JP7349820B2 - クリヤ塗装ステンレス鋼板 - Google Patents
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Description
クリヤ塗装ステンレス鋼板においては、意匠性を高めるために、クリヤ塗膜に顔料を配合したカラークリヤ塗装ステンレス鋼板が提案されている(特許文献1、2)。
しかし、クリヤ塗装ステンレス鋼板にエンボス加工を施す場合、クリヤ塗膜の表面硬度が高いとエンボス加工に用いる型の形状にクリヤ塗膜が追従しにくく、クラックすることがある。そのため、クリヤ塗膜の表面硬度を下げる必要があり、耐傷付き性が不十分となることがあった。
特許文献5に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、エンボス加工が施されたステンレス鋼板からなる基材に、不飽和エチレン性単量体を含有する塗料を塗布し、前記単量体を重合させてクリヤ塗膜を形成して製造される。
不飽和エチレン性単量体は顔料が分散しにくい傾向にある。そのため、特許文献5に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板において、不飽和エチレン性単量体を含有する塗料に顔料を配合したとしても、顔料が均一に分散したクリヤ塗膜が形成されにくく、十分な光沢性や着色性が得られにくい。
また、焼付け時にクリヤ塗料に含まれる溶媒が沸騰して塗膜に小さな泡状の膨れや穴が生じたり、気泡の痕跡が残ったりする、いわゆる「わき」と呼ばれる塗装欠陥が生じることがある。特に、エンボス加工が施されたステンレス鋼板の表面にクリヤ塗膜を形成する場合は、凹部の部分のクリヤ塗膜が厚くなるため、わきが発生しやすい傾向にある。わきは、クリヤ塗装ステンレス鋼板の外観不良の原因となるため、わきの発生を抑制することが求められる。
わきの発生を抑制するには、例えばクリヤ塗膜の膜厚を薄くすればよいが、膜厚を薄くすると着色性が低下する傾向にある。
[1] 表面にエンボス加工が施されたステンレス鋼板と、該ステンレス鋼板のエンボス加工が施された表面に形成されたクリヤ塗膜とを具備し、前記クリヤ塗膜は、熱硬化性樹脂組成物と、平均1次粒子径が100nm以下の顔料とを含み、前記熱硬化性樹脂組成物は、ガラス転移温度が30℃以上であり、数平均分子量が3000以上であり、架橋性官能基を有するアクリル樹脂と、イソシアネート樹脂とを含有し、アクリル樹脂の架橋性官能基1モルに対する、イソシアネート樹脂のイソシアネート基の割合が0.1~2.0モルであり、前記クリヤ塗膜の顔料容積濃度が0.05~0.25%であり、膜厚が0.5~1μmである、クリヤ塗装ステンレス鋼板。
[2] 前記クリヤ塗膜は、ポリオレフィン系ワックスを前記熱硬化性樹脂組成物100質量部に対して0.1~5質量部含む、[1]に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
[3] 前記熱硬化性樹脂組成物は、アミノ樹脂を含有する、[1]または[2]に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
[4] 前記熱硬化性樹脂組成物は、前記アミノ樹脂の硬化触媒を含有する、[3]に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
[5] 前記熱硬化性樹脂組成物は、前記イソシアネート樹脂の硬化触媒を含有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
図1は、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
本実施形態例のクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、ステンレス鋼板11と、該ステンレス鋼板11の一方の面に形成されたクリヤ塗膜12とを具備して構成されている。
なお、図1においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。
クリヤ塗膜12の可視光領域の光線透過率が30%未満であると、可視光は僅かに透過しているものの、目視ではステンレス鋼板11を殆ど見ることはできない。そのため、ステンレスの持つ美麗な外観を活かした意匠は得られない。
特に、クリヤ塗膜12の可視光透過率は40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
ステンレス鋼板11としては、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系(二相系)など、一般に使用される公知のステンレス鋼板を用いることができる。
凸部11aの大きさおよび形状は特に限定されないが、例えば凸部11aの直径rは0.3~2.5mmが好ましく、凸部11aの高さhは0.02~1mmが好ましく、凸部11aのピッチpは1~10mmが好ましい。
凸部11aの平面視での形状としては、例えば円形、多角形などが挙げられる。
