JP2022071607A - 圧電薄膜、圧電薄膜素子及び圧電トランスデューサ - Google Patents

圧電薄膜、圧電薄膜素子及び圧電トランスデューサ Download PDF

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Abstract

【課題】大きい圧電性能指数を有する圧電薄膜の提供。【解決手段】圧電薄膜3は、ペロブスカイト構造を有する酸化物を含む圧電薄膜3であって、圧電薄膜3は、酸化物の正方晶を含み、正方晶の(001)面は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向しており、正方晶の(001)面の間隔は、cであり、正方晶の(100)面の間隔は、aであり、c/aは、1.050以上1.250以下であり、酸化物は、Fe2+を含む。【選択図】図2

Description

本発明は、圧電薄膜、圧電薄膜素子及び圧電トランスデューサに関する。
圧電体は、種々の目的に応じて様々な圧電素子に加工される。例えば、圧電アクチュエータは、圧電体に電圧を加えて圧電体を変形させる逆圧電効果により、電圧を力に変換する。また圧電センサは、圧電体に圧力を加えて圧電体を変形させる圧電効果により、力を電圧に変換する。これらの圧電素子は、様々な電子機器に搭載される。
近年の市場では、電子機器の小型化及び性能の向上が要求されるため、圧電薄膜を用いた圧電素子(圧電薄膜素子)が盛んに研究されている。しかしながら、圧電体が薄いほど、圧電効果及び逆圧電効果が得られ難いため、薄膜の状態において優れた圧電性を有する圧電体の開発が期待されている。
従来、圧電体として、ペロブスカイト型強誘電体であるジルコン酸チタン酸鉛(いわゆるPZT)が多用されてきた。しかしながら、PZTは、人体や環境を害する鉛(Pb)を含むため、PZTの代替として、無鉛(Lead‐free)の圧電体の開発が期待されている。例えば、非特許文献1には、無鉛の圧電体の一例として、BiFeOが記載されている。BiFeOは、無鉛の圧電体の中でも比較的優れた圧電性を有し、圧電薄膜素子への応用が特に期待されている。
K.Ujimoto et al, Direct piezoelectric properties of (100) and (111) BiFeO3 epitaxial thin films, APPLIED PHYSICS LETTERS. 100, 102901 (2012)
(-e31,f/εεは、圧電薄膜の圧電性を示す圧電性能指数である。-e31,fは圧電定数の一種であり、-e31,fの単位はC/mである。εは真空の誘電率であり、εの単位は、F/mである。εは圧電薄膜の比誘電率であり、εの単位はない。(-e31,f/εεの単位は、Paである。大きい圧電性能指数を有する圧電薄膜は、圧電トランスデューサ(センサー)等の圧電薄膜素子に適している。
本発明の目的は、大きい圧電性能指数を有する圧電薄膜、当該圧電薄膜を備える圧電薄膜素子及び圧電トランスデューサを提供することである。
本発明の一側面に係る圧電薄膜は、ペロブスカイト構造を有する酸化物を含む圧電薄膜であって、圧電薄膜は、酸化物の正方晶を含み、正方晶の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において配向しており、正方晶の(001)面の間隔は、cであり、正方晶の(100)面の間隔は、aであり、c/aは、1.050以上1.250以下であり、酸化物は、Fe2+を含む。
酸化物は、Bi3+及びFe3+を更に含んでよい。
酸化物は、下記化学式1で表されてよく、下記化学式1中のEは、Na、K及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよく、下記化学式1中のEは、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよく、下記化学式1中のxは、0.10以上0.80以下であってよく、下記化学式1中のyは、0.10以上0.85以下であってよく、下記化学式1中のzは、0.05以上0.80以下であってよく、x+y+zは、1.00であってよく、下記化学式1中のαは、0.00以上1.00未満であってよい。
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
圧電薄膜の厚みは、500nm以上5000nm以下であってよい。
圧電薄膜は、エピタキシャル膜であってよい。
本発明の一側面に係る圧電薄膜素子は、上記の圧電薄膜を備える。
圧電薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる圧電薄膜と、を備えてよい。
圧電薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる電極層と、電極層に重なる圧電薄膜と、を備えてよい。
圧電薄膜素子は、電極層と、電極層に重なる圧電薄膜と、を備えてよい。
圧電薄膜素子は、第一中間層を更に備えてよく、第一中間層は、単結晶基板と電極層との間に配置されていてよい。
第一中間層は、ZrO及びYを含んでよい。
圧電薄膜素子は、第二中間層を更に備えてよく、第二中間層は、電極層と圧電薄膜との間に配置されていてよい。
第二中間層は、SrRuO及びLaNiOのうち少なくともいずれかを含んでよい。
電極層は、白金の結晶を含んでよく、白金の結晶の(002)面は、電極層の表面の法線方向において配向していてよく、白金の結晶の(200)面は、電極層の表面の面内方向において配向していてよい。
本発明の一側面に係る圧電トランスデューサは、上記の圧電薄膜素子を備える。
本発明によれば、大きい圧電性能指数を有する圧電薄膜、当該圧電薄膜を備える圧電薄膜素子及び圧電トランスデューサが提供される。
図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係る圧電薄膜素子の模式的な断面図であり、図1中の(b)は、図1中の(a)に示す圧電薄膜素子の斜視分解図である。 図2は、ペロブスカイト構造を有する酸化物(正方晶)の単位胞の斜視図であり、ペロブスカイト構造における各元素の配置を示す。 図3は、ペロブスカイト構造を有する酸化物(正方晶)の単位胞の斜視図であり、正方晶の結晶面及び結晶方位を示す。 図4は、本発明の他の一実施形態に係る圧電薄膜素子(超音波トランスデューサ)の模式的な断面図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態の詳細が説明される。ただし、本発明は下記実施形態に限定されない。図面において、同一又は同等の要素は、同一の符号が付される。図1中の(a)、図1中の(b)及び図4に示されるX軸,Y軸及びZ軸は、互いに直交する三つの座標軸である。三つの座標軸其々の方向は、図1中の(a)、図1中の(b)及び図4に共通する。
(圧電薄膜及び圧電薄膜素子)
本実施形態に係る圧電薄膜素子は、圧電薄膜を備える。図1中の(a)は、本実施形態に係る圧電薄膜素子10の断面を示す。この圧電薄膜素子10の断面は、圧電薄膜3の表面に垂直である。圧電薄膜素子10は、単結晶基板1と、単結晶基板1に重なる第一電極層2(下部電極層)と、第一電極層2に重なる圧電薄膜3と、圧電薄膜3に重なる第二電極層4(上部電極層)と、を備えてよい。圧電薄膜素子10は第一中間層5を更に備えてよい。第一中間層5は単結晶基板1と第一電極層2との間に配置されてよく、第一電極層2は第一中間層5の表面に直接重なっていてよい。圧電薄膜素子10は第二中間層6を備えてよい。第二中間層6は第一電極層2と圧電薄膜3の間に配置されてよく、圧電薄膜3は第二中間層6の表面に直接重なっていてよい。単結晶基板1、第一中間層5、第一電極層2、第二中間層6、圧電薄膜3及び第二電極層4其々の厚みは均一であってよい。図1中の(b)に示されるように、圧電薄膜3の表面の法線方向dnは、単結晶基板1の表面の法線方向Dと略平行であってよい。図1中の(b)では、第一電極層、第一中間層、第二中間層及び第二電極層が省略されている。
圧電薄膜素子10の変形例は、単結晶基板1を備えなくてよい。例えば、第一電極層2及び圧電薄膜3の形成後、単結晶基板1が除去されてよい。圧電薄膜素子10の変形例は、第二電極層4を備えなくてもよい。例えば、第二電極層を備えない圧電薄膜素子が、製品として、電子機器の製造業者に供給された後、電子機器の製造過程において、第二電極層が圧電薄膜素子に付加されてよい。単結晶基板1が電極として機能する場合、圧電薄膜素子10の変形例は、第一電極層2を備えなくてもよい。つまり圧電薄膜素子10の変形例は、単結晶基板1と、単結晶基板1に重なる圧電薄膜3と、を備えてよい。第一電極層2がない場合、圧電薄膜3は単結晶基板1に直接重なっていてよい。第一電極層2がない場合、圧電薄膜3が、第一中間層5及び第二中間層6のうち少なくとも一つの中間層を介して単結晶基板1に重なっていてもよい。
圧電薄膜3は、ペロブスカイト(perovskite)構造を有する酸化物を含む。つまり、圧電薄膜3に含まれる少なくとも一部の酸化物は、ペロブスカイト構造を有する結晶である。圧電薄膜3に含まれる全ての酸化物が、ペロブスカイト構造を有する結晶であってよい。場合により、ペロブスカイト構造を有する酸化物は、「ペロブスカイト型酸化物」と表記される。ペロブスカイト型酸化物は、圧電薄膜3の主成分である。圧電薄膜3全体に対するペロブスカイト型酸化物の割合は、99%モル以上100モル%以下であってよい。圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物のみからなっていてよい。
ペロブスカイト型酸化物は、少なくとも2価の鉄(Fe2+)及び酸素(O)を含む。ペロブスカイト型酸化物は、ビスマス(Bi)、2価の鉄(Fe2+)、3価の鉄(Fe3+)及び酸素(O)を含んでよい。ペロブスカイト型酸化物は、ビスマス(Bi)、2価の鉄(Fe2+)、3価の鉄(Fe3+)、チタン(Ti)及び酸素(O)を含んでよい。ペロブスカイト型酸化物は、ビスマス(Bi)、2価の鉄(Fe2+)、3価の鉄(Fe3+)、チタン(Ti)、元素E及び酸素(O)を含んでよく、Eは、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)及び亜鉛(Zn)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。ペロブスカイト型酸化物は、Eとして複数種の元素を含んでよい。ペロブスカイト型酸化物は、ビスマス(Bi)、元素E、2価の鉄(Fe2+)、3価の鉄(Fe3+)、チタン(Ti)、元素E及び酸素(O)を含んでよく、Eは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及び銀(Ag)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。ペロブスカイト型酸化物は、Eとして複数種の元素を含んでよい。
