミナ酸化物を電子ビームで加熱し、基板21に蒸着させることで行う。
基板21に成膜されたAl2O3層が所望の膜厚に到達したら、次に光吸収層222を成膜する。坩堝に充填されたチタン酸化物を電子ビームで加熱し、所望の膜厚となるように成膜する。
このように誘電体層221と光吸収層222との成膜を、その光学濃度が2.1程度となるまで所定の層数繰り返し行う。
その後、反射防止層223を形成する。反射防止層223の形成は、反射防止層223の出発材料である弗化マグネシウムが充填された坩堝を電子ビームにより加熱し、MgF2を所望の膜厚だけ成膜することによって行う。
反射防止層223の成膜が終わったら、ベントを行い、蒸着機チャンバー内の圧力を大気圧とし、基板21を取り出す。
このような成膜工程を行うことで、基板21の一方の面に所望の光学特性(本形態では光学濃度2.1)の光吸収膜22aを得た。なお、成膜中は蒸着ドームが所定の速度で回転しており、これにより、ドーム同一円周上における光吸収膜22aや反射防止膜223の膜厚が均一となり、成膜ロット間の光学特性の再現性を高めることができる。
次に、基板21の光吸収膜22aを形成した面とは反対側の面に、成膜面積及び濃度が光吸収膜22aとは異なる光吸収膜22bを形成する。
まず、基板の光吸収膜22bを形成する面に、光吸収膜22aを成膜する際に用いた成膜マスクよりも開口の小さな成膜マスクを設け、基板21の光吸収膜22aを成膜する面が蒸着材料と対向するように成膜治具を蒸着ドームに取り付ける。
次に、蒸着ドームを蒸着チャンバーに投入して、排気を行い、所定の圧力となったら成膜を開始する。光吸収膜22aと同様に、誘電体層221(Al2O3)と光吸収層222(TiOx)との成膜を、その光学濃度が0.4程度となるまで所定の層数繰り返し行う。
その後、反射防止層223(MgF2)を形成し、所望の光学特性(本形態では光学濃度0.4)の光吸収膜22bを得た。
なお、本形態では光吸収膜22aと光吸収膜22bとを基板21の異なる面に成膜したが、光吸収膜22aと光吸収膜22bとを基板21の同一面に設けてもよい。
表1に実施例1に係る光吸収膜の膜厚を示す。
表1より、実施例1に係る光吸収フィルタに形成される2つの光吸収膜22a、22bを形成する光吸収層(TiOx)の内、最も光吸収の大きい最大光吸収層、即ち最も膜厚の大きい光吸収層は光吸収膜22aの8層目のTiOxである。図13に基板21と最大光吸収層(8層目のTiOx)の光吸収率を比較したグラフを示す。図13より、光遮蔽領域(光波長700~1200nm程度)における基板21の光吸収は、最大光吸収層よりも大きく、光透過領域における基板21の光吸収は、最大光吸収層よりも小さくなっている。なお、実施例1の光吸収フィルタでは基板21の光吸収剤および光吸収膜22a、22bによって光の透過率が0.1%以下(すなわち光学濃度3以上)となるのは、610nm以上の波長領域となっている。そして、400~560nm程度では光学濃度が2.8以下となっており光吸収フィルタとして光は減衰するものの、基板の透過領域となっている。560nmから610nmは光吸収フィルタの減衰領域から遮蔽領域へ遷移する遷移領域となる。入射角が0°の時、実施例1の光吸収フィルタは、光吸収膜の形成状況により外周部の透過率が高くなり、透過領域、遮蔽領域、遷移領域の波長帯域が変化又は消失することがあるが、光吸収フィルタの使用方法を考慮すると、外周部程入射角の大きい光が入射し、これに起因した透過率損失が発生するため、透過領域、遮蔽領域、遷移領域の波長帯域が変化又は消失は実用的には問題ない。
図14は、図1~図5に示した光吸収フィルタ2の実施例1における他の形態を示す図である。
図1~図5に示した光吸収フィルタ2は、図11に示したものに代えて、図14に示すように光吸収膜22aと光吸収膜22bとを基板21の同一面に設けてもよい。
例えば、図14(a)に示すように、基板21の一方の面に、図11に示したものと同様の光吸収膜22aを形成し、光吸収膜22a上に図11に示したものと同様の光吸収膜22bを形成することが考えられる。その場合、光吸収膜22aと光吸収膜22bとは、基板21における成膜領域の中心が基板21の厚み方向で重なっているとともに、基板21の面内方向における面積が、光吸収膜22bよりも光吸収膜22aの方が大きくなっていることで、光吸収膜22aと光吸収膜22bとが重なる領域の周囲に光吸収膜22aのみの領域が配置された構成となり、それにより、本形態の光吸収フィルタ2においても、光吸収膜22a,22bの成膜領域の中心から光吸収フィルタ2の端部に向かって光学濃度が放射状に径方向外側に向かって段階的に低くなっている。
また、図14(b)に示すように、基板21の一方の面に、図11に示したものと同様の光吸収膜22bを形成し、光吸収膜22b上に図11に示したものと同様の光吸収膜22aを形成することが考えられる。その場合、光吸収膜22aと光吸収膜22bとは、基板21における成膜領域の中心が基板21の厚み方向で重なっているとともに、基板21の面内方向における面積が、光吸収膜22bよりも光吸収膜22aの方が大きくなっていることで、基板21の面内方向における面積が大きな光吸収膜22aが、基板21の面内方向における面積が小さな光吸収膜22bを覆って形成された状態となる。このように、基板21の面内方向における面積が大きな光吸収膜22aが、基板21の面内方向における面積が小さな光吸収膜22bを覆って形成された構成とした方が、密着性や環境安定性の面で有効なものとなる。
なお、図11及び図14示したものにおいては、光吸収膜22aと光吸収膜22bとが、その膜厚が互いに異なることで光学濃度が互いに異なっているが、膜厚が同一であることで光学濃度が互いに同一の構成としてもよい。