なお、「凸部11aの直径r」とは、凸部11aの平面視での形状が円形の場合は、その円の直径であり、正多角形の場合は一辺の長さであり、正多角形以外の多角形の場合は最も長い辺の長さのことである。「凸部11aのピッチp」とは、隣り合う凸部11a同士の中心間距離である。
研磨処理としては、No.4研磨、ヘアライン(HL)研磨、2B研磨など、一般に使用される研磨方法が挙げられる。
化成処理塗膜としては、アミノシラン系シランカップリング剤およびエポキシシラン系シランカップリング剤の一方または両方を含有する塗膜が好ましい。ステンレス鋼板11とクリヤ塗膜12との間に、これらシランカップリング剤を含有する化成処理塗膜を有していれば、無公害なクロメートフリーにでき、さらにステンレス鋼板11とクリヤ塗膜12との密着性を高くできる。
ここで、アミノシラン系カップリング剤としては、例えば、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
化成処理塗膜の付着量は、蛍光X線分析にてSiO2量を測定することによって求めることができる。
クリヤ塗膜12は、ステンレス鋼板11のエンボス加工が施された表面に形成された塗膜であり、熱硬化性樹脂組成物と顔料とを含む。クリヤ塗膜12は、ポリオレフィン系ワックスをさらに含むことが好ましい。
熱硬化性樹脂組成物は、アクリル樹脂と、イソシアネート樹脂とを含有する。熱硬化性樹脂組成物は、アミノ樹脂や硬化触媒を含有することが好ましい。
アクリル樹脂は架橋性官能基を有する。架橋性官能基を有するアクリル樹脂はステンレス鋼板11に対する密着性に優れるので、ステンレス鋼板11とクリヤ塗膜12とがより良好に密着する。
ここで、「架橋性官能基」とは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシシラン基などから選ばれる1種または2種以上の官能基である。アクリル樹脂は架橋性官能基を1分子あたり、2つ以上有することが好ましい。
非官能性単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ラウリル等の脂肪族または環式アクリート;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン類;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミドなどが挙げられる。
これら非官能性単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ヒドロキシ基を有する単量体は、1分子中にヒドロキシ基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、例えばアクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル;ラクトン変性水酸基含有ビニル重合モノマー(例えば、プラクセルFM1、2、3、4、5、FA-1、2、3、4、5(以上、株式会社ダイセル製)等)などが挙げられる。
カルボキシ基を有する単量体は、1分子中にカルボキシ基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
アルコキシシラン基を有する単量体は、1分子中にアルコキシシラン基と重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体である。このような単量体としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
これら架橋性官能基を有する重合性単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アクリル樹脂のガラス転移温度を前記範囲にするためには、アクリル樹脂の組成を適宜選択すればよい。
アクリル樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)の測定により求めた値である。
アクリル樹脂の数平均分子量は、アクリル樹脂を製造する際の条件(例えば、重合温度、重合開始剤の種類や量等)によって調整することができる。
アクリル樹脂の数平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の値である。
イソシアネート樹脂は、アクリル樹脂を硬化させる架橋樹脂である。
熱硬化性樹脂組成物がイソシアネート樹脂を含有することで、アクリル樹脂が架橋構造となる。すなわち、熱硬化性樹脂組成物は、イソシアネート樹脂で架橋されたアクリル樹脂を含む。アクリル樹脂がイソシアネート樹脂で架橋されることで、クリヤ塗膜12の強度が高まるとともに、ステンレス鋼板11に対するクリヤ塗膜12の密着性がより向上する。加えて、クリヤ塗装ステンレス鋼板10をクロメートフリーにでき、しかも耐疵付き性、耐候性、耐薬品性を向上させることができる。
イソシアネート樹脂としては、ノンブロックタイプおよびブロックタイプのいずれも使用可能であるが、プレコート型塗装による生産を行う場合は、連続生産時の作業性に優れる点で、ブロックタイプが好ましい。
