以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態の詳細が説明される。ただし、本発明は下記実施形態に限定されない。図面において、同一又は同等の要素は、同一の符号が付される。図1中の(a)、図1中の(b)及び図4に示されるX軸,Y軸及びZ軸は、互いに直交する三つの座標軸である。三つの座標軸其々の方向は、図1中の(a)、図1中の(b)及び図4に共通する。
(圧電薄膜及び圧電薄膜素子)
本実施形態に係る圧電薄膜素子は、圧電薄膜を備える。図1中の(a)は、本実施形態に係る圧電薄膜素子10の断面を示す。この圧電薄膜素子10の断面は、圧電薄膜3の表面に垂直である。圧電薄膜素子10は、単結晶基板1と、単結晶基板1に重なる第一電極層2(下部電極層)と、第一電極層2に重なる圧電薄膜3と、圧電薄膜3に重なる第二電極層4(上部電極層)と、を備えてよい。圧電薄膜素子10は第一中間層5を更に備えてよい。第一中間層5は単結晶基板1と第一電極層2との間に配置されてよく、第一電極層2は第一中間層5の表面に直接重なっていてよい。圧電薄膜素子10は第二中間層6を備えてよい。第二中間層6が第一電極層2と圧電薄膜3の間に配置されてよく、圧電薄膜3は第二中間層6の表面に直接重なっていてよい。単結晶基板1、第一中間層5、第一電極層2、第二中間層6、圧電薄膜3及び第二電極層4其々の厚みは均一であってよい。図1中の(b)に示されるように、圧電薄膜3の表面の法線方向dnは、単結晶基板1の表面の法線方向DNと略平行であってよい。図1中の(b)では、第一電極層、第一中間層、第二中間層及び第二電極層が省略されている。
圧電薄膜素子10の変形例は、単結晶基板1を備えなくてよい。例えば、第一電極層2及び圧電薄膜3の形成後、単結晶基板1が除去されてよい。圧電薄膜素子10の変形例は、第二電極層4を備えなくてもよい。例えば、第二電極層を備えない圧電薄膜素子が、製品として、電子機器の製造業者に供給された後、電子機器の製造過程において、第二電極層が圧電薄膜素子に付加されてよい。単結晶基板1が電極として機能する場合、圧電薄膜素子10の変形例は、第一電極層2を備えなくてもよい。つまり圧電薄膜素子10の変形例は、単結晶基板1と、単結晶基板1に重なる圧電薄膜3と、を備えてよい。第一電極層2がない場合、圧電薄膜3は単結晶基板1に直接重なっていてよい。第一電極層2がない場合、圧電薄膜3が、第一中間層5及び第二中間層6のうち少なくとも一つの中間層を介して単結晶基板1に重なっていてもよい。
圧電薄膜3は、ペロブスカイト(perovskite)構造を有する酸化物を含む。つまり、圧電薄膜3に含まれる少なくとも一部の酸化物は、ペロブスカイト構造を有する結晶である。圧電薄膜3に含まれる全ての酸化物が、ペロブスカイト構造を有する結晶であってよい。場合により、ペロブスカイト構造を有する酸化物は、「ペロブスカイト型酸化物」と表記される。ペロブスカイト型酸化物は、圧電薄膜3の主成分である。圧電薄膜3全体に対するペロブスカイト型酸化物の割合は、99%モル以上100モル%以下であってよい。圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物のみからなっていてよい。
図2は、ペロブスカイト型酸化物の単位胞ucを示している。単位胞ucのAサイトに位置する元素は、Bi又はEAであってよい。単位胞ucのBサイトに位置する元素は、Fe又はEBであってよい。元素EA及び元素EB其々の具体例は、後述される。図2中のa、b及びc其々は、ペロブスカイト構造の基本ベクトルである。a、b及びcは、互いに垂直である。ベクトルaの方位は、[100]である。ベクトルbの方位は、[010]である。ベクトルcの方位は、[001]である。ベクトルaの長さaは、ペロブスカイト型酸化物の(100)面の間隔である。換言すれば、ベクトルaの長さaは、ペロブスカイト型酸化物の[100]方向における格子定数である。ベクトルbの長さbは、ペロブスカイト型酸化物の(010)面の間隔である。換言すれば、ベクトルbの長さbは、ペロブスカイト型酸化物の[010]方向における格子定数である。ベクトルcの長さcは、ペロブスカイト型酸化物の(001)面の間隔である。換言すれば、ベクトルcの長さcは、ペロブスカイト型酸化物の[001]方向における格子定数である。
圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶(tetragonal crystal)1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2を含む。図3は、正方晶1の単位胞uc1及び正方晶2の単位胞uc2を示している。図示の便宜上、単位胞uc1及び単位胞uc2中のEB及びO(酸素)は省略されているが、単位胞uc1及び単位胞uc2其々は、図2中の単位胞ucと同様のペロブスカイト構造を有している。
図3中のa1、b1及びc1其々は、正方晶1の基本ベクトルである。図3中のベクトルa1は、図2中のベクトルaに対応する。図3中のベクトルb1は、図2中のベクトルbに対応する。図3中のベクトルc1は、図2中のベクトルcに対応する。a1、b1及びc1は、互いに垂直である。ベクトルa1の方位は、[100]である。ベクトルb1の方位は、[010]である。ベクトルc1の方位は、[001]である。ベクトルa1の長さa1は、正方晶1の(100)面の間隔である。換言すれば、ベクトルa1の長さa1は、正方晶1の[100]方向における格子定数である。ベクトルb1の長さb1は、正方晶1の(010)面の間隔である。換言すれば、ベクトルb1の長さb1は、正方晶1の[010]方向における格子定数である。ベクトルc1の長さc1は、正方晶1の(001)面の間隔である。換言すれば、ベクトルc1の長さc1は、正方晶1の[001]方向における格子定数である。a1は、b1と等しい。c1は、a1よりも大きい。
図3中のa2、b2及びc2其々は、正方晶2の基本ベクトルである。図3中のベクトルa2は、図2中のベクトルaに対応する。図3中のベクトルb2は、図2中のベクトルbに対応する。図3中のベクトルc2は、図2中のベクトルcに対応する。a2、b2及びc2は、互いに垂直である。ベクトルa2の方位は、[100]である。ベクトルb2の方位は、[010]である。ベクトルc2の方位は、[001]である。ベクトルa2の長さa2は、正方晶2の(100)面の間隔である。換言すれば、ベクトルa2の長さa2は、正方晶2の[100]方向における格子定数である。ベクトルb2の長さb2は、正方晶2の(010)面の間隔である。換言すれば、ベクトルb2の長さb2は、正方晶2の[010]方向における格子定数である。ベクトルc2の長さc2は、正方晶2の(001)面の間隔である。換言すれば、ベクトルc2の長さc2は、正方晶2の[001]方向における格子定数である。a2は、b2と等しい。c2は、a2よりも大きい。
図1中の(b)及び図3に示されるように、正方晶1(uc1)の(001)面は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している。正方晶2(uc2)の(001)面も、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している。例えば、正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々が、圧電薄膜3の表面に略平行であってよく、正方晶1及び正方晶2其々[001]方向が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnと略平行であってよい。圧電薄膜3の表面の法線方向dnは、単結晶基板1の表面の法線方向DNと略平行であってよい。したがって、正方晶1の(001)面は、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向してよい。正方晶2の(001)面も、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向してよい。換言すれば、正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々が、単結晶基板1の表面に略平行であってよく、正方晶1及び正方晶2其々[001]方向が、単結晶基板1の表面の法線方向DNと略平行であってよい。
ペロブスカイト型酸化物は、[001]方向において分極され易い。つまり[001]は、他の結晶方位に比べて、ペロブスカイト型酸化物が分極され易い方位である。したがって、正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向することにより、圧電薄膜3は優れた圧電性を有することができる。同様の理由から、圧電薄膜3は、強誘電体(ferroelectric)であってよい。以下に記載の結晶配向性とは、正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していることを意味する。