本形態では、光吸収膜22aと光吸収膜22bとを用いることで光学濃度が2段階となる光吸収フィルタ2を実現したが、さらに光吸収膜を追加し、光学濃度が3段階以上となる光吸収フィルタも考えられる。
図15は、図1~図5に示した光吸収フィルタ2の実施例1における他の形態を示す図である。
図1~図5に示した光吸収フィルタ2は、図11や図14示したものに代えて、図15に示すように光吸収膜22a,22bの他に光吸収膜22cを有する構成としてもよい。
例えば、図15(a)に示すように、基板21の一方の面に、図11に示したものと同様の光吸収膜22aを形成し、基板21の他方の面に、図11に示したものと同様の光吸収膜22bを形成し、さらに、光吸収膜22b上に光吸収膜22cを形成することが考えられる。光吸収膜22cは、基板21における成膜領域の中心が基板21の厚み方向で光吸収膜22a,22bと重なっているとともに、基板21の面内方向における面積が、光吸収膜22a,22bよりも小さい。それにより、光吸収膜22aと光吸収膜22bと光吸収膜22cとが重なる領域の周囲に、光吸収膜22aと光吸収膜22bとが重なる領域が配置され、光吸収膜22aと光吸収膜22bとが重なる領域の周囲に、光吸収膜22aのみの領域が配置された構成となり、本形態の光吸収フィルタ2は、光吸収膜22a~22cの成膜領域の中心から光吸収フィルタ2の端部に向かって光学濃度が放射状に径方向外側に向かって3段階に低くなっている。
また、図15(b)に示すように、基板21の一方の面に、図11に示したものと同様の光吸収膜22bを形成し、基板21の他方の面に、図15(a)に示したものと同様の光吸収膜22cを形成し、光吸収膜22c上に図15(b)用に光吸収膜22bを形成することが考えられる。その場合、光吸収膜22bと光吸収膜22cとは、基板21における成膜領域の中心が基板21の厚み方向で重なっているとともに、基板21の面内方向における面積が、光吸収膜22cよりも光吸収膜22bの方が大きくなっていることで、基板21の面内方向における面積が大きな光吸収膜22bが、基板21の面内方向における面積が小さな光吸収膜22cを覆って形成された状態となる。このように、基板21の面内方向における面積が大きな光吸収膜22bが、基板21の面内方向における面積が小さな光吸収膜22cを覆って形成された構成とした方が、密着性や環境安定性の面で有効なものとなる。
また、図15(c)に示すように、基板21の両面に成膜領域が同じ光吸収膜22a,22bを形成してもよい。本実施例のように、光学濃度2.1程度の光吸収膜を一回で成膜する場合、光学制御や膜応力が問題となる場合がある。このような場合には、例えば光学濃度1.05の光吸収膜22a,22bを基板21の両面に成膜領域が同じとなるように成膜してもよい。なお、成膜領域が同一となるように基板21の両面に形成される光吸収膜22a,22bは、その光学濃度が互いに異なるものとしてもよい。
本形態においては、3つの光吸収膜22a~22cを用いて光学濃度が3段階となる光吸収フィルタ2を実現したが、必要に応じて、光吸収膜をさらに追加して光学濃度が4段階以上となる光吸収フィルタとしてもよい。
(実施例2)
図16は、本発明に係る光吸収フィルタ2の実施例2における一形態を示す図であり、(a)は層構成を示す図、(b)は(a)に示した層構成の各領域における光学濃度(OD:Optical Density)を示すグラフ、(c)は上方から見た図である。
本形態における光吸収フィルタ2は図16(a),(c)に示すように、厚さ2mmの基板21(NF50T:旭硝子社製)の一方の面に光吸収膜として傾斜光吸収膜22dが円型に形成されて構成されている。傾斜光吸収膜22dは、基板21よりも面積が小さく形成されており、光学濃度が均一である円型の光学濃度均一領域22d-1と、光学濃度が光学濃度均一領域22d-1から放射状に径方向外側に向かって連続的に低くなっていくドーナッツ状の光学濃度傾斜領域22d-2とから構成されており、傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1と基板21とが重なり光の減衰量が一定となる光減衰領域20aと、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2によって光の減衰量が光減衰領域20aから変化する光減衰領域20bと、基板21のみからなる非光減衰領域20cとを有している。傾斜光吸収膜22dの光学濃度は、光学濃度均一領域22d-1が2.5となっており、光学濃度傾斜領域22d-2の外周部分が2.1となっている。これにより、本形態の光吸収フィルタ2は、図16(b)に示すように、光学濃度傾斜領域22d-2においてその成膜領域の中心から光吸収フィルタ2の端部に向かって光学濃度が放射状に径方向外側に向かって連続的に低くなっている。なお、本実施例において、光吸収フィルタ2の中心部側で基板21の光吸収剤と傾斜吸収膜22dとの光吸収で形成される遮蔽領域の最大の光学濃度は、光減衰領域20aにおいて750nm~1100nmの波長において、およそ7.5であった。基板21には均一に光吸収材が分散しており、光減衰領域20bも750~1100nmでの最大の光学濃度はおよそ7.1となり、光学濃度3以上となっている。
以下に、図16に示した光吸収フィルタ2の作製方法について説明する。
図17は、図16に示した光吸収フィルタ2の作製方法を説明するための図である。
図16に示した光吸収フィルタ2は、真空蒸着法によって作製し、誘電体層221、光吸収層222及び反射防止層223は、実施例1と同様にそれぞれAl2O3層、TiOx層、MgF2層とした。