これらイソシアネート樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アミノ樹脂は、アクリル樹脂を硬化させる架橋樹脂である。
熱硬化性樹脂組成物がアミノ樹脂をさらに含有することで、アクリル樹脂がイソシアネート樹脂だけでなくアミノ樹脂によっても架橋される。すなわち、熱硬化性樹脂組成物は、イソシアネート樹脂およびアミノ樹脂で架橋されたアクリル樹脂を含む。アクリル樹脂がアミノ樹脂によっても架橋されることで、クリヤ塗膜12の表面硬度がさらに高まる。
メラミン樹脂は、変性するアルコールの種類によってメチル化メラミン樹脂、n-ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、混合アルキル化メラミン樹脂などに分類される。これらの中でも、反応性に優れ、かつ可とう性とのバランスに優れる点で、メチル化メラミン樹脂が特に好ましい。
n-ブチル化メラミン樹脂としては、マイコート506、508(以上、三井サイテック株式会社製)、ユーバン20SB、20SE、21R、22R、122、125、128、220、225、228、28-60、20HS、2020、2021、2028、120(以上、三井化学株式会社製)、PLASTOPAL EBS 100A、100B、400B、600B、CB(以上、BASF製)、スーパーベッカミンJ-820、L-109、L-117、L-127、L-164(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、メラン21A、22、220、2000、8000(以上、日立化成工業株式会社製)、テスアジン3020、3021、3036(以上、日立化成ポリマー株式会社製)等が挙げられる。
イソブチル化メラミン樹脂としては、ユーバン60R、62、62E、360、361、165、166-60、169、2061(以上、三井化学株式会社製)、スーパーベッカミンG-821、L-145、L-110、L-125(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、PLASTOPAL EBS 4001、FIB、H731B、LR8824(以上、BASF製)、メラン27、28、28D、245、265、269、289(以上、日立化成工業株式会社製)、テスアジン3027、3028、3029、3030、3037(以上、日立化成ポリマー株式会社製)等が挙げられる。
混合アルキル化メラミン樹脂としては、サイメル267、285、232、235、236、238、211、254、204、212、202、207(以上、三井サイテック株式会社製)等が挙げられる。
これらアミノ樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化触媒は、アクリル樹脂と架橋樹脂との架橋反応を促進させるものである。
よって、熱硬化性樹脂組成物は、イソシアネート樹脂の硬化触媒をさらに含有することが好ましい。
イソシアネート樹脂の硬化触媒としては、有機錫触媒が挙げられる。
有機錫触媒としては、例えばジ-n-ブチルチンオキサイド、n-ジブチルチンクロライド、ジ-n-ブチルチンジラウリレート、ジ-n-ブチルチンジアセテート、ジ-n-オクチルチンオキサイド、ジ-n-オクチルチンジラウリレート、テトラ-n-ブチルチンなどが挙げられる。
これら有機錫触媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アミノ樹脂の硬化触媒としては、スルホン酸系やアミン系の硬化触媒が挙げられる。特に、クリヤ塗膜12の表面硬度をより高める目的で、より反応性の高いスルホン酸系の硬化触媒である、p-トルエンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸を用いることが好ましい。
顔料としては、無機顔料、カーボン顔料、有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば弁柄、黄色酸化鉄、クロムバーミリオン、酸化クロム、カーボンブラック、チタンホワイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、シリカ等が挙げられる。
カーボン顔料としては、例えばカーボンブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えばキナクリドン、イソインドリノン、インダンスレンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等が挙げられる。
これら顔料は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
顔料の平均1次粒子径は、レーザー回折散乱法の測定により求めた値である。
顔料の顔料分散粒度は、既知の傾きで傾斜した溝が形成された分散粒度測定器を用いて測定する。具体的には、分散粒度測定器の傾斜した溝に顔料を充填し、溝が形成された表面から顔料が突出しはじめる箇所を調べる。そして、顔料が突出しはじめる箇所の溝の深さを分散粒度とする。