圧電薄膜3が、上記の結晶配向性を有することにより、圧電薄膜3は、大きい(-e31,f)2/ε0εr(圧電性能指数)を有することができる。上記の結晶配向性は薄膜に固有の特徴である。薄膜とは、気相成長法又は溶液法によって形成される結晶質の膜である。一方、圧電薄膜3と同じ組成を有する圧電体のバルクは上記の結晶配向性を有することは困難である。圧電体のバルクは、圧電体の必須元素を含む粉末の焼結体(セラミックス)であり、焼結体を構成する多数の結晶の構造及び配向性を制御することが困難であるからである。圧電体のバルクがFeを含むことに起因して、圧電体のバルクの比抵抗率は圧電薄膜3に比べて低い。その結果、リーク電流が圧電体のバルクにおいて発生し易い。したがって、高い電界の印加によって圧電体のバルクを分極させることは困難であり、圧電体のバルクが大きい圧電性能指数を有することは困難である。
c2/a2は、c1/a1よりも大きい。つまり、正方晶2の異方性は、正方晶1の異方性よりも高い。
c2/a2はc1/a1よりも大きいので、正方晶2は正方晶1よりも強誘電性に優れている。しかしc2/a2はc1/a1よりも大きいので、正方晶2の結晶構造は正方晶1の結晶構造よりも強固である。つまり、正方晶2中の原子は正方晶1中の原子よりも動き難い。したがって、正方晶2の分極反転は正方晶1の分極反転よりも起き難い。一方、c1/a1はc2/a2よりも小さいので、正方晶1は正方晶2よりも強誘電性に劣る。しかしc1/a1はc2/a2よりも小さいので、正方晶1の結晶構造は正方晶2の結晶構造よりも柔らかい。つまり、正方晶1中の原子は正方晶2中の原子よりも動き易い。したがって、正方晶1の分極反転は正方晶2の分極反転よりも起き易い。以上のように、強誘電性に優れた正方晶2と、分極が反転し易い正方晶1が、圧電薄膜3中に共存することにより、圧電薄膜3の-e31,fが増加し、圧電薄膜3の(-e31,f)2/ε0εr(圧電性能指数)が増加する。
圧電薄膜3とは対照的に、圧電体のバルクでは、応力に起因する結晶構造の歪みが起き難い。したがって、圧電体のバルクを構成する大多数のペロブスカイト型酸化物は立方晶であり、圧電体のバルクがペロブスカイト型酸化物の正方晶に起因する圧電性を有することは困難である。
c2-c1は、0.100Åよりも大きく0.490Å以下、好ましくは0.101Å以上0.419Å以以下であってよい。c2-c1が上記範囲内である場合、正方晶1及び正方晶2の共存に起因して圧電薄膜3の圧電性能指数が増加し易い。c2-c1が0.100Å以下である場合、X線回折測定装置の分解能に因り、正方晶1及び正方晶2を識別することは容易でない。
c1/a1は、1.010以上1.145以下であってよい。c2/a2は、1.085以上1.200以下であってよい。c1/a1が上記の範囲内であり、且つc2/a2が上記の範囲内である場合、正方晶2は正方晶1よりも優れた強誘電性を有し易く、正方晶1の分極反転は正方晶2の分極反転よりも起き易い。換言すれば、c1/a1が上記の範囲内であり、且つc2/a2が上記の範囲内である場合、正方晶1及び正方晶2の共存に起因して圧電薄膜3の圧電性能指数が増加し易い。同様の理由から、c1/a1は、1.030以上1.145以下であってよく、c2/a2は、1.085以上1.195以下であってよい。同様の理由から、c1/a1は、1.034以上1.143以下であってよく、c2/a2は、1.085以上1.194以下であってよい。
c2-c1が0.100Åよりも大きく、且つc2/a2がc1/a1よりも大きい限りにおいて、a1、c1、a2及びc2其々の値は限定されない。a1は、例えば、3.800Å以上3.950Å以下であってよい。c1は、例えば、4.052Å以上4.342Å以下であってよい。a2は、例えば、3.760Å以上3.930Å以下であってよい。c2は、例えば、4.177Å以上4.490Å以下であってよい。
I2/(I1+I2)は、0.50以上0.90以下である。I1は、正方晶1の(001)面の回折X線のピーク強度である。つまり、正方晶1の(001)面の回折X線の最大値である。I2は、正方晶2の(001)面の回折X線のピーク強度である。つまり、I2は、正方晶2の(001)面の回折X線の最大値である。I1及びI2其々の単位は、例えば、cps(cоunts per secоnd)であってよい。I1及びI2其々がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、I1及びI2其々の測定条件が設定されてよい。つまり、I1及びI2其々の測定において、バッグラウンド補正が行われてよい。
I1は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している正方晶1の(001)面の総面積に比例してよく、I2は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している正方晶2の(001)面の総面積に比例してよい。換言すれば、I1は、圧電薄膜3に含まれる正方晶1の量に比例してよく、I2は、圧電薄膜3に含まれる正方晶2の量に比例してよい。したがって、I2/(I1+I2)は、正方晶1及び正方晶2の合計量に対する正方晶2の存在比であってよい。つまり、正方晶1及び正方晶2の合計量に対する正方晶2の存在比は、50%以上90%以下であってよい。
正方晶1及び正方晶2の共存に起因する上記効果(大きい圧電性能指数)は、I2/(I1+I2)が0.50以上0.90以下である範囲内において得られる。I2/(I1+I2)が0.50未満である場合、圧電薄膜の(-e31,f)2/ε0εrが著しく小さい。I2/(I1+I2)が0.90より大きい場合も、圧電薄膜の(-e31,f)2/ε0εrが著しく小さい。圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有し易いことから、I2/(I1+I2)は0.50以上0.85以下であってよい。
正方晶1及び正方晶2は、逆格子空間マッピング(reciprocal space mapping)によって特定される。つまり、正方晶1及び正方晶2は、ペロブスカイト型酸化物(圧電薄膜3)の回折X線の逆格子空間マップにおいて検出され、互いに識別される。ペロブスカイト型酸化物の回折X線の逆格子空間マップは、逆格子空間におけるペロブスカイト型酸化物の回折X線の強度の分布図と言い換えられてよい。例えば、逆格子空間マップは、ω軸、φ軸、χ軸、2θ軸、及び2θχ軸からなる群より選ばれる二つ以上の走査軸に沿って、ペロブスカイト型酸化物の回折X線の強度を測定することによって得られてよい。例えば、逆格子空間マップは、直交する横軸及び縦軸から構成される座標系における二次元のマップであってよい。二次元の逆格子空間マップの横軸は、圧電薄膜3の表面の面内(In‐plane)方向におけるペロブスカイト型酸化物の格子定数の逆数を示してよい。換言すれば、逆格子空間マップの横軸は、ペロブスカイト型酸化物の(100)面の間隔aの逆数(つまり1/a)を示してよい。二次元の逆格子空間マップの縦軸は、圧電薄膜3の表面の法線方向dn(又はOut‐оf‐Plane方向)におけるペロブスカイト型酸化物の格子定数の逆数を示してよい。換言すれば、逆格子空間マップの縦軸は、ペロブスカイト型酸化物の(001)面の間隔cの逆数(つまり1/c)を示してよい。圧電薄膜3が正方晶1及び正方晶2を含む場合、少なくとも二つのスポットが逆格子空間マップ内に存在する。二つのスポットのうち一方のスポットは、正方晶1の結晶面の回折X線に対応してよく、二つのスポットのうち他方のスポットは、正方晶2の結晶面の回折X線に対応してよい。例えば、二つのスポットのうち一方のスポットは、正方晶1の(204)面の回折X線に対応してよく、二つのスポットのうち他方のスポットは、正方晶2の(204)面の回折X線に対応してよい。正方晶1の結晶面の回折X線に対応する一つのスポットの座標から、正方晶1の(100)面の間隔a1、及び正方晶1の(001)面の間隔c1を特定することができる。正方晶2の結晶面の回折X線に対応する一つのスポットの座標から、正方晶2の(100)面の間隔a2、及び正方晶1の(001)面の間隔c2を特定することができる。逆格子空間マップは、正方晶1及び正方晶2に由来する二つのスポットに加えて、更に別のスポットを含んでよい。例えば、第一電極層2(下地電極層)を構成する金属の結晶に由来するスポットが逆格子空間マップ内に存在してよい。