まず、図17に示すように、ホルダー61及び成膜マスク62からなる成膜治具に基板21をセットし、基板21の傾斜光吸収膜22dを成膜する面が蒸着材料と対向するように成膜治具を蒸着ドームに取り付ける。この際、成膜マスク62の開口径により傾斜光吸収膜22dの蒸着領域が決定することになるが、成膜治具とは独立してブレード63を成膜マスクの開口径に重なるように配置する。ブレード63は、成膜マスク62によって形成される蒸着領域の中心付近から外周に向けてその面積が連続的に広くなる扇形形状となっている。
次に、蒸着ドームを蒸着チャンバーに投入し、排気を行う。蒸着チャンバー内が所望の真空度に達したら、蒸着源64からのAl2O3やTiOxを基板21に蒸着させることで、誘電体層221及び光吸収層222からなる傾斜光吸収膜22dの成膜を、光学濃度均一領域22d-1の光学濃度が2.5となるまで所定の層数繰り返し行う。
傾斜光吸収膜22dの成膜時は、実施例1に示したものと同様に蒸着ドームが回転するが、本実施例では蒸着治具も蒸着ドームとは独立して回転する。一方、ブレード63は固定されている。ブレード63が、上述したように、蒸着領域の中心付近から外周に向けてその面積が連続的に広くなる形状となっていることで、上記のようにして傾斜光吸収膜22dを成膜すると、傾斜光吸収膜22dの中心部分よりも外周部分の方が、蒸着源64からAl2O3やTiOxがブレード63によって多く遮蔽されることになり、基板21の成膜領域において、蒸着膜の膜厚に傾斜を設けることができる。これにより、光学濃度がその中心から放射状に径方向外側に向かって連続的に低くなっていく光学濃度傾斜領域22d-2を有する傾斜光吸収膜22dを形成することができる。このように、光学濃度傾斜領域22d-2は、蒸着源64からのAl2O3やTiOxアルミナ酸化物がブレード63により遮蔽されることによって形成されるため、光学濃度傾斜領域22d-2における光学濃度の低下の度合いを示す光学濃度の変化率は、ブレード63の形状によって決定することになる。
その後、ブレード63を取り外し、反射防止層223を形成する。これは、反射防止層223には、膜厚に傾斜を設ける必要がなく、上述したように、反射防止層223は、光学膜厚がλ/4程度の時に低反射化に有用であることで、むしろ傾斜を有さない方が好ましいためである。このようにして、図16に示したような、成膜領域の中心から外周に向かって光学濃度が放射状に径方向外側に向かって連続的に低くなる光学濃度傾斜領域22d-2を有する傾斜光吸収膜22dを形成することができる。
傾斜光吸収膜22dの成膜が終了したら、ベントを行い、蒸着チャンバーの圧力が大気圧となったら成膜治具を取り出す。
傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2は、上述した方法以外にも、例えば成膜領域を決定する成膜マスクと基板との間の距離を調整することによっても形成することができる。蒸着源からのアルミナ等の蒸着物は、成膜マスクの開口を介して基板21上に蒸着されることになるが、その際、蒸着物は開口から開口周囲にも入り込むことになる。そのため、成膜マスクと基板とを近接させた場合は、蒸着物は開口から開口周囲にほとんど入り込むことがなく、基板には開口に対向する領域のみに光吸収膜が形成されることになるが、成膜マスクと基板との間の距離を長くすれば開口からその周囲に蒸着物が入り込み、さらにその量が開口から遠ざかるほど少なくなり、それにより、基板の開口に対向する領域の周囲に、開口に対向する領域から放射状に径方向外側に向かって連続的にその膜厚が薄くなる光学濃度傾斜領域を形成することができる。
また、光吸収膜を構成する所定層の誘電体層221と光吸収層222の全ての蒸着膜が必ずしも傾斜を有する必要はなく、少なくとも光吸収層222の一部において光学濃度が変化する構成となっていればよい。
また、本実施例では、少なくとも光吸収層222の膜厚に傾斜を持たることで、光吸収膜の光学濃度に傾斜を生じさせて光学濃度が連続的に変化する構成としているが、光吸収層の成膜時に基板の外周付近から反応性ガスを吹きかけ、光吸収層の酸化数あるいは窒化数を光吸収膜の成膜領域の外周から中心に向かって連続的に変化させる(小さくする)ことでも光吸収膜の光学濃度に傾斜を生じさせることができる。
表2に実施例2に係る光吸収膜の膜厚を示す。なお、表2に示す膜厚は、光吸収フィルタ2の中心、即ち最も光学濃度の高い領域20aにおける膜厚である。
表2より、実施例2に係る光吸収フィルタに形成される光吸収膜22dを形成する光吸収層(TiOx)の内、最も光吸収の大きい最大光吸収層、即ち最も膜厚の大きい光吸収層は6層目のTiOxである。図18に基板21と最大光吸収層(6層目のTiOx)の光吸収率を比較したグラフを示す。図18より、光遮蔽領域(光波長700~1200nm程度)における基板21の光吸収は、最大光吸収層よりも大きく、光透過領域における基板21の光吸収は、最大光吸収層よりも小さくなっている。なお、基板21の光吸収剤および傾斜光吸収膜22dによって光の透過率が0.1%以下(すなわち光学濃度3以上)となるのは、610nm以上の波長領域となっている。そして、400~560nm程度では光学濃度が2.8以下となっており光吸収フィルタとして光は減衰するものの、基板の透過領域となっている。560nmから610nmは光吸収フィルタの減衰領域から遮蔽領域へ遷移する遷移領域となる。入射角が0°の時、実施例2の光吸収フィルタは、光吸収膜の形成状況により外周部の透過率が高くなり、透過領域、遮蔽領域、遷移領域の波長帯域が変化又は消失することがあるが、光吸収フィルタの使用方法を考慮すると、外周部程入射角の大きい光が入射し、これに起因した透過率損失が発生するため、透過領域、遮蔽領域、遷移領域の波長帯域は実質的にほとんど変化しない。
図19は、図1~図5に示した光吸収フィルタ2の実施例2における他の形態を示す図である。