図2は、ペロブスカイト型酸化物の単位胞ucを示している。ペロブスカイト型酸化物の単位胞ucのAサイトに位置する少なくとも一部の元素は、Biであってよい。Aサイトに位置する元素は、Biのみであってよい。Aサイトに位置する一部の元素は、Eであってもよい。ペロブスカイト型酸化物の単位胞ucのBサイトに位置する少なくとも一部の元素は、Feである。Bサイトに位置する少なくとも一部のFeは、Fe2+である。Bサイトに位置する一部のFeは、Fe3+であってよい。Bサイトに位置する一部の元素は、Ti等のEであってもよい。
圧電薄膜3は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶(tetragonal crystal)を含む。図3は、正方晶の単位胞ucを示している。図3中の正方晶の単位胞ucは、図2中の単位胞ucと同じであるが、図示の便宜上、図3中の単位胞を構成するE及びOは省略されている。
図2及び図3中のa、b及びc其々は、正方晶(ペロブスカイト型酸化物)の基本ベクトルである。a、b及びcは、互いに垂直である。ベクトルa(a軸)の方位は、[100]である。ベクトルb(b軸)の方位は、[010]である。ベクトルc(c軸)の方位は、[001]である。ベクトルaの長さaは、正方晶の(100)面の間隔である。換言すれば、ベクトルaの長さaは、正方晶の[100]方向における格子定数である。ベクトルbの長さbは、正方晶の(010)面の間隔である。換言すれば、ベクトルbの長さbは、正方晶の[010]方向における格子定数である。ベクトルcの長さcは、正方晶の(001)面の間隔である。換言すれば、ベクトルcの長さcは、正方晶の[001]方向における格子定数である。aは、bと等しい。cは、aよりも大きい。
図1中の(b)及び図3に示されるように、正方晶(uc)の(001)面は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している。例えば、正方晶の(001)面が、圧電薄膜3の表面に略平行であってよく、正方晶の[001]方向が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnと略平行であってよい。圧電薄膜3の表面の法線方向dnは、単結晶基板1の表面の法線方向Dと略平行であってよい。したがって、正方晶の(001)面は、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向してよい。換言すれば、正方晶の(001)面が、単結晶基板1の表面に略平行であってよく、正方晶の[001]方向が、単結晶基板1の表面の法線方向Dと略平行であってよい。
ペロブスカイト型酸化物は、[001]方向において分極され易い。つまり[001]は、他の結晶方位に比べて、ペロブスカイト型酸化物が分極され易い方位である。したがって、正方晶の(001)面が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向することにより、圧電薄膜3は優れた圧電性を有することができる。同様の理由から、圧電薄膜3は、強誘電体(ferroelectric)であってよい。以下に記載の結晶配向性とは、正方晶の(001)面が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していることを意味する。
圧電薄膜3が、上記の結晶配向性を有することにより、圧電薄膜3は、大きい(-e31,f/εε(圧電性能指数)を有することができる。上記の結晶配向性は薄膜に固有の特徴である。薄膜とは、気相成長法又は溶液法によって形成される結晶質の膜である。一方、圧電薄膜3と同じ組成を有する圧電体のバルクは上記の結晶配向性を有することは困難である。圧電体のバルクは、圧電体の必須元素を含む粉末の焼結体(セラミックス)であり、焼結体を構成する多数の結晶の構造及び配向性を制御することが困難であるからである。圧電体のバルクが上記の結晶配向性を有することが困難なことに起因して、圧電体のバルクがFeを含む場合、圧電体のバルクの比抵抗率は圧電薄膜3に比べて低くなり易い。その結果、リーク電流が圧電体のバルクにおいて発生し易い。したがって、高い電界の印加によって圧電体のバルクを分極させることは困難であり、圧電体のバルクが大きい圧電性能指数を有することは困難である。
c/aは、1.050以上1.250以下である。c/aが1.050以上1.250以下であることにより、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有することができる。c/aが1.050未満である場合、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有することは困難である。c/aが1.250より大きい場合も、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有することは困難である。圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有し易いことから、c/aは、1.050以上1.248以下であってもよい。aは、例えば、3.762Å以上3.950Å以下であってよい。cは、例えば、4.148Å以上4.692Å以下であってよい。
発明者の考察に拠れば、Fe2+を含む圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有する理由は下記の通りである。ただし、Fe2+を含む圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有する理由は、下記の理由に限定されない。
BiFeO‐(Bi,K)TiO系の圧電薄膜が、正方晶(tetragonal crystal)と菱面体晶(rhombohedral crystal)との間のモルフォトロピック相境界(Morphotropic Phase Boundary,MPB)近傍の組成を有する場合、正方晶に由来する圧電特性(-e31,f)は向上するが、誘電率(εε)も増加するため、圧電性能指数は向上し難い。誘電率の増加を抑制するためには、圧電薄膜を正方晶のみから構成することによって、圧電薄膜の圧電性(強誘電性)を改善することが望ましい。圧電薄膜の正方晶性(tetragonality)は、エピタキシャル応力(格子不整合に因る圧縮応力)によって実現する。圧電薄膜の表面に平行なエピタキシャル応力により、圧電薄膜が、圧電薄膜の表面に平行な方向(つまり、a軸方向及びb軸方向)において圧縮され、圧電薄膜が歪むからである。しかしながら、圧電薄膜が厚いほど、圧電薄膜の正方晶性をエピタキシャル応力のみによって向上させることは困難である。圧電薄膜が厚いほど、エピタキシャル応力によって圧電薄膜3の全体を歪ませることは困難であるからである。したがって、圧電薄膜内に生じるエピタキシャル応力が弱まる程に圧電薄膜が厚い場合であっても、圧電薄膜の正方晶構造を安定させることが望ましい。そこで、本実施形態に係る圧電薄膜3では、ペロブスカイト型酸化物のBサイトに位置する元素(イオン)の電子配置が、BiCoOを構成するCo3+のd6電子配置と同様になるように、BサイトのイオンがFe2+で置換される。その結果、圧電薄膜3内に生じるエピタキシャル応力が弱まる程に圧電薄膜3が厚い場合であっても、圧電薄膜3の正方晶性が向上する。換言すれば、圧電薄膜3内に生じるエピタキシャル応力が弱まる程に圧電薄膜3が厚い場合であっても、c/aが1.050以上である正方晶が圧電薄膜3に含まれる。
圧電体のバルク中に菱面体晶が形成されることが予想されるようなMPB近傍の組成系の場合も、Bサイトの一部のイオンがFe2+で置換された圧電薄膜3では、正方晶内のBO八面体(又はBOピラミッド)の回転(c軸周りの回転)は起き得るが、擬立方晶(Pseudo cubic crystal)の形成に起因する分極回転は抑制される。換言すれば、Bサイトの一部がFe2+で置換された圧電薄膜3はMPBを有し難く、正方晶のc軸の方向が変化する分極回転は起き難い。
以上のメカニズムにより、本実施形態に係る圧電薄膜3においては、圧電特性(-e31,f)の向上と誘電率(εε)の低下が両立し、圧電性能指数が増加する。
圧電薄膜3とは対照的に、圧電体のバルクでは、応力に起因する結晶構造の歪みが起き難い。したがって、圧電体のバルクを構成する大多数のペロブスカイト型酸化物は立方晶であり、圧電体のバルクがペロブスカイト型酸化物の正方晶に起因する圧電性を有することは困難である。
圧電薄膜3の厚みTpは、500nm以上5000nm以下であってよい。圧電薄膜3の厚みTpが500nm以上であり、圧電薄膜3の厚い場合であっても、ペロブスカイト型酸化物のBサイトに位置するイオンがFe2+で置換されることにより、圧電薄膜3は大きい圧電性能指数を有することができる。圧電薄膜3の厚みTpを5000nm以下に調整することにより、エピタキシャル応力に依らずに圧電薄膜3の全体が正方晶を含み易く、圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有し易い。ただし、圧電薄膜3の厚みTpは、上記の範囲に限定されない。圧電薄膜3の厚みTpの測定方法は限定されない。例えば、圧電薄膜3の厚みTpは、圧電薄膜3の表面に垂直な圧電薄膜3の断面において、走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定されてよい。
正方晶の(001)面の配向の程度は、配向度によって定量化されてよい。正方晶の(001)面の配向度が大きいほど、圧電薄膜3は大きい圧電性能指数を有し易い。正方晶の(001)面の配向度は、各結晶面に由来する回折X線のピークに基づいて算出されてよい。各結晶面に由来する回折X線のピークは、圧電薄膜3の表面におけるOut‐оf‐Plane測定によって測定されてよい。圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおける正方晶の(001)面の配向度は、100×I(001)/ΣI(hkl)と表されてよい。ΣI(hkl)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶の各結晶面の回折X線のピーク強度の総和である。ΣI(hkl)は、例えば、I(001)+I(110)+I(111)であってよい。I(001)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶の(001)面の回折X線のピーク強度(最大値)である。I(110)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶の(110)面の回折X線のピーク強度(最大値)である。I(111)は、圧電薄膜3の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される正方晶の(111)面の回折X線のピーク強度(最大値)である。正方晶の(001)面の配向の程度は、ロットゲーリング(Lotgering)法に基づく配向度Fによって定量化されてもよい。上記のいずれの方法で配向度が算出される場合であっても、正方晶の(001)面の配向度は、70%以上100%以下、好ましくは80%以上100%以下、より好ましくは90%以上100%以下であってよい。換言すれば、正方晶の(001)面は、正方晶の他の結晶面に優先して、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向してよい。