ここで、顔料容積濃度は下記式で求められる値である。また、顔料容積濃度はPVCと称されることもある。
顔料容積濃度=[(顔料の容積)/(顔料の容積+樹脂の容積)]×100(%)
ポリオレフィン系ワックスは潤滑剤である。
クリヤ塗膜12がポリオレフィン系ワックスを含有すれば、油性潤滑剤等を塗布した場合に比べて潤滑性が高くなり、加工性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板10が得られる。
これらポリオレフィン系ワックスは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
クリヤ塗膜12は、硬度、耐疵付き性がより高くなり、また、耐指紋汚染性が高くなることから、シリカゾルを含有してもよい。
シリカゾルは、ナノメートルサイズの粒子から構成されたシリカ粒子である。
シリカゾルとしては、オルガノシリカゾルを用いることができる。オルガノシリカゾルとは、有機溶媒にナノメートルサイズのコロイダルシリカを安定に分散させたコロイド溶液である。
これらオルガノシリカゾルは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これら非晶質シリカは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
クリヤ塗膜12の膜厚は0.5~1μmである。クリヤ塗膜12の膜厚が0.5μm未満であると、加工性が低下するのみならず十分に着色できないことがある。クリヤ塗膜12の膜厚が1μmを超えると、クリヤ塗膜12にわきが発生し、外観が低下する。加えて、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の潤滑機能が飽和するとともに塗膜の形成が困難となることがある。
なお、本発明においてクリヤ塗膜12の膜厚とは、ステンレス鋼板11の表面に形成された凸部11aの頂点からクリヤ塗膜12の表面(ステンレス鋼板11に接していない側の表面)までの垂直距離dである。
次に、上述したクリヤ塗装ステンレス鋼板10の製造方法の一例について説明する。なお、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の製造方法は以下の例に限定されるものではない。
この例の製造方法では、まず、ステンレス鋼板11をアルカリ脱脂や酸、アルカリによるエッチング等の公知の前処理を施す。
次いで、ステンレス鋼板11の表面にエンボス加工を施す。エンボス加工の方法としては特に制限されず、プレスによる方法、ロールフォーミングによる方法などが挙げられる。
前記化成処理液としては、例えば、例えばアミノシラン系カップリング剤およびエポキシシラン系カップリング剤の一方または両方を含むものが好ましい。また、化成処理液としては、市販品を用いることができる。市販の化成処理液としては、例えば、パルコートE305、3750、3751、3753、3756、3757、3970(日本パーカライジング株式会社製)、アルサーフ440(日本ペイント株式会社製)などが挙げられる。
化成処理液の塗布方法としては、例えば、スプレー、ロールコート、バーコート、カーテンフローコート、静電塗布等を採用できる。
化成処理液の乾燥温度(表面温度)は60~140℃とすることが好ましい。
前記クリヤ塗料は、上述した熱硬化性樹脂組成物と、顔料と、溶媒と、必要に応じて任意成分とを含むものが好ましい。
クリヤ塗料に用いられる溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、ベンゼン、シクロヘキサン、ヘキサン等の炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物;ジエチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒などが挙げられる。これら有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
クリヤ塗料を塗装した後の硬化条件(乾燥温度)は、ステンレス鋼板11の素材最高到達温度(PMT)にして200~270℃となるように加熱することが好ましく、より好ましくは210~250℃である。素材最高到達温度が200℃未満であると、硬化反応が十分に進まず、クリヤ塗膜12の表面硬度が低下するだけでなく、ステンレス鋼板11とクリヤ塗膜12との密着性が低下することがある。一方、素材最高到達温度が270℃を超えると、クリヤ塗膜12の柔軟性が低下しやすくなる。加えて、クリヤ塗装ステンレス鋼板10が黄変して意匠性を低下させることがある。
なお、前記乾燥の際に、アクリル樹脂がイソシアネート樹脂によって架橋する。
以上説明したクリヤ塗装ステンレス鋼板は、エンボス加工が施されたステンレス鋼板の表面にクリヤ塗膜が形成されており、意匠性に優れる。
上述したように、ステンレス鋼板の表面にクリヤ塗膜を形成した後にエンボス加工を施す場合、エンボス加工に用いる型の形状に追従させるためにはクリヤ塗膜の表面硬度を下げる必要があり、耐疵付き性が不十分となることがある。