正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々の配向の程度は、配向度によって定量化されてよい。正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々の配向度が大きいほど、圧電薄膜3は大きい圧電性能指数を有し易い。各結晶面の配向度は、各結晶面に由来する回折X線のピークに基づいて算出されてよい。各結晶面に由来する回折X線のピークは、圧電薄膜3の表面におけるOut‐оf‐Plane測定によって測定されてよい。圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおける正方晶1の(001)面の配向度は、100×I1/ΣI1(hkl)と表されてよい。ΣI1(hkl)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶1の各結晶面の回折X線のピーク強度の総和である。ΣI1(hkl)は、例えば、I1(001)+I1(110)+I1(111)であってよい。I1(001)は、上述のI1である。つまりI1(001)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶1の(001)面の回折X線のピーク強度(最大値)である。I1(110)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶1の(110)面の回折X線のピーク強度(最大値)である。I1(111)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶1の(111)面の回折X線のピーク強度(最大値)である。正方晶2の(001)面の配向度は、100×I2/ΣI2(hkl)と表されてよい。ΣI2(hkl)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶2の各結晶面の回折X線のピーク強度の総和である。ΣI2(hkl)は、例えば、I2(001)+I2(110)+I2(111)であってよい。I2(001)は、上述のI2である。つまりI2(001)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶2の(001)面の回折X線のピーク強度(最大値)である。I2(110)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶2の(110)面の回折X線のピーク強度(最大値)である。I2(111)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶2の(111)面の回折X線のピーク強度(最大値)である。正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々の配向の程度は、ロットゲーリング(Lotgering)法に基づく配向度Fによって定量化されてもよい。上記のいずれの方法で配向度が算出される場合であっても、正方晶1の(001)面及び正方晶2の(001)面其々の配向度は、70%以上100%以下、好ましくは80%以上100%以下、より好ましくは90%以上100%以下であってよい。換言すれば、正方晶1の(001)面は、正方晶1の他の結晶面に優先して、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向してよい。正方晶2の(001)面も、正方晶2の他の結晶面に優先して、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向してよい。
圧電薄膜3は、正方晶1及び正方晶2のみからなっていてよい。圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有する限りにおいて、圧電薄膜3は、正方晶1及び正方晶2に加えて、立方晶(cubic crystal)及び菱面体晶(rhombohedral crystal)からなる群より選ばれる少なくとも一種のペロブスカイト型酸化物の結晶を更に含んでよい。
圧電薄膜3に含まれるペロブスカイト型酸化物は、少なくともビスマス(Bi)、元素EB、鉄(Fe)及酸素(O)を含んでよい。EBは、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)及び亜鉛(Zn)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素あってよい。圧電薄膜3に含まれるペロブスカイト型酸化物は、上記元素に加えて元素EAを更に含んでよい。EAは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及び銀(Ag)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。ペロブスカイト型酸化物が上記の元素から構成される場合、正方晶1及び正方晶2が圧電薄膜3中に共存し易く、正方晶1及び正方晶2が上記の結晶配向性を有し易く、c2-c1、c1/a1及びc2/a2其々が上記の範囲内に収まり易い。圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有する限りにおいて、圧電薄膜3は、Bi、EA、EB、Fe及びOに加えて、他の元素を更に含んでもよい。圧電薄膜3は、Pbを含まなくてよい。圧電薄膜3は、Pbを含んでもよい。
圧電薄膜3に含まれるペロブスカイト型酸化物は、下記化学式1で表されてよい。下記化学式1は、下記化学式1aと実質的に同じである。
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
(Bi(1-x)(1-α)+xEA
(1-x)α)(EB
1-xFex)O3±δ (1a)
上記化学式1及び1a中のEAは、Na、K及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。上記化学式1及び1a中のEBは、Mg、Al、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。
上記記化学式1及び1a中のxは、0.30以上0.80以下であってよい。xが0.30以上0.80以下である場合、I2/(I1+I2)が、0.50以上0.90以下である範囲内に収まり易く、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有し易い。同様の理由から、xは、0.40以上0.80以下、又は0.50以上0.80以下であってよい。xが0.30以上である場合、I2/(I1+I2)が0.50以上である傾向がある。xが0.80以下である場合、I2/(I1+I2)が0.90以下である傾向がある。上記化学式1及び1a中のαは、0.00以上1.00未満であってよい。I2/(I1+I2)が、0.50以上0.90以下である範囲内に収まり易く、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有し易いことから、αは0.50であってよい。
上記化学式1aにおけるδは、0以上であってよい。ペロブスカイト型酸化物の結晶構造(ペロブスカイト構造)が維持される限りにおいて、δは、0以外の値であってよい。例えば、δは、0より大きく1.0以下であってよい。δは、例えば、ペロブスカイト構造におけるAサイト及びBサイト其々に位置する各イオンの価数から算出されてよい。各イオンの価数は、X線光電子分光(XPS)法により測定されてよい。
ペロブスカイト型酸化物に含まれるBi及びEAのモル数の合計値は、[A]と表されてよく、ロブスカイト型酸化物に含まれるFe及びEBのモル数の合計値は、[B]と表されてよく、[A]/[B]は1.0であってよい。ペロブスカイト型酸化物の結晶構造(ペロブスカイト構造)が維持される限りにおいて、[A]/[B]は1.0以外の値であってよい。つまり、[A]/[B]は1.0未満であってよく、[A]/[B]は1.0より大きくてもよい。
正方晶1及び正方晶2其々の組成は、上記化学式1又は1aで表される組成の範囲内に収まってよい。正方晶1及び正方晶2其々の組成が、上記化学式1又は1aで表される組成の範囲内に収まる限りにおいて、正方晶1の組成は、正方晶2の組成と異なってよい。正方晶1の組成は、正方晶2の組成と同じであってもよい。圧電薄膜3を構成するペロブスカイト型酸化物の全体的な組成が上記化学式1又は1aで表される組成の範囲内に収まる限りにおいて、正方晶1の組成は、正方晶2の組成と異なってよい。圧電薄膜3を構成するペロブスカイト型酸化物の全体的な組成が上記化学式1又は1aで表される組成の範囲内に収まる限りにおいて、正方晶1及び正方晶2のうち少なくとも一方の組成が、上記化学式1又は1aで表される組成の範囲を外れてもよい。
圧電薄膜3の厚みは、例えば、10nm以上10μm以下であってよい。圧電薄膜3の面積は、例えば、1μm2以上500mm2以下であってよい。単結晶基板1、第一中間層5、第一電極層2、第二中間層6、及び第二電極層4其々の面積は、圧電薄膜3の面積と同じであってよい。
圧電薄膜の組成は、例えば、蛍光X線分析法(XRF法)又は誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法によって分析されてよい。圧電薄膜の結晶構造及び結晶配向性は、X線回折(XRD)法によって特定されてよい。上述された圧電薄膜の結晶構造及び結晶配向性は、常温における圧電薄膜の結晶構造及び結晶配向性であってよい。
圧電薄膜3は、例えば、以下の方法により形成されてよい。
圧電薄膜3の原料としては、圧電薄膜3と同様の組成を有するターゲットが用いられてよい。ターゲットの作製方法は、次の通りである。