図1~図5に示した光吸収フィルタ2は、図16に示したものに代えて、図19に示すように、基板21の一方の面に図16に示したものと同様の傾斜光吸収膜22dが形成されているとともに、基板21の他方の面に、基板21の成膜領域の面内方向で光学濃度が均一の均一光吸収膜となる光吸収膜22aが形成されたものであってもよい。
例えば、図19(a)に示すように、基板21の一方の面に、図16に示したものと同様の傾斜光吸収膜22dを形成し、基板21の他方の面に、傾斜光吸収膜22dとその外形を等しくし、基板21の成膜領域の面内方向で光学濃度が均一の光吸収膜22aを形成することが考えられる。傾斜光吸収膜22dと光吸収膜22aとは、基板21の面内方向における面積が互いに同一であり、基板21における成膜領域の中心が基板21の厚み方向で重なっていることで、基板21の厚み方向で互いに重なるように形成されている。これにより、図19(a)に示すものにおいては、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1とによって光の減衰量が一定となると基板21とが重なり合った光減衰領域20aと、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2によって光の減衰量が光減衰領域20aから変化する光減衰領域20bと、基板21のみからなる非光減衰領域20cとを有している。
また、図19(b)に示すように、光吸収膜22aの面積を傾斜光吸収22dの面積よりも大きくし、それにより、光吸収膜22aのみからなる領域を設け、光学濃度が均一となる領域を持たせてもよい。これにより、図19(b)に示すものにおいては、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1とによって光の減衰量が一定となると基板21とが重なり合った光減衰領域20aと、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2によって光の減衰量が光減衰領域20aから変化する光吸収膜22aと基板21とが重なり合った光減衰領域20bと、基板21のみからなる非光減衰領域20cとを有している。
上述したように本形態においては、傾斜光吸収膜22dを有するものの、基板21の厚み方向で傾斜光吸収膜22dの全ての領域に重なるように、光学濃度が均一の光吸収膜22aが形成されている。本発明の用途として、照度が非常に高い太陽光の位置情報を取得することが考えられ、一定以上の光減衰機能が求められる場合がある。このような場合は、光吸収膜22aによって成膜領域全体において光減衰機能を持たせた上で、光吸収フィルタ2の面内で、光源からの光の入射角が広い場合でも、受光素子に入射する光の照射強度の入射角による差が大きくならないように、光学濃度が連続的に変化する傾斜光吸収膜22dを設けることで、傾斜光吸収膜22dのみを有するものに対して、簡便に所望の光学特性が得られることがある。
なお、傾斜光吸収膜22dと光吸収膜22aとは、図19に示したもののように基板21の互いに異なる面に形成してもよいし、基板21の同一面に形成してもよい。また、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dとを基板21の同一面に形成する場合、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dとのいずれか一方で他方を覆うように形成してもよい。このような構成とすることで、覆われた光吸収膜22aあるいは傾斜光吸収膜22dの光学特性変化を抑制することができる。
また、複数の光吸収膜と傾斜光吸収膜とを組み合わせた構成も考えられる。
図20は、図1~図5に示した光吸収フィルタ2の実施例2における他の形態を示す図である。
本形態は図20に示すように、図19(b)に示した構成に加えて、傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1上に、基板21の成膜領域の面内方向で光学濃度が均一の光吸収膜22bが形成された光吸収フィルタ2である。
本形態のように、複数の光吸収膜22a,22bと傾斜光吸収膜22dとから光吸収フィルタ2を形成する場合は、光吸収膜22aの面積が傾斜光吸収膜22dの面積よりも大きく、傾斜光吸収膜22dの光学均一濃度領域22d-1の面積が光吸収膜22bの面積よりも大きく形成することが好ましい。これにより、本形態の光吸収フィルタ2は、成膜領域の中心部分においては、光吸収膜22a,22bと傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1とが重なり合い、成膜領域のその外側では、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1とが重なり合い、成膜領域のその外側では、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2とが重なり合い、成膜領域の最外周部分では、光吸収膜が光吸収膜22aのみからなっている。それにより、本形態においては、光吸収膜22a,22bと傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1とによって光の減衰量が一定となると基板21とが重なり合った光減衰領域20aと、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dとによって光の減衰量が光減衰領域20aから変化する基板21とが重なり合った光減衰領域20bと、光吸収膜22aと基板21とが重なり合った光減衰領域20dと、基板21のみからなる非光減衰領域20cとを有している。このような構成とすることにより、成膜領域の中心から光吸収フィルタ2の端部に向かって光学濃度が放射状に径方向外側に向かって段階的及び連続的に低くなっている。