圧電薄膜3は、正方晶のみからなっていてよい。圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有する限りにおいて、圧電薄膜3は、正方晶に加えて、立方晶及び菱面体晶からなる群より選ばれる少なくとも一種のペロブスカイト型酸化物の結晶を更に含んでよい。
上述の通り、圧電薄膜3に含まれるペロブスカイト型酸化物は、少なくともFe2+及びO(O2-)を含む。ペロブスカイト型酸化物は、Bi(Bi3+、又はBi3+及びBi5+)、Fe2+、Fe3+及びO(O2-)を含んでよい。ペロブスカイト型酸化物は、Bi(Bi3+、又はBi3+及びBi5+)、Fe2+、Fe3+、Ti(Ti4+)及びO(O2-)を含んでよい。ペロブスカイト型酸化物は、Bi(Bi3+、又はBi3+及びBi5+)、E、Fe2+、Fe3+、Ti(Ti4+)、並びにO(O2-)を含んでよい。Eは、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。ペロブスカイト型酸化物は、Bi(Bi3+、又はBi3+及びBi5+)、E、E、Fe2+、Fe3+、Ti(Ti4+)並びにO(O2-)を含んでよい。Eは、Na、K及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。ペロブスカイト型酸化物が上記の元素から構成される場合、圧電薄膜3中の正方晶が上記の結晶配向性を有し易く、c/aが上記の範囲内に収まり易い。圧電薄膜3は、Bi(Bi3+、又はBi3+及びBi5+)、E、Fe2+、Fe3+、Ti(Ti4+)並びにO(O2-)のみからなっていてよい。圧電薄膜3は、Bi(Bi3+、又はBi3+及びBi5+)、E、E、Fe2+、Fe3+、Ti(Ti4+)並びにO(O2-)のみからなっていてもよい。圧電薄膜3が大きい圧電性能指数を有する限りにおいて、圧電薄膜3は、Bi(Bi3+、又はBi3+及びBi5+)、E、E、Fe2+、Fe3+、Ti(Ti4+)並びにO(O2-)に加えて、他の元素を更に含んでもよい。圧電薄膜3は、Pbを含まなくてよい。圧電薄膜3は、Pbを含んでもよい。
圧電薄膜3に含まれるペロブスカイト型酸化物は、下記化学式1で表されてよい。下記化学式1は、下記化学式1aと実質的に同じである。
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
(Bix(1-α)+y+z xα)(E Fey+0.5zTi0.5z)O3±δ (1a)
上記化学式1及び1a中のx+y+zは、1.00であってよい。
上記化学式1及び1a中のEは、Na、K及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。上記化学式1及び1a中のEは、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。
上記化学式1中の(Bi1-α α)Eを構成するEの価数(イオン価)の総和はVと表される。(Bi1-α α)Eを構成するEの価数(イオン価)の総和はVと表される。化学式1中の(Bi1-α α)Eを構成するBi、E及びEの価数の総和は、3(1-α)+Vα+V、又は5(1-α)+Vα+Vと表される。3(1-α)+Vα+V、又は5(1-α)+Vα+Vは、Oの価数(イオン価)の総和(-6)とバランスする+6であってよい。3(1-α)+Vα、又は5(1-α)+Vαは、+3であってよい。Vは、+3であってよい。ペロブスカイト型酸化物が、Eとして二種の元素(EB1及びEB2)を含む場合、上記化学式1は、下記化学式1’と実質的に同じである。下記化学式1’中のβは、0.00より大きく1.00未満であってよい。EB1の価数(イオン価)はVB1と表される。EB2の価数(イオン価)はVB2と表される。Eの価数(イオン価)の総和Vは、(1-β)VB1+βVB2と表される。(1-β)VB1+βVB2は、+3であってよい。
x(Bi1-α α)(EB1 1-βB2 β)O‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1’)
上記化学式1a中のBix(1-α)+y+z xαは、ペロブスカイト構造のAサイトに位置する元素である。化学式1a中のE Fey+0.5zTi0.5zは、ペロブスカイト構造のBサイトに位置する元素である。
上記化学式1及び1’中のyBiFeOを構成するFe価数は3価であるが、上記化学式1及び1’中のzBi(Fe0.5Ti0.5)Oを構成するFe価数は2価である。したがって、圧電薄膜3の原料全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、上記化学式1、1’又は1aにおけるBi、E、E、Fe及びTiのモル比と一致するように、圧電薄膜3の原料の組成を調整することによって、圧電薄膜3中の酸化物がFe2+を含むことができる。
上記化学式1、1’及び1a中のxは、0.10以上0.80以下であってよい。xが0.10以上0.80以下である場合、圧電薄膜3中の正方晶が上記の結晶配向性を有し易く、c/aが上記の範囲内に収まり易い。
上記化学式1、1’及び1a中のyは、0.10以上0.85以下であってよい。yが0.10以上0.85以下である場合、圧電薄膜3中の正方晶が上記の結晶配向性を有し易く、c/aが上記の範囲内に収まり易い。
上記化学式1、1’及び1a中のzは、0.05以上0.80以下であってよい。zは、0.05以上0.80以下である場合、圧電薄膜3中の正方晶が上記の結晶配向性を有し易く、c/aが上記の範囲内に収まり易い。
上記化学式1、1’及び1a中のαは、0.00以上1.00未満であってよい。圧電薄膜3中の正方晶が上記の結晶配向性を有し易く、c/aが上記の範囲内に収まり易いことから、αは0.50であってよい。上述の通り、上記化学式1’中のβは、0.00より大きく上1.00未満であってよい。圧電薄膜3中の正方晶が上記の結晶配向性を有し易く、c/aが上記の範囲内に収まり易いことから、βは0.50であってよい。
上記化学式1aにおけるδは、0以上であってよい。ペロブスカイト型酸化物の結晶構造(ペロブスカイト構造)が維持される限りにおいて、δは、0以外の値であってよい。例えば、δは、0より大きく1.0以下であってよい。δは、例えば、ペロブスカイト構造におけるAサイト及びBサイト其々に位置する各イオンの価数から算出されてよい。各イオンの価数は、X線光電子分光(XPS)法により測定されてよい。
ペロブスカイト型酸化物に含まれるBi及びEのモル数の合計値は、[A]と表されてよく、ロブスカイト型酸化物に含まれるFe2+、Fe3+、Ti及びEのモル数の合計値は、[B]と表されてよく、[A]/[B]は1.0であってよい。ペロブスカイト型酸化物の結晶構造(ペロブスカイト構造)が維持される限りにおいて、[A]/[B]は1.0以外の値であってよい。つまり、[A]/[B]は1.0未満であってよく、[A]/[B]は1.0より大きくてもよい。
圧電薄膜3の面積は、例えば、1μm以上500mm以下であってよい。単結晶基板1、第一中間層5、第一電極層2、第二中間層6、及び第二電極層4其々の面積は、圧電薄膜3の面積と同じであってよい。
圧電薄膜の組成は、例えば、蛍光X線分析(XRF)法、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法及び光電子分光(XPS)法によって分析されてよい。圧電薄膜の結晶構造及び結晶配向性は、X線回折(XRD)法によって特定されてよい。上述された圧電薄膜の結晶構造及び結晶配向性は、常温における圧電薄膜の結晶構造及び結晶配向性であってよい。
圧電薄膜3は、例えば、以下の方法により形成されてよい。
圧電薄膜3の原料としては、圧電薄膜3と共通する全ての元素を有するターゲットが用いられてよい。ターゲットの作製方法は、次の通りである。
出発原料として、例えば、Bi、E、E、Fe及びTi其々の酸化物が用いられてよい。出発原料として、酸化物に代えて、炭酸塩又はシュウ酸塩等のように、焼成により酸化物になる物質が用いられてもよい。これらの出発原料を100℃以上で十分に乾燥した後、Bi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、上記化学式1、1’又は1a中における各元素のモル比に一致するように、各出発原料が秤量される。後述される気相成長法において、ターゲット中のBiは、他の元素に比べて揮発し易い。したがって、ターゲット中のBiのモル比は、圧電薄膜3中のBiのモル比よりも高い値に調整されてよい。EとしてKを含む原料が用いられる場合、ターゲット中のKは、他の元素に比べて揮発し易い。したがって、ターゲット中のKのモル比は、圧電薄膜3中のKのモル比よりも高い値に調整されてよい。
秤量された出発原料は、有機溶媒又は水の中で十分に混合される。混合時間は、5時間以上20時間以下であってよい。混合手段は、例えば、ボールミルであってよい。混合後の出発原料を、十分乾燥した後、出発原料はプレス機で成形される。成形された出発原料を仮焼き(calcine)することより、仮焼物が得られる。仮焼きの温度は、750℃以上900℃以下であってよい。仮焼きの時間は、1時間以上3時間以下であってよい。仮焼物は、有機溶媒又は水の中で粉砕される。粉砕時間は、5時間以上30時間以下であってよい。粉砕手段は、ボールミルであってよい。粉砕された仮焼物の乾燥後、バインダー溶液が加えられた仮焼物を造粒することにより、仮焼物の粉が得られる。仮焼物の粉のプレス成形により、ブロック状の成形体が得られる。
ブロック状の成形体を加熱することにより、成形体中のバインダーを揮発させる。加熱温度は、400℃以上800℃以下であってよい。加熱時間は、2時間以上4時間下であってよい。