出発原料として、例えば、Bi、EA、EB及びFe其々の酸化物が用いられてよい。出発原料として、酸化物に代えて、炭酸塩又はシュウ酸塩等のように、焼成により酸化物になる物質が用いられてもよい。これらの出発原料を100℃以上で十分に乾燥した後、Bi、EA、EB及びFeのモル数が、上記化学式1に規定された範囲内になるように、各出発原料が秤量される。後述される気相成長法において、ターゲット中のBiは、他の元素に比べて揮発し易い。したがって、ターゲット中のBiのモル比は、圧電薄膜3中のBiのモル比よりも高い値に調整されてよい。EAとしてKを含む原料が用いられる場合、ターゲット中のKは、他の元素に比べて揮発し易い。したがって、ターゲット中のKのモル比は、圧電薄膜3中のKのモル比よりも高い値に調整されてよい。
秤量された出発原料は、有機溶媒又は水の中で十分に混合される。混合時間は、5時間以上20時間以下であってよい。混合手段は、例えば、ボールミルであってよい。混合後の出発原料を、十分乾燥した後、出発原料はプレス機で成形される。成形された出発原料が仮焼き(calcine)されることより、仮焼物が得られる。仮焼きの温度は、750℃以上900℃以下であってよい。仮焼きの時間は、1時間以上3時間以下であってよい。仮焼物は、有機溶媒又は水の中で粉砕される。粉砕時間は、5時間以上30時間以下であってよい。粉砕手段は、ボールミルであってよい。粉砕された仮焼物の乾燥後、バインダー溶液が加えられた仮焼物を造粒することにより、仮焼物の粉が得られる。仮焼物の粉のプレス成形により、ブロック状の成形体が得られる。
ブロック状の成形体を加熱することにより、成形体中のバインダーを揮発させる。加熱温度は、400℃以上800℃以下であってよい。加熱時間は、2時間以上4時間下であってよい。
バインダーの揮発後、成形体が焼成(sinter)される。焼成温度は、800℃以上1100℃以下であってよい。焼成時間は、2時間以上4時間以下であってよい。焼成過程における成形体の昇温速度及び降温速度は、例えば50℃/時間以上300℃/時間以下であってよい。
以上の工程により、ターゲットが得られる。ターゲットに含まれる酸化物(ペロブスカイト型酸化物)の結晶粒(crystal grain)の平均粒径は、例えば、1μm以上20μm以下であってよい。
上記ターゲットを用いた気相成長法によって、圧電薄膜3が形成されてよい。気相成長法では、真空雰囲気下において、ターゲットを構成する元素を蒸発させる。蒸発した元素が、第二中間層6、第一電極層2、又は単結晶基板1のいずれかの表面に付着及び堆積することにより、圧電薄膜3が成長する。気相成長法は、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition)法、又はパルスレーザー堆積(Pulsed-laser deposition)法であってよい。以下では、パルスレーザー堆積法が、PLD法と表記される。気相成長法の種類に依って、励起源が異なる。スパッタリング法の励起源は、Arプラズマである。電子ビーム蒸着法の励起源は、電子ビームである。PLD法の励起源は、レーザー光(例えば、エキシマレーザー)である。これらの励起源がターゲットに照射されると、ターゲットを構成する元素が蒸発する。上記の気相成長法を用いることによって、圧電薄膜3がエピタキシャルに成長し易い。上記の気相成長法を用いることによって、原子レベルで緻密である圧電薄膜3を形成することが可能であり、圧電薄膜3中における元素の偏析が抑制される。
上記の気相成長法の中でも、以下の点において、PLD法が比較的に優れている。PLD法では、パルスレーザーにより、ターゲットを構成する各元素を、一瞬で斑なくプラズマ化させることができる。したがって、ターゲットとほぼ同じ組成を有する圧電薄膜3が形成され易い。またPLD法では、レーザーのパルス数(繰り返し周波数)を変えることで、圧電薄膜3の厚みを制御し易い。
圧電薄膜3はエピタキシャル膜であってよい。つまり、圧電薄膜3は、エピタキシャル成長によって形成されてよい。エピタキシャル成長により、正方晶1のc1/a1及び正方晶2のc2/a2が上記期の範囲内に収まり易く、異方性及び結晶配向性に優れた圧電薄膜3が形成され易い。圧電薄膜3がPLD法によって形成される場合、圧電薄膜3がエピタキシャル成長によって形成され易い。
PLD法では、真空チャンバー内における単結晶基板1及び第一電極層2を加熱しながら、圧電薄膜3が形成されてよい。単結晶基板1及び第一電極層2の温度(成膜温度)は、例えば、300℃以上800℃以下、500℃以上700℃以下、又は500℃以上600℃以下であればよい。成膜温度が高いほど、単結晶基板1又は第一電極層2の表面の清浄度が改善され、圧電薄膜3の結晶性が高まり、正方晶1及び正方晶2其々の結晶面の配向度が高まり易い。成膜温度が高過ぎる場合、Bi又はKが圧電薄膜3から脱離し易く、圧電薄膜3の組成が制御され難い。
PLD法では、真空チャンバー内の酸素分圧は、例えば、10mTorrより大きく400mTorr未満、15mTorr以上300mTorr以下、又は20mTorr以上200mTorr以下であってよい。換言すると、真空チャンバー内の酸素分圧は、例えば、1Paより大きく53Pa未満、2Pa以上40Pa以下、又は3Pa以上30Pa以下であってよい。酸素分圧が上記範囲内に維持されることにより、単結晶基板1の上に堆積したBi、EA、EB及びFeが十分に酸化され易い。酸素分圧が低過ぎる場合、圧電薄膜3の結晶面の配向度が低下し易く、正方晶1及び正方晶2が圧電薄膜3中に共存し難い。酸素分圧が高過ぎる場合、圧電薄膜3の成長速度が低下し易く、圧電薄膜3の結晶面の配向度が低下し易い。
PLD法で制御される上記以外のパラメータは、例えば、レーザー発振周波数、及び基板とターゲットの間の距離などである。これらのパラメータの制御によって、圧電薄膜3の結晶構造及び結晶配向性が制御され易い。例えば、レーザー発振周波数が10Hz以下である場合、圧電薄膜3の結晶面の配向度が高まり易い。
圧電薄膜3の成長過程において、単結晶基板1の温度(真空チャンバー内の温度)の上昇及び下降からなるヒートサイクルが実施されてよい。ヒートサイクルが繰り返されてもよい。ヒートサイクルの温度範囲は、上記の成膜温度の範囲内であってよい。成長中の圧電薄膜3においては、単結晶基板1の表面に平行な引張応力(tensile stress)が生じ易い。または、成長中の圧電薄膜3においては、単結晶基板1の表面に平行な圧縮応力(compressive stress)が生じ易い。引張応力又は圧縮応力は、例えば、単結晶基板1と圧電薄膜3との間の格子不整合、又は単結晶基板1と圧電薄膜3との間の熱膨張係数の差に起因する。引張応力又は圧縮応力が大き過ぎる場合、正方晶1及び正方晶2が形成され難く、単一の正方晶(異方性において均一な正方晶)が形成され易い。圧電薄膜3に生じる引張応力又は圧縮応力をヒートサイクルによって適度に緩和することにより、正方晶1及び正方晶2が共存する圧電薄膜3が成長し易い。
圧電薄膜3が成長した後、圧電薄膜3のアニール処理(加熱処理)が行われてよい。アニール処理における圧電薄膜3の温度(アニール温度)は、例えば、300℃以上1000℃以下、600℃以上1000℃以下、又は850℃以上1000℃以下であってよい。圧電薄膜3のアニール処理により、圧電薄膜3の圧電性が更に向上する傾向がある。特に850℃以上1000℃以下でのアニール処理により、圧電薄膜3の圧電性が向上し易い。ただし、アニール処理は必須でない。
単結晶基板1は、例えば、Siの単結晶からなる基板、又はGaAs等の化合物半導体の単結晶からなる基板であってよい。単結晶基板1は、酸化物の単結晶からなる基板であってもよい。酸化物の単結晶は、例えば、MgO又はペロブスカイト型酸化物(例えばSrTiO3)であってよい。単結晶基板1の厚みは、例えば、10μm以上1000μm以下であってよい。単結晶基板1が導電性を有する場合、単結晶基板1が電極として機能するので、第一電極層2はなくてもよい。つまり、導電性を有する単結晶基板1は、例えば、ニオブ(Nb)がドープされたSrTiO3の単結晶であってよい。
単結晶基板1の結晶方位は、単結晶基板1の表面の法線方向DNと等しくてよい。つまり、単結晶基板1の表面は、単結晶基板1の結晶面と平行であってよい。単結晶基板1は一軸配向基板であってよい。例えば、単結晶基板1(例えばSi)の(100)面が、単結晶基板1の表面と平行であってよい。つまり、単結晶基板1(例えばSi)の[100]方向が、単結晶基板1の表面の法線方向DNと平行であってよい。
単結晶基板1(例えばSi)の(100)面が単結晶基板1の表面と平行である場合、圧電薄膜3中のペロブスカイト型結晶の(001)面が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向し易い。