なお、図20に示したものにおいては、光吸収膜22bと傾斜光吸収膜22dとが基板21の同一面に形成され、これら光吸収膜22b及び傾斜光吸収膜22dと光吸収膜22aとが基板21の互いに異なる面に形成されているが、これに限らず、光吸収膜22aと光吸収膜22bとが同一面に形成されていてもよいし、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dが同一面に形成されていてもよい。さらに、光吸収膜または傾斜光吸収膜を他の光吸収膜あるいは傾斜光吸収膜で覆う構成であってもよい。
このような構成とすることで、図7に示した入射角0~15°程度の相対照度が大きく、かつ相対照度の変化が小さな領域では、光吸収膜22a,22bと傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1、または、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1とによって光量を大きく減衰させ、また、図7に示した入射角15~65°程度の相対照度の変化が大きな領域では、光吸収膜22aと傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2とによって光量の減衰量を連続的に変化させ、また、図7に示した入射角65~80°程度の相対照度が小さく、かつ相対照度の変化の小さな領域では、光吸収膜22aのみによって光量をあまり減衰させず、それにより、入射角依存を好適に補正できるようになる。
図21は、図1~図5に示した光吸収フィルタ2の実施例2における、更なる他の形態を示す図であり、(a)は層構成を示す図、(b)は(a)に示した層構成の各領域における光学濃度を示すグラフ、(c)は上方から見た図である。
本形態における光吸収フィルタ2は図21(a),(c)に示すように、基板21の一方の面に光吸収膜として傾斜光吸収膜22dが円型に形成されているとともに、基板21の他方の面に光吸収膜として傾斜光吸収膜22eが円型に形成されて構成されている。傾斜光吸収膜22dは、光学濃度が均一である円型の光学濃度均一領域22d-1と、光学濃度が光学濃度均一領域22d-1から放射状に径方向外側に向かって連続的に低くなっていくドーナッツ状の光学濃度傾斜領域22d-2とから構成されている。傾斜光吸収膜22eは、光学濃度が均一である円型の光学濃度均一領域22e-1と、光学濃度が光学濃度均一領域22e-1から放射状に径方向外側に向かって連続的に低くなっていくドーナッツ状の光学濃度傾斜領域22e-2とから構成されている。傾斜光吸収膜22dと傾斜光吸収膜22eとは、基板21の面内方向における面積が互いに異なり、傾斜光吸収膜22eよりも傾斜光吸収膜22dの方がその面積が大きくなっている。また、傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1と傾斜光吸収膜22eの光学濃度均一領域22e-1とは、基板21の面内方向における面積が互いに異なり、傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1よりも傾斜光吸収膜22eの光学濃度均一領域22e-1の方がその面積が大きくなっている。そして、傾斜光吸収膜22dと傾斜光吸収膜22eとは、基板21における成膜領域の中心が基板21の厚み方向で重なっていることで、基板21の厚み方向で傾斜光吸収膜22eの全ての領域が傾斜光吸収膜22dに重なり、かつ、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2の一部が傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2と基板21の厚み方向でその一部が重なっている。すなわち、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2とは、光学濃度の変化率が互いに異なるものとなっている。
これにより、本形態の光吸収フィルタ2は、成膜領域の中心部分においては、傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1と傾斜光吸収膜22eの光学濃度均一領域22e-1とが重なり合い、成膜領域のその外側では、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と傾斜光吸収膜22eの光学濃度均一領域22e-1とが重なり合い、成膜領域のその外側では、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2とが重なり合い、成膜領域のその外側では、光吸収膜が傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22e-2のみからなっている。それにより、本形態においては、傾斜光吸収膜22d,22eの光学濃度均一領域22d-1,22e-1によって光の減衰量が一定となると基板21とが重なり合った光減衰領域20aと、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2によって光の減衰量が光減衰領域20aから変化すると基板21とが重なり合った光減衰領域20bと、基板21のみからなる非光減衰領域20cとを有している。このような構成とすることにより、図21(b)に示すように、成膜領域の中心から光吸収フィルタ2の端部に向かって放射状に径方向外側に向かって光学濃度が低くなっており、その光学濃度の変化率が異なる領域が存在することになる。