しかし、本発明であれば、エンボス加工が施されたステンレス鋼板の表面にクリヤ塗膜が形成されているので、クリヤ塗膜の表面硬度を下げる必要がない。また、このクリヤ塗膜はアクリル樹脂とイソシアネート樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物を含んでおり、表面硬度が高く、耐水性にも優れる。しかも、前記熱硬化性樹脂組成物を含むクリヤ塗膜は、エンボス加工が施された、すなわち表面が凹凸形状のステンレス鋼板に対して密着性にも優れる。
しかし、本発明であれば、クリヤ塗膜の膜厚が0.5~1μmと薄いので、クリヤ塗膜の形成時にわきが発生しにくく、外観にも優れる。
なお、クリヤ塗膜が薄くなると着色性が低下する傾向にあるが、本発明ではクリヤ塗膜にアクリル樹脂を用いる。アクリル樹脂は、不飽和エチレン性単量体に比べて顔料の分散性に優れるので、クリヤ塗膜中で顔料が均一に分散しており、光沢性および着色性に優れる。よって、クリヤ塗膜が薄くても十分な着色性を発現できる。
このように、本発明であれば、外観が良好であり、表面硬度が高く、光沢性、着色性、耐水性および意匠性に優れる、エンボス加工が施されたクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供できる。
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、家庭用や業務用の電化製品、電子機器製品の筐体や内装材、表装材として好適に使用される。
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、上述したものに限定されない。例えば、上述した実施形態例では、ステンレス鋼板の片面のみにクリヤ塗膜が形成されているが、ステンレス鋼板の両面にクリヤ塗膜が形成されていてもよい。また、ステンレス鋼板はクリヤ塗膜を形成する前に化成処理を施さなくてもよい。
なお、実施例8は参考例である。
アクリル樹脂として、以下のようにして製造したアクリル樹脂の溶液を用いた。
温度計、還流冷却器、攪拌器、滴下ロート、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、表1に示す配合量で、トルエン、酢酸ブチルを入れ、110℃まで昇温し窒素ガスを吹き込みながら攪拌し、メタクリル酸メチル、スチレン、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸メチル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらにAIBNを追加して同温度でさらに3時間反応させて、不揮発分50%のアクリル樹脂の溶液を得た。
得られたアクリル樹脂のガラス転移温度および数平均分子量を表1に示す。
ポリオレフィン系ワックスとして、以下に示す化合物を用いた。
・PEWax:ポリエチレンワックス(株式会社岐阜セラツク製造所製、商品名「ハイフラットX15P-2」、平均粒子径3.5μm)。
顔料として、以下に示す化合物を用いた。
・ブラウン:透明弁柄(BASF社製、商品名「Sicotrans RedL2817」、平均1次粒子径20nm、顔料分散粒度10μm、固形分濃度8質量%溶液)。
・レッド:ペリレン系マルーン(BASF社製、商品名「パリオゲンレッドL-3885」、平均1次粒子径40~100nm、顔料分散粒度10μm、固形分濃度7質量%溶液)。
・ブルー:銅フタロシアニンブルー(大日精化工業株式会社製、商品名「シアニンブルー4930P」、平均1次粒子径50~100nm、顔料分散粒度10μm、固形分濃度7質量%溶液)。
・カーボン:カーボンブラック(オリオンエンジニアドカーボンズ社製、商品名「FW200」、平均1次粒子径6~8nm、顔料分散粒度10μm、固形分濃度3質量%溶液)。
・弁柄:酸化鉄(III)(戸田ピグメント株式会社製、商品名「トダカラー120ED」、平均1次粒子径500nm、顔料分散粒度10μm、固形分濃度10質量%溶液)。
<クリヤ塗料の調製>
アクリル樹脂の溶液108質量部(固形分換算で54質量部)に、イソシアネート樹脂としてブロックイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、商品名「デスモジュールVPLS2253」、NCO含有率10.5質量%)34質量部と、アミノ樹脂としてメラミン樹脂(三井サイテック株式会社製、商品名「サイメル327」)12質量部を配合し、熱硬化性樹脂組成物を得た。なお、アクリル樹脂のヒドロキシル基(OH基)1モルに対する、イソシアネート樹脂のイソシアネート基(NCO基)の割合(NCO/OH)は1モルであった。
得られた熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に、ポリオレフィン系ワックスとしてPEWaxを0.2質量部と、顔料としてブラウンを固形分換算で0.0036質量部添加し、クリヤ塗料を得た。
ステンレス鋼板としては、SUS430/2B研磨材を用いた。
このステンレス鋼板の方面に、平面視での形状が略正方形であり、直径(1辺の長さ)1mm、高さ0.065mmの凹部が2mmのピッチ(すなわち、隣り合う凹部同士の中心間距離が2mm)で形成されたエンボス版を用いてプレス成形し、ステンレス鋼板の表面にエンボス加工を施した。