上述の通り、第一中間層5が、単結晶基板1と第一電極層2との間に配置されていてよい。第一中間層5は、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、酸化チタン(TiO2)、酸化ケイ素(SiO2)、及び酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。第一中間層5を介することにより、第一電極層2が単結晶基板1に密着し易い。第一中間層5は、結晶質であってよい。第一中間層5の結晶面が、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。単結晶基板1の結晶面と第一中間層5の結晶面の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向してよい。第一中間層5の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。
第一中間層5は、ZrO2及び希土類元素の酸化物を含んでよい。第一中間層5が、ZrO2及び希土類元素の酸化物を含むことにより、白金の結晶からなる第一電極層2が第一中間層5の表面に形成され易く、白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面の法線方向において配向し易く、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面の面内方向において配向し易い。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
第一中間層5は、ZrO2及びY2O3を含んでよい。例えば、第一中間層5は、イットリア安定化ジルコニア(Y2O3が添加されたZrO2)からなっていてよい。第一中間層5は、ZrO2からなる第一層と、Y2O3からなる第二層とを有してよい。ZrO2からなる第一層は、単結晶基板1の表面に直接積層されてよい。Y2O3からなる第二層は、第一層の表面に直接積層されてよい。第一電極層2は、Y2O3からなる第二層の表面に直接積層されてよい。第一中間層5がZrO2及びY2O3を含む場合、圧電薄膜3が、エピタキシャルに成長し易く、正方晶1及び正方晶2が圧電薄膜3中に共存し易く、正方晶1及び正方晶2其々の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向し易い。また第一中間層5がZrO2及びY2O3を含む場合、白金の結晶からなる第一電極層2が第一中間層5の表面に形成され易く、白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面の法線方向において配向し易く、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面の面内方向において配向し易い。
第一電極層2は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第一電極層2は、例えば、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)、ニッケル酸ランタン(LaNiO3)、又はコバルト酸ランタンストロンチウム((La,Sr)CoO3)等の導電性金属酸化物からなっていてもよい。第一電極層2は、結晶質であってよい。第一電極層2の結晶面が、単結晶基板1の法線方向DNにおいて配向していてよい。第一電極層2の結晶面は、単結晶基板1の表面と略平行であってよい。単結晶基板1の結晶面と第一電極層2の結晶面の両方が、単結晶基板1の法線方向DNにおいて配向していてよい。単結晶基板1の法線方向DNにおいて配向する第一電極層2の結晶面が、圧電薄膜3中の正方晶1及び正方晶2其々の(001)面と略平行であってよい。第一電極層2の厚みは、例えば、1nm以上1.0μm以下であってよい。第一電極層2の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法の場合、第一電極層2の結晶性を高めるために、第一電極層2の加熱処理(アニーリング)が行われてよい。
第一電極層2は、白金の結晶を含んでよい。第一電極層2が、白金の結晶のみからなっていてよい。白金の結晶は、面心立方格子構造(fcc構造)を有する立方晶である。白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面の法線方向において配向していてよく、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面の面内方向において配向していてよい。換言すれば、白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面に略平行であってよく、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面に略垂直であってよい。第一電極層2を構成する白金の結晶の(002)面及び(200)面が上記の配向性を有する場合、圧電薄膜3が、第一電極層2の表面においてエピタキシャルに成長し易く、正方晶1及び正方晶2が圧電薄膜3中に共存し易く、正方晶1及び正方晶2其々の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向し易い。第一電極層2の表面は、圧電薄膜3の表面に略平行であってよい。つまり、第一電極層2の表面の法線方向は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnと略平行であってよい。
上述の通り、第二中間層6が、第一電極層2と圧電薄膜3との間に配置されていてよい。第二中間層6は、例えば、SrRuO3、LaNiO3及び(La,Sr)CoO3からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。(La,Sr)CoO3は、例えば、La0.5Sr0.5CoO3であってよい。第二中間層6は、結晶質であってよい。例えば、第二中間層6は、例えば、SrRuO3の結晶を含む層、LaNiO3の結晶を含む層、及び(La,Sr)CoO3の結晶を含む層なる群より選ばれる少なくとも二種のバッファー層から構成される積層体であってもよい。SrRuO3、LaNiO3及び(La,Sr)CoO3のいずれもペロブスカイト構造を有する。したがって、第二中間層6が、SrRuO3、LaNiO3及び(La,Sr)CoO3からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む場合、圧電薄膜3が、エピタキシャルに成長し易く、正方晶1及び正方晶2が圧電薄膜3中に共存し易く、正方晶1及び正方晶2其々の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向し易い。また、第二中間層6を介することにより、圧電薄膜3が第一電極層2に密着し易い。第二中間層6の結晶面が、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。単結晶基板1の結晶面と第二中間層6の結晶面の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向DNにおいて配向してよい。第二中間層6の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。
第二電極層4は、例えば、例えば、Pt、Pd、Rh、Au、Ru、Ir、Mo、Ti、Ta、及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第二電極層4は、例えば、LaNiO3、SrRuO3及び(La,Sr)CoO3からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電性金属酸化物からなっていてよい。第二電極層4は、結晶質であってよい。第二電極層4の結晶面が、単結晶基板1の法線方向DNにおいて配向していてよい。第二電極層4の結晶面は、単結晶基板1の表面と略平行であってよい。第二電極層4の結晶面は、圧電薄膜3中の正方晶1及び正方晶2其々の結晶面と略平行であってよい。第二電極層4の厚みは、例えば、1nm以上1.0μm以下であってよい。第二電極層4の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法の場合、第二電極層4の結晶性を高めるために、第二電極層4の加熱処理(アニーリング)が行われてもよい。
第三中間層が、圧電薄膜3と第二電極層4との間に配置されていてよい。第三中間層を介することにより、第二電極層4が圧電薄膜3に密着し易い。第三中間層の組成、結晶構造及び形成方法は、第二中間層と同じであってよい。
圧電薄膜素子10の表面の少なくとも一部又は全体が、保護膜によって被覆されていてよい。保護膜による被覆により、例えば圧電薄膜素子10の耐湿性が向上する。