バインダーの揮発後、成形体が焼成(sinter)される。焼成温度は、800℃以上1100℃以下であってよい。焼成時間は、2時間以上4時間以下であってよい。焼成過程における成形体の昇温速度及び降温速度は、例えば50℃/時間以上300℃/時間以下であってよい。
以上の工程により、ターゲットが得られる。ターゲットに含まれる酸化物(ペロブスカイト型酸化物)の結晶粒(crystal grain)の平均粒径は、例えば、1μm以上20μm以下であってよい。ターゲットはFe3+を含むが、ターゲットは必ずしもFe2+を含まなくてよい。後述の気相成長法による圧電薄膜3の形成過程において、ターゲットに由来するFe3+の一部を還元することにより、Fe2+を含む圧電薄膜3を得ることができる。
上記ターゲットを用いた気相成長法によって、圧電薄膜3が形成されてよい。気相成長法では、真空雰囲気下において、ターゲットを構成する元素を蒸発させる。蒸発した元素が、第二中間層6、第一電極層2、又は単結晶基板1のいずれかの表面に付着及び堆積することにより、圧電薄膜3が成長する。気相成長法は、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition)法、又はパルスレーザー堆積(Pulsed-laser deposition)法であってよい。以下では、パルスレーザー堆積法が、PLD法と表記される。気相成長法の種類に依って、励起源が異なる。スパッタリング法の励起源は、Arプラズマである。電子ビーム蒸着法の励起源は、電子ビームである。PLD法の励起源は、レーザー光(例えば、エキシマレーザー)である。これらの励起源がターゲットに照射されると、ターゲットを構成する元素が蒸発する。上記の気相成長法を用いることによって、圧電薄膜3がエピタキシャルに成長し易い。上記の気相成長法を用いることによって、原子レベルで緻密である圧電薄膜3を形成することが可能であり、圧電薄膜3中における元素の偏析が抑制される。
上記の気相成長法の中でも、以下の点において、PLD法が比較的優れている。PLD法では、パルスレーザーにより、ターゲットを構成する各元素を、一瞬で斑なくプラズマ化させることができる。したがって、各元素のモル比がターゲット中の各元素のモル比と略一致する圧電薄膜3が形成され易い。またPLD法では、レーザーのパルス数(繰り返し周波数)を変えることで、圧電薄膜3の厚みを制御し易い。
圧電薄膜3はエピタキシャル膜であってよい。つまり、圧電薄膜3は、エピタキシャル成長によって形成されてよい。エピタキシャル成長により、正方晶のc/aが上記の範囲内に収まり易く、異方性及び結晶配向性に優れた圧電薄膜3が形成され易い。圧電薄膜3がPLD法によって形成される場合、圧電薄膜3がエピタキシャル成長によって形成され易い。
PLD法では、真空チャンバー内における単結晶基板1及び第一電極層2を加熱しながら、圧電薄膜3が形成されてよい。単結晶基板1及び第一電極層2の温度(成膜温度)は、例えば、450℃以上600℃以下であればよい。成膜温度が450℃以上であることにより、ターゲットに由来するFe3+の一部が還元され易く、Fe2+を含む圧電薄膜3が形成され易い。成膜温度が450℃未満である場合、ターゲットに由来するFe3+が還元され難く、Fe2+を含む圧電薄膜3を得られ難い。成膜温度が高いほど、単結晶基板1又は第一電極層2の表面の清浄度が改善され、圧電薄膜3の結晶性が高まり、正方晶の結晶面の配向度が高まり易い。成膜温度が高過ぎる場合、圧電薄膜3を構成する各元素が過度に還元され、所望の組成を有する圧電薄膜3が得られ難い。また成膜温度が高過ぎる場合、Bi又はKが圧電薄膜3から脱離し易く、圧電薄膜3の組成が制御され難い。
PLD法では、真空チャンバー内の酸素分圧は、例えば、0.1Pa以上3.0Pa以下、好ましくは0.1Pa以上1.0Pa以下、より好ましくは0.1以上0.5Pa以下であってよい。酸素分圧が上記範囲内に維持されることにより、ターゲットに由来するFe3+の一部が還元され易く、Fe2+を含む圧電薄膜3が形成され易い。酸素分圧が低過ぎる場合、ターゲットに由来する各元素が十分に酸化され難く、ペロブスカイト型酸化物が形成され難く、圧電薄膜3の結晶面の配向度が低下し易い。酸素分圧が高過ぎる場合、ターゲットに由来するFe3+が還元され難く、Fe2+を含む圧電薄膜3を得られ難い。また酸素分圧が高過ぎる場合、圧電薄膜3の成長速度が低下し易く、圧電薄膜3の結晶面の配向度が低下し易い。
PLD法で制御される上記以外のパラメータは、例えば、レーザー発振周波数、及び基板とターゲットの間の距離などである。これらのパラメータの制御によって、圧電薄膜3の結晶構造、結晶配向性及び厚みTpが制御され易い。例えば、レーザー発振周波数が10Hz以下である場合、圧電薄膜3の結晶面の配向度が高まり易い。
圧電薄膜3が成長した後、圧電薄膜3のアニール処理(加熱処理)が行われてよい。アニール処理における圧電薄膜3の温度(アニール温度)は、例えば、300℃以上1000℃以下、600℃以上1000℃以下、又は850℃以上1000℃以下であってよい。圧電薄膜3のアニール処理により、圧電薄膜3の圧電性が更に向上する傾向がある。特に850℃以上1000℃以下でのアニール処理により、圧電薄膜3の圧電性が向上し易い。ただし、アニール処理は必須でない。アニール処理は、窒素ガス(N)等の還元的雰囲気下で実施されてよい。還元的雰囲気下でのアニール処理により、アニール処理に伴う圧電薄膜3中のFe2+の酸化(Fe3+の生成)が抑制され、圧電薄膜3中のFe2+が維持され易い。
上述された圧電薄膜3の成長過程と、続く降温過程においては、圧縮応力が圧電薄膜3内に生じる。圧縮応力により、圧電薄膜3が、圧電薄膜3の表面に略平行な方向(a軸方向及びb軸方向)において圧縮される。その結果、ペロブスカイト型酸化物の正方晶が形成される。圧縮応力は、例えば、単結晶基板1と圧電薄膜3との間の格子不整合、又は単結晶基板1と圧電薄膜3との間の熱膨張係数の差に起因する。
単結晶基板1は、例えば、Siの単結晶からなる基板、又はGaAs等の化合物半導体の単結晶からなる基板であってよい。単結晶基板1は、酸化物の単結晶からなる基板であってもよい。酸化物の単結晶は、例えば、MgO又はペロブスカイト型酸化物(例えばSrTiO)であってよい。単結晶基板1の厚みは、例えば、10μm以上1000μm以下であってよい。単結晶基板1が導電性を有する場合、単結晶基板1が電極として機能するので、第一電極層2はなくてもよい。つまり、導電性を有する単結晶基板1は、例えば、ニオブ(Nb)がドープされたSrTiOの単結晶であってよい。
単結晶基板1の結晶方位は、単結晶基板1の表面の法線方向Dと等しくてよい。つまり、単結晶基板1の表面は、単結晶基板1の結晶面と平行であってよい。単結晶基板1は一軸配向基板であってよい。例えば、単結晶基板1(例えばSi)の(100)面が、単結晶基板1の表面と平行であってよい。つまり、単結晶基板1(例えばSi)の[100]方向が、単結晶基板1の表面の法線方向Dと平行であってよい。
単結晶基板1(例えばSi)の(100)面が単結晶基板1の表面と平行である場合、圧電薄膜3中のペロブスカイト型酸化物(正方晶)の(001)面が、圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向し易い。
上述の通り、第一中間層5が、単結晶基板1と第一電極層2との間に配置されていてよい。第一中間層5は、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、及び酸化ジルコニウム(ZrO)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。第一中間層5を介することにより、第一電極層2が単結晶基板1に密着し易い。第一中間層5は、結晶質であってよい。第一中間層5の結晶面が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向していてよい。単結晶基板1の結晶面と第一中間層5の結晶面の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向してよい。第一中間層5の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。
第一中間層5は、ZrO及び希土類元素の酸化物を含んでよい。第一中間層5が、ZrO及び希土類元素の酸化物を含むことにより、白金の結晶からなる第一電極層2が第一中間層5の表面に形成され易く、白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面の法線方向において配向し易く、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面の面内方向において配向し易い。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
第一中間層5は、ZrO及びYを含んでよい。例えば、第一中間層5は、イットリア安定化ジルコニア(Yが添加されたZrO)からなっていてよい。第一中間層5は、ZrOからなる第一層と、Yからなる第二層とを有してよい。ZrOからなる第一層は、単結晶基板1の表面に直接積層されてよい。Yからなる第二層は、第一層の表面に直接積層されてよい。第一電極層2は、Yからなる第二層の表面に直接積層されてよい。第一中間層5がZrO及びYを含む場合、圧電薄膜3が、エピタキシャルに成長し易く、圧電薄膜3中の正方晶の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向し易い。また第一中間層5がZrO及びYを含む場合、白金の結晶からなる第一電極層2が第一中間層5の表面に形成され易く、白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面の法線方向において配向し易く、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面の面内方向において配向し易い。
第一電極層2は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第一電極層2は、例えば、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)、ニッケル酸ランタン(LaNiO)、又はコバルト酸ランタンストロンチウム((La,Sr)CoO)等の導電性金属酸化物からなっていてもよい。第一電極層2は、結晶質であってよい。第一電極層2の結晶面が、単結晶基板1の法線方向Dにおいて配向していてよい。第一電極層2の結晶面は、単結晶基板1の表面と略平行であってよい。単結晶基板1の結晶面と第一電極層2の結晶面の両方が、単結晶基板1の法線方向Dにおいて配向していてよい。単結晶基板1の法線方向Dにおいて配向する第一電極層2の結晶面が、圧電薄膜3中の正方晶の(001)面と略平行であってよい。第一電極層2の厚みは、例えば、1nm以上1.0μm以下であってよい。第一電極層2の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法の場合、第一電極層2の結晶性を高めるために、第一電極層2の加熱処理(アニーリング)が行われてよい。