次いで、ステンレス鋼板のエンボス加工が施された表面に、アミノシラン系カップリング剤を含む化成処理液をロールコータにて蛍光X線にてSiO2が2~10mg/m2になるように塗装し、素材最高到達温度(PMT)が100℃になるよう乾燥させ、化成処理塗膜を形成した。
次いで、エンボス加工および化成処理が施されたステンレス鋼板の表面に、クリヤ塗料をバーコータにより塗布し、PMTが224℃になるよう乾燥させ、顔料容積濃度0.17%、膜厚1μmのクリヤ塗膜を成膜させて、クリヤ塗装ステンレス鋼板を得た。
クリヤ塗装ステンレス鋼板について、以下の評価方法に基づき、外観、光沢性、着色性(彩度)および耐水性を評価し、鉛筆硬度(表面硬度)を測定した。結果を表2に示す。
(1)外観評価
クリヤ塗膜の表面を目視にて観察し以下の評価基準にて外観を評価した。
5:わきが発生していない。
4:極小さなワキがある。
3:小さなワキがある。
2:中程度のワキがある。
1:大きなワキがある。
クリヤ塗膜について、JIS K 5600-4-7(鏡面光沢度)に準拠し、光沢測定機(BYKガードナー社製、商品名「micro-TRI-gloss」)を用いて、測定角度20度で光沢度を測定した。
クリヤ塗膜について、パネラーによる官能評価を行い、以下の評価基準にて着色性を評価した。4点以上を合格とする。
5:純色に近く、濁りがない。
4:純色に近く、濁りが弱い。
3:純色に近いが、濁りが強い。
2:純色ではなく、濁りが弱い。
1:純色ではなく、濁りが強い。
鉛筆硬度用鉛筆(三菱鉛筆株式会社製)を用い、JIS K 5600-5-4(引っかき硬度(鉛筆法))に準拠し、クリヤ塗膜の表面に傷が付かない限界の鉛筆の芯の硬度を求めた。
クリヤ塗膜を40℃のイオン交換水に浸漬させ500時間静置した。イオン交換水から取り出した後のクリヤ塗膜の外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて耐水性を評価した。
5:変化しない。
4:わずかにブリスターが確認できる。
3:ブリスターが確認できるが、錆はなくクリヤ塗膜が剥がれない。
2:フクレや錆が確認できるが、クリヤ塗膜は剥がれない。
1:フクレや錆が確認され、クリヤ塗膜が剥れる。
イソシアネート樹脂およびメラミン樹脂の配合量と、顔料の種類と配合量を表2、3示すように変更した以外は、実施例1とクリヤ塗料を調製した。なお、表2、3中の各成分の配合量はいずれも固形分量(不揮発分量)である。
得られたクリヤ塗料を用いた以外は、実施例1と同様にしてクリヤ塗装ステンレス鋼板を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表2、3に示す。
一方、アクリル樹脂のヒドロキシル基1モルに対する、イソシアネート樹脂のイソシアネート基の割合が0.01モルである比較例1の場合、耐水性に劣っていた。
クリヤ塗膜の顔料容積濃度が0.04%である比較例2の場合、着色性に劣っていた。
クリヤ塗膜の顔料容積濃度が3.02%である比較例3の場合、光沢性に劣っていた。
クリヤ塗膜の膜厚が10μmである比較例4の場合、クリヤ塗膜にわきが発生し、外観に劣っていた。
平均1次粒子径が500nmの顔料を用いた比較例5の場合、クリヤ塗膜にわきが発生し、外観に劣っていた。
11 ステンレス鋼板
11a 凸部
12 クリヤ塗膜
Claims (5)
- 表面にエンボス加工が施されたステンレス鋼板と、該ステンレス鋼板のエンボス加工が施された表面に形成されたクリヤ塗膜とを具備し、
前記クリヤ塗膜は、熱硬化性樹脂組成物と、平均1次粒子径が100nm以下の顔料とを含み、
前記熱硬化性樹脂組成物は、ガラス転移温度が30℃以上であり、数平均分子量が3000以上であり、架橋性官能基を有するアクリル樹脂と、イソシアネート樹脂とを含有し、アクリル樹脂の架橋性官能基1モルに対する、イソシアネート樹脂のイソシアネート基の割合が0.1~2.0モルであり、
前記クリヤ塗膜の顔料容積濃度が0.05~0.25%であり、膜厚が0.5~1μmである、クリヤ塗装ステンレス鋼板。 - 前記クリヤ塗膜は、ポリオレフィン系ワックスを前記熱硬化性樹脂組成物100質量部に対して0.1~5質量部含む、請求項1に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
- 前記熱硬化性樹脂組成物は、アミノ樹脂を含有する、請求項1または2に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
- 前記熱硬化性樹脂組成物は、前記アミノ樹脂の硬化触媒を含有する、請求項3に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
- 前記熱硬化性樹脂組成物は、前記イソシアネート樹脂の硬化触媒を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
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