本実施形態に係る圧電薄膜素子の用途は、多様である。例えば、圧電薄膜素子は、圧電トランスデューサに用いられてよい。つまり、本実施形態に係る圧電トランスデューサは、上述された圧電薄膜素子を含んでよい。圧電トランスデューサは、例えば、超音波センサ等の超音波トランスデューサであってよい。圧電薄膜素子は、例えば、ハーベスタ(振動発電素子)であってもよい。本実施形態に係る圧電薄膜素子は、大きい(-e31f)2/ε0εrを有する圧電薄膜を備えるため、超音波トランスデューサ又はハーベスタに適している。圧電薄膜素子は、圧電アクチュエータであってもよい。圧電アクチュエータは、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、又はハードディスクドライブに用いられてもよい。圧電アクチュエータは、プリンタヘッド、又はインクジェットプリンタ装置に用いられてもよい。圧電アクチュエータは、圧電スイッチであってもよい。圧電アクチュエータは、ハプティクス(haptics)に用いられてもよい。つまり、圧電アクチュエータは、皮膚感覚(触覚)によるフィードバックが求められる様々なデバイスに用いられてよい。皮膚感覚によるフィードバックが求められるデバイスとは、例えば、ウェアラブルデバイス、タッチパッド、ディスプレイ、又はゲームコントローラであってよい。圧電薄膜素子は、圧電センサであってもよい。例えば、圧電センサは、圧電マイクロフォン、ジャイロセンサ、圧力センサ、脈波センサ、又はショックセンサであってよい。圧電薄膜素子は、発振子又は音響多層膜であってもよい。圧電薄膜素子は、微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems; MEMS)の一部又は全体であってもよく、例えば、圧電微小機械超音波トランスデューサ(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducers; PMUT)であってよい。圧電微小機械超音波トランスデューサを応用した製品の具体例としては、生体認証センサ又は医療/ヘルスケア用センサ(指紋センサ及び血管センサ等)、並びにToF(Time of Flight)センサがある。
図4は、上記の圧電薄膜3を備える超音波トランスデューサ10aの模式的な断面を示す。この超音波トランスデューサ10aの断面は、圧電薄膜3の表面に垂直である。超音波トランスデューサ10aは、基板1a及び1bと、基板1a及び1bの上に設置された第一電極層2と、第一電極層2に重なる圧電薄膜3と、圧電薄膜3に重なる第二電極層4と、を備えてよい。圧電薄膜3の下方には、音響用の空洞1cが設けられていてよい。圧電薄膜3の撓み又は振動により、超音波信号が発信又は受信される。第一中間層が基板1a及び1bと第一電極層2の間に介在してよい。第二中間層が第一電極層2と圧電薄膜3の間に介在してよい。
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1の圧電薄膜素子の作製には、Siからなる単結晶基板が用いられた。Siの(100)面は、単結晶基板の表面と平行であった。単結晶基板は、20mm×20mmの正方形であった。単結晶基板の厚みは、500μmであった。
真空チャンバー内で、ZrO2及びY2O3からなる結晶質の第一中間層が、単結晶基板の表面全体に形成された。第一中間層は、スパッタリング法により形成された。第一中間層の厚みは、30nmであった。
真空チャンバー内で、Ptの結晶からなる第一電極層が、第一中間層の表面全体に形成された。第一電極層は、スパッタリング法により形成された。第一電極層の厚みは、200nmであった。第一電極層の形成過程における単結晶基板の温度は、500℃に維持した。
第一電極層の表面におけるOut оf Plane測定により、第一電極層のXRDパターンが測定された。第一電極層の表面におけるIn Plane測定により、第一電極層のXRDパターンが測定された。これらのXRDパターンの測定には、株式会社リガク製のX線回折装置(SmartLab)が用いられた。XRDパターン中の各ピーク強度がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、測定条件が設定された。Out оf Plane測定により、Ptの結晶の(002)面の回折X線のピークが検出された。つまり、Ptの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向した。In Plane測定により、Ptの結晶の(200)面の回折X線のピークが検出された。つまり、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
真空チャンバー内で、圧電薄膜が第一電極層の表面全体に形成された。圧電薄膜は、PLD法により形成された。圧電薄膜の厚みは、2000nmであった。圧電薄膜の形成過程における単結晶基板の温度(成膜温度)は、500℃に維持した。圧電薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、10Paに維持された。圧電薄膜の原料には、ターゲット(原料粉末の焼結体)が用いられた。ターゲットの原料粉末として、酸化ビスマス、炭酸カリウム、酸化チタン、及び酸化鉄が用いられた。目的とする圧電薄膜の組成に応じて、原料粉末の配合比が調整された。目的とする圧電薄膜の組成は、下記化学式1Aで表されるものであった。つまり、実施例1の場合、下記化学式1中のEAはKであり、下記化学式1中のEBはTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。実施例1の場合、下記化学式1及び1A中のxの値は、下記表1に示す値であった。
(1-x)Bi0.5K0.5TiO3‐xBiFeO3 (1A)
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
圧電薄膜の組成が、XRF法により分析された。分析には、日本フィリップス株式会社製の装置PW2404を用いた。分析の結果、実施例1の圧電薄膜の組成は、上記化学式1Aで表されるターゲットの組成とほぼ一致した。
上記のX線回折装置を用いて、圧電薄膜の逆格子空間マッピングが行われた。また圧電薄膜の表面におけるOut оf Plane測定により、圧電薄膜のXRDパターンが測定された。さらに圧電薄膜の表面におけるIn Plane測定により、圧電薄膜のXRDパターンが測定された。XRDパターン中の各ピーク強度がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、測定条件が設定された。XRDパターンの測定装置及び測定条件は、上記と同様であった。
上記のXRD法に基づく圧電薄膜の分析結果は、圧電薄膜が以下の特徴を有することを示していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物からなっていた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2を含んでいた。
正方晶1の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。つまり、圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶1の(001)面の配向度は、90%以上であった。正方晶1の(001)面の配向度は、100×I1(001)/(I1(001)+I1(110)+I1(111))と表される。
正方晶2の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。つまり、圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶2の(001)面の配向度は、90%以上であった。正方晶2の(001)面の配向度は、100×I2(001)/(I2(001)+I2(110)+I2(111))と表される。
正方晶1の(001)面の間隔c1は、下記表1に示される値であった。
正方晶2の(001)面の間隔c2は、下記表1に示される値であった。
c1/a1は、下記表1に示される値であった。
c2/a2は、下記表1に示される値であった。
I2/(I1+I2)は、下記表1に示される値であった。
c2-c1は、下記表1に示される値であった。
以上の方法で、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一中間層と、第一中間層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる圧電薄膜と、を備える積層体が作製された。この積層体を用いて更に以下の工程が実施された。
真空チャンバー内で、Ptからなる第二電極層が、圧電薄膜の表面全体に形成された。第二電極層は、スパッタリング法により形成された。第二電極層の形成過程における単結晶基板の温度は500℃に維持した。第二電極層の厚みは、200nmであった。
以上の工程により、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一中間層と、第一中間層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる圧電薄膜と、圧電薄膜に重なる第二電極層と、を備える積層体が作製された。続くフォトリソグラフィにより、単結晶基板上の積層構造のパターニングが行われた。パターニング後、積層体がダイシングにより切断された。