なお、本形態の光吸収フィルタ2における光学濃度は、傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1と傾斜光吸収膜22eの光学濃度均一領域22e-1とが重なり合う領域が最も高く、光吸収膜が傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22e-2のみからなる領域が最も低いが、傾斜光吸収膜22dの光学濃度均一領域22d-1と傾斜光吸収膜22eの光学濃度均一領域22e-1とが重なり合う領域の光学濃度が2.5、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22e-2の外周部分の光学濃度が2.1となっている。本実施例においては、610nmの波長において、基板の透過率特性が光学濃度0.5以上となり、610nmの波長以上の波長領域は、遮蔽している。
本形態においては、上述したように、光学濃度の変化率が異なる領域が存在するが、その変化率は、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2における光学濃度の変化率と、傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2における光学濃度の変化率と、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2とが重なり合っているかどうかによって決まる。図21に示したものにおいては、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2における光学濃度の変化率が、傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2における光学濃度の変化率よりも小さいため、光学濃度の変化率は、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2とが重なり合っている領域が最も大きく、次に、傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2が傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と重なり合っていない領域が大きく、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2が傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2と重なり合っていない領域が最も小さくなる。本形態においては、傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2が全ての領域において傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と重なっているため、傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2が傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と重なり合っていない領域は存在せず、それにより、光学濃度の変化率が異なる領域が2つ存在する。もし、傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2が傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と重なり合っていない領域が存在すれば、光学濃度の変化率が異なる領域が3つ存在することになる。
このような構成とすることにより、図21に示した構成を有する光吸収フィルタ2においては、図7に示した入射角15~65°程度の相対照度の変化が大きな領域では、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と傾斜光吸収膜22eの光学濃度傾斜領域22e-2とによって光量の減衰量を大きな変化率で連続的に変化させることで、入射角依存を好適に補正できるようになる。その場合、図7に示した入射角0~15°程度の相対照度が大きく、かつ相対照度の変化が小さな領域では、傾斜光吸収膜22d,22eの光学濃度均一領域22d-1,22e-1、または、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2と傾斜光吸収膜22eの光学濃度均一領域22e-1とによって光量を大きく減衰させ、また、図7に示した入射角65~80°程度の相対照度が小さく、かつ相対照度の変化の小さな領域では、傾斜光吸収膜22dの光学濃度傾斜領域22d-2によって光量をあまり減衰させず、それにより、入射角依存を好適に補正できるようになる。
複数の傾斜光吸収膜22を有する形態としては図22に示すような構成とすることもできる。すなわち、図22(a)の様に複数の傾斜吸収膜22d,22eの均一濃度部の22d-1と22e-1の面積が同一であったり、図22(b)の様に3つの傾斜光吸収膜22d、22e、22fを有した構成、図22(c)の様に1つの光吸収膜22aと複数の傾斜光吸収膜22d、22eとを組み合わせた構成であってもよい。なお、当然、光吸収膜22aや傾斜光吸収膜22d、22e、22fは上述の構成に限らず、複数の光吸収膜を有していてもよいし、4つ以上の傾斜光吸収膜を有していてもよい。
なお、本実施例に示したもののように複数の光吸収膜あるいは傾斜光吸収膜を有する構成とする場合、成膜領域、すなわち、基板21の面内方向の面積が小さな光吸収膜あるいは傾斜光吸収膜が、成膜領域の面積が大きな光吸収膜あるいは傾斜光吸収膜上に形成されていてもよいし、反対に覆われていてもよい。密着性や光吸収フィルタの環境安定性を考慮すると、成膜領域の面積が小さな光吸収膜あるいは傾斜光吸収膜が成膜領域の面積が大きな光吸収膜あるいは傾斜光吸収膜に覆われていることが好ましい。