第一電極層2は、白金の結晶を含んでよい。第一電極層2が、白金の結晶のみからなっていてよい。白金の結晶は、面心立方格子構造(fcc構造)を有する立方晶である。白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面の法線方向において配向していてよく、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面の面内方向において配向していてよい。換言すれば、白金の結晶の(002)面が、第一電極層2の表面に略平行であってよく、白金の結晶の(200)面が、第一電極層2の表面に略垂直であってよい。第一電極層2を構成する白金の結晶の(002)面及び(200)面が上記の配向性を有する場合、圧電薄膜3が、第一電極層2の表面においてエピタキシャルに成長し易く、圧電薄膜3中の正方晶の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向し易い。第一電極層2の表面は、圧電薄膜3の表面に略平行であってよい。つまり、第一電極層2の表面の法線方向は、圧電薄膜3の表面の法線方向dnと略平行であってよい。
上述の通り、第二中間層6が、第一電極層2と圧電薄膜3との間に配置されていてよい。第二中間層6は、例えば、SrRuO、LaNiO及び(La,Sr)CoOからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。(La,Sr)CoOは、例えば、La0.5Sr0.5CoOであってよい。第二中間層6は、結晶質であってよい。例えば、第二中間層6は、例えば、SrRuOの結晶を含む層、LaNiOの結晶を含む層、及び(La,Sr)CoOの結晶を含む層なる群より選ばれる少なくとも二種のバッファー層から構成される積層体であってもよい。SrRuO、LaNiO及び(La,Sr)CoOのいずれもペロブスカイト構造を有する。したがって、第二中間層6が、SrRuO、LaNiO及び(La,Sr)CoOからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む場合、圧電薄膜3が、エピタキシャルに成長し易く、圧電薄膜3中の正方晶の(001)面が圧電薄膜3の表面の法線方向dnにおいて優先的に配向し易い。また、第二中間層6を介することにより、圧電薄膜3が第一電極層2に密着し易い。第二中間層6の結晶面が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向していてよい。単結晶基板1の結晶面と第二中間層6の結晶面の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向してよい。第二中間層6の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。
第二電極層4は、例えば、例えば、Pt、Pd、Rh、Au、Ru、Ir、Mo、Ti、Ta、及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第二電極層4は、例えば、LaNiO、SrRuO及び(La,Sr)CoOからなる群より選ばれる少なくとも一種の導電性金属酸化物からなっていてよい。第二電極層4は、結晶質であってよい。第二電極層4の結晶面が、単結晶基板1の法線方向Dにおいて配向していてよい。第二電極層4の結晶面は、単結晶基板1の表面と略平行であってよい。単結晶基板1の法線方向Dにおいて配向する第二電極層4の結晶面が、圧電薄膜3中の正方晶の(001)面と略平行であってよい。第二電極層4の厚みは、例えば、1nm以上1.0μm以下であってよい。第二電極層4の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法の場合、第二電極層4の結晶性を高めるために、第二電極層4の加熱処理(アニーリング)が行われてもよい。
第三中間層が、圧電薄膜3と第二電極層4との間に配置されていてよい。第三中間層を介することにより、第二電極層4が圧電薄膜3に密着し易い。第三中間層の組成、結晶構造及び形成方法は、第二中間層と同じであってよい。
圧電薄膜素子10の表面の少なくとも一部又は全体が、保護膜によって被覆されていてよい。保護膜による被覆により、例えば圧電薄膜素子10の耐湿性が向上する。
本実施形態に係る圧電薄膜素子の用途は、多様である。例えば、圧電薄膜素子は、圧電トランスデューサに用いられてよい。つまり、本実施形態に係る圧電トランスデューサは、上述された圧電薄膜又は圧電薄膜素子を備えてよい。圧電トランスデューサは、例えば、超音波センサ等の超音波トランスデューサであってよい。圧電薄膜素子は、例えば、ハーベスタ(振動発電素子)であってもよい。本実施形態に係る圧電薄膜素子は、大きい(-e31fεを有する圧電薄膜を備えるため、超音波トランスデューサ又はハーベスタに適している。圧電薄膜素子は、圧電アクチュエータであってもよい。圧電アクチュエータは、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、又はハードディスクドライブに用いられてもよい。圧電アクチュエータは、プリンタヘッド、又はインクジェットプリンタ装置に用いられてもよい。圧電アクチュエータは、圧電スイッチであってもよい。圧電アクチュエータは、ハプティクス(haptics)に用いられてもよい。つまり、圧電アクチュエータは、皮膚感覚(触覚)によるフィードバックが求められる様々なデバイスに用いられてよい。皮膚感覚によるフィードバックが求められるデバイスとは、例えば、ウェアラブルデバイス、タッチパッド、ディスプレイ、又はゲームコントローラであってよい。圧電薄膜素子は、圧電センサであってもよい。例えば、圧電センサは、圧電マイクロフォン、ジャイロセンサ、圧力センサ、脈波センサ、又はショックセンサであってよい。圧電薄膜素子は、発振子又は音響多層膜であってもよい。圧電薄膜素子は、微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems; MEMS)の一部又は全体であってもよく、例えば、圧電微小機械超音波トランスデューサ(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducers; PMUT)であってよい。圧電微小機械超音波トランスデューサを応用した製品の具体例としては、生体認証センサ又は医療/ヘルスケア用センサ(指紋センサ、又は超音波式血管認証センサ等)、並びにToF(Time of Flight)センサがある。
図4は、上記の圧電薄膜3を備える超音波トランスデューサ10aの模式的な断面を示す。この超音波トランスデューサ10aの断面は、圧電薄膜3の表面に垂直である。超音波トランスデューサ10aは、基板1a及び1bと、基板1a及び1bの上に設置された第一電極層2と、第一電極層2に重なる圧電薄膜3と、圧電薄膜3に重なる第二電極層4と、を備えてよい。圧電薄膜3の下方には、音響用の空洞1cが設けられていてよい。圧電薄膜3の撓み又は振動により、超音波信号が発信又は受信される。第一中間層が基板1a及び1bと第一電極層2の間に介在してよい。第二中間層が第一電極層2と圧電薄膜3の間に介在してよい。
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1の圧電薄膜素子の作製には、Siからなる単結晶基板が用いられた。Siの(100)面は、単結晶基板の表面と平行であった。単結晶基板は、20mm×20mmの正方形であった。単結晶基板の厚みは、500μmであった。
真空チャンバー内で、ZrO及びYからなる結晶質の第一中間層が、単結晶基板の表面全体に形成された。第一中間層は、スパッタリング法により形成された。第一中間層の厚みは、30nmであった。
真空チャンバー内で、Ptの結晶からなる第一電極層が、第一中間層の表面全体に形成された。第一電極層は、スパッタリング法により形成された。第一電極層の厚みは、200nmであった。第一電極層の形成過程における単結晶基板の温度は、500℃に維持した。
第一電極層の表面におけるOut оf Plane測定により、第一電極層のXRDパターンが測定された。第一電極層の表面におけるIn Plane測定により、第一電極層のXRDパターンが測定された。これらのXRDパターンの測定には、株式会社リガク製のX線回折装置(SmartLab)が用いられた。XRDパターン中の各ピーク強度がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、測定条件が設定された。Out оf Plane測定により、Ptの結晶の(002)面の回折X線のピークが検出された。つまり、Ptの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向した。In Plane測定により、Ptの結晶の(200)面の回折X線のピークが検出された。つまり、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
真空チャンバー内で、圧電薄膜が第一電極層の表面全体に形成された。圧電薄膜は、PLD法により形成された。圧電薄膜の厚みTpは、3000nmであった。圧電薄膜の形成過程における単結晶基板の温度(成膜温度)は、500℃に維持した。圧電薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、1Paに維持された。圧電薄膜の原料には、ターゲット(原料粉末の焼結体)が用いられた。ターゲットの原料粉末として、酸化ビスマス、炭酸カリウム、酸化チタン、及び酸化鉄が用いられた。原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、目的とする圧電薄膜におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。目的とする圧電薄膜の組成は、下記化学式1Aで表されるものであった。つまり、実施例1の場合、下記化学式1中のEはKであり、下記化学式1中のEはTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。実施例1の場合、下記化学式1及び1A中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