以上の工程により、短冊状の実施例1の圧電薄膜素子を得た。圧電薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一中間層と、第一中間層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる圧電薄膜と、圧電薄膜に重なる第二電極層と、を備えていた。圧電薄膜の可動部分の面積は、20mm×1.0mmであった。
<圧電性の評価>
以下の方法により、圧電薄膜の圧電性が評価された。
[残留分極の測定]
圧電薄膜の分極のヒステリシスが測定された。測定には、原子間顕微鏡(AFM)と強誘電体評価システムとを組み合わせた装置を用いた。原子間顕微鏡は、セイコーインスツル株式会社製のSPA-400であった。強誘電体評価システムは、株式会社東陽テクニカ製のFCEであった。ヒステリシスの測定における交流電圧の周波数は5Hzであった。測定において圧電薄膜に印加される電圧の最大値は20Vであった。圧電薄膜の残留分極Prは、下記表1に示される。残留分極Prは、単位は、μC/cm2である。
[比誘電率の算出]
圧電薄膜素子の容量Cが測定された。容量Cの測定の詳細は以下の通りであった。
測定装置:Hewlett Packard株式会社製のImpedance Gain‐Phase Analyzer 4194A
周波数:10kHz
電界:0.1V/μm
下記数式Aに基づき、容量Cの測定値から、比誘電率εrが算出された。実施例1のεrは、下記表1に示される。
C=ε0×εr×(S/d) (A)
数式A中のε0は、真空の誘電率(8.854×10-12Fm-1)である。数式A中のSは、圧電薄膜の表面の面積である。Sは、圧電薄膜に重なる第一電極層の面積と言い換えられる。数式A中のdは、圧電薄膜の厚みである。
[圧電定数-e
31,fの測定]
圧電薄膜の圧電定数-e
31,fを測定するために、圧電薄膜素子として、長方形状の試料(カンチレバー)が作製された。試料の寸法は、幅3mm×長さ15mmであった。寸法を除いて試料は上記の実施例1の圧電薄膜素子と同じであった。測定には、自作の評価システムが用いられた。試料の一端は固定され、試料の他方の一端は自由端であった。試料中の圧電薄膜に電圧を印加しながら、試料の自由端の変位量がレーザーで測定された。そして、下記数式Bから圧電定数-e
31,fが算出された。なお、数式B中のE
sは単結晶基板のヤング率である。h
sは、単結晶基板の厚みである。Lは試料(カンチレバー)の長さである。ν
sは、単結晶基板のポアソン比である。δ
outは、測定された変位量に基づく出力変位である。V
inは、圧電薄膜に印加された電圧である。圧電定数-e
31,fの測定における交流電界(交流電圧)の周波数は、100Hzであった。圧電薄膜に印加された電圧の最大値は、50Vであった。-e
31,fの単位はC/m
2である。実施例1の-e
31,fは、下記表1に示される。実施例1の(-e
31,f)
2/ε
0ε
r(圧電性能指数)は、下記表1に示される。
(実施例2~6及び比較例1~3)
実施例2~6及び比較例1~3其々の圧電薄膜の形成に用いたターゲットの組成は、実施例1のターゲットと異なっていた。
実施例2のターゲットの組成は、下記化学式1Bで表されるものであった。つまり、実施例2の場合、下記化学式1中のEAはKであり、下記化学式1中のEBはZn及びTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。実施例2の場合、下記化学式1及び1B中のxの値は、下記表1に示す値であった。
(1-x)Bi0.5K0.5Zn0.5Ti0.5O3‐xBiFeO3 (1B)
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
実施例3のターゲットの組成は、下記化学式1Cで表されるものであった。つまり、実施例3の場合、下記化学式1中のEAはKであり、下記化学式1中のEBはMg及びTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。実施例3の場合、下記化学式1及び1C中のxの値は、下記表1に示す値であった。
(1-x)Bi0.5K0.5Mg0.5Ti0.5O3‐xBiFeO3 (1C)
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
実施例4のターゲットの組成は、下記化学式1Dで表されるものであった。つまり、実施例4の場合、下記化学式1中のEAはNaであり、下記化学式1中のEBはZn及びTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。実施例4の場合、下記化学式1及び1D中のxの値は、下記表1に示す値であった。
(1-x)Bi0.5Na0.5Zn0.5Ti0.5O3‐xBiFeO3 (1D)
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
実施例5のターゲットの組成は、下記化学式1Eで表されるものであった。つまり、実施例5の場合、下記化学式1中のEAはAgであり、下記化学式1中のEBはTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。実施例5の場合、下記化学式1及び1E中のxの値は、下記表1に示す値であった。
(1-x)Bi0.5Ag0.5TiO3‐xBiFeO3 (1E)
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
実施例6のターゲットの組成は、下記化学式1Fで表されるものであった。つまり、実施例6の場合、下記化学式1中のEAはAgであり、下記化学式1中のEBはZn及びTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。実施例6の場合、下記化学式1及び1F中のxの値は、下記表1に示す値であった。
(1-x)Bi0.5Ag0.5Zn0.5Ti0.5O3‐xBiFeO3 (1F)
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
比較例1のターゲットの組成は、下記化学式1Gで表されるものであった。つまり、比較例1の場合、下記化学式1中のEAはKであり、下記化学式1中のEBはZn及びTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。比較例1の場合、下記化学式1及び1G中のxの値は、下記表1に示す値であった。
(1-x)Bi0.5K0.5Zn0.5Ti0.5O3‐xBiFeO3 (1G)
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
比較例2のターゲットの組成は、下記化学式1Hで表されるものであった。つまり、比較例2の場合、下記化学式1中のEAはNaであり、下記化学式1中のEBはTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。比較例2の場合、下記化学式1及び1H中のxの値は、下記表1に示す値であった。
(1-x)Bi0.5Na0.5TiO3‐xBiFeO3 (1H)
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
比較例3のターゲットの組成は、BiFeO3であった。つまり、比較例3の場合、下記化学式1中のxは、1.0であった。
(1-x)Bi1-αEA
αEBO3‐xBiFeO3 (1)
圧電薄膜の形成に用いたターゲットの組成が異なることを除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~6及び比較例1~3其々の圧電薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法により、実施例2~6及び比較例1~3其々の第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例2~6及び比較例1~3のいずれの場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
実施例1と同様の方法により、実施例2~6及び比較例1~3其々の圧電薄膜の組成が分析された。実施例2~6及び比較例1~3のいずれの場合も、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成とほぼ一致した。
実施例1と同様の方法により、XRD法に基づく実施例2~6及び比較例1、2其々の圧電薄膜の分析が行われた。実施例2~6及び比較例1、2のいずれの場合も、圧電薄膜は以下の特徴を有していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物からなっていた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2を含んでいた。