また、本実施例のように、複数の傾斜光吸収膜を用いた場合、光学濃度傾斜領域の光学濃度の変化率は複数の傾斜光吸収膜どうしで同じでもよいし、異なっていてもよいが、複数の傾斜光吸収膜の光学濃度の変化率が互いに異なる方が、より詳細に光吸収フィルタの光学特性を調整可能となり、図7に示した入射角による相対照度の特性を補正するのに適した光吸収フィルタとすることができる。
これらの光吸収フィルタは、前述と同様、成膜マスク62やブレード63を使用した成膜で傾斜光吸収膜を形成することができ、開口径の異なる複数の成膜マスク62を用いることで、成膜面積の異なる複数の傾斜光吸収膜を得ることができる。なお、複数の傾斜光吸収膜の傾斜領域における透過率傾斜率を変化させたい場合は、例えば、ブレード63の形状を調整することで対応できる。
上記実施例に示した構成を有する光吸収フィルタを本発明の光源角度測定装置に配置した場合における入射角θによる相対照度特性について説明する。
図23は、光吸収膜成膜領域において光学濃度分布を持たない単一濃度の光吸収フィルタと実施例1~2の光吸収フィルタを本発明の光源角度測定装置に配置した場合における入射角θによる相対照度をシミュレーションした結果を示す図である。ここで、相対照度とは、光源角度測定装置の光学系に起因する入射角θによる相対照度に、入射角θで光吸収フィルタに入射した光のうち、受光素子に到達可能な光吸収フィルタの領域を通過した光の透過率を掛け合わせ、入射角0°における照度を100%としたものである。なお、図28の相対照度は、光波長550nmにおける相対照度である。
単一濃度の光吸収フィルタを光源角度測定装置に配置した場合は、図23中実線で示すように、図7に示した照射強度の角度依存の特性が補正されることなくそのまま残る。すなわち、上述したように、入射角θが大きくなるにしたがって、入射角0°に対する相対照度の差が増大してしまう。入射角0°に対して照射強度の差が最も大きくなる入射角は80°であり、この時の入射角0°に対する相対照度は25%程度となってしまう。
一方、実施例1に示した構成を有する光吸収フィルタを光源角度測定装置に配置した場合は、図23中白丸で示すように、入射角θが大きくなるにしたがって、入射角0°に対する相対照度の差が増大していくものの、入射角θが60°よりも大きくなると、入射角0°に対する相対照度の差がそれ以上大きくならず、入射角0°に対する相対照度の差が一旦ゼロになる。これは、実施例1に示した構成を有する光吸収フィルタにおいては、光吸収膜の成膜領域中央部から一定の範囲においては、複数の光吸収膜によって光吸収フィルタを通過する際の光が大きく減衰するものの、それよりも外側の領域においては、1つまたは少ない光吸収膜によって光吸収フィルタを通過する際の光の減衰量が少なくなるためである。実施例1の構成による光学系においては、入射角0°に対して照射強度の差が最も大きくなる入射角は60°であり、この時の入射角0°に対する相対照度は35%程度であった。
また、実施例2に示した構成を有する光吸収フィルタを光源角度測定装置に配置した場合は、図23中黒三角で示すように、入射角θが大きくなっても、入射角0°に対する相対照度が100%前後で小さな幅で増減するだけである。これは、入射角θが大きくなるほど、光吸収フィルタを通過する際の光の減衰量が傾斜光吸収膜によって連続的に少なくなっていくためである。実施例2の構成による光学系においては、入射角0°に対して照射強度の差が最も大きくなる入射角は28°であり、この時の入射角0°に対する相対照度は110%程度であった。
上述したシミュレーション結果より、実施例1~2に示した構成を有する本発明の光吸収フィルタは、光源角度測定装置の入射角による照射強度差を好適に補正可能であることが分かる。このように、本実施形態に示した光吸収フィルタは、光源からの光の入射角が広い場合でも、受光素子に入射する光の照射強度の入射角による差を大きくすることなく、光源からの光をその光量を減衰させて受光素子に入射させるこができる。そのため、この光吸収フィルタを光源角度測定装置に搭載することで、より高精度に測定対象の位置情報を取得できるようになる。
ところで、図1~図5に示した光源角度測定装置1においては、受光素子41に入射した光は、例えば、センサ基板42において点像として抽出され、画像処理基板43において、この点像のXY重点座標(点像座標)から、測定対象光のX方向及びY方向の入射角が求められ、測定対象光の位置が特定される。
この際、点像の輝度値によって点像が測定対象に由来した光か判断することもできる。例えば、測定対象を太陽光とした時、地球等で反射された光も受光素子41に入射し、点像として抽出されることがある。すなわち、点像が複数存在し、どの点像が太陽光に由来する光であるのかを判別する必要がある場合がある。このような場合は、各点像の輝度値データに対してヒストグラムをとり各点像の輝度値に対して、所定の閾値を超えた像を太陽光の点像として抽出したり、複数の点像のうち輝度値が最も高い点像を太陽光として抽出したりすることができる。その際、実施例1~2に示した構成を有する光吸収フィルタを用いることで、太陽光からの光の入射角が広い場合でも、受光素子に入射する光の照射強度の入射角による差が大きくなることなく、太陽光からの光が受光素子に入射することになるため、例えば、測定対象光となる太陽光の入射角が広く、非測定対象光となる太陽光以外の光の入射角が狭い場合であっても、太陽光以外の光が測定対象光と誤認識されることはなく、太陽光と太陽光以外の光の点像の輝度値データにより測定対象光となる太陽光の点像を高精度に抽出可能となる。
(参考例)