x(Bi0.50.5)TiO‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1A)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
圧電薄膜の組成が、XRF法により分析された。分析には、日本フィリップス株式会社製の装置PW2404を用いた。分析の結果、実施例1の圧電薄膜の組成は、上記化学式1Aと略一致した。
上記のX線回折装置を用いた圧電薄膜の表面におけるOut оf Plane測定により、圧電薄膜のXRDパターンが測定された。さらに圧電薄膜の表面におけるIn Plane測定により、圧電薄膜のXRDパターンが測定された。XRDパターン中の各ピーク強度がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、測定条件が設定された。XRDパターンの測定装置及び測定条件は、上記と同様であった。
上記のXRD法に基づく圧電薄膜の分析結果は、圧電薄膜が以下の特徴を有することを示していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶からなっていた。
正方晶の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。つまり、圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶の(001)面の配向度は、90%以上であった。上述の通り、正方晶の(001)面の配向度は、100×I(001)/(I1(001)+I1(110)+I1(111))と表される。
正方晶のc/aは、下記表1に示される値であった。
以上の方法で、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一中間層と、第一中間層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる圧電薄膜と、を備える積層体が作製された。この積層体を用いて更に以下の工程が実施された。
真空チャンバー内で、Ptからなる第二電極層が、圧電薄膜の表面全体に形成された。第二電極層は、スパッタリング法により形成された。第二電極層の形成過程における単結晶基板の温度は500℃に維持した。第二電極層の厚みは、200nmであった。
以上の工程により、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一中間層と、第一中間層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる圧電薄膜と、圧電薄膜に重なる第二電極層と、を備える積層体が作製された。続くフォトリソグラフィにより、単結晶基板上の積層構造のパターニングが行われた。パターニング後、積層体がダイシングにより切断された。
以上の工程により、短冊状の実施例1の圧電薄膜素子を得た。圧電薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一中間層と、第一中間層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる圧電薄膜と、圧電薄膜に重なる第二電極層と、を備えていた。圧電薄膜の可動部分の面積は、20mm×1.0mmであった。
<圧電性の評価>
以下の方法により、圧電薄膜の圧電性が評価された。
[残留分極の測定]
圧電薄膜の分極のヒステリシスが測定された。測定には、原子間顕微鏡(AFM)と強誘電体評価システムとを組み合わせた装置を用いた。原子間顕微鏡は、セイコーインスツル株式会社製のSPA-400であった。強誘電体評価システムは、株式会社東陽テクニカ製のFCEであった。ヒステリシスの測定における交流電圧の周波数は5Hzであった。測定において圧電薄膜に印加される電圧の最大値は20Vであった。圧電薄膜の残留分極Prは、下記表1に示される。残留分極Prは、単位は、μC/cmである。
[比誘電率の算出]
圧電薄膜素子の静電容量Cが測定された。静電容量Cの測定の詳細は以下の通りであった。
測定装置:Hewlett Packard株式会社製のImpedance Gain‐Phase Analyzer 4194A
周波数:10kHz
電界:0.1V/μm
下記数式Aに基づき、静電容量Cの測定値から、比誘電率εが算出された。実施例1のεは、下記表1に示される。
C=ε×ε×(S/d) (A)
数式A中のεは、真空の誘電率(8.854×10-12Fm-1)である。数式A中のSは、圧電薄膜の表面の面積である。Sは、圧電薄膜に重なる第一電極層の面積と言い換えられる。数式A中のdは、圧電薄膜の厚みである。
[圧電定数-e31,fの測定]
圧電薄膜の圧電定数-e31,fを測定するために、圧電薄膜素子として、長方形状の試料(カンチレバー)が作製された。試料の寸法は、幅3mm×長さ15mmであった。寸法を除いて試料は上記の実施例1の圧電薄膜素子と同じであった。測定には、自作の評価システムが用いられた。試料の一端は固定され、試料の他方の一端は自由端であった。試料中の圧電薄膜に電圧を印加しながら、試料の自由端の変位量がレーザーで測定された。そして、下記数式Bから圧電定数-e31,fが算出された。なお、数式B中のEは単結晶基板のヤング率である。hは、単結晶基板の厚みである。Lは試料(カンチレバー)の長さである。νは、単結晶基板のポアソン比である。δoutは、測定された変位量に基づく出力変位である。Vinは、圧電薄膜に印加された電圧である。圧電定数-e31,fの測定における交流電界(交流電圧)の周波数は、100Hzであった。圧電薄膜に印加された電圧の最大値は、50Vであった。-e31,fの単位はC/mである。実施例1の-e31,fは、下記表1に示される。実施例1の(-e31,f/εε(圧電性能指数)は、下記表1に示される。
Figure 2022071607000002
(実施例2~8、比較例1、2及び7)
実施例2~8、比較例1、2及び7其々の圧電薄膜の形成に用いたターゲットの組成は、実施例1のターゲットの組成と異なっていた。
実施例2の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1BにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。実施例2の場合、下記化学式1中のEはKであり、下記化学式1中のEはZn及びTiであり、下記化学式1中のαは0.5であった。実施例2の場合、下記化学式1及び1B中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
x(Bi0.50.5)(Zn0.5Ti0.5)O‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1B)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
実施例3の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1CにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。ただし、実施例3の場合、ターゲットはEを含まず、下記化学式1中のαは0.0であった。実施例3の場合、下記化学式1中のEはMg及びTiであり、下記化学式1及び1C中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
xBi(Mg0.5Ti0.5)O‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1C)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
実施例4の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1DにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。ただし、実施例4の場合、ターゲットは、Eを含まず、下記化学式1中のαは0.0であった。実施例4の場合、下記化学式1中のEはZn及びZrであり、下記化学式1及び1D中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
xBi(Zn0.5Zr0.5)O‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1D)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
実施例5の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1EにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。ただし、実施例5のターゲットは、Eを含まず、下記化学式1中のαは0.0であった。実施例5の場合、下記化学式1中のEはAlであり、下記化学式1及び1E中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
xBiAlO‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1E)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
実施例6の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1FにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。実施例6の場合、下記化学式1中のEはAgであり、下記化学式1中のEはTiであり、下記化学式1中のαは0.5であり、下記化学式1及び1F中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
xBi0.5Ag0.5AlO‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1F)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