正方晶1の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶1の(001)面の配向度は、90%以上であった。
正方晶2の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶2の(001)面の配向度は、90%以上であった。
実施例2~6及び比較例1、2其々のc1は、下記表1に示される値であった。
実施例2~6及び比較例1、2其々のc2は、下記表1に示される値であった。
実施例2~6及び比較例1、2其々のc1/a1は、下記表1に示される値であった。
実施例2~6及び比較例1、2其々のc2/a2は、下記表1に示される値であった。
実施例2~6及び比較例1、2其々のI2/(I1+I2)は、下記表1に示される値であった。
実施例2~6及び比較例1、2其々のc2-c1は、下記表1に示される値であった。
実施例1と同様の方法で、実施例2~6及び比較例1~3其々の圧電薄膜の圧電性が評価された。
実施例2~6及び比較例1~3其々のPrは、下記表1に示される。
実施例2~6及び比較例1~3其々のεrは、下記表1に示される。
実施例2~6及び比較例1~3其々の-e31,fは、下記表1に示される。
実施例2~6及び比較例1~3其々の(-e31,f)2/ε0εrは、下記表1に示される。
(比較例4)
比較例4の圧電薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、0.1Paに維持された。
圧電薄膜の形成過程における酸素分圧を除いて実施例2と同様の方法で、比較例4の圧電薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法により、比較例4の第一電極層のXRDパターンが測定された。比較例4の場合、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
実施例1と同様の方法により、比較例4の圧電薄膜の組成が分析された。比較例4の場合、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成とほぼ一致した。
実施例1と同様の方法により、XRD法に基づく比較例4の圧電薄膜の分析が行われた。比較例4の圧電薄膜は以下の特徴を有していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物からなっていた。
比較例4の場合、ペロブスカイト型酸化物の正方晶として、単一の正方晶が検出された。つまり、比較例4の圧電薄膜は、異方性(c/a)において異なる二種類の正方晶を含んでいなかった。比較例4の圧電薄膜に含まれる単一の正方晶は、正方晶1とみなされる。
比較例4の場合、圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶1の(001)面の配向度は、50%未満であった。比較例4の場合、正方晶1のいずれの結晶面も、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していなかった。
比較例4のc1は、下記表2に示される値であった。
比較例4のc1/a1は、下記表2に示される値であった。
比較例4のI2/(I1+I2)は、下記表2に示される値であった。
実施例1と同様の方法で、比較例4の圧電薄膜の圧電性が評価された。
比較例4のPrは、下記表2に示される。
比較例4のεrは、下記表2に示される。
比較例4の-e31,fは、下記表2に示される。
比較例4の(-e31,f)2/ε0εrは、下記表2に示される。
(実施例7及び8)
実施例7及び8の場合、第二中間層が第一電極層の表面全体に形成され、圧電薄膜が第二中間層の表面全体に形成された。実施例7の第二中間層は、結晶質のSrRuO3からなっていた。実施例7の第二中間層の厚みは、50nmであった。実施例8の第二中間層は、結晶質のLaNiO3からなっていた。実施例8の第二中間層の厚みは、50nmであった。下記表3中の「SRO」は、SrRuO3を意味する。下記表3中の「LNO」は、LaNiO3を意味する。
第二中間層が形成されたことを除いて実施例2と同様の方法で、実施例7及び8其々の圧電薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法により、実施例7及び8其々の第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例7及び8のいずれの場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
実施例1と同様の方法により、実施例7及び8其々の圧電薄膜の組成が分析された。実施例7及び8のいずれの場合も、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成とほぼ一致した。
実施例1と同様の方法により、XRD法に基づく実施例7及び8其々の圧電薄膜の分析が行われた。実施例7及び8のいずれの場合も、圧電薄膜は以下の特徴を有していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物からなっていた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2を含んでいた。
正方晶1の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶1の(001)面の配向度は、90%以上であった。
正方晶2の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶2の(001)面の配向度は、90%以上であった。
実施例7及び8其々のc1は、下記表3に示される値であった。
実施例7及び8其々のc2は、下記表3に示される値であった。
実施例7及び8其々のc1/a1は、下記表3に示される値であった。
実施例7及び8其々のc2/a2は、下記表3に示される値であった。
実施例7及び8其々のI2/(I1+I2)は、下記表3に示される値であった。
実施例7及び8其々のc2-c1は、下記表3に示される値であった。
実施例1と同様の方法で、実施例7及び8其々の圧電薄膜の圧電性が評価された。
実施例7及び8其々のPrは、下記表3に示される。
実施例7及び8其々のεrは、下記表3に示される。
実施例7及び8其々の-e31,fは、下記表3に示される。
実施例7及び8其々の(-e31,f)2/ε0εrは、下記表3に示される。
(実施例9)
実施例9の圧電薄膜素子の作製過程では、第一中間層が形成されなかった。実施例9の圧電薄膜素子の作製過程では、結晶質のSrRuO3からなる第一電極層が単結晶基板の表面全体に直接形成された。実施例9の第一電極層の厚みは、200nmであった。これらの事項を除いて実施例2と同様の方法で、実施例9の圧電薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法により、実施例9の第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例9の場合、第一電極層の結晶面は、第一電極層の表面の面内方向において配向してなかった。つまり、実施例9の場合、第一電極層の結晶の面内配向性がなかった。
実施例1と同様の方法により、実施例9の圧電薄膜の組成が分析された。実施例9の場合、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成とほぼ一致した。
実施例1と同様の方法により、XRD法に基づく実施例9の圧電薄膜の分析が行われた。実施例9の圧電薄膜は以下の特徴を有していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物からなっていた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶1、及びペロブスカイト型酸化物の正方晶2を含んでいた。
正方晶1の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶1の(001)面の配向度は、90%以上であった。
正方晶2の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶2の(001)面の配向度は、90%以上であった。
実施例9のc1は、下記表4に示される値であった。
実施例9のc2は、下記表4に示される値であった。
実施例9のc1/a1は、下記表4に示される値であった。
実施例9のc2/a2は、下記表4に示される値であった。
実施例9のI2/(I1+I2)は、下記表4に示される値であった。
実施例9のc2-c1は、下記表4に示される値であった。
実施例1と同様の方法で、実施例9の圧電薄膜の圧電性が評価された。
実施例9のPrは、下記表4に示される。
実施例9のεrは、下記表4に示される。
実施例9の-e31,fは、下記表4に示される。
実施例9の(-e31,f)2/ε0εrは、下記表4に示される。