参考例の光吸収フィルタは、可視光波長から近赤外領域にかけて有意な光吸収を有さない基板(B270i:SCHOTT社製)の一方の面に実施例1と同様な膜構成に加えて赤外カット膜をSiO2膜とTiO2膜の交互積層構成によって積層した。
図24に実施例1及び2、参考例の光吸収フィルタの入射角0°における透過率スペクトル、図25に実施例1及び2、参考例の光吸収フィルタの入射角60°における透過スペクトルを示す。更に、表3に本実施形態の光源角度測定装置に実施例1及び2、参考例の光吸収フィルタを搭載した際の、受光素子41に入射する太陽光エネルギーの入射角による太陽光エネルギー比率を示す。なお、本実施形態の光源角度測定装置においては、実施例1及び参考例は入射角0~60°までは光吸収フィルタの20aの領域、それ以上の入射角の時は20bの領域を光が通過し、実施例2では入射角0°近辺では20aの領域、それ以外の時は入射角に応じて任意の20bの領域を光が通過する。図24、25より、入射角0°において、実施例1及び2、参考例の光吸収フィルタは透過領域に大きなリップルは見られず、700~1100nm程度の遮蔽領域において十分な遮蔽機能を有しているが、入射角が大きくなると、参考例の赤外カット膜は図8(a)に示すように干渉膜の光透過特性が変わり、光吸収膜の光学濃度分布によって透過光量を補正しても、入射角が大きくなると照射強度を適正に補正することができなくなる。なお、受光素子41に入射する太陽光エネルギーの算出には、本実施形態の光源角度測定装置の使用環境を鑑み、図26に示す、大気圏外での太陽光エネルギーを基にシミュレーションを行った。
表3より、入射角40°程度までは実施例1と参考例で明確な差は見られないが、入射角が60°以上程度となると、参考例では、光吸収膜で透過光量を補正しても入射角が大きくなるにつれて入射角0°に対する太陽光エネルギー比率は顕著に小さくなってしまう。これは、入射角が大きくなるにつれて、赤外カット膜の透過率特性が大きく変化してしまうことに起因している。なお、実施例2では入射角によらず、受光素子41に入射する太陽光エネルギーのバラツキが非常に小さくなっている。
以上より、実施例1及び2の光吸収フィルタは受光素子41へ入射する太陽光エネルギー強度の入射角によるバラツキをより小さくすることができる。
図27(a)、(b)、(c)にそれぞれ、本実施形態の光源角度測定装置1に実施例1、実施例2、参考例の光吸収フィルタを配置したときの、入射角60°における受光素子41上に集光した光の点像をシミレーションした図である。ここで、点像100aは光波長546nm、点像100bは光波長850nm、点像100cは光波長1050nmの点像である。
図27より、実施例1及び2において、点像は光波長546nmの点像100aのみが形成され、光波長850nm及び光波長1050nmの光は光吸収フィルタにより吸収されて実質的に受光素子41に到達しない。一方、参考例においては、光波長546nm、光波長1050nmの点像100a及び100cの点像が形成され、光波長850nmの光は光吸収フィルタに反射或は吸収され、受光素子41に実質的に到達しない。なお、図27は光波長546nm、光波長850nm、光波長1050nmの3点のみのシミュレーションであり、実際には光吸収フィルタ2を透過し、受光素子41に入射した全ての光波長により点像が形成される。すなわち、実際に受光素子41上に形成される点像は図27に示したものよりも大きいものとなる。基板21の遮蔽領域が広いほど受光素子41に実質的に入射する光波長領域を狭くすることができ、受光素子41に形成される点像を効果的に小さくすることができる。更に、遮蔽領域が透過領域よりも広いとより効果的に点像を小さくすることができる。
上述のように、本実施形態の光源角度測定装置1においては、例えば受光素子41に入射した太陽光の点像を画像処理することによりXY重点座標を取得し、太陽の位置を特定する。この時、点像の径が小さく、より鮮明であるほど、画像処理による演算精度が向上する。すなわち、実施例1及び2の光吸収フィルタは、光源角度測定装置1に搭載した際、参考例に示した光吸収フィルタに対し、測定光の位置検出精度向上に貢献することができる。
以上より、上述した実施例にて示した構成を有する光吸収フィルタ2を光源角度測定装置1に用いることで、光源からの光の入射角が広い場合でも、受光素子に入射する光の照射強度の入射角差を大きくすることなく、光量を減衰させて受光素子に入射させることができる。更に、基板光吸収剤と光吸収膜によって、受光素子41に入射する光波長を制限することで、受光素子41上で集光する光の色収差を小さくすることができ、太陽光などの被測定光の点像が小さく・鮮明となることで位置検出精度を向上させることができる。
一般に、受光素子41は大きなエネルギーが入射すると故障の要因になる。特に本実施形態の様に高エネルギーを有する太陽などの光源角度測定装置に使用する場合は、受光素子41が故障しないように、光吸収フィルタによって十分にエネルギーを減衰する必要がある。本発明の光吸収フィルタは、基板21の光吸収剤による吸収のため、光吸収膜22の光減衰量を低減することができ、光吸収フィルタ2の製造が容易となる効果も有する。
図28には本発明に係る光源角度測定装置を搭載した航行体の一例としての人工衛星を示している。人工衛星は、衛星本体131に通信アンテナ132、太陽電池パネル133、光学系134、スラスタ135等が搭載されている。
この光源角度測定装置を人工衛星(ここでは衛星本体131)に対して搭載する際には、光源角度測定装置の基準面を人工衛星の基準面と一致するようにして搭載することによって、光源角度測定装置の検出角度を良好に保つことができる。人工衛星の基準面としては、人工衛星に搭載される他のセンサにおける基準面と一致していても良い。