実施例7の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1GにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。実施例7の場合、下記化学式1中のEはAgであり、下記化学式1中のEはNi及びTiであり、下記化学式1中のαは0.5であり、下記化学式1及び1G中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
xBi0.5Ag0.5Ni0.5Ti0.5‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1G)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
実施例8の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1HにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。実施例8の場合、下記化学式1中のEはNaであり、下記化学式1中のEはZrであり、下記化学式1中のαは0.5であり、下記化学式1及び1H中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
xBi0.5Na0.5ZrO‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1H)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
比較例1の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1IにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。比較例1の場合、下記化学式1中のEはKであり、下記化学式1中のEはZn及びTiであり、下記化学式1中のαは0.5であり、下記化学式1及び1I中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
x(Bi0.50.5)(Zn0.5Ti0.5)O‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1I)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
比較例2の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1JにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。比較例2の場合、下記化学式1中のEはNaであり、下記化学式1中のEはTiであり、下記化学式1中のαは0.5であり、下記化学式1及び1J中のx、y及びzは、下記表1に示す値であった。
x(Bi0.5Na0.5)TiO‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1J)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
比較例7のターゲットの組成は、BiFeOであった。つまり、比較例7の場合、下記化学式1中のα、x及びzは、0.0であった。
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
圧電薄膜の形成に用いたターゲットの組成が異なることを除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~8、比較例1、2及び7其々の圧電薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法により、実施例2~8、比較例1、2及び7其々の第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例2~8、比較例1、2及び7のいずれの場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
実施例1と同様の方法により、実施例2~8、比較例1、2及び7其々の圧電薄膜の組成が分析された。実施例2~8、比較例1、2及び7のいずれの場合も、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成と略一致した。
実施例1と同様の方法により、XRD法に基づく実施例2~8、比較例1、2及び7其々の圧電薄膜の分析が行われた。
実施例2~8、比較例1及び2のいずれの場合も、圧電薄膜は以下の特徴を有していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶からなっていた。
正方晶の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。つまり、圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶の(001)面の配向度は、90%以上であった。
比較例7の圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の立方晶を含んでいたが、ペロブスカイト型酸化物の正方晶を含んでいなかった。
実施例2~8、比較例1、2及び7其々のc/aは、下記表1に示される。
実施例1と同様の方法で、実施例2~8、比較例1、2及び7其々の圧電薄膜の圧電性が評価された。
実施例2~8、比較例1、2及び7其々のPrは、下記表1に示される。
実施例2~8、比較例1、2及び7其々のεは、下記表1に示される。
実施例2~8、比較例1、2及び7其々の-e31,fは、下記表1に示される。
実施例2~8、比較例1、2及び7其々の(-e31,f/εεは、下記表1に示される。
Figure 2022071607000003
(比較例3)
比較例3の圧電薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、0.01Paに維持された。
圧電薄膜の形成過程における酸素分圧を除いて実施例2と同様の方法で、比較例3の圧電薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法により、比較例3の第一電極層のXRDパターンが測定された。比較例3の場合、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
実施例1と同様の方法により、比較例3の圧電薄膜の組成が分析された。比較例3の場合、圧電薄膜の組成は、酸素の含有量において、ターゲットの組成と一致しなかった。
実施例1と同様の方法により、XRD法に基づく比較例3の圧電薄膜の分析が行われた。比較例3の圧電薄膜は結晶性及び結晶配向性を有していなかったため、比較例3のc/aを特定することはできなかった。
実施例1と同様の方法で、比較例3の圧電薄膜の圧電性が評価された。
比較例3のPrは、下記表2に示される。
比較例3のεは、下記表2に示される。
比較例3の-e31,fは、下記表2に示される。
比較例3の(-e31,f/εεは、下記表2に示される。
Figure 2022071607000004
(実施例9,10、比較例4及び5)
実施例9及び10の場合、PLD法におけるレーザーのパルス数(繰り返し周波数)を変えることにより、圧電薄膜3の厚みTpが下記表3に示される値に制御された。圧電薄膜3の厚みTpを除いて実施例2と同様の方法で、実施例9及び10其々の圧電薄膜素子が作製された。
比較例4及び5の場合、ターゲットの原料粉末全体におけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比が、下記化学式1KにおけるBi、E、E、Fe及びTi其々のモル比に一致するように、各出発原料が秤量及び配合された。比較例4及び5の場合、下記化学式1中のEはKであり、下記化学式1中のEはZn及びTiであり、下記化学式1中のαは0.5であり、下記化学式1及び1K中のx及びyは下記表3に示す値であり、下記化学式1中のzはゼロであった。
x(Bi0.50.5)(Zn0.5Ti0.5)O‐yBiFeO (1K)
x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
比較例4及び5の場合、PLD法におけるレーザーのパルス数(繰り返し周波数)を変えることにより、圧電薄膜3の厚みTpが下記表3に示される値に制御された。
ターゲットの組成及び圧電薄膜の厚みTpを除いて実施例2と同様の方法で、比較例4及び5其々の圧電薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法により、実施例9、10、比較例4及び5其々の第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例9、10、比較例4及び5のいずれの場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
実施例1と同様の方法により、実施例9、10、比較例4及び5其々の圧電薄膜の組成が分析された。実施例9、10、比較例4及び5のいずれの場合も、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成と略一致した。
実施例1と同様の方法により、XRD法に基づく実施例9、10、比較例4及び5其々の圧電薄膜の分析が行われた。
実施例9、10及び比較例5のいずれの場合も、圧電薄膜は以下の特徴を有していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶からなっていた。
正方晶の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。つまり、圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶の(001)面の配向度は、90%以上であった。
比較例4の圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の立方晶を含んでいたが、ペロブスカイト型酸化物の正方晶を含んでいなかった。
実施例9、10、比較例4及び5其々のc/aは、下記表3に示される。
XPS法により、実施例2の圧電薄膜の光電子スペクトルが測定された。光電子スペクトルの横軸は光電子の結合エネルギー(単位:eV)であり、光電子スペクトルの縦軸は光電子の強度(単位:arbitrary unit)である。実施例2の圧電薄膜の光電子スペクトルは、Feに由来する光電子のピークを含んでいた。
Fe2+に由来する光電子の結合エネルギーは、Fe3+に由来する光電子の結合エネルギーに近接している。したがって、圧電薄膜がFe2+及びFe3+の両方を含む場合、光電子スペクトルにおける鉄の光電子のピークは、Fe2+の光電子のピーク(Fe2+ピーク)とFe3+の光電子のピーク(Fe3+ピーク)の重ね合わせであり、Fe2+ピーク及びFe3+ピークを個別に測定することは困難である。そこで、Fe2+ピークは、ガウス関数g1で近似された。Fe3+ピークは、別のガウス関数g2で近似された。測定された鉄の光電子のピークは、g1+g2で近似された。測定された鉄の光電子のピークとg1+g2とのカーブフィッティング(curve fitting)が行われた。カーブフィッティング後のg1の積分のより、Fe2+ピークの面積S1が算出された。カーブフィッティング後のg2の積分のより、Fe3+ピークの面積S2が算出された。下記数式Cに基づき、<Fe2+>がS1及びS2から算出された。S1は、圧電薄膜中のFe2+の含有量(単位:原子%)に略比例する。S2は、圧電薄膜中のFe3+の含有量(単位:原子%)に略比例する。したがって、<Fe2+>は、圧電薄膜中のFe2+及びFe3+の含有量の合計に対するFeの含有量の割合(単位:原子%)とみなされてよい。
<Fe2+>=100×S1/(S1+S2) (C)
実施例2と同様の方法で、実施例9、10、比較例4及び5其々の<Fe2+>が算出された。実施例2、9、10、比較例4及び5其々の<Fe2+>は、下記表3に示される。
実施例1と同様の方法で、実施例9、10、比較例4及び5其々の圧電薄膜の圧電性が評価された。
実施例9、10、比較例4及び5其々のPrは、下記表3に示される。
実実施例9、10、比較例4及び5其々のεは、下記表3に示される。
実施例9、10、比較例4及び5其々の-e31,fは、下記表3に示される。
実施例9、10、比較例4及び5其々の(-e31,f/εεは、下記表3に示される。
Figure 2022071607000005
(実施例11、12及び比較例6)
実施例11、12及び比較例6の場合、第二中間層が第一電極層の表面全体に形成され、圧電薄膜が第二中間層の表面全体に形成された。
実施例11の第二中間層は、結晶質のSrRuOからなっていた。実施例11の第二中間層の厚みは、50nmであった。下記表4中の「SRO」は、SrRuOを意味する。
実施例12の第二中間層は、結晶質のLaNiOからなっていた。実施例12の第二中間層の厚みは、50nmであった。下記表4中の「LNO」は、LaNiOを意味する。
比較例6の第二中間層は、結晶質のFeからなっていた。比較例6の第二中間層の厚みは、50nmであった。下記表4中の「FO」は、Feを意味する。
第二中間層が形成されたことを除いて実施例2と同様の方法で、実施例11、12及び比較例6其々の圧電薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法により、実施例11、12及び比較例6其々の第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例11、12及び比較例6のいずれの場合も、第一電極層を構成するPtの結晶の(002)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向しており、Ptの結晶の(200)面が、第一電極層の表面の面内方向において配向していた。
実施例1と同様の方法により、実施例11、12及び比較例6其々の圧電薄膜の組成が分析された。実施例11、12及び比較例6のいずれの場合も、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成とほぼ一致した。
実施例1と同様の方法により、XRD法に基づく実施例11、12及び比較例6其々の圧電薄膜の分析が行われた。実施例11、12及び比較例6のいずれの場合も、圧電薄膜は以下の特徴を有していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶からなっていた。
正方晶の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。つまり、圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶の(001)面の配向度は、90%以上であった。
実施例11、12及び比較例6其々のc/aは、下記表4に示される。
実施例1と同様の方法で、実施例11、12及び比較例6其々の圧電薄膜の圧電性が評価された。
実施例11、12及び比較例6其々のPrは、下記表4に示される。
実施例11、12及び比較例6其々のεは、下記表4に示される。
実施例11、12及び比較例6其々の-e31,fは、下記表4に示される。
実施例11、12及び比較例6其々の(-e31,f/εεは、下記表4に示される。
Figure 2022071607000006
(実施例13)
実施例13の圧電薄膜素子の作製過程では、第一中間層が形成されなかった。実施例13の圧電薄膜素子の作製過程では、結晶質のSrRuOからなる第一電極層が単結晶基板の表面全体に直接形成された。実施例13の第一電極層の厚みは、200nmであった。これらの事項を除いて実施例2と同様の方法で、実施例13の圧電薄膜素子が作製された。
実施例1と同様の方法により、実施例13の第一電極層のXRDパターンが測定された。実施例1と同様のIn Plane測定により、実施例13の第一電極層の結晶の面内配向性が評価された。実施例13の場合、第一電極層の結晶面は、第一電極層の表面の面内方向において配向していなかった。つまり、実施例13の場合、第一電極層の結晶の面内配向性がなかった。
実施例1と同様の方法により、実施例13の圧電薄膜の組成が分析された。実施例13の場合、圧電薄膜の組成は、ターゲットの組成と略一致した。
実施例1と同様の方法により、XRD法に基づく実施例13の圧電薄膜の分析が行われた。実施例13の圧電薄膜は以下の特徴を有していた。
圧電薄膜は、ペロブスカイト型酸化物の正方晶からなっていた。
正方晶の(001)面は、圧電薄膜の表面の法線方向において優先的に配向していた。つまり、圧電薄膜の表面の法線方向における正方晶の(001)面の配向度は、90%以上であった。
実施例13のc/aは、下記表5に示される。
実施例1と同様の方法で、実施例13の圧電薄膜の圧電性が評価された。
実施例13のPrは、下記表5に示される。
実施例13のεは、下記表5に示される。
実施例13の-e31,fは、下記表5に示される。
実施例13の(-e31,f/εεは、下記表5に示される。
Figure 2022071607000007
本発明に係る圧電薄膜は、例えば、圧電トランスデューサ、圧電アクチュエータ及び圧電センサに応用される。
10…圧電薄膜素子、10a…超音波トランスデューサ、1…単結晶基板、2…第一電極層、3…圧電薄膜、4…第二電極層、5…第一中間層、6…第二中間層、D…単結晶基板の表面の法線方向、dn…圧電薄膜の表面の法線方向、uc…ペロブスカイト構造を有する酸化物(正方晶)の単位胞。

Claims (15)

  1. ペロブスカイト構造を有する酸化物を含む圧電薄膜であって、
    前記圧電薄膜は、前記酸化物の正方晶を含み、
    前記正方晶の(001)面は、前記圧電薄膜の表面の法線方向において配向しており、
    前記正方晶の(001)面の間隔は、cであり、
    前記正方晶の(100)面の間隔は、aであり、
    c/aは、1.050以上1.250以下であり、
    前記酸化物は、Fe2+を含む、
    圧電薄膜。
  2. 前記酸化物は、Bi3+及びFe3+を更に含む、
    請求項1に記載の圧電薄膜。
  3. 前記酸化物は、下記化学式1で表され、
    下記化学式1中のEは、Na、K及びAgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、
    下記化学式1中のEは、Mg、Al、Zr、Ti、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、
    下記化学式1中のxは、0.10以上0.80以下であり、
    下記化学式1中のyは、0.10以上0.85以下であり、
    下記化学式1中のzは、0.05以上0.80以下であり、
    x+y+zは、1.00であり、
    下記化学式1中のαは、0.00以上1.00未満である、
    請求項1又は2に記載の圧電薄膜。
    x(Bi1-α α)E‐yBiFeO‐zBi(Fe0.5Ti0.5)O (1)
  4. 前記圧電薄膜の厚みは、500nm以上5000nm以下である、
    請求項1~3のいずれか一項に記載の圧電薄膜。
  5. エピタキシャル膜である、
    請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電薄膜。
  6. 請求項1~5のいずれか一項に記載の圧電薄膜を備える、
    圧電薄膜素子。
  7. 単結晶基板と、
    前記単結晶基板に重なる前記圧電薄膜と、
    を備える、
    請求項6に記載の圧電薄膜素子。
  8. 単結晶基板と、
    前記単結晶基板に重なる電極層と、
    前記電極層に重なる前記圧電薄膜と、
    を備える、
    請求項6に記載の圧電薄膜素子。
  9. 電極層と、
    前記電極層に重なる前記圧電薄膜と、
    を備える、
    請求項6に記載の圧電薄膜素子。
  10. 第一中間層を更に備え、
    前記第一中間層は、前記単結晶基板と前記電極層との間に配置されている、
    請求項8に記載の圧電薄膜素子。
  11. 前記第一中間層は、ZrO及びYを含む、
    請求項10に記載の圧電薄膜素子。
  12. 第二中間層を更に備え、
    前記第二中間層は、前記電極層と前記圧電薄膜との間に配置されている、
    請求項8~11のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
  13. 前記第二中間層は、SrRuO及びLaNiOのうち少なくともいずれかを含む、
    請求項12に記載の圧電薄膜素子。
  14. 前記電極層は、白金の結晶を含み、
    前記白金の結晶の(002)面は、前記電極層の表面の法線方向において配向しており、
    前記白金の結晶の(200)面は、前記電極層の表面の面内方向において配向している、
    請求項8~13のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
  15. 請求項6~14のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子を備える、
    圧電トランスデューサ。

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